説明

複合濾材

【目的】良好なユニット化適性すなわち良好なプリーツ性と、難燃性を有し、低圧力損失で、優れたダスト保持性も有しており長期にわたり良好な濾過性能を発揮し得る複合濾材を提供すること。
【構成】0.3ミクロン粒子の捕集効率が5〜94%、気孔容積率が86%以上の無機繊維を主体としたシートと、有機繊維を主体としたシートとからなる複合濾材。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、複合濾材に関し、詳しくは良好なプリーツ性とダストホールディング性に優れた複合濾材に関するものである。
【0002】
【従来技術】ビル空調や中高性能濾材に要求される特性として、所定の捕集効率、難燃性、濾材を山谷折りするためのプリーツ性や濾過圧に耐える剛性、さらには高性能化のために特に長寿命性や低圧力損失性が求められる。
【0003】従来技術では、難燃性や剛性を得るための方法として例えば特開昭51−134475号公報が知られている。この公知例は、難燃性繊維あるいは可燃性繊維からなる不織布を剛性のある難燃性樹脂で樹脂加工することで難燃化した支持材と難燃化していない極細不織布層(メルトブロー不織布)を積層することによりプリーツ性と難燃性を得る方法である。この方法の特徴は難燃性薬剤を不織布に付着させることで濾材全体を難燃化するものであるが、有機素材を濾材として用いたものでプリーツ形状のしっかりしたものとするためには、剛軟度をかなり高くする必要があり、これを実現するためには目付も多く、かつ厚さも厚くする必要がある。このためユニットに収納できる濾材面積が相対的に少なくなり、濾材貫通風速が増し低圧力損失化に限界があった。また、この方法における従来の支持材は剛性と低圧損性を両立する必要から繊維径が20μm以上と太く、気孔容積率が85%と小さく、ポアサイズが大きいため捕集効率が低く、緻密なメルトブロー不織布へのダスト付着量が増え、短寿命となることを避けられないものであった。
【0004】また、ガラス濾材を濾材に一部に用いた公知例、特公昭63−22847号公報では、平均径が2μm未満の繊維を用いたNB95やHEPAクラスの捕集効率の高いガラス濾材(捕集効率が,粒子径0.3μmに対して95%〜99.97%)をエレクトレット素材と積層して用いたクリーンルーム用の超高性能フイルターエレメントが示されている。しかしながら、この公知例は、ガラス濾材でダストの大部分を捕集することでエレクトレット濾材へのダスト負荷を減らし捕集効率の安定化を図ることを目的とするものであり、粗大粒子を捕集対象とした場合、例えば、ビル空調/中高性能濾材などに用いた場合、超短寿命で全く適さないといった問題があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、上述したような点に鑑み、良好なプリーツ加工性(剛性)と難燃特性を有するとともに、優れたダスト保持性も有しており、長期にわたり良好な濾過性能を発揮し得る新規な複合濾材を提供せんとするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は、次の構成を有する。すなわち、0.3ミクロン粒子の捕集効率が5〜94%、気孔容積率が86%以上の無機繊維を主体としたシートと、有機繊維を主体としたシートとからなる複合濾材に関し、以下に詳細を説明する。
【0007】本発明の複合濾材は無機繊維を主体とするシート(以後、支持材と称する)と有機繊維シートとからなるものであり、支持材が、気孔容積率が86%以上、0.3ミクロン粒子の捕集効率が5〜94%のものである。支持材と有機繊維シートとの一体化を強化するために、支持材の表面または表面から内部にかけて、熱接着性成分または粘着性成分が存在することが好ましい。
【0008】熱接着性成分としては、樹脂、短繊維または熱接着性複合短繊維などが用いられ、例えば樹脂の場合には、支持材を構成する無機繊維のバインダーとしてアトランダムに表面の無機繊維や内部の無機繊維に付着したものと、別のバインダーで接着された支持材の表面のみに付着したものなどが好ましく用いられる。また熱接着性成分が短繊維または熱接着性複合短繊維の場合には、支持材を構成する無機繊維に混合された状態あるいは表層部に集中的に局在した状態で熱接着性樹脂または熱接着性のない別のバインダーで接着されたものが好ましく用いられる。
【0009】熱接着性成分は、一体化する有機繊維を主体とするシート(以下、有機繊維シートと称する)素材の融点より20℃以上低い素材が有機繊維シートの特性を損なわず接着する上で最適であり、素材的には有機繊維シートと同一系統のポリマーからなるものが高い接着性が得られるので適している。例えばポリプロピレン系、ポリエチレン系、ポリエチレンと酢酸ビニル共重合体、ポリウレタン系、ポリアミド系、ポリエステル系のホモポリマーやコポリマーなどの樹脂およびパウダーや繊維状、パルブ状のものである。また、繊維の場合、1成分系でも良く、芯鞘型や並列型など通常の高融点部分と低融点部分からなる繊維を用いることも好ましく、外周部に少なくとも低融点部分を有する熱接着性複合短繊維などの2成分系であっても良い。
【0010】また粘着性成分については、例えば、支持材表面繊維に粘着性樹脂を少量付着させて用いることができる。接着とは異なるので強く分離すれば剥離するが、メルトブロー不織布の場合には十分な一体性が得られるものである。樹脂は、特に限定されないが、アクリル系、ブタジエン系などのものが使用できるものである。
【0011】一体化は、支持材と有機繊維シートを積層状態で加熱下で押圧することで、接着成分を溶融させて有機繊維シートと熱接着して一体化することが好ましい。なおこの場合には、接着成分と有機繊維シートが接触した部分での接着またはエンボス接着のように間欠的な部分部分の接着であってもかまわない。支持材に含まれる多数の接着ポイントで一体化を行う場合、接着成分の融点近くの温度で極弱く押圧するだけで一体化でき濾材の圧力損失特性低下を防止できる点で好ましい。
【0012】接着成分の使用量は、支持材重量の1%〜15%以内が有機繊維シートとの一体性と剛性が十分得られる点で好ましい。接着成分が多く混入されると、難燃性が得られにくくなるので、接着成分のいづれかをLOI値26以上に難燃化することで一体性、難燃性、剛性をより満足させたものが得られ、好ましい。具体的方法は、難燃剤を付着させるか、難燃剤の配合された繊維を用いるのが極めて有効である。また、難燃剤を用いないで難燃性を向上させるためには、複合濾材の重量に占める有機繊維シート重量が50%を下回るように構成するのが良く、さらには30%以下がより好ましい。この場合に最適な有機繊維シートの素材はポリプロピレンのメルトブロー不織布である。
【0013】つぎに本発明の複合濾材に用いられる支持材の構造について説明すると、支持材は、有機繊維シートの支持材としての機能を付与する他に長寿命化を達成する上で極めて重要なものである。本発明においては、支持材気孔容積率を86%以上、好ましくは90%以上の嵩高構造で、捕集効率が濾材貫通風速1.5m/minで0.3μmの粒子に対して5%以上、94%以下の範囲にすることが必要である。また、本発明においては、支持材を構成する繊維の平均繊維径を2μm〜15μm範囲とすることが好ましい。特に平均繊維径が4μmを下回るようなメルトブロー不織布を下流側に用いた濾材構成においては、細い繊維で空間を多数仕切ることにより、高い捕集効率と高い気孔容積率を達成できるので、多量のダストを支持材が保持できるので目詰まりによる圧力損失上昇を低下でき、本発明の複合濾材を好適に用いることができる。
【0014】上記繊維径が2μmより小さい場合には、ポアサイズが小さくなり、支持材の目詰まりが早くなるので短寿命となる傾向がある。また、15μmより大きい場合には、ポアサイズが大きくなり過ぎ、より緻密な有機繊維シートにダストが多く到達・付着するので短寿命となる傾向がある。最適範囲は3.5〜10μm範囲である。また気孔容積率が86%未満では、支持材層の目詰まりが早くなるので短寿命となるので、好ましくは90%以上、更に好適範囲は93%以上である。
【0015】気孔容積率(A)の求め方は、支持材の厚さを厚さ計(ピーコック社製SM150)で求め、得られた厚み(T)から全体容積(V)を求める。また繊維素材の重量と比重から繊維容積(V1 )、バインダー樹脂の重量と比重から樹脂容積(V2 )を求め下記式から求めるものである。
【0016】気孔容積率(A)=[{繊維容積(V1 ) +(V2 ) }/全体容積(V)]×100%また、本発明で用いる支持材の厚みは、超寿命化と剛性向上の点で、0.2〜1.0mm範囲、より最適には0.3〜0.8mmであることが好ましい。
【0017】本発明で用いる支持材の主構成繊維は、無機繊維であり、石綿、炭素繊維、金属繊維などが挙げられるが、特にガラス繊維が最適であり、一般に用いられている抄紙方法によってシート化して用いるものである。
【0018】つぎに、有機繊維シートについて説明すると、有機繊維シートは少なくとも1層以上用いられ、支持材の表面あるいは裏面に少なくとも1層、あるいは両面に1層以上づつ用いられるものである。有機繊維シートとしては、例えば、ステープル不織布、長繊維不織布、割繊維不織布(フィルムから割繊したものや、バーストファイバー不織布)、メルトブロー不織布などが用いられる。片面だけに用いて高捕集効率を有する複合濾材を作る場合には、平均繊維径が7μm以下の極細繊維有機繊維シート、例えばメルトブロー不織布やエレクトレット化メルトブロー不織布の目付40g/m2 以下の物、また低圧力損失複合濾材を作る場合には、繊維径7〜40μm範囲のエレクトレット化繊維シート、例えば、スパンボンド不織布や短繊維不織布などの目付20〜50g/m2 の物を用いるのがそれぞれ好ましい。また、両面に用いる場合には、先に片面だけに用いた有機繊維シートを下流側とし用い、新たに用いる有機繊維シートとして支持材繊維の繊維直径より大きいものを用い、プレフィルターの機能を果たせる構成としたものであり、これを上流側として用いることが好ましい。また、片面に2層以上として用いる場合は、支持材の上流側に用いる場合も下流側に用いる場合も、上流側より順次下流側にかけてポアサイズが小さくなるように用いるのが好ましい。
【0019】また、有機繊維シートはLOI値26以上の難燃性であることがより高い難燃性を得る上で有効であり、これはLOI値26以上の難燃性を示す繊維を含む不織布シートを1層以上用いるか、難燃剤を繊維中に練込むことで達成できる。なお、LOI値の測定方法は、JIS−K7201−1976に従って求めるものである。LOI値が26以上の難燃性を示す繊維としては、リン系やハロゲン系の難燃剤を配合して繊維化した繊維、例えばチッソポリプロ株式会社の品番ESGBなどが用いられる。
【0020】また、エレクトレット化有機繊維としては、エレクトレット化されたシートを用いても、また複合化された後の段階でエレクトレット化したものでも本発明の複合濾材として用いられる。
【0021】本発明の複合濾材は、ビル空調用、一般産業用中高性能濾材、機器用などの空気フィルターなどとして好適に用いられる。
【0022】
【実施例】実施例をもって更に詳細に本発明を説明する。
【0023】実施例1接着成分の熱接着性複合短繊維(チッソポリプロ(株);商品名ESGB=3デニール、繊維長5mm、LOI値27)を5重量%混合状態で含む支持材(目付60g/m2 、ガラス繊維の平均繊維直径7μm、捕集効率10%、厚さ0.45mm、剛軟度350mg、アクリルバインダー樹脂2.4g/m2 、気孔容積率93.6%、圧力損失0.2mmAq、LOI値28)にエレクトレット化メルトブロー不織布(平均繊維直径1.5μm、捕集効率85%、厚さ0.15mm、目付10g/m2 ,圧力損失1mmAq)を積層した状態で、125℃に加熱された熱カレンダーで加圧して一体化した複合濾材を得た。難燃性をJISーL−1091A−1法で評価したところ区分3の満足する結果が得られた。剛軟度も350mgと高く平面性に優れた複合濾材であった。プリーツ加工された複合濾材を折りピッチ3mmでユニット化したが、ピッチの不揃いもなくきれいなユニットが得られた。
【0024】このユニットをアシュレ52−76に準じて評価したところ、比色法95%効率でダスト付着量が20g/m2 であった。
【0025】実施例2ガラス短繊維シート{目付65g/m2 、ガラス繊維の平均繊維直径7μm、捕集効率11%、厚さ0.45mm、剛軟度380mg、ブロム系難燃剤を30重量%含むアクリルバインダー樹脂6g/m2 (LOI値30)、気孔容積率93%、圧力損失0.2mmAq、LOI値30以上}の表面に接着成分として、エチレン酢酸ビニル樹脂(EVA)樹脂パウダーを4g/m2 付着させ、メルトブロー不織布(平均繊維直径1.0μm、捕集効率35%、厚さ0.1mm、目付6g/m2 ,圧力損失1mmAq)を一体化した複合シートを作成した。この濾材を用いてユニットを作成し、アシュレ52−76に準じて評価したところ、比色法95%効率でダスト付着量が18g/m2 であった。
【0026】実施例3ブロム系難燃剤を30重量%含む接着成分のEVAバインダー樹脂6g/m2(LOI値30)で接着された支持材{目付65g/m2 、ガラス繊維平均繊維直径7μm、捕集効率11%、厚さ0.45mm、剛軟度380mg、気孔容積率93%、圧力損失0.2mmAq、LOI値30以上}にエレクトレット化スパンボンド不織布(平均繊維直径30μm、捕集効率40%、厚さ0.2mm、目付30g/m2 、圧力損失0.4mmAq)を積層した状態で、100℃に加熱された熱カレンダーで加圧して一体化した本発明の複合濾材を得た。難燃性をJIS−L−1091A−1法で評価したが区分3の満足する結果が得られた。
実施例4ガラス短繊維シート{目付65g/m2 、ガラス繊維の平均繊維直径7μm、捕集効率11%、厚さ0.45mm、剛軟度380mg、アクリルバインダー樹脂6g/m2 (LOI値30)、気孔容積率93%、圧力損失0.2mmAq、LOI値30以上}の表面に接着成分としてアクリル系粘着剤を5g/m2 付着させ、メルトブロー不織布(平均繊維直径1.0μm、捕集効率35%、厚さ0.1mm、目付6g/m2 ,圧力損失1mmAq)を一体化した複合シートを作成した。この濾材を用いてユニットを作成し、アシュレ52−76に準じて評価したが、寿命までの十分な耐久性が確認できた。
【0027】比較例1熱接着性複合短繊維(チッソポリプロ(株);商品名インタック=2デニール、繊維長5mm、LOI値24以下)を5重量%含む支持材(目付60g/m2、ガラス繊維の平均繊維直径7μm、捕集効率24.5%、厚さ0.18mm、剛軟度300mg、アクリルバインダー樹脂2.4g/m2 、気孔容積率84%、圧力損失3mmAq、LOI値25以下)にエレクトレット化メルトブロー不織布(平均繊維直径1.5μm、捕集効率85%、厚さ0.15mm、目付10g/m2 ,圧力損失1mmAq)を積層した状態で、120℃に加熱された熱カレンダーで加圧して一体化した本発明の複合濾材を得た。この濾材を用いてユニットを作成し、アシュレ52−76に準じて評価したところ、ダスト付着量が5g/m2 で極端に寿命の短いものであった。
【0028】比較例2目付60g/m2 のメルトブロー不織布と目付50g/m2 のガラス濾材(ガラス繊維直径20μm、アクリルバインダー4g/m2 、LOI値25以下、捕集効率2%)を4g/m2 のEVAパウダー樹脂で熱接着したものの難燃性をJIS−L−1091A−1法で評価したところ区分1で難燃性が得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】0.3ミクロン粒子の捕集効率が5〜94%、気孔容積率が86%以上の無機繊維を主体としたシートと、有機繊維を主体としたシートとからなる複合濾材。
【請求項2】複合濾材に占める有機繊維を主体としたシートの重量割合が、50%以下であることを特徴とする請求項1記載の複合濾材。
【請求項3】有機繊維主体としたシートが、メルトブロー不織布であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の複合濾材。
【請求項4】有機繊維を主体としたシートがエレクトレット化シートであることを特徴とする請求項1または請求項3記載の複合濾材。
【請求項5】無機繊維が、ガラス単繊維であることを特徴とする請求項1記載の複合濾材。
【請求項6】無機繊維の平均繊維径が、2μ以上、15μ以下であることを特徴とする請求項1〜5記載の複合濾材。
【請求項7】無機繊維を主体としたシートが、少なくとも表面に、熱接着性成分または粘着性成分を有することを特徴とする請求項1〜6記載の複合濾材。
【請求項8】無機繊維が、ガラス単繊維であることを特徴とする請求項1記載の複合濾材。
【請求項9】熱接着性成分が有機繊維の融点より20℃以上低い樹脂または短繊維であることを特徴とする請求項7記載の複合濾材。
【請求項10】短繊維が有機繊維シートの融点より20℃以上低い部分を繊維断面の外周部に有する熱接着性複合短繊維であることを特徴とする請求項9記載の複合濾材。