説明

製品染め用高伸度ミシン糸

【課題】 芯糸を鞘糸で完全に被覆することで製品染めに使用でき、且つ少なくとも15%以上の切断伸度を有することによりストレッチ素材の伸びへの縫い目の追随性を高めた製品染め用高伸度ミシン糸を提供すること。
【解決手段】 予め加撚した合成樹脂マルチフィラメントを芯糸とし、セルロース系繊維を鞘糸とした複合糸であって、鞘糸の重量比が65%以上80%以下であり、撚糸加工後に浴中処理を施され、且つ切断伸度が15%以上ある製品染め用高伸度ミシン糸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はストレッチ生地の伸びへの追随性に優れ、且つ製品染めできるミシン糸に関する。
【背景技術】
【0002】
現在ジーンズ等の綿素材対応の製品染め用ミシン糸は、主として外部から縫い目が見える部分(針糸)には綿糸を、また外部から見えない部分(下糸)には、芯糸がポリエステルやナイロンで鞘糸には綿を用いたコアヤーンが使用されている。
【0003】
綿素材の製品染め用には同じ綿ミシン糸が適していることは自明の理であるが、綿ミシン糸はポリエステルミシン糸やナイロンミシン糸と比較して引張強力や縫い目の耐久性が劣る。
【0004】
また、最近はストレッチ性を持つジーンズが浸透してきているが、綿ミシン糸は切断伸度が5〜7%と低く生地の伸びへの追随性に欠け、縫い目切断を起こし易い。
【0005】
一方、合成繊維フィラメントを芯糸として、そのまわりに綿等の短繊維を包絡した複合糸からなるコアヤーンミシン糸のように、縫い目の耐久性や生地の伸びへの追随性を高めた糸もある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特公昭59−11694号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記[特許文献1]で示されるようなコアヤーンミシン糸は、縫い目の耐久性や生地の伸びへの追随性については問題ないが、鞘糸である綿による芯糸の被覆が完全ではなく、縫製後の製品を反応染料等で染色すると、ポリエステルやナイロン等の芯糸部分が染まらずに白く露出してしまうという問題があり、外部から見える部分には使用出来ない。
【0007】
また、レーヨン等のセルロース系繊維100%のミシン糸も市販されており、これらは綿と同様に染色することが可能で、引張強さは綿100%のミシン糸を若干上回るが、切断伸度はほぼ綿ミシン糸並みに過ぎず、ストレッチ素材への使用には適さない。
【0008】
したがって、特にストレッチジーンズの製品染め用ミシン糸としては、反応染料ないし直接染料により染色可能で且つ、高い切断伸度を有するミシン糸が求められている。
【0009】
以上より、この発明は、芯糸を鞘糸で完全に被覆することで、縫製後に製品染めしても芯糸が白く露出することがなく、且つ少なくとも15%以上の切断伸度を有することにより、ストレッチ素材の伸びへの縫い目の追随性を高めた製品染め用高伸度ミシン糸を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
ここで発明者は、村田機械株式会社が製造販売している革新紡績機“MURATA VORTEX SPINNER”(以下MVS(商標登録第2699249号の2)革新紡績機と略す)で加工したコアヤーンは糸の構成上、鞘糸による芯糸の被覆性が高いことに着目し、鞘糸が糸全体に占める比率を一定以上に設定することにより、芯糸であるポリエステルやナイロンをほぼ完全に被覆せしめ、製品染め後に芯糸が白く露出することがないミシン糸用単糸を製造した。
【0011】
さらに、使用する芯糸に予め撚りを施すことにより、鞘糸の芯糸への絡みつきを抑え、芯糸の伸びがミシン糸の伸びに有効に寄与できるようにし、加えて撚糸加工後に浴中処理をすることにより、切断伸度をアップさせた。
【0012】
すなわち、この発明は、予め加撚した合成繊維マルチフィラメントを芯糸とし、セルロース系繊維を鞘糸とした複合糸であって、鞘糸の重量比が65%以上80%以下であり、撚糸加工後に浴中処理を施され、且つ切断伸度が15%以上あるミシン糸である。
【0013】
鞘糸のセルロース繊維を重量比で65%以上80%以下、さらに好ましく75%以上80%以下に設定して紡績することにより、製品染め時の芯糸の露出を抑えることができると共に、上記精紡の前に芯糸の合成繊維マルチフィラメントに予め加撚すること、および上撚り加工後に浴中処理を施すことにより、15%以上の切断伸度を得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、ストレッチジーンズ生地への製品染めに対応でき、且つ生地の伸びへの追随性に優れたミシン糸が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のミシン糸単糸の芯糸には、繊度が44dtexないしは167dtexで、引張強度が4.0gf/d以上、切断伸度が15%以上のポリエステルまたはナイロン原糸が適している。
【0016】
この芯糸に、精紡時の鞘糸の絡みつきを抑え、芯糸の伸びがミシン糸の伸びに有効に寄与できるようにするため、撚り係数2,000〜12,000の撚りをS方向に入れる。
【0017】
上記芯糸と、綿やレーヨン等のセルロース系繊維スライバーを用いて、MVS(登録商標)革新紡績機により単糸を加工するが、この時鞘糸が全体に占める比率を少なくとも65%以上80%以下、さらに好ましくは75%以上80%以下に設定する。
【0018】
鞘糸比率が70%以下では鞘糸による芯糸の被覆がやや不完全になるものの、実用上大きな支障とはならないが、60%以下になると縫製後に製品染めした際に染まらなかった芯糸が白く露出してしまい、製品染め用糸としては不適となる。
【0019】
また、80%を超えると引張強さおよび切断伸度の点で、綿糸に対する優位性を失ってしまう。
【0020】
こうしてできた単糸に、糸締りを向上させるために撚り係数0.2〜3.0の設定でS方向に追撚し、さらに複数本合糸して追撚数の1〜3倍の上撚りをZ方向に入れる。
【0021】
この撚り糸を、110〜130℃で20分浴中処理をすることで糸を収縮させ、さらなる切断伸度のアップを図る。
【0022】
この糸にミシン糸油剤を附与して、コーンボビンに製品巻きする。
【0023】
このようにしてできたミシン糸で綿生地を縫製後に反応染料で染色すると、縫製してあるミシン糸も生地と同等に染まり、また芯糸が白く露出することもなく、製品染め用ミシン糸として十分使用できる。
【0024】
また、このミシン糸の引張強力は通常の綿ミシン糸と比較してほぼ同等であり、切断伸度は通常の綿ミシン糸と比較して高く、縫製後の生地の伸びへの追随性が高い。
【実施例1】
【0025】
以下実施例をあげて本発明を具体的に説明する。
【0026】
なお実施例における測定値は、次の方法で得たものである。
【0027】
(1)ミシン糸繊度(dtex)および番手(Ne)
通常の検尺機を用いてサンプル長90mの綛を採取し、デシケーター内で一昼夜乾燥後、重量を測定し算出した。
【0028】
(2)ミシン糸切断伸度(%)およびミシン糸引張強力(N)
JIS−L−2511に記載される引張試験に準じ、島津製作所製オートグラフ引張試験機を用いて20回測定し、平均値を出した。
【0029】
(3)芯糸撚り係数
芯糸の撚り係数については、撚り係数(k)=撚り数(T/m)×√(デニール数)で算出した。
【0030】
(4)単糸撚り係数
単糸の撚り係数は、撚り係数(k)=撚り数(T/インチ)÷√(英式綿番手数)で算出した。
【0031】
(5)実測下撚り数/上撚り数
通常の検撚機を用い、試長25cmで下撚りは解撚加撚法、また上撚りは解撚法でそれぞれ20回測定し、平均値を算出した。
【0032】
(6)可縫性
可縫性はジューキ製本縫いミシンを用い、回針数4,500rmpでT/Cブロード(♯4,000)6枚重ね生地を、ミシン針♯16、縫い目ピッチ12針/3cmの条件で4mの長さを連続3回縫製し、縫製可能な上糸張力域の広さで評価した。
【0033】
(7)製品染色性
製品染色性は、ジューキ製本縫いミシンで長さ30cm、幅5cmの綿布を2枚重ねて縫製し、反応染料で濃紺色に染色してソーピング、乾燥後に芯糸の露出を目視で判定した。
【0034】
[本発明例1]
78dtexのポリエステル原糸にS方向に1,150T/mの撚りを入れたものを芯糸とし、鞘糸に綿スライバー(コーマー糸が望ましい)を用い、MVS(登録商標)革新紡績機により鞘糸の巻き付け方向をSとして、芯:鞘比率を20:80になるよう設定して精紡し、約16番手の単糸とする。
【0035】
これをS方向に520T/m追撚したものを2本引き揃え、Z方向に560T/mの上撚りを掛ける。
【0036】
次に、この糸に130℃×20分浴中処理を施した後、ミシン糸油剤を附与する。
【0037】
最後にコーンボビンに巻いて製品とする。
【0038】
本発明例1の切断伸度は17%で、通常の綿ミシン糸の伸び率である5〜7%を大きく上回り、ストレッチ素材を縫製した際の縫い目の伸びへの追随性は高い。
【0039】
可縫性試験の結果は、市販されている通常の綿/ポリエステルコアヤーンの♯30と比較すると、上糸張力の高い領域ではやや劣るものの、通常使用される張力域では問題なく縫製できた。
【0040】
さらに本発明例1を用いて綿素材を縫製後に反応染料で染色した結果、染め残りの芯糸露出はほとんど認められなかった。
【0041】
[本発明例2]
78dtexのナイロン原糸にS方向に1,000T/mの撚りを入れたものを芯糸とし、鞘糸に綿スライバーを用い、MVS(登録商標)革新紡績機により巻き付け方向をSとして、芯:鞘比率を25:75になるよう設定して精紡し、約19番手の単糸とする。
【0042】
これをS方向に180T/m追撚したものを2本引き揃え、Z方向に370T/mの上撚りを掛ける。
【0043】
次に、この糸をソフト巻きして120℃×20分浴中処理を施した後、ミシン糸油剤を附与して、コーンボビンに巻き取る。
【0044】
本発明例2の切断伸度は19%とさらに高く、可縫性および製品染め性も問題ない。
【0045】
【表1】

【0046】
[本発明例3]
同様にナイロン原糸(78dtex、S方向1,000T/m)を芯糸として精紡し、追撚350T/m、上撚り600T/m、120℃×20分浴中処理を施した後、ミシン糸油剤を附与してコーンボビンに巻き取った。
【0047】
本発明例3も切断伸度は18%で、可縫性および製品染め性についても問題ない。
【0048】
[比較例1]
無撚りの78dtexポリエステル原糸を用い、本発明例1と同様に加工した結果、切断伸度は10%で縫製後の生地の伸びへの追随性は小さい。
【0049】
[比較例2]
本発明例3と同様に撚り加工し、浴中処理のみ省いた糸の切断伸度は13%で、生地の伸びへの追随性は十分でない。
【0050】
[本発明例4]
本発明例2と同じ芯糸を使用し、芯:鞘比率を30:70に設定して精紡し、以下本発明例2と同じ条件で加工した糸は、製品染めの結果僅かに芯糸の露出が認められたが、実用上大きな問題となるレベルではない。
【0051】
【表2】

【0052】
[本発明例5]
110dtexナイロン原糸に800T/m加撚したものを芯糸として、芯:鞘比率を35:65に設定して精紡し、S方向に180T/m追撚した後2本引き揃えてZ方向に370T/m上撚りを入れ、浴中処理した。
【0053】
本発明例5の切断伸度は24%と高く生地の伸びへの追随性は高いが、製品染めの結果は若干芯糸の露出が認められた。(実用上大きな問題となるレベルではない。)
【0054】
[比較例3]
110dtexナイロン原糸に800T/m加撚したものを芯糸として、芯:鞘比率を40:60に設定して精紡し、S方向に130T/m追撚した後2本引き揃えてZ方向に410T/m上撚りを入れ、浴中処理した。
【0055】
比較例3の切断伸度は26%と高いが、製品染めの結果は芯糸が白く露出し、不適であった。
【0056】
[参考例]
その他、無撚りのポリエステルを芯糸として、通常のリング精紡機を用いて鞘糸比率が38%になるよう精紡したコアヤーンミシン糸(参考例1)、同様に無撚りのナイロンを芯糸として鞘糸比率が45%になるようリング精紡したコアヤーンミシン糸(参考例2)およびレーヨン100%のスパンミシン糸(参考例3)の特性を参考例として示す。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め加撚した合成繊維マルチフィラメントを芯糸とし、セルロース系繊維を鞘糸とした複合糸であって、鞘糸の重量比が65%以上80%以下であり、撚糸加工後に浴中処理を施され、且つ切断伸度が15%以上あることを特徴とするミシン糸。

【公開番号】特開2006−28668(P2006−28668A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−207059(P2004−207059)
【出願日】平成16年7月14日(2004.7.14)
【出願人】(591030020)株式会社フジックス (5)
【Fターム(参考)】