説明

複合濾材及び複合濾材の製造方法

【課題】本発明の課題は、濾過された気体中に半導体等の電子産業分野における製品の性能悪化を招く硼素がほとんど含まれず、焼却により減量が可能であり、且つプリーツ加工適性が優れたエアフィルタ用濾材を提供することを目的とする。
【解決手段】上流側濾材層と下流側濾材層の2層で構成された複合濾材であって、上流側濾材層と下流側濾材層の両層に示差走査熱量分析(DSC)で測定した融点が50〜170℃である熱融着性繊維を含み、少なくとも下流側濾材層には平均繊維径が0.1〜2μmであり、酸化硼素含有率が0.1質量%以下であるアルカリシリカガラス繊維を含有し、該熱融着性繊維と該アルカリシリカガラス繊維、又は該熱融着性繊維同士の少なくとも一部が熱融着されている複合濾材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気中の粉塵を捕集するエアフィルタ濾材に関するものであり、特に半導体工場などのクリーンルームで使用されるエアフィルタ用途に関するものである。さらに焼却による廃棄物の減量を考慮した濾材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
クリーンルームに使用されるエアフィルタ濾材は、主体繊維として硼珪酸ガラスからなる極細のガラス繊維が使用されている。これらガラス繊維には、繊維単体に強度を付与させる目的で、硼素(B)が配合されている。一方、近年の半導体製造工程ではLSIの集積度向上に伴い、クリーンルームを構成するエアフィルタやその他構成部材から発生するppt〜ppbオーダーの微量ガス成分が問題となっている。硼珪酸ガラス繊維を使用しているエアフィルタ濾材では、濾材中を気体が通過する際、硼珪酸ガラス繊維中の硼素が離脱し、クリーンルーム中で製造しているシリコンウエハーやガラス基板上に付着し、半導体製品の歩留まりを下げる原因となっている。これを解決する手段として、構成成分として、純水中への硼素溶出量が繊維1g当たり1.5×10-5gを超えない石英ガラス繊維を主体とし、しかも石英ガラス繊維を純水及び/又は無機性希酸で前処理した後に抄造した濾材が提案されている(特許文献1〜2)。
【0003】
一般的なエアフィルタの構成は、濾材を山谷にジグザグに折った、いわゆるプリーツ加工が施され、アルミ枠などに組み入れられる。ところが、酸化硼素(B23)の含有量が0.01質量%以下のガラス繊維は、繊維単体の強度が弱く、これを使用した濾材はプリーツ加工時に折った部分が割れたり、亀裂を生じたりして不良品となる。或いは、折り部の強度が低下しているために、長時間使用すると、通風時に風圧で折り部から濾材が裂けたり、亀裂部分からダストが漏れる危険性がある。そのため、B23の含有量が0.01質量%以下である高珪酸ガラス繊維及び有機繊維からなるエアフィルタ濾材が提案されている。しかし、高珪酸ガラス繊維と有機繊維は、それ自身の接着性はないので、湿式抄造時、バインダーを内添させるか、または、バインダー含有液に濾材を含浸させることによって、強度を付与している。そのため、バインダー量が少ないと強度が不足し、多すぎると濾材の目を塞いでしまうため、捕集効率の低下や圧力損失の増加を招き、バインダー量をコントロールすることが非常に困難であった。また、高珪酸ガラス繊維の成分はSiO2が99.8%以上であることから、非常に脆弱であり、繊維分散時やフィルタ加工時に繊維の折れが発生しやすい問題も抱えている(特許文献3)。
【0004】
高珪酸ガラス繊維以外を用いたエアフィルタとして、SiO2が70〜75質量%、(R1)2O(R1=Na、K)が15〜20質量%、(R2)23(R2=Al、Fe)が2〜5質量%、(R3)O(R3=Ca、Mg、Ba)が8〜9質量%、ZnOが0〜1質量%の組成であり、且つ、B23が0.01質量%以下であるガラス繊維と有機繊維から構成されたガラス繊維濾材が提案されている。しかし、燃焼成分量が10〜20質量%であることから、使用済みのエアフィルタユニットを廃棄する際、焼却してもあまり減量しないため、環境負荷が大きい(特許文献4)。
【0005】
半導体工場等のクリーンルームで使用されるエアフィルタ濾材には、必要に応じ、撥水性が付与される。濾材に撥水性を付与する目的としては、濾材をフィルタユニットに加工する際に使用するシール剤やホットメルト等のしみ込みを防ぐことや、濾材面に水がかかったり、温度変化により結露した場合でも、そのまま濾材を利用できるようにすること等が挙げられる。また、海が近い場所など、塩分を多く含む粒子が存在する環境下では、捕集された塩分の潮解を防ぐために、高撥水性を有する濾材が必要とされている。
【0006】
従来、ガラス繊維を主体繊維とするエアフィルタ濾材への撥水性を付与する方法としては、シリコン樹脂の使用、又は、フッ素樹脂とシリコン樹脂の併用などの方法が提案されている。しかし、この方法ではシリコン樹脂やフッ素樹脂がガラス繊維を結合させるために使用されているバインダーの接着性を阻害してしまうため、濾材の強度が低下するといった問題がある(例えば、特許文献5〜6参照)。
【0007】
また、撥水性を付与する方法として、ガラス繊維を主体繊維とするエアフィルタ濾材において、ガラス繊維表面上に、一般的な紙の製造に用いられる抄紙用サイズ剤であるアルキルケテンダイマーを付着させることにより、撥水性を付与する方法が提案されている。しかし、撥水性は満足しているものの、濾材の空隙であるミクロポアを過剰に塞いでしまうことがあり、捕集効率が低下する可能性がある。また、ガラス繊維を主体としていることから、プリーツ加工する際の折り部破損、フィルタ洗浄時の衝撃による濾材破損、廃棄物の減量といった課題は解決できていない(例えば、特許文献7〜8参照)。
【0008】
以上のように、現在のところ、空気中の粉塵の捕集効率が良好であり、濾材からのガラス繊維の脱落がなく、フィルタ加工やフィルタ洗浄の際に破損しにくく、廃棄物の減量にも配慮した濾材は未だ得られていない。また、捕集効率や濾材の強度を維持しつつ、撥水性をもたせた濾材も得られていない。
【特許文献1】特開平6−55019号公報
【特許文献2】特開平6−285318号公報
【特許文献3】特開平9−220414号公報
【特許文献4】特開2000−300919号公報
【特許文献5】特開平2−41499号公報
【特許文献6】特開平2−175997号公報
【特許文献7】国際公開第WO02/016005号パンフレット
【特許文献8】特開2004−154672号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、濾過された気体中に、半導体等の電子産業分野における製品の性能悪化を招く硼素がほとんど含まれず、ガラス繊維の脱落がなく、折り加工や洗浄時にも破損しにくく、焼却減量による減容が可能であるエアフィルタ用の複合濾材及びその製造方法を提供することである。また、水分の付着や海塩粒子の潮解による濾材の性能低下を防止する高い撥水性を有する複合濾材及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、
(1)上流側濾材層と下流側濾材層の2層で構成された複合濾材であって、上流側濾材層と下流側濾材層の両層に示差走査熱量分析(DSC)で測定した融点が50〜170℃である熱融着性繊維を含み、少なくとも下流側濾材層には平均繊維径が0.1〜2μmであり、酸化硼素含有率が0.1質量%以下であるアルカリシリカガラス繊維を含有し、該熱融着性繊維と該アルカリシリカガラス繊維、又は該熱融着性繊維同士の少なくとも一部が熱融着されている複合濾材、
(2)下流側濾材層が、熱融着性繊維を5〜80質量%、平均繊維径が0.1〜2μmであり、酸化硼素含有率が0.1質量%以下であるアルカリシリカガラス繊維を1〜50質量%、非熱融着性繊維を5〜80質量%を含有してなる上記(1)記載の複合濾材、
(3)上流側濾材層が、熱融着性繊維を5〜80質量%、非熱融着性繊維を20〜95質量%を含有してなる上記(1)又は(2)記載の複合濾材、
(4)燃焼減量率が50質量%以上である上記(1)〜(3)いずれかに記載の複合濾材、
(5)JIS B9927に規定される撥水性が1kPa以上である上記(1)〜(4)のいずれかに記載の複合濾材、
(6)少なくとも上流側濾材層が撥水性化合物を含有してなる上記(5)記載の複合濾材、
(7)上記(1)〜(5)のいずれかに記載の複合濾材を製造する方法であって、同種又は異種の抄紙ヘッドを有するコンビネーション湿式抄紙機を用いて、上流側濾材層の湿紙ウェブと下流側濾材層の湿紙ウェブとからなる積層ウェブを形成した後に、該積層ウェブを加圧しながら、熱融着性繊維の融点より10℃以上高い表面温度の熱ロールに密着させて上流側濾材層と下流側濾材層を一体化させた後に、乾燥させてなる複合濾材の製造方法、
(8)上記(6)記載の複合濾材を製造する方法であって、同種又は異種の抄紙ヘッドを有するコンビネーション湿式抄紙機を用いて、上流側濾材層の湿紙ウェブと下流側濾材層の湿紙ウェブとからなる積層ウェブを形成した後に、該積層ウェブを加圧しながら、熱融着性繊維の融点より10℃以上高い表面温度の熱ロールに密着させて上流側濾材層と下流側濾材層を一体化させ、乾燥させた後に、少なくとも上流側濾材層に撥水性化合物を付与する複合濾材の製造方法、
(9)上記(6)記載の複合濾材を製造する方法であって、同種又は異種の抄紙ヘッドを有するコンビネーション湿式抄紙機を用いて、少なくとも上流側濾材層の原料スラリー中に撥水性化合物を内添し、上流側濾材層の湿紙ウェブと下流側濾材層の湿紙ウェブとからなる積層ウェブを形成した後に、該積層ウェブを加圧しながら、熱融着性繊維の融点より10℃以上高い表面温度の熱ロールに密着させて上流側濾材層と下流側濾材層を一体化させた後に、乾燥させてなる複合濾材の製造方法を見出した。
【発明の効果】
【0011】
本発明の複合濾材は、上流側濾材層と下流側濾材層とを一体化させた複合濾材である。少なくとも下流側濾材層に平均繊維径0.1〜2μmであり、酸化硼素含有率が0.1質量%以下のアルカリシリカガラス繊維を含有させることにより、上流側濾材層で主に大粒径粉塵を、下流側濾材層で主に小粒径粉塵を順次捕捉するため、粉塵保持容量が多くなり、圧力損失も低くすることができる。また、濾過された気体中に、濾材から溶出される硼素はほとんど含有されないため、半導体工場のエアフィルタに使用した場合、硼素による性能悪化や歩留まり低下を抑制することができる。
【0012】
本発明の複合濾材は、両層に熱融着性繊維を含有させることにより、耐折強さに富み、折り加工時やフィルタ洗浄時にガラス繊維の脱落が無く、破れたりすることがない。折り部の大きさが小さいミニプリーツ加工にも対応可能である。また、熱融着性繊維と他の繊維、又は熱融着性繊維同士の少なくとも一部が熱融着されていることにより、フィルタの洗浄時に使用される洗剤に熱融着部分が冒されることがなく、繊維が形成したネットワーク構造を保持することができるため、強度や濾過性能を維持することができる。さらに、本発明の複合濾材は、焼却可能な熱融着性繊維や、場合によって焼却可能な非熱融着性繊維を含有していることから、焼却によって減量でき、少なくとも熱融着性繊維が濾材の骨格を成しているため、焼却により減容する。そのため、使用後のフィルタを処分する際、焼却処理により、廃棄物の量を減らすことができる。
【0013】
本発明の複合濾材を製造する方法では、同種又は異種の抄紙ヘッドを有するコンビネーション湿式抄紙機を用いて、上流側濾材層の湿紙ウェブと下流側濾材層の湿紙ウェブとからなる積層ウェブを形成した後に、該積層ウェブを加圧しながら、熱融着性繊維の融点より10℃以上高い表面温度の熱ロールに密着させて上流側濾材層と下流側濾材層を一体化させる。この製造方法によれば、熱融着性繊維の融着効果によって、各層内において繊維のネットワークが形成されると共に、両層間も融着させることができ、折り加工時に層間剥離等が起こりにくい、強度の高い複合濾材を得ることができる。
【0014】
本発明の複合濾材において、JIS B9927に規定される撥水性を1kPa以上とした複合濾材では、水分や塩分による濾材の性能低下を防止することができる。特に、少なくとも上流側濾材層に撥水性化合物を含有させることによって、上流側濾材層で水分や塩分の侵入を防ぐことができるため、少なくとも平均繊維径が0.1〜2μmであり、酸化硼素含有率が0.1質量%以下であるアルカリシリカガラス繊維を含有する下流側濾材層の捕集効率の低下を防ぐことができる。そのため、水分や塩分の影響を最低限に止めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳説する。本発明の複合濾材は2層からなり、上流側濾材層と下流側濾材層の両層に熱融着性繊維を含有させる。本発明の熱融着性繊維はJIS K7121に規定される示差走査熱量分析(以下、DSCという)で測定した融点が50〜170℃であり、好ましくは60〜140℃である。融点が50℃未満の場合、複合濾材が高温にさらされた場合に軟化して強度低下を招くことがあり、好ましくない。一方、170℃を超えた場合、熱融着機能を発現させるために、高温で加熱する必要があり、多くのエネルギーが必要となることから好ましくない。
【0016】
本発明の熱融着性繊維としては、単繊維のほか、芯鞘繊維(コアシェルタイプ)、並列繊維(サイドバイサイドタイプ)、放射状分割繊維などの複合繊維が挙げられる。複合繊維は、皮膜を形成しにくいので、複合濾材の空間を保持したまま、機械的強度を向上させることができる。熱融着性繊維としては、例えば、ポリプロピレンの単繊維や、ポリプロピレン(芯)とポリエチレン(鞘)の組み合わせ、ポリプロピレン(芯)とエチレンビニルアルコール(鞘)の組み合わせ、ポリプロピレン(芯)と酢酸ビニルアルコール(鞘)の組み合わせ、高融点ポリエステル(芯)と低融点ポリエステル(鞘)の組み合わせ等の複合繊維が挙げられる。また、ポリエチレン等の低融点樹脂のみで構成される単繊維(全融タイプ)や、ポリビニルアルコール系のような熱水可溶性バインダーは、複合濾材の乾燥工程で皮膜を形成し易いが、特性を阻害しない範囲で使用することができる。
【0017】
本発明の複合濾材は、含有させた熱融着繊維の溶融温度以上に温度を上げる工程を組み入れることにより、プリーツ加工される際の折り曲げに対する機械的強度が向上する。また、熱融着性繊維は複合濾材を構成する他の繊維と共に均一で緻密なネットワークを形成することにより、高い強度を有しながら、圧力損失が低く、捕集効率が高い複合濾材となる。
【0018】
本発明の熱融着性繊維の含有量は、上流側濾材層、下流側濾材層の各層において、それぞれ5〜80質量%であることが好ましく、より好ましくは10〜70質量%、更に好ましくは20〜60質量%である。熱融着性繊維の含有量が5質量%より少ないと、複合濾材の強度が低くなり、プリーツ加工時に層間剥離を生じたり、折り部が割れたりすることがある。また、80質量%を超えてしまうと、熱融着性繊維と他の繊維、又は熱融着性繊維同士の熱融着点が不必要に多くなり、圧力損失が高まり、フィルタ寿命が短くなる場合がある。
【0019】
本発明の熱融着性繊維の繊維径は特に限定されないが、3〜25μmであることが好ましく、より好ましくは5〜20μmである。繊維径が3μm未満では複合濾材の圧力損失が高くなり、フィルタ寿命が短くなる傾向にある。また、繊維径が25μmを超えると、複合濾材の圧力損失は低くなるものの、構成繊維によるネットワークの空隙が大きくなりすぎるために、湿式抄造時に複合濾材を構成する他の微細繊維(例えば、平均繊維径が0.1〜2μmであり、酸化硼素含有率が0.1質量%以下であるアルカリシリカガラス繊維)の抜けが多くなり、捕集効率が低下してしまうことがある。また、熱融着性繊維と他の繊維、又は熱融着性繊維同士が接触して熱融着する面積が少なくなり、複合濾材の熱融着性繊維の含有量に対する強度の向上の割合が小さい場合がある。
【0020】
本発明の熱融着性繊維の繊維長は2〜15mmが好ましく、より好ましくは3〜10mmである。繊維長が2mm未満の場合、熱融着性繊維1本に交差する繊維の本数が少ない事から、プリーツ加工の際の衝撃で、融着している繊維交点が外れたり、繊維が脱落したりする可能性がある。一方、15mmを超えた場合、繊維分散性が悪くなり、得られる複合濾材の地合は悪くなるため、性能の安定した複合濾材が得られにくくなる場合がある。
【0021】
本発明の複合濾材に含有させる平均繊維径0.1〜2μmのアルカリシリカガラス繊維は、捕集効率を決定づける繊維の一つである。アルカリシリカガラス繊維とは、SiO2が69〜72質量%、(R1)2O(R1=Na、K)が15〜18質量%、(R2)23(R2=Al、Fe)が2〜5質量%、(R3)O(R3=Ca、Mg、Ba)が7〜11質量%、ZnOが0〜1質量%の組成であり、且つ、B23が0.1質量%以下のガラス繊維である。
【0022】
本発明の複合濾材において、少なくとも下流側濾材層では、平均繊維径0.1〜2μm、好ましくは0.1〜1μm、より好ましくは0.3〜0.8μmのアルカリシリカガラス繊維を含有させる。平均繊維径が2μmを超える場合、捕集効率を向上させる効果が少なくなる。また、平均繊維径が0.1μm未満の場合、湿式抄造の際、抄紙ワイヤーからのアルカリシリカガラス繊維の流出が多くなり、非常に歩留まりが悪くなる。下流側濾材層におけるアルカリシリカガラス繊維の含有量は、目的とする捕集効率になるように、その含有量を変更できるが、好ましくは1〜50質量%であり、より好ましくは1〜20質量%である。目的とする濾過性能が得られるのであれば、アルカリシリカガラス繊維は平均繊維径の異なる2種以上を併用しても何等差し支えない。
【0023】
本発明の複合濾材は、熱融着性繊維とアルカリシリカガラス繊維のみで構成しても良いが、熱融着性を持たない非熱融着性繊維を上流側濾材層及び/又は下流側濾材層に含有させることにより、熱融着性繊維とアルカリシリカガラス繊維のネットワークをさらに均一にすることができる。湿式抄造時の繊維分散工程において、全繊維がパルパーの攪拌装置で水に分散されることにより、各繊維がランダムに配置され、その後の抄紙ワイヤー部で脱水されて湿紙ウェブを形成する。湿紙ウェブを形成する段階で、非熱融着性繊維が熱融着性繊維とアルカリシリカガラス繊維、又は熱融着性繊維同士との間に配置されることにより、これらの繊維と空隙を形成しつつ、程良く絡み合い、良好な三次元ネットワークを形成する。ゆえに、均一な地合となり、捕集性能を保持しつつ、適当な空間保持によって通気性を確保することができ、適正な圧力損失を得ることができる。非熱融着性繊維の含有量は、上流側濾材層では20〜95質量%、下流側濾材層では5〜80質量%が好ましい。
【0024】
本発明の非熱融着性繊維の繊維径は、1〜20μmが好ましく、より好ましくは2〜15μmである。繊維径が1μm未満であると圧力損失が高くなりすぎる傾向にあり、逆に20μmを超えると、濾材を構成する繊維のネットワークによる空隙が大きくなりすぎてしまい、湿式抄造時、アルカリシリカガラス繊維の抜けが多くなり、捕集効率が向上しにくいことがある。
【0025】
本発明の非熱融着繊維は、B23の含有量が0.1質量%以下であれば特に限定しないが、皮膜の少ない麻パルプ、コットンリンター、リント、また、再生セルロース繊維としてはリヨセル、レーヨン、キュプラが、半合成繊維としてはアセテート、トリアセテート、プロミックスが、合成繊維としてはポリオレフィン系、ポリアミド系、ポリアクリル系、ビニロン系、ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル系、ベンゾエート、ポリクラール、フェノール系などの繊維が挙げられ、合成繊維は再生合成繊維も含まれる。上記の繊維の他に、植物繊維として、針葉樹パルプ、広葉樹パルプなどの木材パルプや藁パルプ、竹パルプ、ケナフパルプなどの木本類、草本類を含むものが挙げられる。これらの繊維はフィブリル化されていても、通気性を阻害しない範囲であればなんら差し支えない。さらに、古紙、損紙などから得られるパルプ繊維等も含まれる。また、断面形状がT型、Y型、三角等の異形断面を有する繊維も通気性確保のために含有できる。また、本発明の複合濾材に含有させる非熱融着性繊維には、濾材へ新たな機能を付加するといった側面もある。例えば、高強度ポリビニルアルコール繊維などの剛性の高い繊維を非熱融着性繊維の一部として使用することにより、濾材全体の剛性が増し、よりプリーツ加工性に優れた濾材となる。また、難燃性繊維を使用することにより、後加工することなく、難燃性を持った複合濾材となる。
【0026】
本発明の複合濾材は、焼却可能な熱融着性繊維や非熱融着性繊維を含有させているため、焼却処理すると減量することができる。また、少なくとも熱融着性繊維が複合濾材の骨格を成しているため、焼却により減容もする。本発明の複合濾材は燃焼減量率が50質量%以上であり、上流側濾材層と下流側濾材層の両層を合わせて含有されているアルカリシリカガラス繊維の比率は50質量%未満が好ましく、より好ましくは40質量%以下である。
【0027】
本発明の複合濾材の厚みは特に限定しないが、100〜800μmであることが好ましく、より好ましくは200〜600μmである。100μm未満では複合濾材の堅さが不足し、良好なプリーツ加工が出来ない場合がある。一方、800μmを超えると、フィルタユニット内の隣接するプリーツ同士の間隙が小さくなり、構造圧力損失が高まり、結果として寿命が短いフィルタとなることがある。
【0028】
本発明の複合濾材の坪量は特に限定しないが、フィルタに加工する際の強度や必要な濾材面積を考慮すると、20〜160g/m2が好ましく、より好ましくは50〜120g/m2である。上流側濾材層の坪量は15〜120g/m2が好ましく、より好ましくは30〜100g/m2であり、下流側濾材層の坪量は5〜40g/m2が好ましく、より好ましくは10〜30g/m2である。また、上流側濾材層の厚みは80〜600μmが好ましく、より好ましくは150〜450μmであり、下流側濾材層の厚みは20〜200μmが好ましく、より好ましくは50〜150μmである。
【0029】
本発明の複合濾材は、一般紙や湿式不織布を製造するための抄紙機、例えば、長網抄紙機、円網抄紙機、傾斜ワイヤー式抄紙機等、これら抄紙機の抄紙ヘッドが同種又は異種の2機以上、オンラインで設置されているコンビネーション抄紙機などにより製造される。その際に、本発明の複合濾材となる積層ウェブを形成する方法としては、各々の抄紙機で抄きあげた湿紙ウェブを積層する抄き合わせや、一方の湿紙ウェブを形成したあとに、この湿紙ウェブの上に繊維を分散したスラリーを流して積層ウェブとする方法でも良い。また、乾燥したウェブの上に、繊維を分散したスラリーを流して積層ウェブとする方法でも良い。
【0030】
これらの抄紙機で抄造された積層ウェブは、加熱乾燥され、積層ウェブに含有される熱融着性繊維により、複合濾材が形成される。加熱乾燥の手段としては、シリンダードライヤー、エアドライヤー、サクションドラム式ドライヤー、赤外方式ドライヤーなどの方式を用いることができるが、熱融着性繊維を効率よく融着させ、より高い強度が得られる方式として、シリンダードライヤーによる加熱方式が好ましい。本発明の製造方法としては、上流側濾材層、下流側濾材層、それぞれを湿式抄造して得られた湿紙ウェブ同士を積層してなる積層ウェブを未乾燥状態において、加圧しながら、熱融着性繊維の融点より10℃以上高い表面温度の熱ロールに密着させ、熱融着性繊維の溶融成分を溶融させた後、自然冷却により固化することにより、一体化する。シリンダードライヤーによる加熱方法としては、熱ロールにタッチロールで加圧しながら、片面のみ接触させても良いし、フェルトに抱かれたシリンダードライヤー群の間に複合濾材を通過させて表裏を順次、熱ロールに接触させても良い。
【0031】
本発明の複合濾材は、JIS B9927に規定される撥水性が1kPa以上であることが好ましく、より好ましくは5kPa以上である。半導体工場等のクリーンルームに使用されるエアフィルタ、特に、中性能、高性能エアフィルタ用濾材の撥水性については明確な規定はないものの、参考になるような規格としては、米国MIL規格に規定されるHEPA濾材の撥水性が挙げられる。全てのHEPA濾材が準拠しているわけではないが、MIL−STD−282に規定されるHEPA濾材の撥水性は508mmH2O(4.98kPa)以上とされており、MIL規格を参考にしたJIS B9927に規定される方法で撥水性を測定した場合、5kPa以上の値があれば十分な撥水性を持った濾材といえる。しかしながら、実用上はそこまで撥水性を必要としない場合もあり、例えば、低湿で空調された空気を内部循環する場合など、あまり撥水性を必要としない環境下で使用するのであれば、1kPa以上の撥水性があればよい。
【0032】
本発明の複合濾材において、少なくとも上流側濾材層に撥水性化合物を含有させることにより、JIS B9927に規定される方法で、1kPa以上の撥水性を付与することができる。撥水性化合物の含有量は、上流側濾材層を構成する繊維に対して、0.01〜10質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜5質量%である。撥水性化合物の含有量が0.01質量%未満であると、撥水性が1kPa以上得られない場合があり、10質量%を超えると、撥水効果が過剰であり、経済的に好ましくないばかりでなく、濾材のミクロポアを過剰に塞いでしまうことにより、捕集効率が低下する場合がある。本発明の複合濾材は、高温多湿の環境下や海辺等に設置され、より高い撥水性を要求される場合は、上流側濾材層だけでなく、下流側濾材層にも撥水性化合物を含有させ、撥水性を高めることもできる。
【0033】
本発明の複合濾材の製造方法において、撥水性の付与方法としては、複合濾材を構成する繊維を水中に分散させた原料スラリー中に撥水性化合物を添加する内添法と、抄紙乾燥後、含浸又は塗工によって撥水性化合物を付与し、乾燥させる外添法が挙げられる。本発明の複合濾材は必要とする特性や状況に応じて、両者の方法を用いることができる。
【0034】
本発明の複合濾材への撥水性の付与方法として内添法を使用する場合、用いられる撥水性化合物としては、ロジン系、強化ロジン系、アルキルケテンダイマー系、アルケニル無水コハク酸系などの製紙用サイズ剤が挙げられる。撥水性化合物の原料スラリー中への添加量は、複合濾材の原料となる繊維に対して、0.01〜10質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜5質量%である。撥水性化合物の添加量が0.01質量%未満であると、JIS B9927に規定される撥水性が1kPa以上得られない場合があり、10質量%を超えると、撥水効果が過剰であり、経済的に好ましくないばかりでなく、繊維の分散が悪くなったり、圧力損失を上げてしまう場合がある。内添法にて撥水性を付与させた複合濾材は、抄紙乾燥の工程のみで得られるため、後加工の工程及びそれに伴う製造設備が不要である。また、原料スラリー中に撥水性化合物を添加するだけで、撥水性を付与できるため、上流側濾材層のみに撥水性を付与したい場合には好適な方法である。
【0035】
一方、本発明の複合濾材へ撥水性を付与する方法として外添法を使用する場合、フッ素系、パラフィンワックス系等の撥水剤を用いることができる。本発明の外添法の含浸又は塗工方式は特に限定しないが、サイズプレス方式、タブサイズプレス方式、スプレー方式、グラビア方式などの方法が挙げられる。本発明の複合濾材を使用する環境において、あまり高い撥水性を必要としない場合には、スプレー方式やグラビア方式等で上流側濾材層のみに撥水性を付与し、より高い撥水性を必要とする場合には、サイズプレス方式やタブサイズプレス方式にて両層に撥水性を付与すれば良い。
【0036】
本発明の複合濾材は必要に応じ、その性能を阻害しない範囲で、難燃剤、染料、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の添加剤を付与することができる。これらの添加剤を付与する方法としては、撥水性化合物を付与する場合と同様に、内添法や外添法を適宜選択して用いることができる。また、その特性を阻害しなければ、撥水剤も含め、2種以上を混合して使用することができる。
【実施例】
【0037】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。実施例において、百分率、部数は、特にことわりのない場合、質量基準である。
【0038】
<熱融着性繊維の融点(単位:℃)>
本実施例にて使用される熱融着性繊維の融点は、JIS K7121に準じて、PERKIN ELMER社製示差走査熱分析装置DSC7を用いて測定した。それぞれの熱融着性繊維を5mg採取し、専用の容器に入れた後、25〜300℃の範囲で、毎分10℃の昇温条件にて測定した。本実施例中に記載される熱融着性繊維の融点はこの結果に基づく。
【0039】
本実施例及び比較例で使用した繊維を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
本実施例及び比較例で得られた濾材の評価方法は以下に示す通りである。
【0042】
濾材の評価方法
<圧力損失(単位:Pa)>
実施例及び比較例で得られた濾材について、JIS B9927に準じて、風速5.3cm/秒で通気させ、濾材の上流側と下流側の静圧差を測定し、下記数式1より、圧力損失を算出した。
(数式1)
ΔP=SP1−SP2 (1)
ΔP :圧力損失(Pa)
SP1:上流側静圧(Pa)
SP2:下流側静圧(Pa)
【0043】
<粒子捕集効率(単位:%)>
実施例及び比較例で得られた濾材について、JIS B9927に準じて、DOPエアロゾル(フタル酸ジオクチル、粒径0.3〜0.5μm)粒子を発生させ、この粒子を含有する空気を風速5.3cm/秒で通気させ、濾材の上流側と下流側の空気の単位時間、単位流量当たりの粒子数をパーティクルカウンター(KC−11、リオン社製)で測定し、下記数式2より、捕集効率を算出した。
(数式2)
η=(1−C2/C1)×100 (2)
η :捕集効率(%)
C1:濾材上流側の粒子数(単位時間、単位流量当たり)
C2:濾材下流側の粒子数(単位時間、単位流量当たり)
【0044】
<耐折強さ>
実施例及び比較例で得られた濾材から幅15mm、長さ110mmの試験片を各10枚採取した。各試験片について、JIS P8115に規定される方法にて、MIT試験機を使用し、500g荷重で耐折回数を測定した。下記数式3より、得られた耐折回数の値から耐折強さを算出し、試験片10枚の平均値を比較した。
(数式3)
FE=log10N (3)
FE:耐折強さ
N :耐折回数
【0045】
<撥水性(単位:kPa)>
実施例及び比較例で得られた濾材から約100×100mm角の試験片3枚を採取し、JIS B9927に準じて、撥水性測定装置を用い、撥水性を測定し、その最小値を比較した。
【0046】
<粉塵保持容量A(単位:g/m2)>
実施例及び比較例で得られた濾材を用いて、濾材面積が15m2になるようにフィルタユニットを作製した。それぞれのフィルタユニットについて、JIS B9908に準じて、粉塵保持容量試験装置を用い、DOPエアロゾル(フタル酸ジオクチル、粒径0.3〜0.5μm)粒子を粉塵濃度70mg/m3にて供給し、風量56m3/minにて圧力損失が300Paになるまで粉塵を負荷し、数式4にて濾材の単位面積当たりの粉塵保持容量を算出した。
(数式4)
W1=(W1a−W1b)/15 (4)
W1 :単位面積当たりの粉塵保持容量(g/m2
W1a:粉塵保持容量試験終了時のフィルタユニットの質量(g)
W1b:粉塵保持容量試験開始時のフィルタユニットの質量(g)
【0047】
<粉塵保持容量B(単位:g/m2)>
実施例及び比較例で得られた濾材を用いて、濾材面積が30m2になるようにフィルタユニットを作製した。それぞれのフィルタユニットについて、JIS B9908に準じて、粉塵保持容量試験装置を用い、DOPエアロゾル(フタル酸ジオクチル、粒径0.3〜0.5μm)粒子を粉塵濃度70mg/m3にて供給し、風量70m3/minにて圧力損失が1000Paになるまで粉塵を負荷し、数式5にて濾材の単位面積当たりの粉塵保持容量を算出した。
(数式5)
W2=(W2a−W2b)/30 (5)
W2 :単位面積当たりの粉塵保持容量(g/m2
W2a:粉塵保持容量試験終了時のフィルタユニットの質量(g)
W2b:粉塵保持容量試験開始時のフィルタユニットの質量(g)
【0048】
<燃焼減量率(単位:%)>
実施例及び比較例で得られた濾材について、1gのサンプルを採取し、JIS B9927に準じて、900±25℃の電気炉にて、2時間加熱燃焼させ、数式6にて燃焼減量率を算出した。
(数式6)
X=(1−m1/m2)×100 (6)
X :燃焼減量率(%)
m1:燃焼後の濾材の質量(g)
m2:燃焼前の濾材の質量(g)
【0049】
<硼素溶出量(単位:ng/g)>
実施例及び比較例で得られた濾材から5gのサンプルを採取した。それぞれのサンプルを100gの純水中に浸漬し、65℃で120時間加温することにより、硼素溶出液を得た。該硼素溶出液をディスクフィルターで濾過し、PERKIN ELMER社製誘導結合プラズマ発光分析装置(ICP−AES)Optima 2100 DVにて硼素量を測定し、濾材1g中から溶出される硼素量に換算した値を硼素溶出量とした。
【0050】
実施例1
2m3の分散タンクに水を投入後、熱融着性繊維M1、非熱融着性繊維S1を各々50:50の比率で混合し、5分間分散して、濃度0.2質量%の上流側濾材層用繊維分散液を作製した。
【0051】
別の2m3の分散タンクに水を投入後、熱融着性繊維M1、非熱融着性繊維S1、ガラス繊維G1を各々50:20:30の比率で混合し、5分間分散して、濃度0.2質量%の下流側濾材層用繊維分散液を作製した。
【0052】
長網抄紙機と円網抄紙機がオンラインで設置されているコンビネーション抄紙機を用いて、上流側濾材層として長網抄紙機で乾燥質量が60g/m2になるように形成した湿紙ウェブと、下流側濾材層として円網抄紙機で乾燥質量が20g/m2になるように形成した湿紙ウェブを積層した後、表面温度130℃のシリンダードライヤーにてタッチロールを400N/cm2の圧力で加圧しながら乾燥及び一体化させ、実施例1の複合濾材を得た。
【0053】
実施例2〜18
上流側濾材層と下流側濾材層の繊維配合を表2に示したように変更した以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2〜18の複合濾材を得た。
【0054】
実施例19
上流側濾材層と下流側濾材層の繊維配合を表2に示したように変更した以外は、実施例1と同様の方法で、上流側濾材層及び下流側濾材層の繊維分散液を得た。
【0055】
長網抄紙機と円網抄紙機がオンラインで設置されているコンビネーション抄紙機を用いて、上流側濾材層として長網抄紙機で乾燥質量が60g/m2になるように形成した湿紙ウェブと、下流側濾材層として円網抄紙機で乾燥質量が20g/m2になるように形成した湿紙ウェブを積層した後、表面温度160℃のシリンダードライヤーにてタッチロールを400N/cm2の圧力で加圧しながら乾燥及び一体化させ、実施例19の複合濾材を得た。
【0056】
実施例20〜21
上流側濾材層と下流側濾材層の繊維配合を表2に示したように変更した以外は、実施例1と同様の方法で、実施例20〜21の複合濾材を得た。
【0057】
実施例22〜24
遠心法によるガラス短繊維製造装置を用いて、平均繊維径1.93μm、酸化硼素含有率0.09質量%以下のアルカリシリカガラス繊維G9、平均繊維径0.65μm、酸化硼素含有率0.09質量%以下のアルカリシリカガラス繊維G10、平均繊維径0.12μm、酸化硼素含有率0.09質量%以下のアルカリシリカガラス繊維G11を得た。
【0058】
上流側濾材層と下流側濾材層の繊維配合を表2に示したように変更した以外は、実施例1と同様の方法で、実施例22〜24の複合濾材を得た。
【0059】
【表2】

【0060】
比較例1
2m3の分散タンクに水を投入後、ガラス繊維G5、ガラス繊維G6を80:20の比率で混合し、5分間分散して、濃度0.2%の繊維分散液を作製した。長網抄紙機で乾燥質量が75g/m2になるように湿紙ウェブを形成し、アクリル系ラテックス(商品名:ボンコートSFC54、大日本インキ化学工業社製)を固形分が5g/m2になるように付与した後、熱風温度130℃のエアドライヤーで乾燥し、比較例1の濾材を得た。
【0061】
比較例2〜4
上流側濾材層と下流側濾材層の繊維配合を表2に示したように変更した以外は、実施例1と同様の方法で、比較例2〜4の複合濾材を得た。
【0062】
比較例5
遠心法によるガラス短繊維製造装置を用いて、平均繊維径0.08μm、酸化硼素含有率0.09質量%以下のアルカリシリカガラス繊維G12を得た。
【0063】
上流側濾材層と下流側濾材層の繊維配合を表2に示したように変更した以外は、実施例1と同様の方法で、比較例5の複合濾材を得た。
【0064】
実施例1〜24、比較例1〜5で得られた濾材について、圧力損失、捕集効率、耐折強さ、撥水性、粉塵保持容量A、燃焼減量率、硼素溶出量を上記の方法にて測定した。評価結果を表3に示す。
【0065】
【表3】

【0066】
実施例1〜24で得られた本発明の複合濾材は、中性能エアフィルタに使用できるレベルの複合濾材である。単層構造である比較例1の濾材と比較して、粉塵保持容量が多いため、エアフィルタの長寿命化が図れる。
【0067】
実施例1〜24で得られた本発明の複合濾材は熱融着性繊維を含有させているため、耐折強さが高く、フィルタ作製時のプリーツ加工や通風時の風圧による濾材の破れ等の問題はなかった。熱融着性繊維の含有量が多くなるほど、耐折強さは増し、濾材の強度は強くなる。実施例3で得られた複合濾材では下流側濾材層の、実施例13で得られた複合濾材では上流側濾材層の熱融着性繊維の含有量が5%未満であり、また、実施例17で得られた複合濾材は両層とも熱融着性繊維の含有量が5%であり、他の実施例で得られた複合濾材より耐折強さは低めである。しかし、ガラス繊維のみで構成されている比較例1の濾材と比べると、十分大きな値であるため、実用上は問題のない強度を持っている。
【0068】
実施例1、18、19で得られた複合濾材は、それぞれ上流側濾材層に融点の異なる鞘部を持った熱融着性繊維を含有させているが、複合濾材を作製する際、熱融着性繊維の融点より10℃以上高い表面温度のシリンダードライヤーに加圧しながら一体化させているため、比較例1で得られた濾材と比べると、いずれも耐折強さが強く、粉塵保持容量の多い複合濾材になっている。
【0069】
実施例1〜24で得られた本発明の複合濾材は、焼却可能な熱融着性繊維及び非熱融着性繊維を合わせて50%以上含有させても中性能エアフィルタに使用できるレベルの濾材であるため、燃焼減量率が50質量%以上となり、使用済みフィルタを廃棄する際に、焼却減量でき、環境負荷の少ない濾材である。
【0070】
実施例1〜24で得られた本発明の複合濾材は、少なくとも下流側濾材層に平均繊維径0.1〜2.0μmのアルカリシリカガラス繊維を含有させているため、中性能エアフィルタで使用できるレベルの捕集効率を持った複合濾材である。比較例2で得られた複合濾材は下流側濾材層に含有しているアルカリシリカガラス繊維の平均繊維径が2.7μmであり、平均繊維径が2.0μmを超えた太い繊維であるため、捕集効率が著しく低下している。また、比較例5で得られた複合濾材は下流側濾材層に含有しているアルカリシリカガラス繊維の平均繊維径が0.08μmであり、平均繊維径が0.1μm未満の非常に細い繊維であるため、湿式抄造の際、抄紙ワイヤー部でアルカリシリカガラス繊維がすり抜けてしまい、結果的に得られた複合濾材中のアルカリシリカガラス繊維の含有量が低下し、高い捕集効率を得ることができなかった。
【0071】
実施例1〜24で得られた本発明の複合濾材は、下流側濾材層に酸化硼素含有率が0.09質量%以下のアルカリシリカガラス繊維を含有させているため、比較例1、3、4で得られた硼珪酸ガラス繊維を含有している濾材と比較すると、硼素溶出量が大きく低下している。そのため、実施例1〜24で得られた複合濾材は、半導体工場等のクリーンルームの中性能エアフィルタとして使用するのに適している。
【0072】
本発明の複合濾材の下流側濾材層に含有させるアルカリシリカガラス繊維は1〜50質量%が好ましい。実施例12で得られた複合濾材は下流側濾材層に55質量%のアルカリシリカガラス繊維を含有させているため、実用上問題のないレベルではあるものの、圧力損失は高くなり、耐折強さや燃焼減量率は低くなる傾向にある。
【0073】
実施例25
2m3の分散タンクに水を投入後、熱融着性繊維M1、非熱融着性繊維S1、ガラス繊維G1を各々50:25:25の比率で混合し、5分間分散して、濃度0.2質量%の上流側濾材層用繊維分散液を作製した。
【0074】
別の2m3の分散タンクに水を投入後、熱融着性繊維M1、非熱融着性繊維S2、ガラス繊維G2を各々50:20:30の比率で混合し、5分間分散して、濃度0.2質量%の下流側濾材層用繊維分散液を作製した。
【0075】
長網抄紙機と円網抄紙機がオンラインで設置されているコンビネーション抄紙機を用いて、上流側濾材層として長網抄紙機で乾燥質量が40g/m2になるように形成した湿紙ウェブと、下流側濾材層として円網抄紙機で乾燥質量が40g/m2になるように形成した湿紙ウェブを積層した後、表面温度130℃のシリンダードライヤーにてタッチロールを400N/cm2の圧力で加圧しながら乾燥及び一体化させ、実施例25の複合濾材を得た。
【0076】
比較例6
2m3の分散タンクに水を投入後、ガラス繊維G5、ガラス繊維G6、ガラス繊維G8を60:20:20の比率で混合し、5分間分散して、濃度0.2%の繊維分散液を作製した。長網抄紙機で乾燥質量が75g/m2になるように湿紙ウェブを形成し、アクリル系ラテックス(商品名:ボンコートSFC54、大日本インキ化学工業社製)を固形分が5g/m2になるように付与した後、熱風温度130℃のエアドライヤーで乾燥し、比較例6の濾材を得た。
【0077】
実施例25及び比較例6で得られた濾材について、圧力損失、捕集効率、耐折強さ、撥水性、粉塵保持容量B、燃焼減量率、硼素溶出量を上記の方法にて測定した。評価結果を表4に示す。
【0078】
【表4】

【0079】
実施例25で得られた複合濾材は、高性能エアフィルタとして使用できるレベルの複合濾材である。単層構造であり、硼珪酸ガラス繊維のみから構成されている比較例6の濾材と比較すると、圧力損失が低く、粉塵保持容量が高いため、エアフィルタの長寿命化が図れる。また、熱融着性繊維を含有させているため、耐折強さが強く、フィルタ作製時のプリーツ加工や通風時の風圧による破れ等の問題がない。また、燃焼減量率が高いため、廃棄時の環境負荷を低減できる。さらに、酸化硼素含有率が0.09質量%以下であるアルカリシリカガラス繊維を含有させているため、硼素溶出量が少なく、半導体工場等のクリーンルームの高性能エアフィルタの使用に適している。
【0080】
実施例26
上流側濾材層繊維分散液の作製時に、アルキルケテンダイマー系サイズ剤(商品名:AD1602、星光PMC社製)を対繊維1質量%添加した以外は、実施例1と同様の方法で、実施例26の複合濾材を得た。
【0081】
実施例27
上流側濾材層繊維分散液の作製時に、アルキルケテンダイマー系サイズ剤(商品名:AD1602、星光PMC社製)を対繊維0.5質量%添加した以外は、実施例1と同様の方法で、実施例27の複合濾材を得た。
【0082】
実施例28
上流側濾材層繊維分散液の作製時に、アルキルケテンダイマー系サイズ剤(商品名:AD1602、星光PMC社製)を対繊維2質量%添加した以外は、実施例1と同様の方法で、実施例28の複合濾材を得た。
【0083】
実施例29
上流側濾材層繊維分散液の作製時に、アルキルケテンダイマー系サイズ剤(商品名:AD1602、星光PMC社製)を対繊維10質量%添加した以外は、実施例1と同様の方法で、実施例29の複合濾材を得た。
【0084】
実施例30
上流側濾材層及び下流側濾材層それぞれの繊維分散液の作製時に、それぞれアルキルケテンダイマー系サイズ剤(商品名:AD1602、星光PMC社製)を対繊維1質量%添加した以外は、実施例1と同様の方法で、実施例30の複合濾材を得た。
【0085】
実施例31
実施例1で得られた複合濾材に、サイズプレス装置を用い、フッ素系撥水剤(商品名:アサヒガードAG−7105、旭硝子社製)を固形分で0.2g/m2になるように付与し、表面温度130℃のシリンダードライヤーに接触させて乾燥させ、実施例31の複合濾材を得た。
【0086】
実施例32
実施例1で得られた複合濾材の上流側濾材層に、グラビア塗工装置を用い、フッ素系撥水剤(商品名:アサヒガードAG−7105、旭硝子社製)を固形分で0.2g/m2になるように付与し、表面温度130℃のシリンダードライヤーに接触させて乾燥させ、実施例32の複合濾材を得た。
【0087】
比較例7
市販のガラス繊維からなる中性能エアフィルタ(単層濾材、捕集効率:45%)を比較例7の濾材とした。
【0088】
実施例26〜32で得られた複合濾材及び比較例7の濾材について、圧力損失、捕集効率、耐折強さ、撥水性、粉塵保持容量A、燃焼減量率、硼素溶出量を上記の方法にて測定した。評価結果を表5に示す。
【0089】
【表5】

【0090】
実施例26〜32で得られた本発明の複合濾材は少なくとも上流側濾材層に撥水性化合物を含有させているため、実施例1〜24の撥水性化合物を含有させていない複合濾材と比べると、著しく撥水性が向上している。また、比較例7の市販の中性能エアフィルタ用ガラス濾材と比較しても、圧力損失、捕集効率、撥水性は遜色なく、粉塵保持容量も多いことから、実施例26〜32で得られた本発明の複合濾材は中性能エアフィルタ用途に適していることがわかる。さらに、耐折強さが高いために、プリーツ加工時の破れ等の問題がない、硼素溶出量が少なく、半導体工場等のクリーンルームの使用に適している、燃焼減量率が高いため、焼却減量できるといった特長がある。
【0091】
実施例26〜29で得られた複合濾材は上流側濾材層の撥水性化合物の含有量が異なり、撥水性化合物の増加に従い、撥水性が向上するため、より高い撥水性を要求される場合に適している。また、実施例30で得られた複合濾材のように、下流側濾材層に撥水性化合物を含有させることでも、撥水性はより向上する。そして、実施例31〜32で得られた複合濾材のように、外添法にて撥水性化合物を含有させることでも、内添法を用いた実施例26〜30で得られた複合濾材と同様に、撥水性を向上させることができる。本発明の複合濾材は、その使用状況や製造設備に合わせて、撥水度合いや撥水性を付与する方法を選択することができる。
【0092】
実施例33
上流側濾材層繊維分散液の作製時に、アルキルケテンダイマー系サイズ剤(商品名:AD1602、星光PMC社製)を対繊維1質量%添加した以外は、実施例25と同様の方法で、実施例33の複合濾材を得た。
【0093】
実施例34
実施例25で得られた複合濾材の上流側濾材層に、グラビア塗工装置を用い、フッ素系撥水剤(商品名:アサヒガードAG−7105、旭硝子社製)を固形分で0.2g/m2になるように付与し、表面温度130℃のシリンダードライヤーに接触させて乾燥させ、実施例34の複合濾材を得た。
【0094】
比較例8
市販のガラス繊維からなる高性能エアフィルタ(単層濾材、捕集効率:98%)を比較例8の濾材とした。
【0095】
実施例33、34で得られた複合濾材及び比較例8の濾材について、圧力損失、捕集効率、耐折強さ、撥水性、粉塵保持容量B、燃焼減量率、硼素溶出量を上記の方法にて測定した。評価結果を表6に示す。
【0096】
【表6】

【0097】
実施例33、34で得られた本発明の複合濾材は少なくとも上流側濾材層に撥水性化合物を含有させているため、実施例25の撥水性化合物を含有させていない複合濾材と比べると、著しく撥水性が向上している。また、比較例8の市販の高性能エアフィルタ用ガラス濾材と比較しても、圧力損失、捕集効率、撥水性は遜色なく、粉塵保持容量も多いことから、実施例33、34で得られた本発明の複合濾材は高性能エアフィルタ用途に適していることがわかる。さらに、耐折強さが高いためにプリーツ加工時の破れ等の問題がない、硼素溶出量が少なく半導体工場等のクリーンルームの使用に適している、燃焼減量率が高いため焼却減量できるといった特長がある。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の複合濾材は、エアフィルタ、特に半導体工場のクリーンルーム等に使用されるエアフィルタに用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上流側濾材層と下流側濾材層の2層で構成された複合濾材であって、上流側濾材層と下流側濾材層の両層に示差走査熱量分析(DSC)で測定した融点が50〜170℃である熱融着性繊維を含み、少なくとも下流側濾材層には平均繊維径が0.1〜2μmであり、酸化硼素含有率が0.1質量%以下であるアルカリシリカガラス繊維を含有し、該熱融着性繊維と該アルカリシリカガラス繊維、又は該熱融着性繊維同士の少なくとも一部が熱融着されている複合濾材。
【請求項2】
下流側濾材層が、熱融着性繊維を5〜80質量%、平均繊維径が0.1〜2μmであり、酸化硼素含有率が0.1質量%以下であるアルカリシリカガラス繊維を1〜50質量%、非熱融着性繊維を5〜80質量%を含有してなる請求項1記載の複合濾材。
【請求項3】
上流側濾材層が、熱融着性繊維を5〜80質量%、非熱融着性繊維を20〜95質量%を含有してなる請求項1又は2記載の複合濾材。
【請求項4】
燃焼減量率が50質量%以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合濾材。
【請求項5】
JIS B9927に規定される撥水性が1kPa以上である請求項1〜4のいずれか1項記載の複合濾材。
【請求項6】
少なくとも上流側濾材層が撥水性化合物を含有してなる請求項5記載の複合濾材。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項記載の複合濾材を製造する方法であって、同種又は異種の抄紙ヘッドを有するコンビネーション湿式抄紙機を用いて、上流側濾材層の湿紙ウェブと下流側濾材層の湿紙ウェブとからなる積層ウェブを形成した後に、該積層ウェブを加圧しながら、熱融着性繊維の融点より10℃以上高い表面温度の熱ロールに密着させて上流側濾材層と下流側濾材層を一体化させた後に、乾燥させてなる複合濾材の製造方法。
【請求項8】
請求項6記載の複合濾材を製造する方法であって、同種又は異種の抄紙ヘッドを有するコンビネーション湿式抄紙機を用いて、上流側濾材層の湿紙ウェブと下流側濾材層の湿紙ウェブとからなる積層ウェブを形成した後に、該積層ウェブを加圧しながら、熱融着性繊維の融点より10℃以上高い表面温度の熱ロールに密着させて上流側濾材層と下流側濾材層を一体化させ、乾燥させた後に、少なくとも上流側濾材層に撥水性化合物を付与する複合濾材の製造方法。
【請求項9】
請求項6記載の複合濾材を製造する方法であって、同種又は異種の抄紙ヘッドを有するコンビネーション湿式抄紙機を用いて、少なくとも上流側濾材層の原料スラリー中に撥水性化合物を内添し、上流側濾材層の湿紙ウェブと下流側濾材層の湿紙ウェブとからなる積層ウェブを形成した後に、該積層ウェブを加圧しながら、熱融着性繊維の融点より10℃以上高い表面温度の熱ロールに密着させて上流側濾材層と下流側濾材層を一体化させた後に、乾燥させてなる複合濾材の製造方法。