複合地盤の設計方法
【課題】戸建て住宅を支持する基礎地盤であって、杭と原地盤との双方で建物重量を支持させる基礎地盤の設計方法に関し、汎用性があり、設計信頼性および該設計にて形成される基礎構造の信頼性が高く、しかも、合理的な基礎地盤の設計方法を提供する。
【解決手段】戸建て住宅のユニット式建物20を支持する、原地盤Gと小口径杭6とからなる複合地盤30の設計方法であり、原地盤Gと小口径杭6の許容支持力、原地盤Gの許容沈下量を設定する第1のステップ、原地盤Gの地盤ばねと小口径杭6の杭ばねを設定し、双方の荷重分担率を設定する第2のステップ、ユニット式建物20の分割エリアごとの按分重量と荷重分担率とから原地盤G、小口径杭6の負担重量を算出し、原地盤Gの沈下量を算出する第3のステップ、それぞれの負担重量と許容支持力を比較し、原地盤Gの沈下量と許容沈下量を比較し、許容値を満たすことを確認する第4のステップ、からなる。
【解決手段】戸建て住宅のユニット式建物20を支持する、原地盤Gと小口径杭6とからなる複合地盤30の設計方法であり、原地盤Gと小口径杭6の許容支持力、原地盤Gの許容沈下量を設定する第1のステップ、原地盤Gの地盤ばねと小口径杭6の杭ばねを設定し、双方の荷重分担率を設定する第2のステップ、ユニット式建物20の分割エリアごとの按分重量と荷重分担率とから原地盤G、小口径杭6の負担重量を算出し、原地盤Gの沈下量を算出する第3のステップ、それぞれの負担重量と許容支持力を比較し、原地盤Gの沈下量と許容沈下量を比較し、許容値を満たすことを確認する第4のステップ、からなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、比較的小規模な戸建て住宅を支持する、原地盤と、該原地盤内に設置された小口径杭と、からなる複合地盤の設計方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
比較的小規模な戸建て住宅、たとえば、戸建てのユニット式建物は、大規模な高層、超高層マンションやビル等に比して、その支持地盤の地耐力は極めて小さいものであり、したがって大規模な地盤改良や基礎構造の必要性がないのが一般的である。なお、ここでいう「地耐力」とは、ユニット式建物の重量、すなわち鉛直荷重を支持する基礎地盤の鉛直支持力と、この鉛直荷重によって地盤が沈下する沈下量と、の双方を意味するものであり、建物重量が基礎地盤の許容支持力以内に収まり、かつ、沈下量(不同沈下を含む)が許容沈下量以内に収まっていることをもって、基礎地盤が建設対象の建物重量を支持し得る地耐力を有していると言うことができる。
【0003】
上記するように、これまでは大規模構造物に比して基礎地盤の地耐力や基礎構造の重要性が大きくなかった小規模なユニット式建物においても、昨今は基礎地盤の沈下等の欠陥住宅の問題がクローズアップされてきていることや、基礎地盤の強度を合理的に評価することで住宅コストの低減を図り、もってユニット式建物等の戸建て住宅の需要増を喚起しようとする産業界の動向など、を背景として、戸建て住宅を支持する基礎地盤に関する新規な設計手法の発案や設計手法の改善が、住宅メーカ各社で盛んとなっている。
【0004】
たとえば、従来の戸建て住宅を支持する基礎地盤構造に関して言えば、強固な地盤は布基礎やベタ基礎を地盤上に直接構築する形態が採用されており、比較的軟弱な地盤(自沈層を有する地盤、圧密等の沈下が懸念される粘性土地盤、液状化が懸念される緩い砂質土地盤など)では、杭基礎や、表層の数メートルのみセメント改良する表層改良地盤、さらには、杭基礎と表層改良を併用した基礎地盤形態が採用されている。
【0005】
そして、杭基礎を採用する際の設計手法は、建物重量のすべてを、たとえば支持層にその先端が埋設された杭で支持するものとし、この鉛直荷重に対して、杭本体の安全性(杭本体の圧縮耐力等)を照査し、杭先端地盤の支持力(先端支持力)を照査している(場合によっては、杭周面と地盤との周面摩擦力を杭先端支持力に加えて、杭の許容支持力としている)。
【0006】
すなわち、杭基礎の場合には、建物のベタ基礎直下、もしくは布基礎直下で杭周囲の原地盤の鉛直支持力を何等考慮していないのである。
【0007】
実際に、たとえば地下水位の低下等で原地盤が圧密沈下等した場合には杭のみで建物を支持することになるという現実や、杭のほかに地盤を考慮するとした場合でも、実際に建物の柱下に設置される杭が建物重量のほとんどを負担するという構造力学上の現実、等を勘案すれば、杭のみで建物重量を支持する設計手法が安全側の設計であることに何等疑いの余地はない。
【0008】
しかし、上記するように、基礎地盤の強度を合理的に評価すること、これによって安全性を担保しながら住宅コストをより低減しようとした場合には、杭と原地盤との双方を勘案した基礎地盤の設計手法の適用が望ましい。
【0009】
そして、戸建て住宅の中でも、既にその寸法や形状が数種類の規格のユニットで設定されていて、これらのユニットを平面的、縦断的に所定基数組み付けることで建物の全体寸法および全体形状が容易に設定できるユニット式建物の場合には特に、ユニット内での平面エリアごとの重量が容易に割り出されることから、仮に、建物重量を杭と原地盤の双方で負担するとした場合でも、他の構造形式の戸建て住宅に比して、建物重量の杭および原地盤への荷重分担の算定は比較的容易となる。
【0010】
なお、従来の戸建て住宅の基礎構造に関する公開技術として、以下の2つの技術を挙げることができる。その一つは、軟弱地盤上に建物を建造するに際して、建物本体の下部に敷設されるコンクリート基礎を含む建物全体の重心位置の直下の地盤内部に、上端をコンクリート基礎に接合する基礎杭を打ち込み、この基礎杭によって建物の重心を支持させるようにした基礎構造である(特許文献1参照)。また、他の一つは、鋼管杭の杭先端が支持層に到達したことを確認してから杭先端近傍の地盤を緩めておき、その後に上部構造の荷重が加わることで、緩めた分だけ鋼管杭が沈下して杭先端の支持力が発揮されるとともに、鋼管杭に伴って沈下する耐圧版底面にも地反力が作用して支持力が得られるようにした基礎構造である(特許文献2参照)。
【0011】
しかし、特許文献1に開示の技術は、杭のみで建物重量を支持しようとする従来の設計方法の域を超えるものではないし、特許文献2に開示の技術は、建物重量が載荷された際に杭先端の支持力を発揮させようとする技術であることから、建物の建設地点ごとに地盤性状が異なる現実を勘案すれば、極めて汎用性に乏しく、しかも、構造安全性、信頼性に乏しい技術と言わざるを得ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008−223267号公報
【特許文献2】特開2007−113270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、戸建のユニット式建物を支持する基礎地盤であって、杭と原地盤との双方で建物重量を支持させる基礎地盤の設計方法に関し、汎用性があり、設計信頼性および該設計にて形成される基礎構造の信頼性が高く、しかも、合理的な基礎地盤の設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的を達成すべく、本発明による複合地盤の設計方法は、戸建て住宅を支持するための、原地盤と、原地盤内に設置された小口径杭と、からなる、複合地盤の設計方法であって、小口径杭が設置された後の原地盤の許容支持力、小口径杭の許容支持力、および、小口径杭が設置された後の原地盤の許容沈下量、のそれぞれを設定する第1のステップ、前記原地盤の地盤ばね、および、小口径杭の杭ばねを設定し、地盤ばねと杭ばね双方の大きさに応じて該原地盤と該小口径杭双方の荷重分担率を設定する第2のステップ、戸建て住宅の重量が複数の分割エリアごとに按分されており、按分重量と前記荷重分担率とから、前記原地盤の負担重量と前記小口径杭の負担重量を算出し、かつ、該原地盤の沈下量を算出する第3のステップ、前記原地盤および前記小口径杭それぞれの前記負担重量とそれぞれの前記許容支持力を比較し、該負担重量が該許容支持力以下となること、および、該原地盤の前記沈下量と前記許容沈下量を比較し、該原地盤の該沈下量が該許容沈下量以下となること、の双方を確認する第4のステップ、からなるものである。
【0015】
本発明でいう「複合地盤」とは、原地盤と、この原地盤内に打設、圧入、もしくは埋設等される小口径杭と、の双方からなる、建物重量を支持する基礎地盤のことである。また、小口径杭とは、一般に鋼管杭のことであり、その先端が拡径した杭、その先端に翼を有する杭、などの全般を含むものであり、さらには、戸建て住宅用の杭であることから、口径が100〜200mm、特に、100〜150mm程度の規模の杭を意味している。なお、この小口径杭は一般に、従来の杭基礎のように、その上部がベタ基礎や布基礎内に埋め込まれるものではなく、その上端でベタ基礎等を直接的に支持するものであるが、従来の杭基礎構造を排除するものではない。また、ここでいう「原地盤の許容沈下量」とは、地盤が小口径杭にて補強された、改良後の複合地盤を構成する原地盤の許容沈下量を指称するものでる。
【0016】
また、従来公知の群杭基礎のように、杭を密に打設することで杭間の原地盤の締め固めを期待するというものではなく、たとえば戸建て住宅の柱下に1本の小口径杭が配されることからしても、原地盤に固有の強度をそのまま評価するものである。
【0017】
さらに、本発明の設計方法は、戸建て住宅の中でも、ユニット式建物を支持する基礎地盤の設計に好適である。これは、直方体もしくは立方体の六面体からなるユニット式建物の場合、既述するように既にその寸法や形状が数種類の規格のユニットで設定されていて、これらのユニットを平面的、縦断的に所定基数組み付けることで建物の全体寸法および全体形状が容易に設定でき、したがって、複合地盤を構成する杭と原地盤のそれぞれが負担する建物重量の算定が比較的容易であるために、より汎用性があり、かつ、明りょうで迅速な設計に適しているためである。すなわち、ユニット式建物のエリアごとの按分重量が既に分かっていることから、以下で説明する、原地盤および小口径杭双方の荷重分担率を求めることで、原地盤および小口径杭双方の負担荷重が算定でき、双方の負担荷重を、原地盤、小口径杭双方の許容支持力(もしくは設計基準値)と比較し、許容支持力以内にあるか否かが確認され、許容支持力以内であれば当初設定の複合地盤の仕様(原地盤固有の強度、小口径杭の仕様や長さ等)でよいと判定でき、許容支持力を超える場合は複合地盤の仕様を変更して、再設計をおこなうことになる。
【0018】
まず、複合地盤を構成する原地盤の許容支持力、小口径杭の許容支持力、および、複合地盤を構成する原地盤の許容沈下量を設定する必要があり、これらの設定に際しては、特に、小規模建築物基礎設計指針(日本建築学会、2008年)に記載される各種算定式、各種の許容値を適宜参照するのがよい。なお、原地盤の許容沈下量には、建物の床直下の原地盤の許容沈下量や、杭先端以深の原地盤の許容沈下量のいずれか一方もしくは双方の許容沈下量のことであり、特に建物の不同沈下を問題とする場合には、その相対沈下量(建物構造に影響を与え得る相対変形角)なども含む意味である。なお、本発明による、「複合地盤の設計方法」が当該小規模建築物基礎設計指針中に記載がないこと、および、従来の戸建て住宅用の地盤基礎の設計方法には存在していない技術思想、設計思想であることは言うまでもないことである。
【0019】
なお、本発明者等は独自に、日本全国の原地盤の標準貫入試験結果、簡易な地盤調査方法であるスウェーデン式サウンディング試験結果(以下、「SWS試験」という)を得ている。一般に戸建て住宅の基礎設計に際しては、このSWS試験が実施され、この試験結果に基づいて地盤の諸特性が評価されるが、本発明の設計方法の形成に際しては、これらの結果を適宜使用しながら、当該設計方法の信頼性、妥当性が担保されている。
【0020】
まず、第1のステップにて、小口径杭が設置された後の原地盤の許容支持力、小口径杭の許容支持力、および、小口径杭が設置された後の原地盤の許容沈下量を設定したら、今度は、第2のステップとして、原地盤を地盤ばねとして評価した際の地盤ばね、小口径杭を杭ばねとして評価した際の杭ばねの双方を設定する。
【0021】
地盤ばねと杭ばねは、原地盤と小口径杭双方の荷重分担率を設定すること、および、原地盤の沈下量を算定すること、の双方に使用されるものである。
【0022】
ここで、地盤ばねの設定方法は、既述する、小規模建築物基礎設計指針で示される設定方法に準拠して設定するのがよい。
【0023】
また、杭ばねの設定方法の一実施の形態として、杭とその周面の地盤との周面摩擦ばね、および、杭先端地盤の杭先端ばね、および、圧縮力が作用した際の杭本体の弾性変形に基づく杭本体ばね、から設定する方法がある。
【0024】
この周面摩擦ばねは、長期設計、すなわち、通常一般時で建物重量のみを支持している状態の設計と、短期設計、すなわち、地震時等の設計と、で当該周面摩擦ばねを相違させるのが経済性、合理性、安全性の観点から好ましいとの知見を本発明者等は得ている。尤も、長期設計と短期設計で同一の周面摩擦ばねを使用してもよいことは勿論のことである。
【0025】
そこで、長期設計時で周面摩擦ばねは、小口径杭が所定量だけ沈下した際の最大周面摩擦力で規定される値に1未満の所定の係数を乗じて算定するものとし、短期設計時の周面摩擦ばねは、長期設計時の周面摩擦ばねの2倍に設定する、という設定方法を適用することができる。
【0026】
たとえば、小口径杭の杭径の1/10の沈下量の際の摩擦力を最大周面摩擦力(極限摩擦力)と設定し、周面摩擦ばねは、極限摩擦力の1/3の値、2/3の値の荷重時の沈下量から設定することができる。
【0027】
また、周面摩擦ばねを、上記する荷重分担率を求める場合と、沈下量を求める場合とで変化させる方法を適用してもよい。
【0028】
すなわち、杭ばねを構成する前記周面摩擦ばねのうち、原地盤の沈下量を算出する長期設計時の周面摩擦ばねは、小口径杭が所定量だけ沈下した際の最大周面摩擦力で規定される値に1以上の所定の係数を乗じて算定するものとし、原地盤の沈下量を算出する短期設計時の周面摩擦ばねは、長期設計時の周面摩擦ばねの1/2倍に設定することができる。なお、本発明者等によれば、実験において、クリープに起因して短期のばねが低下する結果が得られているものの、実際の地盤では、短期の許容支持力が長期に比して大きくなることから、短期の周面摩擦ばねが長期のそれよりも大きくなることもあり得る。
【0029】
本発明者等の知見によれば、地盤の沈下の評価において安全側の設計をおこなうためには、長期設計時の周面摩擦ばねは極限周面摩擦力を所定の沈下量(たとえば小口径杭の杭径の1/10の沈下量)で除した値の10倍とし、短期設計時の周面摩擦ばねは5倍とすることで、実験値との整合がとれることが特定されている。但し、クリープに起因して短期のばねが低下する結果が得られていることから、設計としては長期、短期とも1倍とすることも可能である。なお、既述するように、長期設計時と短期設計時、双方の周面摩擦ばねを同一の値に設定してもよい。
【0030】
原地盤の地盤ばねと、小口径杭の杭ばねを設定したら、地盤ばねと杭ばね双方の大きさに応じて原地盤と小口径杭双方の荷重分担率が自ずと設定される。
【0031】
また、この第2のステップにおいて、地盤ばねと杭ばねとを複合した複合ばねがさらに設定されるのが好ましい。
【0032】
この複合ばねは、地盤ばねと、杭ばねと、の和から算定されるものであってもよいし、既に設定されている地盤ばねに1未満の所定の係数が乗じられた補正後の地盤ばねと、杭ばねと、の和から算定されるものであってもよい。
【0033】
特に後者の複合ばねの算定方法は、構造力学上の実際の荷重の流れ、すなわち、原地盤に対して杭に荷重が伝達され易いという実現象をより精緻に設計に反映させるべく、原地盤のばねを所望に低減し、もって、相対的に杭ばねの値を大きくするものである。
【0034】
なお、地盤ばねに乗じられる1未満の所定の係数とは、たとえば0.3,0.4、0.8といった任意の値が一義的に設定されるものであってもよいし、実際に、ユニット式建物の上部構造と、複合地盤(原地盤および小口径杭)と、の双方をコンピュータ内でモデル化し、地盤ばねに乗じられる係数、もしくは、地盤ばね自体を設定するものであってもよい。
【0035】
そして、既述するように、戸建て住宅がユニット式建物の場合には、その重量は既に(予め)設定されており、その平面視形状における複数の分割エリアごとの重量、すなわち按分重量も既に設定されていることから、按分重量と前記荷重分担率とから、各分割エリアにおける原地盤の負担重量と小口径杭の負担重量が算出され、かつ、原地盤の沈下量も算出される(第3のステップ)。なお、コンピュータ内で戸建て住宅(たとえばユニット式建物)の上部構造を適宜にモデル化し(当然に上部構造の重量もコンピュータ内で設定される)、さらに、この上部構造モデルに上記する地盤ばねのばねモデル、杭ばねのばねモデルを取付け、各ばねが負担する按分重量を当該コンピュータ内で自動的に割り出す方法であってもよい。
【0036】
第3のステップで原地盤の負担重量と小口径杭の負担重量が算出され、原地盤の沈下量が算定されたら、最後に第4のステップで、原地盤および小口径杭それぞれの負担重量とそれぞれの許容支持力を比較し、負担重量が許容支持力以下となること、および、原地盤の沈下量が許容沈下量以下となること、の双方が確認される。
【0037】
それぞれの負担重量がそれぞれの許容支持力以内であり、かつ、原地盤の沈下量が許容沈下量以内であれば、当初設定の複合地盤の仕様(原地盤固有の強度、小口径杭の仕様や長さ等)でよいと判定され、この時点で設計は終了する。
【0038】
なお、当初設定される杭の仕様、すなわち、小口径杭の杭径や杭長等は、設置される場所の地盤特性(土層の硬軟、支持層となる硬質地盤のレベルなど)に応じて所望に変化させてもよく、小規模な戸建てのユニット式建物を対象としていることから、このように場所ごとに杭の仕様を変化させて設計するのが合理的である。そして、場所ごとに杭の仕様や杭長を変化させることにより、全ての杭の沈下量の均一化を図ることが可能となり、このような設計をおこなうことで、上記する建物の不同沈下を抑止することが可能となる。
【0039】
なお、第4のステップで安全性が確認された複合地盤であっても、その安全率に余裕がある場合は、杭の径をより小口径としたり、杭長をより短くする等の構造の見直しをおこない、再度の安全性の照査を実施することで、可及的に安価で、安全性に優れた、最適な複合地盤を設計することが可能となる。
【0040】
なお、第4のステップで、許容支持力を超えると判定された場合には、複合地盤の仕様を変更して再度の設計をおこない、安全性が保証される仕様を求めることとなるのは言うまでもない。
【0041】
上記する本発明の複合地盤の設計方法によれば、簡易なSWS試験結果に基づいて杭ばねと地盤ばねを所望に設定し、それらの荷重分担率、および、双方のばねからなる複合地盤の複合ばねを所望に設定することができ、合理的かつ経済的で、安全性の高い、ユニット式建物を支持する複合地盤の最適設計を実現することができる。
【発明の効果】
【0042】
以上の説明から理解できるように、本発明の複合地盤の設計方法によれば、小規模な戸建てのユニット式建物を支持する基礎地盤、より具体的には、杭と原地盤とからなる複合地盤の設計に関し、小口径杭を適切な杭ばねで、原地盤を適切な地盤ばねでそれぞれ評価し、双方のばねを用いて荷重分担率を適切に評価し、双方のばねからなる複合ばねを適切に評価することにより、当該複合地盤の最適設計を実現することができ、もって、可及的に安価で、安全性が十分に担保された、複合地盤を設計することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】ユニット式建物の一実施の形態を模式的に示した平面図である。
【図2】図1のII−II矢視図であり、複合地盤を模式的に示した縦断面図である。
【図3】複合地盤の杭ばねモデルおよび地盤ばねモデルの模式図である。
【図4】本発明の複合地盤の設計方法を示したフロー図である。
【図5】SWS試験による換算N値と標準貫入試験によるN値を比較したグラフである。
【図6】杭先端平均換算N値と極限先端支持力度qpの関係を示したグラフである。
【図7】杭先端下部の粘着力cと極限先端支持力度qpの関係を示したグラフである。
【図8】極限先端支持力の計算値と実験値を比較したグラフである。
【図9】周面地盤平均換算N値と極限周面摩擦力度τdの関係を示したグラフである。
【図10】周面平均換算粘着力cと極限周面摩擦力度τdの関係を示したグラフである。
【図11】極限摩擦力の計算値と実験値を比較したグラフである。
【図12】地盤ばねの計算値と実験値(長期荷重時)に関するグラフである。
【図13(a)】地盤の荷重度と沈下量の関係を示したグラフである。
【図13(b)】地盤の荷重度と沈下量の関係を示したグラフである。
【図13(c)】地盤の荷重度と沈下量の関係を示したグラフである。
【図14】周面摩擦ばねの考え方を説明した図である。
【図15】長期設計時および短期設計時の周面摩擦ばねの設定を説明した図である。
【図16】摩擦力と沈下量の関係を示したグラフである。
【図17】長期設計時および短期設計時の杭先端ばねを示したグラフである。
【図18】杭先端荷重と杭先端沈下量の関係を示したグラフである。
【図19】(a)は、鋼管杭にかかる圧縮力を説明した図であり、(b)は、(a)を設計上評価する方法を説明した図である。
【図20】杭頭ばねの計算値と実験値を比較したグラフである。
【図21】複合ばねの計算値と実験値に関するグラフである。
【図22】杭の荷重分担率の計算値と実験値に関するグラフである。
【図23】杭の荷重分担率を解析にて算定する際の、複合地盤モデルを示した模式図である。
【図24】杭の荷重分担率の設定図表の一実施例を示したグラフである。
【図25】地盤の荷重分担率の計算値と実験値に関するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。なお、以下、戸建て住宅のうち、ユニット式建物を取り上げて本発明の設計方法を説明しているが、本発明の設計方法がユニット式建物以外の戸建て住宅の設計に使用できることは勿論のことである。
【0045】
図1は、ユニット式建物の一実施の形態を模式的に示した平面図であり、図2は、図1のII−II矢視図であって、複合地盤の概要を模式的に示した縦断面図であり、図3は、複合地盤の杭ばねモデルおよび地盤ばねモデルを模式的に示した図である。
【0046】
図1で示すユニット式建物20は、平面視矩形(長方形)の4基のユニット10,…が併設されて、全体形状が矩形で1階建てのユニット式建物である。なお、ユニットの平面視形状が正方形であってもよいし、その併設基数が5以上であってもよいし、階数が2階、3階などのユニット式建物であってもよいことは勿論のことである。
【0047】
ユニット10は、角鋼管からなる柱1、天井梁2、およびベタ基礎3(床スラブ)からなる骨組みを有する6面体であり、この骨組みに、不図示の壁パネル、床パネルが設置されて構成される。また、各柱1下には口径が100〜150mm程度の小口径の鋼管杭4A,4B,4Cが存在している。そして、ベタ基礎3は、直接的に原地盤G(表層の第1層目地盤G1,第2層目地盤G2,第3層目の比較的硬質な地盤G3)にて支持されている。なお、図示例では、たとえば第1層目地盤G1と第2層目地盤G2がともに比較的緩い粘性土地盤、第3層目の比較的硬質な地盤G3が小口径杭の先端を支持する地盤であるが、この地盤G3は必ずしも硬質である必要はない。
【0048】
このように、ユニット式建物20は、小口径杭4A,4B,4Cと、原地盤Gと、で支持されるものであり、この小口径杭4A,4B,4Cおよび原地盤Gから複合地盤30が形成されるものであり、本発明の設計方法が対象とする支持地盤構造である。
【0049】
そして、形状や寸法を変化させた複数種のユニット10を予め設定しておくことで、図示のごとき配置のユニット式建物20とした際に、4基のユニット10,…で包囲された柱1を含む分割エリアA,分割エリアAに隣接した長手方向の分割エリアB(2つの分割エリアB,Bの中央に1つの柱1が存在),分割エリアAに隣接した短手方向の分割エリアC(2つの分割エリアC,Cの中央に一つの柱1が存在),分割エリアAと対角の位置にある分割エリアD(1つの柱1が存在)が自動的に設定される。
【0050】
すなわち、各分割エリアで、対応する柱1が負担する平面エリアが自動的に設定されることとなり、各平面部位の柱1を介して、それぞれの柱1,…下方の小口径杭4A,4B,4Cに流れるユニット式建物20の鉛直荷重WA,WB,WCが容易に設定されることになる。
【0051】
また、ユニット式建物20の全体重量Wは、小口径杭4A,4B,4Cが負担する鉛直荷重WA,WB,WCと、ベタ基礎3を介して原地盤Gが負担する分布荷重wと、に分かれて負担されることとなる。ここで、コンピュータ内でユニット式建物20の上部構造を適宜にモデル化し(当然に上部構造の重量もコンピュータ内で設定される)、さらに、この上部構造モデルに、図3で示すような地盤ばねのばねモデル、杭ばねのばねモデル(小口径杭をモデル化した杭ばねkt、および、原地盤をモデル化した地盤ばねksの大きさに応じたばね)を取付け、コンピュータ内で自動的に各ばねが負担する重量が算定されてもよい。なお、図3では、ベタ基礎等の線形梁モデルに、この杭ばねktと地盤ばねksが取り付けられてなる、複合地盤のモデルが示されている。ここで、杭ばねktは、杭とその周面の地盤との周面摩擦ばねkpf、杭先端地盤の杭先端ばねkps、圧縮力が作用した際の杭本体の弾性変形に基づく杭本体ばねkpから設定されるものである。
【0052】
次に、図4の設計フロー図を参照して本発明の複合地盤の設計方法を概説する。なお、ここでは、各ステップを概説するものとし、各ステップの詳細は、別途、以下で説明する。
【0053】
まず、SWS試験結果、設定された小口径鋼管杭の諸特性(断面剛性、杭長など)に基づき、小口径鋼管杭が設置された後の原地盤の許容支持力、小口径杭の許容支持力、小口径鋼管杭が設置された後の原地盤の許容沈下量のそれぞれを、たとえば、小規模建築物基礎設計指針(日本建築学会、2008年)に準拠して設定する(ステップS1)。なお、この段階では、杭先端を支持する支持層となる硬質地盤G3の層分布に応じて、各小口径杭4A,4B,4Cの杭長が相違するものとし、このように、支持地盤の位置に応じて杭長を変化させることで、全ての杭が建物重量を支持した際の各杭の沈下量の均一化を図り、もって、不同沈下を抑止することができる。
【0054】
各許容値(設計基準値)が設定されたら、原地盤の地盤ばねと小口径杭の杭ばねを、同様に小規模建築物基礎設計指針に準拠して設定し、次に、双方のばねに基づいて、一つは小口径杭と原地盤双方の荷重分担率を設定し、他の一つは双方のばねに基づいて複合ばねを設定する(ステップS2)。ここで、杭ばねは、杭とその周面の地盤との周面摩擦ばね、杭先端地盤の杭先端ばね、圧縮力が作用した際の杭本体の弾性変形に基づく杭本体ばね、の3つのばね要素が合成されたものである。
【0055】
次いで、ユニット式建物の按分重量と荷重分担率とから、原地盤と小口径杭の負担重量を算出するとともに、原地盤の沈下量を算出する(ステップS3)。この按分重量は、図1で示す各分割エリアごとで予め分かっている重量であり、設定された地盤ばね、杭ばね双方の大きさに応じた荷重分担率から、双方のばねが負担する荷重が一義的に求められる。なお、上記するように、コンピュータ内でユニット式建物の上部構造を適宜にモデル化し、この上部構造モデルに、地盤ばねのばねモデル、杭ばねのばねモデルを取付け、コンピュータ内で自動的に各ばねが負担する重量を算定する方法であってもよい。
【0056】
算出された原地盤および小口径杭の負担重量とそれぞれの許容支持力を比較し、さらには、原地盤の沈下量と許容沈下量を比較する。比較の結果、各負担重量が許容支持力に収まっており、原地盤の沈下量が許容沈下量に収まっていれば、所期設定の小口径杭の仕様、原地盤からなる複合地盤を合格とする。なお、安全率に余裕がある場合には、小口径杭の仕様をランクダウンさせ、再設計をおこないながら最適な複合地盤を照査するのがよい。
【0057】
一方、比較の結果、いずれか一方の負担重量が許容支持力に収まらず、もしくは、原地盤の沈下量が許容沈下量に収まらない場合には、たとえば小口径杭の杭仕様をランクアップ等し、すべての許容値を満足するまで再度の繰り返し設計が実施される。
【0058】
次に、本発明者等による試験結果を使用しながら、小口径杭の許容支持力の設定方法、原地盤の許容支持力の設定方法、地盤ばねおよび杭ばねの設定方法の順に詳述する。
[小口径杭の許容支持力の設定方法]
複合地盤を構成する小口径の鋼管杭は、床梁等と結合されることなく、したがって、鉛直荷重のみを負担するものとして支持性能を評価する。そのため、床梁等の設計においては、当該杭から作用する力を考慮する必要がないものである。なお、以下の諸式は、小規模建築物基礎設計指針(日本建築学会、2008年)に準拠している。
【0059】
(長期許容支持力)
鋼管杭の長期許容支持力Raは次式にて表される。なお、短期許容支持力は長期許容鉛直支持力の2倍とする。
Ra=1/3・Ru(kN)
Ra:鋼管杭の長期許容鉛直支持力(kN)
Ru:鋼管杭の極限鉛直支持力(kN)
【0060】
鋼管杭の長期許容支持力Raは杭周面及び先端部の地盤による長期許容鉛直支持力Ra1と、杭体の許容圧縮力Ra2のうち、小さい値とする。
【0061】
(長期許容鉛直支持力)
Ra1=1/3・(Rp+Rf) (kN)
Ra1:鋼管杭の長期許容鉛直支持力(kN)
Rp:鋼管杭先端部における極限先端支持力(kN)
Rf:鋼管杭周面の地盤による極限摩擦力(kN)
なお、短期許容支持力は長期許容支持力の2倍とする。
なお、先端支持力及び極限支持力の評価方法については後述する。
【0062】
(長期許容圧縮力)
Ra2=1/3・Fc・Ap (1−α1) (kN)
Ra2:鋼管杭の長期許容圧縮力(kN)
Fc:設計基準強度
0.01<te/r<0.08の場合 Fc=F(0.8+2.5×te/r)
te/r≧0.08の場合 Fc=F
F:基準強度 STK400の場合は235(N/mm2)、STK490の場合は325(N/mm2)
te:腐食しろ(外面1mm)を除いた杭の肉厚(m)
r:杭の有効半径(m)
Ap:鋼管杭の有効断面積(m2)
α1:細長比による低減率 L/D>100の場合、α1=(L/D−100)/100
L:杭長(m) D:杭の有効径(m)
なお、短期許容圧縮力は長期許容圧縮力の1.5倍とする。
【0063】
(先端支持力の評価範囲について)
先端部分の対象範囲については、一般工法の杭の場合は小規模建築物基礎設計指針(日本建築学会)で、砂質土の評価におけるN値の対象範囲を杭先端から「下に1D、上に1Dの範囲」(D:杭径)の平均値としている。他の工法や文献ではさらに大きく範囲をとるものもある。
【0064】
ここで、杭先端付近のSWS試験で得た貫入抵抗値が急激に変化している場合、狭い範囲でみると極端に大きな値を採用する可能性もある。
【0065】
図5は、各試験地ごとに実際の評価に採用するSWS試験から換算した先端部分の平均N値と、標準貫入試験によるN値を、先端範囲ごと比較したものである。このように範囲を小さくみるとSWS試験の方が大きく評価する可能性があり、一方で標準貫入試験のサンプリングの1m単位の粗さを考えると、概ね5D程度で評価するのが適切である。
【0066】
(極限先端支持力)
対象とする鋼管杭では、摩擦による支持性能も期待するため、必要な支持性能を得られる限りは鋼管杭の先端部は必ずしも硬質な支持層まで到達させない。そのため、基本的にはN値によって評価するものとし、支持層に至らないレベルの比較的軟質な粘性土については粘着力により評価することが適切である。図6に、鋼管杭先端部の下部地盤が砂質土または硬質な粘性土の場合の実験における先端平均換算N値と、実験での極限先端支持力度qpを比較したものを示す。
【0067】
図6の勾配、いわゆる先端支持力係数は、α=200とすることで適切に評価できる。但し、換算N値が20を超える範囲については本実験では充分に裏づけられていないため、上限をN=20とする。なお、硬質な粘性土とは、支持層としても十分と判断できるN>15とする。
【0068】
次に鋼管杭先端部の下部地盤が粘性土の場合の実験における、先端下部の粘着力cと、実験での極限先端支持力度qpを比較したものを図7に示す。
【0069】
以上より、先端支持力度の算出に用いる粘着力cに係る係数は、小規模建築物基礎設計指針(社団法人日本建築学会)に示されている係数6で設定することができる。
【0070】
また、極限先端支持力は、鋼管杭先端部の下部地盤の土質に応じて次式により適切に評価できる。
【0071】
(砂質土の場合)
Rp=qp×Ap=α×N0×Ap(kN)
qp:極限先端支持力度(kN/m2)
Ap:鋼管杭の先端断面積(m2)
α:先端支持力係数,本工法ではα=170(但し、N=18を上限)で評価する。
N0:鋼管杭先端部から下に1D、上に5D(D:鋼管杭径)の範囲における
換算N値の平均値で、各層の換算N値はSWS試験により得られたWSW、NSWより次式によって算定する。
N=2.0WSW+0.067NSW (砂質土)
N=3.0WSW+0.050NSW (粘性土、算定範囲に介在する場合)
WSW:SWS試験の荷重(kN)
NSW:SWS試験の半回転数(回/m)
【0072】
(粘性土の場合)
本発明者等の知見に基づき、粘性土の場合は、その硬軟に応じて以下のように算定式を変化させるのが好ましい。なお、このように粘性土の硬軟に応じて算定式を変化させる設計方法は、従来の設計手法にはないものである。
【0073】
(硬質な粘性土(N0>15)の場合)
Rp=qp×Ap=α×N0×Ap(kN)
qp:極限先端支持力度(kN/m2)
Ap:鋼管杭の先端断面積(m2)
α:先端支持力係数,本工法ではα=200(但し、N=20を上限)で評価。
N0:鋼管杭先端部から下に1D、上に5D(D:鋼管杭径)の範囲における換算N値の平均値で、各層の換算N値はSWS試験により得られたWSW、NSWより次式によって算定。
N=3.0WSW+0.050NSW (粘性土)
N=2.0WSW+0.067NSW (砂質土、算定範囲に介在する場合)
なお、従来の方法によって図10に示す結果から下式で算出することも可能である。
Rp=6×c×Ap(kN)
c:鋼管杭先端部から下に1D、上に5D(D:鋼管杭径)の範囲における換算粘着力の平均値で、各層の換算N値はSWS試験により得られたWSW、NSWより次式によって算定。
c=1/2(45WSW+0.75NSW) (kN/m2)
【0074】
(その他の粘性土の場合)
Rp=6×c×Ap(kN)
c:鋼管杭先端部から下に1D、上に5D(D:鋼管杭径)の範囲における粘着力(kN/m2)の平均値で、各層の粘着力はSWS試験により得られたWSW、NSWより、次式によって算定する。
c=1/2(45WSW+0.75NSW) (kN/m2)
極限先端支持力の計算値と実験値をまとめたものを図8に示す。
図8より、極限先端支持力の値は安全側に評価できると判断される。
【0075】
(極限摩擦力)
実験結果より鋼管杭周面地盤の平均換算N値と、実験での極限周面摩擦力度τdを比較したものを図9に示す。
【0076】
図9より、換算N値からの極限周面摩擦力度の評価としては、小規模建築物基礎設計指針(日本建築学会)では、砂質土の場合で τd=10/3・N(≒3.3N)とあり、またその他文献などで粘性土が大きい値となるデータ等も挙げられているが、本工法では実験の結果より、粘性土の場合でτd=3.0N 、砂質土の場合はτd=2.0N で評価することが妥当であるとした。
【0077】
極限摩擦力は以下により算定できる。
Rf=D×Σ(τd×Li)×π (kN)
Rf:杭状地盤補強周面の地盤による極限摩擦力(kN)
D:杭状地盤補強径(m)
τd:各層の極限周面摩擦力度(kN/m2)
各層の換算N値により粘性土の場合はτd=3.0N 、砂質土の場合はτd=2.0N
で、換算N値はSWS試験により得られたWSW、NSW
より次式によって算定する。
N=3.0WSW+0.050NSW (粘性土)
N=2.0WSW+0.067NSW(砂質土)
WSW:SWS試験の荷重(kN)
NSW:SWS試験の半回転数(回/m)
Li:各層の層厚(m)
【0078】
なお、極限摩擦力の計算値と実験値をまとめたものを図11に示す。
図11より、算定された極限摩擦力の値は実験値と照らして妥当であると判断される。
【0079】
[原地盤の許容支持力の設定方法]
地盤の長期許容支持力度は、小規模建築物基礎設計指針(日本建築学会)より下式で設定する。なお、通常の設計においては基礎底面より2mまでの平均値、各測点の最低値を採用する。また、短期許容支持力度は長期許容鉛直支持力度の2倍とする。
qa=30WSW+0.64NSW(kN/m2)
qa:地盤の長期許容支持力度(kN/m2) 短期は長期の2倍とする。
WSW:SWS試験の荷重(kN)
NSW:SWS試験の半回転数(回/m)
【0080】
[地盤ばねおよび杭ばねの設定方法]
(地盤ばね)
地盤を一様な半無限弾性体と仮定したときの地盤ばねを下式で設定する。
ks=p/SE(kN/m)
ks:地盤ばね(kN/m)
p:地表面に作用する荷重(kN)
SE:地表面の沈下量(m)
ここで地表面の沈下量SEは下式で計算できる。
SE=Is{(1−νs2)/Es}q×B(m)
Is:沈下係数 (基礎の形状で決まる係数で、建築基礎構造設計指針(日本建築学会)による。)
νs:地盤のポアソン比 土質に応じて適切に設定するが、軟弱な粘性度の場合や、明確に土質判断できない場合は、沈下算定においてはνs=0、地盤の荷重分担を算定する場合はνs=0.50とするなど適切に設定する。
q:基礎に作用する荷重度(kN/m2)
B:基礎の底面の幅(m)
Es:地盤の弾性係数(kN/m2)
【0081】
ここでは上式により算定した各層の地盤の弾性係数Esiの基礎底面より2m以内の平均値Es0とする。
Esi=5000WSW+85NSW(kN/m2)
WSW:SWS試験の荷重(kN)
NSW:SWS試験の半回転数(回/m)
【0082】
基礎に作用する荷重度qは、住宅ユニットに対応する基礎の一部を取り出した平面形状がB×Lの基礎の場合、
q=p/(B×L) (kN/m2)(但し、基礎の長辺側をL、短辺側をBとする。)
これを上式に代入すると、
SE=Is{(1−νs2)/(Es×L)}p(m)となり、
ks=(Es×L)/{Is(1−νs2)}(kN/m)
実験結果と比較して、上式による評価の妥当性を図12で示す。
【0083】
図12より、何れも実験による地盤ばねksの値が計算値を上回っており、沈下量の算定(不同沈下の検討)に関しては設定した計算式で安全に評価できる。また、計算値と実験値に関し、図13に荷重度と沈下量の関係を示す。設計上の短期の荷重度に対しても、本評価方法で十分安全側に評価できる。
【0084】
(杭ばね)
(周面摩擦ばね)
地盤摩擦ばねについては、一般に図14のように最大周面摩擦力度Rfに達したあと一定となる特性と考えられ、極限時の周面摩擦ばねは、
kpf=Rf/(D/10) (kN/m)
に一定の係数を乗じることで、長期、短期のばねを設定できる。なお、D:杭径 沈下量D/10を極限と見做す。
実験での極限時の周面摩擦ばねに対する、長期及び短期相当の周面摩擦ばねは図15のようになる。
【0085】
地盤の沈下の評価においては、極限時に対する乗率として、長期、短期ともに1とする。すなわち、
kpfL=1×Rf/(D/10) (kN/m)
kpfS=1×Rf/(D/10) (kN/m)
この条件での計算値と実験値について、図16に、摩擦力と沈下量の関係を示す。
【0086】
(杭先端ばね)
杭先端ばねは既述する地盤ばねと同様に、形状を杭断面と見做した次式を基本とする。
kps=Esp0×D×π/{4Is(1−νs2)}(kN/m)
なお、前記式の沈下係数は Is=1.00とする。
【0087】
ポアソン比 νsは土質に応じて適切に設定するが、軟弱な粘性度の場合や、明確に土質判断できない場合は、沈下算定においてはνs=0、地盤の荷重分担を算定する場合はνs=0。50とするなど適切に設定する。
なお、長期および短期の杭先端ばねも適宜の係数にて設定することもできる。
【0088】
地盤摩擦ばねと異なり、鋼管杭先端ばねの挙動は必ずしもバイリニア的な安定した挙動とはならない。しかしながら、実験での極限時の鋼管杭先端ばねに対する長期、短期相当の杭先端ばねは図17のようになることから、長期、短期とも本式により判断すればよいと言える。
この条件での計算値と実験値について、図18に、杭先端の軸力と沈下量の関係を示す。
【0089】
(杭体ばね)
杭体ばねは、基本的には鋼管への圧縮力による歪みによるものである。しかしながら、鋼管への圧縮力は杭頭から深部になるにつれて、反力となる摩擦力により軽減されるため歪が小さくなると考えられる(図19a参照)。
【0090】
しかし箇所ごとの摩擦力を考慮して層ごとの鋼管の歪みを計算することは実用的でないことから、最終的には杭頭部分のばねの値でばらつきを考慮した設計を行うこともあり、ここでは簡便に杭全体にかかる荷重に対する歪みとして評価する(図19b参照)。
ε=N/(EA)より、杭長L(m)の場合の杭体ばねkp(kN/m)は、下式により算出する。
kp=EA/L(kN/m)
E:鋼管の材料のヤング係数(kN/m2)
例えば E=205940(N/mm2)=20594×104(kN/m2)
A:杭の断面積(m2)
L:杭長(m)
なお、地盤の長期、短期において杭体は弾性範囲内として同式で評価する。
【0091】
(杭体ばねのばらつきについて)
杭頭部分の杭体ばねktは、杭先端ばねkps、周面摩擦ばねkpf、からなる「鋼管杭ばね」と杭体ばねkpの合成(直列)と考えることができる。
kt={(kpf+kps)×kp}/{(kpf+kps)+kp}
【0092】
ここで、長期荷重時(極限鉛直支持力の1/3)の鋼管杭頭ばねの計算値と実験値をまとめたものを図20に示す。なお、杭体ばねは、上記計算式にて設定することのほかに、杭体を直接載荷実験することで設定することもできる。
【0093】
なお、ここまでの考え方は沈下量の評価を前提として全体的に安全側の設定をしているが、杭頭荷重度から杭の設計軸力を設定する場合は杭側に大きい荷重がかかる(ばね値を大きくする)ように考え、鋼管杭ばねに係数4.0を乗じて適用する。
【0094】
(複合ばね)
上記で算定した地盤ばねks、杭体ばねkt、より、複合地盤とした場合のばねkc(kN/m)を算出する。基本的に、複合ばね(複合地盤ばね)は、各ばねの和となり、
kc=ks+kt
但し、ks={Es(L+t)}/{Is(1−νs2)}(kN/m)、kt={(kpf+kps)×kp}/{(kpf+kps)+kp}(kN/m)となるが、上部構造の荷重点が杭頭に近接していることや基礎の剛性、また杭体も含めたばらつきによって、地盤ばねの影響度が小さくなると考えられる。ここでは実験結果より一意に沈下量について安全側で評価する方法を検討する。
【0095】
複合地盤ばねの実験値と計算値を比較した図21より、一意に安全側で評価する場合は、例えば下式のように地盤ばねを80%で設定することができる。
kc=0.8×ks+kt
なお、設計においては、地盤ばね、杭ばね、および基礎の各部を適切にモデル化して、複合ばねを設定することもできる。
【0096】
(小口径杭の荷重分担率)
地盤ばねと鋼管杭ばねの比によって杭の荷重分担率を設定する。
【0097】
(杭の設計における杭の荷重分担率)
杭の荷重分担率は、実験により、たとえば杭体ばねにおける倍率25で設定することができる。
杭の荷重分担率=(25×kt)/(ks+25×kt)
図22に、杭の荷重分担率に関する計算値と実験値の結果を示している。
【0098】
なお、杭の荷重分担率は実験結果より長期と短期において差異が無いと考えられるため、同一の式で荷重分担を規定できると考えられる。
【0099】
なお、設計においては地盤ばね、杭体ばね及および基礎の各部を適切にモデル化することもできる。ここで、杭頭荷重度は基本的に杭と地盤のばねの比率によるが、基礎と地盤の影響で基礎の荷重度を減ずる必要がある。図23に基礎の解析モデルを示している。
【0100】
同図のように、ユニットのサイズ、適用個所ごとに、予め地盤条件を変えて解析することにより、荷重の分担を精度よく得ることが可能となる。
【0101】
さらに、図24で示すように、例えば基礎下の地盤ばね(杭と地盤の両方を考慮した全体)に対して杭がどの程度のばねを有するかによって、そのばねを減ずる割合を規定することもできる。なお、本発明者等による、杭単体と地盤(基礎のみ)のばね定数、杭頭分担率の実験値と解析値の比較結果の一例を、以下の表1に示す。
【表1】
【0102】
以上より、実験結果に基づいて、もしくは解析にて杭体ばねを割り増すことで杭頭荷重度について適切に評価できる。
【0103】
(接地圧の検討における地盤の荷重分担率)
杭の荷重分担率に対応して、地盤の荷重分担率としては杭体ばねを最小側で設定する。
地盤の荷重分担率=1−kt/(ks+kt)
図25に、地盤の荷重分担率に関する計算値と実験値の結果を示している。
【0104】
以上より、実験結果に基づいて地盤の荷重度について適切に評価できる。なお、設計においては地盤ばね、杭ばねおよび基礎の各部を適切にモデル化して、地盤の荷重度を算定することもできる。
【0105】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0106】
1…柱、2…天井梁、3…ベタ基礎、4,4A,4B,4C…小口径杭、10…ユニット、20…ユニット式建物、30…複合地盤、G…原地盤
【技術分野】
【0001】
本発明は、比較的小規模な戸建て住宅を支持する、原地盤と、該原地盤内に設置された小口径杭と、からなる複合地盤の設計方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
比較的小規模な戸建て住宅、たとえば、戸建てのユニット式建物は、大規模な高層、超高層マンションやビル等に比して、その支持地盤の地耐力は極めて小さいものであり、したがって大規模な地盤改良や基礎構造の必要性がないのが一般的である。なお、ここでいう「地耐力」とは、ユニット式建物の重量、すなわち鉛直荷重を支持する基礎地盤の鉛直支持力と、この鉛直荷重によって地盤が沈下する沈下量と、の双方を意味するものであり、建物重量が基礎地盤の許容支持力以内に収まり、かつ、沈下量(不同沈下を含む)が許容沈下量以内に収まっていることをもって、基礎地盤が建設対象の建物重量を支持し得る地耐力を有していると言うことができる。
【0003】
上記するように、これまでは大規模構造物に比して基礎地盤の地耐力や基礎構造の重要性が大きくなかった小規模なユニット式建物においても、昨今は基礎地盤の沈下等の欠陥住宅の問題がクローズアップされてきていることや、基礎地盤の強度を合理的に評価することで住宅コストの低減を図り、もってユニット式建物等の戸建て住宅の需要増を喚起しようとする産業界の動向など、を背景として、戸建て住宅を支持する基礎地盤に関する新規な設計手法の発案や設計手法の改善が、住宅メーカ各社で盛んとなっている。
【0004】
たとえば、従来の戸建て住宅を支持する基礎地盤構造に関して言えば、強固な地盤は布基礎やベタ基礎を地盤上に直接構築する形態が採用されており、比較的軟弱な地盤(自沈層を有する地盤、圧密等の沈下が懸念される粘性土地盤、液状化が懸念される緩い砂質土地盤など)では、杭基礎や、表層の数メートルのみセメント改良する表層改良地盤、さらには、杭基礎と表層改良を併用した基礎地盤形態が採用されている。
【0005】
そして、杭基礎を採用する際の設計手法は、建物重量のすべてを、たとえば支持層にその先端が埋設された杭で支持するものとし、この鉛直荷重に対して、杭本体の安全性(杭本体の圧縮耐力等)を照査し、杭先端地盤の支持力(先端支持力)を照査している(場合によっては、杭周面と地盤との周面摩擦力を杭先端支持力に加えて、杭の許容支持力としている)。
【0006】
すなわち、杭基礎の場合には、建物のベタ基礎直下、もしくは布基礎直下で杭周囲の原地盤の鉛直支持力を何等考慮していないのである。
【0007】
実際に、たとえば地下水位の低下等で原地盤が圧密沈下等した場合には杭のみで建物を支持することになるという現実や、杭のほかに地盤を考慮するとした場合でも、実際に建物の柱下に設置される杭が建物重量のほとんどを負担するという構造力学上の現実、等を勘案すれば、杭のみで建物重量を支持する設計手法が安全側の設計であることに何等疑いの余地はない。
【0008】
しかし、上記するように、基礎地盤の強度を合理的に評価すること、これによって安全性を担保しながら住宅コストをより低減しようとした場合には、杭と原地盤との双方を勘案した基礎地盤の設計手法の適用が望ましい。
【0009】
そして、戸建て住宅の中でも、既にその寸法や形状が数種類の規格のユニットで設定されていて、これらのユニットを平面的、縦断的に所定基数組み付けることで建物の全体寸法および全体形状が容易に設定できるユニット式建物の場合には特に、ユニット内での平面エリアごとの重量が容易に割り出されることから、仮に、建物重量を杭と原地盤の双方で負担するとした場合でも、他の構造形式の戸建て住宅に比して、建物重量の杭および原地盤への荷重分担の算定は比較的容易となる。
【0010】
なお、従来の戸建て住宅の基礎構造に関する公開技術として、以下の2つの技術を挙げることができる。その一つは、軟弱地盤上に建物を建造するに際して、建物本体の下部に敷設されるコンクリート基礎を含む建物全体の重心位置の直下の地盤内部に、上端をコンクリート基礎に接合する基礎杭を打ち込み、この基礎杭によって建物の重心を支持させるようにした基礎構造である(特許文献1参照)。また、他の一つは、鋼管杭の杭先端が支持層に到達したことを確認してから杭先端近傍の地盤を緩めておき、その後に上部構造の荷重が加わることで、緩めた分だけ鋼管杭が沈下して杭先端の支持力が発揮されるとともに、鋼管杭に伴って沈下する耐圧版底面にも地反力が作用して支持力が得られるようにした基礎構造である(特許文献2参照)。
【0011】
しかし、特許文献1に開示の技術は、杭のみで建物重量を支持しようとする従来の設計方法の域を超えるものではないし、特許文献2に開示の技術は、建物重量が載荷された際に杭先端の支持力を発揮させようとする技術であることから、建物の建設地点ごとに地盤性状が異なる現実を勘案すれば、極めて汎用性に乏しく、しかも、構造安全性、信頼性に乏しい技術と言わざるを得ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008−223267号公報
【特許文献2】特開2007−113270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、戸建のユニット式建物を支持する基礎地盤であって、杭と原地盤との双方で建物重量を支持させる基礎地盤の設計方法に関し、汎用性があり、設計信頼性および該設計にて形成される基礎構造の信頼性が高く、しかも、合理的な基礎地盤の設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的を達成すべく、本発明による複合地盤の設計方法は、戸建て住宅を支持するための、原地盤と、原地盤内に設置された小口径杭と、からなる、複合地盤の設計方法であって、小口径杭が設置された後の原地盤の許容支持力、小口径杭の許容支持力、および、小口径杭が設置された後の原地盤の許容沈下量、のそれぞれを設定する第1のステップ、前記原地盤の地盤ばね、および、小口径杭の杭ばねを設定し、地盤ばねと杭ばね双方の大きさに応じて該原地盤と該小口径杭双方の荷重分担率を設定する第2のステップ、戸建て住宅の重量が複数の分割エリアごとに按分されており、按分重量と前記荷重分担率とから、前記原地盤の負担重量と前記小口径杭の負担重量を算出し、かつ、該原地盤の沈下量を算出する第3のステップ、前記原地盤および前記小口径杭それぞれの前記負担重量とそれぞれの前記許容支持力を比較し、該負担重量が該許容支持力以下となること、および、該原地盤の前記沈下量と前記許容沈下量を比較し、該原地盤の該沈下量が該許容沈下量以下となること、の双方を確認する第4のステップ、からなるものである。
【0015】
本発明でいう「複合地盤」とは、原地盤と、この原地盤内に打設、圧入、もしくは埋設等される小口径杭と、の双方からなる、建物重量を支持する基礎地盤のことである。また、小口径杭とは、一般に鋼管杭のことであり、その先端が拡径した杭、その先端に翼を有する杭、などの全般を含むものであり、さらには、戸建て住宅用の杭であることから、口径が100〜200mm、特に、100〜150mm程度の規模の杭を意味している。なお、この小口径杭は一般に、従来の杭基礎のように、その上部がベタ基礎や布基礎内に埋め込まれるものではなく、その上端でベタ基礎等を直接的に支持するものであるが、従来の杭基礎構造を排除するものではない。また、ここでいう「原地盤の許容沈下量」とは、地盤が小口径杭にて補強された、改良後の複合地盤を構成する原地盤の許容沈下量を指称するものでる。
【0016】
また、従来公知の群杭基礎のように、杭を密に打設することで杭間の原地盤の締め固めを期待するというものではなく、たとえば戸建て住宅の柱下に1本の小口径杭が配されることからしても、原地盤に固有の強度をそのまま評価するものである。
【0017】
さらに、本発明の設計方法は、戸建て住宅の中でも、ユニット式建物を支持する基礎地盤の設計に好適である。これは、直方体もしくは立方体の六面体からなるユニット式建物の場合、既述するように既にその寸法や形状が数種類の規格のユニットで設定されていて、これらのユニットを平面的、縦断的に所定基数組み付けることで建物の全体寸法および全体形状が容易に設定でき、したがって、複合地盤を構成する杭と原地盤のそれぞれが負担する建物重量の算定が比較的容易であるために、より汎用性があり、かつ、明りょうで迅速な設計に適しているためである。すなわち、ユニット式建物のエリアごとの按分重量が既に分かっていることから、以下で説明する、原地盤および小口径杭双方の荷重分担率を求めることで、原地盤および小口径杭双方の負担荷重が算定でき、双方の負担荷重を、原地盤、小口径杭双方の許容支持力(もしくは設計基準値)と比較し、許容支持力以内にあるか否かが確認され、許容支持力以内であれば当初設定の複合地盤の仕様(原地盤固有の強度、小口径杭の仕様や長さ等)でよいと判定でき、許容支持力を超える場合は複合地盤の仕様を変更して、再設計をおこなうことになる。
【0018】
まず、複合地盤を構成する原地盤の許容支持力、小口径杭の許容支持力、および、複合地盤を構成する原地盤の許容沈下量を設定する必要があり、これらの設定に際しては、特に、小規模建築物基礎設計指針(日本建築学会、2008年)に記載される各種算定式、各種の許容値を適宜参照するのがよい。なお、原地盤の許容沈下量には、建物の床直下の原地盤の許容沈下量や、杭先端以深の原地盤の許容沈下量のいずれか一方もしくは双方の許容沈下量のことであり、特に建物の不同沈下を問題とする場合には、その相対沈下量(建物構造に影響を与え得る相対変形角)なども含む意味である。なお、本発明による、「複合地盤の設計方法」が当該小規模建築物基礎設計指針中に記載がないこと、および、従来の戸建て住宅用の地盤基礎の設計方法には存在していない技術思想、設計思想であることは言うまでもないことである。
【0019】
なお、本発明者等は独自に、日本全国の原地盤の標準貫入試験結果、簡易な地盤調査方法であるスウェーデン式サウンディング試験結果(以下、「SWS試験」という)を得ている。一般に戸建て住宅の基礎設計に際しては、このSWS試験が実施され、この試験結果に基づいて地盤の諸特性が評価されるが、本発明の設計方法の形成に際しては、これらの結果を適宜使用しながら、当該設計方法の信頼性、妥当性が担保されている。
【0020】
まず、第1のステップにて、小口径杭が設置された後の原地盤の許容支持力、小口径杭の許容支持力、および、小口径杭が設置された後の原地盤の許容沈下量を設定したら、今度は、第2のステップとして、原地盤を地盤ばねとして評価した際の地盤ばね、小口径杭を杭ばねとして評価した際の杭ばねの双方を設定する。
【0021】
地盤ばねと杭ばねは、原地盤と小口径杭双方の荷重分担率を設定すること、および、原地盤の沈下量を算定すること、の双方に使用されるものである。
【0022】
ここで、地盤ばねの設定方法は、既述する、小規模建築物基礎設計指針で示される設定方法に準拠して設定するのがよい。
【0023】
また、杭ばねの設定方法の一実施の形態として、杭とその周面の地盤との周面摩擦ばね、および、杭先端地盤の杭先端ばね、および、圧縮力が作用した際の杭本体の弾性変形に基づく杭本体ばね、から設定する方法がある。
【0024】
この周面摩擦ばねは、長期設計、すなわち、通常一般時で建物重量のみを支持している状態の設計と、短期設計、すなわち、地震時等の設計と、で当該周面摩擦ばねを相違させるのが経済性、合理性、安全性の観点から好ましいとの知見を本発明者等は得ている。尤も、長期設計と短期設計で同一の周面摩擦ばねを使用してもよいことは勿論のことである。
【0025】
そこで、長期設計時で周面摩擦ばねは、小口径杭が所定量だけ沈下した際の最大周面摩擦力で規定される値に1未満の所定の係数を乗じて算定するものとし、短期設計時の周面摩擦ばねは、長期設計時の周面摩擦ばねの2倍に設定する、という設定方法を適用することができる。
【0026】
たとえば、小口径杭の杭径の1/10の沈下量の際の摩擦力を最大周面摩擦力(極限摩擦力)と設定し、周面摩擦ばねは、極限摩擦力の1/3の値、2/3の値の荷重時の沈下量から設定することができる。
【0027】
また、周面摩擦ばねを、上記する荷重分担率を求める場合と、沈下量を求める場合とで変化させる方法を適用してもよい。
【0028】
すなわち、杭ばねを構成する前記周面摩擦ばねのうち、原地盤の沈下量を算出する長期設計時の周面摩擦ばねは、小口径杭が所定量だけ沈下した際の最大周面摩擦力で規定される値に1以上の所定の係数を乗じて算定するものとし、原地盤の沈下量を算出する短期設計時の周面摩擦ばねは、長期設計時の周面摩擦ばねの1/2倍に設定することができる。なお、本発明者等によれば、実験において、クリープに起因して短期のばねが低下する結果が得られているものの、実際の地盤では、短期の許容支持力が長期に比して大きくなることから、短期の周面摩擦ばねが長期のそれよりも大きくなることもあり得る。
【0029】
本発明者等の知見によれば、地盤の沈下の評価において安全側の設計をおこなうためには、長期設計時の周面摩擦ばねは極限周面摩擦力を所定の沈下量(たとえば小口径杭の杭径の1/10の沈下量)で除した値の10倍とし、短期設計時の周面摩擦ばねは5倍とすることで、実験値との整合がとれることが特定されている。但し、クリープに起因して短期のばねが低下する結果が得られていることから、設計としては長期、短期とも1倍とすることも可能である。なお、既述するように、長期設計時と短期設計時、双方の周面摩擦ばねを同一の値に設定してもよい。
【0030】
原地盤の地盤ばねと、小口径杭の杭ばねを設定したら、地盤ばねと杭ばね双方の大きさに応じて原地盤と小口径杭双方の荷重分担率が自ずと設定される。
【0031】
また、この第2のステップにおいて、地盤ばねと杭ばねとを複合した複合ばねがさらに設定されるのが好ましい。
【0032】
この複合ばねは、地盤ばねと、杭ばねと、の和から算定されるものであってもよいし、既に設定されている地盤ばねに1未満の所定の係数が乗じられた補正後の地盤ばねと、杭ばねと、の和から算定されるものであってもよい。
【0033】
特に後者の複合ばねの算定方法は、構造力学上の実際の荷重の流れ、すなわち、原地盤に対して杭に荷重が伝達され易いという実現象をより精緻に設計に反映させるべく、原地盤のばねを所望に低減し、もって、相対的に杭ばねの値を大きくするものである。
【0034】
なお、地盤ばねに乗じられる1未満の所定の係数とは、たとえば0.3,0.4、0.8といった任意の値が一義的に設定されるものであってもよいし、実際に、ユニット式建物の上部構造と、複合地盤(原地盤および小口径杭)と、の双方をコンピュータ内でモデル化し、地盤ばねに乗じられる係数、もしくは、地盤ばね自体を設定するものであってもよい。
【0035】
そして、既述するように、戸建て住宅がユニット式建物の場合には、その重量は既に(予め)設定されており、その平面視形状における複数の分割エリアごとの重量、すなわち按分重量も既に設定されていることから、按分重量と前記荷重分担率とから、各分割エリアにおける原地盤の負担重量と小口径杭の負担重量が算出され、かつ、原地盤の沈下量も算出される(第3のステップ)。なお、コンピュータ内で戸建て住宅(たとえばユニット式建物)の上部構造を適宜にモデル化し(当然に上部構造の重量もコンピュータ内で設定される)、さらに、この上部構造モデルに上記する地盤ばねのばねモデル、杭ばねのばねモデルを取付け、各ばねが負担する按分重量を当該コンピュータ内で自動的に割り出す方法であってもよい。
【0036】
第3のステップで原地盤の負担重量と小口径杭の負担重量が算出され、原地盤の沈下量が算定されたら、最後に第4のステップで、原地盤および小口径杭それぞれの負担重量とそれぞれの許容支持力を比較し、負担重量が許容支持力以下となること、および、原地盤の沈下量が許容沈下量以下となること、の双方が確認される。
【0037】
それぞれの負担重量がそれぞれの許容支持力以内であり、かつ、原地盤の沈下量が許容沈下量以内であれば、当初設定の複合地盤の仕様(原地盤固有の強度、小口径杭の仕様や長さ等)でよいと判定され、この時点で設計は終了する。
【0038】
なお、当初設定される杭の仕様、すなわち、小口径杭の杭径や杭長等は、設置される場所の地盤特性(土層の硬軟、支持層となる硬質地盤のレベルなど)に応じて所望に変化させてもよく、小規模な戸建てのユニット式建物を対象としていることから、このように場所ごとに杭の仕様を変化させて設計するのが合理的である。そして、場所ごとに杭の仕様や杭長を変化させることにより、全ての杭の沈下量の均一化を図ることが可能となり、このような設計をおこなうことで、上記する建物の不同沈下を抑止することが可能となる。
【0039】
なお、第4のステップで安全性が確認された複合地盤であっても、その安全率に余裕がある場合は、杭の径をより小口径としたり、杭長をより短くする等の構造の見直しをおこない、再度の安全性の照査を実施することで、可及的に安価で、安全性に優れた、最適な複合地盤を設計することが可能となる。
【0040】
なお、第4のステップで、許容支持力を超えると判定された場合には、複合地盤の仕様を変更して再度の設計をおこない、安全性が保証される仕様を求めることとなるのは言うまでもない。
【0041】
上記する本発明の複合地盤の設計方法によれば、簡易なSWS試験結果に基づいて杭ばねと地盤ばねを所望に設定し、それらの荷重分担率、および、双方のばねからなる複合地盤の複合ばねを所望に設定することができ、合理的かつ経済的で、安全性の高い、ユニット式建物を支持する複合地盤の最適設計を実現することができる。
【発明の効果】
【0042】
以上の説明から理解できるように、本発明の複合地盤の設計方法によれば、小規模な戸建てのユニット式建物を支持する基礎地盤、より具体的には、杭と原地盤とからなる複合地盤の設計に関し、小口径杭を適切な杭ばねで、原地盤を適切な地盤ばねでそれぞれ評価し、双方のばねを用いて荷重分担率を適切に評価し、双方のばねからなる複合ばねを適切に評価することにより、当該複合地盤の最適設計を実現することができ、もって、可及的に安価で、安全性が十分に担保された、複合地盤を設計することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】ユニット式建物の一実施の形態を模式的に示した平面図である。
【図2】図1のII−II矢視図であり、複合地盤を模式的に示した縦断面図である。
【図3】複合地盤の杭ばねモデルおよび地盤ばねモデルの模式図である。
【図4】本発明の複合地盤の設計方法を示したフロー図である。
【図5】SWS試験による換算N値と標準貫入試験によるN値を比較したグラフである。
【図6】杭先端平均換算N値と極限先端支持力度qpの関係を示したグラフである。
【図7】杭先端下部の粘着力cと極限先端支持力度qpの関係を示したグラフである。
【図8】極限先端支持力の計算値と実験値を比較したグラフである。
【図9】周面地盤平均換算N値と極限周面摩擦力度τdの関係を示したグラフである。
【図10】周面平均換算粘着力cと極限周面摩擦力度τdの関係を示したグラフである。
【図11】極限摩擦力の計算値と実験値を比較したグラフである。
【図12】地盤ばねの計算値と実験値(長期荷重時)に関するグラフである。
【図13(a)】地盤の荷重度と沈下量の関係を示したグラフである。
【図13(b)】地盤の荷重度と沈下量の関係を示したグラフである。
【図13(c)】地盤の荷重度と沈下量の関係を示したグラフである。
【図14】周面摩擦ばねの考え方を説明した図である。
【図15】長期設計時および短期設計時の周面摩擦ばねの設定を説明した図である。
【図16】摩擦力と沈下量の関係を示したグラフである。
【図17】長期設計時および短期設計時の杭先端ばねを示したグラフである。
【図18】杭先端荷重と杭先端沈下量の関係を示したグラフである。
【図19】(a)は、鋼管杭にかかる圧縮力を説明した図であり、(b)は、(a)を設計上評価する方法を説明した図である。
【図20】杭頭ばねの計算値と実験値を比較したグラフである。
【図21】複合ばねの計算値と実験値に関するグラフである。
【図22】杭の荷重分担率の計算値と実験値に関するグラフである。
【図23】杭の荷重分担率を解析にて算定する際の、複合地盤モデルを示した模式図である。
【図24】杭の荷重分担率の設定図表の一実施例を示したグラフである。
【図25】地盤の荷重分担率の計算値と実験値に関するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。なお、以下、戸建て住宅のうち、ユニット式建物を取り上げて本発明の設計方法を説明しているが、本発明の設計方法がユニット式建物以外の戸建て住宅の設計に使用できることは勿論のことである。
【0045】
図1は、ユニット式建物の一実施の形態を模式的に示した平面図であり、図2は、図1のII−II矢視図であって、複合地盤の概要を模式的に示した縦断面図であり、図3は、複合地盤の杭ばねモデルおよび地盤ばねモデルを模式的に示した図である。
【0046】
図1で示すユニット式建物20は、平面視矩形(長方形)の4基のユニット10,…が併設されて、全体形状が矩形で1階建てのユニット式建物である。なお、ユニットの平面視形状が正方形であってもよいし、その併設基数が5以上であってもよいし、階数が2階、3階などのユニット式建物であってもよいことは勿論のことである。
【0047】
ユニット10は、角鋼管からなる柱1、天井梁2、およびベタ基礎3(床スラブ)からなる骨組みを有する6面体であり、この骨組みに、不図示の壁パネル、床パネルが設置されて構成される。また、各柱1下には口径が100〜150mm程度の小口径の鋼管杭4A,4B,4Cが存在している。そして、ベタ基礎3は、直接的に原地盤G(表層の第1層目地盤G1,第2層目地盤G2,第3層目の比較的硬質な地盤G3)にて支持されている。なお、図示例では、たとえば第1層目地盤G1と第2層目地盤G2がともに比較的緩い粘性土地盤、第3層目の比較的硬質な地盤G3が小口径杭の先端を支持する地盤であるが、この地盤G3は必ずしも硬質である必要はない。
【0048】
このように、ユニット式建物20は、小口径杭4A,4B,4Cと、原地盤Gと、で支持されるものであり、この小口径杭4A,4B,4Cおよび原地盤Gから複合地盤30が形成されるものであり、本発明の設計方法が対象とする支持地盤構造である。
【0049】
そして、形状や寸法を変化させた複数種のユニット10を予め設定しておくことで、図示のごとき配置のユニット式建物20とした際に、4基のユニット10,…で包囲された柱1を含む分割エリアA,分割エリアAに隣接した長手方向の分割エリアB(2つの分割エリアB,Bの中央に1つの柱1が存在),分割エリアAに隣接した短手方向の分割エリアC(2つの分割エリアC,Cの中央に一つの柱1が存在),分割エリアAと対角の位置にある分割エリアD(1つの柱1が存在)が自動的に設定される。
【0050】
すなわち、各分割エリアで、対応する柱1が負担する平面エリアが自動的に設定されることとなり、各平面部位の柱1を介して、それぞれの柱1,…下方の小口径杭4A,4B,4Cに流れるユニット式建物20の鉛直荷重WA,WB,WCが容易に設定されることになる。
【0051】
また、ユニット式建物20の全体重量Wは、小口径杭4A,4B,4Cが負担する鉛直荷重WA,WB,WCと、ベタ基礎3を介して原地盤Gが負担する分布荷重wと、に分かれて負担されることとなる。ここで、コンピュータ内でユニット式建物20の上部構造を適宜にモデル化し(当然に上部構造の重量もコンピュータ内で設定される)、さらに、この上部構造モデルに、図3で示すような地盤ばねのばねモデル、杭ばねのばねモデル(小口径杭をモデル化した杭ばねkt、および、原地盤をモデル化した地盤ばねksの大きさに応じたばね)を取付け、コンピュータ内で自動的に各ばねが負担する重量が算定されてもよい。なお、図3では、ベタ基礎等の線形梁モデルに、この杭ばねktと地盤ばねksが取り付けられてなる、複合地盤のモデルが示されている。ここで、杭ばねktは、杭とその周面の地盤との周面摩擦ばねkpf、杭先端地盤の杭先端ばねkps、圧縮力が作用した際の杭本体の弾性変形に基づく杭本体ばねkpから設定されるものである。
【0052】
次に、図4の設計フロー図を参照して本発明の複合地盤の設計方法を概説する。なお、ここでは、各ステップを概説するものとし、各ステップの詳細は、別途、以下で説明する。
【0053】
まず、SWS試験結果、設定された小口径鋼管杭の諸特性(断面剛性、杭長など)に基づき、小口径鋼管杭が設置された後の原地盤の許容支持力、小口径杭の許容支持力、小口径鋼管杭が設置された後の原地盤の許容沈下量のそれぞれを、たとえば、小規模建築物基礎設計指針(日本建築学会、2008年)に準拠して設定する(ステップS1)。なお、この段階では、杭先端を支持する支持層となる硬質地盤G3の層分布に応じて、各小口径杭4A,4B,4Cの杭長が相違するものとし、このように、支持地盤の位置に応じて杭長を変化させることで、全ての杭が建物重量を支持した際の各杭の沈下量の均一化を図り、もって、不同沈下を抑止することができる。
【0054】
各許容値(設計基準値)が設定されたら、原地盤の地盤ばねと小口径杭の杭ばねを、同様に小規模建築物基礎設計指針に準拠して設定し、次に、双方のばねに基づいて、一つは小口径杭と原地盤双方の荷重分担率を設定し、他の一つは双方のばねに基づいて複合ばねを設定する(ステップS2)。ここで、杭ばねは、杭とその周面の地盤との周面摩擦ばね、杭先端地盤の杭先端ばね、圧縮力が作用した際の杭本体の弾性変形に基づく杭本体ばね、の3つのばね要素が合成されたものである。
【0055】
次いで、ユニット式建物の按分重量と荷重分担率とから、原地盤と小口径杭の負担重量を算出するとともに、原地盤の沈下量を算出する(ステップS3)。この按分重量は、図1で示す各分割エリアごとで予め分かっている重量であり、設定された地盤ばね、杭ばね双方の大きさに応じた荷重分担率から、双方のばねが負担する荷重が一義的に求められる。なお、上記するように、コンピュータ内でユニット式建物の上部構造を適宜にモデル化し、この上部構造モデルに、地盤ばねのばねモデル、杭ばねのばねモデルを取付け、コンピュータ内で自動的に各ばねが負担する重量を算定する方法であってもよい。
【0056】
算出された原地盤および小口径杭の負担重量とそれぞれの許容支持力を比較し、さらには、原地盤の沈下量と許容沈下量を比較する。比較の結果、各負担重量が許容支持力に収まっており、原地盤の沈下量が許容沈下量に収まっていれば、所期設定の小口径杭の仕様、原地盤からなる複合地盤を合格とする。なお、安全率に余裕がある場合には、小口径杭の仕様をランクダウンさせ、再設計をおこないながら最適な複合地盤を照査するのがよい。
【0057】
一方、比較の結果、いずれか一方の負担重量が許容支持力に収まらず、もしくは、原地盤の沈下量が許容沈下量に収まらない場合には、たとえば小口径杭の杭仕様をランクアップ等し、すべての許容値を満足するまで再度の繰り返し設計が実施される。
【0058】
次に、本発明者等による試験結果を使用しながら、小口径杭の許容支持力の設定方法、原地盤の許容支持力の設定方法、地盤ばねおよび杭ばねの設定方法の順に詳述する。
[小口径杭の許容支持力の設定方法]
複合地盤を構成する小口径の鋼管杭は、床梁等と結合されることなく、したがって、鉛直荷重のみを負担するものとして支持性能を評価する。そのため、床梁等の設計においては、当該杭から作用する力を考慮する必要がないものである。なお、以下の諸式は、小規模建築物基礎設計指針(日本建築学会、2008年)に準拠している。
【0059】
(長期許容支持力)
鋼管杭の長期許容支持力Raは次式にて表される。なお、短期許容支持力は長期許容鉛直支持力の2倍とする。
Ra=1/3・Ru(kN)
Ra:鋼管杭の長期許容鉛直支持力(kN)
Ru:鋼管杭の極限鉛直支持力(kN)
【0060】
鋼管杭の長期許容支持力Raは杭周面及び先端部の地盤による長期許容鉛直支持力Ra1と、杭体の許容圧縮力Ra2のうち、小さい値とする。
【0061】
(長期許容鉛直支持力)
Ra1=1/3・(Rp+Rf) (kN)
Ra1:鋼管杭の長期許容鉛直支持力(kN)
Rp:鋼管杭先端部における極限先端支持力(kN)
Rf:鋼管杭周面の地盤による極限摩擦力(kN)
なお、短期許容支持力は長期許容支持力の2倍とする。
なお、先端支持力及び極限支持力の評価方法については後述する。
【0062】
(長期許容圧縮力)
Ra2=1/3・Fc・Ap (1−α1) (kN)
Ra2:鋼管杭の長期許容圧縮力(kN)
Fc:設計基準強度
0.01<te/r<0.08の場合 Fc=F(0.8+2.5×te/r)
te/r≧0.08の場合 Fc=F
F:基準強度 STK400の場合は235(N/mm2)、STK490の場合は325(N/mm2)
te:腐食しろ(外面1mm)を除いた杭の肉厚(m)
r:杭の有効半径(m)
Ap:鋼管杭の有効断面積(m2)
α1:細長比による低減率 L/D>100の場合、α1=(L/D−100)/100
L:杭長(m) D:杭の有効径(m)
なお、短期許容圧縮力は長期許容圧縮力の1.5倍とする。
【0063】
(先端支持力の評価範囲について)
先端部分の対象範囲については、一般工法の杭の場合は小規模建築物基礎設計指針(日本建築学会)で、砂質土の評価におけるN値の対象範囲を杭先端から「下に1D、上に1Dの範囲」(D:杭径)の平均値としている。他の工法や文献ではさらに大きく範囲をとるものもある。
【0064】
ここで、杭先端付近のSWS試験で得た貫入抵抗値が急激に変化している場合、狭い範囲でみると極端に大きな値を採用する可能性もある。
【0065】
図5は、各試験地ごとに実際の評価に採用するSWS試験から換算した先端部分の平均N値と、標準貫入試験によるN値を、先端範囲ごと比較したものである。このように範囲を小さくみるとSWS試験の方が大きく評価する可能性があり、一方で標準貫入試験のサンプリングの1m単位の粗さを考えると、概ね5D程度で評価するのが適切である。
【0066】
(極限先端支持力)
対象とする鋼管杭では、摩擦による支持性能も期待するため、必要な支持性能を得られる限りは鋼管杭の先端部は必ずしも硬質な支持層まで到達させない。そのため、基本的にはN値によって評価するものとし、支持層に至らないレベルの比較的軟質な粘性土については粘着力により評価することが適切である。図6に、鋼管杭先端部の下部地盤が砂質土または硬質な粘性土の場合の実験における先端平均換算N値と、実験での極限先端支持力度qpを比較したものを示す。
【0067】
図6の勾配、いわゆる先端支持力係数は、α=200とすることで適切に評価できる。但し、換算N値が20を超える範囲については本実験では充分に裏づけられていないため、上限をN=20とする。なお、硬質な粘性土とは、支持層としても十分と判断できるN>15とする。
【0068】
次に鋼管杭先端部の下部地盤が粘性土の場合の実験における、先端下部の粘着力cと、実験での極限先端支持力度qpを比較したものを図7に示す。
【0069】
以上より、先端支持力度の算出に用いる粘着力cに係る係数は、小規模建築物基礎設計指針(社団法人日本建築学会)に示されている係数6で設定することができる。
【0070】
また、極限先端支持力は、鋼管杭先端部の下部地盤の土質に応じて次式により適切に評価できる。
【0071】
(砂質土の場合)
Rp=qp×Ap=α×N0×Ap(kN)
qp:極限先端支持力度(kN/m2)
Ap:鋼管杭の先端断面積(m2)
α:先端支持力係数,本工法ではα=170(但し、N=18を上限)で評価する。
N0:鋼管杭先端部から下に1D、上に5D(D:鋼管杭径)の範囲における
換算N値の平均値で、各層の換算N値はSWS試験により得られたWSW、NSWより次式によって算定する。
N=2.0WSW+0.067NSW (砂質土)
N=3.0WSW+0.050NSW (粘性土、算定範囲に介在する場合)
WSW:SWS試験の荷重(kN)
NSW:SWS試験の半回転数(回/m)
【0072】
(粘性土の場合)
本発明者等の知見に基づき、粘性土の場合は、その硬軟に応じて以下のように算定式を変化させるのが好ましい。なお、このように粘性土の硬軟に応じて算定式を変化させる設計方法は、従来の設計手法にはないものである。
【0073】
(硬質な粘性土(N0>15)の場合)
Rp=qp×Ap=α×N0×Ap(kN)
qp:極限先端支持力度(kN/m2)
Ap:鋼管杭の先端断面積(m2)
α:先端支持力係数,本工法ではα=200(但し、N=20を上限)で評価。
N0:鋼管杭先端部から下に1D、上に5D(D:鋼管杭径)の範囲における換算N値の平均値で、各層の換算N値はSWS試験により得られたWSW、NSWより次式によって算定。
N=3.0WSW+0.050NSW (粘性土)
N=2.0WSW+0.067NSW (砂質土、算定範囲に介在する場合)
なお、従来の方法によって図10に示す結果から下式で算出することも可能である。
Rp=6×c×Ap(kN)
c:鋼管杭先端部から下に1D、上に5D(D:鋼管杭径)の範囲における換算粘着力の平均値で、各層の換算N値はSWS試験により得られたWSW、NSWより次式によって算定。
c=1/2(45WSW+0.75NSW) (kN/m2)
【0074】
(その他の粘性土の場合)
Rp=6×c×Ap(kN)
c:鋼管杭先端部から下に1D、上に5D(D:鋼管杭径)の範囲における粘着力(kN/m2)の平均値で、各層の粘着力はSWS試験により得られたWSW、NSWより、次式によって算定する。
c=1/2(45WSW+0.75NSW) (kN/m2)
極限先端支持力の計算値と実験値をまとめたものを図8に示す。
図8より、極限先端支持力の値は安全側に評価できると判断される。
【0075】
(極限摩擦力)
実験結果より鋼管杭周面地盤の平均換算N値と、実験での極限周面摩擦力度τdを比較したものを図9に示す。
【0076】
図9より、換算N値からの極限周面摩擦力度の評価としては、小規模建築物基礎設計指針(日本建築学会)では、砂質土の場合で τd=10/3・N(≒3.3N)とあり、またその他文献などで粘性土が大きい値となるデータ等も挙げられているが、本工法では実験の結果より、粘性土の場合でτd=3.0N 、砂質土の場合はτd=2.0N で評価することが妥当であるとした。
【0077】
極限摩擦力は以下により算定できる。
Rf=D×Σ(τd×Li)×π (kN)
Rf:杭状地盤補強周面の地盤による極限摩擦力(kN)
D:杭状地盤補強径(m)
τd:各層の極限周面摩擦力度(kN/m2)
各層の換算N値により粘性土の場合はτd=3.0N 、砂質土の場合はτd=2.0N
で、換算N値はSWS試験により得られたWSW、NSW
より次式によって算定する。
N=3.0WSW+0.050NSW (粘性土)
N=2.0WSW+0.067NSW(砂質土)
WSW:SWS試験の荷重(kN)
NSW:SWS試験の半回転数(回/m)
Li:各層の層厚(m)
【0078】
なお、極限摩擦力の計算値と実験値をまとめたものを図11に示す。
図11より、算定された極限摩擦力の値は実験値と照らして妥当であると判断される。
【0079】
[原地盤の許容支持力の設定方法]
地盤の長期許容支持力度は、小規模建築物基礎設計指針(日本建築学会)より下式で設定する。なお、通常の設計においては基礎底面より2mまでの平均値、各測点の最低値を採用する。また、短期許容支持力度は長期許容鉛直支持力度の2倍とする。
qa=30WSW+0.64NSW(kN/m2)
qa:地盤の長期許容支持力度(kN/m2) 短期は長期の2倍とする。
WSW:SWS試験の荷重(kN)
NSW:SWS試験の半回転数(回/m)
【0080】
[地盤ばねおよび杭ばねの設定方法]
(地盤ばね)
地盤を一様な半無限弾性体と仮定したときの地盤ばねを下式で設定する。
ks=p/SE(kN/m)
ks:地盤ばね(kN/m)
p:地表面に作用する荷重(kN)
SE:地表面の沈下量(m)
ここで地表面の沈下量SEは下式で計算できる。
SE=Is{(1−νs2)/Es}q×B(m)
Is:沈下係数 (基礎の形状で決まる係数で、建築基礎構造設計指針(日本建築学会)による。)
νs:地盤のポアソン比 土質に応じて適切に設定するが、軟弱な粘性度の場合や、明確に土質判断できない場合は、沈下算定においてはνs=0、地盤の荷重分担を算定する場合はνs=0.50とするなど適切に設定する。
q:基礎に作用する荷重度(kN/m2)
B:基礎の底面の幅(m)
Es:地盤の弾性係数(kN/m2)
【0081】
ここでは上式により算定した各層の地盤の弾性係数Esiの基礎底面より2m以内の平均値Es0とする。
Esi=5000WSW+85NSW(kN/m2)
WSW:SWS試験の荷重(kN)
NSW:SWS試験の半回転数(回/m)
【0082】
基礎に作用する荷重度qは、住宅ユニットに対応する基礎の一部を取り出した平面形状がB×Lの基礎の場合、
q=p/(B×L) (kN/m2)(但し、基礎の長辺側をL、短辺側をBとする。)
これを上式に代入すると、
SE=Is{(1−νs2)/(Es×L)}p(m)となり、
ks=(Es×L)/{Is(1−νs2)}(kN/m)
実験結果と比較して、上式による評価の妥当性を図12で示す。
【0083】
図12より、何れも実験による地盤ばねksの値が計算値を上回っており、沈下量の算定(不同沈下の検討)に関しては設定した計算式で安全に評価できる。また、計算値と実験値に関し、図13に荷重度と沈下量の関係を示す。設計上の短期の荷重度に対しても、本評価方法で十分安全側に評価できる。
【0084】
(杭ばね)
(周面摩擦ばね)
地盤摩擦ばねについては、一般に図14のように最大周面摩擦力度Rfに達したあと一定となる特性と考えられ、極限時の周面摩擦ばねは、
kpf=Rf/(D/10) (kN/m)
に一定の係数を乗じることで、長期、短期のばねを設定できる。なお、D:杭径 沈下量D/10を極限と見做す。
実験での極限時の周面摩擦ばねに対する、長期及び短期相当の周面摩擦ばねは図15のようになる。
【0085】
地盤の沈下の評価においては、極限時に対する乗率として、長期、短期ともに1とする。すなわち、
kpfL=1×Rf/(D/10) (kN/m)
kpfS=1×Rf/(D/10) (kN/m)
この条件での計算値と実験値について、図16に、摩擦力と沈下量の関係を示す。
【0086】
(杭先端ばね)
杭先端ばねは既述する地盤ばねと同様に、形状を杭断面と見做した次式を基本とする。
kps=Esp0×D×π/{4Is(1−νs2)}(kN/m)
なお、前記式の沈下係数は Is=1.00とする。
【0087】
ポアソン比 νsは土質に応じて適切に設定するが、軟弱な粘性度の場合や、明確に土質判断できない場合は、沈下算定においてはνs=0、地盤の荷重分担を算定する場合はνs=0。50とするなど適切に設定する。
なお、長期および短期の杭先端ばねも適宜の係数にて設定することもできる。
【0088】
地盤摩擦ばねと異なり、鋼管杭先端ばねの挙動は必ずしもバイリニア的な安定した挙動とはならない。しかしながら、実験での極限時の鋼管杭先端ばねに対する長期、短期相当の杭先端ばねは図17のようになることから、長期、短期とも本式により判断すればよいと言える。
この条件での計算値と実験値について、図18に、杭先端の軸力と沈下量の関係を示す。
【0089】
(杭体ばね)
杭体ばねは、基本的には鋼管への圧縮力による歪みによるものである。しかしながら、鋼管への圧縮力は杭頭から深部になるにつれて、反力となる摩擦力により軽減されるため歪が小さくなると考えられる(図19a参照)。
【0090】
しかし箇所ごとの摩擦力を考慮して層ごとの鋼管の歪みを計算することは実用的でないことから、最終的には杭頭部分のばねの値でばらつきを考慮した設計を行うこともあり、ここでは簡便に杭全体にかかる荷重に対する歪みとして評価する(図19b参照)。
ε=N/(EA)より、杭長L(m)の場合の杭体ばねkp(kN/m)は、下式により算出する。
kp=EA/L(kN/m)
E:鋼管の材料のヤング係数(kN/m2)
例えば E=205940(N/mm2)=20594×104(kN/m2)
A:杭の断面積(m2)
L:杭長(m)
なお、地盤の長期、短期において杭体は弾性範囲内として同式で評価する。
【0091】
(杭体ばねのばらつきについて)
杭頭部分の杭体ばねktは、杭先端ばねkps、周面摩擦ばねkpf、からなる「鋼管杭ばね」と杭体ばねkpの合成(直列)と考えることができる。
kt={(kpf+kps)×kp}/{(kpf+kps)+kp}
【0092】
ここで、長期荷重時(極限鉛直支持力の1/3)の鋼管杭頭ばねの計算値と実験値をまとめたものを図20に示す。なお、杭体ばねは、上記計算式にて設定することのほかに、杭体を直接載荷実験することで設定することもできる。
【0093】
なお、ここまでの考え方は沈下量の評価を前提として全体的に安全側の設定をしているが、杭頭荷重度から杭の設計軸力を設定する場合は杭側に大きい荷重がかかる(ばね値を大きくする)ように考え、鋼管杭ばねに係数4.0を乗じて適用する。
【0094】
(複合ばね)
上記で算定した地盤ばねks、杭体ばねkt、より、複合地盤とした場合のばねkc(kN/m)を算出する。基本的に、複合ばね(複合地盤ばね)は、各ばねの和となり、
kc=ks+kt
但し、ks={Es(L+t)}/{Is(1−νs2)}(kN/m)、kt={(kpf+kps)×kp}/{(kpf+kps)+kp}(kN/m)となるが、上部構造の荷重点が杭頭に近接していることや基礎の剛性、また杭体も含めたばらつきによって、地盤ばねの影響度が小さくなると考えられる。ここでは実験結果より一意に沈下量について安全側で評価する方法を検討する。
【0095】
複合地盤ばねの実験値と計算値を比較した図21より、一意に安全側で評価する場合は、例えば下式のように地盤ばねを80%で設定することができる。
kc=0.8×ks+kt
なお、設計においては、地盤ばね、杭ばね、および基礎の各部を適切にモデル化して、複合ばねを設定することもできる。
【0096】
(小口径杭の荷重分担率)
地盤ばねと鋼管杭ばねの比によって杭の荷重分担率を設定する。
【0097】
(杭の設計における杭の荷重分担率)
杭の荷重分担率は、実験により、たとえば杭体ばねにおける倍率25で設定することができる。
杭の荷重分担率=(25×kt)/(ks+25×kt)
図22に、杭の荷重分担率に関する計算値と実験値の結果を示している。
【0098】
なお、杭の荷重分担率は実験結果より長期と短期において差異が無いと考えられるため、同一の式で荷重分担を規定できると考えられる。
【0099】
なお、設計においては地盤ばね、杭体ばね及および基礎の各部を適切にモデル化することもできる。ここで、杭頭荷重度は基本的に杭と地盤のばねの比率によるが、基礎と地盤の影響で基礎の荷重度を減ずる必要がある。図23に基礎の解析モデルを示している。
【0100】
同図のように、ユニットのサイズ、適用個所ごとに、予め地盤条件を変えて解析することにより、荷重の分担を精度よく得ることが可能となる。
【0101】
さらに、図24で示すように、例えば基礎下の地盤ばね(杭と地盤の両方を考慮した全体)に対して杭がどの程度のばねを有するかによって、そのばねを減ずる割合を規定することもできる。なお、本発明者等による、杭単体と地盤(基礎のみ)のばね定数、杭頭分担率の実験値と解析値の比較結果の一例を、以下の表1に示す。
【表1】
【0102】
以上より、実験結果に基づいて、もしくは解析にて杭体ばねを割り増すことで杭頭荷重度について適切に評価できる。
【0103】
(接地圧の検討における地盤の荷重分担率)
杭の荷重分担率に対応して、地盤の荷重分担率としては杭体ばねを最小側で設定する。
地盤の荷重分担率=1−kt/(ks+kt)
図25に、地盤の荷重分担率に関する計算値と実験値の結果を示している。
【0104】
以上より、実験結果に基づいて地盤の荷重度について適切に評価できる。なお、設計においては地盤ばね、杭ばねおよび基礎の各部を適切にモデル化して、地盤の荷重度を算定することもできる。
【0105】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0106】
1…柱、2…天井梁、3…ベタ基礎、4,4A,4B,4C…小口径杭、10…ユニット、20…ユニット式建物、30…複合地盤、G…原地盤
【特許請求の範囲】
【請求項1】
戸建て住宅を支持するための、原地盤と、原地盤内に設置された小口径杭と、からなる、複合地盤の設計方法であって、
小口径杭が設置された後の原地盤の許容支持力、小口径杭の許容支持力、および、小口径杭が設置された後の原地盤の許容沈下量、のそれぞれを設定する第1のステップ、
前記原地盤の地盤ばね、および、小口径杭の杭ばねを設定し、地盤ばねと杭ばね双方の大きさに応じて該原地盤と該小口径杭双方の荷重分担率を設定する第2のステップ、
戸建て住宅の重量が複数の分割エリアごとに按分されており、按分重量と前記荷重分担率とから、前記原地盤の負担重量と前記小口径杭の負担重量を算出し、かつ、該原地盤の沈下量を算出する第3のステップ、
前記原地盤および前記小口径杭それぞれの前記負担重量とそれぞれの前記許容支持力を比較し、該負担重量が該許容支持力以下となること、および、該原地盤の前記沈下量と前記許容沈下量を比較し、該原地盤の該沈下量が該許容沈下量以下となること、の双方を確認する第4のステップ、からなる、複合地盤の設計方法。
【請求項2】
前記第2のステップでは、地盤ばねと杭ばねとを複合した複合ばねがさらに設定される、請求項1に記載の複合地盤の設計方法。
【請求項3】
前記杭ばねは、杭とその周面の地盤との周面摩擦ばね、および、杭先端地盤の杭先端ばね、および、圧縮力が作用した際の杭本体の弾性変形に基づく杭本体ばね、から設定される、請求項1または2に記載の複合地盤の設計方法。
【請求項4】
小口径杭の前記荷重分担率を算定する場合に、既に設定されている前記杭ばねに1よりも大きな所定の係数を乗じた補正後の杭ばねを使用する、請求項1〜3のいずれかに記載の複合地盤の設計方法。
【請求項5】
前記杭ばねのうちの前記周面摩擦ばねのうち、長期設計時で周面摩擦ばねは、小口径杭が所定量だけ沈下した際の最大周面摩擦力で規定される値に1未満の所定の係数を乗じた摩擦力から算定するものとし、短期設計時の周面摩擦ばねは、長期設計時の周面摩擦ばねの2倍に設定する、請求項3または4に記載の複合地盤の設計方法。
【請求項6】
前記杭ばねのうちの前記周面摩擦ばねのうち、原地盤の沈下量を算出する長期設計時の周面摩擦ばねは、小口径杭が所定量だけ沈下した際の最大周面摩擦力で規定される値に1以上の所定の係数を乗じた摩擦力から算定するものとし、原地盤の沈下量を算出する短期設計時の周面摩擦ばねは、長期設計時の周面摩擦ばねの1/2倍に設定する、請求項3または4に記載の複合地盤の設計方法。
【請求項7】
前記複合ばねは、地盤ばねと、杭ばねと、の和から算定される、請求項1〜6のいずれかに記載の複合地盤の設計方法。
【請求項8】
前記複合ばねは、既に設定されている地盤ばねに1未満の所定の係数が乗じられた補正後の地盤ばねと、杭ばねと、の和から算定される、請求項1〜6のいずれかに記載の複合地盤の設計方法。
【請求項9】
前記戸建て住宅はユニット式建物であり、前記分割エリアおよびそれぞれの分割エリアごとの前記按分重量は、予め設定されている、請求項1〜8のいずれかに記載の複合地盤の設計方法。
【請求項1】
戸建て住宅を支持するための、原地盤と、原地盤内に設置された小口径杭と、からなる、複合地盤の設計方法であって、
小口径杭が設置された後の原地盤の許容支持力、小口径杭の許容支持力、および、小口径杭が設置された後の原地盤の許容沈下量、のそれぞれを設定する第1のステップ、
前記原地盤の地盤ばね、および、小口径杭の杭ばねを設定し、地盤ばねと杭ばね双方の大きさに応じて該原地盤と該小口径杭双方の荷重分担率を設定する第2のステップ、
戸建て住宅の重量が複数の分割エリアごとに按分されており、按分重量と前記荷重分担率とから、前記原地盤の負担重量と前記小口径杭の負担重量を算出し、かつ、該原地盤の沈下量を算出する第3のステップ、
前記原地盤および前記小口径杭それぞれの前記負担重量とそれぞれの前記許容支持力を比較し、該負担重量が該許容支持力以下となること、および、該原地盤の前記沈下量と前記許容沈下量を比較し、該原地盤の該沈下量が該許容沈下量以下となること、の双方を確認する第4のステップ、からなる、複合地盤の設計方法。
【請求項2】
前記第2のステップでは、地盤ばねと杭ばねとを複合した複合ばねがさらに設定される、請求項1に記載の複合地盤の設計方法。
【請求項3】
前記杭ばねは、杭とその周面の地盤との周面摩擦ばね、および、杭先端地盤の杭先端ばね、および、圧縮力が作用した際の杭本体の弾性変形に基づく杭本体ばね、から設定される、請求項1または2に記載の複合地盤の設計方法。
【請求項4】
小口径杭の前記荷重分担率を算定する場合に、既に設定されている前記杭ばねに1よりも大きな所定の係数を乗じた補正後の杭ばねを使用する、請求項1〜3のいずれかに記載の複合地盤の設計方法。
【請求項5】
前記杭ばねのうちの前記周面摩擦ばねのうち、長期設計時で周面摩擦ばねは、小口径杭が所定量だけ沈下した際の最大周面摩擦力で規定される値に1未満の所定の係数を乗じた摩擦力から算定するものとし、短期設計時の周面摩擦ばねは、長期設計時の周面摩擦ばねの2倍に設定する、請求項3または4に記載の複合地盤の設計方法。
【請求項6】
前記杭ばねのうちの前記周面摩擦ばねのうち、原地盤の沈下量を算出する長期設計時の周面摩擦ばねは、小口径杭が所定量だけ沈下した際の最大周面摩擦力で規定される値に1以上の所定の係数を乗じた摩擦力から算定するものとし、原地盤の沈下量を算出する短期設計時の周面摩擦ばねは、長期設計時の周面摩擦ばねの1/2倍に設定する、請求項3または4に記載の複合地盤の設計方法。
【請求項7】
前記複合ばねは、地盤ばねと、杭ばねと、の和から算定される、請求項1〜6のいずれかに記載の複合地盤の設計方法。
【請求項8】
前記複合ばねは、既に設定されている地盤ばねに1未満の所定の係数が乗じられた補正後の地盤ばねと、杭ばねと、の和から算定される、請求項1〜6のいずれかに記載の複合地盤の設計方法。
【請求項9】
前記戸建て住宅はユニット式建物であり、前記分割エリアおよびそれぞれの分割エリアごとの前記按分重量は、予め設定されている、請求項1〜8のいずれかに記載の複合地盤の設計方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13(a)】
【図13(b)】
【図13(c)】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図2】
【図3】
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【図13(b)】
【図13(c)】
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【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【公開番号】特開2011−12510(P2011−12510A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−159986(P2009−159986)
【出願日】平成21年7月6日(2009.7.6)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月6日(2009.7.6)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】
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