説明

製鉄所における二酸化炭素からの一酸化炭素への変換システム

【課題】製鉄所から発生する高炉ガスと廃熱を利用して効率的に一酸化炭素を生成させることができる二酸化炭素からの一酸化炭素への変換システムを提供すること。
【解決手段】本発明の変換システムは、酸素イオン伝導性を有し、かつ可逆的な酸素欠損を有する金属酸化物と、高炉ガス又は転炉ガスとを加熱下に直接接触させ、該高炉ガス又は該転炉ガス中の二酸化炭素を化学量論反応によって還元して一酸化炭素を生成させ、かつ加熱の熱源として製鉄所から発生した廃熱を利用することを特徴とする。また本発明の変換システムは、酸素イオン伝導性を有し、かつ可逆的な酸素欠損を有する金属酸化物と、高炉ガス又は転炉ガスから分離した二酸化炭素とを加熱下に接触させ、この二酸化炭素を化学量論反応によって還元して一酸化炭素を生成させ、かつ加熱の熱源として製鉄所から発生した廃熱を利用することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鉄所における二酸化炭素からの一酸化炭素への変換システムに関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄所の操業に伴い、二酸化炭素を含む高炉ガス及び転炉ガスが多量に発生する。二酸化炭素は温室効果ガスであり、高炉ガス及び転炉ガス中の二酸化炭素を効率的に再利用することは、地球温暖化防止の観点から重要である。また、経済的な観点から、高炉ガスから二酸化炭素を分離する装置を用いず、高炉ガス中から回収し再利用することが望ましい。更に、二酸化炭素を再利用する際に、製鉄所から発生する廃熱を再利用するこが、エネルギー効率を高める観点から望ましい。以上のことから、製鉄所から発生する高炉ガス及び廃熱を再利用するシステムの確立が望ましい。
【0003】
二酸化炭素を発生させる産業における二酸化炭素を回収し再利用する技術として、例えば酸素欠損状態の鉄の酸化物を用いて二酸化炭素ガスを一酸化炭素ガスと酸素ガスとに分解し、生成した酸素ガスによって酸素欠損状態の鉄の酸化物を元の鉄酸化物に戻し、一酸化炭素ガスのみを回収する技術が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
また、前記の技術とは別に、焼却炉等から排出される二酸化炭素を再利用する技術として、特許文献2には、CeO2からなる酸素イオン伝導体と触媒とを有する固体反応膜を用いて二酸化炭素を一酸化炭素と酸素に分離する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−68853号公報
【特許文献2】特開2001−322958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術によれば、確かに二酸化炭素ガスから一酸化炭素ガスが生成する。しかし、鉄の酸化物は、酸素イオン導電性が低く、表面が酸化されてしまうと、たとえ該酸化物の内部に酸素欠損が存在していても、該酸素欠損は二酸化炭素ガスと接触することができない。したがって二酸化炭素ガスから一酸化炭素ガスへの変換効率を高めたい場合には、酸素欠損を有する鉄の酸化物を多量に使用する必要があり、経済的に不利になる。また同文献においては、工場等から発生する廃熱の利用については提案されておらず、廃熱及び排気ガスを利用したトータルの一酸化炭素ガスの生成システムとして確立していない。
【0007】
特許文献2に記載の技術では、二酸化炭素を一酸化炭素と酸素に分解させるために貴金属触媒を用いているので、特に多量の二酸化炭素が発生することから大規模な装置が求められる大規模な工場においては、経済的に極めて不利である。また、排気ガスを直接反応装置に供給することができるかも明らかではなく、廃熱及び排気ガスを利用した一酸化炭素ガスの生成システムとして確立していない。
【0008】
したがって本発明の課題は、前述した従来技術が有する種々の欠点を解消し得る製鉄所における二酸化炭素からの一酸化炭素への変換システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、製鉄所における二酸化炭素からの一酸化炭素への変換システムであって、
酸素イオン伝導性を有し、かつ可逆的な酸素欠損を有する金属酸化物と、高炉ガス又は転炉ガスとを加熱下に直接接触させ、該高炉ガス又は転炉ガス中の二酸化炭素を化学量論反応によって還元して一酸化炭素を生成させ、かつ
加熱の熱源として製鉄所から発生した廃熱を利用する変換システムを提供するものである。
【0010】
また本発明は、製鉄所における二酸化炭素からの一酸化炭素への変換システムであって、
酸素イオン伝導性を有し、かつ可逆的な酸素欠損を有する金属酸化物と、高炉ガス又は転炉ガスから分離した二酸化炭素とを加熱下に接触させ、この二酸化炭素を化学量論反応によって還元して一酸化炭素を生成させ、かつ
加熱の熱源として製鉄所から発生した廃熱を利用する変換システムを提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の変換システムを製鉄所に導入することにより、製鉄所からの二酸化炭素の排出量が低減され、環境への負担が低減する。また、二酸化炭素をC1化学の材料等の原料である一酸化炭素に変換して有効に再利用することができ、経済的に利益を得ることができる。更に、製鉄所から発生する廃熱を利用することにより、製鉄所のエネルギー効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の変換システムの概念図である。
【図2】図2は、本発明の変換システムに好適に用いられる装置を示す模式図である。
【図3】図3は、本発明の変換システムに好適に用いられる別の装置を示す模式図である。
【図4】図4は、本発明の変換システムに好適に用いられる更に別の装置を示す模式図である。
【図5】図5は、実施例で用いた、高炉ガスから一酸化炭素ガスを生成するための装置を示す模式図である。
【図6】図6は、実施例で用いた、酸素欠損を有する酸化セリウムの合成するための装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。図1には銑鉄一貫製鉄所が模式的に示されている。製鉄所では、高炉1において、鉄鉱石、コークス等を用いて銑鉄を製造する。製造された銑鉄は転炉2に供給され、転炉2において鋼が生産される。銑鉄の製造に用いられるコークスは、コークス炉3で石炭を乾留することにより製造される。
【0014】
高炉1で銑鉄を製造するときには高炉ガスが発生する。また転炉2で鋼を製造するときには転炉ガスが発生する。高炉ガスの主成分は窒素、一酸化炭素及び二酸化炭素である。そして、高炉ガスには、窒素が52〜53%、一酸化炭素が18〜25%、二酸化炭素が20〜24%含まれている。また、転炉ガスの主成分は一酸化炭素及び二酸化炭素である。そして、転炉ガスには、一酸化炭素が50〜80%、二酸化炭素が15〜17%含まれる。このように、どちらのガスも二酸化炭素を主成分として含む。本発明においては、高炉ガス又は転炉ガスに含まれている二酸化炭素を、特定の金属酸化物(以下、この金属酸化物のことを「二酸化炭素の一酸化炭素への変換剤」又は単に「変換剤」ともいう。)と加熱下に接触させて、これらのガス中に含まれている二酸化炭素ガスを一酸化炭素ガスに変換する。この変換剤と二酸化炭素ガスとの反応は、この変換剤の還元力を利用した化学量論反応である。つまり、この金属酸化物からなる変換剤は、触媒として用いられるものではなく、反応物そのものとして用いられるものである。
【0015】
具体的には、本発明においては、図1に示すように、製鉄所から発生する高炉ガス又は転炉ガスを変換装置4に直接供給し、該変換装置4内に配されている変換剤と加熱下に直接接触させて、高炉ガス又は転炉ガス中の二酸化炭素ガスを一酸化炭素ガスに変換する。この方法では、高炉ガス又は転炉ガスを直接変換装置4に供給するので、高炉ガス又は転炉ガスから二酸化炭素を分離するための装置を設ける必要がなく、経済的に有利である。
【0016】
上述の方法に加えて、本発明の変換システムにおいては、高炉ガス又は転炉ガスを二酸化炭素分離回収装置5に供給して二酸化炭素を分離し、この二酸化炭素ガスを変換装置4に供給し、変換剤と加熱下に接触させて、二酸化炭素ガスを一酸化炭素ガスに変換する方法を採用してもよい。この場合、二酸化炭素ガスが、二酸化炭素100%からなる場合、後工程で他のガスを分離する必要がないため理想的であるが、その他のガスを少量含んでいてもよい。二酸化炭素ガスが他のガスを含む場合、二酸化炭素を80%以上含む二酸化炭素ガスを用いることが好ましい。ただし、その他のガスが酸素ガス又は水蒸気等の含酸素ガスである場合、供給するガス全量に対する割合は極力少量であることが望ましい。二酸化炭素分離装置5においては、混合ガス中の二酸化炭素を分離するために用いられる公知の方法、例えば化学吸収法、固体化学吸収法、物理吸収法等の吸収法、PSA(Pressure Swing Adsorption)、TSA(Thermal Swing Adsorption)、PTSA(Pressure and Temperature Swing Adsorption)等の吸着法、高分子膜、無機膜、膜−吸収液ハイブリット等を用いた膜分離法、深冷分離法等を用いて、二酸化炭素を分離する。
【0017】
上述のいずれの方法を採用する場合であっても、本発明においては、二酸化炭素ガス源として、高炉ガスのみを用いてもよく、転炉ガスのみを用いてもよく、あるいは高炉ガスと転炉ガスの両方を用いてもよい。
【0018】
前記の特定の金属酸化物からなる変換剤としては、酸素イオン伝導性を有し、かつ可逆的な酸素欠損を有するものが用いられる。この変換剤が、可逆的な酸素欠損を有することによって、該変換剤は二酸化炭素の還元性を獲得する。可逆的な欠損とは、強力な還元条件下の処理によって金属酸化物から酸素が強制的に引き抜かれることで生成するものである。可逆的な欠損は、欠損したサイトに酸素が取り込まれることが可能な欠損である。例えば金属酸化物が、後述する酸化セリウムである場合、可逆的な欠損を有する酸化セリウムにおいては、酸素不足に起因する電荷のアンバランスな状態を、四価のセリウムの一部が三価に還元されることで補償している。三価のセリウムは不安定であり、四価に戻りやすいものである。したがって、欠損したサイトに酸素が取り込まれることで、三価となっているセリウムが四価に戻り、電荷のバランスが常にゼロに保たれる。欠損したサイトに酸素が取り込まれることで、該欠損は消失するが、再び強力な還元条件下の処理によって酸素欠損が生成する。「可逆的な酸素欠損」とは、この意味で用いられる。
【0019】
本発明において用いられる前記の金属酸化物からなる変換剤は、上述のとおり酸素イオン伝導性を有している。酸素イオン伝導性は、本発明の製造方法を実施する温度において発現すればよい。この変換剤が酸素イオン伝導性を有することで、この変換剤中に存在する可逆的な酸素欠損の概ねすべてが二酸化炭素との反応に有効活用できる。その理由は次のとおりである。すなわち、本発明の製造方法は、固体である金属酸化物と、気体である二酸化炭素ガスとの反応なので、反応は主として固体表面において進行する。そして、金属酸化物の表面に存在する酸素欠損が、二酸化炭素中の酸素と結合することで、該表面における酸素欠損が消失するとともに、二酸化炭素が一酸化炭素へ変換される。この場合、該金属酸化物が酸素イオン伝導性を有することで、該金属酸化物の表面に存在する酸素欠損と結びついた酸素は、酸素イオン(O2-)の状態で該金属酸化物の内部に移動し、該金属酸化物の内部において酸素欠損が消失するとともに、該金属酸化物の表面には可逆的な酸素欠損が再び生成する。この繰り返しによって、変換剤中に存在する可逆的な酸素欠損の概ねすべてを二酸化炭素との反応に寄与させることができる。これに対して、例えば背景技術の項で述べた特許文献1に記載の酸素欠損を有する鉄の酸化物は、酸素イオン伝導性を有していないので、該酸化物の内部に酸素欠損が残存していても、該酸化物の表面に存在するすべて酸素欠損が消失した時点で、二酸化炭素との反応性が非常に低下してしまう。
【0020】
本発明において用いられる前記の金属酸化物からなる変換剤が酸素イオン伝導性を有することには次の利点もある。すなわち、この変換剤においては、その内部に存在する可逆的な酸素欠損も二酸化炭素との反応に寄与できるので、この変換剤の比表面積を過度に大きくしなくても、二酸化炭素との反応性は低下しづらい。したがって、この変換剤は、例えば粒状やペレット状、板状、筒状などの所望の形状に成形できるという自由度がある。これに対して、酸素イオン伝導性を有していない金属酸化物、例えば背景技術の項で述べた特許文献1に記載の酸素欠損を有する鉄の酸化物は、その内部に存在する酸素欠損は二酸化炭素との反応にほとんど寄与しないので、該酸素欠損を有効活用しようとすれば、該酸化物の比表面積を非常に大きくする必要がある。換言すれば、微粉末の状態で使用することが必須となり、それに起因して取り扱い性や、変換剤の設計の自由度が低い。
【0021】
以上のとおり、本発明で用いられる金属酸化物からなる前記の変換剤は、酸素イオン伝導性を有し、かつ可逆的な酸素欠損を有することが必須であるところ、そのような性質を有する金属酸化物としては、例えば酸化セリウム;安定化ジルコニア等に代表される蛍石型構造を有する金属酸化物(実質的に二酸化炭素との反応に使用する温度で立方晶系の蛍石型へと相転移するものも含まれる。)、及び該蛍石型構造を有する酸化物へ酸素イオン伝導性や酸素欠損を向上させる金属元素を置換したもの;酸化ビスマス及び酸化ビスマスへ酸素イオン伝導性や酸素欠損を向上させる金属元素を置換したもの;一般式ABO3(A及びBは金属元素)で表されるペロブスカイト型構造を有する酸化物並びに該ABO3のAサイト及びBサイトを酸素イオン伝導性や酸素欠損を向上させる金属元素を置換したもの;一般式A225(A及びBは金属元素)で表されるブラウンミラライト型構造を有する酸化物並びに該A225のAサイト及びBサイトを酸素イオン伝導性や酸素欠損を向上させる金属元素を置換したもの;一般式Ln10Si627(LnはLa、Pr、Nd、Sm、Gd又はDyを表す。)で表される希土類珪酸塩;La2Mo29等のモズナ石型構造を有する酸化物;一般式Nd2Ln236(LnはY、Ce、Eu、Sm又はGdを表す)で表される希土類金属オキシフッ化物などが挙げられる。特に、酸素イオン伝導性が高く、かつ可逆的な酸素欠損を生じさせやすい点や、経済性の点から、酸化セリウムを用いることが好ましい。
【0022】
本発明で用いられる前記の変換剤として酸化セリウムを用いる場合、その酸化セリウムとしては、CeO2-x(式中、Ceは四価及び三価の混合価数を有し、xは0.5未満の正の数を表す。)で表され、可逆的な酸素欠損を有し、かつ蛍石型の結晶構造を有するものが好適に用いられる。この酸化セリウムは、含セリウム塩又はその水和物を大気等の酸化性雰囲気下に焼成することで蛍石型の構造の酸化セリウム(CeO2)を製造し、次いで該酸化セリウムを強還元して可逆的な酸素欠損を生成させることで得られる。焼成条件は、温度が好ましくは500〜1400℃、更に好ましくは600〜1300℃であり、時間は好ましくは1〜20時間、更に好ましくは1〜5時間である。強還元においては、還元雰囲気として、水素濃度が爆発下限以上、好ましくは20体積%以上の含水素雰囲気が用いられる。もちろん水素濃度が100体積%でもよい。温度は好ましくは700〜1100℃、更に好ましくは800〜1050℃であり、時間は好ましくは1〜3時間、更に好ましくは1〜2時間である。このような酸化セリウムの詳細は、例えば本出願人の先の出願に係るWO2010/004963に記載されている。
【0023】
また、酸化セリウムとして、CeO2-x(式中、Ceは三価及び三価未満の混合価数を有し、xは0.5〜0.7の数を表す。)で表され、可逆的な酸素欠損を有し、かつ蛍石類似の超格子構造を有するものも好適に用いられる。蛍石類似とは、通常の酸化セリウムのような蛍石型構造の結晶体から酸素が抜けていくにしたがって、最初ランダムに存在する酸素欠損が、規則配列の酸素欠損へと変わった状態であり、厳密には蛍石型構造と呼べない状態をいう。例えばPbFe1219で表されるようなマグネトプランバイト型構造や、超伝導性を示すYBa2Cu36.9等の構造が挙げられる。また、超格子とは、複数の種類の結晶格子の重ね合わせによって、その周期構造が基本単位格子よりも長くなった結晶格子のことである。酸化セリウムが、蛍石類似の超格子構造を有することは、例えばX線構造解析によって確認できる。このような構造の酸化セリウムは、含酸素セリウム塩又はその水和物を前駆体とし、これを直接還元することで得ることができる。還元処理は、例えば水素ガスやアセチレンガスや一酸化炭素ガス等の還元性ガスの濃度が高濃度でかつ高温熱処理である強還元雰囲気中で行われる。還元性ガス濃度は好ましくは爆発下限以上〜100体積%、更に好ましくは20体積%〜100体積%である。処理温度は好ましくは500℃以上、更に好ましくは700℃〜1200℃、一層好ましくは1000℃〜1050℃である。強還元雰囲気は一般に常圧であるが、これに代えて加圧条件を用いてもよい。還元処理中、反応系内は還元性ガス雰囲気が終始維持され、反応系内が含酸素ガス雰囲気に曝されることはない。このような酸化セリウムの詳細は、例えば本出願人の先の出願に係るWO2008/140004に記載されている。
【0024】
更に、酸化セリウムとして、Ce23-x(式中、xは0以上で1未満の数を表す。)で表され、可逆的な酸素欠損を有し、かつ三方晶の結晶構造を有するものも好適に用いられる。ここで、式中のxが0である場合には、セリウムは三価の価数を有し、xが0以外の数である場合には、セリウムは三価及び三価未満の混合価数を有する。この酸化セリウムは、含酸セリウム塩又はその水和物を、還元雰囲気下、例えば水素雰囲気下で焼成することで得られる。焼成温度及び焼成時間は、例えば焼成温度が1000℃であれば2時間以上、焼成温度が1050℃超であれば1時間以上焼成する。また、この酸化セリウムは、前記含酸セリウムを大気雰囲気下で、例えば600℃で1時間以上焼成し、得られた蛍石型の結晶構造を有する酸化セリウムを、還元雰囲気下、例えば水素雰囲気下で、例えば1200℃で1時間以上焼成することにより得ることができる。
【0025】
本発明においては、用いられる前記の変換剤と高炉ガス又は転炉ガスとの反応は、加熱下に行われる。加熱温度は例えば450〜1000℃、特に450〜800℃、とりわけ500〜750℃に設定することが、二酸化炭素から一酸化炭素への変換効率を高める点、及び一旦生成した一酸化炭素の作用によって、前記の変換剤が還元されかつ二酸化炭素が再生されることを効果的に防止する点から好ましい。変換剤と高炉ガス又は転炉ガス中の二酸化炭素ガスとの量は、本変換システムの反応が化学量論反応であることから、二酸化炭素1当量に対して、該変換剤を1当量以上、特に3当量以上となるように、高炉ガス、転炉ガス、又は高炉ガス若しくは転炉ガスから分離した二酸化炭素を供給することが好ましい。ここで言う1当量とは、例えば該変換剤がCeO2-x(xは前記と同義である。)で表される酸化セリウムである場合、該酸化セリウムに対し、x/2molのCO2が反応することである。以上の反応条件は、二酸化炭素ガス源として、高炉ガス又は転炉ガスから分離した二酸化炭素を用いる場合にも同様に適用される。
【0026】
本発明においては、前記の加熱に用いられる熱源として、製鉄所から発生した廃熱を利用する。製鉄所から発生する廃熱を熱源として利用することにより、製鉄所のエネルギー効率を高めることができる。本発明においては、具体的には、以下(i)又は(ii)の方法で反応系としての変換装置を加熱する。
【0027】
(i)高炉1は通常1000〜2000℃に、転炉2は通常1500〜1800℃に加熱されていることから、高炉ガス及び転炉ガスは二酸化炭素から一酸化炭素を生成するために必要とされる熱を有する。したがって、高炉ガス又は転炉ガスが有するこの熱を熱源として利用し、該高炉ガス又は該転炉ガスを変換装置4に吹き込むことで反応系としての変換装置4を加熱する。このとき、高炉ガス又は転炉ガスを、公知の手段により、前記の加熱温度の範囲内に調節してもよい。高炉ガス又は転炉ガスを熱源として利用する場合には、他の熱源を利用する必要はないが、必要に応じて製鉄所から生じる他の熱源を利用してもよい。
【0028】
(ii)製鉄所では、例えば、高炉、転炉、コークス炉等は高温に加熱され、廃熱が大量に発生する。発生したこれらの廃熱を利用して、水蒸気、オイル、並びに鉛及びナトリウム等の溶融金属などの熱媒を加熱し、加熱された該熱媒によって、変換装置を加熱する。加熱温度は前記の加熱温度の範囲内になるように調節する。
【0029】
前記の変換剤は、種々の形態で二酸化炭素ガスと接触させることができる。例えば変換装置4がバッチ式のものであれば、粉末状の前記の変換剤を静置(又は充填)して反応を行うことができる他、前記の変換剤を造粒したもの、ペレット状、塊状、板状、ハニカム状、ラシヒリング状、ベルサドル状等の形状へ成型したものも静置(又は充填)して使用することも可能である。一方、変換装置4が連続式のものであれば、筒状、板状、円盤状等の緻密膜で二酸化炭素を一酸化炭素へ変換する反応面と還元性ガスで酸素欠損を生成する再生面とが隔絶されている構造であればよい。
【0030】
変換装置4中の変換剤は、変換装置4中における二酸化炭素との接触により酸化され、それに起因して変換性能が徐々に低下する。そこで、酸化された変換剤を強還元によって再生し再利用することが好ましい。該変換剤の再生は高温の高濃度の水素ガス雰囲気下での強還元によって酸素欠損を生じさせることで達成される。しかし、該変換剤を強還元するために高濃度水素ガスを用いることは、経済的に有利とはいえない。したがって、高濃度の水素ガスに代わる、経済的に有利な還元性ガスを用いることが望ましい。この観点から、発明者らは検討を重ねた結果、意外にも、高濃度の水素ガスの代わりに、コークス炉から排出されるコークス炉ガスを還元性ガスとして用いることで、該変換剤を効率的に再生できることを知見した。コークス炉ガスの主成分は水素及びメタンであり、コークス炉ガス中に水素が約50〜60%、メタンが約25〜30%含まれている。つまり、コークス炉ガスには前記変換剤の強還元に必要かつ十分な量の水素が含まれている。しかもコークス炉ガス中には、前記変換剤の強還元を阻害する物質である水蒸気や酸素等がほとんど含まれていない。したがって、コークス炉ガスは、酸素欠損を失った変換剤に酸素欠損を生成させるために適切なものである。そこで、本発明においては、コークス炉3から発生したコークス炉ガスを変換装置4に供給し、該コークス炉ガスと変換剤を加熱下で直接接触させることにより、酸素欠損を有する変換剤を再生することが好ましい。
【0031】
上述のとおり、コークス炉3から発生したコークス炉ガスは、変換装置4に供給され、前記変換剤と直接接触させる。すなわち、コークス炉ガス中の水素ガスを分離する必要はない。コークス炉ガスを直接使用できることは、コークス炉ガスを処理するための装置や設備を設ける必要が無いことにつながるので、経済的に有利である。
【0032】
変換剤とコークス炉ガスとの反応は、加熱下に行われる。加熱温度は700〜1200℃、特に800〜1200℃、とりわけ900〜1200℃に設定することが、コークス炉ガスに含まれる水素ガスによる還元効率を高める観点から好ましい。
【0033】
加熱に用いられる熱源としては、製鉄所から発生した廃熱を利用することが有利である。製鉄所から発生する廃熱を熱源として利用することにより、製鉄所のエネルギー効率を一層高めることができる。本発明においては、以下の(a)又は(b)方法で反応系としての変換装置4を加熱することができる。
【0034】
(a)コークス炉は通常1200〜1300℃に加熱されている。したがって、コークス炉から排出される高炉ガスは、酸化された変換剤を強還元するために必要とされる熱を有する。そこで、コークス炉ガスが有するこの熱を熱源として利用し、該コークス炉ガスを変換装置4に吹き込むことで反応系としての変換装置4を加熱する。このとき、コークス炉ガスの温度を、公知の手段により、前記の加熱温度の範囲内に調節してもよい。コークス炉ガスを熱源として利用する場合には、他の熱源を利用する必要はないが、必要に応じて他の熱源を利用してもよい。
【0035】
(b)製鉄所では、例えば、高炉、転炉、コークス炉等は高温に加熱され、廃熱が大量に発生する。発生したこれらの廃熱を利用して、水蒸気、オイル、並びに鉛及びナトリウム等の溶融金属などの熱媒を加熱し、加熱された該熱媒によって、変換装置を加熱する。加熱温度は前記の加熱温度の範囲内になるように調節する。
【0036】
なお、(イ)変換剤を用いた二酸化炭素から一酸化炭素の生成と、(ロ)コークス炉ガスによる、酸素欠損を失った変換剤の再生は、同時に行ってもよく、また別々に行ってもよい。以下では(イ)及び(ロ)を同時に行うことができる変換装置10,20,30についてそれぞれ説明する。なお、変換装置10,20,30を説明においては、一酸化炭素を生成するための原料として、高炉ガス、転炉ガス、又は高炉ガス若しくは転炉ガスから分離した二酸化炭素を用いることができるが、以下では高炉ガスを用いた場合について説明する。
【0037】
図2には、本発明において好適に用いられる一酸化炭素の変換装置が模式的に示されている。同図に示す変換装置10は連続式のものであり、二重管構造になっている。詳細には、同図に示す変換装置10は、外管11と、該外管11内に配置された内管12とを備えている。内管12内には廃熱により加熱された熱媒を熱源として用いた加熱装置13が配置されている。内管12は前記の変換剤を含有している。この装置においては、外管11と内管12との間の空間に高炉ガスを流通させる。この空間内を高炉ガスが流通する間に、高炉ガス中の二酸化炭素と、内管11に含まれる前記の変換剤とが反応して一酸化炭素が生成する。
【0038】
図2に示す変換装置10においては、外管11と内管12との間の空間に高炉ガスを流通させることに加えて、内管12内にコークス炉ガスを流通させるように構成されている。これによって、高炉ガス中の二酸化炭素ガスとの接触によって酸化された前記の変換剤から酸素が引き抜かれ、消失した酸素欠損が再び生成する
【0039】
図2に示す変換装置10において、熱源として高炉ガス、転炉ガス又はコークス炉ガスを用いる場合には、高温の高炉ガス、転炉ガス又はコークス炉ガスを前記の各空間に流通させる。ここで高温とは、二酸化炭素から一酸化炭素を生成するために十分であり、かつ酸素欠損を失った変換剤を強還元するために十分である熱エネルギーを有することをいう(以下、高温というときには、この意味で用いられる。)。このとき、加熱装置13を使用する必要はないが、必要に応じて使用してもよい。熱源として、廃熱により加熱された熱媒を用いる場合には、内管12の内部に配置された、熱源として該熱媒を利用した加熱装置13により変換装置10を加熱する。また、内管12の内部に加熱装置を設置する代わりに、外管11の周囲に加熱装置を配置し、変換装置10を加熱してもよい。尤も、一般に、二酸化炭素ガスと変換剤との反応が起こる温度に比べて、酸化された変換剤から酸素を強制的に引き抜く温度の方が高いことから、加熱装置を熱源として用いる場合には、内管12の内部に加熱装置13を配置することが、酸素の強制的な引き抜きのしやすさの点から有利である。
【0040】
なお図2に示す変換装置10においては、高炉ガスの流通方向とコークス炉ガスの流通方向が同方向であったが、これに代えて高炉ガスの流通方向とコークス炉ガスの流通方向を反対方向にしてもよい。また、図2に示す変換装置10の変形例として、外管11と内管12との間の空間にコークス炉ガスを流通させ、内管12内に高炉ガスを流通させるように構成することもできる。
【0041】
また、図2に示す変換装置10においては、二酸化炭素源として高炉ガスを流通させているが、高炉ガスの他に、転炉ガス、高炉ガスと転炉ガスとの混合ガス、又は高炉ガス若しくは転炉ガスから分離した二酸化炭素ガスを流通させることができる(以下に述べる、図3及び図4についても同じである。)。
【0042】
図3に示す変換装置20は、二基のバッチ式反応装置21,22を備えている。更に変換装置20は、切替弁23を備えている。切替弁23は、高炉ガス源及びコークス炉ガス源にそれぞれ接続する入力部23a,23bを有している。更に切替弁23は、各反応装置21,22のそれぞれに接続する出力部23c,23dを有している。各反応装置21,22内には、前記の変換剤24の配置が可能になっている。また、各反応装置21,22の周囲には、加熱装置25が配置されている。
【0043】
図3に示す変換装置20においては、切替弁23を介して各反応装置21,22に高炉ガス又はコークス炉ガスが択一的にかつ同時に供給されるようになっている。これに加えて、切替弁23の切り替えによって、各反応装置21,22に供給されるガスの種類を切り替えられるようになっている。
【0044】
図3に示す変換装置20を運転する場合には、まず、切替弁23を図3に示す位置に設定し、高炉ガスが第2反応装置22に供給され、かつコークス炉ガスが第1反応装置21に供給されるようにする。このようにすると、第1反応装置21においては、その内部に静置された前記の変換剤24が強還元されて、酸素が強制的に引き抜かれ、可逆的な酸素欠損が変換剤24に生じる。一方、第2反応装置22においては、高炉ガス中の二酸化炭素と変換剤24の反応によって一酸化炭素が生成するとともに、該変換剤24中の酸素欠損の数が次第に減少してくる。そして、第2反応装置22における一酸化炭素の生成量が減少してきたら、切替弁23を切り替えて、高炉ガスが第1反応装置21に供給され、かつコークス炉ガスが第2反応装置22に供給されるようにする。第1反応装置21内に静置されている変換剤24は、高炉ガス中の二酸化炭素ガスと接触していない活性の高いものなので、これを高炉ガス中の二酸化炭素ガスと接触させることで、一酸化炭素の生成量が増加に転じる。一方第2反応装置22においては、酸素欠損の数が減少して活性の低下した変換剤24が強還元されて、酸素が強制的に引き抜かれ、可逆的な酸素欠損が変換剤24に再び生じる。
【0045】
図3に示す変換装置20において、熱源として、高炉ガス、転炉ガス又はコークス炉ガスを用いる場合には、高温の高炉ガス、転炉ガス又はコークス炉ガスを前記の各反応装置に供給する。このとき、加熱装置25を使用する必要はないが、必要に応じ使用してもよい。熱源として、廃熱により加熱された熱媒を用いる場合には、該熱媒を熱源として利用した加熱装置25を用いて各反応装置21、22を加熱する。第1反応装置21と第2反応装置22の加熱温度は同じに設定してもよく、あるいは異なる温度に設定してもよい。一般に、二酸化炭素ガスと変換剤24との反応が起こる温度に比べて、酸化された変換剤24から酸素を強制的に引き抜く温度の方が高いことから、コークス路ガスを供給する方の反応装置の加熱温度を、一酸化炭素を生成させる方の反応装置の加熱温度よりも高く設定することが好ましい。
【0046】
このように、高炉ガス中の二酸化炭素ガスと変換剤24との反応を、第1反応装置21と第2反応装置22とで交互に行うことで、該変換剤24を再生しつつ、一酸化炭素の生成を半連続的に行うことが可能になる。なお、図3に示す変換装置20においてはバッチ式反応装置を二基用いたが、これに代えて三基以上の反応装置を用いてもよい。
【0047】
図4に示す変換装置30は、前記の変換剤を含んで構成される板状体31と、板状のセパレータ32とが交互にスタックされた構造を有している。各セパレータ32の各面には、一方向に延びる複数の凸状部33及び凹条部34が交互に配置されている。これによって、板状体31と、これを挟んで対向する一対のセパレータとの間には、凹条部34によって形成されたガスの流通が可能な空間が形成される。また図示していないが、変換装置30は、スタック構造体の周囲に配置された加熱装置を備えている。
【0048】
図4に示す変換装置30を運転する場合には、板状体31を挟んで対向する2つのセパレータ32a,32bにおける一方のセパレータ32aと板状体31との対向面に位置する凹条部34aに高炉ガスを流通させる。この凹条部34a内を高炉ガスが流通する間に、高炉ガス中の二酸化炭素ガスと、板状体31に含まれる前記の変換剤とが反応して一酸化炭素が生成する。これに加えて、かつ他方のセパレータ32bと板状体31との対向面に位置する凹条部34bにコークス炉ガスを流通させるように構成する。これによって、高炉ガス中の二酸化炭素ガスとの接触によって酸化された前記の変換剤から酸素が引き抜かれ、消失した酸素欠損が再び生成する。このように、変換装置30を用いれば、先に説明した図2に示す変換装置10と同様に、前記の変換剤を高炉ガス中の二酸化炭素ガスと接触させて一酸化炭素を生成させた後、二酸化炭素ガスとの接触によって酸化された該変換剤をコークス炉ガス中の水素と接触させて強還元を行い、該変換剤を再生することができる。
【0049】
図4に示す変換装置30の各セパレータ32は、その一方の面と他方の面に形成されている凸状部33及び凹条部34の延びる方向が90度ずれている。しかし、セパレータ32の各面に形成されている凸状部33及び凹条部34の延びる方向は、これに限られない。例えばセパレータ32の各面に形成されている凸状部33及び凹条部34の延びる方向は、90度以外の角度で交差していてもよく、あるいは同方向でもよい。セパレータ32の各面に形成されている凸状部33及び凹条部34の延びる方向が同方向である場合、セパレータ32の一方の面側の凹条部34に流通させるガスの方向と、他方の面側の凹条部34に流通させるガスの方向とは同方向でもよく、あるいは反対方向でもよい。
【0050】
図4に示す変換装置30においては、熱源として、高炉ガス、転炉ガス又はコークス炉ガスを用いる場合には、高温の高炉ガス又は転炉ガスを凹条部34aに、高温のコークス炉ガスを凹条部34bに供給する。熱源として、廃熱により加熱された熱媒を用いる場合には、スタック構造体の周囲に配置された、加熱された熱媒を利用した加熱装置(図示せず)を用いて、変換装置30を加熱する。
【0051】
なお、図3及び図4に示す変換装置30,40に関して、特に説明しない点については、図2に示す変換装置20に関する説明が適宜適用される。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0053】
(1)可逆的な酸素欠損を有する酸化セリウムの製造
(a)酸素欠損を有しない酸化セリウムの合成
炭酸セリウム100gを加熱炉内に静置し、空気を流通させながら加熱して焼成を行った。加熱は、室温から開始し、10℃/分の昇温速度で加熱を行い、1000℃に到達したのち、この温度を1時間保持した。その後、自然放冷した。空気の流通量は1000SCCMとした。このようにして酸素欠損を有しない酸化セリウムの多孔質体を得た。XRDによる測定で、この酸化セリウムはCeO2で表され、蛍石型の結晶構造であることが確認された。この酸化セリウムをボールミルで粉砕処理した。
(b)酸素欠損を有する酸化セリウムの合成
前項(a)で得られた酸化セリウム(50g)を雰囲気制御型加熱炉内に静置し、100%の水素ガスを流通させながら加熱して強還元を行った。加熱は、室温から開始し、10℃/分の昇温速度で加熱を行い、1000℃に到達したのち、この温度を1時間保持した。その後、自然放冷した。水素ガスの流通量は1000SCCMとした。このようにして、可逆的な酸素欠損を有する酸化セリウムを得た。XRDによる測定の結果、この酸化セリウムは蛍石型の結晶構造であることが確認された。元素分析の結果、この酸化セリウムはCe(IV,III)O1.75で表されるものであった。
【0054】
(2)高炉ガスからの一酸化炭素ガスの生成
モデル高炉ガス及び図5に示す装置を用いて実験を行った。モデル高炉ガスの組成は、窒素ガス53%、二酸化炭素ガス21%、一酸化炭素ガス24%、水素ガス2%であった。図5に示す管状炉を窒素ガス雰囲気のグローブボックス内に設置した。管状炉内には、前項(1)で得られた可逆的な酸素欠損を有する酸化セリウムの粉末8.5gが静置されている。まず、バルブV5を閉じ、他のバルブはすべて開けて、管状炉内を真空吸引した。この状態のまま、バルブV1を閉じて管状炉を750℃まで加熱した。次いでバルブV2及びV3を閉じた後に管状炉内の吸引を停止した。バルブV4を閉めて管状炉内にモデル高炉ガスを供給した。供給は、管状炉内の圧力が大気圧になるまで行った。そしてバルブV1を閉じて1時間放置した。この時点でのモデル高炉ガス中の二酸化炭素ガスと可逆的な酸素欠損を有する酸化セリウムとの量論比は1:1(すなわち、先に述べた1当量)となるようにした。その後バルブV2を開け、更にガス回収袋が少し膨らむまで窒素ガスを管状炉内に供給した。次いで、バルブV2を閉じるとともに、ガス回収袋を熱シールして管から切り離した。この状態のまま管状炉を降温し、室温になるまで冷却した。冷却完了後、バルブV1を開けて管状炉内に窒素ガスを供給した。供給は、管状炉内の圧力が大気圧になるまで行った。最後に、バルブV3及びV5を開け、窒素ガスによって管状炉内の一酸化炭素を押し出した。ガス回収袋に回収した反応後のガスは、ガスクロマトグラフィーを用いて定性と定量を行った。その結果、二酸化炭素から一酸化炭素への変換率は50%であった。
【0055】
(3)コークス炉ガスによる酸化セリウムの再生
モデルコークス炉ガス及び図6に示す装置を用いて実験を行った。モデルコークス炉ガスの組成は、水素ガスが56%、メタンガスが30%、アセチレンが3%、一酸化炭素ガスが6%、二酸化炭素ガスが2.5%、窒素ガスが2.5%であった。図6に示す管状炉を窒素ガス雰囲気のグローブボックス内に設置した。管状炉内には、前項(2)で生成された、酸素欠損を失った酸化セリウムの粉末8.5gが静置されている。まず、バブルV2を開き、次いでバブルV1を開き、モデルコークス炉ガスを流通させながら加熱して強還元を行った。室温から開始し、3時間で1000℃に到達するように加熱を行い、1000℃に到達したのち、この温度を2時間保持した。その後、モデルコークス炉ガスを流通させながら室温まで自然放冷した。モデルコークス炉ガスの流通量は500SCCMとした。このようにして、酸素欠損を有する酸化セリウムを再生した。XRDによる測定の結果、この酸化セリウムは蛍石型の結晶構造であることが確認された。元素分析の結果、この酸化セリウムはCe(IV,III)O1.75で表されるものであった。その後、得られた酸化セリウムに、前項(2)と同様の操作を行い、この酸化セリウムの二酸化炭素から一酸化炭素への変換率を算出した。変換率は50%であった。
【符号の説明】
【0056】
1 高炉
2 転炉
3 コークス炉
4 変換装置
5 二酸化炭素分離回収装置
10,20,30 変換装置
11 外管
12 内管
13,25 加熱装置
21,22 反応装置
23 切替弁
31 板状体
32 セパレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製鉄所における二酸化炭素からの一酸化炭素への変換システムであって、
酸素イオン伝導性を有し、かつ可逆的な酸素欠損を有する金属酸化物と、高炉ガス又は転炉ガスとを加熱下に直接接触させ、該高炉ガス又は該転炉ガス中の二酸化炭素を化学量論反応によって還元して一酸化炭素を生成させ、かつ
加熱の熱源として製鉄所から発生した廃熱を利用する変換システム。
【請求項2】
製鉄所における二酸化炭素からの一酸化炭素への変換システムであって、
酸素イオン伝導性を有し、かつ可逆的な酸素欠損を有する金属酸化物と、高炉ガス又は転炉ガスから分離した二酸化炭素とを加熱下に接触させ、この二酸化炭素を化学量論反応によって還元して一酸化炭素を生成させ、かつ
加熱の熱源として製鉄所から発生した廃熱を利用する変換システム。
【請求項3】
高炉ガス又は転炉ガスに含まれる二酸化炭素との接触によって酸化された前記金属酸化物を、製鉄所から発生したコークス炉ガスと加熱下に直接接触させ、該コークス炉ガス中の水素によって強還元して該金属酸化物を再生し、かつ
加熱の熱源として製鉄所から発生した廃熱を利用する請求項1又は2記載の変換システム。
【請求項4】
高炉ガス又は転炉ガスが有する熱を熱源として用い、該高炉ガス又は該転炉ガスを反応系に吹き込むことで該反応系を直接加熱する請求項1記載の変換システム。
【請求項5】
コークス炉ガスが有する熱を熱源として用い、該コークス炉ガスを反応系に吹き込むことで該反応系を直接加熱する請求項3記載の変換システム。
【請求項6】
製鉄所から発生した廃熱を利用して熱媒を加熱し、加熱された該熱媒を用いて反応系を加熱する請求項1ないし3いずれか一項に記載の変換システム。
【請求項7】
前記の金属酸化物が、可逆的な酸素欠損を有する酸化セリウムからなる請求項1ないし6いずれか一項に記載の変換システム。
【請求項8】
前記の金属酸化物が、CeO2-x(式中、Ceは四価及び三価の混合価数を有し、xは0.5未満の正の数を表す。)で表され、可逆的な酸素欠損を有し、かつ蛍石型の結晶構造を有する酸化セリウムからなる請求項7記載の変換システム。
【請求項9】
前記の金属酸化物が、CeO2-x(式中、Ceは三価及び三価未満の混合価数を有し、xは0.5〜0.7の数を表す。)で表され、可逆的な酸素欠損を有し、かつ蛍石類似の超格子構造を有する酸化セリウムからなる請求項7記載の変換システム。
【請求項10】
前記の金属酸化物が、Ce23-x(xは0以上で1未満の数を表す。)で表され、可逆的な酸素欠損を有し、かつ三方晶の結晶構造を有する酸化セリウムからなる請求項7記載の変換システム。
【請求項11】
酸素イオン伝導性を有し、かつ可逆的な酸素欠損を有する金属酸化物と、製鉄所の高炉ガス又は転炉ガスとを加熱下に直接接触させ、該高炉ガス又は該転炉ガス中の二酸化炭素を化学量論反応によって還元して一酸化炭素を生成させる一酸化炭素の製造方法であって、加熱の熱源として製鉄所から発生した廃熱を利用する一酸化炭素の製造方法。
【請求項12】
酸素イオン伝導性を有し、かつ可逆的な酸素欠損を有する金属酸化物と、製鉄所の高炉ガス又は転炉ガスから分離した二酸化炭素とを加熱下に直接接触させ、この二酸化炭素を化学量論反応によって還元して一酸化炭素を生成させる一酸化炭素の製造方法であって、加熱の熱源として製鉄所から発生した廃熱を利用する一酸化炭素の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−36029(P2012−36029A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175820(P2010−175820)
【出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】