説明

視線検出装置

【発明の詳細な説明】
[産業上の利用分野]
本発明はファインダーを覗く眼球を赤外光にて照明し、前記眼球で反射した赤外光を接眼レンズに設けたビームスプリッタにてイメージセンサへ導く視線検出光学系を有する視線検出装置に関するものである。
[従来の技術]
従来、被検者の眼球を撮影し、撮影した眼球像に基づいて被検者の視線を光学的に検出する方法には1.眼球を照明する光により形成される第1,第4プルキンエ像の位置を検出して求める方法(参考文献:Journal of Optical Society of America,vol.63,NO.8,page921(1973))
2.第1プルキンエン像と瞳孔中心の位置を検出して求める方法(参考文献:特開昭61−172552号公報)
等がある。また、そとは別に3.虹彩輪部の位置を検出して求める方法が提案されている。
ところが、1の視線検出方法は第1プルキンエ像に対する第4プルキンエ像の相対強度が小さいこと、2の視線検出方法は虹彩の反射率が小さいために瞳孔中心を求めにくい等の問題点があるため実用性を考慮すると3の視線検出方法が有効である。
この3の視線検出方法を、観察部を有する光学機器、例えばカメラに適用して、カメラのファインダをのぞく観察者の視線を検出し観察者の意志を入力する手段に応用する場合、カメラの接眼レンズ近辺に視線検出装置を配置するのが一法である。
[発明が解決しようとしている問題点]
しかしながら、接眼レンズ近辺に視線検出装置を構成すると、検出光を導出するミラーを備えた接眼レンズの有効光束領域はファインダ光学系で必要とされる有効光束領域よりも大きくなるため、ファインダをのぞく観察者はアイポイントを固定しづらく、また、アイポイントの移動範囲が広がってしまうことで、視線検出しにくくなるという問題点が発見された。
[問題点を解決するための手段]
請求項1に記載した発明は、ファインダーを覗く眼球を赤外光にて照明し、前記眼球で反射した赤外光を接眼レンズに設けたビームスプリッタにてイメージセンサへ導く視線検出光学系を有する視線検出装置において、前記接眼レンズのファインダー光束入射面に遮光部材を設けることで、視線検出光学系の有効光束領域をファインダ光学系の有効光束領域よりも大きくすることを特徴としている。
請求項2に記載した発明は、ファインダーを覗く眼球を赤外光にて照明し、前記眼球で反射した赤外光を接眼レンズに設けたビームスプリッタにてイメージセンサへ導く視線検出光学系を有する視線検出装置において、前記接眼レンズのファインダー光束射出面に赤外光を透過し可視光を遮断する遮光部材を設けることで、視線検出光学系の有効光束領域をファインダ光学系の有効光束領域よりも大きくすることを特徴としている。
[実施例]
第1図〜第3図は発明の第1の実施例を示すもので、第1図は一眼レフカメラの断面図、第2図は視線検出光学系の視線図、第3図は視線検出の原理説明図である。
まず、一眼レフレックスカメラ側から説明すると、101はカメラ本体に固着もしくは着脱自在の撮影レンズ、102は中央部が半透鏡に形成されているクイックリターン・ミラー、103はピント板、104は種々の撮影情報を同時あるいは選択的に表示する表示素子で、例えば液晶表示板、105はコンデンサーレンズ、106はペンタプリズムである。
また107はサブミラー、108は視線の複数位置について検出を行える焦点検出ユニットであるが、これらの部分は本願の目的に直接関係せず、また当該分野の技術者によく知られているので説明を省く。
109は信号処理、表示板駆動、焦点調節のための制御回路で、視線方向の検出情報、各検出位置に関する検出情報、図示しない露光側光ユニットからの複数位置からの測光情報が入力される。なお、各ユニットからの情報は、検出しない生のデータの場合、演算処理した各結果の情報の場合、更には選択された情報の場合など種々の形態で入力する様にすることができる。
一方、検出系を構成する符番1は固体撮像素子のイメージセンサ、2は結像レンズ、3は観察光学系であるファインダ光学系に対する使用者のアイポイントの位置を示す。結像レンズ2はアイポイント3附近にピントが合っているものとする。第2図の4,4は前眼部照明用の光源で、本例では赤外発光ダイオードを使用している。
5は接眼レンズで、赤外反射のダイクロイックミラーの様なビームスプリッタ5′を内蔵し、ファインダと検出系を共軸している。6はファインダ有効光束限定用ブロックで、これらの詳しい構造は後述する。7は信号処理回路である。
ここで、上記構成の作用を説明する前に検出方法を第3図3図を使って説明する。
図に描く様に、眼球の回転角をθ、そいて接眼レンズ2の光軸に対する眼球のシフト量をSとして、虹彩輪部の座標を(X1Y2)(X1Y2)センサ1上での結像位置を(−f K1)(−f K2)とすると

であるので、これよりK1K2は、次式の様になる。


但し、bは虹彩の半径、cは角膜前面の曲率半径、lは結像レンズ2から角膜前面での距離、γは眼球の回転中心から角膜前面での距離である。
今、これらの諸量に実用上個人差がない。すなわちb,c,l,γ,aが定数とみなすと、(1)式はθ,Sに関する連立方程式となるので、これを解けばθ,Sを求めることができる。その解は、

となる。


よってイメージセンサ1により虹彩輪部の左端右端の座標を求めれば正確に眼球Eの回転量θとシフト量Sが演算で求まるわけである。尚、眼球3の光軸と視軸(視線)は周知の様ズレているため、実際には眼球3の回転量を電気的に補正して視線の方向が求められる。
以下、実施例の作用を説明する。
第1図に示す様に視線検出光学系は、結像レンズ2、イメージセンサ1及び不図示の眼球照明用赤外発光ダイオード4から構成され接眼レンズ5の上方に配置されている。第2図は視線検出光学系の視線形態を示す。赤外発光ダイオード4は、結像レンズ2の側方(図中±y方向)に配置され、発光した赤外光は、接眼レンズ5のダイクロイックミラーで反射して眼球3を拡散照明する。ここで赤外光は、視線検出光学系の光軸を外れた位置から斜めに投光されるため接眼レンズ5のダイクロイックミラー部の上面Aはファインダ有効光束を通すに必要な領域よりも広くなる。それに伴いダイクロイックミラー部の射出面Bも広くなるため、ファインダを観察する観察者のアイポイントの移動範囲もおのずと広がってしまう。観察者のアイポイントの移動範囲を従来と同様にするために本実施例においては接眼レンズ5のファインダ光束入射面にファインダ有効光束より外側を遮光する限定用ブロック6を設けている。その結果観察者に観察可能なファインダ光束は従来と同等に設定されるため、観察者のアイポイントの移動範囲も従来と同等に維持される。
眼球の虹彩輪部で散乱反射した赤外光は、再び接眼レンズ5に入射し、ダイクロイックミラー5′で反射され、結像レンズ2を介してイメージセンサ1上に結像する。虹彩輪部の座標より視線検出信号処理回路7によって視線方向、さらには観察者のファインダ視野内注視点が演算されその注視点情報は、制御回路109及びそれを介して多点重点検出ユニット108に伝送される。表示素子103に例えば偏光板を用いないゲスト−ホスト型液晶素子で表示素子駆動回路109からの信号に基づいて、注視点情報をファインダ視野内にスーパインポーズ(第4図R>図P)表示する様になっている。尚、撮影レンズ101を透過した被写体光の一部はクイックリターンミラー102を透過後サブミラー107で反射され多点焦点検出ユニット108に導かれる。多点焦点検出ユニット108においては信号処理回路7からの注視点情報に基づいて注視被写体の焦点検出を行ない、不図示の撮影レンズ駆動装置により撮影レンズ101の焦点調節を行なう。
本実施例においては視線検出装置を多点焦点検出ユニット108の注視点情報入力手段として用いた例を示したが、露出用の多点測光装置の測光点入力手段、撮影モードの選択手段等に用いてもかまわない。撮影モードの選択は、例えばファインダ視野の一部に種々の撮影モードマークを並べて表示し、その中の1つを注視している観察者の視線を検出することで行い、カメラの制御部にその撮影モードが設定される。
[他の実施例]
第4図〜第5図は本発明の第2の実施例を説明するための図で、第5図は視線検出光学系の斜視図である。
図中、6′はファインダ有効光束限定マスクであるところの誘電体多層膜域で、第6図は、前記誘電体多層膜の分光透過率特性図である。他の部材は第1の実施例と同一の部材である。
上述と同様視線検出光学系は、結像レンズ2、イメージセンサ1及び眼球照明用赤外発光ダイオード4、4から構成され一眼レフカメラの接眼レンズ5の上方に配置されている。赤外発光ダイオード4,4は結像レンズ2の側方(図中±y方向)に配置され、発光した赤外光は、接眼レンズ5のダイクロイックミラーで反射して眼球を照明する。本実施例においては接眼レンズ5のファインダ光束出射面(図中B面)にファインダ有効光束より外側を遮蔽する誘電体多層膜域6′が配設されている。誘電体多層膜域6の分光透過率特性は第6図に示すように、可視光をほぼ遮断するが赤外光は透過させる特性をもつ。その結果、観察者に観察可能なファインダ視野は従来と同様に設定されるため、観察者のアイポイントの移動範囲も従来と同等に維持される。眼球の虹彩輪部で拡散反射した赤外光は、再び接眼レンズ5に入射し、ダイクロイックミラー部で反射され結像レンズ2を介してイメージセンサ1上に結像する。虹彩輪部の座標より不図示の視線検出回路によって視線方向、さらには観察者のファインダ視野内注視点が演算される点等は同様である。
尚、本発明はカメラの外、監視装置や顕微鏡など各種観察装置に適用できる。
[発明の効果]
以上説明したように、請求項1に記載した発明は、ファインダーを覗く眼球を赤外光にて照明し、前記眼球で反射した赤外光を接眼レンズに設けたビームスプリッタにてイメージセンサへ導く視線検出光学系を有する視線検出装置において、前記接眼レンズのファインダー光束入射面に遮光部材を設けることで、視線検出光学系の有効光束領域をファインダ光学系の有効光束領域よりも大きくすることにより、視線検出光学系の有効光束領域を広げつつ、観察者のアイポイントの移動範囲を小さく維持することができるので、良好な視線検出が可能になる。
請求項2に記載した発明は、ファインダーを覗く眼球を赤外光にて照明し、前記眼球で反射した赤外光を接眼レンズに設けたビームスプリッタにてイメージセンサへ導く視線検出光学系を有する視線検出装置において、前記接眼レンズのファインダー光束射出面に赤外光を透過し可視光を遮断する遮光部材を設けることで、視線検出光学系の有効光束領域をファインダ光学系の有効光束領域よりも大きくすることにより、視線検出光学系の有効光束領域を広げつつ、観察者のアイポイントの移動範囲を小さく維持することができるので、良好な視線検出が可能になる。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明の実施例を示す光学断面図。第2図は実施例の要部を示す斜視図。第3図は検出方法を説明するための図。第4図はファインダ視野例を示す図。第5図は別実施例の要部を示す斜視図。第6図は透過率特性図。
図中1はイメージセンサ、2は結像レンズ、4は照明光源、5は接眼レンズ、5′はビームスプリッタ、6は限定用ブロックである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】ファインダーを覗く眼球を赤外光にて照明し、前記眼球で反射した赤外光を接眼レンズに設けたビームスプリッタにてイメージセンサへ導く視線検出光学系を有する視線検出装置において、前記接眼レンズのファインダー光束入射面に遮光部材を設けることで、視線検出光学系の有効光束領域をファインダ光学系の有効光束領域よりも大きくすることを特徴とする視線検出装置。
【請求項2】ファインダーを覗く眼球を赤外光にて照明し、前記眼球で反射した赤外光を接眼レンズに設けたビームスプリッタにてイメージセンサへ導く視線検出光学系を有する視線検出装置において、前記接眼レンズのファインダー光束射出面に赤外光を透過し可視光を遮断する遮光部材を設けることで、視線検出光学系の有効光束領域をファインダ光学系の有効光束領域よりも大きくすることを特徴とする視線検出装置。

【第2図】
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【第4図】
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【第6図】
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【第1図】
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【第3図】
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【第5図】
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【特許番号】第2941847号
【登録日】平成11年(1999)6月18日
【発行日】平成11年(1999)8月30日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平1−172791
【出願日】平成1年(1989)7月4日
【公開番号】特開平3−37039
【公開日】平成3年(1991)2月18日
【審査請求日】平成8年(1996)6月27日
【出願人】(999999999)キヤノン株式会社
【参考文献】
【文献】特開 昭61−172552(JP,A)