説明

被覆細胞培養担体の製造方法

本発明は、ポリウレタンウレア含有溶液を、細胞担体に塗布し、乾燥させる被覆細胞培養担体の製造方法に関する。該ポリウレタンウレアは、少なくとも1つのポリカーボネートポリオール成分、少なくとも1つのポリイソシアネート成分および少なくとも1つのジアミン成分を変換させることにより予め製造される。本発明は、該方法により得られる細胞培養担体、および幹細胞の体外培養のため、特に間充織幹細胞を培養するためのその使用に更に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタンウレア含有溶液を、細胞担体に塗布し、および乾燥させる被覆細胞培養担体の製造方法に関する。本発明は、上記方法により得られる細胞培養担体、および幹細胞の体外培養のための、特に間充織幹細胞を培養するためのその使用に更に関する。
【背景技術】
【0002】
間充織幹細胞は、異なった細胞種類、例えば骨芽細胞、軟骨細胞または含脂肪細胞等へ増殖または分化することができる(A.I.CaplanおよびJ.E.Dennis、J.Cell Biochem.98、2006年、第1076〜1084頁)。成人ドナーからの容易な分離可能性と対をなす間充織幹細胞の多能性は、これらの幹細胞を、再生医療用細胞のための理想的な源とする(D.P.LennonおよびA.I.Caplan、Exp.Hematol.34、2006年、第1604〜1605頁)。このような使用の例は、軟骨または骨の再生または発作もしくは心筋梗塞を処置するための治療手段である(A.I.CaplanおよびJ.E.Dennis、J.Cell Biochem.98、2006年、第1076〜1084頁)。ヒト骨髄におけるこれらの間充織幹細胞の低い濃度のため、上記の幹細胞を、臨床使用前に体外(in−vitro)において培養および増殖させることが必要である(A.I.CaplanおよびJ.E.Dennis、J.Cell Biochem.98、2006年、第1076〜1084年、D.L. JonesおよびA.J.Wagers、Nat.Rev.Mol.Cell Biol.9、2008年、第11〜21頁)。しかしながら、これまでは、この場合、分化能が極めて頻繁に損なわれ、従って治療的有効性の減少が生じる(S.J.MorrisonおよびA.C.Spradling、Cell 132、第2008年、第598〜611頁)。比較的長期間の培養中には、間充織幹細胞は、骨芽細胞の特性を頻繁に示し、従って、分化能は既に失われている(Banfi等、Exp Hematol 28、2000年、第707頁、Baxter等、Stem Cells 22、2004年、第675頁、Wagner等、PLoS ONE 3、2008年、e2218)。
【0003】
極めて一般には、体外において間充織幹細胞を培養することが可能であることが望ましい。ここでは、培養は、細胞を早期分化させずに、従って幹細胞の潜在力を損なわずに進めるべきである。
【0004】
この目的を達成するために確立された方法は、細胞外基質のタンパク質の使用である。この手順は、例えば出版物X.−D.Chen等、Journal of Bone and Mineral Research 22 (12)、2007年、第1943〜1956年、およびT.Matsubara等、Biochemical and Biophysical Research Communications 313 (2004年)、第503〜508頁に記載される。ここで用いられるタンパク質混合物は、プラスチック製細胞培養担体に適用される。被覆細胞培養担体上では、間充織幹細胞は、未被覆細胞培養担体と比べてより低い分化能の損失により増殖させることができる。
【0005】
これらの幹細胞の早期分化の防止と同時の幹細胞の増殖もまた、生物学的要因の目標付加により先行技術において得られる。例えばAnsellem等(Nature Medicine 9 (11)、2003年、第1423頁)は、体外培養において幹細胞の分化を妨げるために、「ソニックヘッジホッグ」またはWntタンパク質のようなモジュレーターの使用を記載する。特許出願WO2006/006171およびWO2006/030442、ならびに出版物PNAS、第103巻、(2006年)、11707は、同様の概念を記載する。
【0006】
上記概念は、モジュレーターとしてのまたは表面層としての更なる物質を必要とする。しかしながら、これらの材料は、天然タンパク質であるので分離することが困難である。従って、分化の防止と同時の増殖を同じく可能とする代替策が望まれる。
【0007】
再生医療の活性の分野のための比較的新しい取り組みは、インサイチュによる幹細胞の分化のための細胞培養担体それ自体の特定の設計である(S.Neuss等、Biomaterials 29、2008年、第302〜313頁)。Neuss等は、この目的のために異なった天然または人工ポリマーのライブラリーを研究するが、ここでは、タンパク質は、幹細胞培養を支持するために用いられない。
【0008】
J.M.Curran等、Biomaterials 27、2006年、第4783〜4793頁は、基材の表面品質が間充織幹細胞の分化に影響を及ぼす原則を記載する。異なった表面変性が間充織幹細胞の分化に影響を異なって及ぼすことが、変性ガラス表面上で示される。アミノ−およびチオ−含有ガラス表面は、間充織幹細胞の分化を促進させたが、対照ガラスおよびメチル変性ガラスは、表現型を維持した。しかしながら、化学試薬によりガラス表面を変性する方法は複雑である。さらに、何より、誘発剤を添加する場合、細胞の早期分化が変性表面上で生じる。
【0009】
医療技術用途のためのおよび再生医療のための重要なポリマー種類は、ポリウレタンの種類である。これらは、構造を変化させるための、従って、定義された特性を設定するための大きな可能性を有する。幹細胞のためのマトリックスとしてのポリウレタンは通常、再生医療に用いられる。その例は、種々の出版物に記載される。
【0010】
H.L.Pritchard等、Biomaterials 28、2007年、第936〜946頁は、種々の基材上で、とりわけポリウレタン上での脂肪細胞から幹細胞の定着研究を記載する。フィブロネクチンによる被覆およびプラズマ活性化のような更なる手段のみが、充分な定着密度をもたらす。しかしながら、これらの手段は、更なる作業工程およびコストを意味する。
【0011】
C.Alperin等、Biomaterials 26、2005年、第7377〜7386頁は、マウスからの胚幹細胞による定着によりポリウレタン上で心筋細胞を分化することを記載する。幹細胞は、目標とされた方法により9日以内に心筋細胞から分化される。しかしながら、幹細胞の分化を防止することは、該出版物の主題ではない。
【0012】
Nieponice等、Biomaterials 29、2008年、第825〜833頁は、心臓欠陥用途のためのインプラントを製造するための生分解性ポリウレタン上での筋肉からの幹細胞の定着を記載する。定着は、更なる添加剤を用いず、純粋ポリウレタン上で進む。記載の方法を用いると、細胞は、早期の分化を伴わずに7日間、担体上で分化し得る。しかしながら、複雑な真空定着技術の使用が、充分な定着密度を得るために必要である。
【0013】
先行技術では、幹細胞の充分に高い密度で容易に定着させることができる被覆細胞培養担体の、簡単に行い得る製造方法は、知られておらず、該方法は、幹細胞の素早い増殖を可能とし、その増殖中に幹細胞の早期分化を防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】国際公開第2006/006171号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2006/030442号パンフレット
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】A.I.CaplanおよびJ.E.Dennis、「J.Cell Biochem.」、第98巻、2006年、第1076〜1084頁
【非特許文献2】D.P.LennonおよびA.I.Caplan、「Exp.Hematol.」、第34巻、2006年、第1604〜1605頁
【非特許文献3】D.L.JonesおよびA.J.Wagers、「Nat.Rev.Mol.Cell Biol.」、第9巻、2008年、第11〜21頁
【非特許文献4】S.J.MorrisonおよびA.C.Spradling、「Cell」、第132巻、第2008年、第598〜611頁
【非特許文献5】Banfi、「Exp Hematol」、第28巻、2000年、第707頁
【非特許文献6】Baxter、「Stem Cells」、第22巻、2004年、第675頁
【非特許文献7】Wagner、「PLoS ONE」、第3巻、2008年、e2218
【非特許文献8】Ansellem、「Nature Medicine」、第9巻、第11版、2003年、第1423頁
【非特許文献9】「PNAS」、第103巻、2006年、第11707頁
【非特許文献10】S.Neuss、「Biomaterials」、第29頁、2008年、第302〜313頁
【非特許文献11】J.M.Curran、「Biomaterials」、第27巻、2006年、第4783〜4793頁
【非特許文献12】H.L.Pritchard、「Biomaterials」、第28巻、2007年、第936〜946頁
【非特許文献13】C.Alperin、「Biomaterials」、第26巻、2005年、第7377〜7386頁
【非特許文献14】Nieponice、「Biomaterials」、第29巻、2008年、第825〜833頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従って、本発明の目的は、上記要件を同程度に満たす細胞培養媒体が得られる上記種類の方法を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の目的は、溶液に含まれるポリウレタンウレアを、少なくとも1つのポリカーボネートポリオール成分、少なくとも1つのポリイソシアネート成分および少なくとも1つのジアミン成分を反応させることにより製造する本発明により解決される。
【0018】
本発明による方法により製造された細胞培養担体は、素早くかつ簡単に、とりわけ複雑な技術を用いる必要がなく、幹細胞の充分な密度で定着させることができる。細胞培養培地上での幹細胞の引き続きの素早い増殖の間に、望ましくない幹細胞の早期分化は起こらない。上記作用は、専らポリウレタンウレア被覆物のみによって、すなわち細胞培養担体の被覆物においてタンパク質または天然物質を更に使用することなく得られる。細胞培養担体上で増殖した幹細胞は、担体から取り出した後、必要な分化能をなお示し、例えば再生医療のために適切に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明では、ポリウレタンウレアは、とりわけ、
(a)以下の一般構造:
【化1】

で示される、少なくとも2つのウレタン基含有繰り返し単位、および
(b)少なくとも1つのウレア基含有繰り返し単位:
【化2】

を有するポリマー化合物である。
【0020】
上記ポリウレタンウレアは、好ましくは実質的に直鎖分子であり、あまり好ましくはないが分枝であってもよい。実質的に直鎖分子とは、本発明では、軽微な架橋系を意味するが、基礎となるポリカーボネートポリオール成分はとりわけ1.7〜2.3、好ましくは1.8〜2.2、特に好ましくは1.9〜2.1の平均ヒドロキシル官能価を有する。
【0021】
さらに、ポリカーボネートポリオール成分は、好ましくは400〜6000g/モル、特に好ましくは500〜5000g/モル、特に好ましくは600〜3000g/モルのOH価により規定された分子量を有してよい。このようなポリカーボネート成分は、カルボン酸誘導体、例えばジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネートまたはホスゲン等と、ポリオール、好ましくはジオールとの反応により得られる。本発明において考慮されるジオールは、例えばエチレングリコール、1,2−および1,3−プロパンジオール、1,3−および1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ビスヒドロキシメチルシクロヘキサン、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2,4−トリメチルペンタン−1,3−ジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールまたはテトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ジブチレングリコール、ポリブチレングリコール、ビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA、およびラクトン変性ジオールである。
【0022】
上記ポリカーボネートポリオールは、好ましくは40〜100重量%のヘキサンジオール、好ましくは1,6−ヘキサンジオールおよび/またはヘキサンジオール誘導体、好ましくは末端OH基の他にエーテル基またはエステル基をも有するヘキサンジオール誘導体(例えば1モルのヘキサンジオールと少なくとも1モル、好ましくは1〜2モルのカプロラクトンとの反応により、またはジへキシレングリコールまたはトリへキシレングリコールを形成するヘキサンジオール同士のエーテル化により得られた生成物)を含有する。ポリエーテルポリカーボネートジオールを使用することもできる。ヒドロキシルポリカーボネートは、実質的に直鎖であるべきである。しかしながら、これらは必要に応じて、多官能性成分、特に低分子量ポリオールの組み込みにより、僅かに分枝してよい。この目的に適した低分子量ポリオールは、例えばグリセロール、トリメチロールプロパン、ヘキサン−1,2,6−トリオール、ブタン−1,2,4−トリオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール、キニトール、マンニトール、ソルビトール、メチルグリコシドまたは1,3,4,6−ジアンヒドロヘキシトールである。好ましくは、ヘキサン−1,6−ジオールおよび例えばブタン−1,4−ジオールのような変性作用を有するコジオールまたはε−カプロラクトンに基づくポリカーボネートである。好ましい実施態様では、ポリカーボネートポリオールは、ヘキサン−1,6−ジオール、ブタン−1,4−ジオールまたはその混合物に基づくポリカーボネートジオールを用いる。
【0023】
さらに、ポリウレタンウレアは、少なくとも1つのポリイソシアネート成分由来の単位を含んでなる。
【0024】
ポリイソシアネート成分として、1以上、好ましくは2以上の平均NCO官能価を有する、当業者に既知の全ての芳香族、芳香脂肪族、脂肪族および脂環式イソシアネートを、それらがホスゲン法またはホスゲンフリー法のいずれで調製されたかどうかに関係なく、単独でまたは互いの所望の混合物として用いることができる。ポリイソシアネートは、イミノオキサジアジンジオン、イソシアヌレート、ウレトジオン、ウレタン、アロファネート、ビウレット、ウレア、オキサジアジントリオン、オキサゾリジノン、アシルウレアおよび/またはカルボジイミド構造を含んでもよい。該イソシアネートは、単独でまたは互いの所望の混合物として用いることができる。
【0025】
好ましくは、脂肪族または脂環式から構成される群からのイソシアネートを用い、これらは、3〜30個、好ましくは4〜20個の炭素原子(含まれるNCO基を除く)の炭素骨格を含む。
【0026】
脂肪族的および/または脂環式的に結合したNCO基を有する上記種類の特に好ましい化合物は、例えばビス(イソシアナトアルキル)エーテル、ビス−およびトリス−(イソシアナトアルキル)ベンゼン、−トルエンおよび−キシレン、プロパンジイソシアネート、ブタンジイソシアネート、ペンタンジイソシアネート、ヘキサンジイソシアネート(例えばヘキサメチレンジイソシアネート、HDI)、ヘプタンジイソシアネート、オクタンジイソシアネート、ノナンジイソシアネート(例えば、一般に2,4,4−および2,2,4−異性体の混合物としてのトリメチル−HDI(TMDI))、ノナントリイソシアネート(例えば4−イソシアナトメチル−1,8−オクタンジイソシアネート)、デカンジイソシアネート、デカントリイソシアネート、ウンデカンジイソシアネート、ウンデカントリイソシアネート、ドデカンジイソシアネート、ドデカントリイソシアネート、1,3−および1,4−ビス−(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(HXDI)、3−イソシアナトメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(イソホロンジイソシアネート、IPDI)、ビス(4−イソシアナトシクロヘキシル)メタン(H12MDI)またはビス(イソシアナトメチル)ノルボルナン(NBDI)である。
【0027】
極めて特に好ましいのは、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチル−HDI(TMDI)、2−メチルペンタン−1,5−ジイソシアネート(MPDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、1,3−および1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(HXDI)、ビス(イソシアナトメチル)ノルボルナン(NBDI)、3(4)−イソシアネートメチル−1−メチルシクロヘキシルイソシアネート(IMCI)および/または4,4’−ビス−(イソシアナトシクロヘキシル)メタン(H12MDI)またはこれらのイソシアネートの混合物である。更なる例は、2を越えるNCO基を有するウレトジオン、イソシアヌレート、ウレタン、アロファネート、ビウレット、イミノオキサジアジンジオンおよび/またはオキサジアジントリオン構造を有する上記ジイソシアネートの誘導体である。
【0028】
ポリウレタンウレアの製造におけるポリイソシアネート成分の量は、ポリカーボネート成分の1モルを基準として、好ましくは1.0〜5.0モル、特に好ましくは1.0〜4.5モル、特に1.0〜4.0モルである。
【0029】
本発明に必要なポリウレタンウレアは、少なくとも1つのジアミンに由来の単位を含み、末端鎖延長剤として働く。
【0030】
適当なジアミン成分は、ジ−またはポリアミンならびにヒドラジド、例えばヒドラジン、エチレンジアミン、1,2−および1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,6−ジアミノヘキサン、イソホロンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミンおよび2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミンの異性体混合物、2−メチルペンタメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、1,3−キシリレンジアミンおよび1,4−キシリレンジアミン、α,α,α’,α’−テトラメチル−1,3−および−1,4−キシリレンジアミンおよび4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、ジメチルエチレンジアミン、ヒドラジン、アジピン酸ジヒドラジド、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジメチルジシクロヘキシルメタンおよび他の(C〜C)ジ−およびテトラアルキルジシクロヘキシルメタン、例えば4,4’−ジアミノ−3,5−ジエチル−3’,5’−ジイソプロピルジシクロヘキシルメタンである。
【0031】
ポリウレタンウレアの製造では、ジアミン成分として、NCO基と異なった反応性を有する活性水素を含む低分子量ジアミンも考慮される。これらは、例えば第1級アミノ基に加えて第2級アミノ基も含む化合物である。
【0032】
このようなジアミノ成分の例は、第1級アミンおよび第2級アミン、例えば3−アミノ−1−メチルアミノプロパン、3−アミノ−1−エチルアミノプロパン、3−アミノ−1−シクロヘキシルアミノプロパン、3−アミノ−1−メチルアミノブタンである。
【0033】
好ましい実施態様によれば、ジアミノ成分は、少なくとも1つの更なるヒドロキシル基を含む。ジアミノ成分は、第1級アミンおよび第2級アミンはいずれも含有してよく、両方のアミン型の混合物を含有してもよい。特に好ましい化合物のある例は、1,3−ジアミノ−2−プロパノールである。
【0034】
ジアミノ成分の量は、ポリウレタンウレアの製造において、ポリカーボネート成分の1モルを基準として、好ましくは0.1〜3.0モル、特に好ましくは0.2〜2.8モル、とりわけ0.3〜2.5モルである。
【0035】
更なる実施態様では、ポリウレタンウレアの製造では、ポリオール成分は、更に共反応(co−reacted)させる。
【0036】
ポリウレタンウレアの構築に用いるポリオール成分は、通常、ポリマー鎖の強化および/または分枝に影響を与える。ポリオール成分の分子量は、好ましくは62〜500g/モル、特に好ましくは62〜400g/モル、とりわけ62〜200g/モルである。
【0037】
適当なポリオール成分は、脂肪族基、脂環式基または芳香族基を含有してよい。本発明では、ポリオール成分の例としては、例えば1分子あたり約20個までの炭素原子を有する低分子量ポリオール成分、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブチレングリコール、シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ヒドロキノンジヒドロキシエチルエーテル、ビスフェノールA(2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン)、水素化ビスフェノールA(2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン)、およびトリメチロールプロパン、グリセロールまたはペンタエリトリトール、並びにこれらのおよび必要に応じて他の低分子量ポリオールとの混合物が挙げられる。エステルジオール、例えばα−ヒドロキシブチル−ε−ヒドロキシカプロン酸エステル、ω−ヒドロキシヘキシル−γ−ヒドロキシ酪酸エステル、アジピン酸β−ヒドロキシエチルエステルまたはテレフタル酸ビス(β−ヒドロキシエチル)エステル等を用いてもよい。
【0038】
ポリウレタンウレアの製造におけるポリオール成分の量は、ポリカーボネート成分の1モルを基準として、好ましくは0.05〜2.0モル、特に好ましくは0.05〜1.5モル、とりわけ0.1〜1.0モルである。
【0039】
ポリイソシアネート成分とポリカーボネートポリオール成分およびジアミノ成分との反応は、反応性ヒドロキシルまたはアミン化合物と比べてややNCO過剰を維持しながら従来法により進める。目標粘度を達成することによる反応の終点では、活性イソシアネートの残渣がなお常に残存する。この残渣は、長いポリマー鎖との反応を起こさないためにブロックしなければならない。このような反応は、3次元架橋およびバッチのゲル化をもたらす。このような溶液の処理は、もはや可能ではない。
【0040】
残存遊離NCO基をブロックするために、これらは、ブロック成分と反応させることができる。これらのブロック成分は、例えばモノアミンのようなNCO基と反応性の単官能性化合物、とりわけモノ〜第2級アミンまたはモノアルコールから誘導される。本発明では、ブロック成分の例としては、例えばエタノール、n−ブタノール、エチレングリコール、モノブチルエーテル、2−エチルヘキサノール、1−オクタノール、1−ドデカノール、1−ヘキサデカノール、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、イソノニルオキシプロピルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、N−メチルアミノプロピルアミン、ジエチル(メチル)アミノプロピルアミン、モルホリン、ピペリジンおよびこれらの適当な置換誘導体が挙げられる。
【0041】
ブロック成分は、NCO過剰を破壊するために主に用いるので、必要な量は、NCO過剰の量に実質的に依存し、一般的に規定することができない。
【0042】
残存イソシアネート含有量をポリウレタンウレアの製造においてブロックする場合、これらはまた、鎖末端に位置し、およびこれらを停止する何れの場合にも構造成分としてモノマーを含む。
【0043】
しかしながら、好ましくは、合成においては、更に添加されたブロック成分を用いる。その代わり、残存遊離イソシアネート基を、バッチ中に極めて高い濃度において存在する溶媒アルコールと反応させて末端ウレタンを形成させる。これにより、アルコールは、バッチを数時間室温にて放置または撹拌する間、なお残存するイソシアネート基をブロックする。
【0044】
ウレア溶液を製造するために、ポリカーボネートポリオール成分、ポリイソシアネート成分およびジアミノ成分を、全てのヒドロキシル基が消費されるまで互いに溶融物中で、または溶液中で反応させる。次いで、溶媒を添加する。
【0045】
反応に加わる個々の成分の間の化学両論は、上記量比から得られる。
【0046】
反応は、好ましくは60および110℃の間の温度、特に好ましくは75〜110℃、とりわけ90〜110℃の温度にて進めるが、110℃付近の温度が反応の速度のため好ましい。さらに高い温度も可能であるが、この場合、それぞれの場合において、用いる成分に応じて、分解過程および変色が得られたポリマー中において生じる虞がある。
【0047】
イソシアネート添加反応を促進させるために、ポリウレタン化学において既知の触媒、例えばジブチル錫ジラウレートを用いることができる。しかしながら、好ましくは触媒を用いずに合成する。
【0048】
イソシアネートおよびヒドロキシル基を有する全ての成分のプレポリマー場合には、溶融物中における反応が好ましいが、完全に反応した混合物の過度の粘度が生じる虞がある。この場合、溶媒を添加することが望ましい。しかしながら、約50重量%を越える溶媒はできるだけ存在させるべきではなく、そうでなければ反応速度が著しく低下するからである。
【0049】
イソシアネートおよびヒドロキシル基を有する成分の反応の場合、該反応は、溶融物中において1時間から24時間進めることができる。溶媒の少量の添加は、遅延をもたらすが、全反応時間は、前記時間内である。
【0050】
反応の個々の成分の添加の順序は、上記順序と異なってよい。これは、特に、得られる被覆物の機械特性を変性すべき場合に有利なことがある。例えば全てのヒドロキシル基を有する成分を同時に反応させる場合、硬質セグメントおよび軟質セグメントの混合物が形成される。例えばポリオールをポリカーボネートポリオール成分の後に添加する場合、得られる被覆物の他の特性を伴うことができる規定のブロックが得られる。従って、本発明は、添加または個々の成分の反応の規定の順序に制限されない。
【0051】
溶媒は、好ましくは、溶媒の完全な添加の場合に起こる反応を不必要に遅延させないために段階的に、例えば反応の開始時に添加する。さらに、反応の開始時に溶媒の含有量が高い場合、溶媒の種類に少なくとも共同決定(co−determined)される比較的低い温度が必要である。また、これにより反応の遅延が生じる。
【0052】
目標粘度に達した後、なお残存するNCO残基は、単官能性脂肪族アミンによりブロックすることができる。好ましくは、なお残存するイソシアネート基は、溶媒混合物中に存在するアルコールとの反応によりブロックする。
【0053】
ポリウレタンウレア溶液を製造するための溶媒として、全ての考えられる溶媒および溶媒混合物、例えばジメチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、テトラメチルウレア、N−メチルピロリドン、トルエンのような芳香族溶媒、直鎖および環式のエステル、エーテル、ケトンおよびアルコール等が考慮される。エステルおよびケトンの例は、エチルアセテート、ブチルアセテート、アセトン、γ−ブチロラクトン、メチルエチルケトンおよびメチルイソブチルケトンである。
【0054】
好ましいのは、アルコールとトルエンとの混合物である。トルエンと共に用いることができるアルコールの例は、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノールおよび1−メトキシ−2−プロパノールである。
【0055】
通常、反応では、充分な溶媒を、約10〜50重量%濃度溶液、好ましくは約15〜45重量%濃度溶液、特に好ましくは約20〜40重量%濃度溶液が得られるように添加する。
【0056】
ポリウレタンウレア溶液の固形分は、通常、1〜60重量%、好ましくは10〜40重量%の範囲である。被覆実験のために、ポリウレタンウレア溶液を、被覆物の厚みが可変となるように設定するためにトルエン/アルコール混合物で所望の通り希釈することができる。
【0057】
任意の所望の層厚み、例えば数百nmから数百μm等が得られるが、本発明では、より大きな厚みおよびより小さな厚みも可能である。
【0058】
さらに、ポリウレタンウレア溶液は、それぞれの求められている目的のために従来法による原料および添加剤を含んでよい。
【0059】
更なる添加剤、例えば補助剤または顔料等を用いることもできる。さらに、必要に応じて、更なる他の添加剤、例えばグリップ助剤、染料、艶消剤、紫外線安定剤、光安定剤、親水化剤、疎水化剤および/またはフリーフロー助剤等を用いることができる。
【0060】
ポリウレタンウレア溶液は、タンパク質を更に含有することができる。好ましくは、これらは、細胞外基質のタンパク質であってよい。
【0061】
ポリウレタンウレア溶液の被覆物は、種々の方法により細胞培養担体に塗布することができる。適当な被覆技術は、例えばスキージ塗布法、印刷法、転写被覆法、噴霧法、スピンコート法または浸漬法である。
【0062】
多くの種類の基材、例えばガラス、シリコンウェハー、金属、セラミックおよびプラスチック等を被覆することができる。好ましくは、ガラス、シリコンウェハー、プラスチックまたは金属製の細胞培養担体を被覆する。金属としては、例えば医療用のステンレス鋼またはニッケル−チタン合金が挙げられる。細胞培養担体を構成することができる多くのポリマー材料が考慮され、その例は、ポリアミド、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエーテル、ポリエステル、ポリ酢酸ビニル、天然ゴムおよび合成ゴム、スチレンおよび不飽和化合物(例えばエチレン、ブチレンおよびイソプレン)のブロックコポリマー、ポリエチレン、またはポリエチレンとポリプロピレンとのコポリマー、シリコーン、ポリ塩化ビニル(PVC)およびポリウレタンである。細胞培養担体への本発明によるポリウレタンのより良好な接着のために、上記被覆材料の塗布前の基材として、他の更なる適当な被覆物を塗布することができる。特に好ましくは、細胞培養担体を製造するためのガラスまたはシリコンウェハーを被覆することである。
【0063】
本発明による方法により製造された、特に間充織幹細胞を培養するための細胞培養担体の優位性は、以下に記載の実施例により示される。
【実施例】
【0064】
実施例および比較例に記載の樹脂のNCO含有量は、DIN EN ISO 11909に規定の滴定により決定した。
【0065】
固形分は、DIN EN ISO 3251に規定の通り決定した。ポリウレタン分散体の1gの量を、赤外線乾燥機により115℃(15〜20分)にて一定重量に乾燥させた。
【0066】
特記のない限り、%により記載の量は、平均重量%とし、得られた水性分散体に関する。
【0067】
粘度測定は、Firma Anton Paar GmbH、Ostfildern、ドイツからのPhysics MCR 51 Rheometerを用いて行った。
【0068】
用いる物質および略称:
〔Desmophen C2200〕
Bayer MaterialScience AG、レーバークーゼン、独国
ポリカーボネートポリオール、OH価56mgKOH/g、数平均分子量2000g/モル
【0069】
〔PolyTHF 2000〕
Bayer MaterialScience AG、ルートヴィヒスハーフェン、独国
ポリテトラメチレングリコールポリオール、OH価56mgKOH/g、数平均分子量2000g/モル
【0070】
〔細胞株C3H10T0.5〕
American Type Culture Collection (ATTC)(マナッサス、バージニア州、米国、ATCC Number CCL−226)から得られた間充織細胞株(マウス種)、クローン8
【0071】
〔細胞株C2C12〕
American Type Culture Collection (ATTC)(マナッサス、バージニア州、米国、ATCC Number CCL−226)から得られた多能性細胞株(マウス種)
【0072】
〔ウシ胎仔血清(FBS)〕
Biochrom AG、ベルリン、独国
【0073】
〔骨形態形成タンパク質2(BMP−2)〕
これは、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株(Dibotermin alfa)中で製造されたヒト組み換え骨形態形成タンパク質−2(rhBMP−2)である。
【0074】
〔IST+〕
BD Biosciences、ハイデルブルグ、独国
組成:
インスリン 6.25μg/ml
トランスフェリン 6.25 μg/ml
亜セレン酸 6.25 ng/ml
ウシ血清アルブミン 1.25 mg/ml
リノール酸 5.35 μg/ml
【0075】
〔イーグル基礎培地(BME)(1×)〕
Gibco/Invitrogen、カールスルーエ、独国、目録番号41010
L−グルタミンを含まないアール塩を含有する液体
【0076】
〔ダルベッコ変法イーグル培地(D−MEM)(1×)、液体(高グルコース)〕
Gibco/Invitrogen、カールスルーエ、独国、目録番号31966
製品関連仕様:
グルコース: 高グルコース含有量(4500mg/L)
グルタミン: GlutaMAX(商標)−I
HEPES緩衝液: HEPESなし
ナトリウムピルビン酸塩添加物: ナトリウムピルビン酸塩110mg/L
【0077】
〔ダルベッコ変法イーグル培地(D−MEM)(1×)、液体(低グルコース)〕
Gibco/Invitrogen、カールスルーエ、独国、目録番号21885
製品関連仕様:
グルコース: 高グルコース含有量(1000mg/L)
グルタミン: GlutaMAX(商標)−I
HEPES緩衝液: HEPESなし
ナトリウムピルビン酸塩添加物: ナトリウムピルビン酸塩110mg/L
【0078】
〔Glutamax(商標) 200mM〕
Invitrogen、カールスルーエ、独国、目録番号35050038
2mM最終濃度を得るためにイーグル基礎媒体へ添加
【0079】
〔リン酸緩衝生理食塩水(PBS)〕
Biochrom AG、ベルリン、独国
【0080】
〔Alamar Blue〕
Gibco/Invitrogen、カールスルーエ、独国
【0081】
更なる成分は、DMEM(上記の2種類の培地へ適用)であり、BMEは、Invitrogenにて見られず、製造者仕様ではない。
【0082】
Techno Plastic Products(TPP)(トラサジンゲン、スイス)からの組織培養ポリスチレン(TPS)からできたマイクロタイタープレートを用いた。
【0083】
実施例1:
110℃にて、500gのDesmophen C 2200、104.6gのイソホロンジイソシアネートおよび126.6gのトルエンを、2.5%の一定NCO含有量まで反応させた。該混合物を冷却し、500gのトルエンおよび377.8gのイソプロパノールで希釈した。室温にて、308.4gの1−メトキシ−2−プロパノール中に溶解した34.7gの4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタンの溶液を添加した。分子量の構成が完了し、および所望の粘度範囲に達した後、該混合物を、残存イソシアネート含有量をイソプロパノールまたは1−メトキシ−2−プロパノールでブロックするために終夜室温にて放置した。これにより、22℃にて21200mPasの粘度を有する1952gのトルエン/イソプロパノール/1−メトキシ−2−プロパノール中で33.4%濃度ポリウレタンウレア溶液が製造された。
【0084】
実施例2:
110℃にて、300gのDesmophen C 2200、11.2gの1,2−ドデカンジオール(90%純度)、104.6gのイソホロンジイソシアネートおよび80.0gのトルエンを、4.5%の一定NCO含有量まで反応させた。該混合物を冷却し、350.0gのトルエンおよび350.0gのイソプロパノールで希釈した。室温にて、353.9gの1−メトキシ−2−プロパノール中に溶解させた52.5gの4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタンの溶液を添加した。分子量の構成が完了し、および所望の粘度範囲に達した後、該混合物を、残存イソシアネート含有量をイソプロパノールまたは1−メトキシ−2−プロパノールでブロックするために終夜室温にて放置した。これにより、22℃にて25000mPasの粘度を有する1602gのトルエン/イソプロパノール/1−メトキシ−2−プロパノール中での35.8%濃度ポリウレタンウレア溶液が製造された。
【0085】
実施例3:
110℃にて、400gのDesmophen C 2200、104.6gのイソホロンジイソシアネートおよび126.6gのトルエンを、3.6%の一定NCO含有量まで反応させた。該混合物を冷却し、422.4gのトルエンおよび377.8gのイソプロパノールで希釈した。室温にて、357.7gの1−メトキシ−2−プロパノール中に溶解させた22.9gの1,3−ジアミノ−2−プロパノールの溶液を添加した。分子量の構成が完了し、および所望の粘度範囲に達した後、該混合物を、残存イソシアネート含有量をイソプロパノールまたは1−メトキシ−2−プロパノールでブロックするために終夜室温にて放置した。これにより、22℃にて37000mPasの粘度を有する1812gのトルエン/イソプロパノール/1−メトキシ−2−プロパノール中での30.5%濃度ポリウレタンウレア溶液が製造された。
【0086】
実施例4:
110℃にて、320gのDesmophen C 2200、104.6gのイソホロンジイソシアネートおよび126.6gのトルエンを、4.7%の一定NCO含有量まで反応させた。該混合物を冷却し、360gのトルエンおよび377.8gのイソプロパノールで希釈した。室温にて、369.6gの1−メトキシ−2−プロパノール中に溶解させた26.4gの1,3−ジアミノ−2−プロパノールの溶液を添加した。分子量の構成が完了し、および所望の粘度範囲に達した後、該混合物を、残存イソシアネート含有量をイソプロパノールまたは1−メトキシ−2−プロパノールでブロックするために4時間更に撹拌した。これにより、22℃にて41000mPasの粘度を有する1685gのトルエン/イソプロパノール/1−メトキシ−2−プロパノール中での27.2%濃度ポリウレタンウレア溶液が製造された。
【0087】
実施例5(比較):
110℃にて、400gのPolyTHF 2000、104.6gのイソホロンジイソシアネートおよび126.6gのトルエンを、3.6%の一定NCO含有量まで反応させた。該混合物を冷却し、422.4gのトルエンおよび377.8gのイソプロパノールで希釈した。室温にて、327.5gの1−メトキシ−2−プロパノール中に溶解させた48.4gの4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタンの溶液を添加した。分子量の構成が完了し、および所望の粘度範囲に達した後、該混合物を、残存イソシアネート含有量をイソプロパノールまたは1−メトキシ−2−プロパノールでブロックするために終夜放置した。これにより、22℃にて27800mPasの粘度を有する1807gのトルエン/イソプロパノール/1−メトキシ−2−プロパノール中での30.9%濃度ポリウレタンウレア溶液が製造された。
【0088】
実施例6a−e:
ポリウレタン溶液で被覆することによる細胞培養担体の製造
被覆物を、スピンコーターを用いて25×25mmサイズのガラス製顕微鏡スライド上に作製した。このために顕微鏡用スライドをスピンコーターの試料ディスク上へクランプし、約0.5〜1mLの有機5%濃度ポリウレタン溶液で均質に被覆した。全ての有機ポリウレタン溶液を、65重量%トルエンおよび35重量%イソプロパノール(2:1)の溶媒混合物で5重量%のポリマー含有量にまで希釈した。試料ディスクを、1分当たり3000回転にて120秒間回転させることにより、2時間60にて乾燥させた均質の被覆物を得た。得られたポリウレタン被覆物を、細胞培養実験に用いるために室温にて50kGyの線量にてガンマ線消毒した。
【0089】
【表1】

【0090】
実施例7:
固有PU表面上に成長した細胞の調査
a)多能性細胞株C2C12の細胞培養のための一般手順
多能性細胞C2C12マウス細胞を、10%ウシ胎仔血清(FBS)を含有するDMEM(ダルベッコ変法イーグル培地)において2〜3日間37℃にて5%二酸化炭素を含有する湿った雰囲気中で培養した。細胞を、約85%カバーで継代培養し、PBSで2回フラッシュし、次いで培養表面から細胞を分離するために5分間トリプシン−EDTAで処理した。次いで、該細胞を、DMEM中に取り込み、遠心分離し、700細胞/cmの細胞密度にてカバーした。
【0091】
増殖の調査のために、細胞を同じく、約700細胞/mLの密度にて実施例6a〜eの固有ポリウレタン基材上に培養した。対照のために、ポリスチレン(組織培養ポリスチレン、(TCP))およびガラスを、同じ細胞密度にて定着させた。37℃にて5%二酸化炭素を含有する湿った雰囲気中で24時間後、ミトコンドリア吸収作用を、製造業者の手順に従ってAlamar Blueにより決定した(該方法のために、J. Immunol. Methods 1997年、204、205を参照)。このために、規定の時点にて、15%Alamar Blueを、細胞培養に添加し、該培養は、4時間37℃にて培養した。細胞培養培地をピペットで取り、薄めずに光学密度を570および630nmの波長にて計測した(Tecan Genios Miroplate Reader)。細胞呼吸によるAlamar Blueの反応を示すために、代謝Alamar Blueおよび未使用Alamar Blueの吸収比を形成した。計測工学密度は、相対単位として評価した。
【0092】
新しい細胞培養培地を、更なる調査のために細胞培養に添加した。細胞濃度の調査を、上記の方法により、それぞれの更なる日数、繰り返した。
【0093】
b)間充織細胞株C3H10T0.5の間充織細胞株の細胞培養のための一般手順
間充織マウスC3H10T0.5幹細胞を、Glutamaxおよびイーグル塩を含有し、10%ウシ胎仔血清(FBS)で強化されたイーグル基礎培地中で培養した。細胞を、5%二酸化炭素の添加により湿気雰囲気中で保持した。細胞を、約70%カバーで継代培養し、多能性C2C12細胞について実施例7aに記載の通り、2×10細胞/cmの濃度にてカバーした。低い被覆密度を、接触阻止および細胞変異体の選択を防止するために選択した。
【0094】
増殖の調査のために、実施例6a〜eの固有ポリウレタン基材を、約700細胞/cmの密度にて細胞により定着させた。対照のために、ポリスチレン(組織培養ポリスチレン、(TCP))およびガラスを、同じ細胞密度にて定着させた。37℃にて24時間後、ミトコンドリア吸収を、製造業者の手順に従って実施例7aに記載の通りAlamar Blueにより決定した。
【0095】
c)C2C12での結果
【0096】
【表2】

【0097】
実施例6a、6bおよび6cの本発明による被覆物は、先行する従来法による組織培養ポリスチレン上の成長に相当する成長を可能とする。これに対し、実施例6eの比較被覆物は、細胞株の成長を可能とせず、従って、培養担体として使用することができない。
【0098】
【表3】

【0099】
実施例6a、6bおよび6cの被覆物は、先行する従来法による組織培養ポリスチレン上での成長に相当する成長を可能とする。これに対し、実施例6eにおける比較被覆物は、細胞株の成長を可能とせず、従って、培養担体として使用することができない。
【0100】
更なる実験系列では、6d被覆物上でのC3H10T0.5細胞の成長は、組織培養ポリスチレン上での細胞成長に相当する。
【0101】
【表4】

【0102】
実施例6dの本発明による被覆物は、先行する従来法による組織培養ポリスチレン上での成長に相当する成長を可能とする。
【0103】
表3および4の成長実験は、異なった日数について行った。これらの実験のそれぞれは、初期標準、ここでは組織培養ポリスチレン(TCP)を要する。異なった実験間での成長曲線の絶対値は、互いに直接比較することができない。しかしながら、両方の実験の初期標準への関係は、成長が実施例6a、6bおよび6cの被覆物上および実施例6dの被覆物上のいずれでも標準TCPに相当する結果を与えることを完全に明らかとする。
【0104】
実施例8:
分化を伴わないC3H10T0.5細胞株の細胞成長
a)一般手順:
間充織マウスC3H10T0.5マウス幹細胞を、Glutamaxおよびイーグル塩を含有し、10%ウシ胎仔血清(FBS)で強化されたイーグル基礎培地中で培養した。細胞を、5%二酸化炭素の添加により湿気雰囲気中で保持した。細胞を、約70%カバーで継代培養し、2×10細胞/cmの濃度にてカバーした。これらの低い被覆密度は、接触阻止および細胞変異体の選択を防止するために選択した。
【0105】
造骨分化を抑制するためのポリウレタン被覆物の能力を調査するために、細胞を、BMP−2(骨形成タンパク質)の存在下で培養した。条件は、実施例7bに記載の条件と同じであるが、但し、BMP−2を、細胞培養培地に更に添加する。さらに、鉱化の促進のために、200μMアスコルビン酸および10mMグリセロールリン酸塩を更に添加した。BMP−2は、造骨分化を誘導するための既知の剤である。このために、C3H10T0.5間充織幹細胞を、完全培地において1.25×10細胞/cmの濃度にて、500ng/mLのBMP−2の実施例6dの固有ポリウレタン被覆物上へ添加してカバーした。対照として、同じ細胞培養を、理想的な実験条件下でTCPおよびガラス上で行った。骨芽細胞を形成するために幹細胞の分化の間、酵素アルカリ性白血球ホスファターゼの含有量を、分化の程度の指標として用いた。ALPを決定するために、細胞を培養から取り出し、PBSで洗浄し、Triton X−100の1体積%の添加で凍結することにより溶解させた。
【0106】
アルカリ性白血球ホスファターゼを決定するための試薬を、5mLの16mMp−ニトロフェノールホスフェートおよび20μLの1M水性MgCl溶液を、5mLナトリウムホウ酸塩−ナトリウム水酸化物緩衝液へ9.8のpHで添加することにより製造した。
【0107】
37℃にて、50μLの細胞溶解物を、200μLの上記組成物の試薬により培養し、次いで色形成反応を、410nmにて連続的に行った。ALPの活性は、単位タンパク質のmmol/分/mgでの特定のALP活性を得るためにALPPierceからのBCAアッセイにより全タンパク質含有量へ標準化した。対照のために、区別化されていない細胞を、記載の1.25×10細胞/cmの密度にてALP活性について調査した。
【0108】
b)結果
【0109】
【表5】

【0110】
アルカリ性白血球ホスファターゼの活性は、実施例6dのポリウレタンフィルム上での細胞培養後に組織培養ポリスチレン上またはガラス上での培養後の活性より顕著に低い。体外培養において、ポリウレタンフィルム上では、細胞の早期分化があまり起こらず、これは、組織培養ポリスチレンのような先行する従来法による材料またはガラスと比べて、有利である。
【0111】
【表6】

【0112】
ALPの活性は、実施例6dのポリウレタンフィルム上での細胞培養後に組織培養ポリスチレン上またはガラス上での培養後の活性より顕著に低い。誘発剤BMP−2を添加することにより、間充織細胞培養の分化は、先行する従来法による細胞培養担体ポリスチレンまたはガラス上で顕著に増加する(相当する値について表5および6を参照)。本発明によるポリウレタンフィルム上では、体外培養中に、誘発剤の存在にも拘わらず、細胞の早期分化の増加は起こらない。
【0113】
実施例9:
実施例6dの固有PU被覆物について分化を伴わないヒト間充織幹細胞の細胞成長
a)ヒト幹細胞の一般手順:
ヒト間充織幹細胞を、Oswald等、Stem Cells、2004年、第22巻、第377〜384頁の手順に従って健康なドナーの骨髄から単離した。細胞は、腸骨稜から穿刺によりドナーから取り出した。穿刺細胞混合物から、単核細胞を、密度勾配遠心分離法により赤血球を除去することにより単離した。単核細胞は、間充織幹細胞が基材へ接着するように細胞培養瓶中に設置する。細胞培養は、1g/Lのグルコースおよび10体積%のウシ胎仔血清の含有量でのDMEMから構成される。細胞は、37℃にて5%の二酸化炭素の含有量を有する水蒸気により飽和した雰囲気中で培養した。培養時間は、ドナーに依存するが、前述の場合には2週間であった。
【0114】
残存赤血球は、72時間後洗浄した。残りの間充織幹細胞は、細胞培養中に増殖する。収穫後、細胞は、表現型的に特性化され、分化挙動を決定する。
【0115】
細胞を、約80%の被覆度にて最大5代継代について継代培養した。得られた細胞により、実施例6dのポリウレタン被覆物上を1×10細胞/cmの細胞密度にてカバーした。対照のために、同じ細胞培養により、TCP上およびガラス上でカバーした。
【0116】
ヒト間充織幹細胞を実施例7aの通り培養した。
【0117】
造骨分化を、DMEMにおいて、実施例6dのポリウレタンフィルム上への種まきによる10体積%FBSおよびヒト組み換え型BMP−2(200ng/mL)の添加により、200μMアスコルビン酸および10mMグリセロールホスフェートの更なる添加により調査した。該方法は、ヒト間充織幹細胞の場合に、細胞培養を、ウシ胎仔血清を添加することなく第4日に更に行うことを除いて、実施例8の方法と同じである。対照として、細胞を、TCPおよびガラス上へ蒔いた。4日に、培地を、ITS+(インスリン6.25mg/mL、トランスフェリン6.25mg/mL、亜セレン酸6.25μg/mL、ウシ血清アルブミン0.125g/mLおよびリノール酸5.35mg/mLの添加培地)を含有するDMEMに変更し、これに新しいBMP−2を添加した。造骨分化を上昇させるためのアルカリ性白血球ホスファターゼの活性を、実施例8の手順に従って決定した。
【0118】
さらに、細胞の分化のための第2指標として、細胞の最大鉱化を、J.Jadlowiec等、J.Biol.Chem.、2004年、第279巻、第53323〜53330頁におけるような、Alizarin Sで染色することにより決定した。この目的のために、細胞を、特定の時点で取り出し、0.5mLPBSで洗浄し、−20℃にて1時間0.5mLのエタノール(水中に70重量%)で固定した。次いで、該細胞は、0.5mLの2回蒸留水で洗浄し、アンモニアで4.2のpHに調節した0.5mLの40nMアリザリン水溶液で染色した。過剰のアリザリンを、水で洗浄することにより除去した。形成された骨芽細胞の混合物中に結合した染料を、2時間、室温で300μLの10重量%濃度塩化ヘキサデシルピリジニウム水溶液中で株化細胞を培養することにより溶解し、この溶液の光学密度を570nmにて決定した。
【0119】
b)ヒト間充織幹細胞のための結果
【0120】
【表7】

【0121】
アルカリ性白血球ホスファターゼの活性は、実施例6dのポリウレタンフィルム上での細胞培養後に組織培養ポリスチレン上またはガラス上での同一の細胞の培養後の活性より顕著に低い。体外培養の場合には、細胞の早期分化はポリウレタンフィルム上であまり起こらず、これは、組織培養ポリスチレンまたはガラスのような先行する従来法による材料と比べて、有利である。
【0122】
【表8】

【0123】
BMP−2を誘発剤として添加する場合、従来法による細胞培養担体ポリスチレンおよびガラスでは、幹細胞の著しい早期の造骨分化が観察される。これに対し、本発明によるポリウレタンフィルムは、望ましくない早期分化は極めて軽微にのみ示す。アルカリ性ホスファターゼの活性の絶対値は、BMP−2の添加を伴わないアルカリ性ホスファターゼの活性の絶対値より大きくない(表7参照)。
【0124】
【表9】

【0125】
アリザリンによる染色は、アルカリ性白血球ホスファターゼの活性の検出と同様に、細胞培養培地としての本発明によるポリウレタンフィルムが、誘発剤BMP−2の存在下で、ヒト間充織幹細胞の早期の望ましくない分化を、従来法による細胞培養担体ポリスチレンおよびガラスより実質的に自然に引き起こさないことを示す。
【0126】
本発明による細胞培養担体上で増殖された幹細胞は、担体から取り出された後、必要な分化能をなお示し、例えば再生医療について対応して用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被覆細胞培養担体の製造方法であって、ポリウレタンウレア含有溶液を、細胞担体に塗布し、および乾燥させ、該ポリウレタンウレアを、少なくとも1つのポリカーボネートポリオール成分、少なくとも1つのポリイソシアネート成分および少なくとも1つのジアミン成分を反応させることにより製造することを特徴とする、方法。
【請求項2】
ジアミン成分は、少なくとも1つのヒドロキシル基を有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ポリカーボネートポリオール成分は、1.7〜2.3、好ましくは1.8〜2.2、特に好ましくは1.9〜2.1の数平均ヒドロキシル官能価を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ポリカーボネートポリオール成分は、400〜6000g/モル、好ましくは500〜5000g/モル、特に600〜3000g/モルの数平均分子量を有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
ポリウレタンウレアは、1000〜200000g/モル、好ましくは5000〜100000g/モルの数平均分子量を有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
ポリウレタンウレアの製造において、ポリオール成分を、更に共反応させることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
ポリカーボネート成分の1モルを基準として0.05〜2.0モル、好ましくは0.05〜1.5モル、特に好ましくは0.1〜1.0モルのポリオール成分を反応させることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ポリオール成分は、62〜500g/モル、好ましくは62〜400g/モル、特に好ましくは62〜200g/モルの数平均分子量を有することを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
ポリウレタンウレア成分の製造において、ポリカーボネート成分の1モルを基準として0.1〜3.0モル、好ましくは0.2〜2.8モル、特に好ましくは0.3〜2.5モルのジアミン成分を反応させることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
ポリウレタンウレア成分の製造において、ポリカーボネート成分の1モルを基準として1.0〜5.0モル、好ましくは1.0〜4.5モル、特に好ましくは1.0〜4.0モルのポリイソシアネート成分を反応させることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
溶液は、タンパク質、とりわけ細胞外基質のタンパク質を更に含有することを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の方法により得られる被覆細胞培養担体。
【請求項13】
幹細胞の体外培養のための、とりわけ間充織幹細胞を培養するための、請求項12に記載の細胞培養担体の使用。

【公表番号】特表2012−527868(P2012−527868A)
【公表日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−512234(P2012−512234)
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【国際出願番号】PCT/EP2010/003022
【国際公開番号】WO2010/136136
【国際公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(504037346)バイエル・マテリアルサイエンス・アクチェンゲゼルシャフト (728)
【氏名又は名称原語表記】Bayer MaterialScience AG
【Fターム(参考)】