説明

複合酸化物微粒子の製造方法

【課題】複合酸化物微粒子を作製するにあたって、純度が高く、粒子径や化学組成の均一性に優れた複合酸化物微粒子を再現性よく得ることを可能にする。
【解決手段】複合酸化物微粒子を構成する各成分を含む原料混合物を溶融する。溶融物を急速冷却して非晶質化物を得る。非晶質化物を加熱して複合酸化物の結晶を含む結晶化物を析出させる。結晶化物から複合酸化物の結晶を分離・精製し、複合酸化物微粒子を作製する。複合酸化物結晶の分離・精製工程は、複合酸化物微粒子を構成する成分の陽イオンを含む水溶液、酸溶液、およびアルカリ溶液から選ばれる少なくとも1種を用いる工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複合酸化物微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、微粒子の製造方法として、気相法、液相法、固相法等が知られている。気相法としては、蒸発・凝縮法、気相反応法が用いられている。液相法としては、噴霧熱分解法、ゾル−ゲル法、共沈法、水熱合成法等が用いられている。一方、固相法としては固相反応法がよく用いられている。また、これらとは別の微粒子の製造方法として、ガラスマトリックス中に酸化物結晶を析出させた後、ガラスマトリックスを溶解除去して析出結晶(酸化物微粒子)を分離するガラス結晶化法も知られている。
【0003】
特許文献1にはガラス結晶化法を適用したマグネトプランバイト型フェライト粉末の製造方法が記載されている。特許文献1に記載された製造方法においては、まずマグネトプランバイト型フェライト粉末の原料を含むガラス材料を溶融した後に急冷してガラス体とする。次いで、このガラス体にガラス転移点以上の温度で加熱処理を施して、ガラスマトリックス中にマグネトプランバイト型のフェライト結晶を析出させた後、ガラスマトリックスを希酢酸等の弱酸で溶解除去してフェライト結晶(微粒子)を分離する。
【0004】
特許文献2にはガラス結晶化法を適用したチタン酸塩粉末の製造方法が記載されている。特許文献2に記載された製造方法では、Ba、Sr、Ca、Mg等のA元素の酸化物(AO)と酸化チタン(TiO2)と酸化ホウ素(B23)を含む混合物を溶融した後に急冷して非晶質体とする。この非晶質体に熱処理を施してチタン酸塩(ATiO3)の結晶を析出させた後、酢酸等の希酸で処理してチタン酸塩の微粒子を抽出する。
【0005】
ガラス結晶化法は粒子の形状制御が容易であることから、目的組成の結晶を析出させることができ、析出結晶以外の物質を完全に除去することが可能であれば酸化物微粒子、特に複数の金属元素を含む複合酸化物微粒子の製造方法として有効である。しかし、従来のガラス結晶化法ではガラスマトリックスの溶解除去に無機酸溶液を用いているため、微粒子の表面に水酸化物基等が生成するおそれがある。特に、高温の無機酸溶液を用いた場合には、微粒子表面に水酸化物基等が生成しやすく、さらに水酸化物基等が粒子内部まで拡散するおそれがある。これらは微粒子の化学組成の純度や組成比等の低下要因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭56−169128号公報
【特許文献2】特開昭63−265820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、純度が高く、粒子径や化学組成の均一性に優れた複合酸化物微粒子を再現性よく得ることを可能にした複合酸化物微粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の態様に係る複合酸化物微粒子の製造方法は、複合酸化物微粒子を構成する各成分を含む原料混合物を溶融する工程と、前記溶融物を急速冷却して非晶質化物を得る工程と、前記非晶質化物を加熱して前記複合酸化物の結晶を含む結晶化物を析出させる工程と、前記結晶化物から前記複合酸化物の結晶を分離・精製し、前記複合酸化物微粒子を作製する工程とを具備する複合酸化物微粒子の製造方法において、前記複合酸化物結晶の分離・精製工程は、前記複合酸化物微粒子を構成する成分の陽イオンを含む水溶液、酸溶液、およびアルカリ溶液から選ばれる少なくとも1種を用いる工程を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の態様に係る複合酸化物微粒子の製造方法によれば、複合酸化物結晶の分離・精製工程における純度や組成比の低下を抑制することができる。従って、粒子径や化学組成の均一性に優れた複合酸化物微粒子を再現性よく得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施例6で得た微粒子のX線回折パターンを示す図である。
【図2】本発明の実施例15〜26における原料混合物のSrO/(SrO+BaO)モル比と微粒子のSrO/(SrO+BaO)モル比との関係を示す図である。
【図3】本発明の実施例27で得た微粒子のX線回折パターンを示す図である。
【図4】本発明の実施例30、32、34、36で得た微粒子のX線回折パターンを示す図である。
【図5】本発明の実施例37〜42における加熱温度と微粒子の結晶子径との関係を示す図である。
【図6】本発明の実施例43〜46における加熱温度と微粒子の結晶子径との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の複合酸化物微粒子の製造方法の実施形態について説明する。この実施形態の製造方法は、目的とする複合酸化物微粒子を構成する各成分を含む原料混合物を溶融する工程(以下「溶融工程」という)と、前記溶融物を急速冷却して非晶質化物を得る工程(以下「急冷工程」という)と、前記非晶質化物を加熱して前記複合酸化物の結晶を含む結晶化物を析出させる工程(以下「加熱工程」という)と、前記結晶化物から前記複合酸化物の結晶を分離・精製し、前記複合酸化物微粒子を作製する工程(以下「分離・精製工程」という)とを具備している。各工程について以下に詳述する。
【0012】
この実施形態の製造方法は各種の複合酸化物微粒子の作製に適用することができ、複合酸化物の種類に限定されるものではない。複合酸化物は2種類もしくは3種類以上の金属元素を含む酸化物であり、例えばLi、Na、K、Rb、Mg、Ca、Sr、Ba、ZnおよびPbから選ばれる少なくとも1種の金属元素(A元素)と、第3族元素、第4族元素、第5族元素、第6族元素、第7族元素、第8族元素、第9族元素、第10族元素、第11族元素、第12族元素、第13族元素、第14族元素、および第15族元素から選ばれる少なくとも1種の金属元素(B元素)とを含む複合金属酸化物が挙げられる。
【0013】
複合酸化物の具体例としては、
一般式:Axyz
(式中、A元素はLi、Na、K、Rb、Mg、Ca、Sr、Ba、ZnおよびPbから選ばれる少なくとも1種の元素、B元素はTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Al、Ga、In、SnおよびBiから選ばれる少なくとも1種の元素を示し、x、yおよびzは0<x、0<y、0<zである)
で表される組成を有する複合金属酸化物が挙げられる。A元素、B元素および酸素の組成比(x、y、z)は、目的微粒子に応じて適宜に選択されるものである。
【0014】
[溶融工程]
まず、目的とする複合酸化物微粒子を構成する各成分(陽イオン成分)を含む原料混合物を調製する。原料混合物は、目的とする複合酸化物微粒子を得ることが可能であると共に、溶融工程で完全に溶融させることができ、また溶融物が適度な粘性を有し、続く急冷工程で非晶質化物を得ることが可能な組成や形態を有するものであればよい。微粒子の構成成分のみで非晶質化物が得られる場合には、他の物質を添加せずに溶融することができる。また、微粒子の構成成分のみで非晶質化物が得られない場合には、必要に応じてガラス形成成分(ガラス骨格形成成分やガラス骨格修飾成分等)を添加して溶融する。
【0015】
非晶質化物を得るためのガラス骨格形成成分としては、ホウ酸塩系、ケイ酸塩系、リン酸塩系等の酸化物系、酸窒化物系、酸炭化物系、フッ化物系、カルコゲナイド系物質が挙げられる。これらのうち、工程の容易さから酸化物系を用いることが好ましく、さらに微粒子の得やすさや安全性等の点からホウ酸塩系がより好ましい。ガラス骨格形成成分にホウ酸塩系を適用する場合、原料混合物には必要に応じて酸化ホウ素(B23)が添加される。酸化ホウ素(B23)に代えて、ホウ酸(H3BO3)やホウ酸塩(BaB23やBaB47等)を用いてもよい。ガラス骨格修飾成分は限定されるものではなく、アルカリ金属やアルカリ土類金属の酸化物が工程の容易さや分離・精製の簡便性の点から好ましい。
【0016】
例えば、チタン酸バリウム(BaTiO3)の微粒子を作製する場合には、酸化物基準のモル%表示で、BaOを40〜60%、TiO2を5〜35%、B23を15〜45%の範囲で含み、BaOに対するTiO2のモル比(TiO2/BaO)が0.1〜0.7の範囲の原料混合物を用いることが好ましい。このような組成域の混合物は完全に溶融させることができ、また溶融物が適度な粘性を有し、続く急冷工程で非晶質化物を容易に得ることが可能となる。また、上記した混合物によればBaOとTiO2とのモル比(BaO/TiO2)が0.9〜1.1の範囲のチタン酸バリウムを容易に得ることができる。
【0017】
チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)やチタン酸ストロンチウムバリウム((Ba1-xSrx)TiO3(x:0≦x<1))の微粒子を作製する場合には、酸化物基準のモル%表示で、SrOを3〜60%、BaOを0〜60%、TiO2を5〜35%、B23を15〜45%の範囲で含む原料混合物を用いることが好ましい。原料混合物におけるSrOとBaOとの合計量は40〜60%の範囲とすることが好ましい。このような組成域の混合物は完全に溶融させることができ、また溶融物が適度な粘性を有し、続く急冷工程で非晶質化物を容易に得ることが可能となる。
【0018】
なお、原料混合物におけるBaOとSrOとのモル比(BaO/SrO比)は、得られるチタン酸ストロンチウムバリウム微粒子におけるBaO/SrO比とは一致しない。これは、後工程の加熱工程(結晶化工程)における結晶核の生成や粒成長時に、あるいは分離・精製工程における溶解時に、両イオンの選択性が生じるからである。従って、得られる微粒子のBaO/SrO比と原料混合物中のBaO/SrO比との関係を掌握し、目的とする微粒子の組成に応じて原料混合物を調製することが好ましい。
【0019】
目的微粒子の各構成成分源(各原料)としては、酸化物(複合酸化物を含む)、炭酸塩、ホウ酸塩、硝酸塩、硫酸塩、水酸化物、塩化物、フッ化物、硫化物、およびシュウ酸塩や酢酸塩のような有機酸塩から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。コスト面や工程の容易さ等から、各構成成分(陽イオン成分)の酸化物(複合酸化物を含む)、水酸化物、炭酸塩等を用いることが好ましい。各原料の純度は溶融して均一な溶融物が得られる範囲であれば特に限定されるものではないが、99%以上であることが好ましく、より好ましくは99.9%以上である。各原料の粒度も特に限定されるものではないが、各原料は回転式ミキサ、ボールミル、遊星ミル等の混合・粉砕手段を用いて乾式または湿式で混合してから溶融することが好ましい。
【0020】
原料混合物の溶融は、抵抗加熱炉、高周波誘導炉、またはプラズマアーク炉を用いて行うことが好ましい。抵抗加熱炉は、ニクロム合金等の金属製、炭化ケイ素製、またはケイ化モリブデン製の発熱体を備えた電気炉であることが好ましい。溶融に用いるるつぼは、アルミナ製、白金製、またはロジウムを含む白金合金製であることが好ましいが、耐火物製のるつぼを用いることも可能である。さらに、原料成分の揮散や蒸発を防止するために、るつぼに蓋や囲いを装着して溶融することが好ましい。
【0021】
高周波誘導炉は誘導コイルを備え、出力を制御できるものであればよい。容器としては、炭素製、炭化ケイ素製、ホウ化ジルコニウム製、ホウ化チタン製、白金やモリブデン等の金属製のものを用いることが好ましい。プラズマアーク炉はカーボン等からなる電極を備え、これによって発生するプラズマアークを利用できるものであればよい。さらに、赤外線加熱やレーザ直接加熱による溶融を適用してもよい。原料混合物は粉体状態で溶融してもよいし、予め成型した混合物を溶融してもよい。プラズマアーク炉を利用する場合には、予め成型した混合物をそのまま溶融し、さらに急速冷却することもできる。
【0022】
原料混合物の溶融温度は特に限定されるものではなく、原料混合物を完全に溶融できる温度であればよい。原料混合物の組成にもよるが、抵抗加熱炉を用いる場合には原料混合物を800〜1600℃の範囲、さらに1000〜1500℃の範囲で溶融することが好ましい。また、得られたガラス溶融物は均一性を高めるために撹拌してもよい。溶融雰囲気は特に制御する必要はなく、大気雰囲気中で溶融することができる。酸化還元の度合いを調整する場合には、酸素分圧を制御しながら原料混合物を溶融することが好ましい。
【0023】
[急冷工程]
急冷工程は上記した溶融物を急速冷却して非晶質化物(固化物)を得る工程である。冷却速度は100℃/秒以上とすることが好ましく、さらに1×104℃/秒以上とすることがより好ましい。溶融物の冷却工程には、高速で回転する双ローラの間に溶融物を滴下してフレーク状の非晶質化物を得る方法、高速で回転するドラムにより溶融物から連続的にファイバ状の非晶質化物(長繊維)を巻き取る方法、冷却した金属板や炭素板に溶融物を鋳込む方法等が用いられる。双ローラやドラムとしては、金属製またはセラミックス製のものを用いることが好ましい。また、側壁に細孔を設けたスピナーを高速で回転させてファイバ状の非晶質化物(短繊維)を得てもよい。これらの方法によれば、溶融物を効果的に急速冷却して、高純度の非晶質化物を得ることができる。
【0024】
非晶質化物がフレーク状の場合には、その厚さが200μm以下、より好ましくは100μm以下となるように急速冷却することが好ましい。非晶質化物が繊維状の場合には、その直径が50μm以下、より好ましくは30μm以下となるように急速冷却することが好ましい。非晶質化物が粒状の場合には、その直径が200μm以下、より好ましくは100μm以下となるように急速冷却することが好ましい。
【0025】
上記した厚さや直径を超える非晶質化物が形成されるような条件下で溶融物を急速冷却すると、続く加熱工程(結晶化工程)における結晶化効率が低下するおそれがある。上記した厚さや直径を超える非晶質化物の場合、また細粒化する場合には、非晶質化物の粉砕を行った後に加熱工程(結晶化工程)を実施することが好ましい。さらに、非晶質化物を粉砕した後に加熱工程を実施することによって、得られる微粒子の粒子径を微細化したり、また粒子径の均一性等を高めることができる。
【0026】
[加熱工程]
加熱工程(結晶化工程)は、急冷工程で得られた非晶質化物を加熱し、目的とする複合酸化物の結晶(微粒子)を含む結晶化物を析出させる工程である。複合酸化物結晶の析出工程は特に限定されるものではないが、予め熱分析を行って非晶質化物のガラス転移温度を測定し、それ以上の温度で実施することが好ましく、さらに結晶化温度付近またはそれ以上の温度で実施することが望ましい。例えば、チタン酸バリウムの場合には加熱温度を750〜850℃の範囲とすることが好ましく、チタン酸ストロンチウムバリウムの場合には加熱温度を650〜900℃の範囲とすることが好ましい。
【0027】
結晶化は一段階反応とは限らないため、目的の結晶が析出する温度を求める必要がある。また、各々の結晶析出過程は核生成とそれに続く結晶成長の二段階からなるため、これら二段階をそれぞれ異なる温度で加熱してもよい。非晶質化物の加熱工程において、加熱温度(結晶化のための温度)を高くするほど、析出する結晶の生成量や析出する結晶の粒子径が大きくなる傾向がある。このため、所望とする粒子径に応じて加熱温度を設定することが好ましい。また、加熱時間(結晶化のための時間)に関しても、それを長くするほど、析出する結晶の生成量および析出する結晶の粒子径が大きくなる傾向がある。従って、加熱温度に加えて、加熱時間も所望とする粒子径に応じて設定することが好ましい。
【0028】
[分離・精製工程]
分離・精製工程は、加熱工程で得られた結晶化物から複合酸化物結晶を分離・精製して、目的とする微粒子を作製する工程である。結晶化物は、目的物質である微粒子部分とそれ以外のマトリックス部分(一部目的物質の構成成分を含む場合がある)とからなる。このような結晶化物から微粒子(複合酸化物の結晶粒子)を分離・精製する際に、目的微粒子を構成する成分の陽イオンを含む水溶液、酸溶液、およびアルカリ溶液から選ばれる少なくとも1種を用いる。マトリックス部分の溶解・除去には、酸溶液やアルカリ溶液を用いることが好ましい。
【0029】
酸溶液としては、塩酸、硝酸、硫酸等の無機酸溶液、酢酸、ギ酸、プロピオン酸等の有機酸溶液が好ましい。これらの中でも、分離能の良さから塩酸や硝酸、またpH緩衝能を有することから酢酸を用いることがより好ましい。アルカリ溶液としては、水酸化ナトリウム溶液、水酸化カリウム溶液、アンモニア水が好ましい。これら酸溶液やアルカリ溶液は、溶媒として水以外にアルコール等の有機溶媒を用いてもよい。酸溶液やアルカリ溶液の濃度は溶解能に優れる0.05〜5mol/Lの範囲とすることが好ましい。
【0030】
上述した酸溶液やアルカリ溶液等は目的微粒子を構成する成分の陽イオンを含んでいる。酸溶液やアルカリ溶液が目的微粒子の構成成分の陽イオンを含まない場合には、マトリックス部分の溶解処理によって、微粒子末端の官能基(金属イオン)が溶液中の水素イオンまたは水酸化物イオンと置換し、微粒子の純度が低下すると共に、微粒子の化学組成が化学量論比からずれやすい。さらに、微粒子の最表面のみならず、水素イオンや水酸化物イオンが拡散し、粒子内部へ置換が進行して純度がさらに低下するおそれがある。このような置換や拡散現象は高温の酸溶液やアルカリ溶液を用いる場合に起こりやすい。
【0031】
このような点に対して、予め酸溶液やアルカリ溶液に目的微粒子の構成成分の陽イオンを添加しておくことによって、微粒子表面の官能基(金属イオン)と溶液中の水素イオンや水酸化物イオンとの置換、さらに水素イオンや水酸化物イオンの微粒子内部への拡散を抑制することができる。従って、マトリックス部分の溶解処理時における微粒子の純度低下、また微粒子の化学組成の化学量論比からのずれを抑制することが可能となる。後述する微粒子の精製操作において、目的微粒子の構成成分の陽イオンを含む水溶液を用いる場合にも、同様な作用や効果を得ることができる。
【0032】
特に、目的微粒子の構成成分のうち、1価または2価の金属元素(1価または2価の陽イオンとなる金属元素)が溶液中の水素イオンや水酸化物イオンと置換しやすい。例えば、目的微粒子がA元素(1価または2価の金属元素)とB元素(1価または2価以外の価数の金属元素)との複合酸化物である場合、酸溶液中では(1)式に示すような置換反応が生じやすく、アルカリ溶液中では(2)式に示すような置換反応が生じやすい。ここではA元素として1価の金属元素を示しているが、2価の金属元素の場合も同様である。
B−O−A+ + H+ → B−O−H+ + A+ …(1)
B−O−A+ + OH → B−O +AOH …(2)
【0033】
上記したような置換反応が生じると、複合酸化物微粒子中のA元素とB元素との比(AOx/BOx比)が化学量論比からずれて特性等が低下する。このため、酸溶液やアルカリ溶液には目的微粒子の構成成分の1価または2価の陽イオンを添加しておくことが好ましい。これによって、目的とする複合酸化物微粒子の化学組成の化学量論比からのずれ、特にA元素とB元素との比(AOx/BOx比)のずれを抑制することが可能となる。1価または2価の金属元素としては、Li、Na、K、Rb等のアルカリ金属、Mg、Ca、Sr、Ba等のアルカリ土類金属、Zn、Pbが例示される。
【0034】
例えば、チタン酸バリウム微粒子を分離・精製する場合には、バリウムイオンを含む酸溶液やアルカリ溶液を使用することが好ましい。チタン酸ストロンチウムバリウム微粒子を分離・精製する場合には、バリウムおよびストロンチウムから選ばれる少なくとも1種の陽イオンを含む酸溶液やアルカリ溶液を使用することが好ましい。他の複合酸化物微粒子を分離・精製する場合も同様であり、目的微粒子の構成成分のうちの1価または2価の陽イオン(1価および2価の陽イオンを複数含む場合には、それらのうちの少なくとも1種の陽イオン)を含む酸溶液やアルカリ溶液を使用することが好ましい。
【0035】
上述したように、この実施形態の製造方法はLi、Na、K、Rb、Mg、Ca、Sr、Ba、ZnおよびPbから選ばれる少なくとも1種の金属元素(A元素)を含む複合酸化物微粒子の製造に好適である。複合酸化物微粒子を構成する他の金属元素(B元素)は特に限定されるものではなく、目的組成に応じて適宜に選択されるものである。B元素としては、第3族元素、第4族元素、第5族元素、第6族元素、第7族元素、第8族元素、第9族元素、第10族元素、第11族元素、第12族元素、第13族元素、第14族元素、第15族元素等が挙げられる。複合酸化物微粒子の具体例は前述した通りである。
【0036】
目的微粒子の構成成分の陽イオンは、塩化物、硝酸塩、水酸化物、あるいは酢酸塩のような有機酸塩の形態で、酸溶液やアルカリ溶液に添加することが好ましい。塩化物、硝酸塩、水酸化物、有機酸塩等を予め水溶液等の溶液とし、これを酸溶液やアルカリ溶液と混合してもよい。水溶液、酸溶液またはアルカリ溶液中の陽イオン濃度は0.01〜10mol/Lの範囲とすることが好ましい。陽イオン濃度が0.01mol/L未満では所望の効果が得られにくく、10mol/Lを超えると目的外の塩が生成するおそれがあり、目的微粒子を単離するのが困難となる。
【0037】
上述した水溶液、酸溶液、およびアルカリ溶液には、さらに微粒子の構成成分を錯化する成分を添加することも有効である。これによって、微粒子の官能基が保護されるため、微粒子の官能基と溶液中の水素イオンや水酸化物イオンとの置換、さらに水素イオンや水酸化物イオンの拡散をより有効に抑制することができる。錯化剤としては、クエン酸、シュウ酸、酒石酸、エチレンジアミン四酢酸、ポリカルボン酸(塩)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(硫酸エステル)、アルキルアミン塩等が挙げられる。ここで、錯化剤は微粒子に吸着される高分子系の界面活性剤を含んでもよい。
【0038】
目的微粒子の構成成分の陽イオンを含む水溶液、酸溶液、およびアルカリ溶液における錯化剤の濃度は0.3〜5質量%の範囲とすることが好ましい。各溶液における錯化剤の濃度を0.3質量%以上とすることによって、微粒子の官能基を保護する効果を有効に得ることができる。一方、錯化剤の濃度が5質量%を超えると、錯化剤が不溶となったり、また目的微粒子の分離能を低下させるおそれがある。
【0039】
マトリックス部分の溶解処理は、室温から90℃以下の範囲の温度の分離溶液(微粒子の構成成分の陽イオンを含む水溶液、酸溶液、およびアルカリ溶液から選ばれる少なくとも1種)中で実施することが好ましい。分離溶液を室温未満に冷却する必要はない。また、結晶化物から目的微粒子の分離能を高める上で、分離溶液は加熱して使用することが好ましい。ただし、分離溶液の温度が90℃を超えると沸騰するおそれがあり、成分の揮発や蒸発が生じるために、密閉する等の方策を講じない限り好ましくない。
【0040】
微粒子の分離処理は、上述したような溶液を用いて結晶化物からマトリックス部分を溶解した後、生成された微粒子を沈降させて上澄みと分離することにより実施される。微粒子と上澄みとの分離は、自然沈降、ろ過、フィルタープレス、遠心沈降等を適用して実施することが好ましい。マトリックス部分の溶解処理と微粒子の上澄みからの分離処理は、目的とする複合酸化物微粒子のみが得られるまで繰り返し実施してもよい。
【0041】
上記した微粒子の分離操作に引き続いて精製操作を行う。精製操作は溶解処理で生じた水溶性のイオンや塩を除去するために実施するものである。精製操作は水のみで実施してもよいが、上記した分離操作と同様に目的微粒子の構成成分の陽イオンを含む水溶液を用いて行うことが好ましく、さらに目的微粒子の構成成分を錯化する成分を添加することも有効である。その際の水溶液中の陽イオン濃度は0.005〜100mmol/Lの範囲とすることが好ましく、また錯化剤の濃度は0.01〜0.3質量%の範囲とすることが好ましい。精製操作は多段階で実施し、徐々に陽イオンや錯化剤の濃度を低下させてもよい。また、最終的には水のみで洗浄することが好ましい。精製操作は室温から90℃以下の範囲の温度で実施することが好ましい。
【0042】
上述したように、この実施形態の製造方法によればガラス結晶化法の利点である粒子形状の制御性等を損なうことなく、純度の高い複合酸化物微粒子を再現性よく得ることができる。すなわち、粒子径が微細かつ均一で、さらに化学組成の均一性に優れる複合酸化物微粒子を得ることができる。化学組成の均一性に関しては、上述したように複合酸化物微粒子を構成する複数の金属元素の比率(例えばAOx/BOx比)の化学量論比からのずれが抑制され、さらに各粒子間での組成の均一性を高めことができる。
【0043】
微粒子の形状に関しては、X線回折におけるピーク幅の広がりから求めた結晶子径(シェラー径)を5〜200nmの範囲とすることができる。また、窒素吸着によりBETの式から求めた比表面積は1m2/g以上とすることができる。結晶子径が5〜200nmの範囲の複合酸化物微粒子によれば、粒子径や組成の均一性に優れ、各種用途に好適な微粒子材料を提供することができる。また、比表面積を1m2/g以上とすることによって、微細な微粒子材料を提供することができる。微粒子の比表面積は10m2/g以上であることがより好ましい。微粒子の比表面積の上限値は特に限定されるものではないが、微粒子としての実用性を考慮すると200m2/g以下であることが好ましい。
【実施例】
【0044】
次に、本発明の具体的な実施例およびその評価結果について述べる。なお、以下の説明は本発明を限定するものではく、本発明の趣旨に沿った形での改変が可能である。
【0045】
(実施例1)
溶融物の組成がBaO、Fe23およびB23を基準とするモル%表示で、22.2%、66.7%、11.1%となるように、炭酸バリウム(BaCO3)、酸化鉄(Fe23)および酸化ホウ素(B23)をそれぞれ秤量し、乾式で混合・粉砕して原料混合物を調製した。この原料混合物を、ロジウムを20質量%含む白金合金製のノズル付きるつぼに充填し、ケイ化モリブデン製の発熱体を備える電気炉を用いて、大気中にて1380℃で0.5時間加熱して完全に溶融させた。
【0046】
次に、るつぼに設けられたノズルの下端部を電気炉で加熱しながらガラス溶融物を滴下させ、300rpmで回転する直径約15cmの双ローラを通すことによって、液滴を1×105℃/秒程度の冷却速度で急速冷却してフレーク状の固化物を作製した。得られたフレーク状固化物は茶褐色を呈し、透明な非晶質化物であった。フレークの厚さをマイクロメータで測定したところ、フレークの厚さは約50μmであった。フレークを粉砕した後に150μmの篩を通してフレーク粉砕物を得た。
【0047】
上述したフレーク粉砕物を680℃で8時間加熱することによって、バリウムフェライトの結晶を析出させた。次いで、バリウムフェライト結晶を含む結晶化物を、2mol/Lの酢酸溶液と0.5mol/Lの酢酸バリウム溶液とを等量で混合した溶液(70℃)中で4時間、振とう撹拌して可溶性物質を溶脱した。溶脱した液を遠心分離して上澄み液を捨てた。この分離操作を5回行った。さらに、10mmol/Lの酢酸バリウム水溶液で1回、2mmol/Lの酢酸バリウム水溶液で1回、蒸留水で2回洗浄した後に乾燥させることによって、目的の微粒子を得た。
【0048】
得られた微粒子の鉱物相を、X線回折装置を用いて同定したところ、既存の六方晶系のBaFe1219(JCPDSカード番号00−043−002)の回折ピークと一致した。また、X線回折のピーク幅の広がりから求められる結晶子径は20nmであった。微粒子の窒素吸着によりBETの式から求めた比表面積は43m2/gであった。さらに、微粒子のBa含有量およびFe含有量を、蛍光X線分析装置を用いて測定した。その測定結果から微粒子の化学組成におけるBaO/Fe23比(モル比)を求めたところ、BaO/Fe23比は0.99/6.00であった。
【0049】
(実施例2)
実施例1と同様にして作製した結晶化物(バリウムフェライト結晶を含む)を、1質量%のエチレンジアミン四酢酸を含む0.2mol/Lの硝酸酢酸溶液と0.2mol/Lの硝酸バリウム溶液とを等量で混合した溶液(70℃)中で6時間、振とう撹拌して可溶性物質を溶脱した。溶脱した液を遠心分離して上澄み液を捨てた。この分離操作を5回行った。さらに、0.1質量%のエチレンジアミン四酢酸を含む5mmol/Lの硝酸バリウム水溶液で1回、1mmol/Lの硝酸バリウム水溶液で1回、蒸留水で2回洗浄した後に乾燥させることによって、目的の微粒子を得た。
【0050】
得られた微粒子の鉱物相を、X線回折装置を用いて同定したところ、既存の六方晶系のBaFe1219(JCPDSカード番号00−043−002)の回折ピークと一致した。また、X線回折のピーク幅の広がりから求められる結晶子径は20nmであった。微粒子の窒素吸着によりBETの式から求めた比表面積は45m2/gであった。さらに、微粒子のBa含有量およびFe含有量を、蛍光X線分析装置を用いて測定した。その測定結果から微粒子の化学組成におけるBaO/Fe23比(モル比)を求めたところ、BaO/Fe23比は1.00/6.00であった。
【0051】
(実施例3)
実施例1と同様にして作製したフレーク粉砕物を600℃で8時間加熱することによって、バリウムフェライトの結晶を析出させた。次いで、結晶化物に実施例1と同一条件の分離・精製工程および洗浄工程を施すことによって、目的の微粒子を得た。
【0052】
得られた微粒子の鉱物相を、X線回折装置を用いて同定したところ、既存の六方晶系のBaFe1219(JCPDSカード番号00−043−002)の回折ピークと一致した。また、X線回折のピーク幅の広がりから求められる結晶子径は11nmであった。微粒子の窒素吸着によりBETの式から求めた比表面積は83m2/gであった。さらに、微粒子のBa含有量およびFe含有量を、蛍光X線分析装置を用いて測定した。その測定結果から微粒子の化学組成におけるBaO/Fe23比(モル比)を求めたところ、BaO/Fe23比は0.97/6.00であった。
【0053】
(比較例1)
実施例1と同様にして作製したフレーク粉砕物を600℃で4時間加熱することによって、バリウムフェライトの結晶を析出させた。次いで、結晶化物を1mol/Lの酢酸溶液(70℃)中で4時間、振とう撹拌して可溶性物質を溶脱した。溶脱した液を遠心分離して上澄み液を捨てた。この分離操作を5回行った。さらに、蒸留水で5回洗浄した後に乾燥させて微粒子を得た。
【0054】
得られた微粒子の鉱物相を、X線回折装置を用いて同定したところ、既存の六方晶系のBaFe1219(JCPDSカード番号00−043−002)の回折ピークと一致した。また、X線回折のピーク幅の広がりから求められる結晶子径は10nmであった。微粒子の窒素吸着によりBETの式から求めた比表面積は88m2/gであった。さらに、微粒子のBa含有量およびFe含有量を、蛍光X線分析装置を用いて測定した。その測定結果から微粒子の化学組成におけるBaO/Fe23比(モル比)を求めたところ、BaO/Fe23比は0.92/6.00であった。
【0055】
上記した実施例1〜3においては、AFe1219のA元素がBaの場合について示したが、A元素がMg、Ca、Srの場合でもAFe1219の水溶液や酸溶液に対する溶解度は大きく差がないため、同様な効果を得ることができる。
【0056】
(実施例4〜12)
溶融物の組成がBaO、TiO2およびB23を基準とするモル%表示で、表1に示す組成(実施例4〜12)となるように、炭酸バリウム(BaCO3)、ルチル型酸化チタン(TiO2)および酸化ホウ素(B23)をそれぞれ秤量し、乾式で混合・粉砕して原料混合物を調製した。これらの原料混合物を、ロジウムを20質量%含む白金合金製のノズル付きるつぼに充填し、ケイ化モリブデン製の発熱体を備える電気炉を用いて、それぞれ大気中にて表1に示す温度で0.5時間加熱して完全に溶融させた。
【0057】
次に、るつぼに設けられたノズルの下端部を電気炉で加熱しながらガラス溶融物を滴下させ、300rpmで回転する直径約15cmの双ローラを通すことによって、液滴を1×105℃/秒程度の冷却速度で急速冷却してフレーク状の固化物を作製した。得られたフレーク状固化物は茶褐色を呈し、透明な非晶質化物であった。フレークの厚さをマイクロメータで測定したところ、フレークの厚さは約50μmであった。フレークを粉砕した後に150μmの篩を通してフレーク粉砕物を得た。
【0058】
上述したフレーク粉砕物を760℃で8時間加熱することによって、チタン酸バリウムの結晶を析出させた。次いで、チタン酸バリウム結晶を含む結晶化物を、2mol/Lの酢酸溶液と0.5mol/Lの酢酸バリウム溶液とを等量で混合した溶液(70℃)中で4時間、振とう撹拌して可溶性物質を溶脱した。溶脱した液を遠心分離して上澄み液を捨てた。この分離操作を5回行った。さらに、10mmol/Lの酢酸バリウム水溶液(70℃)で1回、2mmol/Lの酢酸バリウム水溶液(70℃)で1回、蒸留水(70℃)で2回洗浄した後に乾燥させることによって、目的の微粒子を得た。
【0059】
【表1】

【0060】
得られた微粒子の鉱物相を、X線回折装置を用いて同定したところ、いずれの回折パターンも既存の正方晶系のBaTiO3(PDFカード番号81−2202)の回折パターンと一致することが確認された。実施例6で得た微粒子のX線回折パターンを図1に示す。図1における内挿図は2θが44.5〜46.5°の範囲の拡大図である。また、実施例6で得た微粒子の回折ピーク幅の広がりから求められる結晶子径は45nmであった。回折角度から求めたa軸およびc軸は0.3996nm、0.4037nmで、これらの値から求めたc/a比は1.010であり、理論値と等しかった。
【0061】
実施例6で得た微粒子の窒素吸着量からBETの式によって求めた比表面積は32m2/gであった。さらに、微粒子のBa含有量およびTi含有量を、蛍光X線分析装置を用いて測定した。その測定結果から微粒子の化学組成におけるBaO/TiO2比(モル比)を求めたところ、BaO/TiO2比は0.99/1.00であった。
【0062】
(実施例13〜14)
実施例6と同様にして作製したフレーク粉砕物を、790℃(実施例13)および820℃(実施例14)で8時間加熱することによって、チタン酸バリウムの結晶を析出させた。次いで、チタン酸バリウム結晶を含む結晶化物に、実施例6と同一条件の分離・精製工程および洗浄工程を施すことによって、目的の微粒子を得た。
【0063】
得られた微粒子の鉱物相をX線回折装置を用いて同定したところ、いずれの回折パターンも既存の正方晶系のBaTiO3(PDF番号81−2202)の回折パターンと一致することが確認された。微粒子の回折ピーク幅の広がりから求めた結晶子径は、それぞれ50nmおよび45nmであった。回折角度から求めたa軸、c軸、c/a比は、それぞれ0.3995nm、0.4038nm、1.011(実施例13)、および0.3993nm、0.4035nm、1.011(実施例14)であった。
【0064】
また、微粒子の窒素吸着量からBETの式によって求めた比表面積は、それぞれ8.6m2/g(実施例13)および3.0m2/g(実施例14)であった。さらに、微粒子のBaO/TiO2比(モル比)は、それぞれ0.99/1.00(実施例13)および1.00/1.00(実施例14)であった。
【0065】
(比較例2)
実施例6と同様にして作製したフレーク粉砕物を740℃で4時間加熱することによって、チタン酸バリウムの結晶を析出させた。次いで、結晶化物を1mol/Lの酢酸溶液(70℃)中で4時間、振とう撹拌して可溶性物質を溶脱した。溶脱した液を遠心分離して上澄み液を捨てた。この分離操作を5回行った。さらに、蒸留水で5回洗浄した後に乾燥させて微粒子を得た。
【0066】
得られた微粒子は少なく、その鉱物相をX線回折装置で同定したところ、既存のアナターゼ型TiO2(PDFカード番号21−1272)の回折パターンと主に一致し、少量の正方晶系のBaTiO3の回折パターンが認められた。微粒子のBaTiO3の回折ピーク幅の広がりから求めた結晶子径は10nmであった。微粒子の窒素吸着量からBETの式によって求めた比表面積は55m2/gであった。さらに、微粒子のBaO/TiO2比(モル比)は0.76/1.00であった
【0067】
上記した実施例4〜14ではBaTiO3を作製する場合について示したが、溶融物のBaO、TiO2およびB23成分からなり、得られる粒子の組成がBa2TiO4、BaTi25、BaTi511、Ba2Ti920であるチタン酸バリウムの場合にも、組成系や反応系が同一であるため、純度が高く、粒子径が小さく、かつ粒子径や組成の均一性に優れる微粒子を得ることができる。
【0068】
(実施例15〜26)
溶融物の組成がSrO、BaO、TiO2およびB23を基準とするモル%表示で、表2に示す組成(実施例15〜26)となるように、炭酸ストロンチウム(SrCO3)、炭酸バリウム(BaCO3)、ルチル型酸化チタン(TiO2)および酸化ホウ素(B23)をそれぞれ秤量し、乾式で混合・粉砕して原料混合物を調製した。これらの原料混合物を、それぞれロジウムを20質量%含む白金合金製のノズル付きるつぼに充填し、ケイ化モリブデン製の発熱体を備える電気炉を用いて、それぞれ大気中にて表2に示す温度で0.5時間加熱して完全に溶融させた。
【0069】
次に、るつぼに設けられたノズルの下端部を電気炉で加熱しながらガラス溶融物を滴下させ、300rpmで回転する直径約15cmの双ローラを通すことによって、液滴を1×105℃/秒程度の冷却速度で急速冷却してフレーク状の固化物を作製した。得られたフレーク状固化物は茶褐色を呈し、透明な非晶質化物であった。フレークの厚さをマイクロメータで測定したところ、フレークの厚さは約50μmであった。フレークを粉砕した後に150μmの篩を通してフレーク粉砕物を得た。
【0070】
上述したフレーク粉砕物をそれぞれ表2に示す温度で8時間加熱することによって、チタン酸ストロンチウムバリウムの結晶を析出させた。次いで、チタン酸ストロンチウムバリウム結晶を含む結晶化物を、2mol/Lの酢酸溶液と0.4mol/Lの酢酸ストロンチウム水溶液と0.4mol/Lの酢酸バリウム水溶液とを2:1:1の容量比で混合した溶液(70℃)中で4時間、振とう撹拌して可溶性物質を溶脱した。溶脱した液を遠心分離して上澄み液を捨てた。この分離操作を5回行った。さらに、10mmol/Lの酢酸ストロンチウム水溶液と10mmol/Lの酢酸バリウム水溶液とを等量で混合した溶液(70℃)で1回、1mmol/Lの酢酸ストロンチウム水溶液と1mmol/Lの酢酸バリウム水溶液とを等量で混合した溶液(70℃)で1回、蒸留水で2回洗浄した後に乾燥させることによって、目的の微粒子を得た。
【0071】
得られた微粒子の鉱物相を、X線回折装置を用いて同定したところ、いずれも回折パターンも既存の立方晶系のSrTiO3(PDFカード番号35−0734)の回折パターンと既存の立方晶系のBaTiO3(PDFカード番号31−0714)の回折パターンと類似した立方晶系のパターンを示した。得られた微粒子はSrTiO3とBaTiO3との固溶体と考えられる。また、得られた微粒子のSrO含有量とBaO含有量を、蛍光X線分析装置を用いて測定した。これらの値から求めたSrO/(SrO+BaO)モル比と原料混合物のそれとの関係を図2に示す。この結果から、実施例15〜26では微粒子中にSrOがより選択的に残存する(微粒子に導入される)ことが分かる。
【0072】
(実施例27〜29)
溶融物の組成がSrO、TiO2およびB23を基準とするモル%表示で、表2に示す組成となるように、炭酸ストロンチウム(SrCO3)、ルチル型酸化チタン(TiO2)および酸化ホウ素(B23)をそれぞれ秤量し、乾式で混合・粉砕して原料混合物を調製した。これらの原料混合物を実施例15と同様に溶融、急冷、加熱し、チタン酸ストロンチウムの結晶を析出させた。
【0073】
次に、結晶化物を2mol/Lの酢酸溶液と0.2mol/Lの酢酸ストロンチウム水溶液とを等量で混合した溶液(70℃)を用いて、実施例15と同様に溶脱、遠心分離した。さらに、10mmol/Lの酢酸ストロンチウム水溶液(70℃)で1回、1mmol/Lの酢酸ストロンチウム水溶液(70℃)で1回、蒸留水で2回洗浄した後に乾燥させることによって、目的の微粒子を得た。
【0074】
得られた微粒子の鉱物相を、X線回折装置を用いて同定したところ、いずれの回折パターンも既存の立方晶系のSrTiO3(PDFカード番号35−0734)の回折パターンと一致した。実施例27で得た微粒子のX線回折パターンを図3に示す。実施例27で得た微粒子の回折ピーク幅の広がりから求めた結晶子径は26nmであった。また、微粒子の窒素吸着量からBETの式によって求めた比表面積は41m2/gであった。
【0075】
【表2】

【0076】
(実施例30〜36)
溶融物の組成がSrO、BaO、TiO2およびB23を基準とするモル%表示で、表3に示す組成となるように、炭酸ストロンチウム(SrCO3)、炭酸バリウム(BaCO3)、ルチル型酸化チタン(TiO2)および酸化ホウ素(B23)をそれぞれ秤量し、乾式で混合・粉砕して原料混合物を調製した。これらの原料混合物を実施例15と同様に溶融、急冷、加熱し、チタン酸ストロンチウムバリウムの結晶を析出させた。
【0077】
次に、結晶化物を2mol/Lの酢酸溶液と0.2mol([Sr2+]/[Ba2+])/Lの酢酸ストロンチウム水溶液および酢酸バリウム水溶液の混合溶液とを等量で混合した溶液(70℃)で、実施例15と同様に溶脱、沈降分離した。混合溶液は予め表3に示す[Sr2+]/[Ba2+]モル比となるように酢酸ストロンチウム水溶液と酢酸バリウム水溶液との混合したものである。さらに、表3に示す[Sr2+]/[Ba2+]モル比となるように調整した10mmol([Sr2+]/[Ba2+])/Lの混合溶液と、1mmol([Sr2+]/[Ba2+])/Lの混合溶液とでそれぞれ1回、蒸留水で2回洗浄した後に乾燥させることによって、目的の微粒子を得た。
【0078】
【表3】

【0079】
得られた微粒子の鉱物相を、X線回折装置を用いて同定したところ、いずれの回折パターンも既存の立方晶系のSrTiO3(PDFカード番号35−0734)の回折パターンと既存の立方晶系のBaTiO3(PDFカード番号31−0714)の回パターンと類似した立方晶系のパターンを示した。得られた微粒子はSrTiO3とBaTiO3との固溶体と考えられる。実施例30、32、34、36で得た微粒子のX線回折パターンを図4に示す。
【0080】
また、得られた微粒子の回折ピーク幅の広がりから求めた結晶子径、(111)面の回折角度から換算した格子定数を表4に示す。微粒子の窒素吸着量からBETの式によって比表面積を求めた。その結果を表4に示す。さらに、微粒子のSrO含有量、BaO含有量、TiO2含有量を蛍光X線分析装置で測定した。これらの値から求めたSrO/BaOモル比と(SrO+BaO)/TiO2モル比を表4に示す。
【0081】
【表4】

【0082】
(実施例37〜42)
実施例18と同様にして作製したフレーク粉砕物を、680℃(実施例37)、710℃(実施例38)、750℃(実施例39)、800℃(実施例40)、850℃(実施例41)、および900℃(実施例42)で4時間加熱することによって、チタン酸ストロンチウムバリウムの結晶を析出させた。次いで、結晶化物に実施例18と同一条件の分離・精製工程および洗浄工程を施すことによって、目的の微粒子を得た。得られた微粒子はそれらの回折パターンから、いずれも立方晶系SrTiO3と立方晶系BaTiO3との固溶体と考えられる。また、微粒子の回折ピーク幅の広がりから結晶子径を求めた。加熱温度と結晶子径との関係を図5に示す。
【0083】
(実施例43〜46)
実施例18と同様にして作製したフレーク粉砕物を、680℃の温度で8時間(実施例43)、16時間(実施例44)、64時間(実施例45)、および256時間(実施例46)加熱することによって、チタン酸ストロンチウムバリウムの結晶を析出させた。次いで、結晶化物に実施例18と同一条件の分離・精製工程および洗浄工程を施すことによって、目的の微粒子を得た。得られた微粒子はそれらの回折パターンから、いずれも立方晶系SrTiO3と立方晶系BaTiO3との固溶体と考えられる。また、微粒子の回折ピーク幅の広がりから結晶子径を求めた。加熱時間と結晶子径との関係を図6に示す。
【0084】
(実施例47〜48)
実施例27と同様にして作製したフレーク粉砕物を、780℃(実施例47)および830℃(実施例48)で8時間加熱することによって、チタン酸ストロンチウムバリウムの結晶を析出させた。次いで、結晶化物に実施例27と同一条件の分離・精製工程および洗浄工程を施すことによって、目的の微粒子を得た。得られた微粒子の鉱物相を、X線回折装置を用いて同定したところ、いずれの回折パターンも既存の立方晶系のSrTiO3の回折パターンと一致した。また、微粒子の窒素吸着量からBETの式によって求めた比表面積は26m2/gおよび10m2/gであった。
【0085】
(参考例1〜3)
溶融物の組成がSrO、BaO、TiO2およびB23を基準とするモル%表示で、表5に示す組成となるように、炭酸ストロンチウム(SrCO3)、炭酸バリウム(BaCO3)、ルチル型酸化チタン(TiO2)および酸化ホウ素(B23)をそれぞれ秤量し、乾式で混合・粉砕して原料混合物を調製した。これらの原料混合物を実施例15と同様に溶融、急冷した。参考例1、2による急冷物は不透明であり、非晶質化物は得られなかった。参考例3で得た急冷物を600℃で8時間加熱した後、実施例15と同様に分離・精製したが、粒子はほとんど得られなかった。
【0086】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合酸化物微粒子を構成する各成分を含む原料混合物を溶融する工程と、
前記溶融物を急速冷却して非晶質化物を得る工程と、
前記非晶質化物を加熱して前記複合酸化物の結晶を含む結晶化物を析出させる工程と、
前記結晶化物から前記複合酸化物の結晶を分離・精製し、前記複合酸化物微粒子を作製する工程とを具備する複合酸化物微粒子の製造方法において、
前記複合酸化物結晶の分離・精製工程は、前記複合酸化物微粒子を構成する成分の陽イオンを含む水溶液、酸溶液、およびアルカリ溶液から選ばれる少なくとも1種を用いる工程を有することを特徴とする複合酸化物微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記複合酸化物結晶の分離・精製工程で用いる前記水溶液、酸溶液、およびアルカリ溶液は、前記複合酸化物微粒子を構成する成分の1価および2価の陽イオンから選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1記載の複合酸化物微粒子の製造方法。
【請求項3】
前記複合酸化物結晶の分離・精製工程は、前記結晶化物から前記複合酸化物の結晶以外の部分を前記酸溶液または前記アルカリ溶液で溶解・除去する工程を有することを特徴とする請求項1または請求項2記載の複合酸化物微粒子の製造方法。
【請求項4】
前記複合酸化物結晶の分離・精製工程は、前記複合酸化物の結晶を前記水溶液で精製する工程を有することを特徴とする請求項3記載の複合酸化物微粒子の製造方法。
【請求項5】
前記複合酸化物微粒子は、Li、Na、K、Rb、Mg、Ca、Sr、Ba、ZnおよびPbから選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項記載の複合酸化物微粒子の製造方法。
【請求項6】
前記複合酸化物結晶の分離・精製工程で、前記複合酸化物微粒子を構成する成分を錯化するイオンを含む前記水溶液、酸溶液、およびアルカリ溶液を用いることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項記載の複合酸化物微粒子の製造方法。
【請求項7】
前記溶融物はB23を含むことを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項記載の複合酸化物微粒子の製造方法。
【請求項8】
前記分離・精製された複合酸化物微粒子のX線回折におけるピーク幅の広がりから求められる結晶子径が5〜200nmの範囲であることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項記載の複合酸化物微粒子の製造方法。
【請求項9】
前記分離・精製された複合酸化物微粒子の比表面積が1m2/g以上であることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項記載の複合酸化物微粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−285334(P2010−285334A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−187786(P2009−187786)
【出願日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】