説明

複合ガス吸着材、複合ガス吸着材組成物、およびそれを用いた吸着フィルター

【課題】アルデヒドおよびブタンを含有する複合ガスの吸着性能に優れた複合ガス吸着材を提供すること。
【解決手段】本発明は、活性炭に芳香族アミノスルホン酸と有機酸とを添着させた複合ガス吸着材を提供し、該複合ガス吸着材は、該活性炭のBET比表面積が、700〜1300m/gであり、該有機酸が、水溶性かつ25℃で固体の炭素数が2〜6の有機酸であり、そして該活性炭100質量部に対して、該芳香族アミノスルホン酸が2〜12質量部の割合で添着し、かつ該芳香族アミノスルホン酸と該有機酸とが、合計で3〜20質量部の割合で添着している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合ガス吸着材およびそれを用いた吸着フィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
住宅の室内、自動車の車内などには、種々の臭気成分(例えば、アルデヒド類(アセトアルデヒドなど)、低級炭化水素(ブタンなど)、アミン類(トリメチルアミンなど)など)が存在し、これらの臭気成分の濃度が高くなると、不快感を受ける場合がある。このような臭気成分を除去するために、一般的に活性炭が用いられている。
【0003】
しかし、活性炭の臭気成分に対する吸着力は十分とはいえない。また、活性炭は、吸着する臭気成分の選択性を有し、例えばアセトアルデヒドなどを吸着しにくい。さらに、活性炭は吸着した成分を再度離脱しやすいという問題もある。したがって、活性炭は、単独の臭気成分を選択的に除去する場合には、効果的であるが、複数の臭気成分を除去する場合には、効果的であるとはいえない。
【0004】
複数の臭気成分を除去し得る吸着材(脱臭材)として、活性炭にアミノベンゼンスルホン酸を添着させた吸着材(特許文献1)、および活性炭にアミノベンゼンスルホン酸と弱酸とを添着させた脱臭材(特許文献2)が開示されている。これらの吸着材(脱臭材)は、アルデヒド類およびアンモニアを除去することを目的としている。
【0005】
近年、アルデヒド類に加え、ブタンなどの低級炭化水素を除去し得る吸着材が望まれている。しかし、特許文献1および2の吸着材(脱臭材)は、アルデヒド類およびアンモニアの除去を目的とするものである。
【0006】
分子サイズが小さいブタンなどの低級炭化水素は、活性炭が有するミクロ孔によく吸着される。しかし、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドなどの低級アルデヒドは、ブタン同様分子サイズが小さいにも関わらず、活性炭のミクロ孔に吸着されにくい。そこで、アミノベンゼンスルホン酸などのアルデヒドと反応する薬剤を活性炭に添着させることによって、活性炭のアルデヒド吸着性能を高めることができる。
【0007】
特に、アルデヒド吸着性能を高めるには、アルデヒドと反応する薬剤をできるだけ多く、かつ均一に添着するだけでなく、毛細管凝縮による物理吸着機能を有するミクロ孔およびメソ孔に添着されることが好ましい。しかし、薬剤がミクロ孔に添着された場合、ブタンが吸着される細孔が薬剤によって閉塞されてしまうため、アルデヒドに加えてブタンなどの低級炭化水素を吸着する性能も低下する問題が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−136502号公報
【特許文献2】特開2001−522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、アルデヒドおよびブタンを含有する複合ガスの吸着性能に優れた複合ガス吸着材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、活性炭のメソ孔およびミクロ孔のうち、ブタンを吸着する細孔であるミクロ孔を薬剤にて閉塞させない程度に、メソ孔領域に均一に芳香族アミノスルホン酸と特定の有機酸とを添着させることによって、アルデヒドおよびブタンを含有する複合ガスを効率よく吸着し得る複合ガス吸着材が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明は、活性炭に芳香族アミノスルホン酸と有機酸とを添着させた複合ガス吸着材を提供し、該複合ガス吸着材は、該活性炭のBET比表面積が、700〜1300m/gであり、該有機酸が、水溶性かつ25℃で固体の炭素数が2〜6の有機酸であり、そして該活性炭100質量部に対して、該芳香族アミノスルホン酸が2〜12質量部の割合で添着し、かつ該芳香族アミノスルホン酸と該有機酸とが、合計で3〜20質量部の割合で添着している。
【0012】
1つの実施態様では、上記有機酸は、90℃以上の融点を有する。
【0013】
他の実施態様では、上記芳香族アミノスルホン酸と上記有機酸のカルボキシル基とのモル当量比は、1:0.75〜1:2である。
【0014】
さらに、本発明は、複合ガス吸着材の製造方法を提供し、該方法は、芳香族アミノスルホン酸を可溶化させて、活性炭に添着させる工程;および該芳香族アミノスルホン酸の添着後、1分〜24時間以内に有機酸を該活性炭に添着させる工程を包含し、該活性炭のBET比表面積が、700〜1300m/gであり、該有機酸が、水溶性かつ25℃で固体の炭素数が2〜6の有機酸であり、そして該活性炭100質量部に対して、該芳香族アミノスルホン酸を2〜12質量部の割合で添着させ、かつ該芳香族アミノスルホン酸と該有機酸とを、合計で3〜20質量部の割合で添着させる。
【0015】
1つの実施態様では、上記有機酸は、90℃以上の融点を有する。
【0016】
他の実施態様では、上記芳香族アミノスルホン酸と上記有機酸のカルボキシル基とのモル当量比は、1:0.75〜1:2である。
【0017】
別の実施態様では、上記複合ガス吸着材のpHは2〜8に調整される。
【0018】
さらに、本発明は、上記複合ガス吸着材と他の吸着材とを含む複合ガス吸着材組成物を提供する。
【0019】
1つの実施態様では、上記他の吸着材は、活性炭である。
【0020】
また、本発明は、上記複合ガス吸着材および上記複合ガス吸着材組成物からなる群より選択される少なくとも1種を備える吸着フィルターを提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、アルデヒドおよびブタンを含有する複合ガスの吸着性能に優れた複合ガス吸着材を提供し得る。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の複合ガス吸着材は、活性炭に芳香族アミノスルホン酸と特定の有機酸とが添着されている。
【0023】
本発明に用いられる活性炭のBET比表面積は、窒素吸着法により測定される。本発明に用いられる活性炭のBET比表面積は、700〜1300m/gであり、好ましくは800〜1200m/g、より好ましくは850〜1100m/gである。
【0024】
活性炭は、細孔直径2nm以下のミクロ孔、細孔直径2〜50nmのメソ孔、および細孔直径50nm以上のマクロ孔を有している。分子サイズの小さいブタンなどの低級炭化水素は、ミクロ孔によく吸着されることから、ミクロ孔容積は多い方が好ましい。
【0025】
BET比表面積が700m/g未満の場合、賦活が不十分であるためミクロ孔容積が小さく、ブタン吸着性能が低くなる。また、比表面積が少ないため、芳香族アミノベンゼンスルホン酸および特定の有機酸の添着量も少なくなり、好ましくない。一方、ミクロ孔容積を高めるため賦活を進め、BET比表面積が1300m/gを超える場合、細孔が広がってしまい、相対的に活性炭のミクロ孔容積の割合が減少する。また、メソ孔およびマクロ孔が増加することによる活性炭の密度減少が体積あたりのブタン吸着性能を低下させる。したがって、BET比表面積が700m/g〜1300m/gの範囲で、ミクロ孔容積が好ましくは0.25mL/g以上、より好ましくは0.35mL/g以上を有する複合ガス吸着材が、体積あたりのブタン吸着性能に優れており好ましい。
【0026】
本発明に用いられる活性炭の炭素質材料としては、例えば、果実殻(ヤシ殻、クルミ殻など)、木材、鋸屑、木炭、果実種子、パルプ製造副生成物、リグニン、廃糖蜜などの植物系材料;泥炭、草炭、亜炭、褐炭、レキ青炭、無煙炭、コークス、コールタール、石炭ピッチ、石油蒸留残渣などの鉱物系材料;フェノール樹脂、サラン樹脂、アクリル樹脂などの合成系材料;再生繊維(レーヨンなど)などの繊維系材料が挙げられる。これらの中でも、ミクロ孔の割合が高いなどの理由で、ヤシ殻活性炭がより好ましい。
【0027】
炭素質材料を炭化する条件としては、特に限定されず、例えば、粒状の炭素質材料の場合は、回分式ロータリーキルンに少量の不活性ガスを流しながら300℃以上の温度で処理する条件などが挙げられる。
【0028】
活性炭の製法は、特に限定されない。通常、本発明に用いられる活性炭は、炭素質材料を十分に炭化した後、ガス賦活、薬剤賦活などの方法で賦活することにより得られる。ガス賦活法において使用されるガスとしては、水蒸気、炭酸ガス、酸素、LPG燃焼排ガス、またはこれらの混合ガスなどが挙げられる。安全性および反応性を考慮すると、水蒸気含有ガス(水蒸気を10〜50容量%含有するガス)が好ましい。
【0029】
賦活温度は、通常700℃〜1100℃、好ましくは800℃〜1000℃である。しかし、賦活温度、時間、および昇温速度は、特に限定されず、選択する炭素質材料の種類、形状、サイズなどにより異なる。賦活により得られる活性炭は、そのまま複合ガス吸着材の材料として使用され得るが、酸洗浄、水洗浄などにより、該活性炭中の金属酸化物成分などの無機成分が除去された活性炭を使用することが好ましい。
【0030】
活性炭の形状としては、特に限定されず、粉末状、粒状、繊維状などが挙げられる。本発明の複合ガス吸着材が空気浄化フィルターとして使用される場合、動的な吸着特性と適度な通気度との両立が要求されることがあり、35μm〜2.8mm(350メッシュ〜7メッシュ)の平均粒径を有する活性炭が好ましい。
【0031】
本発明に用いられる芳香族アミノスルホン酸としては、特に限定されず、例えば、p−アミノベンゼンスルホン酸、m−アミノベンゼンスルホン酸、o−アミノベンゼンスルホン酸、多環式芳香族アミノスルホン酸(例えば、2−アミノ−1−ナフタレンスルホン酸、4−アミノ−1−ナフタレンスルホン酸など)が挙げられる。これらの中でも、取り扱いが容易で安価であり、アルデヒドとの反応性に優れるなどの点で、p−アミノベンゼンスルホン酸を少なくとも1種類用いることが好ましい。
【0032】
本発明に用いられる特定の有機酸は、水溶性かつ25℃で固体の炭素数が2〜6の有機酸である。本明細書において、「水溶性」とは、25℃の水に対する溶解度が3質量%以上であることをいい、好ましくは5質量%以上、より好ましくは8質量%以上であることをいう。25℃の水に対する溶解度が3質量%未満の場合、芳香族アミノスルホン酸を析出させるために有機酸水溶液が多く必要となり煩雑になる。
【0033】
水溶性(すなわち、25℃の水に対する溶解度が3質量%以上)かつ25℃で固体の炭素数が2〜6の有機酸としては、例えば、ヒドロキシ酢酸、乳酸などのモノカルボン酸;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、リンゴ酸、酒石酸などのジカルボン酸;アコニット酸、クエン酸などの多価カルボン酸;アスコルビン酸などが挙げられる。これらの中でも、乾燥など加熱する工程で余剰の有機酸が溶融して、活性炭のミクロ孔を閉塞することを防ぐために、60℃以上の融点を有する有機酸が好ましく、90℃以上の融点を有する有機酸がより好ましい。
【0034】
芳香族アミノスルホン酸は、一般的に水への溶解性が低いため、例えば水酸化ナトリウムなどを用いてアルカリ条件下で可溶化させる。
【0035】
本発明の複合ガス吸着材は、活性炭に芳香族アミノスルホン酸と特定の有機酸とを添着させることにより得られる。活性炭に芳香族アミノスルホン酸および特定の有機酸を添着させる方法は、これらの芳香族アミノスルホン酸および特定の有機酸を活性炭に均一に添着し得る方法であれば、特に限定されない。しかし、ミクロ孔を各成分にて閉塞させないようにするために、メソ孔領域に均一に芳香族アミノスルホン酸と特定の有機酸とを添着させることが重要であり、そのためには、芳香族アミノスルホン酸および特定の有機酸の各成分を、それぞれ単独成分ごとに添着させることが好ましい。それによって、芳香族アミノスルホン酸が活性炭のメソ孔領域において、溶解度が低下して析出が容易になる。
【0036】
具体的には、例えば、活性炭に芳香族アミノスルホン酸を可溶化させた液の添着完了後、有機酸を溶解させた液の添着を開始させることが望ましい。この場合、芳香族アミノスルホン酸を溶解させた液の添着完了後、1分〜24時間以内に有機酸の添着を開始させることが好ましく、より好ましくは2分〜12時間以内、最も好ましくは5分〜1時間以内である。1分未満の場合、メソ孔領域での芳香族アミノスルホン酸および特定の有機酸の添着が均一に行われない可能性がある。一方、24時間を越える場合、芳香族アミノスルホン酸を可溶化させた液がミクロ孔を閉塞する可能性がある。
【0037】
活性炭に芳香族アミノスルホン酸および特定の有機酸を添着させる方法としては、芳香族アミノスルホン酸を可溶化させた溶液および特定の有機酸溶液に活性炭を浸漬する、芳香族アミノスルホン酸を可溶化させた溶液および特定の有機酸溶液を活性炭に噴霧するなどの方法が挙げられる。
【0038】
上記の添着方法を採用することにより、アルデヒドおよびブタンの両方の吸着性能に優れた複合ガス吸着材が得られる原因については確認できていないものの、活性炭のメソ孔領域において芳香族アミノスルホン酸と特定の有機酸とが均一に添着され、かつミクロ孔領域の閉塞が非常に少なくなる現象が発生しているためと推測される。
【0039】
活性炭100質量部に対して、芳香族アミノスルホン酸は2〜12質量部、好ましくは4〜10質量部、より好ましくは6〜9質量部の割合で添着され、芳香族アミノスルホン酸と特定の有機酸とが、合計で3〜20質量部、好ましくは5〜18質量部、より好ましくは6〜16質量部の割合で添着される。合計で3質量部より少ない場合、得られる複合ガス吸着材のアルデヒド吸着性能が低下する。一方、20質量部より多い場合、ミクロ孔の閉塞が発生し、ブタン吸着性能が低下する。
【0040】
芳香族アミノスルホン酸および特定の有機酸は、芳香族アミノスルホン酸と特定の有機酸のカルボキシル基とのモル当量比が、好ましくは1:0.75〜1:2、より好ましくは1:0.9〜1:1.5となるように、活性炭に添着される。モル当量比が1:2を超える場合、未反応の有機酸が細孔を閉塞する可能性がある。一方、モル当量比が1:0.75未満の場合、十分に芳香族アミノスルホン酸が析出せず、ミクロ孔を閉塞する可能性がある。
【0041】
複合ガス吸着材のpHが2〜8を満足するように芳香族アミノスルホン酸と特定の有機酸とが添着されることが好ましく、pHが3〜7を満足するように添着されることがより好ましい。pHが2未満の場合、複合ガス吸着材の接触により装置が腐食する可能性がある。一方、pHが8を超える場合、アルデヒド吸着性能が低下するだけでなく、芳香族アミノスルホン酸が析出しにくくなり、ミクロ孔を閉塞する可能性がある。
【0042】
このようにして得られた複合ガス吸着材の使用形態は特に限定されず、空気清浄機用フィルター、天井材、工業用フィルターなどに用いられ、特に自動車車内用キャビンフィルターに好ましく用いられる。
【0043】
本発明の複合ガス吸着材は、単独でアルデヒドおよびブタンを効率よく吸着するが、他の吸着材(脱臭材など)と組み合わせて、複合ガス吸着材組成物として用いてもよい。例えば、添着処理を行っていない活性炭と組み合わせて用いることによって、ブタンをより効率よく吸着し得る。
【0044】
本発明の複合ガス吸着材と他の吸着材とを組み合わせて用いる場合、本発明の複合ガス吸着材と他の吸着材とは、好ましくは1:0.5〜1:30の質量比で、より好ましくは1:2〜1:20の質量比で組み合わされる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0046】
(活性炭)
ココヤシの殻の炭化物から得られた粒度30〜60メッシュの活性炭を用いた。
【0047】
(活性炭の酸洗浄方法)
活性炭を、0.5Nの塩酸溶液(95℃)に20分間浸漬した。次いで、洗浄液のpHが6〜7になるまで水洗を繰り返した。このように処理した活性炭を、含水量が3質量%以下になるまで乾燥した。
【0048】
(BET比表面積の測定方法)
定容法による77Kにおける窒素吸着等温線測定を、ベルソープ28SA(日本ベル株式会社製)を用いて行った。得られた結果からBET比表面積を算出した。
【0049】
(pHの測定方法)
活性炭または複合ガス吸着材1gに、10mLの蒸留水を加えた。60分後の上澄み液のpHを、pHメーター(株式会社堀場製作所製:F−52)を用いて測定した。
【0050】
(複合ガス吸着材の測定前処理)
20gの複合ガス吸着材を、50mLのビーカーに入れた。複合ガス吸着材を入れたビーカーを、乾燥機(90℃)にて16日間加熱処理を行った後、各ガスの吸着試験を行った。
【0051】
(アセトアルデヒド吸着量の測定方法)
測定前処理を行った複合ガス吸着材1gを約4Lのガラス製密閉容器に入れ密閉した。このガラス製密閉容器に、適量のアセトアルデヒドをシリンジで注入した。次いで、このガラス製密閉容器を25℃恒温槽内に24時間静置した。24時間後、気体検知管(株式会社ガステック製:No.92Lアセトアルデヒド)を用いて、ガラス製密閉容器内の気相部のアセトアルデヒド濃度を測定しアセトアルデヒド吸着等温線を得た。得られたアセトアルデヒド吸着等温線から10ppm時のアセトアルデヒド平衡吸着量を算出した。
【0052】
(ブタン吸着量の測定方法)
測定前処理した複合ガス吸着材2.23gをサンプルホルダー(60mm×60mm)に入れた。次いで、このサンプルホルダー内に、n−ブタンを混合した空気(n−ブタン80ppm、相対湿度50%)を、線速度(LV)31cm/秒の条件で流し、携帯型多成分大気分析計(日本サーモエレクトロン株式会社製:MIRAN SapphlRe)を用いて、サンプルホルダー内のn−ブタンの濃度を測定した。サンプルホルダー入口側のn−ブタン濃度をC1、出口側のn−ブタンの濃度をC2とし、C2/C1×100=95(%)になるまで測定を行った。以下の式によって、n−ブタンの吸着量を算出した。
【0053】
n−ブタン吸着量(質量%)=[C2/C1×100=95(%)]になるまでに複合ガス吸着材に吸着したn−ブタン量/複合ガス吸着材量×100
【0054】
(実施例1)
酸洗浄を行ったBET比表面積が1050m/gの活性炭に、濃度が18質量%のp−アミノベンゼンスルホン酸水溶液(p−アミノベンゼンスルホン酸1モルに対して水酸化ナトリウム0.95モル含有)を噴霧し、p−アミノベンゼンスルホン酸を添着させた。30分後、この活性炭に濃度が46質量%のクエン酸(融点153℃、溶解度59.2質量%)水溶液を噴霧し、クエン酸を添着させた。クエン酸の添着から60分後、この活性炭を、乾燥機(90℃)にて24時間乾燥させた。このようにして、活性炭100質量部に対して、p−アミノベンゼンスルホン酸8質量部およびクエン酸4.4質量部を添着させた複合ガス吸着材を得た。
【0055】
次いで、得られた複合ガス吸着材を、上記の測定前処理に供した後、アセトアルデヒドおよびブタンの吸着量を、上記の方法によって測定した。結果を表1に示す。
【0056】
(実施例2)
酸洗浄を行ったBET比表面積が890m/gの活性炭を用いたこと以外は、実施例1と同様の手順で複合ガス吸着材を得、実施例1と同様の手順でアセトアルデヒドおよびブタンの吸着量を測定した。結果を表1に示す。
【0057】
(実施例3)
酸洗浄を行ったBET比表面積が1150m/gの活性炭を用いたこと以外は、実施例1と同様の手順で複合ガス吸着材を得、実施例1と同様の手順でアセトアルデヒドおよびブタンの吸着量を測定した。結果を表1に示す。
【0058】
(実施例4)
酸洗浄を行わなかったBET比表面積が1000m/gの活性炭を用い、クエン酸8.9質量部を添着させたこと以外は、実施例1と同様の手順で複合ガス吸着材を得、実施例1と同様の手順でアセトアルデヒドおよびブタンの吸着量を測定した。結果を表1に示す。
【0059】
(実施例5)
クエン酸3質量部を添着させたこと以外は、実施例1と同様の手順で複合ガス吸着材を得、実施例1と同様の手順でアセトアルデヒドおよびブタンの吸着量を測定した。結果を表1に示す。
【0060】
(実施例6)
濃度が46質量%のクエン酸水溶液の代わりに、濃度が9質量%のヒドロキシ酢酸(融点80℃、溶解度100質量%)水溶液を用いて、ヒドロキシ酢酸4.4質量部を添着させたこと以外は、実施例1と同様の手順で複合ガス吸着材を得、実施例1と同様の手順でアセトアルデヒドおよびブタンの吸着量を測定した。結果を表1に示す。
【0061】
(実施例7)
p−アミノベンゼンスルホン酸の添着とクエン酸の添着との間に、複合ガス吸着材を密閉容器に入れて60℃にて72時間加熱したこと以外は、実施例1と同様の手順で複合ガス吸着材を得、実施例1と同様の手順でアセトアルデヒドおよびブタンの吸着量を測定した。結果を表1に示す。
【0062】
(実施例8)
p−アミノベンゼンスルホン酸6質量部およびクエン酸3.3質量部を添着させたこと以外は、実施例1と同様の手順で複合ガス吸着材を得、実施例1と同様の手順でアセトアルデヒドおよびブタンの吸着量を測定した。結果を表1に示す。
【0063】
(実施例9)
p−アミノベンゼンスルホン酸9質量部およびクエン酸6.7質量部を添着させたこと以外は、実施例3と同様の手順で複合ガス吸着材を得、実施例3と同様の手順でアセトアルデヒドおよびブタンの吸着量を測定した。結果を表1に示す。
【0064】
(実施例10)
酸洗浄を行わなかったBET比表面積が1050m/gの活性炭を用い、p−アミノベンゼンスルホン酸8質量部およびクエン酸1.5質量部を添着させたこと以外は、実施例1と同様の手順で複合ガス吸着材を得、実施例1と同様の手順でアセトアルデヒドおよびブタンの吸着量を測定した。結果を表1に示す。
【0065】
(実施例11)
濃度が46質量%のクエン酸水溶液の代わりに、濃度が8質量%のシュウ酸(融点190℃、溶解度8.34質量%)水溶液を用いて、シュウ酸2.1質量部を添着させたこと以外は、実施例1と同様の手順で複合ガス吸着材を得、実施例1と同様の手順でアセトアルデヒドおよびブタンの吸着量を測定した。結果を表1に示す。
【0066】
(実施例12)
濃度が46質量%のクエン酸水溶液の代わりに、濃度が35質量%のリンゴ酸(融点132℃、溶解度55.8質量%)水溶液を用いて、リンゴ酸4.6質量部を添着させたこと以外は、実施例1と同様の手順で複合ガス吸着材を得、実施例1と同様の手順でアセトアルデヒドおよびブタンの吸着量を測定した。結果を表1に示す。
【0067】
(実施例13)
p−アミノベンゼンスルホン酸3質量部およびクエン酸1.7質量部を添着させたこと以外は、実施例2と同様の手順で複合ガス吸着材を得、実施例2と同様の手順でアセトアルデヒドおよびブタンの吸着量を測定した。結果を表1に示す。
【0068】
(比較例1)
酸洗浄を行わなかったBET比表面積が1050m/gの活性炭を用い、クエン酸水溶液を用いなかったこと以外は、実施例1と同様の手順で複合ガス吸着材を得、実施例1と同様の手順でアセトアルデヒドおよびブタンの吸着量を測定した。結果を表1に示す。
【0069】
(比較例2)
酸洗浄を行ったBET比表面積が600m/gの活性炭を用い、p−アミノベンゼンスルホン酸4質量部およびクエン酸2.2質量部を添着させたこと以外は、実施例1と同様の手順で複合ガス吸着材を得、実施例1と同様の手順でアセトアルデヒドおよびブタンの吸着量を測定した。結果を表1に示す。
【0070】
(比較例3)
酸洗浄を行ったBET比表面積が1400m/gの活性炭を用いたこと以外は、実施例1と同様の手順で複合ガス吸着材を得、実施例1と同様の手順でアセトアルデヒドおよびブタンの吸着量を測定した。結果を表1に示す。
【0071】
(比較例4)
濃度が46質量%クエン酸水溶液の代わりに、濃度が45質量%の硫酸(融点10℃、水に可溶)水溶液を用いて、硫酸3.4質量部を添着させたこと以外は、実施例1と同様の手順で複合ガス吸着材を得、実施例1と同様の手順でアセトアルデヒドおよびブタンの吸着量を測定した。結果を表1に示す。
【0072】
(比較例5)
p−アミノベンゼンスルホン酸16質量部およびクエン酸8.9質量部を添着させたこと以外は、実施例2と同様の手順で複合ガス吸着材を得、実施例2と同様の手順でアセトアルデヒドおよびブタンの吸着量を測定した。結果を表1に示す。
【0073】
(比較例6)
濃度が46質量%クエン酸水溶液の代わりに、濃度が45質量%のギ酸(融点8.4℃、水に可溶)水溶液を用いて、ギ酸3.2質量部を添着させたこと以外は、実施例1と同様の手順で複合ガス吸着材を得、実施例1と同様の手順でアセトアルデヒドおよびブタンの吸着量を測定した。結果を表1に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
表1に示すように、本発明の複合ガス吸着材(実施例1〜13)は、比較例1〜6の複合ガス吸着材に比べて、アセトアルデヒドおよびブタンの吸着量が多いことがわかる。
【0076】
一方、比較例1の複合ガス吸着材は、水溶性かつ25℃で固体の炭素数が2〜6の有機酸を添着させていないためアルカリ性となっており、アセトアルデヒド吸着量が非常に少ないことがわかる。比較例2の複合ガス吸着材は、活性炭のBET比表面積が小さく(700m/g以下)、賦活が不十分になるため、ブタン吸着量が少なく、さらに十分にp−アミノベンゼンスルホン酸およびクエン酸を添着できないため、アセトアルデヒド吸着量が少ないことがわかる。比較例3の複合ガス吸着材は、活性炭のBET比表面積が大きく(1300m/g以上)、賦活が過剰になるため、ミクロ孔の割合が相対的に減少し、ブタンの吸着量が少ないことがわかる。比較例4の複合ガス吸着材は、液状の硫酸がミクロ孔に浸入したため、アセトアルデヒドおよびブタンの吸着量が少ないと考えられる。比較例5の複合ガス吸着材は、p−アミノベンゼンスルホン酸およびクエン酸の添着量が過剰(合計で20質量部以上)であるため、ミクロ孔が閉塞し、ブタン吸着量が非常に少ないことがわかる。比較例6の複合ガス吸着材は、液状のギ酸がミクロ孔に浸入したため、ブタンの吸着量が少なく、さらに90℃で乾燥した際にギ酸が蒸発し、製造が困難であった。
【0077】
(実施例14:複合ガス吸着材組成物の調製)
実施例1で得られた複合ガス吸着材およびBET比表面積が1000m/gの活性炭を、3:7の質量比で混合し、複合ガス吸着材組成物を得た。この複合ガス吸着材組成物を用いて、実施例1と同様の手順でアセトアルデヒドおよびブタンの吸着量を測定した。アルデヒド吸着量は1.6質量%およびブタン吸着量は3.2質量%であった。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明によれば、アルデヒドおよびブタンを含有する複合ガスの吸着性能に優れた複合ガス吸着材を提供し得る。したがって、本発明の複合ガス吸着材は、空気清浄機用フィルター、天井材、工業用フィルターなどに用いられ、特に自動車車内用キャビンフィルターなどに使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性炭に芳香族アミノスルホン酸と有機酸とを添着させた複合ガス吸着材であって、
該活性炭のBET比表面積が、700〜1300m/gであり、
該有機酸が、水溶性かつ25℃で固体の炭素数が2〜6の有機酸であり、そして
該活性炭100質量部に対して、該芳香族アミノスルホン酸が2〜12質量部の割合で添着し、かつ該芳香族アミノスルホン酸と該有機酸とが、合計で3〜20質量部の割合で添着している、複合ガス吸着材。
【請求項2】
前記有機酸が、90℃以上の融点を有する、請求項1に記載の複合ガス吸着材。
【請求項3】
前記芳香族アミノスルホン酸と前記有機酸のカルボキシル基とのモル当量比が、1:0.75〜1:2である、請求項1または2に記載の複合ガス吸着材。
【請求項4】
複合ガス吸着材の製造方法であって、
芳香族アミノスルホン酸を可溶化させて、活性炭に添着させる工程;および
該芳香族アミノスルホン酸の添着後、1分〜24時間以内に有機酸を該活性炭に添着させる工程;を包含し、
該活性炭のBET比表面積が、700〜1300m/gであり、
該有機酸が、水溶性かつ25℃で固体の炭素数が2〜6の有機酸であり、そして
該活性炭100質量部に対して、該芳香族アミノスルホン酸を2〜12質量部の割合で添着させ、かつ該芳香族アミノスルホン酸と該有機酸とを、合計で3〜20質量部の割合で添着させる、方法。
【請求項5】
前記有機酸が、90℃以上の融点を有する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記芳香族アミノスルホン酸と前記有機酸のカルボキシル基とのモル当量比が、1:0.75〜1:2である、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
前記複合ガス吸着材のpHが2〜8に調整される、請求項4から6のいずれかの項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1から3のいずれかの項に記載の複合ガス吸着材と他の吸着材とを含む、複合ガス吸着材組成物。
【請求項9】
前記他の吸着材が、活性炭である、請求項8に記載の複合ガス吸着材組成物。
【請求項10】
請求項1から3のいずれかの項に記載の複合ガス吸着材および請求項8または9に記載の複合ガス吸着材組成物からなる群より選択される少なくとも1種を備える、吸着フィルター。

【公開番号】特開2011−143359(P2011−143359A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−6649(P2010−6649)
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【出願人】(390001177)クラレケミカル株式会社 (30)
【Fターム(参考)】