説明

製塩設備及び製塩方法

【課題】製塩設備の簡素化、製塩工程の効率化を図ることのできる製塩技術を提供する。
【解決手段】 製塩設備は、天然海水などの液体を収容する主処理容器11と、主処理容器11内の収容物を加熱する水蒸気を通すジャケット16と、主処理容器11内の収容物を撹拌する撹拌機構12と、主処理容器11内の収容物を排出するため主処理容器11の底部11bに設けられた第一排液経路24及び第二排液経路25と、を有する濃縮装置10xと、主処理容器11から第一排液経路24を経由して移送された収容物を収容可能な副処理容器と、副処理容器と連通する排出経路と、を有する分離装置と、を備え、主処理容器11内の底部11bに、第一排液経路24に連通し且つ主処理容器11内の上方に向かって突出した円筒状の集液部26を設けている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海洋から採取した海水を原料とする食塩製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
天然海水を加熱濃縮して食塩を製造する工程においては、食用に適さない硫酸カルシウムが生じるため、これを除去する必要がある。硫酸カルシウムは、水に溶け難く、水中で沈殿する性質があるため、従来の製塩工程においては、濃縮釜内にて塩分濃度が12〜15%になるまで煮詰めた海水を沈殿除去槽へ移し、沈静状態に保って硫酸カルシウムを沈殿させた後、当該硫酸カルシウムを沈殿除去槽の下端に設けられたドレインパイプから排出、除去する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開2001−213620号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1記載の製塩方法においては、濃縮釜で煮詰めた海水の全量を沈殿除去槽へ移送しなければならないので、移送作業に長時間を要している。また、沈殿除去槽において硫酸カルシウムを除去する際に、沈殿した塩の一部が流出することがあるため、歩留まりの悪化の原因となっている。
【0005】
また、特許文献1記載の製塩方法は、沈殿除去槽にて硫酸カルシウムが除去された後の濃縮海水(上澄み)を、さらに蒸発結晶釜へ移送して食塩を得る構成であるため、少なくとも、濃縮釜、沈殿除去槽及び除蒸発結晶釜と、これらの装置間で濃縮塩水などを移送するための多数の配管が必要であり、製塩設備の複雑化を招いている。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、製塩設備の簡素化、製塩工程の効率化を図ることのできる製塩技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の製塩設備は、天然海水などの原料塩水を収容する主処理容器と、前記主処理容器内の収容物を加熱する加熱手段と、前記主処理容器内の収容物を撹拌する撹拌機構と、前記主処理容器内に生成される濃縮塩水中の沈殿物を排出するため当該主処理容器の底部に設けられた第一排液経路と、前記主処理容器内に生成される結晶塩を含む飽和塩水を排出するため当該主処理容器の底部に設けられた第二排液経路と、前記第一排液経路に連通し当該主処理容器内の底部から上方へ突出した状態で設けられた筒状の集液部と、を有する濃縮装置と、
前記主処理容器から前記第一排液経路を経由して排出される前記沈殿物を含む濃縮塩水を収容する副処理容器と、前記副処理容器内の濃縮塩水中に形成される再沈殿物を排出するため当該副処理容器の底部に設けられた排出経路と、を有する分離装置と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
このような構成とすれば、濃縮装置の主処理容器内で原料塩水を加熱して生成された濃縮塩水中に生じた硫酸カルシウムなどの沈殿物を、第一排液経路を経由して、分離装置の副処理容器に移送することができる。このとき、沈殿物は、主処理容器内の底部から上方へ突出した筒状の集液部内を経由して排出されるため、主処理容器内の底部に析出した結晶塩が沈殿物と共に流出するのを抑制することができる。また、主処理容器内の沈殿物を副処理容器に移送し終えた後の上澄み濃縮塩水はそのまま主処理容器内に残すので、主処理容器内の収容物の全量を他の処理容器へ移送する場合に比べ、移送時間を短縮することができる。
【0009】
副処理容器内への移送完了後、静置すると、当該副処理容器内の底部に硫酸カルシウムなどの再沈殿物層が形成され、その上方に上澄み濃縮塩水が形成されるため、再沈殿物は副処理容器の底部の排出経路を経由して選択的に排出することができる。また、当該副処理容器内に残った濃縮塩水(上澄み液)は前記主処理容器内へ戻して、再び加熱濃縮工程に供することができる。
【0010】
このように、本発明の製塩設備は、濃縮装置の主処理容器において原料塩水の濃縮、硫酸カルシウムなどの沈殿を行い、分離装置の副処理容器において硫酸カルシウムなどの再沈殿及び排出除去を行うため、主処理容器内の収容物全量を副処理容器へ移送する必要がなくなり、製塩工程の効率化を図ることができる。また、副処理容器内に残った濃縮塩水(上澄み液)は主処理容器内へ戻して、再び加熱濃縮工程に供するので、主処理容器及び副処理容器の二つの反応容器で製塩作業を進めることが可能となり、製塩設備を簡素化することができる。
【0011】
ここで、前記副処理容器内の濃縮塩水中に形成される再沈殿物と上澄み濃縮塩水との境界に出し入れ可能に配置される隔離部材を備えることが望ましい。このような構成とすれば、副処理容器内に形成された上澄み濃縮塩水と再沈殿物との再混合を防ぐことができるので、副処理容器内の再沈殿物を効率的に排出することができる。
【0012】
この場合、前記隔離部材の嵩比重を、前記沈殿物の比重より小さく、前記濃縮塩水の比重より大とすることが望ましい。このような構成とすれば、再沈殿物と上澄み濃縮塩水とが分離した状態にある副処理容器内に隔離部材を静かに装入すれば、前述した比重差により、隔離部材は上澄み濃縮塩水中を沈下し、上澄み濃縮塩水と再沈殿物との境界に止まるので、配置作業が容易となる。
【0013】
一方、前記隔離部材の嵩比重を前記上澄み濃縮塩水の比重より小さくし、前記副処理容器内の濃縮塩水中に形成される再沈殿物と上澄み濃縮塩水との境界まで前記隔離部材を沈下させるための重錘を当該隔離部材に着脱可能に装着することもできる。このような構成とすれば、重錘無し状態の前記隔離部材を前記副処理容器内に装入して上澄み濃縮塩水に浮かべた後、適切な質量の重錘を前記隔離部材に装着することにより、再沈殿物と上澄み濃縮塩水との境界まで当該隔離部材を沈下させることができる。従って、上澄み濃縮塩水の比重が変動した場合も前記重錘の質量を増減することにより、隔離部材を再沈殿物と上澄み濃縮塩水との境界に正確に配置することができる。
【0014】
ここで、前記集液部に貫通孔を設けることが望ましい。このような構成とすれば、硫酸カルシウムなどの沈殿物は、前記集液部の貫通孔を通して排出された後、副処理容器内へ移送されるため、移送時間をさらに短縮化することができる。なお、処理容器内の底部付近に析出した塩は貫通孔に流入する際に速やかにブリッジを形成するため、その後の貫通孔への塩の流入を抑制することができる。
【0015】
前記主処理容器内の底面における前記第二排液経路の開口部の周縁形状を楕円形若しくは長円形とすることが望ましい。このような構成とすれば、処理容器内に析出した結晶塩を飽和塩水とともに前記第二排液経路から排出する際に、開口部に結晶塩のブリッジが形成されるのを回避することができるため、排液作業の効率化に有効である。
【0016】
一方、本発明の製塩方法は、海水などの原料塩水中の水分を減少させて形成した濃縮塩水を主処理容器内で静置して沈殿物を生成させる一次沈静工程と、前記主処理容器内に生成された沈殿物を副処理容器内へ移送して静置する二次沈静工程と、前記副処理容器内に生成された再沈殿物を排出する分離工程と、前記分離工程において前記副処理容器内に残した濃縮塩水を前記主処理容器内へ移送する工程と、を備えたことを特徴とする。
【0017】
このような構成とすれば、主処理容器において原料塩水の濃縮及び硫酸カルシウムなどの沈殿物の除去を行い、副処理容器において硫酸カルシウムなどの再沈殿物の除去を行うことができる。従って、主副二つの処理容器で製塩作業を行うことが可能となり、製塩設備の簡素化を図ることができ、主処理容器の収容物の全量を副処理容器へ移送する必要もなくなり、製塩工程の効率化を図ることができる。
【0018】
また、前記分離工程において、前記副処理容器内に生成された再沈殿物とその上澄みである濃縮塩水との境界に隔離部材を配置した状態で前記再沈殿物を排出することが望ましい。このような構成とすれば、副処理容器内に形成された上澄み濃縮塩水と再沈殿物との再混合を防ぐことができるので、副処理容器内の再沈殿物を効率的に排出することができる。この場合、隔離部材の嵩比重を上澄み濃縮塩水の比重より大きく、再沈殿物の比重より小さく設定したり、隔離部材に着脱可能な重錘を装着したりすることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、製塩設備の簡素化、製塩工程の効率化を図ることのできる製塩技術を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。図1は本発明の実施の形態である製塩設備を構成する濃縮装置を示す一部省略垂直断面図、図2は図1の一部拡大図、図3は図1のA−A線における一部省略断面図である。また、図4は本発明の実施の形態である製塩設備を構成する分離装置を示す一部省略垂直断面図、図5及び図6は図4に示す分離装置内の状態を示す一部省略垂直断面図である。
【0021】
本実施形態の製塩設備は、図1に示す濃縮装置10xと、図4に示す分離装置10yと、を備えている。図1に示すように、濃縮装置10xは、天然海水などの原料塩水を収容可能であって、その後の製塩作業を行うための主処理容器11と、主処理容器11内の収容物の加熱手段である水蒸気を通すためのジャケット16と、主処理容器11内の収容物を撹拌する撹拌機構12と、主処理容器11内の収容物を排出するため主処理容器11の底部11bに設けられた第一排液経路24及び第二排液経路25と、を有している。
【0022】
第一排液経路24及び第二排液流路25には、それぞれ開閉弁24a,25aが設けられている。また、図示していないが、主処理容器11内で発生する水蒸気を排出するための吸引ポンプ及び凝縮器と、主処理容器11と凝縮器とを連通する排気管と、凝縮器と吸引ポンプとを連通する吸引管と、が設けられている。
【0023】
主処理容器11は、中央部11cが円筒形状で、その天井部11a及び底部11bがそれぞれ滑らかな凸曲面状をした気密性容器であり、設置面G上に立設された複数の支柱15により、中央部11cの軸心(図示せず)が鉛直方向をなす状態で固定されている。図1に示すように、撹拌機構12は、主処理容器11内の前記軸心位置に配置されたシャフト12aと、その下端部に取り付けられたプロペラ状の撹拌翼12bと、シャフト12aを回転駆動するため主処理容器11の天井部11aに配置されたモータ(図示せず)及び減速機14と、を備えている。モータ(図示せず)の回転は減速機14を介してシャフト12aに伝達され、シャフト12aの回転に伴って撹拌翼12bが底部11bの内面に沿って回転する。
【0024】
主処理容器11の底部11bの下面に沿って設けられたジャケット16内へ水蒸気を供給するための給気チューブ(図示せず)と、ジャケット16内を循環した水蒸気を排出するための排気チューブ(図示せず)とが、ジャケット16の下面に接続されている。また、ジャケット16内に溜まった水分などを排出するため、その下面にドレイン(図示せず)が設けられている。
【0025】
また、図1〜図3に示すように、主処理容器11内の底部11bには、第一排液経路24に連通し且つ主処理容器11内の上方に向かって突出した円筒状の集液部26が設けられている。集液部26の上端には開口部26aが設けられ、集液部26と主処理容器11内の底部11bとの境界付近には、複数の貫通孔26bが円周方向に沿って等間隔に設けられている。さらに、図3に示すように、主処理容器11内の底部11bに開口する第二排液経路25の開口部25bの周縁形状は楕円形をなしている。
【0026】
一方、図4に示すように、分離装置10yは、第一排液経路24を経由して主処理容器11から移送された収容物(硫酸カルシウムの沈殿物など)を収容可能であって、円筒状の本体部60a及びその下方に連設された緩やかな勾配で浅い漏斗形状の底部60bとを有する副処理容器60と、底部60b下端の開口部60cと連通する排出経路27と、を備えている。排出経路27には開閉弁27aが設けられている。
【0027】
次に、図1〜図6及び図7〜図9に基づいて、濃縮装置10x及び分離装置10yを備えた製塩設備による製塩方法について説明する。図7及び図8は濃縮装置内の状態を示す垂直断面図、図9は濃縮装置内の飽和塩水と結晶塩を排出する状態を示す垂直断面図である。
【0028】
主処理容器11内に収容した天然海水(図示せず)に、当該天然海水より塩分濃度の高い塩水(図示せず)を添加することにより、塩分濃度18〜22質量%の高濃度海水を形成する(濃化工程)。そして、撹拌翼12bを回転させながら、主処理容器11のジャケット16へ高温水蒸気を供給することによって高濃度海水を加熱して水分を蒸発させる(加熱工程)。これにより、主処理容器11内の高濃度海水の水分は徐々に減少していく(一次濃縮工程の開始)。
【0029】
前記加熱工程において、主処理容器11は気密状態に保たれているため、加熱された高濃度海水から発生する水蒸気は、吸引ポンプ(図示せず)により排気管(図示せず)を経由して排出される。主処理容器11から排出された水蒸気は凝縮器(図示せず)に集められ、その内部で液化した後、所定の場所へ排出される。
【0030】
前記加熱工程の水分蒸発により高濃度海水の水分が減少したら、吸引ポンプ(図示せず)による吸引を停止し、前記減少した水分と略同量の天然海水を主処理容器11内へ補給し(補給工程)、その後、前記加熱工程を再開する。加熱工程の再開により、主処理容器11内の高濃度海水中の水分が所定量まで減少したら、前記と同様の手順で天然海水を補給する。このような加熱工程と補給工程とを複数回反復すると、高濃度海水は徐々に濃縮されていき、さらに塩分濃度の高い濃縮塩水30が形成されるとともに、当該濃縮塩水30中に硫酸カルシウム40が析出する(一次濃縮工程の終了)。
【0031】
前記一次濃縮工程により、主処理容器11内に濃縮塩水30が形成されたら、撹拌翼12bの回転及び吸引ポンプ(図示せず)を停止するとともに、ジャケット16への水蒸気供給を停止し、その状態で静置すると(一次静置工程)、図1に示すように、主処理容器11内に、硫酸カルシウム40などの沈殿物40aと、その上澄みである濃縮塩水30とが出現する。なお、一次静置工程中に、ジャケット16内へ冷水を供給して高濃度塩水を冷却すれば、硫酸カルシウム40などの沈殿速度を速めることができる。
【0032】
図1に示す状態となった後、主処理容器11の底部に接続された第一排液経路24の開閉弁24aを開けば、主処理容器11内の硫酸カルシウム40の沈殿物40aが排液経路24を経由して排出され(精製工程)、図4に示すように、分離装置10yの副処理容器60内へ移送される。この場合、図2に示すように、主処理容器11内の底部11b上面には、結晶塩Sが析出していることがあるが、結晶塩Sの上方に沈殿した硫酸カルシウム40は、底部11bより高い位置にある集液部26の開口部26aに流入するので、硫酸カルシウム40とともに結晶塩Sが流出するのを抑制することができる。
【0033】
また、集液部26の底部11b寄りの部分には、その周方向に沿って複数の貫通孔26bが90度間隔で設けられているため、底部11b付近に沈殿した硫酸カルシウム40は、これらの貫通孔26bを経由して効率良く排出される。なお、主処理容器11内の底部11b付近に析出した結晶塩Sの一部は、開閉弁24aを開いた直後、貫通孔26bに流入するが、流入中に速やかにブリッジを形成するため、その後の貫通孔26bへの結晶塩Sの流入を抑制することができる。
【0034】
このように、前記一次濃縮工程において主処理容器11内に析出、沈殿した硫酸カルシウム40のほぼ全量が、第一排液経路24を経由して、分離装置10yの副処理容器60内へ移送される。副処理容器60内への硫酸カルシウム40の移送完了後、静置すると(二次静置工程)、図4に示すように、副処理容器60内に、硫酸カルシウム40の再沈殿物40bと、その上澄みである濃縮塩水30とが現れる。
【0035】
二次静置工程より副処理容器60内において、硫酸カルシウム40の再沈殿物40bと濃縮塩水30とが明確に分離したら、図5に示すように、副処理容器60内の濃縮塩水30中へ非透水性シート状の隔離部材61を装入する。隔離部材61の嵩比重は、硫酸カルシウム40の再沈殿物40bの比重より小さく、濃縮塩水30の比重より大であるため、再沈殿物40bと上澄み濃縮塩水30とが分離した状態にある副処理容器60内に隔離部材61を静かに装入すると、前述した比重差により、隔離部材61は上澄み濃縮塩水30中を沈下していき、図5に示しように、上澄み濃縮塩水30と再沈殿物40bとの境界に止まるので、隔離部材61の配置作業は容易である。
【0036】
上澄み濃縮塩水30と再沈殿物40bとの境界に隔離部材61が静止した後、副処理容器60下方の開閉弁27aを開くと、図6に示すように、再沈殿物40bが排出経路27から徐々に排出され、所定場所へ移送される。このように、副処理容器60内に隔離部材61を配置すれば、副処理容器60内に形成された上澄み濃縮塩水30と再沈殿物40bとの再混合を防ぐことができるので、副処理容器60内の再沈殿物40bを効率的に排出することができる。
【0037】
副処理容器60内の硫酸カルシウム40の再沈殿物40bの排出が完了したら、一旦開閉弁27aを閉め、隔離部材61を副処理容器60内から取り出し、排出経路27の下流側を、図7に示す送液管28に連通させる。そして、開閉弁27aを開くと、副処理容器60内の濃縮塩水30が、濃縮装置10xの主処理容器11内へ移送され、前記精製工程において主処理容器11内に残留していた濃縮塩水30(図1参照)と混じり合う。
【0038】
この後、主処理容器11を気密状態とし、モータ及び吸引ポンプ(いずれも図示せず)を作動させ、ジャケット16へ高温水蒸気を供給して主処理容器11内の濃縮塩水30を加熱することにより、濃縮塩水30中の水分を蒸発させる(二次濃縮工程)。二次濃縮工程において濃縮塩水30から所定量の水分が蒸発すると、図8に示すように、体積が減少するとともに主処理容器11内に結晶塩Sが沈殿し、その上澄みとして飽和塩水50が生成される。
【0039】
二次濃縮工程が完了したら、図9に示すように、シャフト12aを介して撹拌翼12bを回転させ、主処理容器11内の飽和塩水50と結晶塩Sとを十分に撹拌する。この撹拌により、飽和塩水50と結晶塩Sとが十分に混じり合った状態になったら、底部11bに設けられた第二排液経路25の開閉弁25aを開いて、飽和塩水50と塩粒子Sとの混合流体を主処理容器11から排出し、所定の遠心分離装置(図示せず)へ送り込む。
【0040】
図3に示すように、主処理容器11内の底部11bに開口している、第二排液経路25の開口部25bが楕円形であるため、結晶塩Sが集まってブリッジが形成されるのを抑制することができる。従って、飽和塩水50と結晶塩Sとの混合流体は主処理容器11からスムーズに排出され、遠心分離装置(図示せず)へ送り込まれる。そして、前記遠心分離装置において結晶塩Sから飽和塩水50を分離除去すると、製品である食塩(結晶塩Sの集合体)が得られる。
【0041】
本実施形態の製塩設備においては、濃縮装置10xの主処理容器11内で加熱、濃縮して形成された濃縮塩水30を静置して形成された硫酸カルシウム40の沈殿物40aを、第一排液経路24を経由して、分離装置10yの副処理容器60に移送することができる。このとき、硫酸カルシウム40の沈殿物40aは、主処理容器11内の底部11bから上方に向かって突出状に開口した円筒状の集液部26に流入して排出されるため、主処理容器11内の底部11b付近に析出した結晶塩Sが硫酸カルシウム40の沈殿物40aと共に流出するのを抑制することができる。
【0042】
また、主処理容器11内の硫酸カルシウム40の沈殿物40aを副処理容器60へ移送した後の濃縮塩水30(上澄み液)は主処理容器11内に残すため、主処理容器11内の全量を移送して他の処理を行う場合に比べ、移送時間を短縮することができる。
【0043】
さらに、副処理容器60内に形成される硫酸カルシウム40の再沈殿物40bとその上澄みの濃縮塩水30との間に隔離部材61を配置した状態で、排出経路27の開閉弁27aを開くので、濃縮塩水30と硫酸カルシウム40の再沈殿物40bとの再混合を防ぐことができる。硫酸カルシウム40の再沈殿物40bを排出した後、副処理容器60内に残った濃縮塩水30は主処理容器11内へ戻して、再び濃縮工程に供することができる。
【0044】
このように、濃縮装置10xにおいて原料遠視の濃縮、硫酸カルシウム40の沈殿を行い、分離装置10yにおいて硫酸カルシウム40の再沈殿、除去を行うことにより、主処理容器11内の収容物全量を副処理容器60へ移送する手間を省くことができるため、製塩工程の効率化を図ることができる。また、濃縮装置10x及び分離装置10yの二つの装置によって飽和塩水50及び結晶塩Sを形成することができるため、製塩設備の簡素化を図ることができる。
【0045】
また、濃縮装置10xの主処理容器11内の硫酸カルシウム40の沈殿物40aは、集液部26の開口部26aだけでなく、複数の貫通孔26bを通して副処理容器60内へ移送されるため、移送時間をさらに短縮化することができる。なお、主処理容器11内の底部11b付近に析出した結晶塩Sは貫通孔26bに流入する際に速やかにブリッジを形成するため、その後の貫通孔26bへの結晶塩Sの流入を抑制することができる。
【0046】
また、主処理容器11内の底部11に開口する第二排液経路25の開口部25bの周縁形状を楕円形としたことにより、主処理容器11内に析出した結晶塩Sが飽和塩水50とともに第二排液経路25から排出される際に、結晶塩Sのブリッジが開口部25bに形成されるのを回避することができるため、排液作業の効率化に有効である。
【0047】
次に、図10,図11及び図12に基づいて、分離装置に関するその他の実施の形態について説明する。図10,図11及び図12はその他の実施の形態である分離装置を示す一部省略垂直断面図である。なお、図10〜図12において、図1〜図9と同符号を付している部分は、前述した分離装置10の構成部分と同じ構造、機能を有する部分であり、説明を省略する。
【0048】
図10に示すように、分離装置10vで使用する隔離部材65は、副処理容器60内の上澄み濃縮塩水30の水面全体を覆う形状のフロート部65aと、フロート部65a上面の中央に立設された支持ポール65bと、重錘66を着脱可能に保持するため支持ポール65bの上方に設けられた重錘装着部65dと、その下方に設けられた被検知体65cと、を備えている。フロート部65aの嵩比重は上澄み濃縮塩水30の比重より小さく、重錘66を装着しない状態で上澄み濃縮塩水30に浮くように設定されている。また、支持ポール65bが軸方向に下降して被検知体65cが所定位置に達したとき、それを検知して開閉弁27bを閉止するセンサ67が設けられている。
【0049】
図10に示すように、分離装置10vの副処理容器60内へ硫酸カルシウム40を移送して静置すると(二次静置工程)、前述と同様、副処理容器60内に硫酸カルシウム40の再沈殿物40bと、その上澄みである濃縮塩水30とが現れる。この工程において副処理容器60内で硫酸カルシウム40の再沈殿物40bと濃縮塩水30とが明確に分離したら、重錘66無し状態の隔離部材65を副処理容器60内に装入してフロート部65aを上澄み濃縮塩水30の水面に浮かべる。
【0050】
そして、図11に示すように、副処理容器60の上面開口部から突出した支持ポール65b上方の重錘装着部65dに適切な質量の重錘66を装着することにより、当該隔離部材65のフロート部65aを再沈殿物40bと上澄み濃縮塩水30との境界まで沈下させる。このとき、フロート部65aの沈下距離は、支持ポール65bに設けられた目盛り(図示せず)によって目視確認することができる。
【0051】
隔離部材65のフロート部65aが、上澄み濃縮塩水30と再沈殿物40bとの境界に静止した後、副処理容器60下方の開閉弁27bを開くと、図11に示すように、再沈殿物40bが排出経路27から徐々に排出される。このとき、再沈殿物40bの減少に伴って隔離部材65のフロート部65a及び支持ポール65bも下降するため、支持ポール65bの目盛り(図示せず)を目視確認することにより再沈殿物40bの排出状況を把握することができる。このように、副処理容器60内に隔離部材65を配置すれば、副処理容器60内に形成された上澄み濃縮塩水30と再沈殿物40bとの再混合を防ぐことができるので、副処理容器60内の再沈殿物40bを効率的に排出することができる。
【0052】
本実施形態の分離装置10vの場合、再沈殿物40bの排出作業が進行し、支持ポール65bの被検知体65cが所定位置まで下降すると、センサ67がそれを検知して開閉弁27bを自動閉止するので、再沈殿物40bの排出完了後、上澄み濃縮塩水30が誤って排出されるのを防止することができる。再沈殿物40bの排出完了後、支持ポール65bの重錘装着部65dから重錘66を離脱させれば、フロート部65aが上澄み濃縮塩水30の水面に浮上するので、副処理容器60内から隔離部材65を容易に取り出すことができる。
【0053】
隔離部材65を副処理容器60内から取り出した後、排出経路27の下流側を、図7に示す送液管28に連通させ、開閉弁27bを開くと、副処理容器60内の濃縮塩水30が、濃縮装置10xの主処理容器11内へ移送され、前記精製工程において主処理容器11内に残留していた濃縮塩水30(図1参照)と混じり合う。この後の工程は、図7〜9に基づいて説明した通りである。
【0054】
このように、隔離部材65においては、支持ポール65bの重錘装着部65dに対し重錘66が着脱可能であるため、上澄み濃縮塩水30の比重が変動した場合も重錘66の質量を増減することにより、隔離部材65の本体部65aを再沈殿物40bと上澄み濃縮塩水30との境界に正確に配置することができる。
【0055】
次に、図12に示す分離装置10zは、第一排液経路24を経由して主処理容器11(図1参照)から移送された収容物(硫酸カルシウムなどの沈殿物)を収容可能であって円筒状の本体部70a及びその下方に連設された漏斗状の凝集沈殿部70bを有する副処理容器70と、凝集沈殿部70b下端の開口部70cと連通する排出経路77と、を備えている。排出経路77には開閉弁77aが設けられている。
【0056】
第一排液経路24を経由して、硫酸カルシウムの沈殿物などを副処理容器70内へ移送した後、静置すると(二次静置工程)、副処理容器70内に硫酸カルシウム40の再沈殿物40cと上澄み濃縮塩水30とに分離するので、副処理容器70下方の開閉弁77aを開くと排出経路77から再沈殿物40cが排出され、所定場所へ移送される。副処理容器70の下部に漏斗状の凝集沈殿部70bが設けられているため、再沈殿物40c中の硫酸カルシウム40はスムーズに開口部70cへ流入し、排出経路27から効率良く排出することができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明に係る製塩設備及び製塩方法は、天然海水などの原料塩水から食塩を製造する製塩産業の分野において広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の実施の形態である製塩設備を構成する濃縮装置を示す一部省略垂直断面図である。
【図2】図1の一部拡大図である。
【図3】図1のA−A線における一部省略断面図である。
【図4】本発明の実施の形態である製塩設備を構成する分離装置を示す一部省略垂直断面図である。
【図5】図4に示す分離装置内の状態を示す一部省略垂直断面図である。
【図6】図4に示す分離装置内の状態を示す一部省略垂直断面図である。
【図7】濃縮装置内の状態を示す垂直断面図である。
【図8】濃縮装置内の状態を示す垂直断面図である。
【図9】濃縮装置から飽和塩水と結晶塩を排出する状態を示す垂直断面図である。
【図10】その他の実施形態である分離装置を示す一部省略垂直断面図である。
【図11】その他の実施形態である分離装置を示す一部省略垂直断面図である。
【図12】その他の実施の形態である分離装置を示す一部省略垂直断面図である。
【符号の説明】
【0059】
10x 濃縮装置
10v,10y,10z 分離装置
11 主処理容器
11a 天井部
11b,60b 底部
11c 中央部
12 撹拌機構
12a シャフト
12b 撹拌翼
14 減速機
15 支柱
16 ジャケット
23 吸引パイプ
24 第一排液流路
25 第二排液経路
24a,25a,27a,27b,77a 開閉弁
28 送液管
26 集液部
26a,60c,70c 開口部
26b 貫通孔
27,77 排出経路
30 濃縮塩水
40 硫酸カルシウム
40a 沈殿物
40b,40c 再沈殿物
50 飽和塩水
60,70 副処理容器
60a,70a 本体部
61,65 隔離部材
65a フロート部
65b 支持ポール
65c 被検知体
65d 重錘装着部
66 重錘
67 センサ
70b 凝集沈殿部
G 設置面
S 結晶塩

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然海水などの原料塩水を収容する主処理容器と、前記主処理容器内の収容物を加熱する加熱手段と、前記主処理容器内の収容物を撹拌する撹拌機構と、前記主処理容器内に生成される濃縮塩水中の沈殿物を排出するため当該主処理容器の底部に設けられた第一排液経路と、前記主処理容器内に生成される結晶塩を含む飽和塩水を排出するため当該主処理容器の底部に設けられた第二排液経路と、前記第一排液経路に連通し当該主処理容器内の底部から上方へ突出した状態で設けられた筒状の集液部と、を有する濃縮装置と、
前記主処理容器から前記第一排液経路を経由して排出される前記沈殿物を含む濃縮塩水を収容する副処理容器と、前記副処理容器内の濃縮塩水中に形成される再沈殿物を排出するため当該副処理容器の底部に設けられた排出経路と、を有する分離装置と、を備えたことを特徴とする製塩設備。
【請求項2】
前記副処理容器内の濃縮塩水中に形成される再沈殿物と上澄み濃縮塩水との境界に出し入れ可能に配置される隔離部材を備えた請求項1記載の製塩設備。
【請求項3】
前記隔離部材の嵩比重を、前記沈殿物の比重より小さく、前記上澄み濃縮塩水の比重より大とした請求項2記載の製塩設備。
【請求項4】
前記隔離部材の嵩比重が前記上澄み濃縮塩水より小さく、前記副処理容器内の濃縮塩水中に形成される再沈殿物と上澄み濃縮塩水との境界まで前記隔離部材を沈下させるための重錘を当該隔離部材に着脱可能に装着した請求項2記載の製塩設備。
【請求項5】
前記集液部に貫通孔を設けた請求項1〜4のいずれかに記載の製塩設備。
【請求項6】
前記主処理容器内の底面における前記第二排液経路の開口部の周縁形状を楕円形若しくは長円形とした請求項1〜5のいずれかに記載の製塩設備。
【請求項7】
海水などの原料塩水中の水分を減少させて形成した濃縮塩水を主処理容器内で静置して沈殿物を生成させる一次沈静工程と、前記主処理容器内に生成された沈殿物を副処理容器内へ移送して静置する二次沈静工程と、前記副処理容器内に生成された再沈殿物を排出する分離工程と、前記分離工程において前記副処理容器内に残した濃縮塩水を前記主処理容器内へ移送する工程と、を備えたことを特徴とする製塩方法。
【請求項8】
前記分離工程において、前記副処理容器内の再沈殿物と上澄み濃縮塩水との境界に隔離部材を配置した状態で前記再沈殿物を排出する請求項7記載の製塩方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−256136(P2009−256136A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−107214(P2008−107214)
【出願日】平成20年4月16日(2008.4.16)
【出願人】(398018777)株式会社弁天 (15)
【出願人】(399102839)博多港管理株式会社 (16)