説明

製版装置

【課題】マスターの紗の解像度に基づいてTPHが出力する製版エネルギーを当該マスターに最適の値となるように自動調整できる製版装置を提供する。
【解決手段】マスター2の紗3の密度をセンサ8が検出し、制御手段は、予め有するデータに基づいて、センサが検出した紗の密度からマスターの感熱穿孔に適当な製版エネルギーを算出してTPH10に駆動信号を出力し、TPHは最適な製版エネルギーでマスターを感熱穿孔して最良の製版画像を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紗に熱溶融性のフィルムを貼着してなるマスターをサーマルヘッドを用いて感熱穿孔する製版装置に係り、特に紗の解像度(線の密度)に応じた最適な製版エネルギーを自動的に設定して良好な製版を行うことができる製版装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
交差して設けられた線によって所定の密度で構成された紗に、熱溶融性のフィルムを貼着してなるシート状のマスターを搬送すると同時に、これに接して配置されたサーマルプリントヘッド(TPH)を搬送にタイミングを合わせて駆動することにより、当該マスターに所望の画像を感熱穿孔する製版装置が知られており、広く使用されている。このような製版装置によって製版されたマスターは、孔版印刷における印刷版として使用することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前述した製版装置によれば、マスターの紗を構成する線数(単位長さあたりの線の数)乃至この線数に対応する紗の密度(当該マスターによって画像形成可能な画像の解像度に対応する)に応じて、製版時にTPHがマスターに与えるエネルギーを調整する必要があった。すなわち、マスター全体としての比熱は紗の解像度によって決まるため、紗に貼り付けられた熱溶融性のフィルムを溶融して適切な穿孔を行うには、TPHがマスターに加えるエネルギーを紗の解像度に応じた適切な値に設定する必要がある。例えば、エネルギーが大きすぎると加熱部分の周辺のフィルムと紗とが剥離してしまう現象(デラミ)が発生することにより、印刷時に剥離した部分からインク漏れが発生することがあり、また、エネルギーが小さすぎると穿孔できないという問題が生じてしまう。
【0004】
前述した従来の製版装置において、TPHが出力するエネルギーを手動で調整する機構が設けられている場合もあったが、そのような製版装置では、使用者は使用するマスターの紗の解像度を調べ、TPHが出力するエネルギーを当該解像度に適した値となるように手動で設定しなければならなかった。このような設定操作は煩雑であり、また使用者の設定のミスによって、上述したような調整機構がない場合と同様の問題が生じてしまう。
【0005】
さらに、このような使用者のミスを防ぐために、マスターごとに、その紗の解像度を記録したICチップを貼付しておき、マスターを製版装置に設定した場合に機械がこのICチップから紗の解像度を自動的に読み取ってTPHが出力するエネルギーを自動的に調整できるようにする機構も考えられるが、これでは製版装置に読取及び設定機構を設ける必要があるだけでなく、すべてのマスターにICチップを搭載する必要があり、全体としてのコストが膨大となってしまうため、ある特定のユーザーの希望だけでは採用が非常に困難である。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するものであり、所定の解像度で構成された紗にフィルムを貼着してなるマスターを感熱穿孔するための製版装置において、実際に使用するマスターの紗の解像度に基づいて、TPHが出力する製版エネルギーを当該マスターに最適の値となるように自動調整できる製版装置を低コストで提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載された製版装置は、
所定の解像度で構成された紗にフィルムを貼着してなるマスターを感熱穿孔するための製版装置において、
前記マスターにおいて前記紗の線数を検出するセンサと、
前記センサが検出した前記紗の線数から前記マスターの感熱穿孔に適当な製版エネルギーを算出し、当該製版エネルギーに対応した駆動信号を出力する制御手段と、
前記制御手段からの前記駆動信号により駆動されて前記マスターを感熱穿孔するサーマルプリントヘッドと、
を有している。
【0008】
請求項2に記載された製版装置は、請求項1記載の製版装置において、
前記センサが1次元センサであり、前記1次元センサ又は前記マスターの少なくとも一方を移動しながら前記1次元センサが移動距離に対応して前記紗の線数を検出することを特徴としている。
【0009】
請求項3に記載された製版装置は、請求項1記載の製版装置において、
前記センサが2次元センサであり、前記マスターの所定領域において前記紗の線数を検出することを特徴としている。
【0010】
請求項4に記載された製版装置は、請求項1記載の製版装置において、
前記制御手段は、前記紗の線数と前記サーマルプリントヘッドの解像度との関係から当該サーマルプリントヘッドに与えるべき製版エネルギーを決定するテーブルデータを保有していることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載された製版装置によれば、搬送されてきたマスターの紗の線数をセンサが検出し、センサが検出した紗の線数から制御手段がマスターの感熱穿孔に適当な製版エネルギーを算出し、この製版エネルギーに対応した駆動信号でサーマルプリントヘッドを駆動する。マスターは紗の解像度に応じた製版エネルギーで感熱穿孔され、良好な穿孔画像が製版される。
【0012】
請求項2に記載された製版装置によれば、請求項1記載の製版装置における効果において、1次元センサ又はマスタの少なくとも一方を移動しながら1次元センサが検出を行い、1次元センサが移動距離に対応して紗の線数を検出する。
【0013】
請求項3に記載された製版装置によれば、請求項1記載の製版装置における効果において、マスターを移動させることなく2次元センサによってマスター中の所定領域における紗の線数を検出する。
【0014】
請求項4に記載された製版装置によれば、請求項1記載の製版装置における効果において、センサが検出した紗の線数に基づき、制御手段は、紗の線数とサーマルプリントヘッドの解像度との関係から製版エネルギーを決定するテーブルデータにより、サーマルプリントヘッドの製版エネルギーを算出してサーマルプリントヘッドを当該マスターに最適のエネルギーで駆動する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するために特許出願人が出願時点で最良と思う本発明の実施の形態を図1〜図4を参照して説明する。
図1は第1実施形態におけるTPHを除いた製版装置の全体斜視図、図2は第1実施形態の製版装置における紗を検出するための構成を示す図、図3は第1実施形態において2次元センサが検出したマスターの紗の拡大画像を表す図、図4は第1実施形態の製版装置における制御手順を示す流れ図である。
【0016】
本例の製版装置1はマスターを感熱穿孔して製版するための装置である。製版対象であるマスター2は、所定間隔で配置されて交差した多数の線によって所定の解像度で構成された紗3と、紗3の片面側に貼着された熱溶融性のフィルム4を有している。マスター2の比熱は紗3の解像度に応じて異なるので、製版時にフィルム4を溶融させるためにTPHがマスター2に与えるエネルギーは、紗3の解像度に応じて調整する必要がある。本例の製版装置1は、以下に説明するように、使用するマスター2の紗3の解像度を自動的に検出し、これに応じてTPHが出力する製版エネルギーを自動的に調整する機能を備えている。
【0017】
まず、本例の構成を説明する。
図1乃至図2に示すように、本例の製版装置1はマスター2を搬送するための搬送手段を備えている。搬送手段は、上下に並設されてマスター2を挟持搬送する2本1対のプラテンローラ5を、水平方向に所定間隔をおいて互いに平行となるように2対配置したものであり、搬送方向下流側にある1対のプラテンローラ5の上側には駆動用モータ6が連結されて駆動用プラテンローラ5aとされている。マスター2は、フィルム4を上側に向け、紗3を下側に向けた状態で、これらプラテンローラ5に挟持されて搬送される。
【0018】
2対のプラテンローラ5の間には、マスター2の下側に光源7とセンサ8が設けられている。光源7は、マスター2の下面に光路を斜めに向けて配置され、センサ8は光源7からの光がマスター2に反射した反射光を受ける位置に配置されている。センサ8は、例えば図示のようなCCDカメラのように面積を認識しうる2次元センサでもよいし、複数のセンサ素子がライン状に集積され、センシングのために所定方向に移動可能とされた1次元センサであってもよい。
【0019】
センサ8は、マスター2の紗3の線を検出する手段であり、2次元センサの場合は、図3に模式的に示すように、センシング対象となるマスター2の中の所定領域の画像情報を取得し、この画像情報を適宜に画像処理することにより紗3の線数を算出する。この紗3の線数とは、例えば70lpi(本数/インチ)のような単位で示され、マスター中の所定方向についての紗の間隔を示す値であって、このマスター2によって形成可能な画像の解像度に対応する数値である。
【0020】
1次元センサの場合は、センサ8又はマスター2を移動し、画像処理を行なってマスター2の相対的な移動距離に対応した紗3の数を計測して線数を算出する。
【0021】
2対のプラテンローラ5の間には、マスター2の上面のフィルム4に接するように、TPH10が設けられている。このTPH10は、センサ8からの検出信号を受けた制御手段によってマスター2の紗3の線数に対応する解像度に応じた製版エネルギーで駆動される。
【0022】
前記センサ8からの信号を受け、前記TPH10を駆動する本例の制御手段について説明する。この制御手段は、センサ8が検出したマスター2の紗3の線数に対応する解像度に基づき、予め格納したデータを用いて最適な製版エネルギー決定し、この製版エネルギーをTPH10に出力させるような駆動信号でTPH10を制御する手段である。
【0023】
制御手段が予め保有しているデータは、紗3の線数乃至解像度に応じて本装置のTPH10が出力すべき製版エネルギーを決定するテーブルデータであり、このテーブルデータにより、本装置のTPH10が現に使用されているマスター2に対して出力すべき製版エネルギーを決定し、当該TPH10を当該マスター2に最適のエネルギーで駆動する。さらに具体的には、例えば、紗の線数乃至解像度と、TPHの解像度との関係から製版エネルギーを決定するテーブルデータを予め保有しておき、このテーブルデータを利用し、実際に検出した紗3の線数乃至解像度と本装置のTPH10の解像度を比較して、実際に使用されているマスター2に対して本装置のTPH10が出力すべき最適な製版エネルギーを決定し、当該製版エネルギーに応じた駆動信号で当該TPH10を駆動して当該マスター2の製版を行なうものとしてもよい。
【0024】
次に、本例における作用を説明する。
図4は、本装置における制御手段の機能を示したものであり、まず製版が開始されると(S1)、センサ8が例えば副走査方向についての紗3の線数乃至解像度を検出する(S2)。この場合、2次元センサであれば、マスター2を特に搬送しなくても紗3の面を面積で認識することによって紗3の線数乃至密度の検出を行なうことができるので、製版に与らない無駄なマスター2の搬送がない。1次元センサの場合にも、マスター2を搬送せずに、1次元センサ自身が適当な方向に移動して紗3を読み取れば、マスター2を特に搬送しなくても紗3の線数を検出でき、従って解像度も分かるので2次元センサと同様に無駄なマスター2の搬送は生じない。
【0025】
なお、S2では一例として副走査方向についての紗3の線数乃至解像度を検出するものとしたが、これはマスター2の紗3は縦横共に線(繊維)の配設ピッチが同じであることを前提としている。従って、主走査方向について紗3の線数乃至解像度を検出するものとしてもよい。
【0026】
次に、制御手段は、センサ8が検出した紗3の線数乃至解像度に応じて前述したようにテーブルデータを利用してTPH10の最適な製版エネルギー(TPHパワー)を決定し(S3)、TPH10のパワーの補正を終了した後に(S4)、製版を開始する(S5)。センサ8が検出した紗3の線数乃至解像度が規格外である場合には、制御手段は図示しない表示部にエラー表示を行なわせ(S6)、ユーザの処理を待つ(S7)。
【0027】
以上説明したように、本例の製版装置1によれば、実際に使用されるマスター2の紗3の線数乃至解像度を検出し、これに適合したパワーを自動的に設定してTPH10を駆動することができる。例えば、紗3の解像度が比較的高い場合は熱容量が大きいので安定的な穿孔にはやや高めのエネルギーが必要であり、紗3の解像度が比較的低い場合は逆にエネルギーをやや低めにする必要があるが、本例の製版装置1はこのような紗の解像度に応じた製版エネルギーの調整を自動的かつ最適に実行することにより、低コストで確実に、マスター2の紗3の解像度の差異による穿孔のばらつきを是正して当該マスター2にとって最良の製版結果を得ることができる。
【0028】
なお以上説明した実施形態において、マスター2の紗3の線数を検出するセンサ8には光学センサを用いたが、マスター2の紗3の線数を検出するセンシングのための物理的手段には特に限定がなく、光学的手段以外の手段によるセンサを用いてもかまわない。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は第1実施形態におけるTPHを除いた製版装置の全体斜視図である。
【図2】図2は第1実施形態の製版装置における紗を検出するための構成を示す図である。
【図3】図3は第1実施形態におけるマスターの紗の拡大図とこれを検出したセンサが出力する信号の波形図である。
【図4】図4は第1実施形態の製版装置における制御手順を示す流れ図である。
【符号の説明】
【0030】
1…製版装置
2…マスター
3…紗
4…フィルム
7…光源
8…センサ
10…サーマルプリントヘッド(TPH)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の解像度で構成された紗にフィルムを貼着してなるマスターを感熱穿孔するための製版装置において、
前記マスターにおいて前記紗の線数を検出するセンサと、
前記センサが検出した前記紗の線数から前記マスターの感熱穿孔に適当な製版エネルギーを算出し、当該製版エネルギーに対応した駆動信号を出力する制御手段と、
前記制御手段からの前記駆動信号により駆動されて前記マスターを感熱穿孔するサーマルプリントヘッドと、
を有する製版装置。
【請求項2】
前記センサが1次元センサであり、前記1次元センサ又は前記マスターの少なくとも一方を移動しながら前記1次元センサが移動距離に対応して前記紗の線数を検出することを特徴とする請求項1記載の製版装置。
【請求項3】
前記センサが2次元センサであり、前記マスターの所定領域において前記紗の線数を検出することを特徴とする請求項1記載の製版装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記紗の線数と前記サーマルプリントヘッドの解像度との関係から当該サーマルプリントヘッドに与えるべき製版エネルギーを決定するテーブルデータを保有していることを特徴とする請求項1記載の製版装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−184310(P2009−184310A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−29205(P2008−29205)
【出願日】平成20年2月8日(2008.2.8)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)