説明

複層フィルム及び複層フィルムの製造方法

【課題】 固有複屈折値が負の樹脂bからなるB層と、B層の少なくとも一方の面に形成された固有複屈折値が正の樹脂aからなるA層とを備え、且つ、前記のA層及びB層の接着力に優れる複層フィルム、並びに当該複層フィルムを所望のレターデーションを有する位相差フィルムとして製造できる製造方法を提供する。
【課題手段】 固有複屈折値が負である樹脂bからなる層(B層)の少なくとも一方の面に固有複屈折値が正である樹脂aからなる層(A層)を備える複層フィルムであって、樹脂bがスチレン系重合体を含み、樹脂aがポリカーボネートおよび不飽和ニトリル−スチレン共重合体を含み、樹脂a中の不飽和ニトリル−スチレン共重合体の含有量が4重量%以上20重量%以下であることを特徴とする複層フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複層フィルム及びその製造方法に関し、特に、光学用の複層フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば液晶表示装置の光学補償などに用いられる位相差フィルムは、観察角度による表示装置の色調の変化を少なくできるものが求められ、従来から、様々な技術が開発されてきた。例えば特許文献1では、固有複屈折値が正の樹脂からなるフィルムと固有複屈折値が負の樹脂からなるフィルムとを貼り合わせた位相差フィルムが提案されている。しかし、固有複屈折値が負の樹脂は通常は強度が低く、脆い。そのため、固有複屈折値が負の樹脂からなる層を延伸して位相差フィルム延伸処理を施すと容易に破断してしまい、製造効率に劣るといった欠点が指摘されていた。
【0003】
固有複屈折値が負の樹脂からなる層の破損を防止するため、特許文献2においては、固有複屈折値が負の樹脂と固有複屈折値が正の樹脂とを共押出または共流延して積層フィルムを得、これを延伸して位相差フィルムを得る製造方法が提案されている。この製造方法によれば、固有複屈折値が負の樹脂からなる層を、固有複屈折値が正の樹脂からなる層で保護できるので、固有複屈折値が負の樹脂からなる層の破損を防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−216998号公報
【特許文献2】特開2009−192844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2記載の製造方法で得られる位相差フィルムは、層間の接着力が不足する場合があった。すなわち、固有複屈折値が負の樹脂からなる層と、固有複屈折値が正の樹脂からなる層との接着力が不十分なために、二層間で、比較的容易に剥離してしまうという問題があった。
【0006】
本発明は上述した課題に鑑みて創案されたものであって、固有複屈折値が負の樹脂bからなるB層と、B層の少なくとも一方の面に形成された固有複屈折値が正の樹脂aからなるA層とを備え、且つ、前記のA層及びB層の接着力に優れる複層フィルム、並びに当該複層フィルムを所望のレターデーションを有する位相差フィルムとして製造できる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は前記の課題を解決するべく鋭意検討した結果、前記の樹脂bがスチレン系重合体を含み、樹脂aがポリカーボネートおよび不飽和ニトリル−スチレン共重合体を含み、かつ該不飽和ニトリル−スチレン共重合体の含有量が特定の範囲にある複層フィルムが、接着力に優れることを見出した。さらに、この複層フィルムを延伸することで、所望のレターデーションを有する位相差フィルムを得られることを見出し、これらの知見に基づき本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の〔1〕〜〔7〕を要旨とする。
【0008】
〔1〕 固有複屈折値が負である樹脂bからなる層(B層)の少なくとも一方の面に固有複屈折値が正である樹脂aからなる層(A層)を備える複層フィルムであって、
樹脂bがスチレン系重合体を含み、
樹脂aがポリカーボネートおよび不飽和ニトリル−スチレン共重合体を含み、
樹脂a中の不飽和ニトリル−スチレン共重合体の含有量が4重量%以上20重量%以下であることを特徴とする複層フィルム。
〔2〕 スチレン系重合体が、無水マレイン酸由来の単量体単位を含む共重合体である、〔1〕に記載の複層フィルム。
〔3〕 一軸延伸方向をX軸、一軸延伸方向に対してフィルム面内で直交する方向をY軸、およびフィルム厚さ方向をZ軸としたときに、フィルム面に垂直に入射しかつ電気ベクトルの振動面がXZ面にある直線偏光の、フィルム面に垂直に入射しかつ電気ベクトルの振動面がYZ面にある直線偏光に対する位相が、温度T1でX軸方向に一軸延伸したときには遅れ、温度T1とは異なる温度T2でX軸方向に一軸延伸したときには進む、〔1〕または〔2〕に記載の複層フィルム。
【0009】
〔4〕 〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の複層フィルムの製造方法であって、
スチレン系重合体を含み、固有複屈折値が負の樹脂bと、
ポリカーボネートおよび不飽和ニトリル−スチレン共重合体を含み、不飽和ニトリル−スチレン共重合体の含有量が4重量%以上20重量%以下である固有複屈折値が正の樹脂aと、
を共押し出しすることを含む、複層フィルムの製造方法。
【0010】
〔5〕 〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の複層フィルムを延伸してなる、位相差フィルム。
〔6〕 入射角0°におけるレターデーションReと、入射角40°におけるレターデーションR40とが、0.92≦R40/Re≦1.08の関係を満たす、〔5〕に記載の位相差フィルム。
【0011】
〔7〕 〔6〕に記載の位相差フィルムの製造方法であって、
固有複屈折値が負の樹脂bと固有複屈折値が正の樹脂aとを共押し出しして、一軸延伸方向をX軸、一軸延伸方向に対してフィルム面内で直交する方向をY軸、およびフィルム厚み方向をZ軸としたときに、フィルム面に垂直に入射しかつ電気ベクトルの振動面がXZ面にある直線偏光の、フィルム面に垂直に入射しかつ電気ベクトルの振動面がYZ面にある直線偏光に対する位相が、温度T1でX軸方向に一軸延伸したときには遅れ、温度T1とは異なる温度T2でX軸方向に一軸延伸したときには進む、延伸前フィルムを得る共押出工程と、
前記延伸前フィルムに、温度T1またはT2のいずれかの温度で一方向に一軸延伸処理を行う第一延伸工程と、
前記第一延伸工程で一軸延伸処理を行った方向と直交する方向に、前記と異なる温度T2またはT1で一軸延伸処理を行う第二延伸工程とを有し、
樹脂bがスチレン系重合体を含み、
樹脂aがポリカーボネートおよび不飽和ニトリル−スチレン共重合体を含み、
樹脂a中の不飽和ニトリル−スチレン共重合体の含有量が4重量%以上20重量%以下である、位相差フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の複層フィルムによれば、固有複屈折値が正である樹脂からなる層及び固有複屈折値が負である樹脂からなる層の接着力が高く、例えば延伸時にも破断や層間での剥離を抑制できる。
本発明の複層フィルムの製造方法によれば、所望のレターデーションを有する位相差フィルムとして本発明の複層フィルムを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】A層を形成する樹脂aのガラス転移温度Tgが高く、B層を形成する樹脂bのガラス転移温度Tgが低いと仮定した場合に、延伸前フィルムのA層及びB層をそれぞれ延伸したときのA層及びB層それぞれのレターデーションの温度依存性と、延伸前フィルム(ここでは、A層+B層)を延伸したときの延伸前フィルムのレターデーションΔの温度依存性の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下に示す実施形態及び例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施してもよい。
【0015】
〔1.複層フィルム〕
本発明の複層フィルムは、固有複屈折値が負の樹脂bからなるB層と、B層の少なくとも一方の面に形成された固有複屈折値が正の樹脂aからなるA層とを備える。
ここで、固有複屈折値が正であるとは、延伸方向の屈折率が延伸方向に直交する方向の屈折率よりも大きくなることを意味する。また、固有複屈折値が負であるとは、延伸方向の屈折率が延伸方向に直交する方向の屈折率よりも小さくなることを意味する。固有複屈折値は、誘電率分布から計算することもできる。
【0016】
〔1−1.B層〕
B層は、固有複屈折値が負の樹脂bからなる。固有複屈折値が負の樹脂bは、少なくともスチレン系重合体を含む。なお、スチレン系重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0017】
スチレン系重合体とは、スチレン系単量体に由来する繰り返し単位(以下、適宜「スチレン系単量体単位」という。)を含有する重合体である。前記のスチレン系単量体とは、スチレン及びスチレン誘導体のことをいう。スチレン誘導体としては、例えば、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−クロロスチレン、p−ニトロスチレン、p−アミノスチレン、p−カルボキシスチレン、p−フェニルスチレン等が挙げられる。なお、スチレン系単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。したがって、スチレン系重合体は、1種類のスチレン系単量体単位を単独で含有していてもよく、2種類以上のスチレン系単量体単位を任意の比率で組み合わせて含有していてもよい。
【0018】
また、スチレン系重合体は、スチレン系単量体のみを含有する単独重合体又は共重合体であってもよく、スチレン系単量体と他の単量体との共重合体であってもよい。スチレン系単量体と共重合しうる単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブタジエン、イソプレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル、N−フェニルマレイミド、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、無水マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、酢酸ビニル等が挙げられる。なお、これらの単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0019】
中でも、スチレン系重合体が共重合体である場合、当該スチレン系重合体は、無水マレイン酸に由来する繰り返し単位(以下、適宜「無水マレイン酸単位」という。)を含有する共重合体であることが好ましい。無水マレイン酸単位を含む共重合体である場合、スチレン系重合体の耐熱性を向上させることができる。無水マレイン酸単位の量は、スチレン系重合体100重量部に対して、好ましくは5重量部以上、より好ましくは10重量部以上、特に好ましくは15重量部以上であり、好ましくは30重量部以下、より好ましくは28重量部以下、特に好ましくは26重量部以下である。
【0020】
また、固有複屈折値が負の樹脂bは、本発明の効果を著しく損なわない限り、スチレン系重合体以外の成分を含んでいてもよい。例えば、固有複屈折値が負の樹脂bは、スチレン系重合体以外に他の重合体を含んでいてもよい。B層を構成する樹脂の固有複屈折値を負にする観点からは、他の重合体は負の固有複屈折値を有する重合体であることが好ましい。その具体例を挙げると、ポリアクリロニトリル重合体、ポリメチルメタクリレート重合体、セルロースエステル系重合体、あるいはこれらの多元共重合ポリマーなどが挙げられる。また、その他の重合体の構成成分は、スチレン系重合体の一部に繰り返し単位として含有されていてもよい。ただし、本発明の利点を顕著に発揮させる観点からは、B層において他の重合体の量は少ないことが好ましい。他の重合体の具体的な量は、例えばスチレン系重合体100重量部に対して、10重量部以下が好ましく、5重量部以下がより好ましく、3重量部以下が更に好ましい。中でも、その他の重合体は含まないことが特に好ましい。
【0021】
また、固有複屈折値が負の樹脂bは、例えば配合剤などを含んでいてもよい。配合剤の例を挙げると、滑剤;層状結晶化合物;無機微粒子;酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、近赤外線吸収剤等の安定剤;可塑剤;染料や顔料等の着色剤;帯電防止剤;などが挙げられる。中でも、滑剤及び紫外線吸収剤は、可撓性や耐候性を向上させることができるので好ましい。なお、配合剤は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。また、配合剤の量は、本発明の効果を著しく損なわない範囲で適宜定めることができ、例えば、本発明の複層フィルムの1mm厚換算での全光線透過率が80%以上を維持できる範囲としてもよい。
【0022】
滑剤としては、例えば、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸ストロンチウム等の無機粒子;ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート等の有機粒子などが挙げられる。中でも、滑剤としては有機粒子が好ましい。
【0023】
紫外線吸収剤としては、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、アクリロニトリル系紫外線吸収剤、トリアジン系化合物、ニッケル錯塩系化合物、無機粉体などが挙げられる。好適な紫外線吸収剤の具体例を挙げると、2,2’−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2,4−ジ−tert−ブチル−6−(5−クロロベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノンなどが挙げられ、特に好適なものとしては、2,2’−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)が挙げられる。
【0024】
固有複屈折値が負の樹脂bのガラス転移温度Tgは、通常80℃以上、好ましくは90℃以上、より好ましくは100℃以上、更に好ましくは110℃以上、特に好ましくは120℃以上である。ガラス転移温度Tgがこのように高いことにより、固有複屈折値が負の樹脂bの配向緩和を低減することができる。なお、ガラス転移温度Tgの上限に特に制限は無いが、通常は200℃以下である。
【0025】
固有複屈折値が正の樹脂aのガラス転移温度Tgにおける固有複屈折値が負の樹脂bの破断伸度は、50%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。なお、固有複屈折値が負の樹脂bの破断伸度の上限に特に制限は無いが、通常は200%以下である。破断伸度がこの範囲にあれば、延伸により安定的に本発明の複層フィルムを作製することができる。なお破断伸度は、JIS K7127記載の試験片タイプ1Bの試験片を用いて、引っ張り速度100mm/分によって求める。
【0026】
固有複屈折値が正の樹脂aのガラス転移温度Tgと、固有複屈折値が負の樹脂bのガラス転移温度Tgとの差の絶対値|Tg−Tg|は、好ましくは5℃より大きく、より好ましくは8℃以上であり、好ましくは40℃以下、より好ましくは20℃以下である。前記のガラス転移温度の差の絶対値|Tg−Tg|が小さすぎるとレターデーション発現の温度依存性が小さくなる傾向がある。一方、前記のガラス転移温度の差の絶対値|Tg−Tg|が大きすぎるとガラス転移温度の高い樹脂の延伸がし難くなり、複層フィルムの平面性が低下しやすくなる可能性がある。なお、前記のガラス転移温度Tgは、ガラス転移温度Tgよりも高いことが好ましい。よって、固有複屈折値が正の樹脂と固有複屈折値が負の樹脂bとは、通常はTg>Tg+5℃の関係を満足することが好ましい。
【0027】
本発明の複層フィルムにおいてB層はA層と積層されているので、樹脂bの強度が低くても、その樹脂bにより形成されるB層は破損等を生じないようになっている。
【0028】
本発明の複層フィルムを位相差フィルムとして用いる場合、通常は、例えば延伸処理を施すことにより、B層において固有複屈折値が負の樹脂bに含まれる重合体の分子を配向させる。重合体の分子が配向することにより、屈折率異方性が生じ、B層においてレターデーションが発現する。本発明の複層フィルムでは、このようにして発現するB層のレターデーションと、A層で発現するレターデーションとが合成されて、本発明の複層フィルムの全体としての所望のレターデーションが生じるようになっている。したがって、B層の膜厚は、本発明の複層フィルムに発現させようとする具体的なレターデーションに応じて適切な値を設定してもよい。
【0029】
本発明の複層フィルムは、B層を2層以上備えていてもよいが、レターデーションの制御を簡単にする観点及び本発明の複層フィルムの厚みを薄くする観点から、1層だけ備えることが好ましい。
【0030】
〔1−2.A層〕
A層は、固有複屈折値が正の樹脂aからなる。固有複屈折値が正の樹脂aは、少なくともポリカーボネートおよび不飽和ニトリル−スチレン共重合体を含む。
【0031】
ポリカーボネートは、レターデーションの発現性、低温での延伸性、および他層との接着性に優れた重合体である。ポリカーボネートとしては、カーボネート結合(−O−C(=O)−O−)による繰り返し単位を有する重合体であれば任意のものを使用できる。また、ポリカーボネートは、1種類の繰り返し単位からなるものを用いてもよく、2種類以上の繰り返し単位を任意の比率で組み合わせてなるものを用いてもよい。
【0032】
ポリカーボネートの例を挙げると、ビスフェノールAポリカーボネート、分岐ビスフェノールAポリカーボネート、o,o,o’,o’−テトラメチルビスフェノールAポリカーボネートなどが挙げられる。
なお、ポリカーボネートとしては、1種類のものを単独で用いてもよく、2種類以上のものを任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0033】
不飽和ニトリル−スチレン共重合体は、不飽和ニトリル化合物に由来する繰り返し単位(以下、適宜「不飽和ニトリル単量体単位」という。)およびスチレン系単量体単位を含有する重合体である。A層が不飽和ニトリル−スチレン共重合体を含有することにより、B層との高い接着性と、位相差フィルムとして好適な光学特性を両立することができる。
【0034】
不飽和ニトリル化合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル等が挙げられ、アクリロニトリルが好ましい。スチレン系単量体としては前記したものをいずれも用いることができ、スチレンが好ましい。不飽和ニトリル単量体単位とスチレン系単量体単位との割合は、重量比で好ましくは5:95〜50:50、より好ましくは10:90〜40:60である。
【0035】
不飽和ニトリル−スチレン共重合体は、本発明の効果を著しく損なわない限り、不飽和ニトリル単量体単位およびスチレン系単量体単位以外の単量体単位を含んでいてもよい。かかる重合体としては、例えば、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリル−塩素化ポリエチレン−スチレン共重合体(ACS)、アクリロニトリル−EPDM−スチレン共重合体(AES)、アクリロニトリル−スチレン−アクリレート共重合体(ASA)などが挙げられる。
【0036】
固有複屈折値が正の樹脂a中の不飽和ニトリル−スチレン共重合体の含有量は、4重量%以上20重量%以下、好ましくは6重量%以上15重量%以下である。不飽和ニトリル−スチレン共重合体の含有量がこの範囲であると、A層とB層との高い接着性と、光学フィルムとして好適な高い透明性を両立できる。
【0037】
また、固有複屈折値が正の樹脂aは、本発明の効果を著しく損なわない限り、ポリカーボネート及びアクリル重合体以外の成分を含んでいてもよい。例えば、固有複屈折値が正の樹脂aは、ポリカーボネート及び不飽和ニトリル−スチレン共重合体以外の重合体、配合剤などを含んでいてもよい。
【0038】
固有複屈折値が正の樹脂aが含んでいてもよいポリカーボネート及び不飽和ニトリル−スチレン共重合体以外の重合体の例を挙げると、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリフェニレンサルファイド等のポリアリーレンサルファイド;ポリビニルアルコール;セルロースエステル;ポリエーテルスルホン;ポリスルホン;ポリアリルサルホン;ポリ塩化ビニル;ノルボルネン重合体;棒状液晶ポリマーなどが挙げられる。また、これらの重合体の構成成分はポリカーボネート又は不飽和ニトリル−スチレン共重合体の一部に繰り返し単位として含有されていてもよい。さらに、これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。ただし、本発明の利点を顕著に発揮させる観点からは、樹脂aにおいてポリカーボネート及び不飽和ニトリル−スチレン共重合体以外の重合体の量は少ないことが好ましく、例えばポリカーボネート100重量部に対して、10重量部以下が好ましく、5重量部以下がより好ましく、3重量部以下が更に好ましい。中でも、ポリカーボネート及び不飽和ニトリル−スチレン共重合体以外の重合体は含まないことが特に好ましい。
【0039】
固有複屈折値が正の樹脂aが含んでいてもよい配合剤の例としては、固有複屈折値が負の樹脂bが含んでいてもよい配合剤と同様の例が挙げられる。なお、配合剤は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。また、配合剤の量は、本発明の効果を著しく損なわない範囲で適宜定めることができ、例えば、複層フィルムの1mm厚換算での全光線透過率が80%以上を維持できる範囲としてもよい。
【0040】
固有複屈折値が正の樹脂aのガラス転移温度Tgは、通常80℃以上、好ましくは90℃以上、より好ましくは100℃以上、更に好ましくは110℃以上、特に好ましくは120℃以上である。ガラス転移温度Tgがこのように高いことにより、固有複屈折値が正の樹脂aの配向緩和を低減することができる。なお、固有複屈折値が正の樹脂aが2以上のガラス転移温度を有する場合は、ガラス転移温度Tgはその最も高いガラス転移温度を表す。ガラス転移温度Tgの上限に特に制限は無いが、通常は200℃以下である。
【0041】
固有複屈折値が負の樹脂bのガラス転移温度Tgにおける、固有複屈折値が正の樹脂aの破断伸度は、50%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。破断伸度がこの範囲にあれば、延伸により安定的に位相差フィルムを作製することができる。
【0042】
通常、A層は、本発明の複層フィルムの主面に露出して設けられる。すなわち、A層は、通常、本発明の複層フィルムの最外層となる。このようにA層が露出していても、通常はA層の強度が強いため、取り扱いの際に破損し難く、ハンドリング性を低下させることは無い。
【0043】
本発明の複層フィルムにおいて、A層はB層の少なくとも一方の面に備えられていればよいが、B層の破損等をさらに抑制するとの観点からは、B層の両面にA層を備えることが好ましい。また本発明の複層フィルムはA層を3層以上備えていてもよいが、レターデーションの制御を簡単にする観点及び本発明の複層フィルムの厚みを薄くする観点から、2層だけ備えることが好ましい。
【0044】
本発明の複層フィルムを位相差フィルムとして用いる場合、通常は、例えば延伸処理を施すことにより、A層において固有複屈折値が正の樹脂aに含まれる重合体の分子を配向させる。重合体の分子が配向することにより、屈折率異方性が生じ、A層においてレターデーションが発現する。本発明の複層フィルムでは、このようにして発現するA層のレターデーションと、B層で発現するレターデーションとが合成されて、本発明の複層フィルムの全体としての所望のレターデーションが生じる。したがって、A層の膜厚は、本発明の複層フィルムに発現させようとする具体的なレターデーションに応じて適切な値を設定すればよい。
【0045】
〔1−3.他の層〕
本発明の複層フィルムは、本発明の効果を著しく損なわない限り、A層及びB層以外にも、他の層を設けてもよい。
例えば、本発明の複層フィルムは、その表面に、フィルムの滑り性を良くするマット層、フィルムの表面の傷付きを防止するハードコート層、フィルム表面での光の反射を抑制する反射防止層、汚れの付着を防止する防汚層等を備えていてもよい。
【0046】
〔1−4.複層フィルムの物性等〕
本発明の複層フィルムは、光学部材としての機能を安定して発揮させる観点から、全光線透過率が85%以上であることが好ましい。光線透過率は、JIS K0115に準拠して、分光光度計(日本分光社製、紫外可視近赤外分光光度計「V−570」)を用いて測定できる。
【0047】
本発明の複層フィルムのヘイズは、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下、特に好ましくは1%以下である。ヘイズを低い値とすることにより、本発明の複層フィルムを組み込んだ表示装置の表示画像の鮮明性を高めることができる。ここで、ヘイズは、JIS K7361−1997に準拠して、日本電色工業社製「濁度計 NDH−300A」を用いて、5箇所測定し、それから求めた平均値である。
【0048】
本発明の複層フィルムは、ΔYIが5以下であることが好ましく、3以下であることがより好ましい。このΔYIが上記範囲にあると、着色がなく視認性が良好となる。ΔYIは、ASTM E313に準拠して、日本電色工業社製「分光色差計 SE2000」を用いて測定する。同様の測定を五回行い、その算術平均値にして求める。
【0049】
本発明の複層フィルムが位相差フィルムである場合、本発明の複層フィルムは位相差フィルムとしての用途に応じて所望のレターデーションを有することが好ましい。例えば液晶表示装置用の位相差フィルムとして用いる場合、本発明の複層フィルムは、入射角0°におけるレターデーションReと、入射角40°におけるレターデーションR40とが、0.92≦R40/Re≦1.08の関係を満たすことが好ましい。中でも、R40/Reは0.95以上であることが好ましく、また1.05以下であることが好ましい。ReとR40とがこのような関係を有することにより、本発明の複層フィルムを液晶表示装置などの表示装置に適用した際、装置の表示の色調の角度依存性を特に良好に低減することができる。
【0050】
ここで、入射角0°とは複層フィルムの主面の法線方向であり、入射角40°とは複層フィルムの主面の法線方向から40°傾いた角度である。R40の測定にあたり、観察角度を傾ける方向は特に限定されず、どれか一の方向に傾けた場合のR40の値が当該要件を満たせばよい。
また、レターデーションRe及びR40の測定波長は、可視光線領域内のいずれの波長としてもよいが、好ましくは590nmである。
【0051】
前記の入射角0°及び40°におけるレターデーションRe及びR40は、王子計測器社製KOBRA−WRを用いて、平行ニコル回転法により測定することができる。ReとR40とが前記の関係を満たす場合、複層フィルムの面内の主軸方向の屈折率nx及びny並びに厚み方向の屈折率nzは、通常、nx>nz>nyを満たす。ここで、屈折率nx、nzおよびnyは、本発明の複層フィルムに含まれる各層の各方向の屈折率の加重平均naveであり、i層の樹脂の屈折率をni、i層の膜厚をLiとして、次式により決定される。
ave=Σ(ni×Li)/ΣLi
【0052】
本発明の複層フィルムが位相差フィルムである場合、本発明の複層フィルムの入射角0°におけるレターデーションReが、50nm以上であることが好ましく、100nm以上であることがより好ましく、また、400nm以下であることが好ましく、350nm以下であることがより好ましい。
【0053】
本発明の複層フィルムの外表面は、MD方向(machine direction;製造ラインにおけるフィルムの流れ方向であり、通常は長尺のフィルムの長尺方向に一致する。また、縦方向ともいう。)に伸びる不規則に生じる線状凹部や線状凸部(いわゆるダイライン)を実質的に有さず、平坦であることが好ましい。ここで、「不規則に生じる線状凹部や線状凸部を実質的に有さず、平坦」とは、仮に線状凹部や線状凸部が形成されたとしても、深さが50nm未満もしくは幅が500nmより大きい線状凹部、および高さが50nm未満もしくは幅が500nmより大きい線状凸部であることである。より好ましくは、深さが30nm未満もしくは幅が700nmより大きい線状凹部であり、高さが30nm未満もしくは幅が700nmより大きい線状凸部である。このような構成とすることにより、線状凹部や線状凸部での光の屈折等に基づく、光の干渉や光漏れの発生を防止でき、光学性能を向上できる。なお、不規則に生じるとは、意図しない位置に意図しない寸法、形状等で形成されるということである。
【0054】
上述した線状凹部の深さや、線状凸部の高さ、及びこれらの幅は、次に述べる方法で求めることができる。複層フィルムに光を照射して、透過光をスクリーンに映し、スクリーン上に現れる光の明又は暗の縞の有る部分(この部分は線状凹部の深さ及び線状凸部の高さが大きい部分である。)を30mm角で切り出す。切り出したフィルム片の表面を三次元表面構造解析顕微鏡(視野領域5mm×7mm)を用いて観察し、これを3次元画像に変換し、この3次元画像から断面プロファイルを求める。断面プロファイルは視野領域で、1mm間隔で求める。
この断面プロファイルに、平均線を引き、この平均線から線状凹部の底までの長さが線状凹部深さ、また平均線から線状凸部の頂までの長さが線状凸部高さとなる。平均線とプロファイルとの交点間の距離が幅となる。これら線状凹部深さ及び線状凸部高さの測定値からそれぞれ最大値を求め、その最大値を示した線状凹部又は線状凸部の幅をそれぞれ求める。以上から求められた線状凹部深さ及び線状凸部高さの最大値、その最大値を示した線状凹部の幅及び線状凸部の幅を、そのフィルムの線状凹部の深さ、線状凸部の高さ及びそれらの幅とする。
【0055】
本発明の複層フィルムは、60℃、90%RH、100時間の熱処理によって、MD方向およびTD方向(traverse direction;フィルム面に平行な方向でありMD方向に直交する方向。通常は幅方向に一致する。また、横方向ともいう。)において収縮するものであってもよいが、その収縮率は、好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.3%以下である。収縮率がこのように小さいことにより、高温高湿環境下でも本発明の複層フィルムが収縮応力によって変形して、表示装置から剥離することを防止できる。
【0056】
本発明の複層フィルムは、そのTD方向の寸法を、例えば1000mm〜2000mmとしてもよい。また、本発明の複層フィルムは、そのMD方向の寸法に制限は無いが、長尺のフィルムであることが好ましい。ここで「長尺」のフィルムとは、フィルムの幅に対して、少なくとも5倍以上の長さを有するものをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するものをいう。
【0057】
本発明の複層フィルムの具体的な厚みは、用途に応じて要求されるフィルム強度及び発現させるレターデーションの大きさなどに応じて設定すればよいが、10μm以上が好ましく、30μm以上がより好ましく、また、200μm以下が好ましく、150μm以下がより好ましい。
【0058】
〔2.複層フィルムの製造方法〕
〔2−1.共押し出し法〕
本発明の複層フィルムの製造方法に制限は無く、例えば、共押出Tダイ法、共押出インフレーション法、共押出ラミネーション法等の共押し出し法;ドライラミネーション等のフィルムラミネーション成形法;共流延法;樹脂フィルム表面に樹脂溶液をコーティングする等のコーティング成形法;などの方法により製造してもよい。中でも、共押し出し法は、製造効率や、フィルム中に溶剤などの揮発性成分を残留させないという観点から、好ましい。
【0059】
共押し出し法を採用する場合、複層フィルムは、例えば、固有複屈折値が正の樹脂aと、固有複屈折値が負の樹脂bとを共押し出しすることにより得られる。共押し出し法には、例えば、共押出Tダイ法、共押出インフレーション法、共押出ラミネーション法等が挙げられるが、なかでも共押出Tダイ法が好ましい。また、共押出Tダイ法にはフィードブロック方式およびマルチマニホールド方式があるが、厚みのばらつきを少なくできる点でマルチマニホールド方式が特に好ましい。
【0060】
共押出Tダイ法を採用する場合、Tダイを有する押出機における樹脂の溶融温度は、樹脂a及び樹脂bのガラス転移温度よりも、80℃高い温度以上にすることが好ましく、100℃高い温度以上にすることがより好ましく、また、180℃高い温度以下にすることが好ましく、150℃高い温度以下にすることがより好ましい。押出機での溶融温度が過度に低いと樹脂の流動性が不足するおそれがあり、逆に溶融温度が過度に高いと樹脂が劣化する可能性がある。
【0061】
共押し出し法では、通常、ダイの開口部から押し出されたフィルム状の溶融樹脂を冷却ロール(冷却ドラムともいう。)に密着させる。溶融樹脂を冷却ロールに密着させる方法は、特に制限されず、例えば、エアナイフ方式、バキュームボックス方式、静電密着方式などが挙げられる。
冷却ロールの数は特に制限されないが、通常は2本以上である。また、冷却ロールの配置方法としては、例えば、直線型、Z型、L型などが挙げられるが特に制限されない。またダイの開口部から押出された溶融樹脂の冷却ロールへの通し方も特に制限されない。
【0062】
冷却ロールの温度により、押出されたフィルム状の樹脂の冷却ロールへの密着具合が変化する。冷却ロールの温度を上げると密着はよくなるが、温度を上げすぎるとフィルム状の樹脂が冷却ロールから剥がれずに、ドラムに巻きつく不具合が発生するおそれがある。そのため、冷却ロールの温度は、ダイから押し出されてドラムに接触する層の樹脂のガラス転移温度をTgとすると、好ましくは(Tg+30)℃以下、さらに好ましくは(Tg−5)℃〜(Tg−45)℃の範囲にする。そうすることにより滑りやキズなどの不具合を防止することができる。
【0063】
また、複層フィルム中の残留溶剤の含有量は少なくすることが好ましい。そのための手段としては、(1)原料となる樹脂a及び樹脂bに含まれる残留溶剤を少なくする;(2)複層フィルムを成形する前に樹脂a及び樹脂bを予備乾燥する;などの手段が挙げられる。予備乾燥は、例えば樹脂a及び樹脂bをペレットなどの形態にして、熱風乾燥機などで行われる。乾燥温度は100℃以上が好ましく、乾燥時間は2時間以上が好ましい。予備乾燥を行うことにより、複層フィルム中の残留溶剤を低減させる事ができ、さらに押し出されたフィルム状の樹脂の発泡を防ぐことができる。
【0064】
〔2−2.位相差フィルムの製造方法〕
本発明の複層フィルムとしてReとR40とが0.92≦R40/Re≦1.08の関係を満たす位相差フィルムを製造する場合、通常は、樹脂bと樹脂aとを共押し出しして所定の延伸前フィルムを得る共押出工程と、前記延伸前フィルムに所定の温度で一方向に一軸延伸処理を行う第一延伸工程と、前記第一延伸工程で一軸延伸処理を行った方向と直交する方向に、第一延伸工程とは異なる所定の温度で一軸延伸処理を行う第二延伸工程とを有する製造方法により、位相差フィルムを製造する。以下、この製造方法を詳しく説明する。
【0065】
・共押出工程
共押出工程では、樹脂bと樹脂aとを共押し出しして所定の延伸前フィルムを製造する。当該延伸前フィルムに延伸処理を施すことにより位相差フィルムを製造するのであるから、延伸前フィルムは、樹脂bからなるB層と、B層の両面に形成された樹脂aからなるA層とを備える。したがって、延伸前フィルムは、本発明の複層フィルムに該当する。
【0066】
延伸前フィルムは、温度T1及びT2という異なる角度で互いに略直交する異なる角度に延伸することにより、A層及びB層のそれぞれにおいて温度T1及びT2並びに延伸方向に応じてレターデーションを発現する。このようにして、A層に生じたレターデーションとB層に生じたレターデーションとが合成されて、位相差フィルム全体として所望のレターデーションが発現する。なお、「略直交する」とは、通常85°以上、好ましくは89°以上、また、通常95°以下、好ましくは91°以下の角度で交差することをいう。
【0067】
延伸によりA層及びB層に発現するレターデーションの大きさは、延伸前フィルムの厚み、延伸温度、及び延伸倍率などに応じて決まる。そのため、延伸前フィルムの構成は、発現させようとするレターデーションに応じて適切に定めることが好ましい。
【0068】
延伸前フィルムの具体的な構成は様々に設定できるが、中でも、延伸前フィルムは、ある方向への延伸方向(すなわち、一軸延伸方向)をX軸、前記一軸延伸方向に対してフィルム面内で直交する方向をY軸、およびフィルム厚み方向をZ軸としたときに、フィルム面に垂直に入射しかつ電気ベクトルの振動面がXZ面にある直線偏光(以下、適宜「XZ偏光」という。)の、フィルム面に垂直に入射しかつ電気ベクトルの振動面がYZ面にある直線偏光(以下、適宜「YZ偏光」という。)に対する位相が、
温度T1でX軸方向に一軸延伸したときには遅れ、
温度T1とは異なる温度T2でX軸方向に一軸延伸したときには進む、
との要件(以下、適宜「要件P」という。)を満たすことが好ましい。
【0069】
前記の要件Pは、延伸前フィルムの面内の様々な方向のうち、少なくとも一の方向をX軸とした場合に満たせばよい。通常、延伸前フィルムは等方な原反フィルムであるので、面内の一の方向をX軸としたときに前記の要件Pを満たせば、他のどの方向をX軸としたときも前記の要件Pを満たすことができる。
【0070】
一軸延伸によってX軸に遅相軸が現れるフィルムでは、通常、XZ偏光はYZ偏光に対して位相が遅れる。逆に一軸延伸によってX軸に進相軸が現れるフィルムでは、通常、XZ偏光はYZ偏光に対して位相が進む。本発明に係る延伸前フィルムは、これらの性質を利用した複層フィルムであり、遅相軸または進相軸の現れ方が延伸温度に依存するフィルムである。このようなレターデーションの発現の温度依存性は、例えば、樹脂a及び樹脂bの光弾性係数並びに各層の膜厚比などの関係を調整することで調整できる。
【0071】
ある層の面内のレターデーションは、延伸方向であるX軸方向の屈折率nxと延伸方向に直交する方向であるY軸方向の屈折率nyとの差(=|nx−ny|)に層の膜厚dを乗じて求められる値である。また、A層とB層とを備える複層フィルムのレターデーションは、A層のレターデーションとB層のレターデーションとから合成される。そこで、例えば、高い温度Tおよび低い温度Tにおける延伸によってフィルム全体に発現するレターデーションの符号が逆になるようにするために、(i)低い温度Tにおける延伸で、ガラス転移温度の高い樹脂が発現するレターデーションの絶対値がガラス転移温度の低い樹脂が発現するレターデーションの絶対値よりも小さくなり、(ii)高い温度Tにおける延伸で、ガラス転移温度の低い樹脂が発現するレターデーションの絶対値がガラス転移温度の高い樹脂が発現するレターデーションの絶対値よりも小さくなるように、A層及びB層の膜厚を調整することが好ましい。
【0072】
このように、A層およびB層を構成する樹脂として、一方向への延伸(即ち、一軸延伸)によってA層およびB層のそれぞれにX軸方向の屈折率とY軸方向の屈折率との差を生じ得る樹脂a及び樹脂bの組み合わせを選択し、さらに延伸条件を考慮してA層の膜厚の総和とB層の膜厚の総和とを調整することで、前記の要件Pを満たす延伸前フィルムを得ることができる。
なお、温度T1は、TまたはTのいずれか一方の温度であり、温度T2は、T1とは異なるTまたはTのいずれか一方の温度である。
【0073】
前記の要件Pを満たす延伸前フィルムを延伸した場合のレターデーションの発現について、図を参照して具体的に説明する。図2は、A層を形成する樹脂aのガラス転移温度Tgが高く、B層を形成する樹脂bのガラス転移温度Tgが低いと仮定した場合に、延伸前フィルムのA層及びB層をそれぞれ延伸したときのA層及びB層それぞれのレターデーションの温度依存性と、延伸前フィルム(ここでは、A層+B層)を延伸したときの延伸前フィルムのレターデーションΔの温度依存性の一例を示すものである。図2に示すような延伸前フィルムでは、温度Tにおける延伸ではA層において発現するプラスのレターデーションに比べB層において発現するマイナスのレターデーションの方が大きいので、A層+B層ではマイナスのレターデーションΔを発現することになる。一方、温度Tにおける延伸ではA層において発現するプラスのレターデーションに比べB層において発現するマイナスのレターデーションの方が小さいので、A層+B層ではプラスのレターデーションΔを発現することになる。したがって、このような異なる温度T及びTの延伸を組み合わせることにより、各温度での延伸で生じるレターデーションを合成して、所望のレターデーションを有する位相差フィルムを製造できる。
【0074】
延伸前フィルムの構成の例を挙げると、例えば樹脂bがスチレン−無水マレイン酸共重合体を含む樹脂である場合には、A層の膜厚の総和と、B層の膜厚の総和との比(A層の膜厚の総和/B層の膜厚の総和)は、通常1/15以上、好ましくは1/10以上であり、また、通常1/4以下である。A層が厚くなり過ぎても、B層が厚くなり過ぎても、レターデーション発現の温度依存性が小さくなる傾向がある。
【0075】
延伸前フィルムの総厚は、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上、特に好ましくは30μm以上であり、好ましくは500μm以下、より好ましくは400μm以下、特に好ましくは300μm以下である。延伸前フィルムが前記範囲の下限よりも薄いと十分なレターデーションを得難くなり機械的強度も弱くなる傾向があり、前記範囲の上限よりも厚いと柔軟性が悪化し、ハンドリングに支障をきたす可能性がある。
【0076】
延伸前フィルムが備えるA層の数が2層である場合、一方のA層と他方のA層との膜厚の比(厚い方のA層の膜厚/薄い方のA層の膜厚)は、液晶表示装置において偏光板と組み合わせた場合に偏光板の光漏れを保障する観点から1.5/1以上が好ましい。また、薄い方のA層の膜厚の精度を維持する観点から、一方のA層と他方のA層との膜厚の比は10/1以下が好ましい。
【0077】
延伸前フィルムにおいて、A層およびB層の膜厚のばらつきは全面で1μm以下であることが好ましい。これにより、位相差フィルムのA層及びB層においても膜厚のばらつきを全面で1μm以下にして、当該位相差フィルムを備える表示装置の色調のばらつきを小さくできる。また、位相差フィルムの長期使用後の色調変化を均一にできるようになる。
【0078】
前記のようにA層およびB層の膜厚のばらつきを全面で1μm以下とするために、例えば、(1)押出機内に目開きが20μm以下のポリマーフィルターを設ける;(2)ギヤポンプを5rpm以上で回転させる;(3)ダイ周りに囲い手段を配置する;(4)エアギャップを200mm以下とする;(5)フィルムを冷却ロール上にキャストする際にエッジピニングを行う;および(6)押出機として二軸押出機又はスクリュー形式がダブルフライト型の単軸押出機を用いる;を行ってもよい。さらに、例えば後述する実施形態のように製造途中でA層及びB層の膜厚を測定し、その膜厚に基づくフィードバック制御を行うことによっても、A層およびB層の膜厚のばらつきを小さくすることができる。
【0079】
A層およびB層の膜厚のばらつきは、フィルムのMD方向及びTD方向において一定間隔毎に膜厚の測定を行い、その測定値の算術平均値Taveを基準とし、測定した膜厚Tの内の最大値をTmax、最小値をTminとして、以下の式から算出する。なお、膜厚のばらつき(μm)は、Tave−Tmin、及びTmax−Taveのうちの大きい方をいう。
【0080】
上述した延伸前フィルムは、共押し出し法により製造することが好ましい。共押し出し法については、上述したとおりである。
また、延伸前フィルムとしては、通常、等方性の原反フィルムを用いるが、一旦延伸処理を施したフィルムを延伸前フィルムとし、これにさらに延伸処理を施してもよい。
【0081】
・第一延伸工程
第一延伸工程では、延伸前フィルムに温度T1またはT2のいずれかの温度で一方向に一軸延伸処理を行う。温度T1で延伸すると、要件Pを満たす延伸前フィルムにおいては、XZ偏光のYZ偏光に対する位相が遅れる。一方、温度T2で一軸延伸したときには、XZ偏光のYZ偏光に対する位相が進む。
【0082】
ガラス転移温度の関係がTg>Tgであるとき、温度T1は、Tgより高いことが好ましく、Tg+5℃より高いことがより好ましく、また、Tg+40℃より低いことが好ましく、Tg+20℃より低いことがより好ましい。温度T1を前記範囲の下限より高くすることによりB層において所望のレターデーションを安定して発現させることができ、上限より低くすることによりA層において所望のレターデーションを安定して発現させることができる。
さらに、ガラス転移温度の関係がTg>Tgであるとき、温度T2は、Tg−20℃より高いことが好ましく、Tg−10℃より高いことがより好ましく、また、Tg+5℃より低いことが好ましく、Tgより低いことが好ましい。温度T2を前記範囲の下限よりも高くすることにより延伸時に延伸前フィルムが破断したり白濁したりすることを防止でき、上限より低くすることにより樹脂Bにおいて所望のレターデーションを安定して発現させることができる。
このようにガラス転移温度の関係がTg>Tgである場合、第一延伸工程においては温度T1で行うことが好ましい。
【0083】
ガラス転移温度の関係がTg>Tgであるとき、温度T1は、Tgより高いことが好ましく、Tg+5℃より高いことがより好ましく、また、Tg+40℃より低いことが好ましく、Tg+20℃より低いことがより好ましい。温度T1を前記範囲の下限より高くすることによりA層において所望のレターデーションを安定して発現させることができ、上限より低くすることによりB層において所望のレターデーションを安定して発現させることができる。
さらに、ガラス転移温度の関係がTg>Tgであるとき、温度T2は、Tg−20℃より高いことが好ましく、Tg−10℃より高いことがより好ましく、また、Tg+5℃より低いことが好ましく、Tgより低いことが好ましい。温度T2を前記範囲の下限よりも高くすることにより延伸時に延伸前フィルムが破断したり白濁したりすることを防止でき、上限より低くすることにより樹脂Aにおいて所望のレターデーションを安定して発現させることができる。
このようにガラス転移温度の関係がTg>Tgである場合、第一延伸工程においては温度T2で行うことが好ましい。
【0084】
一軸延伸処理は、従来公知の方法で行うことができる。例えば、ロール間の周速の差を利用してMD方向に一軸延伸する方法や、テンターを用いてTD方向に一軸延伸する方法等が挙げられる。MD方向に一軸延伸する方法としては、例えば、ロール間でのIR加熱方式や、フロート方式等が挙げられる。中でも光学的な均一性が高い位相差フィルムが得られる点からフロート方式が好適である。一方、TD方向に一軸延伸する方法としては、テンター法が挙げられる。
【0085】
一軸延伸処理では、延伸ムラや厚みムラを小さくするために、延伸ゾーンにおいてTD方向に温度差がつくようにしてもよい。延伸ゾーンにおいてTD方向に温度差をつけるには、例えば、温風ノズルの開度をTD方向で調整したり、IRヒーターをTD方向に並べて加熱制御したりするなど、公知の手法を用いることができる。
【0086】
・第二延伸工程
第一延伸工程を行った後で第二延伸工程を行う。第二延伸工程では、第一延伸工程で一方向に延伸したフィルムに、第一延伸工程で一軸延伸処理を行った方向と直交する方向に一軸延伸処理を行う。
また、第二延伸工程では、第一延伸工程とは異なる温度T2またはT1で一軸延伸処理を行う。第二延伸工程において、ガラス転移温度の関係がTg>Tgであるとき温度T2で一軸延伸処理を行うことが好ましく、Tg>Tgであるとき温度T1で一軸延伸処理を行うことが好ましい。
【0087】
温度T1と温度T2との差は、通常5℃以上、好ましくは10℃以上である。温度T1と温度T2との差を前記のように大きくすることで、位相差フィルムに所望のレターデーションを安定して発現させることができる。なお、温度T1と温度T2との差の上限に制限は無いが、工業生産性の観点からは100℃以下である。
【0088】
第二延伸工程での一軸延伸処理は、第一延伸工程での一軸延伸処理で採用できる方法と同様の方法が適用できる。ただし第二延伸工程での一軸延伸処理は、第一延伸工程での一軸延伸処理よりも小さい延伸倍率で行うことが好ましい。具体的には、第一延伸倍率は2倍〜4倍、第二延伸倍率は1.1倍〜2倍であることが好ましい。
【0089】
第一延伸工程及び第二延伸工程における延伸方向の組み合わせは、例えば、第一延伸工程でMD方向に延伸し第二延伸工程でTD方向に延伸したり、第一延伸工程でTD方向に延伸し第二延伸工程でMD方向に延伸したり、第一延伸工程で斜め方向に延伸し第二延伸工程でそれに略直交する斜め方向に延伸したりすればよい。中でも、第一延伸工程でTD方向に延伸し、第二延伸工程でMD方向に延伸することが好ましい。延伸倍率が小さい第二延伸工程での延伸をMD方向に行うようにすることで、得られる位相差フィルムの全幅にわたって光軸の方向のバラツキを小さくできるからである。
【0090】
上述したように延伸前フィルムに対して第一延伸工程と第二延伸工程とを行うことにより、第一延伸工程及び第二延伸工程のそれぞれにおいてA層及びB層に延伸温度、延伸方向及び延伸倍率等に応じたレターデーションが生じる。このため、第一延伸工程と第二延伸工程とを経て得られる位相差フィルムでは、第一延伸工程及び第二延伸工程のそれぞれにおいてA層及びB層に発現したレターデーションが合成されることにより、所望のレターデーションが生じることになる。
【0091】
また、A層及びB層を備える延伸前フィルムを共延伸することにより、別々に延伸したA層及びB層を貼り合せて位相差フィルムを製造する場合に比べて、製造工程を短縮し、製造コストを低減することができる。また、固有複屈折値が負の樹脂bからなるB層は、単独では延伸しにくく、延伸ムラや破断などが生ずる場合があるが、A層と積層することにより、安定して共延伸することが可能となり、かつB層の厚みむらを小さくすることができる。
【0092】
・その他の工程
上述した位相差フィルムの製造方法においては、共押出工程、第一延伸工程及び第二延伸工程以外にその他の工程を行うようにしてもよい。
例えば、延伸前フィルムを延伸する前に、延伸前フィルムを予め加熱する工程(予熱工程)を設けてもよい。延伸前フィルムを加熱する手段としては、例えば、オーブン型加熱装置、ラジエーション加熱装置、又は液体中に浸すことなどが挙げられる。中でもオーブン型加熱装置が好ましい。予熱工程における加熱温度は、通常は延伸温度−40℃以上、好ましくは延伸温度−30℃以上であり、通常は延伸温度+20℃以下、好ましくは延伸温度+15℃以下である。なお延伸温度とは、加熱装置の設定温度を意味する。
【0093】
また、例えば第一延伸工程及び第二延伸工程の一方又は両方の後に、延伸したフィルムを固定処理してもよい。固定処理における温度は、通常は室温以上、好ましくは延伸温度−40℃以上であり、通常は延伸温度+30℃以下、好ましくは延伸温度+20℃以下である。
【0094】
さらに、例えば、得られた位相差フィルムの表面に、例えばマット層、ハードコート層、反射防止層、防汚層等を設ける工程を行ってもよい。
【0095】
〔3.液晶表示装置〕
本発明の複層フィルムによればレターデーションを精密に制御した位相差フィルムが実現できるので、複屈折の高度な補償が可能である。このため、例えば本発明の複層フィルムは、それ単独で、あるいは他の部材と組み合わせて、液晶表示装置、有機エレクトロルミネッセンス表示装置、プラズマ表示装置、FED(電界放出)表示装置、SED(表面電界)表示装置等の表示装置に適用してもよい。
【0096】
液晶表示装置は、通常、それぞれの吸収軸が略直交する一対の偏光子(光入射側偏光板及び光出射側偏光板)と、前記一対の偏光子の間に設けられた液晶セルとを備える。液晶表示装置に本発明の複層フィルムを位相差フィルムとして設ける場合、例えば、前記の一対の偏光子の間に本発明の複層フィルムを設けてもよい。この際、本発明の複層フィルムは、液晶セルよりも光入射側に設けてもよく、液晶セルよりも光出射側に設けてもよい。
【0097】
通常、前記の一対の偏光子、本発明の複層フィルム及び液晶セルは組み合わせられて液晶パネルという単一の部材とされ、この液晶パネルに光源から光を照射して液晶パネルの光出射側に存在する表示面に画像が表示されるようになっている。この際、本発明の複層フィルムはレターデーションを精密に制御されているので優れた偏光板補償機能を発揮し、液晶表示装置の表示面を斜めから見た場合の光漏れを低減することが可能である。また、本発明の複層フィルムは、通常、偏光板補償機能以外にも優れた光学的機能を有するため、液晶表示装置の視認性を更に向上させることが可能である。
【0098】
液晶セルの駆動方式としては、例えば、インプレーンスイッチング(IPS)方式、バーチカルアラインメント(VA)方式、マルチドメインバーチカルアラインメント(MVA)方式、コンティニュアスピンホイールアラインメント(CPA)方式、ハイブリッドアラインメントネマチック(HAN)方式、ツイステッドネマチック(TN)方式、スーパーツイステッドネマチック(STN)方式、オプチカルコンペンセイテッドベンド(OCB)方式などが挙げられる。中でもインプレーンスイッチング方式及びバーチカルアラインメント方式が好ましく、インプレーンスイッチング方式が特に好ましい。インプレーンスイッチング方式の液晶セルは視野角が広いが、本発明の複層フィルムを位相差フィルムとして適用することにより視野角を更に広げることが可能である。
【0099】
本発明の複層フィルムは、液晶セルまたは偏光板に貼り合わせてもよい。例えば、複層フィルムを偏光板の両面に貼り合わせてもよいし、片面にのみ貼り合わせてもよい。貼り合わせには公知の接着剤を用い得る。
また、本発明の複層フィルムは、1枚を単独で用いてもよく、2枚以上を組み合わせて用いてもよい。
さらに、本発明の複層フィルムを表示装置に設ける場合、更に別の位相差フィルムと組み合わせて用いてもよい。例えば本発明の複層フィルムをバーチカルアラインメント方式の液晶セルを備える液晶表示装置に位相差フィルムとして設ける場合、一対の偏光子の間に、本発明の複層フィルムに加えて視野角特性を改善するための別の位相差フィルムを設けてもよい。
【0100】
〔4.その他〕
本発明の複層フィルムは、例えば、1/4波長板として用いてもよい。この場合、本発明の複層フィルムの面内のレターデーションを120nm〜160nmとすることによって本発明の複層フィルムを1/4波長板とし、この1/4波長板を直線偏光子と組み合わせれば、円偏光板を得ることができる。この際、1/4波長板の遅相軸と直線偏光子の吸収軸とがなす角度は45°±2°にすることが好ましい。
【0101】
また、本発明の複層フィルムは偏光板において保護フィルムとして用いてもよい。偏光板は、通常、偏光子とその両面に貼り合わせられた保護フィルムとを備える。この際、保護フィルムに代えて、本発明の複層フィルムを偏光子に貼り合わせ、複層フィルムを保護フィルムとして用いてもよい。この場合、保護フィルムが省略されるので、液晶表示装置の薄型化、軽量化、低コスト化を実現できる。
【実施例】
【0102】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。なお、以下の説明において、量を表す部および%は、特に断らない限り重量基準である。
【0103】
〔評価方法〕
(1)ガラス転移温度(Tg)の測定
JIS K7121に準拠して、示差走査熱量測定(DSC)により、昇温速度10℃/minで測定して中間点ガラス転移温度を測定した。
【0104】
(2)レターデーションの測定
平行ニコル回転法(王子計測機器社製、KOBRA−WR)を用いて、波長590nmの光に関して、入射角0°におけるレターデーションRe、入射角40°におけるレターデーションR40、およびフィルム長手方向に対する遅相軸の角度を測定した。
【0105】
(3)ヘイズの測定
JIS K7136によりヘイズを測定した。
【0106】
(4)層間接着力の測定
JIS K6854−1により、50mm/分のつかみ移動速度で、A層とB層との剥離接着強さを測定し、層間接着力の指標とした。
【0107】
(5)耐屈曲性の測定
JIS K5600−5−1に基づき、複層フィルムの耐屈曲性を測定した。値が小さいほど、耐屈曲性に優れることを表す。
【0108】
〔実施例1〕
ポリカーボネート樹脂(旭化成社製、ワンダーライトPC−115、ガラス転移温度145℃)のペレット100.0重量部、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂(旭化成社製、スタイラックAS767)のペレット11.1重量部を、二軸押出機にて溶融混錬し、ガラス転移温度が110℃および141℃の混合樹脂1のペレットを得た。この混合樹脂1は、固有複屈折値が正の樹脂aに相当する。
【0109】
次いで、二種二層の共押出成形用のフィルム成形装置を準備し、混合樹脂1のペレットを、ダブルフライト型のスクリューを備えた一方の一軸押出機に投入して、溶融させた。
スチレン・無水マレイン酸共重合体樹脂(Nova Chemicals社製、Dylark D332、ガラス転移点135℃)のペレットをダブルフライト型のスクリューを備えたもう一方の一軸押出機に投入して、溶融させた。
【0110】
溶融された260℃の混合樹脂1を目開き10μmのリーフディスク形状のポリマーフィルターを通してマルチマニホールドダイ(ダイスリップの表面粗さRa:0.1μm)の一方のマニホールドに、溶融された260℃のスチレン・無水マレイン酸共重合体樹脂を目開き10μmのリーフディスク形状のポリマーフィルターを通してもう一方のマニホールドに、それぞれ供給した。
【0111】
混合樹脂1およびスチレン・無水マレイン酸共重合体樹脂を該マルチマニホールドダイから260℃で同時に押し出しフィルム状に成形した。成形されたフィルム状溶融樹脂を表面温度130℃に調整された冷却ロールにキャストし、次いで表面温度50℃に調整された2本の冷却ロール間に通して、混合樹脂1からなる層(A層:厚さ30μm)と、スチレン・無水マレイン酸共重合体樹脂からなる層(B層:厚さ180μm)とからなる、幅1350mmで且つ厚さ210μmの積層体1を得た。この積層体1は、本発明の複層フィルムに該当する。この積層体1のヘイズを測定したところ、0.2%であった。
【0112】
得られた積層体1を、145℃で、一の方向に1.5倍に延伸した。フィルム面に入射角0°で入射し且つ電気ベクトルの振動面がXZ面にある直線偏光ΨXの、フィルム面に入射角0°で入射し且つ電気ベクトルの振動面がYZ面にある直線偏光ΨYに対する位相が、延伸前よりも、185nm遅れた。
【0113】
また別途、得られた積層体1を、130℃で、一の方向に1.5倍に延伸した。フィルム面に入射角0°で入射し且つ電気ベクトルの振動面がXZ面にある直線偏光ΨXの、フィルム面に入射角0°で入射し且つ電気ベクトルの振動面がYZ面にある直線偏光ΨYに対する位相が、延伸前よりも、161nm進んだ。
【0114】
また別途、得られた積層体1をテンター延伸機に供給し、延伸温度155℃、延伸倍率3.0で横方向に延伸した。続いて、延伸されたフィルムを縦延伸機に供給し、延伸温度130℃、延伸倍率1.2で縦方向(前記155℃で延伸した縦方向と直交する方向)に延伸して、位相差フィルム1を得た。
得られた位相差板1は、R40/Reが1.01で、0.92≦R40/Re≦1.08の関係を満たすものであった。A層/B層間の層間接着力および耐屈曲性の評価結果を表1に示す。
【0115】
〔比較例1〕
アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂を使用せず、固有複屈折値が正の樹脂aとしてポリカーボネート樹脂(旭化成社製、ワンダーライトPC−115、ガラス転移温度145℃)のみを使用した以外は実施例1と同様にして、ポリカーボネート樹脂からなる層(A層:厚さ25μm)と、スチレン・無水マレイン酸共重合体樹脂からなる層(B層:厚さ180μm)とからなる、幅1350mmで且つ厚さ205μmの積層体2を得た。この積層体2のヘイズを測定したところ、0.2%であった。
【0116】
この積層体2を実施例1と同様にして145℃または130℃で一の方向に1.5倍に延伸したときの、フィルム面に入射角0°で入射し且つ電気ベクトルの振動面がXZ面にある直線偏光ΨXの、フィルム面に入射角0°で入射し且つ電気ベクトルの振動面がYZ面にある直線偏光ΨYに対する位相の変化を表1に示した。
【0117】
また別途、積層体2を実施例1と同様にして逐次二軸延伸を行い、位相差フィルム2を得た。得られた位相差板2は、R40/Reが1.03で、0.92≦R40/Re≦1.08の関係を満たすものであった。A層/B層間の層間接着力および耐屈曲性の評価結果を表1に示す。
【0118】
〔比較例2〕
ポリカーボネート樹脂(旭化成社製、ワンダーライトPC−115、ガラス転移温度145℃)のペレット100.0重量部、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂(旭化成社製、スタイラックAS767、ガラス転移温度?℃)のペレット42.9重量部を、二軸押出機にて溶融混錬し、ガラス転移温度が112℃、140℃の混合樹脂2のペレットを得た。この混合樹脂2は、固有複屈折値が正の樹脂aに相当する。
【0119】
混合樹脂1に代えて得られた混合樹脂2を用いた以外は実施例1と同様にして、混合樹脂2からなる層(A層:厚さ35μm)と、スチレン・無水マレイン酸共重合体樹脂からなる層(B層:厚さ180μm)とからなる、幅1350mmで且つ厚さ215μmの積層体3を得た。この積層体3のヘイズを測定したところ、5.2%であった。
【0120】
この積層体3を実施例1と同様にして145℃または130℃で一の方向に1.5倍に延伸したときの、フィルム面に入射角0°で入射し且つ電気ベクトルの振動面がXZ面にある直線偏光ΨXの、フィルム面に入射角0°で入射し且つ電気ベクトルの振動面がYZ面にある直線偏光ΨYに対する位相の変化を表1に示した。
【0121】
また別途、積層体3を実施例1と同様にして逐次二軸延伸を行い、位相差フィルム3を得た。得られた位相差板2は、R40/Reが1.02で、0.92≦R40/Re≦1.08の関係を満たすものであった。A層/B層間の層間接着力および耐屈曲性の評価結果を表1に示す。
【0122】
【表1】

【0123】
以上の実施例および比較例より明らかなように、本発明の複層フィルムは、ヘイズが小さく透明性に優れることが分かる。また、該複層フィルムを延伸することで、入射角0°におけるレターデーションReと、入射角40°におけるレターデーションR40とが、0.92≦R40/Re≦1.08の関係を満たす位相差フィルムを容易に得ることができる。そして、該位相差フィルムは、層間接着力と耐屈曲性に優れることが分かる。一方、固有複屈折値が正である樹脂として不飽和ニトリル−スチレン共重合体を含まない樹脂を用いると、層間接着力および耐屈曲性が不十分であった。また、不飽和ニトリル−スチレン共重合体の含有量が過剰であると、ヘイズが高く透明性に劣るものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固有複屈折値が負である樹脂bからなる層(B層)の少なくとも一方の面に固有複屈折値が正である樹脂aからなる層(A層)を備える複層フィルムであって、
樹脂bがスチレン系重合体を含み、
樹脂aがポリカーボネートおよび不飽和ニトリル−スチレン共重合体を含み、
樹脂a中の不飽和ニトリル−スチレン共重合体の含有量が4重量%以上20重量%以下であることを特徴とする複層フィルム。
【請求項2】
スチレン系重合体が、無水マレイン酸由来の単量体単位を含む共重合体である、請求項1に記載の複層フィルム。
【請求項3】
一軸延伸方向をX軸、一軸延伸方向に対してフィルム面内で直交する方向をY軸、およびフィルム厚さ方向をZ軸としたときに、フィルム面に垂直に入射しかつ電気ベクトルの振動面がXZ面にある直線偏光の、フィルム面に垂直に入射しかつ電気ベクトルの振動面がYZ面にある直線偏光に対する位相が、温度T1でX軸方向に一軸延伸したときには遅れ、温度T1とは異なる温度T2でX軸方向に一軸延伸したときには進む、請求項1または2に記載の複層フィルム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の複層フィルムの製造方法であって、
スチレン系重合体を含み、固有複屈折値が負の樹脂bと、
ポリカーボネートおよび不飽和ニトリル−スチレン共重合体を含み、不飽和ニトリル−スチレン共重合体の含有量が4重量%以上20重量%以下である固有複屈折値が正の樹脂aと、
を共押し出しすることを含む、複層フィルムの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の複層フィルムを延伸してなる、位相差フィルム。
【請求項6】
入射角0°におけるレターデーションReと、入射角40°におけるレターデーションR40とが、0.92≦R40/Re≦1.08の関係を満たす、請求項5に記載の位相差フィルム。
【請求項7】
請求項6に記載の位相差フィルムの製造方法であって、
固有複屈折値が負の樹脂bと固有複屈折値が正の樹脂aとを共押し出しして、一軸延伸方向をX軸、一軸延伸方向に対してフィルム面内で直交する方向をY軸、およびフィルム厚み方向をZ軸としたときに、フィルム面に垂直に入射しかつ電気ベクトルの振動面がXZ面にある直線偏光の、フィルム面に垂直に入射しかつ電気ベクトルの振動面がYZ面にある直線偏光に対する位相が、温度T1でX軸方向に一軸延伸したときには遅れ、温度T1とは異なる温度T2でX軸方向に一軸延伸したときには進む、延伸前フィルムを得る共押出工程と、
前記延伸前フィルムに、温度T1またはT2のいずれかの温度で一方向に一軸延伸処理を行う第一延伸工程と、
前記第一延伸工程で一軸延伸処理を行った方向と直交する方向に、前記と異なる温度T2またはT1で一軸延伸処理を行う第二延伸工程とを有し、
樹脂bがスチレン系重合体を含み、
樹脂aがポリカーボネートおよび不飽和ニトリル−スチレン共重合体を含み、
樹脂a中の不飽和ニトリル−スチレン共重合体の含有量が4重量%以上20重量%以下である、位相差フィルムの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−11725(P2013−11725A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−144153(P2011−144153)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】