説明

補修構造体

【課題】施工性が良く、安価な、補修構造体を提供する。
【解決手段】欠陥部位(クラック30、31,40,50)に、シート状の金属板と、該金属板の少なくとも一方の面にロウ材粉末を固着させて成るクラッド層とを有するクラッドロウ材シート1が貼付されている補修構造体Hを採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補修構造体であって、特に金属部品に生じたクラックや、磨耗等の欠陥部位が補修された補修構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金属部品に生じたクラックや、磨耗等の欠陥部位を補修する補修方法として、ロウ材粉末をペースト状にしたものを欠陥部位に塗付し、加熱することで焼結あるいは溶融させて補修する方法や、ロウ材の焼結シートを貼付し加熱して補修する方法、アモルファスロウ材シートを貼付し加熱して補修する方法がある。
【0003】
また、金属部品に生じたクラック等の欠陥部位を補修する方法として、欠陥部位を取り除き、取り除いた凹部に合金粉末を充填して、その上面にロウ材層を形成させた後に焼結して補修する補修方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−43706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ロウ材粉末をペースト状にしたものは、ロウ材粉末をバインダーで練ってペースト状にしなければならず、また、ペーストの軟度によって、欠陥部位に塗着しやすさが変化するため、補修対象物にロウ材を保持させるペーストの調整が必要になる等の施工性の問題があった。
【0006】
また、ロウ材の焼結シートを貼付する補修方法では、補修対象物が複雑な形状を有している場合、ロウ材は加工性が乏しいことから、補修対象物に存する欠陥部位に上記焼結シートを該補修対象物の形状に合わせて変形させて貼付することが困難であるという問題がある。
【0007】
また、アモルファスロウ材シートは、非結晶の構造を有しているため、形状に対応して曲げ等の変形は可能となるが、アモルファスロウ材シートの製造が技術的に難しいため、高価となる問題がある。
【0008】
また、特許文献1に記載の補修方法は、欠陥部位を取り除く工程を有しており、クラックとなる以前の微細な傷や、磨耗により磨り減った部材を補修するには適用できない等の問題がある。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、施工性が良く、安価な、補修構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明では、欠陥部位を有し、上記欠陥部位に、シート状の基材と、該基材の少なくとも一方の面にロウ材組成を有する粉末を固着させて成るクラッド層とを有するクラッドシートが貼付されている補修構造体であるという構成を採用する。
このような構成を採用することで、補修構造体は、クラックや、磨耗等の欠陥部位に、ロウ付け性を有するクラッドシートで覆われることで補修される。
【0011】
また、本発明では、上記クラッドシートは、上記欠陥部位を含む上記補修構造体の形状に対応して、変形されているという構成を採用する。
このような構成を採用することで、欠陥部位を有する補修構造体の複雑な形状に対応したクラッドシートで補修される。
【0012】
また、本発明では、上記基材は、上記補修構造体と略同一の線膨張係数を有するという構成を採用する。
このような構成を採用することで、外部から加熱された場合、基材を有するクラッドシートが補修構造体と略同一に膨張するため、補修構造体が上記基材を有するクラッドシートから受ける膨張量の差で生じる熱応力を軽減させることができる。
【0013】
また、本発明では、上記基材は、上記補修構造体と同一材料で形成されることを特徴とする請求項9に記載の補修構造体。
このような構成を採用することで、外部から加熱された場合、上記基材を有するクラッドシートと、補修構造体とが同一材料であることから、補修構造体が受ける膨張量の差で生じる熱応力を更に軽減させることができる。
【0014】
また、本発明では、複数の上記欠陥部位を有し、上記クラッドシートが一括して貼付されるという構成を採用する。
このような構成を採用することで、複数の欠陥部位が一枚のクラッドシートで補修される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、欠陥部位を有し、上記欠陥部位に、シート状の基材と、該基材の少なくとも一方の面にロウ材組成を有する粉末を固着させて成るクラッド層とを有するクラッドシートが貼付されている補修構造体であるという構成を採用する。そのため、補修構造体は、クラックや、磨耗等の欠陥部位に、ロウ付け性を有するクラッドシートで覆われることで補修される。つまり、高価なアモルファスロウ材シートを用いることなく、施工性が良く、安価な、クラッドシートで欠陥部位が補修される。
したがって、本発明によれば、施工性が良く、安価な、補修構造体を形成することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態におけるクラッドロウ材シートの斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態におけるクラッドロウ材シートの製造装置の構成図である。
【図3】本発明の実施の形態における補修構造体の斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態の曲面における補修方法の工程を説明する図3の線視X−X断面図である。
【図5】本発明の実施の形態の鋭角先端部における補修方法の工程を説明する図3の線視Y−Y断面図である。
【図6】本発明の実施の形態の直角形状部における補修方法の工程を説明する図3の線視Z−Z断面図である。
【図7】本発明の別実施形態における補修構造体の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の図面において、同一の部材には同一の参照符号が付されている。また、理解を容易にするために、これらの図面は、縮尺を適宜変更している。
【0018】
図1は、本実施形態の補修方法に用いられるクラッドロウ材シート(クラッドシート)1を示す。
クラッドロウ材シート1は、金属板(基材)21と、金属板21の一方の面に後述するロウ材粉末(粉末)2を固着させて成るクラッド層22とから構成される。
【0019】
金属板21は、例えば、ニッケル基合金、ステンレス、銅等の金属をシート状に加工したものから構成される。本実施形態では、金属板21の構成は、ニッケル基合金を選択する。
【0020】
クラッド層22は、例えば、ロウ(BNi−5)、ニッケル、クロム及びシリコンの粉末から成る粉体層を焼結あるいは溶融することで形成される。したがって、クラッド層22は、ロウ付け性を有する構成となっている。
【0021】
次に、本実施形態の補修方法に用いられるクラッドロウ材シート1について、クラッドロウ材シート1の製造工程と併せて説明する。
【0022】
図2は、クラッドロウ材シート1の製造装置Dの構成図を示す。
クラッドロウ材シート1の製造装置Dは、ロウ材組成を有するロウ材粉末2を貯蓄するホッパ3Aと、ホッパ3Aに貯蓄されたロウ材粉末2を後述する圧延ローラ4Aの周面に向けて供給するベルトフィーダ5Aと、圧延ローラ4Aの周面に供給されたロウ材粉末2及び金属板21を圧延する圧延ローラ4A、4Bと、圧延加工されたロウ材粉末2及び金属板21を加熱処理する加熱炉6と、加熱処理の後に形成されるクラッドロウ材シート1を巻き取る回収ローラ8とを有する。
【0023】
ロウ材粉末2は、ロウ材組成を有する粉末から構成される。本実施形態では、ロウ材粉末2は、上述のクラッド層22を構成する粉末である、ロウ(BNi−5)粉末、ニッケル粉末、クロム粉末及びシリコン粉末の混合粉末から構成される。
【0024】
ホッパ3Aは、ロウ材粉末2を貯蓄し、断面形状が下方に向かうに従って漸次縮径する中空構造を有し、ベルトフィーダ5Aを介して圧延ローラ4Aの周面に向けてロウ材粉末2を供給させる構成となっている。
【0025】
ベルトフィーダ5Aは、ホッパ3Aの下方に設けられ、不図示の回転駆動機構と接続されて回転駆動することで、ホッパ3Aの下部から供給されるロウ材粉末2を搬送する構成となっている。また、ベルトフィーダ5Aは、搬送先が、圧延ローラ4Aの上方に位置しており、ロウ材粉末2を圧延ローラ4Aの周面上に供給する構成となっている。
なお、ベルトフィーダ5Aは、圧延ローラ4Aの幅と略同一の幅を有しており、圧延ローラ4Aの幅方向に亘って均一に、ロウ材粉末2を供給可能な構成となっている。
【0026】
圧延ローラ4A、4Bは、一対となっており、ベルトフィーダ5Aの下方に設けられる。また、圧延ローラ4A、4Bは、互いの周面が所定の間隔で平行対峙するように配置される。そして、圧延ローラ4A、4Bは、不図示の回転駆動機構により回転駆動することによって、圧延ローラ4A、4Bの間に挿入される部材を圧延する構成となっている。
【0027】
加熱炉6は、圧延ローラ4A、4Bの下方に設置される。そして、加熱炉6は、加熱炉6内へプーリ9を介して挿入される圧延ローラ4A、4Bにより圧延されたロウ材粉末2及び金属板21を加熱処理する構成となっている。
【0028】
回収ローラ8は、不図示の回転駆動機構により回転駆動可能に担持される。そして、回収ローラ8は、加熱炉6による焼結処理の工程を経て得たクラッドロウ材シート1を巻き取る構成となっている。
【0029】
続いて、製造装置Dの動作について説明する。
製造装置Dは、ホッパ3A内に貯蓄されたロウ材粉末2をホッパ3A下部に接続されたベルトフィーダ5Aを介して圧延ローラ4Aの周面に向けて、圧延ローラ4Aの幅方向に亘り連続的に供給する。
【0030】
圧延ローラ4A、4Bは、所定の距離で回転駆動することによって、圧延ローラ4A,4B間に供給されたロウ材粉末2と、圧延ローラ4A、4Bの間に上方から下方へ挿通されて搬送されるシート状の金属板21とを圧延する。当該圧延によって、ロウ材粉末2は、金属板21に固着されることとなる。
ロウ材粉末2が固着した金属板21は、圧延ローラ4A、4Bの下方に位置する加熱炉6にプーリ9を介して挿入される。
【0031】
加熱炉6は、金属板21に固着されたロウ材粉末2をロウ材粉末2の融点付近の温度まで加熱する。
そして、加熱炉6内で加熱されたロウ材粉末2が焼結または溶融して層となり、金属板21の表面にしっかりと固着または溶着されることによって、ロウ付け性を有するクラッド層22が形成される。
【0032】
上記製造工程により製造された、金属板21及びクラッド層22から成るクラッドロウ材シート1は、回収ローラ8の回転駆動により巻き取られることによって、回収されることとなる。
なお、加熱炉6によって加熱されたクラッドロウ材シート1は、必要に応じて冷却されてから回収ローラ8によって回収されても良い。また、クラッド層22は、ロウ材粉末2を構成する構成粉末の構成比率や、種類を適宜調整することで、クラッドロウ材シート1の用途に適した機能を備えさせることもできる。
【0033】
このように製造されたクラッドロウ材シート1は、金属板21の片面(一方の面)に全面に亘ってロウ付け性を有するクラッド層22が形成される。したがって、クラッドロウ材シート1は、ロウ付け性を有する構成となっている。
また、クラッド層22は、金属板21にしっかりと固着されているため、クラッドロウ材シート1の曲げや、押し出し等の加工時に、クラッド層22が金属板21に追従しながら加工される。したがって、クラッドロウ材シート1が形状変化されても、クラッド層22の金属板21からの脱落や、ヒビ割れ等を生ずることはほとんどない。
つまり、クラッドロウ材シート1は、上記構成により、ロウ付け性を有し、かつ、形状変化が可能であるため施工性が良いといえる。
【0034】
続いて、上記構成のクラッドロウ材シート1を用いた本実施形態の補修方法について説明する。
【0035】
図3は、本実施形態における補修構造体Hの斜視図を示す。
補修構造体Hは、タービン翼(補修対象部材)100に生じたクラック(欠陥部位)30、31、40、50をクラッドロウ材シート1で補修したものである。
【0036】
タービン翼100は、蒸気やガス等の流体を翼形部110に当てて、回転運動力を得る部材である。本実施形態では、タービン翼100は、ニッケル基合金を母材として形成される。
タービン翼100の用いられる苛酷な環境下において、例えば、長時間に亘って高温の熱や負荷を受けることによる疲労損傷や、飛来異物の衝突による損傷等を受けることによって、タービン翼100にクラック30、31、40、50が発生する。
【0037】
クラック30、31は、タービン翼100の曲面であって、翼形部110上の中央に生じた亀裂である。また、クラック40は、翼形部110の右先端部に生じた亀裂である。そして、クラック50は、タービン翼100を保持する保持部120の角である直角形状部に生じた亀裂である。
クラック30、31、40、50は、例えば、100マイクロメートル以下の幅の亀裂である。
【0038】
次に、上記クラック30、31、40、50の補修方法について、図4、図5及び図6に基づいて説明する。
【0039】
図4(A)〜(C)は、タービン翼100の翼形部110上のような曲面におけるクラッドロウ材シート1を用いたクラック30の補修方法について順次、図示している。
図5(A)〜(C)は、タービン翼100の翼形部110の右先端部のような鋭角に尖った部分におけるクラッドロウ材シート1を用いたクラック40の補修方法について順次、図示している。
図6(A)〜(C)は、タービン翼100の保持部120の直角形状部のような直角に変形した部分におけるクラッドロウ材シート1を用いたクラック50の補修方法について順次、図示している。
【0040】
始めに、図4に示す、曲面における補修方法について説明する。
図4(A)は、クラック30の大きさに対応して適当な大きさに裁断された、平板状のクラッドロウ材シート1を示す。
まず、該平板状のクラッドロウ材シート1をクラック30を含むタービン翼100の形状に対応させて変形させる。より詳しくは、クラッドロウ材シート1をクラック30が発生した翼形部110の曲率と略同一の曲率の曲面を有する形状に湾曲させる。
当該湾曲によって、クラッドロウ材シート1は、クラック30を含む翼形部110の形状に合わせて、タービン翼100に密接することができる。
【0041】
湾曲されたことによって、図4(B)に示す、突形状を金属板21側に有するクラッドロウ材シート1が形成される。
次に、図4(C)に示すように、クラッド層22がクラック30に対面するように、湾曲されたクラッドロウ材シート1を翼形部110上にクラック30を覆う形で載置する。
【0042】
そして、クラッドロウ材シート1の載置後、クラッドロウ材シート1をクラッドロウ材シート1の縁部に沿って複数点、スポット的に加熱し、クラッド層22の一部を溶解させることで、翼形部110に予備的にロウ付けする。
当該予備的ロウ付けによって、クラッドロウ材シート1のクラック30からのズレや、剥離等を抑制することができる。
【0043】
最後に、タービン翼100の翼形部110に予備的にロウ付けされたクラッドロウ材シート1及びタービン翼100を真空炉、雰囲気炉等の加熱炉内に載置し、全体をクラッド層22の融点(例えば、約1080℃)まで加熱する。
当該加熱によって、クラッドロウ材シート1のクラッド層22を全体に亘って溶解させ、クラッドロウ材シート1をクラック30を覆うように翼形部110にしっかりとロウ付けする。
【0044】
タービン翼100は、当該ロウ付けによって、クラック30が覆われるとともに、クラック30にロウ材が侵入し、亀裂間を充填することで補修される。
なお、クラッドロウ材シート1の金属板21及びタービン翼100は、ニッケルを主成分とする合金であるから、加熱炉内での加熱時、金属板21を有するクラッドロウ材シート1と、タービン翼100とが同一に膨張するため、膨張量の差で生じるクラック30からのズレや、剥離等を抑制することができる。
なお、同じ曲面上に生じたクラック31も上記と同様の補修方法によって補修されることとなる。
【0045】
次に、図5に示す、鋭角先端部における補修方法について説明する。なお、図4の補修方法と工程を同じくする部分の説明は省略する。
まず、図5(A)に示す、平板状のクラッドロウ材シート1をクラック40を含む翼形部110の鋭角先端部の形状に対応させて変形させる。
ここで、図5(B)に示すように、クラッドロウ材シート1は、翼形部110の先端部の角度より若干鋭角の角度に塑性変形させるのが好ましい。該変形により、クラッドロウ材シート1をクラッド層22がクラック40に対して覆うように載置する場合、弾性力を利用し、翼形部110の鋭角先端部を挟持させることができるためである。したがって、クラッドロウ材シート1のクラック40からのズレや、剥離等をより確実に抑制することができる。
【0046】
そして、図5(C)に示すように、鋭角に変形したクラッドロウ材シート1をクラッド層22がクラック40に対して覆うように載置した後、スポット的に加熱し、クラッド層22の一部を溶解させることで、翼形部110の鋭角先端部に予備的にロウ付けする。
最後に、翼形部110の鋭角先端部に予備的にロウ付けされたクラッドロウ材シート1及びタービン翼100を真空炉等の加熱炉内に載置し、加熱することで、クラック40が補修される。
【0047】
次に、図6に示す、直角形状部における補修方法について説明する。同じく、図4の補修方法と工程を同じくする部分の説明は省略する。
まず、図6(A)に示す、平板状のクラッドロウ材シート1をクラック50を含む保持部120の直角形状部に対応させて変形させる。当該変形は、直角形状の部材を用いて、クラッドロウ材シート1を直角に加工するのが好ましい。
当該変形によって、図6(B)に示す、直角形状を有するクラッドロウ材シート1が形成される。
【0048】
そして、図6(C)に示す、直角に変形したクラッドロウ材シート1をクラッド層22がクラック50に対して覆うように載置した後、スポット的に加熱し、クラッド層22の一部を溶解させることで、保持部120の直角形状部に予備的にロウ付けする。
最後に、保持部120の直角形状部に予備的にロウ付けされたクラッドロウ材シート1及びタービン翼100を真空炉等の加熱炉内に載置し、加熱することで、クラック50が補修される。
【0049】
なお、各欠陥部位に予備的に複数のクラッドロウ材シート1が貼付されたタービン翼100を真空炉で一括的に加熱し、ロウ付けすることで、一度の加熱工程で、複数の欠陥部位を補修することができる。
【0050】
上記補修方法により、補修された補修構造体Hは、クラック30、31、40、50をクラッドロウ材シート1のロウ付けによる貼付によって塞がれる。
また、補修構造体Hは、高温の熱に晒されても、タービン翼100と、クラッドロウ材シート1の金属板21とがニッケル基合金であり、同一材料である。したがって、タービン翼100と、クラッドロウ材シート1の金属板21との膨張量の差で生じる熱応力を軽減させることができる。
なお、補修構造体Hは、磨耗によってタービン翼100の薄くなった部位にクラッドロウ材シート1を重ねて貼付し、肉盛することで磨耗部位を補修されると共に補強されることもできる。
【0051】
したがって、上述の本実施形態によれば、タービン翼100の欠陥部位(クラック30、31,40,50)に、シート状の金属板21と、金属板21の少なくとも一方の面にロウ材粉末2を固着させて成るクラッド層22とを有するクラッドロウ材シート1で覆って貼付し、加熱する補修方法を採用することで、クラックや、磨耗等の欠陥部位に、ロウ付け性を有するクラッドロウ材シート1で覆い、加熱によりロウ付けすることで、タービン翼100を補修することができる。つまり、ロウ付け性を有するクラッドロウ材シート1を用いることで、別途ロウ材を用いる必要はなくなり、直接欠陥部位に貼付することで補修することができる。また、クラッドロウ材1シートは、金属板21に固着したクラッド層22が金属板21に追従するため、欠陥部位の形状に合わせて変形させることができる。
したがって、本実施形態によれば、施工性が良く、安価な、欠陥部位の補修方法を実現することができる効果がある。
【0052】
また、本実施形態では、クラッドロウ材シート1の縁部に沿って、スポット的に加熱して、クラッドロウ材シート1をタービン翼100に保持させた後に、クラッドロウ材シート1を一括的に加熱するという補修方法を採用することで、クラッドロウ材シート1を予備的にタービン翼100に固着させた後、全体を加熱し、ロウ付けすることができる。
したがって、クラッドロウ材シート1の欠陥部位からのズレや、剥離等を抑制することができる効果がある。
【0053】
また、本実施形態では、複数の欠陥部位に対して、各欠陥部位毎にクラッドロウ材シート1をタービン翼100にそれぞれ保持させた後に、複数のクラッドロウ材シート1を一括的に加熱するという補修方法を採用することで、複数の欠陥部位を一度の加熱で補修することができる。
したがって、ロウ付けの加熱工程の効率化が図れる効果がある。
【0054】
また、本実施形態では、欠陥部位を含むタービン翼100の形状に対応させて、クラッドロウ材シート1を変形させた後に、タービン翼100に貼付するという補修方法を採用することで、欠陥部位を有するタービン翼100の複雑な形状に対応したクラッドロウ材シート1で補修することができる効果がある。
【0055】
また、本実施形態では、金属板21と、タービン翼100とが、同一材料で形成されるという補修方法を採用することで、欠陥部位にロウ付けする加熱時、金属板21を有するクラッドロウ材シート1と、タービン翼100とが同一材料であることから、膨張量の差で生じる剥離、脱落等をより確実に防止できる効果がある。
【0056】
また、本実施形態によれば、欠陥部位を有し、欠陥部位に、シート状の金属板21と、該金属板21の少なくとも一方の面にロウ材粉末2を固着させて成るクラッド層22とを有するクラッドロウ材シート1が貼付されている補修構造体Hであるという構成を採用することで、補修構造体Hは、クラックや、磨耗等の欠陥部位に、ロウ付け性を有するクラッドロウ材シート1で覆われることで補修される。つまり、高価なアモルファスロウ材シートを用いることなく、施工性が良く、安価な、クラッドロウ材シート1で欠陥部位が補修される。
したがって、本発明によれば、施工性が良く、安価な、補修構造体Hを形成することができる効果がある。
【0057】
また、本実施形態では、クラッドロウ材シート1は、欠陥部位を含む補修構造体Hの形状に対応して、変形されているという構成を採用することで、欠陥部位を有する補修構造体Hの複雑な形状に対応したクラッドロウ材シート1で補修される。
【0058】
また、本実施形態では、金属板21は、補修構造体Hと同一材料で形成されるという構成を採用することで、外部から加熱された場合、金属板21を有するクラッドロウ材シート1と、補修構造体Hとが同一材料であることから、補修構造体Hが受ける、膨張量の差で生じる熱応力を軽減させることができる。
【0059】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0060】
例えば、上記実施形態において、補修対象物は、タービン翼100であると説明した。しかしながら、本発明は、補修対象物がタービン翼100に限定されるものではなく、広く、例えば、金属部品一般にも適用可能である。
【0061】
また、例えば、上記実施形態では、各欠陥部位毎にクラッドロウ材シート1を貼付すると説明した。しかしながら、本発明は、図7に示すような、複数の欠陥部位(クラック30、31、40)にクラッドロウ材シート1が一括して貼付されるという構成であっても適用可能である。
このような構成を採用することで、複数の欠陥部位(クラック30、31、40)が一枚のクラッドロウ材シート1で補修される。したがって、各欠損部位の形状に合わせてクラッドロウ材シート1を裁断するという工程を省略することができるため、補修工程の短縮化を図れる効果がある。
【0062】
また、上記実施形態では、金属板21と、タービン翼100とが同一材料で形成されると説明した。しかしながら、本発明は、金属板21と、タービン翼100とが略同一の線膨張係数を有する構成であっても適用可能である。
このような補修方法を採用することで、欠陥部位にロウ付けする加熱時、金属板21を有するクラッドロウ材シート1と、タービン翼100とが略同一に膨張するため、膨張量の差で生じる剥離、脱落等を防止できる。
また、このような補修方法で補修された補修構造体Hは、外部から加熱された場合、金属板21を有するクラッドロウ材シート1が補修構造体Hと略同一に膨張するため、補修構造体Hが金属板21を有するクラッドロウ材シート1から受ける膨張量の差で生じる熱応力を軽減させることができる。
【0063】
また、上記実施形態では、クラッドロウ材シート1の縁部に沿って、スポット的に加熱して、クラッドロウ材シート1をタービン翼100に予備的に固着させると説明した。しかしながら、本発明は、必ずしも、スポット的に加熱して、クラッドロウ材シート1をタービン翼100に予備的に固着させる工程を経る必要はない。本発明は、別途、固定部材を用いてクラッドロウ材シート1をタービン翼100に固定させる構成であっても良い。
【0064】
また、上記実施形態において、製造装置Dは、ロウ材シート1のクラッド層22を金属板21の片面の全面に亘って形成させると説明した。しかしながら、本発明の製造装置Dは、金属板21の両面の全面に亘ってクラッド層22を形成させることも可能である。この場合、製造装置Dは、図2に示すホッパ3Bと、ベルトフィーダ5Bとを稼動させ、圧延ローラ4Bの周面にロウ材粉末2を供給することで、金属板21の両面にクラッド層22を形成させることができる。
【0065】
また、上記実施形態において、ロウ材粉末2は、ロウ(BNi−5)、ニッケル、クロム及びシリコンの混合粉末から構成されると説明した。しかしながら本発明におけるロウ材粉末2は、必ずしも上記構成に限定されない。ロウ材粉末2は、例えば、JIS規格のBNi−2であれば、ニッケル(Ni)粉末とニッケル−クロム(Ni−Cr)合金粉末とニッケル−ボロン(Ni−B)合金粉末と鉄−クロム(Fe−Cr)合金粉末と鉄−ニッケル(Fe−Ni)合金粉末と鉄−シリコン(Fe−Si)合金粉末とを混合し、全体の総和の成分比がニッケル(Ni)を母材成分とし、クロム(Cr)が6wt%以上かつ8wt%以下、ボロン(B)が2.75wt%以上かつ3.5wt%以下、鉄(Fe)が2.5wt%以上かつ3.5wt%以下、シリコン(Si)が4wt%以上かつ5wt%以下となるように調合したものであっても良い。
【符号の説明】
【0066】
1…クラッドロウ材シート(クラッドシート)、2…ロウ材粉末(粉末)、21…金属板(基材)、22…クラッド層、30,31,40,50…クラック(欠陥部位)、100…タービン翼(補修対象部材)、H…補修構造体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
欠陥部位を有し、前記欠陥部位に、シート状の基材と、該基材の少なくとも一方の面にロウ材組成を有する粉末を固着させて成るクラッド層とを有するクラッドシートが貼付されていることを特徴とする補修構造体。
【請求項2】
前記クラッドシートは、前記欠陥部位を含む前記補修構造体の形状に対応して、変形されていることを特徴とする請求項1に記載の補修構造体。
【請求項3】
前記基材は、前記補修構造体と略同一の線膨張係数を有することを特徴とする請求項1または2に記載の補修構造体。
【請求項4】
前記基材は、前記補修構造体と同一材料で形成されることを特徴とする請求項3に記載の補修構造体。
【請求項5】
複数の前記欠陥部位を有し、前記クラッドシートが一括して貼付されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の補修構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−236234(P2012−236234A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−186805(P2012−186805)
【出願日】平成24年8月27日(2012.8.27)
【分割の表示】特願2007−327668(P2007−327668)の分割
【原出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)