説明

記録媒体形成用紙基材の製造方法

【課題】本発明は、梅雨時,夏場等高温多湿時に、紙の吸湿性により繊維が膨潤したり、あるいは紙の乾燥により繊維が収縮することで記録層を形成した表面が凸凹に変形するのを防止するために、パルプを原材料とする紙の吸湿や繊維の収縮を制御可能な、光ディスクなどの記録媒体形成用紙基材の製造方法を提供することを目的とするものである。
【解決手段】パルプを抄き込む抄き込み工程と抄き取った紙を乾燥する乾燥工程とを有する記録媒体形成用紙基材の製造方法であって、前記乾燥工程は、抄き取った状態の紙を伝熱性の高い板と通湿性のある板で挟み込み、温度150℃以上,圧力100KPa以上、紙の水分量が7〜10%の範囲になるまで熱プレスすることを特徴とする記録媒体形成用紙基材の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録層形成情報フィルムを貼り合わせる支持体あるいは記録層を形成するためのパルプを原材料とする紙からなる記録媒体形成用紙基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
記録層を形成した媒体の一つとして、光ディスクがある。光ディスクは、1枚のディスクへの記録容量を多くする目的で、記録を読み書きする光の焦点を小さくし、一枚のディスクに沢山のビットを形成できるようになってきた。焦点が小さくなるに伴い、焦点距離も浅くなり、記録層が光ディスクの表面に形成されるようになり、新しい光ディスクの製造方法が検討されるようになってきた。
【0003】
新しい光ディスクの製造方法の一つに、記録層と、光を反射するための反射層が予め形成された情報フィルムを、ホログラム等を形成する微細加工技術で情報フィルムを作成し、その情報記録フィルムと支持体となる基材(ポリカーボネート,ポリ乳酸,ポリエステル樹脂,ポリオレフィン樹脂等プラスチック材料,紙,金属等)と貼り合せる方法がある。
【0004】
しかし、基材が紙であると、梅雨時,夏場等高温多湿時に、紙の吸湿性により繊維が膨潤したり、あるいは紙の乾燥により繊維が収縮するため、記録層を形成した表面が凸凹に変形する問題がある。
【0005】
紙の透気度や透湿度を制御する方法として、例えば、特許文献1に、抄紙成分として原料パルプ、サイズ剤、撥水剤、湿潤紙力増強剤などを含む抄紙成形原料液から抄紙成分を抄き取って抄造成形品を加熱プレスして透気度や透湿度を制御する方法が提案されている。しかしながら、この提案の抄造成形品を構成する紙は揮散性薬剤の容器用に使用されるもので、容器の置かれる環境に受け難くするように紙の透気度や透湿度を制御するものであるが、本発明における記録媒体形成用紙基材としての紙の吸湿性による繊維の膨潤、あるいは紙の乾燥による繊維の収縮を制御するには不十分な方法である。
【0006】
下記に特許文献を記す。
【特許文献1】特開平10−127746号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の技術的背景を考慮してなされたものであって、梅雨時,夏場等高温多湿時に、紙の吸湿性により繊維が膨潤したり、あるいは紙の乾燥により繊維が収縮することで記録層を形成した表面が凸凹に変形するのを防止するために、パルプを原材料とする紙の吸湿や繊維の収縮を制御可能な、光ディスクなどの記録媒体形成用紙基材の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、すなわち、請求項1に係る発明は、
パルプを抄き込む抄き込み工程と抄き取った紙を乾燥する乾燥工程とを有する記録媒体形成用紙基材の製造方法であって、
前記乾燥工程は、抄き取った状態の紙を伝熱性の高い板と通湿性のある板で挟み込み、温度150℃以上,圧力100KPa以上、紙の水分量が7〜10%の範囲になるまで熱プレスすることを特徴とする記録媒体形成用紙基材の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、情報フィルムと紙基材を貼り合せてなる光ディスク等の記録層形成した紙基材の耐水性が向上し、紙基材に記録層を形成した記録媒体を長期間保存しても、記録層を形成した表面が凹凸の変形がなく、半永久的に使用できるようになり、また、80℃85%の高温多湿化で96時間保存しても記録媒体が使用できるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の記録媒体形成用紙基材の製造方法を説明する模式説明図である。
【0011】
本発明における記録媒体形成用紙基材のベースとなる紙としては、紙表面のルーメン(繊維内の空隙部分)が少ない構造を形成しているものが良い。ルーメンが少ない、つまり空隙が少ないと、紙の繊維間への水分等の浸透が少なくなり、紙の繊維間で結合している水素結合が壊れず、高温多湿の環境に保存しても表面が凸凹に変形し難くなる。
【0012】
紙表面のルーメンが少ない状態に形成する方法、すなわち本発明の記録媒体形成用紙基材の製造方法について説明する。紙の抄紙時に、パルプを抄き込み、水分を乾燥する工程で、完全に乾燥させるのではなく、水分を重量比で50%以上含有状態で乾燥工程を終了し、その後、図1で示すように、熱プレス機(1,1′)に、金属板等の伝熱性の高い板(2)と、例えば、濾紙(3a,3b,3c)を3枚重ねた通湿性のある板(3)で抄き取った状態の紙(4)を挟み込み、温度150℃以上,圧力100KPa以上の条件で、紙の水分量が7〜10%の範囲になるまで熱プレスする。一般に、熱プレス時間10〜60秒で紙の水分量が7〜10%の範囲に達し、ルーメンが少ない紙を形成することができる。
【0013】
水分を重量比で50%以上含有したパルプに高圧を掛けることにより、ルーメンが少なくなり、しかも水分がある状態で繊維間が近づくため、強固な水素結合が形成される。圧力として、100KPa以上の高圧を掛けるのは、ルーメンを少なくする必要があるためである。水分を50%以上含んだ状態で、高圧で潰すことによりルーメンが少なくなる。また、高圧で潰すことにより、繊維間が小さくなり、繊維間で水素結合が生じる。この状態で高温を掛けて乾燥することにより、余分な水分がなくなり、よりルーメンも少なくなり、より強固な水素結合を形成する。
【0014】
本発明における乾燥温度としては、短時間で一気に乾燥させたいため、150℃以上の高温が好ましく、紙が炭化しないような乾燥温度と乾燥時間の組み合わせを設定することができる。乾燥時間が、例えば、1分,2分,5分とか長時間の設定ができるのであれば、150℃以下、水分が蒸発する100℃以上の範囲に設定しても良い。
【0015】
熱プレスする時間は、水分を重量比で50%以上含んだ紙を、20%以下より好ましくは15%以下、さらに好ましくは7〜10%程度の水分量まで、乾燥できる時間であれば良く、温度が高温であればある程短時間で良い。
【0016】
熱プレスする際の抄き取った紙を挟む材料は、片面は伝熱性のある金属等の材料が用いられ、反対面は通湿性のある材料が用いられる。伝熱性のある材料を使うことにより、水分がより早く蒸発して、強固な水素結合を形成し易い。
【0017】
また、記録層を形成する紙基材として使用する場合、紙基材の表面平滑性が必要なため、伝熱性の高い板の材料は、表面平滑性の高い材料が好ましい。伝熱性があり、表面平滑性の高い材料として、一般的に金属材料が用いられる。紙の両面を通湿性のない材料、例
えば金属で挟んで、熱プレスを行うと、水蒸気が抜ける部分がないため、紙の内部で、破裂したり、未乾燥の状態になってしまう。そのため、片面は通湿性のある材料である必要がある。
【0018】
本発明における通湿性のある板の材料としては、密度の低い紙、すなわち濾紙等、繊維、不織布、多孔質なセラミック等を挙げることができるが、これらの材料に限定されるものではない。
【0019】
また、紙の繊維が通湿性のある材料に付着する可能性があるため、通湿性のある材料の表面をフッ素(四フッ化エチレン樹脂コート)加工したり、離型処理することもできる。さらに、フッ素繊維,ガラス繊維を使用して、紙の繊維が付着しに難くすることもできる。
【0020】
本発明で用いられる紙としては、「通常紙」と呼ばれる、製紙用天然繊維を主体とする紙が挙げられる。この紙に、合成繊維(例えば、ポリオレフィン系繊維)を混抄してあるものでも良い。パルプを抄き込む抄き込み工程と抄き取った紙を乾燥する乾燥工程で紙を抄造できる繊維材料であれば特に限定されない。水分を重量比で50%以上の含有した状態のものを、熱プレス機で、潰しながら乾燥するのは、水分が50%以上含有していることにより、繊維が分散しており、繊維の周囲に水が存在している状態で、熱プレスを行うことにより繊維間の水素結合が生じやすく、本発明の記録媒体形成用紙基材の製造方法には適しているためである。水分の量が少なくなると、熱プレス掛ける前から繊維同士が密着し、ルーメンが多い状態で繊維間で水素結合が生じ、ルーメンが少ない紙にならない。また、水分の量が少ない状態の紙に、水分を付与して、膨潤させ、50%以上の含水量にして、熱プレスしても、本発明で意図するルーメン少ない紙を得ることは難しい。
【0021】
以上説明してきたように、ルーメンが少ない繊維の構造にするのは、記録層を形成する紙面の表面の100μm程度の厚みがあれば良く、紙層の全部がルーメンの少ない構造にする必要はない。また、ルーメンが少ない構造を形成した反対面は、熱プレス時、通湿性のある板と接するために、凸凹のある表面が形成されるので記録層を形成する面としては相応しくないため、紙の両面に記録層を形成したいときは、本発明における記録媒体形成用紙基材の2枚を用いて、通湿性のある板と接した凸凹のある面どうしを貼り合せて、ルーメンが少ない面が、両表面になるようにして使用することができる。ルーメンが少ない紙表面に、記録層を直接形成しても、記録層形成フィルムを貼り合せても良いが、より平滑性の必要な記録層を形成させるときには、紙の表面に、樹脂をコートしたり、フィルムを接着剤で貼り合せて表面の平滑性をさらに向上させることもできる。
【0022】
以下、本発明を具体的実施例を挙げて説明する。
【実施例1】
【0023】
ケミカルパルプ[N材(針葉樹)とL材(広葉樹)の比7/3〜6/4]をパルプ濃度1.5%で水に膨潤させ、離解(JIS P8220)し、PFIミル(JIS P8221−2)で5000回叩解した。
【0024】
そのパルプ懸濁液から、手抄きを行い(JIS P8222)、水分含有率60%の紙を抄紙した。この紙は水分を多く含んでいるため、乾燥プレートのステンレス板に載置したままでサンプルとした。
【0025】
図1で示すように、金属プレート(2)に載置した抄き取った紙(4)を、熱プレス機(1,1′)にて、伝熱性金属プレート(2)と反対面を四フッ化エチレンコートした濾紙(3a,3b,3c)を3枚重ねた通湿性板(3)に挟み、温度180℃,圧力3.0
MPa、時間50秒の条件で熱プレスした。
【0026】
その結果、水分率8%となり、坪量400g/m2の本発明の記録媒体形成用紙基材を得た。
【0027】
上記で得られた本発明の記録媒体形成用紙基材の2枚を用いて、濾紙からなる通湿性板に接した面どうしをアクリル系の接着剤を用いて貼り合せた。この貼り合せた紙の両表面に、ポリカーボネートフィルムを貼り合わせた記録媒体形成用基材を作成した。この記録媒体形成用基材を直径12cmのディスク状に抜いた基材上に、UV硬化樹脂で、記録ビットを形成し、その上に銀をスパッタし反射層を形成し、さらにその反射層上に0.1mmの保護膜を貼り合せてブルーレイディスクとした。
【0028】
上記で得られたブルーレイディスクを80℃85%100時間保存しても、記録層に凹凸の変形が生ずることがなかった。
【実施例2】
【0029】
グラインドパルプをパルプ濃度1.5%で水に膨潤させ、離解(JIS P8220)し、PFIミル(JIS P8221−2)で5000回叩解した。
【0030】
このパルプ懸濁液から、手抄を行い(JIS P8222)、水分含有率55%の紙を抄紙した。この紙は水分を多く含んでいるため、乾燥プレートのステンレス板にままでサンプルとした。
【0031】
図1で示すように、金属プレート(2)に載置した抄き取った紙(4)を、熱プレス機(1,1′)にて、伝熱性金属プレート(2)と反対面に厚さ7mmの不織布(3a,3b,3c)を重ねた通湿板(3)に挟み、200℃,圧力1.0MPa、時間20秒の条件で熱プレスした。
【0032】
その結果、水分率11%となり、坪量750g/m2の本発明の記録媒体形成用紙基材を得た。
【0033】
上記で得られた本発明の記録媒体形成用紙基材を2枚用いて、不織布からなる通湿板に接した面に100μmポリカーボネートフィルムを貼り、反対面の伝熱性金属プレートに接していた面に、記録層を形成した100μmポリカーボネートフィルムを貼り合せた。この記録層形成フィルムを貼り合せた紙基材を記録層の形状に合わせて、直径12cmのディスク状に抜きブルーレイディスクとした。
【0034】
上記で得られたブルーレイディスクを、80℃85%100時間保存しても、記録層に凹凸が生ずることがなかった。
【実施例3】
【0035】
(比較例)
ケミカルパルプ[N材(針葉樹)とL材(広葉樹)の比7/3〜6/4]をパルプ濃度1.5%で水に膨潤させ、離解(JIS P8220)し、PFIミル(JIS P8221−2)で5000回叩解した。
【0036】
このパルプ懸濁液から、手抄を行い(JIS P8222)、乾燥を十分行い、水分率8%の坪量400g/m2の紙を得た。
【0037】
この紙の2枚を吸水紙に接した面どうしをアクリル系の接着剤を用いて貼り合せた。
【0038】
上記で得られた貼り合せた紙の両表面に、ポリカーボネートフィルムを貼り合わせ、記録媒体形成用基材とした。この記録媒体形成用基材を直径12cmのディスク状に抜いた。このディスク上に、UV硬化樹脂で、記録ビットを形成し、その上に銀をスパッタし反射層を形成し、さらにその上に0.1mmの保護膜を貼り合せてブルーレイディスクとした。
【0039】
上記で得られたブルーレイディスクを、80℃85%100時間保存すると、記録層に1〜10mm程度のうねり、凹凸が生じ、記録を再生できなくなった。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の記録媒体形成用紙基材の製造方法を説明する模式説明図である。
【符号の説明】
【0041】
1、1′・・・熱プレス機
2、2′・・・伝熱性金属板
3・・・通湿性板
3a、3b、3c・・・通湿性材料(濾紙、不織布等)
4・・・抄き取った紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプを抄き込む抄き込み工程と抄き取った紙を乾燥する乾燥工程とを有する記録媒体形成用紙基材の製造方法であって、
前記乾燥工程は、抄き取った状態の紙を伝熱性の高い板と通湿性のある板で挟み込み、温度150℃以上、圧力100KPa以上の条件で、紙の水分量が7〜10%の範囲になるまで熱プレスすることを特徴とする記録媒体形成用紙基材の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2007−162184(P2007−162184A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−362876(P2005−362876)
【出願日】平成17年12月16日(2005.12.16)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】