説明

複粒化した冷凍米飯及びその製造方法

【課題】茶碗等の高さのある容器に盛って電子レンジで解凍しても、見た目の容積低下が少なく、飯粒間に空間がある「飯が立った」状態を保持するとともに、飯粒の解凍後の温度にムラが少なく、良好な食感を得ることのできる複粒化した冷凍米飯及びその製造方法を提供する。
【解決手段】飯粒をバラ状に凍結させたバラ状冷凍米飯にコーティング液を添加しながら撹拌することにより複数の飯粒同士が連結した複粒状態とし、該複粒状態で凍結温度に冷却して凍結させる。冷凍米飯中の飯粒の複粒状態は、飯粒全体の60%以上が4粒以上、かつ、90%以上が20粒以下で連結した状態であり、比容積が2.0ml/g以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複粒化した冷凍米飯及びその製造方法に関し、詳しくは、電子レンジで解凍、加熱したときに、炊飯後の米飯に近いふっくら感が得られるとともに、茶碗で解凍、加熱しても温度ムラが発生しにくい複粒化した冷凍米飯を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の一般的な冷凍米飯は、飯粒をバラ状に凍結させた状態、即ちバラ状冷凍米飯となっており、これを平皿に拡げた状態で電子レンジにて加熱することにより、解凍ムラや加熱ムラが生じないようにしている。このようなバラ状冷凍米飯を茶碗等の高さのある容器に盛って電子レンジで加熱すると、見掛けの容積が大幅に減少し、適度に空気を抱いた見た目のふっくら感が失われてしまったり、容積の減少によって飯粒間の通気性が悪くなり、水蒸気がこもってべた付いた食感になりやすかった。さらに、蒸気が十分に行き渡らないために温度ムラが発生して部分的に解凍できなかったりするという問題もあった。また、米飯がバラ状になっているため、箸では食べにくく、従来のバラ状冷凍米飯は、スプーンで食する炒飯やピラフ、あるいは、汁(スープ)が多い粥やリゾット等が主流となっている。
【0003】
このようなことから、茶碗での解凍、加熱ができ、箸でも食べやすい状態の冷凍米飯として、飯粒を小さな塊状とした複粒状態で凍結する方法が提案されており、例えば、塊状に凍結した米飯を解砕機等で砕いたり、小さな型枠内に米飯を充填して凍結したり(例えば、特許文献1参照。)、米飯をほぐし網で小さな塊に剪断してから凍結したりすることが提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開平5−146264号公報
【特許文献2】特開2004−141009号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の方法で複粒状態に凍結しても、その過程で米飯をある程度物理的に抑える工程が入ってしまうため、複粒内の飯粒間に十分な空間が生じにくく、詰まった状態になってしまう。このため、バラ状冷凍米飯に比べて一定の改善は認められるものの、理想の状態である「飯が立った状態(飯粒同士の付着が面ではなく点でなされている状態)」に比べると、未だ見た目のふっくら感が十分ではなく、かつ、複粒内の一部の米飯の食感がベタついたものとなってしまっている。
【0005】
そこで本発明は、茶碗等の高さのある容器に盛って電子レンジで解凍しても、見た目の容積低下が少なく、飯粒間に空間がある「飯が立った」状態を保持するとともに、飯粒の解凍後の温度にムラが少なく、良好な食感を得ることのできる複粒化した冷凍米飯及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の複粒化した冷凍米飯は、飯粒をバラ状に凍結させたバラ状冷凍米飯にコーティング液を添加しながら撹拌することにより複数の飯粒同士が連結した複粒状態とし、該複粒状態で凍結させたことを特徴としている。
【0007】
また、本発明の複粒化した冷凍米飯の製造方法は、飯粒をバラ状に凍結させたバラ状冷凍米飯にコーティング液を添加しながら撹拌することにより複数の飯粒同士が連結した複粒状態とし、該複粒状態で凍結温度に冷却して凍結させることを特徴とし、前記複粒状態が、飯粒全体の60%以上が4粒以上、かつ、90%以上が20粒以下で連結した状態であり、比容積が2.0ml/g以上であることを特徴としている。
【0008】
ベースとなる前記バラ状冷凍米飯には、飯粒全体の40%以上が3粒以下の状態にバラ化されているものを使用することが好ましく、前記コーティング液には穀物澱粉を含んだもの、特に、前記穀物澱粉として、うるち米内部の個々の細胞の単位が残った状態で粉にした米粉を水と混合して加熱したものを使用することが好ましい。さらに、前記コーティング液を添加するときの前記バラ状冷凍米飯の温度が−40℃〜−5℃の範囲であること、また、前記バラ状冷凍米飯にコーティング液を添加するときの撹拌を、撹拌羽根を持たない回転ドラムで行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、各飯粒表面に膜状に付着したコーティング液を介して複粒状態に凍結された飯粒は、複数の飯粒が単に連結しているだけではなく、6粒程度の飯粒がジャングルジムのように空間を抱いた状態で連結している。この複粒状態の冷凍米飯を電子レンジで加熱すると、米飯表面の糊化した部分の水分が蒸散し、飯粒表面の薄い澱粉の層が互いに強く付着する状態となり、解凍前の複粒状態を保持したまま解凍、加熱される。これにより、解凍、加熱後の米飯は、飯粒間に空間が存在する「飯が立った」状態となり、全体にふっくらとした外観となることから、通常の白飯や和飯に近い品質となる。
【0010】
また、飯粒間に空間が開いていることで、加熱時に発生した蒸気が満遍なく行き渡り、温度ムラの発生を抑制できるので、茶碗等の高さのある容器に盛って電子レンジで解凍、加熱しても良好な状態の米飯を得ることができる。さらに、解凍後の米飯が複粒状態となっているため、箸に絡みやすく、食べやすいという効果もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
まず、本発明の冷凍米飯の原料(ベース)として使用する米飯は、あらかじめ、通常の操作で洗米、浸漬、炊飯を行い、超低温の空気、液体窒素やドライアイス等を冷媒に用いてバラ状に凍結させた米飯であって、一般にバラ状冷凍米飯と呼ばれているものを使用することができる。このバラ状冷凍米飯における米飯のバラ化状態は、後述するコーティング液を各米飯の表面にできるだけ均一にコーティングできるように、できるだけ塊状のものが少ないバラ状冷凍米飯を使用することが好ましく、例えば、飯粒全体の40%以上、好ましくは50%以上が3粒以下の状態にバラ化されているバラ状冷凍米飯を使用することが望ましい。
【0012】
前記バラ状冷凍米飯に添加するコーティング液は、複数の飯粒同士を連結させることができれば、各種液体を使用することができるが、コーティング液中に澱粉質、特に穀物澱粉を含んでいて、液自体に糊様の粘度を有している液体を使用することが好ましい。例えば、うるち米内部の個々の細胞の単位が残った状態で粉にした米粉を水と混合し、加熱して糊化させた穀物澱粉を含むものをコーティング液として好適に用いることができる。
【0013】
具体的には、メッシュサイズが100〜300メッシュの前記米粉を水に1〜10重量%、好ましくは2〜5重量%混合し、糊化度が85%以上、好ましくは90%以上となるように加熱し、かつ、粘度が100cP以下、好ましくは60cP以下になるようにしたものがコーティング液として最適である。このコーティング液は、液中の糊化した澱粉粒が粒として残っており、かつ、個々に独立した状態ではなく、澱粉全体の50%以上が、複数の澱粉粒が葡萄の房状に連結した状態となっているものが好ましい。
【0014】
コーティング液を添加する際のバラ状冷凍米飯の温度は、添加するコーティング液の温度によっても異なるが、−40℃以上で−5℃以下、特に−10℃以下の範囲とすることが好ましい。このときの温度が低すぎると、コーティング液が低温の飯粒に接触して瞬時に凍結し、飯粒同士を連結させる機能が低下して複粒状態とすることが困難になり、複粒の形成が阻害されてしまう。逆に、バラ状冷凍米飯の温度が高すぎると、添加したコーティング液が凍らないため、複粒の連結状態が弱くなり、次の凍結処理で複粒状態が破壊されたり、大きな塊状となってしまうことがある。
【0015】
バラ状冷凍米飯に対するコーティング液の添加量は、コーティング液の性状によっても異なるが、通常は、バラ状冷凍米飯に対して5重量%以上、望ましくは10〜15重量%の範囲が好ましく、少なすぎると米飯同士の連結を十分に行えずに複粒状態とすることが困難となる。一方、コーティング液が多すぎると、解凍、加熱後の米飯の食感や食味を損なうことがある。
【0016】
コーティング液を添加する際のバラ状冷凍米飯の撹拌は、比較的短時間でコーティング液を飯粒表面全体に拡げることができるものならば各種の撹拌手段を使用することができるが、撹拌時に飯粒を物理的に抑えると、複粒状態となった飯粒間の空間を押し潰してしまうことがあるので、撹拌羽根を持たず、邪魔板程度の撹拌補助機能を有する回転ドラム方式の撹拌手段が最適である。この場合、回転ドラムに飯が張り付くと均一な混合ができないので、回転ドラムの内側には付着を抑えるための加工が施されていることが望ましい。
【0017】
撹拌状態のバラ状冷凍米飯へのコーティング液の添加は、コーティング液の粘度等の条件に応じて適宜な手段で行うことができるが、一般的なスプレーや滴下装置を用いて行うことが可能である。
【0018】
したがって、コーティング液を添加したときに、液が飯粒の表面に薄く付着した後、飯粒の冷熱で緩やかに凍り始め、そのときに接触している飯粒同士が凍結液によって連結した状態となり、撹拌によって適度な大きさ(粒数)の複粒状態になるように各条件を設定することになる。コーティング液添加後は、複粒状態を壊さないようにして所定の凍結温度に冷却し、複粒状態の飯粒を多く含む冷凍米飯とする。この凍結処理の際にも、飯粒を物理的に抑えると空間が潰れてしまうので、前述のような回転ドラム方式の撹拌手段で撹拌しながら冷媒によって凍結させたり、フローフリーザーで超低温空気を吹き付けることが好ましい。
【0019】
このようにして得られた冷凍米飯は、特に、飯粒全体の60%以上が4粒以上、かつ、90%以上が20粒以下で連結した複粒状態であり、比容積が2.0ml/g以上となっていることが好ましい。すなわち、飯粒連結数が3粒以下のものが多かったり、比容積が小さいものが多いと、加熱後の米飯のふっくら感が不足することがあり、20粒を超える塊が多くなると、加熱時に温度ムラが発生したり、食感を損なったりすることがある。
【0020】
このように、複粒状態の飯粒を多く含む冷凍米飯で、特に、前述のような米粉をベースとしたコーティング液を使用した冷凍米飯は、電子レンジで加熱したときに、水分が蒸発して糊状となったコーティング液によって飯粒の複粒状態を確実に保持し、さらに、そのときに隣接する他の飯粒とも一部が付着した状態となる。これにより、複粒状態が容易に崩れることはなく、飯粒間の空間を保ったまま加熱され、いわゆる「飯が立った」状態となり、全体にふっくらした見ためになり、通常の白飯や和飯により近い品質になる。また、発生した蒸気が満遍なく全体に行き渡り、温度ムラがほとんどない状態となる。したがって、茶碗等の高さのある容器に盛った状態でも良好に加熱することができ、箸でも食べやすい米飯を得ることができる。
【実施例1】
【0021】
まず、原料米として、コシヒカリの一等米を用意し、通常の操作で洗米、浸漬を行った後、米100gに対して水130g及び乳化油脂3gを加えて炊飯し、常温に冷却してからバラ状に凍結させてバラ状冷凍米飯を製造した。このバラ状冷凍米飯における飯粒の分布状態を表1及び図1に示す。
【0022】
ここでの総粒数は、「粒を形成する飯の数×粒数」を意味し、%は、「粒を形成する飯の数の総粒数÷総粒数の合計(1417粒)×100」を意味し、累計%は、「粒を形成する飯の数の1からその総粒数までの合計÷総粒数の合計(1417粒)×100」を意味する。
【表1】

【0023】
一方、米粉(新潟製粉製:ライスパウダーCK)3gを水97ccに混合し、沸騰水中に投入したビーカー内でゆっくりと撹拌しながら湯煎にて90℃に加熱し、約10分間保持することによって粘度が7〜25cP、平均で約20cPのコーティング液を製造した。なお、このコーティング液の糊化度は90%以上となっており、一部の実験では、保持時間を長くすることによって粘度を増大させたコーティング液を使用した。
【0024】
また、コーティング液添加時のバラ状冷凍米飯の撹拌及びコーティング液添加後の凍結処理時の撹拌には、撹拌機として市販のロータリーシェフを使用し、凍結時の冷媒には、米飯と略同量のスノー状ドライアイスを使用した。コーティング液の添加は、撹拌中のバラ状冷凍米飯にスプレーにて12秒間で行い、その後108秒間撹拌混合を継続した(合計撹拌時間2分間)。凍結処理も、ドライアイス投入後に2分間の撹拌を行い、米飯を所定温度に冷却して凍結させた。
【0025】
表2に示すように、No.1〜No.17において、バラ状冷凍米飯の温度と、コーティング液の粘度、添加量及び温度とを種々設定するとともに、コーティング液添加時の撹拌条件及び凍結時の撹拌条件をそれぞれ設定して複粒状態の冷凍米飯を製造した。なお、種類Aはバラ状冷凍米飯の温度を通常の冷凍温度とは異なる温度に設定ものであり、種類Cは、通常の冷凍温度の範囲内としている。得られた冷凍米飯における複粒状態の分析結果として、見た目の良否の判定、比容積及び単粒比率(複粒とならず1粒だけ独立した状態となっている飯粒の重量割合)を表2に同時に示す。さらに、表2中のNo.9及びNo.16で製造した冷凍米飯における飯粒の分布状態を表3及び図2に示す。
【表2】

【表3】

【実施例2】
【0026】
原料として使用したバラ状冷凍米飯と、実施例1で製造した各冷凍米飯とをそれぞれ使用し、これらを茶碗に100gを投入してラップをかけた状態で600Wの電子レンジで2分間それぞれ加熱した。その結果、加熱によって米飯の茶碗内への沈み込みがいずれの場合も認められたが、バラ状冷凍米飯に比べると、実施例1で製造した各冷凍米飯の沈み込み量は小さく、米飯の立体感が残っており、見た目の感じが自然なものであった。その他、食する際の箸への絡み方、食味、風味のいずれをとっても、実施例1で製造した冷凍米飯の方が明らかに優れていた。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施例1で使用したバラ状冷凍米飯における飯粒の分布状態を示す図である。
【図2】実施例1で製造した冷凍米飯における飯粒の分布状態を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
飯粒をバラ状に凍結させたバラ状冷凍米飯にコーティング液を添加しながら撹拌することにより複数の飯粒同士が連結した複粒状態とし、該複粒状態で凍結させたことを特徴とする複粒化した冷凍米飯。
【請求項2】
飯粒をバラ状に凍結させたバラ状冷凍米飯にコーティング液を添加しながら撹拌することにより複数の飯粒同士が連結した複粒状態とし、該複粒状態で凍結させることを特徴とする複粒化した冷凍米飯の製造方法。
【請求項3】
前記複粒状態は、飯粒全体の60%以上が4粒以上、かつ、90%以上が20粒以下で連結した状態であり、比容積が2.0ml/g以上であることを特徴とする請求項2記載の複粒化した冷凍米飯の製造方法。
【請求項4】
複粒状態の冷凍米飯のベースとなる前記バラ状冷凍米飯は、飯粒全体の40%以上が3粒以下の状態にバラ化されていることを特徴とする請求項2又は3記載の複粒化した冷凍米飯の製造方法。
【請求項5】
前記コーティング液は、穀物澱粉を含んでいることを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項記載の複粒化した冷凍米飯の製造方法。
【請求項6】
前記穀物澱粉が、うるち米内部の個々の細胞の単位が残った状態で粉にした米粉であることを特徴とする請求項5記載の複粒化した冷凍米飯の製造方法。
【請求項7】
前記コーティング液を添加するときの前記バラ状冷凍米飯の温度が−40℃〜−5℃の範囲であることを特徴とする請求項2乃至6のいずれか1項記載の複粒化した冷凍米飯の製造方法。
【請求項8】
前記バラ状冷凍米飯にコーティング液を添加するときの撹拌を、撹拌羽根を持たない回転ドラムで行うことを特徴とする請求項2乃至7のいずれか1項記載の複粒化した冷凍米飯の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−151483(P2007−151483A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−352918(P2005−352918)
【出願日】平成17年12月7日(2005.12.7)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】