説明

角膜組織を生体外保存するための組成物および方法

4日よりも長く約2週間までの期間、生体外で貯蔵される角膜の細胞密度および細胞生存率を維持する角膜貯蔵溶液を提供する。この溶液は、栄養素を含む電解質の緩衝平衡水溶液、少なくとも1種のコロイド状浸透性薬剤、フェノール系酸化防止化合物、非乳酸生成基質、チオール含有化合物、インスリン、および、少なくとも1種の抗生物質を含む。後に使用するためにヒト角膜内皮細胞を生体外で貯蔵し、その生存率を維持する方法においては、眼球から角膜を摘出する工程、及び、その角膜を上記角膜貯蔵溶液に入れる工程が含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2005年4月12日出願の米国仮特許出願第60/670,310号の利益を請求するものであり、その開示内容は本明細書に含まれる。
【背景技術】
【0002】
角膜は眼の最外層であり、眼の前面を覆う透明でドーム状の表面である。角膜構造は、細胞およびタンパク質の高度に組織化された一群である。良好に見えるためには、角膜のすべての層に曇った又は不透明な領域があってはならない。
【0003】
角膜組織は、基本的に5層、即ち、上皮層、ボーマン層、支質、デセメット(Decemet)膜および内皮層からなる。内皮層の細胞は、角膜を透明に保つ上で最も重要な役割を果たす。通常の条件下で、涙液は、眼の内部から角膜層の中央(支質)へゆっくり移動する。内皮の主たる役割は、過剰な涙液を支質から押し出すことである。この押出し作用がなければ、支質は水分で膨潤し、曇り、ついには不透明になる。時として病状や傷害のために、内皮細胞が破壊されることがある。実際上、角膜内皮細胞は再生しない。したがって、外傷、疾患のいずれかにより内皮細胞が失われると、その失われた細胞に代わる細胞はなく、隣接する内皮細胞が移動、拡大して欠陥を埋める。
【0004】
内皮細胞密度がある一定の水準未満、普通約400細胞/mm未満になると、角膜浮腫(膨潤)が生じる。誕生時の内皮密度は約3,500〜4,000細胞/mmである(Kaufman他、The Cornea;Second Edition on CD−Rom;Butterworth−Heinemann(1999))。人は老化するにつれ、角膜内皮細胞が次第に減少するため、健常な人であっても70歳以上に達すると、内皮細胞数はわずか2,500細胞/mmとなることもある。明瞭な視力は角膜の透明性に依存し、その透明性は角膜の膨潤減退(deturgesence)に依存する。進行した角膜膨潤は、重度の視力喪失および失明と関係している。疾患やキズによる角膜の不透明性も、視力喪失、そして重度の場合には、失明と関係している。
【0005】
角膜移植は、治癒不能な角膜の浮腫またはキズを治療するための利用可能な唯一の療法である。角膜移植療法では、罹患し、キズになりまたは負傷した角膜を、臓器提供者から提供される健康で透明な角膜と取り替えることとなる。角膜移植は、米国では非常に一般的であり、年間50,000件以上実施され、全世界ではさらに多い件数が実施されていることが報告されている。このような処置の成功率は約85%であり、実施されている外科移植処置の中で最も成功率の高い種類の処置となっている。
【0006】
臓器移植の他の事例同様に、被提供者に伝染する恐れのある多様な感染疾患を排除するために、提供者の血液に対して様々な試験を行う必要があり、そのため外科処置の実施が遅れてしまう。提供者の組織は輸送しなければならないため、さらに遅れることも珍しいことではない。したがって、輸送を行うまで、採取した組織および細胞を生体外(in vitro)で保存または維持することが必要である。提供者の角膜については、角膜細胞、特に内皮層細胞の生存率および密度が維持され、しかも角膜が膨潤せずに透明性を保持するように、角膜組織を保存しなければならない。
【0007】
後に使用するため、組織を貯蔵および/または輸送する目的で保存するための多様な溶液および媒体が開発されてきた。しかしながら、特別に調整された利用可能な貯蔵媒体を用いても、実際の貯蔵寿命は限られている。例えば、広く使用されているMcCarey−Kaufman媒体は、角膜組織を4日間までなら保存するのに有用であると考えられている。角膜保存のために米国のアイバンクで最も一般的に使用されている媒体は、4℃での中間的貯蔵用に設計された、市販のOptisol(商標)溶液(Bausch & Lomb)である。Optisol(商標)溶液は、基本媒体、緩衝剤、コンドロイチン硫酸、デキストラン(分子量40K)、ビタミン類およびATP前駆体を含んだ無血清媒体である。研究(例えば、Kaufman他、Arch Ophthalmol;109:864−868(1991);Lindstrom他、Am Journal of Ophthalmol;114:345−346(1992))では、Optisol(商標)は2週間までなら内皮構造の保存に有効であると報告されてきたが、この期間を過ぎると内皮生存率が著しく失われており、大多数の外科医は、この媒体中で5日程度以上貯蔵された角膜の使用を好まない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、当分野において、より長期間に亘る角膜組織の保存を容易にする改良型角膜貯蔵媒体の開発が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(a)栄養素を含む電解質の緩衝平衡水溶液、
(b)少なくとも1種のコロイド状浸透性薬剤、
(c)フェノール系酸化防止化合物、
(d)非乳酸生成基質、
(e)チオール含有化合物、
(f)インスリン、および
(g)少なくとも1種の抗生物質
を、4日よりも長く約2週間までの期間、生体外で貯蔵される角膜の細胞密度および細胞生存率を維持するのに有効な量で含み、成分(b)から(g)は、それら成分が(a)中に含まれていない程度だけ必要とされる角膜貯蔵溶液が提供される。
【0010】
本発明は、後に使用するため、ヒト角膜内皮細胞を生体外で貯蔵し、その生存率を維持する方法であって、
(a)眼球から角膜を摘出する工程、および
(b)上述した角膜貯蔵溶液中に角膜を入れる工程
を含む方法も提供する。
【0011】
最後に、
(a)平坦で光学的に透明な底部を有するバイアル(バイアルビン)、および
(b)上述した角膜貯蔵溶液
を含むキットが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、角膜組織の生体外での貯蔵および保存に有用な改良型角膜貯蔵溶液を提供する。当該溶液は、角膜組織の細胞生存率、構造完全度および細胞密度を保存、維持することにより、角膜組織のその後の移植、細胞培養および/または移植片療法に有用なものにする。この貯蔵溶液の使用によって、角膜を約4日より長く少なくとも約2週間程度まで貯蔵することができる。
【0013】
具体的には、この角膜貯蔵溶液は、
(a)栄養素を含む電解質の緩衝平衡水溶液、
(b)少なくとも1種のコロイド状浸透性薬剤、
(c)フェノール系酸化防止化合物、
(d)非乳酸生成基質、
(e)チオール含有化合物、
(f)インスリン、および
(g)少なくとも1種の抗生物質
の有効量を含むものである。成分(b)から(g)の各々は、これら成分が栄養素を含む電解質の溶液(a)中に含まれていない程度だけ必要である。即ち、こうした成分の1つまたは複数を含有する栄養素を含む電解質溶液が利用される場合、(a)中のその成分の濃度が所望レベルに達している限り、成分(b)から(g)の追加量を添加する必要がないこともある。
【0014】
角膜貯蔵溶液中の各成分について、以下に詳細に説明する。
【0015】
栄養素を含む電解質の溶液
本発明に使用される栄養素を含む電解質の緩衝平衡水溶液は、好ましくは、Mediatech,Inc.などの種々な供給元から市販されている製品のM−199(媒体199)である。しかし、当分野で知られている又は開発が見込まれる他の類似溶液も、HamのF12およびMEM(最小必須媒体)を含めて、これだけではないが、本発明に使用するのに適当であろう。M−199の配合物は周知であり、多様なアミノ酸、ビタミン、無機塩、ATP前駆体、およびHepes(ヒドロキシエチルピペリジンエタンスルホン酸)緩衝剤を含めた他の成分を含有する。貯蔵溶液を使用できないものとするようなpHの望ましくない変化を視覚的に判定するために、フェノールレッドまたは類似の指示薬も含まれるのが好ましいが、当該栄養素を含む溶液中に存在していない場合に、角膜貯蔵溶液に別途添加することができる。使用される指示薬の量は、通常の実験で決定できる。
【0016】
Hepes緩衝剤が存在すると、貯蔵溶液のpHは、約7.2〜約7.4に維持される。したがって、緩衝剤を含まない栄養素を含む電解質溶液が利用される場合、または、緩衝剤の量が不十分である場合は、別途緩衝剤を貯蔵溶液中に含めることが好ましく、それによってpHを約7.2〜約7.4の好ましい範囲に調整することができる。
【0017】
M−199栄養素溶液は約20種の異なるアミノ酸を含有する。しかし、こうしたアミノ酸中の1つまたは複数は、本発明による貯蔵溶液からその効果に影響することなく除外することができるであろうし、本発明に使用する該栄養素溶液は、少なくとも約15種のアミノ酸を含有することが好ましい。
【0018】
コロイド状浸透性薬剤
二番目に重要な本願溶液の成分はコロイド状浸透性薬剤であり、細胞の形態を維持し、角膜の膨潤を予防するために含まれる。貯蔵溶液中に使用する適当なコロイド状浸透性薬剤には、例えば、高分子量デキストラン、コンドロイチン硫酸、ヒドロキシエチル澱粉などが挙げられる。コロイド状浸透性薬剤は、好ましくは約1〜約10重量%の量で溶液中に存在する。好ましい実施形態において、当該溶液は、高分子量デキストランを、単独で、またはコンドロイチン硫酸に追加して含有する。
【0019】
デキストランは、様々な分子量で存在する、鎖状構造を有するグルコースポリマーである。デキストランは過度の角膜膨潤を予防するコロイド状浸透性薬剤として作用することが知られている(Hull他、Investigative Opthalmology;663−666(1976))。市販のOptisol(商標)溶液は、分子量約40,000ダルトンのデキストランを1%含有する。しかし、高分子量のデキストラン画分(約500kDaを超える分子量を有する)は、免疫細胞を活性化し、遊離ラジカルの傷害から内皮細胞を保護することができると報告されている(Hiebert他、Seminar in Thrombosis & Hemostasis;17:42−46(1991);Ediriwickremab他、Immunology;101:474−483(2000);Halberstadt他、Cryobiology 43:71−80(2001);Jagodzinski他、Biomed Pharmacother;56:254−257(2002))。
【0020】
細胞形態を維持して角膜膨潤を予防するためだけでなく、上記の目的のために、本発明による角膜貯蔵溶液は、高分子量デキストラン、より好ましくは分子量約2,000,000ダルトンのデキストランを含有することが好ましい。しかしながら、本発明における用語の使用については、用語「高分子量デキストラン」は、分子量が少なくとも約500,000ダルトンのデキストランを包含する。ここでは、調整された貯蔵溶液が均一となるように、水溶性デキストラン画分を利用することが好ましい。当該貯蔵溶液は、高分子量デキストランを好ましくは約0.25重量%〜約2.5重量%(約2.5〜約25g/L)、より好ましくは約1重量%(約10g/L)含有する。コンドロイチン硫酸なしの溶液中にデキストランを使用する場合は、そのデキストランは約10重量%の量で存在することが好ましい。
【0021】
高分子量デキストランに加えて含まれるのが好ましいもう1つの好ましいコロイド状浸透性薬剤は、コンドロイチン硫酸である。コンドロイチン硫酸は、角膜膨潤を予防し、眼内の膨潤減退(水和の均衡)を維持する。コンドロイチン硫酸は、好ましくは約1重量%〜約7.5重量%(約10〜約75g/L)、より好ましくは約3重量%〜約5重量%(約30〜約50g/L)の量で存在する。
【0022】
コンドロイチン硫酸は、硫酸ムコ多糖であり、ヒト角膜の通常の成分で、動物組織中に遍在している。それは、発生源に応じて約50,000〜100,000ダルトンの分子量を有する粘性物質であるが、約20,000〜50,000ダルトン程度の低分子量種も存在することがある。コンドロイチン硫酸は、分子量がいくらであっても本発明において有効である。
【0023】
コンドロイチン硫酸は、N−アセチルコンドロシン二糖反復単位中の五つの位置の1つを占める硫酸エステル基を特徴とする、5種の異性体(コンドロイチン硫酸A、B、C、DおよびE)を有する。各二糖反復単位は1個の硫酸エステル基を有する(The Merck Index、monograph 2235、383−384頁(第13版、2001)を参照)。コンドロイチン硫酸の最も一般的な異性体は、「A」、「B」および「C」である。
【0024】
コンドロイチン硫酸AおよびCは共に、D−グルクロン酸、2アミノ−2デオキシ−D−ガラクトース、アセチルおよび硫酸エステル各残基を等モル量ずつ含有する。コンドロイチン硫酸AとCとの間には構造上密接な類似性があり、それは、酸加水分解をすると、両者が同じ二糖のコンドロシンを高収率で与える事実により示される。これらのムコ多糖2種は、旋光度、およびエタノール水溶液中でのそのカルシウム塩の溶解度により識別される。コンドロイチン硫酸AおよびCは、ヘキソサミン残基中の硫酸エステル基の位置だけが構造上異なる。即ち、硫酸エステル基が、コンドロイチン硫酸Aでは4位炭素に、コンドロイチン硫酸Cでは6位炭素に現れる。コンドロイチン硫酸Bのヘキスロン酸(L−イズロン酸)は、その性質によって他のコンドロイチン硫酸異性体から識別することができる。
【0025】
コンドロイチン硫酸のいずれの異性体(A、B、C、DまたはE)も、本発明において利用することができる。コンドロイチン硫酸Aはクジラ軟骨から、コンドロイチン硫酸Bはブタ皮から、コンドロイチン硫酸Cはサメ軟骨からそれぞれ得ることができる。コンドロイチン硫酸のかなり豊富な供給源は、ウシの鼻中隔である。コンドロイチン硫酸は、動物の体の気管、大動脈、腱およびその他の部分にも存在する。家畜動物のある種の軟骨切片は、コンドロイチン硫酸を40重量%まで含有している。硫黄含量が異なる全形態のコンドロイチン硫酸は、同一の保護作用機構を本質的に有しており、したがって本発明において有効であろう。しかし、角膜貯蔵溶液に使用する好ましい異性体は異性体「C」であり、これは特に高い純度および効力を示す。
【0026】
フェノール系酸化防止化合物
貯蔵溶液の三番目の成分は、それだけに限らないが、フラバノイドなどのフェノール系酸化防止化合物である。フラボノイドは、人間の飲食物中に存在する最も豊富なポリフェノール化合物であり、酸化防止、抗ウィルス、抗癌および抗炎症活性を含めた、多様な生化学的、薬理学的性質と関係することが示されている(Middleton他、Pharmacol Rev;52:673−751(2000))。フラバノイドのフェノール基およびヒドロキシル基は共に、酸化防止活性をもたらすために重要である。本発明による貯蔵溶液中に使用できるフラバノイドとしては、例えば、レスベラトロール、フィステイン、ピセアタノール、ケルセチン、ブテイン、ルチン、ゴール酸、緑茶エキス、および、現在好まれているモリンが挙げられる。
【0027】
モリンは、果物、ブラジル木および漢方薬草中に存在するフラボノイドであり、キサンチンオキシダーゼ/ヒポキサンチン発生オキシラジカルの除去だけでなく、非酵素的な窒素由来ラジカルの除去によって広範な酸化防止剤として役立つことが明示されいる(Zeng他、Curr Eye Res;1998;17:149−152(1998);Fang他、Life Sci;74:743−756(2003))。さらに、モリンは角膜内皮細胞の寿命を長くする(Fang他、Life Sci;74:743−756(2003))。モリンはSigmaおよびVWRから市販されている。
【0028】
フラバノイドでない、カプサイシンなどのフェノール系酸化防止剤を含めることも、本発明の範囲に入る。非フラバノイドフェノール系酸化防止剤は、フラバノイドの代わりに、またはそれに加えて含めてもよい。
【0029】
本発明による角膜貯蔵溶液はフェノール系酸化防止化合物を、好ましくは約10μM〜約2mM、より好ましくは約100μM〜約1mM、最も好ましくは約300μM含有する。
【0030】
非乳酸生成基質
本願溶液は、好ましくは非乳酸生成基質、即ち乳酸を生成しない基質を含有する。この基質は、エネルギー源として機能し、それだけに限らないが、アセト酢酸、β−ヒドロキシ酪酸およびその誘導体、β−ヒドロキシハキソン酸(β−hydroxyhaxonate)およびその誘導体、ならびにL−ラクチドであってもよい。β−ヒドロキシ酪酸を利用することが現在好ましい。β−ヒドロキシ酪酸の任意の視覚異性体(D異性体、L異性体またはD,L−ラセミ体を含む)が、使用できる。β−ヒドロキシ酪酸は、アセチル−CoA(アセチルコエンザイムA)に変換される能力を有するケトン体であり、そのアセチルCo−AはATPの形でエネルギーを生成する。β−ヒドロキシ酪酸は、乳酸形成を低下させ、角膜中のATPおよび代謝活性を維持する(Chen他、Transplantation;57:1778−1785(1994))。さらに、β−ヒドロキシ酪酸(非乳酸生成基質)(Chen他、Transplantation;67:800−808(1999);Chen他、Transplantation;63:656−663(1997)参照)は、公知の臓器貯蔵媒体中に存在しており、角膜内皮細胞の生存率を維持することが実証されている(Nakamura他、Investigative Ophthalmology & Visual Science;44:4682−4688(2003))。本発明の角膜貯蔵溶液は、非乳酸生成基質を好ましくは約5mM〜約35mM、より好ましくは約10mM含有する。
【0031】
チオール含有化合物
貯蔵溶液のさらなる重要成分はチオール含有化合物であり、例えば、メルカプト酢酸、N−アセチル−L−システイン、β−メルカプトエタノール、システイン、ジチオスレイトール、システインメチルエステル、または、好ましいチオール含有化合物のグルタチオン(還元形)などである。チオール含有化合物は、キレート化剤および遊離ラジカル除去剤として作用する。チオール含有化合物は、好ましくは約50μM〜約2mM、より好ましくは約500μMの濃度で貯蔵溶液中に存在する。グルタチオン(還元形)は、栄養素を含む電解質の基本溶液中に存在するかもしれないが、その濃度を好ましい濃度範囲に高めるために、追加のグルタチオンを添加することが好ましい。しかし、上述したように、栄養素を含む電解質溶液中のグルタチオン濃度が好ましい濃度範囲にあれば、本発明の溶液を調整するために、特段、添加する必要はない。グルタチオンの任意の異性体が貯蔵溶液中に利用できるが、「L」異性体が現在のところ好ましい。
【0032】
インスリン
角膜貯蔵溶液のさらなる重要成分は、インスリンである。インスリンは、組織発生、組織成長およびグルコース恒常性にとって必須のホルモンである。インスリンは、涙膜中、ならびに角膜上皮、角膜実質細胞および内皮細胞中で検出されており、代謝過程および/または有糸分裂誘発過程で機能することが示唆されている(Rocha他、Investigative Ophthalmology & Visual Science 963−967(2002);Imanishi他、Progress in Retinal & Eye Research 19:113−129(2000))。インスリンは、当該溶液中に約0.001mg/ml〜約0.012mg/mlの濃度で存在するのが好ましく、より好ましくは約0.006mg/mlである。貯蔵溶液中で利用されるインスリンは、免疫原性を示す恐れが少ないヒト組換えインスリンであるのが好ましい。
【0033】
抗生物質
最後に、本発明による角膜貯蔵溶液は少なくとも1種の抗生物質を含有することが好ましい。好ましい溶液は、ストレプトマイシン約200μg/mlおよびゲンタマイシン約100μg/mlを含有する。既に知られている、あるいは、開発が見込まれているペニシリン、エリスロマイシンなどの他の抗生物質も、単独または組み合わせて溶液中に含めることが適当であり、約10μg/ml〜約1000μg/mlの濃度で溶液中に存在することが好ましい。モキシフロアシン、ガチフロキサシンなどの新世代フルオロキノロンから選択されるより広範な抗生物質も、該溶液中で使用するのに適当であろう。フルオロキノロン抗生物質を利用する場合、約1mg/ml〜約15mg/mlの濃度とするのが好ましい。その抗生物質が、陽性、陰性の両細菌株の殺滅に有効であると見込まれる効力の高い広範囲な抗生物質である場合、1種の抗生物質だけを溶液中に含めることが好ましい。しかし、より狭い範囲の抗生物質を選択する場合には、複数種の抗生物質を含めることが望ましい。
【0034】
追加成分
多様な追加成分も貯蔵溶液中に含めることができる。例えば、フェノール系酸化防止剤に加えて、1種または複数種の追加の酸化防止剤を組成物中に含めることが望ましい。例えば、適当と思われる酸化防止剤には、それだけに限らないが、セレン、ヒドララジン、ルテイン、α−トコフェロール、Trolox(ビタミンE)、および、ここで好ましいアスコルビン酸(ビタミンC)が挙げられる。酸化防止剤(一種又は複数種)を含める場合、約100μM〜約1mMの濃度で存在するのが好ましい。ここで好ましいとしたアスコルビン酸は、好ましくは約0.018〜約0.176g/L(約100μM〜約1mM)、より好ましくは約0.045g/L(約250μM)の濃度で存在する。
【0035】
また、カルノシンおよび/またはその誘導体を角膜貯蔵溶液中に含めることも望ましい。酸化防止剤として機能する以外に、カルノシンおよびその誘導体は、細胞の完全性を維持するだけでなく、老化を遅らせ、若返らせると報告されている。本明細書で使用する「カルノシン」および「カルノシン誘導体」という用語は、すべての異性体、特にβ−アラニル−L−ヒスチジン(「L−カルノシン」)、L−カルノシンの誘導体、およびL−カルノシンの医薬として使用可能な塩(例えば、ナトリウム、カリウムおよび/または塩酸塩)を含むものとする。これらの用語の意味には、N−アセチルカルノシンなどのアセチルカルノシン、N−アシルカルノシン、ホモカルノシン(γ−アミノ酪酸−L−ヒスチジン)、メチルカルノシン、カルノシンエチルエステル、ジメチルカルノシン、カルノシンの還元アミド形、およびエステル部分が約1〜5個の炭素原子を含み、分岐または非分岐でもよい、カルノシンまたはカルノシン誘導体のエチルエステル類も含まれる。
【0036】
貯蔵溶液中に含め得る他の追加成分には、カルシフェロール、i−イノシトール、イノシン、重炭酸ナトリウム、ピルビン酸ナトリウム、L−アラニル−L−グルタミンなどが挙げられる。カルシフェロール(ビタミンD)は、脂肪を溶解するのに望ましく、しかも細胞の全般的健康状態および貯蔵に関与している。カルシフェロールは、好ましくは0.0002g/Lまで、より好ましくは約0.0001g/Lの量で溶液中に存在する。i−イノシトール(ビタミンB)は、リン脂質のシグナル伝達、代謝調節および増殖に影響するために、約0.0001g/Lまで、より好ましくは約0.00005g/Lの濃度で溶液中に含めてもよい。カルシフェロールおよびi−イノシトールは、栄養素を含む電解質溶液中に典型的に存在するものであるが、これら成分の濃度を所望の範囲内に調節することが望ましい。
【0037】
ATP産生を改善するために、イノシンを約0.01g/Lまで、より好ましくは約0.005g/Lの濃度で貯蔵溶液中に含めることが望ましい。重炭酸ナトリウムは、約1.3〜約2.5g/L、より好ましくは約1.7g/Lの量で組成物中に含めることができる。重炭酸ナトリウムは、水素イオンおよび二酸化炭素と相互作用することにより、アシドーシスを緩衝する。クレブス回路の決定的成分であるピルビン酸ナトリウムを、ATP産生を支えるために、好ましくは約0.9〜約1.1mM、より好ましくは約1mMの濃度で含めることが望ましい。最後に、溶液に添加できるもう1つの成分は、細胞の増殖、代謝および持久性にとって重要な必須アミノ酸である、L−アラニル−L−グルタミンであり、その濃度は、好ましくは約3.6〜約4.4mM、より好ましくは約4mMである。
【0038】
本発明による角膜貯蔵溶液の好ましい実施形態の各成分が、可能な濃度範囲および好ましい大体の濃度と共に表1に示してある。
【0039】
【表1】

代替または追加として、異なる数種類の化合物の1種または複数種、例えば、限定的な細胞増殖を促進するためのVEGF、EGFなどの増殖因子や抗真菌剤等も、本発明の貯蔵溶液中に加えてもよい。当分野で知られている、または開発が見込まれる適当な抗真菌剤には、それだけに限らないが、アンホテリシンB(Fugizoneとして市販されている)、フルコナゾール(Diflucanとして市販されている)、イトラコナゾール(Sporanoxとして市販されている)、ボリコナゾール(Vfendとして市販されている)などが挙げられる。貯蔵溶液中に加えられるこれらの各成分の適量は、通常の実験で決定できる。既に知られているか、あるいは開発が見込まれているこうした種類の中の他の化合物もまた、本発明による貯蔵溶液中に加えるのに適していると思われる。
【0040】
下記に詳述するように、本発明による角膜貯蔵溶液は、先行技術の溶液と比べ、細胞生存率(健康状態および機能)、構造完全度(大きさおよび形状)、および細胞密度(平方mm当たりの細胞数)の改善をもたらす貯蔵媒体を提供する。
【0041】
本発明による角膜貯蔵溶液は、角膜を受容し、観察及び取り出しができるように成形したバイアル中に収容するのが好ましい。図4に示すように、このように成形した好ましいバイアルは、本体部および首部を含む。その首部は、直径約15〜約17mmの角膜強膜を収容するのに十分な大きさの口(内径)を有するのが好ましく、よって約22〜約26mm、より好ましくは約24mmの口径を有するのが好ましい。バイアルは、全高(首部を含む)が約59〜約63mmのバイアルのように、移植外科医が提供材料を容易に取り出すのに十分に浅いものが好ましい。例えば、本体部の高さが約50mm、首部の高さが約10mmのバイアルが適当であろう。首部を構成するガラスの厚さは、好ましくは約2mm(したがって、首部の外径は約28mmとなる)であり、本体部におけるガラスの厚さは、好ましくは約1.2〜約1.5mmである。
【0042】
当該バイアルは中性のホウケイ酸ガラスで形成されるのが好ましく、そのガラスは、変色せずに蒸気滅菌することができ、洗浄後に残渣を残さず、光学的に透明性を維持できる。反射顕微鏡を用いた角膜内皮の観察および可視化を可能とするために、好ましいバイアルは、本体部の外径を約32〜約36mm、より好ましくは約35mmとする。バイアルの底部は、平坦で、火造りされ、歪がなく、角膜観察ができるように光学的に透明であることが好ましい。バイアルは、約25〜約30mlの溶液体積(首部の基部まで)を収容することが好ましい。
【0043】
光学的に透明な底部を有するバイアルに貯蔵溶液を収容することにより、アイバンクの技術者はバイアル中の角膜を直接見て分析できるので、潜在的な汚染を最小限に抑えることができる。
【0044】
本発明の好ましいバイアルは、先行技術のバイアルと比べいくつかの利点を有する。第1に、本発明のバイアルの方が大きな体積を有する(20mlに対して25〜30ml)。貯蔵溶液の体積が大きい方が、保存期間も長いと報告されている。本発明のバイアルの方が口径も大きいので、より大きな角膜縁(16mmよりも大きい)を貯蔵できる。最後に、本発明のバイアルの口径の方が大きいので、角膜の取扱いが容易になる。
【0045】
さらに、バイアルはネジ蓋などの蓋部またはキャップ部を含む。蓋部の形成に使用される材料は、殺菌でき、洗浄が容易で、微粒子を含まないものであれば、本発明にとって特に限定されるものではない。例えば、蓋部はベークライトなどのプラスチック製でもよい。蓋部の内部は、特に限定されないが、シリコンまたはフッ素ポリマー(ポリテトラフルオロエチレンなど)などの不活性材料からなるシールで内張りされているのが好ましい。一旦バイアルに蓋部をねじ込むと、ネジ山は約33−400で仕上げるのが好ましいが、シールがバイアルを気密にして、内容物を保存する。
【0046】
上述した平坦で光学的に透明な底部からなるバイアルおよび角膜貯蔵溶液を備えたキットも、本発明に含まれる。一つの実施形態では、キットはさらに、移植または移植片治療などの生体内(in vivo)使用の前であって、角膜を保存する際に使用する説明書も含む。
【0047】
本発明は、後に使用するために、角膜組織の生存率、構造完全度および細胞密度を生体外で貯蔵および保存することを実現できる方法も提供する。この方法によると、角膜内皮細胞の生存率、構造完全度および細胞密度が約14日間までの期間は十分に保たれるので、提供者から採取した日から少なくとも約2週間までの保存組織の使用を可能とし、そのような保存組織は後に行われる角膜移植または他の用途に使用することができる。
【0048】
この方法には少なくとも2段階が含まれる。第1に、当分野で知られている、または、開発が見込まれる従来型技術を用いて、提供者の眼球から角膜を摘出する。次いで、その角膜を、上記で詳述した角膜貯蔵溶液中に入れる。角膜は、約2℃〜約8℃、より好ましくは約4℃で溶液中に保持されるのが好ましい。この方法を適用する角膜組織は、その後貯蔵溶液から取り出され、細胞培養、移植および/または移植片治療などの生存可能な角膜組織が必要な他の生体外または生体内の用途に使うことができる。
【0049】
本発明の方法および溶液を用いて角膜組織を保存すると、角膜細胞の生存率、構造完全度および密度を維持することができ、貯蔵角膜組織を用いて後に行い得る任意の移植または移植片治療の成功率が高まることが判明した。
【0050】
本発明による角膜貯蔵溶液の有益な効果は、以下の試験により明示される。具体的には、Optisol(商標)溶液の効力を、モリン、高分子量デキストラン、β−ヒドロキシ酪酸およびインスリンの含有溶液と比較する試験を、生体外および体外(ex−vivo)評価を用いる内皮細胞の生存率および構造完全度の測定により行った。
【0051】
材料および方法
生体外試験
ウシ角膜内皮(BCE)細胞(ATCC)を、10%のFBS、4mMのL−グルタミンおよび1%のペニシリン−ストレプトマイシンを含んだDMEM培地(ダルベッコ改良イーグル培地)中で培養した。細胞は、96穴組織培養プレート上に5x10細胞/穴で播種した。当該プレートは、5%Co加湿雰囲気中において、37℃で48時間培養した。DMEM培地を除去した後、適当な培地200μlを細胞に添加した。次いで、細胞を4℃で3、7、10、12および14日間貯蔵した。適当な時間の後、培地を除去し、細胞をハンクス平衡塩溶液(Hanks Balanced Salt Solution)100μlで洗浄した。各穴に1mMのMTT(臭化3−(4,5−ジメチルチアゾール−2イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウム)(Molecular Probes)溶液を添加し、5%Co加湿雰囲気中において、37℃で3.5時間培養した。MTT溶液70μlを除去し、DMSO100μlを添加した。次いで、プレートの540nm吸光度をフレートリーダーで読み取り、細胞生存率(%)を測定した。
【0052】
体外試験
堵殺直後のブタから得た角膜を用い、Optisol(商標)溶液(Bausch and Lomb)と本発明による溶液(表1)のいずれか中にそれぞれ、4℃で、4、7および14日間貯蔵した。角膜内皮の反射顕微鏡観察を角膜それぞれに対して貯蔵前と4、7および14日目に行った。平均内皮細胞面積、変動係数(CV)および内皮細胞密度を、1分析当たり内皮細胞少なくとも50個から測定した。
【0053】
統計
データは平均値(SD)として示す。統計分析は、p≦0.05を統計的に有意と見なすスチューデントt-検定(Student t-test)を用いて行った。
【0054】
結果
一つの実施形態では、本発明の溶液は、モリンおよび高分子量デキストランに加えて、β−ヒドロキシ酪酸(好ましくは約10mM)、インスリン(好ましくは約0.006mg/ml)の両方を含有する。モリン、高分子量デキストラン、β−ヒドロキシ酪酸およびインスリンの組合せが、Optisol(商標)溶液より良好に角膜内皮を保存する保存媒体であるか否かを調べるために、体外評価を実施した。角膜内皮の生存率、細胞密度、構造完全度および細胞密度を、Optisol(商標)溶液と本発明溶液のいずれか中にそれぞれ貯蔵したブタ角膜に対して測定した。摘出直後のブタ角膜の平均内皮細胞密度は、3811.44±131.54細胞/mmである。図1に示すように、Optisol(商標)溶液中に貯蔵した内皮細胞の細胞密度は、貯蔵時間が増加するにつれ着実に減少する。しかし、本発明溶液では、細胞密度が14日間まで〜3500細胞/mmに維持される。7日目および14日目のOptisol(商標)溶液中の細胞密度は、それぞれ2999.65±272.65細胞/mmおよび2831.40±505.21細胞/mmであったが、これは本発明溶液中の細胞密度より統計的に低い。したがって、本発明溶液を使用すると、7日目において細胞密度がおよそ19.5%改善し、14日目において細胞密度がおよそ32%改善した(図1)。
【0055】
本発明溶液中に貯蔵した角膜は、Optisol(商標)溶液のものに比べ、角膜内皮の生存率の改善も示した。表2に示すように、Optisol(商標)中での14日間の貯蔵後、内皮の〜54.8%が損傷している。これは、およそ31.7%の損傷を示した本発明溶液中での貯蔵の結果より統計的に高い。したがって、Optisol(商標)溶液と比較して、本発明溶液は14日間の貯蔵後に内皮生存率においておよそ40%の改善を促進する。
【0056】
【表2】

内皮の構造完全度も評価した。角膜保存中に一般的に発生する事象である多形性(Polymegethism)とは、角膜内皮細胞のサイズ変化を指す。多形性の高い発生率は、構造的な不安定性の指標である(例えば、Kohnen J Cataract Refract Surg;24:967−968(1997)、Bourne他、IOVS;38:779−782(1997)を参照)。多形性は、標準偏差/平均細胞面積として計算され、変動係数率(%CV)として表現されるため、CVが高いほど角膜が不安定であることを示す。
【0057】
Optisol(商標)溶液と本発明溶液のいずれか中にそれぞれ貯蔵した角膜の多形性を、貯蔵期間4日目、7日目および14日目に算出した(図2)。摘出直後のブタ角膜の平均%CVは41.54±1.97%であった。Optisol(商標)溶液中に貯蔵した角膜の%CVは貯蔵期間と共に増加し、細胞が構造完全度を失ってきており、角膜がより不安定であることを示唆した。4日目では、本発明溶液とOptisol(商標)溶液との間に%CVの統計差はない。しかし、Optisol(商標)溶液の平均%CVは、本発明溶液に比して1.2倍増加している(50.65±5.87%対41.19±9.87)。7日目および14日目では、Optisol(商標)溶液の%CVは、本発明溶液の%CVより統計的に高い。具体的には、7日目でのOptisol(商標)溶液の%CVは52.90±7.02%であり、本発明溶液(39.13±4.59%)より1.35倍増加している。14日目では、Optisol(商標)溶液は、本発明溶液より1.48倍増加しており、56.33±6.51%対38.00±13.93%であった。したがって、こうした試験から、本発明溶液は、%CVの維持および多形性の予防に非常に有効であり、それにより角膜内皮の構造完全度をOptisol(商標)溶液より良好に保持することが示される。
【0058】
角膜浮腫の予防は、角膜貯蔵中では非常に重要である。角膜膨潤は、角膜内皮の厚さの測定によって測定した。摘出直後のブタ角膜の平均角膜厚さは1007.15±61.99mmであった。本発明の溶液中に貯蔵した角膜は、Optisol(商標)溶液中に貯蔵したものと類似の角膜厚さの測定値を示した(図3参照)。Optisol(商標)溶液または本発明溶液に貯蔵した角膜において、4日目、7日目または14日目の角膜厚さの測定値に統計的差異はなく、したがって、本発明溶液が角膜浮腫を予防する能力は、公知のOptisol(商標)溶液と同程度である。
【0059】
結論として、こうした試験から、高分子量デキストラン、モリン、β−ヒドロキシ酪酸およびインスリンを含有する本発明による好ましい溶液は、角膜保存用の有効な角膜貯蔵媒体であることが示される。本発明溶液の主なる利点は、好ましい実施形態においは、モリン、高分子量デキストラン、β−ヒドロキシ酪酸およびインスリンが誘発する代謝経路を媒介とした、内皮生存率、内皮細胞密度および内皮構造完全度を維持する能力にある。総合すると、本発明による貯蔵溶液は、角膜組織、特に内皮生存率の維持においてOptisol(商標)溶液より有効である。
【0060】
その広範な発明概念から逸脱することなく上記実施形態に変更を加え得ることは、当業者であれば認識されるものである。したがって、本発明は、開示した特定の実施形態に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲によって特定される本発明の精神および範囲内の改変をも包含するものである。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】Optisol(商標)溶液および本発明による溶液に関する経時的な細胞密度の比較グラフである。
【図2】Optisol(商標)溶液および本発明による溶液に関する経時的な変動係数の比較グラフである。
【図3】Optisol(商標)溶液および本発明による溶液に関する経時的な角膜厚さの比較グラフである。
【図4】本発明によるキット中のバイアルの略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
角膜貯蔵溶液であって、
(a)栄養素を含む電解質の緩衝平衡水溶液、
(b)少なくとも1種のコロイド状浸透性薬剤、
(c)フェノール系酸化防止化合物、
(d)非乳酸生成基質、
(e)チオール含有化合物、
(f)インスリン、および
(g)少なくとも1種の抗生物質
を、4日よりも長く約2週間までの期間、生体外で貯蔵される角膜の細胞密度および細胞生存率を維持するのに有効な量で含み、成分(b)から(g)は、それら成分が(a)中に含まれていない程度だけ必要とされることを特徴とする角膜貯蔵溶液。
【請求項2】
少なくとも1種のコロイド状浸透性薬剤が、高分子量デキストランからなるものであることを特徴とする請求項1記載の角膜貯蔵溶液。
【請求項3】
高分子量デキストランが、少なくとも約500,000ダルトンの分子量を有するものであることを特徴とする請求項2記載の角膜貯蔵溶液。
【請求項4】
高分子量デキストランが、約2,000,000ダルトンの分子量を有するものであることを特徴とする請求項3記載の角膜貯蔵溶液。
【請求項5】
少なくとも1種のコロイド状浸透性薬剤が、コンドロイチン硫酸からなるものであることを特徴とする請求項1記載の角膜貯蔵溶液。
【請求項6】
少なくとも1種の抗生物質が、ゲンタマイシン、スプレプトマイシン、ペニシリン、エリスロマイシン及びフルオロキノロンからなるグループから選択されるものであることを特徴とする請求項1記載の角膜貯蔵溶液。
【請求項7】
フェノール系酸化防止化合物が、レスベラトロール、フィステイン、ピセアタノール、ケルセチン、ブテイン、ルチン、ゴール酸、緑茶エキス及びモリンからなるグループから選択される少なくとも一つの化合物からなるものであることを特徴とする請求項1記載の角膜貯蔵溶液。
【請求項8】
フェノール系酸化防止化合物が、モリンからなるものであることを特徴とする請求項7記載の角膜貯蔵溶液。
【請求項9】
非乳酸生成基質が、β−ヒドロキシ酪酸およびその誘導体、β−ヒドロキシヘキソネートおよびその誘導体、および、L−ラクチドからなるグループから選択される少なくとも一つの化合物からなるものであることを特徴とする請求項1記載の角膜貯蔵溶液。
【請求項10】
非乳酸生成基質が、β−ヒドロキシ酪酸からなるものであることを特徴とする請求項9記載の角膜貯蔵溶液。
【請求項11】
チオール含有化合物が、N−アセチル−L−システイン、β−メルカプトエタノール、ジチオスレイトール及びグルタチオン(還元形)からなるグループから選択される少なくとも一つの化合物からなるものであることを特徴とする請求項1記載の角膜貯蔵溶液。
【請求項12】
チオール含有化合物が、グルタチオン(還元形)からなるものであることを特徴とする請求項11記載の角膜貯蔵溶液。
【請求項13】
さらに、アスコルビン酸、カルシフェロール、イノシトール、イノシン、カルノシン又はその誘導体、増殖因子、重炭酸ナトリウム、ピルビン酸ナトリウム、L−アラニル−L−グルタミンからなるグループから選択される少なくとも一つからなるものであることを特徴とする請求項1記載の角膜貯蔵溶液。
【請求項14】
当該溶液のpHが約7.2〜約7.4であることを特徴とする請求項1記載の角膜貯蔵溶液。
【請求項15】
栄養素を含む電解質の溶液がM―199を含むものであることを特徴とする請求項1記載の角膜貯蔵溶液。
【請求項16】
当該溶液が、
(a)M―199
(b)約2.5g/L〜約25g/Lの高分子量デキストラン
(c)約10μM〜約2mMのモリン
(d)約5mM〜約35mMのβ−ヒドロキシ酪酸
(e)約50μM〜約2mMのグルタチオン(還元形)
(f)約10g/L〜約75g/Lのコンドロイチン硫酸
(g)約0.001〜約0.012mg/mlのインスリン
(h)約10〜約1000μg/mlのゲンタマイシン、及び
(i)約10〜約1000μg/mlのストレプトマイシン
からなることを特徴とする請求項1記載の角膜貯蔵溶液。
【請求項17】
さらに、約0.018〜約0.176g/Lのアスコルビン酸、約0.01g/Lまでのイノシン、約3.6〜約4.4mMのL−アラニル−L−グルタミン、約0.9〜約1.1mMのピルビン酸ナトリウム、約0.0002g/Lまでのカルシフェノール、約0.0001g/Lまでのi−イノシトール、及び、約1.3〜約2.5g/Lの重炭酸ナトリウムからなるグループから選択される少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項16記載の角膜貯蔵溶液。
【請求項18】
当該溶液が、
(a)M―199
(b)約10g/Lの高分子量デキストラン
(c)約300μMのモリン
(d)約10mMのβ−ヒドロキシ酪酸
(e)約500μMのグルタチオン(還元形)
(f)約30g/Lのコンドロイチン硫酸
(g)約0.006mg/mlのインスリン
(h)約100μg/mlのゲンタマイシン、及び
(i)約200μg/mlのストレプトマイシン
からなることを特徴とする請求項16記載の角膜貯蔵溶液。
【請求項19】
さらに、約0.05g/Lのアスコルビン酸、約0.005g/Lのイノシン、約4mMのL−アラニル−L−グルタミン、約1mMのピルビン酸ナトリウム、約0.0001g/Lのカルシフェノール、約0.00005g/Lのi−イノシトール、及び、約1.7g/Lの重炭酸ナトリウムからなるグループから選択される少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項18記載の角膜貯蔵溶液。
【請求項20】
後に使用するためにヒト角膜内皮細胞を生体外で貯蔵し、その生存率を保持する方法であって、
(a)眼球から角膜を摘出する工程
(b)当該角膜を
(i)栄養素を含む電解質の緩衝平衡水溶液、
(ii)少なくとも1種のコロイド状浸透性薬剤、
(iii)フェノール系酸化防止化合物、
(iv)非乳酸生成基質、
(v)チオール含有化合物、
(vi)インスリン、および
(vii)少なくとも1種の抗生物質
が有効量含まれており、成分(ii)から(vii)は、それら成分が(i)中に含まれていない程度だけ必要とされる角膜貯蔵溶液に入れる工程からなることを特徴とする方法。
【請求項21】
角膜細胞の生存率が、約4日より長く少なくとも二週間の期間、当該溶液中において維持されるものであることを特徴とする請求項20記載の方法。
【請求項22】
当該後の使用が、生体内使用であることを特徴とする請求項20記載の方法。
【請求項23】
当該生体内使用が、移植及び移植片治療から選択されるものであることを特徴とする請求項22記載の方法。
【請求項24】
当該溶液が、約2℃〜約8℃で維持されることを特徴とする請求項20記載の方法。
【請求項25】
当該溶液が、約4℃で維持されることを特徴とする請求項24記載の方法。
【請求項26】
(a)平坦で光学的に透明な底部を有するバイアル、および
(b)(i)栄養素を含む電解質の緩衝平衡水溶液、
(ii)少なくとも1種のコロイド状浸透性薬剤、
(iii)フェノール系酸化防止化合物、
(iv)非乳酸生成基質、
(v)チオール含有化合物、
(vi)インスリン、および
(vii)少なくとも1種の抗生物質
を、4日よりも長く約2週間までの期間、生体外で貯蔵される角膜の細胞密度および細胞生存率を維持するのに有効な量で含み、成分(ii)から(vii)は、それら成分が(i)中に含まれていない程度だけ必要とされるもの角膜貯蔵溶液からなるキット。
【請求項27】
当該バイアルが中性のホウケイ酸ガラスからなるものであることを特徴とする請求項26記載のキット。
【請求項28】
当該バイアルがさらに、裏張りを有するネジ蓋部を有し、ネジ蓋部によってバイアルが気密になることを特徴とする請求項26記載のキット。
【請求項29】
当該裏張りが、不活性フッ素ポリマーまたはシリコンからなるものであることを特徴とする請求項28記載のキット。
【請求項30】
当該バイアルが本体部及び首部からなり、本体部の外径は約35mm、高さは約50mmであり、首部の高さは約10mmであって、内径は約24mmであることを特徴とする請求項26記載のキット。
【請求項31】
さらに、生体内使用に先立って、角膜を保存する際に使用する説明書を含む請求項26記載のキット。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−538752(P2008−538752A)
【公表日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−506541(P2008−506541)
【出願日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際出願番号】PCT/US2006/013077
【国際公開番号】WO2006/110552
【国際公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【出願人】(507337795)クレオ コスメティック アンド ファーマスーティカルカンパニー エルエルシー (1)
【Fターム(参考)】