説明

視床下部−脳下垂体−副腎軸過敏性により特徴付けられる非定型うつ病及び他の疾患の治療のプロバイオティック

プロバイオティック細菌を対象に投与する過程からなり、視床下部−脳下垂体−副腎軸過敏性により特徴付けられる疾患を治療する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2003年5月8日付けで出願された米国仮特許出願第60/468,812号の利益を主張する。
【0002】
本発明は、視床下部−脳下垂体−副腎軸過敏性により特徴付けられるうつ病及び他の疾患の治療におけるプロバイオティックの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
視床下部−脳下垂体−副腎軸(HPA)の機能の障害は、大部分のうつ病において一貫して最もよく現れる神経内分泌異常である。デキサメタゾンを一晩投与することで抑制されるコルチゾール過剰症及び関連する不全がしばしば認められる。また、副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)免疫反応性の高いCSFレベルが、CRH刺激によるACTH放出の鈍化と共に報告されている。これらの変化は、CT又はMRI画像のいずれによっても証明可能な副腎過形成がある場合に起こる(Dinan T著, Glucocorticoids and the genesis of depressive illness: a psychobiological model, Brit. J. Psychiat, 1984年 ; 21: P.813-829)。
【0004】
また、大部分のうつ病には、インタロイキン−1(IL1)及びIL6のような炎症性サイトカインの著しい増加を示す証拠がある(Maes M著, The immunoregulatory effects of antidepressants, Hum. Psychopharmacol, 2001年; 16: P.95- 103.)。これらサイトカインは両方とも、HPAを強く活性化することが知られており、かつうつ病に見られるHPA活性化を持続する役割を果たすことがある。うつ病の有効な治療は、炎症性サイトカインの抑制及びHPAの活性化の減少を伴う。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
視床下部−脳下垂体−副腎軸過敏性により特徴付けられる疾患を治療する方法である。この方法は、プロバイオティック細菌を対象に投与する過程を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明によれば、免疫制御を改善しかつ適切なHPAシグナル伝達を増進する細菌菌株が提供される。ラクトバシルス・サリバリウス株UCC118の寄託が行われ、かつ受託番号NCIMB40829が付与された。ラクトバシルス・パラカゼイ株AH113の寄託が行われ、かつ受託番号NCIMB41097が付与された。ビフィドバクテリウム・インファンティス株35624の寄託がNCIMBにおいて行われ、かつ受託番号NCIMB41003が付与された。本願発明者の予備的なデータは、これらの菌株が特に抗うつ作用を有することを示唆している。
【0007】
本発明は、HPA軸の調節により仲介されたプロバイオティック細菌の中心効果(central effect)に関する。プロバイオティック生物がHPAに影響を与え得るメカニズムの1つは、粘膜性上皮及び関連するリンパ様構造との相互作用を通じてのものであり、それによりホストに抗炎症性である分子を上方制御させかつ表現させる。これらは、IL−10及びTGFβのようなサイトカインを含むものである。本発明は、免疫調節機能及びHPA活性を減少させる能力を有するプロバイオティック菌株を目的としている。
【実施例1】
【0008】
血清サイトカインレベルへのプロバイオティック効果
ビフィドバクテリウム35624を15人の健康なボランティアに3週間に亘って摂取させた。血清サイトカインレベルを摂取前及び摂取後で検査した。可溶性IL−6受容体(sIL−6R)及びIL−8レベルが、プロバイオティック給餌後に著しく減少した(図1)。SIL−6RがIL−6シグナル伝達に必要であるのに対し、IL−8は炎症性ケモカインである。
【実施例2】
【0009】
PBMCサイトカイン産生へのプロバイオティック効果
末梢血単核細胞を健康なドナー(N=5)から密度勾配遠心分離法により分離した。PBMCをプロバイオティック菌株で72時間に亘って37℃で刺激した。このとき、培養上清を収集し、遠心分離し、分割し、ELISA(R&Dシステムズ)を用いてIL−10レベルについて評価されるまで−70℃で保管した。Lb.パラカゼイAH113によりPBMCからのIL−10分泌を刺激した(図2)。
【実施例3】
【0010】
リンパ節サイトカイン産生へのプロバイオティック効果
ヒト腸間膜リンパ節細胞(MLNC)を切除標本から分離し、かつ生体外でLb.サリバリウスUCC118、B.インファンティス35624又はサルモネラ・ティフィムリウムで3日間刺激した。上清を収穫し、かつELISAを用いてサイトカインレベルを評価した。
【0011】
プロバイオティック細菌Lb.サリバリウスUCC118及びB.インファンティス35624が、TNFαまたはIL−12のような炎症性サイトカインの誘導無しで、IL−10及びTGFβの産生を刺激した。対照的に、S.ティフィムリウムでの共インキュベーションにより、IL−10又はTGFβの放出無しで炎症性サイトカインの産生を誘導した。これらプロバイオティック細菌との接触後の生体内でのIL−10又はTGFβの産生により、異常なHPA活性を下方制御することができた(図3)。
【実施例4】
【0012】
実例の報告
患者1は、6週間のうつ病の症歴を有する36歳の男性であった。この男性は以前に4年前にうつ病を患っていた。患者1は、落ち込み、アンヘドニア、早朝覚醒、食欲不振、2kgの体重減少、大きな不安及び将来に関する悲観的な考えを訴えた。患者1のハミルトンうつ病スコアは23であった。
【0013】
患者1は気分障害に強い家系の病歴を持っていた。患者1は現れたとき薬物治療を課されていなかった。患者1にビフィドバクテリアをミルクに懸濁させて投与し、患者1はこれを12週間毎日摂取した。第2週の終わりには、患者1の精神状態に著しい改善があり、第3週までに患者1は症状が無くなり、ハミルトンうつ病スコアが4であった。
【0014】
患者2は2年間の病歴を有する56歳の女性であった。肉体的検査は全て陰性であったが、その症状に基づいて、疾病管理センターの規準を用いて慢性疲労症候群を患っていると診断された。患者2は、1クールの認知行動療法及び一定回数の選択的セロトニン再取り込み阻害剤の投与に反応できなかった。患者2には、ビフィドバクテリアをミルクに懸濁させて与え、これを20週間に亘って毎日摂取させた。
【0015】
第6週までに、患者2はその精力レベルに改善を示した。6週間後、患者2は散歩を毎日3.2km(2マイル)行っていた。このような力を発揮することは、最初に現れたときは不可能であった。18週間までに、患者2はパートタイムで働き始めた。
【0016】
以上、本発明の様々な特定の実施例について詳細に説明したが、本発明はこれらの実施例そのものに限定されるのではなく、当業者によれば、本発明の技術的範囲内において、上記実施例に様々な変更・又は変形を加えて実施し得ることが理解される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】ビフィドバクテリウム・インファンティス35624の消費が血清サイトカインレベルに作用する影響を示す図である。
【図2】ヒトPBMCからのIL−10を刺激するLb.パラカゼイAH113の能力を示す図である。
【図3】サルモネラが炎症性サイトカインを刺激するのに対し、ラクトバシリ及びビフィドバクテリアがIL−10及びTGFβを刺激することを説明する図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細菌菌株を対象に投与する過程からなるうつ病の治療方法。
【請求項2】
前記細菌菌株がラクトバシルス菌である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記菌株がビフィドバクテリウム菌である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記細菌菌株がプロバイオティック細菌である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記プロバイオティック細菌がラクトバシルス・サリバリウスである請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記プロバイオティック細菌がラクトバシルス・カゼイである請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記プロバイオティック細菌がビフィドバクテリウム・ロンガム/インファンティスである請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記細菌菌株がラクトバシルス・サリバリウス菌UCC118である請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記細菌菌株がラクトバシルス・カゼイ菌AH113である請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記細菌菌株がビフィドバクテリウム・インファンティス菌35624である請求項1に記載の方法。
【請求項11】
プロバイオティック細菌を対象に投与する過程からなり、視床下部−脳下垂体−副腎軸過敏性により特徴付けられる疾患を治療する方法。
【請求項12】
前記疾患が、クッシング病、不安障害、心理社会的障害、ストレス、非定型うつ病、パニック障害及び疲労感からなる群から選択される請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記プロバイオティック細菌が、ラクトバシルス菌、ビフィドバクテリウム菌、ラクトバシルス・サリバリウス、ラクトバシルス・カゼイ、ビフィドバクテリウム・ロンガム/インファンティス、ラクトバシルス・サリバリウス菌UCC118、ラクトバシルス・カゼイ菌AH113、及びビフィドバクテリウム・インファンティス菌35624からなる群から選択される請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記対象がヒト、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、哺乳動物又は爬虫類である請求項11に記載の方法。
【請求項15】
ラクトバシルス菌、ビフィドバクテリウム菌、ラクトバシルス・サリバリウス、ラクトバシルス・カゼイ、ビフィドバクテリウム・ロンガム/インファンティス、ラクトバシルス・サリバリウス菌UCC118、ラクトバシルス・カゼイ菌AH113、及びビフィドバクテリウム・インファンティス菌35624から選択される群からなる細菌細胞であって、前記細胞又はその成分若しくは突然変異体が死んでいる細菌細胞。
【請求項16】
食品、錠剤、カプセル又は他の製剤として投与するための、プロバイオティック、又はその活性誘導体、断片若しくは突然変異体からなる医薬組成物。
【請求項17】
経腸又は非経口投与のための、プロバイオティック、又はその活性誘導体、断片若しくは突然変異体からなる医薬組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2006−525313(P2006−525313A)
【公表日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−506633(P2006−506633)
【出願日】平成16年5月10日(2004.5.10)
【国際出願番号】PCT/IB2004/002284
【国際公開番号】WO2004/098622
【国際公開日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(504031045)アリメンタリー・ヘルス・リミテッド (4)
【Fターム(参考)】