説明

複数エンジンの推進装置

【課題】2基のエンジンのうちの一方のエンジンが出力低下しても、残る他方のエンジンとの同調を単一のレギュレータレバーによって図ることができる複数エンジンの推進装置を提供する。
【解決手段】2基のエンジンに対しそれぞれ個別に接続された軸端にスクリュー6,7を有する推進軸4c,5cと、各エンジンの推進軸の回転量を同調させて調整する単一のレギュレータレバー16と、各エンジンのうちの一方のエンジンが出力低下したとき、その出力低下しているエンジンの推進軸の回転量に対し残る他方のエンジンの推進軸の回転量を同調する回転量まで低下させるように制御するコントローラとを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のエンジンに対し推進軸がそれぞれ個別に接続された複数エンジンの推進装置に関し、詳しくは、少なくとも1つのエンジンが出力低下したときの残るエンジンとの同調を図る対策に係わる。
【背景技術】
【0002】
従来より、船舶などに搭載される複数エンジンにあっては、その各エンジンに対し軸端にスクリューを有する推進軸がそれぞれ個別に接続され、各エンジンの推進軸の回転量を単一のレギュレータレバーにより同調させて調整するようにしているものは知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−128388号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、複数のエンジンのうちの少なくとも1つのエンジンが燃料噴射弁による燃料噴射不具合などによって出力低下すると、その出力低下しているエンジンの推進軸の回転量が減少し、残る他の正常なエンジンの推進軸の回転量との間に回転差が生じることになる。その場合、上記従来のものでは、各エンジンの推進軸の回転量を単一のレギュレータレバーにより同調させて調整するようにしているため、複数エンジンの同調を図ることができない。
【0004】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、複数のエンジンのうちの少なくとも1つのエンジンが出力低下しても、残る他のエンジンとの同調を単一のレギュレータレバーによって図ることができる複数エンジンの推進装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明では、複数エンジンの推進装置として、複数のエンジンに対しそれぞれ個別に接続された軸端にスクリューを有する推進軸と、上記各エンジンの推進軸の回転量を同調させて調整する単一のレギュレータレバーと、上記各エンジンのうちの少なくとも1つのエンジンが出力低下したとき、その出力低下しているエンジンの推進軸の回転量に対し残る他のエンジンの推進軸の回転量を同調する回転量まで低下させるように制御する制御手段とを設けている。
【0006】
この特定事項により、エンジンのうちの少なくとも1つのエンジンが出力低下したとき、その出力低下しているエンジンの推進軸の回転量に同調する回転量まで残る他のエンジンの推進軸の回転量を低下させるように制御しているので、各エンジンのうちの少なくとも1つのエンジンが燃料噴射弁による燃料噴射不具合などによって出力低下して推進軸の回転量が減少しても、残る他の正常なエンジンの推進軸の回転量との間に回転差が生じることはなく、複数エンジンの同調を単一のレギュレータレバーによって図ることが可能となる。
【0007】
更に、出力低下しているエンジンの出力がさらに低下して推進力が得られなくなったとき、そのエンジンの推進軸の回転量に対し残る他のエンジンの推進軸の回転量を同調させる制御を解除し、残る他のエンジンの推進軸の回転量のみをレギュレータレバーにより調整させるようにしている場合には、さらなる出力低下によって推進力が得られなくなったエンジンと正常なエンジンとの無意味な同調が回避され、大幅な出力低下が否めない状況下での残る他の正常なエンジンによる出力の確保が行え、複数エンジンの性能を保持することが可能となる。
【発明の効果】
【0008】
以上、要するに、エンジンのうちの少なくとも1つのエンジンが出力低下したとき、その出力低下しているエンジンの推進軸の回転量に同調する回転量まで残る他のエンジンの推進軸の回転量を低下させるように制御することで、正常なエンジンの推進軸の回転量との間に回転差を生じさせることなく、複数エンジンの同調を単一のレギュレータレバーによって図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【0010】
図1は本発明の実施形態に係わる複数エンジンの推進装置を備えた小型船舶の外観斜視図、図2は推進装置の構成を示す図であって、図1に示すように、小型船舶1には2基の右側および左側エンジン2,3が装備されている。
【0011】
図2において、推進装置Aは、右側および左側エンジン2,3、及びセイルドライブにそれぞれ構成された右側および左側動力伝達装置4,5を有しており、その両動力伝達装置4,5の推進軸4c,5cには左側および右側スクリュー6,7がそれぞれ個別に接続されている。上記左側エンジン2からの駆動力は左側動力伝達装置4により減速されながら左側スクリュー6に伝達され、その結果左側スクリュー6が回転駆動するようになっている。一方、上記右側エンジン3からの駆動力は右側動力伝達装置5により減速されながら右側スクリュー7に伝達され、その結果右側スクリュー7が回転駆動するようになっている。また、推進装置Aにおいては、左側および右側エンジン2,3と左側および右側動力伝達装置4,5との間に、発電機や発電機特性を有する左側および右側発電用機器8,9が介装されている。そして、左側および右側エンジン2,3により左側および右側発電用機器8,9を駆動して発電された電力は、後述する左側および右側電動機10,11の駆動用として用いたり、船内電力として供給したりするようになされている。
【0012】
次に、左側および右側エンジン2,3から左側および右側スクリュー6,7までの動力伝達経路について個別に説明する。
【0013】
まず、左側エンジン2から左側スクリュー6までの動力伝達経路について説明するに、左側エンジン2のクランク軸2aと、略水平方向に配置される左側動力伝達装置4の入力軸4aとが接続されている。左側動力伝達装置4内においては、入力軸4aは、略垂直方向に配置される伝達軸4bの上端部と、クラッチ4dを介して第1ベベルギア部4eにより連結され、伝達軸4bの下端部と推進軸4cとが第2ベベルギア部4fにより連結されている。
【0014】
左側動力伝達装置4の推進軸4cは、左側スクリュー6の駆動軸6aと接続され、推進軸4cの軸端に左側スクリュー6を有する構成となっている。そして、左側エンジン2の駆動出力は、クランク軸2aから左側動力伝達装置4の入力軸4aに伝達され、その後、クラッチ4d、伝達軸4b及び推進軸4cを通じて、左側スクリュー6の駆動軸6aに伝えられる。クラッチ4dは、入力軸4aと伝達軸4bとの連結・非連結を切り換えるとともに、入力軸4aの回転を伝達軸4bへ伝達する際に、その回転方向を切り換える機能を有している。
【0015】
また、左側動力伝達装置4の上端部には左側電動機10が設置されている。この左側電動機10の出力軸10aは、伝達軸4bと接続されている。
【0016】
上記左側発電用機器8は、例えば高周波発電機に構成されており、該発電用機器8の出力部には、左側リレー(電磁開閉器)21、左側整流機器22、左側DC/DCコンバータ23が順に接続されている。また、左側整流機器22により整流・平滑化された左側発電用機器8からの電力は、インバータ24により交流に変換され、交流電力(AC電力)として船内供給可能とされている。
【0017】
一方、右側エンジン3から右側スクリュー7までの動力伝達経路について説明するに、右側エンジン3のクランク軸3aと、略水平方向に配置される右側動力伝達装置5の入力軸5aとが接続されている。右側動力伝達装置5内においては、入力軸5aは、略垂直方向に配置される伝達軸5bの上端部と、クラッチ5dを介して第1ベベルギア部5eにより連結され、伝達軸5bの下端部と推進軸5cとが第2ベベルギア部5fにより連結されている。
【0018】
右側動力伝達装置5の推進軸5cは、右側スクリュー7の駆動軸7aと接続され、推進軸5cの軸端に右側スクリュー7を有する構成となっている。そして、右側エンジン3の駆動出力は、クランク軸3aから右側動力伝達装置5の入力軸5aに伝達され、その後、クラッチ5d、伝達軸5b及び推進軸5cを通じて、右側スクリュー7の駆動軸7aに伝えられる。クラッチ5dは、入力軸5aと伝達軸5bとの連結・非連結を切り換えるとともに、入力軸5aの回転を伝達軸5bへ伝達する際に、その回転方向を切り換える機能を有している。
【0019】
また、右側動力伝達装置5の上端部には右側電動機11が設置されている。この右側電動機11の出力軸11aは、伝達軸5bと接続されている。
【0020】
上記右側発電用機器9は、例えば高周波発電機に構成されており、該発電用機器9の出力部には、右側リレー(電磁開閉器)31、右側整流機器32、右側DC/DCコンバータ33が順に接続されている。また、右側整流機器32により整流・平滑化された右側発電用機器9からの電力は、インバータ34により交流に変換され、交流電力(AC電力)として船内供給可能とされている。
【0021】
そして、上記左側および右側DC/DCコンバータ23,33はバッテリ13に接続されており、該バッテリ13は、制御手段としてのコントローラ14を介して上記左側および右側電動機10,11に接続されている。上記左側および右側発電用機器8,9により発電された交流電力は、左側および右側整流機器22,32により整流・平滑化されて直流に変換された後、左側および右側DC/DCコンバータ23,33により所定の電圧に変圧されてバッテリ13に充電される。この左側および右側発電用機器8,9を駆動しての発電、及びバッテリ13への充電は、主に左側および右側エンジン2,3の出力の一部を用いて行うようにしている。また、左側および右側リレー21,31は、コントローラ14により開閉制御することで、左側および右側発電用機器8,9の出力を、船内へ供給するか否か、及びバッテリ13への充電を行うか否かの切り換えができるようになっている。
【0022】
上記左側および右側電動機10,11は、バッテリ13に充電された電力により駆動され、該各電動機10,11の駆動はコントローラ14により制御されている。
【0023】
そして、本発明の特徴部分として、図1にも示すように、小型船舶1のコックピット115には、左側および右側エンジン2,3の出力、つまり左側および右側動力伝達装置4,5の推進軸4c,5cの回転量を同調させて調整する単一のレギュレータレバー16が設けられている。このレギュレータレバー16は、図2に示すように、例えばP1位置からP2位置までレバー角度が操作可能に構成され、その操作されたレバー角度のデータが、該レギュレータレバー16に接続されたコントローラ14へ入力されるようになっている。そして、コントローラ15内では、レギュレータレバー16のレバー角度に対する各エンジン2,3の目標回転数が、図3に示すようにマップにて設定されている。
【0024】
また、上記コントローラ14は、上記左側および右側エンジンのうちの一方のエンジン、例えば左側のエンジン2の出力が低下(例えば2000rpmから1500rpmに低下)したとき、その出力低下している左側エンジン2の推進軸4cの回転量に対し残る他方の右側エンジン3の推進軸5cの回転量を同調する回転量まで低下させるような制御が行われるようになっている。更に、上記コントローラ14は、出力低下している上記左側エンジン2の出力がさらに低下(例えば1500rpmから500rpmまで低下)したり停止して推進力が得られなくなったとき、その左側エンジン2の推進軸4cの回転量に対し残る右側エンジン3の推進軸5cの回転量を同調させる制御を解除し、残る右側エンジン3の推進軸5cの回転量のみをレギュレータレバー16により調整させるように制御を変更することが行われるようになっている。
【0025】
したがって、上記実施形態では、左側および右側エンジン2,3のうちの一方のエンジン、例えば左側エンジン2が出力低下したとき、その出力低下している左側エンジン2の推進軸4cの回転量に同調する回転量まで残る他方の右側エンジン3の推進軸5cの回転量を低下させるように制御しているので、各エンジン2,3のうちの一方の左側エンジン2が燃料噴射弁による燃料噴射不具合などによって出力低下して推進軸4cの回転量が減少しても、残る他方の正常な右側エンジン3の推進軸5cの回転量との間に回転差が生じることはなく、左側および右側エンジン2,3の同調を単一のレギュレータレバー16によって図ることができる。
【0026】
更に、出力低下している一方の左側エンジン2の出力がさらに低下したり停止して推進力が得られなくなったとき、その左側エンジン2の推進軸4cの回転量に対し残る他方のエンジン3の推進軸5cの回転量を同調させるように低下させる制御を解除し、残る他方の右側エンジン3の推進軸5cの回転量のみをレギュレータレバー16により調整するようにしているので、さらなる出力低下や停止によって推進力が得られなくなった左側エンジン2と正常な右側エンジン3との無意味な同調が回避され、大幅な出力低下が否めない状況下での残る他方の正常な右側エンジン3による出力の確保が行え、左側および右側エンジン2,3の性能を保持することができる。
【0027】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その他種々の変形例を包含している。例えば、上記実施形態では、2基の左側および右側エンジン2,3を小型船舶1に装備した場合について述べたが、3基以上のエンジンを装備している船舶に適用できるのはもちろんである。その場合、3基以上のエンジンの推進軸の回転量は単一のレギュレータレバーによって同調して調整され、各エンジンのうちの少なくとも1つのエンジンが出力低下したとき、その出力低下しているエンジンの推進軸の回転量に対し残る他のエンジンの推進軸の回転量を同調する回転量まで低下させるように制御することがコントローラにより行われる。
【0028】
また、上記実施形態では、左側および右側動力伝達装置4,5が各エンジン2,3の下方へ大きく延出し、各動力伝達装置4,5に直接スクリュー6,7を取り付けたセイルドライブに構成したが、各動力伝達装置の後端部に、スクリューのスクリュー軸が装着されるマリンギアに構成されていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態に係わる複数エンジンの推進装置を備えた小型船舶の外観斜視図である。
【図2】推進装置の構成を示す図である。
【図3】レギュレータレバー角度に対する各エンジンの目標回転数の特性を示す特性図である。
【符号の説明】
【0030】
2 左側エンジン(エンジン)
3 右側エンジン(エンジン)
4c,5c
推進軸
6 左側スクリュー
7 右側スクリュー
16 レギュレータレバー
14 コントローラ(制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のエンジンに対しそれぞれ個別に接続された軸端にスクリューを有する推進軸と、
上記各エンジンの推進軸の回転量を同調させて調整する単一のレギュレータレバーと、
上記各エンジンのうちの少なくとも1つのエンジンが出力低下したとき、その出力低下しているエンジンの推進軸の回転量に対し残る他のエンジンの推進軸の回転量を同調する回転量まで低下させるように制御する制御手段と
を備えていることを特徴とする複数エンジンの推進装置。
【請求項2】
上記請求項1に記載の複数エンジンの制御方法において、
制御手段は、出力低下しているエンジンの出力がさらに低下して推進力が得られなくなったとき、そのエンジンの推進軸の回転量に対し残る他のエンジンの推進軸の回転量を同調させる制御を解除し、残る他のエンジンの推進軸の回転量のみをレギュレータレバーにより調整させるようにしていることを特徴とする複数エンジンの推進装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−27297(P2006−27297A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−204359(P2004−204359)
【出願日】平成16年7月12日(2004.7.12)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)