親水性のポリマー歯科用スポンジ
歯科用被覆材アセンブリは、緻密化されたキトサン生体材料のような、親水性のポリマースポンジ構造体から形成されている。本発明により、口腔もしくは隣接する解剖学的構造物内の組織または骨と関連させて配置することを目的とした形状、大きさ、および構成を有する親水性ポリマースポンジ構造体が、提供される。この親水性ポリマースポンジ構造体は、キトサン生体材料を含む。この前記親水性ポリマースポンジ構造体は、使用に先立ち、圧縮によって0.6g/cm3から0.1g/cm3までの間の密度まで緻密化されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、米国特許出願第10/743,052号(2004年12月23日出願、発明の名称「Wound Dressing and Method of Controlling Severe Life−Threatening Bleeding」)の一部継続出願であり、この出願は、米国特許出願第10/480,827号(2003年12月15日出願、発明の名称「Wound Dressing and Method of Controlling Severe Life−Threatening Bleeding」)の一部継続出願であり、この出願は、国際出願PCT/US02/18757(2002年6月14日出願)の米国特許法第371条の下での国内段階であり、この出願は、仮特許出願第60/298,773号(2001年6月14日出願)に対する優先権を主張しており、これらは各々、本明細書中で参考として援用される。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、全体として、治癒を促進すると同時に出血、流体の漏出もしくは浸出、または他の形の体液喪失を改善するために歯科処置中またはその後に施される組成物、アセンブリ、および方法を対象としている。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
図1は、健康な歯の解剖図である。歯は、歯冠と歯根とを含む。歯根は、靱帯に支持されて歯槽(顎)骨内に入っている。靱帯は、衝撃を吸収する結合組織の強靭な帯を含んでおり、これは、歯根を物理的に顎骨に結合している。この骨内の歯によって占有されている穴は、歯槽と呼ばれる。
【0004】
歯冠は、歯肉の上に露出している。エナメル質と呼ばれる硬く光沢のある外側表面が歯冠を覆っている。エナメル質の下に、顕微鏡で見ると多孔質の硬組織である象牙質がある。歯の中央に、血管および神経組織からなる歯髄を収容する髄腔がある。
【0005】
歯は、例えば細菌による歯のエナメル質中のカルシウムの侵食により、損傷を受けるか、または腐食することがある。これが次には、エナメル質の下にある象牙質の浸食を引き起こす可能性がある。腐食が続くにつれて、細菌が多孔質の象牙質を通って移動し、歯髄に感染する可能性がある。続いて感染に対する免疫応答が生じ、歯周辺の血管を拡張させて、歯に入る神経を圧迫する可能性がある。その結果、歯痛が生じる。
【0006】
口腔およびその解剖学的構造物に影響を及ぼすこれらおよび他の状況が生じたときに介入するための様々な歯科処置がある。これらの処置は、一般開業医、歯科医、口腔外科医、顎顔面外科医、および歯周病専門歯科医によって日常的に行われている。
【0007】
例えば、歯根管治療とも呼ばれる歯内手術の介入によって、様々な条件下で、腐食しつつある歯の内側から、細菌、神経組織、有機堆積物、および細菌毒素を除去することができる。これに続き、執刀医によって、歯の内部が充填および密封される。現在、年間約1600万の根管治療が行われている。
【0008】
もし腐食が極度に進行してしまった場合、歯の除去または摘出が必要となるかもしれない。現在、毎年3000万を越える摘出が行われている。単純な摘出中、歯科医は、道具、例えば鉗子で歯を把持し、歯を前後に揺動させる。この揺動運動によって、歯を所定の位置に保持する靱帯が破壊され、それによって歯が歯槽骨から解放される。次いで、歯が槽から抜去され、むき出しの状態の歯槽が残る。
【0009】
歯の除去または摘出は、その歯の存在が叢生もしくは不正咬合を引き起こしている場合、別の歯(例えば智歯)の萠出を妨げている場合、または矯正治療(「歯列矯正装置」)の準備においても必要となるかもしれない。抜歯は、進行した歯周(歯肉)疾患が原因で必要となるかもしれない。摘出の選択が行われた歯が歯肉の上に十分に萠出していない場合、摘出対象の歯にアクセスするために、上に重なる歯肉および骨組織の一部を最初に除去することが必要となる場合もある。
【0010】
このような通常の歯科処置−−例えば、歯内手術、または歯根膜手術、矯正治療、抜歯、顎矯正手術、生検、および他の口腔外科的処置−−の最中およびその後には、出血、流体の漏出もしくは浸出、または他の形の体液喪失が発生するのが一般的である。出血、流体の漏出もしくは浸出、または他の形の体液喪失は、口腔内の組織および構造物の損傷または外傷の結果として口腔内で発生する可能性もある。この関連では、事故が原因で、毎年約200万本の歯が失われている。腫れおよび残存出血は、処置または損傷後の治癒期間中存続すると一般的に推測することができる。治癒期間中に、新たな歯肉組織が、摘出によって残された間隙に向かって成長する。
【0011】
従って、治癒期間中に、外科的介入部位−−すなわち組織の損傷部位もしくは外傷部位−−からの出血、流体の漏出もしくは浸出による体液喪失を食い止め、該部位を密封および/または安定させるための措置を講じることが望ましい。歯科処置または口腔に対する損傷の最中およびその後には、迅速かつ効果的な止血が必要である。
【0012】
例えば、抜歯後には、迅速な出血の停止およびむき出し状態の歯槽内部の創傷上への血餅の形成が極めて望ましい。実際には、摘出後の全治癒期間中−−1週間から2週間を要する可能性がある−−槽内に形成される血餅が分解および/または脱落しないように、止血が促進される状態を維持することが重要である。もし血餅が分解および/または脱落すると、ドライソケット(歯槽骨炎とも呼ばれる)として知られる状態が引き起こされる。ドライソケット状態は、顎内の嚢胞腔異常の治療中にも、同じ理由から生じる可能性がある。ドライソケットは疼痛および不快症状を引き起こす可能性があり、それらは、二次治癒過程を通じて槽が治癒する際にしか軽快しない。
【0013】
従来より、歯科処置中およびその後に沈殿する出血を止めるためには、綿のパック、および巻くかまたは折り畳んだガーゼのパッドが一般的に用いられている。そのような材料の存在によって血液および流体を吸収することができるが、それらは、迅速かつ長期にわたる止血または治癒をもたらす状態を促進または生成するものではない。歯科処置中またはその後に施すことができる改良された止血のための組成物、アセンブリ、および方法の必要性が依然として存在する。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0014】
(発明の概要)
本発明は、親水性ポリマースポンジ構造体の配置を含む、口腔もしくは隣接する解剖学的構造物内の組織または骨を治療するためのアセンブリ、システムおよび方法を提供する。
【0015】
本発明の一態様は、口腔もしくは隣接する解剖学的構造物内の組織または骨と関連させて配置することを目的とした形状、大きさ、および構成を有する親水性ポリマースポンジ構造体、および口腔もしくは隣接する解剖学的構造物内の組織または骨と関連させて該親水性ポリマースポンジ構造体を配置するための方法を提供する。
【0016】
本発明の別の態様は、例えば、抜歯、歯内手術、歯根膜手術、矯正治療、顎矯正手術、生検、歯肉手術、骨手術、歯石除去もしくは根面平滑化、歯周維持、上顎総義歯もしくは下顎総義歯、総義歯調整もしくは部分義歯調整、義歯のリベースもしくはリライン、手術による軟組織の摘出、手術による骨の摘出、咬合矯正装置もしくは咬合ガードの取り付けあるいは咬合調整、顎再建を含む口腔手術、顎内の嚢胞腔異常の治療、新たな骨成長もしくは骨成長促進、または口腔内の組織、口腔内の解剖学的構造物もしくは歯槽(顎)骨に影響を及ぼす他のあらゆる外科的な処置あるいは介入を含むことができる、歯科外科的処置を行うためのシステムおよび方法を含む。本発明のこの態様によれば、本システムおよび方法により、外科的処置によって影響を受けた組織または骨と関連させて親水性ポリマースポンジ構造体が配置される。
【0017】
本発明の別の態様は、組織または骨に損傷または外傷を引き起こす事故により口腔または歯槽(顎)骨内の組織を治療するためのシステムおよび方法を提供する。本発明のこの態様によれば、本システムおよび方法により、治療された組織または骨と関連させて親水性ポリマースポンジ構造体が配置される。
【0018】
親水性ポリマースポンジ構造体を使用する本アセンブリ、システムおよび方法は、組織もしくは骨の損傷部位、組織もしくは骨の外傷部位、または組織もしくは骨の手術部位を止血、密封、または安定化する。親水性ポリマースポンジ構造体の使用により、抗微生物性障壁または抗ウイルス性障壁を形成し、かつ/または凝固を促進し、かつ/または治療薬を放出し、かつ/または歯周表面もしくは骨表面を治療し、かつ/またはそれらの組み合わせを行うこともできる。
【0019】
本発明の全態様によれば、親水性ポリマースポンジ構造体は、使用に先立ち、圧縮によって0.6g/cm3から0.1g/cm3までの間の密度まで緻密化されたキトサン生体材料を含むことが望ましい。
【0020】
本発明の他の特徴および利点は、添付の説明、図面、および特許請求の範囲に基づき明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
(好ましい実施形態の説明)
当業者が本発明を実施することができるように、本発明の開示内容を詳細かつ正確に説明するが、本明細書に開示する物理的実施形態は本発明を単に例示するものに過ぎず、それらを他の特定の構造物に具現してもよい。好ましい実施形態を説明してきたが、特許請求の範囲によって定義される本発明から逸脱することなく、詳細を変更することができる。
【0022】
I. 歯科用パッドアセンブリ
図2に、抜歯後にむき出しの状態で残された歯槽を示す。図3Aおよび図3Bに、摘出部位のむき出しの歯槽内への配置後の、本発明の特徴を具現した歯科用パッドアセンブリ10を示す。図3Aおよび図3Bでは、歯科用パッドアセンブリ10は、抜歯後のむき出しの歯槽内へ挿入または「詰める」ことができるような形状、大きさ、および構成となっている。摘出には、単一の歯(図に示すような)または複数の歯を含めることができる。
【0023】
歯科用パッドアセンブリ10は、組織被覆マトリックス12を備える。組織被覆マトリックス12は、血液、体液、または湿気の存在下で反応して強固な接着剤(adhesive)または接着剤(glue)となる生体適合性材料を含む。組織被覆マトリックスは、他の有益な属性、例えば、抗菌特性ならびに/または抗微生物特性ならびに/または抗ウイルス特性、ならびに/または凝固および損傷に対する身体の防衛反応を加速するか、もしくは他の方法で増強する特性も有することが望ましい。
【0024】
組織被覆マトリックス12は、ポリアクリル酸塩、アルギン酸塩、キトサン、親水性ポリアミン、キトサン誘導体、ポリリジン、ポリエチレンイミン、キサンタン、カラギーナン、第4級アンモニウムポリマー、コンドロイチン硫酸、デンプン、改質セルロースポリマー、デキストラン、ヒアルロン酸、またはそれらの組み合わせのような、親水性ポリマーの形態を備えることが望ましい。デンプンは、アミラーゼ、アミロペクチン、およびアミロペクチンとアミラーゼとの組み合わせからなっていてもよい。
【0025】
好ましい実施形態では、マトリックス12の生体適合性材料は、最も好ましくは、より一般的にはキトサンと呼ばれるポリ[β−(1→4)−2−アミノ−2−デオキシ−D−グルコピラノースである、非哺乳類の材料を含む。
【0026】
キトサンマトリックス12の特異的性質により、歯科用パッドアセンブリ10は、血液、体液、または湿気の存在下で槽内の組織に粘着することができる。歯科用パッドアセンブリ10の存在によって、摘出部位が止血、密封、および/または安定化され、それと同時に、治癒過程の間創傷での血餅の形成および維持を促す状態が確立される。
【0027】
図4Aに、使用前の状態の代表的な歯科用パッドアセンブリ10を示す。歯科用パッキングパッドアセンブリ10の大きさ、形状、および構成は、治療対象部位のトポロジおよび形態ならびに患者の年齢/状態(例えば、成人または小児)を考慮に入れることを含む、その意図された用途に応じて変えることができる。パッドアセンブリ10は、直線的であっても、細長くても、正方形であっても、円形であっても、長円形であっても、それらの複合物または複雑な組み合わせであってもよい。パッドアセンブリ10の形状、大きさ、および構成は、使用中または使用に先立って、切断、曲げ、または成形により、適用部位のトポロジおよび形態に対して特別に形成および適合されることが望ましい。図4Bに、同一または異なる所望の形状、大きさ、および構成の1つ以上の歯科用パッドアセンブリ10をより大きいソースパッドアセンブリ11から切り取ることができることを示す。
【0028】
図3Aおよび3Bに、摘出後のむき出しの歯槽内へのパッドアセンブリ10の適用を示す。パッドアセンブリ10は、口腔または周囲の解剖学的構造物内の治療を意図された組織部位のトポロジおよび形態に応じて様々な様式に形状、大きさ、および構成を設定することができることを理解されたい。治療された標的治療部位は、歯科外科的処置中、例えば抜歯中に切断、変更、または別の方法による影響を受けた組織を含む可能性がある。さらに、パッドアセンブリ10は、他の種類の歯科外科的処置、例えば、歯内手術、歯根膜手術、矯正治療、顎矯正手術、生検、歯肉手術、骨手術、歯石除去もしくは根面平滑化、歯周維持、上顎総義歯もしくは下顎総義歯、総義歯調整もしくは部分義歯調整、義歯のリベースもしくはリライン、手術による軟組織の摘出、手術による骨の摘出、咬合矯正装置もしくは咬合ガードの取り付けあるいは咬合調整、顎再建を含む口腔手術、骨成長もしくは骨成長促進、または口腔内の組織、口腔内の解剖学的構造物、もしくは歯槽(顎)骨に影響を及ぼす他のあらゆる外科的な処置もしくは介入を目的とした形状、大きさ、および構成とすることができる。歯科用パッドアセンブリ10を施す必要性は、口腔または歯槽(顎)骨内の組織または構造物に損傷または外傷を引き起こす事故により生じる可能性もある。
【0029】
パッドアセンブリ10によって治療される部位は、手術器具、外傷、もしくは損傷によって、または手術時もしくは歯科処置時におけるワイヤ、ステープル、ファスナ、もしくは縫合糸の配置によって引き起こされる動脈および/または静脈からの出血、または裂傷、創傷、穿刺、熱傷、骨折、もしくは挫滅外傷によって偶発的に引き起こされる動脈および/または静脈からの出血を含む可能性がある。歯科用パッドアセンブリ10は、口腔内、もしくは隣接する解剖学的構造物に近接する部位のどのような種類の組織破壊、外傷、または損傷にも関連させて挿入または配置されるような大きさおよび構成とすることができる。
【0030】
原因を問わず、パッドアセンブリ10のマトリックス12の特性は、治癒をも促進しながら、出血、流体の漏出もしくは浸出、または他の形の体液喪失を緩和するのに役立つ。
【0031】
マトリックス12の特性から、歯科用パッドアセンブリ10は、口腔内の組織治療部位またはその周囲において、抗菌防護壁および/または抗微生物防護壁および/または抗ウイルス防護壁をも形成することができることが望ましい。
【0032】
キトサンマトリックス12の特別な特性から、歯科用パッドアセンブリ10は、血友病、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)(それ自体が歯肉の出血をもたらす可能性がある)のような様々なタイプの出血性疾患または凝固障害を有する、歯科処置を受けているか、または口腔内の組織外傷に苦しんでいる個人に用いることも必要かもしれない。キトサンマトリックス12の存在によって赤血球膜が引き付けられ、接触と同時にキトサンマトリックス12と融合する。血餅は極めて迅速に形成されることが可能で、通常凝固に必要な凝固タンパク質を必要としない。出血性疾患または凝固障害を有しない個人においてさえも、キトサンマトリックス12が存在することによって、凝固カスケードに左右されずに凝固過程を加速することができる。このため、マトリックス12は、ヘパリン、クロピドグレル(Plavix(商標))、アセチルサリチル酸、ジピリダモール等のような抗凝固剤/血液の抗凝結薬と併せて、効能を失うことなく用いることができる。
【0033】
歯科用パッドアセンブリ10は、歯科処置または口腔内の事故による外傷の処置の最中またはその後に用いた場合、1つ以上の治療薬を放出を制御して血流中に送達するための、局所的に用いられるプラットフォームとなることもできる。治療薬は、後に説明するように、例えば、凍結ステップの前または後に、また乾燥ステップおよび緻密化ステップの前に、親水性ポリマースポンジ構造体内に取り込むことができる。親水性ポリマースポンジ構造体(例えばキトサンマトリックス12)内に取り込むことができる治療薬の例には、限定するものではないが、薬物類または薬剤類、幹細胞類、抗体類、抗微生物剤類、抗ウイルス剤類、コラーゲン類、遺伝子類、DNA、および他の治療薬類、フィブリンのような止血剤類、成長因子類、骨形態形成タンパク質(BMP)、および類似の化合物類が含まれる。
【0034】
キトサンマトリックス12の有益な特性には、口の内側を覆っているような体内の粘膜面への粘着力が含まれる。この特徴により、説明したように、キトサンマトリックス12の接着密封特性、および/または加速された凝固特性、および/または抗菌/抗ウイルス特性が利点となる粘膜面の治療を対象とするシステムおよび装置内へのキトサンマトリックス12の組み込みが可能となる。そのようなシステムおよび方法には、歯肉修復および口腔内に配置された縫合糸の周りの密封が含まれる。
【0035】
1.組織被覆マトリックス
組織被覆マトリックス12は、低弾性の親水性ポリマーマトリックス、すなわち、後に説明する後続の緻密化工程で緻密化された、本質的に「非圧縮」の組織被覆マトリックス12から形成されることが好ましい。先に述べたように、組織被覆マトリックス12は、好ましい形態では、より一般的にはキトサンと呼ばれる非哺乳類材料のポリ[β−(1→4)−2−アミノ−2−デオキシ−D−グルコピラノースを含む、親水性のポリマー形を備えることができる。
【0036】
マトリックス12用に選択されるキトサンは、好ましくは少なくとも約100kDa、より好ましくは少なくとも約150kDaの平均分子量の重量を有する。キトサンは、少なくとも約300kDaの平均分子量の重量を有するのが最も好ましい。
【0037】
マトリックス12を形成する際に、キトサンは、グルタミン酸、乳酸、ギ酸、塩酸および/または酢酸のような酸を有する溶液中に配置されることが望ましい。これらの中で、キトサン酢酸塩および塩化キトサン塩は血中で分解に耐えるがキトサン乳酸塩およびキトサングルタミン酸塩は分解に耐えないので、塩酸および酢酸が最も好ましい。分子量がより大きい(Mw)アニオンは、キトサン塩の準結晶性の構造を崩壊させ、構造内に可塑化効果を生じさせる(高い可撓性)。望ましくないことであるが、その高い可撓性はまた、血中にあるこれらのより大きいMwのアニオン塩を急速に分解させる。
【0038】
マトリックス12の1つの好ましい形は、キトサンアセテート溶液を凍結して凍結乾燥させ、次いで、最も好ましい密度が約0.20g/cm3である、0.6g/cm3〜0.25g/cm3の密度まで圧縮によって緻密化することによって形成された、0.035g/cm3未満の密度の「非圧縮」キトサンアセテートマトリックス12を備える。このキトサンマトリックス12は、圧縮親水性スポンジ構造体と特徴付けることもできる。緻密化キトサンマトリックス12は、望ましいと見なされる上に述べたすべての特徴を呈する。緻密化キトサンマトリックス12は、後にさらに詳細に説明するように、使用中マトリックスに堅牢性および長寿命を与える、特定の構造上の利点および機械的利点をも有する。
【0039】
キトサンマトリックス12は、堅牢で透過性の高い比表面積、正に帯電した表面を提示する。正電気を帯びた表面は、赤血球と血小板の相互作用に対して極めて反応性に富む表面を生成する。赤血球膜は負に帯電しており、それらはキトサンマトリックス12に引き付けられる。細胞膜は、接触と同時にキトサンマトリックス12と融合する。血餅を極めて迅速に形成することができ、止血に通常必要な凝固タンパク質の即時の必要性を回避する。このため、キトサンマトリックス12は、血友病のような凝固障害を有する人々のみならず、正常な個人および抗凝固療法を受けている個人の双方に有効である。キトサンマトリックス12は、細菌、内毒素、および微生物をも拘束し、接触と同時に細菌、微生物、および/またはウイルス性因子類を殺傷することができる。
【0040】
キトサンマトリックス12の構造、組成、製造、および他の技術的特徴の詳細については後に説明する。
【0041】
2. ポーチ
図5Aおよび図5Bに示すように、(あらかじめ大きさが定められた歯科用パッドアセンブリ10の形、またはあらかじめ大きさが定められた歯科用パッドアセンブリ10を切り取ることができるより大きいソースパッドアセンブリ11としての)キトサンマトリックス12は、気密の、ヒートシールされた、ホイルで裏張りを施したポーチ16内に、低水分含量、好ましくは5%以下の水分と共に、使用前に真空包装されることが望ましい。歯科用パッドアセンブリ10またはソースアセンブリ11はその後、γ線照射の使用によってポーチ16内で終末滅菌される。図5Bに示すように、より小さいパッドアセンブリ10を切り取って大きさを整えることができるソースパッドアセンブリ11も、使用前に、ポーチ16内に滅菌状態で真空包装することができる。
【0042】
ポーチ16は、使用の時点で介護士によって剥離して開けるようになっている。ポーチ16は、一端に沿って剥がして組織被覆用パッドアセンブリ10にアクセスするようになっている。ポーチ16の対向する縁部を使用前につかんで引き離すと、組織被覆用パッドアセンブリ10が露出する。
【0043】
3. 歯科用パッドアセンブリの取り扱い
ひとたびポーチ16から取り出せば(図6参照)、歯科用パッドアセンブリ10は、標的組織部位に直ちに粘着させることができる。粘着を促進するための使用前操作は必要としない。例えば、使用に備えて接着面を露出させるために保護物質を剥離する必要はない。ひとたび血液、流体、または湿気と接触するとキトサンマトリックス12自体が強固な粘着特性を示すため、粘着面はそのままの状態で形成される。歯科用パッドアセンブリ10は、ポーチ16を開封すると同時に直ちに標的部位に施す必要はない。
【0044】
図7に示すように、歯科用パッドアセンブリ10は、図示の実施形態では抜歯後の歯槽である標的部位のトポロジおよび形態に合わせるために、その場で成形および適合させることができる。医師は、摘出領域内の歯の大きさおよび間隔を反映する歯科用型穴を得て、該型穴をパッドアセンブリ10の大きさの決定および成形に役立たせるのに用いることができる。歯科用パッドアセンブリ10は、治療部位の特定のトポロジおよび形態に最も良く合わせるために、意図的に多くの形状、例えば円筒形またはカップ形に成形することができる。先に述べたように(図4B参照)、より大きいソースアセンブリ11から、1つ以上のパッドアセンブリ10をその場で切り取って成形することができる。
【0045】
図8に、図示の実施形態では抜歯部位である、標的治療部位と関連させて配置されているキトサン歯科用パッドアセンブリ10を示す。図8に示すように、歯科用パッドアセンブリ10は、キトサンマトリックス12を活動性出血のある部位または粘着が別途所望される部位に向けて歯槽内に配置および圧入され(例えば、手で、または鉗子13を用いて)、これにより出血している組織に直圧を加えることができる(図9も参照)。図9に示すように、パッドアセンブリ10は、パッドアセンブリ10の一部が槽から残存歯間に延び、対合歯によって所定の位置に保持されるような形状、大きさ、および構成を有することが望ましい。ひとたび粘着が所望される部位に施されれば、介護士は歯科用パッドアセンブリ10の再配置を避けなければならないことが望ましい。
【0046】
図9に示すように、キトサンマトリックス12の自然の粘着活性が発現できるように、強い圧力が約2分間加えられることが望ましい。このようにして、摘出部位に面する対合歯によって保持されている圧縮力のうちの事実上すべての圧縮力が、実質的にパッドアセンブリ10の塊全体にわたって伝達される。キトサンマトリックス12の粘着強度は、加えられる圧力の持続と共に、最長で約5分間増大する。この時間中の歯科用パッドアセンブリ10全体に均等に加えられる圧力は(図9に矢印で示すように)、より均一な粘着および創傷密封をもたらす。所望であれば、圧力は、圧迫ガーゼを用いて加えることができる。患者も、噛んで下げることによって圧力を加えかつ維持することができる。
【0047】
パッドアセンブリ10のキトサンマトリックス12は、槽内に血餅が形成される際に単に血液を吸い上げるだけではない。キトサンマトリックス12の粘着強度によってキトサンマトリックス12が槽内部の組織に粘着し、これによりパッドアセンブリ10の機械的特性によって直圧が加えられる。さらに、キトサンマトリックス12の存在によって赤血球膜が引き付けられ、赤血球膜は接触と同時にキトサンマトリックス12と融合する。血餅は極めて迅速に形成されることが可能で、通常凝固に必要な凝固タンパク質のみに依存することはない。キトサンマトリックス12が存在することによって、凝固カスケードに左右されずに凝固過程を加速することができる。またさらに、キトサンマトリックス12の存在によって、抗菌性および/または抗微生物性および/または抗ウイルス性の防護効果をもたらすことができる。従来の綿パックおよび巻きガーゼパッドまたは折り畳みガーゼパッドを用いた場合の約7分と比較して、歯科用途にキトサンマトリックス12を用いた場合、止血は約1分で行われる。
【0048】
先に述べたように、歯科用パッドアセンブリ10は、摘出部位の大きさにぴったり合わせるために、現場で裂くか、または切り取ることができる。パッドアセンブリ10のより小さいパッチ片を現場で適切な大きさに切り、すでに配置されている別の片にフィットさせて粘着させ、治療部位のトポロジおよび形態に最大限に近づけることもできる。
【0049】
疼痛の防止および速やかな治癒の促進のために、歯科用パッドアセンブリ10は治癒過程の間ずっと槽内部に存在することができることが望ましい。槽内部にキトサンマトリックス12が存在することによって、新たな骨および歯肉組織が摘出によって残された間隙に向かって成長する全体的な治癒過程のみならず、血餅の保持に貢献する環境がもたらされる(それによりドライソケットが回避される)。キトサンマトリックス12(キトサンマトリックス12は、分解に耐えるために、その製造中意図的に緻密化されることが望ましい)の物理的存在は、線維芽内成長、血管形成、および摘出部位の再骨化からなる通常の歯槽骨治癒過程の伝導のための骨を被覆して痛みを和らげる存在(bone covering obtundant)および生理学的足場としての機能を果たす。緻密化されたキトサンマトリックス12の増強された物理的特性は、キトサンマトリックス12の粘着強度、その凝固の自己促進、およびその抗菌/抗微生物/抗ウイルス特性によってさらに増強されている。
【0050】
先に述べたように、パッドアセンブリ10は、体内で局所的または全身的に作用する薬剤もしくは生理的作用物質あるいは薬理学な作用物質、例えば、酵素類、有機触媒類、リボザイム類、有機金属類、タンパク質類、糖タンパク類、ペプチド類、ポリアミノ酸類、抗体類、核酸類、ステロイド分子類、抗生物質類、抗真菌剤類、サイトカイン類、組織成長因子類および/または骨成長因子類、炭水化物類、撥油剤、脂質類、細胞外基質および/または個別化合物類、哺乳類細胞類、幹細胞類、遺伝子組換え細胞類、調合薬、ならびに治療薬を組み入れることができる。パッドアセンブリ10は、短時間かつ無痛の治癒期間を促進する物理的に安定した、生体適合性を有する、非細胞傷害性の環境を提供する。
【0051】
パッドアセンブリ10は除去されることが望ましく、また、必要であれば、施して48時間以内に交換されることが望ましい。パッドアセンブリ10は剥ぎ取ることができ、通常、一回の損なわれない被覆で治療部位から分離することになる。時には、残余のキトサンゲルが残存する場合もあり、これは、必要に応じて、ガーゼ包帯を用いて優しく擦り、食塩水洗浄または水洗浄によって除去することができる。
【0052】
キトサンは、体内で生物分解され、良性物質であるグルコサミンに分解される。さらに、根治手術時には、キトサンのすべての部分を創傷から除去する努力をする必要がある。
【0053】
II 歯科用パッドアセンブリの製造
ここで、組織被覆用パッドアセンブリ10の望ましい作製方法を説明する。この方法は、図10Aから図10Hに概略的に示されている。もちろん、他の方法を用いてもよいことを理解されたい。
【0054】
1. キトサン溶液の調製
キトサン溶液(図10、ステップAではCSで示す)を調製するのに用いるキトサンは、0.78より大きいが0.97より小さい分数脱アセチル化度を有することが好ましい。キトサンは、0.85より大きいが0.95より小さい分数脱アセチル化度を有するのが最も好ましい。マトリックスに加工するために選択されるキトサンは、30rpmのスピンドルLV1で1%(w/w)酢酸(AA)の1%(w/w)溶液中において、25℃で約100センチポアズ〜約2000センチポアズの粘度を有することが好ましい。キトサンは、30rpmのスピンドルLV1で1%(w/w)酢酸(AA)の1%(w/w)溶液中において、25℃で約125センチポアズ〜約1000センチポアズの粘性を有するのがより好ましい。キトサンは、30rpmのスピンドルLV1で1%(w/w)酢酸(AA)の1%(w/w)溶液中において、25℃で約400センチポアズ〜約800センチポアズの粘性を有するのが最も好ましい。
【0055】
キトサン溶液CSは、25℃で、固形化したキトサンのフレークまたは粉に水を添加することによって調製され、この固体が、攪拌、かき混ぜ、または揺動によって液体中で分散されることが好ましい(図10、ステップA参照)。液体中へのキトサンの分散時に酸化合物が添加されて分散液全体に混合され、キトサン固形物の溶解が生じる。溶解の速度は、溶液の温度、キトサンの分子量およびかき混ぜのレベルによって決まる。溶解ステップは、撹拌羽根を有する閉鎖されたタンクリアクタまたは閉鎖された回転容器内で実行されることが好ましい。これによって、確実にキトサンが均一に溶解しかつ高粘度の残留物が容器側面に溜まる可能性がなくなる。キトサンの溶解率(w/w)は、0.5%キトサンより大きく2.7%より小さいことが好ましい。キトサンの溶解率(w/w)は、1%キトサンより大きく2.3%キトサンより小さいことがより好ましい。キトサンの溶解率は、1.5%キトサンより大きく2.1%より小さいのが最も好ましい。用いられる酸は、酢酸であることが好ましい。酢酸は、0.8%を越え4%に満たない酢酸溶解率(w/w)をもたらすように溶液に添加されることが好ましい。酢酸は、1.5%(w/w)を越え2.5%に満たない酢酸溶解率(w/w)をもたらすように溶液に添加されるのがより好ましい。
【0056】
キトサンマトリックス12を目的とした構造または形状の生成ステップは、通常溶液から実行され、凍結(相分離を生じさせるため)、非溶媒金型押し出し成形(フィラメントを製造するため)、エレクトロスピニング(フィラメントを製造するため)、相反転および非溶媒(透析膜およびフィルタ膜を製造するのに一般に用いられるような)による沈殿または予成形されたスポンジ様製品または織物製品上への溶液コーティングのような手法を用いて達成することができる。凍らせること(通常は、分離した固相へのキトサン生体材料の分化を伴う氷への水の凍結)によって2つ以上の別個の相が形成される凍結の場合には、凍結溶媒(一般的には氷)を除去し、次いでそこから凍結した構造を乱すことなくキトサンマトリックス12を製造するために、別のステップが必要となる。これは、凍結乾燥ステップおよび/または凍結置換ステップによって達成することができる。フィラメントは、不織紡績工程によって不織スポンジ様メッシュに形成することができる。あるいは、従来の紡績工程および製織工程によってフィラメントをフェルトの織物に製造してもよい。生体材料のスポンジ様製品を製造するのに用いることができる他の工程には、固体キトサンマトリックス12からの添加されたポロゲン類の溶解、または上述のマトリックスに由来する材料のせん孔が含まれる。
【0057】
2. 水性キトサン溶液の脱気
キトサン生体材料溶液CSについては、一般的な大気中の気体類の脱気が行われることが好ましい(図10、ステップB参照)。一般に、脱気によってキトサン生体材料溶液CSから十分な残留気体が除去され、これにより、後続の凍結作業を受ける際に気体が逃げて本創傷被覆用製品内に望ましくない大きい空洞または大きい捕捉気泡を形成することがない。脱気ステップは、一般的には溶液CSの形態のキトサン生体材料を加熱し、次いでそれに真空を印加することによって行うことができる。例えば、脱気は、溶液をかき混ぜながら約45℃までキトサン溶液を加熱し、その直後に約500mトールで約5分間真空を印加することによって行うことができる。
【0058】
一実施形態では、最初の脱気後の分圧制御のために、特定の気体類を溶液内に再添加することができる。そのような気体類には、限定するものではないが、アルゴン、窒素およびヘリウムが含まれる。このステップの利点は、これらの気体類の分圧を含む溶液が凍結時に微空洞を形成することにある。微空洞はその後、氷前線が進むにつれてスポンジを貫通する。これが、スポンジの気孔の相互接続性を助長する境界明瞭で十分に制御されたチャネルを残す。
【0059】
3. 凍結および水性キトサン溶液
次に、(図10、ステップC参照)、キトサン生体材料(上に述べたように、一般的に、ここでは酸性溶液中にあって脱気されている)は、凍結ステップに供される。凍結は、鋳型内で支持されたキトサン生体材料溶液を冷却し、該溶液の温度を室温から氷点下の最終温度まで下げることによって実行されるのが好ましい。この凍結ステップはプレートフリーザ上で実行されるのがより好ましく、それによって、プレートの冷却面を介した熱の損失による温度勾配が鋳型内のキトサン溶液全体に導入される。このプレート冷却面は、鋳型と良好な熱的接触状態にあることが好ましい。プレートフリーザの表面との接触前のキトサン溶液および鋳型の温度は室温に近いことが好ましい。プレートフリーザの表面温度は、鋳型+溶液の導入前は−10℃より高くないことが好ましい。鋳型+溶液の熱質量は、プレートフリーザの棚板+熱伝導流体の熱質量よりも小さいことが好ましい。鋳型は、限定するものではないが、鉄、ニッケル、銀、銅、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金、バナジウム、モリブデン、金、ロジウム、パラジウム、プラチナおよび/またはそれらの組み合わせのような金属元素から形成されることが好ましい。鋳型は、キトサン溶液の酸成分およびキトサン塩マトリックスとの反応がないことを確実にするために、チタン、クロム、タングステン、バナジウム、ニッケル、モリブデン、金およびプラチナのような、薄い、不活性の金属被膜でコーティングすることもできる。鋳型内の熱伝達を制御するために、金属の鋳型と併せて、断熱コーティングまたは断熱成分を用いることができる。鋳型の表面は、凍結したキトサン溶液と結合しないことが好ましい。鋳型の内側表面は、ポリテトラフルオロエチレン(テフロン(登録商標))、フッ素化エチレンポリマー(FEP)、または他のフッ素化ポリマー材料から形成された、薄い、永久結合されたフッ素化剥離剤塗布によってコーティングされていることが好ましい。コーティングされた金属鋳型が好ましいが、壁の薄いプラスチックの鋳型は、溶液の支持に好都合な代替物とすることができる。そのようなプラスチックの鋳型には、限定するものではないが、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、アクリロニトリルとブタジエンとスチレンの共重合体類、ポリエステル類、ポリアミド類、ポリウレタン類、およびポリオレフィン類から射出成形、機械加工または熱成形によって調製された鋳型が含まれる。断熱成分の局所配置と組み合わせた金属鋳型の利点は、それらが熱流制御の改善および凍結スポンジ内部の構造改善の機会をも提供することにある。この熱流制御の改善は、鋳型内の熱伝導成分の配置と断熱成分の配置との間における大きな熱伝導性の差に起因する。
【0060】
この方法でのキトサン溶液の凍結(図10、ステップCにFCSで示す凍結キトサン溶液の形成)は、調製対象のパッドアセンブリ製品の好ましい構造を可能にする。
【0061】
プレートの凍結温度が、最終的なキトサンマトリックス12の構造および機械的特性に影響を与える。プレートの凍結温度は約−10℃より高くないことが好ましく、約−20℃より高くないことがより好ましく、約−30℃より高くないことが最も好ましい。−10℃で凍結されると、非圧縮キトサンマトリックス12の構造は極めて開放的で、開放的なスポンジ構造全体を通して垂直である。−25℃で凍結されると、非圧縮キトサンマトリックス12の構造は、より閉鎖的であるが依然として垂直である。−40℃で凍結されると、非圧縮キトサンマトリックス12の構造は閉鎖的で、垂直ではない。代わりに、キトサンマトリックス12は、より強化された、相互によりかみ合った構造を備える。キトサンマトリックス12の粘着性の/凝集力のある密封特性は、より低い凍結温度が用いられるにつれて向上するのが観測される。約−40℃の凍結温度では、優れた粘着/凝集特性を有するキトサンマトリックス12用の構造が形成される。
【0062】
凍結ステップ中、所定の時間にわたって温度を下げることができる。例えば、キトサン生体材料溶液の凍結温度は、約90分から約160分の間、約−0.4℃/mmから約−0.8℃/mmの間の等温冷却ランプのプレート冷却適用によって、−45℃まで室温から低下させることができる。
【0063】
4. キトサン/氷のマトリックスの凍結乾燥
凍結したキトサン/氷のマトリックス(FCS)は、凍結した材料(図10、ステップD参照)の隙間内から水分を除去されることが望ましい。この水分除去ステップは、凍結したキトサン生体材料FCSの構造的完全性を損なうことなく達成することができる。これは、最終のキトサンマトリックス12の構造配列を崩壊させる可能性のある液相を生成することなく達成することができる。従って、凍結キトサン生体材料FSC中の氷は、中間の液相を形成することなく、固体の凍結相から気相へ通過する(昇華)。昇華した気体は、凍結キトサン生体材料よりも実質的に低い温度で、真空の復水器チャンバ内に氷として捕捉される。
【0064】
水分除去ステップを実行する好ましい方法は、フリーズドライ、すなわち凍結乾燥による方法である。凍結キトサン生体材料FCSの凍結乾燥は、凍結キトサン生体材料をさらに冷却することによって行うことができる。通常は、その後真空が印加される。次に、真空の凍結キトサン材料を徐々に加熱することができる。
【0065】
より具体的には、凍結キトサン生体材料は、少なくとも約1時間、より好ましくは少なくとも約2時間、最も好ましくは少なくとも約3時間の好ましい時間、好ましくは約−15℃で、より好ましくは約−25℃で、最も好ましくは約−45℃で後続の凍結に供することができる。このステップの後に、約−45℃より低い温度への、より好ましくは約−60℃での、最も好ましくは約−85℃での復水器の冷却が続くことができる。次に、好ましくは最大限でも約100mトール、より好ましくは最大限でも約150mトール、最も好ましくは少なくとも約200mトールの量の真空を印加することができる。真空の凍結キトサン材料は、少なくとも約1時間、より好ましくは少なくとも約5時間、最も好ましくは少なくとも約10時間の好ましい時間、好ましくは約−25℃で、より好ましくは約−15℃で、最も好ましくは約−10℃で加熱することができる。
【0066】
200mトール近傍に減圧を維持しながら、約20℃、より好ましくは約15℃、最も好ましくは約10℃の棚温度で、少なくとも約36時間、より好ましくは少なくとも約42時間、最も好ましくは少なくとも約48時間の好ましい時間、さらなる凍結乾燥が行われる。
【0067】
5. キトサンマトリックスの緻密化
緻密化前のキトサンマトリックス(0.03g/cm3近傍の密度)を「非圧縮キトサンマトリックス」と呼ぶことにする。この非圧縮マトリックスは、それが急速に血液中に溶解し、また機械的特性が芳しくないことから、出血を止めるにあたっては理想的ではない。従って、キトサン生体材料は、圧縮されることが望ましい(図10、ステップE参照)。加熱プラテンによる親水性マトリックスポリマーの表面に対して垂直な圧縮負荷は、乾燥した「非圧縮」キトサンマトリックス12を圧縮し、厚みを減少させてマトリックスの密度を高めるために用いることができる。手短に「緻密化」と呼ぶこともある圧縮ステップで、キトサンマトリックス12の粘着強度、凝集強度および溶解抵抗性が大幅に増大する。閾値密度(0.1g/cm3に近い)を越えて圧縮された、適切に凍結されたキトサンマトリックス12(複数)は、37℃で流れる血液中に容易には溶解しない。
【0068】
圧縮温度は約60℃以上とするのが好ましく、約75℃以上で約85℃以下とするのがより好ましい。
【0069】
緻密化後、マトリックス12の密度は、マトリックス12のベース(「活性」)面(すなわち組織に触れる面)において、マトリックス12の上面と異なることができる。例えば、活性面で測定した平均密度が最も好ましい密度である0.2g/cm3の値もしくはその近傍である典型的なマトリックス12では、上面で測定した平均密度は、大幅に低く、例えば0.05g/cm3となることができる。本明細書において説明する緻密化マトリックス12に対する所望の密度範囲は、血液、流体、または湿気への曝露が最初に発生するマトリックス12の活性側もしくはその近傍に存在することが意図されている。
【0070】
緻密化キトサン生体材料は次に、好ましくは最高約75℃の温度まで、より好ましくは最高約80℃の温度まで、最も好ましくは最高約85℃の温度までオーブン内でキトサンマトリックス12を加熱することによって予備調整されることが好ましい(図16、ステップF)。予備調整は通常、最長約0.25時間、好ましくは最長約0.35時間、より好ましくは最長約0.45時間、最も好ましくは最長約0.50時間の間行われる。この予備調整ステップによって、20%〜30%の粘着特性の損失という小さい犠牲で、溶解抵抗性がさらに大幅に向上する。
【0071】
6. ポーチ内への配置
組織被覆用パッドアセンブリ10はその後、事前に切り取られた大きさで、またはソースパッドアセンブリ11として、ポーチ16(図16、ステップF参照)内に包装することができる。ポーチ16は、アルゴンガスまたは窒素ガスのような不活性気体でパージされ、排気およびヒートシールされることが望ましい。ポーチ16は、内側にある内容物を長期間(少なくとも24ヶ月)にわたって無菌的に保持する役割を果たし、かつ同期間にわたって、湿気および大気気体の浸透に対する極めて高い障壁ともなる。
【0072】
7. 滅菌
ポーチに入れた後、処理された組織被覆用パッドアセンブリ10は、滅菌ステップ(図10、ステップG参照)に供されることが望ましい。組織被覆用パッドアセンブリ10は、多くの方法で滅菌することができる。例えば、好ましい方法は、γ線照射によるなどの照射による方法であり、これによって、創傷被覆材の血液溶解抵抗性、引張特性および粘着特性をさらに増強することができる。照射は、少なくとも約5kGy、より好ましくは少なくとも約10kGy、最も好ましくは少なくとも約15kGyのレベルで行うことができる。
【0073】
8. 整合性および可撓性の向上
損傷部位を標的とした治療に関しての配置に先立つパッドアセンブリ10の曲げおよび/または成形についてはすでに説明済みであり、推奨されるものである。パッドアセンブリ10が唯一の例である親水性ポリマースポンジ構造体では、構造がより可撓性を有しより適合性を有するほど、親水性ポリマースポンジ構造体は、引裂および断片化に対してより抵抗性が高まり、該構造体が標的治療部位の形状に適合するように、かつ下に位置する(一般的に)損傷のでこぼこした面とのスポンジ構造体の並置を達成されるようになる。引裂および断片化に対する抵抗性は、それが創傷の密封および止血効果を維持するので利点となる。
【0074】
適合性および可撓性の向上は、堅牢性という有利な特徴および溶解に対する抵抗性の長寿命を失うことなく、製造中または製造後におけるどのような親水性ポリマースポンジ構造体の機械的操作によっても達成することができる。
【0075】
製造中または製造後にそのような機械的操作を達成することができるいくつかの方法がある。例えば、(i)圧延、曲げ、ねじり、回転、振動、プロービング、圧縮、伸長、振動および混練による方法(ii)80℃での熱圧縮技法による所与の親水性ポリマースポンジ構造体内の制御マクロテクスチャリング(深いレリーフパターンの形成による)および(iii)スポンジ構造体調製の凍結ステップ時における所与の親水性ポリマースポンジ構造体内への垂直チャネルの制御形成、または代替的に、これは、圧縮(緻密化)ステップ時におけるスポンジ構造体のせん孔によって機械的に達成してもよい。
【0076】
適合性および可撓性を向上させるために実行することができる機械的操作の詳細は、引用により本明細書に組み込まれる、2004年12月23日に提出された「Tissue Dressing Assemblies,Systems, and Methods Formed From Hydrophilic Polymer Sponge Structures Such as Chitosan」と題する同時係属の米国特許出願第11/020,365号に明らかにされている。
【0077】
III. 代替的実施形態
歯科用パッドアセンブリ10は、種々の代替的形態で提供することができる。
【0078】
例えば、図11Aおよび図11Bに示すように、パッドアセンブリ64は、組織被覆マトリックス12の層間に封入されたメッシュ織材料または不織メッシュ材料のシート66を備えることができる。組織被覆マトリックス12は、シート66を中に含んでいる。組織被覆用シートアセンブリ64の大きさ、形状、および構成は、その意図された用途に応じて変えることができる。シートパッドアセンブリ64は、直線状であっても、細長くても、正方形であっても、円形でも、楕円形でも、それらの複合であっても、それらを複雑に組み合わせたものであってもよい。組織被覆用シートアセンブリ64は、厚みが0.5mmから1.5mmまでの間の範囲にある薄さ(パッドアセンブリ10と比較して)を有することが好ましい。シートアセンブリ64の薄い強化構造の好ましい形態は、綿ガーゼのような吸収性の包帯用ウェビングによって補強された、0.10g/cm3〜0.20g/cm3の一般的なキトサンマトリックス密度のキトサンマトリックス12またはスポンジを備え、得られた包帯の厚みは1.5mm以下である。シート66は、例えばガーゼの綿メッシュのようなセルロース由来の材料から形成された、メッシュ織材料または不織メッシュ材料からなっていてもよい。シートアセンブリ64は、創傷部位内に、動脈出血および静脈出血に対して圧力を用いて構造体全体をさらに強化する、親水性ポリマースポンジ構造体(例えばキトサンマトリックス12)の層、圧縮物、および/または巻いたもの(rolloing)(すなわち「詰め物」(図11Cに示すようなもの)に適応している。図11Cに示すように、シート構造体自体の全体にわたって押し込むことにより、ウェビング内に注入された親水性ポリマー(例えばキトサン)との血液の相互作用によって、粘着性が高く、不溶性で、かつ適合性の高いパッキング形態がもたらされる。
【0079】
シートアセンブリ64の詳細は、引用により本明細書に組み込まれる、2004年12月23日に提出された「Tissue Dressing Assemblies,Systems,and Methods Formed From Hydrophilic Polymer Sponge Structures Such as Chitosan」と題する同時係属の米国特許出願第11/020,365号に見出すことができる。
【0080】
IV 結論
キトサンマトリックス12のような親水性ポリマースポンジ構造体は、歯科処置または口腔に関連する外傷と関連させた種々の大きさおよび構造の被覆材またはプラットフォームと関連するように、パッド形、シート形、または他の適合する形で容易に適合させることができることを実証してきた。
【0081】
従って、上に説明した本発明の実施形態は単に本発明の原理を記述したものに過ぎず、限定されるものではないことは明らかであろう。むしろ、本発明の範囲は、請求項の均等物を含む以下の請求項の範囲によって決定されるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】図1は、健康な歯の解剖図である。
【図2】図2は、歯の摘出によってむき出しの状態で残された歯槽を示す、口腔内の抜歯部位の解剖図である。
【図3】図3Aおよび図3Bは、それぞれ、血液、流体、または湿気の存在下で生体組織に粘着して治癒過程の間摘出部位を止血、密封、または安定化することができる歯科用パッドアセンブリが中に配置された、抜歯部位の解剖学的側斜視図および解剖学的側断面図である。
【図4】図4Aは、摘出部位内に配置することを目的として最終的に成形および構成される前の図3Aおよび図3Bに示す歯科用パッドアセンブリの斜視図である。図4Bは、抜歯部位内に配置することを目的として最終的に成形および構成される前の、より大きいソースパッドアセンブリから所望の大きさに切り取られた図4Aに示す歯科用パッドアセンブリの斜視図である。
【図5】図5Aおよび図5Bは、それぞれ、使用に備えて密封されたポーチ内に滅菌された状態で包装された図4Aに示す歯科用パッドアセンブリおよび図4Bに示すソースパッドアセンブリである。
【図6】図6は、使用を見越して図5Aに示すポーチから取り出された後の、図4Aに示す歯科用パッドアセンブリの斜視図である。
【図7】図7は、標的組織部位のトポロジに合わせるために使用前に折り畳みまたは曲げによって保持および操作されている、図6に示す歯科用パッドアセンブリの斜視図である。
【図8】図8は、標的摘出部位内に配置されている歯科用パッドアセンブリの斜視図である。
【図9】図9は、パッドアセンブリを当該部位に粘着させて出血を止めるために一時的に圧力が加えられている、標的摘出部位内への配置後の歯科用パッドアセンブリの側断面図である。
【図10】図10は、図6に示す歯科用パッドアセンブリを作製するための代表的工程の各ステップの線図である。
【図11】図11Aおよび図11Bは、それぞれ、組織被覆用シートアセンブリに組み込まれた親水性ポリマースポンジ構造体を備える、口腔もしくは隣接する解剖学的構造物内の組織または骨を治療するための歯科用パッドアセンブリの別の実施形態の斜視組立図および斜視分解図である。図11Cは、口腔内もしくは隣接する解剖学的構造物内の組織または骨と接触させて配置するためのロール形に成形および構成された組織被覆用シートアセンブリの斜視図である。
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、米国特許出願第10/743,052号(2004年12月23日出願、発明の名称「Wound Dressing and Method of Controlling Severe Life−Threatening Bleeding」)の一部継続出願であり、この出願は、米国特許出願第10/480,827号(2003年12月15日出願、発明の名称「Wound Dressing and Method of Controlling Severe Life−Threatening Bleeding」)の一部継続出願であり、この出願は、国際出願PCT/US02/18757(2002年6月14日出願)の米国特許法第371条の下での国内段階であり、この出願は、仮特許出願第60/298,773号(2001年6月14日出願)に対する優先権を主張しており、これらは各々、本明細書中で参考として援用される。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、全体として、治癒を促進すると同時に出血、流体の漏出もしくは浸出、または他の形の体液喪失を改善するために歯科処置中またはその後に施される組成物、アセンブリ、および方法を対象としている。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
図1は、健康な歯の解剖図である。歯は、歯冠と歯根とを含む。歯根は、靱帯に支持されて歯槽(顎)骨内に入っている。靱帯は、衝撃を吸収する結合組織の強靭な帯を含んでおり、これは、歯根を物理的に顎骨に結合している。この骨内の歯によって占有されている穴は、歯槽と呼ばれる。
【0004】
歯冠は、歯肉の上に露出している。エナメル質と呼ばれる硬く光沢のある外側表面が歯冠を覆っている。エナメル質の下に、顕微鏡で見ると多孔質の硬組織である象牙質がある。歯の中央に、血管および神経組織からなる歯髄を収容する髄腔がある。
【0005】
歯は、例えば細菌による歯のエナメル質中のカルシウムの侵食により、損傷を受けるか、または腐食することがある。これが次には、エナメル質の下にある象牙質の浸食を引き起こす可能性がある。腐食が続くにつれて、細菌が多孔質の象牙質を通って移動し、歯髄に感染する可能性がある。続いて感染に対する免疫応答が生じ、歯周辺の血管を拡張させて、歯に入る神経を圧迫する可能性がある。その結果、歯痛が生じる。
【0006】
口腔およびその解剖学的構造物に影響を及ぼすこれらおよび他の状況が生じたときに介入するための様々な歯科処置がある。これらの処置は、一般開業医、歯科医、口腔外科医、顎顔面外科医、および歯周病専門歯科医によって日常的に行われている。
【0007】
例えば、歯根管治療とも呼ばれる歯内手術の介入によって、様々な条件下で、腐食しつつある歯の内側から、細菌、神経組織、有機堆積物、および細菌毒素を除去することができる。これに続き、執刀医によって、歯の内部が充填および密封される。現在、年間約1600万の根管治療が行われている。
【0008】
もし腐食が極度に進行してしまった場合、歯の除去または摘出が必要となるかもしれない。現在、毎年3000万を越える摘出が行われている。単純な摘出中、歯科医は、道具、例えば鉗子で歯を把持し、歯を前後に揺動させる。この揺動運動によって、歯を所定の位置に保持する靱帯が破壊され、それによって歯が歯槽骨から解放される。次いで、歯が槽から抜去され、むき出しの状態の歯槽が残る。
【0009】
歯の除去または摘出は、その歯の存在が叢生もしくは不正咬合を引き起こしている場合、別の歯(例えば智歯)の萠出を妨げている場合、または矯正治療(「歯列矯正装置」)の準備においても必要となるかもしれない。抜歯は、進行した歯周(歯肉)疾患が原因で必要となるかもしれない。摘出の選択が行われた歯が歯肉の上に十分に萠出していない場合、摘出対象の歯にアクセスするために、上に重なる歯肉および骨組織の一部を最初に除去することが必要となる場合もある。
【0010】
このような通常の歯科処置−−例えば、歯内手術、または歯根膜手術、矯正治療、抜歯、顎矯正手術、生検、および他の口腔外科的処置−−の最中およびその後には、出血、流体の漏出もしくは浸出、または他の形の体液喪失が発生するのが一般的である。出血、流体の漏出もしくは浸出、または他の形の体液喪失は、口腔内の組織および構造物の損傷または外傷の結果として口腔内で発生する可能性もある。この関連では、事故が原因で、毎年約200万本の歯が失われている。腫れおよび残存出血は、処置または損傷後の治癒期間中存続すると一般的に推測することができる。治癒期間中に、新たな歯肉組織が、摘出によって残された間隙に向かって成長する。
【0011】
従って、治癒期間中に、外科的介入部位−−すなわち組織の損傷部位もしくは外傷部位−−からの出血、流体の漏出もしくは浸出による体液喪失を食い止め、該部位を密封および/または安定させるための措置を講じることが望ましい。歯科処置または口腔に対する損傷の最中およびその後には、迅速かつ効果的な止血が必要である。
【0012】
例えば、抜歯後には、迅速な出血の停止およびむき出し状態の歯槽内部の創傷上への血餅の形成が極めて望ましい。実際には、摘出後の全治癒期間中−−1週間から2週間を要する可能性がある−−槽内に形成される血餅が分解および/または脱落しないように、止血が促進される状態を維持することが重要である。もし血餅が分解および/または脱落すると、ドライソケット(歯槽骨炎とも呼ばれる)として知られる状態が引き起こされる。ドライソケット状態は、顎内の嚢胞腔異常の治療中にも、同じ理由から生じる可能性がある。ドライソケットは疼痛および不快症状を引き起こす可能性があり、それらは、二次治癒過程を通じて槽が治癒する際にしか軽快しない。
【0013】
従来より、歯科処置中およびその後に沈殿する出血を止めるためには、綿のパック、および巻くかまたは折り畳んだガーゼのパッドが一般的に用いられている。そのような材料の存在によって血液および流体を吸収することができるが、それらは、迅速かつ長期にわたる止血または治癒をもたらす状態を促進または生成するものではない。歯科処置中またはその後に施すことができる改良された止血のための組成物、アセンブリ、および方法の必要性が依然として存在する。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0014】
(発明の概要)
本発明は、親水性ポリマースポンジ構造体の配置を含む、口腔もしくは隣接する解剖学的構造物内の組織または骨を治療するためのアセンブリ、システムおよび方法を提供する。
【0015】
本発明の一態様は、口腔もしくは隣接する解剖学的構造物内の組織または骨と関連させて配置することを目的とした形状、大きさ、および構成を有する親水性ポリマースポンジ構造体、および口腔もしくは隣接する解剖学的構造物内の組織または骨と関連させて該親水性ポリマースポンジ構造体を配置するための方法を提供する。
【0016】
本発明の別の態様は、例えば、抜歯、歯内手術、歯根膜手術、矯正治療、顎矯正手術、生検、歯肉手術、骨手術、歯石除去もしくは根面平滑化、歯周維持、上顎総義歯もしくは下顎総義歯、総義歯調整もしくは部分義歯調整、義歯のリベースもしくはリライン、手術による軟組織の摘出、手術による骨の摘出、咬合矯正装置もしくは咬合ガードの取り付けあるいは咬合調整、顎再建を含む口腔手術、顎内の嚢胞腔異常の治療、新たな骨成長もしくは骨成長促進、または口腔内の組織、口腔内の解剖学的構造物もしくは歯槽(顎)骨に影響を及ぼす他のあらゆる外科的な処置あるいは介入を含むことができる、歯科外科的処置を行うためのシステムおよび方法を含む。本発明のこの態様によれば、本システムおよび方法により、外科的処置によって影響を受けた組織または骨と関連させて親水性ポリマースポンジ構造体が配置される。
【0017】
本発明の別の態様は、組織または骨に損傷または外傷を引き起こす事故により口腔または歯槽(顎)骨内の組織を治療するためのシステムおよび方法を提供する。本発明のこの態様によれば、本システムおよび方法により、治療された組織または骨と関連させて親水性ポリマースポンジ構造体が配置される。
【0018】
親水性ポリマースポンジ構造体を使用する本アセンブリ、システムおよび方法は、組織もしくは骨の損傷部位、組織もしくは骨の外傷部位、または組織もしくは骨の手術部位を止血、密封、または安定化する。親水性ポリマースポンジ構造体の使用により、抗微生物性障壁または抗ウイルス性障壁を形成し、かつ/または凝固を促進し、かつ/または治療薬を放出し、かつ/または歯周表面もしくは骨表面を治療し、かつ/またはそれらの組み合わせを行うこともできる。
【0019】
本発明の全態様によれば、親水性ポリマースポンジ構造体は、使用に先立ち、圧縮によって0.6g/cm3から0.1g/cm3までの間の密度まで緻密化されたキトサン生体材料を含むことが望ましい。
【0020】
本発明の他の特徴および利点は、添付の説明、図面、および特許請求の範囲に基づき明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
(好ましい実施形態の説明)
当業者が本発明を実施することができるように、本発明の開示内容を詳細かつ正確に説明するが、本明細書に開示する物理的実施形態は本発明を単に例示するものに過ぎず、それらを他の特定の構造物に具現してもよい。好ましい実施形態を説明してきたが、特許請求の範囲によって定義される本発明から逸脱することなく、詳細を変更することができる。
【0022】
I. 歯科用パッドアセンブリ
図2に、抜歯後にむき出しの状態で残された歯槽を示す。図3Aおよび図3Bに、摘出部位のむき出しの歯槽内への配置後の、本発明の特徴を具現した歯科用パッドアセンブリ10を示す。図3Aおよび図3Bでは、歯科用パッドアセンブリ10は、抜歯後のむき出しの歯槽内へ挿入または「詰める」ことができるような形状、大きさ、および構成となっている。摘出には、単一の歯(図に示すような)または複数の歯を含めることができる。
【0023】
歯科用パッドアセンブリ10は、組織被覆マトリックス12を備える。組織被覆マトリックス12は、血液、体液、または湿気の存在下で反応して強固な接着剤(adhesive)または接着剤(glue)となる生体適合性材料を含む。組織被覆マトリックスは、他の有益な属性、例えば、抗菌特性ならびに/または抗微生物特性ならびに/または抗ウイルス特性、ならびに/または凝固および損傷に対する身体の防衛反応を加速するか、もしくは他の方法で増強する特性も有することが望ましい。
【0024】
組織被覆マトリックス12は、ポリアクリル酸塩、アルギン酸塩、キトサン、親水性ポリアミン、キトサン誘導体、ポリリジン、ポリエチレンイミン、キサンタン、カラギーナン、第4級アンモニウムポリマー、コンドロイチン硫酸、デンプン、改質セルロースポリマー、デキストラン、ヒアルロン酸、またはそれらの組み合わせのような、親水性ポリマーの形態を備えることが望ましい。デンプンは、アミラーゼ、アミロペクチン、およびアミロペクチンとアミラーゼとの組み合わせからなっていてもよい。
【0025】
好ましい実施形態では、マトリックス12の生体適合性材料は、最も好ましくは、より一般的にはキトサンと呼ばれるポリ[β−(1→4)−2−アミノ−2−デオキシ−D−グルコピラノースである、非哺乳類の材料を含む。
【0026】
キトサンマトリックス12の特異的性質により、歯科用パッドアセンブリ10は、血液、体液、または湿気の存在下で槽内の組織に粘着することができる。歯科用パッドアセンブリ10の存在によって、摘出部位が止血、密封、および/または安定化され、それと同時に、治癒過程の間創傷での血餅の形成および維持を促す状態が確立される。
【0027】
図4Aに、使用前の状態の代表的な歯科用パッドアセンブリ10を示す。歯科用パッキングパッドアセンブリ10の大きさ、形状、および構成は、治療対象部位のトポロジおよび形態ならびに患者の年齢/状態(例えば、成人または小児)を考慮に入れることを含む、その意図された用途に応じて変えることができる。パッドアセンブリ10は、直線的であっても、細長くても、正方形であっても、円形であっても、長円形であっても、それらの複合物または複雑な組み合わせであってもよい。パッドアセンブリ10の形状、大きさ、および構成は、使用中または使用に先立って、切断、曲げ、または成形により、適用部位のトポロジおよび形態に対して特別に形成および適合されることが望ましい。図4Bに、同一または異なる所望の形状、大きさ、および構成の1つ以上の歯科用パッドアセンブリ10をより大きいソースパッドアセンブリ11から切り取ることができることを示す。
【0028】
図3Aおよび3Bに、摘出後のむき出しの歯槽内へのパッドアセンブリ10の適用を示す。パッドアセンブリ10は、口腔または周囲の解剖学的構造物内の治療を意図された組織部位のトポロジおよび形態に応じて様々な様式に形状、大きさ、および構成を設定することができることを理解されたい。治療された標的治療部位は、歯科外科的処置中、例えば抜歯中に切断、変更、または別の方法による影響を受けた組織を含む可能性がある。さらに、パッドアセンブリ10は、他の種類の歯科外科的処置、例えば、歯内手術、歯根膜手術、矯正治療、顎矯正手術、生検、歯肉手術、骨手術、歯石除去もしくは根面平滑化、歯周維持、上顎総義歯もしくは下顎総義歯、総義歯調整もしくは部分義歯調整、義歯のリベースもしくはリライン、手術による軟組織の摘出、手術による骨の摘出、咬合矯正装置もしくは咬合ガードの取り付けあるいは咬合調整、顎再建を含む口腔手術、骨成長もしくは骨成長促進、または口腔内の組織、口腔内の解剖学的構造物、もしくは歯槽(顎)骨に影響を及ぼす他のあらゆる外科的な処置もしくは介入を目的とした形状、大きさ、および構成とすることができる。歯科用パッドアセンブリ10を施す必要性は、口腔または歯槽(顎)骨内の組織または構造物に損傷または外傷を引き起こす事故により生じる可能性もある。
【0029】
パッドアセンブリ10によって治療される部位は、手術器具、外傷、もしくは損傷によって、または手術時もしくは歯科処置時におけるワイヤ、ステープル、ファスナ、もしくは縫合糸の配置によって引き起こされる動脈および/または静脈からの出血、または裂傷、創傷、穿刺、熱傷、骨折、もしくは挫滅外傷によって偶発的に引き起こされる動脈および/または静脈からの出血を含む可能性がある。歯科用パッドアセンブリ10は、口腔内、もしくは隣接する解剖学的構造物に近接する部位のどのような種類の組織破壊、外傷、または損傷にも関連させて挿入または配置されるような大きさおよび構成とすることができる。
【0030】
原因を問わず、パッドアセンブリ10のマトリックス12の特性は、治癒をも促進しながら、出血、流体の漏出もしくは浸出、または他の形の体液喪失を緩和するのに役立つ。
【0031】
マトリックス12の特性から、歯科用パッドアセンブリ10は、口腔内の組織治療部位またはその周囲において、抗菌防護壁および/または抗微生物防護壁および/または抗ウイルス防護壁をも形成することができることが望ましい。
【0032】
キトサンマトリックス12の特別な特性から、歯科用パッドアセンブリ10は、血友病、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)(それ自体が歯肉の出血をもたらす可能性がある)のような様々なタイプの出血性疾患または凝固障害を有する、歯科処置を受けているか、または口腔内の組織外傷に苦しんでいる個人に用いることも必要かもしれない。キトサンマトリックス12の存在によって赤血球膜が引き付けられ、接触と同時にキトサンマトリックス12と融合する。血餅は極めて迅速に形成されることが可能で、通常凝固に必要な凝固タンパク質を必要としない。出血性疾患または凝固障害を有しない個人においてさえも、キトサンマトリックス12が存在することによって、凝固カスケードに左右されずに凝固過程を加速することができる。このため、マトリックス12は、ヘパリン、クロピドグレル(Plavix(商標))、アセチルサリチル酸、ジピリダモール等のような抗凝固剤/血液の抗凝結薬と併せて、効能を失うことなく用いることができる。
【0033】
歯科用パッドアセンブリ10は、歯科処置または口腔内の事故による外傷の処置の最中またはその後に用いた場合、1つ以上の治療薬を放出を制御して血流中に送達するための、局所的に用いられるプラットフォームとなることもできる。治療薬は、後に説明するように、例えば、凍結ステップの前または後に、また乾燥ステップおよび緻密化ステップの前に、親水性ポリマースポンジ構造体内に取り込むことができる。親水性ポリマースポンジ構造体(例えばキトサンマトリックス12)内に取り込むことができる治療薬の例には、限定するものではないが、薬物類または薬剤類、幹細胞類、抗体類、抗微生物剤類、抗ウイルス剤類、コラーゲン類、遺伝子類、DNA、および他の治療薬類、フィブリンのような止血剤類、成長因子類、骨形態形成タンパク質(BMP)、および類似の化合物類が含まれる。
【0034】
キトサンマトリックス12の有益な特性には、口の内側を覆っているような体内の粘膜面への粘着力が含まれる。この特徴により、説明したように、キトサンマトリックス12の接着密封特性、および/または加速された凝固特性、および/または抗菌/抗ウイルス特性が利点となる粘膜面の治療を対象とするシステムおよび装置内へのキトサンマトリックス12の組み込みが可能となる。そのようなシステムおよび方法には、歯肉修復および口腔内に配置された縫合糸の周りの密封が含まれる。
【0035】
1.組織被覆マトリックス
組織被覆マトリックス12は、低弾性の親水性ポリマーマトリックス、すなわち、後に説明する後続の緻密化工程で緻密化された、本質的に「非圧縮」の組織被覆マトリックス12から形成されることが好ましい。先に述べたように、組織被覆マトリックス12は、好ましい形態では、より一般的にはキトサンと呼ばれる非哺乳類材料のポリ[β−(1→4)−2−アミノ−2−デオキシ−D−グルコピラノースを含む、親水性のポリマー形を備えることができる。
【0036】
マトリックス12用に選択されるキトサンは、好ましくは少なくとも約100kDa、より好ましくは少なくとも約150kDaの平均分子量の重量を有する。キトサンは、少なくとも約300kDaの平均分子量の重量を有するのが最も好ましい。
【0037】
マトリックス12を形成する際に、キトサンは、グルタミン酸、乳酸、ギ酸、塩酸および/または酢酸のような酸を有する溶液中に配置されることが望ましい。これらの中で、キトサン酢酸塩および塩化キトサン塩は血中で分解に耐えるがキトサン乳酸塩およびキトサングルタミン酸塩は分解に耐えないので、塩酸および酢酸が最も好ましい。分子量がより大きい(Mw)アニオンは、キトサン塩の準結晶性の構造を崩壊させ、構造内に可塑化効果を生じさせる(高い可撓性)。望ましくないことであるが、その高い可撓性はまた、血中にあるこれらのより大きいMwのアニオン塩を急速に分解させる。
【0038】
マトリックス12の1つの好ましい形は、キトサンアセテート溶液を凍結して凍結乾燥させ、次いで、最も好ましい密度が約0.20g/cm3である、0.6g/cm3〜0.25g/cm3の密度まで圧縮によって緻密化することによって形成された、0.035g/cm3未満の密度の「非圧縮」キトサンアセテートマトリックス12を備える。このキトサンマトリックス12は、圧縮親水性スポンジ構造体と特徴付けることもできる。緻密化キトサンマトリックス12は、望ましいと見なされる上に述べたすべての特徴を呈する。緻密化キトサンマトリックス12は、後にさらに詳細に説明するように、使用中マトリックスに堅牢性および長寿命を与える、特定の構造上の利点および機械的利点をも有する。
【0039】
キトサンマトリックス12は、堅牢で透過性の高い比表面積、正に帯電した表面を提示する。正電気を帯びた表面は、赤血球と血小板の相互作用に対して極めて反応性に富む表面を生成する。赤血球膜は負に帯電しており、それらはキトサンマトリックス12に引き付けられる。細胞膜は、接触と同時にキトサンマトリックス12と融合する。血餅を極めて迅速に形成することができ、止血に通常必要な凝固タンパク質の即時の必要性を回避する。このため、キトサンマトリックス12は、血友病のような凝固障害を有する人々のみならず、正常な個人および抗凝固療法を受けている個人の双方に有効である。キトサンマトリックス12は、細菌、内毒素、および微生物をも拘束し、接触と同時に細菌、微生物、および/またはウイルス性因子類を殺傷することができる。
【0040】
キトサンマトリックス12の構造、組成、製造、および他の技術的特徴の詳細については後に説明する。
【0041】
2. ポーチ
図5Aおよび図5Bに示すように、(あらかじめ大きさが定められた歯科用パッドアセンブリ10の形、またはあらかじめ大きさが定められた歯科用パッドアセンブリ10を切り取ることができるより大きいソースパッドアセンブリ11としての)キトサンマトリックス12は、気密の、ヒートシールされた、ホイルで裏張りを施したポーチ16内に、低水分含量、好ましくは5%以下の水分と共に、使用前に真空包装されることが望ましい。歯科用パッドアセンブリ10またはソースアセンブリ11はその後、γ線照射の使用によってポーチ16内で終末滅菌される。図5Bに示すように、より小さいパッドアセンブリ10を切り取って大きさを整えることができるソースパッドアセンブリ11も、使用前に、ポーチ16内に滅菌状態で真空包装することができる。
【0042】
ポーチ16は、使用の時点で介護士によって剥離して開けるようになっている。ポーチ16は、一端に沿って剥がして組織被覆用パッドアセンブリ10にアクセスするようになっている。ポーチ16の対向する縁部を使用前につかんで引き離すと、組織被覆用パッドアセンブリ10が露出する。
【0043】
3. 歯科用パッドアセンブリの取り扱い
ひとたびポーチ16から取り出せば(図6参照)、歯科用パッドアセンブリ10は、標的組織部位に直ちに粘着させることができる。粘着を促進するための使用前操作は必要としない。例えば、使用に備えて接着面を露出させるために保護物質を剥離する必要はない。ひとたび血液、流体、または湿気と接触するとキトサンマトリックス12自体が強固な粘着特性を示すため、粘着面はそのままの状態で形成される。歯科用パッドアセンブリ10は、ポーチ16を開封すると同時に直ちに標的部位に施す必要はない。
【0044】
図7に示すように、歯科用パッドアセンブリ10は、図示の実施形態では抜歯後の歯槽である標的部位のトポロジおよび形態に合わせるために、その場で成形および適合させることができる。医師は、摘出領域内の歯の大きさおよび間隔を反映する歯科用型穴を得て、該型穴をパッドアセンブリ10の大きさの決定および成形に役立たせるのに用いることができる。歯科用パッドアセンブリ10は、治療部位の特定のトポロジおよび形態に最も良く合わせるために、意図的に多くの形状、例えば円筒形またはカップ形に成形することができる。先に述べたように(図4B参照)、より大きいソースアセンブリ11から、1つ以上のパッドアセンブリ10をその場で切り取って成形することができる。
【0045】
図8に、図示の実施形態では抜歯部位である、標的治療部位と関連させて配置されているキトサン歯科用パッドアセンブリ10を示す。図8に示すように、歯科用パッドアセンブリ10は、キトサンマトリックス12を活動性出血のある部位または粘着が別途所望される部位に向けて歯槽内に配置および圧入され(例えば、手で、または鉗子13を用いて)、これにより出血している組織に直圧を加えることができる(図9も参照)。図9に示すように、パッドアセンブリ10は、パッドアセンブリ10の一部が槽から残存歯間に延び、対合歯によって所定の位置に保持されるような形状、大きさ、および構成を有することが望ましい。ひとたび粘着が所望される部位に施されれば、介護士は歯科用パッドアセンブリ10の再配置を避けなければならないことが望ましい。
【0046】
図9に示すように、キトサンマトリックス12の自然の粘着活性が発現できるように、強い圧力が約2分間加えられることが望ましい。このようにして、摘出部位に面する対合歯によって保持されている圧縮力のうちの事実上すべての圧縮力が、実質的にパッドアセンブリ10の塊全体にわたって伝達される。キトサンマトリックス12の粘着強度は、加えられる圧力の持続と共に、最長で約5分間増大する。この時間中の歯科用パッドアセンブリ10全体に均等に加えられる圧力は(図9に矢印で示すように)、より均一な粘着および創傷密封をもたらす。所望であれば、圧力は、圧迫ガーゼを用いて加えることができる。患者も、噛んで下げることによって圧力を加えかつ維持することができる。
【0047】
パッドアセンブリ10のキトサンマトリックス12は、槽内に血餅が形成される際に単に血液を吸い上げるだけではない。キトサンマトリックス12の粘着強度によってキトサンマトリックス12が槽内部の組織に粘着し、これによりパッドアセンブリ10の機械的特性によって直圧が加えられる。さらに、キトサンマトリックス12の存在によって赤血球膜が引き付けられ、赤血球膜は接触と同時にキトサンマトリックス12と融合する。血餅は極めて迅速に形成されることが可能で、通常凝固に必要な凝固タンパク質のみに依存することはない。キトサンマトリックス12が存在することによって、凝固カスケードに左右されずに凝固過程を加速することができる。またさらに、キトサンマトリックス12の存在によって、抗菌性および/または抗微生物性および/または抗ウイルス性の防護効果をもたらすことができる。従来の綿パックおよび巻きガーゼパッドまたは折り畳みガーゼパッドを用いた場合の約7分と比較して、歯科用途にキトサンマトリックス12を用いた場合、止血は約1分で行われる。
【0048】
先に述べたように、歯科用パッドアセンブリ10は、摘出部位の大きさにぴったり合わせるために、現場で裂くか、または切り取ることができる。パッドアセンブリ10のより小さいパッチ片を現場で適切な大きさに切り、すでに配置されている別の片にフィットさせて粘着させ、治療部位のトポロジおよび形態に最大限に近づけることもできる。
【0049】
疼痛の防止および速やかな治癒の促進のために、歯科用パッドアセンブリ10は治癒過程の間ずっと槽内部に存在することができることが望ましい。槽内部にキトサンマトリックス12が存在することによって、新たな骨および歯肉組織が摘出によって残された間隙に向かって成長する全体的な治癒過程のみならず、血餅の保持に貢献する環境がもたらされる(それによりドライソケットが回避される)。キトサンマトリックス12(キトサンマトリックス12は、分解に耐えるために、その製造中意図的に緻密化されることが望ましい)の物理的存在は、線維芽内成長、血管形成、および摘出部位の再骨化からなる通常の歯槽骨治癒過程の伝導のための骨を被覆して痛みを和らげる存在(bone covering obtundant)および生理学的足場としての機能を果たす。緻密化されたキトサンマトリックス12の増強された物理的特性は、キトサンマトリックス12の粘着強度、その凝固の自己促進、およびその抗菌/抗微生物/抗ウイルス特性によってさらに増強されている。
【0050】
先に述べたように、パッドアセンブリ10は、体内で局所的または全身的に作用する薬剤もしくは生理的作用物質あるいは薬理学な作用物質、例えば、酵素類、有機触媒類、リボザイム類、有機金属類、タンパク質類、糖タンパク類、ペプチド類、ポリアミノ酸類、抗体類、核酸類、ステロイド分子類、抗生物質類、抗真菌剤類、サイトカイン類、組織成長因子類および/または骨成長因子類、炭水化物類、撥油剤、脂質類、細胞外基質および/または個別化合物類、哺乳類細胞類、幹細胞類、遺伝子組換え細胞類、調合薬、ならびに治療薬を組み入れることができる。パッドアセンブリ10は、短時間かつ無痛の治癒期間を促進する物理的に安定した、生体適合性を有する、非細胞傷害性の環境を提供する。
【0051】
パッドアセンブリ10は除去されることが望ましく、また、必要であれば、施して48時間以内に交換されることが望ましい。パッドアセンブリ10は剥ぎ取ることができ、通常、一回の損なわれない被覆で治療部位から分離することになる。時には、残余のキトサンゲルが残存する場合もあり、これは、必要に応じて、ガーゼ包帯を用いて優しく擦り、食塩水洗浄または水洗浄によって除去することができる。
【0052】
キトサンは、体内で生物分解され、良性物質であるグルコサミンに分解される。さらに、根治手術時には、キトサンのすべての部分を創傷から除去する努力をする必要がある。
【0053】
II 歯科用パッドアセンブリの製造
ここで、組織被覆用パッドアセンブリ10の望ましい作製方法を説明する。この方法は、図10Aから図10Hに概略的に示されている。もちろん、他の方法を用いてもよいことを理解されたい。
【0054】
1. キトサン溶液の調製
キトサン溶液(図10、ステップAではCSで示す)を調製するのに用いるキトサンは、0.78より大きいが0.97より小さい分数脱アセチル化度を有することが好ましい。キトサンは、0.85より大きいが0.95より小さい分数脱アセチル化度を有するのが最も好ましい。マトリックスに加工するために選択されるキトサンは、30rpmのスピンドルLV1で1%(w/w)酢酸(AA)の1%(w/w)溶液中において、25℃で約100センチポアズ〜約2000センチポアズの粘度を有することが好ましい。キトサンは、30rpmのスピンドルLV1で1%(w/w)酢酸(AA)の1%(w/w)溶液中において、25℃で約125センチポアズ〜約1000センチポアズの粘性を有するのがより好ましい。キトサンは、30rpmのスピンドルLV1で1%(w/w)酢酸(AA)の1%(w/w)溶液中において、25℃で約400センチポアズ〜約800センチポアズの粘性を有するのが最も好ましい。
【0055】
キトサン溶液CSは、25℃で、固形化したキトサンのフレークまたは粉に水を添加することによって調製され、この固体が、攪拌、かき混ぜ、または揺動によって液体中で分散されることが好ましい(図10、ステップA参照)。液体中へのキトサンの分散時に酸化合物が添加されて分散液全体に混合され、キトサン固形物の溶解が生じる。溶解の速度は、溶液の温度、キトサンの分子量およびかき混ぜのレベルによって決まる。溶解ステップは、撹拌羽根を有する閉鎖されたタンクリアクタまたは閉鎖された回転容器内で実行されることが好ましい。これによって、確実にキトサンが均一に溶解しかつ高粘度の残留物が容器側面に溜まる可能性がなくなる。キトサンの溶解率(w/w)は、0.5%キトサンより大きく2.7%より小さいことが好ましい。キトサンの溶解率(w/w)は、1%キトサンより大きく2.3%キトサンより小さいことがより好ましい。キトサンの溶解率は、1.5%キトサンより大きく2.1%より小さいのが最も好ましい。用いられる酸は、酢酸であることが好ましい。酢酸は、0.8%を越え4%に満たない酢酸溶解率(w/w)をもたらすように溶液に添加されることが好ましい。酢酸は、1.5%(w/w)を越え2.5%に満たない酢酸溶解率(w/w)をもたらすように溶液に添加されるのがより好ましい。
【0056】
キトサンマトリックス12を目的とした構造または形状の生成ステップは、通常溶液から実行され、凍結(相分離を生じさせるため)、非溶媒金型押し出し成形(フィラメントを製造するため)、エレクトロスピニング(フィラメントを製造するため)、相反転および非溶媒(透析膜およびフィルタ膜を製造するのに一般に用いられるような)による沈殿または予成形されたスポンジ様製品または織物製品上への溶液コーティングのような手法を用いて達成することができる。凍らせること(通常は、分離した固相へのキトサン生体材料の分化を伴う氷への水の凍結)によって2つ以上の別個の相が形成される凍結の場合には、凍結溶媒(一般的には氷)を除去し、次いでそこから凍結した構造を乱すことなくキトサンマトリックス12を製造するために、別のステップが必要となる。これは、凍結乾燥ステップおよび/または凍結置換ステップによって達成することができる。フィラメントは、不織紡績工程によって不織スポンジ様メッシュに形成することができる。あるいは、従来の紡績工程および製織工程によってフィラメントをフェルトの織物に製造してもよい。生体材料のスポンジ様製品を製造するのに用いることができる他の工程には、固体キトサンマトリックス12からの添加されたポロゲン類の溶解、または上述のマトリックスに由来する材料のせん孔が含まれる。
【0057】
2. 水性キトサン溶液の脱気
キトサン生体材料溶液CSについては、一般的な大気中の気体類の脱気が行われることが好ましい(図10、ステップB参照)。一般に、脱気によってキトサン生体材料溶液CSから十分な残留気体が除去され、これにより、後続の凍結作業を受ける際に気体が逃げて本創傷被覆用製品内に望ましくない大きい空洞または大きい捕捉気泡を形成することがない。脱気ステップは、一般的には溶液CSの形態のキトサン生体材料を加熱し、次いでそれに真空を印加することによって行うことができる。例えば、脱気は、溶液をかき混ぜながら約45℃までキトサン溶液を加熱し、その直後に約500mトールで約5分間真空を印加することによって行うことができる。
【0058】
一実施形態では、最初の脱気後の分圧制御のために、特定の気体類を溶液内に再添加することができる。そのような気体類には、限定するものではないが、アルゴン、窒素およびヘリウムが含まれる。このステップの利点は、これらの気体類の分圧を含む溶液が凍結時に微空洞を形成することにある。微空洞はその後、氷前線が進むにつれてスポンジを貫通する。これが、スポンジの気孔の相互接続性を助長する境界明瞭で十分に制御されたチャネルを残す。
【0059】
3. 凍結および水性キトサン溶液
次に、(図10、ステップC参照)、キトサン生体材料(上に述べたように、一般的に、ここでは酸性溶液中にあって脱気されている)は、凍結ステップに供される。凍結は、鋳型内で支持されたキトサン生体材料溶液を冷却し、該溶液の温度を室温から氷点下の最終温度まで下げることによって実行されるのが好ましい。この凍結ステップはプレートフリーザ上で実行されるのがより好ましく、それによって、プレートの冷却面を介した熱の損失による温度勾配が鋳型内のキトサン溶液全体に導入される。このプレート冷却面は、鋳型と良好な熱的接触状態にあることが好ましい。プレートフリーザの表面との接触前のキトサン溶液および鋳型の温度は室温に近いことが好ましい。プレートフリーザの表面温度は、鋳型+溶液の導入前は−10℃より高くないことが好ましい。鋳型+溶液の熱質量は、プレートフリーザの棚板+熱伝導流体の熱質量よりも小さいことが好ましい。鋳型は、限定するものではないが、鉄、ニッケル、銀、銅、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金、バナジウム、モリブデン、金、ロジウム、パラジウム、プラチナおよび/またはそれらの組み合わせのような金属元素から形成されることが好ましい。鋳型は、キトサン溶液の酸成分およびキトサン塩マトリックスとの反応がないことを確実にするために、チタン、クロム、タングステン、バナジウム、ニッケル、モリブデン、金およびプラチナのような、薄い、不活性の金属被膜でコーティングすることもできる。鋳型内の熱伝達を制御するために、金属の鋳型と併せて、断熱コーティングまたは断熱成分を用いることができる。鋳型の表面は、凍結したキトサン溶液と結合しないことが好ましい。鋳型の内側表面は、ポリテトラフルオロエチレン(テフロン(登録商標))、フッ素化エチレンポリマー(FEP)、または他のフッ素化ポリマー材料から形成された、薄い、永久結合されたフッ素化剥離剤塗布によってコーティングされていることが好ましい。コーティングされた金属鋳型が好ましいが、壁の薄いプラスチックの鋳型は、溶液の支持に好都合な代替物とすることができる。そのようなプラスチックの鋳型には、限定するものではないが、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、アクリロニトリルとブタジエンとスチレンの共重合体類、ポリエステル類、ポリアミド類、ポリウレタン類、およびポリオレフィン類から射出成形、機械加工または熱成形によって調製された鋳型が含まれる。断熱成分の局所配置と組み合わせた金属鋳型の利点は、それらが熱流制御の改善および凍結スポンジ内部の構造改善の機会をも提供することにある。この熱流制御の改善は、鋳型内の熱伝導成分の配置と断熱成分の配置との間における大きな熱伝導性の差に起因する。
【0060】
この方法でのキトサン溶液の凍結(図10、ステップCにFCSで示す凍結キトサン溶液の形成)は、調製対象のパッドアセンブリ製品の好ましい構造を可能にする。
【0061】
プレートの凍結温度が、最終的なキトサンマトリックス12の構造および機械的特性に影響を与える。プレートの凍結温度は約−10℃より高くないことが好ましく、約−20℃より高くないことがより好ましく、約−30℃より高くないことが最も好ましい。−10℃で凍結されると、非圧縮キトサンマトリックス12の構造は極めて開放的で、開放的なスポンジ構造全体を通して垂直である。−25℃で凍結されると、非圧縮キトサンマトリックス12の構造は、より閉鎖的であるが依然として垂直である。−40℃で凍結されると、非圧縮キトサンマトリックス12の構造は閉鎖的で、垂直ではない。代わりに、キトサンマトリックス12は、より強化された、相互によりかみ合った構造を備える。キトサンマトリックス12の粘着性の/凝集力のある密封特性は、より低い凍結温度が用いられるにつれて向上するのが観測される。約−40℃の凍結温度では、優れた粘着/凝集特性を有するキトサンマトリックス12用の構造が形成される。
【0062】
凍結ステップ中、所定の時間にわたって温度を下げることができる。例えば、キトサン生体材料溶液の凍結温度は、約90分から約160分の間、約−0.4℃/mmから約−0.8℃/mmの間の等温冷却ランプのプレート冷却適用によって、−45℃まで室温から低下させることができる。
【0063】
4. キトサン/氷のマトリックスの凍結乾燥
凍結したキトサン/氷のマトリックス(FCS)は、凍結した材料(図10、ステップD参照)の隙間内から水分を除去されることが望ましい。この水分除去ステップは、凍結したキトサン生体材料FCSの構造的完全性を損なうことなく達成することができる。これは、最終のキトサンマトリックス12の構造配列を崩壊させる可能性のある液相を生成することなく達成することができる。従って、凍結キトサン生体材料FSC中の氷は、中間の液相を形成することなく、固体の凍結相から気相へ通過する(昇華)。昇華した気体は、凍結キトサン生体材料よりも実質的に低い温度で、真空の復水器チャンバ内に氷として捕捉される。
【0064】
水分除去ステップを実行する好ましい方法は、フリーズドライ、すなわち凍結乾燥による方法である。凍結キトサン生体材料FCSの凍結乾燥は、凍結キトサン生体材料をさらに冷却することによって行うことができる。通常は、その後真空が印加される。次に、真空の凍結キトサン材料を徐々に加熱することができる。
【0065】
より具体的には、凍結キトサン生体材料は、少なくとも約1時間、より好ましくは少なくとも約2時間、最も好ましくは少なくとも約3時間の好ましい時間、好ましくは約−15℃で、より好ましくは約−25℃で、最も好ましくは約−45℃で後続の凍結に供することができる。このステップの後に、約−45℃より低い温度への、より好ましくは約−60℃での、最も好ましくは約−85℃での復水器の冷却が続くことができる。次に、好ましくは最大限でも約100mトール、より好ましくは最大限でも約150mトール、最も好ましくは少なくとも約200mトールの量の真空を印加することができる。真空の凍結キトサン材料は、少なくとも約1時間、より好ましくは少なくとも約5時間、最も好ましくは少なくとも約10時間の好ましい時間、好ましくは約−25℃で、より好ましくは約−15℃で、最も好ましくは約−10℃で加熱することができる。
【0066】
200mトール近傍に減圧を維持しながら、約20℃、より好ましくは約15℃、最も好ましくは約10℃の棚温度で、少なくとも約36時間、より好ましくは少なくとも約42時間、最も好ましくは少なくとも約48時間の好ましい時間、さらなる凍結乾燥が行われる。
【0067】
5. キトサンマトリックスの緻密化
緻密化前のキトサンマトリックス(0.03g/cm3近傍の密度)を「非圧縮キトサンマトリックス」と呼ぶことにする。この非圧縮マトリックスは、それが急速に血液中に溶解し、また機械的特性が芳しくないことから、出血を止めるにあたっては理想的ではない。従って、キトサン生体材料は、圧縮されることが望ましい(図10、ステップE参照)。加熱プラテンによる親水性マトリックスポリマーの表面に対して垂直な圧縮負荷は、乾燥した「非圧縮」キトサンマトリックス12を圧縮し、厚みを減少させてマトリックスの密度を高めるために用いることができる。手短に「緻密化」と呼ぶこともある圧縮ステップで、キトサンマトリックス12の粘着強度、凝集強度および溶解抵抗性が大幅に増大する。閾値密度(0.1g/cm3に近い)を越えて圧縮された、適切に凍結されたキトサンマトリックス12(複数)は、37℃で流れる血液中に容易には溶解しない。
【0068】
圧縮温度は約60℃以上とするのが好ましく、約75℃以上で約85℃以下とするのがより好ましい。
【0069】
緻密化後、マトリックス12の密度は、マトリックス12のベース(「活性」)面(すなわち組織に触れる面)において、マトリックス12の上面と異なることができる。例えば、活性面で測定した平均密度が最も好ましい密度である0.2g/cm3の値もしくはその近傍である典型的なマトリックス12では、上面で測定した平均密度は、大幅に低く、例えば0.05g/cm3となることができる。本明細書において説明する緻密化マトリックス12に対する所望の密度範囲は、血液、流体、または湿気への曝露が最初に発生するマトリックス12の活性側もしくはその近傍に存在することが意図されている。
【0070】
緻密化キトサン生体材料は次に、好ましくは最高約75℃の温度まで、より好ましくは最高約80℃の温度まで、最も好ましくは最高約85℃の温度までオーブン内でキトサンマトリックス12を加熱することによって予備調整されることが好ましい(図16、ステップF)。予備調整は通常、最長約0.25時間、好ましくは最長約0.35時間、より好ましくは最長約0.45時間、最も好ましくは最長約0.50時間の間行われる。この予備調整ステップによって、20%〜30%の粘着特性の損失という小さい犠牲で、溶解抵抗性がさらに大幅に向上する。
【0071】
6. ポーチ内への配置
組織被覆用パッドアセンブリ10はその後、事前に切り取られた大きさで、またはソースパッドアセンブリ11として、ポーチ16(図16、ステップF参照)内に包装することができる。ポーチ16は、アルゴンガスまたは窒素ガスのような不活性気体でパージされ、排気およびヒートシールされることが望ましい。ポーチ16は、内側にある内容物を長期間(少なくとも24ヶ月)にわたって無菌的に保持する役割を果たし、かつ同期間にわたって、湿気および大気気体の浸透に対する極めて高い障壁ともなる。
【0072】
7. 滅菌
ポーチに入れた後、処理された組織被覆用パッドアセンブリ10は、滅菌ステップ(図10、ステップG参照)に供されることが望ましい。組織被覆用パッドアセンブリ10は、多くの方法で滅菌することができる。例えば、好ましい方法は、γ線照射によるなどの照射による方法であり、これによって、創傷被覆材の血液溶解抵抗性、引張特性および粘着特性をさらに増強することができる。照射は、少なくとも約5kGy、より好ましくは少なくとも約10kGy、最も好ましくは少なくとも約15kGyのレベルで行うことができる。
【0073】
8. 整合性および可撓性の向上
損傷部位を標的とした治療に関しての配置に先立つパッドアセンブリ10の曲げおよび/または成形についてはすでに説明済みであり、推奨されるものである。パッドアセンブリ10が唯一の例である親水性ポリマースポンジ構造体では、構造がより可撓性を有しより適合性を有するほど、親水性ポリマースポンジ構造体は、引裂および断片化に対してより抵抗性が高まり、該構造体が標的治療部位の形状に適合するように、かつ下に位置する(一般的に)損傷のでこぼこした面とのスポンジ構造体の並置を達成されるようになる。引裂および断片化に対する抵抗性は、それが創傷の密封および止血効果を維持するので利点となる。
【0074】
適合性および可撓性の向上は、堅牢性という有利な特徴および溶解に対する抵抗性の長寿命を失うことなく、製造中または製造後におけるどのような親水性ポリマースポンジ構造体の機械的操作によっても達成することができる。
【0075】
製造中または製造後にそのような機械的操作を達成することができるいくつかの方法がある。例えば、(i)圧延、曲げ、ねじり、回転、振動、プロービング、圧縮、伸長、振動および混練による方法(ii)80℃での熱圧縮技法による所与の親水性ポリマースポンジ構造体内の制御マクロテクスチャリング(深いレリーフパターンの形成による)および(iii)スポンジ構造体調製の凍結ステップ時における所与の親水性ポリマースポンジ構造体内への垂直チャネルの制御形成、または代替的に、これは、圧縮(緻密化)ステップ時におけるスポンジ構造体のせん孔によって機械的に達成してもよい。
【0076】
適合性および可撓性を向上させるために実行することができる機械的操作の詳細は、引用により本明細書に組み込まれる、2004年12月23日に提出された「Tissue Dressing Assemblies,Systems, and Methods Formed From Hydrophilic Polymer Sponge Structures Such as Chitosan」と題する同時係属の米国特許出願第11/020,365号に明らかにされている。
【0077】
III. 代替的実施形態
歯科用パッドアセンブリ10は、種々の代替的形態で提供することができる。
【0078】
例えば、図11Aおよび図11Bに示すように、パッドアセンブリ64は、組織被覆マトリックス12の層間に封入されたメッシュ織材料または不織メッシュ材料のシート66を備えることができる。組織被覆マトリックス12は、シート66を中に含んでいる。組織被覆用シートアセンブリ64の大きさ、形状、および構成は、その意図された用途に応じて変えることができる。シートパッドアセンブリ64は、直線状であっても、細長くても、正方形であっても、円形でも、楕円形でも、それらの複合であっても、それらを複雑に組み合わせたものであってもよい。組織被覆用シートアセンブリ64は、厚みが0.5mmから1.5mmまでの間の範囲にある薄さ(パッドアセンブリ10と比較して)を有することが好ましい。シートアセンブリ64の薄い強化構造の好ましい形態は、綿ガーゼのような吸収性の包帯用ウェビングによって補強された、0.10g/cm3〜0.20g/cm3の一般的なキトサンマトリックス密度のキトサンマトリックス12またはスポンジを備え、得られた包帯の厚みは1.5mm以下である。シート66は、例えばガーゼの綿メッシュのようなセルロース由来の材料から形成された、メッシュ織材料または不織メッシュ材料からなっていてもよい。シートアセンブリ64は、創傷部位内に、動脈出血および静脈出血に対して圧力を用いて構造体全体をさらに強化する、親水性ポリマースポンジ構造体(例えばキトサンマトリックス12)の層、圧縮物、および/または巻いたもの(rolloing)(すなわち「詰め物」(図11Cに示すようなもの)に適応している。図11Cに示すように、シート構造体自体の全体にわたって押し込むことにより、ウェビング内に注入された親水性ポリマー(例えばキトサン)との血液の相互作用によって、粘着性が高く、不溶性で、かつ適合性の高いパッキング形態がもたらされる。
【0079】
シートアセンブリ64の詳細は、引用により本明細書に組み込まれる、2004年12月23日に提出された「Tissue Dressing Assemblies,Systems,and Methods Formed From Hydrophilic Polymer Sponge Structures Such as Chitosan」と題する同時係属の米国特許出願第11/020,365号に見出すことができる。
【0080】
IV 結論
キトサンマトリックス12のような親水性ポリマースポンジ構造体は、歯科処置または口腔に関連する外傷と関連させた種々の大きさおよび構造の被覆材またはプラットフォームと関連するように、パッド形、シート形、または他の適合する形で容易に適合させることができることを実証してきた。
【0081】
従って、上に説明した本発明の実施形態は単に本発明の原理を記述したものに過ぎず、限定されるものではないことは明らかであろう。むしろ、本発明の範囲は、請求項の均等物を含む以下の請求項の範囲によって決定されるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】図1は、健康な歯の解剖図である。
【図2】図2は、歯の摘出によってむき出しの状態で残された歯槽を示す、口腔内の抜歯部位の解剖図である。
【図3】図3Aおよび図3Bは、それぞれ、血液、流体、または湿気の存在下で生体組織に粘着して治癒過程の間摘出部位を止血、密封、または安定化することができる歯科用パッドアセンブリが中に配置された、抜歯部位の解剖学的側斜視図および解剖学的側断面図である。
【図4】図4Aは、摘出部位内に配置することを目的として最終的に成形および構成される前の図3Aおよび図3Bに示す歯科用パッドアセンブリの斜視図である。図4Bは、抜歯部位内に配置することを目的として最終的に成形および構成される前の、より大きいソースパッドアセンブリから所望の大きさに切り取られた図4Aに示す歯科用パッドアセンブリの斜視図である。
【図5】図5Aおよび図5Bは、それぞれ、使用に備えて密封されたポーチ内に滅菌された状態で包装された図4Aに示す歯科用パッドアセンブリおよび図4Bに示すソースパッドアセンブリである。
【図6】図6は、使用を見越して図5Aに示すポーチから取り出された後の、図4Aに示す歯科用パッドアセンブリの斜視図である。
【図7】図7は、標的組織部位のトポロジに合わせるために使用前に折り畳みまたは曲げによって保持および操作されている、図6に示す歯科用パッドアセンブリの斜視図である。
【図8】図8は、標的摘出部位内に配置されている歯科用パッドアセンブリの斜視図である。
【図9】図9は、パッドアセンブリを当該部位に粘着させて出血を止めるために一時的に圧力が加えられている、標的摘出部位内への配置後の歯科用パッドアセンブリの側断面図である。
【図10】図10は、図6に示す歯科用パッドアセンブリを作製するための代表的工程の各ステップの線図である。
【図11】図11Aおよび図11Bは、それぞれ、組織被覆用シートアセンブリに組み込まれた親水性ポリマースポンジ構造体を備える、口腔もしくは隣接する解剖学的構造物内の組織または骨を治療するための歯科用パッドアセンブリの別の実施形態の斜視組立図および斜視分解図である。図11Cは、口腔内もしくは隣接する解剖学的構造物内の組織または骨と接触させて配置するためのロール形に成形および構成された組織被覆用シートアセンブリの斜視図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
口腔もしくは隣接する解剖学的構造物内の組織または骨と関連させて配置することを目的とした形状、大きさ、および構成を有する親水性ポリマースポンジ構造体。
【請求項2】
前記親水性ポリマースポンジ構造体は、キトサン生体材料を含む、請求項1に記載の構造体。
【請求項3】
前記親水性ポリマースポンジ構造体は、使用に先立ち、圧縮によって0.6g/cm3から0.1g/cm3までの間の密度まで緻密化されている、請求項1に記載の構造体。
【請求項4】
口腔もしくは隣接する解剖学的構造物内の組織または骨と関連させて親水性ポリマースポンジ構造体を配置する工程を含む方法。
【請求項5】
前記親水性ポリマースポンジ構造体は、キトサン生体材料を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記親水性ポリマースポンジ構造体は、使用に先立ち、圧縮によって0.6g/cm3から0.1g/cm3までの間の密度まで緻密化されている、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
親水性ポリマースポンジ構造体は、抜歯窩内に配置される、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
抜歯、歯内手術、歯根膜手術、矯正治療、顎矯正手術、生検、歯肉手術、骨手術、歯石除去もしくは根面平滑化、歯周維持、上顎総義歯もしくは下顎総義歯、総義歯調整もしくは部分義歯調整、義歯のリベースもしくはリライン、手術による軟組織の摘出、手術による骨の摘出、咬合矯正装置もしくは咬合ガードの取り付けあるいは咬合調整、顎再建を含む口腔手術、骨成長もしくは骨成長促進、または前記口腔内の組織、前記口腔内の解剖学的構造物、もしくは歯槽(顎)骨に影響を及ぼす他のあらゆる外科的な処置あるいは介入のうちの少なくとも1つを含む外科的処置を実行する工程と、
前記外科的処置によって影響を受けた組織または骨と関連させて親水性ポリマースポンジ構造体を配置する工程と、
を含む方法。
【請求項9】
組織または骨に損傷または外傷を引き起こす事故により口腔または歯槽(顎)骨内の組織を治療する工程と、
前記治療を受けた組織または骨と関連させて親水性ポリマースポンジ構造体を配置する工程と、
を含む方法。
【請求項10】
前記親水性ポリマースポンジ構造体は、キトサン生体材料を含む、請求項8または請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記親水性ポリマースポンジ構造体は、使用に先立ち、圧縮によって0.6g/cm3から0.1g/cm3までの間の密度まで緻密化されている、請求項8または請求項9に記載の方法。
【請求項1】
口腔もしくは隣接する解剖学的構造物内の組織または骨と関連させて配置することを目的とした形状、大きさ、および構成を有する親水性ポリマースポンジ構造体。
【請求項2】
前記親水性ポリマースポンジ構造体は、キトサン生体材料を含む、請求項1に記載の構造体。
【請求項3】
前記親水性ポリマースポンジ構造体は、使用に先立ち、圧縮によって0.6g/cm3から0.1g/cm3までの間の密度まで緻密化されている、請求項1に記載の構造体。
【請求項4】
口腔もしくは隣接する解剖学的構造物内の組織または骨と関連させて親水性ポリマースポンジ構造体を配置する工程を含む方法。
【請求項5】
前記親水性ポリマースポンジ構造体は、キトサン生体材料を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記親水性ポリマースポンジ構造体は、使用に先立ち、圧縮によって0.6g/cm3から0.1g/cm3までの間の密度まで緻密化されている、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
親水性ポリマースポンジ構造体は、抜歯窩内に配置される、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
抜歯、歯内手術、歯根膜手術、矯正治療、顎矯正手術、生検、歯肉手術、骨手術、歯石除去もしくは根面平滑化、歯周維持、上顎総義歯もしくは下顎総義歯、総義歯調整もしくは部分義歯調整、義歯のリベースもしくはリライン、手術による軟組織の摘出、手術による骨の摘出、咬合矯正装置もしくは咬合ガードの取り付けあるいは咬合調整、顎再建を含む口腔手術、骨成長もしくは骨成長促進、または前記口腔内の組織、前記口腔内の解剖学的構造物、もしくは歯槽(顎)骨に影響を及ぼす他のあらゆる外科的な処置あるいは介入のうちの少なくとも1つを含む外科的処置を実行する工程と、
前記外科的処置によって影響を受けた組織または骨と関連させて親水性ポリマースポンジ構造体を配置する工程と、
を含む方法。
【請求項9】
組織または骨に損傷または外傷を引き起こす事故により口腔または歯槽(顎)骨内の組織を治療する工程と、
前記治療を受けた組織または骨と関連させて親水性ポリマースポンジ構造体を配置する工程と、
を含む方法。
【請求項10】
前記親水性ポリマースポンジ構造体は、キトサン生体材料を含む、請求項8または請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記親水性ポリマースポンジ構造体は、使用に先立ち、圧縮によって0.6g/cm3から0.1g/cm3までの間の密度まで緻密化されている、請求項8または請求項9に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【公表番号】特表2009−513239(P2009−513239A)
【公表日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−537698(P2008−537698)
【出願日】平成18年8月2日(2006.8.2)
【国際出願番号】PCT/US2006/030283
【国際公開番号】WO2007/055761
【国際公開日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(506211517)ヘムコン, インコーポレイテッド (10)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年8月2日(2006.8.2)
【国際出願番号】PCT/US2006/030283
【国際公開番号】WO2007/055761
【国際公開日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(506211517)ヘムコン, インコーポレイテッド (10)
【Fターム(参考)】
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