説明

触媒層−電解質膜積層体およびそれを用いた固体高分子形燃料電池

【課題】 触媒利用率を向上させた、触媒層−電解質膜積層体およびそれを用いた固体高分子形燃料電池を提供する。
【解決手段】 本発明は、イオン伝導性高分子電解質膜2と、イオン伝導性高分子電解質膜2の両面にそれぞれ形成された触媒層3とを含む触媒層−電解質膜積層体1であって、触媒層3は、担体レスの金属ナノ粒子を含み、触媒層3における担体レスの金属ナノ粒子の二次粒径分布は、D90が1.5μm以下且つD50が0.5〜1.3μmである。また、本発明の固体高分子形燃料電池20は、本発明の触媒層−電解質膜積層体1を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン伝導性高分子電解質膜に触媒層が積層された触媒層−電解質膜積層体およびそれを用いた固体高分子形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質の両面に電極が配置され、水素と酸素の電気化学反応により発電する電池であり、発電時に発生するのは水のみである。燃料電池は、従来の内燃機関と異なり、二酸化炭素などの環境負荷ガスを発生しないために、次世代のクリーンエネルギーシステムとして普及が見込まれている。その中でも特に固体高分子形燃料電池は、作動温度が低く、電解質の抵抗が少ないことに加え、活性の高い触媒を用いるので小型でも高出力を得ることができ、家庭用コージェネレーションシステムなどとして早期の実用化が見込まれている。
【0003】
固体高分子形燃料電池は、通常、イオン伝導性を有する固体高分子電解質膜を用い、固体高分子電解質膜の両面に、例えば燃料極となるアノード触媒層には白金とルテニウムの合金が用いられ、酸素極となるカソード触媒層には白金が用いられている触媒層と多孔質カーボンからなるガス供給板を順に積層している。そして、触媒層およびガス供給板からなる電極の周囲を囲むようにガスシール部を配置し、さらにこれをセパレータで挟んだ構造を有している(例えば、特許文献1の図2参照)。
【0004】
固体高分子形燃料電池の触媒層に用いられている白金などの金属触媒は非常に高価な材料であるため、燃料電池の実用化にあたり、金属触媒の利用率を向上させ、少ない使用量でも優れた発電性能を示す燃料電池の開発が望まれている。金属触媒の利用率を向上させる方法としては、例えば、金属触媒粒子の微粒子化が挙げられる。金属触媒粒子の粒径を小さくすることによって、金属触媒の使用量は同じでも金属触媒の露出表面積が大きくなり、金属触媒の利用率を高めることができる。しかしながら、微細な金属触媒粒子は分散させることが難しく、非常に凝集しやすいため、微粒子化しても露出表面積を効果的に大きくすることが困難である。
【0005】
そこで、カーボンなどの担体に金属触媒粒子を担持することが検討されている。このような金属触媒粒子担持カーボン粒子を用いて形成された触媒層は、カーボン粒子の嵩高さにより、厚い層となる。一方、触媒層における大部分の反応は、電解質膜と触媒層との界面付近や、触媒層とガス拡散層との界面付近に存在する金属触媒上で進行するため、上記のような厚い触媒層では、電極反応に有効に寄与する金属触媒が触媒層中に含まれる触媒活性物質の1/3〜1/2と、触媒利用率が非常に低くなる傾向がある。厚い触媒層では、反応ガスやプロトン、電子の拡散が妨げられやすいためである。
【0006】
そこで、特許文献2では、白金黒などの金属触媒粒子をカーボン粒子などの担体に担持させることなく、そのまま用いて触媒層を形成することが提案されている。しかしながら、特許文献2において、触媒層における金属触媒粒子の二次粒径が大きく、触媒利用率が不十分であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3052536号
【特許文献2】特開2007−287414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来の問題を解決するもので、触媒利用率を向上させた、触媒層−電解質膜積層体およびそれを用いた固体高分子形燃料電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の触媒層−電解質膜積層体は、イオン伝導性高分子電解質膜と、上記イオン伝導性高分子電解質膜の両面にそれぞれ形成された触媒層とを含む触媒層−電解質膜積層体であって、上記触媒層は、担体レスの金属ナノ粒子を含み、上記触媒層における担体レスの金属ナノ粒子の二次粒径は、D90が1.5μm以下且つD50が0.5〜1.3μmであることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の固体高分子形燃料電池は、本発明の触媒層−電解質膜積層体を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、触媒層が担体レスの金属ナノ粒子を含み、上記触媒層における担体レスの金属ナノ粒子の二次粒径分布を、D90が1.5μm以下且つD50が0.5〜1.3μmになるようにすることで、触媒層を薄膜且つ均一な膜にし、触媒利用率を向上させた、触媒層−電解質膜積層体およびそれを用いた固体高分子形燃料電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明における触媒層−電解質膜積層体の一例を示す模式的縦断面図である。
【図2】図2は、本発明における触媒層形成用転写シートの一例を示す模式的縦断面図である。
【図3】図3は、本発明における固体高分子形燃料電池の一例を示す模式的縦断面図である。
【図4】図4は、本発明におけるガスケット付き膜電極接合体の外周縁部の詳細を示す模式的縦断面図である。
【図5】図5は、本発明における膜電極接合体の一例を示す模式的縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
発明者らは、上記問題を解決するために鋭意研究を続けた結果、触媒層に担体レスの金属ナノ粒子を含ませ、触媒層における担体レスの金属ナノ粒子の二次粒径を小さく且つ均一にすることで、触媒層を薄膜且つ均一な膜にし、触媒利用率を向上できることを見出し、本発明に至った。
【0014】
以下、図面などに基づき本発明の触媒層−電解質膜積層体及びそれを用いた固体高分子形燃料電池について説明する。
【0015】
(触媒層−電解質膜積層体)
図1は、本発明における触媒層−電解質膜積層体の一例を示す模式的縦断面図である。図1において、本発明の触媒層−電解質膜積層体1は、イオン伝導性高分子電解質膜2と、イオン伝導性高分子電解質膜2の両面にそれぞれ形成された触媒層3とを含む。
【0016】
触媒層3は、担体レスの金属ナノ粒子を含む。本発明において、「担体レスの金属ナノ粒子」とは、担体、例えば炭素粒子のような炭素担体などの導電性粒子に担持されていない金属ナノ粒子を意味する。また、以下において、特に指定がない場合、金属ナノ粒子は、担体レスの金属ナノ粒子を意味する。
【0017】
上記触媒に用いられる金属ナノ粒子は、平均一次粒径が2〜100nmであることが好ましく、金属ナノ粒子の凝集抑制の観点から、10〜50nmであることがより好ましい。上記金属ナノ粒子の平均一次粒径が2nmより小さいと、表面積が大きくなり、触媒の利用率は上がるが、燃料電池運転時の溶解性が高くなるという傾向がある。一方、上記金属ナノ粒子の平均一次粒径が100nmより大きいと、金属ナノ粒子の表面エネルギーが小さいため、金属ナノ粒子を含む金属コロイド溶液の安定性は向上するが、金属ナノ粒子の表面積が減少し、触媒利用率を十分に向上させにくい傾向がある。本発明において、金属ナノ粒子の平均一次粒径は、X線回折装置を用いて測定したものをいう。
【0018】
触媒層3における金属ナノ粒子の二次粒径分布は、D90が1.5μm以下且つD50が0.5〜1.3μmであり、より好ましくはD90が1.3μm以下且つD50が0.7〜1.0μmである。触媒層における金属ナノ粒子の二次粒径分布が上記の範囲内であることにより、金属ナノ粒子の表面積を大きくし、触媒利用率を向上させる上、二次粒径分布が狭い範囲にあることで触媒層形成時のクラックが低減し、均一な膜となる。本発明において、触媒層における金属ナノ粒子の二次粒径(凝集粒子の粒径)は、X線回折装置を用いて測定したものをいい、二次粒径の分布は、粒径の累積分布で累積量が90%になる粒径であるD90と、累積分布で累積量が50%になる粒径であるD50で示す。
【0019】
触媒層3は、10点平均粗さRaが0.05〜1.0μmであることが好ましく、0.1〜0.5μmであることがより好ましい。触媒層の表面が均一になり、電池性能が向上する。
【0020】
触媒層3における金属ナノ粒子の含有量は、特に限定されないが、触媒使用量の低減の観点から、
0.01〜1.0mg/cm2であることが好ましく、0.05〜0.7mg/cm2であることがより好ましい。
【0021】
触媒層3の厚さは、特に限定されないが、燃料電池運転時の触媒利用率、撥水性、ガス拡散性の観点から、1〜20μmであることが好ましく、2〜10μmであることがより好ましい。
【0022】
上記金属ナノ粒子は、燃料電池の触媒として用いる金属のナノ粒子であればよく、特に限定されないが、触媒活性の観点から、白金または白金と遷移金属もしくは貴金属との合金を用いることが好ましい。遷移金属としては、例えば、鉄、ニッケル、マンガン、銅、コバルト、クロム、バナジウム、チタン、スカンジウムなどが挙げられ、貴金属としては、例えば、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、イリジウム、金などが挙げられる。特に触媒活性および燃料電池運転時の耐溶解性の観点から、白金または白金と貴金属との合金を用いることがより好ましい。これにより、高耐久性の触媒層−電解質膜積層体にすることができる。また、上記金属ナノ粒子は、単独または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
金属ナノ粒子の製造方法は、特に限定されず、湿式法や乾式法により製造することができる。湿式法としては、例えば、白金ナノ粒子を得る方法としては、白金錯体を還元析出(このとき、合金金属種を共析させてもよい)し、洗浄、乾燥させて採取する方法や、白金錯体を、ポリビニルピロリドン(PVP)、クエン酸、ポリアクリル酸(PAA)、トリメチルアンモニウム(TMA)、ポリエチレンイミン(PEI)のような保護基を有する成分とともに還元してナノ粒子を形成する方法などがある。乾式法としては、例えば、白金ナノ粒子を得る方法としては、白金または白金合金の金属蒸気を冷却することにより析出させる方法や、白金合金錯体溶液を還元雰囲気中で噴射し、還元析出する方法などが挙げられる。中でも、白金ナノ粒子の粒径制御や分散性の観点から、白金錯体を還元析出する手法が好ましい。
【0024】
触媒層3は、特に限定されないが、上記金属ナノ粒子を含む金属コロイド溶液を用いて形成することが好ましい。
【0025】
上記金属コロイド溶液を用いて触媒層を形成する方法としては、基材上に金属ナノ粒子を均一に塗布できる方法であればよく、特に限定はない。また、塗布は、例えば、スクリーン印刷、スプレーコーティング、ダイコーティング、ナイフコーティング、インクジェット、グラビア印刷などにより行うことができる。また、使用する基材も特に限定されず、イオン伝導性電解質膜に直接塗布する、導電性多孔質基材に塗布する、別途準備した基材フィルム上に塗布することができる。なお、導電性多孔質基材または基材フィルム上に金属コロイド溶液を塗布して触媒層を形成した場合は、塗布後、熱圧着などの手法でイオン伝導性高分子電解質膜に触媒層を転写することが必要となる。
【0026】
上記金属コロイド溶液を用いて触媒層を形成する方法は、具体的には以下のように行うことができる。
(1)イオン伝導性電解質膜に、金属コロイド溶液を直接塗布して触媒層を形成する。
(2)導電性多孔質基材に金属コロイド溶液を塗布して触媒層を形成した後、イオン伝導性高分子電解質膜に触媒層を転写する。
(3)基材フィルム上に金属コロイド溶液を塗布して触媒層を形成した後、イオン伝導性高分子電解質膜に触媒層を転写する。
【0027】
上記金属コロイド溶液における金属ナノ粒子の含有量は、金属コロイド溶液全体に対して20重量%(以下において、wt%と記す。)以下であることが好ましく、金属ナノ粒子の凝集を防ぐ観点から、10wt%以下であることがより好ましい。これにより、金属コロイド溶液における金属ナノ粒子の凝集を抑制して安定性を向上することができる上、金属コロイド溶液を長期間保管することもできる。また、上記金属コロイド溶液における金属ナノ粒子の含有量は、特に限定されないが、触媒層作製の加工適正の観点から、金属コロイド溶液全体に対して0.5wt%以上であることが好ましく、1wt%以上であることがより好ましい。
【0028】
上記金属コロイド溶液は、さらに界面活性剤を含むことが好ましい。金属ナノ粒子の分散を高め、金属コロイド溶液の安定性を向上させる。
【0029】
上記界面活性剤は、イオン伝導性高分子電解質膜の劣化の観点から、金属塩を含まないノニオン系界面活性剤またはカチオン系界面活性剤を用いることが好ましく、電荷を有さないノニオン系界面活性剤を用いることがより好ましい。また、界面活性剤は、金属コロイド溶液を塗布して形成した触媒層中に残存しないことが好ましく、例えば揮発性を有する界面活性剤は、金属コロイド溶液を塗布した後の乾燥工程で揮発して触媒層中に残存しないため、好適である。
【0030】
上記ノニオン系界面活性剤としては、金属粒子を高分散にできればよく、特に限定されない。例えばアルキルアルカノール、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレン誘導体、ソルビタン脂肪酸エステルポリオキシエチレン、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミドなどを用いることができる。中でも、金属ナノ粒子の分散性の観点から、アルキルアルカノール、アルキルアルカノールアミドを用いることが好ましく、アルキルアルカノールを用いることがより好ましい。これにより、分散性の高い金属コロイド溶液を作製することができる。また、アルキルアルカノールアミドとしては、例えば市販の「アミノーン PK−02S」などを用いることができる。また、ポリオキシアルキレン誘導体としては、例えばアセチレングリコール誘導体などを用いることができ、具体的には市販の「オルフィン E1004」(日信化学工業社製)を用いてもよい。
【0031】
上記カチオン系界面活性剤としては、金属粒子を高分散にできればよく、特に限定されない。例えば、アルキルアミン塩、第四級アンモニウム塩、ピリジニウム塩などを用いることができる。また、第四級アンモニウム塩としては、例えばセチルトリメチルアンモニウムクロライドなどを用いることができ、具体的には市販の「コータミン 60W」(花王社製)を用いてもよい。
【0032】
上記界面活性剤の添加量は金属ナノ粒子の量に対して0.001〜1.0wt%にすることが好ましく、0.01〜0.1wt%にすることがより好ましい。界面活性剤の量が少ないと金属ナノ粒子の凝集を抑制する効果が発揮されにくい傾向があり、界面活性剤の量が多いと界面活性剤単体でミセルを形成し、金属コロイド溶液が作製できなくなる傾向がある。
【0033】
上記金属コロイド溶液は、分散性を高めるという観点から、さらに溶媒を含むことが好ましい。上記溶媒としては、分散性の観点から水を用いることが好ましい。また、金属コロイド溶液を直接イオン伝導性高分子電解質膜に塗布して触媒層を形成する場合は、水のみを溶媒として用いるとイオン伝導性高分子電解質膜の膨潤がおこりやすいため、水と有機溶剤の混合溶媒を用いることがより好ましい。
【0034】
上記有機溶剤には特に限定はなく、アルコール類、エーテル類、ジアルキルスルホキシド類を用いることができる。中でも、水との親和性の観点から、アルコール類が好ましい。上記アルコール類としては、例えば、炭素数1〜4の一価アルコール、各種の多価アルコールなどを用いることができる。また、上記炭素数1〜4の一価アルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、tert−ブタノールなどを用いることができる。なお、上記有機溶剤は、単独または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
上記水と有機溶剤の混合溶媒における有機溶剤の含有量は、金属ナノ粒子の分散性やイオン導電性高分子電解質膜の膨潤の観点から、水と有機溶剤の混合溶媒全体に対して、10〜70wt%であることが好ましく、20〜50wt%であることがより好ましい。
【0036】
上記金属コロイド溶液の作製における分散方法および分散条件としては、金属ナノ粒子を高度に分散できればよく、特に限定されない。例えば、ビーズ等を用いるメディア型分散やロールミルを用いた分散法を用いることができる。特にフロー式のビーズミルなどは連続生産が可能なため、生産性の観点から、より好ましい。
【0037】
また、上記金属コロイド溶液は、必要に応じて、撥水剤を含んでもよい。金属コロイド溶液に撥水剤を含有させることで、金属ナノ粒子と撥水剤が均一に分散した触媒層を形成することが可能となり、燃料電池の高負荷電流運転時の生成水のフラッティングを抑制することができる。上記撥水剤としては、特に限定はなく、例えば炭素粒子や炭素繊維などの導電性粉体、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ピッチ等が挙げられ、撥水性や電気伝導性の観点から、高黒鉛化した炭素粒子を用いることが好ましい。
【0038】
また、上記金属コロイド溶液は、必要に応じて、電解質樹脂を含んでもよい。金属コロイド溶液に電解質樹脂を含ませることにより、金属コロイド溶液を用いて形成した触媒層のプロトン伝導性や、触媒層の成形性が向上し、好ましい。上記電解質樹脂としては、特に限定されず、固体高分子形燃料電池において、一般的に用いられているものを使用することができる。例えば、「ナフィオン」(商品名、デュポン社製)に代表されるパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂のようなフッ素系電解質樹脂、または、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレン等の炭化水素系樹脂に、スルホン酸基、ボロン酸基、ホスホン酸基、水酸基等のイオン交換基を導入した炭化水素系電解質樹脂を用いることができる。
【0039】
なお、上記電解質樹脂や撥水剤などの添加剤は、金属ナノ粒子と、界面活性剤と、溶媒を含む金属コロイド溶液を作製した後に、添加することが好ましい。上記のように金属コロイド溶液を調整する前に上記添加剤を加えると金属コロイド溶液の急激なpH変化による金属ナノ粒子の凝集や金属ナノ粒子と添加剤との凝集が起こり、分散性が悪くなる傾向がある。
【0040】
イオン伝導性高分子電解質膜2としては、例えば、水素イオン伝導性高分子電解質膜、アニオン導電性高分子電解質膜、液状物質含浸膜などを用いることができる。
【0041】
上記水素イオン伝導性高分子電解質膜は、例えば、基材上に水素イオン伝導性高分子電解質を含有する溶液を塗布し、乾燥することにより形成することができる。水素イオン伝導性高分子電解質としては、例えば、パーフルオロスルホン酸系のフッ素イオン交換樹脂、より具体的には炭化水素系イオン交換膜のC−H結合をフッ素で置換したパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー(PFS系ポリマー)などが挙げられる。電気陰性度の高いフッ素原子を導入することで、化学的に非常に安定し、スルホン酸基の解離度が高く、高いイオン伝導性が実現できる。このような水素イオン伝導性高分子電解質の具体例としては、デュポン社製の「Nafion」(登録商標)、旭硝子(株)製の「Flemion」(登録商標)、旭化成(株)製の「Aciplex」(登録商標)、ゴア(Gore)社製の「Gore Select」(登録商標)などが挙げられる。水素イオン伝導性高分子電解質含有溶液中に含まれる水素イオン伝導性高分子電解質の濃度は、通常5〜60wt%程度、好ましくは20〜40wt%程度である。
【0042】
上記アニオン伝導性高分子電解質膜としては、炭化水素系樹脂またはフッ素系樹脂などを用いたものが挙げられ、炭化水素系樹脂としては、旭化成(株)製の「Aciplex」(登録商標)A201,211,221や、トクヤマ(株)製の「ネオセプタ」(登録商標)AM−1,AHAなどが挙げられ、フッ素系樹脂としては、東ソー(株)製の「トスフレックス」(登録商標)IE−SF34などが挙げられる。
【0043】
上記液状物質含浸膜としては、例えばポリベンゾイミダゾール(PBI)を用いたものが挙げられる。
【0044】
触媒層−電解質膜積層体1は、特に限定されないが、下記のように製造することができる。
【0045】
<金属コロイド溶液の作製>
金属コロイド溶液として、白金コロイド溶液を用いる場合について説明する。白金コロイド溶液は、白金塩溶液の還元により白金ナノ粒子を作製し、必要量の溶媒および界面活性剤を添加して作製する。
【0046】
先ず、白金塩を水または水と有機溶剤の混合溶媒に溶解させることにより、白金塩溶液を得る。上記白金塩としては、ジニトロジアンミン白金塩、塩化白金酸、塩化第二白金、ヘキサヒドロキソ白金酸、テトラアンミン白金等のいずれか1種以上を使用できる。白金塩の還元性および白金粒子の粒径制御の観点から、ジニトロジアンミン白金塩を用いることが好ましい。なお、白金塩溶液中の白金濃度は、0.1〜10.0wt%であることが好ましい。白金塩溶液中の白金濃度を調整することにより、得られた白金コロイド溶液中における白金ナノ粒子の含有量の絶対量を調整できる。0.1wt%よりも濃度が薄いと全体の液量が増えてしまい、白金コロイド溶液の製造が困難になる傾向がある。一方、10.0wt%よりも濃度が濃いと白金塩が溶解しにくい傾向となる。
【0047】
次に、得られた白金塩溶液中の溶存酸素濃度を調整する。溶存酸素濃度は、不活性ガスのバブリングによって、濃度1.0ppm以下となるように調整する。溶存酸素濃度が高くなると、継続の還元工程において白金イオンの還元が進行しにくくなり、白金粒子が不安定で凝集しやすい傾向となる。また、バブリングに用いるガスとしては、アルゴンや窒素等の不活性ガスが使用できる。
【0048】
溶存酸素濃度を調整した後、白金ナノ粒子を形成するための還元処理を行う。この還元工程においては、還元剤として、例えば水素、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、水素化ホウ素ナトリウム、ヒドラジン等の一般的な還元剤を使用できる。還元剤は、好ましくはエタノールを使用する。還元反応中の雰囲気ガスとしては、酸化反応を抑制し、還元反応を進行させるためにアルゴンガス、窒素ガス等の不活性ガスが使用できる。
【0049】
還元反応は、加熱還流や、マイクロウェーブ等により行うことができる。還元反応の処理時間は、マイクロウェーブを用いる場合は0.2〜3時間、加熱還流による場合は3〜10時間とすることが好ましい。処理時間が短すぎると、白金ナノ粒子の形成が充分に進行せず、処理時間が長すぎると、凝集による沈殿が生じやすくなる。また、還元処理における液温は、70〜100℃とすることが好ましく、80〜92℃とすることがより好ましい。70℃未満では、還元反応が進行しにくい傾向があり、100℃より高温では、沈殿が生じやすくなる。
【0050】
還元処理後は、限外ろ過を行う。限外ろ過によれば、未反応成分や、ナトリウムイオン、塩素、硝酸イオン等を取り除くことができ、作製した白金コロイド溶液の保存中における凝集沈殿を抑制できる。また、白金コロイド溶液中の白金ナノ粒子の含有量は、限外ろ過時に溶媒を供給する量を調整することにより、容易に調整できる。この時、白金ナノ粒子の含有量を白金コロイド溶液全体量の20wt%以下とすることが好ましい。白金ナノ粒子の含有量が20wt%を超えると凝集による沈殿を生じやすくなる。限外ろ過には、分画分子量(MWCO:Molecular Weight Cut Off)が5000〜50000の限外ろ過膜(UF膜)を用いるのが好ましく、MWCOが7000〜20000のUF膜を用いることがより好ましい。MWCOが5000未満であると、限外ろ過時に目詰まりが生じやすい傾向となり、50000を超えると白金ナノ粒子が限外ろ過膜を透過してしまう場合がある。尚、この限外ろ過の処理は少なくとも1回行うが、複数回繰返し行ってもよい。また、複数回の限外ろ過を行う場合、ろ過毎に溶媒添加量を適宜に変更しながら調整して白金ナノ粒子の含有量を調整してもよい。
【0051】
限外ろ過後、必要量の溶媒と界面活性剤を添加し、白金コロイド溶液を作製する。界面活性剤を添加することで、長期間、凝集や沈殿を生じにくい白金コロイド溶液とすることができる。この時、溶媒の添加量は白金ナノ粒子の含有量が白金コロイド溶液全体に対して20wt%以下となるように調整し、界面活性剤の添加量は白金ナノ粒子の量に対して0.01〜0.1wt%にすることが好ましい。界面活性剤の量が少ないと白金粒子の凝集が起こり、沈殿が生じやすい傾向があり、界面活性剤の量が多いと界面活性剤単体でミセルを形成し、白金コロイド溶液が作製できなくなる傾向がある。上記のように白金コロイド溶液を調整した後、必要に応じて、電解質樹脂や撥水剤などの添加剤を添加する。上記のように白金コロイド溶液を調整する前に上記添加剤を加えると白金コロイド溶液の急激なpH変化による白金ナノ粒子の凝集や白金ナノ粒子と添加剤との凝集が起こり、分散性が悪くなる傾向がある。また、電解質樹脂の添加量は、白金ナノ粒子の量に対して0.01〜10wt%が好ましい。電解質樹脂の添加量が上記範囲内であると、電池性能を低下させない上、触媒層の細孔が電解質樹脂で埋められ高負荷電流時の生成水の排出やガス拡散性が低下することもない。さらに、撥水剤を添加する場合、撥水剤の添加量はその粒径にもよるが、白金ナノ粒子の量に対して50wt%以下が好ましい。撥水剤の量が多くなると触媒層の層厚が厚くなり、ガス拡散性が低下する。
【0052】
<触媒層形成用転写シート7の作製>
上記で得られた白金コロイド溶液を転写用基材71上に塗布・乾燥することにより、図2に示すように、転写用基材71上に触媒層3が形成された触媒層形成用転写シート7が得られる。必要に応じて、離型層を介して白金コロイド溶液を転写用基材71上に塗布してもよい。この時触媒層の層厚は燃料電池運転時の触媒利用率、撥水性、ガス拡散性の観点から、1〜20μmが好ましく、2〜10μmがより好ましい。乾燥温度は、通常40〜100℃程度、好ましくは60〜80℃程度である。乾燥時間は、乾燥温度にもよるが、通常5分〜2時間程度、好ましくは10分〜1時間程度である。
【0053】
転写用基材71としては、例えば、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリパルバン酸アラミド、ポリアミド(ナイロン)、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、ポリエチレンナフタレート等の高分子フィルムを用いることができる。また、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の耐熱性フッ素樹脂を用いることもできる。さらに転写用基材71は、高分子フィルム以外にアート紙、コート紙、軽量コート紙等の塗工紙、ノート用紙、コピー用紙などの非塗工紙であってもよい。中でも、安価で入手が容易な高分子フィルムが好ましく、ポリエチレンテレフタレート等の高分子フィルムがより好ましい。転写用基材71の厚さは、取り扱い性および経済性の観点から、通常6〜100μm程度、好ましくは10〜30μm程度とする。
【0054】
<触媒層−電解質膜積層体の作製>
上記で得られた触媒層形成用転写シート7を、イオン伝導性高分子電解質膜2上に触媒層3がイオン伝導性高分子電解質膜2に接するように配置し、触媒形成用転写シート7の転写用基材71側から加熱プレスを施して触媒層3をイオン伝導性高分子電解質膜2に転写させた後、触媒形成用転写シート7の転写用基材71を剥離することにより、図1に示したように、イオン伝導性高分子電解質膜2と、イオン伝導性高分子電解質膜2の両面にそれぞれ形成された触媒層3からなる触媒層−電解質膜積層体1が得られる。作業性を考慮すると、触媒層3をイオン伝導性高分子電解質膜2の両面に同時に積層することが好ましいが、片面ずつ触媒層3を形成することもできる。加熱プレスの加圧レベルは、転写不良を避けるために、通常0.5〜20MPa程度、好ましくは1〜10MPa程度である。また、この加圧操作の際に、転写不良を避けるために、加圧面を加熱するのが好ましい。加熱温度は、イオン伝導性高分子電解質膜2の破損、変形等を避けるために、通常200℃以下、好ましくは150℃以下である。このようにイオン伝導性高分子電解質膜2の両面に触媒層3を形成することで触媒層−電解質膜積層体1が得られる。
【0055】
図1に示しているように、上記で得られた触媒層−電解質膜積層体1は、イオン伝導性高分子電解質膜2と、イオン伝導性高分子電解質膜2の両面に形成された触媒層3とを備えている。イオン伝導性高分子電解質膜2は、平面視矩形状であり、触媒層3は、イオン伝導性高分子電解質膜2よりも一回り小さく形成されている。触媒層3は、イオン伝導性高分子電解質膜2よりも一回り小さく形成されているために、イオン伝導性高分子電解質膜2の外周縁部上には触媒層3が形成されていない。なお、イオン伝導性高分子電解質膜2の外周縁から触媒層3の外周縁までの距離C(図4参照)は、0〜10mmであることが好ましい。また、イオン伝導性高分子電解質膜2の厚さは、通常20〜250μm程度、好ましくは20〜80μm程度であり、触媒層3の厚さは、通常1〜20μm程度、好ましくは2〜10μm程度である。
【0056】
以下、固体高分子形燃料電池について説明する。
【0057】
(固体高分子形燃料電池)
図3に示しているように、固体高分子形燃料電池20は、上記で得られたイオン伝導性高分子電解質膜2および触媒層3からなる触媒層−電解質膜積層体1と、触媒層−電解質膜積層体1から外方に延びるガスケット4と、触媒層3上に形成された導電性多孔質基材5とを備えている。また、固体高分子形燃料電池20は、これらを挟持するセパレータ6も備えている。
【0058】
ガスケット4は、中央に開口部が形成された枠状であり、燃料電池の発電に用いられる燃料ガスや酸化剤ガスの透過を防止する。ガスケット4の開口部は触媒層3の面積より大きくなっており、触媒層3の外周縁からガスケット4の内周縁までの距離B(図4参照)は、0.1〜2.0mmとすることが好ましい。
【0059】
また、ガスケット4は、イオン伝導性高分子電解質膜2よりも一回り大きく形成されてもよいし、イオン伝導性高分子電解質膜2と同じ大きさに形成することもできる。燃料電池稼動時の耐久性の観点から、ガスケット4はイオン伝導性高分子電荷質膜2より大きくすることがより好ましく、ガスケット4の外周縁からイオン伝導性高分子電解質膜2の外周縁までの距離A(図4参照)は0〜150mmであることが好ましい。
【0060】
ガスケット4の開口部から露出している触媒層3上に平面視矩形状の導電性多孔質基材5が形成されている。このように、触媒層3上に導電性多孔質基材5が形成されて電極Eを構成しており、イオン伝導性高分子電解質膜2の両面に電極Eが形成されたものを膜電極接合体10という。
【0061】
そして、固体高分子形燃料電池20は、電極E上にセパレータ6が設置されている。セパレータ6は、導電性多孔質基材5と対向する領域にガス流路が形成されている。
【0062】
次に固体高分子形燃料電池20の各構成要素の材質について説明する。
【0063】
ガスケット4は、耐熱性があり、且つ、外部に燃料および酸化剤が漏出しない程度のガスバリア性を有しているものを使用することができ、例えばポリエチレンテレフタレートや「テフロン」(登録商標)シート、シリコンゴムシートなどを用いることができる。
【0064】
導電性多孔質基材5としては、通常燃料電池の燃料極、空気極を構成する各種の導電性多孔質基材を使用でき、燃料である燃料ガスおよび酸化剤ガスを効率よく触媒層3に供給するため、多孔質の導電性基材からなっている。多孔質の導電性基材としては、例えばカーボンペーパーやカーボンクロスなどが挙げられる。
【0065】
セパレータ6としては、燃料電池内の環境においても安定な導電性板であればよく、特に限定されないが、一般的には、カーボン板にガス流路を形成したものが用いられる。また、セパレータ6をステンレスなどの金属により構成し、金属の表面にクロム、白金族金属またはその酸化物、導電性ポリマーなどの導電性材料からなる被膜を形成したものや、同様にセパレータを金属によって構成し、該金属の表面に銀、白金族の複合酸化物、窒化クロムなどの材料によるメッキ処理を施したものなども使用可能である。
【0066】
固体高分子形燃料電池20は、特に限定されないが、下記のように製造することができる。
【0067】
先ず、図5に示しているように、触媒層−電解質膜積層体1の触媒層3上に、導電性多孔質基材5を熱圧着により積層形成して、膜電極接合体10を得る。続いて、ガスケット4の開口部41の内部から触媒層3が露出する状態でガスケット4をイオン伝導性高分子電解質膜2上に配置し、さらにガス流路が導電性多孔質基材5と対向するよう、セパレータ6を導電性多孔質基材5上に配置する。最後に導電性多孔質基材5とセパレータ6とが電気的に接続するようにセパレータ6で膜電極接合体10を挟持することによって、図3に示しているような固体高分子形燃料電池20が得られる。
【0068】
なお、上記実施形態では、固体高分子形燃料電池20を構成するイオン伝導性高分子電解質膜2や触媒層3、導電性多孔質基材5などを全て平面視矩形状として説明したが、特に形状は限定されるものではなく、例えば平面視円形状とすることもできる。
【実施例】
【0069】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0070】
(実施例1)
<白金ナノ粒子の作製>
白金濃度4.53wt%のジニトロジアンミン白金6.62g(白金含有量0.3g)を、水300mL中に添加し白金塩溶液を調整した。この白金塩溶液に、還元剤としてエタノール60gを添加した後、2L/minの速度でArガスによるバブリングを10分間行った。そして、1L/minの速度でArガスを供給しながら、マイクロウェーブにて、2450MHz、120〜130Wとし、87℃で100分間還元処理を行い、白金ナノ粒子を形成した。得られた溶液を3μmのフィルターによりろ過処理を行い、凝集のないことを確認した。その後、ロータリーエバポレーターを用いて、過剰なエタノールを取り除いた。その後、分画分子量が10000の限外ろ過膜を用いて、4Kgf/cm2の加圧条件で限外ろ過を行った。さらに、純水を加えて3回限外ろ過を行い、白金ナノ粒子を得た。
【0071】
<白金コロイド溶液の調製>
上記で得られた白金ナノ粒子に、水0.6gとノニオン系界面活性剤0.05g(「アミノーンPK−02S」、花王社製)を添加して白金コロイド溶液を調整した後、さらに1ブタノール1g、3−ブタノール1g、フッ素樹脂(5wt%ナフィオンバインダー、デュポン社製)2gを加え、粒径10mmのボールを用い、ボールミルにて100rpmで120分攪拌混合することにより、白金ナノ粒子の含有量が5wt%の白金コロイド溶液を得た。X線回折装置(リガク社製「SmartLab」)を用いて確認したところ、得られた白金コロイド溶液における白金ナノ粒子の平均一次粒径は10nmであった。
【0072】
<触媒層−電解質膜積層体の作製>
転写用基材71として、ポリエステルフィルム(東レ社製「X44」、膜厚25μm)を準備し、転写用基材71上に上記白金コロイド溶液をスクリーン印刷法にて塗布し、100℃の乾燥温度で10分間乾燥して触媒層3を形成し、触媒層形成用転写シート7を得た。得られた触媒層形成用転写シート7中の触媒層3における白金ナノ粒子の含有量は0.3mg/cm2で、触媒層3の厚さは2μmであった。続いて、イオン伝導性高分子電解質膜2として、縦63mm、横63mmの大きさに切断された膜厚53μmのフッ素樹脂からなる電解質膜「NRE212CS」(Dupont社製)を準備した。続いて、上記で得られた触媒層形成用転写シート7を、縦53mm、横53mmの大きさに切断し、イオン伝導性高分子電解質膜2の両面のそれぞれに触媒層3がイオン伝導性高分子電解質膜2と接するように中心を合わせて配置した。そして、135℃、5.0MPa、150秒の条件で熱プレスすることで、イオン伝導性高分子電解質膜2の両面に触媒層3を形成し、触媒層−電解質膜積層体1を作製した。なお、触媒層−電解質膜積層体1における触媒層3の厚さは2μmである。
【0073】
<膜電極接合体の作製>
導電性多孔質基材5として、縦49mm、横49mmの大きさに切断されたカーボンペーパー(東レ社製“TGP−H−090”、厚さ280μm)を用い、図2に示しているように、触媒層−電解質膜積層体1の触媒層3と接するように積層し、膜電極接合体10を作製した。
【0074】
<電池の作製>
図3に示しているように、ガスケット4およびセパレータ6を配置し、固体高分子形燃料電池20を作製した。
【0075】
(実施例2)
界面活性剤として、カチオン系界面活性剤0.05g(「コータミン 60W」、花王社製)を添加して白金コロイド溶液を調整した以外は、実施例1と同様の手法で白触媒層−電解質膜積層体1及び固体高分子形燃料電池20を作製した。得られた実施例2の触媒層−電解質膜積層体1における触媒層3の厚さは2μmであり、触媒層3における白金の含有量は0.3mg/cm2であった。
【0076】
(実施例3)
界面活性剤として、ノニオン系界面活性剤0.05g(「オルフィン E1004」、日信化学工業社製)を添加して白金コロイド溶液を調整した以外は、実施例1と同様の手法で白触媒層−電解質膜積層体1及び固体高分子形燃料電池20を作製した。得られた実施例3の触媒層−電解質膜積層体1における触媒層3の厚さは3μmであり、触媒層3における白金の含有量は0.3mg/cm2であった。
【0077】
(比較例1)
<触媒ペーストの作製>
先ず、実施例1と同様にして、白金ナノ粒子を作製した。次に、得られた白金ナノ粒子に、界面活性剤を添加しなかった以外は、実施例1と同様に、1−ブタノール1g、3−ブタノール1g、フッ素樹脂(5wt%ナフィオンバインダー、デュポン社製)2gおよび水0.6gを加え、白金ペーストを作製した。得られた白金ペーストを用い、実施例1と同様の手法で触媒層−電解質膜積層体1及び固体高分子形燃料電池20を作製した。得られた比較例1の触媒層−電解質膜積層体1における触媒層3の厚さは4μmであり、触媒層3における白金の含有量は0.3mg/cm2であった。
【0078】
(比較例2)
比較例1と同様にして、白金ペーストを作製した。得られた白金ペーストを、スプレーコートにて転写用基材71に塗布した。続いて40℃以下の温度で減圧乾燥させることで触媒層形成用転写シート7を得た。得られた触媒層形成用転写シート7中の触媒層3における白金ナノ粒子の含有量は0.3mg/cm2で、触媒層3の厚さは2μmであった。この触媒転写シート7を用いて実施例1と同様の手法で触媒層−電解質膜積層体1及び固体高分子形燃料電池20を作製した。得られた比較例2の触媒層−電解質膜積層体1における触媒層3の厚さは2μmであり、触媒層3における白金の含有量は0.3mg/cm2であった。
【0079】
実施例1および比較例1〜2の触媒層−電解質膜積層体の触媒層における金属ナノ粒子の二次粒径および触媒層の10点平均表面粗さを以下のように測定し、その結果を下記表1に示した。
【0080】
〔二次粒径分布〕
触媒層における金属ナノ粒子の二次粒径分布を、X線回折装置(リガク社製「SmartLab」)を用いて測定した。
【0081】
〔10点平均表面粗さ〕
触媒層の10点平均表面粗さは、非接触表面形状測定機(キャノン社製「NewView7300」)を使用して測定した。
【0082】
〔電池性能評価〕
実施例1〜3及び比較例1〜2の固体高分子形燃料電池の電池性能を以下のように評価した。固体高分子形燃料電池20に対して0.1A/cm2から1.0A/cm2までの負荷変動サイクル試験を実施した。測定条件は、セル温度80℃、燃料利用率70%、酸化剤利用率40%、加湿温度80℃とし、200サイクル後の1.0A/cm2条件下のセル電圧を測定し、その結果を下記表1に示した。下記表1から、実施例1〜3の固体高分子形燃料電池の発電性能が向上していることが分かる。
【0083】
【表1】

【符号の説明】
【0084】
1 触媒層−電解質膜積層体
2 イオン伝導性高分子電解質膜
3 触媒層
4 ガスケット
5 導電性多孔質基材
6 セパレータ
7 触媒層形成用転写シート
10 膜電極接合体
20 固体高分子形燃料電池
71 転写用基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン伝導性高分子電解質膜と、前記イオン伝導性高分子電解質膜の両面にそれぞれ形成された触媒層とを含む触媒層−電解質膜積層体であって、
前記触媒層は、担体レスの金属ナノ粒子を含み、
前記触媒層における担体レスの金属ナノ粒子の二次粒径分布は、D90が1.5μm以下且つD50が0.5〜1.3μmであることを特徴とする触媒層−電解質膜積層体。
【請求項2】
前記金属ナノ粒子の平均一次粒径が、2〜100nmである請求項1に記載の触媒層−電解質膜積層体。
【請求項3】
前記金属ナノ粒子が、白金または白金と遷移金属もしくは貴金属との合金である請求項1又は2に記載の触媒層−電解質膜積層体。
【請求項4】
前記触媒層中の単位面積当たりの担体レスの金属ナノ粒子の含有量が、0.01〜1.0mg/cm2である請求項1〜3のいずれか1項に記載の触媒層−電解質膜積層体。
【請求項5】
前記触媒層の厚さは、1〜20μmである請求項1〜4のいずれか1項に記載の触媒層−電解質膜積層体。
【請求項6】
前記触媒層が、さらに界面活性剤を含む請求項1〜5のいずれか1項に記載の触媒層−電解質膜積層体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の触媒層−電解質膜積層体を用いることを特徴とする固体高分子形燃料電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−253675(P2011−253675A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−125903(P2010−125903)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】