被覆電線の皮剥き方法
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、絶縁被覆電線の皮剥き方法に関し、特に自動車等の点火ケーブルに使用される巻線式ハイテンションケーブル(以下、H/Tケーブルと言う。)に好適な皮剥き方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来から例えば被覆電線の被覆層端部の皮剥きに関しては、種々なものが知られている。第1の従来例として、特開平4−200215号公報に開示されているような方法が知られている。即ち、図9(a)に示すようにH/Tケーブル1の被覆層2の先端から所望の皮剥き長さLと余裕長さlを加えた位置に上下一組の切込み刃51により被覆層2に直交する切込みが入れられる。その後、切込み刃51が切込み状態のままケーブル1の先端部へ向けて被覆層の皮剥き部分2aを引き抜くように移動する。その結果、被覆層の皮剥き部分2aが巻線導体3から引き抜かれ、所望の長さの巻線導体3が露出する。この被覆層の皮剥き部分2aが巻線導体3から完全に抜け切る直前、または図9(b)に示すように巻線のほつれ3aから完全に抜け切る直前に切込み刃51の移動を停止させる。そして、上下一組の切断刃52によって所望の皮剥き長さLを残して巻線導体3が切断されるものである。
【0003】第2の従来例として、特開平4−183211号公報に開示されているような方法が知られている。即ち、図10に示すようにH/Tケーブル1が被覆層2の皮剥き工程に入る前の段階で叩き装置61にかけられる。この叩き装置61のフレーム62前面にケーブル1の皮剥き部分2aが挿入される。この挿入エリア前面に揺動式の固定クランプ63が設けられており、ケーブル1は固定クランプ63に挟持される。また、前記挿入エリア内にはシリンダ65により昇降可能な押圧子64が設けられている。被覆層の皮剥き部分2aは押圧子64の昇降運動によって受圧部66と押圧子64の間で屈曲されながら叩かれる。この叩き操作によって巻線導体3と皮剥き部分2a内径部との密着力が低下されほぐされる。これにより、次工程でのケーブル1の皮剥き工程では密着力が緩和された皮剥き部分2aは巻線のほつれ等を発生させることなく容易に引き抜かれるものである。
【0004】なお、H/Tケーブル1の構成は、図8(b)に示すように電気を通すための巻線導体3と絶縁体である被覆層2から成っている。上記巻線導体3は一般の被覆電線では細い銅線を撚り合わせた撚線であることが多いが、巻線式H/Tケーブル1の巻線導体3では、図8(a)に示すように中心にアラミド繊維等の補強心4と、その外周を被覆してなるフエライト粉を混漬せしめたシリコンゴム層から成るコア5と、該コア5の長手方向に沿って螺旋状に巻装されたステンレス線等の金属線から成る抵抗線6とから成っている。また、被覆層2は、EPゴム等から成る絶縁体7と、該絶縁体7の外周に形成されたガラス繊維等から成る編組8と、該編組8層の外周を被覆するシリコンゴム等から成るシース9とから構成されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】上記第1の従来例では、巻線導体3と被覆層2の間の密着力が強い巻線式H/Tケーブル1であるため、図8(c)に示すようなコア切れ5aが発生するという問題があった。さらに、図8R>8(b)に示すように巻線導体3の先が皮剥き時に引張り出されて巻線のほつれ3aが発生するという問題があった。また、一般の被覆電線であっても導体である撚線の一部の細線が切れて引張られることによりほつれが発生するという問題がある。また、第2の従来例では、編組8が健在のまま被覆層先端部2aを叩くことにより巻線導体3と被覆層2間の密着力がほぐされるため、十分な効果を発揮させるためには数多く叩く必要がある。よって、ほぐしに時間がかかり生産性が低下するという問題があった。
【0006】本発明の目的は、上記問題点にかんがみてなされたものであり、電線導体部と被覆層の密着力を弱め、且つコア切れや導体部のほつれが発生しない被覆電線の皮剥き方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明の上記目的は、対向した切込み刃により被覆電線の長手方向に直交する切込みが入れられ、前記切込み刃と前記被覆電線を相対移動させて所望長さの電線導体部を被覆していた被覆層が引き抜かれてから、皮剥きされた電線導体部の前端部分が切断される被覆電線の皮剥き方法において、前記被覆電線の長手方向に沿って対向した切込み刃が複数組設けられることにより前記切込みが皮剥きされる被覆層の中間部分の複数箇所に形成されると共に、皮剥き部分が引き抜かれて所望長さの前記電線導体部が露出された後、前記切込み刃がさらに深く切込まれることにより前記電線導体部の前端部分が切断されることを特徴とする被覆電線の皮剥き方法により達成することができる。また上記目的は、前記複数組の切込み刃が被覆電線の長手方向に沿って対向した一組の縦割り刃を備えていることにより達成される。
【0008】
【作 用】本発明に係わる被覆電線の皮剥き方法においては、被覆電線の長手方向に沿って対向した切込み刃が複数組設けられることにより被覆層端から所望長さ皮剥きされる被覆層上の中間部分の複数箇所に対向した切込みが形成される。そして、切込み刃と被覆電線を相対移動させて所望長さの電線導体部が露出されてから、さらに切込み刃が深く切込まれることにより電線導体部の前端部分が最端部の切込み刃で切断される。よって、被覆層の皮剥きに伴う電線導体部のほつれ等は発生しない。また、皮剥きされる被覆層は複数組の切込み刃によって対向した切込みが複数箇所に形成されるため、皮剥き時の引き抜き力が分散される。そのため、電線導体部と被覆層間の密着力が緩和され、コア切れ、導体切れ、導体部のほつれ等が発生することなく皮剥きが行われる。
【0009】更に、上記複数組の切込み刃に一組の縦割り刃が被覆電線の長手方向に沿って備えられることにより、皮剥きされる被覆層上に切込み刃による電線長手方向に直交する切込みが形成されるとともに、電線長手方向にも対向した切込みが形成される。このため、電線導体部と被覆層間の密着力が緩和される上での皮剥きされる被覆層の動き自由度が増え、皮剥きされる被覆層の引き抜き抵抗がさらに低下する。よって、被覆電線のコア切れ、導体切れ、導体部のほつれ等が完全に防止される。
【0010】
【実施例】本発明の被覆電線の皮剥き方法における第1実施例を図1乃至図4を参照して説明する。図1は本発明の第1実施例を示す皮剥き刃の斜視図、図2は切込み工程を示す作用説明図、図3は引き抜き工程を示す作用説明図、図4は一組の縦割り刃に対して切込み刃が複数組ない場合を示した作用説明図である。なお、対象となる被覆電線としては巻線式H/Tケーブルの構成については、従来例の説明で詳述したので説明は省略する。
【0011】図1に示すよう巻線式H/Tケーブル1の長手方向に対して直交する二叉状の切込み刃12,13と、長手方向に対して平行な縦割り刃14が一体的に構成された皮剥き刃10が、巻線式H/Tケーブル1を中心にして上下対向した位置に一対配置されている。なお、切込み刃12,13の二叉角θは図8(a)に示した編組8をまんべんなく切るために90°に設定されており、刃物角αは切れ味を良くするため強度的な許容範囲内で小さい方が望ましい。また、縦割り刃14の刃物角βは、単に被覆層の皮剥き部分2aの長手方向に切込みを入れるだけでなく、上下から押圧力をかけた方が巻線導体3と被覆層2の密着力をほぐす作用があるので、編組8が切れる程度の適宜な角度が望ましい。
【0012】次に、皮剥き刃10を用いた皮剥き方法の手順を図2及び図3に基づいて説明する。先ず、図2(a)に示すように上下に対向した電線押さえ部材11間に水平に挟持されたケーブル1の端面から皮剥き長さLと余裕長さlの合計長さ(L+l)の位置に上下から1組の切込み刃12が当接するように皮剥き刃10が位置決めされる。なお、切込み刃12を固定しておき、ケーブル1の適宜位置が電線押さえ部材11によって挟持されることも可能である。
【0013】次に、図2(b)に示すようにケーブル1の被覆層の皮剥き部分2aが皮剥き刃10により上下から挟圧される。これにより、被覆層の皮剥き部分2aには切込み刃12,13によりケーブル1の長手方向に直交する切込みが2ヶ所形成されると共に、縦割り刃14によって長手方向に沿った切込みが上下2ヶ所形成される。
【0014】次に、図3(a)に示すように皮剥き刃10がケーブル1の端面方向に皮剥き長さLだけ移動された後、図3(b)に示すように皮剥き刃10がさらに深く切込まれると、切込み刃12により巻線導体3は皮剥き長さLを残してカットされる。なお、図3(a)に示した皮剥き刃10の移動に際しては、既に被覆層の皮剥き部分2aが切込み刃12,13と縦割刃14により切込まれているため、被覆層の皮剥き部分2aと巻線導体3の間の引き抜き時の動き自由度が増大している。即ち、被覆層の皮剥き部分2aと巻線導体3の密着力が緩和されることにより被覆電線のコア切れ、導体切れ、導体部のほつれ等が防止され、ケーブル1の皮剥きした巻線導体3の信頼性を高めることができる。
【0015】また、図3(b)に示した巻線導体3の先端部分は、皮剥き刃10で上下から挟持された被覆層の皮剥き部分2a内に余裕長さl分だけ残した状態で切込み刃12によってカットされる。そのため、巻線のほつれ3aの発生が完全に防止される。
【0016】仮に、図4(a)に示すように皮剥き刃10に1組の切込み刃12しかないと、被覆層の皮剥き部分2aに上下から切込みを入れようとする時、図4(b)に示すように皮剥き部分2aの先端部分が横方向に逃げるという問題が生ずる。そのため、切込み刃の組数は最低2組は必要である。
【0017】次に、本発明の被覆電線の皮剥き方法における第2実施例を図5乃至図7を参照して説明する。図5R>5は本発明の第2実施例を示す皮剥き刃の斜視図、図6は切込み工程を示す作用説明図、図7は引き抜き工程を示す作用説明図である。
【0018】図5に示すように電線押さえ部材11に挟持されたケーブル1の端面から皮剥き長さLと余裕長さlの合計長さ(L+l)が皮剥き開始位置になる。被覆層の皮剥きは、上下から接近及び離反可能な1組の切込み刃21と、更にケーブル1の端面に向って前記切込み刃21と一体的に作動する複数組の切込み刃群22から構成される皮剥き刃20により行われる。この複数組の切込み刃群22は比較的小さい間隔、例えばケーブル1外径の1〜3倍程度のピッチで設けられている。即ち、皮剥き刃20は切込み刃21と切込み刃群22で合計5組の切込み刃が設けられていることになる。
【0019】前記皮剥き刃20の二叉角θは、ケーブル1内の編組8をまんべんなく切るために第1実施例の切込み刃と同様に90°であることが望ましい。また刃物角γは、単にケーブル1の被覆層の皮剥き部分2aに長手方向に直交する切込みを入れるだけでなく、上下方向から押圧力をかけて被覆層2と巻線導体3の密着力がほぐされるように、編組8が切れる程度の刃先角度が望ましい。
【0020】次に、皮剥き刃20を用いた皮剥き方法の手順を図6及び図7に基づいて説明する。先づ、図6(a)に示すようにケーブル1は先端から長さ(L+l)の位置に切込み刃21が位置するように電線押さえ部材11でクランプされる。その後、図6(b)に示すようにケーブル1の被覆層の皮剥き部分2aが皮剥き刃20により上下から挟圧される。これにより、皮剥き部分2aは切込み刃21及び切込み刃群22により輪切り状に切込まれる。
【0021】次に、図7(a)に示すように皮剥き刃20がケーブル1の端面方向に皮剥き長さLだけ移動した後、図7(b)に示すように皮剥き刃20がさらに深く切込まれる。これにより、切込み刃21により巻線導体3は皮剥き長さLを残してカットされる。
【0022】なお、図7(a)における皮剥き刃20の移動に際しては、既に皮剥き部分2aは細かいピッチで配置された切込み刃21及び切込み刃群22により細かく切込まれているため、細かく分断された皮剥き部分2aが個々の切込み刃21又は切込み刃群22によって移動される。このとき、被覆層の皮剥き部分2aと巻線導体3の間の密着力が細かく切込まれることにより緩和され、より小さな抵抗力で引き抜くことができる。よって、被覆電線のコア切れ、導体切れ、導体部のほつれ等が防止され、ケーブル1の皮剥きした巻線導体3の信頼性を高めることができる。
【0023】また、図7(b)に示した巻線導体3の先端部は、皮剥き刃20で上下から挟持された皮剥き部分2a内に余裕長さlだけ残した状態で切込み刃21によってカットされる。よって、巻線のほつれ3aの発生が完全に防止される。
【0024】なお、本発明は上述した実施例に限定されるものでなく、適宜な変更を行うことにより上記以外の態様でも実施可能なものである。例えば、本実施例では刃物角α,β,γは編組8が切れて、且つ上下の刃先から押圧力が加えられるように適宜な角度が望ましいとしたが、刃先の切れ味が良く、徐々に押圧力がかかるように一定の角度ではなく円弧状の刃面を有する皮剥き刃を使用しても差支えなく、皮剥き作業の能率が一層向上する。
【0025】
【発明の効果】以上説明したように、本発明の被覆電線の皮剥き方法によれば、被覆電線の長手方向に沿って対向した切込み刃が複数組設けられることにより切込みが皮剥きされる被覆層の中間部分の複数箇所に形成されると共に、皮剥き部分が引き抜かれて所望長さの電線導体部が露出された後、切込み刃がさらに深く切込まれることにより電線導体部の前端部分が切断される。これにより、被覆層の皮剥き部分の引き抜き時の動き自由度が増し、且つ被覆層の皮剥き部分と巻線導体の間の密着力が緩和されるので、切込み刃により切込む前に被覆電線を叩く工程が不要となり、また切込み刃により皮剥き部分が引き抜かれる時の被覆電線のコア切れ、導体切れ、導体部のほつれ等が防止される。更に、巻線導体の先端が被覆層の皮剥き部分から抜け切らないうちに切込み刃によりカットされるので、巻線導体のほつれが完全に防止される。また、前記被覆電線の皮剥き方法において、好ましくは複数組の切込み刃が被覆電線の長手方向に沿って対向した一組の縦割り刃を備えていることにより、皮剥きされる被覆層上に切込み刃による電線長手方向にも切込みが形成される。これにより、電線導体部と被覆層間の密着力が一層緩和されるので、被覆電線のコア切れ、導体切れ、導体部のほつれ等が確実に防止される。よって、皮剥きされた巻線導体部の信頼性が著しく向上し、且つ皮剥き工程の作業効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施例である被覆電線の皮剥き方法を示す斜視図である。
【図2】図1における切込み工程を示す作用説明図である。
【図3】図1における引き抜き工程を示す作用説明図である。
【図4】第1実施例における切込み刃の組数に関する説明図である。
【図5】本発明の第2実施例である被覆電線の皮剥き方法を示す斜視図である。
【図6】図5における切込み工程を示す作用説明図である。
【図7】図5における引き抜き工程を示す作用説明図である。
【図8】巻線式H/Tケーブルの電線構造と問題現象の説明図である。
【図9】従来の被覆電線の皮剥き方法を示す作用説明図である。
【図10】従来使用されている被覆電線の叩き装置の作用説明図である。
【符号の説明】
1 巻線式H/Tケーブル(被覆電線)
2 被覆層
2a 被覆層の皮剥き部分
3 巻線導体(電線導体部)
3a 巻線のほつれ
5 コア
5a コア切れ
6 抵抗線
7 絶縁体
8 編組
10,20 皮剥き刃
11 電線押さえ部材
12,13,21 切込み刃
14 縦割り刃
22 切込み刃群
L 皮剥き長さ
l 余裕長さ
α,β,γ 刃物角
θ 二叉角
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、絶縁被覆電線の皮剥き方法に関し、特に自動車等の点火ケーブルに使用される巻線式ハイテンションケーブル(以下、H/Tケーブルと言う。)に好適な皮剥き方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来から例えば被覆電線の被覆層端部の皮剥きに関しては、種々なものが知られている。第1の従来例として、特開平4−200215号公報に開示されているような方法が知られている。即ち、図9(a)に示すようにH/Tケーブル1の被覆層2の先端から所望の皮剥き長さLと余裕長さlを加えた位置に上下一組の切込み刃51により被覆層2に直交する切込みが入れられる。その後、切込み刃51が切込み状態のままケーブル1の先端部へ向けて被覆層の皮剥き部分2aを引き抜くように移動する。その結果、被覆層の皮剥き部分2aが巻線導体3から引き抜かれ、所望の長さの巻線導体3が露出する。この被覆層の皮剥き部分2aが巻線導体3から完全に抜け切る直前、または図9(b)に示すように巻線のほつれ3aから完全に抜け切る直前に切込み刃51の移動を停止させる。そして、上下一組の切断刃52によって所望の皮剥き長さLを残して巻線導体3が切断されるものである。
【0003】第2の従来例として、特開平4−183211号公報に開示されているような方法が知られている。即ち、図10に示すようにH/Tケーブル1が被覆層2の皮剥き工程に入る前の段階で叩き装置61にかけられる。この叩き装置61のフレーム62前面にケーブル1の皮剥き部分2aが挿入される。この挿入エリア前面に揺動式の固定クランプ63が設けられており、ケーブル1は固定クランプ63に挟持される。また、前記挿入エリア内にはシリンダ65により昇降可能な押圧子64が設けられている。被覆層の皮剥き部分2aは押圧子64の昇降運動によって受圧部66と押圧子64の間で屈曲されながら叩かれる。この叩き操作によって巻線導体3と皮剥き部分2a内径部との密着力が低下されほぐされる。これにより、次工程でのケーブル1の皮剥き工程では密着力が緩和された皮剥き部分2aは巻線のほつれ等を発生させることなく容易に引き抜かれるものである。
【0004】なお、H/Tケーブル1の構成は、図8(b)に示すように電気を通すための巻線導体3と絶縁体である被覆層2から成っている。上記巻線導体3は一般の被覆電線では細い銅線を撚り合わせた撚線であることが多いが、巻線式H/Tケーブル1の巻線導体3では、図8(a)に示すように中心にアラミド繊維等の補強心4と、その外周を被覆してなるフエライト粉を混漬せしめたシリコンゴム層から成るコア5と、該コア5の長手方向に沿って螺旋状に巻装されたステンレス線等の金属線から成る抵抗線6とから成っている。また、被覆層2は、EPゴム等から成る絶縁体7と、該絶縁体7の外周に形成されたガラス繊維等から成る編組8と、該編組8層の外周を被覆するシリコンゴム等から成るシース9とから構成されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】上記第1の従来例では、巻線導体3と被覆層2の間の密着力が強い巻線式H/Tケーブル1であるため、図8(c)に示すようなコア切れ5aが発生するという問題があった。さらに、図8R>8(b)に示すように巻線導体3の先が皮剥き時に引張り出されて巻線のほつれ3aが発生するという問題があった。また、一般の被覆電線であっても導体である撚線の一部の細線が切れて引張られることによりほつれが発生するという問題がある。また、第2の従来例では、編組8が健在のまま被覆層先端部2aを叩くことにより巻線導体3と被覆層2間の密着力がほぐされるため、十分な効果を発揮させるためには数多く叩く必要がある。よって、ほぐしに時間がかかり生産性が低下するという問題があった。
【0006】本発明の目的は、上記問題点にかんがみてなされたものであり、電線導体部と被覆層の密着力を弱め、且つコア切れや導体部のほつれが発生しない被覆電線の皮剥き方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明の上記目的は、対向した切込み刃により被覆電線の長手方向に直交する切込みが入れられ、前記切込み刃と前記被覆電線を相対移動させて所望長さの電線導体部を被覆していた被覆層が引き抜かれてから、皮剥きされた電線導体部の前端部分が切断される被覆電線の皮剥き方法において、前記被覆電線の長手方向に沿って対向した切込み刃が複数組設けられることにより前記切込みが皮剥きされる被覆層の中間部分の複数箇所に形成されると共に、皮剥き部分が引き抜かれて所望長さの前記電線導体部が露出された後、前記切込み刃がさらに深く切込まれることにより前記電線導体部の前端部分が切断されることを特徴とする被覆電線の皮剥き方法により達成することができる。また上記目的は、前記複数組の切込み刃が被覆電線の長手方向に沿って対向した一組の縦割り刃を備えていることにより達成される。
【0008】
【作 用】本発明に係わる被覆電線の皮剥き方法においては、被覆電線の長手方向に沿って対向した切込み刃が複数組設けられることにより被覆層端から所望長さ皮剥きされる被覆層上の中間部分の複数箇所に対向した切込みが形成される。そして、切込み刃と被覆電線を相対移動させて所望長さの電線導体部が露出されてから、さらに切込み刃が深く切込まれることにより電線導体部の前端部分が最端部の切込み刃で切断される。よって、被覆層の皮剥きに伴う電線導体部のほつれ等は発生しない。また、皮剥きされる被覆層は複数組の切込み刃によって対向した切込みが複数箇所に形成されるため、皮剥き時の引き抜き力が分散される。そのため、電線導体部と被覆層間の密着力が緩和され、コア切れ、導体切れ、導体部のほつれ等が発生することなく皮剥きが行われる。
【0009】更に、上記複数組の切込み刃に一組の縦割り刃が被覆電線の長手方向に沿って備えられることにより、皮剥きされる被覆層上に切込み刃による電線長手方向に直交する切込みが形成されるとともに、電線長手方向にも対向した切込みが形成される。このため、電線導体部と被覆層間の密着力が緩和される上での皮剥きされる被覆層の動き自由度が増え、皮剥きされる被覆層の引き抜き抵抗がさらに低下する。よって、被覆電線のコア切れ、導体切れ、導体部のほつれ等が完全に防止される。
【0010】
【実施例】本発明の被覆電線の皮剥き方法における第1実施例を図1乃至図4を参照して説明する。図1は本発明の第1実施例を示す皮剥き刃の斜視図、図2は切込み工程を示す作用説明図、図3は引き抜き工程を示す作用説明図、図4は一組の縦割り刃に対して切込み刃が複数組ない場合を示した作用説明図である。なお、対象となる被覆電線としては巻線式H/Tケーブルの構成については、従来例の説明で詳述したので説明は省略する。
【0011】図1に示すよう巻線式H/Tケーブル1の長手方向に対して直交する二叉状の切込み刃12,13と、長手方向に対して平行な縦割り刃14が一体的に構成された皮剥き刃10が、巻線式H/Tケーブル1を中心にして上下対向した位置に一対配置されている。なお、切込み刃12,13の二叉角θは図8(a)に示した編組8をまんべんなく切るために90°に設定されており、刃物角αは切れ味を良くするため強度的な許容範囲内で小さい方が望ましい。また、縦割り刃14の刃物角βは、単に被覆層の皮剥き部分2aの長手方向に切込みを入れるだけでなく、上下から押圧力をかけた方が巻線導体3と被覆層2の密着力をほぐす作用があるので、編組8が切れる程度の適宜な角度が望ましい。
【0012】次に、皮剥き刃10を用いた皮剥き方法の手順を図2及び図3に基づいて説明する。先ず、図2(a)に示すように上下に対向した電線押さえ部材11間に水平に挟持されたケーブル1の端面から皮剥き長さLと余裕長さlの合計長さ(L+l)の位置に上下から1組の切込み刃12が当接するように皮剥き刃10が位置決めされる。なお、切込み刃12を固定しておき、ケーブル1の適宜位置が電線押さえ部材11によって挟持されることも可能である。
【0013】次に、図2(b)に示すようにケーブル1の被覆層の皮剥き部分2aが皮剥き刃10により上下から挟圧される。これにより、被覆層の皮剥き部分2aには切込み刃12,13によりケーブル1の長手方向に直交する切込みが2ヶ所形成されると共に、縦割り刃14によって長手方向に沿った切込みが上下2ヶ所形成される。
【0014】次に、図3(a)に示すように皮剥き刃10がケーブル1の端面方向に皮剥き長さLだけ移動された後、図3(b)に示すように皮剥き刃10がさらに深く切込まれると、切込み刃12により巻線導体3は皮剥き長さLを残してカットされる。なお、図3(a)に示した皮剥き刃10の移動に際しては、既に被覆層の皮剥き部分2aが切込み刃12,13と縦割刃14により切込まれているため、被覆層の皮剥き部分2aと巻線導体3の間の引き抜き時の動き自由度が増大している。即ち、被覆層の皮剥き部分2aと巻線導体3の密着力が緩和されることにより被覆電線のコア切れ、導体切れ、導体部のほつれ等が防止され、ケーブル1の皮剥きした巻線導体3の信頼性を高めることができる。
【0015】また、図3(b)に示した巻線導体3の先端部分は、皮剥き刃10で上下から挟持された被覆層の皮剥き部分2a内に余裕長さl分だけ残した状態で切込み刃12によってカットされる。そのため、巻線のほつれ3aの発生が完全に防止される。
【0016】仮に、図4(a)に示すように皮剥き刃10に1組の切込み刃12しかないと、被覆層の皮剥き部分2aに上下から切込みを入れようとする時、図4(b)に示すように皮剥き部分2aの先端部分が横方向に逃げるという問題が生ずる。そのため、切込み刃の組数は最低2組は必要である。
【0017】次に、本発明の被覆電線の皮剥き方法における第2実施例を図5乃至図7を参照して説明する。図5R>5は本発明の第2実施例を示す皮剥き刃の斜視図、図6は切込み工程を示す作用説明図、図7は引き抜き工程を示す作用説明図である。
【0018】図5に示すように電線押さえ部材11に挟持されたケーブル1の端面から皮剥き長さLと余裕長さlの合計長さ(L+l)が皮剥き開始位置になる。被覆層の皮剥きは、上下から接近及び離反可能な1組の切込み刃21と、更にケーブル1の端面に向って前記切込み刃21と一体的に作動する複数組の切込み刃群22から構成される皮剥き刃20により行われる。この複数組の切込み刃群22は比較的小さい間隔、例えばケーブル1外径の1〜3倍程度のピッチで設けられている。即ち、皮剥き刃20は切込み刃21と切込み刃群22で合計5組の切込み刃が設けられていることになる。
【0019】前記皮剥き刃20の二叉角θは、ケーブル1内の編組8をまんべんなく切るために第1実施例の切込み刃と同様に90°であることが望ましい。また刃物角γは、単にケーブル1の被覆層の皮剥き部分2aに長手方向に直交する切込みを入れるだけでなく、上下方向から押圧力をかけて被覆層2と巻線導体3の密着力がほぐされるように、編組8が切れる程度の刃先角度が望ましい。
【0020】次に、皮剥き刃20を用いた皮剥き方法の手順を図6及び図7に基づいて説明する。先づ、図6(a)に示すようにケーブル1は先端から長さ(L+l)の位置に切込み刃21が位置するように電線押さえ部材11でクランプされる。その後、図6(b)に示すようにケーブル1の被覆層の皮剥き部分2aが皮剥き刃20により上下から挟圧される。これにより、皮剥き部分2aは切込み刃21及び切込み刃群22により輪切り状に切込まれる。
【0021】次に、図7(a)に示すように皮剥き刃20がケーブル1の端面方向に皮剥き長さLだけ移動した後、図7(b)に示すように皮剥き刃20がさらに深く切込まれる。これにより、切込み刃21により巻線導体3は皮剥き長さLを残してカットされる。
【0022】なお、図7(a)における皮剥き刃20の移動に際しては、既に皮剥き部分2aは細かいピッチで配置された切込み刃21及び切込み刃群22により細かく切込まれているため、細かく分断された皮剥き部分2aが個々の切込み刃21又は切込み刃群22によって移動される。このとき、被覆層の皮剥き部分2aと巻線導体3の間の密着力が細かく切込まれることにより緩和され、より小さな抵抗力で引き抜くことができる。よって、被覆電線のコア切れ、導体切れ、導体部のほつれ等が防止され、ケーブル1の皮剥きした巻線導体3の信頼性を高めることができる。
【0023】また、図7(b)に示した巻線導体3の先端部は、皮剥き刃20で上下から挟持された皮剥き部分2a内に余裕長さlだけ残した状態で切込み刃21によってカットされる。よって、巻線のほつれ3aの発生が完全に防止される。
【0024】なお、本発明は上述した実施例に限定されるものでなく、適宜な変更を行うことにより上記以外の態様でも実施可能なものである。例えば、本実施例では刃物角α,β,γは編組8が切れて、且つ上下の刃先から押圧力が加えられるように適宜な角度が望ましいとしたが、刃先の切れ味が良く、徐々に押圧力がかかるように一定の角度ではなく円弧状の刃面を有する皮剥き刃を使用しても差支えなく、皮剥き作業の能率が一層向上する。
【0025】
【発明の効果】以上説明したように、本発明の被覆電線の皮剥き方法によれば、被覆電線の長手方向に沿って対向した切込み刃が複数組設けられることにより切込みが皮剥きされる被覆層の中間部分の複数箇所に形成されると共に、皮剥き部分が引き抜かれて所望長さの電線導体部が露出された後、切込み刃がさらに深く切込まれることにより電線導体部の前端部分が切断される。これにより、被覆層の皮剥き部分の引き抜き時の動き自由度が増し、且つ被覆層の皮剥き部分と巻線導体の間の密着力が緩和されるので、切込み刃により切込む前に被覆電線を叩く工程が不要となり、また切込み刃により皮剥き部分が引き抜かれる時の被覆電線のコア切れ、導体切れ、導体部のほつれ等が防止される。更に、巻線導体の先端が被覆層の皮剥き部分から抜け切らないうちに切込み刃によりカットされるので、巻線導体のほつれが完全に防止される。また、前記被覆電線の皮剥き方法において、好ましくは複数組の切込み刃が被覆電線の長手方向に沿って対向した一組の縦割り刃を備えていることにより、皮剥きされる被覆層上に切込み刃による電線長手方向にも切込みが形成される。これにより、電線導体部と被覆層間の密着力が一層緩和されるので、被覆電線のコア切れ、導体切れ、導体部のほつれ等が確実に防止される。よって、皮剥きされた巻線導体部の信頼性が著しく向上し、且つ皮剥き工程の作業効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施例である被覆電線の皮剥き方法を示す斜視図である。
【図2】図1における切込み工程を示す作用説明図である。
【図3】図1における引き抜き工程を示す作用説明図である。
【図4】第1実施例における切込み刃の組数に関する説明図である。
【図5】本発明の第2実施例である被覆電線の皮剥き方法を示す斜視図である。
【図6】図5における切込み工程を示す作用説明図である。
【図7】図5における引き抜き工程を示す作用説明図である。
【図8】巻線式H/Tケーブルの電線構造と問題現象の説明図である。
【図9】従来の被覆電線の皮剥き方法を示す作用説明図である。
【図10】従来使用されている被覆電線の叩き装置の作用説明図である。
【符号の説明】
1 巻線式H/Tケーブル(被覆電線)
2 被覆層
2a 被覆層の皮剥き部分
3 巻線導体(電線導体部)
3a 巻線のほつれ
5 コア
5a コア切れ
6 抵抗線
7 絶縁体
8 編組
10,20 皮剥き刃
11 電線押さえ部材
12,13,21 切込み刃
14 縦割り刃
22 切込み刃群
L 皮剥き長さ
l 余裕長さ
α,β,γ 刃物角
θ 二叉角
【特許請求の範囲】
【請求項1】 対向した切込み刃により被覆電線の長手方向に直交する切込みが入れられ、前記切込み刃と前記被覆電線を相対移動させて所望長さの電線導体部を被覆していた被覆層が引き抜かれてから、皮剥きされた電線導体部の前端部分が切断される被覆電線の皮剥き方法において、前記被覆電線の長手方向に沿って対向した切込み刃が複数組設けられることにより前記切込みが皮剥きされる被覆層の中間部分の複数箇所に形成されると共に、皮剥き部分が引き抜かれて所望長さの前記電線導体部が露出された後、前記切込み刃がさらに深く切込まれることにより前記電線導体部の前端部分が切断されることを特徴とする被覆電線の皮剥き方法。
【請求項2】 前記複数組の切込み刃が被覆電線の長手方向に沿って対向した一組の縦割り刃を備えている請求項1記載の被覆電線の皮剥き方法。
【請求項1】 対向した切込み刃により被覆電線の長手方向に直交する切込みが入れられ、前記切込み刃と前記被覆電線を相対移動させて所望長さの電線導体部を被覆していた被覆層が引き抜かれてから、皮剥きされた電線導体部の前端部分が切断される被覆電線の皮剥き方法において、前記被覆電線の長手方向に沿って対向した切込み刃が複数組設けられることにより前記切込みが皮剥きされる被覆層の中間部分の複数箇所に形成されると共に、皮剥き部分が引き抜かれて所望長さの前記電線導体部が露出された後、前記切込み刃がさらに深く切込まれることにより前記電線導体部の前端部分が切断されることを特徴とする被覆電線の皮剥き方法。
【請求項2】 前記複数組の切込み刃が被覆電線の長手方向に沿って対向した一組の縦割り刃を備えている請求項1記載の被覆電線の皮剥き方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図10】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図10】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【特許番号】第2923598号
【登録日】平成11年(1999)5月7日
【発行日】平成11年(1999)7月26日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−282135
【出願日】平成5年(1993)10月18日
【公開番号】特開平7−123559
【公開日】平成7年(1995)5月12日
【審査請求日】平成8年(1996)11月5日
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【参考文献】
【文献】特開 平3−297085(JP,A)
【文献】特開 平4−200215(JP,A)
【文献】特開 平4−359612(JP,A)
【登録日】平成11年(1999)5月7日
【発行日】平成11年(1999)7月26日
【国際特許分類】
【出願日】平成5年(1993)10月18日
【公開番号】特開平7−123559
【公開日】平成7年(1995)5月12日
【審査請求日】平成8年(1996)11月5日
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【参考文献】
【文献】特開 平3−297085(JP,A)
【文献】特開 平4−200215(JP,A)
【文献】特開 平4−359612(JP,A)
[ Back to top ]