説明

記録媒体

【課題】インクの発色性、特に水系顔料インクの発色性が良好な記録媒体を提供すること。
【解決手段】支持体と、該支持体上に無機微粒子およびバインダーを含有するインク受容層とを有する記録媒体であって、該インク受容層は、難溶強塩基性多価金属塩を含有し、該難溶強塩基性多価金属塩の含有量は、該インク受容層の全固形分に対して5質量%以上、20質量%以下であり、該インク受容層の紙面のpHが8.50以上、9.60以下であることを特徴とする記録媒体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録媒体などの記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
記録媒体、特にインクジェット記録媒体には、屋内だけでなく屋外のような厳しい環境下における画質の耐性が求められる。このようなニーズを満たすべく、現在では画像の耐候性、耐画像保存性を満足できる水系顔料インクが選択されるようになってきている。この中で、水系顔料インクのデメリットである発色を改善するための検討が従来から数多くなされている。
【0003】
例えば、特許文献1では二価金属の弱酸塩あるいは酸化物を受容層に含有させ、発色を改良することが提案されている。また、特許文献2では記録媒体の耐光性を改善する目的で2価以上の水溶性金属塩を含む記録媒体が開示されている。さらに、難溶性2価金属塩(水酸化カルシウム)を用いた比較例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平07−017086号公報
【特許文献2】特開平11−321090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の記録媒体では、確かに発色は改善しているものの、インクと多価金属の反応性が良好でないことが考えられ、発色が十分なレベルに達していないことがあった。特許文献2の記録媒体では2価以上の水溶性金属塩が、水を主成分とする塗工液に対して難溶性のため、記録媒体上に金属塩粒子が残存することがあり、受容層最表面で光散乱が増長されることにより発色性が低下することがあった。また、水系顔料インクは一般的にアルカリ性であり、記録媒体の水系顔料インクに対する発色性を向上させるためには、記録媒体の表面pHを大きくすることが求められる。しかし従来、水溶性金属塩には強塩基性の塩が存在せず、記録媒体表面のpHが小さくなる場合があり、発色性が低下することがあった。このように、特に水系顔料インクを用いた場合、水系染料インクに匹敵するような高発色が得られる記録媒体は未だ実現されていない。
【0006】
本発明は、上記事情に基づいてなされたものであり、インクの発色性、特に水系顔料インクの発色性が良好な記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の構成を有することを特徴とする。即ち本発明は、支持体と、該支持体上に無機微粒子およびバインダーを含有するインク受容層とを有する記録媒体であって、該インク受容層は、難溶強塩基性多価金属塩を含有し、該難溶強塩基性多価金属塩の含有量は、該インク受容層の全固形分に対して5質量%以上、20質量%以下であり、該インク受容層の紙面のpHが8.50以上、9.60以下であることを特徴とする記録媒体である。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、インクの発色性、特に水系顔料インクの発色性が良好な記録媒体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の記録媒体の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0011】
<<記録媒体>>
本発明の記録媒体は、支持体と、支持体の少なくとも一方の面上に、無機微粒子、バインダーおよび難溶強塩基性多価金属塩を含有するインク受容層とを有する。前記難溶強塩基性多価金属塩の含有量は、インク受容層の全固形分に対して5質量%以上、20質量%以下であり、インク受容層の紙面のpHは8.50以上、9.60以下である。記録媒体は、インクジェット記録媒体であることが好ましい。尚、本発明において、「難溶強塩基性多価金属塩」とは、20℃の水100gに対し溶解度が20g以下(難溶)の物質で、電離度が0.9以上、1.0以下の強塩基性を有する金属塩で、電離した際に二価以上の陽イオンを生ずるものである。なお、インク受容層の紙面のpHとは、pHメーター(製品名:F−51T、堀場製作所製)を用いて、インク受容層の上に純水40μリットルを滴下し、滴下部に機器を接触させて5点測定し、得られた平均値を意味する。本発明の記録媒体は、支持体およびインク受容層の他に支持体の裏側に設けるバックコート層や支持体とインク受容層の間に設ける下塗り層、易接着処理層、さらにインク受容層の上に設ける表面層などを有することができる。また、電離度とは酸、塩基の定義に対して便宜的に用いているものである。強酸性が自明な物質と中和する強塩基、強塩基性が自明な物質と中和する強酸はいずれも電離度が0.9以上、1.0以下である。
【0012】
尚、本発明の記録媒体において支持体上に設けられるインク受容層は1層であっても、複数の層であってもよい。また、本発明の記録媒体は、支持体の一方の面に上記インク受容層が設けられていても、支持体の両面上に上記インク受容層が設けられていても良い。以下、本発明の記録媒体が、支持体と、1層のインク受容層とからなる場合に着目して説明する。この場合、インク受容層が設けられた紙面のpHとは、インク受容層の紙面pHを意味する。
【0013】
図1は、本発明の記録媒体の一例を示す概略断面図であり、支持体(A)の一方の面上には、無機微粒子(C)、バインダー樹脂(図示していない)および難溶強塩基性多価金属塩(図示していない)で構成されるインク受容層(B)が形成されている。
【0014】
本発明の記録媒体のインク受容層の塗工量は、固形分質量で1.5g/m2以上40.0g/m2以下であることが好ましい。インク受容層の塗工量が固形分質量で40.0g/m2以下であれば、受容層の無機微粒子層数が多いことによってインク受容層が支持体で保持できなくなることを優れて防ぎ、紙の柔軟性、塗膜強度が損なわれることを優れて防ぐことができる。その結果、受容層のひび割れや塗工適性が得られなくなる等の諸課題が生じることを優れて防ぐことができる。一方、インク受容層の塗工量が固形分質量で1.5g/m2以上であれば、記録媒体の表面を上方から観察した際、支持体を隙間なく無機微粒子で覆うことができなくなることを優れて防ぐことができる。この結果、高発色性を得ることができる。このインク受容層の固形分質量とは、片面に関するインク受容層の固形分質量を表す。すなわち、本発明の記録媒体が支持体の一方の面上にのみインク受容層を有する場合、このインク受容層の固形分質量が1.5g/m2以上40.0g/m2以下であることを表す。また、本発明の記録媒体が支持体の両方の面上にインク受容層を有する場合、各インク受容層の固形分質量がそれぞれ1.5g/m2以上40.0g/m2以下であることを表す。ゆえに、本発明の記録媒体は、インク受容層の塗工量を固形分質量で1.5g/m2以上40.0g/m2以下にすることで、水系顔料インクに対して特に高発色なメディアを得ることができる。インク受容層の固形分質量は用いる無機微粒子(C)の平均2次粒子径により最適化するのが好ましい。
【0015】
インク受容層(B)の効果を更に詳しく述べる。水系顔料インクにおいて特に高発色の記録媒体を得るためには、インク受容層の膜厚または、無機微粒子およびバインターの質量比と固形分質量、無機微粒子の平均粒子径をある最適値に設計することが好ましい。最適値とは、例えば無機微粒子:バインダーの質量比が1.5:1.0〜2.5:1.0である。また、無機微粒子の数平均粒子直径(μm):インク受容層膜厚(μm)=1.0:2.5〜1.0:3.5である。それに加え、本発明では難溶強塩基性多価金属塩をインク受容層に用い、さらにインク受容層の紙面pHを特定の範囲に調整するため、従来の構成では実現できなかった水系顔料インクの良好な発色特性が得られる。この理由を以下に説明する。
【0016】
従来、色材定着の改良に用いられている金属塩は2価以上の水溶性の多価金属塩である。水溶性金属塩の具体例としては2価以上であれば、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化バリウム、塩化スズ、塩化亜鉛、硫酸マグネシウム、リン酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、硝酸バリウム、硝酸カルシウム等が挙げられる。一般的に金属塩に2価以上が用いられている理由は、1価の場合、顔料インクへの電気的作用が小さく十分な発色性が得られないからである。ゆえに、1価の金属塩で多価金属塩と同等の効果を引き出すためには金属塩を多量に使用する必要があり、結果として塗工液の特性や、記録媒体としての特性に影響をもたらすため現実的ではない。本発明に用いるインク受容層に1価ではなく多価金属塩を用いる理由も上記と同じである。
【0017】
一般的に「水溶性」の多価金属塩が発色性の改善に用いられる理由は以下のように考えられる。不溶または難溶の金属塩を用いた場合、金属塩の粒子が固体として記録媒体表面に残存する傾向があり、光が色材ではなく残存した金属塩の粒子により散乱される傾向がある。そのために記録媒体の発色性能が低下する傾向がある。
【0018】
しかしながら、本発明では難溶性の多価金属塩を用いて、従来の水溶性金属塩を用いた記録媒体よりも水系顔料インクにおいて高発色性が実現できる方法を見出した。すなわち、強塩基性を示す難溶性多価金属塩を、必要に応じて強酸などによって中和してインク受容層の紙面pHを8.50以上9.60以下とすることで高発色性を実現できる。なお、本明細書において「強酸」とは電離度が0.9以上、1.0以下の強酸性を持つ物質である。
上述したように、本発明に用いるインク受容層の紙面pHは、8.50以上、9.60以下であり、インク受容層を形成する塗工液(インク受容層用塗工液)のpHは8.5以上、12.0以下が好ましい。インク受容層の紙面pHおよびその塗工液のpHは、酸を加えることで適宜調整することができる。
【0019】
難溶強塩基性多価金属塩(必要に応じて強酸等を加える)を用いて、インク受容層の紙面pHを8.50以上9.60以下とすることで、高発色が実現できるメカニズムを以下にさらに詳しく説明する。
まず、水系顔料インクは自己分散系のマットブラックインクと樹脂分散系のカラー系インクの大きく2種類に分けることができる。一般的に、自己分散系のマットブラックインクは、難溶強塩基性多価金属塩が強酸などにより中和されずに固体粒子のまま記録媒体表面に適量存在すると発色性が優れる傾向がある。一方一般的に樹脂分散系のカラー系インクは、難溶強塩基性多価金属塩が強酸などにより中和されないと、金属塩粒子が記録媒体表面に固体粒子として残存する傾向があり、光散乱と金属塩の過大な凝集作用により印字領域にムラが発生し発色は低下する傾向がある。このように、難溶強塩基性多価金属塩を用いることは、定着および発色機構の異なるマットブラックインクおよびカラーインクの発色性の間には従来までトレードオフが存在した。
【0020】
本発明の記録媒体に難溶強塩基性多価金属塩を用いる理由として、従来の多価金属塩に比べ紙面pHをより強塩基にできることが挙げられる。水系顔料インクは保存性や分散性などが考慮され特殊なことがない限り、そのほとんどがアルカリ性に調整されるのが一般的である。難溶強塩基性多価金属塩を用いた場合、紙面pHが水系顔料インクのpHに近いアルカリ側になっていることで、インクの色材と溶媒の個液分離が効率よくおこなわれ、各インクに対して強い凝集効果が発現できると思われる。しかしながら、上述したように、樹脂分散系のカラー系インクは紙面pHが強塩基だったとしても難溶性多価金属塩の固体成分による光散乱や不均一な凝集による影響で画像にムラが発生する傾向が見られる。この光散乱と不均一な凝集とは難溶金属塩の固体成分を必要に応じて酸で中和することにより溶解もしくは金属塩粒子径の平均化を行う等して、インク受容層の紙面pHを8.50以上9.60以下とすることで、その影響を緩和することが可能となる。その結果、マットブラックインクの凝集効果は目減りし、その発色性が低下することもあるが、カラーの発色が大幅に改善し、マットブラックインクおよびカラーインクの発色性の間のトレードオフが解消するものと思われる。
【0021】
上記のように、従来は水溶性の多価金属塩では紙面pHを大きく上げるための強塩基性の塩は存在しなかった。一方、難溶性までに範囲を広げると多価金属塩でも強塩基性を示す物質が存在する。本発明に用いる難溶強塩基性多価金属塩としては、例えば、水酸化カルシウムや水酸化バリウムが挙げられる。仮に、従来のように水溶性の多価金属塩を用いると記録媒体の紙面pHは8.0以下となる。一方、難溶強塩基性多価金属塩を用いれば紙面pHを水溶性多価金属塩よりも大きくすることが可能となる。この場合、紙面pHがインクのpHに近い8.50以上となる。このpHの違いによって、本発明ではインクの色材と溶媒分が効率よく分離され発色が増加すると考えられる。
【0022】
本発明に用いるインク受容層の紙面pHは8.50以上、9.60以下であり、これを満たすことにより、樹脂分散系のカラーインクの発色を改善することができ、さらに上述したトレードオフが解消される。また、インク受容層用塗工液のpHは8.5以上、12.0以下が好ましい。インク受容層の紙面pHおよびインク受容層用塗工液のpHを調整するために、必要に応じて強酸または強酸性のカチオン重合体、もしくはその両方を添加することができる。インク受容層の紙面pHが9.60を超えた場合(例えば、強酸および強酸性のカチオン重合体の合計添加量が少なすぎる場合)難溶性強塩基性多価金属塩の効果が現れず、カラーインクの発色性が阻害される。一方、紙面pHが8.50未満の場合(例えば、強酸および強酸のカチオン重合体の合計添加量が多すぎる場合)、難溶性強塩基性多価金属塩の効果が薄れ、マットブラックの発色性が低下する。なお、「強酸のカチオン重合体」とは高分子の単位構造内に強酸が配位結合の形で存在するカチオン重合体であり、この強酸のカチオン重合体はその他の水溶性高分子やカチオン重合体と共重合構造をなしていても構わない。強酸のカチオン重合体としては、アリルアミンのNH2に塩酸を配位結合したポリアリルアミン塩酸塩や、その他、ポリアリルアミンアミド、アリルアミン酢酸塩ジアリルアミン酢酸塩共重合体、ポリアリルアミンアミド硫酸塩などを挙げることができる。
以上により、本発明は、インク受容層に難溶性強塩基性多価金属塩を含有し、紙面pHを特定の範囲に調整することでマットブラック、カラー系インクの発色が高水準で両立できる。
【0023】
次に、図1で示した、本発明の記録媒体の各層の材料構成について説明する。
【0024】
<支持体(A)>
本発明に用いられる支持体は、各種パルプに添加剤を適宜配合した紙料を原料とすることができる。各種パルプとしては、例えば、木綿パルプ、麻パルプ、三椏パルプ、楮パルプ、ワラパルプ、竹パルプ、バガスパルプ、葦パルプ、木材パルプ、および故紙パルプなどが挙げられる。また添加剤としては、炭酸カルシウム、タルク、クレー、カオリンなどの各種填料、澱粉、PVAなどのバインダー、サイズ剤、定着剤、歩留り剤、紙力増強剤などが挙げられる。この紙料を酸性、中性、アルカリ性の何れかの状態とし、長網抄紙機、円網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機などの各種抄紙機により抄紙することによって本発明に用いる支持体を得ることができる。このようにして得た支持体(A)は、更に表面性や密度を調整するために必要に応じて各種カレンダー処理を施すことができる。
【0025】
<インク受容層(B)>
(無機微粒子(C))
本発明に用いる無機微粒子(C)の平均2次粒子径は1μm以上20μm以下であることが好ましい。尚、平均2次粒子径はコールターカウンター法(ベックマンコールター株式会社、商品名:multisizer3を用いる)により体積平均径(体積頻度の平均となる直径)を測定し、算出することができる。無機微粒子の平均2次粒子径が20μm以下の無機微粒子を使用した場合、無機微粒子1つに対して鏡面反射の効果が現れることを優れて防ぎ、印字の際の表面のちらつき、記録媒体表面の粗さ、不均一を優れて防ぎ、高発色性を容易に実現できる。一方、平均2次粒子径が1μm以上の無機微粒子を使用した場合には、記録媒体の表面のインク吸収性が低下することを優れて防ぎ、従来以上の発色特性が得られなくなることを優れて防ぐことができる。さらに、無機微粒子の平均2次粒子径は1.5μm以上18μm以下がより好ましい。ここで、無機微粒子が無機微粒子の水分散液に対し、固形分濃度が5.0〜13.0%の範囲内の固形分質量である場合、前記範囲の平均2次粒子径を有することによって、より優れた高発色性を有することができる。
【0026】
インク受容層(B)中に添加する無機微粒子(C)としては、非晶質シリカ、アルミナ、アルミナシリカ複合ゾル粒子、炭酸カルシウム、カオリン、クレー等が挙げられる。これらの無機微粒子は、1種類又は複数種を混合して使用できる。これらの無機微粒子(C)の中でも安価で用意に手に入れることができる非晶質シリカを用いることが好ましい。非晶質シリカとしては、その製法から乾式法シリカ、気相法シリカ、ゾル法シリカ(コロイダルシリカ粒子)、沈降法やゲル法に属する湿式法シリカ等が挙げられる。特に、できるだけ低コストの材料で本発明の効果を得るためには、湿式法シリカが好適に使用できる。
【0027】
また、非晶質シリカの吸油量は200cm3/100g以上であることが好ましい。無機微粒子(C)として、吸油量が200cm3/100g以上の非晶質シリカを用いることにより、印字後の記録媒体は優れた画像特性を有することができる。なお、この吸油量は、JIS K 5101−13−2に従って測定することができる。
【0028】
(バインダー)
インク受容層(B)にはバインダーとして水溶性樹脂を含むことができる。また、バインダーは、エマルジョンの状態(エマルジョン樹脂)等で使用できる。水溶性樹脂としては例えば、ポリビニルアルコール及びその変性物、ポリビニルアセタール、ポリアクリロニトリル、酢酸ビニル、酸化デンプン、エーテル化デンプン、カゼイン、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、SB(スチレンブタジエン樹脂)、NB(ニトリルブタジエン)、アクリル樹脂、エチレン酢酸ビニル、ポリウレタン、不飽和ポリエステル樹脂、アクリル系樹脂等が挙げられる。上記バインダーの中でもインク吸収性と形成するインク受容層の強度の点からポリビニルアルコールが好ましく、そのインク受容層中の含有量はインク受容層(B)の全固形分質量に対して5質量%以上、40質量%以下が好ましい。インク受容層(B)中のポリビニルアルコール含有量がこの範囲内にあることによってインク受容層(B)の機械的強度が特に高くなると共に、特に良好なインク吸収性を維持することができる。
【0029】
上述したようにバインダーはエマルジョンの状態(エマルジョン樹脂)で使用することができ、例えば、アクリル系、ウレタン系、ポリエステル系、エチレン酢酸ビニル系、スチレンブタジエン系等の共重合体及びこれらの変性品等のエマルジョンを使用できる。また、これらのバインダーは、1種類又は複数種を混合して使用できる。
【0030】
(難溶強塩基性多価金属塩)
インク受容層(B)を構成する材料において最も重要なものは難溶強塩基性多価金属塩である。難溶強塩基性多価金属塩は、例えば、水酸化カルシウム、水酸化バリウムを挙げることができる。後述の実施例においては特に発色性が際立ってよい水酸化カルシウムを使用した。発色を向上させるために難溶強塩基性多価金属塩は単独で用いても良いし、その他の塩化マグネシウムや硝酸マグネシウムなどの多価金属と混合して用いてもよい。また、難溶強塩基性多価金属塩のインク受容層中の含有量はインク受容層(B)の全固形分質量に対して5質量%以上、20質量%以下である。インク受容層(B)中の難溶強塩基性多価金属塩の含有量がこの範囲内にあることによってインク受容層(B)の良好なインク吸収性と発色性を維持することができる。5質量%以上であれば、難溶強塩基性多価金属塩の面内均一性が得られずにムラが発生することを防ぐことができる。20質量%以下であると、必要に応じて行う強塩基の多価金属塩と強酸の中和による塗工液の水分量の増加と生成塩の増加による金属塩粒子の記録媒体表面の残存を防ぎ、色材を経ることなく入射光を散乱させて発色性が低下することを防ぐ。また、塗工液の実質の固形分量が低下することを防ぎ、原紙への既定量の塗布ができなくなることを防ぐことができる。ゆえに、難溶強塩基性多価金属塩のインク受容層中の含有量はインク受容層(B)の全固形分質量に対して5質量%以上、20質量%以下である。
【0031】
(強酸および強酸カチオン重合体)
本発明に用いる難溶強塩基性多価金属塩は、必要に応じて強酸および強酸カチオン重合体の少なくとも一方により中和することができる。強酸は、上述したように電離度が0.9以上、1.0以下の公知の酸であればいずれでも用いることができる。例えば、塩酸、硫酸、硝酸、メタンスルホン酸などであるが塗工機への腐食影響を考えた場合、メタンスルホン酸が好んで用いられる。これらの酸は単独で用いても複数を混合して用いてもよい。ここに代表的な酸を挙げたがこれらに限定されるわけではない。
【0032】
強酸のカチオン重合体は、高分子の単位構造内に強酸が配位結合の形で存在するカチオン重合体であり、この強酸のカチオン重合体は例えばポリビニルアルコールのようなその他の水溶性高分子と共重合構造をなしていても構わない。製品として世に多く流通している点、および薬品を取り扱う際に安全性が特に高いという点から、強酸のカチオン重合体は特にアミン系塩酸塩が好ましい。アミン系塩酸塩とは、アミンのNに対し塩酸が配位結合した物質の総称であり、その代表例としてポリアリルアミン塩酸塩、ポリアミンスルホン塩酸塩、ポリビニルアミン塩酸塩等を挙げることができるが、これらに限定されるわけではない。
【0033】
強酸および強酸カチオン重合体のインク受容層中の合計含有量は、インク受容層の紙面pHが8.50以上、9.60以下、インク受容層用塗工液のpHが8.5以上、12.0以下になるように添加、調整することができる。強酸および強酸カチオン重合体の添加調整後のインク受容層の紙面pHが8.50未満の場合、マットブラックの顔料発色性に対して難溶強塩基性多価金属塩の効果が薄れ、良好なインク吸収性と発色性を維持することができなくなる。逆に、強酸および強酸カチオン重合体の添加調整後のインク受容層の紙面pHが9.60を越える場合、難溶強塩基性多価金属塩が紙面上に多く残存する。それにより、カラーインクに対しては光散乱効果と凝集効果とが過大となるため、定着ムラ、凝集ムラが発生する場合がある。ゆえに、受容層の紙面pHは8.50以上9.60以下とする。また、塗工液のpHが8.5以上12.0以下であれば発色性を特に維持することができる。すなわち、実際の製造操作では、強酸および強酸カチオン重合体の合計添加量は塗工液のpHを基準に適宜その量を決定する。
【0034】
また、強酸と強酸カチオン重合体とは上記のようなものを単独で用いるだけでなく、複数同時に添加することも可能であり、その組み合わせはこれらに限定されるわけではない。
【0035】
(その他の添加材料)
更に、インク受容層(B)中には、上記成分以外に、本発明の効果を損なわない範囲で必要に応じて、以下のような添加材料を添加してもよい。例えば、pH調整剤、耐水化剤、顔料分散剤、増粘剤、消泡剤、抑泡剤、離型剤、蛍光染料、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、界面活性剤、防腐剤、インク定着剤、アミン系塩酸塩以外のカチオン性樹脂、浸透剤等である。
【0036】
(P/B比)
P/B比とは本発明では無機微粒子とバインダーの固形分質量比のことでありインク受容層(B)中の、無機微粒子の含有割合は40質量%以上、80質量%以下である。また、50質量%以上が好ましい。さらに、70質量%以下であるのが好ましい。無機微粒子の含有割合が80質量%以下であれば、インク受容層の塗膜強度低下を優れて防ぎ、記録媒体の表面が擦過されることで無機微粒子の粉落ちが発生することを優れて防ぐ。また、無機微粒子の含有割合が40質量%以上であれば、インク吸収容量・吸収スピードが低下して良好な印字画像が得られなくなることを優れて防ぐことができる。
【0037】
<インク受容層用塗工液の塗工方式>
インク受容層は、上記材料(無機微粒子、バインダーおよび難溶強塩基性多価金属塩、必要に応じて強酸、強酸のカチオン重合体およびその他の添加剤料)を含有する塗工液を準備した後、この塗工液を、支持体上に塗工して得ることができる。この塗工液の塗工方法としては、エアーナイフコーティング法、グラビアコーティング法、ブレードコーティング法、バーコーティング法、ロールコーティング法、ロッドバーコーティング法、スロットダイコーティング法等、カーテンコーティング法、サイズプレス法等を用いることができる。なお、塗工液の塗工は支持体の抄紙工程の中、オンラインで行っても良いし、抄紙後オフラインで塗工しても良い。
【0038】
<インクジェット記録方法>
本発明の記録媒体には、インクジェット記録方法によって、インク受容層側に水系顔料インクを付与して、画像を形成することができる。この具体的な方法としては、インクを微細孔(ノズル)より効果的に離脱させて、記録媒体にインクを付与し得る方法であればいかなる方法でも良い。これらの中でも特に、特開昭54−59936号公報に記載されている方法を特に有効に使用することができる。この方法では、熱エネルギーの作用を受けたインクが急激な体積変化を生じ、この体積変化による作用力によって、インクをノズルから吐出させるものである。尚、このインクジェット記録方法には、水系インクとして水系顔料インクを単独で用いても、水系染料インクと水系顔料インクを併用して用いても良い。
【0039】
<インクジェット記録用の水系顔料インク>
本発明の記録媒体に用いることのできるインクジェット記録方法には水系顔料インクを使用することが好ましい。以下に、本発明の記録媒体にインクジェット記録方法により記録を行う際に使用する水系顔料インクの好ましい形態に関して説明する。
【0040】
水系顔料インクは水及び顔料を含有し、これ以外にも必要に応じて水溶性有機溶剤及びその他の成分を含有することができる。例えば、水系顔料インク中には必要に応じて、粘度調整剤、pH調整剤、防腐剤、界面活性剤、酸化防止剤等を含むことができる。上記各種成分の他にアニオン性界面活性剤、又はアニオン性高分子などアニオン性化合物を含有するのが好ましい。また、両性界面活性剤をその等電点以上のpHに調整して含有しても良い。
【0041】
この際に使用されるアニオン性界面活性剤の例としては、カルボン酸塩型、硫酸エステル型、スルホン酸塩型、燐酸エステル型など一般に使用されているものを使用することができる。また、アニオン性高分子の例としては、アルカリ可溶型の樹脂、具体的には、ポリアクリル酸ソーダ、および高分子の一部にアクリル酸を共重合したもの等を挙げることができるが、これらに限定されるわけではない。
【0042】
インクジェット記録方法に使用する水系顔料インク中の顔料の含量は、インクの全質量に対して質量比で1質量%以上、20質量%以下が好ましく、2質量%以上、12質量%以下がより好ましい。
【0043】
黒色インクに使用される顔料としてはカーボンブラックが挙げられる。このカーボンブラックとしては例えば、ファーネス法、チャネル法で製造されたものであって、一次粒子径が15μm以上40μm以下、BET法による比表面積が50m2/g以上、300m2/g以下、DBP吸油量が40cm3/100g以上、150cm3/100g以下、揮発分が0.5質量%以上、10質量%以下、pH値が2以上、9以下の特性を有するものが好ましい。
【0044】
本発明で使用される顔料の市販品としては、例えば、特開2002−254615号公報に記載されたような市販の顔料が挙げられる。
【0045】
水系顔料インク中に含有させる分散剤としては、水溶性樹脂ならどのようなものでも使用することができる。中でも、重量平均分子量が1000以上、30000以下のものが好ましく、3000以上、15000以下の範囲のものがより好ましく使用される。このような分散剤として、具体的には、スチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン、ビニルナフタレン誘導体、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸の脂肪族アルコールエステル等、アクリル酸、アクリル酸誘導体、マレイン酸、マレイン酸誘導体、イタコン酸、イタコン酸誘導体、フマール酸、フマール酸誘導体、酢酸ビニル、ビニルピロリドン、アクリルアミド、およびその誘導体等から選ばれた少なくとも2つ以上の単量体(このうち少なくとも1つは親水性単量体)からなるブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体、ならびにこれらの塩等が挙げられる。また、ロジン、シェラック、デンプン等の天然樹脂も好ましく使用することができる。これらの樹脂は、塩基を溶解させた水溶液に可溶であり、アルカリ可溶型樹脂である。尚、これらの顔料分散剤として用いられる水溶性樹脂は、水系顔料インク中にインク全質量に対して0.1質量%以上、5質量%以下の範囲で含有させるのが好ましい。
【0046】
更に、水系顔料インクはインク全体が中性又はアルカリ性に調整されていることが好ましい。このように調整することにより、顔料分散剤として使用される水溶性樹脂の溶解性を向上させ、長期保存安定性に一層優れたインクとすることができる。水系顔料インクのpHは7以上、10以下とすることが好ましい。
【0047】
上記のように水系顔料インク中のpHを調整するpH調整剤としては、例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の各種有機アミン、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム等アルカリ金属の水酸化物等の無機アルカリ剤、有機酸や鉱酸等が挙げられる。
【実施例】
【0048】
以下に本発明の実施例をあげて説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではい。また、以下に記述される「%」または「部」は、特に断りのない限り質量基準である。
【0049】
(実施例1)
塗工液の作製:
無機微粒子として、非晶質シリカ粉末(トクヤマ社製、商品名:F80(平均2次粒子径1.8μm))をイオン交換水中に攪拌しながら混合して固形分濃度10%の非晶質シリカ分散液を得た。この非晶質シリカ分散液を(固形分で)100質量部と、バインダーとして、ポリビニルアルコール(クラレ社製、商品名:PVA117)の10%水溶液を(固形分で)38.5質量部と、難溶強塩基性多価金属塩として水酸化カルシウム粉末(キシダ化学社製)をイオン交換水中に添加、攪拌して調製した水溶液(固形分で)23.1質量部とを混合攪拌し、固形分8%の混合液を得た。これに強酸であるメタンスルホン酸(MSA)70%水溶液を(固形分で)10.9質量部加え最終的にpHが11.78の塗工液1を得た。
【0050】
抄紙とインク受容層の形成:
支持体として坪量80g/m2の中性パルプ原紙を用い、この支持体上に、上記塗工液1を乾燥質量(塗工量)が、1.5g/m2となるように塗工および乾燥させた。これにより、支持体と紙面pHが9.59の1層のインク受容層とからなる記録媒体を得た。
【0051】
(実施例2)
塗工液1を作製する際にMSAを10.9質量部加える代わりにMSAを21.6質量部加えた以外は実施例1と同様にしてpHが9.40の塗工液2を作製した。塗工液1を塗工液2に変更した以外は実施例1と同様にして、支持体と紙面pHが9.03のインク受容層とからなる記録媒体を得た。
【0052】
(実施例3)
塗工液1を作製する際にMSAを10.9質量部加える代わりにMSAを35.1質量部加えた以外は実施例1と同様にしてpHが8.62の塗工液3を作製した。塗工液1を塗工液3に変更した以外は実施例1と同様にして、支持体と紙面pHが8.54のインク受容層とからなる記録媒体を得た。
【0053】
(実施例4)
塗工液1を作製する際に水酸化カルシウム粉末を23.1質量部加える代りに38.6質量部加えたことと、MSAを10.9質量部加える代わりにMSAを61.1質量部加えたこと以外は実施例1と同様にしてpHが9.75の塗工液4を作製した。塗工液1を塗工液4に変更した以外は実施例1と同様にして、支持体と紙面pHが9.17のインク受容層とからなる記録媒体を得た。
【0054】
(実施例5)
塗工液1を作製する際にMSAを10.9質量部加える代わりにアミン系塩酸塩としてカチオン性樹脂(日東紡社製、商品名:PAA−HCl−10L)10%水溶液を(固形分で)23.1質量部加えた。それ以外は実施例1と同様にしてpHが9.55の塗工液5を作製した。塗工液1を塗工液5に変更した以外は実施例1と同様にして、支持体と紙面pHが9.00のインク受容層とからなる記録媒体を得た。
【0055】
(実施例6)
塗工液5を作製する際にカチオン性樹脂の質量部数を23.1質量部から76.9質量部に変更した以外は実施例5と同様にしてpHが9.38の塗工液6を作製した。塗工液1を塗工液6に変更した以外は実施例1と同様にして、支持体と紙面pHが8.72のインク受容層とからなる記録媒体を得た。
【0056】
(実施例7)
塗工液1を作製する際にMSAを10.9質量部加える代わりにMSAを20.0質量部加えた。また、塗工液1にカチオン性樹脂(日東紡社製、商品名:PAA−HCl−10L)10%水溶液を(固形分で)23.1質量部さらに加えた。それら以外は実施例1と同様にしてpHが8.60の塗工液7を作製した。塗工液1を塗工液7に変更した以外は実施例1と同様にして、支持体と紙面pHが8.51のインク受容層とからなる記録媒体を得た。
【0057】
(実施例8)
塗工液1を作製する際の非晶質シリカ粉末を同質量部数の別の非晶質シリカ粉末(トクヤマ社製、商品名:X60、平均2次粒子径6.0μm)に変更し、MSAを10.9質量部加える代わりにMSAを20.0質量部加えた。それら以外は実施例1と同様にしてpHが9.59の塗工液8を作製した。支持体上にこの塗工液8を乾燥質量5.0g/m2となるよう支持体上に塗工および乾燥した以外は実施例1と同様にして、支持体と紙面pHが9.24のインク受容層とからなる記録媒体を得た。
【0058】
(比較例1)
実施例1の塗工液1にMSAと水酸化カルシウム粉末とを加えなかったこと以外は実施例1と同様にしてpHが6.69の塗工液9を作製した。塗工液1を塗工液9に変更した以外は実施例1と同様にして、支持体と紙面pHが6.71のインク受容層とからなる記録媒体を得た。
【0059】
(比較例2)
塗工液1を作製する際にMSAを加えなかったこと以外は実施例1と同様にしてpHが12.40の塗工液10を作製した。塗工液1を塗工液10に変更した以外は実施例1と同様にして、支持体と紙面pHが10.07のインク受容層とからなる記録媒体を得た。
【0060】
(比較例3)
塗工液1を作製する際にMSAを10.9質量部加える代わりにMSAを4.8質量部加えた以外は実施例1と同様にしてpHが12.30の塗工液11を作製した。塗工液1を塗工液11に変更した以外は実施例1と同様にして、支持体と紙面pHが9.87のインク受容層とからなる記録媒体を得た。
【0061】
(比較例4)
塗工液1を作製する際にMSAを10.9質量部加える代わりにMSAを39.7質量部加えた以外は実施例1と同様にしてpHが8.26の塗工液12を作製した。塗工液1を塗工液12に変更した以外は実施例1と同様にして、支持体と紙面pHが8.33のインク受容層とからなる記録媒体を得た。
【0062】
(比較例5)
塗工液1を作製する際に水酸化カルシウム粉末を23.1質量部加える代りに7.69質量部加えたことと、MSAを10.9質量部加える代わりにMSAを9.2質量部加えたこと以外は実施例1と同様にしてpHが9.29の塗工液13を作製した。塗工液1を塗工液13に変更した以外は実施例1と同様にして、支持体と紙面pHが9.69のインク受容層とからなる記録媒体を得た。
【0063】
(比較例6)
塗工液1を作製する際に水酸化カルシウム粉末を23.1質量部加える代りに100.0質量部加えたことと、MSAを10.9質量部加える代わりにMSAを300.0質量部加えたこと以外は実施例1と同様にしてpHが9.53の塗工液14を作製した。塗工液1を塗工液14に変更した以外は実施例1と同様にして、支持体と紙面pHが9.78のインク受容層とからなる記録媒体を得た。
【0064】
(比較例7)
塗工液1を作製する際に水酸化カルシウム粉末を水溶性弱酸多価金属塩である同質量部数の酢酸マグネシウムに変更したことと、MSAを加えなかったこと以外は実施例1と同様にしてpHが6.92の塗工液15を作製した。塗工液1を塗工液15に変更した以外は実施例1と同様にして、支持体と紙面pHが7.00のインク受容層とからなる記録媒体を得た。
【0065】
(比較例8)
塗工液15を作製する際に酢酸マグネシウムを水溶性弱酸多価金属塩である同質量部数の硝酸カルシウムに変更した以外は比較例7と同様にしてpHが7.19の塗工液16を作製した。塗工液1を塗工液16に変更した以外は実施例1と同様にして、支持体と紙面pHが7.02のインク受容層とからなる記録媒体を得た。
【0066】
(比較例9)
塗工液15を作製する際に酢酸マグネシウムを水溶性弱酸多価金属塩である同質量部数の硫酸マグネシウムに変更した以外は比較例7と同様にしてpHが6.31の塗工液17を作製した。塗工液1を塗工液17に変更した以外は実施例1と同様にして、支持体と紙面pHが6.53のインク受容層とからなる記録媒体を得た。
【0067】
(比較例10)
塗工液15を作製する際に酢酸マグネシウムを水溶性弱酸多価金属塩である同質量部数の酢酸カルシウムに変更した以外は比較例7と同様にしてpHが6.90の塗工液18を作製した。塗工液1を塗工液18に変更した以外は実施例1と同様にして、支持体と紙面pHが6.99のインク受容層とからなる記録媒体を得た。
【0068】
(比較例11)
塗工液15を作製する際に酢酸マグネシウムを水溶性弱酸多価金属塩である同質量部数の硝酸マグネシウムに変更した以外は比較例7と同様にしてpHが7.13の塗工液19を作製した。塗工液1を塗工液19に変更した以外は実施例1と同様にして、支持体と紙面pHが7.07のインク受容層とからなる記録媒体を得た。
【0069】
(比較例12)
塗工液15を作製する際に酢酸マグネシウムを難溶性弱酸多価金属塩である同質量部数の硫酸カルシウムに変更した以外は比較例7と同様にしてpHが7.37の塗工液20を作製した。塗工液1を塗工液20に変更した以外は実施例1と同様にして、支持体と紙面pHが7.52のインク受容層とからなる記録媒体を得た。
【0070】
(比較例13)
塗工液15を作製する際に酢酸マグネシウムを難溶性弱塩基多価金属塩である同質量部数の水酸化マグネシウムに変更した以外は比較例7と同様にしてpHが9.34の塗工液21を作製した。塗工液1を塗工液21に変更した以外は実施例1と同様にして、支持体と紙面pHが8.88のインク受容層とからなる記録媒体を得た。
【0071】
(比較例14)
塗工液15を作製する際に酢酸マグネシウムを強塩基性1価金属塩である同質量部数の水酸化ナトリウムに変更した以外は比較例7と同様にしてpHが10.62の塗工液22を作製した。塗工液1を塗工液22に変更した以外は実施例1と同様にして、支持体と紙面pHが9.60のインク受容層とからなる記録媒体を得た。
【0072】
(比較例15)
塗工液5を作製する際に水酸化カルシウム粉末を加えなかったこと以外は実施例5と同様にしてpHが5.23の塗工液23を作製した。塗工液1を塗工液23に変更した以外は実施例1と同様にして、支持体と紙面pHが5.89のインク受容層とからなる記録媒体を得た。
【0073】
(比較例16)
塗工液5を作製する際のカチオン性樹脂を同質量部数のアニオン性樹脂(日東紡社製、商品名:PAA−15C)に変更した以外は実施例5と同様にしてpHが12.50の塗工液24を作製した。塗工液1を塗工液24に変更した以外は実施例1と同様にして、支持体と紙面pHが10.12のインク受容層とからなる記録媒体を得た。
【0074】
特性評価:
上記のようにして得た各記録媒体について、下記特性を評価した。
【0075】
<顔料インク発色性(黒)>
水系顔料インク用のプリンターとしてキヤノン株式会社製 imagePROGRAF 5000(商品名)を用いた。このプリンターを使用して、上記で得られた各記録媒体に対して、顔料マットブラックインク(商品名:PFI−101 MBK)でインク打込み量150%のベタ画像(1200×2400dpi)を印字した。この後、24時間室内で放置し、十分に乾燥させた記録媒体の印字面の印字濃度を測定した。なお、この測定には、Spectrodensitometer(商品名:500 Series、X Rite.Inc)を使用した。この際、水系顔料インクの打込み量150%における印字濃度を以下の基準に従い評価した。
1.50未満:××、
1.50以上、1.55未満:×、
1.55以上、1.60未満:△、
1.60以上、1.75未満:○、
1.75以上:◎。
【0076】
<顔料インク発色性(カラー)>
水系顔料インク用のプリンターとしてキヤノン株式会社製 imagePROGRAF 5000(商品名)を用いた。このプリンターを使用して上記で得られた各記録媒体に対して、カラー系インクの代表として顔料マゼンタインク(商品名:PFI−101 M)を選択し、インク打込み量150%のベタ画像(1200×2400dpi)を印字した。この後、24時間室内で放置し、十分に乾燥させた記録媒体の印字面の印字濃度を測定した。なお、この測定には、Spectrodensitometer(商品名:500 Series、X Rite.Inc)を使用した。この際、水系顔料インクの打込み量150%における印字濃度を以下の基準に従い評価した。
1.30未満:××、
1.30以上、1.35未満:×、
1.35以上、1.40未満:△、
1.40以上、1.45未満:○、
1、45以上:◎。
また、印字面の発色のムラについても以下の基準に従い評価した。
ベタ画像印字面に発色のムラがある:×、
ベタ画像印字面に発色のムラがない:◎。
【0077】
【表1】

表1の実施例1〜8の結果が示すように、本発明の記録媒体は、水系顔料インクを用いたインクジェット記録において、黒、カラーともに良好な顔料発色性能が得られる。
【0078】
比較例1の記録媒体は、難溶強塩基性多価金属塩を含まないので水系顔料インクを用いたインクジェット記録において、黒、カラーともに良好な発色性が得られなかった。比較例2の記録媒体は、難溶強塩基性多価金属塩を含むが、強酸および強酸のカチオン重合体の少なくとも一方でpH調整を行わず、インク受容層の紙面pHが9.60を超えている。このため、水系顔料インクを用いたインクジェット記録において、黒の発色性は良好な結果を示したがカラー画像で難溶強塩基性多価金属塩による光散乱、または凝集ムラが生じ、カラーに関する発色が低下している。比較例3の記録媒体は、難溶強塩基性多価金属塩を含むが金属塩の中和効果が現れる量、すなわちインク受容層の紙面pHを9.60以下にする量まで強酸を添加しなかった。このため、水系顔料インクを用いたインクジェット記録において、黒の発色性は良好であったが、カラーの発色性は実施例に比較して劣り、かつ比較例2と同様、ムラが発生している。比較例4の記録媒体は、難溶強塩基性多価金属塩を含むが金属塩を強酸で中和し過ぎたために、紙面pHが大きく下がってしまっている。このため、水系顔料インクを用いたインクジェット記録において、カラーの発色、ムラは良好だが、中和による金属塩の凝集効果の減退で黒の発色が低下している。比較例5、6の記録媒体は、難溶強塩基性多価金属塩を含むが、インク受容層の紙面pHが9.60を超えており、カラーのベタムラが発生している。一方でカラーの発色は良好である。比較例7、8、9、10、11の記録媒体では、加えた金属塩が難溶強塩基性多価金属塩ではなく水溶性で弱酸の多価金属塩を用いているので水系顔料インクを用いたインクジェット記録において、黒の発色は良好な結果が得られなかった。また、カラーに対しても比較例7〜9、11は実施例に劣る結果である。比較例12の記録媒体は、難溶強塩基性多価金属塩の代わりに、難溶性ではあるが弱酸の多価金属塩を用いているので水系顔料インクを用いたインクジェット記録において、黒、カラーの発色はともに良好な結果が得られなかった。比較例13の記録媒体は、難溶強塩基性多価金属塩の代わりに、難溶性ではあるが弱塩基の多価金属塩を用いているので水系顔料インクを用いたインクジェット記録において、黒、カラーの発色はともに良好な結果が得られなかった。比較例14の記録媒体は、難溶強塩基性多価金属塩の代わりに、強塩基性ではあるが、難溶性ではない1価の金属塩を用いているので水系顔料インクを用いたインクジェット記録において、黒、カラーの発色はともに良好な結果が得られなかった。比較例15の記録媒体は、実施例5、6、7で使用した強酸性のカチオン重合体の単独性能を比較したものである。水系顔料インクを用いたインクジェット記録において、多価金属塩を添加しないと発色性に改善は見られなかった。比較例16の記録媒体は、難溶強塩基性多価金属塩を含むが強酸および強酸性のカチオン重合体の少なくとも一方で紙面pHを調整せず、アニオン性重合体を加え紙面pHを上げて、9.60を超えた例である。このため、水系顔料インクを用いたインクジェット記録において、紙面pHがアルカリ側になっていることで個液分離が促進されると考えられ、黒の発色性は良好な結果を示した。しかし、カラーに関しては多価金属塩が存在しない為に画像にムラが生じ、発色が低下している。
【符号の説明】
【0079】
A 支持体
B インク受容層
C 無機微粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と、該支持体上に無機微粒子およびバインダーを含有するインク受容層とを有する記録媒体であって、
該インク受容層は、難溶強塩基性多価金属塩を含有し、該難溶強塩基性多価金属塩の含有量は、該インク受容層の全固形分に対して5質量%以上、20質量%以下であり、
該インク受容層の紙面のpHが8.50以上、9.60以下であることを特徴とする記録媒体。
【請求項2】
前記インク受容層が、強酸のカチオン重合体を含有する請求項1に記載の記録媒体。
【請求項3】
前記強酸のカチオン重合体が、アミン系塩酸塩である請求項2に記載の記録媒体。
【請求項4】
前記難溶強塩基性多価金属塩が、水酸化カルシウムである請求項1〜3のいずれか1項に記載の記録媒体。

【図1】
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【公開番号】特開2011−126080(P2011−126080A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−285168(P2009−285168)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】