説明

複合金属化合物に含まれる陰イオン量決定方法及び装置

【課題】複合金属化合物が含有する微量の陰イオン量を測定する効率的な測定方法及び測定装置を提供する。
【解決手段】複合金属化合物が所定の水溶液中に溶解することにより増加又は減少する気体の溶存濃度を測定する溶存ガス濃度計と、当該溶存ガス濃度計により測定される測定値を受信し、当該測定値をパソコンが処理するデータに変換するUSB変換器と、当該USB変換器により変換された測定データを受信し、処理するパソコンと、から構成される複合金属化合物に含まれる陰イオン量を算出する装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複合金属化合物に含まれる陰イオン量を決定する方法及び装置に関する。特に、水溶液中の溶存気体濃度を測定し、金属酸化物に含まれる酸素量を決定する方法と装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の金属酸化物に含まれる酸素量測定方法として、化学分析、機器分析等、様々な方法が知られている。化学分析では、クーロメトリ法やヨードメトリ法が知られている。クーロメトリ法では、試料重量は約50mgで、測定誤差は0.1%で、正確な測定方法であり、誤差が小さいこと及び自動測定できるという有利な点を持つが、他方、試料重量が大きい点という欠点を持つ。又、ヨードメトリ法では、試料重量は約50mgで、測定誤差は0.5%である。測定は簡単であるが、試料重量が大きい点という欠点を持つ。
【0003】
又、機器分析では熱重量分析、酸素分析装置、オージェ(Auger)電子分光、光電子分光等の方法が知られている。
熱重量分析では、試料重量が0.1mg、測定誤差は0.1%、高精度で測定できることが有利な点であるが、絶対量は測定できないという欠点があった。酸素分析装置では、試料重量が1mg、測定誤差は約10%、簡単に測定できることが有利な点であるが、試料重量が大きく、誤差も多いという欠点があった。
オージェ電子分光では、試料重量が1μg、測定誤差は約10%、厚さ方向に測定できることが有利な点であるが、誤差が大きいという欠点があった。
最後に、光電子分光では、試料重量が1μg、測定誤差は約数10%、厚さ方向に測定できることが有利な点であるが、誤差が大きいという欠点がある。これらを表にまとめたものが、図5である。
【0004】
(クーロメトリ法について)
化学分析のクーロメトリ法では、金属酸化物を塩酸などの溶液に溶かす際に、CuClなどの試薬を過剰量入れ、金属酸化物と反応させて、酸素量を決定する。
たとえば、YBa2Cu3Oy超伝導体の酸素量を測定する際は、過剰量の塩化銅(I)を溶かした塩酸溶液にYBa2Cu3Oy超伝導体を溶解させる。その際、YBa2Cu3Oy超伝導体中のCuは、Cu2+とCu3+の2つの状態に分かれるが、その比率は、YBa2Cu3Oy超伝導体中の酸素量に依存する。Cu2+は溶液中で安定なため反応は起こらない。一方Cu3+は溶液中で不安定で、Cu+が存在すると直ちに、
Cu3+ + Cu+ → 2Cu2+. (1)
の反応が起こる。
過剰量のCu+が存在すると、反応(1)によってCu3+がすべて消費され、Cu+が溶液中に残る。溶液中の残ったCu+を以下の電極反応で全てCu2+となる。
Cu+ → Cu2+ + e-. (2)
銅溶液中の酸化還元電位は、ネルンストの式により、
EAg/AgCl = - 0.047 - 0.0591 log[Cu+ / Cu2+]. (3)
と表されるので、酸化還元電位の変化がなくなる終点までの電極反応の時間を調べることによってCu3+量を求め、対応する酸素量yを求めることができる。
【0005】
この方法は誤差が0.1%と小さい反面、試料重量が50mg程度必要である。最近、試料重量を5mgまで減らしたマイクロクーロメトリ法が報告されている(参考文献1)。しかしながら、誤差が大きくなり、系統誤差が生じるという問題がある。
【0006】
(ヨードメトリ法について)
化学分析のもう一つの方法として、ヨードメトリ法がある(参考文献2)。たとえば、YBa2Cu3Oy超伝導体の酸素量を測定する際は、同超伝導体試料を試薬KIを溶かした塩酸溶液に溶解する。その際、YBa2Cu3Oy超伝導体中のCuは、Cu2+とCu3+の2つの状態に分かれるが、その比率は、YBa2Cu3Oy超伝導体中の酸素量に依存する。
Cu2+は2I-と反応し0.5I2を生じる(式4)。他方、Cu3+は3I-と反応し、I2を生じる(式5)。生じたI2をデンプンで着色し、S2O32で滴定することによってCu2+とCu3+の量を決定し、それに対応した酸素量を求めることができる。
Cu2+ +2I- → CuI + 0.5I2 (4)
Cu3+ + 3I- → CuI + I2 (5)
I2 + 2S2O32- → 2I- + S4O62- (6)
【0007】
ヨードメトリ法によると測定は簡単であるが、誤差は0.5%程度とクーロメトリに比べて大きく、クーロメトリと同じく試料重量が50mg以上必要なため、微量酸化物の酸素量を求めることは難しかった。また、ビスマスBiなどを含む溶液はもともと着色しており、ヨウ素デンプン反応の着色が消える終点を決定することは、熟練した技術者でも難しいという問題があった。
【0008】
参考文献1 Fumiaki Sato, Masaaki Fujihara, Naokazu Komiyama, Shiro Kambe, and Osamu Ishii, APPLIED PHYSICS LETTERS 87, 264106 (2005).
参考文献2 M. Karppinen, A. Fukuoka, L. Niinstoe, and H. Yamauchi, Supercond. Sci. Technol. 9, 121-135 (1996).
【0009】
他方、前記の通り、機器分析法として、熱重量分析、酸素分析装置、オージェ電子分光、光電子分光等の方法が知られているが、熱重量分析では絶対値の測定ができず、その他の機器分析法では誤差が大きいという欠点があり、物質中の酸素量を精度良く測定することは難しいのが現状である。
【0010】
近年、金属酸化物を中心とした物質がエレクトロニクス分野で注目されている。例えば、インジウム=スズ酸化物(ITO)はフラットパネルディスプレーの透明性伝導材として不可欠な酸化物である。また、ZnOはルミネッセンス素子として研究が進められおり、SnO2はガスセンサとして、YBa2Cu3Oyは超伝導量子干渉素子(SQUID)磁気センサとして実用化されている。
【0011】
このような酸化物材料は、酸化物中の酸素量が物性に大きな影響を与えることが知られている。その一例として、図6に高温超伝導体の1種であるYBa2Cu3Oyの酸素量と超伝導転移温度(Tc)との関係を示す。横軸は酸素量yであり、縦軸は超伝導転移温度(Tc)で単位はケルビンKである。酸素量yを6から増加させてゆくと、6.4付近で絶縁体から超伝導体へと変化し、7に近づくにつれ超伝導転移温度(Tc)が増加してゆく、つまり、酸化物中の酸素量が物性に大きな影響を与えことが分かる。
そして、超伝導転移温度(Tc)の高い実用的なYBa2Cu3Oy超伝導体を形成するためには、YBa2Cu3Oyの酸素量を6.9以上に制御せねばならないことが明らかである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
機器分析法では誤差が大きいために、酸化物に含まれる酸素量の絶対値を測定する方法として、これまでクーロメトリとヨードメトリが用いられてきた。これらの方法は試料に用いる酸化物の重量が50mg以下の測定では測定すること自体が難しい、精度が落ちるという問題があった。これは、分析に試薬を用いているため、試薬の純度や投入量の誤差が生じるためである。
また、電気化学反応や滴定における反応は終点を調べながら実験を行うため、ゆっくりとした速度で行うことが必要であった。このため、通常1回の測定に1時間以上の時間が必要であった。
さらに、電気化学測定や滴定は分析の専門家は経験と技術が必要で、専門家の養成には長い年月が必要であり、分析コスト高の理由となっていた。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記の技術的課題を解決するためのものであって、金属酸化物を含め、陰イオンを複数含有する複合金属化合物について、複合金属化合物に含まれる微量な陰イオン量を簡便に測定する方法と装置を提供するものである。
本発明の第1の形態は、複合金属化合物を所定の水溶液中に溶解し、溶解時に増加又は減少する気体の溶存濃度を測定し、当該複合金属化合物が含有する陰イオン量を算出する方法である。
【0014】
本発明の第2の形態は、複合金属化合物を酸又は塩基性の水溶液中に溶解し、溶解時に増加又は減少する気体の溶存濃度を測定し、当該複合金属化合物が含有する陰イオン量を算出する方法である。
【0015】
本発明の第3の形態は、酸素を含む金属酸化物を溶液中に溶解し、溶解時に増加又は減少する酸素濃度又は水素濃度を、溶存酸素計又は溶存水素計で測定し、ることによって、金属酸化物が含有する酸素量を算出する方法である。
【0016】
本発明の第4の形態は、複合金属化合物が所定の水溶液中に溶解することにより増加又は減少する気体の溶存濃度を測定する溶存ガス濃度計と、当該溶存ガス濃度計により測定される測定値を受信し、当該測定値をパソコンが処理するデータに変換するUSB変換器と、当該USB変換器により変換された測定データを受信し、処理するパソコンと、から構成される複合金属化合物に含まれる陰イオン量を算出する装置である。
【発明の効果】
【0017】
本発明で用いる(7)乃至 (12)の反応は、全て溶解反応である。このため、本発明によれば、酸素量測定のための反応を最短5秒以内で行うことができ、測定に1時間以上かかっていたヨードメトリ法、クーロメトリ法に比べ、大幅な時間短縮が可能である。
【0018】
従来法では、変色反応や酸化還元電位の変化を見ながら反応終点を見極める必要があり、熟練した技術者が必要であった。また、溶液が着色している場合は、ヨードメトリ法におけるヨウ素デンプン反応の色消失点を見極めねばならず、色消失点を見極めは困難であった。これに対し、本発明によれば、溶解反応によって一気に終点まで反応は進行し、それ以上反応が進むことはない。溶液の色を見極める必要もなく、測定に熟練を要しない。これにより、酸素量測定の分析コストを大幅に引き下げることができる。
【0019】
又、ヨードメトリ法やクーロメトリ法と異なり、本発明では試薬を全く用いない。このため、試薬の純度や重量を測定する手間とコストが省けるのみならず、酸素量測定時の誤差の原因となっていた試薬重量測定時の誤差、試薬純度の誤差が計算上ゼロとなる。このため、試料重量50mg以下の微量酸化物の精密酸素量測定が可能となる。
【0020】
さらに、USB変換器付きの溶存ガス濃度測定装置を用いることにより、データのアウトプット、パソコンへのデータ移動が不要となり、適当なプログラムをパソコン側で作成することにより、全自動での測定、計算、表示も可能となる。これにより、計測と計算に必要な人員を大幅に減らすことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
初めに溶液として酸性、塩基性の溶液を用いた場合の反応を説明し、次に具体的な測定について説明する。
(溶液として酸性溶液を用いる場合の反応について)
金属化合物が酸性溶液に溶解する時の酸素の発生/吸収反応、又は、水素発生反応を用いるものである。金属化合物として、酸に溶解する金属酸化物であれば種類は問わない。金属化合物の一例として銅酸化物CuOxをあげて説明する。
【0022】
x≧1の時の、銅酸化物CuOxと酸との反応式を次式(7)に示す。次式は酸素発生反応である。
CuOx + 2H+ → Cu2+ + H2O + (x-1)/2O2↑ (7)
水溶液中では、Cu2+イオンが安定なため、Cu価数の変化によって酸素発生又は酸素吸収が起こる。
なお、x=1の時は酸素は発生しない。
【0023】
x<1の時で、反応前の溶液に酸素が存在しないときは、次の水素発生反応(8)が起こる。
CuOx + 2H+ → Cu2+ + xH2O + (1-x)H2↑ (8)
X<1の時で、反応前の溶液に酸素が存在するときは、次の酸素吸収反応(9)が起こる。
CuOx + 2H+ + (1-x)/2・O2 → Cu2+ + H2O (9)
【0024】
(溶液として塩基性溶液を用いる場合の反応について)
金属酸化物によっては、塩基性溶液を用いる場合がある。この場合は、金属酸化物が塩基性溶液に溶解する時の酸素発生・吸収反応、または水素発生反応を用いる。金属酸化物として、塩基性溶液に溶解する金属酸化物であれば種類は問わないが、一般に両性金属と呼ばれているAl, Zn, Sn, Pbの酸化物が代表的である。
ここでは、一例として、亜鉛酸化物ZnOxと塩基との反応式(10)を示す。
ZnOx + 2NaOH + H2O → Na2[Zn(OH)4] + (x-1)/2O2↑ (10)
この反応はx≧1の場合の反応である。
【0025】
x<1の時で反応前の溶液に酸素が存在しない時は、次の水素発生反応(11)が起こる。
ZnOx + 2NaOH + (2-x)H2O → Na2[Zn(OH)4] + (1-x) H2↑ (11)
【0026】
x<1の時で反応前の溶液に酸素が存在するときは、次の酸素吸収反応(12)が起こる。
ZnOx + 2NaOH + H2O + (1-x)/2O2↑ → Na2[Zn(OH)4] (12)
【0027】
(7)乃至(12)はいずれも金属酸化物の溶解反応であり、溶液中で安定な価数の金属イオンに変化するため、酸素の発生吸収、又は、水素の発生が起こる。
【0028】
一般的ではないので反応式は省略したが、水素を溶存した溶液で反応を起こすと、酸素発生反応の代わりに水素吸収反応を起こすことも可能である。又、水素・酸素以外の気体が発生する反応では、それらの気体の溶存濃度を測定することにより容易に酸素量を求められる。
いずれにしても、金属酸化物中の酸素量xによって、発生または吸収する気体量を決定できることに注意されたい。金属酸化物は2つ以上の金属酸化物でも良く、その場合は、各金属の反応式から計算した酸素量の総和が全体の酸素量となる。
【0029】
なお、金属化合物の種類によっては、酸性、塩基性以外の中性の水溶液を用いる場合もある。例えば、CuClxについては中性水溶液を用いる。
金属化合物として、金属酸化物の例を示したが、酸化物の外、塩化物、硫化物について、更に、これら陰イオンが2つ以上含まれる化合物について、陰イオン量を決定することができる。
【0030】
次に、上記の酸性又は塩基性水溶液を使った金属酸化物に含まれる微量の酸素量決定方法を説明する。
(測定するための装置について)
図1は、本発明の方法の代表的な構成を示したものである。装置全体は、酸又は塩基性の水溶液を入れた容器1と、同容器1中の溶液における溶存ガスの濃度を測定するために同容器1に投入される溶存ガス濃度計2と、溶存ガス濃度計2により測定されたガス濃度測定値が転送されるUSB変換器3と、USB変換器3から溶存ガス濃度のデータが転送され、同データを処理するパソコンPC4とから構成されている。
【0031】
前記USB変換器3は、本発明の発明者が発明者の1人として発明した装置で、「計測信号のためのUSB変換器」:特願2006-031646として出願したものである。USB編換装置3とは、図7に示すように、センサからの計測信号を入力する入力手段23と、USBケーブルを介して外部コンピュータとの間で信号の授受を行う出力手段24と、前記計測信号を処理すると共に前記外部コンピュータからの信号を処理する信号処理手段21,22と、を有するものである。USB変換器3の信号処理手段は、前記センサから前記計測信号を受取り、該計測信号をデジタル信号となるようにAD変換を行うAD変換器(211)と、前記コンピュータからのコマンド信号に基づいて処理を行うと共に、前記デジタル信号を計測用データにするための処理を実行するCPU21と、前記データを前記コンピュータが処理するデータに変換すると共に、前記コンピュータからの信号を前記CPUが処理する信号形式に変換するコントローラ22とを有するものである。USB変換器3からの出力をUSBケーブルを使用してCPUに接続すると、信号送受、電源受給を、1本のケーブル接続によって行うことができる。
【0032】
容器1中の酸又は塩基性の水溶液はスターラーで撹拌される。USB変換器3からデータはパソコン4に自動的に転送される。USB変換器に接続しない溶存ガス濃度計でも、同様の計測は可能であるが、USB変換器つきの溶存ガス濃度計を使用することにより、全自動での測定、計算、表示が可能となる。
【0033】
(測定の手順)
酸素量を測定したい試料酸化物の重さを正確に量り、ビーカー内に投入する。試料の溶解と同時にガスが溶液中に溶けるか、溶液から吸収され、溶液中のガス濃度が変化する。この変化をガス濃度計で測定し、(7)乃至(12)式に基づいて試料の酸素量を計算する。
【0034】
ビーカーは、溶液を入れるものであれば何でも良く、酸や塩基性溶液に侵されない材質ならどのような材質でもよい。初期の溶存ガス濃度を調節するため、アルゴンガスや酸素ガス、水素ガスを容器内にバブリング(泡立て)させることが有効なこともある。
溶存ガス濃度計としては、先に示したように、溶存酸素濃度計、溶存水素濃度計が一般的であるが、(7)乃至(12)で発生吸収するガスの種類によって使い分けることが望ましい。また、酸素・水素以外のガスを発生(吸収)する時はガスの種類に対応したガス濃度計を用いる。
【0035】
(酸素量算出例1)
図2に、CuO1+xを1 mol/lの塩酸溶液に溶解した時の溶存酸素量の変化を示す。横軸は時間軸で、1目盛は1000秒であり、縦軸は1リットルあたりの溶存酸素量で、1目盛は2mgである。原点は測定のための準備を開始した時点である。測定準備後2000秒で、溶液にアルゴンガスをバブリングした。これにより、溶存酸素量は酸素飽和状態の9.0mg/lから急激に減少し0.4mg/lでほぼ一定となった。測定準備後3600秒時にCuO1+x 100mgを加え測定を開始したが(図2の点A)、その後(例えば20秒後の点B)、溶存酸素量に変化はなかった。なお点A、Bの時間軸の位置は参考に付したもので正確に示したものではない。
CuOxの酸素量xは次の式で求められる。
【数1】

ここで、酸素濃度は溶存酸素濃度の増加量であり、
mは試料重量(g)で、
MCuOxはCuOxの式量である。
この算出はプログラムに基づいて図1のパソコン1において行われる。
式(7)の反応式より、酸素の増減がないとき、x=1であり、投入した金属化合物の酸素量はCuOである。
【0036】
(酸素量算出例2)
図3に、YBa2Cu3Oy超伝導体100mgを1mol/lの塩酸溶液に溶解した時の溶存酸素濃度の変化を示す。横軸は時間軸で、1目盛は1000秒であり、縦軸は1リットルあたりの溶存酸素量で、1目盛は2mgである。測定に先立ち準備(アルゴンガスのバブリング)を行う。溶存酸素は準備を開始してから1800秒における酸素飽和状態の9.0mg/lから急激に減少し0.4mg/lで一定となった。更に準備開始3900秒後に、100mgのYaBa2Cu3Oyを溶解させ測定を開始した(図3の点C)。測定開始後、数秒−10秒後、溶解前と比較して溶解後の溶存酸素濃度が増加しピークを示した(点D)。酸素濃度のこの増加は、式(7)の反応による酸化還元反応によって発生した酸素による。発生した酸素からYBa2Cu3O6.5+wの酸素量wを計算するための式は(13)であり、この式は前記の(7)式から導かれる。
【数2】

但し、wは、YBa2Cu3O6.5+wの酸素量、
酸素濃度(mg/l)は溶存酸素濃度の増加量であり、
mは試料重量(g)、
MYBCOはYBa2Cu3O6.5+wの式量である。
【0037】
同じYBa2Cu3O6.5+w試料で本発明の方法による測定を3回試み、上記計算式(13)に従って、酸素量を算出した。その結果を図4に示す。3回の測定の平均の酸素量yは6.749±0.016である。この算出はプログラムに基づいて図1のパソコン1において行われる。クーロメトリ法を使って決定した値は6.931であり、本発明の方法で決定した値より約5%少なかった。
この違いは、反応(1)で発生した酸素を完全に捕捉できなかったのが原因と考えられる。この実施例ではビーカを使用したために、発生するガスの内、溶存酸素計で捕捉できる酸素の割合は60%であった。残り40%は空中に放散されていた。より正確な酸素量を求めるためには、溶存酸素計で捕捉できる酸素の割合を使って補正する必要がある。
【0038】
これまで、測定試料として金属酸化物について説明してきたが、金属酸化物の外に、酸素以外の陰イオン(塩素イオン、硫化物イオン等)が含まれている金属化合物についても、前記説明と同じ反応で増減する水素、酸素、塩素等陰イオン濃度を測定することにより、陰イオン量を決定することができる。
更に、酸素イオンとそれ以外の陰イオンが2種類以上含まれた複合金属化合物についても、その陰イオンの総量を決定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
近年、金属酸化物がエレクトロニクス分野で多用されている。フラットパネルディスプレー、ルミネッセンス素子、ガスセンサ、超伝導量子干渉素子(SQUID)磁気センサなどに金属酸化物薄膜が使用されている。これらの材料は、酸素量の変化で特性が大きく変化することが知られており、酸素量測定の重要性が認識されてきた。しかしが、微量試料を扱う必要があることから、酸素量を測定する手段は皆無であった。本発明はこの問題を解決し、金属酸化物材料の物性を事前に知る唯一の方法である。従って品質管理や研究開発を中心に、その利用可能性は極めて大きい。更に、熟練技術者が不要となり、測定時間も従来の千分の一程度に超高速となることから、コスト削減に極めて有効であることが上記の通り検証されている。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の方法に使用される測定装置の全体システムを示す図である。
【図2】酸化銅100mgを溶解したときの溶存酸素濃度の変化を示すグラフである。
【図3】YBa2Cu3Oy 100mgを溶解したときの溶存酸素濃度の変化を示すグラフである。
【図4】本発明の方法による、溶存酸素濃度の変化とこれに基づいて計算したYBa2Cu3Oyのy酸素量との表である。
【図5】公知の金属酸化物中の酸素量を測定する方法を、まとめた表である。
【図6】YBa2Cu3Oy超伝導体の酸素量yと超伝導臨界温度の関係を示したグラフである。
【図7】USB変換器の構成を示すブロック図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合金属化合物を所定の水溶液中に溶解し、溶解時に増加又は減少する気体の溶存濃度を測定することにより、当該複合金属化合物が含有する陰イオン量を算出する方法。
【請求項2】
複合金属化合物を酸又は塩基性の水溶液中に溶解し、溶解時に増加又は減少する気体の溶存濃度を測定することにより、当該複合金属化合物が含有する陰イオン量を算出する方法。
【請求項3】
酸素を含む金属酸化物を溶液中に溶解し、溶解時に増加又は減少する酸素濃度又は水素濃度を溶存酸素計又は溶存水素計で測定することにより、金属酸化物が含有する酸素量を算出する方法。
【請求項4】
複合金属化合物が所定の水溶液中に溶解することにより増加又は減少する気体の溶存濃度を測定する溶存ガス濃度計と、当該溶存ガス濃度計により測定される測定値を受信し、当該測定値をパソコンが処理するデータに変換するUSB変換器と、当該USB変換器により変換された測定データを受信し、処理するパソコンと、から構成される複合金属化合物に含まれる陰イオン量を算出する装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−47603(P2009−47603A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−215121(P2007−215121)
【出願日】平成19年8月21日(2007.8.21)
【出願人】(506045657)
【出願人】(500473807)山形東亜DKK株式会社 (4)
【Fターム(参考)】