説明

製菓製パン用油脂組成物

【課題】長期保存後においても可塑性、製パン製菓時の作業性、口溶け性、及び風味性に優れるマーガリン用油脂組成物の提供。
【解決手段】マーガリン用油脂組成物であって、ヨウ素化の異なる2種類のエステル交換油を含み、かつ、これらのエステル交換油中に、1,2,3−トリパルミトイルグリセロール、3−オレオイル−1,2−ジパルミトイルグリセロール、および2−オレオイル−1,3−ジパルミトイルグリセロールの少なくとも一種を特定の含油量で含んでなる、マーガリン用油脂組成物により達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マーガリン用油脂組成物およびそれを含むマーガリンに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パン類においては、製品保存中の老化を防止するために、乳化剤および増粘剤等の添加が行われてきた。しかしながら、老化防止効果を得るために多量の乳化剤を用いた場合、パン類の食感や風味を損なうことがあった。また、マーガリン等の可塑性油脂食品には、従来から硬化油と液体油とを調合した油脂が使用されており、この硬化油には、トランス脂肪酸含有量の高い部分水素添加油を用いることが一般的であった。しかしながら、硬化油に含まれるトランス脂肪酸が健康に悪影響を及ぼすことが明らかとなったため、トランス脂肪酸含有量を低減させた油脂組成物が要望されている。
【0003】
例えば、パン製品の保存安定性および口溶けを改善するために、全脂肪酸残基に対し不飽和脂肪酸残基75質量%以上である液状油50〜85質量%と、乳化剤10〜30質量%と、増粘多糖類0.1〜10質量%とを含む油脂組成物を用いることが提案されている(例えば、特許文献1)。また、製パン時の作業性が良く、ソフト性および歯切れが良好で、老化耐性に優れるパンを製造するために、直接β型結晶である油脂5〜50質量%と、グリセリン脂肪酸エステル0.1〜7.3質量%と、プロピレングリコール脂肪酸エステル0.1〜7.3質量%とを含む油脂組成物を用いることが提案されている(例えば、特許文献2)。
【0004】
また、トランス脂肪酸含有量を低減させ、保存における品質変化の無い可塑性油脂組成物を製造するために、高融点パーツと中融点パーツの2種類のエステル交換油を含む油脂組成物を用いることが提案されている(例えば、特許文献3)。また、同様の目的を達成する為に、1,2,3−トリパルミトイルグリセロールの含有量が4〜18質量%であり、かつ3−オレオイル−1,2−ジパルミトイルグリセロールおよび2−オレオイル−1,3−ジパルミトイルグリセロールの合計含有量が15〜55質量%である油脂組成物を用いることも提案されている(例えば、特許文献4)。
【0005】
しかしながら、今尚、長期保存後における可塑性、製パン製菓時の作業性、パン類および菓子類の口溶け性、風味性に優れ、並びに、トランス脂肪酸含有量を低減させたマーガリン用油脂組成物の開発が切望されている。
【0006】
【特許文献1】特開2005−48号公報
【特許文献2】特開2007−267654号公報
【特許文献3】特開2007−174988号公報
【特許文献4】特開2007−177100号公報
【発明の概要】
【0007】
本発明者らは、今般、ヨウ素化の異なる2種類のエステル交換油を採用し、かつ、これらのエステル交換油中に、特定の三種のグリセロールから選択される少なくとも一種を特定の含油量で含んでなるマーガリン用油脂組成物によれば、長期間保存後であっても、可塑性、製パン製菓時の作業性、口溶け性、及び風味性を高い次元において達成し得るとの知見を得た。本発明は、かかる知見に基づいてなされたものである。
【0008】
従って、本発明は、第1のエステル交換油と、第2のエステル交換油とを含むマーガリン用油脂組成物であって、
第1のエステル交換油のヨウ素価が2以下であり、
第2のエステル交換油のヨウ素価が40以上65以下であり、
第1のエステル交換油および第2のエステル交換油が、1,2,3−トリパルミトイルグリセロール、3−オレオイル−1,2−ジパルミトイルグリセロール、および2−オレオイル−1,3−ジパルミトイルグリセロールの少なくとも一種を含むものであり、
前記マーガリン用油脂組成物の全量に対して、
1,2,3−トリパルミトイルグリセロールの含有量が3.3質量%以上6質量%以下であり、
3−オレオイル−1,2−ジパルミトイルグリセロールおよび2−オレオイル−1,3−ジパルミトイルグリセロールの合計含有量が15質量%未満であり、
3−オレオイル−1,2−ジパルミトイルグリセロールの含有量と2−オレオイル−1,3−ジパルミトイルグリセロールの含有量の比の値が1超過である、ものである。
【0009】
本発明によれば、長期保存後のマーガリンであっても、可塑性、製パン製菓時の作業性、ならびにパン類および菓子類の口溶けに優れるマーガリン用油脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
定義・分析(測定法)
本発明において、油脂中の構成脂肪酸の分析は、AOCS Ce1f−96に準じて行うことができる。ヨウ素価は、基準油脂分析試験法(2.3.4.1−1996)に従い、ウィイス法により測定した値である。
【0011】
I.マーガリン用油脂組成物
ヨウ素価
本発明においては、ヨウ素価の異なる第1のエステル交換油と、第2のエステル交換油とを採用する。第1のエステル交換油のヨウ素価は2以下であり、好ましくは1以下である。また、第2のエステル交換油のヨウ素価は40以上65以下であり、好ましくは下限値が50以上であり、上限値が60以下である。このようなヨウ素価の異なる二種のエステル交換油を組み合わせることにより、トランス脂肪酸含有量をより低減させることができる。
【0012】
特定三種のグリセロール
第1のエステル交換油および第2のエステル交換油は、1,2,3−トリパルミトイルグリセロール(以下、単に「PPP」と云う)、3−オレオイル−1,2−ジパルミトイルグリセロール(以下、単に「PPO」と云う)、および2−オレオイル−1,3−ジパルミトイルグリセロール(以下、単に「POP」と云う)の少なくとも一種を含むものである。
【0013】
本発明にあっては、マーガリン用油脂組成物の全量に対して、
PPPの含有量が3.3質量%以上6質量%以下であり、好ましくは上限値が5以下であり、かつ、PPOおよびPOPの合計含有量が15質量%未満であり、好ましくは下限値が5質量%以上である。含有量が上記範囲程度であることにより、製パン製菓時の作業性およびパン類および菓子類の口溶けにより優れたマーガリン用油脂組成物とすることが可能となる。
【0014】
本発明にあっては、PPOおよびPOPの含有量がPPO/POP>1を満たすものである。この含有量は、好ましくはPPO/POP>1.4であり、さらに好ましくはPPO/POP>1.6であり、また好ましくはPPO/POP<3.0であり、さらに好ましくはPPO/POP<2.3である。含有量が上記範囲程度であることにより、マーガリン保存中の経時的な硬さ変化をより小さくすることができる。
【0015】
本発明の好ましい態様によれば、第2のエステル交換油中におけるPPP含有量が6質量%以上20質量%以下であり、好ましくは上限値が13質量%以下である。第2のエステル交換油中におけるPPP含有量が上記範囲程度であることにより、パン類および菓子類の口溶けにより優れたマーガリン用油脂組成物とすることができる。
【0016】
二種のエステル交換油
本発明の好ましい態様によれば、マーガリン用油脂組成物の全量に対して、
第1のエステル交換油の含有量が0質量%超過40質量%以下であり、好ましくは下限値が10質量%以上であり、上限値が35質量%以下であり、
第2のエステル交換油の含有量が0質量%超過70質量%以下であり、好ましくは下限値が20質量%以上であり、上限値が50質量%以下である。
【0017】
本発明のより好ましい態様によれば、第1のエステル交換油と第2のエステル交換油の配合量が、下記式(I):
第2のエステル交換油/第1のエステル交換油≧1(好ましくは≧0.9) (I)
を充足するものが好ましい。
二種のエステル交換油の配合量がこの範囲内であれば、製菓製パンの作業性が良く、口どけの良いパン類および菓子類を得ることが可能となる。
【0018】
エステル交換油
エステル交換油は、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、オリーブ油、綿実油、大豆油、ナタネ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、牛脂、乳脂、豚脂、カカオバター、シア油、マンゴー核油、サル油、イリッペ油、魚油、および鯨油等の各種動植物油、ならびにこれらの油脂を水素添加および/または分別して得られる加工油脂の少なくとも一種を用いて製造したものである。なお、エステル交換の方法に特に制限はなく、例えば、触媒としてナトリウムメトキシド等のアルカリ触媒、またはリパーゼ等の酵素を用いて反応させる方法が挙げられる。エステル交換は、位置特異的なエステル交換であっても、ランダムエステル交換であってもよい。また、本発明において、「水素添加」行為は、トランス脂肪酸含有量の多い従来の部分水素添加を意味するものではなく、トランス脂肪酸含有量を少なくした油脂を実現できる完全水素添加またそれに近似する行為を意味する。水素添加の方法は、本発明における油脂を得られるものであれば特に制限はない。
【0019】
第1のエステル交換油
第1のエステル交換油は、少なくとも一種の極度硬化油をエステル交換して得られた油脂であるか、あるいは少なくとも一種の油脂をエステル交換した後に水素添加して得られた極度硬化油である。極度硬化油としては、パーム極度硬化油、大豆極度硬化油、菜種極度硬化油、綿実極度硬化油、ハイエルシン菜種油の極度硬化油等が挙げられる。本発明においては、市販の極度硬化油および混合した油脂を用いることもでき、例えば、商品名「パーム極度硬化油」(横関油脂工業株式会社製)、商品名「ハイエルシン菜種極度硬化油」(横関油脂工業株式会社製)等が挙げられる。なお、第1のエステル交換油の製造方法には、公知の製造方法が用いられてよい。例えば、パームステアリンとパーム核オレインとを質量比1:1で混合し、触媒としてナトリウムメチラートを混合油に対し0.2質量%を添加して、真空状態にて、90〜120℃、10〜30分間の条件でエステル交換を行う。得られたエステル交換油にニッケル触媒をエステル交換油に対し0.1〜0.2質量%を添加して、180℃、4時間の条件で水素添加を行い、極度硬化油を得ることができる。
【0020】
第2のエステル交換油
第2のエステル交換油は、上記の油脂をエステル交換して製造することができる。第2のエステル交換油は、パームオレインのエステル交換油であることが好ましい。本発明においては、市販の油脂をエステル交換して第2のエステル交換油を得ることもでき、市販の油脂をエステル交換したものとしては、例えば、商品名「スーパーオレイン」(日清オイリオグループ株式会社製)のエステル交換品等が挙げられる。また、第2のエステル交換油の製造方法には、公知の製造方法が用いられてよい。例えば、パームオレインを真空状態にて、90〜120℃、10〜30分間の条件でエステル交換を行い、第2のエステル交換油を得ることができる。
【0021】
液体油
本発明の好ましい態様によれば、マーガリン用油脂組成物は液体油をさらに含むものである。液体油には、食用油脂の中で液状の油脂を用いることができる。例えば、液体油としては、ナタネ油、コーン油、大豆油、米油、魚油、紅花油、オリーブ油、ごま油、および綿実油等が挙げられ、融点が20℃以下であるものが好ましい。特に、菜種油および大豆油が好ましい。好ましい態様では、液体油の含有量は、油脂組成物の全量に対して、0質量%超過60質量%以下質量%である。
【0022】
マーガリン用油脂組成物の製造方法
本発明の好ましい態様によれば、マーガリン用油脂組成物は、第1のエステル交換油と、第2のエステル交換油とを混合および攪拌して製造することができ、好ましくはさらに液体油を添加して、混合および攪拌を行うことで、製造することができる。好ましい態様では、第1のエステル交換油0質量%超過40質量%以下と、第2のエステル交換油0質量%超過70質量%以下と、液体油0質量%超過60質量%以下とを配合して、マーガリン用油脂組成物を製造することができる。
【0023】
用途
マーガリン
本発明の好ましい態様によれば、マーガリンは、上記のマーガリン用油脂組成物と、水と、さらにその他の成分とを混合して製造することができる。その他の成分としては、例えば、乳化剤、香料、タンパク質、抗酸化剤、色素、および食塩等が挙げられる。なお、本発明のマーガリンは、各種用途に使用することができるが、好ましくは製パン用または製菓用であり、より好ましくは製パン製菓における練り込み用または折り込み用である。また、乳化剤、香料、タンパク質、抗酸化剤、および色素には、食品用の公知の物を用いることができ、例えば、乳化剤としては、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリソルベート、縮合リシノレイン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル等の合成乳化剤や、大豆レシチン、卵黄レシチン、大豆リゾレシチン、卵黄リゾレシチン、酵素処理卵黄、サポニン、植物ステロール類、および乳脂肪球皮膜等の合成乳化剤でない乳化剤等が挙げられる。抗酸化剤としては、トコフェロール(ビタミンE)、アスコルビン酸(ビタミンC)、およびレチノール(ビタミンA)等が挙げられる。好ましい態様では、マーガリンの全量に対して、マーガリン用油脂組成物の含有量は80質量%以上であり、水の含有量は17質量%以下であり、その他の成分の合計含有量は0質量%超過3質量%以下である。
【0024】
マーガリンの製造方法
本発明の好ましい態様によれば、上記のマーガリン用油脂組成物と、水と、上記のその他の成分とを公知の方法で混合して調製することにより、マーガリンを製造することができる。例えば、以下の方法により製造することができる。まず、親油性の乳化剤(モノグリセリン脂肪酸エステル、レシチン、トコフェロール)、香料、および色素(カロテン)を含有したマーガリン用油脂組成物と、食塩を含む水相部とを40〜70℃で加熱混合して、予備乳化を行う。続いて、予備乳化後、コンビネーター(シュレーダー社製:ドイツ)による冷却、混合を行う。予備乳化した乳化物を冷却シリンダー、ピンマシーン等を通し、冷却混合することで油中水型乳化物を製造することができる。
【0025】
パン類および菓子類の製造方法
本発明の好ましい態様によれば、上記のマーガリンを用いて、パン類および菓子類の製造を行うことができる。パン類および菓子類の製造には、公知の製造方法が用いられてよい。例えば、穀物類100重量部に対して、2〜50重量部のマーガリンを用いることが好ましい。なお、パン類および菓子類には、例えば、食パン、ロールパン、クロワッサン、パイ、調理パン、および菓子パン等が挙げられる。
【実施例】
【0026】
本発明の内容を、以下の実施例及び比較例により詳細に説明するが、本発明の範囲は、これらの実施形態により限定されるものではない。
【0027】
実施例1
油脂A(第1のエステル交換油)の調製(日清オイリオグループ株式会社、社内製)
パームステアリン(パーム1段分別硬部油)と、パーム核オレイン(パーム核1段分別軟部油)とを質量比1:1で混合し、得られた混合油脂を水素添加した後、エステル交換して、第1のエステル交換油(極度硬化油)を得た。得られた第1のエステル交換油のヨウ素価は1であり、PPP含有量は3.7質量%であった。
【0028】
油脂B(第2のエステル交換油)の調製(日清オイリオグループ株式会社、社内製)
パームオレイン(パーム1段分別軟部油)をエステル交換して、第2のエステル交換油を得た。得られた第2のエステル交換油のヨウ素価は56であり、PPP含有量は8.4質量%であった。
【0029】
エステル交換
上記のエステル交換は、以下の方法により行った。
1.反応:十分乾燥させた油脂に、ナトリウムメトキシドを加えて(対油0.2質量%)、真空状態にて、110℃、15分間反応させた。
2.油洗い:油脂に湯を加え攪拌し、静置後、湯を抜き取る作業を数回繰り返した(油脂の石けん分が50ppm以下になるように調節した)。
3.脱色:真空状態にて白土を加えて(対油1.5質量%)、110℃、20分間反応させた。
4.脱臭:蒸気を打込みつつ(対油3質量%)、真空状態にて255℃、90分間反応させた。
【0030】
水素添加
上記の水素添加は、以下の方法により行った。
1.反応:油脂にニッケル触媒を加えて(対油0.15質量%)、180℃にて水素を加えつつ攪拌を行い、100分間反応させた。
【0031】
練り込み用マーガリンの調製
下記の表1に示される配合比率で練り込み用マーガリンを調製した。具体的には、まず、15質量%の第1のエステル交換油と、40質量%の第2のエステル交換油と、45質量%の菜種油(液体油)(商品名「日清菜種サラダ油」:日清オイリオグループ株式会社製)とを、60℃の条件下で混合し、マーガリン用油脂組成物を得た。得られたマーガリン用油脂組成物は、PPP3.9質量%およびPPO+POP9.4質量%を含有し、PPO/POP=2.0であった。得られたマーガリン用油脂組成物に、乳化剤、香料、レシチン、トコフェロール、色素、水、および食塩を加えて40〜70℃で加熱混合して、予備乳化を行った。続いて、予備乳化後、コンビネーター(シュレーダー社製:ドイツ)による冷却、混合を行い、予備乳化した乳化物を回転数500〜600rpmの冷却シリンダー2基と回転数300〜400rpmのピンマシーン1基を通し、冷却混合することで油中水型乳化物を製造した。得られた油中水型乳化物を実施例1の練り込み用マーガリンとした。
【0032】
実施例2
実施例1における練り込み用マーガリンの配合を、表1に示される配合比率とした以外は実施例1と同様に調製して、実施例2の練り込み用マーガリンを得た。なお、実施例2のマーガリン用油脂組成物は、PPP3.5質量%およびPPO+POP8.2質量%を含有し、PPO/POP=2.0であった。
【0033】
比較例1
実施例1における練り込み用マーガリンの配合を、表1に示される配合比率とした以外は実施例1と同様に調製して、比較例1の練り込み用マーガリンを得た。なお、比較例1のマーガリン用油脂組成物は、PPP3.2質量%およびPPO+POP16.6質量%を含有し、PPO/POP=0.11であった。また、表1に示されるパーム油(商品名「精製パーム油」:日清オイリオグループ株式会社製)はPPP含有量が5.8質量%であり、ヨウ素価が52であった。
【0034】
実施例3
折り込み用マーガリンの調製
下記の表2に示される配合比率で折り込み用マーガリンを調製した。具体的には、まず、30質量%の第1のエステル交換油と、32.5質量%の第2のエステル交換油と、37.5質量%の液体油とを、60℃の条件下で混合し、マーガリン用油脂組成物を得た。得られたマーガリン用油脂組成物は、PPP3.8質量%およびPPO+POP7.6質量%を含有し、PPO/POP=2.0であった。得られたマーガリン用油脂組成物に、乳化剤、香料、レシチン、トコフェロール、色素、水、および食塩を加えて40〜70℃で加熱混合して、予備乳化を行った。続いて、予備乳化後、コンビネーター(シュレーダー社製:ドイツ)による冷却、混合を行い、予備乳化した乳化物を回転数500〜600rpmの冷却シリンダー2基に通し冷却混合を予備乳化後、コンビネーターによる冷却、混合を行う。予備乳化した乳化物を回転数500〜600rpmの冷却シリンダー2基に通し冷却混合を行い、1.8MPaの圧力をかけることでシート型の油中水型乳化物を製造した。得られた油中水型乳化物を実施例3の折り込み用マーガリンとした。
【0035】
比較例2
実施例3における折り込み用マーガリンの配合を、表2に示される配合比率とした以外は実施例3と同様に調製して、比較例2の折り込み用マーガリンを得た。なお、比較例2のマーガリン用油脂組成物は、PPP1.3質量%およびPPO+POP8.3質量%を含有し、PPO/POP=0.11であった。また、表2に示されるパームスーパーオレイン(商品名「スーパーオレイン」:日清オイリオグループ株式会社製)とは、パームオレイン(パーム1段分別軟部油)とパーム2段分別軟部油とを混合したものであり、PPP含有量が0.1質量%であり、ヨウ素価が60であった。
【0036】
比較例3
実施例3における折り込み用マーガリンの配合を、表2に示される配合比率とした以外は実施例3と同様に調製して、比較例3の折り込み用マーガリンを得た。なお、比較例3のマーガリン用油脂組成物は、PPP6.6質量%およびPPO+POP33.2質量%を含有し、PPO/POP=0.79であった。また、表2に示されるPMF(日清オイリオグループ株式会社、社内製)とは、パームオレイン(パーム1段分別軟部油)をさらに1段分別した硬部油のことであり、PPP含有量が1.7質量%であり、ヨウ素価が45であった。また、パームステアリン(パーム1段分別硬部油)(日清オイリオグループ株式会社、社内製)はPPP含有量が36.1質量%であり、ヨウ素価が31であった。
【0037】
練り込み用マーガリンの配合比率(%)は表1に示されるとおりである。
【表1】

【0038】
折り込み用マーガリンの配合比率(%)は表2に示されるとおりである。
【表2】

【0039】
上記で使用した油脂の脂肪酸組成比率(%)は、表3に示されるとおりである。
【表3】

【0040】
評価試験
実施例1〜2および比較例1で得られた練り込み用マーガリンならびに実施例3および比較例2〜3で得られた折り込み用マーガリンについて、またこれらのマーガリンを用いて、製造したパン類および菓子類について、以下の評価試験を行った。各評価において、練り込み用マーガリンは20℃で保存したものを用い、折り込み用マーガリンは冷蔵保存したものを用いた。なお、パン類および菓子類を以下に示す方法により製造した。
【0041】
食パンの製造方法
1.強力粉(70重量部)、生イースト(2.6重量部)、および水(40重量部)を配合し、ミキサー(TYPE SK−20:エスケーミキサー株式会社製)を用いて、低速2分間、中速2分間のミキシングを行った。捏上温度を25℃とした。
2.1.の生地を、28℃、湿度75%にて2時間発酵させた。
3.1.の生地に、強力粉(30重量部)、上白糖(6重量部)、食塩(1.7重量部)、脱脂粉乳(3重量部)、および水(27重量部)を配合し、低速2分間、中速5分間のミキシングを行った。
4.練り込み用マーガリン(6重量部)を投入した後、低速2分間、中速4分間、高速2分間のミキシングを行った(捏上温度を28℃とした)。
5.4.の生地を、28℃、湿度80%で30分間発酵させた。
6.5.の生地を、255g×6個に分割した。
7.6.の生地を、28℃、湿度80%で休ませた。
8.7.の生地を、モルダー(型式WF:株式会社オシキリ製)にてU字成型を行った。
9.8.の生地を、ホイロ装置(トクトロールパルテPDD-S2:戸倉商事株式会社製)を用い、38℃、湿度85%にて、45分間ホイロを行った。
10.固定釜(型式TOU−431SUUU−SPP−S66−M−NDR−N:戸倉商事株式会社製)を使用し、上火210℃、下火210℃にて45分間焼成を行った。
【0042】
バターロールの製造方法
1.強力粉(100重量部)、生イースト(4重量部)、水(45重量部)、上白糖(12重量部)、食塩(1.7重量部)、脱脂粉乳(4重量部)、および全卵(15重量部)を配合し、ミキサー(TYPE SK−20:エスケーミキサー株式会社製)を用いて、低速2分間、中速4分間のミキシングを行った。捏上温度を25℃とした。
2.練り込み用マーガリン(15重量部)を投入した後、低速2分間、中速5分間のミキシングを行った(捏上温度を28℃とした)。
3.2.の生地を、28℃、湿度75%にて1時間発酵させた。
4.3.の生地を、45gに分割した。
5.4.の生地を、室温で20分間休ませた。
6.5.の生地を、バターロール成形した。
7.6.の生地を、ホイロ装置(トクトロールパルテPDD-S2:戸倉商事株式会社製)を用い、38℃、湿度75%にて、50分間ホイロを行った。
8.固定釜(型式TOU−431SUUU−SPP−S66−M−NDR−N:戸倉商事株式会社製)を使用し、上火210℃、下火200℃にて10分間焼成を行った。
【0043】
クロワッサンの製造方法
1.強力粉(30重量部)、フランス粉(70重量部)、上白糖(6重量部)、全卵(5重量部)、脱脂粉乳(3重量部)、食塩(1.7重量部)、生イースト(4重量部)、および水(53重量部)を配合し、低速1分間のミキシングを行った。
2.マーガリン(日清ロイヤルワイド100)(6重量部)を投入した後、低速で2分間、中速で4分間のミキシングを行った(捏上温度を24℃とした)。
3.常温で40分間発酵を行った。
4.3.の生地に、対粉50%の折り込み用マーガリンを、折数3×3で織り込んだ後、0℃で2時間リタードタイム(休ませる時間)を取り、さらに折数3×3で織り込み、0℃で2時間リタードタイムをとった。
5.4.の生地を、3mmの厚さで60g(縦15cm、底辺12cm)に成型した。
6.32℃で湿度75%にて60分ホイロを行った。
7.固定釜を使用し、上火215℃、下火215℃にて17分間焼成を行った。
【0044】
パイの製造方法
1.強力粉(50重量部)、薄力粉(50重量部)、マーガリン(日清ロイヤルワイド100)(5重量部)、食塩(1重量部)、および水(50重量部)を配合し、低速3分間、中速3分間のミキシングを行った(捏上温度を20℃とする)。
2.1.の生地を、1000gに分割し、折り込み用マーガリン500gを重ねた。
3.2.の生地を、折数4×3で織り込んだ後、0℃で2時間リードタイム(休ませる時間)を取り、さらに折数3×4で織り込んだ。
4.3.の生地を、3mmローラーで2回通して成型を行った。
5.成型後30分間休ませた。
6.固定釜を使用し、上火200℃、下火200℃にて20分間焼成を行った。
【0045】
練り込み用マーガリンの評価
評価1:硬さ変化試験
実施例および比較例の練り込み用マーガリンをレオメーター(商品名CR−500DX:株式会社サン科学社製、No4(3mm)型のプランジャー使用)を用いて、硬さ(g)を測定した。なお、実施例および比較例のマーガリンはそれぞれ、保存期間が1日、1週、2週、および2ヶ月の4種類を用意した。評価の結果は表4に示されるとおりであった。本発明の組成を満たすマーガリンでは、長期保存後にあっても、硬さの変化が小さいことがわかる。
【表4】

【0046】
評価2:作業性試験
実施例および比較例の練り込み用マーガリンの作業性(練り込み適正)について、下記の基準により評価を行った。なお、実施例および比較例のマーガリンはそれぞれ、保存期間が1週と2ヶ月の2種類を用意した。
評価◎:短時間(約30秒〜1分)で練りこまれ、非常に良好であった。
評価○:短時間(約1〜1分30秒)で練りこまれ、良好であった。
評価△:練りこみにやや時間がかかった(約1分30秒〜2分)。
評価×:練りこみに時間がかかり(約2分〜2分30秒)、良好でなかった。
評価の結果は表5に示されるとおりであった。本発明の組成を満たすマーガリンでは、長期保存後にあっても、優れた作業性を有することがわかる。
【表5】

【0047】
評価3:官能評価試験1
実施例および比較例の練り込み用マーガリンを用いて製造した食パンの口どけについて、バターロールをパネラー10名に試食させ、下記の基準により評価を行った。なお、実施例および比較例のマーガリンはそれぞれ、保存期間が1週と2ヶ月の2種類を用意した。さらに、保存期間1週の食パンについては、レオメーター(商品名CR−500DX:株式会社サン科学社製、No1(30mm)型のプランジャー使用)を用いて、硬さ(g)を測定した。
評価5:口どけ良く非常に良好であった。
評価4:口どけ良く良好であった。
評価3:口どけは普通であった。
評価2:やや口どけが悪かった。
評価1:口どけ悪く良好でなかった。
評価の結果は表6に示されるとおりであった。本発明の組成を満たす練り込み用マーガリンを長期保存後にパン類および菓子類の製造に用いても、優れた口溶けを有するパン類および菓子類を製造できることがわかる。また、実施例1および2の硬さは比較例1に比べて小さい値を示した。
【表6】

【0048】
評価4:官能評価試験2
実施例および比較例の練り込み用マーガリンを用いて製造したバターロールの口どけについて、バターロールをパネラー10名に試食させ、下記の基準により評価を行った。なお、実施例および比較例のマーガリンはそれぞれ、保存期間が1週と2ヶ月の2種類を用意した。
評価5:口どけ良く非常に良好であった。
評価4:口どけ良く良好であった。
評価3:口どけは普通であった。
評価2:やや口どけが悪かった。
評価1:口どけ悪く良好でなかった。
評価の結果は表7に示されるとおりであった。本発明の組成を満たす練り込み用マーガリンを長期保存後にパン類および菓子類の製造に用いても、優れた口溶けを有するパン類および菓子類を製造できることがわかる。
【表7】

【0049】
折り込み用マーガリンの評価
評価5:可塑性試験1
実施例および比較例の折り込み用マーガリンをレオメーター(商品名CR−500DX:株式会社サン科学社製、40×5mmのプランジャー使用)を用いて、硬さ(g)を測定した。なお、実施例および比較例のマーガリンはそれぞれ、保存期間が1日、1週、2週、および1ヶ月の4種類を用意した。評価の結果は表8に示されるとおりであった。本発明の組成を満たす折り込み用マーガリンでは、長期保存後にあっても、硬さの変化が小さいことがわかる。
【表8】

【0050】
評価6:可塑性試験2
評価5と同様の、実施例および比較例の折り込み用マーガリンを下記の基準により評価を行った。評価の結果は表9に示されるとおりであった。本発明の組成を満たすマーガリンでは、長期保存後にあっても、優れた可塑性を有することがわかる。
評価◎:割れが無く非常に良好
評価○:割れがほとんど無く良好
評価△:やや割れがある
評価×:割れがあり良好で無い
【表9】

【0051】
評価7:官能評価試験
実施例および比較例の折り込み用マーガリンを用いて製造したクロワッサンおよびパイの口どけについて、クロワッサンおよびパイをパネラー10名に試食させ、下記の基準により評価を行った。なお、実施例および比較例の折り込み用マーガリンはそれぞれ、保存期間が1週と1ヶ月の2種類を用意した。さらに、保存期間1週のクロワッサンおよびパイについては、それぞれ硬さを測定した。
評価5:口どけ良く非常に良好であった。
評価4:口どけ良く良好であった。
評価3:口どけは普通であった。
評価2:やや口どけが悪かった。
評価1:口どけ悪く良好でなかった。
評価の結果は表10に示されるとおりであった。本発明の組成を満たす折り込み用マーガリンを長期保存後にパン類および菓子類の製造に用いても、優れた口溶けを有するパン類および菓子類を製造できることがわかる。
【表10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のエステル交換油と、第2のエステル交換油とを含んでなる、マーガリン用油脂組成物であって、
第1のエステル交換油のヨウ素価が2以下であり、
第2のエステル交換油のヨウ素価が40以上65以下であり、
第1のエステル交換油および第2のエステル交換油が、1,2,3−トリパルミトイルグリセロール、3−オレオイル−1,2−ジパルミトイルグリセロール、および2−オレオイル−1,3−ジパルミトイルグリセロールの少なくとも一種を含むものであり、
前記マーガリン用油脂組成物の全量に対して、
1,2,3−トリパルミトイルグリセロールの含有量が3.3質量%以上6質量%以下であり、
3−オレオイル−1,2−ジパルミトイルグリセロールおよび2−オレオイル−1,3−ジパルミトイルグリセロールの合計含有量が15質量%未満であり、
3−オレオイル−1,2−ジパルミトイルグリセロールの含有量と2−オレオイル−1,3−ジパルミトイルグリセロールの含有量の比の値が1超過である、マーガリン用油脂組成物。
【請求項2】
第1のエステル交換油のヨウ素価が1以下であり、第2のエステル交換油のヨウ素価が50以上60以下である、請求項1に記載のマーガリン用油脂組成物。
【請求項3】
1,2,3−トリパルミトイルグリセロールの含有量が3.3質量%以上5質量%以下であり、
3−オレオイル−1,2−ジパルミトイルグリセロールおよび2−オレオイル−1,3−ジパルミトイルグリセロールの合計含有量が5質量%以上15質量%未満である、請求項1または2に記載のマーガリン用油脂組成物。
【請求項4】
第2のエステル交換油中における1,2,3−トリパルミトイルグリセロール含有量が6質量%以上20質量%以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のマーガリン用油脂組成物。
【請求項5】
前記マーガリン用油脂組成物の全量に対して、
第1のエステル交換油の含有量が0質量%超過40質量%以下であり、
第2のエステル交換油の含有量が0質量%超過70質量%以下である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のマーガリン用油脂組成物。
【請求項6】
第1のエステル交換油と第2のエステル交換油の配合量が、下記式(I):
第2のエステル交換油/第1のエステル交換油≧1 (I)
を充足するものである、請求項1〜5のいずれか一項に記載のマーガリン用油脂組成物。
【請求項7】
第1のエステル交換油が、少なくとも一種の極度硬化油をエステル交換して得られた油脂、或いは、少なくとも一種の油脂をエステル交換した後に水素添加して得られた極度硬化油である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のマーガリン用油脂組成物。
【請求項8】
液体油をさらに含んでなる、請求項1〜7のいずれか一項に記載のマーガリン用油脂組成物。
【請求項9】
前記マーガリン用油脂組成物の全量に対して、前記液体油の含有量が0質量%超過60質量%以下である、請求項8に記載のマーガリン用油脂組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載のマーガリン用油脂組成物を含んでなる、マーガリン。

【公開番号】特開2009−291168(P2009−291168A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−150726(P2008−150726)
【出願日】平成20年6月9日(2008.6.9)
【出願人】(000227009)日清オイリオグループ株式会社 (251)
【Fターム(参考)】