説明

複合線の製造方法

【目的】金属芯線と被覆金属との接合性を改善し、断線することなく伸線加工を行うことができる複合線の製造方法を提供する。
【構成】金属テープ12の表面に、脱脂・酸洗処理した後に、断面形状が正三角形状の溝26を、幅方向に対して45°の角度をなし、かつ、金属テープ12の肉厚に対して10% の深さに、複数本を互いに交差させて網目状になるように形成する。溝26が形成された面を内側にして金属芯線18の周囲を囲むように金属テープ12を略管状に成形する。次いで、金属テープ12の両縁部を互いに当接させて溶接した後、管状の金属テープ12を縮径し、金属テープ12及び金属芯線18を伸線加工して複合化する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、複合線の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、金属芯線の周囲に金属芯線とは異なる金属を被覆した複合線の長尺物の連続製造方法としては、例えば、金属芯線の周面上に被覆材をメッキするメッキ法、および金属芯線の周囲に被覆材として金属テープを略管状に形成し、その両縁部を互いに当接させて溶接した後に伸線加工して被覆材と金属芯線とを複合化するテープ溶接引抜法が行われている。
【0003】メッキ法は、一般的に銅被覆鋼線の製造に用いられている。しかし、導電率の高い銅被覆鋼線を製造するためには被覆材の肉厚を厚くすることが必要であるが、メッキ法では製造コストが多大になってしまう。これに対して、テープ溶接引抜法によれば、比較的低い製造コストで被覆材の肉厚が厚い銅被覆鋼線を製造することができる。
【0004】このようなテープ溶接引抜法において、金属芯線と金属テープとの接合性を改善し伸線性を向上させるために、金属テープの金属芯線との接触側表面に例えば金属ブラシによる研磨のような機械的研磨や酸洗いを施すことが行われている。
【0005】このうちの機械的研磨によれば、金属テープの接触側表面に付着したスケールが除去される。また、表面が切削されて酸化膜で覆われていない金属テープ内部の新生界面が露出する。さらに、研磨によって金属テープの表面層が硬化する加工硬化が起こる。この後に、金属テープを略管状に形成した後伸線加工を施した場合に、金属テープの伸長に伴って新生界面が表面上に突出し、金属芯線の表面に密着する。特に、加工硬化が起きた場合には、加工硬化した表面層は、変形能が低下しているために金属テープ母材の伸長に追従しない。このため、上述の新生界面が露出する切削部で優先的に亀裂が生じ、新生界面が容易に突出する。金属芯線と金属テープとの接合性を改善するには、上述のような新生界面の突出をより多くさせることが重要である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来の機械的研磨では、上述の切削部は研磨工程において無作為に形成されるため、切削部の方向、深さおよび分布は不均一になる。このために、切削部の長手方向が複合線の伸線方向と略同方向である場合には、伸線加工を行っても切削部に亀裂が発生しにくく、十分な新生界面の突出は得られない。この結果、金属テープと金属芯線との接合性を改善させることが困難である。一方、切削部の長手方向が複合線の伸線方向に対して略直角である場合には、このような切削部が形成された箇所では、金属テープの幅方向に切断した場合の横断面断面積が他の箇所よりも小さくなるため、例えば、伸線加工を施した際に断線し易い傾向にある。このように、従来の機械的研磨を適用した複合線の製造方法では、金属芯線と金属テ−プとの接合性を改善し、断線を生じることなく伸線加工を行って複合線を製造することが困難である。
【0007】本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、金属芯線と金属テープとの接合性の良好な複合線の製造方法を提供する。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は、金属芯線と異なる金属からなる金属テープの片面に、幅方向と30°〜60°の角度をなしかつ断面形状が略V字状である溝を、前記金属テープの肉厚に対して5〜25%の深さに形成し、前記金属テープを前記溝が形成された面を内側にして前記金属芯線の周囲を囲むように略管状に成形し、前記金属テープの両縁部を互いに当接させて溶接した後、管状の前記金属テープおよび前記金属芯線を伸線加工して前記金属芯線と前記金属テープとを複合化することを特徴とする複合線の製造方法を提供する。
【0009】以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0010】本発明の複合線の製造方法において用いられる金属芯線は、一般的に芯線として使用される金属等であれば特に限定されるものではないが、例えば、銅線、鋼線、チタン線を使用できる。
【0011】また、本発明で使用される金属テープは、金属芯線とは異なる金属からなる。例えば、無酸素銅条、アルミニウム条、銅焼鈍テープ、銅合金テープ、ステンレステープ、チタンテープを使用できる。
【0012】このような金属テープの片面には多数の溝を形成する。かかる溝は、金属テープの幅方向と30°〜60°の角度をなすように形成されている。溝の形成角度を30°〜60°の範囲内に限定したのは、溝の形成角度が30°未満の場合には、溝は金属テープの幅方向と平行に近くなる。このため、最終的に得られる複合線を長手方向に対して直角に切断した横断面断面積が、切断した箇所によっては非常に小さくなるので、例えば後述の伸線処理を施した際に、この横断面断面積が小さい箇所で複合線が断線する恐れがあるからである。一方、溝の形成角度が60°を越える場合には、溝は金属テープの長手方向と平行に近くなる。このため、伸線処理を施した際に溝に対して主に長手方向に張力が作用するので溝が開裂しにくく、十分な新生界面の突出が得られないからである。
【0013】また、溝は、断面形状が略V字状に形成される。溝の断面形状が略方形状であったり略円形状である場合には、伸線処理を施した際に表面上に突出した溝部の内面に角や丸みが残るので、突出した新生界面が平坦になり難くなるため好ましくない。
【0014】また、溝の深さは金属テープの肉厚に対して5〜25%の範囲内である。溝の深さが金属テープの肉厚に対して25%を越える場合には、伸線処理後の複合線における金属芯線と金属テープの間に隙間が生じたり、横断面断面積における金属テープの割合が少なくなり過ぎるため断線を起こし易くなる。一方、溝の深さが金属テープの肉厚に対して5%未満である場合には、新生界面の突出が少なく本発明の効果を十分に発揮し得ない。
【0015】このような溝は、例えば、金属テープの片面に、互いに平行にかつ同一の方向で多数形成することができる。より多くの新生界面を突出させるために、隣合う溝の間隔は可能な限り小さいことが好ましい。さらに、多数の溝を互いに交差させて、網の目状になるように形成することが好ましい。
【0016】上述のような溝の形成に先立って、金属テープの表面を、脱脂、酸洗処理を施して、金属テープの表面を清浄にしておくことが好ましい。金属芯線の表面も、同様に脱脂、酸洗処理を施しておくことが好ましい。
【0017】上述のような金属テープを溝が形成された面を内側にして、金属芯線の周囲を囲むように略管状に成形する。次いで、金属テープの両縁部を互いに当接させて溶接する。この後、管状の金属テープを、例えば、圧延装置により縮径加工した後、例えば、引抜きダイスを用いて伸線加工して金属芯線と金属テープとを複合化する。この際に、金属テープの伸長に伴って溝が開裂し、溝内面に露出した新生界面が金属テープの表面上に突出して金属芯線の表面と接合する。この結果、金属芯線と金属テープとが強固に接合される。
【0018】
【作用】本発明の複合線の製造方法によれば、金属テープの片面に予め溝を形成し、酸化膜を有しない清浄な新生界面を露出させる。次いで、金属テ−プを溝が形成された面を内側にして略管状に成形し、金属テープの両縁部を互いに当接させて溶接した後、管状の金属テープを伸線加工することにより、溝を開裂させて新生界面を金属テープの表面上に突出させる。これにより、金属芯線と金属テープとが極めて清浄な新生界面を介して接合し、両者間の接合性が改善される。
【0019】また、溝は金属テープに対して所定の角度をなし、かつ、所定の深さで形成されているので、伸線加工によって新生界面が容易に突出すると共に、複合線の横断面断面積が略均一になるように制御できる。これにより、金属芯線と金属テープとの接合性が著しく改善される一方で、溝の形成によって複合線の伸線性が低下するのを防止できる。
【0020】
【実施例】以下、本発明の複合線の製造方法を適用した銅被覆鋼線を製造した場合について、図面を参照して詳細に説明する。
【0021】図1は、本発明の複合線の製造方法に用いる製造設備の一例を示す説明図である。
【0022】図中11は、金属テープ12を供給する金属テープ供給装置である。金属テープ12は、肉厚1mm、板幅30.5mmの無酸素銅条である。金属テープ供給装置11から供給した金属テープ12を、脱脂槽13に導入し、金属テープ12の表面にトリクロ−ルエチレンを用いて脱脂処理を施した。次いで、金属テープ12を、酸洗処理装置14に導入し、金属テープ12の表面を酸洗した。
【0023】この後、金属テープ12を、周面上に金属テ−プ12の表面に形成される溝に対応する突起部を有する圧延ロール15,16の間を通して、溝加工を行った。圧延ロール15の周面に形成した突起部は、複数本の突起部が互いに交差して網の目状をなしており、かつ、夫々の突起部は、圧延ロール15,16の回転方向に対して45°の角度をなして形成した。かかる突起部は、圧延ロール16に形成する。このようにして金属テープ12の片面に、図2(A),(B)に示す如く、金属テープ12の幅方向に対する角度αが45°である溝26が、互いに交差して網目状をなして形成された。溝26の断面形状は略正三角形であり、溝26の深さtは、0.1mmとした。このような溝加工により、溝26の内面に酸化膜を有しない清浄な新生界面が露出した。
【0024】一方、金属芯線供給装置17から、直径6.0mmの鋼線からなる金属芯線18を脱脂槽19に導入し、金属テープ12と同様にして周面に脱脂処理を施した。
【0025】金属テープ12および金属芯線18を成形装置20に導入し、図3(A)に示すように、金属テ−プ12を、金属芯線18に対して溝26が形成された側の面を向けて配置し、図3(B),(C)に示すように、金属芯線18の周囲を囲むように金属テープ12をパイプ状に成形した。
【0026】次いで、金属テープ12および金属芯線18を、TIG溶接機21に導入して、図3(C),(D)に示すように、金属テープ12の両縁部を互いに当接させて溶接した。金属テープ12の溶接は、溶接部の酸化防止と溶接内面ビードの平滑化のために、アルゴンガス雰囲気内(流量10リットル/分)で、直径3.2 mmの電極棒を用いたTIG溶接により行った。
【0027】この後、金属テープ12および金属芯線18を、圧延装置22に導入し、管状に成形された金属テープ12に縮径加工を施した。次に、金属テープ12および金属芯線18を、引抜ダイス23を通して、直径1mmまで伸線加工を施して、図3(E)に示すような銅被覆鋼線24を得た。この伸線加工の際に、金属芯線と被覆材とが接合するように、途中数回700℃×30分の拡散熱処理を行った。得られた銅被覆鋼線24は、複合線巻取装置25に巻き取った。
【0028】上述のような銅被覆鋼線24の製造方法によれば、伸線加工において溝26が開裂して、溝26の内面に露出した新生界面が表面に突出して金属芯線18の表面と接合する。これにより、金属芯線18と被覆金属24aとが強固に複合化する。また、溝26が金属テープ12の幅方向に対して45°の角度をなして形成されているので、金属テープ12を幅方向に切断した場合の横断面断面積が常に略均一であるために、銅被覆鋼線24の引張強度が低下するのを防止し、直径1mmまで断線することなく伸線加工することができる。
【0029】本発明の効果を確認するために、溝26を金属テープ12の幅方向に対して、夫々、0°,20°,30°,45°,60°,70°および90°の角度(以下、溝形成角度という)をなし、断面形状が正三角形で、かつ、深さが金属テープ12の肉厚に対して10%になるように形成した金属テープを用いて、上述の通り試料1〜6を製造した。また、金属テ−プの表面を金属ブラシを用いて機械的研磨を施したものを用いて、上述と同様にして試料7を製造した。この際に、各試料を断線せずに伸線加工できたときの直径(以下、伸線時到達線径という)を調べた。また、さらに、直径 1.0mmまで伸線できたものについて、折り曲げ試験を行って接合性を評価した。この結果を示す表1に示す。なお、表1中で、10回以上折曲げが可能なものについては可(○印)とし、10回未満のものについてはその回数を示した。
【0030】
【表1】


表1から明らかなように、溝形成角度が30°〜60°である試料3〜5は、金属テ−プ12と金属芯線18との接合性が改善され、かつ、金属テープ12を幅方向に切断した場合の横断面断面積が常に略均一であるために断線し難く、直径1mmまで断線せずに伸線加工することができ、折曲げ試験において10回以上折曲げを行った場合にも金属テ−プ12の剥離は生じなかった。
【0031】これに対して、溝形成角度が0°,20°である試料1,2は、溝26が金属テープ12の幅方向と水平に近いので切断する箇所によって横断面面積が著しく小さくなる箇所があるために、直径1.0mmまで伸線加工する前の段階で断線した。また、溝形成角度が70°,90°である試料6,7は、機械的研磨により表面を処理した金属テープを用いた試料8よりも、小さい直径まで伸線加工することができたが、溝26が金属テープ12の長手方向と平行に近いので伸線加工において溝26が開裂し難く、新生界面が十分に突出できないために、金属テープ12と金属芯線18との接合性を十分に向上できず、直径1mmまでは伸線加工できたものの、折曲げ試験において十分な接合性が得られなかった。
【0032】次に、溝形成角度が45°であって、溝26の深さが金属テープ12の肉厚に対して、3,5,20,25および30%に変更した金属テ−プを用いて、上述と同様にして試料8〜11を製造し、伸線時伸線性および接合性を調べた。この結果を表1に併記する。
【0033】先に製造した試料4を含め、溝26の深さが金属テープ12の肉厚に対して5〜25%の範囲内である試料4,8〜10は、十分な新生界面の突出が得られるため、断線することなく直径1mmまで伸線加工することができ、折曲げ試験において十分な接合性を示している。これに対して溝26の深さが金属テープ12の肉厚に対して30%である試料12は、溝26が深すぎるために、金属テープ12の横断面断面積が小さくなるため引張強度が低く、比較的太い直径まで伸線加工した段階で断線した。さらに、溝26の深さが金属テープ12の肉厚に対して5%である試料13は、溝26が浅すぎるために溝加工の効果がなく、直径1.0mmまで伸線できるものの、折曲げ試験において十分な接合性は得られなかった。
【0034】本実施例では、銅被覆鋼線を製造した場合について説明したが、例えば、アルミ被覆鋼線、アルミ被覆銅線のようなその他の異種金属を組み合わせた複合線の製造においても同様の効果を発揮し得る。
【0035】
【発明の効果】以上説明した如くに、本発明の複合線の製造方法によれば、金属テープの金属芯線と接合する表面に新生界面を突出させるための溝を形成したことにより、金属テープと金属芯線との接合性が著しく改善されると共に、溝を所定の角度および深さで形成することによって機械的強度が維持される。この結果、接合性、伸線性が向上し、伸線加工時に断線が生じるおそれがなく、工業的に高品位の複合線を効率よく製造できる等顕著な効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の複合線の製造方法に用いる製造設備の一例を示す説明図。
【図2】(A)は、本発明の複合線の製造方法に用いる金属テープを示す平面図、(B)は、(A)中のBB´線に沿って切断した金属テープの断面図。
【図3】(A)〜(E)は、本発明の複合線の製造方法における金属芯線と金属テープとを複合化する工程を夫々示す説明図。
【符号の説明】
11…金属テープ供給装置、12…金属テープ、13,19…脱脂槽、14…酸洗処理装置、15,16…圧延ロール、17…金属芯線供給装置、18…金属芯線、20…成形装置、21…TIG溶接機、22…圧延装置、23…引抜ダイス、24…複合線、26…溝。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 金属芯線と異なる金属からなる金属テープの片面に、幅方向と30°〜60°の角度をなしかつ断面形状が略V字状である溝を、前記金属テープの肉厚に対して5〜25%の深さに形成し、前記金属テープを前記溝が形成された面を内側にして前記金属芯線の周囲を囲むように略管状に成形し、前記金属テープの両縁部を互いに当接させて溶接した後、管状の前記金属テープおよび前記金属芯線を伸線加工して前記金属芯線と前記金属テープとを複合化することを特徴とする複合線の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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