説明

角層細胞の自動鑑別法

【課題】より高精度且つ高速に、染色又は非染色の角層細胞の配列規則性を自動的に鑑別する方法を提供する。
【解決手段】角層細胞を自動的に鑑別する方法であって、角層細胞標本を拡大イメージ画像として取り込み、該画像の個々の角層細胞を識別し、該角層細胞のイメージ画像データを画像・統計処理して得られる特徴量を計測し、該特徴量を、特徴量データベースに蓄積された、対象とすべき集団における特徴量と比較して、配列規則性を評価・判別を行うことを特徴とする、角層細胞の配列規則性の鑑別法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚の角層を構成する角層細胞の鑑別方法に関し、更に詳しくは、染色又は非染色の角層細胞の配列規則性を自動的に鑑別する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧料を使用するにあたり、重要な事項は適切な化粧料を選択することである。この様な適切な化粧料の選択を行う必要条件としては、皮膚の状態或いは特性を正しく鑑別することが挙げられる。この様な皮膚の状態或いは特性を正しく行うための技術としては、顔の頬等の部位より粘着テープ等を用いて、ストリッピングにより角層細胞を採取し、ゲンチアナバイオレット等の染色剤を用いて角層細胞を染色し(例えば、特許文献1、特許文献2参照)、角層細胞の形状を明確にし、角層細胞の面積、体積、厚さ、配列規則性、或いは角層細胞の剥がれ具合を測定して、その値を指標値にしてバリアー機能、肌質、肌性等の肌状態を鑑別する技術が既に確立されている(特許文献3、特許文献4、特許文献5参照)。即ち、面積や体積が小さいほど、或いは配列規則性が悪いほど角層細胞が充分成熟しない内に最外部に上がってきてしまっており、皮膚バリア機能は低く、敏感肌であり、肌の状態が悪いと鑑別する。この様な鑑別の基礎は角層細胞の形状であり、そのため先に述べた染色剤による染色工程が不可欠であったが、この工程には所要時間、作業スペース及び環境問題等の大きな課題があった。これらの課題を克服すべく、非染色的な評価技術として、ビデオマイクロスコープを応用した観察装置(特許文献6参照)、蛍光抗体を用いた方法(特許文献7参照)や紫外線照射下で角層細胞を観察する方法(特許文献8参照)が開示されているが、細胞と細胞との接合状況が不明瞭、非常に高価な蛍光抗体、或いは角層細胞形状画像の鮮明さや紫外線の安全性という、各々の問題点が残っていた。
【0003】
これらに対して画像処理技術を用い、人による評価に伴う作業負担の軽減と精度及び速度の向上を図ろうとする技術開発も試みられている。例えば、透過光量に基づいて角層細胞剥離量を判定する方法(特許文献9参照)、透過画像に対して画像処理を行って角層細胞剥離量と角層細胞剥離均一性の両方を解析する方法(特許文献10参照)、自己相関マスクパターンを用いた学習型画像計測システムによる角層細胞面積やその剥がれ具合を分析する方法(特許文献11参照)、特徴情報に基づいた分類規則によって透過型レプリカを自動判別する方法(特許文献12参照)、多変量解析を利用した角層細胞面積と剥がれ具合の自動評価法(特許文献13参照)、ニューラルネットワークを利用した形と色による人物の画像処理方法(特許文献14参照)が開示されている。しかし、これらは角層細胞面積やその剥がれ具合、レプリカ等を対象とした評価法であり、角層細胞の配規則性を鑑別する技術ではなかった。また、ニューラルネットワークを利用した角層細胞等の評価システム(特許文献15参照)が開示されてはいるが、角層細胞の配規則性を実用的な精度と高速性で鑑別する技術が求められているにも拘わらず、未だに得られていないのが現状といえる。
【0004】
【特許文献1】特開2000−125854号公報
【特許文献2】特開2003−202336号公報
【特許文献3】特開平10−142224号公報
【特許文献4】特開2000−116623号公報
【特許文献5】特開2001−013138号公報
【特許文献6】特開平09−024025号公報
【特許文献7】再表02/25272号公報
【特許文献8】特開2003−315331号公報
【特許文献9】特開平07−055707号公報
【特許文献10】特開平09−131323号公報
【特許文献11】特開平09−308619号公報
【特許文献12】特開平09−154832号公報
【特許文献13】特願2004−287804号公報
【特許文献14】特開2005−250596号公報
【特許文献15】特開平06−004601号公報
【特許文献16】特許3717336号公報
【特許文献17】特願2005−361194号公報
【非特許文献1】Breiman, L. : Machine leraning, Vol. 24, pp123-140(1996).
【非特許文献2】Freud, Y. and Schapine, R. E. : Journal of Computer and System Science, Vol. 55, pp.119-139(1995).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような状況下で為されたものであり、より高精度且つ高速に、染色又は非染色の角層細胞の配列規則性を自動的に鑑別する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような状況を鑑みて、本発明者らは、より高精度且つ高速に、染色又は非染色の角層細胞の配列規則性を自動的に鑑別する技術を提供することを求めて、鋭意研究努力を重ねた結果、角層細胞標本を拡大イメージ画像として取り込み、該画像の個々の角層細胞を識別し、該角層細胞のイメージ画像データを画像処理して得られる特徴量を計測し、該特徴量を、特徴量データベースに蓄積された、対象とすべき集団における特徴量と比較して、配列規則性を評価・判別することによって、角層細胞の配列規則性を自動的に鑑別できる技術を見出し、発明を完成させるに至った。即ち、本発明は以下に示すとおりである。
【0007】
(1)皮膚より採取した角層細胞の配列規則性の鑑別法であって、角層細胞標本を拡大イメージ画像として取り込み、該画像の個々の角層細胞を識別し、該角層細胞のイメージ画像データを画像処理して得られる特徴量を計測し、該特徴量を、特徴量データベースに蓄積された、対象とすべき集団における特徴量と比較して、配列規則性を評価・判別することを特徴とする、角層細胞の配列規則性の鑑別法。
(2)さらに、前記特徴量データベースが、測定された特徴量及び配列規則性を、更に、特徴量データベースに組み入れられ、更新・補正可能であることを特徴とする、(1)に記載の角層細胞の配列規則性の鑑別法。
(3)前記特徴量として、角層細胞の集団の特徴量、角層細胞の相互間の特徴量及び角層細胞の個々の特徴量から選ばれる1種乃至は2種以上の特徴量を用いることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の角層細胞の配列規則性の鑑別法。
(4)さらに、特徴量として、下記の群より選択される2種以上の特徴量を用いることを特徴とする、(1)〜(3)何れか1項に記載の角層細胞の配列規則性の鑑別法。
1)角層面積指標値、細胞抽出指標値、角層部形状指標値、ヒストグラム指標値
2)隣接細胞指標値、細胞分離指標値、細胞間距離指標値
3)破れ指標値、尖り指標値、凹み指標値
(5)鑑別すべき角層細胞の配列規則性の算出が、画像処理及び多変量解析によって、自動処理されることを特徴とする、(1)〜(4)何れか1つに記載の角層細胞の配列規則性の鑑別法。
(6)角層細胞の配列規則性の鑑別法であって、次に示す工程を構成要素とすることを特徴とする、(1)〜(5)何れか1つに記載の角層細胞の配列規則性の鑑別法。
(工程1)角層細胞をテープストリッピング法により採取し、拡大ビデオを用いてカラー画像として取り込む工程。
(工程2)取り込んだカラー画像から、角層細胞群とその背景部とを分離する工程。
(工程3)角層細胞群より個々の角層細胞を識別、抽出する工程。
(工程4)角層細胞の集団、角層細胞の相互間及び個々の角層細胞について画像処理・統計処理を行って特徴量を計測する工程。
(工程5)工程4より得られた特徴量を、特徴量データベースに蓄積された、対象とすべき集団における特徴量と比較して、角層細胞の配列規則性の評価を行う工程。
(工程6)前記特徴量データベースが、工程4及び5より得られた特徴量を対象とすべき集団に組み込み、対象とすべき集団の特徴量を補正する工程。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、人による目視評価の作業を必要とせず、より高精度且つ高速に、染色又は非染色の角層細胞の配列規則性を自動的に鑑別する方法を提供できる。その結果、適切な化粧品等の選択、それを使用することによる効果の享受、及び化粧料の評価等において、低コスト、短時間、及び高精度に貢献しうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、図1のフローチャートの工程で示される。即ち、角層細胞標本を拡大イメージ画像として取り込み、該画像の個々の角層細胞を識別し、該角層細胞のイメージ画像データを画像処理して得られる特徴量を計測し、該特徴量を、特徴量データベースに蓄積された、対象とすべき集団における特徴量と比較して、配列規則性を評価・判別することによって、配列規則性を自動的に鑑別することを特徴とする。ここでいう角層細胞の配列規則性とは、1)角層細胞の大きさが揃っておりそのバラツキが少ないこと、2)細胞個々の形状が形の崩れていない六角形構造をしっかり維持し、角層細胞同士の配列が規則的であること、の2点をどの程度満たしているかということである(特許文献16参照)。このような評価は、配列規則性のレベルを設定し、各種レベルの標準画像を複数揃えた標準セットを作製し、これらとの比較によって、例えば、配列規則性が良い(評点1)〜配列規則性が悪い(評点4)のようにランク付けることができる(図5参照)。以下に、更に詳細に説明を加える。
【0010】
角層細胞標本は、定法により皮膚よりテープストリッピング法によって採取した後、ゲンチアナバイレットやブリリアントグリーン等によって染色したものを用いることもできるし、また、染色せずに非染色のまま用いることもできる。かような染色又は非染色の角層細胞標本は、市販のデジタル式マイクロスコープ等を利用して拡大イメージ画像として取り込み、コンピュータ上でデジタル画像データとして保管できる。このようなデジタル式マイクロスコープとしては、例えば、(株)モリテックスのコスメティック用マイクロスコープや(株)キーエンスのデジタルマイクロスコープ等が例示できる。角層細胞標本の撮影倍率は、角層細胞の配列規則性の鑑別においては500〜1000倍(14インチのディスプレイに対する倍率)が好ましく表示できる。この時、取り込んだ角層細胞標本が非染色の場合は、イメージ画像の画素ごとのRGB値を変換し、変換された各RGB値によって疑似カラー表示(特許文献17参照)を行うことによって、染色した角層細胞標本の拡大イメージ画像と同様に、配列規則性の鑑別のための画像処理に供することができる。かようなRGB変換や配列規則性の鑑別のための後述する各種の画像処理は、汎用的画像解析用のソフトウェアを用いればよく、例えば、マジカルアート(株)のMagical IP(登録商標)、三谷商事(株)のWinROOF(登録商標)やナノシステム(株)のNanoHunter(登録商標)等が例示できる。
【0011】
得られた角層細胞標本の拡大イメージ画像においては、角層細胞の群とそれらを含まない背景から構成されているので、角層細胞を識別し、角層細胞群とその背景との分離、及び個々の角層細胞の抽出を行う。かような拡大イメージ画像中より角層細胞群を背景から分離するには、上述した汎用的画像解析ソフトウェア等を用いて、一般的な画像処理法である二値化処理及びノイズ除去によって為すことができる。より好ましくは、前処理として、濃度(輝度)分布解析、色調補正及び感度補正等による拡大イメージ画像に対する画像調整を行い、更に濃度ヒストグラム値に基づくマスク処理を行った後に、二値化処理及びノイズ除去を行うことであり、これによって角層細胞群は背景より明確に分離することができる。ここでいうマスク処理とは、雑音除去、画像修正や対象物の抽出のために、対象とした領域の画素に対してヒストグラム値に基づくピーク特性や面積等の閾値による重み付け等の演算処理を行うことである。
【0012】
かようにして背景より分離された角層細胞群より個々の角層細胞を抽出するには、円抽出やエッジ抽出を行うことによって、個々の角層細胞が抽出される。ここでいう円抽出法とは、マスク処理の一手法で、通常存在する角層細胞の大きさを基準とした半径の円環フィルターによって個々の細胞を同定した後、細胞相互間の位置最適化によって細胞相互の重なりを除去し、これによって個々の細胞抽出(細胞形状の推定)することをいう。また、エッジ抽出法とは、濃淡画像のエッジ部と平坦部を検出し細胞を分離し、分離した細胞を整形して個々の細胞抽出することをいう。
【0013】
このような工程を経て、個々の細胞が抽出されるが、この画像処理の過程において角層細胞の配列規則性を鑑別するための各々の拡大イメージ画像の特徴量が個別データとして保持される。かような特徴量としては、角層細胞の集団の特徴量(図2参照)、角層細胞の相互間の特徴量(図3参照)及び角層細胞の個々の特徴量(図4参照)、という3種類に大別できる。更に以下に、特徴量の具体的な指標値について詳しく説明する。
【0014】
角層細胞の集団の特徴量としては、例えば、角層面積指標値、細胞抽出指標値、角層部形状指標値、ヒストグラム指標値等が例示できる。角層面積指標値とは、角層細胞群の面積の割合に注目した特徴量で、例えば、角層面積比(角層細胞群面積/拡大イメージ画像の全面積)、円面積比(角層細胞抽出面積/角層細胞群面積)等が具体的に例示できる。細胞抽出指標値とは、前述した円抽出法で円環フィルターで細胞抽出時にその半径より算出される抽出係数で、例えば、角層細胞抽出係数平均、角層細胞抽出係数分散等の特徴量が具体的に例示できる。角層部形状指標値とは、帯域フィルターや干渉フィルター等でノイズ除去して角層細胞の凸部を抽出して得られる特徴量で、例えば、凸部個数や凸部面積が具体的に例示できる。また、ヒストグラム指標値とは、角層細胞部を抽出するときの面積及び輝度のヒストグラムに関する特徴量で、例えば、ヒストグラム山谷深度(ヒストグラム2ピーク間の谷部と2ピーク中間までの距離)、ヒストグラムピーク左右率(2ピークの頻度の比)、10%−90%輝度差(ヒストグラム90%と10%の各位置間の輝度差)、大津分離度(大津の方法による濃淡画像の二値化の閾値)等が具体的に例示できる。
【0015】
角層細胞の相互間の特徴量としては、例えば、隣接細胞指標値、細胞分離指標値、細胞間距離指標値等が例示できる。隣接細胞指標値とは、イメージ画像処理領域に注目円を設定し、その注目円の範囲内に存在する細胞として定義される。かような隣接した細胞相互間に関する特徴量として、例えば、隣接細胞個数平均(Σ(隣接細胞個数)/隣接細胞の個数)、隣接細胞個数分散(Σ(隣接細胞個数−隣接細胞個数の平均)/隣接細胞の個数)、隣接細胞距離平均(隣接細胞距離(単位:画素)の平均)、隣接細胞距離分散(隣接細胞距離の分散)、隣接細胞方向分散(隣接細胞方向の分散)等が具体的に例示できる。前述した濃淡画像のエッジ部と平坦部を検出し細胞を分離するエッジ抽出による細胞分離指標値として、例えば、細胞面積平均、細胞面積分散、細胞円形度平均(細胞円形度=4*π*面積/周囲長、Σ細胞円形度/全細胞個数)、細胞円形度分散、細胞円形率((細胞円形度が0.4以上の細胞個数)/全細胞個数)、細胞抽出率(Σ細胞面積/細胞全体面積)等の特徴量が具体的に例示できる。また、細胞間距離指標値としては、ある注目細胞の輪郭を追跡し8方向で距離10画素以内の細胞の中の最短距離を定義し、例えば、細胞間距離平均、細胞間距離分散等の特徴量を具体的に例示できる。
【0016】
また、角層細胞の個々の特徴量としては、例えば、破れ指標値、尖り指標値、凹み指標値等が例示できる。破れ指標値とは、六角形〜円形状に近い角層細胞の一部が引き裂かれ変形した細胞に対して定義され、例えば、破れ個数(破れた細胞の個数)、破れ個数比率(破れ個数/その細胞を抽出する円の個数)、破れ円形度(破れたとされた細胞の円形度の平均、円形度=4π*細胞面積/細胞周囲長)等の特徴量が具体的に例示できる。尖り指標値及び凹み指標値とは、イメージ画像中の角層細胞の輪郭を追跡し、輪郭長や輪郭角度によって自動的に抽出判別された尖りや凹みとして定義され、例えば、尖り個数(尖った細胞の個数)、尖り個数面積率(尖り個数/抽出面積合計)、尖り抽出率(尖り個数/抽出面積合計)、凹み個数、凹み個数面積率(凹み個数/抽出面積合計)等の特徴量が具体的に例示できる。
【0017】
かような特徴量を用いて、角層細胞の配列規則性の鑑別を行うためには、該特徴量を、特徴量データベースに蓄積された、対象とすべき集団における特徴量と比較して、配列規則性を評価・判別すれば良い。かような評価・判別は、具体的には、後述する統計的手法である多変量解析を利用することによって、自動的に処理できる。さらに、測定された特徴量及び配列規則性が、更に、個別データは、特徴量データベースに組み入れられ、特徴量データベースが更新・補正可能であることが好ましい。このような学習的操作が繰り返されることによって、例えば、時系列的に集積されるノイズの低減、或いは特徴量と角層細胞の配列規則性との間に発生しうる偽相関性が低下して、より高精度の鑑別が期待される為である。
【0018】
前記多変量解析として、例えば、判別分析、主成分分析、因子分析、数量化一類、回帰分析(PLS、PCR、ロジスティック)、多次元尺度法、教師ありクラスタリング、ニューラルネットワーク、アンサンブル学習手法(バギング、サポートベクターマシン、ブースティング等)、データマイニング手法(樹形モデル等)が例示できる。これらの内、好ましいのは、教師ありクラスタリング(http://www.kamishima.net/jp/soft.html)、ニューラルネットワーク(以下NNと略す)、アンサンブル学習法等の統計的学習法であり、特に好ましいのはアンサンブル学習法である。これは、何れも説明変数である特徴量と応答変数(教師データ又は教示データとも言う)である角層細胞の配列規則性との関係(分類規則)を学習し、該学習によって得られた分類規則は新規な角層細胞の特徴量に対して適用されて、その角層細胞の配列規則性を評価・判別する。更に、その学習結果は、データベースとして更新・補正され、次の新規な角層細胞の配列規則性の評価・判別に適用されるという繰り返しによって、より精度の高い分類規則が学習獲得できる為である。また、前述した角層細胞の配列規則性の定義(配列規則性とは、1)角層細胞の大きさが揃っておりそのバラツキが少ないこと、2)細胞個々の形状が形の崩れていない六角形構造をしっかり維持し、角層細胞同士の配列が規則的であること、の2点をどの程度満たしているかである)で示されるように、角層細胞の配列規則性が非定量的でパターン認識の対象であり、分類法・学習法がより好適に利用できる為でもある。
【0019】
前記アンサンブル学習法(非特許文献1,2参照)とは、個々に学習したNNを複数個用意し、それらを最適線形統合した一つのNNに構築する学習法であり、未学習データに対する予測能力である汎化能力が非常に高いことが理論的に明らかにされている。具体的なアルゴリズムとして、例えば、バギング、サポートベクターマシン(以下SVMと略す)、ブースティング、及びそれらを改良或いは統合したアルゴリズム等が例示でき、インターネット上でその文献やソフトウェアが公開(http://www.kernel-machines.org)されており、利用することもできる。SVMは、パターン認識及び非線形的分類の能力が優れた学習モデルであり、バギングは、リサンプリング手法であるブーストラップ法を応用して回帰式の予測誤差を小さくした学習モデルであり、またブースティングは、分類が困難なデータへの重み付けを大きくしながらNNを増加させる学習モデルであるという特徴を有している(http://www.is.titech.ac.jp/~kanamori/paper/RobustBoost2003.pdf')。
【0020】
以下に実施例を挙げて、本発明について更に説明を加えるが、本発明がこれら実施例にのみ限定されないのは言うまでもない。
【実施例】
【0021】
<実施例1>
染色条件下において、角層細胞の配列規則性の目視評価値と、本発明を用いた角層細胞の配列規則性の鑑別された評価値との関係から、本発明の精度を検討した。20〜65才までの女性被験者の頬部より採取した角層細胞をゲンチアナバイオレットで染色後、その拡大イメージ画像の写真1200枚について、訓練された専門の評価者3名が標準化された評価方式(図5参照)に従って4段階の目視評価を予め行った。続けて、三谷商事(株)のWinROOF(登録商標)を利用して、角層細胞の集団の特徴量、角層細胞の相互間の特徴量及び角層細胞の個々の特徴量である、角層面積指標値、細胞抽出指標値、角層部形状指標値、ヒストグラム指標値、隣接細胞指標値、細胞分離指標値、細胞間距離指標値、破れ指標値、尖り指標値、凹み指標値等を自動的に算出した。次に、その画像写真を奇数番号と偶数番号の半分に分け、奇数番号を対象にアンサンブル学習法のブースティングを用いて、配列規則性規則性を応答変数として上記算出した特徴量によって学習を行った後、残りの偶数番号に対して、学習によって得られた分類規則を適用して鑑別した。続けて、学習と鑑別の対象である画像写真の奇数番号と偶数番号を入れ替えて、同様に鑑別を行い、まとめた結果を表1に示す。
【0022】
表1に、染色した角層細胞の配列規則性についての目視評価と本発明による鑑別結果との集計表を示す。両評価値の一致率は、判定不能な約1%の角層細胞を除いた場合、完全な一致は75%、1段階のずれを許容すると99%であり、本発明の鑑別法が十分満足できる精度を有することが分かる。
【0023】
【表1】

【0024】
<実施例2>
実施例1において、染色した角層細胞を非染色の角層細胞に変えて同様に鑑別を行い、集計した結果を表2に示す。表2により、判定不能な約2%の角層細胞を除いた場合、完全な一致は74%、1段階のずれを許容すると99%であり、本発明の鑑別法が十分満足できる精度を有することが分かる。
【0025】
【表2】

【0026】
<実施例3〜6>
実施例1及び実施例2において、ブースティングをバギング及びNNに変更して同様に鑑別を行い、本発明の精度を検討した。実施例1〜6について、その一致率を表3に示す。完全な一致率及び1段階のずれを許容した一致率とも非常に高い値を示し、本発明の鑑別法が十分満足できる精度を有することが分かる。
【比較例】
【0027】
<比較例1>
実施例1において、特別に訓練を受けていない3名の評価者に、角層細胞の配列規則性の標準化写真(図5参照)を提示させて、4段階の目視評価を行った。その結果と、訓練された専門の評価者による目視評価とを比較し、その一致率による精度及び所要時間(1200件を鑑別した場合の1件の平均所要時間)について、本発明と比較検討した。その結果を表3に示す。これより本発明の鑑別法が非常に高精度且つ高速に配列規則性の鑑別を提供できることが分かる。
【0028】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明によって、角層細胞を評価する専門の評価者を必要とせず、より高精度且つ高速に、角層細胞の配列規則性を自動的に鑑別できる。その結果、顧客と直接接する場所、例えば、デパートや店頭において、本発明によって鑑別したデータを用いて、肌や美容のカウンセリング及び化粧品選択に有用な情報を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】角層細胞の配列規則性の鑑別工程を示す図である。
【図2】角層細胞の集団の特徴量を示す図である(図面代用写真)。
【図3】角層細胞の相互間の特徴量を示す図である(図面代用写真)。
【図4】角層細胞の個々の特徴量を示す図である(図面代用写真)。
【図5】角層細胞の配列規則性の目視評価に使用する標準写真を示す図である(図面代用写真)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚より採取した角層細胞の配列規則性の鑑別法であって、角層細胞標本を拡大イメージ画像として取り込み、該画像の個々の角層細胞を識別し、該角層細胞のイメージ画像データを画像処理して得られる特徴量を計測し、該特徴量を、特徴量データベースに蓄積された、対象とすべき集団における特徴量と比較して、配列規則性を評価・判別することを特徴とする、角層細胞の配列規則性の鑑別法。
【請求項2】
さらに、前記特徴量データベースが、測定された特徴量及び配列規則性を、更に、特徴量データベースに組み入れられ、更新・補正可能であることを特徴とする、請求項1に記載の角層細胞の配列規則性の鑑別法。
【請求項3】
前記特徴量として、角層細胞の集団の特徴量、角層細胞の相互間の特徴量及び角層細胞の個々の特徴量から選ばれる1種乃至は2種以上の特徴量を用いることを特徴とする、請求項1又は2に記載の角層細胞の配列規則性の鑑別法。
【請求項4】
さらに、特徴量として、下記の群より選択される2種以上の特徴量を用いることを特徴とする、請求項1〜3何れか1項に記載の角層細胞の配列規則性の鑑別法。1)角層面積指標値、細胞抽出指標値、角層部形状指標値、ヒストグラム指標値
2)隣接細胞指標値、細胞分離指標値、細胞間距離指標値
3)破れ指標値、尖り指標値、凹み指標値
【請求項5】
鑑別すべき角層細胞の配列規則性の算出が、画像処理及び多変量解析によって、自動処理されることを特徴とする、請求項1〜4何れか1項に記載の角層細胞の配列規則性の鑑別法。
【請求項6】
角層細胞の配列規則性の鑑別法であって、次に示す工程を構成要素とすることを特徴とする、請求項1〜5何れか1項に記載の角層細胞の配列規則性の鑑別法。
(工程1)角層細胞をテープストリッピング法により採取し、拡大ビデオを用いてカラー画像として取り込む工程。
(工程2)取り込んだカラー画像から、角層細胞群とその背景部とを分離する工程。
(工程3)角層細胞群より個々の角層細胞を識別、抽出する工程。
(工程4)角層細胞の集団、角層細胞の相互間及び個々の角層細胞について画像処理・統計処理を行って特徴量を計測する工程。
(工程5)工程4より得られた特徴量を、特徴量データベースに蓄積された、対象とすべき集団における特徴量と比較して、角層細胞の配列規則性の評価を行う工程。
(工程6)前記特徴量データベースが、工程4及び5より得られた特徴量を対象とすべき集団に組み込み、対象とすべき集団の特徴量を補正する工程。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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