複合酸化物粒子の製造方法及び複合酸化物バルク体の製造方法
【課題】短時間で、且つ、500℃以下の低温で、高結晶性複合酸化物ナノ粒子を安定に、且つ、大量に生産することができる複合酸化物粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】複数種のアルコキシドとアルコールとの混合液を調製する混合液調製工程(ステップS1)と、混合液を還流して、複合アルコキシドを含む前駆体溶液を調製する還流工程(ステップS2)と、前駆体溶液を密閉容器内で加熱する加熱工程(ステップS3)とを有し、前記加熱工程は、加熱中の密閉容器内に水蒸気を導入して、前駆体溶液中の複合アルコキシドの少なくとも加水分解を進行させて複合酸化物粒子を生成する水蒸気導入工程(ステップS4)を有する。
【解決手段】複数種のアルコキシドとアルコールとの混合液を調製する混合液調製工程(ステップS1)と、混合液を還流して、複合アルコキシドを含む前駆体溶液を調製する還流工程(ステップS2)と、前駆体溶液を密閉容器内で加熱する加熱工程(ステップS3)とを有し、前記加熱工程は、加熱中の密閉容器内に水蒸気を導入して、前駆体溶液中の複合アルコキシドの少なくとも加水分解を進行させて複合酸化物粒子を生成する水蒸気導入工程(ステップS4)を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒径がナノメートルサイズの高結晶性複合酸化物粒子の低温合成法と、粒径がナノメートルサイズの複合酸化物粒子によって形成される複合酸化物バルク体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、LiCoO2等の複合酸化物粒子を製造する方法として、例えば非特許文献1、特許文献1及び2が提案されている。
【0003】
非特許文献1記載の方法は、図11に示すように、LiNO3とCo(NO3)2・6H2Oとを水に溶かした後、キレート剤としてマレイン酸水溶液を混合し、該混合水溶液を撹拌しながら硝酸を徐々に滴下してpHを1〜4に調節する。その後、混合水溶液を70〜80℃でゆっくりと均一加熱してマレイン酸/金属ゾルにした後、さらにこのマレイン酸/金属ゾルを徐々に加熱し続けて前駆体ゲルとする。この前駆体ゲルを400℃以上で1時間以上空気雰囲気下で熱処理して前駆体粉末を製造し、この前駆体粉末を500〜700℃で1時間以上空気雰囲気下で焼成することで、平均粒径が30nmのLiCoO2粉末を得るようにしている。
【0004】
特許文献1記載の方法は、図12に示すように、酢酸リチウムと硝酸コバルトとを蒸留水に溶かした後、キレート剤としてポリアクリル酸(PAA)を混合し、該混合水溶液を撹拌しながら硝酸を徐々に滴下してpHを1〜4に調節する。その後、混合水溶液を50〜90℃でゆっくりと均一加熱してPAA/金属ゾルにした後、さらにこのPAA/金属ゾルを徐々に加熱し続けてゲル前駆体とする。このゲル前駆体を300℃以上で1時間以上空気雰囲気下で熱処理して前駆体粉末を製造し、この前駆体粉末を400〜900℃で1時間以上空気雰囲気下で焼成することで、平均粒径が30nmのLiCoO2粉末を得るようにしている。
【0005】
特許文献2記載の方法は、図13に示すように、原料アルコキシドとしてのテトライソプロポキシチタンTi[OCH(CH3)2]4及びジエトキシバリウムBa(OC2H5)2を、メタノールと2−メトキシエタノールとの混合溶媒に溶解して前駆体を調製し、この前駆体を室温で撹拌しながら、水蒸気で徐々に加水分解した後、数日間静置してゲル(湿潤ゲル:粒径2nm)を生成する。その後、25℃で5日間静置することで、ゲル成形体(乾燥ゲル)を生成する。乾燥後のゲル成形体を1000℃で焼成することによって、平均粒径が約0.1μmのチタン酸バリウム焼結体を得るようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−175825号公報
【特許文献2】特開平8−239216号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】In−Hwan Oh et al. 「Low−temperature preparation of ultrafine LiCoO2 powders by the sol−gel method」:Journal of Materials Science,Volume 32,Number 12/1997,p.3177−3182
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、非特許文献1及び特許文献1記載の方法では、平均粒径が30nmのLiCoO2粒子を得るために、キレート剤、酸/塩基触媒が必要であり、後工程で、これらキレート剤等を蒸発させるための工程が別途必要になる。これは、製造工程の複雑化、処理時間の長大化、製造コストの高価格化を招くという問題がある。また、非特許文献1及び特許文献1記載の方法では、平均粒径が30〜100nm程度の複合酸化物粒子しか得られず、平均粒径がより小さい複合酸化物粒子を得ることができない。
【0009】
特許文献2記載の方法は、最終的に1000℃での焼結プロセスを経て焼結体を得る必要がある。すなわち、水蒸気の投入により湿潤ゲルを得る工程を経ることで、粒径が約2nmのゲルを得ることができるが、残留有機物を除去するために、最終的に、1000℃での焼結プロセスを経て焼結体を得る必要がある。そのため、平均粒径がナノメートルレベルの複合酸化物粒子を得ることができない。また、特許文献2では、原料アルコキシドに対する溶解度の高い混合溶媒を調製して、原料アルコキシドを混合溶媒に混合させるようにしている。この方法では、安定な酸化物合成には向いているが、原料アルコキシドの材料選定が限られてしまい、種々の複合酸化物粒子を生成することができないという問題がある。また、特許文献2記載の方法は、湿潤ゲルからゲル成形体を得るだけでも5日間を要し、処理時間の長大化につながるという問題もある。
つまり、特許文献2を含む従来の一般的なゾル−ゲル法では、反応させる温度が低すぎるために、立体障害となり結晶化を妨げるアルコキシル基の脱離反応が進まず、アモルファス体が合成されてしまうので、結晶性の高いものを得るために、最終的に反応・結晶化のための熱処理が必要になると考えられる。
【0010】
本発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、短時間で、且つ、500℃以下の低温で、高結晶性複合酸化物ナノ粒子を安定に、且つ、大量に生産することができる複合酸化物粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【0011】
また、本発明の他の目的は、高温での焼結プロセスを介さずに、室温での高圧のプレス加工のみで、簡単に複合酸化物バルク体を製造することができる複合酸化物バルク体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
[1] 第1の本発明に係る複合酸化物粒子の製造方法は、複数種のアルコキシドとアルコールとの混合液を還流して、複合アルコキシドを含む前駆体溶液を調製する還流工程と、前記前駆体溶液を密閉容器内で加熱する加熱工程とを有し、前記加熱工程は、加熱中の前記密閉容器内に水蒸気を導入して、前記前駆体溶液中の前記複合アルコキシドの少なくとも加水分解を進行させて複合酸化物粒子を生成する水蒸気導入工程を有することを特徴とする。
【0013】
これにより、短時間で、且つ、500℃以下の低温で、複合酸化物粒子を安定に、且つ、大量に生産することができる。すなわち、一般的なゾル−ゲル法では、上述したように、結晶性の高いものを得るために、最終的に反応・結晶化のための熱処理が必要になると考えられるが、本発明では、比較的低温で加水分解反応の生成物であるアルコール脱離が容易に起こるために、結晶性の高い微粒子ができると考えられる。
【0014】
[2] 第1の本発明において、前記水蒸気導入工程において、前記複合アルコキシドの加水分解による複合固体アルコキシドの生成、前記複合固体アルコキシドの脱水縮合、溶媒の蒸発、結晶化を進行させることを特徴とする。
【0015】
[3] 第1の本発明において、前記還流工程は、前記アルコールの沸点にて反応が十分に進む時間、前記混合液を還流することを特徴とする。
【0016】
[4] 第1の本発明において、前記加熱工程は、前記アルコールの沸点以上500℃以下の温度で、前記密閉容器内の前記前駆体溶液を加熱し、前記前駆体溶液を乾燥固化する工程を有することを特徴とする。
【0017】
[5] 第1の本発明において、前記加熱工程は、前記水蒸気導入工程に先立って、前記密封容器内に不活性ガスを導入した状態で、前記前駆体溶液を前記アルコールの沸点温度に加熱することにより前記前駆体溶液を乾燥固化し、前記水蒸気導入工程の開始と共に、前記前駆体溶液の加熱温度を、前記アルコールの沸点温度から最高で500℃まで上昇させる工程を有することを特徴とする。この場合、段階的に上昇させてもよいし、単位時間当たりの上昇温度を高めて短時間で最高温度まで上昇させてもよい。
【0018】
[6] 第1の本発明において、前記水蒸気導入工程は、加湿器を通過した酸素ガスを、前記密封容器内に導入しながら3〜5時間保持することを特徴とする。
【0019】
[7] 第1の本発明において、前記水蒸気導入工程の後に、冷却工程を有し、前記冷却工程は、前記密閉容器への前記水蒸気の導入を停止し、水蒸気を含まない酸素ガスを導入しながら室温まで降温することを特徴とする。
【0020】
[8] 第1の本発明において、製造される前記複合酸化物粒子の平均粒径が30nm以下であることを特徴とする。
【0021】
[9] 次に、第2の本発明に係る複合酸化物バルク体の製造方法は、上述した第1の本発明に係る複合酸化物粒子の製造方法にて製造された複合酸化物粒子を含む粉末を用意する工程と、型に前記粉末を投入し、室温でプレス加工して、複合酸化物バルク体とするプレス工程とを有することを特徴とする。
【0022】
これにより、高温での焼結プロセスを介さずに、室温での高圧のプレス加工のみで、簡単に複合酸化物バルク体を製造することができる。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本発明に係る複合酸化物粒子の製造方法によれば、短時間で、且つ、500℃以下の低温で、高結晶性複合酸化物ナノ粒子を安定に、且つ、大量に生産することができる。3種以上の元素を含む複合酸化物粒子を製造することも可能となる。
【0024】
また、本発明に係る複合酸化物バルク体の製造方法は、高温での焼結プロセスを介さずに、室温での高圧のプレス加工のみで、簡単に複合酸化物バルク体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本実施の形態に係る複合酸化物粒子の製造方法を示す工程ブロック図である。
【図2】本実施の形態に係る複合酸化物粒子の製造方法の好ましい態様を示す工程ブロック図である。
【図3】図3A〜図3Dは本実施の形態に係る複合酸化物バルク体の製造方法を示す工程図である。
【図4】実施例1に係る複合酸化物粒子の製造方法を示す工程ブロック図である。
【図5】実施例1に係る複合酸化物粒子の透過型電子顕微鏡写真である。
【図6】実施例2に係る複合酸化物粒子の製造方法を示す工程ブロック図である。
【図7】実施例3に係る複合酸化物粒子の製造方法を示す工程ブロック図である。
【図8】実施例3に係る複合酸化物粒子の透過型電子顕微鏡写真である。
【図9】実施例4に係る複合酸化物粒子の製造方法を示す工程ブロック図である。
【図10】実施例4に係る複合酸化物粒子の透過型電子顕微鏡写真である。
【図11】特許文献1記載の複合酸化物粒子の製造方法を示す工程ブロック図である。
【図12】特許文献2記載の複合酸化物粒子の製造方法を示す工程ブロック図である。
【図13】特許文献3記載の複合酸化物粒子の製造方法を示す工程ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る複合酸化物粒子の製造方法及び複合酸化物バルク体の積製造方法の実施の形態例を図1〜図10を参照しながら説明する。
【0027】
本実施の形態に係る複合酸化物粒子の製造方法は、図1に示すように、複数種のアルコキシドとアルコールとの混合液を調製する混合液調製工程(ステップS1)と、混合液を還流して、複合アルコキシドを含む前駆体溶液を調製する還流工程(ステップS2)と、前駆体溶液を密閉容器内で加熱する加熱工程(ステップS3)と、加熱中の密閉容器内に水蒸気を導入して、前駆体溶液中の複合アルコキシドの少なくとも加水分解を進行させて複合酸化物粒子を生成する水蒸気導入工程(ステップS4)とを有する。
【0028】
還流工程は、混合液に含まれるアルコールの沸点付近にて、混合液を還流することが好ましい。これにより、複数種のアルコキシドが共通のアルキル基に置換され、複数の元素を有する複合アルコキシドが生成される。アルコールの沸点付近としては、例えば(沸点−5°)から(沸点+5°)の範囲が挙げられる。また、還流時間は、アルコキシドとアルコール溶媒の種類によって変わり、1時間以下の場合や、1時間以上2時間以下の場合や、2時間以上の場合もある。つまり、この還流工程においては、アルコキシド同士の反応と、アルコキシドとアルコールとの反応の2種類の反応が行われることになるが、還流時間としては、これら2種類の反応が十分に行われる時間であればよい。
【0029】
前記加熱工程は、前記アルコールの沸点以上500℃以下の温度で、密閉容器内の前駆体溶液を加熱し、乾燥固化する。これにより、還流後の前駆体溶液を乾燥固化させて乾燥した複合アルコキシドを得る。
【0030】
加熱工程中における上述の乾燥固化を目的とした加熱処理の後に、水蒸気導入工程が開始され、加熱中の密閉容器内に水蒸気が導入されることになる。これによって、複合固体アルコキシドの加水分解・脱水縮合、溶媒の蒸発、結晶化が進行することとなる。特に、従来の場合と異なり、水蒸気を導入するようにしているため、複合アルコキシドの加水分解、複合固体アルコキシドの脱水縮合が緩やかに進行することとなる。従って、この水蒸気導入工程が終了した段階で、平均粒径が30nm以下の高結晶性複合酸化物粒子を大量に含む複合酸化物粉末が製造されることになる。つまり、乾燥した複合アルコキシドを加水分解・脱水縮合反応させることによって、高結晶性を有した微粒子を得ることができる。これは、複合アルコキシドが乾燥固化した状態で高温にて加水分解・脱水縮合反応をさせたので、加水分解反応が起こりやすく結晶化の妨げとなるアルコキシル基が抜けやすい状態になり、立体障害が生じないため、結晶化が進んだと考えられる。また、乾燥状態では物質拡散が起こりにくいため、アルコキシドの反応が抑制され粒成長が起こり難かったものと考えられる。
【0031】
ここで、好ましい態様について図2を参照しながら説明する。
【0032】
すなわち、図2に示すように、加熱工程(ステップS3)は、水蒸気導入工程に先立って、ステップS3aに示すように、密封容器内に不活性ガス(例えばアルゴンガス)を導入して、密閉容器内やチューブ内の空気を排除し、その状態で、前駆体溶液をアルコールの沸点温度付近に加熱することにより、アルコキシド中の金属元素の価数を変えずに溶媒を除去し固化させ、水蒸気導入工程(ステップS4)の開始と共に、前駆体溶液の加熱温度を、アルコールの沸点温度から最高で500℃まで上昇させる。この場合、段階的に上昇させてもよいし、単位時間当たりの上昇温度を高めて短時間で最高温度まで上昇させてもよい。これによって、複合酸化物粒子の500℃以下の低温での結晶化が可能となる。
【0033】
水蒸気導入工程(ステップS4)は、加湿器を通過した酸素ガスを、密封容器内に導入しながら3〜5時間保持することが好ましい。これにより、密封容器内への水蒸気の導入、並びに酸化物の生成が容易になる。
【0034】
水蒸気導入工程(ステップS4)の後に、冷却工程(ステップS5)を設定することが好ましい。この冷却工程では、密閉容器への水蒸気の導入を停止し、水蒸気を含まない酸素ガスを導入しながら室温まで降温する。これにより、複合酸化物を完全に酸化させることができる。この場合、酸素ガスを加湿器を通過させずに導入すればよいため、水蒸気導入工程から冷却工程への移行がスムーズになるという利点がある。これは、全工程の時間短縮につながる。
【0035】
このように、本実施の形態に係る複合酸化物粒子の製造方法においては、短時間で、且つ、500℃以下の低温で、高結晶性複合酸化物ナノ粒子を安定に、且つ、大量に生産することができる。
【0036】
次に、本実施の形態に係る複合酸化物バルク体の製造方法について図3A〜図3Dを参照しながら説明する。この製造方法は、室温中で行われる。
【0037】
先ず、図3Aに示すように、上述した実施の形態に係る複合酸化物粒子の製造方法にて製造された複合酸化物粒子を含む粉末10を用意する。
【0038】
その後、図3Bに示すように、粉末10をサンプルキューブ(圧力媒体)12内に投入し、蓋14で密閉する。
【0039】
その後、図3Cに示すように、キュービックアンビル型高圧発生装置を用いてサンプルキューブの6面全てを同時に加圧する。これによって、図3Dに示すように、所望の形状にプレス成形された複合酸化物バルク体16を得る。
【0040】
このように、本実施の形態に係る複合酸化物バルク体16の製造方法においては、高温での焼結プロセスを介さずに、室温での高圧のプレス加工のみで、簡単に複合酸化物バルク体16を製造することができる。
【実施例】
【0041】
[実施例1]
次に、図2の製造方法に基づいて、LiCoO2複合酸化物粒子の粉末を製造する実施例1を図4及び図5を参照しながら説明する。
【0042】
先ず、混合液調製工程(ステップS1)において、2種の金属アルコキシド(第1金属アルコキシド及び第2金属アルコキシド)とアルコールの混合液を調製した。第1金属アルコキシドとしてLi(OnBu)、第2金属アルコキシドとしてCo(OiPr)2を用いた。ここで、Bu=C4H9を示し、Pr=C3H7を示す。また、アルコールとして2−メトキシエタノール(2−methoxyethanol)を用いた。
【0043】
この混合液調製工程においては、窒素雰囲気のグローブボックス内で、三角フラスコを用いて上述の第1金属アルコキシドと、第2金属アルコキシドと、アルコールを混合した。窒素雰囲気で混合したのは、各金属アルコキシドと大気中の水分との反応を抑制するためである。なお、各試料のモル比は、第1金属アルコキシド=1モル、第2金属アルコキシド=1モル、アルコール=18.6モルである。
【0044】
その後、還流工程(ステップS2)において、上述の混合液を還流して、複合アルコキシドを含む前駆体溶液を調製した。混合液が入っている三角フラスコの口を密閉状態にして、グローブボックスから取り出し、還流装置に設置して行った。この還流は、アルコールである2−メトキシエタノールの沸点(125℃)で1時間行った。これによって、1リットル当たり1モルのLiCoOR(複合アルコキシド)を含む前駆体溶液を調製した。
【0045】
その後、前駆体溶液の入った50mlビーカーをステンレス製の反応容器内に設置し、該反応容器を密閉した。もちろん、ガス導入口や排気口等は所定のシーケンスに従って開閉するようになっている。
【0046】
続く加熱工程において、水蒸気導入工程に先立って、ステップS3aに示すように、反応容器内にAr(アルゴン)ガス(水蒸気を含まないArガス:乾燥Arガス)を導入した状態で、反応容器内の温度をアルコールの沸点温度(125℃)に設定して、前駆体溶液を加熱した。乾燥Arガスの導入量は1分当たり100ccである。
【0047】
前駆体溶液中のアルコール溶媒が蒸発し固化した段階で、水蒸気導入工程S4を開始し、加湿器を通過した酸素ガス(加湿酸素ガス)を反応容器に導入しながら、反応容器内の温度を、アルコールの沸点温度から最高で350℃まで段階的に上昇させた。最初に125℃を1時間保持し、次いで、200℃を1時間保持し、最後に350℃を2時間保持した。加湿器として、60〜80℃での飽和水蒸気圧PH2Oが、PH2O>0.2atmの加湿器を用いた。
【0048】
その後、冷却工程(ステップS5)において、加湿酸素ガスの導入を停止し、加湿器を通さない酸素ガス(乾燥酸素ガス)を反応容器内に導入した。このとき、反応容器内の温度を2時間かけてゆっくりと室温まで下げた。乾燥酸素ガスの導入量は1分当たり100ccである。
【0049】
冷却工程が終了した段階で、50mlビーカー内には複合酸化物粒子を大量に含む複合酸化物粉末が出来上がっていることを確認した。
【0050】
その後、複合酸化物粉末の各複合酸化物粒子の粒径をほぼ均一にするために、粉末をめのう乳鉢に入れ、粉砕した。その結果、平均粒径が30nm以下の超微細粉末10を得た。なお、複合酸化物粒子の平均粒径は、透過型電子顕微鏡を用いて測定した(図5参照)。
【0051】
そして、製造された粉末10を、図3に示すように、サンプルキューブ12に投入し、粉末10をプレス圧力4000MPaにてプレス成形することにより、直径5mm、高さ8mmの円柱状の複合酸化物バルク体16を作製した。この複合酸化物バルク体16のみかけ密度は、理論値の約80%以上という緻密な構造を有していることがわかった。
【0052】
[実施例2]
次に、LiCoO2複合酸化物粒子の粉末を製造する実施例2を図6を参照しながら説明する。
【0053】
実施例2に係る方法は、上述した実施例1とほぼ同様の処理を行うが、原料の仕込み量が異なることと、後工程(ステップS6)として、水洗浄工程(ステップS6a)及び加熱工程(ステップS6b)を追加した点で異なる。
【0054】
すなわち、ステップS1における混合液調製工程での各試料のモル比を、第1金属アルコキシド(Li(OnBu))を2モル、第2金属アルコキシド(Co(OiPr)2)を1モル、アルコール=18.6モルとして、実施例1と比してLiを過剰に含有させた組成とした。これは、定比のLiCoO2(Li:Co=1:1)を得るために、混合液調製時にLiの添加量を増やしたためである。但し、Liを過剰にすると、不純物として電池特性の低下の原因となるLiOHやLi2CO3が生成するため、新たに洗浄工程や熱処理工程が必要になる。従って、この実施例2では、後工程(ステップS6)として、水洗浄工程(ステップS6a)及び加熱工程(ステップS6b)を追加した。
【0055】
ステップS6aの水洗浄工程は、図6のステップS1〜ステップS5を経て得られた粉末を、蒸留水入りのビーカー内で、マグネティックスターラーを用いて攪拌洗浄した。この洗浄は、Liの過剰添加により生じた上述の不純物を取り除くための洗浄である。
【0056】
その後、ステップS6bの加熱工程において、温度200℃を5〜10時間保持して加熱した。その結果、平均粒径が15nm以下の超微細粉末10を得た。
そして、製造された粉末10を、図3に示すように、サンプルキューブ12に投入し、粉末10をプレス圧力4000MPaにてプレス成形することにより、直径5mm、高さ8mmの円柱状の複合酸化物バルク体16を作製した。この複合酸化物バルク体16のみかけ密度は、理論値の約80%以上という緻密な構造を有していることがわかった。
【0057】
[実施例3]
次に、LiCoO2複合酸化物粒子の粉末を製造する実施例3を図7及び図8を参照しながら説明する。
【0058】
実施例3に係る方法は、上述した実施例1とほぼ同様の処理を行うが、還流工程(ステップS2)後の加熱工程(ステップS3)及び冷却工程(ステップS5)の各処理が異なり、また、後工程(ステップS6)として加熱工程(ステップS6b)を追加した点で異なる。
【0059】
すなわち、還流工程後の加熱工程(ステップS3)は、水蒸気導入工程(ステップS4)に先立って、ステップS3aに示すように、反応容器内にAr(アルゴン)ガス(水蒸気を含まないArガス:乾燥Arガス)を導入した状態で、前駆体溶液を加熱した。この加熱処理においては、反応容器内の温度を120℃とし、該温度の保持時間を1時間とした。乾燥Arガスの導入量は1分当たり100ccである。これにより、前駆体溶液中のアルコール溶媒が蒸発し固化した状態となる。
【0060】
続く水蒸気導入工程(ステップS4)において、120℃の温度を維持しながら、Arガスと、加湿器(実施例1と同様の加湿器)を通過した酸素ガス(加湿酸素ガス)と反応容器に導入し、その後、温度を150℃に上げて、同じくArガスと加湿酸素ガスとを1時間導入した。
【0061】
水蒸気導入工程後のステップS3bにおいて、温度150℃を維持した状態で、加湿器を通さない酸素ガス(乾燥酸素ガス)を5〜10時間導入した。
【0062】
その後、冷却工程(ステップS5)において、乾燥酸素ガスの導入を続けたまま、反応容器内の温度を1時間かけてゆっくりと室温まで下げた。乾燥酸素ガスの導入量は1分当たり100ccである。
【0063】
冷却工程(ステップS5)が終了した段階で、50mlビーカー内には複合酸化物粒子を大量に含む複合酸化物粉末が出来上がっていることを確認した。
【0064】
後工程である加熱工程(ステップS6b)は、反応容器内に乾燥ガスを導入した状態で、粉末を加熱した。この加熱処理においては、反応容器内の温度を400℃とし、該温度の保持時間を5時間とした。乾燥酸素ガスの導入量は1分当たり100ccである。この加熱工程で粉末を400℃に加熱するのは、残留有機物を除去し、完全に酸化させて複合酸化物の結晶性を高くすることにある。その後、複合酸化物粉末の各複合酸化物粒子の粒径をほぼ均一にするために、粉末をめのう乳鉢に入れ、粉砕した。その結果、平均粒径が20nm以下の超微細粉末10を得た。なお、複合酸化物粒子の平均粒径は、透過型電子顕微鏡を用いて測定した(図8参照)。
【0065】
そして、製造された粉末10を、図3に示すように、サンプルキューブ12に投入し、粉末10をプレス圧力4000MPaにてプレス成形することにより、直径5mm、高さ8mmの円柱状の複合酸化物バルク体16を作製した。この複合酸化物バルク体16のみかけ密度は、理論値の約80%以上という緻密な構造を有していることがわかった。
【0066】
[実施例4]
次に、LiCoO2とは異なる複合酸化物粒子(Li7La3Zr2O12:LLZ)の粉末を製造する実施例4を図9及び図10を参照しながら説明する。
先ず、混合液調製工程(ステップS1)において、3種の金属アルコキシド(第1金属アルコキシド、第2金属アルコキシド及び第3金属アルコキシド)とアルコールの混合液を調製した。第1金属アルコキシドとしてLi(OnBu)、第2金属アルコキシドとしてLa(OiPr)3、第3金属アルコキシドとしてZr(OnBu)4を用いた。ここで、Bu=C4H9を示し、Pr=C3H7を示す。また、アルコールとして2−メトキシエタノール(2−methoxyethanol)を用いた。
【0067】
この混合液調製工程においては、実施例1と同様に、窒素雰囲気のグローブボックス内で、三角フラスコを用いて上述の第1金属アルコキシド、第2金属アルコキシド及び第3アルコキシドと、アルコールを混合した。なお、各試料のモル比は、第1金属アルコキシド=7モル、第2金属アルコキシド=3モル、第3金属アルコキシド=2モル、アルコール=20モルである。
【0068】
その後、還流工程(ステップS2)において、上述の混合液を還流して、複合アルコキシドを含む前駆体溶液を調製した。混合液が入っている三角フラスコの口を密閉状態にして、グローブボックスから取り出し、還流装置に設置して行った。この還流は、アルコールである2−メトキシエタノールの沸点(125℃)で1時間行った。これによって、1リットル当たり1モルのLiLaZrOR(複合アルコキシド)を含む前駆体溶液を調製した。
【0069】
その後、前駆体溶液の入った50mlビーカーをステンレス製の反応容器内に設置し、該反応容器を密閉した。もちろん、ガス導入口や排気口等は所定のシーケンスに従って開閉するようになっている。
【0070】
次の加熱工程(ステップS3)において、水蒸気導入工程(ステップS4)に先立って、ステップS3aに示すように、反応容器内に乾燥Arガスを導入した状態で、前駆体溶液を加熱した。この加熱処理においては、反応容器内の温度を120℃とし、該温度の保持時間を1時間とした。乾燥Arガスの導入量は1分当たり100ccである。これにより、前駆体溶液中のアルコール溶媒が蒸発し固化した状態となる。
【0071】
続く水蒸気導入工程(ステップS4)において、Arガスと水蒸気とを反応容器に導入しながら、反応容器内の温度を、アルコールの沸点温度から最高で350℃まで段階的に上昇させた。最初に120℃を2時間保持し、次いで、350℃を2時間保持した。
【0072】
その後、冷却工程(ステップS5)において、乾燥酸素ガスを反応容器内に導入した。このとき、反応容器内の温度を1時間かけて室温まで下げた。乾燥酸素ガスの導入量は1分当たり100ccである。
【0073】
冷却工程が終了した段階で、50mlビーカー内には複合酸化物粒子を大量に含む複合酸化物粉末が出来上がっていることを確認した。
【0074】
その後、後工程の成形工程(ステップS6c)において、製造された粉末10(この場合、LLZ粉末)を、ステンレス製の金型を用いて通常の一軸プレス法(常温)でプレス成形することにより、直径8mm、高さ1mmのペレットを作製した。この成形工程は、粒子同士を密着させることによって、反応性の向上を図ったものである。
【0075】
次いで、加熱工程(ステップS6d)において、反応容器内に乾燥ガスを導入した状態で、成形体を加熱した。この加熱処理においては、反応容器内の温度を500℃とし、該温度の保持時間を2時間とした。乾燥酸素ガスの導入量は1分当たり100ccである。この加熱工程で成形体を500℃に加熱するのは、残留有機物を除去し、完全に酸化させて複合酸化物の結晶性を高くすることにある。
【0076】
その後、粉砕工程(ステップS6e)において、加熱処理後の成形体をめのう乳鉢に入れ、粉砕した。その結果、平均粒径が20nm以下の超微細粉末10を得た。なお、複合酸化物粒子の平均粒径は、透過型電子顕微鏡を用いて測定した(図10参照)。
【0077】
そして、製造された粉末10を、図3に示すように、サンプルキューブ12に投入し、粉末10をプレス圧力4000MPaにてプレス成形することにより、直径5mm、高さ8mmの円柱状の複合酸化物バルク体16を作製した。この複合酸化物バルク体16のみかけ密度は、理論値の約80%以上という緻密な構造を有していることがわかった。
【0078】
[実施例1〜4に関する補足説明]
(1) 上述の実施例1〜3において、還流工程後の加熱工程(ステップS3:乾燥、水蒸気導入)と冷却工程(ステップS5)おけるガス種類を使い分けた理由は、Co(コバルト)の酸化状態を考慮したためである。加水分解前、コバルトは、アルコキシドの中でCo2+であるため、その状態を保ちつつ、溶媒の除去を目的として、乾燥ガスを導入している。用いるガスは、不活性ガスであればよく、例えば、アルゴンでも窒素でもよい。また、水蒸気導入過程では、Co2+→Co3+に酸化する必要があるため、酸素に水蒸気を添加するようにした。なお、Coは最終目的物であるLiCoO2の中ではCo3+として存在する。
【0079】
(2) LiCoO2粉末の作製において、実施例1の水蒸気導入工程では水蒸気+酸素(加湿酸素)を導入し(図4参照)、実施例3の水蒸気導入工程では水蒸気+酸素+アルゴン(加湿酸素+アルゴン)を導入しているが(図7参照)、実施例3において、アルゴンを用いなくても結果は同じになる。つまり、実施例3の水蒸気導入工程のガス種を共に同じにしてもよい。但し、酸素は必ず必要である。
【0080】
(3) 実施例3の水蒸気導入後に乾燥酸素を導入している理由は、残留有機物をなくすことを目的としている。
【0081】
(4) 実施例1〜4で、冷却工程に酸素ガスを用いている理由は、得られた複合酸化物を完全に酸化させることを目的としている。
【0082】
(5) 実施例1〜3でのLiCoO2粉末の作製と、実施例4でのLLZ粉末の作製とで水蒸気導入に用いるガス種類が異なるのは、LLZは、酸素を導入するとLa2Zr2O7のパイロクロアが容易にできてしまい、結果として、目的組成(Li7La3Zr2O12)が得られないからである。
【0083】
なお、本発明に係る複合酸化物粒子の製造方法及び複合酸化物バルク体の製造方法は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【符号の説明】
【0084】
10…粉末
12…サンプルキューブ
16…複合酸化物バルク体
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒径がナノメートルサイズの高結晶性複合酸化物粒子の低温合成法と、粒径がナノメートルサイズの複合酸化物粒子によって形成される複合酸化物バルク体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、LiCoO2等の複合酸化物粒子を製造する方法として、例えば非特許文献1、特許文献1及び2が提案されている。
【0003】
非特許文献1記載の方法は、図11に示すように、LiNO3とCo(NO3)2・6H2Oとを水に溶かした後、キレート剤としてマレイン酸水溶液を混合し、該混合水溶液を撹拌しながら硝酸を徐々に滴下してpHを1〜4に調節する。その後、混合水溶液を70〜80℃でゆっくりと均一加熱してマレイン酸/金属ゾルにした後、さらにこのマレイン酸/金属ゾルを徐々に加熱し続けて前駆体ゲルとする。この前駆体ゲルを400℃以上で1時間以上空気雰囲気下で熱処理して前駆体粉末を製造し、この前駆体粉末を500〜700℃で1時間以上空気雰囲気下で焼成することで、平均粒径が30nmのLiCoO2粉末を得るようにしている。
【0004】
特許文献1記載の方法は、図12に示すように、酢酸リチウムと硝酸コバルトとを蒸留水に溶かした後、キレート剤としてポリアクリル酸(PAA)を混合し、該混合水溶液を撹拌しながら硝酸を徐々に滴下してpHを1〜4に調節する。その後、混合水溶液を50〜90℃でゆっくりと均一加熱してPAA/金属ゾルにした後、さらにこのPAA/金属ゾルを徐々に加熱し続けてゲル前駆体とする。このゲル前駆体を300℃以上で1時間以上空気雰囲気下で熱処理して前駆体粉末を製造し、この前駆体粉末を400〜900℃で1時間以上空気雰囲気下で焼成することで、平均粒径が30nmのLiCoO2粉末を得るようにしている。
【0005】
特許文献2記載の方法は、図13に示すように、原料アルコキシドとしてのテトライソプロポキシチタンTi[OCH(CH3)2]4及びジエトキシバリウムBa(OC2H5)2を、メタノールと2−メトキシエタノールとの混合溶媒に溶解して前駆体を調製し、この前駆体を室温で撹拌しながら、水蒸気で徐々に加水分解した後、数日間静置してゲル(湿潤ゲル:粒径2nm)を生成する。その後、25℃で5日間静置することで、ゲル成形体(乾燥ゲル)を生成する。乾燥後のゲル成形体を1000℃で焼成することによって、平均粒径が約0.1μmのチタン酸バリウム焼結体を得るようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−175825号公報
【特許文献2】特開平8−239216号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】In−Hwan Oh et al. 「Low−temperature preparation of ultrafine LiCoO2 powders by the sol−gel method」:Journal of Materials Science,Volume 32,Number 12/1997,p.3177−3182
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、非特許文献1及び特許文献1記載の方法では、平均粒径が30nmのLiCoO2粒子を得るために、キレート剤、酸/塩基触媒が必要であり、後工程で、これらキレート剤等を蒸発させるための工程が別途必要になる。これは、製造工程の複雑化、処理時間の長大化、製造コストの高価格化を招くという問題がある。また、非特許文献1及び特許文献1記載の方法では、平均粒径が30〜100nm程度の複合酸化物粒子しか得られず、平均粒径がより小さい複合酸化物粒子を得ることができない。
【0009】
特許文献2記載の方法は、最終的に1000℃での焼結プロセスを経て焼結体を得る必要がある。すなわち、水蒸気の投入により湿潤ゲルを得る工程を経ることで、粒径が約2nmのゲルを得ることができるが、残留有機物を除去するために、最終的に、1000℃での焼結プロセスを経て焼結体を得る必要がある。そのため、平均粒径がナノメートルレベルの複合酸化物粒子を得ることができない。また、特許文献2では、原料アルコキシドに対する溶解度の高い混合溶媒を調製して、原料アルコキシドを混合溶媒に混合させるようにしている。この方法では、安定な酸化物合成には向いているが、原料アルコキシドの材料選定が限られてしまい、種々の複合酸化物粒子を生成することができないという問題がある。また、特許文献2記載の方法は、湿潤ゲルからゲル成形体を得るだけでも5日間を要し、処理時間の長大化につながるという問題もある。
つまり、特許文献2を含む従来の一般的なゾル−ゲル法では、反応させる温度が低すぎるために、立体障害となり結晶化を妨げるアルコキシル基の脱離反応が進まず、アモルファス体が合成されてしまうので、結晶性の高いものを得るために、最終的に反応・結晶化のための熱処理が必要になると考えられる。
【0010】
本発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、短時間で、且つ、500℃以下の低温で、高結晶性複合酸化物ナノ粒子を安定に、且つ、大量に生産することができる複合酸化物粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【0011】
また、本発明の他の目的は、高温での焼結プロセスを介さずに、室温での高圧のプレス加工のみで、簡単に複合酸化物バルク体を製造することができる複合酸化物バルク体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
[1] 第1の本発明に係る複合酸化物粒子の製造方法は、複数種のアルコキシドとアルコールとの混合液を還流して、複合アルコキシドを含む前駆体溶液を調製する還流工程と、前記前駆体溶液を密閉容器内で加熱する加熱工程とを有し、前記加熱工程は、加熱中の前記密閉容器内に水蒸気を導入して、前記前駆体溶液中の前記複合アルコキシドの少なくとも加水分解を進行させて複合酸化物粒子を生成する水蒸気導入工程を有することを特徴とする。
【0013】
これにより、短時間で、且つ、500℃以下の低温で、複合酸化物粒子を安定に、且つ、大量に生産することができる。すなわち、一般的なゾル−ゲル法では、上述したように、結晶性の高いものを得るために、最終的に反応・結晶化のための熱処理が必要になると考えられるが、本発明では、比較的低温で加水分解反応の生成物であるアルコール脱離が容易に起こるために、結晶性の高い微粒子ができると考えられる。
【0014】
[2] 第1の本発明において、前記水蒸気導入工程において、前記複合アルコキシドの加水分解による複合固体アルコキシドの生成、前記複合固体アルコキシドの脱水縮合、溶媒の蒸発、結晶化を進行させることを特徴とする。
【0015】
[3] 第1の本発明において、前記還流工程は、前記アルコールの沸点にて反応が十分に進む時間、前記混合液を還流することを特徴とする。
【0016】
[4] 第1の本発明において、前記加熱工程は、前記アルコールの沸点以上500℃以下の温度で、前記密閉容器内の前記前駆体溶液を加熱し、前記前駆体溶液を乾燥固化する工程を有することを特徴とする。
【0017】
[5] 第1の本発明において、前記加熱工程は、前記水蒸気導入工程に先立って、前記密封容器内に不活性ガスを導入した状態で、前記前駆体溶液を前記アルコールの沸点温度に加熱することにより前記前駆体溶液を乾燥固化し、前記水蒸気導入工程の開始と共に、前記前駆体溶液の加熱温度を、前記アルコールの沸点温度から最高で500℃まで上昇させる工程を有することを特徴とする。この場合、段階的に上昇させてもよいし、単位時間当たりの上昇温度を高めて短時間で最高温度まで上昇させてもよい。
【0018】
[6] 第1の本発明において、前記水蒸気導入工程は、加湿器を通過した酸素ガスを、前記密封容器内に導入しながら3〜5時間保持することを特徴とする。
【0019】
[7] 第1の本発明において、前記水蒸気導入工程の後に、冷却工程を有し、前記冷却工程は、前記密閉容器への前記水蒸気の導入を停止し、水蒸気を含まない酸素ガスを導入しながら室温まで降温することを特徴とする。
【0020】
[8] 第1の本発明において、製造される前記複合酸化物粒子の平均粒径が30nm以下であることを特徴とする。
【0021】
[9] 次に、第2の本発明に係る複合酸化物バルク体の製造方法は、上述した第1の本発明に係る複合酸化物粒子の製造方法にて製造された複合酸化物粒子を含む粉末を用意する工程と、型に前記粉末を投入し、室温でプレス加工して、複合酸化物バルク体とするプレス工程とを有することを特徴とする。
【0022】
これにより、高温での焼結プロセスを介さずに、室温での高圧のプレス加工のみで、簡単に複合酸化物バルク体を製造することができる。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本発明に係る複合酸化物粒子の製造方法によれば、短時間で、且つ、500℃以下の低温で、高結晶性複合酸化物ナノ粒子を安定に、且つ、大量に生産することができる。3種以上の元素を含む複合酸化物粒子を製造することも可能となる。
【0024】
また、本発明に係る複合酸化物バルク体の製造方法は、高温での焼結プロセスを介さずに、室温での高圧のプレス加工のみで、簡単に複合酸化物バルク体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本実施の形態に係る複合酸化物粒子の製造方法を示す工程ブロック図である。
【図2】本実施の形態に係る複合酸化物粒子の製造方法の好ましい態様を示す工程ブロック図である。
【図3】図3A〜図3Dは本実施の形態に係る複合酸化物バルク体の製造方法を示す工程図である。
【図4】実施例1に係る複合酸化物粒子の製造方法を示す工程ブロック図である。
【図5】実施例1に係る複合酸化物粒子の透過型電子顕微鏡写真である。
【図6】実施例2に係る複合酸化物粒子の製造方法を示す工程ブロック図である。
【図7】実施例3に係る複合酸化物粒子の製造方法を示す工程ブロック図である。
【図8】実施例3に係る複合酸化物粒子の透過型電子顕微鏡写真である。
【図9】実施例4に係る複合酸化物粒子の製造方法を示す工程ブロック図である。
【図10】実施例4に係る複合酸化物粒子の透過型電子顕微鏡写真である。
【図11】特許文献1記載の複合酸化物粒子の製造方法を示す工程ブロック図である。
【図12】特許文献2記載の複合酸化物粒子の製造方法を示す工程ブロック図である。
【図13】特許文献3記載の複合酸化物粒子の製造方法を示す工程ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る複合酸化物粒子の製造方法及び複合酸化物バルク体の積製造方法の実施の形態例を図1〜図10を参照しながら説明する。
【0027】
本実施の形態に係る複合酸化物粒子の製造方法は、図1に示すように、複数種のアルコキシドとアルコールとの混合液を調製する混合液調製工程(ステップS1)と、混合液を還流して、複合アルコキシドを含む前駆体溶液を調製する還流工程(ステップS2)と、前駆体溶液を密閉容器内で加熱する加熱工程(ステップS3)と、加熱中の密閉容器内に水蒸気を導入して、前駆体溶液中の複合アルコキシドの少なくとも加水分解を進行させて複合酸化物粒子を生成する水蒸気導入工程(ステップS4)とを有する。
【0028】
還流工程は、混合液に含まれるアルコールの沸点付近にて、混合液を還流することが好ましい。これにより、複数種のアルコキシドが共通のアルキル基に置換され、複数の元素を有する複合アルコキシドが生成される。アルコールの沸点付近としては、例えば(沸点−5°)から(沸点+5°)の範囲が挙げられる。また、還流時間は、アルコキシドとアルコール溶媒の種類によって変わり、1時間以下の場合や、1時間以上2時間以下の場合や、2時間以上の場合もある。つまり、この還流工程においては、アルコキシド同士の反応と、アルコキシドとアルコールとの反応の2種類の反応が行われることになるが、還流時間としては、これら2種類の反応が十分に行われる時間であればよい。
【0029】
前記加熱工程は、前記アルコールの沸点以上500℃以下の温度で、密閉容器内の前駆体溶液を加熱し、乾燥固化する。これにより、還流後の前駆体溶液を乾燥固化させて乾燥した複合アルコキシドを得る。
【0030】
加熱工程中における上述の乾燥固化を目的とした加熱処理の後に、水蒸気導入工程が開始され、加熱中の密閉容器内に水蒸気が導入されることになる。これによって、複合固体アルコキシドの加水分解・脱水縮合、溶媒の蒸発、結晶化が進行することとなる。特に、従来の場合と異なり、水蒸気を導入するようにしているため、複合アルコキシドの加水分解、複合固体アルコキシドの脱水縮合が緩やかに進行することとなる。従って、この水蒸気導入工程が終了した段階で、平均粒径が30nm以下の高結晶性複合酸化物粒子を大量に含む複合酸化物粉末が製造されることになる。つまり、乾燥した複合アルコキシドを加水分解・脱水縮合反応させることによって、高結晶性を有した微粒子を得ることができる。これは、複合アルコキシドが乾燥固化した状態で高温にて加水分解・脱水縮合反応をさせたので、加水分解反応が起こりやすく結晶化の妨げとなるアルコキシル基が抜けやすい状態になり、立体障害が生じないため、結晶化が進んだと考えられる。また、乾燥状態では物質拡散が起こりにくいため、アルコキシドの反応が抑制され粒成長が起こり難かったものと考えられる。
【0031】
ここで、好ましい態様について図2を参照しながら説明する。
【0032】
すなわち、図2に示すように、加熱工程(ステップS3)は、水蒸気導入工程に先立って、ステップS3aに示すように、密封容器内に不活性ガス(例えばアルゴンガス)を導入して、密閉容器内やチューブ内の空気を排除し、その状態で、前駆体溶液をアルコールの沸点温度付近に加熱することにより、アルコキシド中の金属元素の価数を変えずに溶媒を除去し固化させ、水蒸気導入工程(ステップS4)の開始と共に、前駆体溶液の加熱温度を、アルコールの沸点温度から最高で500℃まで上昇させる。この場合、段階的に上昇させてもよいし、単位時間当たりの上昇温度を高めて短時間で最高温度まで上昇させてもよい。これによって、複合酸化物粒子の500℃以下の低温での結晶化が可能となる。
【0033】
水蒸気導入工程(ステップS4)は、加湿器を通過した酸素ガスを、密封容器内に導入しながら3〜5時間保持することが好ましい。これにより、密封容器内への水蒸気の導入、並びに酸化物の生成が容易になる。
【0034】
水蒸気導入工程(ステップS4)の後に、冷却工程(ステップS5)を設定することが好ましい。この冷却工程では、密閉容器への水蒸気の導入を停止し、水蒸気を含まない酸素ガスを導入しながら室温まで降温する。これにより、複合酸化物を完全に酸化させることができる。この場合、酸素ガスを加湿器を通過させずに導入すればよいため、水蒸気導入工程から冷却工程への移行がスムーズになるという利点がある。これは、全工程の時間短縮につながる。
【0035】
このように、本実施の形態に係る複合酸化物粒子の製造方法においては、短時間で、且つ、500℃以下の低温で、高結晶性複合酸化物ナノ粒子を安定に、且つ、大量に生産することができる。
【0036】
次に、本実施の形態に係る複合酸化物バルク体の製造方法について図3A〜図3Dを参照しながら説明する。この製造方法は、室温中で行われる。
【0037】
先ず、図3Aに示すように、上述した実施の形態に係る複合酸化物粒子の製造方法にて製造された複合酸化物粒子を含む粉末10を用意する。
【0038】
その後、図3Bに示すように、粉末10をサンプルキューブ(圧力媒体)12内に投入し、蓋14で密閉する。
【0039】
その後、図3Cに示すように、キュービックアンビル型高圧発生装置を用いてサンプルキューブの6面全てを同時に加圧する。これによって、図3Dに示すように、所望の形状にプレス成形された複合酸化物バルク体16を得る。
【0040】
このように、本実施の形態に係る複合酸化物バルク体16の製造方法においては、高温での焼結プロセスを介さずに、室温での高圧のプレス加工のみで、簡単に複合酸化物バルク体16を製造することができる。
【実施例】
【0041】
[実施例1]
次に、図2の製造方法に基づいて、LiCoO2複合酸化物粒子の粉末を製造する実施例1を図4及び図5を参照しながら説明する。
【0042】
先ず、混合液調製工程(ステップS1)において、2種の金属アルコキシド(第1金属アルコキシド及び第2金属アルコキシド)とアルコールの混合液を調製した。第1金属アルコキシドとしてLi(OnBu)、第2金属アルコキシドとしてCo(OiPr)2を用いた。ここで、Bu=C4H9を示し、Pr=C3H7を示す。また、アルコールとして2−メトキシエタノール(2−methoxyethanol)を用いた。
【0043】
この混合液調製工程においては、窒素雰囲気のグローブボックス内で、三角フラスコを用いて上述の第1金属アルコキシドと、第2金属アルコキシドと、アルコールを混合した。窒素雰囲気で混合したのは、各金属アルコキシドと大気中の水分との反応を抑制するためである。なお、各試料のモル比は、第1金属アルコキシド=1モル、第2金属アルコキシド=1モル、アルコール=18.6モルである。
【0044】
その後、還流工程(ステップS2)において、上述の混合液を還流して、複合アルコキシドを含む前駆体溶液を調製した。混合液が入っている三角フラスコの口を密閉状態にして、グローブボックスから取り出し、還流装置に設置して行った。この還流は、アルコールである2−メトキシエタノールの沸点(125℃)で1時間行った。これによって、1リットル当たり1モルのLiCoOR(複合アルコキシド)を含む前駆体溶液を調製した。
【0045】
その後、前駆体溶液の入った50mlビーカーをステンレス製の反応容器内に設置し、該反応容器を密閉した。もちろん、ガス導入口や排気口等は所定のシーケンスに従って開閉するようになっている。
【0046】
続く加熱工程において、水蒸気導入工程に先立って、ステップS3aに示すように、反応容器内にAr(アルゴン)ガス(水蒸気を含まないArガス:乾燥Arガス)を導入した状態で、反応容器内の温度をアルコールの沸点温度(125℃)に設定して、前駆体溶液を加熱した。乾燥Arガスの導入量は1分当たり100ccである。
【0047】
前駆体溶液中のアルコール溶媒が蒸発し固化した段階で、水蒸気導入工程S4を開始し、加湿器を通過した酸素ガス(加湿酸素ガス)を反応容器に導入しながら、反応容器内の温度を、アルコールの沸点温度から最高で350℃まで段階的に上昇させた。最初に125℃を1時間保持し、次いで、200℃を1時間保持し、最後に350℃を2時間保持した。加湿器として、60〜80℃での飽和水蒸気圧PH2Oが、PH2O>0.2atmの加湿器を用いた。
【0048】
その後、冷却工程(ステップS5)において、加湿酸素ガスの導入を停止し、加湿器を通さない酸素ガス(乾燥酸素ガス)を反応容器内に導入した。このとき、反応容器内の温度を2時間かけてゆっくりと室温まで下げた。乾燥酸素ガスの導入量は1分当たり100ccである。
【0049】
冷却工程が終了した段階で、50mlビーカー内には複合酸化物粒子を大量に含む複合酸化物粉末が出来上がっていることを確認した。
【0050】
その後、複合酸化物粉末の各複合酸化物粒子の粒径をほぼ均一にするために、粉末をめのう乳鉢に入れ、粉砕した。その結果、平均粒径が30nm以下の超微細粉末10を得た。なお、複合酸化物粒子の平均粒径は、透過型電子顕微鏡を用いて測定した(図5参照)。
【0051】
そして、製造された粉末10を、図3に示すように、サンプルキューブ12に投入し、粉末10をプレス圧力4000MPaにてプレス成形することにより、直径5mm、高さ8mmの円柱状の複合酸化物バルク体16を作製した。この複合酸化物バルク体16のみかけ密度は、理論値の約80%以上という緻密な構造を有していることがわかった。
【0052】
[実施例2]
次に、LiCoO2複合酸化物粒子の粉末を製造する実施例2を図6を参照しながら説明する。
【0053】
実施例2に係る方法は、上述した実施例1とほぼ同様の処理を行うが、原料の仕込み量が異なることと、後工程(ステップS6)として、水洗浄工程(ステップS6a)及び加熱工程(ステップS6b)を追加した点で異なる。
【0054】
すなわち、ステップS1における混合液調製工程での各試料のモル比を、第1金属アルコキシド(Li(OnBu))を2モル、第2金属アルコキシド(Co(OiPr)2)を1モル、アルコール=18.6モルとして、実施例1と比してLiを過剰に含有させた組成とした。これは、定比のLiCoO2(Li:Co=1:1)を得るために、混合液調製時にLiの添加量を増やしたためである。但し、Liを過剰にすると、不純物として電池特性の低下の原因となるLiOHやLi2CO3が生成するため、新たに洗浄工程や熱処理工程が必要になる。従って、この実施例2では、後工程(ステップS6)として、水洗浄工程(ステップS6a)及び加熱工程(ステップS6b)を追加した。
【0055】
ステップS6aの水洗浄工程は、図6のステップS1〜ステップS5を経て得られた粉末を、蒸留水入りのビーカー内で、マグネティックスターラーを用いて攪拌洗浄した。この洗浄は、Liの過剰添加により生じた上述の不純物を取り除くための洗浄である。
【0056】
その後、ステップS6bの加熱工程において、温度200℃を5〜10時間保持して加熱した。その結果、平均粒径が15nm以下の超微細粉末10を得た。
そして、製造された粉末10を、図3に示すように、サンプルキューブ12に投入し、粉末10をプレス圧力4000MPaにてプレス成形することにより、直径5mm、高さ8mmの円柱状の複合酸化物バルク体16を作製した。この複合酸化物バルク体16のみかけ密度は、理論値の約80%以上という緻密な構造を有していることがわかった。
【0057】
[実施例3]
次に、LiCoO2複合酸化物粒子の粉末を製造する実施例3を図7及び図8を参照しながら説明する。
【0058】
実施例3に係る方法は、上述した実施例1とほぼ同様の処理を行うが、還流工程(ステップS2)後の加熱工程(ステップS3)及び冷却工程(ステップS5)の各処理が異なり、また、後工程(ステップS6)として加熱工程(ステップS6b)を追加した点で異なる。
【0059】
すなわち、還流工程後の加熱工程(ステップS3)は、水蒸気導入工程(ステップS4)に先立って、ステップS3aに示すように、反応容器内にAr(アルゴン)ガス(水蒸気を含まないArガス:乾燥Arガス)を導入した状態で、前駆体溶液を加熱した。この加熱処理においては、反応容器内の温度を120℃とし、該温度の保持時間を1時間とした。乾燥Arガスの導入量は1分当たり100ccである。これにより、前駆体溶液中のアルコール溶媒が蒸発し固化した状態となる。
【0060】
続く水蒸気導入工程(ステップS4)において、120℃の温度を維持しながら、Arガスと、加湿器(実施例1と同様の加湿器)を通過した酸素ガス(加湿酸素ガス)と反応容器に導入し、その後、温度を150℃に上げて、同じくArガスと加湿酸素ガスとを1時間導入した。
【0061】
水蒸気導入工程後のステップS3bにおいて、温度150℃を維持した状態で、加湿器を通さない酸素ガス(乾燥酸素ガス)を5〜10時間導入した。
【0062】
その後、冷却工程(ステップS5)において、乾燥酸素ガスの導入を続けたまま、反応容器内の温度を1時間かけてゆっくりと室温まで下げた。乾燥酸素ガスの導入量は1分当たり100ccである。
【0063】
冷却工程(ステップS5)が終了した段階で、50mlビーカー内には複合酸化物粒子を大量に含む複合酸化物粉末が出来上がっていることを確認した。
【0064】
後工程である加熱工程(ステップS6b)は、反応容器内に乾燥ガスを導入した状態で、粉末を加熱した。この加熱処理においては、反応容器内の温度を400℃とし、該温度の保持時間を5時間とした。乾燥酸素ガスの導入量は1分当たり100ccである。この加熱工程で粉末を400℃に加熱するのは、残留有機物を除去し、完全に酸化させて複合酸化物の結晶性を高くすることにある。その後、複合酸化物粉末の各複合酸化物粒子の粒径をほぼ均一にするために、粉末をめのう乳鉢に入れ、粉砕した。その結果、平均粒径が20nm以下の超微細粉末10を得た。なお、複合酸化物粒子の平均粒径は、透過型電子顕微鏡を用いて測定した(図8参照)。
【0065】
そして、製造された粉末10を、図3に示すように、サンプルキューブ12に投入し、粉末10をプレス圧力4000MPaにてプレス成形することにより、直径5mm、高さ8mmの円柱状の複合酸化物バルク体16を作製した。この複合酸化物バルク体16のみかけ密度は、理論値の約80%以上という緻密な構造を有していることがわかった。
【0066】
[実施例4]
次に、LiCoO2とは異なる複合酸化物粒子(Li7La3Zr2O12:LLZ)の粉末を製造する実施例4を図9及び図10を参照しながら説明する。
先ず、混合液調製工程(ステップS1)において、3種の金属アルコキシド(第1金属アルコキシド、第2金属アルコキシド及び第3金属アルコキシド)とアルコールの混合液を調製した。第1金属アルコキシドとしてLi(OnBu)、第2金属アルコキシドとしてLa(OiPr)3、第3金属アルコキシドとしてZr(OnBu)4を用いた。ここで、Bu=C4H9を示し、Pr=C3H7を示す。また、アルコールとして2−メトキシエタノール(2−methoxyethanol)を用いた。
【0067】
この混合液調製工程においては、実施例1と同様に、窒素雰囲気のグローブボックス内で、三角フラスコを用いて上述の第1金属アルコキシド、第2金属アルコキシド及び第3アルコキシドと、アルコールを混合した。なお、各試料のモル比は、第1金属アルコキシド=7モル、第2金属アルコキシド=3モル、第3金属アルコキシド=2モル、アルコール=20モルである。
【0068】
その後、還流工程(ステップS2)において、上述の混合液を還流して、複合アルコキシドを含む前駆体溶液を調製した。混合液が入っている三角フラスコの口を密閉状態にして、グローブボックスから取り出し、還流装置に設置して行った。この還流は、アルコールである2−メトキシエタノールの沸点(125℃)で1時間行った。これによって、1リットル当たり1モルのLiLaZrOR(複合アルコキシド)を含む前駆体溶液を調製した。
【0069】
その後、前駆体溶液の入った50mlビーカーをステンレス製の反応容器内に設置し、該反応容器を密閉した。もちろん、ガス導入口や排気口等は所定のシーケンスに従って開閉するようになっている。
【0070】
次の加熱工程(ステップS3)において、水蒸気導入工程(ステップS4)に先立って、ステップS3aに示すように、反応容器内に乾燥Arガスを導入した状態で、前駆体溶液を加熱した。この加熱処理においては、反応容器内の温度を120℃とし、該温度の保持時間を1時間とした。乾燥Arガスの導入量は1分当たり100ccである。これにより、前駆体溶液中のアルコール溶媒が蒸発し固化した状態となる。
【0071】
続く水蒸気導入工程(ステップS4)において、Arガスと水蒸気とを反応容器に導入しながら、反応容器内の温度を、アルコールの沸点温度から最高で350℃まで段階的に上昇させた。最初に120℃を2時間保持し、次いで、350℃を2時間保持した。
【0072】
その後、冷却工程(ステップS5)において、乾燥酸素ガスを反応容器内に導入した。このとき、反応容器内の温度を1時間かけて室温まで下げた。乾燥酸素ガスの導入量は1分当たり100ccである。
【0073】
冷却工程が終了した段階で、50mlビーカー内には複合酸化物粒子を大量に含む複合酸化物粉末が出来上がっていることを確認した。
【0074】
その後、後工程の成形工程(ステップS6c)において、製造された粉末10(この場合、LLZ粉末)を、ステンレス製の金型を用いて通常の一軸プレス法(常温)でプレス成形することにより、直径8mm、高さ1mmのペレットを作製した。この成形工程は、粒子同士を密着させることによって、反応性の向上を図ったものである。
【0075】
次いで、加熱工程(ステップS6d)において、反応容器内に乾燥ガスを導入した状態で、成形体を加熱した。この加熱処理においては、反応容器内の温度を500℃とし、該温度の保持時間を2時間とした。乾燥酸素ガスの導入量は1分当たり100ccである。この加熱工程で成形体を500℃に加熱するのは、残留有機物を除去し、完全に酸化させて複合酸化物の結晶性を高くすることにある。
【0076】
その後、粉砕工程(ステップS6e)において、加熱処理後の成形体をめのう乳鉢に入れ、粉砕した。その結果、平均粒径が20nm以下の超微細粉末10を得た。なお、複合酸化物粒子の平均粒径は、透過型電子顕微鏡を用いて測定した(図10参照)。
【0077】
そして、製造された粉末10を、図3に示すように、サンプルキューブ12に投入し、粉末10をプレス圧力4000MPaにてプレス成形することにより、直径5mm、高さ8mmの円柱状の複合酸化物バルク体16を作製した。この複合酸化物バルク体16のみかけ密度は、理論値の約80%以上という緻密な構造を有していることがわかった。
【0078】
[実施例1〜4に関する補足説明]
(1) 上述の実施例1〜3において、還流工程後の加熱工程(ステップS3:乾燥、水蒸気導入)と冷却工程(ステップS5)おけるガス種類を使い分けた理由は、Co(コバルト)の酸化状態を考慮したためである。加水分解前、コバルトは、アルコキシドの中でCo2+であるため、その状態を保ちつつ、溶媒の除去を目的として、乾燥ガスを導入している。用いるガスは、不活性ガスであればよく、例えば、アルゴンでも窒素でもよい。また、水蒸気導入過程では、Co2+→Co3+に酸化する必要があるため、酸素に水蒸気を添加するようにした。なお、Coは最終目的物であるLiCoO2の中ではCo3+として存在する。
【0079】
(2) LiCoO2粉末の作製において、実施例1の水蒸気導入工程では水蒸気+酸素(加湿酸素)を導入し(図4参照)、実施例3の水蒸気導入工程では水蒸気+酸素+アルゴン(加湿酸素+アルゴン)を導入しているが(図7参照)、実施例3において、アルゴンを用いなくても結果は同じになる。つまり、実施例3の水蒸気導入工程のガス種を共に同じにしてもよい。但し、酸素は必ず必要である。
【0080】
(3) 実施例3の水蒸気導入後に乾燥酸素を導入している理由は、残留有機物をなくすことを目的としている。
【0081】
(4) 実施例1〜4で、冷却工程に酸素ガスを用いている理由は、得られた複合酸化物を完全に酸化させることを目的としている。
【0082】
(5) 実施例1〜3でのLiCoO2粉末の作製と、実施例4でのLLZ粉末の作製とで水蒸気導入に用いるガス種類が異なるのは、LLZは、酸素を導入するとLa2Zr2O7のパイロクロアが容易にできてしまい、結果として、目的組成(Li7La3Zr2O12)が得られないからである。
【0083】
なお、本発明に係る複合酸化物粒子の製造方法及び複合酸化物バルク体の製造方法は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【符号の説明】
【0084】
10…粉末
12…サンプルキューブ
16…複合酸化物バルク体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種のアルコキシドとアルコールとの混合液を還流して、複合アルコキシドを含む前駆体溶液を調製する還流工程と、
前記前駆体溶液を密閉容器内で加熱する加熱工程とを有し、
前記加熱工程は、
加熱中の前記密閉容器内に水蒸気を導入して、前記前駆体溶液中の前記複合アルコキシドの少なくとも加水分解を進行させて複合酸化物粒子を生成する水蒸気導入工程を有することを特徴とする複合酸化物粒子の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の複合酸化物粒子の製造方法において、
前記水蒸気導入工程において、前記複合アルコキシドの加水分解による複合固体アルコキシドの生成、前記複合固体アルコキシドの脱水縮合、溶媒の蒸発、結晶化を進行させることを特徴とする複合酸化物粒子の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の複合酸化物粒子の製造方法において、
前記還流工程は、前記アルコールの沸点付近にて、前記混合液を還流することを特徴とする複合酸化物粒子の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合酸化物粒子の製造方法において、
前記加熱工程は、前記アルコールの沸点以上500℃以下の温度で、前記密閉容器内の前記前駆体溶液を加熱し、前記前駆体溶液を乾燥固化する工程を有することを特徴とする複合酸化物粒子の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の複合酸化物粒子の製造方法において、
前記加熱工程は、前記水蒸気導入工程に先立って、前記密封容器内に不活性ガスを導入した状態で、前記前駆体溶液を前記アルコールの沸点温度に加熱することにより前記前駆体溶液を乾燥固化し、前記水蒸気導入工程の開始と共に、前記前駆体溶液の加熱温度を、前記アルコールの沸点温度から最高で500℃まで上昇させる工程を有することを特徴とする複合酸化物粒子の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の複合酸化物粒子の製造方法において、
前記水蒸気導入工程は、加湿器を通過した酸素ガスを、前記密封容器内に導入しながら3〜5時間保持することを特徴とする複合酸化物粒子の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の複合酸化物粒子の製造方法において、
前記水蒸気導入工程の後に、冷却工程を有し、
前記冷却工程は、前記密閉容器への前記水蒸気の導入を停止し、水蒸気を含まない酸素ガスを導入しながら室温まで降温することを特徴とする複合酸化物粒子の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の複合酸化物粒子の製造方法において、
製造される前記複合酸化物粒子の平均粒径が30nm以下であることを特徴とする複合酸化物粒子の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の複合酸化物粒子の製造方法にて製造された複合酸化物粒子を含む粉末を用意する工程と、
型に前記粉末を投入し、室温でプレス加工して、複合酸化物バルク体とするプレス工程とを有することを特徴とする複合酸化物バルク体の製造方法。
【請求項1】
複数種のアルコキシドとアルコールとの混合液を還流して、複合アルコキシドを含む前駆体溶液を調製する還流工程と、
前記前駆体溶液を密閉容器内で加熱する加熱工程とを有し、
前記加熱工程は、
加熱中の前記密閉容器内に水蒸気を導入して、前記前駆体溶液中の前記複合アルコキシドの少なくとも加水分解を進行させて複合酸化物粒子を生成する水蒸気導入工程を有することを特徴とする複合酸化物粒子の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の複合酸化物粒子の製造方法において、
前記水蒸気導入工程において、前記複合アルコキシドの加水分解による複合固体アルコキシドの生成、前記複合固体アルコキシドの脱水縮合、溶媒の蒸発、結晶化を進行させることを特徴とする複合酸化物粒子の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の複合酸化物粒子の製造方法において、
前記還流工程は、前記アルコールの沸点付近にて、前記混合液を還流することを特徴とする複合酸化物粒子の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合酸化物粒子の製造方法において、
前記加熱工程は、前記アルコールの沸点以上500℃以下の温度で、前記密閉容器内の前記前駆体溶液を加熱し、前記前駆体溶液を乾燥固化する工程を有することを特徴とする複合酸化物粒子の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の複合酸化物粒子の製造方法において、
前記加熱工程は、前記水蒸気導入工程に先立って、前記密封容器内に不活性ガスを導入した状態で、前記前駆体溶液を前記アルコールの沸点温度に加熱することにより前記前駆体溶液を乾燥固化し、前記水蒸気導入工程の開始と共に、前記前駆体溶液の加熱温度を、前記アルコールの沸点温度から最高で500℃まで上昇させる工程を有することを特徴とする複合酸化物粒子の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の複合酸化物粒子の製造方法において、
前記水蒸気導入工程は、加湿器を通過した酸素ガスを、前記密封容器内に導入しながら3〜5時間保持することを特徴とする複合酸化物粒子の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の複合酸化物粒子の製造方法において、
前記水蒸気導入工程の後に、冷却工程を有し、
前記冷却工程は、前記密閉容器への前記水蒸気の導入を停止し、水蒸気を含まない酸素ガスを導入しながら室温まで降温することを特徴とする複合酸化物粒子の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の複合酸化物粒子の製造方法において、
製造される前記複合酸化物粒子の平均粒径が30nm以下であることを特徴とする複合酸化物粒子の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の複合酸化物粒子の製造方法にて製造された複合酸化物粒子を含む粉末を用意する工程と、
型に前記粉末を投入し、室温でプレス加工して、複合酸化物バルク体とするプレス工程とを有することを特徴とする複合酸化物バルク体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−254563(P2010−254563A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−84001(P2010−84001)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]