説明

複合材料及びその製造方法、並びにその製造装置

【課題】シリコン表面とめっき材との密着性が高められた複合材料と、その複合材料の製造方法、並びにその製造装置を提案する。
【解決手段】
少なくとも最上層にシリコン層が形成されている母材であるシリコン基板102の表面を金(Au)のイオンを含有する第1溶液に浸漬することにより、その母材の表面上にそのシリコン層の一部と置き換えられた粒子状又はアイランド状の第1金属である金(Au)を分散配置する分散配置工程と、その金(Au)が触媒活性を示す還元剤及びその還元剤により還元され得る金属のイオンを含有する第2溶液24に浸漬することにより、金(Au)を起点として、そのシリコン基板102の表面が、自己触媒型無電解めっき法により形成された前述の金属又はその金属の合金108によって覆われるめっき工程とを含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材料及びその製造方法、並びにその製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、金属皮膜処理法、非金属皮膜処理法、化成処理法等の表面処理方法が研究されている。これまでに、ある金属母材の表面に別の種類の金属膜を形成することにより、様々な機能を備えた複合材料が創出されてきた。
【0003】
幾つかの表面処理方法の中でも代表的なものの一つが、めっき法である。このめっき法は、様々な産業分野で広く利用されている。しかし、このめっき法によって形成される金属等の層は、適切な母材が選定されなければ、その母材との十分な密着力が得られない。例えば、半導体分野やMEMS分野等において最も広範に利用されるシリコンは、めっき法による金属層の形成の対象となる母材の一つであるが、一般的に、めっきされた金属とシリコンとの密着性は弱いことが指摘されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
シリコンに対する金属層の密着性を高める技術の一つとして、多結晶シリコン表面を加熱された水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液に浸漬してその表面に段差を形成することにより、その表面とめっきされた金属層との密着性を高める方法が開示されている(特許文献2参照)。他方、特殊な基板を用いて、多孔質層を形成した上で、置換めっき法を用いてその多孔質層の孔内にめっき物を充填する技術も開示されている(特許文献3)。
【非特許文献1】伊藤健一、外1名、「ナノホールパターンドメディア」、雑誌FUJITSU、富士通株式会社、2007年1月、第58巻、第1号、p90−98
【非特許文献2】八重真治(S. Yae)、外4名,“Electrochemistry Communications”,2003年8月,第5巻,p.632
【非特許文献3】辻埜和也(K. Tsujino)、外1名,“Electrochimica Acta”,2007年11月20日,第53巻,p.28
【特許文献1】特開2004−193337号公報
【特許文献2】特開昭60−4271号公報
【特許文献3】特開2006−342402号公報
【特許文献4】特開昭57−105826号公報
【特許文献5】特開平11−283829号公報
【特許文献6】特開2003−288712号公報
【特許文献7】特開2004−237429号公報
【特許文献8】特開2005−139376号公報
【特許文献9】特開2007−533983号公報
【特許文献10】米国特許出願公開第2005/0101153号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、めっき法によりシリコン表面に金属膜を形成する幾つかの技術が開示されている。しかしながら、例えば、めっき法を用いてシリコン表面全体に金属膜等を形成する場合は、その段差が十分に埋まらなければ、それによって生じる空隙が原因となって密着性の低下が生じ得るばかりではなく、複合材料としての機能の発揮が阻害され得ることになる。
【0006】
他方、例えば、広く採用されている電解めっき法を用いた場合、電源や電極を必要とするため設備の小型化や設備コストの低減に限度がある。また、従来の無電解めっき法を用いた孔の充填技術では、複雑な製造工程を要する。
【0007】
上述の各種の問題に対し、本発明者らは、めっき材とシリコン表面の密着性を高めた複合材料の製造方法を、特願2008−57865において提案している。具体的には、発明者らは、シリコンの表面層に形成された孔の底部を起点とした自己触媒型無電解めっき法によるめっき材の充填と、その後、そのめっき工程を孔の形成されていないシリコン表面上にまで進行させることができる複合材料の製造方法を提案した。
【0008】
しかしながら、密着力の高い複合材料が得られる本発明者らの上述の発明であっても、その製造工程の簡素化、効率化、及び安定化、を向上させる余地が残されている。加えて、実質的に平坦ともいえる母材の表面粗さであっても高い密着性を示す複合材料を得ることは、母材の深さ方向への影響の極めて少ない製造方法と構造体を提供することが可能となるため、その技術的意義は大きい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述の技術的課題を解決することにより、密着力の高い複合材料の製造効率の更なる向上に大きく貢献するものである。前述の提案の後、発明者らは、高密着性の複合材料についてさらに研究を重ねた。その結果、高い密着性を保持するために必要と考えられていたシリコン表面層の孔が実質的にない場合であっても、所定の金属が粒子状又はアイランド状に分散配置されたシリコン層表面を利用することにより、密着力の高い複合材料が得られることが確認された。本発明は、上述の知見に基づいて創出された。
【0010】
本発明の1つの複合材料の製造方法は、少なくとも最上層にシリコン層が形成されている母材の表面を金(Au)のイオンを含有する第1溶液に浸漬することにより、その母材の表面上にそのシリコン層の一部と置き換えられた粒子状又はアイランド状の前述の金(Au)を分散配置する分散配置工程と、その金(Au)が触媒活性を示す還元剤及びその還元剤により還元され得る金属のイオンを含有する第2溶液に浸漬することにより、その金(Au)を起点として、その母材の表面が、自己触媒型無電解めっき法により形成された前述の金属又はその金属の合金によって覆われるめっき工程とを含んでいる。
【0011】
この複合材料の製造方法によれば、まず、母材のシリコン層上に、そのシリコン層の一部と置換された金が粒子状又はアイランド状に分散配置される。次に、その母材のシリコン層上に、その分散配置された金が触媒活性を示す還元剤により還元され得る金属又はその金属の合金(以下、本段落において、特定金属等という)が、自己触媒型無電解めっき法によって形成される。そのため、金(Au)を特定金属等が覆った後も、その特定金属等が触媒となって継続的に特定金属等のイオンの還元に寄与することになる。その結果、その特定金属等は、当初のシリコン層表面の凹凸に依存することなく、そのシリコン層の一部と置き換えられた金を起点としてその母材の表面を覆うように形成されることになる。すなわち、その特定金属等の形成のために凹凸を強制的に形成、またはその凹凸の制御を要しないため、製造工程の安定化が図られる。また、現段階では未だ原因が特定されていないが、その特定金属等の層は、母材のシリコン層との密着性が非常に高いことが確認されている。
【0012】
また、本発明の1つの複合材料は、少なくとも最上層にシリコン層が形成されている母材の表面上に、そのシリコン層の一部と置き換えられて配置された粒子状又はアイランド状の金(Au)が起点となって、その母材の表面が、自己触媒型無電解めっき法により形成された、その金(Au)が触媒活性を示す金属又はその金属の合金で覆われている。
【0013】
この複合材料によれば、母材のシリコン層の一部と置換された粒子状又はアイランド状の金が触媒活性を示す還元剤により還元され得る金属又はその金属の合金(以下、本段落において、特定金属等という)が、母材のシリコン層を覆うことになる。その結果、その特定金属等は、当初のシリコン層表面の凹凸に依存することがない。現段階では未だ原因が特定されていないが、その特定金属等の層は、母材のシリコン層との密着性が非常に高いことが確認されている。
【0014】
また、本発明の1つの複合材料の製造装置は、少なくとも最上層にシリコン層が形成されている母材の表面を金(Au)のイオンを含有する第1溶液に浸漬することにより、その母材の表面上にそのシリコン層の一部と置き換えられた粒子状又はアイランド状の前述の金(Au)を分散配置する分散配置装置と、その金(Au)が触媒活性を示す還元剤及びその還元剤により還元され得る金属のイオンを含有する第2溶液に浸漬することにより、その金(Au)を起点として、前述の母材の表面を、自己触媒型無電解めっき法により形成された前述の金属又はその金属の合金によって覆うめっき装置とを備えている。
【0015】
この複合材料の製造装置によれば、分散配置装置により、母材のシリコン層上に、そのシリコン層の一部と置換された金が粒子状又はアイランド状に分散配置される。加えて、めっき装置により、その母材のシリコン層上に、その分散配置された金が触媒活性示す還元剤により還元され得る金属又はその金属の合金(以下、本段落において、特定金属等という)が、自己触媒型無電解めっき法によって形成される。そのため、金(Au)を特定金属等が覆った後も、その特定金属等が触媒となって継続的に特定金属等のイオンの還元に寄与することになる。その結果、その特定金属等は、当初のシリコン層表面の凹凸に依存することなく、そのシリコン層の一部と置き換えられた金を起点としてその母材の表面を覆うように形成されることになる。現段階では未だ原因が特定されていないが、その特定金属等の層は、母材のシリコン層との密着性が非常に高いことが確認されている。
【0016】
ところで、本発明において、「そのシリコン層の一部と置き換えられた」とは、その置き換えられたシリコン層の領域と完全に同一の領域に、粒子状又はアイランド状の金(Au)が置き換えられて配置されたことを意味するものではない。むしろ、「そのシリコン層の一部と置き換えられた」とは、その置き換えられたシリコン層の領域の近傍に粒子状又はアイランド状の金(Au)が置き換えられて配置されたことを意味する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の1つの複合材料の製造方法によれば、母材のシリコン層上に、そのシリコン層上に分散配置された金が触媒活性を示す還元剤により還元され得る金属又はその金属の合金(以下、本段落において、特定金属等という)が、その自己触媒型無電解めっき法によって形成される。その結果、その特定金属等は、当初のシリコン層表面の凹凸に依存することなく、その金を起点として、その母材のシリコン層と高い密着性を保ちながらその表面を覆うように形成される。
【0018】
また、本発明の1つの複合材料によれば、母材のシリコン層の一部と置換された粒子状又はアイランド状の金が触媒活性を示す還元剤により還元され得る金属又はその金属の合金が、母材のシリコン層を覆うことになる。その結果、その金属又はその金属の合金は、当初のシリコン層表面の凹凸に依存することがない。また、その特定金属等の層は、母材のシリコン層との密着性が非常に高い。
【0019】
また、本発明の1つの複合材料の製造装置によれば、母材のシリコン層上に、そのシリコン層上に分散配置された金が触媒活性を示す還元剤により還元され得る金属又はその金属の合金(以下、本段落において、特定金属等という)が、自己触媒型無電解めっき法によって形成される。その結果、その特定金属等は、当初のシリコン層表面の凹凸に依存することなく、その金を起点として、その母材のシリコン層と高い密着性を保ちながらその表面を覆うように形成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
つぎに、本発明の実施形態を、添付する図面に基づいて詳細に述べる。尚、この説明に際し、全図にわたり、特に言及がない限り、共通する部分には共通する参照符号が付されている。また、図中、本実施形態の要素は必ずしもスケール通りに示されていない。また、各図面を見やすくするために、一部の符号が省略され得る。
【0021】
<第1の実施形態>
本実施形態では、1つの複合材料100及びその製造方法を示す。図1は、本実施形態における母材上に粒子状又はアイランド状の第1金属を分散配置する分散配置装置10の説明図である。また、図2Aは、図1のうち、母材表面の一部(Z部分)の拡大図である。図2Bは、図2Aの一例を示す母材の断面の走査電子顕微鏡(以下、SEMという)写真である。また、図3は、その母材表面上に第2金属又は第2金属合金の膜又は層(以下、便宜上、層に表現を統一する)を形成するめっき装置20の説明図である。なお、本実施形態の母材はシリコン基板102である。また、当初のシリコン基板102の二乗平均粗さ(Rq)は、0.2nmである。また、本実施形態の第1金属は金(Au)であり、その第2金属又は第2金属の合金はニッケル−リン合金(Ni−P)である。
【0022】
本実施形態では、まず、図1に示すように、母材としてのシリコン基板102が、予め5℃に調整された、モル濃度が1mmol(ミリモル)/L(リットル)のテトラクロロ金酸(HAuCl)とモル濃度が150mmol/Lのフッ化水素酸(HF)とを含有する水溶液(以下、第1溶液ともいう。)14を収めた液槽12の中に10秒間浸漬される。その結果、粒径が4nm乃至15nmの第1金属104である金(Au)が、シリコン基板102の表面上に約5.5×1011個/cmの数密度で略均一に析出していることが確認された。図4は、このときの平面視によるシリコン基板102の表面のSEM写真である。なお、本実施形態のシリコン基板102は、p型の単結晶シリコン基板であった。また、シリコン基板102は、その浸漬中、シリコン基板102の一部を覆う公知のフルオロカーボン系樹脂製保持具によって保持されているが、図を見やすくするために省略されている。シリコン基板102の保持具の省略は、以下の図3においても同様である。
【0023】
ここで、図2A及び図2Bに示すとおり、粒子状又はアイランド状に分散配置された金(Au)は、シリコン層の一部と置き換えられる置換めっき法によって配置されている。シリコン基板102の表面を詳しく調べると、金(Au)の周囲を中心に、図2Aのdの粗さで示される凹凸106が観察される。従って、本実施形態のシリコン基板表面の二乗平均粗さ(Rq)は、1.5nmである。図2Cは、第1金属104である金(Au)が粒子状又はアイランド状に分散配置された本実施形態におけるシリコン基板102の表面状態の像を、AFM(原子間力顕微鏡)装置(ビーコ社製,ナノスコープIIIa)によって観察した結果である。ここで、前述の表面粗さは、視覚的には鏡面を維持しうる程度の粗さであり、シリコン基板の表面は実質的に平坦であるといえる。なお、第1金属104である金(Au)が分散配置される前の、換言すれば、当初のシリコン基板102の表面粗さは、前述のAFM装置により約0.16nmであることが確認されている。
【0024】
第1溶液による処理後、速やかに(例えば、3時間以内に)、図3に示すように、粒子状又はアイランド状に金(Au)が分散配置された上述のシリコン基板102が、70℃に温められためっき溶液(以下、第2溶液ともいう。)24を収めた液槽22内に、無電解の環境下で300秒間浸漬される。本実施形態の第2溶液24は、金属塩である硫酸ニッケル(NiSO)と、還元剤であるホスフィン酸ナトリウム(NaHPO)とを含有する水溶液である。図5は、第2溶液24中に約300秒間浸漬した後のシリコン基板102の表面近傍の断面SEM写真である。図5に示すように、シリコン基板102上に第2金属の合金108であるニッケル−リン合金(Ni−P)の層が形成されている。
【0025】
本実施形態では、シリコン基板102の表面上に形成された粒子状又はアイランド状に分散配置された第1金属104である金(Au)が起点となって、自己触媒型無電解めっき法によって、第2金属の合金108であるニッケル−リン合金(Ni−P)がそのシリコン基板102の表面を覆うように形成されている。すなわち、当初の触媒である粒子状又はアイランド状の金(Au)がめっき材であるニッケル−リン合金(Ni−P)によって覆われてしまったとしても、そのニッケル−リン合金(Ni−P)自身が触媒の機能を発揮するために、その後も継続的にニッケル−リン合金(Ni−P)を析出させることが可能となる。その結果、シリコン基板102の表面は、ニッケル−リン合金(Ni−P)によって覆われる。
【0026】
上述の通り、自己触媒型の無電解めっき法が採用されることにより、第1金属104が起点となって第2金属又は第2金属の合金108によるめっき処理が進行する。そのため、シリコン層の表面が上述の微細な凹凸を有していた場合であっても、空隙が生じにくい第2金属又は第2金属の合金108の層が形成された複合材料100が得られる。すなわち、第1金属104が母材上に緻密に配置されていることにより、母材と第2金属又は第2金属の合金108の層との間に空隙が生じにくくなる。ここで、前述の起点としての第1金属104は、母材の表面上に3×1010個/cm以上1×1013個/cm以下の数密度で分散されていることが好ましい。起点の数密度が3×1010個/cm未満では、自己触媒型の無電解めっき法におけるめっきの始動性が劣化するという問題が生じるおそれがある一方、起点の数密度が1×1013個/cmを超えると、第2金属又は第2金属の合金の密着性が低下する可能性が高まるという問題が生じる。これらの問題点は、実質的に、後述する各実施形態にも当てはまる。
【0027】
次に、本実施形態の製造方法によって形成された複合材料100の、シリコン基板102の表面と第2金属の合金108であるニッケル−リン合金(Ni−P)の層との密着力が測定された。具体的には、図14に示す密着力測定装置40を用いて密着力の測定が行われた。なお、この測定された複合材料100のニッケル−リン合金(Ni−P)の層の厚さは約190nmであった。なお、この層の厚みは重量法によって求められた。以下の各実施形態に記載されている全ての第2金属の層又は第2金属の合金の層の厚みも同様である。
【0028】
この測定の手順は、まず、複合材料100上に非常に粘着力が高いテープ(住友スリーエム株式会社製,型式859T)42の一部を貼り付ける。次に、図14に示すように、押さえ部44を用いて押さえられたテープ42の一端を密着力測定装置40によって掴んだ後、第2金属の合金108の膜の表面に対して垂直に当該テープ42が一定速度で引き上げられる。密着力の測定は、その引き上げの際に、当該テープに加わる力をデジタルフォースゲージ(株式会社イマダ製,DPS−5R)で読み取ることによって行われた。
【0029】
その測定の結果、本実施形態の複合材料100の、密着力は、1484J/mよりも高いことが分かった。つまり、上述の粘着テープによっても、ニッケル−リン合金(Ni−P)の層はシリコン表面から剥離しなかった。従って、本実施形態の複合材料100の密着力が非常に高いことが確認された。
【0030】
ところで、上述の粒子状又はアイランド状に金(Au)が分散配置されたシリコン基板102自身の表面の粗さが、複合材料100における密着性に少なからず影響を及ぼしているものと考えられる。しかし、実質的に平坦ともいえる母材の表面粗さであっても、高い密着性を示す複合材料が得られる点、及び既に発明者らが提案している非貫通孔の形成工程を不要とした点は特筆に値する。
【0031】
加えて、本実施形態では、上述の図1及び図3に示す工程の全てが無電解工程で行われている。従って、本実施形態は、汎用性の高い母材を用いた上で量産性の高いめっき法を適用していることに加え、電解めっき法で要求される電極や電源等の設備も不要となるためコスト面でも非常に有利である。
【0032】
<第1の実施形態の変形例1>
本実施形態の複合材料は、第1溶液14内に浸漬されるシリコン基板102の時間が1秒間であること、及びめっき膜の膜厚が約120nmあること以外は、第1の実施形態のそれと同じである。従って、第1の実施形態と重複する説明は省略され得る。なお、図11は、シリコン基板の表面上に第1金属104である金(Au)が分散配置された状態を、AFM(原子間力顕微鏡)装置(ビーコ社製、ナノスコープIIIa)によって観察した結果である。
【0033】
本実施形態の複合材料のシリコン基板102の表面の二乗平均粗さ(Rq)は、約1.1nmであった。また、本実施形態の複合材料の密着力は1484J/mよりも高いことが分かった。つまり、二乗平均粗さ(Rq)が1.1nmしかない場合であっても、第1の実施形態の複合材料100の密着力と同等の密着力が確認された。
【0034】
<第1の実施形態の変形例2>
本実施形態の複合材料は、第1溶液14内及び第2溶液24内に浸漬されるシリコン基板102の時間が120秒間であること、及びめっき膜の膜厚が約100nmであること以外は、第1の実施形態のそれと同じである。従って、第1の実施形態と重複する説明は省略され得る。なお、図12は、シリコン基板102の表面上に第1金属104が分散配置された状態を示すSEM写真である。また、図13は、シリコン基板102の表面上に第1金属104である金(Au)が分散配置された状態を、AFM装置(ビーコ社製、ナノスコープIIIa)によって観察した結果である。
【0035】
本実施形態の複合材料のシリコン基板102の表面の二乗平均粗さ(Rq)は、約1.6nmであった。また、本実施形態の複合材料の密着力は1484J/mよりも高いことが分かった。つまり、めっき膜の膜厚が極めて薄い膜といえる100nmであっても、第1の実施形態の複合材料100の密着力と同等の密着力が確認された。
【0036】
ここで、当初のシリコン基板102の表面粗さを考慮すれば、第1金属である金(Au)が分散配置される前のシリコン基板102の表面の二乗平均粗さ(Rq)に対するその金(Au)が分散配置されたシリコン基板102の表面の二乗平均粗さ(Rq)の増分が、0.9nm以上1.5nm以下であれば、第1の実施形態の複合材料100の密着力と同等の密着力が得られるといえる。なお、第1の実施形態及びその変形例では、表面粗さが約0.16nmのシリコン基板が当初の基板として採用されているが、第1の実施形態において得られた効果は当初の基板の表面粗さによって限定されるものではない。例えば、表面の二乗平均粗さ(Rq)が数百nmとなるようなシリコン基板が当初の基板として採用されても、第1の実施形態の複合材料100の密着力と略同等の密着力が達成され得る。これは、後述するように、最上層に多結晶シリコン層や微結晶シリコン層を備えた母材であっても良好な密着性を備えた複合材料が得られていることによって裏づけられる。
【0037】
<第1の実施形態の比較例>
特開2005−248287号公報に記載されている「二液法」によりニッケル−リン合金(Ni−P)の層をめっき材として製造した複合材料の密着性と、第1の実施形態により製造された複合材料100の密着性が比較された。なお、比較例としての二液法では、室温に調整されたセンシダイジング液中の120秒間の浸漬と、室温に調整されたアクチベーティング液中の60秒間の浸漬がめっきを行うための前処理として施された。めっき浴は、第1の実施形態の第2溶液24と同じである。また、センシダイジング液は、0.89mMの塩化第1錫(SnCl)と0.057Mの塩酸(HCl)から構成されている。また、アクチベーティング液は、塩化パラジウム(PdCl)と塩酸(HCl)から構成されている。
【0038】
二液法によって製造された複合材料におけるニッケル−リン合金(Ni−P)の層の厚みは220nmであったが、外観上、第1の実施形態のそれよりも美感的に劣っていた。また、第1の実施形態で用いたテープ(住友スリーエム株式会社製,型式859T)よりも密着性の低いテープ(ニチバン株式会社製,型式CT−18)を用いて密着性を調べた結果、めっき層のうち約半分(50%)が剥がれた。従って、二液法によるニッケル−リン合金(Ni−P)の層をめっき材として製造した複合材料の密着力は、426J/m以下の領域が存在することが確認された。
【0039】
<第2の実施形態>
本実施形態の複合材料200は、コバルト−ニッケル−ホウ素合金(Co−Ni−B)をめっき材として、その層が母材であるシリコン基板102の表面上に形成されたものである。但し、本実施形態の複合材料200の製造方法は、一部の条件を除いて第1の実施形態のそれと同じである。従って、第1の実施形態と重複する説明は省略され得る。
【0040】
本実施形態でも、図1に示す分散配置装置10の装置構成を用いて、シリコン基板102の表面上に第1金属である金(Au)を分散配置した。具体的には、第1の実施形態と同様に、予め5℃に調整された、モル濃度が1mmol(ミリモル)/L(リットル)のテトラクロロ金酸(HAuCl)とモル濃度が150mmol/Lのフッ化水素酸(HF)とを含有する水溶液が本実施形態の第1溶液14として採用される。なお、本実施形態においても、第1の実施形態と同様、金(Au)の周囲を中心に、図2Aのdの粗さで示される凹凸106が観察される。本実施形態のシリコン基板102の表面の二乗平均粗さ(Rq)は、1.1nm乃至1.6nmである。前述の表面粗さは、視覚的には鏡面を維持しうる程度の粗さであり、シリコン基板の表面は実質的に平坦であるといえる。
【0041】
第1溶液14による処理後、速やかに(例えば、3時間以内に)、図3に示すように、粒子状又はアイランド状に第1金属104である金(Au)が分散配置された上述のシリコン基板102が、めっき溶液(以下、第2溶液ともいう。)24を収めた液槽22内に無電解の環境下で約300秒間浸漬される。本実施形態の第2溶液24は、金属塩である硫酸コバルト(CoSO)及び硫酸ニッケル(NiSO)と、還元剤であるジメチルアミンボラン(DMAB)とを含有する水溶液である。上述の処理の結果、シリコン基板102の表面上に、コバルト−ニッケル−ホウ素合金(Co−Ni−B)がほぼ空隙を生じさせることなく形成される。なお、本実施形態において、コバルトは、百分率(重量%)において約90%含まれ、ニッケルは、百分率(重量%)において約6%含まれ、ホウ素は、百分率(重量%)において約4%含まれる。
【0042】
上述のとおり、本実施形態においても、粒子状又はアイランド状に金(Au)が起点となり、自己触媒型無電解めっき法によって、第2金属の合金208であるコバルト−ニッケル−ホウ素合金(Co−Ni−B)がシリコン基板102の表面を覆うように形成される。その結果、シリコン基板102の表面との密着性の高い第2金属の合金208であるコバルト−ニッケル−ホウ素合金(Co−Ni−B)の層が形成される。図6は、本実施形態の複合材料200の断面SEM写真である。図6から、第2金属の合金208であるコバルト−ニッケル−ホウ素合金(Co−Ni−B)の層がシリコン表面を覆っている状況が観察される。
【0043】
ここで、本実施形態の製造方法によって形成された複合材料200の、シリコン基板102の表面と第2金属の合金208であるコバルト−ニッケル−ホウ素合金(Co−Ni−B)の層との密着力が測定された。具体的には、本実施形態の製造方法で作製した複合材料200の密着力が、第1の実施形態と同じ測定方法により測定された。
【0044】
その測定の結果、本実施形態の複合材料200における第2金属の合金208であるコバルト−ニッケル−ホウ素合金(Co−Ni−B)の層の剥離が確認されなかった。すなわち、この複合材料200における第2金属の合金208であるコバルト−ニッケル−ホウ素合金(Co−Ni−B)の層の密着力は、1317J/mよりも高いことが分かった。従って、本実施形態の複合材料200の密着力が非常に高いことが確認された。なお、本実施形態において、複合材料200の密着力が第1の実施形態の際の密着力の値と異なった理由は現段階で明らかではないが、めっき膜である第2金属の合金の材料の違いによるものと考えられる。しかし、たとえ1317J/mを超える密着力であっても、複合材料200が非常に密着性の高い複合材料であることには変わりない。
【0045】
加えて、第1の実施形態と同様、本実施形態も上述の全ての工程が無電解工程で行われるため、電解めっき法で要求される電極や電源等の設備も不要となる。また、自己触媒型の無電解めっき法により、第2金属の合金208によるめっき処理の際に、粒子状又はアイランド状の第1金属104が起点となるため、シリコン基板102の表面の凹凸による空隙が形成されにくい層の形成が可能となる。
【0046】
<第2の実施形態の比較例>
本実施形態においても、上述の「二液法」によりコバルト−ニッケル−ホウ素合金(Co−Ni−B)の層をめっき材として製造した複合材料の密着性と、第2の実施形態により製造された複合材料200の密着性が比較された。その結果、めっき層を形成する際に、めっき材が割れと剥離が発生したため、そもそも均一な第2金属の合金を形成することが出来なかった。
【0047】
<第3の実施形態>
本実施形態の複合材料300は、ニッケル−ホウ素合金(Ni−B)をめっき材として、その層が母材であるシリコン基板102の表面上に形成されたものである。但し、本実施形態の複合材料300の製造方法は、一部の条件を除いて第1の実施形態のそれと同じである。従って、第1の実施形態と重複する説明は省略され得る。
【0048】
まず、本実施形態でも、図1に示す分散配置装置10の装置構成が用いられる。具体的には、第1の実施形態と同様に、予め5℃に調整されたモル濃度が1mmol(ミリモル)/L(リットル)のテトラクロロ金酸(HAuCl)とモル濃度が150mmol/Lのフッ化水素酸(HF)とを含有する水溶液が本実施形態の第1溶液14として採用される。なお、本実施形態においても、第1の実施形態と同様、金(Au)の周囲を中心に、図2Aのdの粗さで示される凹凸106が観察される。本実施形態のシリコン基板102の表面の二乗平均粗さ(Rq)は、1.1nm乃至1.6nmである。前述の表面粗さは、視覚的には鏡面を維持しうる程度の粗さであり、シリコン基板102の表面は実質的に平坦であるといえる。
【0049】
その後、速やかに(例えば、3時間以内に)、図3に示すように、第1金属104である金(Au)が粒子状又はアイランド状に分散配置されたシリコン基板102が、第1の実施形態の装置と同じめっき装置20を用いて第2溶液24中に約180秒間浸漬される。なお、本実施形態の第2溶液24は、金属塩である硫酸ニッケル(NiSO)と、還元剤であるジメチルアミンボラン(DMAB)とを含有する水溶液である。
【0050】
上述の製造工程を経ることにより、粒子状又はアイランド状に金(Au)が起点となり、自己触媒型無電解めっき法によって、第2金属の合金308であるニッケル−ホウ素合金(Ni−B)がシリコン基板102の表面を覆うように形成される。その結果、シリコン基板102の表面との密着性の高い第2金属の合金308であるニッケル−ホウ素合金(Ni−B)の層が形成される。図7は、本実施形態の複合材料300の断面SEM写真である。図7から、第2金属の合金308であるニッケル−ホウ素合金(Ni−B)の層がシリコン表面を覆っている状況が観察される。
【0051】
次に、本実施形態の製造方法によって形成された複合材料300の、シリコン基板102の表面と第2金属の合金308であるニッケル−ホウ素合金(Ni−B)の層との密着力が測定された。具体的には、JIS H8504めっきの密着性試験方法に準拠した方法により、本実施形態の複合材料300について定性的な密着性が調べられた。但し、複合材料300上には、JIS Z1522セロハン粘着テープ(ニチバン株式会社製テープ(型式CT−18)に相当)の代わりに、非常に粘着力が高いテープ(住友スリーエム株式会社製,型式859T)が採用された。
【0052】
その試験の結果、本実施形態の複合材料300の剥離が確認されなかった。従って、本実施形態の複合材料300のニッケル−ホウ素合金(Ni−B)の層の密着力は、1317J/mよりも高いことが分かった。すなわち、本実施形態の複合材料300の密着力が非常に高いことが確認された。
【0053】
<第3の実施形態の比較例>
本実施形態においても、上述の「二液法」によりニッケル−ホウ素合金(Ni−B)の層をめっき材として製造した複合材料の密着性と、第3の実施形態により製造された複合材料300の密着性が比較された。その結果、めっき層を形成する際に、めっき材が割れと剥離が発生したため、そもそも均一な第2金属の合金を形成することが出来なかった。
【0054】
ところで、上述の各実施形態では、第2金属の合金が、ニッケル−リン合金(Ni−P)、ニッケル−ホウ素合金(Ni―B)、及びコバルト−ニッケル−ホウ素合金(Co−Ni−B)であったが、これに限定されない。例えば、コバルト−リン合金(Co−P)、コバルト−ホウ素合金(Co−B)、ニッケル−リン合金(Ni−P)、ニッケル(Ni)、Co(コバルト)又は銅(Cu)をめっき材として採用することが可能である。
【0055】
例えば、第2溶液24として、金属塩である硫酸コバルト(CoSO)と還元剤であるジメチルアミンボラン(DMAB)とを含有する水溶液が採用される場合、実質的に第2金属としてのコバルト(Co)がシリコン基板102の表面を覆うように形成される。ここで、このめっき材は、実質的にはコバルト(Co)であるといえるが、極めて正確に表現すれば、ホウ素が原子百分率(atom%)において略0%乃至約0.2%であるコバルト−ホウ素合金(Co−B)であるともいえる。
【0056】
従って、上述の各実施形態と同様に、自己触媒型めっき法により、シリコン基板の表面上に、種々の第2金属又は第2金属の合金の層がそのシリコン基板の表面を覆うように形成される。
【実施例】
【0057】
表1は、上述の各実施形態及び前述の第1金属とめっき材(すなわち、第2金属又は第2金属の合金)との組合せにより構成される各複合材料の密着性の測定結果の例を示している。なお、表1において、ニッケル−リン合金(Ni−P)、ニッケル−ホウ素合金(Ni―B)、及びコバルト−ニッケル−ホウ素合金(Co−Ni−B)については、上述の密着力測定装置40を用いて測定され、前述のめっき材以外のめっき材の複合材料の測定は、JIS H8504めっきの密着性試験方法に準拠した方法によって行われた。
【0058】
また、表1において、W列は、JIS Z1522セロハン粘着テープ(ニチバン株式会社製テープ(型式CT−18)に相当)を用いて上述の密着力測定装置40により測定された結果を示している。このテープのめっき材に対する密着力は426J/mである。また、M列は、住友スリーエム株式会社製テープA(型式3305)を用いて測定された結果を示している。このテープの密着力は768J/mである。また、S列は、住友スリーエム株式会社製テープB(型式859T)を用いて測定された結果を示している。このテープの密着力は1317J/m又は1484J/mである。加えて、表中の丸印は、該当するテープを用いて複合材料のめっき材が剥離しなかったことを示し、表中のクロス(X)印は、該当するテープを用いて複合材料のめっき材が母材との間で剥離したことを示す。
【表1】

【0059】
表1に示すとおり、めっき材が、コバルト−ニッケル−リン合金(Co−Ni−P)である場合を除いて、いずれの複合材料の密着力も、1317J/m又は1484J/mを超える高い密着性を備えていることが確認された。また、コバルト−ニッケル−リン合金(Co−Ni−P)の場合であっても、少なくともその密着力は、426J/mよりも高いことが分かった。従って、表1に示すめっき材が形成された複合材料の全ては、非常に良好な密着性を備えていることがわかる。
【0060】
ところで、上述の各実施形態では、母材が単結晶シリコン基板であったが、これに限定されない。すなわち、粒子状又はアイランド状の金(Au)が分散配置される対象は、シリコン基板に限定されない。最上層として単結晶シリコン層、多結晶シリコン層、微結晶シリコン層、あるいはアモルファスシリコン層が形成されていれば、母材の素地は特に限定されない。より具体的には、その最上層が、単結晶シリコン層、多結晶シリコン層、微結晶シリコン層、あるいはアモルファスシリコン層の群から選ばれる少なくとも1つの材料から基本的に構成される層であれば、本発明の効果と同様の効果が奏される。
【0061】
<第4の実施形態>
本実施形態では、もう1つの複合材料400及びその製造方法を示す。但し、本実施形態の複合材料400の製造方法は、母材を除いて第1の実施形態のそれと同じである。従って、第1の実施形態と重複する説明は省略され得る。
【0062】
本実施形態の母材402は、多結晶シリコン基板である。本実施形態でも、図1に示す分散配置装置10の装置構成を用いて、母材402の表面上に第1金属404である金(Au)を分散配置した。具体的には、第1の実施形態と同様に、予め5℃に調整された、モル濃度が1mmol(ミリモル)/L(リットル)のテトラクロロ金酸(HAuCl)とモル濃度が150mmol/Lのフッ化水素酸(HF)を含有する第1溶液14を収めた液槽12の中に10秒間浸漬される。なお、本実施形態の多結晶シリコン基板は、n型であった。
【0063】
第1溶液14による処理後、速やかに(例えば、3時間以内に)、図3に示すように、粒子状又はアイランド状に金(Au)が分散配置された上述の母材402が、めっき溶液(以下、第2溶液ともいう。)24を収めた液槽22内に無電解の環境下で約300秒間浸漬される。本実施形態の第2溶液24は、金属塩である硫酸ニッケル(NiSO)と、還元剤であるホスフィン酸ナトリウム(NaHPO)とを含有する水溶液である。図8は、第2溶液24中に約300秒間浸漬した後の母材402の表面近傍の断面SEM写真である。図8に示すように、母材402上に第2金属の合金408であるニッケル−リン合金(Ni−P)の層が形成されている。
【0064】
本実施形態では、母材402の表面上に形成された粒子状又はアイランド状に分散配置された第1金属404である金(Au)が起点となって、自己触媒型無電解めっき法によって、第2金属の合金408であるニッケル−リン合金(Ni−P)の層が、母材402の表面を覆うように形成されている。すなわち、当初の触媒である粒子状又はアイランド状の金(Au)がめっき材であるニッケル−リン合金(Ni−P)の層によって覆われてしまったとしても、その層自身が触媒の機能を発揮するために、その後も継続的にニッケル−リン合金(Ni−P)の層を析出させることが可能となる。その結果、母材402の表面は、ニッケル−リン合金(Ni−P)の層によって覆われる。
【0065】
上述の通り、自己触媒型の無電解めっき法が採用されることにより、第1金属が起点となって第2金属又は第2金属の合金408によるめっき処理が進行する。そのため、母材表面上に多結晶シリコンの比較的大きい凹凸が存在している場合であっても、空隙が生じにくい第2金属又は第2金属の合金408の層が形成された複合材料400が得られる。
【0066】
次に、本実施形態の製造方法によって形成された複合材料400の、母材402の表面と第2金属408であるニッケル−リン合金(Ni−P)の層との密着力が測定された。具体的には、第1の実施形態と同じ密着力測定装置40を用いて密着力の測定が行われた。なお、この複合材料400のニッケル−リン合金(Ni−P)の層の厚さは約280nmであった。
【0067】
その測定の結果、本実施形態の複合材料400のニッケル−リン合金(Ni−P)の層の剥離が確認されるよりも前に、母材402である多結晶シリコン基板が破断した又は割れた。従って、本実施形態の複合材料400のニッケル−リン合金(Ni−P)の層の密着力は、母材402が破断する又は割れる際の測定値である707J/mよりも高いことが分かった。従って、本実施形態の複合材料400の密着力が非常に高いことが確認された。
【0068】
<第4の実施形態の比較例>
本実施形態においても、上述の「二液法」によりニッケル−リン合金(Ni−P)の層をめっき材として製造した複合材料の密着性と、第4の実施形態により製造された複合材料400の密着性が比較された。
【0069】
二液法によって製造された複合材料における約300nm厚のニッケル−リン合金(Ni−P)の層の密着性が、密着性の低いテープ(ニチバン株式会社製,型式CT−18)を用いて調べられた。その結果、めっき層の殆ど(90%)が剥がれた。さらに、二液法によって製造された同質の別の試験片を用いて複合材料の密着力が、図14に示す密着力測定装置40によって測定された。その結果、めっき層である第2金属の合金408と母材402との界面での完全な剥離が確認され、そのときの密着力の最大値が300J/mのであった。従って、二液法によるニッケル−リン合金(Ni−P)の層をめっき材として製造した複合材料の密着力は、300J/m以下であることが確認された。
【0070】
ところで、本実施形態では、第2金属の合金408としてニッケル−リン合金(Ni−P)が採用されているが、これに限定されない。第2溶液24の金属塩と還元剤を適宜選定することにより、第1乃至第4実施形態並びに表1に示す第2金属層又は第2金属の合金の層を備えた密着力の高い複合材料が得られる。さらに、本実施形態では、多結晶シリコン基板が採用されているが、これに限定されない。例えば、下地にシリコン酸化物を備えた基板を採用し、その表面上に、公知のCVD法によって形成された多結晶シリコン層を有している母材が採用されても、多結晶シリコン層と第2金属層又は第2金属の合金の層との間の高い密着力が得られる。また、多結晶シリコン層がp型であっても、実質的に本実施形態の効果と同様の効果が奏される。
【0071】
本実施形態においても、上述の図1及び図3に示す工程の全てが無電解工程で行われている。従って、本実施形態は、汎用性の高い多結晶シリコンを備えた母材を用いた上で量産性の高いめっき法を適用していることに加え、電解めっき法で要求される電極や電源等の設備も不要となるためコスト面でも非常に有利である。
【0072】
<第5の実施形態>
本実施形態では、もう1つの複合材料500及びその製造方法を示す。但し、本実施形態の複合材料500の製造方法は、母材を除いて第1の実施形態のそれと同じである。従って、第1の実施形態と重複する説明は省略され得る。
【0073】
本実施形態の母材502は、下地にグラッシーカーボンを採用し、その表面上に、水素化微結晶シリコン層(n型微結晶炭化シリコン(SiC)層25nmとi型微結晶シリコン層2〜3μmとの積層構造)を有している。本実施形態でも、図1に示す分散配置装置10の装置構成を用いて、母材502の表面上に第1金属504である金(Au)を分散配置した。具体的には、第1の実施形態と同様に、予め5℃に調整された、モル濃度が1mmol(ミリモル)/L(リットル)のテトラクロロ金酸(HAuCl)とモル濃度が150mmol/Lのフッ化水素酸(HF)を含有する第1溶液14を収めた液槽12の中に10秒間浸漬される。
【0074】
第1溶液14による処理後、速やかに(例えば、3時間以内に)、図3に示すように、粒子状又はアイランド状に金(Au)が分散配置された上述の母材502が、めっき溶液(以下、第2溶液ともいう。)を収めた液槽22内に無電解の環境下で約300秒間浸漬される。本実施形態の第2溶液24は、金属塩である硫酸ニッケル(NiSO)と、還元剤であるホスフィン酸ナトリウム(NaHPO)とを含有する水溶液である。図9は、第2溶液24中に約300秒間浸漬した後の母材502の表面近傍の断面SEM写真である。図9に示すように、母材502上に第2金属の合金508であるニッケル−リン合金(Ni−P)の層が形成されている。
【0075】
本実施形態では、母材502の表面上に形成された粒子状又はアイランド状に分散配置された第1金属504である金(Au)が起点となって、自己触媒型無電解めっき法によって、第2金属の合金508であるニッケル−リン合金(Ni−P)の層が、母材502の表面を覆うように形成されている。すなわち、当初の触媒である粒子状又はアイランド状の金(Au)がめっき材であるニッケル−リン合金(Ni−P)の層によって覆われてしまったとしても、その層自身が触媒の機能を発揮するために、その後も継続的にニッケル−リン合金(Ni−P)の層を析出させることが可能となる。その結果、母材502の表面は、ニッケル−リン合金(Ni−P)の層によって覆われる。
【0076】
上述の通り、自己触媒型の無電解めっき法が採用されることにより、第1金属504が起点となって第2金属又は第2金属の合金508によるめっき処理が進行する。そのため、母材表面上に微結晶シリコンのように比較的大きい凹凸が存在している場合であっても、空隙が生じにくい第2金属又は第2金属の合金508の層が形成された複合材料500が得られる。図10は、本実施形態の微結晶シリコン層上に第1金属504が粒子状又はアイランド状に分散配置された状態を示すAFM像である。なお、母材502の比較的大きな表面粗さの影響により、第1金属504の位置の特定が困難であるため、図10中、第1金属504は具体的に示されていない。図10に示すように、第1金属504が分散配置された微結晶シリコン層の表面の二乗平均粗さ(Rq)は、約22.2nmであり、第1の実施形態のシリコン基板102のそれの約140倍である。
【0077】
次に、本実施形態の製造方法によって形成された複合材料500の、母材502の表面と第2金属508であるニッケル−リン合金(Ni−P)の層との密着力が測定された。具体的には、JIS H8504めっきの密着性試験方法に準拠した方法により、本実施形態の複合材料500について定性的な密着性が調べられた。但し、複合材料500上には、JIS Z1522セロハン粘着テープ(ニチバン株式会社製テープ(型式CT−18)に相当)の代わりに、非常に粘着力が高いテープ(住友スリーエム株式会社製,型式859T)が採用された。なお、この複合材料500のニッケル−リン合金(Ni−P)の層の厚さは約180nmであった。
【0078】
その試験の結果、本実施形態の複合材料500の剥離が確認されなかった。従って、本実施形態の複合材料500のニッケル−リン合金(Ni−P)の層の密着力は、1484J/mよりも高いことが分かった。すなわち、本実施形態の複合材料500の密着力が非常に高いことが確認された。
【0079】
ところで、本実施形態では、第2金属508としてニッケル−リン合金(Ni−P)が採用されているが、これに限定されない。第2溶液24の金属塩と還元剤を適宜選定することにより、第1乃至第4実施形態並びに表1に示す第2金属又は第2金属の合金の層を備えた密着力の高い複合材料が得られる。さらに、本実施形態では、下地にグラッシーカーボンを採用し、その表面上に微結晶シリコン層を有している母材が採用されているが、これに限定されない。例えば、下地がガラス又はガラス上に形成された透明導電膜である微結晶シリコン層と第2金属層又は第2金属の合金の層との間にも、高い密着力が得られる。
【0080】
本実施形態においても、上述の図1及び図3に示す工程の全てが無電解工程で行われている。従って、本実施形態は、汎用性の高い微結晶シリコンを備えた母材を用いた上で量産性の高いめっき法を適用していることに加え、電解めっき法で要求される電極や電源等の設備も不要となるためコスト面でも非常に有利である。
【0081】
ところで、上述の各実施形態では、第1溶液にフッ化水素酸が含有されていたが、これに限定されない。例えば、フッ化水素酸の代わりにフッ化アンモニウム(NHF)が用いられても本発明の効果と略同様の効果が奏される。すなわち、フッ化物イオンが含有されている溶液を用いることにより、本発明の効果と略同様の効果が奏される。
【0082】
また、上述の各実施形態の説明の中では述べていないが、第2金属又は第2金属の合金の層中には、第2金属又は第2金属の合金の他に、ごく微量ではあるが、炭素(C)、酸素(O)、水素(H)、若しくは、例えば、めっき浴に含有されるホルマリンやサッカリン等の添加物、又は前述の各物質の分解生成物が不純物として含まれ得る。以上、述べたとおり、本発明の範囲内に存在する変形例もまた、特許請求の範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、機能性複合材料の要素技術として広範に利用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の1つの実施形態における粒子状又はアイランド状の第1金属を分散配置する分散配置装置の説明図である。
【図2A】図1の一部(Z部分)の拡大図(模式図)である。
【図2B】図2Aの一例を示す第1金属が分散配置された状態の単結晶シリコン基板の断面SEM写真である。
【図2C】本発明の1つの実施形態における単結晶シリコン基板上に第1金属が分散配置された状態のAFM像である。
【図3】本発明の1つの実施形態における単結晶シリコン基板上に第2金属又は第2金属の合金のめっき装置の説明図である。
【図4】本発明の1つの実施形態における単結晶シリコン基板上に第1金属が分散配置された状態を示す平面視によるSEM写真である。
【図5】本発明の1つの実施形態における複合材料を示す断面SEM写真である。
【図6】本発明の他の実施形態における複合材料を示す断面SEM写真である。
【図7】本発明の他の実施形態における複合材料を示す断面SEM写真である。
【図8】本発明の他の実施形態における複合材料を示す断面SEM写真である。
【図9】本発明の他の実施形態における複合材料を示す断面SEM写真である。
【図10】本発明の他の実施形態における微結晶シリコン層上に第1金属が粒子状又はアイランド状に分散配置された状態を示すAFM像である。
【図11】本発明の他の実施形態における単結晶シリコン基板上に第1金属が粒子状又はアイランド状に分散配置された状態を示すAFM像である。
【図12】本発明の他の実施形態における単結晶シリコン基板上に第1金属が分散配置された状態を示すSEM写真である。
【図13】本発明の他の実施形態における単結晶シリコン基板上に第1金属が粒子状又はアイランド状に分散配置された状態を示すAFM像である。
【図14】本発明の1つの実施形態におけるめっき材の密着力測定装置の概要図である。
【符号の説明】
【0085】
10 分散配置装置
12,22 液槽
14 第1溶液
20 めっき装置
24 第2溶液
40 密着力測定装置
42 テープ
44 押さえ部
100,200,300,400,500 複合材料
102 シリコン基板
104,404,504 第1金属
106 凹凸
108,208,308,408,508 第2金属又は第2金属の合金
402,502 母材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも最上層にシリコン層が形成されている母材の表面を金(Au)のイオンを含有する第1溶液に浸漬することにより、前記母材の表面上に前記シリコン層の一部と置き換えられた粒子状又はアイランド状の前記金(Au)を分散配置する分散配置工程と、
前記金(Au)が触媒活性を示す還元剤及び前記還元剤により還元され得る金属のイオンを含有する第2溶液に浸漬することにより、前記金(Au)を起点として、前記母材の表面が、自己触媒型無電解めっき法により形成された前記金属又は前記金属の合金によって覆われるめっき工程とを含む
複合材料の製造方法。
【請求項2】
前記起点が、前記母材表面上に3×1010個/cm以上1×1013個/cm以下の数密度で分散された粒子状又はアイランド状の金(Au)である
請求項1に記載の複合材料の製造方法。
【請求項3】
前記シリコン層が単結晶シリコンであるとともに、前記金(Au)が配置された前記母材表面の二乗平均粗さ(Rq)が、1.1nm以上1.6nm以下である
請求項1に記載の複合材料の製造方法。
【請求項4】
前記シリコン層が単結晶シリコンであるとともに、前記金(Au)が配置された前記母材における前記母材表面が、実質的に平坦である
請求項1に記載の複合材料の製造方法。
【請求項5】
前記シリコン層が、多結晶シリコン、微結晶シリコン、及びアモルファスシリコンの群から選ばれる少なくとも1つの材料から基本的に構成される層である
請求項1に記載の複合材料の製造方法。
【請求項6】
前記金(Au)が分散配置される前の前記母材表面の二乗平均粗さ(Rq)に対する前記金(Au)が分散配置された前記母材表面の二乗平均粗さ(Rq)の増分が、0.9nm以上1.5nm以下である
請求項1に記載の複合材料の製造方法。
【請求項7】
少なくとも最上層にシリコン層が形成されている母材の表面上に、前記シリコン層の一部と置き換えられて配置された粒子状又はアイランド状の金(Au)が起点となって、前記母材の表面が、自己触媒型無電解めっき法により形成された、前記金(Au)が触媒活性を示す金属又は前記金属の合金で覆われている
複合材料。
【請求項8】
前記起点が、前記母材表面上に3×1010個/cm以上1×1013個/cm以下の数密度で分散された粒子状又はアイランド状の金(Au)である
請求項7に記載の複合材料。
【請求項9】
前記シリコン層が単結晶シリコンであるとともに、前記金(Au)が配置された前記母材表面の二乗平均粗さ(Rq)が、1.1nm以上1.6nm以下である
請求項7に記載の複合材料。
【請求項10】
前記シリコン層が多結晶シリコン、微結晶シリコン、及びアモルファスシリコンの群から選ばれる少なくとも1つの材料から基本的に構成される層である
請求項7に記載の複合材料。
【請求項11】
前記金(Au)が分散配置される前の前記母材表面の二乗平均粗さ(Rq)に対する前記金(Au)が分散配置された前記母材表面の二乗平均粗さ(Rq)の増分が、0.9nm以上1.5nm以下である
請求項7に記載の複合材料。
【請求項12】
少なくとも最上層にシリコン層が形成されている母材の表面を金(Au)のイオンを含有する第1溶液に浸漬することにより、前記母材の表面上に前記シリコン層の一部と置き換えられた粒子状又はアイランド状の前記金(Au)を分散配置する分散配置装置と、
前記金(Au)が触媒活性を示す還元剤及び前記還元剤により還元され得る金属のイオンを含有する第2溶液に浸漬することにより、前記金(Au)を起点として、前記母材の表面を、自己触媒型無電解めっき法により形成された前記金属又は前記金属の合金によって覆うめっき装置とを備える
複合材料の製造装置。

【図1】
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【図2A】
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【図3】
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【図14】
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【図2B】
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【図2C】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−47790(P2010−47790A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−211184(P2008−211184)
【出願日】平成20年8月19日(2008.8.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1.平成20年3月28日に掲載された 1)http://jstore.jst.go.jp/cgi−bin/other/search/quick_search.cgi?keyword=%C8%AC%BD%C5%p_keyword=&bind=5&check_prompt=on&check_patent=on&check_foreign=on&check_seeds=on&check_r 2)http://jstore.jst.go.jp/cgi−bin/prompt/detail_print.cgi?prompt_id=6169 3)http://jstore.jst.go.jp/cgi−bin/prompt/detail_print.cgi?prompt_id=6170 2.平成20年3月29日付社団法人電気化学会発行の電気化学会第75回大会 講演要旨集 3.平成20年7月18日に掲載された 1)http://ecsmeet2.peerx−press.org/jsp/mas/reportTechProg.jsp?MEETING_ID=101&SYM_ID=102 2)http://ecsmeet2.peerx−press.org/ms_files/ecsmeet2/2008/05/30/00003187/00/3187_0_art_1_k1q8g6.pdf
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】