説明

角膜切除手術の進捗モニタ用仮想顕微鏡システム及び関連方法

角膜手術中、患者の眼を視覚化するシステムは、プロセッサと、そのプロセッサと信号通信する第1及び第2のカメラを有する。それらのカメラは、手術に際して位置合わせされた角膜上に焦点を合わせるよう位置合わせ可能である。第1及び第2のディスプレイ及びそれらディスプレイ用の光学系はプロセッサと信号通信し、それぞれ、ステレオ顕微鏡の第1及び第2ののアイピースを通じて見るように位置合わせ可能となっている。ソフトウェアがプロセッサに常駐して、第1及び第2のカメラから第1及び第2の角膜画像を受信し、受信した第1及び第2の画像を表示用に処理し、かつ処理された第1及び第2の画像を、それぞれ、ディスプレイ用の光学系を介する第1及び第2のディスプレイへ伝送する。そしてディスプレイは、少なくとも手術中、顕微鏡を通じて執刀医に観察可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2007年12月21日に出願された米国仮出願第60/015,853号に基づく優先権を主張する。
本発明は手術方法に関し、特に、角膜切除手術の進捗モニタシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LASIK(レーザー原位置角膜切開反転術)手術の実行は、代表的には、角膜において薄いフラップのカッティングを行い、そしてそのフラップを持ち上げて角膜間質をその下へ露出させるヒンジに沿って折り曲げることを伴う。切除レーザを使用して屈折矯正手術が実行され、そしてフラップが再配置される。
【0003】
角膜間質の上に角膜フラップが再配置された後、角膜フラップにおける"しわ"または筋を除き、または検出するために、いくつかの方法が使用される。例えば、フラップを再調整するためにマーキングを使用できるように、切除前に角膜にマーキングを行う。他の方法は、(直視)顕微鏡及び拡散、広帯域白色光源を操作して、筋を検知することを採用する。あるいは、屈折矯正手術は、携帯スリットランプといった専用装置を使用して、可視の広帯域白色光の細いラインを角膜に投影し、表面異常またはエッジを走査する。
【0004】
しかし、フラップ位置、破片、水和を検知するためにそのような照明光で眼を満たすことは、患者にとって不快であり、スリットランプを使用してフラップの再配置及び一般的な眼の状態を検出することは、ワークフローを低下させかねない。さらに、白色光は、視覚化にとって眼の一部の最適な強調を提供しない。他の波長で見るために、標準的なビデオモニターを備えた外部カメラシステムを用いることができるが、直視顕微鏡にとって必要とされる高輝度照明をなくすために、大きな開口絞りを使用しなければならず、患者の安全と医師の視覚との間でのトレードオフを要求することになる。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、角膜手術中において患者の眼を視覚化するシステム及び方法に向けられている。このシステムは、プロセッサと、そのプロセッサと信号通信する第1及び第2のカメラを有する。第1及び第2のカメラは、手術を受けるために位置合わせされた眼の角膜に焦点を合わせるよう位置合わせ可能となっている。
【0006】
第1及び第2のディスプレイ及びそれらディスプレイ用の光学系は、プロセッサと信号通信し、それぞれ、ステレオ顕微鏡の第1及び第2のアイピースを通じて観察するよう位置合わせ可能となっている。その顕微鏡は角膜の手術野と関連付けられている。
【0007】
第1及び第2のカメラから角膜の第1及び第2の画像を受信するコードセグメントと、受信した第1及び第2の画像を表示用に処理するコードセグメントとを有するソフトウェアがプロセッサ上に常駐する。また、処理された第1及び第2の画像を、それぞれ、ディスプレイ用の光学系を介する第1及び第2のディスプレイへ伝送するコードセグメントを備える。そして第1及び第2のディスプレイは、少なくとも手術中、好ましくは、手術中だけでなく手術前後において、顕微鏡を通じて執刀医により観察可能となっている。
【0008】
また本発明は、角膜手術のプロセスをモニタする方法にも向けられている。この方法は、手術を受けるために位置合わせされた角膜を有する眼を照明するステップと、第1及び第2のディスプレイ上に角膜を立体画像化するステップとを含む。第1及び第2のディスプレイは、それぞれ、ステレオ顕微鏡の第1及び第2のアイピースを通じて観察可能となっている。
【0009】
構成及び作動方法の両方に関する、本発明を特色付ける特徴は、さらなる対象及びその利点とともに、添付の図面とともに用いられる以下説明からより良く理解されるであろう。図面は図示及び説明を目的とするものであり、本発明を限定する定義として意図されるものではないことは、明確に理解されるべきである。本発明により達成されたこれら及び他の対象物、及び提供された利点は添付の図面とともに以下の説明を読むことによってより完全に明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の眼画像生成表示システムの概略図である。
【図2】眼を撮像するカメラの概略図である。
【図3】表示部の側面斜視図である。
【図4】視覚表示部の側面斜視図である。
【図5】表示素子の平面図である。
【図6】LASIK装置に組み込まれた本発明の眼画像生成表示システムの概略図である。
【図7】本発明の眼画像生成表示方法の一つの実施形態のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図1−7を参照しつつ、本発明の好ましい実施形態を説明する。
【0012】
図1のシステム概略図は、執刀医による角膜手術プロセスのモニタのための、本発明の例示的な実施形態のシステム10の構成要素を図示する。システム10は、第1の高解像度カラーカメラ11及び第2の高解像度カラーカメラ12(図2)を有し、それらのカメラは特定の実施形態において、角距離13で調節可能となっており、眼14の一部、例えば、角膜15に焦点を合わせることが可能となっている。システム10を適用可能な例示的な手術法はLASIK手術であるが、これに限定されるものではなく、システム10は、瞳孔の動きをモニタし、記録する瞳孔測定、及び角膜複屈折といった他の眼の測定、及び手術用顕微鏡が有用な他の眼の手術にも適用可能である。このタイプの手術について、システム10は、角膜15、角膜を切除したフラップ、基礎的な間質、角膜縁及び画像化されることが望まれる眼の他の部位を画像化するのに有用であり、奥行き知覚を提供できる。
【0013】
カメラ11、12は、低照度レベル、広帯域または速度について最適化できる。速度は、画像化において顕著な遅延を示すことが無い程度に十分速いことが好ましい。波長帯域は、像強調に使用されることが想定される波長を包含することが好ましく、感度は患者にとって快適な照度レベルを許容する。
【0014】
カメラ11、12は、プロセッサ16と信号通信する。プロセッサ16は、そのプロセッサ上に常駐する画像処理ソフトウェア17を有する。カメラ11、12は、照明光源20から眼14へ入射した放射19に対しての、眼14からの反射放射18を受光するよう位置合わせされ、かつ焦点合わせされる。好ましい実施形態では、照明光源20は、複数の波長帯域を持つ光源を有する。しかし、これに限定されるものではない。複数の波長帯域の使用については後述する。
【0015】
使用の際、ソフトウェア17はカメラ11、12から画像を受信し、その画像をステレオ顕微鏡21を通じて表示するために処理する。ステレオ顕微鏡21は代表的には手術システムの構成要素であり、執刀医がそのような手術において使用するのに慣れているものである。またソフトウェア17は、出力ディスプレイ上に、顕微鏡情報(ズーム、拡大率、測定バーなど)及び手術システム情報(手術完了度合い、レーザパワー統計量など)を含む(しかし、これらに限定されるものではない)追加データを重ね合わせるためのコードセグメントを有してもよい。そのようなデータをディスプレイに組み込むことで、執刀医が自身の注意を患者からそらし、外部ディスプレイへ向ける必要性をなくす。そして所望される場合、これらのデータは、処理された画像データとともに、保存され、取り出されてもよい。
【0016】
処理された画像は、それぞれ、顕微鏡21の第1アイピース25及び第2アイピース26を通し、ディスプレイ用光学系24を介して観察する第1ディスプレイ22及び第2ディスプレイ23へ伝送される(図3−5)。ディスプレイ22、23は、顕微鏡21のフォームファクターと同様のフォームファクターを持つマイクロディスプレイを有してもよい。ディスプレイ22、23は、執刀医がディスプレイ上の個々の画素を視認しない程度に十分な解像度を有することが好ましい。またディスプレイ22、23は、輝度及びコントラストを調節可能であることが好ましい。ディスプレイ用光学系24は、各アイピース25、26に対して調節可能なパララックス及び焦点を持ち、眼14の顕微鏡的なビューを提供する。
【0017】
システム10は、ズーム光学系27を追加で有してもよい。ズーム光学系27は、例えば、ズーム、ステップズームまたは戻り止め付ズームであってもよいが、これらに限定されるものではない。光学系の性能は、網膜の解像度ではなくカメラ11、12の画素サイズに適合されるので、システム設計はより柔軟になり、所望の場合、より大きい開口を使用することができる。光学系は、所望の波長帯域全体にわたって性能を発揮することが好ましい。
【0018】
システム10は、分光フィルタ28をさらに有してもよい。分光フィルタ28は、交換可能または切り替え可能とすることができ、フィルタホイール上に配置されて手動で切り替え可能であってもよく、または電気的に光路内へ挿入されてもよい。そのため、照明及びカメラ11、12によって受光される像は、眼14の所望の部位を選択的に強調するよう選択でき、これは従来技術のような直視顕微鏡を用いる場合には利用不能な特徴である。例えば、近赤外放射を瞳を強調するために使用することができ、あるいは、紫外光を、可視光に対して透明で紫外光に対して不透明な角膜表面を画像化するのに使用することができる。非可視光はディスプレイ上で黒または白で表される。角膜切除術中、近赤外放射は角膜の視覚化を向上させることを可能とし、かつ、この波長域は患者には見えないので、患者の快適性を向上する。さらに、プロセッサ16は画像を処理して、間質を視覚化するよう、フラップ及びフラップのエッジを強調できる。フラップを切除する前に、分光フィルタ28は患者の位置合わせをアシストできる。さらに、カメラとプロセッサを使用して、患者の眼を不快なレベルの照明で満たすことなくゲインを調節できるので、直視において代表的に必要とされる照度レベルよりも低い照度レベルを使用できる。
【0019】
限定されることを意図しない、例示的な実施形態では、手術モニタシステム10を、角膜切除用LASIK装置(図6)に組み込むことができる。LASIK装置の二つの側面は像用光路30とトラッカー用光路31とを含み、各光路はビームスプリッタ32、33を介してデータを受け取る。ここでは、眼14へ向けられた二つの照明光源が図示されており、その一つは赤外照明器20aであり、もう一つは可視光照明器20bである。ズームレンズ27は、連続ズームレンズまたはステップズームレンズを含むことができ、さらに光ファイバ28を含んでもよい。カメラ11、12は、高解像度2Kx2Kカメラを有する。デュアルフレーム取り込み器及びビデオプロセッサ16は、画像を二つの高解像度(2Kx2K)ディスプレイ22、23に表示させる。
【0020】
角膜手術または他の眼の手術のプロセスをモニタする方法100(図7)は、手術のために患者を位置合わせするステップ(ブロック101)と、患者の眼を所望の波長域で照明するステップ(ブロック102)とを含む。所望の場合、眼14からの反射光を分光フィルタリング28してもよい(ブロック103)。そして角膜15または眼の他の部位が、第1のディスプレイ22及び第2のディスプレイ23上に立体画像化される(ブロック104)。そして所望の場合、立体画像は所望の拡大率でズームされてもよい(ブロック105)。ディスプレイ22、23のパララックス及び/または焦点も、所望のように調節できる(ブロック106)。執刀医は、手術の前、手術中及び/または手術後において(ブロック108)、手術用顕微鏡21のアイピース25、26を通じてディスプレイ22、23を見ることができる(ブロック107)。
【0021】
上記において、特定の用語が簡潔性、明確性及び理解のために使用されているが、これらの用語から、先行技術の要件を超える不必要な限定が示唆されるものではない。何故なら、それらの用語はここでは説明目的で使用され、広く解釈されるべきものだからである。さらに、ここに図示し、説明したシステム及び方法の実施形態は例示を目的とするものであり、本発明の範囲は開示された詳細そのものに限定されるものではない。
【0022】
ここに説明された発明、構成、及びその好ましい実施形態の動作及び使用、新たな利点及びそれによって得られた有用な結果、新規で有用な構成、及び当業者にとって明らかなその合理的な機械的均等物は、添付のクレームによって述べられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
角膜手術プロセスモニタシステムであって、
プロセッサと、
前記プロセッサと信号通信し、手術を受けるために位置合わせされた眼の角膜上に焦点を合わせるよう位置合わせ可能な第1及び第2のカメラと、
前記プロセッサと信号通信し、角膜の手術野と関連付けられたステレオ顕微鏡の第1及び第2のアイピースを通じて観察するように、それぞれ位置合わせ可能な第1及び第2のディスプレイ及び当該第1及び第2のディスプレイ用の光学系と、
前記プロセッサに常駐するソフトウェアとを有し、
前記ソフトウェアは、
前記第1及び第2のカメラから前記角膜の第1及び第2の画像を受信するコードセグメントと、
受信した前記第1及び第2の画像を表示用に処理するコードセグメントと、
処理された前記第1及び第2の画像を、前記ディスプレイ用の光学系を介して、少なくとも手術中において前記ステレオ顕微鏡を通じて執刀医により観察されるよう、それぞれ、前記第1及び第2のディスプレイへ伝送するコードセグメントと、
を有するシステム。
【請求項2】
前記第1及び第2のカメラは、それぞれがカラーカメラを有し、かつ、前記角膜へ向けることが可能であり、前記眼の部位の像を強調するよう選択された波長を持つ照明光源を有する、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
所望の周波数範囲において前記眼から反射された照明光を透過する、前記カメラの前面に配置可能な分光フィルタをさらに有する、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記照明光源は、近赤外光源及び紫外光源のうちの少なくとも一つを有する、請求項2に記載のシステム。
【請求項5】
前記ディスプレイ用の光学系は、前記ディスプレイをズームする手段を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記第1及び第2のカメラ及び前記第1及び第2のディスプレイのそれぞれは、人の網膜の解像度と少なくとも同じ解像度を持つ、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記ディスプレイ用の光学系は、前記第1及び第2のディスプレイのそれぞれについてパララックスと焦点のうちの少なくとも一方を調節する手段を有する、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
角膜手術プロセスモニタ方法であって、
手術を受けるよう位置合わせされた角膜を持つ眼を照明するステップと、
第1及び第2のディスプレイ上に前記角膜を立体画像化するステップと、
ステレオ顕微鏡の第1及び第2のアイピースを通じて前記第1及び第2のディスプレイをそれぞれ観察するステップと、
を含む方法。
【請求項9】
前記立体画像化するステップは、第1及び第2のカラーカメラを用いて実行され、前記照明するステップは、前記眼の部位の像を強調するよう選択された波長で前記眼を照明することを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記第1及び第2のカメラの上流で、所望の周波数範囲において前記眼から反射された照明光を分光フィルタすることをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記選択された波長は近赤外光及び紫外光のうちの少なくとも一つを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
所望の拡大率で前記ディスプレイをズームするステップをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記第1及び第2のディスプレイのそれぞれについてパララックスと焦点のうちの少なくとも一つを調節するステップをさらに含む、請求項8に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2011−507629(P2011−507629A)
【公表日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−539859(P2010−539859)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【国際出願番号】PCT/US2008/087616
【国際公開番号】WO2009/086065
【国際公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(504230051)アルコン リフラクティブホライズンズ,インコーポレイティド (12)