説明

複合粒子、その製造方法及びその用途

【課題】エレクトロクロミック特性に悪影響を与えず、かつ後処理等により製造工程を煩雑にすることなく、エレクトロクロミック素子用の薄膜を作製可能な金属錯体と樹脂との複合粒子を提供する
【解決手段】下記一般式(1)
M1x[M2(CN)6y (1)
(式中のM1及びM2は2〜13族の元素であり、xは3〜4、yは2〜3を示す。)で表される金属錯体と樹脂とからなり、前記樹脂に含まれるポリエチレンオキシド構造が30〜99重量%であることを特徴とする複合粒子により上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合粒子、その製造方法及びその用途に関する。更に詳しくは、本発明は、エレクトロクロミック剤としての所定の微粒子状金属錯体を用いた複合粒子及びその製造方法ならびに前記複合粒子を用いて得られたエレクトロクロミック表示素子、前記複合粒子を水性媒体に分散させた分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
特定の金属及び特定の分子からなる錯体化合物は、その金属種及び配位分子種の組み合わせにより多様な物性を持たせることができる。その用途は広く、発光材料、塗料等に使用されている。
【0003】
金属錯体の中には、電圧の印加により酸化還元反応を伴い色が変化する特性(エレクトロクロミック特性)を有するものがある。例えば、プルシアンブルーは、電圧の印加により、青色と無色を呈することが知られている。このような金属錯体を成膜して薄膜化することにより、電気的に色を制御できる特性を利用したエレクトロクロミック素子を実用化することができれば、例えば調光ガラス等幅広い分野で応用が可能となる。
【0004】
エレクトロクロミック特性を有する金属錯体は、多くの溶媒に不溶であるため、塗布法による薄膜作製が困難であり、そのため薄膜を作製する方法は電解析出法に限られていた。しかし、電解析出法では、大型化、大量生産が困難であり、工業的には適さないという問題があった。
【0005】
この問題を解決するために、バインダーとして高分子化合物等を添加して、分散媒中での金属錯体の分散性を改善することにより混合液を得、これを成膜する技術の研究が行われてきた。例えば、金属錯体であるプルシアンブルーに少量のアニオン変性された水溶性高分子を添加して、分散媒中でのプルシアンブルーの分散性を改良し、得られた混合液を公知の方法でキャストした後、溶媒を除去することでプルシアンブルーを成膜する技術が知られている(特許文献1参照)。また、金属錯体であるプルシアンブルーの分散性を改良する技術として、アクリルポリオールと有機溶媒との混合物を使用する技術(特許文献2参照)や、ポリアクリル系、ポリエチレンイミン系又はポリウレタン系の樹脂を分散剤として使用する技術(特許文献3参照)が知られている。
【0006】
更には、10nm程度にナノ粒子化したプルシアンブルー型の金属錯体とその表面を保護する材料とからなる表面が改質されたナノ粒子が知られている(特許文献4及び非特許文献1参照)。このナノ粒子は、溶媒中での分散性が改善されているため、スピンコート、バーコート、ディップ、スプレー法等の安価で簡便な成膜方法を用いることができる。その結果、エレクトロクロミック素子の大型化、大量生産が可能になるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2716448号公報
【特許文献2】特開平7−3255号公報
【特許文献3】特表2009-529146号公報
【特許文献4】国際公開番号WO2007/020945号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 平成19年度産業技術研究助成事業 研究成果報告書 金属錯体ナノ粒子インクと多様な印刷・製膜技術による新機能エレクトロクロミック素子の創製
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記の先行技術によってもなお、以下の課題が残されている。
例えば、特許文献1〜3に示される、分散剤として高分子化合物を添加する方法においては、酸化還元反応に伴う青色と無色のエレクトロクロミック特性を阻害してしまうことがある。このような高分子化合物は、成膜後に後処理で除去することが困難であるため、結果的にエレクトロクロミック性能に影響を与えてしまう。
【0010】
また、特許文献4や非特許文献1に示される技術においては、エレクトロクロミック特性を発現させるためには成膜後に後処理を必要とする。この理由としては、この技術で用いられる表面を保護する材料の影響により電気伝導等が阻害されるためであると考えられる。この問題を解決するためには、薄膜をアセトンで洗浄処理することが必要となり、結果的に製造工程が煩雑になってしまうという課題が残される。
【0011】
本発明は、エレクトロクロミック特性に悪影響を与えず、かつ後処理等により製造工程を煩雑にすることなく、エレクトロクロミック素子用の薄膜を作製可能な金属錯体と樹脂との複合粒子を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、イオン解離・輸送機能に最適なポリエチレンオキシド構造を有する樹脂と特定の金属錯体とからなる複合粒子が、エレクトロクロミック特性を出すための電気伝導等の阻害をすることなく、エレクトロクロミック剤として優れた応答性を示し、かつ分散媒中での分散性にも優れ、更には後処理等を必要とせずに成膜できることを見出して本発明に至った。
【0013】
かくして本発明によれば、下記一般式(1)
M1x[M2(CN)6y (1)
(式中のM1及びM2は2〜13族の元素であり、xは3〜4、yは2〜3を示す。)
で表される金属錯体と樹脂とからなり、前記樹脂に含まれるポリエチレンオキシド構造が30〜99重量%であることを特徴とする複合粒子が提供される。
【0014】
また、本発明によれば、水性媒体中で下記一般式(1)
M1x[M2(CN)6y (1)
(式中のM1及びM2は2〜13族の元素であり、xは3〜4、yは2〜3を示す。)
で表される金属錯体の存在下、ビニル系モノマーを重合開始剤を用いて重合させて複合粒子を得る工程を含み、前記ビニル系モノマー又は重合開始剤の少なくともいずれか一方が、ポリエチレンオキシド構造を有することを特徴とする複合粒子の製造方法が提供される。
【0015】
更に、本発明によれば、少なくとも一方が透明で、対向する一対の電極間に、エレクトロクロミック膜と電解液とを備え、前記エレクトロクロミック膜が上記の複合粒子を含むことを特徴とするエレクトロクロミック表示素子が提供される。
また、本発明によれば、上記の複合粒子を水性媒体に分散させた分散液が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明による複合粒子は、イオン解離・輸送機能に最適であるとされるポリエチレンオキシド構造をもつ樹脂を有している。このため、エレクトロクロミック特性を示すために必要な電気伝導等を阻害せず、エレクトロクロミック剤として優れた応答性を有する。また、複合粒子という態様であるため、金属錯体が単体で分散されるのに比べて、分散媒中での分散性に優れている。これにより、各種分散媒に分散後、スピンコート、バーコート、ディップ、スプレー法等の成膜法により、安価で簡便に成膜することができるようになり、更には後処理等の煩雑な工程を必要とせずに、エレクトロクロミック素子を大型化、大量生産することが可能となる。
【0017】
また、上記樹脂が、上記金属錯体100重量部に対して5〜150重量部含まれる場合、更にエレクトロクロミック特性に優れたエレクトロクロミック素子を提供することができる。
また、金属錯体がプルシアンブルーである場合、更にエレクトロクロミック特性に優れたエレクトロクロミック素子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明による複合粒子は、下記一般式(1)
M1x[M2(CN)6y (1)
(式中のM1及びM2は2〜13族の元素であり、xは3〜4、yは2〜3を示す。)
で表される金属錯体と樹脂とからなり、前記樹脂に含まれるポリエチレンオキシド構造が30〜99重量%である。
【0019】
(樹脂)
上記樹脂に含まれるポリエチレンオキシド構造は、30〜99重量%である。好ましいポリエチレンオキシド構造の含有量は、40〜80重量%である。ポリエチレンオキシド構造が30重量%未満の場合、ポリエチレンオキシドとしての性能、すなわち、イオン解離・輸送機能が発揮されない場合がある。一方、99重量%より多い場合、樹脂として耐性が低くなる場合がある。
なお、上記樹脂は、単独重合あるいは共重合された単一の樹脂で構成されたものであることが好ましいが、性能を妨げない範囲内でポリエチレンオキシド構造を30重量%未満含む樹脂や、ポリエチレンオキシド構造を全く含まない樹脂が含まれていてもよい。このような、ポリエチレンオキシド構造を(ほとんど又は全く)含まない樹脂と、ポリエチレンオキシド構造を含む樹脂との合計に対して、ポリエチレンオキシド構造の含有量が30〜99重量%であればよい。
【0020】
樹脂に含まれるポリエチレンオキシド構造は、複合粒子を製造する際に用いられるビニル系モノマー及び/又は重合開始剤が有するポリエチレンオキシド構造に由来する。なお、複合粒子の樹脂部分に含まれるポリエチレンオキシド構造の量は、ビニル系モノマー及び/又は重合開始剤が有するポリエチレンオキシド構造の量と略同一である。ここで、ポリエチレンオキシド構造を有する重合開始剤を使用した場合、使用するビニル系モノマーはポリエチレンオキシド構造を有していてもいなくてもよい。一方、ポリエチレンオキシド構造を有するビニル系モノマーを使用した場合、使用する重合開始剤はポリエチレンオキシド構造を有していてもいなくてもよく、ポリエチレンオキシド構造を有さないビニル系モノマーを併用することもできる。ただし、本発明に必要な所定量のポリエチレンオキシド構造が含まれるように、ポリエチレンオキシド構造を有する重合開始剤及び/又はビニル系モノマーを使用することが前提となる。
【0021】
(1)ポリエチレンオキシド構造を有する重合開始剤
ポリエチレンオキシド構造を有する重合開始剤としては、例えば、分子内にポリエチレンオキシド及びアゾ基(−N=N−)を含有する繰り返し単位を含むものが挙げられる。具体的には、次の一般式(2)で表される繰り返し単位を含む高分子化合物が挙げられる。
【0022】
【化1】

(式中、mは20〜250、nは4〜50を示す。)
【0023】
上記の一般式(2)において、mは30〜200が好ましく、40〜150がより好ましい。また、nは4〜40が好ましく、5〜20がより好ましい。
【0024】
ポリエチレンオキシド構造を有する重合開始剤の分子量は、5000〜10万が好ましく、1万〜5万がより好ましい。また、上記の重合開始剤中のポリエチレンオキサイド構造の分子量は、800〜1万が好ましく、1000〜8000がより好ましい。
ここで、ポリエチレンオキシド構造を有する重合開始剤におけるポリエチレンオキシド構造の重量%は、上記の一般式(2)の繰り返し構造であるため、[ポリエチレンオキシド構造の分子量]/[ポリエチレンオキシド構造の分子量+その他の構造の分子量(262)]×100で算出することができる。
【0025】
一般式(2)で表されるポリエチレンオキシド構造を有する重合開始剤としては、和光純薬製の高分子アゾ開始剤VPE0201(分子量約15000〜30000、ポリエチレンオキシド構造部分の分子量2000、[一般式(2)においてm=約45.5、n=約6.6〜13.3の化合物に対応])、VPE0401(分子量約25000〜40000、ポリエチレンオキシド構造部分の分子量4000、[一般式(2)においてm=約90.9、n=約5.9〜9.4の化合物に対応])VPE0601(分子量25000〜40000、ポリエチレンオキシド構造部分の分子量6000、[一般式(2)においてm=約136.3、n=約4.0〜6.4の化合物に対応])等が例示される。
【0026】
(2)ポリエチレンオキシド構造を有するビニル系モノマー
ポリエチレンオキシド構造を有するビニル系モノマーとしては、例えば、次の一般式(3)で表されるビニル系モノマーが挙げられる。
【0027】
【化2】

(式中、nは1〜100を示す。R1はH又はメチル基、R2はH又はアルキル基である。)
【0028】
上記の一般式(3)において、nは1〜100が好ましく、10〜90がより好ましい。
ここで、ポリエチレンオキシド構造を有するビニル系モノマーにおけるポリエチレンオキシド構造の重量%は、上記の一般式(3)の繰り返し構造であるため、[ポリエチレンオキシド構造の分子量]/[ポリエチレンオキシド構造の分子量+その他の構造の分子量]×100で算出することができる。
【0029】
ポリエチレンオキシド構造を有するビニル系モノマーとしては、日油社製のブレンマーPE、AE、PMEシリーズ等が例示される。
【0030】
ポリエチレンオキシド構造を有する重合開始剤及び/又はビニル系モノマー由来の成分は、前記一般式(1)で表される金属錯体100重量部に対して、5〜150重量部含まれることが好ましい。より好ましくは、10〜130重量部である。5重量部未満であると、樹脂と金属錯体との複合化による分散性の改善に効果が見られなくなる。一方、150重量部を超えると、樹脂の割合が高くなり、金属錯体のエレクトロクロミック特性が阻害されてしまう。
【0031】
(3)ポリエチレンオキシド構造を有さないビニル系モノマー
ポリエチレンオキシド構造を有する重合開始剤を使用した場合、ポリエチレンオキシド構造を有さないビニル系モノマー由来の樹脂を複合粒子が含んでいてもよい。そのようなモノマーとしては、広く一般に用いられる各種のビニル系モノマーが挙げられる。具体的には、ビニル系モノマーとしては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、N−メチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−エチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジブチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジ−tert−ブチルアミノエチルアクリレート等の(メタ)アクリレートエステル系モノマー等が挙げられ、これらは、単独で、あるいは2種以上組合せて用いることができる。更に、上記各種のビニル系モノマーは、ポリエチレンオキシド構造を有するビニル系モノマーと共重合させてもよい。
また、イオン移動を妨げない範囲内で架橋剤を使用することが可能である。具体的には、トリメチロールプロパントリアクリレート、アリルメタクリレート、t−ブチルアミノエチルメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート等の多官能性ビニル系モノマー等が挙げられる。これらは、単独で、あるいは2種以上組合せて用いることができる。更に、上記各種の多官能性ビニル系モノマーは、ポリエチレンオキシド構造を有する多官能性ビニル系モノマーと共重合させてもよい。
【0032】
(4)ポリエチレンオキシド構造を有さない重合開始剤
ポリエチレンオキシド構造を有するビニル系モノマーを使用した場合、ポリエチレンオキシド構造を有さない重合開始剤由来の成分を複合粒子が含んでいてもよい。ポリエチレンオキシド構造を有しない重合開始剤としては、通常ラジカル重合に用いられる水溶性重合開始剤、油溶性重合開始剤が利用できる。
【0033】
水溶性重合開始剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩類、ベンゾイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド等の有機過酸化物類、2,2−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩化水素、2,2−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二硫酸二水和物、2,2−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩化水素、2,2−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]水和物、2,2−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン}二塩化水素、2,2−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2−アゾビス(1−イミノ−1−ピロリジノ−2−メチルプロパン)二塩化水素、2,2−アゾビス{2−メチル−N−[1、1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2−アゾビス(N−ヒドロキシエチルイソブチルアミド)、4,4−アゾビス(4−シアノペンタン酸)、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス(2,4ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物類等が挙げられる。
【0034】
油溶性重合開始剤としては、例えば、過酸化クミル、過酸化tert−ブチル、過酸化プロピオニル、過酸化ベンゾイル、過酸化クロロベンゾイル、過酸化ジクロロベンゾイル、過酸化ブロモメチルベンゾイル、過酸化ラウロイル、パーオキシ炭酸ジイソプロピル、1−フェニル−2−メチルプロピル−1−ハイドロパーオキサイド、過トリフェニル酢酸−tert−ブチルハイドロパーオキサイド、過蟻酸tert−ブチル、過酢酸tert−ブチル、過安息香酸tert−ブチル、過フェニル酢酸tert−ブチル、過メトキシ酢酸tert−ブチル、過N−(3−トルイル)パルミチン酸tert−ブチル等の過酸化物;2,2’−アゾビスプロパン、2,2’−ジクロロ−2,2’−アゾビスプロパン、2,2’−アゾビスイソブタン、2,2’−アゾビスイソブチルアミン、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2−メチルプロピオン酸メチル、2,2’−ジクロロ−2,2’−アゾビスブタン、2,2’−アゾビス−2−メチルブチロニトリル、2,2’−アゾビスイソ酪酸ジメチル、1,1’−アゾビス(1−メチルブチロニトリル−3−スルホン酸ナトリウム)、2−(4−メチルフェニルアゾ)−2−メチルマロノジニトリル、3,5−ジヒドロキシメチルフェニルアゾ−2−メチルマロノジニトリル、2−(4−ブロモフェニルアゾ)−2−アリルマロノジニトリル、2,2’−アゾビス−2−メチルバレロニトリル、4,4’−アゾビス−4−シアノ吉草酸ジメチル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、1,1’−アゾビスシクロへキサンニトリル、2,2’−アゾビス−2−プロピルブチロニトリル、1,1’−アゾビス−1−クロロフェニルエタン、1,1’−アゾビス−1−シクロヘキサンカルボニトリル、1,1’−アゾビスシクロヘキサンニトリル、2,2’−アゾビス−2−プロピルブチロニトリル、1,1’−アゾビス−1−クロロフェニルエタン、1,1’−アゾビス−1−シクロヘキサンカルボニトリル、1,1’−アゾビス−1−シクロヘプタンカルボニトリル、1,1’−アゾビス−1−フェニルエタン、1,1’−アゾビスクメン、4−ニトロフェニルアゾベンジルシアノ酢酸エチル、フェニルアゾジフェニルメタン、フェニルアゾトリフェニルメタン、4−ニトロフェニルアゾトリフェニルメタン、1,1’−アゾビス−1,2−ジフェニルエタン、ポリ(ビスフェノールA−4,4’−アゾビス−4−シアノペンタノエート)、ポリ(テトラエチレングリコール−2,2'’−アゾビスイソブチレート)等のアゾ化合物等が挙げられる。
【0035】
ポリエチレンオキシド構造を有しない重合開始剤の添加量は、ビニル系モノマー100重量部に対して、0.05〜10重量部が好ましい。より好ましくは、0.1〜5重量部である。0.1重量部未満では、重合完了までに時間がかかり生産効率に悪影響を与える場合がある。一方、5重量部を超えると、その添加量に見合った効果を得られない場合がある。
【0036】
(金属錯体)
金属錯体は、一般式(1)
M1x[M2(CN)6y (1)
(式中のM1及びM2は2〜13族の元素であり、xは3〜4、yは2〜3を示す。)
で表される。この金属錯体には、異なる酸化数の金属イオンを同一分子内に含む錯体(混合原子価錯体)、同一の金属イオン、同じ配位子からなる酸化数のみが異なる錯体(複核混合原子価錯体)、鉄シアノ混合原子価錯体等が含まれる。この金属錯体は、結晶内にアルカリ金属イオンの挿入放出反応を伴う酸化還元反応により、エレクトロクロミック特性を発揮する。
M1としては、例えば、Fe、Cu、Ba、Mn、Cd、Hg、Co、Ni、Ca、Sr、Al等が挙げられる。M2としては、例えば、Fe、Co、Cr等が挙げられる。
【0037】
上記の金属錯体の具体例としては、Fe4[Fe(CN)63、Cu[Cr(CN)62、Ba3[Cr(CN)62、Mn3[Cr(CN)62、Cd3[Cr(CN)62、Hg3[Cr(CN)62、Co3[Cr(CN)62、Ni3[Cr(CN)62、Ca3[Co(CN)62、Sr3[Cr(CN)62、Ba3[Co(CN)62、Al4[Fe(CN)63、Ga4[Fe(CN)63、Sb4[Fe(CN)63、Cd3[Fe(CN)62等が挙げられる。
【0038】
これらの金属錯体のうち、M1がFe、Cu、Co、Cd、又はCr、M2がFe、Co、Cu、Cr、OsはRuの組み合わせが好ましい。更にはプルシアンブルーで代表される鉄、シアノ混合原子価錯体であることが好ましい。プルシアンブルーは結晶内に3.2Åの細孔を有し、K+、Li+等のアルカリ金属イオンの挿入放出反応を、酸化還元反応を伴いながら安定的に行うことができる。
【0039】
(複合粒子の粒子径、形状)
複合粒子は、その平均粒子径が10〜2000nmであることが好ましい。より好ましくは200〜700nmである。10nm未満であると、製造することが難しくまた製造工程において取り扱いが困難となる場合がある。一方、2000nmを超えると、粒子径が大きいため沈降速度が速くなり、溶媒(分散媒)における分散性が低下する場合がある。そのため、発光材料や塗料としての用途に不向きとなることがある。
また、複合粒子の形状は、特に限定されず、球形、不定形等、いずれでもよい。この内、エレクトロクロミック膜の成膜の均一性を向上する観点から、球形であることが好ましい。
ここでいう平均粒子径とは、動的光散乱法あるいは光子相関法と呼ばれる方法を利用して測定した粒子径を意味する。具体的には、0.01〜0.5wt%に調製した粒子の水系分散液に25℃においてレーザー光を照射し、重合体粒子から散乱される散乱光強度をマイクロ秒単位の時間変化で測定する。検出された重合体樹脂粒子に起因する散乱強度分布を正規分布に当てはめて、平均粒子径を算出するためのキュムラント解析法により、平均粒子径を求める。この種の平均粒子径は、市販の測定装置で簡便に測定可能であり、本実施例ではマルバーン社から市販されている「ゼータサイザーナノZS」を測定に使用する。
上述の市販の測定装置にはデータ解析ソフトが搭載されており、測定データを自動的に解析できる。
【0040】
(複合粒子の製造方法)
複合粒子は、上記一般式(1)で表される金属錯体の存在下、ビニル系モノマーを重合開始剤を用いて重合させることにより得られる。以下、複合粒子の製造方法を説明する。
【0041】
本発明の複合粒子は、水性媒体中で、ポリエチレンオキシド構造を有する重合開始剤及び/又はビニル系モノマーと一般式(1)で表される金属錯体とを、超音波ホモジナイザー等で溶解及び分散し、加熱重合することで得ることができる。重合開始時には、一般式(2)及び一般式(3)で表されるようなポリエチレンオキシド構造を有する重合開始剤及び/又はビニル系モノマーは溶媒に溶解しており、一般式(1)で表される金属錯体は分散している。重合が進むにつれ、ポリマーが粒子として析出し、複合粒子が生成する。重合は、窒素やアルゴン等の不活性雰囲気下で行なうのが好ましい。反応温度及び時間については特に限定されるものではなく、用いる重合開始剤の種類や使用量及び反応に使用するビニル系モノマーの量などにより適時調整して用いることが可能である。好ましくは反応温度40〜100℃、反応時間0.5〜30時間の範囲で行うことができる。より好ましくは、反応温度は50〜70℃、反応時間は2〜15時間である。重合後、遠心分離等により固液分離等を行うことで複合粒子を単離してもよい。
【0042】
水性媒体としては、水及び/又は親水性有機溶媒からなる媒体が好ましい。親水性有機溶媒としては、エタノール、メタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、t−ブタノール等の炭素数1〜4のアルコール類等が挙げられる。溶媒の使用量としては、ポリエチレンオキシド構造を有する重合開始剤及び/又はビニル系モノマーと一般式(1)で表される金属錯体100重量部に対し、400〜1900重量部が好ましく、より好ましくは500〜1000重量部である。
【0043】
(複合粒子の用途)
本発明の複合粒子を溶媒(分散媒)に分散させた分散液を用いて、公知の方法により成膜することにより、エレクトロクロミック表示素子に用いられるエレクトロクロミック膜を得ることができる。
(1)分散液
分散液は、複合粒子と、それを分散させる水性媒体とを含む。水性媒体としては、例えば、エタノール、メタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、プロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル等のアルコール系溶剤;酢酸ブチル、酢酸エチル、セロソルブアセテート等のエステル系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤及びジメチルホルムアミドや水が挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いられてもよいし、2種類以上が併用されてもよい。
分散液中の複合粒子の含有割合は、例えば、1〜30重量%である。
複合粒子は、上記の溶媒に添加されて、攪拌機又は超音波などにより攪拌あるいは分散することにより、分散液とすることができる。
【0044】
(2)エレクトロクロミック表示素子
エレクトロクロミック表示素子は、少なくとも一方が透明で、対向する一対の電極間に、エレクトロクロミック膜と電解液とを備えている。
一対の電極の内、透明な電極は、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化スズ、酸化インジウム等の導電膜を備えたガラス基板やプラスチック基板が挙げられる。導電膜は、0.01〜1μm程度の膜厚を有している。他方の電極は、透明であってもなくてもよい。透明でない電極としては、Al、Cu、Au、Ag等の金属電極が挙げられる。
【0045】
また、電極には、酸化還元能の付与、導電性の付与、電気二重層容量の付与の目的で、部分的に不透明な電極活性物質を付与することもできる。この際、その付与量は電極面全体の透明性が損なわれない範囲で選択されることは勿論である。不透明な電極活性物質としては、例えば、銅、銀、金、白金、鉄、タングステン、チタン、リチウム等の金属、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール、フタロシアニンなどの酸化還元能を有する有機物、活性炭、グラファイトなどの炭素材、V25、MnO2、Ir23などの金属酸化物又はこれらの混合物を用いることができる。また、これらを電極に結着させるために、さらに各種樹脂を用いてもよい。この不透明な電極活性物質等を電極に付与する方法としては、例えば、ITO透明電極上に、活性炭素繊維、グラファイト、アクリル樹脂等からなる組成物をストライプ状又はドット状等の微細パターンに形成する等の方法がある。
【0046】
エレクトロクロミック膜は、一対の電極の片側に形成されていてもよく、両側に形成されていてもよい。エレクトロクロミック膜は、上記分散液を、スピンコート、バーコート、ディップ、スプレー法等の公知の方法に塗布し、次いで乾燥させることにより得ることができる。エレクトロクロミック膜は、通常、0.1〜2μm程度の膜厚を有している。
【0047】
一対の電極間には、エレクトロクロミック膜と電解質層とが介在する。電解質層としては、液状、ゲル状、固体状の電解質を含む層が挙げられる。この内、液状の電解質層が簡便である。
液状の電解質層としては、例えば、プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、エチレンカーボネート等の溶媒に、LiClO4、LiBF4、KClO4、KBF4、LiPF6、KPF6等の電解質を溶解させたものが挙げられる。
【0048】
上記の方法により得られたエレクトロミック表示素子は、電圧操作により透明電極の光透過率を任意に制御できるエレクトロクロミックガラス(調光ガラス)、電子ペーパー等に使用できる。また、このエレクトロクロミックガラスにおいて、対電極としてアルミニウムのような反射性のものを用いることにより、反射率を電圧操作により切り替えられる防眩ミラーを得ることができる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。先ず、実施例及び比較例中の測定方法及び評価方法について説明する。
【0050】
(分散性の評価方法)
得られた複合粒子あるいはプルシアンブルー0.6gをエタノール10gと水2gとからなる水性媒体とともに、20mlサンプル瓶に入れて、マグネチックスターラー(柴田科学機器工業社製:MGP−301型)を用いて、5分間撹拌した時の粒子の分散性とその分散液を密栓して25℃の恒温室で24時間静置後の粒子の沈降度合い(分散安定性)とについて、以下の評価基準により判断した。
○:粒子が分散液に容易に分散し、24時間静置後はサンプル瓶の底に沈降物がなく均一に分散している。
×:粒子が分散液に分散するのに時間がかかり、24時間静置後はサンプル瓶の底に沈降物が見られる。
【0051】
(実施例1)
200mLセパラブルフラスコにポリエチレンオキシド構造を有する重合開始剤VPE0201(和光純薬製)1.0g、メチルメタクリレート(三菱レイヨン社製 商品名:アクリエステルM)(以下、MMA)1.0g、プルシアンブルー(大日精化工業社製 MILORI BLUE 905、平均粒子径170nm)8.0gをイオン交換水60mlとエタノール30mlの混合溶媒に入れ、超音波ホモジナイザー(BRANSON社製 SNIFIER 450 (output control level 5))を用いて3分間分散させた後、窒素雰囲気下で撹拌下、70℃、10時間重合を行った。次いで、常温まで冷却した後、遠心分離により固液分離を行い、複合粒子を得た。複合粒子の平均粒子径は330nmであった。
【0052】
(実施例2)
ポリエチレンオキシド構造を有する重合開始剤VPE0201(和光純薬製)1.6g、MMA0.4g、変更したこと以外は実施例1と同様に行った。得られた複合粒子の平均粒子径は250nmであった。
【0053】
(実施例3)
MMA0.8g、ジメチルアミノエチルメタクリレート(共栄社化学製 商品名:ライトエステルDM)(以下、DMAEMA)0.2g、プルシアンブルー(大日精化工業社製 MILORI BLUE 905)を2.0gに変更したこと以外は実施例1と同様に行った。得られた複合粒子の平均粒子径は230nmであった。
【0054】
(実施例4)
ポリエチレンオキシド構造を有する重合開始剤VPE0201及びMMA1.0gを、ポリエチレンオキシド構造を有するビニル系モノマーであるブレンマーPME−4000(日油社製、ポリエチレンオキシド構造部分の分子量4,000、nは約90、R1はメチル基、R2はメチル基)1.0g、MMA0.8g、ジメチルアミノエチルメタクリレート0.2g、及び水溶性重合開始剤として2,2−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩化水素、(和光純薬社製:V−50)0.04gに変更したこと以外は実施例1と同様に行った。得られた複合粒子の平均粒子径は200nmであった。
【0055】
(実施例5)
ポリエチレンオキシド構造を有する重合開始剤VPE0201(和光純薬製)0.64g、MMA0.16g、変更したこと以外は実施例1と同様に行った。得られた複合粒子の平均粒子径は200nmであった。
【0056】
(比較例1)
実施例で使用したプルシアンブルーを用い、分散性の評価とエレクトロクロミック素子の駆動性の評価を行った。
【0057】
(比較例2)
比較例1において、水性媒体として高分子分散安定剤であるアニオン変性ポリビニルアルコール(日本合成化学社製:ゴーセランL−0302)5重量%を溶解したエタノールを使用した以外は同様にして分散性の評価とエレクトロクロミック素子の駆動性の評価を行った。
【0058】
(比較例3)
ポリエチレンオキシド構造を有する重合開始剤VPE0201、1.0gを水溶性重合開始剤として2,2−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩化水素、(和光純薬社製:V−50)0.04g、MMA1.0gを、MMA2.0gに変更したこと以外は実施例1と同様に行った。得られた複合粒子の平均粒子径は250nmであった。
実施例及び比較例とそれぞれの分散性の評価結果を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
表1に示すように、本発明の複合粒子は、比較例と比べ、分散性が非常に優れており、また、24時間経過後も粒子が沈降しておらず、分散安定性にも非常に優れている。
【0061】
(エレクトロクロミック素子の作製と評価)
以下の要領でエレクトロクロミック素子を作製して、着消色の駆動性の評価を実施した。
【0062】
(1)エレクトロクロミック膜の作製
実施例及び比較例で得られた粒子又はプルシアンブルー0.6gをエタノール12gに分散して得られた分散液(比較例2はアニオン変性ポリビニルアルコール5重量%エタノールを使用)をITOガラス透明電極上に塗布、乾燥しエレクトロクロミック膜を形成させた。
(2)エレクトロクロミック素子の作製
上記(1)により得られたエレクトロクロミック膜と対向電極間に基盤間距離が0.5mmになるようスペーサーを挟み、エポキシ樹脂により接着した後、電極間に電解液として1M6フッ化リン酸カリウムのプロピレンカーボネート溶液を注入し素子面積30mm×30mmのエレクトロクロミック素子を作製した。
(3)エレクトロクロミック素子の評価
上記(2)により得られたエレクトロクロミック素子にAUTOLAB(ECO CHEMIE社製、PGSTAT128N)を用い、印加電圧−2V、2Vで60秒間印加して、プルシアンブルー膜の着消色の駆動性を以下の評価基準で評価して、結果を表2に示す。
○:電圧印加により青色と無色に繰り返し変化するのが目視により確認できる。
×:電圧を印加しても色の変化が見られず、駆動しない。
【0063】
【表2】

【0064】
表2から、イオン解離・輸送機能に優れたポリエチレンオキシド構造を有する樹脂(重合開始剤又はビニル系モノマー)を用いて得られた複合粒子が、プルシアンブルーがエレクトロクロミック特性を出すための電気伝導等を阻害することなく、エレクトロクロミック剤として優れた応答性を示すことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
M1x[M2(CN)6y (1)
(式中のM1及びM2は2〜13族の元素であり、xは3〜4、yは2〜3を示す。)
で表される金属錯体と樹脂とからなり、前記樹脂に含まれるポリエチレンオキシド構造が30〜99重量%であることを特徴とする複合粒子。
【請求項2】
前記樹脂が、前記金属錯体100重量部に対して5〜150重量部である請求項1に記載の複合粒子。
【請求項3】
前記金属錯体が、プルシアンブルーである請求項1又は2に記載の複合粒子。
【請求項4】
水性媒体中で下記一般式(1)
M1x[M2(CN)6y (1)
(式中のM1及びM2は2〜13族の元素であり、xは3〜4、yは2〜3を示す。)
で表される金属錯体の存在下、ビニル系モノマーを重合開始剤を用いて重合させて複合粒子を得る工程を含み、前記ビニル系モノマー又は重合開始剤の少なくともいずれか一方が、ポリエチレンオキシド構造を有することを特徴とする複合粒子の製造方法。
【請求項5】
少なくとも一方が透明で、対向する一対の電極間に、エレクトロクロミック膜と電解液とを備え、前記エレクトロクロミック膜が請求項1〜3のいずれか1つに記載の複合粒子を含むことを特徴とするエレクトロクロミック表示素子。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の複合粒子を水性媒体に分散させた分散液。

【公開番号】特開2012−63525(P2012−63525A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206837(P2010−206837)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】