説明

角膜厚測定装置及びその補正方法

【課題】模型眼を用いた角膜厚測定値の補正を可能とし、簡易に高精度な角膜厚測定を実現する。
【解決手段】スリット光の角膜における散乱により得られる光断面像を用いて角膜厚を測定する角膜厚測定装置の補正方法は、既知の厚さを有し、一様な散乱強度を有する平板状の半透明体にスリット光を照射し、半透明体におけるスリット光の散乱光を撮像素子により撮像して得られた光断面像の幅を測定し、測定された幅と、半透明体の既知の厚さとに基づいて、光断面像の幅から角膜厚を算出するための補正値を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、角膜の厚さを光学的に測定する角膜厚測定装置及びその補正方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、角膜厚の測定においては、被検眼に光束を投影し、その投影方向に対して斜めの方向から角膜散乱像を観察することが行なわれる。特許文献1には、眼圧測定のための空気流方向から光束を投影し、その光軸に対して傾斜した方向から角膜散乱像を検出して角膜の厚さを測定する角膜厚測定装置が記載されている。しかしながら、特許文献1の装置は、精度良く角膜面に焦点を合わせるための構成を有しておらず、精度良く角膜厚さを検出するのが難しい。これに対して、特許文献2には、角膜に対する位置合わせ及び焦点合わせなどのアライメント操作において、角膜曲率による位置合わせ誤差が生じないようにして角膜面への高精度な焦点合わせを実現し、精度の良い測定をする角膜厚測定装置が記載されている。
【0003】
一方、眼屈折値や眼圧値等の計測を行う検眼装置では、眼の構造を模した模型眼を用意して、測定値が正常かどうか確認することも行われており、複数の模型眼を用意して検眼装置の測定値を補正することも行われている。特許文献3には、複数の特性の異なる模型眼を使う場合でも、模型眼の仕様にかかわらず正確な測定結果(基準屈折度数,眼鏡レンズ度数)を得られるようにする、眼屈折力測定装置における補正方法が記載されている。
【0004】
また、特許文献4には、被検眼の眼屈折力を測定するオートレフラクトメーターや角膜の曲率半径を測定するケラトメーターにおいて、模型眼を用いて装置の精度をユーザがチェックできるようにした構成が記載されている。特許文献4によれば、所定の屈折力やレンズ表面の曲率半径を有する模型眼を装置の顎受け台に置いて、測定部の光学系を模型眼に位置合わせして測定を行うことで、オートレフラクトメーターやケラトメーターの測定精度がチェックされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5474066号明細書
【特許文献2】特開2000−070224号公報
【特許文献3】特開2001−340298号公報
【特許文献4】特開2005−006869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献3に記載された補正方法によれば、模型眼のメーカー、機種を問わず模型眼を用いた補正が可能になる。しかしながら、特許文献3では模型眼に対する位置合わせ及び焦点合わせなどのアライメント操作が考慮されていない。そのため、特許文献3に記載された補正方法を角膜厚測定装置に適用した場合、装置補正後の測定値の誤差が大きくなり補正そのものが意味をなさなくなる。
【0007】
また、特許文献4では、模型眼に輝点を投影してアライメント操作を行っているが、輝点を投影する光源と輝点を受光する撮像素子とを準備しなければならず、装置が複雑となる。特許文献2では、高精度なアライメントを行えるが、角膜の曲率を検出するための光源や演算機能が必要となり、装置が複雑となる。また、模型眼を利用する点については何等言及されていない。
【0008】
一方、眼屈折力測定装置用の硝子又はプラスチック類を素材とする模型眼は角膜厚測定装置の補正に適用できない。また、一般に、角膜厚測定装置のための補正用の模型眼は知られていない。すなわち、角膜厚測定装置の測定値を補正するための模型眼や、そのような模型眼を利用した角膜厚測定における補正方法は提案されていない。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、模型眼を用いた角膜厚測定値の補正を可能とし、簡易に高精度な角膜厚測定を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため、本発明の一態様による角膜厚測定装置の補正方法は、
被検眼の角膜におけるスリット光の散乱により得られる光断面像を用いて該被検眼の角膜厚を測定する角膜厚測定装置の補正方法であって、
既知の厚さと一様な散乱強度とを有する半透明体における前記スリット光の散乱光を撮像素子により撮像して得られた光断面像の幅を測定する測定工程と、
前記光断面像の幅と前記半透明体の前記既知の厚さとに基づいて前記被検眼の角膜厚の補正値を算出する算出工程と、を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、簡便な構成の模型眼を用いて角膜厚測定値を補正することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1実施形態の眼科装置の構成例を示すブロック図。
【図2】(a)はスリット板を示す図、(b)は角膜散乱像を示す図。
【図3】(a)は第1実施形態の模型眼を示す図、(b)は模型眼散乱像を示す図。
【図4】第1実施形態による角膜厚測定のための補正値生成を示すフローチャート。
【図5】第2実施形態の眼科装置の構成例を示すブロック図。
【図6】第2実施形態の眼科装置におけるアライメント輝点像を示す図。
【図7】第2実施形態の眼科装置におけるアライメントの原理を説明する図。
【図8】(a)〜(c)は、第2実施形態による模型眼を示す図。
【図9】(a)〜(c)は、第2実施形態の模型眼による散乱像を示す図。
【図10】第2実施形態による角膜厚測定のための補正値生成を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施形態を添付の図面に基づいて詳細に説明する。
【0014】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態の角膜厚測定装置における測定部の光学系の構成図を示している。被検眼Eの角膜Ecに対向して、対物レンズ1が配置され、その後方にダイクロイックミラー2、結像レンズ3、撮像素子4が順次に配列されている。これらは被検眼Eに対する観察光学系の受光用光路となっている。対物レンズ1の外側には被検眼Eを照明する外眼照明光源11a、11bが配置されている。ダイクロイックミラー2の反射方向には、リレーレンズ5、ダイクロイックミラー6、被検者が固視するLEDを具備する固視用光源7が配置されている。ダイクロイックミラー6の入射方向には投影レンズ8、スリット板9、角膜厚を測定するための可視光光源10が配置されている。可視光光源10はスリット板9を照明し、スリット板9は投影レンズ8、リレーレンズ5、対物レンズ1によって角膜Ec上に結像する。スリット板9は図2(a)に示すように、細長い、矩形絞りになっている。制御部16は、本実施形態の角膜厚測定装置における各制御を実行する。メモリ161は、制御部16により実行されるプログラムや、後述の角膜厚測定のための補正値等を記憶する。制御部16は、撮像素子4や後述の撮像素子14により得られた画像をディスプレイ162に表示する。
【0015】
被検眼Eの斜下方向には可視光光源10による角膜散乱光波長域の光を透過するフィルタ12、結像レンズ13、撮像素子14が配置され、これらにより角膜厚測定光学系が構成されている。角膜厚測定のためのアライメント操作においては、観察光学系の光軸と角膜厚測定光学系の光軸とが交差する位置を角膜Ecの角膜頂点とを一致させる。また、スリット板9、角膜Ec、撮像素子14が共役の関係になっている。測定部は少なくとも上述した光学系を1つの筺体に収納しており、測定部を図示のXYZ方向に移動することでアライメントが行なわれる。
【0016】
角膜厚の測定に際しては、固視用光源7を点灯して、被検眼Eにこの光源7を固視させる。外眼照明光源11a、11bで照明された被検眼Eを撮像素子4から出力された像をディスプレイ162の画面上で観察しながら、被検眼Eの像が画面の大凡中心に位置するように測定部を移動する。その後、可視光光源10を点灯すると、スリット板9により形成されたスリット光が角膜Ecに照射される。その結果、撮像素子14により、図2(b)に示した角膜散乱光Sが撮影され、ディスプレイ162の画面に角膜の光断面像として表示される。ユーザは、この角膜散乱光Sによる光断面像が画面の中心に位置するように測定部を移動し、測定開始スイッチ17を押す。測定開始スイッチ17が押されると角膜厚測定が行われる。なお、図1において、光軸角度θは、角膜Ecに照射される、スリット光の光軸(以下、スリット光軸)と、散乱光Sを撮影する撮像素子14と結像レンズ13の光軸(角膜厚測定光学系の光軸)とがなす角度である。また、本実施形態において、スリット光軸と観察光学系の光軸とは一致する。
【0017】
以上のような構成の測定部を有する角膜厚測定装置の補正方法に使用する、第1実施形態による模型眼を図3(a)に示す。本実施形態の模型眼Mは、平行平面板タイプであり、内部が一様に混濁して一様な散乱強度を有する半透明体としての濁度ガラスMcが平板状の基台に設けられた構成となっている。濁度ガラスMcとしては、一般的に知られているような、ガラス中に結晶物やコロイドを発生して光を散乱させるようにしたものでも良いし、失透ガラスを使用したものでも良い。制御部16は撮像素子4により得られた画像と撮像素子14により得られた画像とを合成してディスプレイ162に表示する。よって、角膜厚測定装置の、角膜Ecが配置されるべき位置の付近に模型眼Mを置き、可視光光源10を点灯すると、撮像素子14上で図3(b)に示されるような、濁度ガラスMcの外形影と、濁度ガラスMcの光断面像である散乱像S0とが画面に現れる。本実施形態の角膜厚測定装置は、測定部を被検眼Eに対してアライメントするための一般的な機構を有しており、模型眼Mに対しても同様にアライメントを行うことが可能である。
【0018】
模型眼Mに関して、スリット光軸に対して垂直な方向であるX,Y方向についてのアライメントは、濁度ガラスMcの外形影を基準に行われる。すなわち、外眼照明光源11a、11bで模型眼を照明して撮像素子4で撮像することにより得られた濁度ガラスMcの外形影が画面のほぼ中央に位置するように、測定部を図1に示されるXY方向へ移動することでX,Y方向のアライメントが行なわれる。一方、散乱像S0の画面内の位置は、測定部をX,Y方向に移動しても変化しないが、スリット光軸に対して傾斜した方向から散乱光を観察しているため、測定部をスリット光軸の方向(図1のZ方向)に移動することで上下方向(図3のZ方向)に変化する。よって、スリット光軸と平行な方向Zについてのアライメントは、散乱像S0が画面の所定位置に表示されるように測定部を図1に示されるZ方向へ移動することで行われる。アライメントが完了すると、角膜厚測定が実施される。
【0019】
なお、本実施形態では、制御部16はディスプレイ162の画面内の所定位置にアライメントマークAを表示する。アライメントマークAは、スリット光軸と角膜厚測定光学系の光軸との交点が角膜面(濁度ガラスMcの表面)と一致した場合に光断面像が表示される位置を示している。すなわち、アライメントマークAは、アライメント操作において光断面像の移動先を示す。従って、ユーザは、ディスプレイ162の表示画面において、光断面像の位置がアライメントマークAの位置と一致するように測定部を移動することにより、測定部と模型眼とのZ方向のアライメントを行なうことができる。なお、光断面像を画面の中央に合わせることでZ方向のアライメントを行えるようにし、アライメントマークAの表示を省略してもよい。
【0020】
次に、以上のような模型眼を用いた、角膜厚測定のための補正値の生成処理について説明する。以下に説明する補正値の生成処理は、本実施形態の角膜厚測定装置が例えば、不図示の操作部において補正値生成モードに設定されることで実行される。図3(b)に示した撮像素子14上の散乱像S0の幅tsは、図3(a)の模型眼Mにおける濁度ガラスMcの厚さt、屈折率n及び光軸角度θから求められる散乱像の幅t’を角膜厚測定光学系の結像倍率に乗じた量に等しくなるはずである。ところが、角膜厚測定光学系内の部品精度や調整精度等のばらつきにより、濁度ガラスMcの厚さtと散乱像の幅tsとの関係は必ずしも一定にはならない。そこで、既知の厚さtを有する濁度ガラスMcを測定して得られた測定値tsを使用して、角膜厚の測定値を補正する。この補正値の算出については、後述する。但し、模型眼Mの濁度ガラスMcの厚さtに対して測定値がかけ離れている場合は、部品や調整の不良などが考えられるので、以下で説明するように、補正値に対して許容範囲を設けている。
【0021】
図4は、第1実施形態による角膜厚測定装置の補正手順を示すフローチャートである。電源がONされると、ステップS101において、制御部16は測定する模型眼の種類を検査者に選定させる。模型眼の種類の選定により、濁度ガラスMcの厚さt、屈折率nといった模型眼の特性値が決定される。たとえば、メモリ161に、模型眼Mの識別番号と、濁度ガラスMcの厚さt、屈折率nといった模型眼の特性値を対応付けたテーブルを用意し、ユーザが選択した模型眼Mの識別番号から対応する厚さt、屈折率nが取得されるようにする。もちろん、模型眼の特性値の取得はこのような形態に限られるものではなく、ユーザが特性値をキー入力するようにしてもよいし、模型眼に特性値が記載されたバーコード或いはQRコードを印刷しておき、これをリーダで読み取るようにしてもよい。
【0022】
ステップS102において、制御部16は、外眼照明光源11a、11bと可視光光源10を点灯し、撮像素子4により撮影された画像と撮像素子14により撮影された画像とをディスプレイ162に表示する。すなわち、外眼照明光源11a、11bを点灯して撮像素子4により得られる濁度ガラスMcの外形像と、可視光光源10を点灯することによりスリット光を濁度ガラスMcに照射して得られる光断面像とがディスプレイ162の表示画面に表示される。また、このとき、制御部16は、アライメントマークAを、ディスプレイ162の表示画面の上述した位置に表示する。この結果、図3(b)で説明したような画像がディスプレイ162に表示されるので、ユーザは測定部をXYZ方向へ移動して、模型眼Mに対する測定部のアライメントを行う。アライメントを完了すると検査者は測定開始スイッチ17を押す。ステップS103において、制御部16は、検査者により測定開始スイッチ17が押されたことを検出すると、角膜厚の測定をスタートし、濁度ガラスMcの光断面像である散乱像の幅tsを得る。
【0023】
ステップS104において、制御部16は、測定された幅tsと上記特性値とを用いて模型眼Mの角膜圧測定値に対する補正値を算出する。補正値の算出の詳細については後述する。次に、ステップS105において、制御部16は、算出された補正値が許容範囲か否かを判断する。ここで、許容範囲とは、予め設定されている数値であり、補正値に対して所定の幅を持たせるための数値である。例えば、測定値(ts)が300μmの場合は、補正値(ts−t)が±30μm以内、測定値(ts)が300μm以上では補正値(ts−t)が±10μm以内という制限を設定することができる。補正値が許容範囲以内の場合、処理はステップS106に進み、制御部16は、ステップS104で算出した補正値を採用し、メモリ161に保存する。他方、補正値が許容範囲外の場合、処理はステップS107に進み、制御部16は、測定装置に異常が存在すると判断する。ステップS108において、制御部16は、上記判断結果をディスプレイ162に表示し、一連の補正が終了する。したがって、ステップS105で測定装置が異常と判断された場合は、その旨がディスプレイ162に表示されるので、検査者は直ちに装置の再調整等を行うことができる。
【0024】
次に濁度ガラスMcの厚さtが既知である模型眼Mを用意して、ステップS104において求められる補正値について説明する。まず、制御部16は、濁度ガラスMcの厚み測定値t’を、撮像素子14上(画像上)での幅tsと模型眼Mの屈折率n、光軸角度θ、角膜厚測定光学系の結像倍率などから幾何学的な計算により求める。そして、得られた測定値t’と模型眼Mの濁度ガラスMcの実際の厚さtとの比(t/t’)を、補正値aとしてメモリ161に保存する。さらに、模型眼Mについては、濁度ガラスMcの厚さtと角膜厚tEcとの対応が予め調べられており、制御部16は、それらの比(tEc/t)を補正値bとして保存する。なお、模型眼Mが対応する角膜厚tEcの値も、模型眼Mの特性値の一つとする。
【0025】
以上のようにして生成され、メモリ161に格納された補正値を利用して被検眼の角膜厚を測定する場合を説明する。補正値を利用した角膜厚の測定は、不図示の操作部において角膜厚測定装置の動作モードを角膜厚測定モードに設定することでなされる。角膜厚測定モードにおいては、顎受台に被検者の顎が載せられた状態で可視光光源10を点灯することで、被検眼の角膜にスリット光が照射される。ユーザ(検査者)は、ディスプレイ162を観察しながらアライメントを行ない、角膜の外形と光断面像が表示画面の中央に位置するように測定部を移動する。アライメントを終え、ユーザが測定開始スイッチ17を押すことで測定開始が指示されると、制御部16は、撮像素子14により撮像された散乱像の幅tsを測定する。そして、制御部16は、上記ステップS105でメモリ161に保存された補正値aと補正値bを用いて角膜厚を算出、補正し、角膜厚を得る。
【0026】
以上のように、第1実施形態によれば、図3(a)に示したような、簡易な構成の模型眼を提供し、これを用いてXYZ方向の位置合わせや焦点合わせといったアライメントを考慮した補正値の算出が可能となる。
【0027】
なお、上記第1実施形態では、1つの模型眼Mを用いて得られた補正値a,bを用いて角膜厚測定値を補正する構成を説明したが、これに限られるものではない。たとえば、それぞれが既知の異なる厚みtを有する濁度ガラスMcを有する複数の模型眼Mを用いて、複数種類の厚みについて補正値a,bを取得しておき、測定値ts毎に上述の補正値a,bを保持するようにしてもよい。そして、角膜厚の測定時には、測定された厚み(ts)に応じた補正値a,bを選択して用いて、角膜厚を算出する。なお、補正値a,bの選択方法としては、例えば、散乱像の測定された幅に最も近いtsと関連付けられた補正値を選択することが挙げられる。或いは、幅tsと補正値a,bの関係から、測定された幅に対応した補正値a,bを補間により取得するようにしてもよい。たとえば、濁度ガラスMcの厚みがt1<t2<t3<t4の4つの模型眼Mを用いて、それぞれから測定値ts1、ts2、ts3、ts4と、補正値「a1,b1」、「a2,b2」、「a3,b3」、「a4,b4」が得られたとする。そして、角膜厚の測定によりts2より大きくts3より小さい測定値tsが得られたとする。この場合、測定値、ts2とts3の大きさの関係から、a2とa3の間の補正値aと、b2とb3の間の補正値bが補間により算出され、幅tsの補正値として使用される。このようにすれば、測定値に応じたより適切な補正値を利用することが可能になるため、更に角膜厚測定の精度が向上する。
【0028】
[第2実施形態]
第1実施形態では、補正値生成モードにおいて、半透明体としての濁度ガラスMcが平面板である模型眼を用いて、角膜厚測定時と同様のアライメントを考慮した補正値の生成を実現した。第2実施形態では、角膜厚計測以外の眼科計測のためのアライメント機能(本実施形態で角膜反射像を用いたアライメント)を利用して補正値を生成する角膜厚測定装置について説明する。第2実施形態では、非接触眼圧計の機能が付加された角膜厚測定装置について説明する。
【0029】
図5は第2実施形態による眼科装置における、測定部の光学系の構成図を示す図である。図5に示されるように、被検眼Eの角膜Ecに対向して、平行平面ガラス20と対物レンズ21の中心軸上にノズル22が配置されている。そして、ノズル22の後方には、空気室23、観察窓24、ダイクロイックミラー25、プリズム絞り26、結像レンズ27、撮像素子28が順次に配列されている。これらは被検眼Eに対する観察光学系の受光用光路及びアライメント検出用光路となっている。平行平面ガラス20、対物レンズ21は対物鏡筒29によって支持され、その外側には被検眼Eを照明する外眼照明光源30a、30bが配置されている。
【0030】
ダイクロイックミラー25の反射方向には、リレーレンズ31、ハーフミラー32、近赤外波長を透過し、可視光波長を反射する特性をもつダイクロイックミラー50、アパーチャ33、受光素子34が配置されている。なお、アパーチャ33の位置は、所定変形時に後述する測定用光源37の角膜反射像が共役になる位置に配置され、受光素子34と共に角膜Ecの視軸方向への変形を検出する変形検出受光光学系とされている。リレーレンズ31は角膜Ecが所定変形時にアパーチャ33とほぼ同等の大きさの角膜反射像を結像するように設計されている。
【0031】
ハーフミラー32の入射方向には、ハーフミラー35、投影レンズ36、測定及び被検眼Eに対するアライメント兼用の近赤外LEDを具備した測定用光源37が配置されている。また、ハーフミラー35の入射方向には、被検者が固視するLEDを具備した固視用光源38が配置されている。ダイクロイックミラー50の入射方向には、投影レンズ51、スリット板52、角膜厚を測定するための可視光光源53が配置されている。可視光光源53はスリット板52を照明し、スリット板52のスリット像は投影レンズ51、リレーレンズ31によってノズル22内を通って角膜Ec上に結像する。
【0032】
スリット板52は第1実施形態のスリット板9と同様であり、図2(a)に示すように細長い、矩形絞りになっている。図5中の被検眼Eの斜下方向には可視光光源53による角膜散乱光波長域の光を透過するフィルタ60、結像レンズ61、撮像素子62が配置され、角膜厚測定光学系を構成している。角膜厚測定のためのアライメント操作においては、観察光学系の光軸と角膜厚測定光学系の光軸とが交差する位置を角膜Ecの角膜頂点とを一致させる。また、スリット板52、角膜Ec、撮像素子62は共役の関係になっている。空気室23内にはその一部を構成するシリンダ39にピストン40が嵌合され、このピストン40はソレノイド42によって駆動されるようになっている。なお、空気室23内には、内圧をモニタするための圧力センサ43が配置されている。また、制御部70が設けられ装置全体を制御している。メモリ701は、制御部70により実行されるプログラムや、後述の角膜厚測定のための補正値等を記憶する。また、制御部70は、撮像素子28や後述の撮像素子62により得られた画像をディスプレイ162に表示する。
【0033】
測定に際して、制御部70は、まず固視用光源38を点灯する。ユーザは、被検眼Eにこの固視用光源38を固視させた状態で測定開始スイッチ71を押す。測定開始スイッチ71が押されると、制御部70は測定用光源37を点灯する。測定用光源37からの光束は、投影レンズ36によって平行光になり、ハーフミラー32で反射し、リレーレンズ31、ダイクロイックミラー25によりノズル22内に一旦結像され、被検眼Eの角膜Ecを照射する。図6に示すようにアライメント時には、角膜Ecによって結像した角膜輝点(角膜反射像)はプリズム絞り26によって分割される。そして、分割された角膜輝点の像は、撮像素子28により、外眼照明光源30a、30bによって照明された被検眼Eと、外眼照明光源30a、30bの輝点像30a’、30b’とともに、指標像T1、T2として撮像される。撮像素子28で撮像された指標像T1、T2を用いて精密な位置合わせを行うことができる。
【0034】
図6に示された指標像T1及びT2の位置関係では、ノズル中心軸と角膜中心がずれており、ノズル中心軸方向の位置もずれている。制御部70はアライメントに際して、2つの指標像の座標T1(x1,y1)、T2(x2,y2)と、それらの中心座標T(xt,yt)を算出する。ここで、指標像T1、T2を用いたアライメントについて図7を用いて説明する。尚、図7(a)〜(d)では角膜中心をX座標軸とY座標軸の交点C(x0,y0)で示している。
【0035】
ノズルの中心軸と角膜中心が上下方向にずれている場合、図7(a)のようにy1とy2は一致し、角膜中心C(x0,y0)に対してx0とxtは一致するが、y方向のy0とytは一致しない。従って、図示しない駆動機構によって上下方向に角膜厚測定装置の測定部を動かして、y0とytが同じ座標になるように制御する。同様に左右方向にずれている場合には図7(b)のようにy1,y2は一致するが、x0とxtが一致しなくなる。従って、左右方向に測定部を動かしてx0とxtが同じ座標になるように制御する。ノズル中心軸方向と角膜中心が作動距離方向にずれていると図7(c)のように重心位置は角膜中心C(x0,y0)に一致しているが、x1とx2、y1とy2がともに一致しなくなる。そのため、ノズル中心軸方向に測定部を動かしてy座標(y1とy2)を一致させるように制御する。アライメントが完了すると図7(d)のように二つの指標像が角膜中心から等間隔の位置でかつx軸上に並び、中心座標T(xt,yt)と角膜中心C(x0,y0)が一致する。
【0036】
以上のようにして、位置合わせが完了すると、制御部70は、可視光光源53を点灯し、角膜Ecにスリット光を照射する。角膜Ecによって散乱された散乱光は撮像素子62によって撮像され、角膜厚測定が行われる。撮像素子62によって撮像された角膜散乱光Sを図2(b)に示す。角膜厚測定が終了すると、眼圧測定が行われる。制御部70によりソレノイド42が駆動されると、空気室23内の空気はソレノイド42により押し上げられるピストン40によって圧縮され、パルス状の空気がノズル22から被検眼Eの角膜Ecに向けて噴出する。空気室23の圧力センサ43で検出された圧力信号と受光素子34からの受光信号は制御部70に出力され、制御部70は受光信号のピーク値とその時の圧力信号から眼圧値を算出する。
【0037】
以上のような構成の角膜厚測定装置の補正方法に使用が可能な、第2実施形態の模型眼を図8に示す。第2実施形態の模型眼は、既知の曲率半径の曲面の外表面と、既知の厚さを有し、一様な散乱強度を有する半透明体を有する。例えば、図8(a)に示すように、内部が一様に混濁している半透明体として、外表面が曲率半径r0の曲面を有する濁度ガラスRc0を具備する曲率タイプの模型眼R0が用いられる。また、更に、第2実施形態では、図8(b)に示した、曲率半径r1(r1<r0)の外表面を有する濁度ガラスRc1を有する曲率タイプの模型眼R1、図8(c)に示した、曲率半径r2(r2>r0)の外表面を有する濁度ガラスRc2を有する曲率タイプの模型眼R2が用いられる。本実施形態の濁度ガラスRc0,Rc1,Rc2はそれぞれ半径r0、r1、r2の球面の一部である。なお、濁度ガラスRc1、濁度ガラスRc2は、それぞれ濁度ガラスRc0と同様に、内部が一様に混濁している半透明体である。また、基台の濁度ガラスと接する部分の曲率に関しては、特に、制限はない。第2実施形態では、これらのような模型眼R0、模型眼R1、模型眼R2について、指標像T1、指標像T2を用いたアライメントを行った状態で、角膜厚測定を実施して補正値を得る。
【0038】
図9(a)〜(c)は、図8(a)〜(c)の模型眼を用いて上記アライメントを行った後に得られる散乱像(光断面像)を示している。補正値は、撮像素子14上の散乱像(図9(a)〜(c))の幅ts0、ts1、ts2と各々の模型眼の厚さの関係から求める。上述した3種類の模型眼で指標像T1とT2を用いたアライメントを行った場合に、模型眼R0では模型眼の散乱像S0とアライメントマークAが合致しても(図9(a))、模型眼R1、R2では模型眼散乱像S1,S2の位置がずれる(図9(b),(c))。これは、各模型眼の濁度ガラスの曲率半径が異なるためである。すなわち、模型眼R1を用いた場合の散乱像S1の位置、模型眼R2を用いた場合の散乱像S2位置は、アライメントマークAに対して各々Δ1、Δ2だけずれる。これらずれ量は、濁度ガラスの曲率半径に対応している。なお、第2実施形態の補正値生成モードでは、光断面像やアライメントマークAを表示する必要はない。
【0039】
そこで、第2実施形態の補正値生成モードでは、第1実施形態で説明した模型眼の濁度ガラスの厚さと散乱像の幅から得られる補正値a,bを、上記ずれ量(Δ1、Δ2)ごとに登録した補正テーブルをメモリ701に保持する。そして、角膜厚測定モードでは、角膜の光断面像の位置(アライメントマークAからのずれ量)と幅に対応した補正値a,bが補正テーブルから読み出され、使用される。
【0040】
なお、第2実施形態による補正値生成モードにおける補正値の生成手順は、図4のフローチャートに順ずる。ただし、ステップS102では、制御部70は、角膜反射像としての指標像T1、T2をディスプレイ702に表示して、ユーザにアライメント操作を実行させる。また、ステップS103において、制御部70は、光断面像の幅とその位置(アライメントマークAからのずれ量)を測定する。ステップS104において、制御部70は、第1実施形態で説明したように補正値a,bを算出する。そして、補正値が許容範囲であると判定されると、ステップS106において、制御部70は、曲率半径(光断面像の位置)に対応付けて補正値a,bを登録する。なお、ステップS106では、ステップS104で算出した補正値a,bを曲率半径(光断面像の位置或いはずれ量)毎に登録した補正テーブルが、メモリ701に保存される。
【0041】
そして、角膜厚測定モードでは、被検眼の角膜散乱像の位置(アライメントマークAからの距離)と角膜散乱像の幅とに基づいて補正値a,bが決定され、角膜厚の算出に用いられる。なお、第1実施形態と同様に、測定値に対する補正値を、その補正値を挟む補正テーブルに登録された2つの厚み値の補正値a,bから補間により求めてもよい。また、測定されたずれ量に対する補正値を、その測定されたずれ量を挟む補正テーブルに登録された2つのずれ量の補正値a,bから補間により求めてもよい。
【0042】
[第3実施形態]
以上、模型眼を用いて補正値を生成する処理を説明したが、角膜厚測定装置の点検のために模型眼を用いることも可能である。図10は、模型眼を日常点検模型眼として使用した場合の測定手順を示すフローチャートである。電源をONにした後に、ステップS201において、測定する模型眼の種類を選定する。ステップS202において、検査者は、模型眼をセットしてアライメントを行ない、測定スイッチを押す。アライメントは、第1実施形態、第2実施形態のいずれにしたがってもかまわない。測定スイッチの押下により測定がスタートする。ステップS203において、測定データが算出される。ステップS204において、測定値と許容値との比較を行う。ここで、許容値とは、予め設定されている数値であり、測定値に対して所定の幅を持たせるための数値である。例えば、測定値が300μmまでは補正値が±50μm以内、300μm以上では補正値が±30μm以内という値を設定することができる。ステップS205において、測定値が許容値以内の場合、本測定装置は正常状態にあると判断する。ステップS206において、測定値が許容値以外の場合は、本測定装置は異常状態にあると判断する。ステップS207において、上記判断結果を表示する。そして、一連の測定が終了する。
【0043】
以上説明したように、上記各実施形態によれば、厚さが既知の、内部が一様に混濁している半透明体を模型眼として使用し、アライメント操作を考慮した角膜厚測定のための補正値を容易に得ることができる。
【0044】
また、本発明は、以下の処理を実行することによっても実現される。即ち、上述した実施形態の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU等)がプログラムを読み出して実行する処理である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検眼の角膜におけるスリット光の散乱により得られる光断面像を用いて該被検眼の角膜厚を測定する角膜厚測定装置の補正方法であって、
既知の厚さと一様な散乱強度とを有する半透明体における前記スリット光の散乱光を撮像素子により撮像して得られた光断面像の幅を測定する測定工程と、
前記光断面像の幅と前記半透明体の前記既知の厚さとに基づいて前記被検眼の角膜厚の補正値を算出する算出工程と、を有することを特徴とする角膜厚測定装置の補正方法。
【請求項2】
前記半透明体の表面が平面であり、
前記半透明体に前記スリット光を照射する照射工程と、
前記光断面像をアライメントの指標として表示画面に表示する表示工程と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の角膜厚測定装置の補正方法。
【請求項3】
前記光断面像の幅と前記補正値とに基づいて前記被検眼の角膜厚を算出する工程を更に有することを特徴とする請求項1または2に記載の角膜厚測定装置の補正方法。
【請求項4】
前記算出工程により、それぞれ厚みが異なる複数の半透明体の各々について補正値を算出することで、測定される光断面像の幅に応じた複数の補正値を取得し、
前記複数の補正値を前記幅に対応付けてメモリに記憶する記憶工程を更に有することを特徴とする請求項1に記載の角膜厚測定装置の補正方法。
【請求項5】
前記撮像素子により撮像して得られた被検眼の角膜の光断面像を測定して得られた幅に対応した補正値を前記メモリから取得する取得工程と、
前記取得工程で取得された補正値に基づいて前記被検眼の角膜厚を算出する工程と、を更に有することを特徴とする請求項4に記載の角膜厚測定装置の補正方法。
【請求項6】
前記取得工程では、前記被検眼の角膜の光断面像を測定して得られた幅に対応する補正値を、前記複数の幅に応じた複数の補正値から補間により取得することを特徴とする請求項5に記載の角膜厚測定装置の補正方法。
【請求項7】
前記表示工程では、更に、前記アライメントにおいて前記光断面像の移動先を示すアライメントマークを、前記光断面像とともに前記表示画面の所定位置に表示することを特徴とする請求項2に記載の角膜厚測定装置の補正方法。
【請求項8】
前記半透明体の表面が既知の曲率半径を有する曲面であり、
前記半透明体に対して、角膜反射像を用いたアライメントを行なうアライメント工程を有し、
前記測定工程は、前記アライメントの後、前記光断面像の幅と前記光断面像の位置とを測定することを特徴とする請求項1に記載の角膜厚測定装置の補正方法。
【請求項9】
前記算出工程で算出された補正値を前記測定工程で測定された光断面像の位置に対応付けて記憶する記憶工程を有することを特徴とする請求項8に記載の角膜厚測定装置の補正方法。
【請求項10】
前記記憶工程では、それぞれ曲率の異なる曲面を有する複数の半透明体について算出された前記補正値を、前記光断面像の位置に対応付けて登録した補正テーブルを記憶することを特徴とする請求項8記載の角膜厚測定装置の補正方法。
【請求項11】
前記撮像素子により撮像して得られた被検眼の角膜の光断面像の幅と位置を測定し、前記測定された位置に基づいて前記補正テーブルから対応する補正値を取得し、前記測定された幅と取得された補正値に基づいて前記被検眼の角膜厚を算出する工程を更に有することを特徴とする請求項10に記載の角膜厚測定装置の補正方法。
【請求項12】
被検眼の角膜におけるスリット光の散乱により得られる光断面像を用いて該被検眼の角膜厚を測定する角膜厚測定装置のコンピュータに、
既知の厚さと一様な散乱強度とを有する半透明体における前記スリット光の散乱光を撮像素子により撮像して得られた光断面像の幅を測定する測定工程と、
前記光断面像の幅と前記半透明体の前記既知の厚さとに基づいて前記被検眼の角膜厚の補正値を算出する算出工程と、を実行させるためのプログラム。
【請求項13】
被検眼の角膜におけるスリット光の散乱により得られる光断面像を用いて該被検眼の角膜厚を測定する角膜厚測定装置であって、
既知の厚さと一様な散乱強度とを有する半透明体における前記スリット光の散乱光を撮像素子により撮像して得られた光断面像の幅を測定する測定手段と、
前記光断面像の幅と前記半透明体の前記既知の厚さとに基づいて前記被検眼の角膜厚の補正値を算出する算出手段と、を備えることを特徴とする角膜厚測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図3】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−293(P2013−293A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133542(P2011−133542)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.QRコード
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)