説明

親水性、光触媒性および透光性に優れた酸化チタンセラミック塗料およびその製造方法

【課題】 親水性、耐食性、光触媒性、透明性、密着性に優れた塗膜形成用酸化チタンセラミック塗料および製造方法の提供。
【解決手段】 Ti塩水溶液に、(A)半透膜透析処理、(B)半透膜電気透析、又は(C)オンン交換処理を施して、Ti塩の1部〜全部を加水分解してオルソチタン酸及び平均粒径0.001〜0.2μmのTiO2 に変化させ、かつ夾雑イオンを除去するか、或いはTi塩水溶液に、Ti1モルに対し4モル未満のアルカリ金属水酸化物又はNH3 を添加し又は添加せずに50℃以上100℃未満の加熱処理を施し、次に前記夾雑イオンを除去処理を施し、或いは前記加熱処理された溶液にアルカリ又はアンモニアを添加し、形成した沈澱を捕集し、これを水、過酸化化合物又は錯化剤の水溶液中に分散してオルソチタン酸、Ti(IV) イオン及び/又はペルオキソチタン酸と前記TiO2 粒子を含む塗料を得る。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ガラス、金属、セラミック、プラスチック等の素材に塗布するに好適な酸化チタンセラミック塗料およびその製造方法に関するものである。さらに詳しく述べるならば、本発明は、良好な親水性、光触媒性および光透過性を有する塗膜形成用酸化チタンセラミック塗料、およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来より、有機系塗料に比較して、耐熱性、耐摩耗性などに優れるセラミック塗料として、アルカリ金属けい酸塩系、りん酸塩系、シリカゾル系、および金属酸化物系塗料などが知られている。これら従来のセラミック塗料は、耐熱性、耐摩耗性に優れているなどの点において、無機系塗料の特徴を有しているが、近年、セラミック皮膜に対してさらに新しい機能を付与する試みが、金属酸化物系を中心に展開されている。
【0003】各種セラミック材料の中でも酸化チタンは、酸化珪素等のセラミックスと同様に、強い親水性を発揮することが知られている。このような機能は、例えば熱交換器用フィン材の表面に酸化チタンセラミック塗料を塗布する事により、結露水のフィン間でのブリッジを低減し、水滴の飛散を防止し、熱交換効率を上昇させることなどに有効である。また、この酸化チタンセラミックス塗料をガラス等の表面に塗布することにより、その曇り防止にも有効である。
【0004】各種セラミック材料の中でも酸化チタンは、塗膜に優れた光触媒効果を付与することができ、また、紫外線の照射により高い酸化力を発揮する。従って、光触媒活性に優れた酸化チタンの皮膜を、金属、ガラス、セラミックなどの被塗物表面上に形成させることにより、汚れの付着防止、悪臭成分の分解、水質の浄化、防錆、抗菌、藻類の繁殖防止、難分解性廃棄物の分解などに有効であることが知られている。そこでこのような用途のために、酸化チタン皮膜を素材表面上に形成することを目的とする各種の酸化チタン塗料やその製造方法がこれまでにいくつか提案されてきた。
【0005】酸化チタン皮膜の形成方法としては、チタンのアルコキシドを加水分解したものを塗布するゾル−ゲル法が最も一般的に知られており、また、これに類する方法としては、例えば特開平4−83537号公報に、チタンアルコキシドにアミド、グリコールを添加する方法や開示されており、また、特開平7−100378号公報には、チタンアルコキシドにアルコールアミン類を添加する方法が開示されている。さらに、特開平6−293519号公報には、水熱処理により結晶化させた酸化チタン微粒子を分散剤を使用して分散させ、この分散液を塗布する方法、および結晶性酸化チタン粒子に、水ガラス、コロイダルシリカ、弗素系樹脂などのバインダーを混和して塗布する方法が開示されている。
【0006】しかし、上記のゾル−ゲル法には、加水分解に使用した酸、および添加剤として加えたアミン、グリコールなどが皮膜中に残存しやすく、高温で焼成する必要があること、腐食しやすい素材例えばアルミニウム製フィン材、銅製フィン材などには使用できないこと、得られる酸化チタン皮膜中に可燃性有機溶剤が高含有率で残留することと、水系塗料にすることが困難であること、および原料が高価であることなどの問題点がある。また、100℃以上の温度で結晶成長させた酸化チタンを塗布する上記方法には、皮膜が十分に透明にならないため、ガラスなどの透明素材には適さないこと、および熱交換器用フィン材に用いたとき、金属素材上の酸化チタンの固定率が低いためセラミック材料特有の無機臭が発生することなどの問題点がある。さらに、酸化チタン粒子用バインダーとして樹脂を使用する方法には、その塗工性、密着性および固定率は改善されるが、樹脂が光触媒によって劣化しやすく、塗膜の耐久性が不十分になるなどの問題が発生したり、また皮膜の酸化チタン含有率が低下するため、親水性および光触媒能が充分に発揮されないなどの欠点がある。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、従来技術の上記問題点を解決するためになされたものであって、酸化チタンの光触媒活性に有害な不純物や、アルコールなどの有機物を含まず、良好な親水性および光触媒性を有し、かつ、透明で密着性に優れた酸化チタンの薄膜を形成することができる、親水性、光触媒性および透光性(塗膜の透明性)に優れた酸化チタンセラミック塗料およびその製造方法を提供しようとするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明に係る親水性、光触媒性および透光性に優れた酸化チタンセラミック塗料は、オルソチタン酸、チタン(IV) イオンおよびペルオキソチタン酸から選ばれた少なくとも1種、および平均粒子径が0.001〜0.2μmの結晶性酸化チタン粒子を、1:0.1〜1:200の重量比で含み、実質的に夾雑イオンを含有しないことを特徴とするものである。塗料の溶媒としては水が好ましいが、水に可溶なアルコール、グリコール、ケトン類を混合して塗工性を向上させることもできる。前記結晶性酸化チタン粒子の平均粒子径は、0.002〜0.1μmであることが好ましい。
【0009】上記親水性、光触媒性および透光性に優れた酸化チタンセラミック塗料を製造するための本発明方法(1)は、チタン塩水溶液を、(A)半透膜を用いる透析処理、(B)半透膜を用いる電気透析処理、および(C)イオン交換体を用いるイオン交換処理から選ばれた少なくとも1処理に供し、それによって前記チタン塩の少なくとも1部を加水分解してオルソチタン酸および結晶性酸化チタンコロイド粒子に変化させるとともに前記水溶液中の夾雑イオンを除去することを特徴とするものである。上記本発明方法(1)において、前記処理(A),(B),(C)は0〜80℃の温度で行われることが好ましい。
【0010】上記親水性、光触媒性および透光性に優れた酸化チタンセラミック塗料を製造するための本発明方法(2)は、チタン塩水溶液を50℃以上100℃未満の温度に加熱し、次にそれを、(A)半透膜を用いる透析処理、(B)半透膜を用いる電気透析処理、および(C)イオン交換体を用いるイオン交換処理から選ばれた少なくとも1処理に供して、前記チタン塩の少なくとも1部分を加水分解してオルソチタン酸および結晶性酸化チタンコロイド粒子に変化させ、かつ、前記水溶液中の夾雑イオンを除去することを特徴とするものである。上記本発明方法(1)および(2)において、前記チタン塩水溶液がオキシ塩化チタンおよびオキシ硫酸チタンから選ばれた少なくとも1種を含む水溶液であることが好ましい。
【0011】上記親水性、光触媒性および透光性に優れた酸化チタンセラミック塗料を製造するための本発明方法(3)は、チタン塩水溶液に、この水溶液中のチタン量1モルに対し、4モル未満の、アルカリ金属水酸化物およびアンモニアから選ばれた少なくとも1種を添加し、この混合水溶液を50℃以上100℃未満の温度に加熱し、さらに、(A)半透膜を用いる透析処理、(B)半透膜を用いる電気透析処理、および(C)イオン交換体を用いるイオン交換処理から選ばれた少なくとも1処理に供して、前記チタン塩の少なくとも1部分を加水分解してオルソチタン酸および結晶性酸化チタンコロイド粒子に変化させ、かつ、前記水溶液中の夾雑イオンを除去することを特徴とするものである。
【0012】上記親水性、光触媒性および透光性に優れた酸化チタンセラミック塗料を製造するための本発明方法(4)は、チタン塩水溶液に、この水溶液中のチタン量1モルに対し4モル未満のアルカリ金属水酸化物およびアンモニアから選ばれた少なくとも1種を添加し、さらにこの混合水溶液を50℃以上100℃未満の温度に加熱して、前記チタン塩の少なくとも1部分を加水分解してオルソチタン酸および結晶性酸化チタンコロイド粒子に変化させ、この酸化チタンコロイド含有水溶液にアルカリ金属水酸化物およびアンモニアから選ばれた少なくとも1種を添加して沈殿を生成させ、この沈殿を捕集して、これを水、過酸化化合物水溶液、および錯化剤水溶液から選ばれた分散媒中に分散させることを特徴とするものである。
【0013】
【発明の実施の形態】本発明の親水性、光触媒性および透光性に優れた酸化チタンセラミック塗料には、チタン酸、チタン(IV) イオンおよびペルオキソチタン酸から選ばれた少なくとも1種、すなわち、その1種、2種、又は3種を含むことが必要である。本発明において、オルソチタン酸は、酸性水溶液に易溶性であっても結晶性を殆ど有していないため、結晶性酸化チタンから容易に区別できる。また、本発明において、二酸化チタンは、メタチタン酸、アナターゼ型二酸化チタン、およびルチル型二酸化チタンなどの結晶性酸化チタンを包含する。
【0014】本発明において、オルソチタン酸は、塩化チタン、硫酸チタン、オキシ塩化チタン、又はオキシ硫酸チタンなどのチタン化合物溶液に水酸化ナトリウム、アンモニア水などを添加して沈澱として生成させることができる。生成したオルソチタン酸は濾過、水洗したものを塗料原料として使用することができる。また、本発明の塗料に含まれるペルオキソチタン酸の水溶液は、上記と同様にして得られたオルソチタン酸水溶液に過酸化水素水を加えて溶解させることにより得ることができる。また、本発明の塗料に含まれるチタン(IV) イオン(Ti+4イオン)は、水溶液チタン塩の水溶液により生成供給される。特にpH3以下の酸性水溶液中において安定に存在できるが、チタン(IV) イオンは、その有機又は無機錯体として存在することが好ましい。
【0015】本発明の酸化チタンセラミック塗料には、前記オルソチタン酸、チタン(IV)イオン及び/又はペルオキソチタン酸に加えてさらに結晶性酸化チタン粒子を含むことが必要で、その結晶形はアナターゼ型であることが最も好ましく、次いでルチル型が好ましい。この結晶性酸化チタン粒子は平均粒子径が0.001〜0.2μmの範囲にあることが必要で、より好ましい平均粒子径は0.002〜0.1μmであり、さらに好ましくは0.002〜0.07μmである。平均粒子径が0.001μm未満では、得られる酸化チタン塗膜の親水性および光触媒性が十分でなく、またそれが0.2μm以上では、得られる塗膜の親水性、透光性および密着性が不十分となるため好ましくない。特に結晶性酸化チタン粒子の平均粒子径が0.002〜0.1μmの範囲内にあるとき、得られる本発明の酸化チタンセラミック塗料は、すぐれた親水性を示す。
【0016】本発明の酸化チタンセラミック塗料は、オルソチタン酸チタンIVイオン(Ti4+) およびペルオキソチタン酸から選ばれた少なくとも1種と、平均粒子径が0.001〜0.2μm、好ましくは0.002〜0.1μmの結晶性酸化チタン粒子とを、重量比が1:0.1〜1:200になるように含むものである。この範囲よりもオルソチタン酸チタン(IV) イオン及び/又はペルオキソチタン酸の含有比率が低く酸化チタン粒子の含有比率が高い場合には、得られる塗膜の親水性、密着性および透明性が不十分となり、また、酸化チタン粒子の含有比率が過少であると、得られる塗膜の親水性および光触媒性が低下するため好ましくない。
【0017】本発明の酸化チタンセラミック塗料は、オルソチタン酸、チタン(IV) イオンおよびペルオキソチタン酸から選ばれた1種以上の水溶液に、酸化チタン粒子または酸化チタン粒子を含むゾル液を混合させるか、またはチタン塩溶液を原料とし、これを加水分解してオルソチタン酸および酸化チタン粒子を生成させることによって得ることができる。オルソチタン酸チタン(IV) イオンおよび/又はペルオキソチタン酸の溶液は、オルソチタン塩の水溶液にアルカリ溶液を添加してオルソチタン酸の沈澱を生成させ、この沈澱を捕集し、水、過酸化化合物水溶液又は錯化剤水溶液中に分散させる前記の方法によって調製することができる。オルソチタン酸溶液は、チタン塩溶液に必要に応じてpH調製を施したのち、イオン交換膜などの半透膜による透析、半透膜による電気透析又はイオン交換処理等によって夾雑イオン除去を行うことによっても得る事が可能である。ペルオキソチタン酸溶液も、この夾雑イオン除去の前又は後にチタン塩溶液に過酸化水素水などの過酸化化合物を添加することにより得る事ができる。この場合、過酸化化合物の添加量を適宜にコントロールすることにより、オルソチタン酸のみ、又はペルオキソチタン酸のみ、或は、その両者を含む溶液とすることができ、また、過酸化化合物を全く添加しない場合、オルソチタン酸のみが生成し、チタン酸と等モル以上の過酸化水素を添加することによりペルオキソチタン酸のみを生成させることができる。pH値が低い場合、例えば2以下の場合、オルソチタン酸の1部がチタン(IV) イオンになるが、錯化剤を添加して、Ti(IV) 錯体とすることにより安定な溶液を得ることができる。4価チタン錯体を形成するための錯化剤としては、乳酸、シュウ酸、ギ酸、およびアセチルアセトンを用いることが好ましいが、その他に、グルコン酸、酒石酸、酢酸、リンゴ酸、ラク酸、EDTA、などを用いることができる。
【0018】前記オルソチタン酸、チタン(IV) イオン/又はペルオキソチタン酸を含有する分散液に混合する酸化チタンは、粉体粒子であってもゾル溶液であってもかまわないが、粉体を添加する場合、特に均一に分散させるため、ホモミキサーなどで十分に攪拌し、凝集粒子が生成しないようにすることが好ましい。また、界面活性剤などの分散剤を少量添加して分散しやすくすることも許容される。
【0019】本発明の酸化チタンセラミック塗料の製造方法において、原料として、用いられるチタン塩は、塩化チタン、硫酸チタン、オキシ硫酸チタン、およびオキシ塩化チタンなどから選ばれることが好ましいが、その他の水溶性無機チタン化合物やしゅう酸チタンカリウム、クエン酸チタンなどの水溶性有機チタン塩も使用することができる。これらのチタン塩水溶液は、上記の化合物を水中に溶解して調製したものか、又は市販の希釈液であってもよい。無水塩化チタンを出発原料として使用する場合は、無水塩化チタンを氷冷しながら徐々に純水に溶解することにより塩化チタン水溶液を調製することができる。また、三塩化チタンを原料として使用する場合は、あらかじめ過酸化水素などの酸化剤で4価チタンに酸化したのち、得られた四塩化チタンを原料として用いる。硫酸チタンは30%程度の水溶液として市販品を入手できるため、これを適宜希釈して使用すればよい。オキシ硫酸チタン水溶液又はオキシ塩化チタン水溶液は、硫酸チタン又は塩化チタンの水溶液を、イオン交換膜、又はイオン交換樹脂による脱アニオン処理に供するか、又は硫酸又は塩酸に水和酸化チタンを溶解する方法などにより調製することができる。
【0020】本発明方法(1)(2)および(3)において、加水分解処理に供されるチタン塩水溶液中のチタン濃度は、0.1〜10重量%であることが好ましく、0.5〜4重量%がより好ましい。この濃度が0.1重量%未満では得られる塗料から十分な塗膜厚さが得られないことがあり、またそれが10重量%を超えると、夾雑イオンの除去を行う際に液がゲル化することがあるので、好ましくない。
【0021】本発明方法(1)における半透膜透析処理(A)、半透膜電気透析処理(B)およびイオン交換体によるイオン交換処理(C)の各々は、0〜80℃の温度において行われることが好ましく、10〜50℃であることがより好ましい。これらの処理において、チタン塩の少なくとも一部分は加水分解されてオルソチタン酸および酸化チタン粒子に変化する。このときの加水分解(TiCl4 の場合)は下記のように行われる。
(1)TiCl4 +4H2 O→TiO2 ・2H2 O+4HCl(オルソチタン酸)
(2)TiCl4 +2H2 O→TiO2 +4HCl副生したHClは、その他の夾雑イオンとともに脱イオンされる。このような本発明方法(1)においては、生成するオルソチタン酸の比率が比較的高く、また酸化チタン粒子の粒子径がきわめて小さいものになるので得られる塗膜の機械的強度が向上する。
【0022】本発明方法(2)において、原料となるチタン塩水溶液(好ましくは硫酸チタン又は塩化チタン水溶液)は、夾雑アニオン除去の前に、50℃以上100℃未満の温度で加熱処理される。より好ましい加熱温度範囲は60〜90℃である。このような加熱処理により生成する酸化チタンの比率が高くなり、かつその粒子径を適当な値にコントロールすることができる。つまり、酸化チタン粒子の光触媒活性を所望値にコントロールすることが可能になる。この加熱温度が50℃未満では、酸化チタン粒子の生成が困難になるため得られる塗膜の光触媒性が低下し、またそれが100℃以上では、粗大な酸化チタン粒子の含有量が多くなり、このため、得られる塗膜の透光性が低下したり、或は酸化チタン粒子が塗料中で沈降しやすくなるため好ましくない。
【0023】また、本発明方法(2),(3)および(4)における加熱処理は、3〜240分間行うことが好ましいが、処理温度が比較的低く例えば30〜60℃であり、液のpHが比較的高く、例えば3〜7である場合には240分以上の処理時間でも許容される。この加熱処理は、攪拌しながら温水熱交換器や湯浴等で反応容器全体を均一に加熱することが好ましく、投げ込みヒータ等による局部的加熱は避けることが好ましい。また、加熱処理により酸化チタン粒子の生成および成長を制御するために、加熱処理前に、チタン塩水溶液にコロイド粒子成長の核となる酸化チタン粒子又はその分散液を少量添加することも好ましい。
【0024】加熱処理が終了した液は、好ましくは水冷等により冷却して40℃未満に温度を下げたのち、塗料の安定性や塗膜の光触媒性に有害な夾雑アニオン(Cl- ,SO42- などで、Ti,O,H以外の元素からなるアニオン)の除去処理工程に供される。夾雑アニオンの除去は、半透膜による透析処理(A)、陰イオン交換膜などの半透膜による電気透析処理(B)、又はイオン交換体との接触によるイオン交換処理(C)の3つの処理のうちの1処理以上によって行われる。本発明方法(1)において、これらの工程によりチタン酸は加水分解されてオルソチタン酸および酸化チタンコロイド粒子に変化し、夾雑イオンが除去される。
【0025】夾雑アニオンの除去を、上記の処理方法によらず、加熱処理後の液をそのままミクロフィルターやウルトラフィルターを使用して濾過し、沈澱を水洗したのち乾燥焼成する従来の方法では、本発明の方法によって製造される酸化チタンセラミック塗料中に含まれるオルソチタン酸が除去、又は溶出し、または乾燥焼成時に酸化チタンに変化し、このため得られる塗膜の透明性や密着性が損なわれてしまう。
【0026】夾雑アニオン除去の方法(A)は、半透膜を介する拡散透析処理法であって、水、好ましくは純水を使用して行われる。この方法において使用される半透膜としては、陰イオン交換膜が最も適しており、また、例えばRO膜、セロハン膜、ブレッダー膜及びコロージオン膜などのように陰イオン、陽イオンともに透過する膜も使用できるが、陽イオン交換膜のみを使用することは、Cl- ,SO42- などの夾雑アニオンを除去しにくいため好ましくない。しかし、陽イオン交換膜を陰イオン交換膜と組合わせて使用することは差し支えない。この拡散透析は好ましくは1時間以上行い、可能であれば3時間以上行うことがさらに好ましい。透析の進行状態はpH又は電気電導度で確認することができる。すなわち、透析は、透析液のpHが2〜7の範囲に上昇するか、又は電気電導度が1mS/cm未満に低下するまで行うことが好ましいが、約1g/リットル以下のCl- イオンの残存はオルソチタン酸、および酸化チタンコロイドの安定性を高めるため許容される。
【0027】また、夾雑アニオン除去のための方法(B)では、半透膜、好ましくは陰イオン交換膜を介して電気透析が施される。この方法(B)は拡散透析による方法(A)よりも処理が短時間で完了するという利点がある。陰イオン交換膜を使用した電気透析は、電解槽内を陰極および陽極板に平行に設置された陰イオン交換膜で仕切り、陰極側の電解室内にチタン塩水溶液を入れ、陽極側の電解室内に水を入れた状態で行う。この場合、陽極には白金、白金被覆チタン、又はDSE(不溶性陽極)を使用することが好ましく、陰極には白金被覆チタン、ステンレス鋼などを使用することができる。
【0028】電気透析処理(B)において、電流密度は0.01〜10A/dm2 であることが好ましく、電流密度が10A/dm2 よりも高過ぎる場合、コロイド粒子が膜面に付着するなどの弊害を生ずることがあるので好ましくない。また、使用する陰イオン交換膜としては、強塩基性陰イオン交換膜であって、耐酸性の高いものが好ましい。
【0029】夾雑アニオン除去の処理方法(C)においては、陰イオン交換体として陰イオン交換樹脂を使用することが最も好ましい。イオン交換体としては、この他にも、ゼオライト、塩基性白雲母、水和酸化鉄、水和酸化ジルコニウムなど陰イオン交換能を持つものを使用することができる。処理方法(C)において陰イオン交換体との接触は、加熱処理後のチタン酸含有水溶液中にイオン交換体を直接投入して攪拌する方法と、チタン酸含有水溶液を、イオン交換体が充填されているカラムを通過させる方法との何れによっても可能である。この場合も、前記処理方法(B)と同様に、処理後のチタン酸含有水溶液のpHが一定値以上に上昇していること、又は電気電導度が低下していることを確認して、工程を管理することが好ましい。
【0030】また、本発明方法(3)においては、チタン塩水溶液(好ましくは硫酸チタン又は塩化チタン水溶液)に、これを加熱処理する前に、溶液中のチタン量1モルにつき4モル未満、好ましくは0.1モル以上4モル未満のアルカリ金属水酸化物および/又はアンモニアを添加する。この場合のアルカリ金属水酸化物および/又はアンモニアの添加量は、チタン1モルに対して0.5モル以上3モル未満であることがより好ましい。上記アルカリおよび/又はアンモニアの添加量が4モル以上では、次の加熱工程でも酸化チタン粒子が充分成長しないことがあるので好ましくない。また、その添加量が0.1モル未満のときは加熱処理によって生成する酸化チタン粒子が粗大化しやすいことがある。また、アルカリ金属水酸化物および/又はアンモニアは、2〜10重量%程度の濃度に水で希釈したものを添加することがより好ましい。
【0031】また、加熱処理に供するチタン塩水溶液中のチタンの濃度は、アルカリ金属水酸化物および/又はアンモニアの添加後において、0.1〜10重量%であることが好ましく、最も好ましい濃度は0.5〜4重量%である。チタン濃度が0.1重量%未満では、得られる塗料により十分な塗膜厚さを得ることができないことがあり、またそれが10重量%を超えると、夾雑イオンの除去を行う際に、液がゲル化することがあるので好ましくない。
【0032】アルカリおよび又はアンモニアの添加後に、得られたチタン酸含有溶液は、夾雑イオン除去処理の前に、前記本発明方法(2)と同様の条件(50℃以上100℃未満)で加熱処理される。加熱処理が終了した後、得られた反応混合液は、好ましくは水冷等により冷却して40℃未満に温度を下げたのち、塗料の安定性や塗膜の光触媒性に有害な夾雑イオン(Cl- ,Na+ ,SO42- など)の除去処理工程に供される。これらの工程により、チタン塩は加水分解されてオルソチタン酸および酸化チタンコロイド粒子に変化し、かつ、夾雑イオンが除去される。本発明方法(3)において、アルカリ及び/又はアンモニア混合処理および加熱処理の組み合わせは、チタニウム塩のオルソチタン酸および二酸化チタン粒への変化を促進し、得られる塗膜の親水性、光触媒活性及び密着性を向上させるという利点を有する。
【0033】夾雑イオンの除去は、(A)半透膜による透析処理、(B)半透膜(イオン交換膜)による電気透析処理、又は(C)イオン交換体との接触によるイオン交換処理のいずれかの方法によって行われる。
【0034】夾雑イオン除去処理方法(A)は、半透膜を介した透析による方法で、主として拡散透析によって行われる。この処理(A)において使用される半透膜は、イオン交換膜、RO膜、セロハン膜、ぼうこう膜、コロジオン膜、パイポーラ膜などでから選ぶことができ、コロイド粒子を透過せず、水および夾雑アニオンおよびカチオンを透過するものであればその種類に制限はない。この透析操作は好ましくは1時間以上行い、可能であれば3時間以上行うことがさらに好ましい。また、夾雑イオン除去処理(B)は、半透膜、好ましくはイオン交換膜を介して電気透析を行うものであって、この処理(B)は拡散透析による処理(A)よりも処理が短時間で完了するという利点がある。
【0035】電気透析(B)は、電解処理槽内を陰極および陽極板に平行に設置された陰イオン交換膜と陽イオン交換膜で交互に仕切り、これらの電解室内に水と加熱処理後のチタン化合物溶液を交互に入れた状態で行うことが望ましい。また、使用されるイオン交換膜は、陰イオン交換膜としては強塩基性陰イオン交換膜が用いられ、かつ陽イオン交換膜としては強酸性陽イオン交換膜で耐酸性を有するものが用いられることが好ましい。
【0036】イオン交換体を用いる夾雑イオン除去処理(C)においては、イオン交換体としては陰イオン交換樹脂、および陽イオン交換樹脂を混合して使用することが最も好ましい。
【0037】本発明方法(4)においては、前記本発明方法(3)と同様にチタン酸水溶液に、この水溶液中のチタン量1モルに対し4モル未満の、好ましくは0.1モル以上4モル未満の、アルカリ金属水酸化物およびアンモニアから選ばれた少なくとも1種を添加する。次にこの液を50℃以上100℃未満の温度に加熱したのち、さらにアルカリ金属水酸化物またはアンモニアを加えて、生成した沈澱を捕集し、これを水、過酸化化合物水溶液、およびチタン(IV) 錯化剤水溶液から選ばれた分散媒中に分散することによって酸化チタンセラミック塗料を製造することができる。上記沈澱(オルソチタン酸)を、分散媒液から捕集(濾過、遠心分離など)することにより、夾雑イオンが除去され、格別の夾雑イオン除去処理を省略することが可能になる。
【0038】本発明方法(1)〜(4)のいずれかによって製造されたセラミック塗料には、さらに光触媒性を有する酸化チタン粒子または、酸化チタンコロイド(ゾル)を添加してもよい。
【0039】本発明方法(4)において用いられる過酸化化合物は、過酸化水素であることが好ましいが、過酸化ナトリウム、過酸化バリウムなどであってもよい。過酸化化合物は、チタン酸、およびチタンイオンの一部を反応して、ペルオキソチタン酸を形成する。使用される過酸化化合物が、過酸化水素である場合、夾雑イオン除去工程を、過酸化水素添加工程前に行うことができる。
【0040】本発明方法(1),(2),(3)又は(4)の方法によって製造される酸化チタンセラミック塗料は、結晶性酸化チタンの粒子を多く含み、これにオルソチタン酸および/又はTi(IV)イオンおよび/又はペルオキソチタン酸が含まれる。塗料中に含まれる結晶性酸化チタンは、主としてアナターゼ型の結晶型を有しているが、加熱処理条件によっては、ルチル型酸化チタンを含む場合もある。
【0041】本発明の方法(1)〜(4)のいずれかによって製造された酸化チタンセラミック塗料中に含まれる酸化チタンの粒子は、その粒子径が10-3〜4×10-1μmの範囲内にあり、またその平均粒子径が0.001〜0.2μm、好ましくは0.002〜0.1μmの範囲にある。また、本発明の方法によって製造される酸化チタンセラミック塗料を使用する場合、被塗物に塗布して乾燥したのち100〜700℃で焼成することが好ましく、200〜500℃で焼成することがより好ましい。尚生成した酸化チタン皮膜中の酸化チタンは主としてアナターゼ型であるが700℃以上の高温で焼成された場合、それがルチル型に変化することがあるが、それによって皮膜の親水性が失われることはない。
【0042】尚、本発明の酸化チタンセラミック塗料に、着色顔料を混合して装飾性を付与したり、各種酸化物、窒化物、炭化物等の硬質セラミックスを混合して耐磨耗性を向上させたり、亜鉛末、アルミニウム末などの金属微粒子を混合させて耐食性を付与するなど、使用目的に合った塗料を新たに調整することも可能である。
【0043】本発明の光触媒性および透光性に優れる酸化チタンセラミック塗料を被塗物表面に塗布、乾燥することにより、被塗物表面には0.05〜1μm程度の皮膜が形成することができるが、この皮膜中において、平均粒子径0.001〜0.2μm、好ましくは0.002〜0.1μmの結晶性酸化チタン粒子の間に膠質のオルソチタン酸又はペルオキソチタン酸が充填されている。この皮膜は100〜200℃程度の比較的低温で乾燥するのみで膠質のオルソチタン酸又はペルオキソチタン酸が脱水して表面積が大きく、吸着水の含有量の多い含水酸化チタン、又は酸化チタンとなり、さらにこれが酸化チタン粒子同士を結合させ、被塗物表面に強く密着するとともに親水性を向上させ、粒子表面における光の散乱を防止するのである。このため非常に透明でかつ親水性の良好な塗膜が得られ、この塗膜は光触媒性のないバインダー成分を含んでいないため、良好な光触媒効果と親水性および透光性とを満足することができるものである。
【0044】また、本発明の酸化チタンセラミック塗料の製造方法(1),(2),(3)および(4)においては、特定の組成のチタン塩水溶液を特定条件で加水分解することにより、親水性および光触媒性に優れた酸化チタン微粒子が生成して、最適な粒径にまで成長する。この場合、加熱処理による加水分解前のチタン塩水溶液にチタン量1モルに対し4モル未満、好ましくは0.1モル以上4モル未満の水酸化アルカリ又はアンモニアを添加することにより、水和酸化チタンの結晶核を生成し、結晶成長の過程においてこれらのアルカリ性イオンが結晶相中に取り込まれるため、加熱処理によって酸化チタン粒子が粗大化するのを防止し、製造後の酸化チタン塗料を塗布した場合の塗膜の透明性および親水性が一層向上する。しかし、加熱処理を行った後のTiO2 コロイド粒子を含む溶液は、このままでは、Cl- ,SO42- やNa+ などの夾雑イオンを多く含むため、この液をガラス等の上に塗布、乾燥しても透明皮膜は得られず、白色の不均一な塗膜となり、光触媒性も不十分となるため、ガラスなどの透明素材における使用には適さない。
【0045】このため、本発明においては、塗料液から、透析などの特定のイオン除去手段によって夾雑イオンを取り除くことにより、透明で密着性が良く、優れた親水性及び光触媒性を示す良好な塗膜が得られるようになるのである。また、例えば熱交換器用フィン材等のように親水性機能の付与が必要な材料の場合、光触媒活性の優れた酸化チタンを、アルミニウム、銅等の被塗物表面に形成させることにより、汚れの付着防止、悪臭成分の分解、防錆、抗菌、藻類の繁殖防止などの他に、親水性の経時劣化、及び結露水に繁殖するバクテリヤ等による異臭を防止することも可能となるのである。なお、ガラス等のように透明な素材に対しても、本発明の酸化チタンセラミック塗料から作られる塗膜の透明性が良好であるため、高い実用性を有しているのである。
【0046】
【実施例】本発明を、下記実施例によりさらに説明する。
【0047】実施例1〜4実施例1〜4の塗料溶液は、5%塩化チタン水溶液に10%水酸化ナトリウム溶液を加えてオルソチタン酸からなる沈澱を生成させ、この沈澱を濾過により捕集して水洗し、得られたオルソチタン酸を水に再分散させて得たオルソチタン酸溶液に、結晶性酸化チタン粒子を加え、さらにこの液に実施例1,3および4においては錯化剤を、表1に記載の濃度で添加し、実施例2においては過酸化水素水を表1のペルオキソチタン酸濃度となるように加え、得られた反応混合液を、ホモミキサーで十分攪拌混合して調製した。上記結晶性酸化チタン粒子として、日本アエロジル(株)製P−25酸化チタン(アナターゼ又はルチル型)を使用した。錯化剤としてアセチルアセトン(実施例1)、乳酸(実施例3)、およびシュウ酸(実施例4)を使用した。
【0048】実施例5,6実施例5,6の塗料溶液は、10%塩化チタン水溶液にチタン1モルに対し水酸化ナトリウムを1モルの割合で加え、90℃で40分加熱処理し、さらに5%水酸化ナトリウム溶液を、液が中性となるまで加えて沈澱を生成させ、得られたチタン酸および酸化チタンの沈澱を水に再分散させ、得られた分散液に、過酸化水素水を表1のペルオキソチタン酸濃度となるように加え、この液をホモミキサーで十分攪拌混合して調製した。分析の結果、得られた酸化チタン含有液は平均粒子径0.08μmのアナターゼ型酸化チタン粒子を含んでいた。
【0049】実施例7,8実施例7,8の塗料溶液は、10%塩化チタン水溶液にチタン1モルに対し水酸化ナトリウムを2モルの割合で加え、75℃で20分加熱処理し、さらに5%水酸化ナトリウム溶液を、液が中性となるまで加えて沈澱を生成させ、得られたチタン酸および酸化チタンの沈澱を水に再分散させ、得られた分散液に、実施例7においては錯化剤としてグルコン酸の表1に記載の濃度で添加し、実施例8においては過酸化水素水を表1のペルオキソチタン酸濃度となるように加え、この液をホモミキサーで十分攪拌混合して調製した。分析の結果、得られた酸化チタン含有液は平均粒子径0.005μmのアナターゼ型酸化チタンコロイド粒子を含んでいた。
【0050】実施例9四塩化チタン水溶液(20重量%)をビーカーに入れて水で希釈した溶液を、80℃の温度で10分間加熱処理したのち、水冷して30℃まで冷却した。この液を陰イオン交換膜を介して脱イオン流水で27℃において拡散透析を行い、夾雑イオンを除去した。
【0051】実施例10四塩化チタン水溶液(20重量%)をビーカーに入れて水で希釈し、攪拌、水冷しながら、10重量%の水酸化ナトリウム水溶液を、チタン1モルに対し1モル添加した溶液を、55℃の温度で60分間加熱処理したのち、水冷して30℃まで冷却した。この液を25℃の温度においてセロハン膜を介して脱イオン流水で拡散透析を行い、夾雑イオンを除去した。得られた酸化チタンコロイド含有液に0.5重量%の乳酸(錯化剤)を添加した。
【0052】実施例11三塩化チタン水溶液(20重量%)をビーカーに入れて水で希釈し、過酸化水素水(31%)を液中の紫色のチタン(III)が無色のチタン(IV)になるまで加えた後、この四塩化チタン水溶液に10重量%の水酸化ナトリウム水溶液を、チタン1モルに対し2モル添加した。この溶液を、70℃の温度で30分間加熱処理したのち、水冷して30℃まで冷却した。この液をRO膜を介して40℃の温度において脱イオン流水で拡散透析を行い、夾雑イオンを除去した。
【0053】実施例12三塩化チタン水溶液(20重量%)をビーカーに入れて水で希釈し、過酸化水素水(31%)を液中の紫色のチタン(III)が無色のチタン(IV)になるまで加えた後、攪拌、水冷しながら、この四塩化チタン水溶液に10重量%の水酸化ナトリウム水溶液を、チタン1モルに対し0.24モル添加した。この溶液を、95℃の温度で5分間加熱処理したのち、水冷により30℃まで冷却し、この冷却された液に、陰イオン交換膜および陽イオン交換膜を介して30℃において脱イオン流水による拡散透析を施し、夾雑イオンを除去した。得られた酸化チタンコロイド含有液に1.2重量%のアセチルアセトンからなる錯化剤を添加した。
【0054】実施例13硫酸チタン溶液(30重量%)をビーカーに入れて水で希釈した液を、65℃の温度で90分間加熱処理したのち、水冷して30℃まで冷却した。この液を、陰イオン交換膜(セレミオン AMV型:旭硝子(株)製)で槽内を分割した電解槽中で、1〜5A/dm2 の電流密度で、45℃の温度において電気透析した。電極としては、陰極板、陽極板ともに白金めっきチタン板を使用した。また、電極板およびイオン交換膜が、陽極板−陰イオン交換膜−陰極板の順に平行になるよう配置して2分割された電解槽の陰極室に、加熱処理後の酸化チタン含有液をいれ、陽極室には水をいれて通電を行い、夾雑イオンを除去した。
【0055】実施例14硫酸チタン溶液(30重量%)をビーカーに入れて水で希釈し、攪拌、水冷しながら、2重量%の水酸化ナトリウム水溶液をチタン1モルに対し0.5モル添加した溶液を、90℃の温度で5分間加熱処理したのち、水冷して30℃まで冷却した。この液を、陰イオン交換膜(セレミオン AMV型:旭硝子(株)製)および陽イオン交換膜(セレミオン CMV型:同社製)で仕切った電解槽中で、0.2〜0.6A/dm2 の電流密度で30℃において電気透析した。電極として、陰極板、陽極板ともに白金めっきチタン板を使用した。また、電極板およびイオン交換膜が、陽極板−陰イオン交換膜−陽イオン交換膜−陰極板の順に平行になるよう配置して、3分割された電解槽の中央の電解室に加熱処理後の酸化チタン含有液をいれ、陰極室および、陽極室には水をいれて通電を行い、夾雑イオンを除去した。
【0056】実施例158重量%のオキシ硫酸チタンの水溶液をビーカー中で水で希釈し、60℃の温度で180分間加熱処理したのち、水冷して30℃まで冷却した。この液を、陰イオン交換樹脂(ダイヤイオン SA型:三菱化成(株)製)および陽イオン交換樹脂(ダイヤイオン SK型:同社製)を混合して充填したカラムに30℃において透過させて、夾雑イオンを除去した。
【0057】実施例1615重量%のオキシ硫酸チタンの水溶液をビーカー中で水により希釈し、80℃の温度で8分間加熱処理したのち、水冷して30℃まで冷却した。この液を、陰イオン交換樹脂(ダイヤイオン SA型:三菱化成(株)製)を充填したカラムに50℃において透過させて夾雑イオンを除去した。
【0058】実施例1710重量%のオキシ塩化チタンの水溶液をビーカー内において水で希釈し、85℃の温度で10分間加熱処理したのち、水冷して30℃まで冷却した。この液を、実施例16と同様にイオン交換樹脂を充填したカラムに40℃において透過させて夾雑イオンを除去した。
【0059】実施例18四塩化チタン水溶液(20重量%)をビーカー内において水で希釈し、この溶液を20〜30℃の室温において陰イオン交換膜(商標:セレミオン DMV:旭硝子(株)製)を介して脱イオン流水により、溶液中の酸濃度が透析前の1/10以下になるまで拡散透析した。
【0060】実施例19硫酸チタン溶液(30重量パーセント)をビーカー内において水により希釈し、この溶液を、1〜10℃の温度に冷却しながら、陰イオン交換膜(セレミオンDMV)を介して、脱イオン流水により、溶液の酸濃度が透析前の1/10以下になるまで拡散透析した。
【0061】実施例20四塩化チタン水溶液(20重量%)をビーカー内において水により希釈し、この溶液を攪拌しながら、20〜30℃の室温において、この溶液中に陰イオン交換樹脂(商標:ダイヤイオン SA、三菱化成(株)製)を、溶液中の酸濃度が透析前の1/10以下になるまでゆっくり添加した。上記実施例18〜20において、酸濃度は0.1規定NaOH標準液でブロムフェノールブルーを指示薬として中和滴定法により測定した。
【0062】比較例1〜3比較例1〜3の塗料溶液は、5%塩化チタン水溶液に10%水溶液ナトリウム溶液を加えて沈澱を生成させ、沈澱を水洗して得たオルソチタン酸を水に再分散させて得たオルソチタン酸溶液に、酸化チタン粒子を加え、さらにこの液に過酸化水素水を表1のペルオキソチタン酸濃度となるように加え、得られた混合液をホモミキサーで十分攪拌混合することにより調製した。添加用酸化チタン粒子としては、比較例1では平均粒子径0.5μmのルチル型酸化チタン顔料を用い、比較例2では日本アエロジル(株)製P−25酸化チタン(アナターゼ又はルチル型)を用い、また比較例3では8%オキシ塩化チタン溶液を、75℃で20分加熱処理したのち、イオン交換膜で拡散透析して得た平均粒子径0.01μmのアナターゼ型酸化チタン粒子コロイド溶液を使用した。
【0063】比較例4四塩化チタン水溶液(17重量%)をビーカーに入れて水で希釈し、100℃で15分間加熱処理し、冷却後にこの溶液にセロハン膜による拡散透析に供した。
【0064】比較例5硫酸チタン水溶液(30重量%)をビーカーに入れて水で希釈し、攪拌、水冷しながら、チタン量1モルに対し水酸化ナトリウム4.5モルとなるように10重量%の水酸化ナトリウム溶液を添加し、70℃で15分間加熱処理し、冷却後、この溶液に比較例4と同様の拡散透析を施した。
【0065】比較例6オキシ塩化チタン水溶液(5重量%)をビーカーに入れ、40℃で30分間加熱処理し、冷却後にこの溶液は実施例13〜15と同様のイオン交換膜による電気透析を施した。
【0066】上記実施例および比較例および下記試験において用いられた試薬は、和光純薬(株)製一級試薬又は相当品である。
【0067】試験方法実施例および比較例において作製された酸化チタンセラミック塗料溶液を、下記の方法による分析および試験に供した。
【0068】塗料液中酸化チタン濃度二酸化チタン酸濃度は、試料溶液20mlをガラスビーカーにいれて乾燥器中で水分を80℃で蒸発させ、さらに500℃で2時間加熱して固体二酸化チタンとし、測定前後のビーカーの重量差から求めた。オルソチタン酸、Ti(IV) イオン、又はペルオキソチタン酸を含む塗料液の場合は、オルソチタン酸又はペルオキソチタン酸濃度の測定値を酸化チタンに換算し、この数値を前記測定値から差し引いた数値を酸化チタン濃度とした。
【0069】塗料液中ペルオキソチタン酸濃度塗料液中のペルオキソチタン酸濃度は、塗料液を水で希釈し、5C濾紙で濾過した液に塩酸を加えて酸性としたのち、分光光度計を使用して波長430nmのペルオキソチタン酸の吸光度を測定して求めた。
【0070】塗料液中オルソチタン酸とTi(IV) イオン合計濃度オルソチタン酸とTi(IV) イオンとの合計濃度は、塗料液を5C濾紙で濾過し、塩酸でpHを酸性としたのち、これに過酸化水素水を加えてペルオキソチタン酸とし、分光光度計を使用して波長430nmのペルオキソチタン酸の吸光度を測定して求めた。ペルオキソチタン酸を含む塗料液の場合は、測定値からペルオキソチタン酸濃度を差し引いて求めた。
【0071】塗膜性能の評価調製したセラミック塗料試料液を、75×25mmの板ガラス基盤又はアルミニウム(JIS A1200)板上に約0.5μmの厚みで塗布し、塗布層を100℃で乾燥したのち280℃で焼付けた。この試料について塗膜の親水性、耐食性、透明性、密着性、および光触媒性を評価した。
【0072】(a)塗膜の親水性実施例及び比較例の各々において得られた酸化チタンセラミック塗料を用いてアルミニウム又はガラス板上に酸化チタン皮膜を形成して供試材を作製し、この供試材の表面に5mlの純水を滴下し、得られた小水滴の接触角をFACE接触角計CA−P型(協和界面科学(株)製)を用いて測定した。形成直後の(=焼き付け直後の)皮膜、および流水侵漬8時間、および80℃乾燥16時間の処理を1サイクルとして5サイクルの処理が施された後の皮膜について、上記測定結果を、下記の基準により判定した。


【0073】(b)塗膜の耐食性実施例及び比較例の各々において得られた酸化チタンセラミック塗料を用いてアルミニウム板上に酸化チタン皮膜を形成し、これに塩水噴霧試験をJIS−Z2371に準じて、200時間施し、その外観を観察し、下記の基準で目視判定した。


【0074】(3)塗膜の透明性実施例および比較例の各々において得られた酸化チタンセラミック塗料をガラス板上に塗布、焼付け、得られた塗膜の透明性を目視により下記の基準で判定した。
◎ : 塗膜に濁り、着色が全くなく均一に透明なもの○ : 塗膜にわずかな着色があるが均一に透明なもの△ : 塗膜に明らかな着色がある× : 塗膜に濁りがあり不透明なもの
【0075】(4)塗膜の密着性塗膜の密着性は、塗膜上にセロハンテープを貼付け、これを引き剥がして塗膜剥離の有無を確認した。
(5)光触媒性光触媒性は、25mm×75mmのガラス板上の塗膜表面に試験油としてトリステアリン酸を塗布し、UVライト(15W)で紫外線を72時間照射した後の塗布油の分解量(mg/m2 )を紫外線照射前後の重量差から求めた。
【0076】表1に実施例1〜8、比較例1〜3の酸化チタンセラミック塗料の組成と塗膜性能を示し、表2に実施例9〜17、比較例4〜6の酸化チタンセラミック塗料の製造条件、濃度、および塗膜性能を示し、表3に実施例18〜20の酸化チタンセラミック塗料の組成及び塗膜性能を示す。
【0077】
【表1】


【0078】
【表2】


【0079】
【表3】


【0080】表1、表2および表3から明らかなように、本発明に係る実施例1〜20の酸化チタンセラミック塗料により得られた塗膜は、親水性、耐食性、透明性、密着性、光触媒性ともに優れていた。一方、本発明の範囲外のセラミック塗料組成又は製造条件を用いた比較例1〜6の塗料から得られた塗膜においては、これらの性能のすべてを同時に満足するものは一つもなかった。
【0081】
【発明の効果】本発明の酸化チタンセラミック塗料は、塗膜の透明性、耐食性および密着性が良好で、かつ優れた光触媒性および親水性を有するものである。また、本発明の酸化チタンセラミック塗料の製造方法は、従来のゾル−ゲル法などに比較して原料コストが安価で塗料の安全性、安定性に優れる利点も併せ有している。このため本発明の製造方法によって製造された酸化チタンセラミック塗料は、汚れの付着防止や、悪臭成分の分解、抗菌、防錆、大気および水質浄化等の各種の用途に有用なものであり、その産業上の利用価値はきわめて高いものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 オルソチタン酸、チタン(IV) イオンおよびペルオキソチタン酸から選ばれた少なくとも1種、および平均粒子径が0.001〜0.2μmの結晶性酸化チタン粒子を、チタンに換算して1:0.1〜1:200の重量比で含み、実質的に夾雑イオンを含有しないことを特徴とする、親水性、光触媒性および透光性に優れた酸化チタンセラミック塗料。
【請求項2】 前記結晶性酸化チタン粒子の平均粒子径が0.002〜0.1μmである、請求項1に記載の親水性、光触媒性および透光性に優れた酸化チタンセラミック塗料。
【請求項3】 チタン塩水溶液を、(A)半透膜を用いる透析処理、(B)半透膜を用いる電気透析処理、および(C)イオン交換体を用いるイオン交換処理から選ばれた少なくとも1処理に供し、それによって前記チタン塩の少なくとも1部を加水分解してオルソチタン酸および結晶性酸化チタンコロイド粒子に変化させるとともに前記水溶液中の夾雑イオンを除去することを特徴とする、請求項1に記載の親水性、光触媒性および透光性に優れた酸化チタンセラミック塗料の製造方法。
【請求項4】 前記処理(A),(B),(C)が0〜80℃の温度で行われる、請求項3に記載の、親水性、光触媒性および透光性に優れた酸化チタンセラミック塗料の製造方法。
【請求項5】 チタン塩水溶液を50℃以上100℃未満の温度に加熱し、次にそれを、(A)半透膜を用いる透析処理、(B)半透膜を用いる電気透析処理、および(C)イオン交換体を用いるイオン交換処理から選ばれた少なくとも1処理に供して、前記チタン塩の少なくとも1部分を加水分解してオルソチタン酸および結晶性酸化チタンコロイド粒子に変化させ、かつ、前記水溶液中の夾雑イオンを除去することを特徴とする、請求項1に記載の親水性、光触媒性および透光性に優れた酸化チタンセラミック塗料の製造方法。
【請求項6】 前記チタン塩水溶液がオキシ塩化チタンおよびオキシ硫酸チタンから選ばれた少なくとも1種を含む水溶液である、請求項3又は5に記載の方法。
【請求項7】 チタン塩水溶液に、この水溶液中のチタン量1モルに対し、4モル未満の、アルカリ金属水酸化物およびアンモニアから選ばれた少なくとも1種を添加し、この混合水溶液を50℃以上100℃未満の温度に加熱し、さらに、(A)半透膜を用いる透析処理、(B)半透膜を用いる電気透析処理、および(C)イオン交換体を用いるイオン交換処理から選ばれた少なくとも1処理に供して、前記チタン塩の少なくとも1部分を加水分解してオルソチタン酸および結晶性酸化チタンコロイド粒子に変化させ、かつ、前記水溶液中の夾雑イオンを除去することを特徴とする、請求項1に記載の親水性、光触媒性および透光性に優れた酸化チタンセラミック塗料の製造方法。
【請求項8】 チタン塩水溶液に、この水溶液中のチタン量1モルに対し4モル未満のアルカリ金属水酸化物およびアンモニアから選ばれた少なくとも1種を添加し、さらにこの混合水溶液を50℃以上100℃未満の温度に加熱して、前記チタン塩の少なくとも1部分を加水分解してオルソチタン酸および結晶性酸化チタンコロイド粒子に変化させ、この酸化チタンコロイド含有水溶液にアルカリ金属水酸化物およびアンモニアから選ばれた少なくとも1種を添加して沈殿を生成させ、この沈殿を捕集して、これを水、過酸化化合物水溶液、および錯化剤水溶液から選ばれた分散媒中に分散させることを特徴とする、請求項1に記載の親水性、光触媒性および透光性に優れた酸化チタンセラミック塗料の製造方法。