説明

被覆用粉体の付着抑制方法、被覆用粉体の搬送方法、被覆用粉体搬送システム、及び被覆装置、皮膜の形成方法

【課題】搬送路の壁面部分への被覆用粉体の付着を抑制することで、被覆用粉体の搬送量を長時間において均一に保つことができる被覆用粉体の付着抑制方法、被覆用粉体の搬送方法、被覆用粉体搬送システム、及び被覆装置、皮膜の形成方法を提供する。
【解決手段】キャリヤーガス25が流れる搬送路26を有する搬送管27の外周に配置した2つの第1、第2の電極35、36に電圧を印加することにより、搬送路26に電界E1を生じさせる。この電界E1により、被覆用粉体5をキャリヤーガス25の流れ方向と異なる方向へ飛翔移動させ、当該被覆用粉体5が搬送路26の壁面部分26hへ付着することを抑制した状態で、当該被覆用粉体5を気流搬送する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスにより気流搬送される被覆用粉体が搬送路の壁面部分に付着することを抑制する被覆用粉体の付着抑制方法、被覆用粉体の搬送方法、被覆用粉体搬送システム、及び搬送されてきた被覆用粉体を溶融状態にし、これを基材の表面に衝突させてその表面に皮膜を形成する被覆装置、皮膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、粉体を所要量ずつ搬送し装置内へ供給する方法として、チューブ状の搬送管に粉体を送り込み、それと共に搬送方向にガスを流して同粉体を搬送口まで気流搬送する方法がとられている。このような搬送方法を利用したものとして、溶射により基材の表面へ皮膜を形成するための溶射装置が挙げられる。溶射は、セラミック等の溶射粉体(被覆用粉体)を熱源により溶融させて溶射粒子とし、これを基材に衝突させて溶射皮膜を形成するものであり、各種機械部品の耐摩耗性や耐熱性等を向上させることができる。
【0003】
上記溶射装置として、溶射トーチ、この溶射トーチに溶射粉体を導入するチューブ状の搬送管、及びこの搬送管に溶射粉体を供給するパウダーフィーダー等を備えたものが知られている(例えば、特許文献1)。上記溶射トーチには、陽極部と陰極部が設けられており、その間でアークを発生させると、同溶射トーチに導入された作動ガスがプラズマとなり、プラズマジェットとして噴出される。ここに溶射粉体を導入し溶融させて溶射粒子とし、この溶射粒子を基材に衝突させることで溶射皮膜を形成する。この溶射装置では、搬送管に搬送用のガスを流し、そのガス流にのせて溶射粉体を気流搬送している。固定されたパウダーフィーダーに対して溶射トーチが自由に動けるようにするため、搬送管には可撓性を有した比較的長い樹脂製のものが使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−81915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図5に示すように、溶射粉体103が、ガス102のガス流により搬送管100の搬送路101を通過する際、当該溶射粉体103が搬送路101の壁面101aへ擦れることで、双方が異符号の電荷(例えば、搬送路101の壁面101aがプラス、溶射粉体103がマイナス)を帯び、それによるクーロン力が溶射粉体103に作用する。その結果、同図に示すように、溶射粉体103が壁面101aへ付着し堆積してしまう。
【0006】
成膜プロセスを続けるうちに、搬送路101の壁面101aへの溶射粉体103の付着量が増加していくと、搬送管100で搬送される溶射粉体103の単位時間当たりの搬送量が小さくなり、成膜プロセスにおける均一な条件を長時間維持し難くなる。成膜プロセス中に条件が変わってしまうと、大面積における均一な膜厚、膜質を有する溶射皮膜を得るのが困難となる。また、溶射粉体103の付着量が更に増加し、搬送路101が溶射粉体103で閉塞されると、成膜プロセスを中断しなければならない。成膜プロセスを中断すると、膜質の変化を招くおそれがあるので好ましくない。
【0007】
そこで、ガスの流量を大きくして、ガス流による粘性抵抗力で溶射粉体が付着しないようにすることも考えられる。しかし、ガスの流量には、搬送管の径やガスの圧力等により決まる限界値が存在するため、溶射粉体の付着を十分に抑制することはできない。また、ガスの流量が過大なものとなった場合、膜質の低下を招くおそれがある。
【0008】
一方で、搬送管の外周を網目状の導線で包み込み、その導線をアース接続することで、帯電を防止することも考えられる。しかし、搬送管の外周における当該導線と接触している部分のみ除電されるだけで、溶射粉体と絶え間なく擦れている搬送路の壁面は帯電したままとなっている。従って、搬送管の外周を網目状の導線で包み込むということでは、搬送路の壁面へ溶射粉体が付着するという問題を解決することはできない。
【0009】
そこで本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、搬送路の壁面部分への被覆用粉体の付着を抑制することで、被覆用粉体の搬送量を長時間において均一に保つことができる(例えば、成膜プロセスにおける均一な条件を長時間維持できる)被覆用粉体の付着抑制方法、被覆用粉体の搬送方法、被覆用粉体搬送システム、及び被覆装置、皮膜の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、次の技術的手段を講じた。
即ち、本発明の被覆用粉体の付着抑制方法は、ガスが流れる搬送路を有する搬送管で当該搬送路の搬送口に向かって被覆用粉体を気流搬送する際に、当該被覆用粉体が前記搬送路の壁面部分に付着することを抑制する被覆用粉体の付着抑制方法であって、前記搬送管の外側に配置された複数の電極に電圧を印加することにより前記搬送路に電界を生じさせ、この電界により前記被覆用粉体を前記ガスの流れ方向と異なる方向へ飛翔移動させることを特徴とするものである。
被覆用粉体を搬送管で気流搬送する際に、上記本発明の被覆用粉体の付着抑制方法を使用すれば、搬送管の外側に配置された複数の電極に電圧を印加することによりで生じた電界により、被覆用粉体がガスの流れ方向と異なる方向へ飛翔移動させられるので、被覆用粉体が搬送路の壁面部分から離れ、当該壁面部分への被覆用粉体の付着を抑制することができる。本発明における被覆用粉体は、溶射に用いる溶射粉体、及びエアロゾルデポジション法、粉体肉盛り溶接法に用いる粉体に限定される。
【0011】
本発明の被覆用の粉体搬送方法は、ガスが流れる搬送路を有する搬送管で当該搬送路の搬送口に向かって被覆用粉体を気流搬送する被覆用粉体の搬送方法であって、前記搬送管の外側に配置された複数の電極に電圧を印加することにより前記搬送路に電界を生じさせ、この電界により前記被覆用粉体を前記ガスの流れ方向と異なる方向へ飛翔移動させ、当該被覆用粉体が前記搬送路の壁面部分へ付着することを抑制した状態で、当該被覆用粉体を気流搬送すること特徴とするものである。
上記本発明の被覆用粉体の搬送方法を使用すれば、搬送管の外側に配置された複数の電極に電圧を印加することにより生じた電界により、被覆用粉体がガスの流れ方向と異なる方向へ飛翔移動させられるので、被覆用粉体が搬送路の壁面部分から離れ、当該搬送路の壁面部分への当該被覆用粉体の付着を抑制した状態で当該被覆用粉体を搬送することができる。本発明における被覆用粉体は、溶射に用いる溶射粉体、及びエアロゾルデポジション法、粉体肉盛り溶接法に用いる粉体に限定される。
【0012】
本発明の被覆用粉体搬送システムは、被覆用粉体をガスにより気流搬送するための搬送路を有する搬送管と、前記搬送路の搬送口に向かって前記被覆用粉体が気流搬送されるように、当該搬送路へ前記ガスを供給するガス供給手段と、前記搬送路に電界を生じさせ、この電界により前記被覆用粉体を前記ガスの流れ方向と異なる方向へ飛翔移動させることで、前記搬送路の壁面部分への当該被覆用粉体の付着を抑制する電界発生手段と、を備えることを特徴とするものである。
上記本発明の被覆用粉体搬送システムによれば、搬送路に電界を生じさせ、この電界により被覆用粉体をガスの流れ方向と異なる方向へ飛翔移動させ、搬送路の壁面部分への被覆用粉体の付着を抑制する電界発生手段を備えているので、搬送路の壁面部分への被覆用粉体の付着が抑制されて、被覆用粉体の搬送量を長時間において均一に保つことができる。これにより、この被覆用粉体搬送システムを用いた各種の成膜プロセスにおいて、均一な条件を長時間維持することができる。本発明における被覆用粉体は、溶射に用いる溶射粉体、及びエアロゾルデポジション法、粉体肉盛り溶接法に用いる粉体に限定される。
【0013】
上記の電界発生手段として、多様な構成を採用することができる。その中でも、前記搬送管の外側に配置された2つの第1、第2の電極と、前記第1、第2の電極のうち一方に接続され電圧を印加する電源部と、前記第1、第2の電極のうち他方に接続されたアース部と、を有している電界発生手段とするのが好ましい。
この構成を採用すれば、搬送管の外側に配置された第1、第2の電極の一方に電源部、他方にアース部を接続する簡易な構成で電界を発生させられるので、被覆用粉体搬送システムが簡易に製作可能となりコストを抑えることができる。
【0014】
上記第1、第2の電極としては、多様な形態が考えられる。その中でも、例えば、第1、第2の電極が細長状に形成されており、搬送管の外周で螺旋状に巻回されているものが挙げられる。このようにすれば、搬送管が第1、第2の電極で包み込まれ、搬送路全体に電界を発生させることができる。
【0015】
搬送管の入口である搬送管入口が、例えば粉体貯留部に連結されている場合、被覆用粉体の通路の断面積が急に小さくなる。通路の断面積が急に小さくなると、粉体貯留部と搬送管入口との連結部分に被覆用粉体が付着し易い。
そこで、上記第1、第2の電極の他の形態として、第1、第2の電極を、搬送管を挿通可能なリング状に形成し、搬送管へ被覆用粉体が入る搬送管入口に装着すれば、搬送管入口の搬送路に電界が生じ、粉体貯留部から搬送管へ被覆用粉体をスムーズに供給することができる。また、リング状に形成した第1、第2の電極を、搬送管の搬送管入口だけでなく、搬送管の搬送管入口から搬送管出口に渡って、互い違いに複数設けてもよい。
【0016】
上記第1、第2の電極は、前記被覆用粉体を前記搬送路の略横断面方向に飛翔移動させるように設けられていることが好ましい。このようにすれば、被覆用粉体が搬送路の壁面部分からより遠くへ離れようとし、搬送路の壁面部分への被覆用粉体の付着を効果的に抑制することができる。
【0017】
本発明の被覆装置は、被覆用粉体を溶融させ基材へ衝突させることで当該基材の表面に皮膜を形成する成膜部と、前記成膜部へ導入する前記被覆用粉体を貯留し排出する粉体供給部と、前記被覆用粉体を前記粉体供給部から前記成膜部へ搬送する被覆用粉体搬送システムと、を備えた被覆装置であり、このうち、被覆用粉体搬送システムが、被覆用粉体をガスにより気流搬送するための搬送路を有する搬送管と、前記搬送路の搬送口に向かって前記被覆用粉体が気流搬送されるように、当該搬送路へ前記ガスを供給するガス供給手段と、前記搬送路に電界を生じさせ、この電界により前記被覆用粉体を前記ガスの流れ方向と異なる方向へ飛翔移動させることで、前記搬送路の壁面部分への当該被覆用粉体の付着を抑制する電界発生手段と、を備えたものである。
また、電界発生手段、その第1、第2の電極の形態、電源部については、上記の各構成を採用することが好ましい。
【0018】
上記本発明の被覆装置によれば、被覆用粉体を搬送する搬送路に電界を生じさせ、この電界により被覆用粉体をガスの流れ方向と異なる方向へ飛翔移動させることで、搬送路の壁面部分への被覆用粉体の付着を抑制する電界発生手段を備えているので、搬送路の壁面部分への被覆用粉体の付着が抑制されて、被覆用粉体の搬送量を長時間において均一に保つことができる。本発明における被覆用粉体は、溶射に用いる溶射粉体、及びエアロゾルデポジション法、粉体肉盛り溶接法に用いる粉体に限定される。
【0019】
本発明の皮膜の形成方法は、搬送管の搬送路を流れるガスにより気流搬送されて成膜部へ導入された被覆用粉体を、溶融させ基材へ衝突させることにより当該基材の表面に皮膜を形成する皮膜の形成方法において、前記搬送管の外側に配置された複数の電極に電圧を印加することにより前記搬送路に電界を生じさせ、この電界により前記被覆用粉体を前記ガスの流れ方向と異なる方向へ飛翔移動させ、当該被覆用粉体が前記搬送路の壁面部分へ付着することを抑制した状態で、当該被覆用粉体を気流搬送し前記成膜部へ導入することを特徴とするものである。
【0020】
上記本発明の皮膜の形成方法によれば、被覆用粉体を搬送する搬送路に電界を生じさせ、この電界により被覆用粉体をガスの流れ方向と異なる方向へ飛翔移動させることで、搬送路の壁面部分への被覆用粉体の付着を抑制した状態で、当該被覆用粉体を気流搬送し、成膜部へ導入するので、成膜部への被覆用粉体の導入量(搬送量)が一定に保たれ、均一な条件を長時間維持することができる。本発明における被覆用粉体は、溶射に用いる溶射粉体、及びエアロゾルデポジション法、粉体肉盛り溶接法に用いる粉体に限定される。
【発明の効果】
【0021】
上記の通り、本発明によれば、搬送路に生じさせた電界により、被覆用粉体(例えば、溶射粉体)が搬送路の壁面部分から離れ、搬送路の壁面部分への当該被覆用粉体の付着が抑制されるので、被覆用粉体の搬送量を長時間において均一に保つことができる。また、成膜プロセスにおいて、均一な条件を長時間維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るプラズマ溶射装置の全体構成を表す系統図である。
【図2】搬送管に第1、第2の電極が巻回されている状態を示す側面図である。
【図3】搬送路に発生させた電界で溶射粉体がガスの流れ方向に対して異なる方向に飛翔移動している状態を表す説明図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係るプラズマ溶射装置の要部構成を表す系統図である。
【図5】従来の粉体搬送システムで溶射粉体が搬送されている状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態(第1の実施形態)に係る溶射装置(被覆装置)1の全体構成を表す系統図である。この溶射装置1は、プラズマ溶射装置1として構成されたものであり、プラズマ発生部である溶射トーチ(成膜部)2と、この溶射トーチ2に電流を供給する直流電源3と、溶射トーチ2を冷却するためのチラー4と、溶射トーチ2へ導入する溶射粉体(被覆用粉体)5を貯留し排出するパウダーフィーダー(粉体供給部)6と、溶射粉体5をパウダーフィーダー6から溶射トーチ2へ搬送する被覆用粉体搬送システム7(以下、粉体搬送システムという)と、直流電源3、チラー4、パウダーフィーダー6、及び粉体搬送システム7等を制御するための制御部8とで主に構成されている。
【0024】
このプラズマ溶射装置1は、粉末状のセラミックス等の溶射粉体5をプラズマで加熱し、溶融させて液状微粒子の溶射粒子とし、この溶射粒子を図示しない基材の表面へ高速で衝突させて当該表面に溶射皮膜(皮膜)を形成するためのものである。基材の表面に溶射皮膜を形成することにより、基材の耐摩耗性や電気絶縁性等を向上させる。
【0025】
溶射トーチ2は、公知のものを使用することができ、例えば先細り状の先端部11aを有する陰電極11と、この陰電極11と絶縁された状態で当該陰電極11の周りを囲むように設けられ、溶射粒子を噴出するノズル部12aが形成された陽電極12とを有している。溶射トーチ2には、陽電極12及び陰電極11に直流電源3からの電流を供給するための電源接続部13が設けられており、この電源接続部13と直流電源3とが配線14を介して電気的に接続されている。更に、溶射トーチ2には、陽電極12及び陰電極11を冷却すべく当該陽電極12、陰電極11にチラー4からの冷却水を流入出させる冷却口15、及び当該溶射トーチ2にプラズマ作動ガス16を送り込むための作動ガス供給口17が設けられている。
【0026】
チラー4は、水冷式の冷却装置として構成されたものであり、冷却口15と同チラー4とは冷却水を流すための冷却用配管18で接続されており、冷却口15を介して陽電極12及び陰電極11に所定温度の冷却水が循環するようになっている。これにより、陽電極12及び陰電極11の温度が制御可能となっている。作動ガス供給口17には、ガス用配管19を介してマスフローコントローラ20が接続されており、更に、このマスフローコントローラ20には、ガス共通配管21を介してガスボンベ22が接続されている。ガスボンベ22には、プラズマ作動ガス16としてアルゴン、窒素、水素、ヘリウム等のガスが充填されている。これにより、ガスボンベ22から溶射トーチ2へ向けて上記のプラズマ作動ガス16が供給可能とされ、かつそのプラズマ作動ガス16の流量が調整可能となっている。なお、上記プラズマ作動ガス16は、限定されるものではない。
【0027】
溶射トーチ2の陽電極12には、溶射粉体5を導入するための粉体供給口23が設けられており、この粉体供給口23を介して、発生させたプラズマジェットへ溶射粉体5が供給されるようになっている。また、溶射粉体5が貯留されているパウダーフィーダー6は、貯留タンク6Aとこの貯留タンク6Aに溜められた溶射粉体5を所定量ずつ排出するための計量部6Bとを備えている。計量部6Bは、モータで回転される図示しない回転ディスクを備えており、貯留タンク6Aに溜められている溶射粉体5は当該回転ディスクの盤面上に出される。回転ディスクの回転速度の制御により、溶射粉体5の供給量が調整されるようになっている。
【0028】
粉体搬送システム7は、溶射粉体5をキャリヤーガス(ガス)25により気流搬送するための搬送路26を有する搬送管27と、搬送路26の出口である搬送口26aに向かって溶射粉体5が気流搬送されるように、当該搬送路26へキャリヤーガス25を供給するガス供給手段28とを備えている。ガス供給手段28は、パウダーフィーダー6にキャリヤーガス用配管29を介して接続されたマスフローコントローラ20と、このマスフローコントローラ20にガス共通配管21を介して接続されたガスボンベ22とからなる。ガスボンベ22からマスフローコントローラ20までは、プラズマ作動ガス16を供給するためのものと共通のものが使用されており、プラズマ溶射装置1の製造コストを抑え、装置1の設置スペースを小さくしている。なお、キャリヤーガス25は,限定されるものではないが、本実施形態ではアルゴンや窒素が使用される。
【0029】
搬送管27は、外径4mmのフッ素樹脂チューブで構成されたものであり、低い表面摩擦係数と高い絶縁性等を有している。搬送口26a(搬送管出口)は、図1に示すように溶射トーチ2の粉体供給口23に繋がっており、これにより、パウダーフィーダー6と溶射トーチ2とが接続され、搬送路26を通じて、パウダーフィーダー6から溶射トーチ2へ溶射粉体5が導入されるようになっている。また、溶射トーチ2は、図示しない走査機構に取り付けられており、この走査機構により溶射トーチ2が図示しない基材の表面上を相対的に移動できるようになっている。そのため、搬送管27は、固定されたパウダーフィーダー6に対して溶射トーチ2が自由に動けるようにするため、約2mのものが使用されている。なお、搬送管27の材質、径、長さは限定されるものではなく、適宜変更することができる。
【0030】
上記粉体搬送システム7により、パウダーフィーダー6に貯留されている溶射粉体5は、計量部6Bで供給量が調整され、マスフローコントローラ20で流量調整されたキャリヤーガス25にのせられて、搬送管27の搬送路26を通って溶射トーチ2へ圧送(気流搬送)されるようになっている。
プラズマ溶射装置1の制御部8は、チラー4、直流電源3、マスフローコントローラ20、パウダーフィーダー6、及び粉体搬送システム7に接続されている。この制御部8には、作業者が走査するための操作パネル31が設けられており、この操作パネル31が操作されることで、プラズマ溶射装置1の制御部8は、チラー4、直流電源3、マスフローコントローラ19、パウダーフィーダー6、及び粉体搬送システム7の各々の操作パラメーターを制御する。
【0031】
上記構成のプラズマ溶射装置1により、次のようにして基材の表面へ溶射皮膜を形成する。溶射トーチ2の陽電極12と陰電極11との間に直流電源3から電圧を印加して、陰電極11の先端部11aにアークプラズマを発生させる。このアークプラズマにプラズマ作動ガス16を吹き付けて高温のプラズマジェットとし、ここに粉体搬送システム7で圧送されてきた溶射粉体5が供給される。溶射粉体5は、加熱されて溶融し、液状微粒子(溶射粒子)となり、プラズマジェトと共に噴出される。噴出された溶射粒子は、基材の表面に高速度で衝突し、同表面で積層されていき、当該表面に溶射皮膜が形成される。
【0032】
本実施形態の粉体搬送システム7には、搬送路26に電界を生じさせる電界発生手段32が設けられている。この電界発生手段32は、搬送路26を通る溶射粉体5が当該搬送路26の壁面部分26hへ付着することを抑制するためのものであり、搬送管27の外側に配置された電極部Dと、この電極部Dに接続された電源部34及びアース部33とで主に構成されている。
【0033】
電極部Dは、第1の電極35と第2の電極36で構成されており、これら第1、第2の電極35、36はいずれも細長状の導線からなる。導線の素材は、限定されるものではなく、銅やアルミニウム等が使用される。第1、第2の電極35、36は、搬送管27の一端部近傍(パウダーフィーダー6の近傍)の外周に、螺旋状に巻回されている(図2参照)。
【0034】
第1、第2の電極35、36の形態として、本実施形態のように細長状に形成された導電を用いることにより、搬送管27の外周が第1、第2の電極35、36で包み込まれ、搬送路26の全体に電界を発生させることができる。なお、本実施形態では、第1、第2の電極35、36は、図2のように若干の隙間を空けて搬送管27の外周に巻回されているが、当該第1、第2の電極35、36の巻き方は限定されるものではなく、例えば、図2に示すよりも隙間を大きく空けて巻回してもよい。
【0035】
電源部34は電源トランスとして構成されたものであり、例えば60Hzの周波数で5kVの電圧を出力するものである。この電源部34により、電極Dへ交流電圧が印加されるようになっている。第1、第2の電極35、36のうち、第1の電極35は上記電源部34に電気的に接続されており、第2の電極36は電気的にアース部33に接続されている。そして、電源部34で第1の電極35に交流電圧が印加されると、搬送路26に電界E1が発生する(図3参照)。つまり、第1、第2の電極35、36に外周が囲まれた搬送管27の搬送路26に、電界E1を生じさせることができる。
【0036】
かかる電界E1は、搬送路26の略径方向(略横断面方向)に向かうものである。電界E1が生じている搬送路26に溶射粉体5が搬送されていくと、例えばセラミック製の同溶射粉体5は、当該電界E1により帯電させられる。その際、溶射粉体5には電界方向(搬送路26の略径方向)へのクーロン力が作用し、当該溶射粉体5は、搬送路26の略径方向へ飛翔移動し、壁面部分26hから離れる。
【0037】
なお、ここでいう搬送路26の略径方向(略横断面方向)とは、搬送路26の径方向、即ち図3の上下方向のみをいうのではなく、当該径方向を含む広範囲の方向をいうものとする。具体的には、図3で搬送管27の下側に断面として示された第1の電極35の真上方向(図3の上方向)を0°方向としたときに、ガスの流れ方向(図3の右方向)へ60°方向から、ガスの流れ方向と逆流方向(図3の左方向)へ−60°方向の範囲を含むものである。なお、この範囲は、電界E1の強さ等によって変わるものであり、これに限定されるものではない。
【0038】
実際には、搬送路26には強い電界E1が生じている範囲と、これよりも弱い電界E1が生じている範囲、微少の電界E1が生じている範囲が存在する。従って、搬送路26の壁面部分26hにおける第1の電極35の近くにきた溶射粉体5は、強い電界Eにより略横断面方向へ飛翔移動させられ、弱い電界E1が生じている範囲、或いは微少の電界E1が生じている範囲へ向けて飛翔移動する。なお、壁面部分26hとは、搬送路26の壁面の表面のみをいうものではなく、この表面に近い部分を含む表層部分をいうものとする。
【0039】
従って、搬送路26で搬送される溶射粉体5は、電界発生手段32で生じた電界E1により、図3に示すように多方向(キャリヤーガス25の流れ方向と異なる方向)へ飛翔移動する。溶射粉体5が多方向へ飛翔移動するので、キャリヤーガス25の流れによる粘性抵抗力と相まって、搬送路26の壁面部分26hへの当該溶射粉体5の付着を抑制することができる。
電界E1の強さ、溶射粉体5の粒径、密度、キャリヤーガスの流量、搬送管の径等の各条件は、次の式を満たすように決定される。
Fp>Fa
Fp:電界E1により溶射粉体5に生じるクーロン力。
Fa:溶射粉体5と搬送路26との摩擦で双方の帯電により生じた当該溶射粉体5の搬送路26に対する付着力。
【0040】
上記本実施形態の粉体搬送システム7を備えるプラズマ溶射装置1によれば、溶射粉体5の搬送路26に電界E1を生じさせる電界発生手段32により、搬送路26の壁面部分26hへの溶射粉体5の付着が抑制されるので、溶射粉体5の搬送量を長時間において均一に保つことができる。また、搬送路26が溶射粉体5で閉塞されるのを防止することができる。電界発生手段32として、搬送管27の外側に設けられた第1、第2の電極35、36の一方に電源部34、他方にアース部33を接続する簡易な構成で電界を発生さるので、粉体搬送システム7を簡易に製作でき、プラズマ溶射装置1の製作コストを抑えることができる。
【0041】
更に、搬送管の搬送路を流れるガスにより気流搬送されて成膜部へ導入された被覆用粉体を、溶融させ基材へ衝突させることにより当該基材の表面に溶射皮膜を形成する本発明に係る皮膜の形成方法として、上記プラズマ溶射装置1を用いて、溶射粉体(被覆用粉体)5が搬送路26の壁面部分26hへ付着することを抑制した状態で、当該溶射粉体5を気流搬送し溶射トーチ(成膜部)2へ導入し、皮膜を形成する方法が挙げられる。この皮膜の形成方法によれば、溶射トーチ2へ導入する溶射粉体5の搬送量を長時間において均一に保つことができる。
【0042】
これにより、上記皮膜の形成方法を使用した成膜プロセスにおいて、溶射トーチ2への溶射粉体5の導入量が長時間において一定に保たれ、均一な条件を長時間維持することができる。また、搬送路26が溶射粉体5で閉塞されるのを防止することができるので、成膜プロセスを中断する必要がなく、膜質の変化を招くおそれがない。従って、基材の大面積部分へ溶射する場合であっても、均一な膜厚、膜質を有する高品質の溶射皮膜を得ることができる。
【0043】
特に、溶射トーチ2へ導入する溶射粉体5の粒径が小さい(例えば10μm以下)の場合には、一般的に溶射粉体5は搬送路26へ付着し易く、堆積し易い。上記実施形態の粉体搬送システム7を備えたプラズマ溶射装置1で溶射皮膜を形成すれば、溶射粉体5の付着が抑制されるので、小さな溶射粉体5であっても、均一な条件が長時間維持され、高品質の溶射皮膜を得ることができる。
【0044】
上記本実施形態のプラズマ溶射装置1が備える粉体搬送システム7は、本発明に係る被覆用粉体粉体の付着抑制方法、及び被覆用粉体の搬送方法を使用するための一構成例である。即ち、ガスが流れる搬送路を有する搬送管で当該搬送路の搬送口に向かって被覆用粉体を気流搬送する際に、当該被覆用粉体が搬送路の壁面部分に付着することを抑制する本発明にかかる被覆用粉体の付着抑制方法として、上記実施形態のように、搬送管27の外側に配置された2つの第1、第2の電極35、36に、電圧を印加することにより搬送路26に電界E1を生じさせ、この電界E1により、溶射粉体5をキャリヤーガス25の流れ方向と異なる方向へ飛翔移動させる方法が挙げられる。この方法によれば、溶射粉体5が搬送路26の壁面部分26hから離れ、搬送路26の壁面部分26hへの当該溶射粉体5の付着を抑制することができる。
【0045】
また、ガスが流れる搬送路を有する搬送管で当該搬送路の搬送口に向かって被覆用粉体を気流搬送する本発明に係る被覆用粉体の搬送方法として、上記実施形態のように、搬送路26に生じさせた電界E1により、溶射粉体5をキャリヤーガス25の流れ方向と異なる方向へ飛翔移動させ、当該溶射粉体5が搬送路26の壁面部分26hへ付着することを抑制した状態で、当該溶射粉体5を気流搬送する方法が挙げられる。この方法によれば、搬送路26の内壁部分26hへの溶射粉体5の付着を抑制した状態で当該溶射粉体5を搬送することができる。
【0046】
図4は、本発明のプラズマ溶射装置に係る第2の実施形態を示している。本実施形態のプラズマ溶射装置40が上記第1の実施形態と異なる点は、第1、第2の電極41、42の形態とこれらを搬送管27の外周に配置する位置が異なっている点である。図4は、パウダーフィーダー6の出口付近と溶射トーチ2を表している。なお、本実施形態のプラズマ溶射装置40のうち、第1、第2の電極41、42、及び電源部34以外の他の構成については、第1の実施形態と共通する。同図でわかるように、搬送管27の搬送管入口27aが、パウダーフィーダー6に連結され、溶射粉体5の通路の断面積が急に小さくなっている。通路の断面積が急に小さくなると、パウダーフィーダー6と当該搬送管入口27aとの連結部分に溶射粉体5が付着し易いという問題がある。本実施形態のプラズマ溶射装置40では、この問題を解決することを目的としている。
【0047】
第1、第2の電極41、42は、共にリング状に形成された所要厚みを有する導電プレート(リング状プレート)で構成されている。第1、第2の電極41、42の内径は搬送管27の外径と略同寸法であり、当該第1、第2の電極41、42に搬送管27を挿通可能となっている。また、第1、第2の電極41、42の外径は10mmとされている。なお、これら内外径の寸法は、限定されるものではなく、搬送管27の外径寸法等により適宜変更すればよい。第2の電極42は、搬送管27の外周におけるパウダーフィーダー6に隣接する位置に装着されており、第1の電極41は、第2の電極42と所要間隔をおいて装着されている。このように、第1、第2の電極41、42は、搬送路26の入口26tに装着されている(図4参照)。なお、第1の電極41と第2の電極42との間隔は限定されるものではない。
【0048】
第1の電極41は、電源部34に電気的に接続されており、第2の電極42はアース部33に電気的に接続されている。そして、第1の電極41に交流電圧が印加されると、第1、第2の電極41、42に挟まれた搬送路26の入口26tに、電界E2を生じさせることができる。
【0049】
電界E2が生じている搬送路26の入口26tに溶射粉体5がくると、例えばセラミック製の同溶射粉体5は、当該電界E2により帯電させられる。その際、溶射粉体5には電界方向(ガスの流れ方向と逆方向;図4の下方向)へのクーロン力が作用し、入口26tに溜まろうとする溶射粉体5は、電界方向へ飛翔移動しようとする。そのため、入口26tにきた溶射粉体5は、当該入口26tに溜まらず、搬送路26へスムーズに導入されていく。以上のように第1、第2の電極41、42を搬送管27の局所的な部分に配置することで、当該局所的な部分に溶射粉体5が付着し堆積するのを抑制することができる。
【0050】
また、図4に示す第2の実施形態において、上記の第1の電極41、第2の電極42を、搬送路26の入口26tだけでなく、搬送路26の出口である搬送口26aにも設けるか、或いは、搬送路26の搬送口26aのみに設けてもよい。溶射トーチ2の粉体供給口23に繋がっている搬送口26aでは、当該搬送口26aの直径が搬送路26の他の部分の直径より小さくなっているため、溶射粉体5が、搬送口26aに溜まり易いが、第1の電極41、第2の電極42を、当該搬送口26aにも設けることによって、溶射粉体5を溜まらないようにすることができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。なお、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0052】
(実施例)
上記第1の実施形態と同じ粉体搬送システム及びパウダーフィーダーを使用した。外径4mmの搬送管に、1分間あたり10gの量の溶射粉体を投入しながら、キャリヤーガスを10L/分の流量で流し、溶射粉体を搬送管に通過させた。搬送路へ付着している溶射粉体の状態、及び溶射粉体の搬送量を確認した。溶射粉体には、平均粒径3μmのアルミナ粉末を用い、電源部により第1の電極へ5kVの交流電圧を印加し続けた。なお、搬送路へ付着している溶射粉体の状態については、試験中においては半透明な搬送管の外部から確認し、試験後、搬送管を切断して確認した。溶射粉体の搬送量については、搬送管の出口を目視で確認した。
搬送路へ付着している溶射粉体の状態:若干の溶射粉体が螺旋状に付着するが、時間の経過で付着量が増加することはなく、搬送路の閉塞はなかった。
溶射粉体の搬送量:減少せず。
【0053】
(比較例)
上記実施例の粉体搬送システムから電界発生手段を取り除き、搬送路に電界を発生させない状態で行った。上記実施例と同条件で溶射粉体を搬送管に通過させた。実施例と同じく、溶射粉体に平均粒径3μmのアルミナ粉末を用い、搬送路へ付着している溶射粉体の状態、及び溶射粉体の搬送量を確認した。
搬送路へ付着している溶射粉体の状態:試験開始直後から付着し始め、大量に凝集している溶射粉体が一度に流れる現象と、少量に凝集している溶射粉体が搬送路に付着したままとなる現象とが繰り返された。
溶射粉体の搬送量:試験開始直後から減少し始めると共に、上記の現象が繰り返されることにより、搬送量が一定ではなくなった。更に、時間の経過と共に搬送量が減少していき、10分後に搬送路が溶射粉体で閉塞されて、搬送不可能となった。
【0054】
以上の実施例と比較例から、電界発生手段を用いて搬送路に電界を発生させれば、搬送路への溶射粉体の付着が飛躍的に抑制されることがわかる。
【0055】
なお、上記で開示した各実施形態、実施例は例示であり、制限的なものではない。粉体搬送システムに用いられる搬送管、ガス供給手段、及び電界発生手段は、用途に応じて多様な形態のものを用いることができる。特に、電界発生手段に関して、上記第1の実施形態では、一方の電極が電源部に接続され、他方の電極がアース部に接続されているが、他の形態として、アース部には接続せずに、両方の電極に印加する電圧の位相を互いに180°ずらしてもよい。この場合、複数の電極に印加する電圧の位相を互いにずらすための、例えば位相調整手段を更に設ければよい。2つの電極に印加する電圧の位相をずらすことで、搬送路に生じる2つの電界により溶射粉体を多方向へ飛翔移動させることができる。
【0056】
また、電極部を構成する電極は2つに限られるものではなく、当該電極部を3つ或いは4つ以上の電極で構成してもよい。以下、第1、第2の電極を含む複数の電極とは、各電極に印加される電圧が異なるか、各電極に印加される電圧の位相がずれている電極をいうものとする。例えば電極部を3つの電極で構成した場合、3つ電極のうち1つの電極をアース部に接続し、残りの2つの電極に印加する電圧の位相を、互いに180°ずらせばよい。また、3つの電極のいずれの電極もアース部には接続せず、3つの電極に印加する電圧の位相を互いに120°ずらしてもよい。更に、電極を4つ以上とした場合、電極の数をnとしたときに、n個の電極のいずれの電極もアース部には接続せず、n個の電極に印加する電圧の位相を互いに360°/nずらせばよい。このように、電極部を構成する電極の数、これら電極へのアース部の接続の有無、これら電極へ印加する電圧を互いにずらせる度合いを変更することで、有効な電界を搬送路に生じさせればよい。
【0057】
上記実施形態では第1、第2の電極として導線、リング状プレートを用いたが、搬送路に有効な電界を発生させられるものであれば、他の形状のものを使用することもできる。例えば、第1、第2の電極を搬送路(搬送管)の長手に沿って伸びる金属箔としてもよい。金属箔としては、アルミ箔や銅箔等が挙げられる。つまり、金属箔からなる長い第1、第2の電極を互いに対向状に設けることで、当該第1、第2の電極で搬送路を挟み込めばよい。また、このような搬送路の長手に沿って伸びる金属箔からなる電極を、3つ以上設けてもよい。この場合においても、電極部を構成する電極の数、これら電極へのアース部の接続の有無、これら電極へ印加する電圧を互いにずらせる度合いを変更することで、有効な電界を搬送路に生じさせればよい。
【0058】
更に、第1、第2の電極を、第2の実施形態におけるリング状に形成された所要厚みを有する導電プレート(リング状プレート)とし、これらを搬送管入口や搬送管出口だけでなく、搬送管入口から搬送管出口に渡って、互い違いに所要間隔を開けて複数設けてもよい。この場合においても、電極部を構成する電極の数、これら電極へのアース部の接続の有無、これら電極へ印加する電圧を互いにずらせる度合いを変更することで、有効な電界を搬送路に生じさせればよい。
【0059】
第1の実施形態において、電極部Dを構成する細長状の第1の電極と第2の電極を、搬送管の搬送管入口から搬送管出口に渡る外周に、螺旋状に巻回してもよい。これにより、搬送管の搬送管入口から搬送管出口に渡る外周全体が、第1、第2の電極35、36で包み込まれ、当該第1、第2の電極で包み込まれた搬送路の入口から、搬送路の出口である搬送口までのより広い範囲に電界を発生させることができる。
【0060】
被覆用粉体の付着抑制方法、被覆用粉体の搬送方法、被覆用粉体搬送システムとして、プラズマ溶射装置を例にして説明したが、これらの方法、システムは、搬送管にキャリヤーガスを流し、そこで被覆用粉体を圧送する他の各種の装置に適用することができる。従って、搬送する被覆用粉体は、溶射粉体に限らず、基材を被覆する用途に使用される粉体であれば、どのようなものにも本発明を適用することができる。例えば、溶射粉体を用いるものとして、上記各実施形態では、プラズマ溶射装置を例に説明したが、例えば、フレーム溶射装置等、溶射粉体を溶射部に導入するタイプの溶射装置に適用可能である。また、第1の実施形態と第2の実施形態を組み合わせることもできる。この場合、パウダーフィーダーからの粉体は、搬送路へスムーズに導入されていき、かつ搬送路の壁面部分全体への付着が抑制されるので、成膜プロセス或いは、各種の製造プロセスにおいて均一な条件を長時間維持でき、より高品質の製品を得ることができる。
【0061】
更に、本発明に係る被覆用粉体の付着抑制方法、被覆用粉体の搬送方法、被覆用粉体搬送システムが適用されるものとして、エアロゾルデポジション法、及び粉体肉盛り溶接法における被覆用粉体の搬送が挙げられる。
(エアロゾルデポジション法)
エアロゾルデポジション
法(以下、AD法とする)は、粒径が数十nm〜数μmのセラミックス或いは金属の微粒子からなる粉体(被覆用粉体)をガスと混合してエアロゾル化し、減圧化の雰囲気でノズルを通して基板に噴射して、皮膜を形成する技術である。近年、AD法は、低基板温度で、かつ高成膜速度で、原料である微粒子と同様の結晶構造を有する緻密な皮膜が形成できる方法として着目されている。
【0062】
AD法を用いた成膜装置は、例えば、搬送管で接続されたエアロゾルチャンバー、成膜チャンバー、その他ガスボンベ、フローコントローラ等で構成されている。成膜チャンバー内は、真空ポンプで減圧されており、ドライな粉体は、エアロゾルチャンバー内でガスと攪拌、混合されてエアロゾル化される。両チャンバーの圧力差により生じるガスの流れにより、粉体が成膜チャンバーに搬送されて、ノズルを通って加速され、基板に噴射される。
【0063】
このようなAD法を用いた成膜装置における粉体の搬送に、本発明に係る被覆用粉体の付着抑制方法、被覆用粉体搬送方法、被覆用粉体搬送システムを適用することができる。
この場合、上記AD法を用いた成膜装置が使用される製作プロセスにおいて、粉体の搬送量が長時間において均一に保たれ、均一な条件を長時間維持することができる。
【0064】
(粉体肉盛り溶接法)
粉体肉盛り溶接法は、高温のプラズマガスを水冷ノズルにより絞り、エネルギー密度の高いプラスマアークとして基材に到達させて、アーク電流を基材に流し、基材表面に溶融池を形成し、キャリアーガスによって搬送されてきた粉体(被覆用粉体)を、プラスマアーク中に送り込んで溶融させた状態で基材上の上記溶融池に投入し、肉盛層を形成するものである。
【0065】
上記粉体肉盛り溶接法では、肉盛り材料として粉体を用いるので、ワイヤーや棒に加工できなかった難加工材である高硬度材やセラミックスで肉盛り溶接が可能となり、異なる粉体の配合費を変えることで多様な目的に応じた皮膜を形成でき、耐剥離性に優れ、厚めの皮膜を形成できるので、第1級の品質管理が求められる石油、船舶、航空機、輸送機、原子力発電等、広い応用範囲を有している。
【0066】
粉体肉盛り溶接法を用いた成膜装置における粉体搬送システムとしては、本発明が適用された図1に示す粉体搬送システムと略同様のものを使用することができる。この場合、当該粉体肉盛り溶接法を用いた成膜装置が使用される製作プロセスにおいて、粉体の搬送量が長時間において均一に保たれ、均一な製作条件を長時間維持することができる。
なお、本発明の範囲は、上記した実施形態や実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内の全ての変更が含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、搬送管にガスを流し、そこで被覆用粉体を圧送する方法、装置に有効に適用される。
【符号の説明】
【0068】
1 プラズマ溶射装置
2 溶射トーチ
5 溶射粉体
6 パウダーフィーダー
7 粉体搬送システム
25 キャリヤーガス
26 搬送路
27 搬送管
32 電界発生手段
33 アース部
34 電源部
35 第1の電極
36 第2の電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスが流れる搬送路を有する搬送管で当該搬送路の搬送口に向かって被覆用粉体を気流搬送する際に、当該被覆用粉体が前記搬送路の壁面部分に付着することを抑制する被覆用粉体の付着抑制方法であって、
前記搬送管の外側に配置された複数の電極に電圧を印加することにより前記搬送路に電界を生じさせ、この電界により前記被覆用粉体を前記ガスの流れ方向と異なる方向へ飛翔移動させることを特徴とする被覆用粉体の付着抑制方法。
【請求項2】
ガスが流れる搬送路を有する搬送管で当該搬送路の搬送口に向かって被覆用粉体を気流搬送する被覆用粉体の搬送方法であって、
前記搬送管の外側に配置された複数の電極に電圧を印加することにより前記搬送路に電界を生じさせ、この電界により前記被覆用粉体を前記ガスの流れ方向と異なる方向へ飛翔移動させ、当該被覆用粉体が前記搬送路の壁面部分へ付着することを抑制した状態で、当該被覆用粉体を気流搬送すること特徴とする被覆用粉体の搬送方法。
【請求項3】
被覆用粉体をガスにより気流搬送するための搬送路を有する搬送管と、
前記搬送路の搬送口に向かって前記被覆用粉体が気流搬送されるように、当該搬送路へ前記ガスを供給するガス供給手段と、
前記搬送路に電界を生じさせ、この電界により前記被覆用粉体を前記ガスの流れ方向と異なる方向へ飛翔移動させることで、前記搬送路の壁面部分への当該被覆用粉体の付着を抑制する電界発生手段と、
を備えることを特徴とする被覆用粉体搬送システム。
【請求項4】
前記電界発生手段は、前記搬送管の外側に配置された2つの第1、第2の電極と、前記第1、第2の電極のうち一方に接続され電圧を印加する電源部と、前記第1、第2の電極のうち他方に接続されたアース部と、を有している請求項3に記載の被覆用粉体搬送システム。
【請求項5】
前記第1、第2の電極は、細長状に形成されており、前記搬送管の外周で螺旋状に巻回されている請求項4に記載の被覆用粉体搬送システム。
【請求項6】
前記第1、第2の電極は、前記搬送管を挿通可能なリング状に形成されており、前記搬送管へ前記被覆用粉体が入る搬送管入口に装着されている請求項4に記載の被覆用粉体搬送システム。
【請求項7】
前記第1、第2の電極は、前記被覆用粉体を前記搬送路の略横断面方向に飛翔移動させるように設けられている請求項4〜6のいずれかに記載の被覆用粉体搬送システム。
【請求項8】
被覆用粉体を溶融させ基材へ衝突させることで当該基材の表面に皮膜を形成する成膜部と、
前記成膜部へ導入する前記被覆用粉体を貯留し排出する粉体供給部と、
前記被覆用粉体を前記粉体供給部から前記成膜部へ搬送する被覆用粉体搬送システムと、を備えた被覆装置において、
前記被覆用粉体搬送システムが、請求項3〜7のいずれかに記載の被覆用粉体搬送システムであることを特徴とする被覆装置。
【請求項9】
搬送管の搬送路を流れるガスにより気流搬送されて成膜部へ導入された被覆用粉体を、溶融させ基材へ衝突させることにより当該基材の表面に皮膜を形成する皮膜の形成方法において、
前記搬送管の外側に配置された複数の電極に電圧を印加することにより前記搬送路に電界を生じさせ、この電界により前記被覆用粉体を前記ガスの流れ方向と異なる方向へ飛翔移動させ、当該被覆用粉体が前記搬送路の壁面部分へ付着することを抑制した状態で、当該被覆用粉体を気流搬送し前記成膜部へ導入することを特徴とする皮膜の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−241550(P2010−241550A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−91593(P2009−91593)
【出願日】平成21年4月3日(2009.4.3)
【出願人】(000109875)トーカロ株式会社 (127)
【Fターム(参考)】