説明

複数流体反応方法ならびにそれを用いた複数流体反応装置

【課題】中和反応などの反応液供給時に脈動を起こさず、反応初期から末期において均一な反応を可能とする反応方法および反応装置の提供。
【解決手段】複数の流体A、Bを混合して反応させる複数流体反応装置Mを、前記複数の流体A、Bを各々収容する複数の容器2a、2bと、前記複数の容器2a、2bから供給管9a、9bを介して各々供給される前記複数の流体A、Bを混合して反応させる反応槽6と、前記複数の容器2a、2b内を加圧する加圧装置1を有し、前記複数の容器2a、2b内の圧力によって、前記複数の容器2a、2b内に各々収容された前記複数の流体A、Bが前記反応槽6に供給されるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の流体の反応に用いられる複数流体反応方法、ならびにその反応を実施するための複数流体反応装置に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今の機能性材料、とりわけ微粒子の機能性材料の合成は主として液相で行われることが多い。ところが液相での反応は非常にデリケートであり、なかでも微粒子の液相反応になると少しの反応性のずれによっても、その発現する特性などが大きく変動することが知られている。
【0003】
液相反応の代表例としては、回分式の反応槽を用いたものが知られているが、連続式で反応を行うことが困難であることが知られている。こうした欠点を補うべく利用されているのが、静止式ラインミキサーである。
【0004】
静止式ラインミキサーとは一般的に配管内に流体を送液し、内部の無可動式の攪拌器を通過させることで混合・分散を行なう装置である。こうした特徴を持つ装置は種々開発されており、代表的なものを例示すると、内部が螺旋形状をしたスタティックミキサー(ケニックス型ミキサー)や流入液をせん断・分散させることで混合させるもの(例えば特許文献1に記載のもの)などが上市されている。
【0005】
上述した静止式ラインミキサーを用いると、連続式でかつ回分式では困難とされていた、同時中和が実施できるので、中和反応においてよりその反応に即した反応が実施できると期待されている。例えば、特許文献2には、送液ポンプを用いて静止式ラインミキサーに複数の流体を混入させることにより、連続的に反応を行うことが可能な反応技術が開示されている。
【特許文献1】特開2004−255320号公報
【特許文献2】特開平9−255325号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記でも述べたとおり、例えば微粒子の機能性材料の合成等、非常にデリケートな液相の反応を行う場合には、液性のわずかなずれなどにより大きく影響を受けてしまう。なかでも反応の初期段階においては、特性を左右する致命傷にもなりかねない。
【0007】
このような問題があるため、上記特許文献2の反応技術で提供される送液方法では、送液ポンプの脈動によって供給される液量にずれが生じ、静止式ラインミキサーの特徴である同時中和の際に、液性に濃淡が生じてしまう恐れがある。このようにして液性の濃淡が生じると、反応にブレが生じてしまい最終製品にも影響を及ぼしかねない。
【0008】
そこで本発明の解決すべき技術課題としては、例えば中和反応等の反応を生じさせるように反応液を供給する際に、脈動を起こさず、反応の初期から末期において均一な反応を可能とする反応方法および反応装置の提供とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記に定めた技術的課題を解決するために、本発明によれば、複数の流体を混合して反応させる複数流体反応装置であって、前記複数の流体を各々収容する複数の容器と、前記複数の容器から供給管を介して各々供給される前記複数の流体を混合して反応させる反応槽と、前記複数の容器内を加圧する加圧装置を有し、前記複数の容器内の圧力によって、前記複数の容器内に各々収容された前記複数の流体が前記反応槽に供給されることを特徴とする、複数流体反応装置が提供される。
【0010】
本発明によれば、上記複数流体反応装置に、2種以上の流体を供給可能な密閉可能な供給部を設けると共に、該供給部には加圧装置を併備し、該加圧装置から加圧された原料液を供給することで、供給時の液の脈動を抑制することが可能である。さらに、加圧装置を用いて液を供給することから、液に余計な剪断力等がかからず、ひいては反応液に対して余計なダメージがかからなくてすむので、デリケートな反応に対してはより効果的に用いることができる。
【0011】
上記複数流体反応装置において、前記複数の流体を前記反応槽に供給する際に、前記複数の容器内の圧力が9.8×10Pa以上であってもよい。
【0012】
より具体的には、加圧時における供給圧力は9.8×10Pa(=1.0kgf/cm)以上、より好ましくは14.7×10Pa(=1.5kgf/cm)以上が必要とされる。これは、反応槽内の圧力損失を考慮しなければならないためである。あまりにも供給が低すぎると液の供給が不均一になってしまい、想定している反応の均一性が得られないため好ましくない。また、高すぎると容器の物理的強度の弱いところに集中して負荷が生じてしまい装置の破損が生じる可能性があるので好ましくない。
【0013】
上記複数流体反応装置において、前記反応槽は静止式ラインミキサーであってもよい。
【0014】
流体同士の反応は、静止式ラインミキサー内で実施することができる。こうした静止式ラインミキサーを使用することによって、駆動機構を持たない混合をインラインで実施することができるので、ポンプを併用した場合に比較して、ランニングコストを抑制できるため好ましく、必要な量のみの合成ができるので、無駄なく原料を合成できるので好ましい。
【0015】
上記複数流体反応装置において、前記加圧装置で使用される加圧媒体は不活性の圧縮ガスであってもよい。
【0016】
また、流体に加えられる圧力は気体によるものが好ましい。なかでも不活性の圧縮ガスであることが好ましい。ガス態であれば、流体に対して均一に圧力を加えることが可能であり、また不活性であれば流体中の溶存成分とも反応を生じないため好ましい。また、添加に関しても、元々の仕込み量を変化させるだけでなく、混合系の圧力等を任意に調整することによって、反応槽へ導入する複数の流体の混合比率を任意に調整することも可能になる。
【0017】
さらに密閉性容器はステンレス製合金で形成されることがより好ましい。こうした構成とすることにより、液と反応槽の反応性が抑制され、不純物の混入のない物質を形成することができるだけなく、圧力に対しても耐圧性のあるものが構成できるためより好ましい。特に材質としてはステンレス鋼、とりわけオーステナイト系ステンレス鋼からなるものが例示でき、さらに好ましくは鏡面仕上げしていることが好ましい。
【0018】
また、本発明によれば、複数の容器内の圧力によって当該複数の容器内に各々収容された複数の流体を反応槽に供給し、前記反応槽内で前記複数の流体を混合して反応させることを特徴とする、複数流体反応方法が提供される。
【0019】
上記複数流体反応方法において、前記複数の流体を前記反応槽に供給する際に、前記複数の容器内の圧力を9.8×10Pa以上にしてもよい。
【0020】
上記複数流体反応方法において、前記反応槽は静止式ラインミキサーであってもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、例えば中和反応等の反応を生じさせるように反応液を供給する際に反応液の脈動を防止することができ、反応の初期から末期において均一な反応が可能になる。これによって、液性の微妙な変動によって特性が変動してしまうような非常にデリケートな例えば非晶質物質等を、その本質を損なわずに中和反応等の化学合成によって安定して製造することができるようになる。さらに、生産歩留まりを著しく改善できる可能性を有するとともに、今まで得られなかったような高特性の物質が得られるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本願発明の実施の形態を示してその特徴とするところを更に具体的に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0023】
図1は本願発明の第1の実施の形態として、バッチ式に供給される複数の流体A、Bを反応させる複数流体反応装置Mの構成の一例を示す構成図である。
【0024】
図1に示すように、複数流体反応装置Mは、複数の流体として例えば2種類の原料液A、Bを混合して反応させ、混合体反応物Cを製造するように構成されている。原料液Aは、密閉式の容器としてのタンク2aに貯蔵されており、原料液Bは、密閉式の容器としてのタンク2bに貯蔵されている。原料液A、Bは、各々、タンク2a及び2bにバッチ式に供給される。タンク2a及びタンク2bは、例えばオーステナイト系ステンレス鋼等のステンレス鋼で形成されており、内面が鏡面仕上げされている。また、タンク2a及びタンク2bは、内部を密閉することが可能であり、内部を加圧できるように耐圧性を備えている。タンク2a及びタンク2bには、加圧装置としてのコンプレッサ1が配管8を介して接続されている。これにより、加圧媒体として例えば不活性ガスをコンプレッサ1からタンク2a及びタンク2bに供給し、タンク2a及びタンク2bの容器内を加圧することができるようになっている。
【0025】
本発明の第1の実施の形態では、1つのコンプレッサ1によってタンク2a及びタンク2bの両方が加圧されるように構成されている。即ち、コンプレッサ1に接続された配管8は、途中で分岐してタンク2aとタンク2bに接続されている。分岐した配管8のタンク2a側には加圧媒体調整弁12aが設けられており、タンク2b側には加圧媒体調整弁12bが設けられている。これにより、コンプレッサ1からの加圧媒体の流量を、タンク2a側の加圧媒体調整弁12a及びタンク2b側の加圧媒体調整弁12bの各々で調整し、タンク2a及びタンク2bの加圧状態を個別に調整できるようになっている。タンク2a及びタンク2bには、各々の容器内の圧力を測定可能な圧力計13a及び圧力計13bが設けられている。
【0026】
タンク2aは供給管としての配管9aを介して反応槽としての静止式ラインミキサー6に接続されている。これにより、タンク2a内に収容された原料液Aが配管9aを介して静止式ラインミキサー6に供給されるようになっている。配管9aには、タンク2aから静止式ラインミキサー6に供給される原料液Aの量を調整できる原料液調整弁14aが設けられている。同様にして、タンク2bは供給管としての配管9bを介して静止式ラインミキサー6に接続されている。これにより、タンク2b内に収容された原料液Bが配管9bを介して静止式ラインミキサー6に供給されるようになっている。配管9bには、タンク2bから静止式ラインミキサー6に供給される原料液Bの量を調整する原料液調整弁14bが設けられている。
【0027】
本発明の第1の実施の形態では、原料液Aと原料液Bを混合して反応させる反応槽の一例として、図2に示す静止式ラインミキサー6が用いられている。図2に示すように、静止式ラインミキサー6は、中空の円筒形状の本体20の内部にその軸方向に沿って、螺旋状の羽根21を設けた構成になっている。これにより、本体20の一方の側(図2中、左手側)から進入した原料液A及び原料液Bが、螺旋状の羽根21に沿って進行すると共に静的に混合されて反応し、混合体反応物Cが生成され、その後、この混合体反応物Cが本体20の他方の側(図2中、右手側)から排出されるようになっている。なお、反応槽としては、例えば特開2004−255320号公報に記載されているラインミキサー等、その他の構造のラインミキサーが用いられてもよいし、ラインミキサー以外が用いられてもよい。
【0028】
静止式ラインミキサー6は、移送管10を介して反応貯液槽7に接続されている。これにより、上述のように静止式ラインミキサー6内で製造された混合体反応物Cは、移送管10を介して反応貯液槽7に供給されるようになっている。
【0029】
静止式ラインミキサー6から供給される混合体反応物Cには、コンプレッサ1からの加圧媒体(圧縮ガス)が含まれており、反応貯液槽7には、この加圧媒体を逃がすように逆止弁17が配管18を介して設けられている。本発明の第1の実施の形態では、反応貯液槽7内に不活性ガスを供給可能な不活性ガス供給源16が調整弁15を介して接続されている。これにより、静止式ラインミキサー6から供給される混合体反応物Cの反応性が高い(容易に酸化等を受ける)場合には、反応貯液槽7内に不活性ガスを槽内に供給して反応を抑制することができるようになっている。
【0030】
以上のように構成された複数流体反応装置Mを用いて複数の流体を反応させる複数流体反応方法の手順について説明する。
【0031】
まず、コンプレッサ1より発生された圧縮ガス(反応によっては、酸素などの反応性ガスを有すると、ガスを添加した際に反応を起こす可能性があるので圧縮ガスは不活性ガスであることが好ましい場合がある)はコンプレッサ1から管8を通じてタンク2a、2bに供給される。
【0032】
次にタンク2a、2bに供給された圧縮ガスは、タンク2a、2bの中で徐々に蓄積される。タンク2a、2bに併設された圧力計13a、13bによって、各タンク2a、2bの内圧を確認しながらコンプレッサ1より供給される圧縮ガスを調整する。目的とする圧力値を示した段階で加圧媒体調整弁12a、12bを閉として、内圧を保った状態とする。本発明の第1の実施の形態では、反応貯液槽7内の圧力損失を考慮し、加圧時におけるタンク2a、2b内の圧力は9.8×10Pa以上に設定されている。なお、タンク2a、2b内の圧力は、14.7×10Pa以上に設定するのがより好ましい。
【0033】
その後、ラインミキサー6への供給量を設定した後に、原料液調整弁14a、14bを開とし、タンク2a、2bから配管9a、9bを通じてラインミキサー6に原料液A、Bを各々供給する。このとき、タンク2a、2bの容器内は正圧がかかっているので、原料液調整弁14a、14bを開くと圧力によって自動的に液が供給されるようになる。このとき、原料液調整弁14a、14bの開度を各々変更することで配管9a、9bでの圧力損失の違いを調整することが可能であり、粘度や比重の異なる液を同時に送液することも可能である。
【0034】
その後、導入された原料液A及び原料液Bは静止式ラインミキサー6内で混合されて反応し、混合体反応物Cになった後、移送管10を通じて排出され、反応貯液槽7に貯蔵される。なお、ラインミキサー6内や移送管10には圧力がかかっている状態であるから、反応貯液槽7もある程度の耐圧性を有するものを選択することが好ましい。さらに、反応貯液槽7には、上述した逆止弁17等のように圧縮ガスを逃がす構造を備えるようにすることが好ましい。また、生成される反応物Cの反応性が高い(容易に酸化等を受ける)場合には、不活性ガス供給源16から不活性ガスを反応液貯液槽7内に供給しながら、反応物Cを受けるように調整することも可能である。
【0035】
以上の本発明の第1の実施の形態によれば、タンク2a、2bから原料液A、Bを静止式ラインミキサー6に供給する際に、各タンク2a、2b内の圧力によって原料液A、Bを供給するようにしたことによって、従来公知技術のように送液ポンプを用いて原料液A、Bを供給する場合に発生してしまう原料液A、Bの脈動を防止することができる。また、液に余計な剪断力等がかからず、原料液に対して余計なダメージがかからなくてすむ。このため、例えば微粒子の機能性材料を中和反応させる場合等のように、非常にデリケートな液相の反応を生じさせる際においても、液性の微妙な変動に起因する反応性のずれを起こさずに所望の特性の反応物を安定して製造することができる。さらに、反応性のずれをなくすことができるため、高特性の物質を得ることが可能になるうえに、安定して製造できるため、生産歩留まりを著しく向上させることができるという効果もある。
【0036】
さらに、従来公知技術で用いられる送液ポンプ等の駆動機構を用いずに済むために、駆動機構を用いた場合に比べてランニングコストを低減することができる。また、各タンク2a、2b内の圧力によって原料液A、Bの供給を行うために、反応に必要な量だけの原料液A、Bを供給することが容易になり、無駄な供給を抑制し、ランニングコストをさらに削減することができる。
【0037】
さらに、加圧装置1によるタンク2a、2b内の加圧に不活性の圧縮ガスを用いたことによって、タンク2a、2b内の原料液A、Bに対して均一に圧力を加えることが可能になり、原料液A、Bを均一に混合させて反応させることができる。また、タンク2a、2b内の各圧力値を調整することによって、ラインミキサー6に導入する原料液A、Bの混合比率を任意に設定することが可能になる。
【0038】
本発明の第2の実施の形態として、図3に示すように、複数流体反応装置Mを、計測したタンク2a、2b内の原料液A、Bの各質量に基づいて所望の送液量を逐次調整しながら静止式ラインミキサー6に供給する構成、いわゆる質量制御型の構成にしてもよい。図3に示すように、タンク2a、2bには、各々の質量を計測可能な質量計24a、24bが設けられている。質量計24a、24bには、制御装置30が接続されており、これらの質量計24a、24bが各々計測したタンク2a、2bの質量が制御装置30に入力されるようになっている。さらに、制御装置30は、タンク2a、2bから静止式ラインミキサー6に原料液A、Bを供給する配管9a、9bに設けられた原料液調整弁としての電磁弁25a、25bに接続されており、これらの電磁弁25a、25bを各々調整できるようになっている。これにより、制御装置30は、質量計24a、24bから入力されたタンク2a、2bの質量情報に基づいて、電磁弁25a、25bの開度を調整し、原料液24a、24bの供給量(流量)を制御できるようになっている。なお、本発明の第2の実施の形態では、電磁弁25a、25bとタンク2a、2bとの間に逆止弁26a、26bが各々設けられている。
【0039】
以上の本発明の第2の実施の形態によれば、タンク2a、2bから内圧によって静止式ラインミキサー6に原料液A、Bを供給する際に、タンク2a、2bの質量を計測し、タンク2a、2b内に収容された原料液A、Bの収容量を把握するようにしたことによって、タンク2a、2bから供給量をより適切に制御することが可能になる。また、本発明の第2の実施の形態は、図1に示す本発明の第1の実施の形態と同様の効果も有する。
【0040】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0041】
上述した実施形態においては、原料液A、Bをタンク2a、2bにバッチ式に各々供給する場合について説明したが、連続式の反応の一部に図1又は図3に示す構成を有する複数流体反応装置Mを組み込むこともできる。その際には、上記で示したような圧縮ガスを貯蔵した状態で液をラインミキサーに導入する方式ではなく、連続して常に一定量供給し続ける形式にすることも可能である。
【0042】
上述した実施の形態においては、タンク2a、2bがステンレス鋼で形成されている場合について説明したが、タンク2a、2bは任意の材料で形成されていてもよい。また、タンク2a、2bの内部は鏡面仕上げされていなくてもよい。
【0043】
上述した実施形態においては、混合して反応させる流体の数が2である場合について説明したが、反応させる流体の数は任意であってもよい。
【0044】
上述した実施形態においては、混合して反応させる流体が原料液A、Bと液体である場合について説明したが、混合して反応させる流体は、液体以外の流体であってもよい。
【0045】
上述した実施形態においては、加圧装置としてのコンプレッサ1を1つだけ用いて2つのタンク2a、2b内を加圧する場合について説明したが、例えば各タンク2a、2bに加圧装置を設ける等、任意の数の加圧装置を用いてもよい。
【実施例】
【0046】
本発明を実施例と比較例を用いて比較検証する。具体的には、国際公開2006−067887号公報に記載の方法による、ペロブスカイト前駆体の製造方法に従って、非晶質の前駆体を作成する際に、本願発明に係る反応技術と従来公知の反応技術とを用いて作成した前駆体を比較する。
【0047】
まず、本願発明に係る反応技術を用いて以下のようにして前駆体を作成した。硝酸ランタン、硝酸ストロンチウム、硝酸マンガンを、ランタン元素とストロンチウム元素とマンガン元素のモル比が0.8:0.2:1.0となるように混合した。この混合物を、ランタン元素とストロンチウム元素とマンガン元素の液中モル濃度の合計が0.2mol/Lとなるように水に添加して原料液Aを得た。この原料液Aの溶液を撹拌しながら溶液の温度を25℃に調整した。また、沈殿剤として炭酸アンモニウムとアンモニア水の混合溶液を原料液Bとして準備した。図1に示す複数流体反応装置Mを用いて、温度が25℃の原料液Aと原料液Bを混合して反応させ、pH=9に調整した。
【0048】
この反応の際に、原料液Aを貯留したタンク2a内の圧力を9.8×10Paに設定し、原料液Bを貯留したタンク2b内の圧力を9.8×10Paに設定した。なお、複数流体反応装置Mが備える静止型ラインミキサー6としては、株式会社フジキン社製の「分散君」を用いた。その後、原料液Aと原料液Bとを混合して反応させた混合体反応物Cの反応温度を25℃に保ちながら撹拌を30分間継続することにより、沈殿の生成を十分進行させた。得られた沈殿を濾過して回収した後、水洗し、125℃で乾燥し、得られた前駆体粉を大気雰囲気下、800℃で熱処理して焼成し、非晶質の前駆体P1(ペロブスカイト)を生成した。
【0049】
次に、本願発明の反応技術の代わりに、従来公知の反応技術によって前駆体を作成した。すなわち、上述した一連の手順において、原料液A及び原料液Bを反応槽に供給する際に送液ポンプを用いて供給し、原料液Aと原料液Bを反応させるようにした。その他の手順及び条件については、本願発明の反応技術を用いた場合と同様に設定し、非晶質の前駆体P2(ペロブスカイト)を生成した。
【0050】
上述のようにして得られた前駆体P1及びP2の比表面積値(BET法:ユアサイオニクス製の4ソープUSで測定)を比較したところ、従来公知の反応技術(国際公開公報記載の方法)で得られた前駆体P2の比表面積値は14.8m/gであったのに対して、本願発明により得られた前駆体P1の比表面積値は28.3m/gであった。一般的に触媒においては、比表面積値の大きい物質の方が触媒活性が高いと言われており、また、触媒担体としても、BET値の高いものの方が好ましいとされている。従って、本発明の反応技術によって作成された粒子(P1)は、従来公知の反応技術によって作成された粒子(P2)よりも、触媒またはその担体としてより好ましい性質を有することが推察され、本発明によって高特性の物質が得られることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、上記実施例に示したような触媒物質や触媒担体の製造に利用すると有用である。特に、高BETを必要とする物質の製造に好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本願発明の第1の実施の形態に係る複数流体反応装置Mの構成を示す構成図である。
【図2】反応槽の一例としての静止式ラインミキサー6の構成を示す構成図である。
【図3】本願発明の第2の実施の形態に係る複数流体反応装置Mの構成を示す構成図である。
【符号の説明】
【0053】
1 コンプレッサ
2a、2b タンク
6 静止式ラインミキサー
7 反応貯液槽
8、9a、9b、18 配管
10 移送管
12a、12b 加圧媒体調整弁
13a、13b 圧力計
14a、14b 原料液調整弁
15 調整弁
16 不活性ガス供給源
17、26a、26b 逆止弁
20 静止式ラインミキサーの本体
21 螺旋状の羽根
24a、24b 質量計
25a、25b 電磁弁
30 制御装置
A、B 原料液
C 混合体反応物
M 複数流体反応装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の流体を混合して反応させる複数流体反応装置であって、
前記複数の流体を各々収容する複数の容器と、
前記複数の容器から供給管を介して各々供給される前記複数の流体を混合して反応させる反応槽と、
前記複数の容器内を加圧する加圧装置を有し、
前記複数の容器内の圧力によって、前記複数の容器内に各々収容された前記複数の流体が前記反応槽に供給されることを特徴とする、複数流体反応装置。
【請求項2】
前記複数の流体を前記反応槽に供給する際に、前記複数の容器内の圧力が9.8×10Pa以上であることを特徴とする、請求項1に記載の複数流体反応装置。
【請求項3】
前記反応槽は静止式ラインミキサーであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の複数流体反応装置。
【請求項4】
前記加圧装置で使用される加圧媒体は不活性の圧縮ガスであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の複数流体反応装置。
【請求項5】
複数の容器内の圧力によって当該複数の容器内に各々収容された複数の流体を反応槽に供給し、前記反応槽内で前記複数の流体を混合して反応させることを特徴とする、複数流体反応方法。
【請求項6】
前記複数の流体を前記反応槽に供給する際に、前記複数の容器内の圧力を9.8×10Pa以上にすることを特徴とする、請求項5に記載の複数流体反応方法。
【請求項7】
前記反応槽は静止式ラインミキサーであることを特徴とする、請求項5又は6に記載の複数流体反応方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−178823(P2008−178823A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−15426(P2007−15426)
【出願日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【出願人】(507027162)DOWAテクノロジー株式会社 (11)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】