説明

裁断パターンの投射像の調整方法及び裁断装置

【課題】裁断テーブル上に支持されるシート材に裁断パターンを投射でき、シート材に投射した状態で裁断パターンの調整が可能であり、複数のシート材を積層した場合においても、投射する裁断パターンを容易に実寸大に調整できる調整方法及び裁断装置を提供すること。
【解決手段】裁断テーブル2の支持面21上に布地7を配置し、裁断パターン74,75とグリッドをプロジェクタ5で投射すると共に、Y軸方向に延びるマーカ線81をレーザマーカ6で投射する。グリッドのY軸方向の構成線Y1がマーカ線81と一致するように裁断パターン74,75とグリッドの投射位置を調整した後、単層の布地7の上に複数の布地7を積層する。最上層の布地7に投射する裁断パターン74,75は、布地7の厚みで大きさが変化する。最上層の布地7に投射されたマーカ線81にグリッドの構成線Y1が一致するように、裁断パターン74,75とグリッドの投射縮尺を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、裁断装置で裁断するシート材に投射される裁断パターンの投射像の調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被服用の布地を裁断してパターンピースを作製する裁断装置として、プロッタ型の裁断装置がある。この種の裁断装置は、布地を支持する支持面を有する裁断テーブルと、裁断刃を内蔵して裁断テーブルの支持面上を平面方向に駆動される裁断ユニットを有する。この裁断装置は、パターンピースの裁断パターンを表す裁断データが入力され、この裁断データに基づき、裁断ユニットを駆動しながら裁断刃を作動させて布地を裁断して、パターンピースを作製するようになっている。
【0003】
従来、布地の不良箇所を避けてパターンピースを作製するため、裁断テーブル上に配置された布地に関して、裁断パターンの位置を調節可能にした裁断装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この裁断装置は、スタイラスペンの信号を受ける受信装置を裁断テーブルに内蔵して制御装置に接続され、この制御装置に、パターンピースの裁断データを格納するデータベースと、ディスプレイが設けられている。裁断テーブル上に配置された布地の形状と不良部分の輪郭形状が、操作者のスタイラスペンの操作によってデータベースに格納されると、ディスプレイに、布地の形状と不良部分の輪郭形状と裁断パターンとが表示される。布地の不良部分が裁断パターンと重なり合う場合、ディスプレイを視認する操作者によってスタイラスペンがクリック操作され、ディスプレイに表示された裁断パターンが選択される。引き続いて、操作者がスタイラスペンをドラッグすると、ディスプレイに表示されて選択された裁断パターンの位置が変更され、布地の不良部分に対する重複が解消する。この後、裁断ユニットが起動されると、布地の不良部分との重複が解消された位置で裁断パターンに沿った裁断が行われ、不良部分の無いパターンピースが得られる。
【0004】
このように、布地を載置した裁断テーブル上のスタイラスペンの操作に応じて、ディスプレイに表示された裁断パターンを選択及び移動することにより、あたかも布地の上にパターンピースを配置して移動させるような感覚を操作者にもたらすことができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−131698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、先行技術1の裁断装置は、裁断パターンをディスプレイに表示するが、裁断テーブル上の布地には表示していない。この裁断装置は、裁断テーブルでは、操作者が操作するスタイラスペンにより、裁断パターンを選択するための入力や、裁断パターンの移動先を指定する入力を受けるに過ぎない。したがって、布地に実寸大の裁断パターンを表示することはできないので、裁断テーブル上の布地の上にパターンピースを配置して移動させるような感覚を操作者に与えることは、困難である。
【0007】
ところで、プロッタ型の裁断装置では、裁断テーブルに複数の布地を積層し、複数の布地を同一の裁断パターンで裁断して、複数のパターンピースを一度の裁断工程で作製することが行われている。裁断される布地が柄、すなわち、模様を有する場合、縫製工程でパターンピースの互いの柄が適切に連なるように、裁断パターンの設定位置を柄に対して適切な位置に調整する柄合わせを行う必要がある。柄合わせでは、柄が細密な場合には高い精度で裁断パターンの位置を調整する必要があるので、裁断テーブル上の布地の上にパターンピースを配置して移動させるような感覚を操作者に与えることができれば、操作性の向上と、調整の正確さを実現できる。
【0008】
そこで、本発明の課題は、裁断テーブル上に支持されるシート材に裁断パターンを投射でき、シート材に投射した状態で裁断パターンの調整が可能であり、しかも、複数のシート材を積層した場合においても、投射する裁断パターンを容易に実寸大に調整できる調整方法及び裁断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の裁断パターンの投射像の調整方法は、単層のシート材の表面に、光束の拡大する光によって実寸の裁断パターンと基準パターンを投射するステップと、
上記単層のシート材の表面に、上記基準パターンと一致するように、光束が実質的に平行の光によって基準マークを投射するステップと、
上記シート材の上に複数枚のシート材を積層するステップと、
積層されたシート材のうちの最上層のシート材の表面に、上記単層のシート材に投射したときと同じ投射縮尺で裁断パターン及び基準パターンを投射すると共に、上記基準マークを投射するステップと、
最上層のシート材の表面に投射される基準パターンが上記基準マークと一致するように、裁断パターン及び基準パターンの投射縮尺を変更するステップと
を備えることを特徴としている。
【0010】
上記構成によれば、単層のシート材の表面に、光束の拡大する光によって実寸の裁断パターンと基準パターンが投射され、また、上記基準パターンと一致するように、光束が実質的に平行な光によって基準マークが投射される。上記裁断パターンと基準パターンは、例えば、液晶プロジェクタ等の投射型表示装置で投射することができ、また、上記基準マークは、例えば、発光ダイオードやレーザ装置で投射することができる。上記シート材の上に複数枚のシート材が積層され、積層されたシート材のうちの最上層のシート材の表面に、上記単層のシート材に投射したときと同じ投射縮尺で裁断パターン及び基準パターンが投射されると共に、上記基準マークが投射される。最上層のシート材の表面に投射される基準パターンが上記基準マークと一致するように、裁断パターン及び基準パターンの投射縮尺が変更される。
【0011】
上記裁断パターン及び基準パターンは、光束の拡大する光によって投射されるので、単層のシート材の表面に実寸で投射されても、この単層のシート材の上に複数のシート材が積層されると、最上層のシート材の表面に投射された裁断パターン及び基準パターンは大きさが変化する。ここで、基準マークは、光束が実質的に平行な光によって投射されるので、単層のシート材の表面に投射されたときと、積層された複数のシート材のうちの最上層のシート材の表面に投射されたときとの間で、実質的に位置が変更しない。したがって、単層のシート材の表面に、裁断パターンと共に実寸で投射された基準パターンに基準マークを一致させた後、積層された複数のシート材のうちの最上層のシート材の表面に、基準パターンが基準マークと一致するように、裁断パターン及び基準パターンの投射縮尺を変更することにより、この裁断パターン及び基準パターンを、容易に実寸に調整することができる。なお、裁断パターン及び基準パターンの投射縮尺は、裁断パターン及び基準パターンの投射データの縮尺を調節して変更してもよく、光源のレンズの倍率を調節して変更してもよく、或いは、光源のシート材に対する距離を調節して変更してもよい。
【0012】
このように、上記裁断パターンを、単層のシート材の表面と、積層されたシート材の最上層のシート材の表面とのいずれにも実寸で投射されるので、本発明の裁断パターンの投射像の調整方法を裁断装置に適用することにより、裁断装置の操作者に、シート材の上にパターンピースを配置して移動させるような感覚を与えることができる。
【0013】
ここで、上記シート材とは、被服用の布に限られず、種々の用途の布や皮革や樹脂膜等、種々のシート状の材料が該当し、その用途や材質は限られない。
【0014】
一実施形態の裁断パターンの投射像の調整方法は、上記基準パターンは、上記裁断パターンの位置を表す座標線である。
【0015】
上記実施形態によれば、裁断パターンの位置を表す座標線を、基準パターンとして利用することにより、裁断パターンの位置の調整と、裁断パターンの投射縮尺の調整とを同時に行うことができる。ここで、座標線は、少なくとも1本の直線であればよく、好ましくは、裁断パターンと重複して表示される格子状の直交座標線である。
【0016】
一実施形態の裁断パターンの投射像の調整方法は、上記基準パターンは、上記裁断パターンの一部である。
【0017】
上記実施形態によれば、裁断パターンの一部を、基準パターンとして利用することにより、裁断パターンのみを投射することにより、シート材における裁断パターンの位置の確認と、裁断パターンの投射寸法の調整とを行うことができる。なお、上記裁断パターンの一部とは、裁断パターンを表す線上の一点でもよく、裁断パターンを表す線上の複数の点でもよく、或いは、裁断パターンを表す線の一部でもよい。
【0018】
一実施形態の裁断パターンの投射像の調整方法は、上記基準マークは、上記シート材の表面に対して直角方向に投射された光が上記シート材の表面に照射されてなる点である。
【0019】
上記実施形態によれば、上記基準マークの点は、単層のシート材の表面と、積層されたシート材の最上層のシート材の表面とのいずれにも、平面方向において同じ位置に照射されるので、この基準マークに基準パターンを一致させることにより、裁断パターンを容易に原寸に調節することができる。ここで、上記基準マークは、例えば、発光ダイオードやレーザ装置で投射することができる。
【0020】
一実施形態の裁断パターンの投射像の調整方法は、上記基準マークは、上記シート材の表面に設定される直交座標軸の少なくとも一方を通る鉛直面内を走査するように投射された光が、上記シート材の表面に照射されてなる直線である。
【0021】
上記実施形態によれば、上記基準マークの直線は、単層のシート材の表面と、積層されたシート材の最上層のシート材の表面とのいずれにも、同一直線上に照射されるので、この基準マークに基準パターンを一致させることにより、裁断パターンを容易に原寸に調節することができる。ここで、上記基準マークは、例えば、発光ダイオードやレーザ装置で投射することができる。
【0022】
本発明の裁断装置は、シート材を支持する支持面と、
上記支持面上に、光束の拡大する光によって裁断パターンと基準パターンを投射するパターン投射手段と、
上記支持面上に投射される裁断パターン及び基準パターンの位置を調節するパターン位置調節手段と、
上記支持面上に、光束が実質的に平行の光によって基準マークを投射するマーク投射手段と、
上記支持面上に投射される裁断パターン及び基準パターンの縮尺を調節する縮尺調節手段と、
上記支持面上に支持されるシート材を、上記裁断パターンに沿って裁断する裁断手段と
を備えることを特徴としている。
【0023】
上記構成によれば、支持面の上に単層のシート材が支持され、この単層のシート材の表面に、パターン投射手段により、光束の拡大する光によって裁断パターンと基準パターンが投射される。パターン投射手段は、例えば、液晶プロジェクタ等の投射型表示装置を用いることができる。ここで、シート材の表面に投射される裁断パターンが実寸となるように、パターン位置調節手段及び/又は縮尺調節手段で裁断パターンと基準パターンの調節を行う。また、単層のシート材の表面に、マーク投射手段により、光束が実質的に平行な光によって基準マークが投射される。マーク投射手段は、例えば、発光ダイオードやレーザ装置を用いることができる。ここで、上記基準パターンと基準マークとが一致するように、パターン位置調節手段で裁断パターンと基準パターンの調節を行うのが好ましい。
【0024】
この裁断装置で複数のシート材を同時に裁断する場合、上記シート材の上に複数枚のシート材を積層し、積層されたシート材のうちの最上層のシート材の表面に裁断パターンを投射して、裁断パターンの位置を調節する。ここで、上記単層のシート材に投射したときと同じ投射縮尺で、積層されたシート材のうちの最上層のシート材の表面に、パターン投射手段で裁断パターン及び基準パターンを投射すると共に、マーク投射手段で基準マークを投射する。上記最上層のシート材の表面に投射された裁断パターン及び基準パターンの縮尺を、上記基準パターンが上記基準マークと一致するように、縮尺調節手段で調節する。こうして、裁断パターン及び基準パターンを、単層のシート材に投射したときと同様の実寸大に、容易に調整することができる。
【0025】
この裁断装置によれば、上記裁断パターンを、単層のシート材の表面と、積層されたシート材の最上層のシート材の表面とのいずれにも実寸で投射することができるので、操作者に、シート材の上にパターンピースを配置して移動させるような感覚を与えることができる。
【0026】
一実施形態の裁断装置は、上記マーク投射手段は、発光ダイオード又はレーザ装置を有する。
【0027】
上記実施形態によれば、単層のシート材の表面と、積層されたシート材のうちの最上層のシート材の表面とに、平面方向の位置が実質的に変化しない基準マークを照射できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態の裁断装置を示す図である。
【図2】布地の表面に、裁断パターン及び基準パターンと、基準マークを照射した様子を示す図である。
【図3】裁断装置の裁断テーブルの制御装置と投射制御装置のブロック図を示す図である。
【図4】裁断パターンの投射と調整を行う際に実行される処理を示すフローチャートである。
【図5】布地の表面に、裁断パターン及び他の基準パターンと、基準マークを照射した様子を示す図である。
【図6】布地の表面に、裁断パターン及び基準パターンと、他の基準マークを照射した様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態を、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0030】
本発明の実施形態の裁断装置は、積層された複数の布地を同時に裁断し、被服のパターンピースを作製するプロッタ型の裁断装置である。図1に示すように、この裁断装置1は、裁断テーブル2と、延反装置3と、投射制御装置4と、プロジェクタ5と、レーザマーカ6を備える。
【0031】
裁断テーブル2は、シート材としての布地7を支持する支持面21を備え、この支持面21の上で平面方向に駆動される裁断ユニット22が、布地7を裁断パターン71,72,73に沿って裁断するように構成されている。支持面21は、可撓性を有する剛毛が植えられてブラシ状に形成されており、このブラシ状の支持面21を通して、図示しない真空ポンプで布地7を吸引し、布地7を固定するように形成されている。支持面21上に複数の布地7を積層して支持する場合、積層した布地7を非通気性のシートで被覆し、支持面21を通して積層した布地7間の空気を吸引することにより、非通気性のシートを、積層した布地7に密着させて支持面21上に固定するようになっている。支持面21には、裁断ユニット22を駆動する際に用いるテーブル原点と座標が設定されている。以下、支持面21の幅方向にX軸を設定し、長手方向にY軸を設定した場合を説明する。
【0032】
裁断ユニット22は、裁断テーブル2の幅方向の両側の縁に沿って長手方向(Y軸方向)に移動する2つのキャリア23,23と、このキャリア23,23の間に掛け渡されたレール24と、このレール24に沿って幅方向(X軸方向)に移動するカッターヘッド25を有する。カッターヘッド25は、布地を表面側の回転刃と、裏面側の下刃とのせん断作用により布地を切断するように形成されている。なお、カッターヘッド25は、鋸状のカッターを往復駆動して布地を切断するものでもよく、布地の種類や枚数に応じた種々の切断方式のものを設定できる。
【0033】
延反装置3は、裁断テーブル2の長手方向(Y軸方向)に移動するように形成され、裁断テーブル2の端部に保持されたロール31から布地を引き出して切断し、所定の寸法の布地7を作成して支持面21まで運搬するように形成されている。この布地7の作成と運搬を繰り返して、支持面21上に複数の布地7を積層するように形成されている。なお、布地7の作成と運搬を一度のみ行い、支持面21上に単層の布地7を配置することもできる。
【0034】
投射制御装置4は、裁断テーブル2の支持面21上の布地7に投射する裁断パターン71,72,73に関する制御を行うものであり、市販のノート型PC(パーソナルコンピュータ)によって構成されている。投射制御装置4は、操作者に操作されるコントローラ41に接続されている。コントローラ41は、布地7上に投射する裁断パターンの選択や、投射した裁断パターンの位置及び縮尺の調整等に関する入力を操作者から受けるものであり、市販のゲーム用コントローラを用いることができる。投射制御装置4は、ディスプレイ42を備え、後述するプロジェクタ5で布地7に投射する裁断パターン71,72,73と同じ裁断パターンを表示し、また、裁断パターンの位置や角度等の情報を表示する。投射制御装置4は、裁断テーブル2の図示しない制御装置に接続され、裁断パターン71,72,73に関する情報を交換するようになっている。
【0035】
プロジェクタ5は、裁断テーブル2の支持面21上の布地7に裁断パターンを投射するものであり、市販の液晶プロジェクタによって構成されている。このプロジェクタ5は、約1.6mの幅と約2.5mの長さを有する支持面21の全面に、裁断パターンを実寸で投射するものであり、支持面21から約1.5mの高さに設置されている。このプロジェクタ5は、支持面21に向けてレンズから投射される光束が、約30〜50°の角度で拡大する。
【0036】
レーザマーカ6は、赤色発光の半導体レーザを有し、光束が実質的に平行な赤色光を出射して、基準マークとしてのマーカ線を裁断テーブル2の支持面21上に投射する。詳しくは、レーザマーカ6は、レーザ光を、支持面21上のテーブル原点を通ってY軸を含む鉛直面内に走査するように投射し、これにより、テーブル原点を通ってY軸に沿うマーカ線81を投射する。レーザマーカ6は、裁断テーブル2の近傍かつ支持面21よりも上方に、裁断装置1の設置された部屋の壁面に設置され、或いは、支柱等で設置される。
【0037】
図2は、布地7の表面に、プロジェクタ5によって裁断パターン74,75,・・・とグリッドを投射すると共に、レーザマーカ6によってマーカ線81を投射した様子を示す図である。グリッドは、X軸方向に平行に延びる構成線X1,X2,・・・と、Y軸方向に平行に延びる構成線Y1,Y2,・・・とが互いに直交して構成されており、各構成線X1,X2,Y1,Y2,・・・は、裁断パターン74,75,・・・の位置を特定する座標線として機能する。図2では、グリッドを構成する構成線のうち、幅方向の最も端に位置するY軸方向の構成線Y1が基準パターンとして機能しており、この構成線Y1が、マーカ線81と一致している。
【0038】
図3は、裁断テーブル2の制御装置と投射制御装置4とプロジェクタ5を示すブロック図である。裁断テーブル2の制御装置は、被服のマーカーデータが入力されるマーカーデータ入力部26と、マーカーデータから裁断データを作成する裁断データ作成部27を有する。マーカーデータは、布地7から裁断すべきパターンピースの形状を表す情報で構成されている。裁断データは、パターンピースを作製するために裁断ユニットに裁断を実行させる情報で構成されている。
【0039】
投射制御装置4は、裁断データ作成部27から裁断データを受け取り、裁断データから投射データを作成する投射データ作製部44を有する。投射データ作製部44で作成した投射データをプロジェクタ5へ出力し、プロジェクタ5は、投射データに対応する裁断パターン74,75,・・・を布地7に投射する。操作者は、裁断テーブル2上の布地7に投射された裁断パターン74,75,・・・を視認しながらコントローラ41を操作し、コントローラ41からの入力に対応して投射データ調整部45が投射データ作成部44を調整して、プロジェクタ5に出力する投射データを調整する。こうして、プロジェクタ5から投射される裁断パターン74,75,・・・の位置及び角度を、操作者がコントローラ41を操作してリアルタイムで調整するようになっている。これにより、操作者は、裁断パターン74,75,・・・で表されるパターンピースを布地7の上に配置して移動させるような感覚が得られる。
【0040】
裁断パターン74,75,・・・の位置及び角度が確定すると、操作者のコントローラ41の操作により、投射データ調整部45から、確定した裁断パターン74,75,・・・の位置及び角度に関する情報が裁断データ調整部28へ出力される。裁断データ調整部28は、裁断パターン74,75,・・・の位置及び角度に関する情報に基づいて裁断データを調整し、調整した裁断データを裁断ユニット制御部29に出力する。裁断ユニット制御部29は、調整された裁断データに基づいて裁断ユニット22を駆動し、その結果、裁断ユニット22により、裁断パターン74,75,・・・の形状に沿って布地7が裁断される。こうして、布地7の不良部を避けて裁断パターン74,75,・・・を設定し、不良部を含まないパターンピースを作成できる。或いは、布地7の柄に合わせた位置に裁断パターン74,75,・・・を設定し、高精度に柄合わせが施されたパターンピースを作成できる。
【0041】
投射制御装置4は、コントローラ41からの入力に応じて、投射データ作成部44からプロジェクタ5へ出力される投射データの縮尺を調整する縮尺調整部46を有する。縮尺調整部46は、裁断テーブル2の支持面21上に複数の布地7を積層して最上層の布地7に裁断パターン74,75,・・・を投射する際、単層の布地7の表面に投射する裁断パターン74,75,・・・との間に生じる誤差を解消する機能を有する。縮尺調整部46の機能の詳細は、図4のフローチャートを参照しながら説明する。
【0042】
図4のフローチャートは、実施形態の裁断装置1にマーカーデータを読み込み、マーカーデータ中の所定の裁断パターンを調整した後、調整した裁断パターンを複数の布地7に同時に裁断する場合の裁断装置1の動作を示したものである。以下、フローチャートに沿って裁断装置1の動作を説明する。
【0043】
まず、裁断テーブル2の制御装置にマーカーデータを読み込み(ステップS1)、制御装置の裁断データ作成部27から裁断データを受けて、投射制御装置4のディスプレイ42に裁断パターン74,75を表示する(ステップS2)。続いて、延反装置3により、単層の布地7を裁断テーブル2の支持面21上に配置する(ステップS3)。投射制御装置4の投射データ作成部44で、裁断データに基づいて投射データを作成し、プロジェクタ5に出力して、プロジェクタ5から単層の布地7の表面に裁断パターン74,75,・・・とグリッドを投射する(ステップS4)。
【0044】
コントローラ41への操作者の入力に基づいて、投射データ調整部45で投射データ作成部44からプロジェクタ5へ出力される投射データを調整し、裁断パターン74,75,・・・とグリッドの位置を調整する。すなわち、図2に示すように、グリッドの構成線Y1がマーカ線81に一致するように裁断パターン74,75,・・・とグリッドの位置を調整して、テーブル原点に裁断パターン74,75,・・・の投射原点を一致させる(ステップS5)。これにより、裁断パターン74,75,・・・が布地7の表面に原寸大に投射される。
【0045】
布地7の表面に投射された裁断パターン74,75,・・・を確認し、布地7に不良部分が存在する場合は、裁断パターン74,75,・・・が不良部分に重ならないように裁断パターン74,75,・・・の位置を調整する(ステップS6)。
【0046】
裁断パターン74,75,・・・の調整は、コントローラ41の選択ボタンを操作して対象の裁断パターン74,75,・・・を選択し、コントローラ41の十字状の方向ボタンを操作して移動方向と移動距離を入力する。なお、裁断パターン74,75,・・・は、移動方向及び移動距離に加えて、平面内での回転角度を調整してもよい。
【0047】
裁断パターン74,75,・・・の位置の確認と調整が完了すると、投射データ調整部45から裁断データ調整部28に調整後の裁断パターン74,75,・・・が入力され、裁断データ調整部28により、調整後の裁断パターン74,75,・・・の位置が裁断データに反映される(ステップS7)。
【0048】
複数の布地7を同時に裁断パターン74,75で裁断する場合、単層の布地7の上に、延反装置3によって複数の布地7を積層する(ステップS8)。積層された複数の布地7のうちの最上層の布地7に、単層の布地7に投射したときと同じ縮尺で裁断パターン74,75,・・・及びグリッドを投射する(ステップS9)。そうすると、プロジェクタ5は、投射光の光束が約30〜50°の角度で拡大するので、最上層の布地7に投射された裁断パターン74,75,・・・及びグリッドは、積層された布地7の厚みによって大きさが変化する。
【0049】
ここで、マーカ線81は、レーザマーカ6により、テーブル原点を通ってY軸を含む鉛直面内に走査されるレーザ光で投射されているので、布地7の厚みが増しても、単層の場合と同様にテーブル原点を通ってY軸に沿う位置に照射される。これにより、裁断パターン74,75,・・・と共に照射されるグリッドの構成線Y1は、マーカ線81とずれが生じる。
【0050】
そこで、コントローラ41を操作し、グリッドの構成線Y1がマーカ線と一致するように、裁断パターン74,75,・・・とグリッドの投射縮尺を調整する(ステップS10)。投射縮尺の調整は、コントローラ41への操作に応じて、縮尺調整部46が、投射データ作成部44からプロジェクタ5へ出力する裁断パターン74,75,・・・とグリッドの縮尺を調節して行う。このとき、裁断パターン74,75,・・・とグリッドの表示縮尺を調整するのみであるため、縮尺調整部46は、投射データ調整部45のように裁断データの変更は行わない。
【0051】
裁断パターン74,75及びグリッドの投射縮尺が変更され、グリッドの構成線Y1がマーカ線81に一致すると、裁断パターン74,75,・・・の縮尺が最上層の布地7において実寸大となる。
【0052】
裁断パターン74,75,・・・及びグリッドの投射縮尺が調整されると、裁断パターン74,75,・・・の位置が確認され(ステップS11)、裁断パターン74,75,・・・の位置が適切であれば、裁断パターン74,75,・・・に沿って裁断を実行する(ステップS12)。すなわち、裁断データ調整部28で反映された調整後の裁断パターン74,75,・・・に対応する裁断データが、裁断ユニット制御部29に出力され、裁断ユニット制御部29の制御のもと、裁断ユニット22が駆動されて裁断パターン74,75,・・・に沿って裁断が行われる。
【0053】
このように、本実施形態の裁断装置1によれば、裁断パターン74,75,・・・を、単層の布地7の表面と、積層された布地7の最上層の布地7の表面とのいずれにも実寸で投射できるので、操作者に、布地7の上にパターンピースを配置して移動させるような感覚を与えることができる。
【0054】
また、プロジェクタ5による裁断パターン74,75,・・・は、単層の布地7に投射する場合と、積層された最上層の布地7に投射する場合とでずれが生じるが、裁断パターン74,75,・・・と共に投射するグリッドの構成線Y1を、レーザマーカ6によるマーカ線81と一致させるように裁断パターン74,75,・・・の投射縮尺を調整することにより、積層された最上層の布地7に容易に実寸大の裁断パターン74,75,・・・を投射することができる。
【0055】
上記実施形態において、基準マークとして、裁断テーブル2の近傍の上方からレーザマーカ6で投射されたマーカ線81を用いたが、基準マークは、裁断テーブル2の真上に配置したレーザマーカから支持面2に鉛直に投射した点であってもよい。例えば、図2に示すように、基準マークの点に、グリッドの所定の構成線の交点を一致させることにより、積層された最上層の布地7に投射する裁断パターン74,75,・・・を容易に調整することができる。
【0056】
また、上記実施形態において、基準パターンとして、グリッドのY軸方向の構成線Y1を用いたが、例えば図5に示すように、裁断パターン74,75,・・・の角部の点P1,P2を用いてもよい。この裁断パターン74,75,・・・の角部の点P1,P2が、マーカ線81と一致するように、裁断パターン74,75,・・・の投射縮尺を調整することにより、裁断パターン74,75,・・・の大きさを容易に実寸大にすることができる。また、裁断パターン74,75,・・・の部分を基準パターンとして用いるので、投射データの容量を小さくすることができ、投射制御装置4の処理を軽減することができる。また、裁断パターン74,75,・・・に付された柄合わせライン74M,75Mを、基準パターンとして用いてもよい。この場合、レーザマーカ6で投射するマーカ線81を、柄合わせライン74M,75Mと一致するように、布地7の中央側に設定する。
【0057】
また、基準マークとして、2つのレーザマーカを用いて、図6に示すように、Y軸方向のマーカ線81AとX軸方向のマーカ線81Bとを設定してもよい。この場合、裁断パターン74,75,・・・の角部の点P1,P2,P3,P4,P5,P6を、Y軸方向のマーカ線81Aと、X軸方向のマーカ線81Bとに適宜一致させることにより、裁断パターン74,75,・・・の投射縮尺を正確に調整することができる。
【0058】
また、上記実施形態において、裁断パターン74,75,・・・の投射縮尺は、プロジェクタ5へ入力する投射データを調節して変更したが、裁断パターン74,75,・・・を投影する布地7に対するプロジェクタ5の距離を調節して、投射縮尺を変更してもよい。
【0059】
上記実施形態において、シート材としての被服用の布地7を裁断してパターンピースを作製する場合に本発明を適用したが、例えば、カーテン用の布地を裁断してカーテンを作製する場合や、樹脂性のカッティングシートを裁断してステッカーを作成する場合等にも本発明を適用することができる。すなわち、被服用の布以外に、他の用途の布や、皮革や、樹脂膜等、種々のシート状の材料を所定の形状に裁断する場合に、本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 裁断装置
2 裁断テーブル
3 延反装置
4 投射制御装置
5 プロジェクタ
6 レーザマーカ
7 布地
41 コントローラ
71,72,73 裁断パターン
81 マーカ線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単層のシート材の表面に、光束の拡大する光によって実寸の裁断パターンと基準パターンを投射するステップと、
上記単層のシート材の表面に、上記基準パターンと一致するように、光束が実質的に平行な光によって基準マークを投射するステップと、
上記シート材の上に複数枚のシート材を積層するステップと、
積層されたシート材のうちの最上層のシート材の表面に、上記単層のシート材に投射したときと同じ投射縮尺で裁断パターン及び基準パターンを投射すると共に、上記基準マークを投射するステップと、
最上層のシート材の表面に投射される基準パターンが上記基準マークと一致するように、裁断パターン及び基準パターンの投射縮尺を変更するステップと
を備えることを特徴とする裁断パターンの投射像の調整方法。
【請求項2】
請求項1に記載の裁断パターンの投射像の調整方法において、
上記基準パターンは、上記裁断パターンの位置を表す座標線であることを特徴とする裁断パターンの投射像の調整方法。
【請求項3】
請求項1に記載の裁断パターンの投射像の調整方法において、
上記基準パターンは、上記裁断パターンの一部であることを特徴とする裁断パターンの投射像の調整方法。
【請求項4】
請求項1に記載の裁断パターンの投射像の調整方法において、
上記基準マークは、上記シート材の表面に対して直角方向に投射された光が上記シート材の表面に照射されてなる点であることを特徴とする裁断パターンの投射像の調整方法。
【請求項5】
請求項1に記載の裁断パターンの投射像の調整方法において、
上記基準マークは、上記シート材の表面に設定される直交座標軸の少なくとも一方を通る鉛直面内を走査するように投射された光が、上記シート材の表面に照射されてなる直線であることを特徴とする裁断パターンの投射像の調整方法。
【請求項6】
シート材を支持する支持面と、
上記支持面上に、光束の拡大する光によって裁断パターンと基準パターンを投射するパターン投射手段と、
上記支持面上に投射される裁断パターン及び基準パターンの位置を調節するパターン位置調節手段と、
上記支持面上に、光束が実質的に平行の光によって基準マークを投射するマーク投射手段と、
上記支持面上に投射される裁断パターン及び基準パターンの縮尺を調節する縮尺調節手段と、
上記支持面上に支持されるシート材を、上記裁断パターンに沿って裁断する裁断手段と
を備えることを特徴とする裁断装置。
【請求項7】
請求項6に記載の裁断装置において、
上記マーク投射手段は、レーザマーカであることを特徴とする裁断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−264571(P2010−264571A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−119392(P2009−119392)
【出願日】平成21年5月18日(2009.5.18)
【出願人】(591264474)有限会社ナムックス (10)
【Fターム(参考)】