説明

視標呈示装置

【課題】観測者に対して視標の歪みを気にさせることなく観測対象の像を視標として呈示しつつ、装置の幅を薄くする。
【解決手段】視標呈示装置は、観測対象の像を視標として観測者に呈示する装置である。視標呈示装置は、観測対象を投射する表示装置1と、表示装置1から発せられた光を反射光と透過光とに分割する分割面21を有するビームスプリッタ2と、反射光が投影される鏡面31を有し像を形成する凹面鏡3とを備える。鏡面31の中心点32に投影される反射光24が中心点32における法線33に対して表示装置1側に傾斜するように、ビームスプリッタ2および凹面鏡3が配置されている。ビームスプリッタ2の分割面21は非平面に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、観測対象の像を視標として観測者に呈示する視標呈示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報技術の進歩に伴い、視覚端末装置(VDT:Visual Display Terminal)を用いた作業(以下「VDT作業」という)が増加している。情報技術の進歩によって、作業効率および作業精度を大きく向上させることができる。
【0003】
ところが、長時間のVDT作業は、作業者に眼の疲労を与える。同様の眼の疲労は、テレビモニタを長時間にわたって視聴した場合などにも生じる。視覚端末装置またはテレビモニタの表示画面を使用者が近距離で注視する場合、眼の焦点調節機能の駆動源である毛様体筋が緊張状態になる。毛様体筋の緊張状態は眼精疲労の一因となる。
【0004】
上記のような眼精疲労を軽減するためには、使用者は適度に遠方視することが望ましい。
【0005】
そこで、従来から、凹面鏡およびハーフミラーを用いて視標を遠方に呈示して眼精疲労を軽減させる視標呈示装置が提案されている(例えば特許文献1など)。従来の視標呈示装置は、図17に示すように、表示装置91から発せられた光の光軸に対して45°(角θ2=45°)で斜交するハーフミラー92が表示装置91と凹面鏡93との間に配置されている。凹面鏡93の鏡面931は球面である。凹面鏡93の光軸933は、ハーフミラー92で分割され凹面鏡93の中心点932に投影された反射光の光軸と一致する。観測対象を投射するための光がハーフミラー92で凹面鏡93の方向に反射し、凹面鏡93により観測対象の虚像が形成される。観測者は、ハーフミラー92を通して観測対象の虚像を観測することができる。
【0006】
上記視標呈示装置のように凹面鏡93を用いた場合の視標呈示の原理について説明する。観測対象が凹面鏡93の焦点位置より凹面鏡93側にあるとき、凹面鏡93により観測対象の虚像が形成される。凹面鏡93と虚像との間の距離A2は、凹面鏡93と観測対象との間の距離A1と焦点距離fとによって、式(1)のように表わされる。また、観測対象の虚像の大きさB2は、観測対象の大きさB1と焦点距離fとによって、式(2)のように表わされる。
【0007】
A2=A1×f/(A1−f) (1)
B2=B1×|f|/|A1−f| (2)
上記視標呈示装置では、凹面鏡93の中心点932と焦点位置との間に観測対象が配置された際に形成される虚像を視標とする。例えば焦点距離f=150mm、曲率半径300mmの球面で構成される凹面鏡93を用いた場合、距離A1=100mmのとき距離A2=−0.3mとなり、距離A1=148mmのとき距離A2=−11.0mとなる。虚像の位置を観測対象に比べて遠方にすることができる。
【0008】
上記より、従来の視標呈示装置は、観測者の視線上で、視標としての虚像の位置を遠方にすることができ、視標を注視する観測者の眼精疲労を軽減させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2010/050459号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のような視標呈示装置は、視標を観測する観測者がVDT作業または視聴行為を行う際に用いられるから、一般のVDT作業場または住居への設置を考慮する必要がある。
【0011】
しかしながら、従来の視標呈示装置は、図17に示すようにハーフミラー92を表示装置91および凹面鏡93の光軸933に対して45°(角θ2=45°)で斜交するように配置されているため、装置の奥行き(光軸933方向の幅)が厚くなり、設置場所が限定されるという問題があった。
【0012】
なお、上記の問題を解決する際に、従来の視標呈示装置に比べて、視標の歪みが増加することは好ましくない。
【0013】
本発明は上記の点に鑑みて為され、本発明の目的は、観測者に対して視標の歪みを気にさせることなく観測対象の像を視標として呈示しつつ、装置の幅を薄くすることができる視標呈示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の視標呈示装置は、観測対象の像を視標として観測者に呈示する視標呈示装置であって、前記観測対象を投射する投射部と、前記投射部から発せられた光を反射光と透過光とに分割する分割面を有するビームスプリッタと、前記反射光が投影される鏡面を有し前記像を形成する凹面鏡とを備え、前記鏡面の中心点に投影される前記反射光が前記中心点における法線に対して前記投射部側に傾斜するように、前記ビームスプリッタおよび前記凹面鏡が配置され、前記ビームスプリッタの前記分割面は非平面に形成されていることを特徴とする。
【0015】
この視標呈示装置において、前記像は虚像であることが好ましい。
【0016】
この視標呈示装置において、前記ビームスプリッタの前記分割面は、前記凹面鏡側へ凸状になるように形成されていることが好ましい。
【0017】
この視標呈示装置において、前記像は実像であることが好ましい。
【0018】
この視標呈示装置において、前記ビームスプリッタの前記分割面は、前記凹面鏡とは反対側へ凸状になるように形成されていることが好ましい。
【0019】
この視標呈示装置において、前記凹面鏡の前記鏡面は非球面に形成されていることが好ましい。
【0020】
この視標呈示装置において、前記観測対象と前記凹面鏡との間の光学距離を変化させる距離調整部を備えることが好ましい。
【0021】
この視標呈示装置において、前記投射部は、前記観測対象を投射するための光を発する光源と、前記光源から発せられた光を反射光と透過光とに分割する投射側ビームスプリッタと、前記投射側ビームスプリッタで分割された反射光を前記ビームスプリッタ側に反射させる投射側凹面鏡とを有することが好ましい。
【0022】
この視標呈示装置において、前記光源と前記投射側凹面鏡との間の光学距離を変化させる投射側距離調整部を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、凹面鏡の鏡面の中心点に投影される反射光が法線に対して投射部側に傾斜するようにビームスプリッタおよび凹面鏡が配置され、ビームスプリッタの分割面が非平面に形成されている。これにより、本発明では、視標となる像の歪みを増加させることなく、装置の幅を薄くすることができる。つまり、本発明は、観測者に対して視標の歪みを気にさせることなく観測対象の像を視標として呈示しつつ、従来の視標呈示装置の幅に比べて、装置の幅を薄くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施形態1に係る視標呈示装置の概略図である。
【図2】同上に係る視標呈示装置の構成を示す断面図である。
【図3】同上に係る視標呈示装置の設計パラメータを説明する図である。
【図4】同上に係る視標呈示装置において、(a)は視距離が0.5mである場合の虚像のディストーション格子を示す図、(b)は視距離が5.0mである場合の虚像のディストーション格子を示す図である。
【図5】実施形態2に係る視標呈示装置の概略図である。
【図6】同上に係る視標呈示装置の設計パラメータを説明する図である。
【図7】同上に係る視標呈示装置において、(a)は視距離が1.0mである場合の虚像のディストーション格子を示す図、(b)は視距離が5.0mである場合の虚像のディストーション格子を示す図である。
【図8】実施形態3に係る視標呈示装置の概略図である。
【図9】実施形態4に係る視標呈示装置の概略図である。
【図10】実施形態5に係る視標呈示装置の概略図である。
【図11】実施形態6に係る視標呈示装置の概略図である。
【図12】同上に係る視標呈示装置の設計パラメータを説明する図である。
【図13】同上に係る視標呈示装置において、(a)は視距離が400mmである場合の実像のディストーション格子を示す図、(b)は視距離が410mmである場合の実像のディストーション格子を示す図である。
【図14】ビームスプリッタの分割面が平面である視標呈示装置の概略図である。
【図15】ビームスプリッタの分割面が平面である視標呈示装置において、(a)は視距離が0.5mである場合の虚像のディストーション格子を示す図、(b)は視距離が5.0mである場合の虚像のディストーション格子を示す図である。
【図16】ビームスプリッタの分割面が平面である視標呈示装置において、(a)は視距離が400mmである場合の実像のディストーション格子を示す図、(b)は視距離が410mmである場合の実像のディストーション格子を示す図である。
【図17】従来の視標呈示装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下の実施形態1〜6では、観測対象の像を視標として観測者に呈示する視標呈示装置について説明する。
【0026】
(実施形態1)
実施形態1に係る視標呈示装置は、図1に示すように、観測対象を表示する表示装置1と、表示装置1から発せられた光を反射光と透過光とに分割するビームスプリッタ2と、ビームスプリッタ2で分割された反射光(反射光24を含むすべての反射光)が投影される凹面鏡3とを備えている。さらに、本実施形態の視標呈示装置は、図2に示すように、表示装置1を移動させる移動装置4を備えている。本実施形態の視標呈示装置は、凹面鏡3により結像される虚像を視標として観測者に呈示する。
【0027】
表示装置1は、小型のフラットパネルディスプレイであり、図2に示すように、観測対象を表示する表示面11を備えている。表示装置1として用いられる小型のフラットパネルディスプレイとしては、例えば液晶パネルまたは有機エレクトロルミネッセンス(Organic Electro-Luminescence、以下「有機EL」という)ディスプレイなどがある。表示面11は平面であり、表示面11から発せられる光は、表示面11の法線を光軸とした光となる。表示装置1は、観測対象を表示面11に表示してビームスプリッタ2に投射する。本実施形態の表示装置1は投射部の機能を有している。表示装置1の表示面11に表示される観測対象は特に限定されず、例えば文書、静止画(写真、絵)、動画(映像)またはゲームなど、観測者の好みに応じた画像でよい。
【0028】
表示装置1は、表示画像(観測対象)の切替および表示画像に対する画像処理などを容易に制御する機能を有している。また、表示装置1は、虚像の位置に応じて表示画像の歪みと明度と表示サイズとを補正するための機能を有している。これにより、虚像の移動に対する観測者の意識を低減させることができ、従来のVDTまたはテレビモニタと同様に、観測者をVDT作業または視聴行為に集中させることができる。
【0029】
ビームスプリッタ2は、ハーフミラーであり、表示装置1から発せられた光を反射光と透過光とに分割する分割面21を有している。凹面鏡3は、ビームスプリッタ2で分割された反射光(反射光24を含むすべての反射光)が投影される鏡面31を有している。
【0030】
ビームスプリッタ2および凹面鏡3は、図1に示すように配置されている。つまり、凹面鏡3の鏡面31の中心点32に投影される反射光24が中心点32における法線33に対して表示装置1側(図1の上側)に傾斜するように、ビームスプリッタ2および凹面鏡3は配置されている。換言すると、反射光24は、図1のY軸周りにおいて法線33に対して反時計方向に傾斜している。ビームスプリッタ2の分割面21は、従来のハーフミラー92に比べて凹面鏡3の鏡面31に向かい合う方向(図1の左側)に立ち上がっている。
【0031】
ビームスプリッタ2は、凹面鏡3に対して上述したように配置されているとともに、表示装置1に対して、分割面21上の点22の接平面23と表示装置1の光軸とでなす角θ1が45°未満になるように配置されている。分割面21上の点22は、凹面鏡3の鏡面31の中心点32に投影される反射光24が生成される点である。なお、ビームスプリッタ2は必ずしもハーフミラーでなくてもよく、ハーフミラー以外の非平面板状のビームスプリッタであってもよい。
【0032】
ビームスプリッタ2の分割面21は、分割面が平面である場合に比べて、凹面鏡3により結像される表示画像(観測対象)の虚像の歪みを低減させるように非平面(曲面)に形成されている。具体的には、ビームスプリッタ2の分割面21は、凹面鏡3側へ凸状になる球面に形成されている。
【0033】
凹面鏡3は、ビームスプリッタ2により結像される虚像(以下「第2の虚像」という)と凹面鏡3との間の光学距離が焦点距離より短くなるように配置されている。第2の虚像は、表示装置1から発せられた光のうちビームスプリッタ2で反射した反射光により形成された像である。凹面鏡3は、第2の虚像が投影されることによって表示画像の虚像を形成する。つまり、凹面鏡3は、表示装置1に表示される表示画像(観測対象)がビームスプリッタ2を介して投影されることによって表示画像の虚像を形成する。凹面鏡3の鏡面31は、球面より表示画像の虚像の歪みを低減させるように楕円面(非球面)に形成されている。つまり、本実施形態の凹面鏡3は、球面鏡の場合より表示画像の虚像の歪みを低減させるような形状の楕円面鏡(非球面鏡)である。なお、凹面鏡3の鏡面31は必ずしも上記のような楕円面でなくてもよく、球面より表示画像の虚像の歪みを低減させる非球面であればよい。
【0034】
表示画像の虚像は、ビームスプリッタ2を透過して観測者に視標として呈示される。観測者の観測点8は、凹面鏡3の前方(図2の左方)に位置する。なお、表示画像の虚像は、ビームスプリッタ2の板厚を薄くすることによって、プリズム型のビームスプリッタを用いた場合に比べて、色収差を小さくすることができる。
【0035】
本実施形態の視標呈示装置では、図3に示すように、凹面鏡3の最下位置からの高さL1が155mm〜390mmの間を移動可能に表示装置1が配置され、凹面鏡3のY軸方向の長さL2が160mm、Z軸方向の長さL3が120mmである。X軸方向において、ビームスプリッタ2(点22)と凹面鏡3(中心点32)との間の距離L4は100mmであり、ビームスプリッタ2(点22)と観測点8との間の距離L5は100mmである。なお、上記の高さL1、長さL2,L3および距離L4,L5は一例であり、上記の値に限定されず、用途に応じて適宜設定される。
【0036】
図4に示すように、本実施形態の視標呈示装置における表示画像(観測対象)の虚像(図4の実線)は、図14に示すようなビームスプリッタ94の分割面941が平面である場合(図15の実線参照)に比べて、歪みが軽減する。なお、図4は、本実施形態の一例として、ビームスプリッタ2の分割面21の曲率半径が450mm、コーニック定数kが0.0であり、凹面鏡3の鏡面31の曲率半径が380mm、コーニック定数kが−0.6である場合の虚像のディストーション格子を示している。図4(a)は視距離が0.5mの場合であり、図4(b)は視距離が5.0mの場合である。ビームスプリッタ2および凹面鏡3の曲率半径およびコーニック定数kは上記の値に限定されず、用途に応じて適宜設定される。図4および図15の破線は、表示画像を示す。
【0037】
上記より、凹面鏡3の鏡面31の中心点32に投影される反射光24が法線33に対して表示装置1側に傾斜するようにビームスプリッタ2が配置された場合に、ビームスプリッタ2の分割面21を非平面(球面)にすることにより、分割面が平面であるビームスプリッタの場合に比べて虚像の歪みを低減させることができる。
【0038】
移動装置4は、図2に示すように、表示装置1の移動機構であり、保持板41と、リニアガイド42と、送りねじ43と、プーリ44と、プーリベルト45と、モータ46と、制御部47とを備えている。移動装置4は、表示装置1を移動させることによって、表示装置1に表示される表示画像(観測対象)と凹面鏡3との間の光学距離を変化させて、第2の虚像(ビームスプリッタ2に結像される虚像)と凹面鏡3との間の光学距離を変化させる。つまり、移動装置4は距離調整部の機能を有している。
【0039】
保持板41は、表示装置1を保持している。リニアガイド42は、保持板41を支持している。モータ46は、移動装置4の駆動源となる電子モータである。プーリ44およびプーリベルト45は、モータ46の回転駆動力を送りねじ43に伝達する。制御部47は、モータ46を制御する。つまり、移動装置4は、モータ46により発生する回転駆動力を送りねじ43により直線運動に変換することによって、表示装置1の上下方向の移動を実現する。このとき、制御部47は、第2の虚像と凹面鏡3との間の光学距離を凹面鏡3の焦点距離より短い範囲内で変化させるように、表示装置1を上下方向に移動させる。なお、制御部47は、例えばコンピュータの処理装置などである。上記コンピュータとしては、パーソナルコンピュータなどの汎用コンピュータであってもよいし、視標呈示装置に専用のコンピュータであってもよい。
【0040】
上記のように移動装置4が表示装置1を上下に移動させることにより、表示装置1に表示される表示画像(観測対象)と凹面鏡3との間の光学距離が変化する。上記光学距離が変化すると、表示画像の虚像と観測点8との間の光学距離が変化する。
【0041】
次に、虚像の移動範囲について説明する。表示装置1に表示される表示画像(観測対象)と虚像との位置関係を示す式(1)より、表示装置1が凹面鏡3の焦点位置に近づくにつれて、虚像は急激に無限遠へと移動する。また、20歳代の観測者が視標(虚像)を明視できる最も近い点すなわち調節近点は平均0.118m(約8.5ジオプター)といわれている。したがって、最も近い位置(最近位置)は、観測点8と虚像との間の距離が−0.1m程度の位置にすれば十分である。一方、最も遠い位置(最遠位置)は、観測点8と虚像との間の距離が−10m(−0.1ジオプター)程度の位置にすればよい。上記のような観測点8と虚像との間の距離範囲は、眼の焦点調節機能に対する疲労防止効果を十分に得ることができる範囲である。制御部47は、最遠位置と最近位置とを含むように設定された移動範囲内で表示装置1を移動させるように、モータ46を制御する。
【0042】
また、制御部47は、モータ46の回転速度を制御することによって、表示装置1の移動速度を自由に設定することができる。これにより、観測者の眼の生理学的側面に適合した移動速度則などに従う速度で表示装置1を移動させることができる。
【0043】
次に、制御部47の制御による表示装置1の移動速度について説明する。まず、観測者の眼の水晶体を薄い凸レンズに近似した場合、水晶体の中心点と虚像との間の距離s1(<0)と、水晶体の中心点と網膜(結像点)との間の距離s2(>0)と、水晶体の屈折力Dとの間には、式(3)のような関係が成り立つ。屈折力Dは、ジオプターの単位で表される。
【0044】
1/s2=1/s1+D (3)
眼の焦点調節機能とは、水晶体の中心点と虚像との間の距離s1に応じて水晶体の屈折力Dを変化させることによって常に網膜上で像を結像させる機能をいう。式(3)よりわかるように、水晶体の中心点と虚像との間の距離s1が長くなるほど、距離s1の時間変化が屈折力Dの時間変化(屈折力変化)に及ぼす度合いが小さくなる。すなわち、距離s1が短い場合(近距離の場合)と長い場合(遠距離の場合)とでは、距離s1の時間変化が同じであっても、距離s1の時間変化が屈折力変化に与える影響は異なる。近距離の場合、距離s1の時間変化が屈折力変化に与える影響は大きく、遠距離の場合、距離s1の時間変化が屈折力変化に与える影響は小さい。距離s1の長さによらず同程度の屈折力変化を得たいのであれば、距離s1が長くなるほど距離s1の時間変化を大きくする必要がある。なお、水晶体の中心点と網膜との間の距離s2は、ほとんど変化がないため、眼球の直径φに近似することができる。眼の焦点調節機能が健全に機能しているとき、式(3)を式(4)で表わすことができる。
【0045】
1/φ=1/s1+D (4)
ここで、眼の焦点調節機能に与える刺激が一定以上であるとは、水晶体の屈折力Dの時間変化|∂D/∂t|が常に一定値以上であると換言することができる。したがって、眼の焦点調節機能に与える刺激が一定以上であるための条件は、式(4)より、式(5)となる。Γは閾値を表わす。
【0046】
|∂D/∂t|=|∂(1/s1)/∂t|
=(1/s1)×|∂s1/∂t|≧Γ (5)
制御部47は、屈折力Dの時間変化|∂D/∂t|を常に一定値(閾値Γ)にするために、距離s1の逆数l/s1の時間変化|∂(1/s1)/∂t|が一定になるように、モータ46を制御し、表示装置1を移動させるようにすればよい。なお、虚像を目的の速度で移動させるためには、式(1)を参照し、表示装置1の移動速度を算出すればよい。制御部47は、表示装置1と凹面鏡3との間の光学距離が長くなるほど表示装置1の移動速度を上昇させるように、モータ46の動作を制御する。これにより、観測点8から表示装置1が遠ざかるほど、虚像の移動速度|∂s1/∂t|を上昇させることができる。
【0047】
上記のように距離s1の逆数l/s1の時間変化|∂(1/s1)/∂t|が一定になるように表示装置1を移動させることによって、観測点8から表示装置1が遠ざかるほど虚像の移動速度を効果的に上昇させることができる。これにより、観測者の眼精疲労を軽減させることができる。
【0048】
なお、表示装置1と凹面鏡3との間の光学距離が長くなるにつれて、つまり、第2の虚像(ビームスプリッタ2により結像される虚像)が凹面鏡3の焦点位置に近づいて凹面鏡3により結像される虚像が遠点に近づくにつれて、表示画像に対する虚像(凹面鏡3により結像される虚像)の拡大率は大きくなる。その結果、凹面鏡3と虚像との間の光学距離が変化しても、観測者の眼の網膜上における虚像の大きさはほぼ一定となる。
【0049】
制御部47は、凹面鏡3とこの凹面鏡3の焦点位置との間で、表示装置1を周期的かつ連続的に移動させて、表示装置1の往復運動を繰り返すように、モータ46を制御する。上記のように表示装置1の往復運動を繰り返すことによって、観測者の水晶体の屈折力Dを効果的に変化させることができるので、観測者の眼精疲労をより軽減させることができる。また、表示装置1の往復運動を周期的に行うことによって、観測者の水晶体の屈折力Dをより頻繁に変化させることができるので、観測者の焦点調節機能の疲労をさらに低減させることができる。さらに、表示装置1を連続的に移動させて、表示装置1と凹面鏡3との間の光学距離を連続的に移動させることによって、虚像を徐々に移動させることができるので、虚像の移動を観測者に気付かせないようにすることができる。
【0050】
次に、本実施形態に係る視標呈示装置の動作について図1を用いて説明する。まず、観測者はビームスプリッタ2の分割面21を通して凹面鏡3の方向を向き、表示装置1に表示されている表示画像(観測対象)の虚像を見る。制御部47(図2参照)がモータ46(図2参照)を駆動し始めると、表示装置1が上方向に移動し始める。表示装置1は、上限位置まで移動すると、下方向に移動し始める。その後、表示装置1は、下限位置まで移動すると、上方向に移動し始める。上記のような動作を表示装置1は繰り返す。この間、観測者は、表示画像の虚像を見続ける。
【0051】
上記より、本実施形態の視標呈示装置は、凹面鏡3の鏡面31の中心点32に投影される反射光24が法線33に対して表示装置1側に傾斜するようにビームスプリッタ2および凹面鏡3が配置され、ビームスプリッタ2の分割面21が非平面に形成されている。これにより、本実施形態の視標呈示装置では、表示画像(観測対象)の虚像の歪みを増加させることなく、装置の幅W1を薄くすることができる。つまり、本実施形態の視標呈示装置は、観測者に対して視標の歪みを気にさせることなく表示画像より遠方の虚像を視標として呈示して観測者の眼精疲労を軽減するという利点を維持しつつ、従来の視標呈示装置(図1の破線)の幅W2に比べて、装置の幅W1を薄くすることができる。
【0052】
特に、本実施形態の視標呈示装置では、ビームスプリッタ2の分割面21を凹面鏡3側へ凸状に形成されていることによって、視標の歪みをより簡単に低減させることができる。
【0053】
さらに、本実施形態の視標呈示装置では、凹面鏡3の鏡面31が非球面であることによって、視標の歪みをより簡単に低減させることができる。
【0054】
また、本実施形態の視標呈示装置によれば、表示装置1に表示される表示画像と凹面鏡3との間の光学距離を移動装置4が変化させることによって、眼の焦点調節機能を無自覚に変化させることができるので、観測者の眼精疲労をさらに軽減することができる。
【0055】
特に、本実施形態の視標呈示装置では、虚像が往復運動を繰り返すことによって、観測者の水晶体の屈折力Dを効果的に変化させることができるので、観測者の眼精疲労をより軽減させることができる。
【0056】
さらに、本実施形態の視標呈示装置は、表示装置1と凹面鏡3との間の光学距離が長くなって虚像の位置が遠くなるほど虚像の移動速度|∂s1/∂t|を上昇させる。これにより、虚像が観測点8の近くにあるときだけではなく観測点8から遠ざかったときも、観測者の水晶体における屈折力Dの時間変化|∂D/∂t|を一定以上にさせることができる。その結果、虚像が遠くにあっても近くにあっても、観測者の焦点調節機能の変化を常に一定以上にさせることができる。
【0057】
(実施形態2)
実施形態2に係る視標呈示装置は、図5に示すような投射側ビームスプリッタ5と投射側凹面鏡6とを備えている点で、実施形態1に係る視標呈示装置と相違する。本実施形態では、表示装置1と投射側ビームスプリッタ5と投射側凹面鏡6とが投射部に相当する。なお、実施形態1の視標呈示装置と同様の構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0058】
投射側ビームスプリッタ5は、ハーフミラーであり、表示装置1から発せられた光の光路上に配置され、表示装置1から発せられた光を分割面51で反射光と透過光とに分割する。投射側ビームスプリッタ5の分割面51は平面である。ただし、投射側ビームスプリッタ5の分割面51は必ずしも平面でなくてもよく、非平面であってもよい。投射側ビームスプリッタ5は必ずしもハーフミラーでなくてもよく、ハーフミラー以外の平面型のビームスプリッタであってもよいし、プリズム型のビームスプリッタであってもよい。
【0059】
投射側凹面鏡6は、投射側ビームスプリッタ5で分割された反射光の光路上に配置され、投射側ビームスプリッタ5で分割された反射光を鏡面61でビームスプリッタ2側に反射させる。鏡面61は球面である。つまり、投射側凹面鏡6は球面鏡である。なお、投射側凹面鏡6の鏡面61は必ずしも球面でなくてもよく、例えば楕円球面などの非球面であってもよい。
【0060】
本実施形態の表示装置1は、表示装置1から発せられる光の光軸がX軸方向になるように配置されている。また、本実施形態の表示装置1は、X軸方向において、凹面鏡3の中心点32より投射側ビームスプリッタ5側(観測点8側、図5の右側)に位置している。これにより、X軸方向において表示装置1が凹面鏡3の中心点32より突出することがないので、X軸方向における装置の薄型化を維持することができる。なお、実施形態1の表示装置1(図1参照)と同様の機能については説明を省略する。
【0061】
本実施形態の視標呈示装置では、図6に示すように、凹面鏡3の最下位置からの高さL1が220mm〜263mmの間を移動可能に投射側凹面鏡6が配置され、凹面鏡3のY軸方向の長さL2が160mm、Z軸方向の長さL3が120mmである。X軸方向において、ビームスプリッタ2(点22)と凹面鏡3(中心点32)との間の距離L4は100mmであり、ビームスプリッタ2(点22)と観測点8との間の距離L5は100mmである。上記の高さL1、長さL2,L3および距離L4,L5は一例であり、上記の値に限定されず、用途に応じて適宜設定される。
【0062】
表示画像の虚像を遠方(例えば視距離が5.0m)に結像するために、表示装置1と凹面鏡3との間の光学距離を長くする場合、本実施形態の視標呈示装置の高さL1は、実施形態1の視標呈示装置の高さL1(図3参照)に比べて低くなる。
【0063】
図7に示すように、本実施形態の表示画像(観測対象)の虚像(図7の実線)は、図14に示すようなビームスプリッタ94の分割面941が平面である場合(図15の実線参照)に比べて、歪みが軽減する。なお、図7は、本実施形態の一例として、ビームスプリッタ2の分割面21の曲率半径が800mm、コーニック定数kが0.0であり、凹面鏡3の鏡面31の曲率半径が650mm、コーニック定数kが−0.6であり、投射側凹面鏡6の鏡面61の曲率半径が370mm、コーニック定数kが0.0である場合の虚像のディストーション格子を示している。図7(a)は視距離が1.0mの場合であり、図7(b)は視距離が5.0mの場合である。ビームスプリッタ2、凹面鏡3および投射側凹面鏡6の曲率半径およびコーニック定数kは上記の値に限定されず、用途に応じて適宜設定される。図7および図15の破線は、表示画像を示す。
【0064】
本実施形態の視標呈示装置は、移動装置4によって投射側凹面鏡6を移動させることができる。これにより、本実施形態の移動装置4は、表示画像(観測対象)と投射側凹面鏡6との間の光学距離を変化させることができる。つまり、本実施形態の移動装置4は投射側距離調整部の機能を有している。本実施形態の移動装置4は、例えば実施形態1の保持板41に、表示装置1に代えて投射側凹面鏡6を保持させる方法によって、投射側凹面鏡6を移動させることができるが、上記方法には限定されない。
【0065】
以上、本実施形態の視標呈示装置によれば、表示装置1から発せられた光の光路方向を投射側ビームスプリッタ5および投射側凹面鏡6によって途中で変えることができる。これにより、表示装置1からビームスプリッタ2に直接投射する場合に比べて、投射部全体(表示装置1、投射側ビームスプリッタ5、投射側凹面鏡6)が一方向に長くなることを防止し、視標呈示装置の高さを低くすることができる。特に表示画像(観測対象)と凹面鏡3との間の光学距離を長くして表示画像の虚像を遠方位置に形成する場合に効果的である。
【0066】
また、本実施形態の視標呈示装置によれば、移動装置4が表示装置1と投射側凹面鏡6との間の光学距離を変化させることによって、眼の焦点調節機能を無自覚に変化させることができるので、観測者の眼精疲労をさらに軽減することができる。
【0067】
(実施形態3)
実施形態3に係る視標呈示装置は、非平面板状のビームスプリッタ2に代えて図8に示すようなプリズム型のビームスプリッタ7を備えている点で、実施形態1に係る視標呈示装置(図1参照)と相違する。なお、実施形態1の視標呈示装置と同様の構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0068】
本実施形態のビームスプリッタ7は、表示装置1の表示面11から発せられた光が入射する入射面71と、入射面71から入射された光を反射光と透過光とに分割する分割面72と、凹面鏡3が取り付けられる裏面73とを有している。ビームスプリッタ7は、例えば光学ガラスまたはプラスチックなどで形成されている。分割面72には、誘電体多層膜が形成されている。
【0069】
本実施形態の凹面鏡3は反射層であり、ビームスプリッタ7の裏面73の上に直接形成されている。ビームスプリッタ7の分割面72で分割された反射光が上記反射層(凹面鏡3)に投影されることによって、表示画像(観測対象)の虚像が形成される。なお、実施形態1の凹面鏡3(図1参照)と同様の機能については説明を省略する。
【0070】
本実施形態の視標呈示装置は、上記のようにプリズム型のビームスプリッタ7を採用することによって、非平面板状のビームスプリッタ2を採用した場合に比べて、部品強度を高くすることができ、作製を容易にする。
【0071】
なお、本実施形態のビームスプリッタ7は、実施形態2の視標呈示装置に適用してもよい。
【0072】
(実施形態4)
実施形態4に係る視標呈示装置は、図9に示すように凹面鏡3がビームスプリッタ2側に傾斜して配置されている点で、実施形態1に係る視標呈示装置(図1参照)と相違する。なお、実施形態1の視標呈示装置と同様の構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0073】
本実施形態のビームスプリッタ2は、分割面21上の点22の接平面23と表示装置1の光軸とでなす角θ1が45°になるように配置されている。分割面21上の点22は、凹面鏡3の鏡面31の中心点32に投影される反射光24が生成される点である。なお、実施形態1のビームスプリッタ2(図1参照)と同様の機能については説明を省略する。
【0074】
本実施形態の凹面鏡3は、上方(表示装置1側)が下方に対してビームスプリッタ2側(図9の右側)になるように傾斜して配置されている。なお、実施形態1の凹面鏡3(図1参照)と同様の機能については説明を省略する。
【0075】
上記より、本実施形態の視標呈示装置では、凹面鏡3がビームスプリッタ2側に傾斜して配置されることによって、従来の視標呈示装置の幅W2に比べて、装置の幅W1を薄くすることができる。つまり、本実施形態の視標呈示装置は、観測者に対して視標の歪みを気にさせることなく表示画像(観測対象)より遠方の虚像を視標として呈示しつつ、従来の視標呈示装置(図9の破線)の幅W2に比べて、装置の幅W1を薄くすることができる。
【0076】
なお、本実施形態のように凹面鏡3がビームスプリッタ2側に傾斜して配置されている構成は、実施形態2,3の視標呈示装置に適用してもよい。
【0077】
(実施形態5)
実施形態5に係る視標呈示装置は、図10に示すように表示装置1が凹面鏡3側に傾斜している点で、実施形態1に係る視標呈示装置(図1参照)と相違する。なお、実施形態1の視標呈示装置と同様の構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0078】
本実施形態の表示装置1は、凹面鏡3側(図10の左側)が反対側(図10の右側)に比べて下方になるように傾斜して配置されている。なお、実施形態1の表示装置1(図1参照)と同様の機能については説明を省略する。
【0079】
本実施形態のビームスプリッタ2は、分割面21上の点22の接平面23と表示装置1の光軸とでなす角θ1が45°より大きくなるように配置されている。分割面21上の点22は、凹面鏡3の鏡面31の中心点32に投影される反射光24が生成される点である。なお、実施形態1のビームスプリッタ2(図1参照)と同様の機能については説明を省略する。
【0080】
本実施形態の視標呈示装置によれば、観測者に対して視標の歪みを気にさせることなく、表示画像(観測対象)より遠方の虚像を視標として呈示しつつ、従来の視標呈示装置(図10の破線)の幅W2に比べて、装置の幅W1を薄くすることができる。
【0081】
なお、本実施形態のように表示装置1が凹面鏡3側に傾斜している構成は、実施形態3の視標呈示装置に適用してもよい。
【0082】
(実施形態6)
実施形態6に係る視標呈示装置は、図12に示すように観測対象(表示画像)の実像81を視標として呈示する点で、実施形態1に係る視標呈示装置(図1参照)と相違する。なお、実施形態1の視標呈示装置と同様の構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0083】
図11に示すように、本実施形態のビームスプリッタ2aの分割面21aは、分割面が平面である場合に比べて、凹面鏡3により結像される表示画像の実像81の歪みを低減させるように、凹面鏡3と反対側へ凸状になる球面に形成されている。なお、分割面21aは、表示画像の実像81の歪みを低減させることができれば上記のような球面以外の非平面であってもよい。実施形態1のビームスプリッタ2(図1参照)と同様の機能については説明を省略する。
【0084】
ビームスプリッタ2aは、凹面鏡3に対して上述したように配置されているとともに、表示装置1に対して、分割面21a上の点22の接平面23と表示装置1の光軸とでなす角θ1が45°未満になるように配置されている。
【0085】
本実施形態の視標呈示装置では、図12に示すように、凹面鏡3の最下位置からの高さL1が176mm〜178mmの間を移動可能に表示装置1が配置され、凹面鏡3のY軸方向の長さL2が160mm、Z軸方向の長さL3が120mmである。X軸方向において、ビームスプリッタ2a(点22)と凹面鏡3(中心点32)との間の距離L4は50mmであり、凹面鏡3(中心点32)と観測点8との間の距離L6は800mmである。なお、上記の高さL1、長さL2,L3および距離L4,L6は一例であり、上記の値に限定されず、用途に応じて適宜設定される。
【0086】
これにより、本実施形態の視標呈示装置は、ビームスプリッタ2aにより結像される虚像(第2の虚像)と凹面鏡3との間の光学距離が凹面鏡3の焦点距離より長くなるように凹面鏡3が配置され、表示画像の実像81を視標とすることができる。
【0087】
図13に示すように、本実施形態の視標呈示装置における表示画像(観測対象)の実像(図13の実線)は、図14に示すようなビームスプリッタ94の分割面941が平面である場合(図15の実線参照)に比べて、歪みが軽減する。図14に示すビームスプリッタ94は、ハーフミラー92に比べて凹面鏡3の鏡面31に向かい合う方向(図14の左側)に立ち上がっている。ビームスプリッタ94は、表示装置91から発せられた光を平面の分割面941で反射光と透過光とに分割する。なお、図13は、本実施形態の一例として、ビームスプリッタ2aの分割面21aの曲率半径が5000mm、コーニック定数kが−50.0であり、凹面鏡3の鏡面31の曲率半径が250mm、コーニック定数kが−0.78である場合の実像のディストーション格子を示している。図13(a)は視距離L7が400mmの場合であり、図13(b)は視距離L7が410mmの場合である。ビームスプリッタ2aおよび凹面鏡3の曲率半径ならびにコーニック定数kは上記の値に限定されず、用途に応じて適宜設定される。図13および図16の破線は、表示画像を示す。
【0088】
上記より、視標が実像81である場合であっても、ビームスプリッタ2aの分割面21aを非平面(球面)にすることにより、分割面941が平面であるビームスプリッタ94の場合に比べて実像の歪みを低減させることができる。
【0089】
以上の説明より、本実施形態の視標呈示装置のように表示画像の実像81を視標として呈示する場合であっても、視標の歪みを増加させることなく、装置の幅W1を薄くすることができる。つまり、本実施形態の視標呈示装置は、観測者に対して視標の歪みを気にさせることなく表示画像より近方の実像81を視標として呈示しつつ、従来の視標呈示装置(図11の破線)の幅W2に比べて、装置の幅W1を薄くすることができる。
【0090】
なお、本実施形態のように表示画像の実像81を視標とするための構成は、実施形態2〜5の視標呈示装置に適用してもよい。
【0091】
各実施形態の観測対象は、表示装置1に表示される表示画像に代えて、例えば平面体の物体であってもよい。観測対象が物体である場合、物体は、保持板41に直接または間接的に取り付けられることによって、移動可能となる。観測対象が物体である場合でも、視標呈示装置は、観測者に対して視標の歪みを気にさせることなく、物体(観測対象)より遠方の虚像を視標として呈示しつつ、従来の視標呈示装置の幅に比べて、装置の幅を薄くすることができる。
【0092】
ところで、表示装置1と凹面鏡3との間の光学距離を変える手段としては、表示装置1のみを移動させる手段と、凹面鏡3のみを移動させる手段と、表示装置1と凹面鏡3との両方を移動させる手段とがある。表示装置1のみを移動させることによって、表示装置1とビームスプリッタ2(2a)との間の光学距離を変えることができる。凹面鏡3のみを移動させることによって、ビームスプリッタ2(2a)と凹面鏡3との間の光学距離を変えることができる。なお、表示装置1および凹面鏡3は、例えばアクチュエータなどを用いて移動させることができる。
【0093】
そこで、各実施形態の変形例として、視標呈示装置は、移動装置4に代えて、あるいは移動装置4とともに、凹面鏡3を移動させる凹面鏡移動装置を距離調整部として備えてもよい。変形例の視標呈示装置は、凹面鏡3を移動させることによって、虚像または実像を移動させることができる。ただし、観測者が虚像または実像を正しく観測するためには、凹面鏡3に対する観測者の眼の位置は、ある範囲内に限定される。このため、凹面鏡3を移動させる場合、観測者の眼の位置を移動する必要がある。
【0094】
したがって、表示装置1と凹面鏡3との間の光学距離を変える3つの手段の中では、表示装置1のみを移動させる手段が最も優れている。つまり、距離調整部としては、観測者の眼の位置を移動させる必要がない点で、各実施形態の移動装置4のほうが凹面鏡移動装置より優れている。
【0095】
また、実施形態2において、表示装置1と投射側凹面鏡6との間の光学距離を変化させる手段としては、表示装置1を移動させる手段と、投射側凹面鏡6を移動させる手段とがある。表示装置1を移動させることによって、表示装置1と投射側ビームスプリッタ5との間の光学距離を変えることができる。投射側凹面鏡6を移動させることによって、投射側ビームスプリッタ5と投射側凹面鏡6との間の光学距離を変えることができる。
【0096】
なお、視標呈示装置の他の使用例として、VDT作業用の装置とは別に視標呈示装置が設けられ、VDT作業が一定時間継続したときまたは眼が疲れたときに、作業者が視標呈示装置を使用するようにしてもよい。
【0097】
また、各実施形態の視標呈示装置を画像表示システムに用いてもよい。画像表示システムとしては、例えばテレビジョン受像機やプロジェクタなどがある。画像表示システムは、例えば建物の壁と壁との間の空間に埋め込まれて設置される。表示装置1に表示される表示画像(観測対象)は、テレビ番組であってもよいし、再生機器からの再生画像であってもよい。上記のような画像表示システムによれば、上記画像表示システムを壁内部の空間に埋め込むことによって、生活空間を広くすることができるとともに、インテリア性を向上させることができる。なお、上記画像表示システムは天井裏の空間に埋め込んで設置されてもよい。
【0098】
さらに、各実施形態の視標呈示装置を車載用表示装置に用いてもよい。車載用表示装置としては、例えば計器板またはナビゲーションシステムの表示部などがある。
【符号の説明】
【0099】
1 表示装置(投射部、光源)
2,2a,7 ビームスプリッタ
21,21a,71 分割面
3 凹面鏡
31 鏡面
32 中心点
33 法線
4 移動装置(距離調整部、投射側距離調整部)
5 投射側ビームスプリッタ
6 投射側凹面鏡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
観測対象の像を視標として観測者に呈示する視標呈示装置であって、
前記観測対象を投射する投射部と、
前記投射部から発せられた光を反射光と透過光とに分割する分割面を有するビームスプリッタと、
前記反射光が投影される鏡面を有し前記像を形成する凹面鏡とを備え、
前記鏡面の中心点に投影される前記反射光が前記中心点における法線に対して前記投射部側に傾斜するように、前記ビームスプリッタおよび前記凹面鏡が配置され、
前記ビームスプリッタの前記分割面は非平面に形成されている
ことを特徴とする視標呈示装置。
【請求項2】
前記像は虚像であることを特徴とする請求項1記載の視標呈示装置。
【請求項3】
前記ビームスプリッタの前記分割面は、前記凹面鏡側へ凸状になるように形成されていることを特徴とする請求項1または2記載の視標呈示装置。
【請求項4】
前記像は実像であることを特徴とする請求項1記載の視標呈示装置。
【請求項5】
前記ビームスプリッタの前記分割面は、前記凹面鏡とは反対側へ凸状になるように形成されていることを特徴とする請求項1または4記載の視標呈示装置。
【請求項6】
前記凹面鏡の前記鏡面は非球面に形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の視標呈示装置。
【請求項7】
前記観測対象と前記凹面鏡との間の光学距離を変化させる距離調整部を備えることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の視標呈示装置。
【請求項8】
前記投射部は、
前記観測対象を投射するための光を発する光源と、
前記光源から発せられた光を反射光と透過光とに分割する投射側ビームスプリッタと、
前記投射側ビームスプリッタで分割された反射光を前記ビームスプリッタ側に反射させる投射側凹面鏡と
を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の視標呈示装置。
【請求項9】
前記光源と前記投射側凹面鏡との間の光学距離を変化させる投射側距離調整部を備えることを特徴とする請求項8記載の視標呈示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−183289(P2012−183289A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137988(P2011−137988)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)