説明

製紙方法

本発明は製紙の分野に関する。より詳細には、本発明は、製紙工程のウェットエンドにおける新規乾燥紙力増強剤の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は製紙の分野に関する。より詳細には、本発明は、製紙工程のウェットエンドにおける新規乾燥紙力増強剤(dry strength agent)の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
伝統的に、カチオン化デンプンが、製紙工程のウェットエンドにおける乾燥紙力増強剤として利用されている。セルロース繊維及びフィラーにアニオン基が存在するため、カチオン化デンプンは繊維及びフィラーに結合する。この静電相互作用は、また、紙シートにおけるセルロース繊維及びフィラーの両方の、網(sieve)上での歩留まり(retention)の改善をもたらす。カチオン化ウェットエンドデンプンは、乾燥紙力増強剤及び歩留まり支援以外に、ウェットエンドにおけるアルケニル無水コハク酸(ASA)の乳化のためにも用いられる。
【0003】
カチオン化デンプンの使用の重大な欠点は、使用できるカチオン化デンプンの量についてのその制限である。繊維へのカチオン化デンプンの添加は、セルロース繊維及びフィラーのアニオン電荷の中和を生じ、最終的に、総体的カチオン荷電に導く過荷電を生じる。過荷電は、結果的に、抄紙機のウェットエンドにおける作業能率、総体的な歩留まり及び成形を劇的に低下させるので、これは、避けられなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO 99/55964
【特許文献2】WO 2004/031478
【特許文献3】EP-A-0 189 935
【特許文献4】EP-A-0 689 829
【特許文献5】US-A-5,776,476
【特許文献6】WO-A-94/24169
【特許文献7】WO-A-93/01353
【特許文献8】WO-A-96/05373
【特許文献9】米国特許第4,388,150号
【特許文献10】米国特許第4,643,801号
【特許文献11】米国特許第4,753,710号
【特許文献12】米国特許第4,913,775号
【特許文献13】EP 0 603 727
【特許文献14】EP 1141030 B1
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「Modified Starches: Properties and Uses」、O. B. Wurzburg、CRC Press Inc.、1987年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
製紙業界では、乾燥紙力が益々求められている。この要求は、次の趨勢:より多くの安価な、また/または2次的セルロース繊維の使用、紙シートにおけるフィラー含量の増加、及びプレ-メータリング(pre-metering)サイズプレスの使用の結果である。その結果、セルロース繊維及びフィラーの過荷電の危険なしに、ウェットエンドにおいて添加レベルを増すことを可能とする、新しいウェットエンドデンプンが益々求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、乾燥紙力増強剤として疎水性デンプンを用いると、セルロース繊維及びフェラーの両方のアニオン電荷の中和が避けられ、同時に、セルロース繊維及びフェラーへの強い結合親和力を有するので、紙力への必要とされる寄与をもたらすことが、驚くべきことに、見出された。
【0008】
乾燥紙力増強剤としての疎水性デンプンの使用は、製紙工程のウェットエンドにおける全電荷バランスに、如何なる実質的な影響も及ぼさない。その結果、抄紙機でのウェットエンドの作業能率、総体的な歩留まり及び成形を妨げることなく、従来の乾燥紙力増強剤より多量に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
疎水性基は、水性環境に対して低い親和性を有する。水に添加されたときに、疎水性基は、水分子の接触を避けようとする強い傾向を示す。製紙に用いられるセルロース繊維及びフィラー材料のような固体粒子の存在下で、疎水性デンプンは、水性相に留まるのではなく、これらの粒子に吸着する傾向があることが見出された。理論に拘束されようとは思わないが、この挙動は、製紙のウェットエンドにおける乾燥紙力増強剤としての疎水性デンプンの結合能力及び性能を説明すると仮定される。
【0010】
国際特許出願WO 99/55964は、カチオン性または両性多糖を含む濾水及び歩留まり向上剤を懸濁液に添加する段階と、懸濁液を網(wire)上に成形脱水する段階とを含み、カチオン性多糖が疎水性基を有する、セルロース繊維を含む懸濁液から紙を製造する方法を開示している。多糖に対するアニオン基の置換度(DS)は、0から0.2である。しかし、多糖は、またカチオン基でも置換されており、カチオン基のDSは、0.01から0.5、好ましくは0.025から0.2である。カチオン基のDSは、アニオン基のそれより常に大きく、これらの多糖を、全体としてカチオン荷電させている。その結果、繊維への結合メカニズムは、依然として、電荷相互作用メカニズムに従う。
【0011】
国際特許出願WO 2004/031478は、芳香族基を有する少なくとも1つの第1置換基、及び芳香族基を有さない少なくとも1つの第2置換基を有する多糖を含み、第1置換基と第2置換基が10:1から1:10の範囲のモル比で存在する、カチオン化多糖生成物を開示する。カチオン化多糖を、セルロース繊維を含む水性分散体に添加する製紙方法も開示されている。
【0012】
脂肪族基の疎水性は、炭素原子の数に依存する。同数の炭素原子を有する芳香族基に比べて、脂肪族炭素鎖はより疎水性である。本発明によれば、脂肪族炭素鎖を有し、0と-0.09μeq/mgの間の総負電荷密度を有する疎水性アニオン性デンプンは、ウェットエンドにおける固体粒子に対する高い親和性を示すことが、驚くべきことに見出された。したがって、本発明によれば、0と-0.09μeq/mgの間の総負電荷密度を有する疎水性デンプンが好ましく、-0.005と-0.07μeq/mgの間の総負電荷密度を有するこのようなデンプンがより好ましい。
【0013】
本発明に従う乾燥紙力増強剤は、原則的に、任意の植物供給源から誘導し得る疎水性デンプンである。根茎(root)デンプンまたは塊茎(tuber)デンプン(例えば、キャッサバまたはジャガイモデンプン)、ならびに穀類及び果実デンプン(例えば、トウモロコシ、米、コムギまたはオオムギ)の両方を用いることができる。マメデンプン、例えば、エンドウ(pea)デンプンまたはインゲンマメ(bean)デンプンもまた、用いることができる。好ましい実施形態において、デンプンは、根茎デンプンまたは塊茎デンプン、より好ましくは、ジャガイモもしくはキャッサバデンプンである。
【0014】
天然デンプンは、通常、デンプンの2つの成分、アミロース及びアミロペクチンの多かれ少なかれ固定した比を有する。トウモロコシデンプンまたは米デンプンのようないくつかのデンプンの中に、本質的にアミロペクチンだけを含む天然産生種が存在する。これらのデンプン(これらは、通常、もちデンプンと呼ばれる)もまた、用いることができる。ジャガイモまたはキャッサバデンプンのような他のデンプンの中にもまた本質的にアミロペクチンだけを含む、遺伝子組み換え種、または突然変異種が存在する。デンプンの乾燥重量に対して、80wt%を超え、好ましくは95wt%を超えるアミロペクチンを通常含む、これらの品種の使用もまた、本発明の範囲内にあることが理解されるであろう。最後に、高アミロースジャガイモデンプンのような、アミロースが多いデンプンの品種もまた、本発明に従う乾燥紙力増強剤の製造に用いることができる。本発明によれば、アミロースとアミロペクチンの全ての比率のデンプンを使用し得る。しかし、普通のまたは増加したアミロペクチン含量を有するデンプンを用いることが好ましい。
【0015】
本発明に従う疎水性デンプンを製造するためのデンプンは、好ましくは、未処理のデンプンである。しかし、望まれる場合、酸による分解または酸化のような当技術分野において知られている任意の方法によって、疎水性基の導入の前に、またはそれと同時に、デンプンの分子量を減少または増大させてもよい。
【0016】
本発明によれば、疎水性デンプンは、4〜24個の炭素原子、好ましくは7〜20個の炭素原子、より好ましくは12個の炭素原子を有する脂肪族及び/または芳香族基を含む疎水性試薬による、エーテル化、エステル化またはアミド化によって修飾されたデンプンである。疎水性試薬は、脂肪族基に基づくことが好ましい。
【0017】
疎水性デンプンは、疎水性置換基を、エーテル、エステルまたはアミド基によってデンプンに結合させることによって製造し得る。疎水性基をエーテル結合によりデンプンに結合させる場合、疎水性試薬は、好ましくは、ハライド(halide)、ハロヒドリン、エポキシドまたはグリシジル基を反応部位として含む。試薬のアルキル鎖は、4〜24個の炭素原子、好ましくは7〜20個の炭素原子で変化し得る。エーテル結合を与える疎水性試薬の適切な例は、臭化セチル、臭化ラウリル、ブチレンオキシド、エポキシ化大豆脂肪アルコール、エポキシ化亜麻仁脂肪アルコール、アリルグリシジルエーテル、プロピルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、デカングリシジルエーテル、ラウリルグリシジルエーテル、ラウリルフェニルグリシジルエーテル、ミリストイルグリシジルエーテル、セチルグリシジルエーテル、パルミチルグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテル、リノリルグルシジルエーテル及びこれらの混合物である。本発明に従ってデンプンと反応させるために使用し得る他のエーテル化剤は、少なくとも4個の炭素原子を含むアルキルハライド、例えば、1-ブロモデカン、10-ブロモ-1-デカノール、及び1-ブロモドデカンである。
【0018】
好ましい実施形態において、荷電した疎水性基を導入する。疎水性カチオン基は、デンプンと第4級アンモニウム基を含む試薬(例えば、1-クロロ-2-ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウム塩またはグリシジルトリアルキルアンモニウム塩)との反応によって、エーテル結合を介して結合させることができる。この第4級アンモニウム基のアルキル鎖は、1〜24個の炭素原子、好ましくは7〜20個の炭素原子で変化することができ、第4級アンモニウム基の少なくとも1つのアルキル鎖は、4〜24個の炭素原子を含む。好ましくは、他のアルキル鎖は7個未満の炭素原子を有する。例えば、(3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル)ジメチルドデシルアンモニウム塩、1-クロロ-2-ヒドロキシプロピルジメチルラウリルアンモニウム塩、1-クロロ-2-ヒドロキシプロピルジメチルミリストイルアンモニウム塩、1-クロロ-2-ヒドロキシプロピルジメチルセチル、1-クロロ-2-ヒドロキシプロピルジメチルステアリル、グリシジルジメチルラウリルアンモニウム塩、グリシジルジメチルミリストイルアンモニウム塩、グリシジルジメチルセチルアンモニウム塩、グリシジルジメチルステアリルアンモニウム塩、ジアルキルアミノエチルハライド、または上記の混合物を、疎水性カチオン化試薬として使用できる。疎水性カチオン基は、クロロエチルジアルキルアミン塩酸塩のような第3級アンモニウム基との反応によって導入してもよい。この第3級アンモニウム基のアルキル鎖は、1から24個の炭素原子で変化し得る。疎水性カチオン基を導入するための反応は、EP-A-0 189 935に開示の手順と同様に実施し得る。例えば、EP-A-0 689 829に開示の手順と同様に、2-クロロ-アミノジアルキル酸を試薬として使用して、疎水性アニオン基を結合させることができる。
【0019】
疎水性基をエステル結合によりデンプンに結合させる場合、アルキル無水物などの、いくつかの種類の試薬を利用できる。アルキル鎖は、4〜24個の炭素、好ましくは7〜20個の炭素で変化し得る。特に、オクタン酸酢酸無水物(octanoic acetic anhydride)、デカン酸酢酸無水物、ラウリン酸酢酸無水物(lauroyl acetic anhydride)、ミリスチン酸酢酸無水物のような混合無水物が、適切なアルキル無水物である。
【0020】
好ましい実施形態において、疎水性アニオン基をデンプンに結合させることができる。これは、特定のデンプンと、アルキルコハク酸無水物またはアルケニルコハク酸無水物との反応によって実施し得る。アルキルコハク酸無水物が好ましい。アルキル鎖は、4〜24個の炭素、好ましくは7〜20個の炭素で変化し得る。オクテニルコハク酸無水物、ノニルコハク酸無水物、デシルコハク酸無水物、ドデセニルコハク酸無水物が最もよく使用される。この実施形態による手順は、US-A-5,776,476に開示の手順と同様に実施し得る。
【0021】
アミド基によってカルボキシメチルデンプンに結合した疎水性基の準備のためには、WO-A-94/24169に記載の手順を同様に使用し得る。アミド基導入のための適切な試薬の例には、8から30個の炭素原子を有する飽和または不飽和炭化水素基を含む脂肪アミンが含まれる。分岐状炭化水素基は除外されないが、線状鎖が好ましい。好ましくは、脂肪基は、C12からC24脂肪アミンに由来する。特に好ましい結果は、脂肪アミンが、n-ドデシルアミン、n-ヘキサデシルアミン、n-オクタデシルアミン、ココアミン、タローアミン(tallowamine)、水素添加N-タロー-1,3-ジアミノプロパン、N-水素化タロー-1,3-ジアミノプロパン、及びN-オレイル-1,3-ジアミノプロパンからなる群から選択される場合に得られる。このような脂肪アミンは、Armeen及びDuomeen(AKZO Chemicals)の商用名で知られている。
【0022】
本発明による方法において達成される疎水性置換度(すなわち、DS)は、1モルのグルコース単位当たりの疎水性置換基の平均モル数として定義され、疎水化の前のデンプンにおける他の置換基の存在、用いる疎水性試薬の種類、及び生成物の想定される用途に依存して変化し得る。本発明に従えば、DSは、0.0001から約0.01、より好ましくは、0.002から0.008である。非常に小さいDSでさえ、比較的大きな効果を導くことが認められることは驚きである。
【0023】
デンプンの疎水化は、懸濁液(水もしくは有機溶媒)において、水溶液(分散液)において、またはデンプン顆粒の糊化(gelatinization)の間に、半乾燥反応条件下に実施し得る。高い温度及び圧力で、押出機において疎水化を実施することもまた可能である。後者の実施形態によれば、反応を連続的に実施することが可能である。水分含量は、反応が押出機で実施される場合、好ましくは25%より少ない。
【0024】
好ましくは、反応を懸濁液で実施する場合、溶媒として水を用いる。疎水性試薬の水への溶解度が低い場合、水と適切な水混和性有機溶媒との組合せを用い得る。適切な有機溶媒には、これらに限らないが、メタノール、エタノール、i-プロパノール、n-プロパノール、t-ブタノール、sec-ブタノール、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、及びアセトンが含まれる。
【0025】
水溶液における反応は、好ましくは、20wt%を超えるデンプンまたはその誘導体と、80wt%未満の溶媒を含む反応混合物を用いて実施する。より好ましくは、反応混合物中のデンプン含量は、20と40wt%の間であり、他方、溶媒含量は、好ましくは80と60wt%の間である。乾燥機(ドラム乾燥機;スプレードライヤー)または押出機と組み合わせて、オートクレーブが反応容器として好ましくは用いられる。さらに、反応は、類似の反応の場合によく知られた条件下で実施される。pHは、好ましくは7と13の間である。
【0026】
好ましくは、疎水性デンプンは、アルカリ金属水酸化物または類似の物質のような、苛性触媒(caustic catalyst)の存在下で製造される。特定の実施形態によれば、苛性触媒は、事実上、試薬として存在するような量で用いられる。
【0027】
さらに、疎水性デンプンを製造するための反応は、反応混合物中に1種または複数の界面活性剤が存在することによって加速し得ることが見出された。適切な界面活性剤は、疎水性試薬が親水性デンプンに接触することを容易にして、反応を起こすことができる能力によって特徴付けられる(相間移動触媒作用)。この実施形態によれば、反応は、好ましくは、反応混合物が撹拌されている間に実施される。界面活性剤は、前記反応系のいずれにおいても使用できる。使用し得る界面活性剤は、非イオン、陰イオン、陽イオンまたは両性のものを、それらが反応系の他の成分と適合し、またそれらが、疎水性試薬が親水性デンプンに接触することを容易にすることができるならば、単独でまたは組合せとして含む。適切な界面活性剤の例は、高級脂肪アルコール硫酸エステル塩、例えば、8から18個の炭素原子を有するアルコールの硫酸エステルナトリウムもしくはカリウム塩、アルキルフェノキシポリエトキシエタノール、例えば、オクチルフェノキシポリエトキシエタノール、アルキルトリメチルアンモニウムハライド及び水酸化アルキルトリブチルアンモニウム、例えば、水酸化テトラメチルアンモニウム及びセチルトリメチルアンモニウムブロミド、アルキル酸、例えば、ステアリン酸、長鎖アルコール(例えば、ラウリルもしくはセチルアルコール)のエチレンオキシド縮合物、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ならびに他の多くである。好ましくは、界面活性剤は、分岐状アルキル鎖または複数のアルキル鎖を含む。界面活性剤を用いる量は、デンプンの乾燥物に対して、0.1と10wt%の間で変化し得る。
【0028】
好ましい実施形態において、疎水性デンプンは、また、架橋されている。架橋は、知られている任意の方法で実施することができる。所望の誘導体を得るための適切な方法の例は、例えば、「Modified Starches: Properties and Uses」、O. B. Wurzburg、CRC Press Inc.、1987年に開示されている。架橋反応では、疎水性デンプンは、2つ以上の反応性基を有する試薬である架橋剤により処理される。架橋剤は、デンプンに、好ましくは、エステル及び/またはエーテル結合により結合させる。適切な反応性基の例は、無水物、ハロゲン、ハロヒドリン、エポキシドまたはグリシジル基、あるいはこれらの組合せである。エピクロルヒドリン、トリメタリン酸ナトリウム、オキシ塩化リン、リン酸塩、クロロ酢酸、アジピン酸無水物、ジクロロ酢酸、及びこれらの組合せが、架橋剤として用いるのに適することが見出されている。架橋剤は、疎水化反応が実施される反応混合物に添加することが好ましい。架橋反応は、疎水基を導入する反応の前に、それと同時に、またはその後で実施し得る。2つの反応を同時に実施することが好ましい。
【0029】
疎水性デンプンは、用いるパルプの種類、作業条件及び望まれる紙の特性に依存し得る量で、製紙のウェットエンドにおける乾燥紙力増強剤として使用し得る。好ましくは、紙パルプ乾燥物に対して計算して、0.05から10wt%、より好ましくは0.1から3wt%の疎水性デンプン乾燥物が用いられる。
【0030】
疎水性デンプンは、好ましくは、最初に水で糊化される。得られたデンプン溶液は、任意選択でさらなる希釈の後、パルプ集合体に添加する。しかし、予め糊化された疎水性デンプンと、乾燥産物としての、または水に溶解後のパルプ集合体とを、混合することもまた可能である。
【0031】
疎水性デンプンは、従来のカチオン化デンプンもしくはアニオン性デンプンのような他の乾燥紙力増強剤と組み合わせて用いられることが想定される。アニオン性デンプンの場合には、WO-A-93/01353及びWO-A-96/05373に記載のように、固定化剤(fixative)を用いることもまた望ましいことであり得る。ウェットエンドにおける繊維及びフィラーへの非疎水性アニオン性デンプンの最適な結合のために、先行技術に記載されているように、カチオン性固定化剤の使用が必要である。驚くべきことに、本発明による乾燥紙力増強剤としての疎水性デンプンの使用では、疎水性デンプンが繊維及びフィラーに結合するので、固定化剤を用いる必要がないことが見出された。
【0032】
疎水性デンプンは、製紙工程の任意の個所で添加できるが、一般に、ウェットエンドにおいて、すなわち、網上に紙シートが形成される前に添加される。例えば、疎水性デンプンは、ヘッドボックス、叩解機(Hollander)、ハイドロパルパー(hydropulper)またはダスティングボックス(dusting box)にある間に、パルプに添加し得る。
【0033】
製紙に用いられるパルプは、一般に、セルロース繊維、合成繊維、またはこれらの組合せの、任意選択でフィラーを含む水性分散液である。使用し得るセルロース系材料の中には、晒及び未晒硫酸塩(クラフト)、晒及び未晒サルファイト、晒及び未晒ソーダ、中性サルファイト、半化学、熱機械、化学熱機械、ケミグランド(chemiground)木材、グランド木材、これらの繊維のリサイクルまたは任意の組合せがある。ビスコースレーヨン、再生セルロース、綿などの繊維もまた、望まれる場合、使用し得る。
【0034】
望まれる如何なる不活性無機フィラーも、本発明に従う乾燥紙力増強剤と共に用いられようとするパルプに添加し得る。このような材料には、クレー、二酸化チタン、タルク、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、及び珪藻土が含まれる。望まれる場合、ロジンもまた存在し得る。
【0035】
紙に一般的に導入される他の添加剤、例えば、染料、顔料、サイズ添加剤、ミョウバン、歩留まり向上剤などを、パルプまたは完成紙料に添加し得る。
【0036】
前記選ばれた乾燥紙力増強剤、及び製紙システムに含め得る前記の他の成分以外に、アルカリ性微粒子システムを生成するように、コロイド状無機鉱物を、製紙システムに添加し得る。このような微粒子システムには、コロイダルシリカ、ベントナイト、または類似物が含まれ、これらは、乾燥パルプ重量に対して、少なくとも0.001重量%、より特定すれば、約0.01から1重量%の量で、システムに組み入れられ得る。このような微粒子無機材料のさらなる説明は、米国特許第4,388,150号、米国特許第4,643,801号、米国特許第4,753,710号及び米国特許第4,913,775号に見出すことができる。
【0037】
ウェットエンドまたは紙パルプに添加し得る乾燥紙力増強剤の量は、望まれる特性(例えば、強さ、濾水または歩留まり)をもたせる効果のある量である。通常、パルプの乾燥重量に対して、約0.05から5重量%、最も適切には約0.1から2重量%のデンプン誘導体が用いられる。
【0038】
本発明の一実施形態は、乾燥紙力増強剤を、シートの形成の前に、高温が存在する都合のよい任意の位置で、製紙システムに直接(すなわち、乾燥状態において)、添加し得るということである。例には、これらに限らないが、ヘッドボックス、パルパー、マシンチェスト(machine chest)、ブレンドチェスト、スタッフボックスまたは白水トレーが含まれ得る。代わりに、製紙工程に添加する前に、乾燥紙力増強剤を、水に分散してもよい。通常、これは、約0.1から30パーセントの固形分で、顆粒状デンプン生成物を水にスラリー化し、ヘッドボックスの前で機械に直接添加することによって実施される。スラリーは、約40と100℃の間、特に60と70℃の間に加熱し得る、または、デンプンを、任意の供給源からの予め加熱された水に添加してもよい。製紙工場において一般的な工程からのリサイクル水を用いると有利であり、このような供給源には、白水、あるいは、温かい/熱い水を、それらの操業の副生成物として生じる他の設備または工程が含まれ得る。これらのデンプンを水に、100℃未満で分散されることが理想的であるが、典型的な高温で、これらのデンプンをクッキングする(cook)ことが、当業者には明白であろう。用いられ得るクッキング技術の例は、ジェットクッキング、バッチクッキング、水蒸気噴射、加圧クッキングなどである。
【0039】
前記のように調製した場合、本発明に従う乾燥紙力増強剤は、現在利用できるものを超える多くの利点を製紙業者にもたらす。調製が容易であること、及び顆粒状デンプンの分散により低い温度を必要とすることにより、結果的に、エネルギー及び設備が節減され、高温の液体及び高温の設備に作業者を曝すことが少なくなる。従来のデンプンから得られる通常の利点に加えて、本発明の誘導体により、今日の高速の機械及びポンプの剪断に対する耐性が、より良好になる。特に、高い導電性または部分的に閉じたシステムにおける、向上した強さにより、製紙業者は、より軽い重量のシートを製造でき、このため、パルプのコストを削減できるようになる。
【0040】
本発明が、以下の非限定的実施例によって、これから説明される。
【実施例1】
【0041】
疎水性デンプン誘導体を、EP 0 603 727に記載の一般的手順に従って、ジャガイモデンプンと、(3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル)ジメチルドデシルアンモニウムクロリド(QUAB 342、QUAB Chemicals)とを反応させることによって調製した。ある場合には、同時架橋を実現するために、トリメタリン酸ナトリウムを加えた(250mg/kg)。QUAB 342の置換度は、0.004、0.006及び0.008であった。
【0042】
こうして得た乾燥紙力増強剤を、10%の濃度で、勢いのある流れにより水に溶かした。ブルックフィールド粘度を、5%の濃度で、50℃で測定した(60rpm)。デンプン溶液を1%に希釈した。Malvern Zetasizer 3000を用い、担体としてminusilを、滴定剤として1mMのメチルグリコールキトサンを用いて、希釈溶液から電荷密度を求めた。
【0043】
固体パルプ成分へのデンプンの吸着は、次の様にして調べた。パルプに1.6%(乾燥重量に対する乾燥重量)のデンプンを加え、60秒後に、パルプを濾過した。比較のために、未処理のジャガイモデンプン、及び標準的なカチオン化ウェットエンドデンプンであるAmylofax PW(0.035のクロロヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドのDS)もまた調べた。デンプンの吸着は、濾液中の非吸着デンプンの量を測定することによって求めた。パルプは、叩解機を用い、水道水中2%の濃度(consistency)で、32°SR(21℃で測定)に叩解されたカバノキ硫酸塩パルプであった。叩解した後、パルプを、水道水により、1%の濃度に希釈した。導電性は、NaClの添加によって、1500μS/cmに設定した。濾液中のデンプンの量は、酵素法により求めた。この方法によれば、デンプンは、最初に、α-アミラーゼ及びアミノグルコシダーゼ(aminoglucosidase)により、グルコースに変換される。
【0044】
次に、グルコースの量を、へキソキナーゼ試験法(Raisio diagnostics)を用い、分光器により求める。デンプンの量は、得られたグルコースの量から、酵素によるグルコースへのデンプンの不完全変換に対する補正因子を用いて、計算される。この補正因子は、デンプンの種類に依存し、標準的な方法によって別に求めた。パルプのゼータ電位は、Malvern Zetasizer 3000により測定した。
【0045】
複数のデンプンに対するデンプン吸着の概要を、Table 1(表1)に与える。
【0046】
【表1】

【0047】
これらの結果から、全ての疎水性QUAB誘導体が総負電荷密度を示すことが分かる。Amylofax PWのような通常のカチオン化ウェットエンドデンプンは、正の電荷密度を示す。未処理のジャガイモデンプンでは、デンプンの吸着は少ない。疎水性基の導入によって、デンプンの吸着はかなり増加し、疎水化及び架橋の組合せにより、吸着はさらに増大する。Amylofax PWのような標準的なカチオン化ウェットエンドデンプンにより、1.6%の添加レベルで、やはり高いデンプン吸着が達成されるが、この場合、繊維のゼータ電位は、負から正に変わった。新しい疎水性ウェットエンドデンプンでは、ゼータ電位は、1.6%の添加レベルで、負のままである。
【実施例2】
【0048】
実施例1に記載の疎水性デンプン誘導体とAmylofax PWとの混合物(比率 1:2)を製造し、実施例1に記載の手順に従って試験した。デンプン吸着の概要をTable 2(表2)に示す。
【0049】
【表2】

【0050】
これらの結果から、従来のカチオン化デンプンとの組合せにおいてもまた、本発明に従う疎水性デンプンは、1.6%の投入で、セルロース繊維を過荷電させることなく、良好なデンプン吸着性能を示すことが分かる。
【実施例3】
【0051】
疎水性デンプン誘導体を、実施例1に記載の手順に従って、ジャガイモデンプンと、N-(3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル)-N-ベンジル-N,N-ジメチルアンモニウムクロリド(ベンジル試薬)とを反応させることによって調製した。ある場合には、同時架橋を実現するために、トリメタリン酸ナトリウムを加えた(250mg/kg)。ベンジル試薬の置換度は、0.004、0.006及び0.008であった。これらの疎水性デンプン誘導体を、実施例2に記載の手順に従って試験した(Amylofax PWとベンジル誘導体との2:1混合物)。複数のデンプンに対するデンプン吸着の概要を、Table 3(表3)に与える。
【0052】
【表3】

【0053】
これらの結果から、デンプン吸着はベンジルのDSに依存しないことが分かる。それゆえ、ベンジル基(C7)は、本発明による疎水性相互作用にとっての下限である。
【実施例4】
【0054】
疎水性デンプン誘導体を、EP 1141030 B1に記載の一般的手順に従って、ジャガイモデンプンとオクテニルコハク酸無水物(OSA)との反応によって調製した。ある場合には、同時架橋を実現するために、トリメタリン酸ナトリウムを加えた(250mg/kg)。オクテニルコハク酸無水物の置換度は、0.004、0.006及び0.008であった。これらの疎水性デンプン誘導体を、実施例1に記載の手順に従って試験した。複数のデンプンに対するデンプン吸着の概要を、Table 4(表4)に与える。
【0055】
【表4】

【0056】
これらの結果から、-0.09μeq/mg未満の電荷密度が、本発明に従う疎水性相互作用にとって最も好ましいことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
- セルロース繊維、合成繊維、またはこれらの組合せと、任意選択であるフィラーとの水性懸濁液を準備する段階、
- 懸濁液に、乾燥紙力増強剤を添加する段階であって、乾燥紙力増強剤が、4〜24個の炭素原子を有する脂肪族及び/または芳香族基を含む疎水性試薬による、エーテル化、エステル化またはアミド化によって、デンプンの置換度(DS)が0.0001〜0.01であるように修飾された疎水性デンプンである段階、及び
- 懸濁液を網上で成形脱水して紙シートを得る段階、
を含む、製紙方法。
【請求項2】
置換度が、0.002〜0.008である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
疎水性試薬が、7〜20個の炭素原子、より好ましくは12個の炭素原子を有する脂肪族基を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
疎水性試薬が、(3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル)ジメチルドデシルアンモニウム塩、好ましくは、(3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル)ジメチルドデシルアンモニウムクロリドである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
疎水性デンプンが、0〜-0.09μeq/mg、好ましくは、-0.005〜-0.07μeq/mgの総負電荷密度を有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
デンプンが、根茎デンプンまたは塊茎デンプンである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
デンプンがジャガイモデンプンである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
疎水性デンプンが架橋されている、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
疎水性デンプンが、トリメタリン酸ナトリウムを用いて架橋されている、請求項8に記載の方法。

【公表番号】特表2012−512970(P2012−512970A)
【公表日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−542033(P2011−542033)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【国際出願番号】PCT/NL2009/050782
【国際公開番号】WO2010/071435
【国際公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(511125098)
【Fターム(参考)】