説明

複素環化合物の製造方法

【課題】少ない工程数で簡便に生産性良く高収率で製造することが可能な複素環化合物の製造方法を提供すること。
【解決手段】複素環化合物の製造方法は、下記式(1)
−COX (1)
で示される酸ハロゲン化物と、下記式(2)
−NH−N(−R)−C(=Y)−NH−R (2)
で示される含窒素化合物およびその塩の少なくともいずれかとを反応させることを特徴とする。
(式(1)、式(2)における記号の意味は、明細書記載の通りである。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油添加剤として有用な複素環化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複素環(例えば、ピリジン類、ピロール類、ピリミジン類、ピラゾール類、ピリダジン類、イミダゾール類、ピラジン類、トリアジン類、トリアゾール類、およびテトラゾール類など)骨格を有する化合物に、油溶性基(親油基)を付加した化合物は、摩擦低減性、耐摩耗性、塩基価維持性、および酸化安定性に優れるため潤滑油用添加剤として有用である。これらの化合物は、一般に、複素環骨格を有する化合物と置換有機基とを、触媒や縮合剤等の存在下または非存在下で反応させることにより製造される。
しかしながら、上記した方法により複素環化合物を製造する場合、低収率であるとともに、副生成物や不純物をかなりの割合で含む粗組成物を与える。また、製造するにあたりかなり多くの工程を要する。
そこで、複素環骨格を有する化合物またはその官能基に水素化ナトリウムやブチルリチウム等を反応させ、それに置換有機基としてハロゲン化アルキル等を反応させる方法が提案されている。例えば、インドールにハロゲン化アルキルを反応させる方法が知られている(非特許文献1参照)。また、カルボン酸やそのエステルと、グアニジン類やセミカルバジド類とを反応させる方法も提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−51750号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Org.Synth.,coll.vol.5,769(1973)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1に記載の製造方法では、収率はやや高くなるものの、ハロゲン化ナトリウム類の処理や目的物の精製のために溶媒交換、ろ過、中和、水洗、乾燥等といった煩雑な工程が必要となる。また、特許文献1に記載の製造方法では、工程数は少なくなるものの、反応終了後に目的物と副生成物の混合物から目的物を分離する際に煩雑な操作が必要となるという問題が残されている。
【0006】
本発明の目的は、簡便に生産性良く高収率で製造することが可能な複素環化合物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決すべく、本発明は、以下のような複素環化合物の製造方法を提供するものである。
〔1〕下記式(1)で示される酸ハロゲン化物と、
−COX (1)
(式中、Rは炭素数6以上、50以下の有機基である。この有機基は、アミノ基、アミド基、アルコール性ヒドロキシル基、カルボニル基、ホルミル基、カルボキシル基、エステル結合、エーテル結合およびハロゲン原子から選ばれる少なくとも1種の官能基を含んでいてもよい。Xは、ハロゲン原子である。)
下記式(2)で示される含窒素化合物およびその塩の少なくともいずれかとを反応させることを特徴とする複素環化合物の製造方法。
−NH−N(−R)−C(=Y)−NH−R (2)
(式中、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、アルコール性ヒドロキシル基、メルカプト基、スルホン基、炭素数1以上、24以下の炭化水素基のいずれかである。また、RとRは、炭化水素基の場合、アルコール性ヒドロキシル基、メルカプト基、スルホン基およびスルホニル基の少なくともいずれかの官能基を有していてもよい。Rは、水素原子、アミノ基、アルコール性ヒドロキシル基、メルカプト基、スルホン基、および炭素数1以上、24以下の炭化水素基のいずれかである。また、Rが炭化水素基の場合、アミノ基、アルコール性ヒドロキシル基、メルカプト基、スルホン基およびスルホニル基の中から選ばれる少なくともいずれかの官能基を有していてもよい。また、RおよびRは少なくとも一方が水素原子である。YはNH、硫黄原子、および酸素原子のいずれかである。)
【0008】
〔2〕上述の〔1〕に記載の複素環化合物の製造方法において、前記式(1)におけるXが塩素であることを特徴とする複素環化合物の製造方法
〔3〕上述の〔1〕または〔2〕に記載の複素環化合物の製造方法において、前記式(1)におけるRが炭化水素基であることを特徴とする複素環化合物の製造方法。
〔4〕上述の〔1〕から〔3〕までのいずれか1つに記載の複素環化合物の製造方法において、前記式(2)におけるR、RおよびRがそれぞれ独立に、水素原子、または炭素数1以上、18以下の炭化水素基であることを特徴とする複素環化合物の製造方法。
〔5〕上述の〔1〕から〔4〕までのいずれか1つに記載の複素環化合物の製造方法において、前記式(1)で示される酸ハロゲン化物と、前記式(2)で示される含窒素化合物およびその塩の少なくともいずれかとを反応させてアミド化合物を得るアミド化工程と、前記アミド化工程で得られたアミド化合物を脱水環化する環化工程とを備えることを特徴とする複素環化合物の製造方法。
〔6〕上述の〔1〕から〔5〕までのいずれか1つに記載の複素環化合物の製造方法において、前記アミド化工程における反応温度が−20℃以上、80℃以下であることを特徴とする複素環化合物の製造方法。
〔7〕上述の〔1〕から〔6〕までのいずれか1つに記載の複素環化合物の製造方法において、前記環化工程における反応温度が60℃以上、250℃以下であることを特徴とする複素環化合物の製造方法。
〔8〕上述の〔1〕から〔7〕までのいずれか1つに記載の複素環化合物の製造方法により製造される複素環化合物が潤滑油用途であることを特徴とする複素環化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、酸ハロゲン化物と所定の含窒素化合物とを反応させるので、少ない工程数で簡便に生産性良く高収率で製造することが可能な複素環化合物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1で得られた生成物のH−NMR(核磁気共鳴)スペクトルを示す図。
【図2】実施例1で得られた生成物のIR(赤外吸収)スペクトルを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の複素環化合物の製造方法は、下記式(1)で示される酸ハロゲン化物と、下記式(2)で示される含窒素化合物およびその塩の少なくともいずれかとを反応させることを特徴とする
−COX (1)
−NH−N(−R)−C(=Y)−NH−R (2)
【0012】
上記式(1)において、Rは炭素数6以上、50以下、好ましくは炭素数8以上、30以下、より好ましくは炭素数8以上、24以下の有機基である。この有機基としては、炭化水素基を含んでいてもよく、炭化水素基自体でもよい。炭化水素基としては直鎖状でもよく、あるいは分岐を有していてもよい。また、二重結合を有していてもよい。
の炭素数を6以上とすることにより、得られた複素環化合物は、潤滑油基油に対する充分な溶解性を有し、炭素数を50以下とすることにより、優れた摩擦低減性を発揮する化合物となり、さらに耐摩耗性や塩基価維持性も確保される。Rは、好ましくは炭素数8以上、30以下の炭化水素基であり、具体的には、オクチル基、デシル基、ドデシル基、ドデセニル基、テトラデシル基、テトラデセニル基、ヘキサデシル基、ヘキサデセニル基、オクタデシル基、オクタデセニル基、オレイル基、ステアリル基、イソステアリル基、デセンダイマー基、デセントリマー基、およびブテンオリゴマー基等の炭化水素基である。さらに好ましくは、これらのうち、炭素数8以上、24以下の炭化水素基である。
【0013】
また、Rは、アミノ基、アミド基、アルコール性ヒドロキシル基、カルボニル基、ホルミル基、カルボキシ基、エステル結合、エーテル結合およびハロゲン原子から選ばれる少なくとも1種の官能基を含んでいてもよい。例えば、前記した炭化水素基が前記した各種の官能基を含んだ構造であってもよい。
Xは、塩素原子、臭素原子、およびヨウ素原子等のハロゲン原子であるが、化合物の安定性と反応性のバランスより塩素原子であることが好ましい。
【0014】
上記式(2)において、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、アルコール性ヒドロキシル基、メルカプト基、スルホン基、炭素数1以上、24以下、好ましくは炭素数1以上、18以下の炭化水素基のいずれかである。また、RとRは、炭化水素基の場合、アルコール性ヒドロキシル基、メルカプト基、スルホン基およびスルホニル基の少なくともいずれかの官能基を有していてもよい。Rは、水素原子、アミノ基、アルコール性ヒドロキシル基、メルカプト基、スルホン基、および炭素数1以上、24以下、好ましくは炭素数1以上、18以下の炭化水素基のいずれかである。また、Rの基本構造を炭化水素基として、アミノ基、アルコール性ヒドロキシル基、メルカプト基、スルホン基およびスルホニル基の中から選ばれる少なくともいずれかの官能基を有していてもよい。
【0015】
およびRの好ましい官能基の例としては、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、アルコール性ヒドロキシル基、メルカプト基、およびスルホン基等が挙げられる。
の好ましい官能基の例としては、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、エチルアミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ポリエチレンポリアミノ基、ジエチレントリアミノ基、トリエチレンテトラアミノ基、テトラエチレンペンタアミノ基、アミノエチルピペラジニル基、およびアルコール性ヒドロキシル基等が挙げられる。
ただし、RおよびRは少なくとも一方が水素原子である。YはNH、硫黄原子、および酸素原子のいずれかである。
【0016】
すなわち、上記式(2)で示される含窒素化合物は、一般にグアニジン類またはセミカルバジド類として知られる化合物である。本発明では、この化合物を単体で用いてもよく、塩として用いてもよい。
上記式(2)で示される含窒素化合物は、下記のように互変異性を示すことが知られている。
−NH−N(−R)−C(=NH)−NH−R
← R−NH−N(−R)−C(−NH)=N−R
−NH−N(−R)−C(=S)−NH−R
← R−NH−N(−R)−C(−SH)=N−R
−NH−N(−R)−C(=O)−NH−R
← R−NH−N(−R)−C(−OH)=N−R
が水素原子の場合には、Rの側でも同様に互変異性を示す。
【0017】
本発明における複素環化合物の製造方法では、上述の式(1)で示される酸クロライドと、式(2)で示される含窒素化合物(グアニジン類またはセミカルバジド類)やその塩とを、モル比(1):(2)=1:5から5:1までの割合で反応させることが好ましい。このモル比は、より好ましくは、(1):(2)=1:2から2:1までの割合であり、さらに好ましくは(1):(2)=1:1.5から1.5:1までの割合である。
上述のモル比(1):(2)を1:5以上かつ5:1以下とすることにより、生成物である複素環化合物について、耐摩耗剤として使用するときの有効成分量を十分な量とすることができる。言い換えれば、生成物である複素環化合物を多量に配合せずとも、摩擦低減性、耐摩耗性、および塩基価維持性を十分に発揮することができる。
【0018】
上述の反応は、−20℃以上、250℃以下の温度で行うことが好ましく、より好ましくは−15℃以上、200℃以下の温度、さらに好ましくは−10℃以上、150℃以下の温度で行うことが望ましい。
また、上述の反応は、目的物を高収率かつ高選択率(高純度)で得るために、式(1)で示される酸ハロゲン化物と、式(2)で示される含窒素化合物およびその塩の少なくともいずれかとを反応させてアミド化合物を得るアミド化工程と、前記アミド化工程で得られたアミド化合物を脱水環化する環化工程とを備えることが好ましい。そして、アミド化工程では、副生成物の生成を抑制する観点より、反応温度を、−20℃以上、80℃以下に制御することが好ましく、より好ましい反応温度は−15℃以上、60℃以下であり、さらに好ましい反応温度は−10℃以上、50℃以下である。また、環化工程では、目的物を高収率で得るために、反応温度を、60℃以上、250℃以下に制御することが好ましく、より好ましい反応温度は70℃以上、200℃以下であり、さらに好ましい反応温度は80℃以上、150℃以下である。
【0019】
また、上述の反応は、中和の観点より、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、陰イオン交換樹脂、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウムなど塩基性触媒の存在下で行うことが好ましい。さらにまた、反応を行うに際しては、炭化水素油、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルフォルムアミド(DMF)、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)、メチル−t−ブチルエーテル(MTBE)、1,4−ジオキサン、水等の溶媒を使用することもできる。これらの溶媒は混合して用いてもよい。なお、反応生成物は塩を取除いたあとカラムクロマトや蒸留等により精製することで、さらに純度を高めることができる。
【0020】
このような反応により、例えば、以下の式(3)に示すような各種の複素環化合物が得られる。
【0021】
【化1】

【0022】
上記した式(3)において、Rは前記式(1)におけるものと同じである。R、RおよびRはそれぞれ前記式(2)におけるものと同じである。また、YはNH、SHまたはOHである。
本発明の製造方法によれば、少ない工程数で、簡便かつ安価に、生産性良く高収率で複素環化合物を得ることができる。
【0023】
上述した方法で得られる複素環化合物は、摩擦調整剤や耐摩耗剤等の添加剤として潤滑油用途に好ましく用いられる。また、該複素環化合物を含む組成物を潤滑油添加剤組成物として使用することもできる。
【0024】
また、上述した複素環化合物を摩擦調整剤や耐摩耗剤として使用する場合は、該複素環化合物を、硼素、珪素、モリブデン、亜鉛、カルシウムの中から選ばれる少なくとも1種を含む化合物との塩とすることが好ましい。
このような硼素、珪素、モリブデン、亜鉛、カルシウムの中から選ばれる少なくとも一種を含む化合物のうち、硼素含有化合物としては、例えば、酸化硼素、ハロゲン化硼素、硼酸、硼酸無水物、硼酸エステルなどを使用することができる。珪素含有化合物としては、例えば、酸化珪素、ハロゲン化珪素、珪酸、珪酸無水物、珪酸エステルなどを使用することができる。モリブデン含有化合物としては、例えば、酸化モリブデン、ハロゲン化モリブデン、モリブデン酸などを使用することができる。亜鉛含有化合物としては、例えば、酸化亜鉛、ハロゲン化亜鉛などを使用することができる。カルシウム含有化合物としては、例えば、酸化カルシウム、水酸化カルシウムなどを使用することができる。
【0025】
このような複素環化合物との塩は、硼素、珪素、モリブデン、亜鉛、カルシウムの中から選ばれる少なくとも1種を含む化合物を該複素環化合物に対してモル比1:0.01から1:10までの割合で、好ましくは1:0.05から1:5までの割合で反応させることにより得ることができる。この反応は、50℃以上、250℃以下の温度で、行うことが好ましく、より好ましい温度は、100℃以上、200℃以下である。
反応を行うに際しては、炭化水素油、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン等の有機溶媒を使用することもできる。
【0026】
本発明の製造方法で得られた複素環化合物や、該複素環化合物と上述の硼素含有化合物等との塩を、潤滑油基油に0.01質量%以上、20質量%以下の割合で配合することにより潤滑油組成物を好ましく調製することができる。その際のより好ましい配合量は、組成物全量基準で0.05質量%以上、10質量%以下の範囲であり、さらに好ましい配合量は0.1質量%以上、5質量%以下の範囲である。該複素環化合物等の配合量が0.01質量%未満であると、その配合効果を十分に発揮できないおそれがある。一方、該複素環化合物等の配合量が20質量%を超えても効果の向上はあまり期待できない。
【0027】
ここで、潤滑油基油としては、炭化水素油や合成油を用いることができる。炭化水素油としては、例えば、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油、芳香族系鉱油などのいずれでもよく、溶剤精製、水素化精製または水素化分解などのいかなる精製方法を経たものでも用いることができる。合成油としては、ポリフェニルエーテル、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、エステル油、グリコール系またはポリオレフィン系合成油などを用いることができる。
【0028】
上述した複素環化合物やその塩は、摩擦低減性、耐摩耗性、塩基価維持性、酸化安定性に優れている。それ故、該複素環化合物やその塩を鉱油系の炭化水素油や合成油あるいはそれらの混合物に配合したものは、内燃機関(ディーゼルエンジン、ガソリンエンジン)、ギヤ、軸受、変速機、ショックアブソーバーおよび工業用駆動系伝達機関等に使用すると、極めて優れた耐摩耗性、低摩擦特性および塩基価維持性能を発揮する。なお、該複素環化合物やその塩は、潤滑油用添加剤としてだけでなく燃料油添加剤としても好適である。
【0029】
上述した複素環化合物やその塩を潤滑油基油に配合して潤滑油組成物を調製する際は、潤滑油添加剤として一般に配合される酸化防止剤、耐摩耗剤、極圧剤、清浄分散剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤およびその他の添加剤を併用してもよい。
【0030】
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、モリブデンアミン錯体系酸化防止剤、および硫黄系酸化防止剤等が挙げられる。フェノール系としては、ビスフェノール系およびエステル基含有フェノール系のものが好適である。アミン系酸化防止剤としては、ジアルキルジフェニルアミン系およびナフチルアミン系のものが好適である。酸化防止剤の配合量は、潤滑油組成物全量基準で、0.1質量%以上、5質量%以下程度が好ましく、より好ましくは0.1質量%以上、3質量%以下程度である。
【0031】
耐摩耗剤や極圧剤としては、ジチオリン酸亜鉛、リン酸亜鉛、ジチオカルバミン酸亜鉛、ジチオカルバミン酸モリブデン、ジチオリン酸モリブデン、ジスルフィド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類、硫化エステル類、チオカーボネート類、チオカーバメート類、ポリサルファイド類等の硫黄含有化合物;亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、ホスホン酸エステル類、およびこれらのアミン塩または金属塩等のリン含有化合物;チオ亜リン酸エステル類、チオリン酸エステル類、チオホスホン酸エステル類、およびこれらのアミン塩または金属塩等の硫黄およびリン含有耐摩耗剤が挙げられる。これらの耐摩耗剤や極圧剤を必要に応じて配合する場合、好ましい配合量は、組成物全量基準で0.05質量%以上、5質量%以下程度である。
なお、亜鉛含有化合物の場合は、組成物全量基準で、亜鉛として10質量ppm以上、600質量ppm以下であることが好ましく、より好ましくは20質量ppm以上、500質量ppm以下、さらに好ましくは30質量ppm以上、400質量ppm以下である。また、リン含有化合物の場合、組成物全量基準で、リンとして元素換算で10質量ppm以上、500質量ppm以下であることが好ましく、より好ましくは20質量ppm以上、400質量ppm以下、さらに好ましくは30質量ppm以上、300質量ppm以下である。
【0032】
清浄分散剤としては、無灰系分散剤および金属系清浄剤を用いることができる。無灰系分散剤としては、潤滑油用として一般的に用いられる任意の無灰系分散剤を配合することができる。例えば、モノタイプのアルケニル若しくはアルキルコハク酸イミド化合物、またはビスタイプのアルケニル若しくはアルキルコハク酸イミド化合物、およびポリアミンなどが挙げられる。また、アルケニル若しくはアルキルコハク酸イミド化合物の他に、そのホウ素誘導体、あるいは、これらを有機酸で変性したものを用いてもよい。アルケニル若しくはアルキルコハク酸イミド化合物のホウ素誘導体は、常法により製造したものを使用することができる。例えば、ポリオレフィンを無水マレイン酸と反応させてアルケニルコハク酸無水物とした後、更に、ポリアミンに、酸化ホウ素、ハロゲン化ホウ素、ホウ酸、ホウ酸無水物、ホウ酸エステル、あるいはホウ素酸のアンモニウム塩等のホウ素化合物を反応させて得られる中間体を反応させてイミド化させることによって得られる。
上述したホウ素誘導体中のホウ素含有量には、特に制限はないが、通常、0.05質量%以上、5質量%以下、好ましくは0.1質量%以上、3質量%以下である。
モノタイプのコハク酸イミド化合物、あるいはビスタイプのコハク酸イミド化合物の配合量は、組成物全量基準で、0.5質量%以上、15質量%以下が好ましく、より好ましくは1質量%以上、10質量%以下である。配合量が0.5質量%未満であると、その効果が発揮されにくく、また15質量%を超えてもその配合量に見合った効果は得られない。また、コハク酸イミド化合物は、上記の量を配合する限り、単独または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
金属系清浄剤としては、潤滑油に用いられる任意のアルカリ土類金属系清浄剤が使用可能であり、例えば、アルカリ土類金属スルフォネート、アルカリ土類金属フェネート、アルカリ土類金属サリシレートおよびこれらの中から選ばれる2種類以上の混合物等が挙げられる。このような金属系清浄剤としては、中性塩、塩基性塩、過塩基性塩およびこれらの混合物等を用いることができ、特に過塩基性サリチレート、過塩基性フェネート、過塩基性スルフォネートの1種以上と中性スルフォネートとの混合物が清浄性、耐摩耗性の観点より好ましい。金属系清浄剤は、通常、軽質潤滑油基油等で希釈された状態で市販されており、容易に入手可能である。一般的に、その金属含有量が1質量%以上、20質量%以下のものが好ましく、より好ましい金属含有量は2質量%以上、16質量%以下である。また、金属系清浄剤の配合量は、組成物全量基準で、0.01質量%以上、20質量%以下が好ましく、より好ましくは0.1質量%以上、10質量%以下である。配合量が0.01質量%未満であると、その効果が発揮されにくく、また20質量%を超えてもその添加に見合った効果は得られない。また、金属系清浄剤は、上記の配合量の範囲内であれば、単独でもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
粘度指数向上剤としては、例えば、ポリメタクリレート、分散型ポリメタクリレート、オレフィン系共重合体(例えば、エチレン−プロピレン共重合体など)、分散型オレフィン系共重合体、スチレン系共重合体(例えば、スチレン−ジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体など)などが挙げられる。粘度指数向上剤の配合量は、配合効果の点から、組成物全量基準で、0.5質量%以上、15質量%程度であり、好ましくは1質量%以上、10質量%以下である。
流動点降下剤としては、例えば、質量平均分子量が5000以上、50,000以下程度のポリメタクリレートなどが挙げられる。流動点降下剤の好ましい配合量は、配合効果の点から、組成物全量基準で、0.1質量%以上、2質量%以下であり、より好ましくは、0.1質量%以上、1質量%以下である。
その他の添加剤としては、防錆剤、金属不活性化剤、消泡剤、および界面活性剤などが挙げられる。
【実施例】
【0035】
以下に、本発明について実施例および比較例を挙げてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例等に何ら限定されるものではない。
【0036】
〔実施例1〕
氷浴下、300mLのセパラブルフラスコに、アミノグアニジン塩酸塩6.08g(0.05mol)、水 20mL、1,4−ジオキサン 80mL、水酸化ナトリウム4.62g(0.116mol)を入れ、窒素気流下、0.5時間反応させた。次いで、1,4−ジオキサン20mlに希釈したオレイン酸 クロライド15.04g(0.05mol)を、液温が10℃を超えないようにゆっくり滴下した。その後、氷浴下で1時間攪拌し、20℃以上、35℃以下で2時間反応させた。その後、水および1,4−ジオキサンを除去しながら130℃に昇温して4時間反応させた。反応後の溶液にトルエン200mlを加え100℃で攪拌して反応生成物を溶解した後、吸引濾過で塩を取除いた。最後にトルエンを留去し目的物を得た。
参考までに、反応生成物(目的物)のH−NMR(核磁気共鳴)スペクトルを図1に示し、IR(赤外吸収)スペクトルを図2に示す。反応生成物は、5−(ヘプタデク−8−エニル)−1,2,4−トリアゾール−3−アミンであった。
【0037】
〔実施例2〕
オレイン酸の代わりにステアリン酸クロライド15.14g(0.05mol)、1,4−ジオキサンの代わりにテトラヒドロフランを使用した以外は、実施例1と同様に反応を行い、5−ヘプタデカン−1,2,4−トリアゾール−3−アミンを得た。反応に要した時間は、実施例1と同様であった。
【0038】
〔実施例3〕
オレイン酸の代わりにイソステアリン酸クロライド15.15g(0.05mol)、1,4−ジオキサンの代わりにテトラヒドロフランを使用した以外は、実施例1と同様に反応を行い、5−(ヘプタデカン−8−イル)−1,2,4−トリアゾール−3−アミンを得た。反応に要した時間は、実施例1と同様であった。
【0039】
〔実施例4〕
オレイン酸の代わりにパルミチン酸クロライド13.74g(0.05mol)、1,4−ジオキサンの代わりにテトラヒドロフランを使用した以外は、実施例1と同様に反応を行い、5−ペンタデシル−1,2,4−トリアゾール−3−アミンを得た。反応に要した時間は、実施例1と同様であった。
【0040】
〔実施例5〕
オレイン酸の代わりにエルカ酸クロライド17.85g(0.05mol)を使用した以外は、実施例1と同様に反応を行い、5−(ヘニコス−12−エニル)−1,2,4−トリアゾール−3−アミンを得た。反応に要した時間は、実施例1と同様であった。
【0041】
〔実施例6〕
アミノグアニジン塩酸塩の代わりにメチルアミノグアニジン塩酸塩6.85g(0.055mol)を使用した以外は、実施例1と同様に反応を行い、5−(ヘプタデク−8−エニル)−2−メチル−1,2,4−トリアゾール−3−アミンを得た。反応に要した時間は、実施例1と同様であった。
【0042】
〔実施例7〕
オレイン酸の代わりにステアリン酸クロライド15.14g(0.05mol)、アミノグアニジン塩酸塩の代わりにメチルアミノグアニジン塩酸塩6.85g(0.055mol)1,4−ジオキサンの代わりにテトラヒドロフランを使用した以外は、実施例1と同様に反応を行い、5−ヘプタデカン−2−メチル−1,2,4−トリアゾール−3−アミンを得た。反応に要した時間は、実施例1と同様であった。
【0043】
〔実施例8〕
オレイン酸の代わりにエルカ酸クロライド17.85g(0.05mol)、アミノグアニジン塩酸塩の代わりにメチルアミノグアニジン塩酸塩6.85g(0.055mol)を使用した以外は、実施例1と同様に反応を行い、5−(ヘニコス−12−エニル)−2−メチル−1,2,4−トリアゾール−3−アミンを得た。反応に要した時間は、実施例1と同様であった。
【0044】
〔実施例9〕
100mLのフラスコに、実施例1で得られた5−(ヘプタデク−8−エニル)−1,2,4−トリアゾール−3−アミン 5.0g(0.016mol)、硼酸 0.3g(0.005mol)を入れ、窒素気流下、80℃で1時間反応させた。次いで、150℃に昇温して3時間反応させ、次いで、水を減圧留去した。生成物の硼素含有量は1.0質量%であった。
【0045】
〔比較例1〕
500mLのフラスコに、水素化ナトリウム(NaH) 1.3g(0.055mol)、ジメチルフォルムアミド(DMF) 100mLを入れた。それに、DMF100mLに溶解した3,5−ジアミノ−1,2,4−トリアゾール 5.0g(0.05mol)を滴下し、100℃で2時間反応させた。
次いで、反応混合物にオレイルブロマイド 16.6g(0.05mol)を滴下し、100℃で4時間反応させた。DMFを留去後、トルエン 200mLに溶解して十分に水洗した。硫酸マグネシウムで乾燥後、トルエンを留去して、1−オレイル−3,5−ジアミノ−1,2,4−トリアゾールと4−オレイル−3,5−ジアミノ−1,2,4−トリアゾールの混合物を得た。
【0046】
〔比較例2〕
500mLのフラスコに、NaH 1.4g(0.037mol),DMF 20mLを入れた。それにDMF 30mLに溶解したベンゾイミダゾール 4.2g(0.036mol)を滴下し、室温で30分間反応させた。
次いで、反応混合物にトルエン 15mLに溶解した2−デシル−1−ブロモテトラデカン 12.6g(0.03mol)を滴下し、100℃で7時間反応させた。溶媒を留去後、ヘキサン 300mLに溶解して水洗した。硫酸マグネシウムで乾燥後、ヘキサンを留去して、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して1−(2−デシルテトラデシル)ベンゾイミダゾールを得た。
【0047】
〔比較例3〕
1Lのフラスコに、ジイソプロピルアミン 7.4g(0.073mol),THF 100mLを入れた。それに−30℃でブチルリチウム 44mL(1.67Mヘキサン溶液;0.073mol)を滴下し、同温で30分間攪拌した。
次いで、γ―ピコリン 5.1g(0.055mol)のTHF溶液(80mL)を加え、−10℃で1時間30分攪拌した。次に、2−デシル−1−ブロモテトラデカン15.0g(0.036mol)のTHF溶液(80mL)を滴下し、室温で1時間、40℃で4時間反応させた。反応混合物に飽和塩化アンモニウム水溶液を加えた後、ヘキサンで抽出し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を留去後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し4−(3−デシルペンタデシル)ピコリンを得た。
【0048】
〔比較例4〕
500mlのフラスコに、オレイン酸56.5g(0.2mol)、アミノグアニジン重炭酸塩28.4g(0.21mol)、水20ml、キシレン100mlを入れ、窒素気流下、100℃で1時間反応させた。次いで、水およびキシレンを除去しながら180℃に昇温して5時間反応させた。反応混合物の酸価消失を反応終点とした。生成物は、5−(8−ヘプタデセン)−3−アミノ−1,2,4−トリアゾールであった。
【0049】
上述のように、各実施例とも各比較例に比べ、少ない工程数で、簡便に生産性良く高収率で複素環化合物を製造することができた。また、実施例9に示すように、該複素環化合物と硼素含有化合物との塩を製造することも容易である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示される酸ハロゲン化物と、
−COX (1)
(式中、Rは炭素数6以上、50以下の有機基である。この有機基は、アミノ基、アミド基、アルコール性ヒドロキシル基、カルボニル基、ホルミル基、カルボキシル基、エステル結合、エーテル結合およびハロゲン原子から選ばれる少なくとも1種の官能基を含んでいてもよい。Xは、ハロゲン原子である。)
下記式(2)で示される含窒素化合物およびその塩の少なくともいずれかとを反応させることを特徴とする複素環化合物の製造方法。
−NH−N(−R)−C(=Y)−NH−R (2)
(式中、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、アルコール性ヒドロキシル基、メルカプト基、スルホン基、炭素数1以上、24以下の炭化水素基のいずれかである。また、RとRは、炭化水素基の場合、アルコール性ヒドロキシル基、メルカプト基、スルホン基およびスルホニル基の少なくともいずれかの官能基を有していてもよい。Rは、水素原子、アミノ基、アルコール性ヒドロキシル基、メルカプト基、スルホン基、および炭素数1以上、24以下の炭化水素基のいずれかである。また、Rが炭化水素基の場合、アミノ基、アルコール性ヒドロキシル基、メルカプト基、スルホン基およびスルホニル基の中から選ばれる少なくともいずれかの官能基を有していてもよい。また、RおよびRは少なくとも一方が水素原子である。YはNH、硫黄原子、および酸素原子のいずれかである。)
【請求項2】
請求項1に記載の複素環化合物の製造方法において、
前記式(1)におけるXが塩素である
ことを特徴とする複素環化合物の製造方法
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の複素環化合物の製造方法において、
前記式(1)におけるRが炭化水素基である
ことを特徴とする複素環化合物の製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の複素環化合物の製造方法において、
前記式(2)におけるR、RおよびRがそれぞれ独立に、水素原子、または炭素数1以上、18以下の炭化水素基である
ことを特徴とする複素環化合物の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の複素環化合物の製造方法において、
前記式(1)で示される酸ハロゲン化物と、前記式(2)で示される含窒素化合物およびその塩の少なくともいずれかとを反応させてアミド化合物を得るアミド化工程と、
前記アミド化工程で得られたアミド化合物を脱水環化する環化工程とを備える
ことを特徴とする複素環化合物の製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の複素環化合物の製造方法において、
前記アミド化工程における反応温度が−20℃以上、80℃以下である
ことを特徴とする複素環化合物の製造方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の複素環化合物の製造方法において、
前記環化工程における反応温度が60℃以上、250℃以下である
ことを特徴とする複素環化合物の製造方法。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載の複素環化合物の製造方法により製造される複素環化合物が潤滑油用途である
ことを特徴とする複素環化合物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−84494(P2011−84494A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−237241(P2009−237241)
【出願日】平成21年10月14日(2009.10.14)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)