説明

記憶装置

【課題】読み出し出力の変動を抑制して安定してデータを読み出すことができる記憶装置を提供する。
【解決手段】記憶媒体14は、非磁性体65で相互に隔てられつつ周方向に延びる磁性トラック64を規定する。キャリッジ16は支軸18回りに揺動することから、キャリッジ16先端の読み出し素子45は記憶媒体14の半径方向位置に対してスキュー角θを変化させる。スキュー角θの増大に応じて磁性トラック64のトラック幅TWは減少する。磁性トラック64のトラック幅TWは実効読み出し幅RWより小さく設定される。したがって、読み出し素子45の例えば位置決め誤差や振動の影響にも拘わらず、読み出し出力の変動は抑制される。こうした記憶装置11では、読み出し素子45は記憶媒体14から安定してデータを読み出すことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばハードディスク駆動装置(HDD)といった記憶装置に組み込まれるパターンドメディアに関する。
【背景技術】
【0002】
HDDに組み込まれる磁気ディスクは例えばディスクリートトラックメディア(DTM)やビットパターンドメディア(BPM)といったパターンドメディアを構成する。こうした磁気ディスクでは磁気ディスクの周方向に沿って複数筋の磁性トラックが形成される。記録トラックは例えば同心円状に形成される。隣接する磁性トラック同士は、例えば周方向に延びる非磁性体の分離トラックで相互に隔てられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平3−12076号公報
【特許文献2】特開平5−54302号公報
【特許文献3】特開2008−16182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
HDDでは例えば読み出し素子と磁性トラックとの間にいわゆるスキュー角が生じる。スキュー角は、例えば磁気ディスクの半径方向の中間位置から外周側および内周側に向かうにつれて増大する。その場合、磁気ディスクの半径方向に規定される読み出し素子の実効読み出し幅は中間位置から外周側および内周側に向かうにつれて減少する。その一方で、記録密度の関係から磁性トラックのトラック幅は実効読み出し幅より狭く設計される。
【0005】
磁性トラックのトラック幅がすべての半径方向位置で均一に設定される場合、外周側および内周側では実効読み出し幅はトラック幅より広くなることがある。このとき、位置決め誤差に基づき磁性トラックが実効読み出し幅からはみ出す場合が生じ、読み出し出力は減少してしまう。すなわち、磁性トラックが実効読み出し幅からはみ出したり、磁性トラックが実効読み出し幅内に収まったりすることで、読み出し出力は変動してしまう。
【0006】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたもので、読み出し出力の変動を抑制して安定してデータを読み出すことができる記憶装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、記憶装置の一具体例は、非磁性体で相互に隔てられつつ周方向に延びる複数筋の磁性トラックを規定する記憶媒体と、前記記憶媒体の外側に配置される支軸に揺動自在に連結されるキャリッジと、前記キャリッジの先端に支持されて前記記憶媒体の表面に向き合わせられ、前記記憶媒体の半径方向位置に対してスキュー角を変化させる読み出し素子とを備える。このとき、前記磁性トラックのトラック幅は、前記半径方向に規定される前記読み出し素子の実効読み出し幅より小さく、前記スキュー角の増大に応じて減少する。
【0008】
こうした記憶装置によれば、記憶媒体の半径方向位置に対してスキュー角は変化する。スキュー角の増大に応じて磁性トラックのトラック幅は減少する。磁性トラックのトラック幅は実効読み出し幅より小さく設定される。したがって、例えば読み出し素子の位置決め誤差や振動の影響にも拘わらず、読み出し出力の変動は抑制される。こうした記憶装置では、読み出し素子は記憶媒体から安定してデータを読み出すことができる。
【発明の効果】
【0009】
以上のように開示の記憶装置によれば、読み出し出力の変動を抑制して安定してデータを読み出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る記憶装置の一具体例すなわちハードディスク駆動装置(HDD)の内部構造を概略的に示す平面図である。
【図2】一具体例に係る浮上ヘッドスライダを概略的に示す拡大斜視図である。
【図3】媒体対向面から観察される電磁変換素子を概略的に示す電磁変換素子の正面図である。
【図4】図3の4−4線に沿った断面図である。
【図5】一具体例に係る記憶媒体すなわち磁気ディスクの構造を概略的に示す平面図である。
【図6】磁性トラックおよび非磁性体の構造を概略的に示す部分拡大平面図である。
【図7】磁気ディスクの構造を概略的に示す部分拡大断面図である。
【図8】第1実施形態に係る磁気ディスクの構造を概略的に示す部分拡大平面図である。
【図9】磁気ディスクとキャリッジとの関係を概略的に示す平面図である。
【図10】磁性トラックと読み出し素子との関係を概略的に示す部分拡大平面図である。
【図11】第1実施形態の一具体例に係る磁気ディスク上の実効読み出し幅およびトラック幅の変化を示すグラフである。
【図12】第1実施形態の変形例に係る磁気ディスク上の実効読み出し幅およびトラック幅の変化を示すグラフである。
【図13】第2実施形態に係る磁気ディスクの構造を概略的に示す部分拡大平面図である。
【図14】第2実施形態の一具体例に係る磁気ディスク上の実効読み出し幅、トラック幅およびトラックピッチの変化を示すグラフである。
【図15】磁性トラックと書き込み素子との関係を概略的に示す部分拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しつつ本発明の一実施形態を説明する。
【0012】
図1は本発明に係る記憶装置の一具体例すなわちハードディスク駆動装置(HDD)11の内部構造を概略的に示す。このHDD11は筐体すなわちハウジング12を備える。ハウジング12は箱形のベース13およびカバー(図示されず)から構成される。ベース13は例えば平たい直方体の内部空間すなわち収容空間を区画する。カバーはベース13の開口に結合される。カバーとベース13との間で収容空間は密閉される。
【0013】
収容空間には、記憶媒体としての1枚以上の磁気ディスク14が収容される。磁気ディスク14はスピンドルモータ15の駆動軸に装着される。スピンドルモータ15は例えば5400rpmや7200rpm、10000rpm、15000rpmといった高速度で磁気ディスク14を回転させることができる。ここでは、例えば磁気ディスク14は垂直磁気記録ディスクに構成される。
【0014】
収容空間にはキャリッジ16がさらに収容される。キャリッジ16はキャリッジブロック17を備える。キャリッジブロック17は、垂直方向に延びる支軸18に回転自在に連結される。支軸18は磁気ディスク14の輪郭より外側に配置される。支軸18はスピンドルモータ15の回転軸に平行に規定される。キャリッジブロック17には、支軸18から水平方向に延びる複数のキャリッジアーム19が区画される。
【0015】
個々のキャリッジアーム19の先端にはヘッドサスペンション21が取り付けられる。ヘッドサスペンション21にはフレキシャが貼り付けられる。フレキシャ上には浮上ヘッドスライダ22が搭載される。フレキシャの働きで浮上ヘッドスライダ22はヘッドサスペンション21に対して姿勢を変化させることができる。浮上ヘッドスライダ22には磁気ヘッドすなわち電磁変換素子が搭載される。
【0016】
磁気ディスク14の回転に基づき磁気ディスク14の表面で気流が生成されると、気流の働きで浮上ヘッドスライダ22には正圧すなわち浮力および負圧が作用する。浮力および負圧とヘッドサスペンション21の押し付け力とが釣り合うことで磁気ディスク14の回転中に比較的に高い剛性で浮上ヘッドスライダ22は浮上し続けることができる。
【0017】
キャリッジブロック17には例えばボイスコイルモータ(VCM)23といった動力源が接続される。このVCM23の働きでキャリッジブロック17は支軸18回りで回転することができる。こうしたキャリッジブロック17の回転に基づきキャリッジアーム19およびヘッドサスペンション21の揺動は実現される。
【0018】
浮上ヘッドスライダ22の浮上中にキャリッジアーム19が支軸18回りで揺動すると、浮上ヘッドスライダ22は磁気ディスク14の半径線に沿って移動することができる。その結果、浮上ヘッドスライダ22上の電磁変換素子は最内周記録トラックと最外周記録トラックとの間でデータゾーンを横切ることができる。こうして浮上ヘッドスライダ22上の電磁変換素子は目標の記録トラック上に位置決めされる。
【0019】
図1から明らかなように、キャリッジブロック17上には、フレキシブルプリント基板ユニット25が配置される。フレキシブルプリント基板ユニット25は、フレキシブルプリント基板26に実装されるヘッドIC(集積回路)27を備える。ヘッドIC27は電磁変換素子の読み出し素子および書き込み素子に接続される。接続にあたってフレキシャ28が用いられる。フレキシャ28はフレキシブルプリント基板ユニット25に接続される。
【0020】
磁気情報すなわち2値情報の読み出し時には、このヘッドIC27から電磁変換素子の読み出し素子に向けてセンス電流が供給される。同様に、2値情報の書き込み時には、ヘッドIC27から電磁変換素子の書き込み素子に向けて書き込み電流が供給される。センス電流の電流値は特定の値に設定される。ヘッドIC27には、収容空間内に配置される小型の回路基板29や、ベース13の底板の裏側に取り付けられるプリント回路基板(図示されず)から電流が供給される。
【0021】
図2は一具体例に係る浮上ヘッドスライダ22を示す。この浮上ヘッドスライダ22は、例えば平たい直方体に形成される基材すなわちスライダ本体31を備える。スライダ本体31の空気流出側端面には絶縁性の非磁性膜すなわち素子内蔵膜32が積層される。この素子内蔵膜32に電磁変換素子33が組み込まれる。電磁変換素子33の詳細は後述される。
【0022】
スライダ本体31は例えばAl−TiC(アルチック)といった硬質の非磁性材料から形成される。素子内蔵膜32は例えばAl(アルミナ)といった比較的に軟質の絶縁非磁性材料から形成される。スライダ本体31は媒体対向面すなわち浮上面34で磁気ディスク14に向き合う。浮上面34には平坦なベース面35すなわち基準面が規定される。磁気ディスク14が回転すると、スライダ本体31の前端から後端に向かって浮上面34には気流36が作用する。
【0023】
浮上面34には、前述の気流36の上流側すなわち空気流入側でベース面35から立ち上がる1筋のフロントレール37が形成される。フロントレール37はベース面35の空気流入端に沿ってスライダ幅方向に延びる。同様に、浮上面34には、気流36の下流側すなわち空気流出側でベース面35から立ち上がるリアセンターレール38が形成される。リアセンターレール38はスライダ幅方向の中央位置に配置される。リアセンターレール38は素子内蔵膜32に至る。浮上面34には左右1対のリアサイドレール39、39がさらに形成される。リアサイドレール39は空気流出側でスライダ本体31の側端に沿ってベース面35から立ち上がる。リアサイドレール39、39同士の間にリアセンターレール38は配置される。
【0024】
フロントレール37、リアセンターレール38およびリアサイドレール39、39の頂上面にはいわゆる空気軸受け面(ABS)41、42、43、43が規定される。空気軸受け面41、42、43の空気流入端は段差でフロントレール37、リアセンターレール38およびリアサイドレール39の頂上面にそれぞれ接続される。気流36が浮上面34に受け止められると、段差の働きで空気軸受け面41、42、43には比較的に大きな正圧すなわち浮力が生成される。しかも、フロントレール37の後方すなわち背後には大きな負圧が生成される。これら浮力および負圧のバランスに基づき浮上ヘッドスライダ22の浮上姿勢は確立される。
【0025】
空気軸受け面42の空気流出側でリアセンターレール38には電磁変換素子33が埋め込まれる。電磁変換素子33は例えば読み出し素子と書き込み素子とを備える。電磁変換素子33は素子内蔵膜32の表面に読み出し素子の読み出しギャップや書き込み素子の書き込みギャップを臨ませる。ただし、空気軸受け面42の空気流出側で素子内蔵膜32の表面には硬質の保護膜が形成されてもよい。こういった硬質の保護膜は素子内蔵膜32の表面で露出する読み出しギャップや書き込みギャップを覆う。保護膜には例えばDLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜が用いられればよい。なお、浮上ヘッドスライダ22の形態はこういった形態に限られるものではない。
【0026】
図3に示されるように、電磁変換素子33は読み出し素子45を備える。読み出し素子45には例えばトンネル接合磁気抵抗効果(TuMR)素子が用いられる。読み出し素子45では、上下1対の導電層すなわち下部電極46および上部電極47にトンネル接合磁気抵抗効果膜48が挟み込まれる。下部電極46および上部電極47は例えばFeN(窒化鉄)やNiFe(ニッケル鉄)、NiFeB(ニッケル鉄ボロン)、CoFeB(コバルト鉄ボロン)といった高透磁率材料から形成されればよい。こうして下部電極46および上部電極47は下部シールド層および上部シールド層として機能することができる。その結果、下部電極46および上部電極47の間隔は磁気ディスク14上で記録トラックのダウントラック方向に磁気記録の分解能を決定する。
【0027】
同時に、下部電極46および上部電極47の間には1対の磁区制御膜49が配置される。トンネル接合磁気抵抗効果膜48は浮上面34に沿って磁区制御膜49同士の間に配置される。磁区制御膜49は例えばCoCrPt(コバルトクロム白金)といった硬磁性材料から形成される。磁区制御膜49は浮上面34に沿って一方向に磁化を確立する。磁区制御膜49と下部電極46との間、および、磁区制御膜49とトンネル接合磁気抵抗効果膜48との間には絶縁膜51が挟み込まれる。絶縁膜51は例えばAlから形成される。磁区制御膜49は下部電極46およびトンネル接合磁気抵抗効果膜48から絶縁される。こうした読み出し素子45では磁気ディスク14から作用する磁界の向きに応じてトンネル接合磁気抵抗効果膜48の抵抗変化が引き起こされる。こういった抵抗変化に基づき磁気ディスク14から2値情報は読み出される。
【0028】
電磁変換素子33は、読み出し素子45よりトレーリング側に配置される書き込み素子52すなわち単磁極ヘッドを備える。書き込み素子52は、リアセンターレール38の表面すなわち浮上面34で先端面を露出する主磁極53および補助磁極54を備える。浮上面34で補助磁極54のリーディング端にはトレーリングシールド55が区画される。トレーリングシールド55は主磁極53に向き合わせられる。主磁極53および補助磁極54は例えばFeNやNiFe、NiFeB、CoFeBといった磁性材料から形成される。図4を併せて参照し、補助磁極54の後端は主磁極53に磁性連結片56で接続される。磁性連結片56周りで磁気コイルすなわち薄膜コイルパターン57が形成される。こうして主磁極53、補助磁極54および磁性連結片56は、薄膜コイルパターン57の中心位置を貫通する磁性コアを形成する。こうした書き込み素子52では薄膜コイルパターン57の働きで主磁極53から記録磁界が漏れ出る。この記録磁界の働きで磁気ディスク14に2値情報が書き込まれる。
【0029】
図5は磁気ディスク14の構造を概略的に示す。この磁気ディスク14はディスクリートトラックメディア(DTM)といったパターンドメディアを構成する。磁気ディスク14の表面には磁気ディスク14の周方向すなわちダウントラック方向に沿って複数筋の記録トラック61、61…が延びる。磁気ディスク14の表面には、磁気ディスク14の半径方向すなわちクロストラック方向に沿って延びる複数筋のサーボセクタ領域62が規定される。サーボセクタ領域62にはサーボパターンが確立される。隣接するサーボセクタ領域62の間にはデータセクタ領域63が確保される。データセクタ領域63内で記録トラック61に2値情報が格納される。
【0030】
図6に示されるように、各記録トラック61は、ダウントラック方向に延びる環状の磁性トラック64を備える。磁性トラック64は磁性材料から形成される。各磁性トラック64は環状の非磁性体すなわち分離トラック65で相互に隔てられる。分離トラック65は非磁性材料から形成される。分離トラック65は、磁性トラック64と同様に、磁気ディスク14のダウントラック方向に同心円状に延びる。分離トラック65上に記録トラック61の境界線66が規定される。こうして各記録トラック61は、1本の磁性トラック64と、この磁性トラック64に隣接する1対の分離トラック65、65の一部とで形成される。
【0031】
図7に示されるように、磁気ディスク14は基板67を備える。基板67には例えばガラス基板が用いられる。基板67の表面には軟磁性の裏打ち層68が広がる。裏打ち層68では、基板67の表面に平行に規定される面内方向に磁化容易軸が確立される。裏打ち層68の表面には複合膜69が広がる。複合膜69では磁気ディスク14の面内方向に磁性トラック64および分離トラック65が交互に配置される。磁性トラック64では、基板67の表面に直交する垂直方向に磁化容易軸が確立される。複合膜69の表面には、例えばダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜といった保護膜71、および、例えばパーフルオロポリエーテル(PFPE)膜といった潤滑膜72で被覆されればよい。
【0032】
図8に示されるように、磁気ディスク14では、最内周記録トラック61および最外周記録トラック61の中間位置に規定される記録トラック61の磁性トラック64で所定のトラック幅TWが規定される。磁性トラック64のトラック幅TWは、中間位置の記録トラック61からクロストラック方向に内周および外周に向かうにつれて減少する。したがって、中間位置の記録トラック61の磁性トラック64でトラック幅TWは最大値に規定される。最内周記録トラック61の磁性トラック64および最外周記録トラック61の磁性トラック64でトラック幅TWは最小値に設定される。
【0033】
図9に示されるように、キャリッジ16が支軸18回りで回転すると、支軸18を中心に描かれる仮想円弧に沿って浮上ヘッドスライダ22は磁気ディスク14上を移動する。電磁変換素子33が中間位置の記録トラック61上に位置決めされると、図10に示されるように、読み出し素子45のトンネル接合磁気抵抗効果膜48の中心線と記録トラック61の中心線との交差角すなわちスキュー角θは0(ゼロ)度に設定される。ここでは、スキュー角θが0度に設定される場合に、クロストラック方向に規定されるトンネル接合磁気抵抗効果膜48の実効読み出し幅RWと、スライダ幅方向に規定されるトンネル接合磁気抵抗効果膜48のコア幅CWとが一致する場合を例とする。なお、実効読み出し幅RWは、クロストラック方向に規定されるトンネル接合磁気抵抗効果膜48の幅や浮上量で特定される。この磁気ディスク14ではすべての半径方向位置で、磁性トラック64のトラック幅TWは実効読み出し幅RWより小さく規定される。
【0034】
電磁変換素子33が例えば最内周記録トラック61上に位置決めされると、スキュー角θは最大値に設定される。最内周記録トラック61では実効読み出し幅RWはスキュー角θに基づき最小値に規定される。すなわち、実効読み出し幅RWはスキュー角θの増大に応じて減少する。トラック幅TWは実効読み出し幅RWより小さく規定されることから、実効読み出し幅RWおよびトラック幅TWは中間位置から内周に向かうにつれて減少する。その一方で、電磁変換素子33が例えば最外周記録トラック61上に位置決めされると、スキュー角θは最大値に設定される。最外周記録トラック61では実効読み出し幅RWはスキュー角θに基づき最小値に規定される。すなわち、実効読み出し幅RWはスキュー角θの増大に応じて減少する。トラック幅TWは実効読み出し幅RWより小さく規定されることから、実効読み出し幅RWおよびトラック幅TWは中間位置から外周に向かうにつれて減少する。
【0035】
この磁気ディスク14では、スキュー角θは中間位置の記録トラック61から内周および外周に向かうにつれて増大する。図11に示されるように、実効読み出し幅RWは、半径方向位置「0(ゼロ)」すなわち中間位置から内周(マイナス)および外周(プラス)に向かうにつれて減少する。前述のように、トラック幅TWは中間位置から内周および外周に向かうにつれて減少する。本実施形態では、すべての半径方向位置で実効読み出し幅RWとトラック幅TWとの差分は均一に設定される。すなわち、中間位置から離れるにつれて減少する実効読み出し幅RWの減少率は、中間位置から離れるにつれて減少するトラック幅TWの減少率より大きく設定される。その結果、クロストラック方向に規定される記録トラック61の幅は、中間位置から内周および外周に向かうにつれて小さく設定される。
【0036】
以上のようなHDD11では、トラック幅TWは実効読み出し幅RWより小さく設定される。すべての半径方向位置で実効読み出し幅RWとトラック幅TWとの差分は均一に設定される。同時に、実効読み出し幅RWは中間位置から内周および外周に向かうにつれて減少する。したがって、例えば電磁変換素子33の位置決め誤差や浮上ヘッドスライダ22の振動の影響にも拘わらず、トンネル接合磁気抵抗効果膜48は、磁性トラック64の全幅にわたって磁性トラック64に比較的に高い精度で向き合うことができる。2値情報の出力の変動は抑制される。読み出し素子45は安定して2値情報を読み出すことができる。しかも、トンネル接合磁気抵抗効果膜48には、磁性トラック64上でクロストラック方向にある程度の許容範囲で位置誤差が確保される。
【0037】
その一方で、例えば実効読み出し幅RWおよびトラック幅TWの比率がすべての半径方向位置で均一に設定されると、例えば内周側および外周側で実効読み出し幅RWとトラック幅TWとの差分は本発明に比べて減少する。したがって、例えば電磁変換素子33の位置決め誤差や浮上ヘッドスライダ22の振動の影響に基づき、トンネル接合磁気抵抗効果膜48は磁性トラック64の全幅にわたって磁性トラック64に向き合いにくくなる。2値情報の出力は変動してしまう。しかも、トンネル接合磁気抵抗効果膜48の位置誤差の許容範囲は本発明に比べて減少してしまう。トンネル接合磁気抵抗効果膜48は高い精度で2値情報を読み出すことができない。
【0038】
しかも、中間位置から内周および外周に向かうにつれてスキュー角θが増大することから、スキュー角θの増大に応じて実効読み出し幅RWは減少する。その結果、磁気ディスク14上で磁性トラック64のトラック幅TWは中間位置から内周および外周に向かうにつれて小さく設定される。こうしたトラック幅TWの減少に基づき記録トラック61の幅は中間位置から内周および外周に向かうにつれて減少する。その結果、磁気ディスク14上では、すべての半径方向位置で均一なトラック幅TWが規定される場合に比べて磁性トラック64すなわち記録トラック61は高い密度で形成される。こうした磁気ディスク14すなわちHDD11は記録密度の向上に大いに貢献することができる。
【0039】
図12に示されるように、磁気ディスク14上にはクロストラック方向に複数のトラック群75が規定されてもよい。各トラック群75は複数本の磁性トラック64すなわち記録トラック61を含む。各トラック群75内では各磁性トラック64のトラック幅TWは等しく設定される。中間位置に規定されるトラック群75から内周のトラック群75および外周のトラック群75に向かうにつれてトラック幅TWは減少する。その一方で、実効読み出し幅RWは前述と同様に設定されればよい。なお、各トラック群75ごとの磁性トラック64の数は任意に設定される。こうした磁気ディスク14によれば、前述と同様の作用効果が実現される。
【0040】
図13は本発明の第2実施形態に係る磁気ディスク14aを示す。この磁気ディスク14aでは、相互に隣接する記録トラック61、61同士のトラックピッチTPが中間位置から内周および外周に向かうにつれて増大する。トラックピッチTPは記録トラック61、61の中心線同士のピッチで特定される。前述のように、スキュー角θは中間位置から内周および外周に向かうにつれて増大する。したがって、トラックピッチTPはスキュー角θの増大に応じて増大する。同時に、記録トラック61の幅は、中間位置から内周および外周に向かうにつれて増大する。最内周記録トラック61および最外周記録トラック61で記録トラック61の幅は最大値に規定される。
【0041】
図14に示されるように、磁気ディスク14a上にはクロストラック方向に複数のトラック群76が規定される。各トラック群76は複数本の磁性トラック64すなわち記録トラック61を含む。中間位置の記録トラック61を含むトラック群76から内周のトラック群76および外周のトラック群76に向かうにつれてトラックピッチTPは増大する。その他、前述の磁気ディスク14と同様に、磁性トラック64のトラック幅TWは中間位置から内周および外周に向かうにつれて減少する。トラック幅TWは実効読み出し幅RWより小さく設定される。すべての半径方向位置で実効読み出し幅RWとトラック幅TWとの差分は均一に設定される。
【0042】
電磁変換素子33が中間位置の記録トラック61上に位置決めされると、図15に示されるように、書き込み素子52の主磁極53の中心線と磁性トラック64の中心線との交差角すなわちスキュー角θは0(ゼロ)度に設定される。浮上面34で主磁極53の輪郭は逆台形に規定される。すなわち、主磁極53ではリーディング端の幅はトレーリング端の幅よりも小さく規定される。スキュー角θが0度に設定されると、クロストラック方向に規定される主磁極53の実効書き込み幅WWは、スライダ幅方向に規定される主磁極53のコア幅CWに一致する。この磁気ディスク14aではすべての半径方向位置で磁性トラック64のトラック幅TWは実効書き込み幅WWより小さく規定される。
【0043】
電磁変換素子33が、例えば最内周記録トラック61上に位置決めされると、スキュー角θは最大値に設定される。最内周記録トラック61ではトラックピッチTPは最大値に規定される。ただし、トラック幅TWは実効書き込み幅WWより小さく規定される。ここでは、実効書き込み幅WWは、クロストラック方向に規定されるリーディング端の角とトレーリング端の角との最大幅で特定される。その一方で、電磁変換素子33が、例えば最外周記録トラック61上に位置決めされると、スキュー角θは最大値に設定される。最外周記録トラック61ではトラックピッチTPは最大値に規定される。ただし、磁性トラック64のトラック幅TWは実効書き込み幅WWより小さく規定される。
【0044】
以上のような磁気ディスク14aによれば、スキュー角θの増大に応じてトラックピッチTPは増大する。すなわち、トラックピッチTPは中間位置から内周および外周に向かうにつれて増大する。その結果、スキュー角θの増大に応じて書き込み素子45の実効書き込み幅WWが増大しても、書き込み対象の記録トラック61に隣接する記録トラック61に記録磁界の作用は抑制される。サイドイレーズは抑制される。その一方で、トラックピッチTPがすべての半径方向位置で均一に設定されると、実効書き込み幅WWの増大に基づき例えば内周側や外周側の記録トラック61で、隣接する記録トラック61に記録磁界が作用する可能性が増大する。サイドイレーズが生じてしまう。
【0045】
以上のようなHDD11では、磁気ディスク14、14aはビットパターンドメディア(BPM)といったパターンドメディアから構成されてもよい。このとき、磁性トラック64は、ダウントラック方向に配列される複数の磁性ビットから形成されればよい。ダウントラック方向に隣接する磁性ビット同士は非磁性体で相互に隔てられる。こうした磁気ディスク14、14aによれば、前述と同様の作用効果が実現される。
【0046】
以上の実施形態に関し出願人はさらに以下の付記を開示する。
【0047】
(付記1) 非磁性体で相互に隔てられつつ周方向に延びる複数筋の磁性トラックを規定する記憶媒体と、
前記記憶媒体の外側に配置される支軸に揺動自在に連結されるキャリッジと、
前記キャリッジの先端に支持されて前記記憶媒体の表面に向き合わせられ、前記記憶媒体の半径方向位置に対してスキュー角を変化させる読み出し素子とを備え、
前記磁性トラックのトラック幅は、前記半径方向に規定される前記読み出し素子の実効読み出し幅より小さく、前記スキュー角の増大に応じて減少することを特徴とする記憶装置。
【0048】
(付記2) 付記1に記載の記憶装置において、前記磁性トラックのトラック幅と前記読み出し素子の実効読み出し幅との差分はすべての前記磁性トラックで均一に設定されることを特徴とする記憶装置。
【0049】
(付記3) 付記1または2に記載の記憶装置において、前記記憶媒体の半径方向に並列に規定されて、複数本の前記磁性トラックを含む複数のトラック群を備え、
各前記トラック群に含まれる前記磁性トラックのトラック幅は等しく設定されることを特徴とする記憶装置。
【0050】
(付記4) 付記1または2に記載の記憶装置において、前記キャリッジの先端に支持されて前記記憶媒体の表面に向き合わせられ、前記記憶媒体の半径方向位置に対してスキュー角を変化させる書き込み素子を備え、
相互に隣接する前記磁性トラック同士のトラックピッチは前記スキュー角の増大に応じて増大することを特徴とする記憶装置。
【0051】
(付記5) 付記4に記載の記憶装置において、前記記憶媒体上で前記半径方向に並列に規定されて、複数本の前記磁性トラックを含む複数のトラック群を備え、
各前記トラック群に含まれる前記トラックピッチは等しく設定されることを特徴とする記憶装置。
【0052】
(付記6) 非磁性体で相互に隔てられつつ周方向に延びる複数筋の磁性トラックを規定する記憶媒体と、
前記記憶媒体の外側に配置される支軸に揺動自在に連結されるキャリッジと、
前記キャリッジの先端に支持されて前記記憶媒体の表面に向き合わせられ、前記記憶媒体の半径方向位置に対してスキュー角を変化させる書き込み素子とを備え、
相互に隣接する前記磁性トラック同士のトラックピッチは前記スキュー角の増大に応じて増大することを特徴とする記憶装置。
【0053】
(付記7) 付記6に記載の記憶装置において、前記記憶媒体上で前記半径方向に並列に規定されて、複数本の前記磁性トラックを含む複数のトラック群を備え、
各前記トラック群に含まれる前記トラックピッチは等しく設定されることを特徴とする記憶装置。
【符号の説明】
【0054】
11 記憶装置(ハードディスク駆動装置)、14 記憶媒体(磁気ディスク)、16 キャリッジ、18 支軸、45 読み出し素子、52 書き込み素子、64 磁性トラック、65 非磁性体、75 トラック群、76 トラック群。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性体で相互に隔てられつつ周方向に延びる複数筋の磁性トラックを規定する記憶媒体と、
前記記憶媒体の外側に配置される支軸に揺動自在に連結されるキャリッジと、
前記キャリッジの先端に支持されて前記記憶媒体の表面に向き合わせられ、前記記憶媒体の半径方向位置に対してスキュー角を変化させる読み出し素子とを備え、
前記磁性トラックのトラック幅は、前記半径方向に規定される前記読み出し素子の実効読み出し幅より小さく、前記スキュー角の増大に応じて減少することを特徴とする記憶装置。
【請求項2】
請求項1に記載の記憶装置において、前記磁性トラックのトラック幅と前記読み出し素子の実効読み出し幅との差分はすべての前記磁性トラックで均一に設定されることを特徴とする記憶装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の記憶装置において、前記記憶媒体の半径方向に並列に規定されて、複数本の前記磁性トラックを含む複数のトラック群を備え、
各前記トラック群に含まれる前記磁性トラックのトラック幅は等しく設定されることを特徴とする記憶装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載の記憶装置において、前記キャリッジの先端に支持されて前記記憶媒体の表面に向き合わせられ、前記記憶媒体の半径方向位置に対してスキュー角を変化させる書き込み素子を備え、
相互に隣接する前記磁性トラック同士のトラックピッチは前記スキュー角の増大に応じて増大することを特徴とする記憶装置。
【請求項5】
請求項4に記載の記憶装置において、前記記憶媒体上で前記半径方向に並列に規定されて、複数本の前記磁性トラックを含む複数のトラック群を備え、
各前記トラック群に含まれる前記トラックピッチは等しく設定されることを特徴とする記憶装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−176739(P2010−176739A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−16700(P2009−16700)
【出願日】平成21年1月28日(2009.1.28)
【出願人】(309033264)東芝ストレージデバイス株式会社 (255)
【Fターム(参考)】