説明

製版装置および製版印刷装置

【課題】マスタの初期セット動作に、マスタのフィルム削れやマスタ破れの発生を未然に防止して、マスタセット不良を防ぎ、白抜け等の印刷不良が発生しない製版装置および製版印刷装置を提供する。
【解決手段】マスタの初期セット動作時に、マスタ先端検知センサ7によりマスタ8の先端が検知された場合、接離手段12をしてサーマルヘッド3をプラテンローラ2より離間させた後、マスタ8を一定量またはマスタ先端検知センサ7によりマスタ8の先端が検知されなくなるまで、プラテンローラ2およびバックテンションローラ対4をして逆方向Bに搬送させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製版装置および製版印刷装置に関し、詳しくは、マスタを製版する製版装置およびこれを有する製版印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マスタを製版する製版装置およびこれを有する製版印刷装置において、使用されるマスタは、厚さ0.5〜8μm程度の薄い熱可塑性樹脂フィルムと、和紙、合成繊維、あるいは和紙と合成繊維とを混抄したもの等からなる多孔性支持体とを貼り合わせたラミネート構造になっている。
製版印刷装置としての孔版印刷装置では、上記マスタを製版した後に版胴に巻装し、版胴内部よりインキを供給すると共にプレスローラ等の押圧手段によって印刷用紙を版胴外周面に対して押圧し、版胴内部からのインキを版胴開口部およびマスタ穿孔部を介して印刷用紙に転写・転移させることで孔版印刷が行われる(例えば、特許文献1および2参照)。
【0003】
特許文献1記載の製版装置および孔版印刷装置において、製版装置内の所定の位置にマスタの先端をセットするマスタの初期セット動作では、マスタの先端位置出しを行う際に、サーマルヘッドとプラテンローラとでマスタを挟み込むように押圧し、マスタ先端検知手段からの情報により、マスタを正方向または逆方向に搬送することでマスタの先端位置出しを行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−249609号公報
【特許文献2】特開2004−262125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、サーマルヘッドとプラテンローラとでマスタを挟み込み、マスタを押圧した状態で、本来の穿孔・製版時に搬送する方向とは逆方向に搬送した場合、マスタ表面部における熱可塑性樹脂フィルム(以下、単に「フィルム」ともいう)部分が削れたり、マスタそのものが破れてしまう場合がある。
これは、以下のようにプラテンローラに対してサーマルヘッド(の発熱素子)を圧接させるように配置した場合に発生しやすいものとなっていた。すなわち、マスタがプラテンローラとサーマルヘッドとの間で挟まれ押圧された状態でプラテンローラの回転によって正方向に搬送される際に、溶融したフィルムがサーマルヘッドの発熱素子表面へ溶着して貼り付くことで、プラテンローラによって正常な製版搬送距離を搬送することができなくなる「スティック」不具合が発生し、結果としていわゆる「製版縮み」と呼ばれている画像再現性の劣化という画像不良を来す場合がある。
このような不具合を解消するために、従来、サーマルヘッドの発熱素子の位置を、プラテンローラに対するニップ幅に対してマスタ搬送方向(正方向)下流側にずらして配置することが知られており、サーマルヘッドの発熱素子をサーマルヘッドの副走査方向(マスタ搬送方向)におけるマスタ排出側の薄膜基板端にできる限り近づけると共に、プラテンローラのニップ(サーマルヘッドとの圧接部分)もできるだけサーマルヘッドの上記薄膜基板端に近づけるように配置している。このような配置状態において、サーマルヘッドの上記薄膜基板端にエッジを生じている場合があり、このエッジ部分が尖った状態になっていると、マスタを正方向に押圧搬送する時にはマスタは引っかからないが、マスタを逆方向に押圧搬送する時には上記エッジ部分にマスタが引っかかり、フィルム部分が削れたり、マスタが破れたりしてしまう場合があった。
【0006】
この削れたマスタのフィルム部分や、破れたマスタ片が製版装置内に残ってしまうと、マスタの搬送がその後良好に行われずにマスタセット不良の原因になる場合や、印刷装置の版胴部に付着した場合にはその部分だけ印刷されない白抜けといった印刷不良を引き起こす原因となってしまう。
一方、それらを防止するために、マスタ片を検知、除去するための手段を設けるにはコストがかかってしまい、また、ユーザがマスタ片が無いかどうかを定期的に確認するのでは作業効率が低下してしまう。
【0007】
そこで、本発明は、上述した問題点・事情に鑑みてなされたものであり、マスタの初期セット動作に、マスタのフィルム削れやマスタ破れの発生を未然に防止して、マスタセット不良を防ぎ、白抜け等の印刷不良が発生しない製版装置および製版印刷装置を実現し提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するとともに上述した目的を達成するために、請求項ごとの発明では、以下のような特徴ある手段・発明特定事項(以下、「構成」という)を採っている。
請求項1記載の発明は、ロール状マスタからマスタを繰り出す正方向およびマスタを該ロール状マスタに戻す逆方向に搬送可能な正逆搬送手段と、マスタを製版する製版手段と、前記正逆搬送手段におけるマスタ搬送路の下流側に配置されマスタを切断する切断手段と、前記ロール状マスタと前記正逆搬送手段との間に配置され前記逆方向ヘマスタを搬送可能な逆搬送手段と、前記正逆搬送手段と前記切断手段との間に配置されマスタの先端を検知するマスタ先端検知手段と、前記製版手段を前記正逆搬送手段に接離させる接離手段とを有する製版装置において、マスタの初期セット動作時に、前記マスタ先端検知手段によりマスタの先端が検知された場合、前記接離手段をして前記製版手段を前記正逆搬送手段より離間させた後、前記マスタ先端検知手段によりマスタの先端が検知されなくなるまでまたはマスタを一定量、前記正逆搬送手段および前記逆搬送手段をして前記逆方向に搬送させることを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の製版装置において、前記製版手段を前記正逆搬送手段より離間させ、前記マスタ先端検知手段によりマスタの先端が検知されなくなるまでまたはマスタを一定量、前記逆方向に搬送させる際には、前記接離手段により前記製版手段と前記正逆搬送手段とを圧接させた状態で前記逆方向に搬送するときと比較して、前記逆方向に搬送する距離またはその搬送時間を長く設定したことを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の製版装置と、該製版装置により製版されたマスタを外周面に巻き付ける版胴と、該版胴の外周面に製版されたマスタを巻装する給版手段と、前記版胴上の製版されたマスタにインキを供給しながら給送されてくるシートを前記版胴上の製版されたマスタに押し付けて印刷を行う印刷手段とを具備することを特徴とする製版印刷装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、上記課題を解決して新規な製版装置および製版印刷装置を実現し提供することができる。請求項ごとの発明の効果を挙げれば、以下のとおりである。
請求項1記載の発明によれば、上記構成により、マスタの初期セット動作時におけるマスタのフィルム削れやマスタ破れを未然に防止することで、マスタ片を検知したり、除去したりするための手段を設けるためのコストアップを防ぐと共に、ユーザの作業効率を低下させることなくマスタセット動作を良好に行うことができ、ひいては白抜け等の印刷不良を発生させることなく印刷することが可能となる。
【0012】
請求項2記載の発明によれば、上記構成により、製版手段を正逆搬送手段より離間させた状態で、マスタ先端検知手段によりマスタの先端が検知されなくなるまでまたはマスタを一定量、逆方向に搬送させる際には、製版手段と正逆搬送手段とを圧接させた状態で逆方向に搬送するときと比較して、逆方向に搬送する距離が短くなることでマスタセット不良となる虞があるが、これを補償すべく逆方向に搬送する距離またはその搬送時間を長く設定したので、マスタを逆方向に正確な距離搬送することができる。
【0013】
請求項3記載の発明によれば、上記構成により、請求項1または2記載の製版装置の効果を奏することにより、白抜け等の印刷不良を発生させることなく印刷することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の製版装置の一実施形態を示す概略的な正面図である。
【図2】図1における製版装置のカバーを開放してマスタをセットした状態を示す概略的な正面図である。
【図3】図1における製版装置の接離手段を示す要部の斜視図である。
【図4】図3に示した接離手段のさらに要部を示す斜視図である。
【図5】図1における製版装置の主な制御構成を示すブロック図である。
【図6】図1における製版装置において、逆方向搬送開始時のマスタ先端位置を示す要部の正面図である。
【図7】図1における製版装置でのマスタ初期セット動作における、マスタを逆方向に搬送する際の制御動作を示すフローチャートである。
【図8】図1の製版装置を具備した孔版印刷装置全体の簡略的な正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図を参照して、本発明を実施するための形態および実施例を含む実施形態を説明する。各実施形態等に亘り、同一の機能を有する部材や構成部品等の構成要素については、判別が可能な限り同一符号を付すことにより一度説明した後ではその説明を省略する。図および説明の簡明化を図るため、図に表されるべき構成要素であっても、その図において特別に説明する必要がないものは適宜断わりなく省略することがある。公開特許公報等の構成要素をそのまま引用して説明する場合は、その符号に括弧を付して示し、実施形態等のそれと区別するものとする。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係る製版装置1を示している。同図において、製版装置1は、マスタ貯容手段としての図示しないマスタロール支持部材、正逆搬送手段としてのプラテンローラ2、製版手段としてのサーマルヘッド3、接離手段12、逆搬送手段としてのバックテンションローラ対4、正搬送手段としてのフロントテンションローラ対5、切断手段としてのカッタ6、マスタ先端検知手段としてのマスタ先端検知センサ7、給版手段としての給版ローラ対10、マスタ案内手段としての給版ガイド板11、カバー手段としてのカバー14等を有している。
【0017】
図示しないマスタロール支持部材は、製版装置1の図示しない一対の製版側板にそれぞれ設けられており、マスタ8が芯部8bの周りにロール状に巻き付けて形成されたロール状マスタとしてのマスタロール8aの芯部8bを回転自在かつ着脱自在に支持している。
本実施形態におけるマスタ8は、熱可塑性樹脂フィルムの一方の面に樹脂からなる多孔性樹脂膜を設け、さらにその表面に繊維状物質からなる多孔性繊維膜を積層したラミネート構造を有している(特開平10−147075号公報参照)を用いている。マスタ8は、これに限らず、背景技術で説明したようなマスタも用いることができる。
【0018】
プラテンローラ2は、製版装置1の上部に配置され、図において二点鎖線で示す軸13を支点に揺動・開閉可能なカバー14に正逆転可能に軸支されている。プラテンローラ2は、上記図示しないマスタロール支持部材に支持されたマスタロール8aからマスタ8を引き出して搬送する。プラテンローラ2は、図示しないギヤ列等の駆動力伝達手段を介して、正逆搬送駆動手段としての正逆転可能なマスタ搬送モータ9に連結されている。マスタ搬送モータ9は、ステッピングモータからなり、上記図示しない製版側板に固定されている。
プラテンローラ2は、図5に示すモータドライバ27を介して制御手段40からの指令に基づいてマスタ搬送モータ9によって回転駆動され、マスタロール8aからマスタ8を送り出す方向である、図1に矢印Aで示す正方向と、マスタロール8aにマスタ8を戻す方向である、図1に矢印Bで示す逆方向とに回転駆動される。
【0019】
サーマルヘッド3は、上面に図示しない複数の発熱素子を有しており、図5に示すサーマルヘッド駆動回路25からの指令に基づいて各発熱素子が選択的に発熱することにより、熱可塑性樹脂フィルムと多孔性支持体とを貼り合わせてなるマスタ8の熱可塑性樹脂フィルムを加熱溶融穿孔・製版する。サーマルヘッド3は、図1に二点鎖線で、図3および図4に実線で示す接離手段12によって、図1に示すプラテンローラ2に所定の圧接力で圧接する製版位置と、図1に二点鎖線で示すプラテンローラ2より離隔する退避位置(非製版位置)とを選択的に占める。
【0020】
接離手段12は、サーマルヘッド3をプラテンローラ2に対して接離させる機能を有しており、例えば本出願人が提案した特開平10−157052号公報の図4および図5等に示されているものと略同様の構成を具備している。
接離手段12は、図3および図4に示すように、ヘッドベースとも呼ばれるステー18、偏心カム30、カム軸30a、付勢手段としての一対の引張バネ31,31、ウォーム33B、ウォームホイール33Aおよび接離駆動手段としての圧解除モータ34から主に構成される。
【0021】
ステー18は、板金で一体的に形成されていて、サーマルヘッド3を載置する上壁面18aと、上壁面18aの自由端(揺動端)側にL字状に曲げられて形成されたカム押圧部18bと、上壁面18aの基端側に形成された一対の軸受部18d,18dと、一対の軸受部18d,18dの下部に一体的に形成された一対のバネ掛け部18c,18cとから主に構成されている。
ステー18は、各軸受部18d,18dに形成された孔に挿通され上記図示しない上記図示しない製版側板対によって支持されている支軸21を支点として揺動可能に支持されている。ステー18は、各バネ掛け部18c,18cと、ステー18の基端側において上記図示しない製版側板対に固着された本体不動部材21A上に植設された一対のバネ掛け部材32,32との間にそれぞれ掛けられている一対のスプリング31,31(引張バネ)によって、支軸21を中心として時計回り方向に揺動するように常に付勢されている。
【0022】
カム押圧部18b上には、このカム押圧部18bに選択的に接触してステー18を、支軸21を中心として反時計回り方向に揺動させる偏心カム30が配置されている。偏心カム30は、カム軸30aの一端部に一体的に取り付けられていて、その他端部にはウォームホイール33Aが固設されている。カム軸30aの他端は、図において左側の製版側板に回転可能に支持されている。偏心カム30とウォームホイール33Aとの間のカム軸30aには、扇形状のカムフィラー30Aが取り付けられている。カムフィラー30Aは、その略扇形状をなす部分が偏心カム30の小径部側となるようにその位相が決められている。カムフィラー30Aの配置部近傍には、図において左側の製版側板に不動部材(図示せず)が一体的に設けられており、その不動部材には、プラテンローラ2に対するサーマルヘッド3の接離状態を検知する接離検知手段としての接離検知センサ35が固設されている。接離検知センサ35は、発光素子および受光素子を具備した周知の透過型の光学センサであり、前記発光素子および前記受光素子の部分が圧解除モータ34により選択的に回転されるカムフィラー30Aの外周部を挟むように配置されている。
【0023】
一方、ウォームホイール33Aの配置部近傍における図において左側の製版側板には、偏心カム30を回転させてプラテンローラ2に対するマスタ8を介してのサーマルヘッド3のプラテン圧を解除するための圧解除モータ34が固設されている。圧解除モータ34としては、例えばDCモータからなる制御モータが用いられている。圧解除モータ34の出力軸端には、ウォームホイール33Aと常時噛合するウォーム33Bが固設されている。
【0024】
ここで、接離手段12および接離検知センサ35に係る動作の詳細を前もって説明しておく。後述する動作説明においては、この部分に係る動作の詳細説明を省略する。
圧解除モータ34が回転駆動されることで、ウォーム33Bおよびウォームホイール33Aでその回転数が減速されるとともにその回転力が増大されて、偏心カム30が回転される。このとき、圧解除モータ34が圧解除回転位置を占める方向に所定角度(この場合半回転180°)回転駆動されることにより、偏心カム30がその大径部をステー18のカム押圧部18bに接触させるように一対のスプリング31,31の付勢力に抗して回転されて圧解除モータ34が圧解除回転位置を占めると共に、ステー18の揺動端側が支軸21を中心として反時計回り方向に揺動されて、プラテンローラ2に対するサーマルヘッド3のプラテン圧が解除(オフ)されることとなる。このときカムフィラー30Aは、接離検知センサ35の前記発光素子および前記受光素子との間に回転移動され、カムフィラー30Aの外周部が前記発光素子から出射している光を遮ることにより、接離検知センサ35がオフされ離間信号を生成する。これにより、サーマルヘッド3が退避位置(非製版位置)を占めたと判断される。
【0025】
一方、圧解除モータ34が押圧回転位置を占める方向に所定角度(この場合半回転180°)回転駆動されることにより、偏心カム30がその小径部をステー18のカム押圧部18bに対向させるように回転されることで、偏心カム30はカム押圧部18bから離間され、一対のスプリング31,31の付勢力によって、ステー18の揺動端側が支軸21を中心として時計回り方向に揺動され、これによりサーマルヘッド3がプラテンローラ2に接触して所定のプラテン圧が付与(オン)され、サーマルヘッド3の発熱素子上にマスタ8が押圧・密着されることとなる。このときカムフィラー30Aは、接離検知センサ35の前記発光素子および前記受光素子との間から離れる方向に回転移動され、前記発光素子から出射している光が前記受光素子に入射されることにより、接離検知センサ35がオンされ前記離間信号を消滅するようになっている。これにより、サーマルヘッド3が製版位置を占めたと判断される。
【0026】
このように、プラテンローラ2からサーマルヘッド3が離間していてプラテン圧がオフされているときにのみ、偏心カム30の大径部がステー18のカム押圧部18bに接触しており、プラテンローラ2に対してサーマルヘッド3がマスタ8を介して接触しているときには、偏心カム30の小径部がステー18のカム押圧部18bに対向しているだけでステー18のカム押圧部18bから離間しているため、プラテン圧は、一対のスプリング31,31の付勢力のみによりマスタ8に対して高精度に加えられることとなる。
【0027】
バックテンションローラ対4は、カバー14に回転自在に軸支された駆動ローラ4aと、上記図示しない製版側板対に回転自在に支持された従動ローラ4bとを有している。
駆動ローラ4aは、ギヤ列等の駆動力伝達手段を介してマスタ搬送モータ9に連結されている。駆動ローラ4aは、その軸部に図示しないワンウェイクラッチを介装されており、マスタ搬送モータ9によってマスタロール8aにマスタ8を戻す方向である図1の矢印方向にのみ回転駆動される。従動ローラ4bは、図示しない付勢手段によってその周面を所定の圧接力で駆動ローラ4aの周面に圧接されている。バックテンションローラ対4は、そのマスタ搬送速度がプラテンローラ2の逆方向Bへのマスタ搬送速度よりも若干速くなるように、駆動ローラ4aの回転周速度が設定されている。
【0028】
フロントテンションローラ対5もバックテンションローラ対4と同様に、カバー14に回転自在に軸支された駆動ローラ5aと、上記図示しない製版側板対に回転自在に支持された従動ローラ5bとを有している。
駆動ローラ5aは、ギヤ列等の駆動力伝達手段を介してマスタ搬送モータ9に連結されている。駆動ローラ5aは、その軸部に図示しないワンウェイクラッチを介装されており、マスタ搬送モータ9によってマスタロール8aからマスタ8を送り出す方向(マスタ搬送方向Y、マスタ8を繰り出す方向でもある)である図1の矢印方向にのみ回転駆動される。従動ローラ5bは、図示しない付勢手段によってその周面を所定の圧接力で駆動ローラ5aの周面に圧接されている。フロントテンションローラ対5も、そのマスタ搬送速度がプラテンローラ2の正方向Aへのマスタ搬送速度よりも若干速くなるように、駆動ローラ5aの回転周速度が設定されている。
【0029】
カッタ6は、下刃6aを有する図示しない下刃ホルダと上刃6bを有する図示しない上刃ホルダとを有しており、固定された下刃6aに対して上刃6bが回転移動してマスタ8を切断する周知の構成である。
マスタ先端検知センサ7は、反射型の光学センサからなり、マスタ8の搬送経路の上方に位置する製版装置1の図示しない側板に設けられている。マスタ先端検知センサ7は、反射率の違いからマスタ8の先端を検知し、マスタ8の先端を検知した際に図5に示す制御手段40に出力信号を送信する。
【0030】
マスタロール8aとバックテンションローラ対4との間、バックテンションローラ対4とプラテンローラ2およびサーマルヘッド3との間、プラテンローラ2およびサーマルヘッド3とフロントテンションローラ対5との間、およびフロントテンションローラ対5とカッタ6との間に位置するマスタ搬送経路には、マスタ8の搬送を補助するための図示しないガイド板がそれぞれ配設されている。
【0031】
カッタ6のマスタ搬送方向下流側には、給版ローラ対10および給版ガイド板11が配設されている。給版ローラ対10は、共に上記図示しない製版側板対に回転自在に支持された駆動ローラ10aと従動ローラ10bとを有している。駆動ローラ10aは、図示しないステッピングモータ等の駆動手段によって図1の矢印方向に回転駆動され、従動ローラ10bは図示しない付勢手段によってその周面を所定の圧接力で駆動ローラ10aの周面に圧接されている。
給版ガイド板11は、製版されたマスタ8を図8に示す印刷ドラム101の外周部に設けられている版胴へと案内するものであり、上記図示しない製版側板対に固着されている。
【0032】
図5に示すように、本実施形態に特有のマスタの初期セット動作および製版動作は、制御手段40によって制御される。制御手段40は、それぞれ図示しない、CPU、I/O(入出力)ポート、ROM、RAMおよびタイマ等を備え、それらが信号バスによって接続された構成を有するマイクロコンピュータを具備している。
制御手段40は、製版動作を除き、後で図8を参照して説明する孔版印刷装置の動作の大半を制御する、前記マイクロコンピュータと略同様な大規模な制御構成を具備するメイン制御手段(図示せず)と送受信する関係にある。
【0033】
制御手段40は、前記入力ポートおよび図示しないセンサ回路を介して接離検知センサ35やマスタ先端検知センサ7に電気的に接続されていて、接離検知センサ35やマスタ先端検知センサ7からのオン/オフ信号を受信する。また、制御手段40は、前記出力ポートおよびモータドライバ36を介して接離手段12の圧解除モータ34に、前記出力ポートおよびモータドライバ27を介してマスタ搬送モータ9に、前記出力ポートおよびサーマルヘッド駆動回路25を介してサーマルヘッド3に、それぞれ電気的に接続されている。制御手段40は、接離検知センサ35やマスタ先端検知センサ7からのオン/オフ信号に基づき、各モータドライバ27,36やサーマルヘッド駆動回路25に各種指令信号を送信することにより、圧解除モータ34やマスタ搬送モータ9あるいはサーマルヘッド3の作動を制御する。
【0034】
制御手段40の上記ROMには、後述する図7に示すプログラムを含む製版装置1の動作に係るプログラムや、予め実験的に求めた、制御手段40の前記機能に関係するデータ、例えば接離検知センサ35のオン/オフ信号に応じて圧解除モータ34を前記したように回転駆動するためのデータ、マスタ先端検知センサ7からのオン/オフ信号に基づき、マスタ15の搬送距離(移動量)とマスタ搬送モータ9へ供給するパルス数との関係データ等が予め記憶されている。
【0035】
図1〜図7を参照して、上述の構成に基づき、以下にこの製版装置1におけるマスタロール8aの初期セット動作を説明する。図2に示すように、ユーザはカバー14を反時計回り方向に揺動させてマスタ搬送路を開放する。この状態で図示しないマスタロール支持部材にマスタロール8aをセットする。カバー14を開放することにより、プラテンローラ2、各駆動ローラ4a,5aがカバー14と共に開放され、それぞれサーマルヘッド3、各従動ローラ4b,5bより離間する。
【0036】
ユーザは、上記カバー14の開放状態において、図示しないマスタロール支持部材にマスタロール8aをセットした後、マスタロール8aからマスタ8の先端部を引き出して図2に示す所定の位置にセットする。セット後、ユーザによってカバー14が閉じられると、駆動ローラ4aは従動ローラ4bに、駆動ローラ5aは従動ローラ5bにそれぞれ圧接した状態になると共に、プラテンローラ2はサーマルヘッド3に圧接可能状態となる。
カバー14が閉じられたことを検知する図示しないセンサからの信号に基づいて、制御手段40がマスタ搬送モータ9を起動することにより、マスタ8が自動的に正方向Aへ搬送され、やがてその先端をマスタ先端検知センサ7に検知される(ステップS1)。先端をマスタ先端検知センサ7に検知されたマスタ8はその後も所定量だけさらに搬送され、マスタ8の先端が図6に示す位置を占める。この正方向Aへのマスタ8の搬送時においては、バックテンションローラ対4の駆動ローラ4aにおけるワンウェイクラッチの作用によってマスタ搬送モータ9の駆動力が駆動ローラ4aに伝達されず、フリー(空転)状態となって従動ローラ4bと共にマスタ8の搬送に伴って従動回転し、マスタ搬送モータ9の駆動力はプラテンローラ2およびフロントテンションローラ対5の駆動ローラ5aには伝達されることで、マスタ8は駆動ローラ5aの回転搬送力によってもマスタ搬送方向Yに搬送される。
【0037】
マスタ8の先端が図6に示す位置を占めると、マスタ8を逆方向Bに搬送することになるが、この際、サーマルヘッド3が退避位置にあるか否かが判断される(ステップS2)。すなわち、制御手段40は、接離検知センサ35からの出力信号に基づき、接離手段12の圧解除モータ34を制御する。
サーマルヘッド3が退避位置にある場合にはそのままの位置で、製版位置にある場合には圧解除モータ34を駆動制御することにより、サーマルヘッド3を退避位置に移動させる(ステップS3)。
制御手段40は、接離検知センサ35からの出力信号に基づき、サーマルヘッド3が退避位置を占めたと判断したならば、マスタ搬送モータ9を起動することにより、プラテンローラ2を逆方向Bに回転駆動させると共に、駆動ローラ4aを図1中矢印方向に回転駆動させることで、マスタ8が逆方向Bに向けて搬送される。
この逆方向Bへのマスタ8の搬送時においては、フロントテンションローラ対5の駆動ローラ5aにおけるワンウェイクラッチの作用によってマスタ搬送モータ9の駆動力が駆動ローラ5aに伝達されず、フリー(空転)状態となって従動ローラ5bと共にマスタ搬送方向Yと反対方向、つまり逆方向Bに向けての搬送に伴って従動回転するだけである。この搬送時において、バックテンションローラ対4とプラテンローラ2との間には周速度差が生じているので、この間のマスタ8には張力が付与され、そのしわやよりが戻される(ステップS4)。
【0038】
そして、マスタ8の先端が図6に示す位置よりマスタ搬送方向Yの上流側に戻され、マスタ先端検知センサ7の下方を抜け、マスタ先端検知センサ7によってマスタ8の先端が検知されなくなる際、本実施形態では以下の搬送制御を一つの特徴としている。すなわち、サーマルヘッド3をプラテンローラ2より離間させて、マスタ8を一定量またはマスタ先端検知センサ7によりマスタ8の先端が検知されなくなるまで逆方向Bに搬送する際に、サーマルヘッド3とプラテンロ一ラ2とを圧接させた状態で正方向A(マスタ搬送方向Y)に搬送するときと比較して、逆方向Bに搬送する搬送距離または搬送時間を長く設定していることを特徴としている。
【0039】
マスタ8の搬送は、サーマルヘッド3とプラテンローラ2とが圧接している状態でプラテンローラ2を回転駆動したときに、マスタ8が正確な距離で搬送される。また、一般的にマスタのセット不良を検知する方法として、マスタの一定量(一定距離)または一定時間、マスタを搬送してもマスタ検知センサで検知できなかった場合にセット不良を検知する方法がある。
本実施形態では、サーマルヘッド3がプラテンローラから離間している状態でマスタ8を逆方向Bに搬送する場合、マスタロール8aとプラテンローラ2との間に配置されている駆動ローラ4aにより搬送されることになるが、サーマルヘッド3とプラテンローラ2とが圧接しているときと比較して、マスタを正確な距離搬送できずに、マスタセット不良となる可能性がある。
そこで、サーマルヘッド3をプラテンローラ2から離間させてマスタ8を逆方向Bに搬送する場合には、マスタ8を正確な距離搬送できずに、圧接しているときよりも搬送距離が短くなる(足りなくなる)ことを考慮して、搬送距離または搬送時間を、圧接して搬送するときよりも長く設定している。この搬送距離または搬送時間の設定値は、製版装置1およびマスタ8の特性を考慮した実験等により求めたものを使用することが好ましい。
【0040】
そして、サーマルヘッド3をプラテンローラ2から離間させてマスタ8を逆方向Bに搬送している際のステップS5において、一定距離(一定量)または一定時間内にマスタ検知センサ7によりマスタ8の先端が検知されなくなるまで逆方向Bに搬送されたか否かが判断される。マスタ8が一定距離(一定量)逆方向Bに搬送されたか否かは、マスタ搬送モータ9へ付与される予め設定されたパルス数に対して実際に駆動したステップ数で判断される。一定距離(一定量)マスタ8が逆方向Bに搬送される際または一定時間内にマスタ検知センサ7がオフしてマスタ8の先端を検知しなくなった場合には、プラテンローラ2および駆動ローラ4aの回転駆動が停止される(ステップS6)。
【0041】
一方、説明が前後するが、ステップS1において、マスタ検知センサ7がオンしていない場合には、ステップS7に進んで、マスタ検知センサ7がオンするまで、さらにマスタ8を正方向Aへ搬送することとなる。この際、実際には正方向Aへの搬送においても、一定距離または一定時間、サーマルヘッド3とプラテンローラ2とが圧接していない状態で搬送し、マスタ検知センサ7がオフしていたらマスタセット不良(ステップS8参照)となる。
また、ステップS5において、一定距離(一定量)マスタ8が逆方向Bに搬送される際または一定時間内にマスタ検知センサ7がオンしたままである場合には、図示しないLEDの点滅等により、あるいは製版装置1を具備した図8に示す孔版印刷装置に配置されている図示しない操作パネルのLCDなどの表示装置に「マスタセット不良」の警告を表示する(ステップS8)。
【0042】
図7のフローが終了し、マスタ8の先端が図1に示す位置よりもマスタ搬送方向Yの上流側寄りの位置、すなわち特許文献1の図3に示す位置と同様の、テンションローラ対5とマスタ先端検知センサ7との間にある所定の位置を占めると、正方向Aにマスタ8を搬送する前に、サーマルヘッド3とプラテンローラ2とが圧接される。すなわち、接離手段12をしてサーマルヘッド3をプラテンローラ2に圧接させることで、サーマルヘッド3が製版位置に位置決めされる。プラテンローラ2が正方向Aに回転駆動されると共に駆動ローラ5aが回転駆動され、マスタ8が正方向Aに向けて搬送される。この搬送時において、フロントテンションローラ対5とプラテンローラ2との間には周速度差が生じているので、この間のマスタ8には張力が付与され、そのしわやよりが戻される。そして、マスタ8の先端が図1に示すようにマスタ先端検知センサ7によって検知された後、さらに所定量搬送されてカッタ6の切断位置まで到達すると、すなわちマスタ8が初期セット位置を占めると、プラテンローラ2および駆動ローラ5aの回転が停止されてマスタ8の初期セットが完了する。
プラテンローラ2および駆動ローラ5aの回転停止後、接離手段12をしてサーマルヘッド3をプラテンローラ2より離間させることで、サーマルヘッド3が退避位置を占める。その後は、製版を行う時にサーマルヘッド3が製版位置を占め、製版終了時に再び退避位置を占めるように接離手段12が制御されることとなる。
【0043】
本実施形態によれば、上記発明の効果欄に記載した効果を奏することは無論である。また、特許文献1と同様に、プラテンローラ2のマスタ搬送方向上流側および下流側でのマスタ8のしわやよりを完全に除去することができ、以後の製版動作時において良好な製版を行うことができる。
【0044】
次に、図8を参照して、図1等に示した製版装置1を具備する製版印刷装置の一例としての孔版印刷装置の全体構成について説明する。
図8において、符号50は、孔版印刷装置の骨組みをなす装置本体を示す。装置本体50の上部にある、符号80で示す部分は原稿読取装置を示し、その下方には上述した製版装置1が配置されている。製版装置1の左側に符号100で示す部分は多孔性円筒状の版胴を外周部に備えた印刷ドラム101が配置された印刷ドラム装置、その左の符号70で示す部分は排版装置、製版装置1の下方の符号110で示す部分は給紙装置、印刷ドラム101の下方の符号120で示す部分は印圧装置、装置本体50の左下方の符号130で示す部分は排紙装置をそれぞれ示している。
【0045】
図8において、製版装置1に配設されていた図1および図2に示したカバー14および接離手段12の図示は省略している。図8において、カバー14の揺動開閉動作は、例えば製版装置1が特開2001−341401号公報の図2等に示されている製版ユニット(8)と同様にユニットを構成していて、このユニット化された製版装置1が装置本体50から外側に離脱させた状態で行う場合や、原稿読取装置80が図8において製版装置1を上方から露出できるようスライドもしくは開閉可能な構成の場合に有効に行われる。
【0046】
次に、図8を参照して、製版装置1において上述したマスタの初期セット動作が終了した後の、孔版印刷装置の全体動作と共に本発明に密接に関連する構成について説明する。
原稿読取装置80の上部に配置された図示しない原稿載置台に、印刷すべき画像をもった原稿60を載置し、図示しない操作パネルに配設されている製版スタートキー(図示せず)を押す。この製版スタートキーの押下に伴い生成されるスタート信号がトリガとなって、先ず排版工程が実行される。すなわち、この状態においては、印刷ドラム装置100の印刷ドラム101の外周面に前回の印刷で使用された使用済みのマスタ8が装着されたまま残っている。
【0047】
印刷ドラム101が反時計回り方向に回転し、印刷ドラム101外周面の使用済みのマスタ8の後端部が排版装置70における排版剥離ローラ対71a,71bに近づくと、同ローラ対71a,71bは回転しつつ一方の排版剥離ローラ71bで使用済みのマスタ8の後端部をすくい上げる。後端部をすくい上げられた使用済みのマスタ8は、排版剥離ローラ対71a,71bの左方に配設された排版コロ対73a,73bと排版剥離ローラ対71a,71bとの間に掛け渡された排版搬送ベルト対72a,72bで矢印Y1方向へ搬送されつつ排版ボックス74内へ排出され、使用済みのマスタ8が印刷ドラム101の外周面から完全に引き剥がされて排版ボックス74内へ収納されると排版工程が終了する。この時、印刷ドラム101は反時計回り方向への回転を続けている。剥離排出された使用済みのマスタ8は、その後、圧縮板75により排版ボックス74の内部で圧縮される。
【0048】
排版工程と並行して、原稿読取装置80では原稿読み取りが行われる。すなわち、図示しない原稿載置台に載置された原稿60は、分離ローラ81、前原稿搬送ローラ対82a,82bおよび後原稿搬送ローラ対83a,83bのそれぞれの回転により矢印Y2からY3方向に搬送されつつ露光読み取りに供される。このとき、原稿60が多数枚あるときは、分離ブレード84の作用でその最下部の原稿のみが搬送される。原稿60の画像読み取りは、コンタクトガラス85上を搬送されつつ、蛍光灯86により照明された原稿60の表面からの反射光を、ミラー87で反射させレンズ88を通して、CCD(電荷結合素子等の光電変換素子)からなる画像センサ89に入射させることにより行われる。その画像が読み取られた原稿60は原稿トレイ80A上に排出される。
【0049】
原稿60の光学情報は画像センサ89で光電変換され、そのアナログの電気信号は装置本体50内の図示しないアナログ/デジタル(A/D)変換部に入力されて、デジタルの画像信号に変換される。このデジタルの画像信号は図示しない画像処理部で画像処理を施され、こうして画像処理を施された画像信号は、図示しない製版制御部を経由して図5に示すサーマルヘッド駆動回路25を介してサーマルヘッド3に送信される。
なお、前記画像処理部を介して製版制御部21に入力される画像信号は、CCDからなる画像センサ89で読み取ったものに限らず、例えば密着センサ等の画像センサで読み取ったものや、パソコン等のコンピュータから送信される画像信号であっても構わない。
【0050】
一方、この画像読み取り動作と並行して、図1、図5および図8において、デジタル信号化された画像情報(画像データ信号)に基づき、制御手段40による制御の下に製版および給版工程が行われる。
上述したマスタの初期セット動作が終了した状態の製版装置1では、先ず、接離手段12をしてサーマルヘッド3をプラテンローラ2に圧接させることで、サーマルヘッド3が製版位置に位置決めされる。次いで、マスタ搬送モータ9が起動されると、マスタ8を介してサーマルヘッド3に押圧されているプラテンローラ2が正方向Aに回転駆動されると共に、フロントテンションローラ対5a,5bの駆動ローラ5aが図中矢印方向に回転駆動されることで、マスタロール8aからマスタ8が引き出され、マスタ8の先端が副走査方向でもあるマスタ搬送方向Yの下流側に搬送される。このように搬送されるマスタ8に対して、サーマルヘッド3における多数の微小な発熱素子(図示せず)が、前記製版制御部から送られてくる画像データ信号に応じて各々選択的に発熱し、発熱した発熱素子に接触しているマスタ8の熱可塑性樹脂フィルム部分が加熱溶融穿孔される。このように、画像情報に応じたマスタ8の位置選択的な溶融穿孔により、画像情報が穿孔パターンとしてマスタ8に書き込まれる。
【0051】
画像情報が書き込まれた製版済みのマスタ8の先端は、図示しないガイド板上を案内されつつ給版ローラ対10a,10bの回転搬送によって、印刷ドラム101の外周部側へ向かって送り出され、給版ガイド板11により進行方向を下方へ変えられ、図示する給版位置状態にある印刷ドラム101の拡開したマスタクランパ102(二点鎖線で示す)へ向かって垂れ下がる。この時、印刷ドラム101は、排版工程により使用済みのマスタ8を既に除去されている。
そして、製版済みのマスタ8の先端が、一定のタイミングでマスタクランパ102によりクランプされると、印刷ドラム101は図中矢印方向(時計回り方向)に回転しつつ版胴外周面に製版済みのマスタ8を徐々に巻き付けていく。製版済みのマスタ8の後端部はカッタ6により一定の長さに切断される。
ここで、図1等に示した給版ローラ対10a,19b、マスタクランパ102、印刷ドラム101を回転駆動する図示しない駆動手段(メインモータ等)等は、印刷ドラム101の版胴外周面に製版されたマスタを巻装する給版手段を構成する。
【0052】
1版分の製版済みのマスタ8が印刷ドラム101の外周面に巻装されると製版および給版工程が終了し、印刷工程が開始される。先ず、給紙台51上に積載された被印刷媒体としての印刷用紙62のうちの最上位の1枚が、給紙コロ111および分離コロ対112a,112bによりレジストローラ対113a,113bに向けて矢印Y4方向に送り出され、さらにレジストローラ対113a,113bにより印刷ドラム101の回転と同期した所定のタイミングで印圧装置120に送られる。送り出された印刷用紙62が、印刷ドラム101とプレスローラ103との間にくると、印刷ドラム101の外周面下方に離間していたプレスローラ103が上方に移動されることにより、印刷ドラム101の外周面に巻装された製版済みのマスタ8に押圧される。こうして、印刷ドラム101の多孔部および製版済みのマスタ8の穿孔パターン部(共に図示せず)からインキが滲み出し、この滲み出たインキが印刷用紙62の表面に転移されて、印刷画像が形成される。
この時、印刷ドラム101の内周側では、インキ供給管104からインキローラ105とドクターローラ106との間に形成されたインキ溜まり107にインキが供給され、印刷ドラム101の回転方向と同一方向に、かつ、印刷ドラム101の回転速度と同期して回転しながら内周面に転接するインキローラ105により、インキが印刷ドラム101の内周側に供給される。
【0053】
ここで、インキ供給管104、インキローラ105およびドクターローラ106は、印刷ドラム101上の製版済みのマスタ8にインキを供給するインキ供給手段を構成する。
上記インキ供給手段、印刷ドラム101、プレスローラ103および印圧装置120は、版胴上の製版されたマスタにインキを供給しながら給送されてくるシートを版胴上の製版されたマスタに押し付けて印刷を行う印刷手段を構成する。
【0054】
印圧装置120において印刷画像が形成された印刷用紙62は、排紙装置130における排紙剥離爪114により印刷ドラム101から剥がされ、吸着用ファン118により吸引されつつ、吸着排紙入口ローラ115および吸着排紙出口ローラ116に掛け渡された搬送ベルト117の反時計回り方向の回転により、矢印Y5のように排紙台52へ向かって搬送され、排紙台52上に順次排出積載される。このようにしていわゆる版付け印刷が終了する。
次に、図示しない操作パネルに配設されているテンキーで印刷枚数をセットし、図示しない操作パネルに配設されている印刷スタートキーを押すと上記版付け印刷と同様の工程で、給紙、印刷および排紙の各工程がセットした印刷枚数分繰り返して行われ、孔版印刷の全工程が終了する。
【0055】
本発明に係る製版装置は、上記実施形態の孔版印刷装置に配置されたものに限らず、例えば、特許第2790963号公報に開示されているような印刷ドラムの外側からインキを供給する構成のもの、つまり印刷ドラム上のマスタにインキを供給して、印刷画像を印刷用紙上に形成するいわば凹版印刷装置とも呼べるような構成の製版印刷装置にも配置することで準用できる。
以上述べたとおり、本発明を特定の実施例を含む実施形態等について説明したが、本発明が開示する技術的範囲は、上述した実施形態等に例示されているものに限定されるものではなく、それらを適宜組み合わせて構成してもよく、本発明の範囲内において、その必要性および目的・用途等に応じて種々の実施形態や変形例あるいは実施例を構成し得ることは当業者ならば明らかである。
【符号の説明】
【0056】
1 製版装置
2 プラテンローラ(正逆搬送手段)
3 サーマルヘッド(製版手段)
4 バックテンションローラ対(逆搬送手段)
5 フロントテンションローラ対(正搬送手段)
6 カッタ(切断手段)
7 マスタ先端検知センサ(マスタ先端検知手段)
8 マスタ
8a マスタロール(ロール状マスタ)
9 マスタ搬送モータ(正逆搬送駆動手段)
10 給版ローラ対(給版手段)
12 接離手段
40 制御手段
101 印刷ドラム(印刷手段)
102 マスタクランパ(給版手段)
103 プレスローラ(押圧手段)
A 正方向
B 逆方向
Y マスタ搬送方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロール状マスタからマスタを繰り出す正方向およびマスタを該ロール状マスタに戻す逆方向に搬送可能な正逆搬送手段と、マスタを製版する製版手段と、前記正逆搬送手段におけるマスタ搬送路の下流側に配置されマスタを切断する切断手段と、前記ロール状マスタと前記正逆搬送手段との間に配置され前記逆方向ヘマスタを搬送可能な逆搬送手段と、前記正逆搬送手段と前記切断手段との間に配置されマスタの先端を検知するマスタ先端検知手段と、前記製版手段を前記正逆搬送手段に接離させる接離手段とを有する製版装置において、
マスタの初期セット動作時に、前記マスタ先端検知手段によりマスタの先端が検知された場合、前記接離手段をして前記製版手段を前記正逆搬送手段より離間させた後、前記マスタ先端検知手段によりマスタの先端が検知されなくなるまでまたはマスタを一定量、前記正逆搬送手段および前記逆搬送手段をして前記逆方向に搬送させることを特徴とする製版装置。
【請求項2】
請求項1記載の製版装置において、
前記製版手段を前記正逆搬送手段より離間させ、前記マスタ先端検知手段によりマスタの先端が検知されなくなるまでまたはマスタを一定量、前記逆方向に搬送させる際には、前記接離手段により前記製版手段と前記正逆搬送手段とを圧接させた状態で前記逆方向に搬送するときと比較して、前記逆方向に搬送する距離またはその搬送時間を長く設定したことを特徴とする製版装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の製版装置と、該製版装置により製版されたマスタを外周面に巻き付ける版胴と、該版胴の外周面に製版されたマスタを巻装する給版手段と、前記版胴上の製版されたマスタにインキを供給しながら給送されてくるシートを前記版胴上の製版されたマスタに押し付けて印刷を行う印刷手段とを具備することを特徴とする製版印刷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−162743(P2010−162743A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−6009(P2009−6009)
【出願日】平成21年1月14日(2009.1.14)
【出願人】(000221937)東北リコー株式会社 (509)