説明

触刺激測定装置

【課題】下着、オムツ、生理用ナプキンなどの衣類がヒトの肌に接触することによる押しつけや擦れなどの刺激(触刺激)を、衣類を着用した状態で評価する装置を提供する。
【解決手段】人体の全部あるいは一部の形状、および機械的特性を模した人体模型1に高分子圧電フィルム2aと圧力センサ2bと、表面凹凸シート2cとから成る触刺激センサ2を1個あるいは複数個貼り付け、測定対象衣類を着用させた状態の人体模型1に、人体と同程度の日常動作を再現させた際に生じる人体模型1に対する衣類からの押し付け力と擦れとを触刺激センサで同時に測定し、評価を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下着やオムツなどの衣類を着用し日常動作を行うことにより、ヒトが受ける触刺激の測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
オムツや下着、生理用ナプキンなどの衣類がヒトの肌に接触することによる押しつけや擦れなどの刺激(触刺激)を評価することは、衣類の設計や開発において重要である。触刺激の評価では、試着や腕などの代替部位への擦りつけ評価などが行われているが、評価者の個人差や体調の影響を受けるため、客観的な評価手法が必要である。また、乳幼児用オムツに関しては、利用者が乳幼児であることから、試着後のアンケートによる調査が困難であり、非アレルギー性接触皮膚炎であるオムツかぶれの原因の一つとされる触刺激を評価することが不可能である。高齢者用オムツに関しても、他の衣類の着心地とは異なり、オムツかぶれを引き起こすような触刺激の評価をヒトで行うことは不可能である。
【0003】
これまで、下着やストッキングなどを着用した際の着用圧や、着用したまま種々の動作を行った際の着用圧を評価するために、人体を模した人形に感圧センサを貼り付け、測定する装置が開発されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、この装置では触刺激のひとつである着用圧および動作に伴うその変化を測定することができるが、衣類と身体との擦れを測定することはできない。
【0004】
また、靴のフィット感を評価するために、靴に温度センサを貼り付けた装置が開発されている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、この装置でも、むくみやフィット感を検出することはできるが、擦れの測定を行うことはできない。押し付け力だけでなく、擦れが皮膚に与える影響は大きいため、押し付け力と擦れとを同時に測定する装置が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−295124号公報
【特許文献2】特開2000−60604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
衣類が身体に与える触刺激としては、押し付け力と擦れとがあり、オムツや生理用ナプキンなどではそれらの触刺激が一因となり、非アレルギー性接触皮膚炎(かぶれ)を発生させることがある。そのため、触刺激を評価する必要があるが、従来の装置では、擦れを測定することができない。そこで、本発明は、押し付け力と擦れとを同時に測定し、評価することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る触刺激測定装置は、衣類を着用した状態で、日常動作を行うことによって生じる触刺激として、押し付け力と擦れとを同時に測定する触刺激測定装置であって、測定対象衣類を着用させる、人体の全部あるいは一部の形状、および人体の機械的特性を模した人体模型と、前記人体模型の表面に配置した1個あるいは複数個の触刺激センサと、前記触刺激センサの出力データを取得するデータ収録装置と、前記データ収録装置で取得した収録データの解析を行い、押し付け力と擦れ情報とに変換する解析装置と、前記解析装置による解析結果を表示するモニター部とを、有することを特徴とする。
【0008】
前記人体模型は、測定対象衣類の着用対象者の体格を模し、関節部を動かすことができ、日常動作を模擬した動きを再現できることが好ましい。前記人体模型は、適度な柔軟性と伸縮性とを有する樹脂を用いて成型され、人体の硬さと同様の硬さを有することが好ましい。また、動作によっては自重の影響を考慮する必要があるため、前記人体模型の重量は、おもりにより、模擬した体格の体重と同程度に調整されていることが好ましい。
【0009】
本発明に係る触刺激測定装置で、前記触刺激センサは、表裏面に電極を形成した高分子圧電フィルムに電極部保護のためにアセテート被膜を表裏面に貼り付けた高分子圧電フィルムセンサの、一方の面上に表面接触層として適度な凹凸を有する表面凹凸シートを貼り付け、他方の面には金属板あるいはプラスチック板にひずみゲージを接着した圧力センサを貼り付けた積層構造であり、前記高分子圧電フィルムで比較的高い周波数の擦れなどの接触刺激を測定し、前記ひずみゲージで押し付け力などの低い周波数の接触刺激を測定するよう構成されていることが好ましい。
【0010】
本発明に係る触刺激測定装置は、測定対象衣類を着用させた状態の前記人体模型に、人体と同程度の日常動作を再現させた際に生じる人体模型に対する衣類からの押し付け力と擦れとを、前記人体模型に配置した触刺激センサで測定する。圧力センサにより、着用による着用圧と動作に伴う押し付け力の変動とを測定し、同時に高分子圧電フィルムで、擦れなどの比較的高い周波数の触刺激を測定、評価することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、下着やオムツ、生理用ナプキンなどの衣類が人体に与える押し付け力と擦れとを同時に測定することができ、触刺激の客観的な評価を行うことができる触刺激測定装置を提供することができる。触刺激測定装置によれば、触刺激を定量的に評価することができるので、オムツや下着、生理用ナプキンなどの衣類の試作、設計、改良に有効である。また、触刺激測定装置で得られる触刺激の分布と非アレルギー性接触皮膚炎の発生形態、部位との関係を調査することにより、非アレルギー性接触皮膚炎の予防や発生メカニズムの解明にも有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態の触刺激測定装置の構成を示す概略図である。
【図2】図1に示す触刺激測定装置の触刺激センサの拡大側面図である。
【図3】図1に示す触刺激測定装置の、乳幼児の人体模型を用いて、歩行動作を行った際に得られる圧力センサの出力波形と高分子圧電フィルム出力波形の周波数解析結果とを示す(a)紙オムツを着用せず動作を行った場合、(b)比較的触刺激の小さい紙オムツ1を着用した状態で動作を行った場合、(c)比較的触刺激の大きい紙オムツ2を着用した状態で動作を行った場合、のグラフである。
【図4】図3の周波数解析結果から計算した触刺激擦れ指標を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明の実施の形態の触刺激測定装置の構成を示す概略図である。触刺激測定装置は、人体模型1と、人体模型1の表面の予め定めた部位に貼り付けた1個あるいは複数個の触刺激センサ2と、触刺激センサ2の出力信号を収集するデータ収録装置3と、収録データから触刺激として押し付け力と擦れ情報とを解析する解析装置4と、その解析結果を表示するモニター部5とを有している。
【0014】
図2は、触刺激センサ2の拡大図であり、触刺激センサ2はセンサ固定シート2dの上に、高分子圧電フィルム2aと圧力センサ2bとを積層し、測定対象衣類と接触する表面に、高分子圧電フィルム2aの感度を向上させることを目的として表面凹凸シート2cを貼り付けた構造とする。表面凹凸シート2cは、表面に適当な凹凸、たとえば、規則的な点状の凸部や格子状の凸部などを有している。センサ固定シート2dを人体模型1に貼り付けることで触刺激センサ2を固定する。
【0015】
圧力センサ2bは、圧力検出方式として、感圧インク式、ひずみゲージ式、感圧ゴム式、エアパック式、圧電式など適宜選択して用いればよい。
【0016】
人体模型1は、測定対象衣類の着用対象者の人体の全部あるいは一部の形状(たとえば、上半身、下半身、臀部など)を模擬し、人体と同程度の弾力性を有する。また、着用状態での日常動作によって生じる触刺激を測定するために、脚部や腕部は可動式とする。さらに、動作によっては自重が影響する場合があるため、人体模型1の重量は、人体と同程度になるようにおもりで調整する。
【0017】
測定対象衣類の着用状態での日常動作による触刺激を測定するために、人体模型1に衣類を着用させ、ヒトの日常動作(歩行、座位から立位、立位から座位など)を模擬した動きを再現し、圧力センサ2b及び高分子圧電フィルム2aから成る触刺激センサ2で検出された出力波形をデータ収録装置3で取り込み、解析装置4で解析を行う。
【0018】
解析装置4では圧力センサ2bの出力変動から押し付け力の評価を行い、高分子圧電フィルム2aの出力に対して周波数解析を行い、検出された波形の周波数分布の変化から擦れの評価を行い、それらの触刺激評価をモニター部5に表示する。また、高分子圧電フィルム2aの出力を擦れの評価に加えて、押し付け力の評価に用いてもよい。評価値を出力するための解析データの時間長については、動作1周期とする方法や、動作1周期を複数個に分割する方法、複数周期とする方法などを適宜選択すればよい。評価手法としては、擦れの情報が含まれる周波数範囲のパワースペクトル密度の総和あるいは総和の比を用いる方法や、ある周波数範囲のバンドパスフィルタを高分子圧電フィルム2aの出力波形に適用し、得られた出力波形の振幅情報を用いる方法などを適宜選択すればよい。
【0019】
表示方法としては、数値データとして保存、表示するとともに、モニター上に仮想人体模型画像を生成し、センサの位置に対応する部位の触刺激の強弱を濃淡表示やカラー表示してもよい。
【実施例1】
【0020】
本発明の実施例として、乳幼児用紙オムツの触刺激の測定を行った。図1に示すような乳幼児の胸部下から膝上までを模擬したポリウレタン樹脂製の人体模型1の右側臀部の下に、1個の触刺激センサ2を貼り付けた。日常動作として歩行動作を模擬するために、紙オムツを着用させた状態で左右の足を前後に動かし測定した。動作の周期は約1.5秒である。この実施例では、圧力センサ2bには薄い金属板に貼り付けたひずみゲージを用い、その金属板をセンサ固定シート2dとした。ひずみゲージ出力はオムツを着用した状態で、0ひずみとなるように調整した。
【0021】
図3に、(a)紙オムツを着用していない状態(紙オムツなし)と、(b)比較的触刺激が小さい紙オムツ1を着用している状態(紙オムツ1)と、(c)比較的触刺激が大きい紙オムツ2を着用している状態(紙オムツ2)のそれぞれの条件でのひずみゲージ出力の時間変化と、高分子圧電フィルム2aの出力を周波数解析して得られたパワースペクトル密度とを示す。
【0022】
図4に、図3に示した各条件でのパワースペクトル密度分布の違いを評価するパラメータとして、触刺激擦れ指標の計算結果を示す。このパラメータは、50Hzから400Hzまでのパワースペクトル密度の総和を400Hzから750Hzまでのパワースペクトル密度の総和で除したものである。ただし、周波数範囲は、本実施例に対するものであり、触刺激センサ2の貼り付け部位や人体模型1の動作によって異なる範囲を適宜選択すればよい。
【0023】
図3のひずみゲージ出力から、紙オムツ2の圧力変動が大きく、歩行動作による押し付け力の変動が大きいことがわかる。また、パワースペクトル密度分布から、紙オムツなしに比較して、紙オムツ1および紙オムツ2ともに、50Hzから400Hzの周波数成分が増加し、比較的触刺激の大きい紙オムツ2の方がより増加していることがわかる。その増加量を特徴量とした図4に示す触刺激擦れ指標から、紙オムツなしを基準として紙オムツ1の触刺激と紙オムツ2の触刺激とを比較することができる。本実施例から、本発明に係る触刺激測定装置が触刺激の測定および評価に有効であることが確認できる。
【符号の説明】
【0024】
1 人体模型
2 触刺激センサ
2a 高分子圧電フィルム
2b 圧力センサ
2c 表面凹凸シート
2d センサ固定シート
3 データ収録装置
4 解析装置
5 モニター部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
衣類を着用した状態で、日常動作を行うことによって生じる触刺激として、押し付け力と擦れとを同時に測定する触刺激測定装置であって、
測定対象衣類を着用させる、人体の全部あるいは一部の形状、および人体の機械的特性を模した人体模型と、
前記人体模型の表面に配置した1個あるいは複数個の触刺激センサと、
前記触刺激センサの出力データを取得するデータ収録装置と、
前記データ収録装置で取得した収録データの解析を行い、押し付け力と擦れ情報とに変換する解析装置と、
前記解析装置による解析結果を表示するモニター部とを、
有することを特徴とする触刺激測定装置。
【請求項2】
前記触刺激センサは、表裏面に電極を形成した高分子圧電フィルムに電極部保護のためにアセテート被膜を表裏面に貼り付けた高分子圧電フィルムセンサの、一方の面上に表面接触層として適度な凹凸を有する表面凹凸シートを貼り付け、他方の面には金属板あるいはプラスチック板にひずみゲージを接着した圧力センサを貼り付けた積層構造であり、前記高分子圧電フィルムで比較的高い周波数の擦れなどの接触刺激を測定し、前記ひずみゲージで押し付け力などの低い周波数の接触刺激を測定するよう構成されていることを、特徴とする請求項1記載の触刺激測定装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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