説明

記録媒体

【課題】pHが経時で推移し、高い光沢性と、印字部光沢性を維持したまま耐水性を備えた記録媒体を提供すること。
【解決手段】支持体上に少なくとも1層のインク受容層と、最表層に光沢発現層とをこの順に有する記録媒体であって、該記録媒体に水が付着し、該記録媒体の紙面pHがアルカリ性になった後、該記録媒体の紙面pHが酸性になる記録媒体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録媒体などの記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法で用いられるインクは一般に、溶剤を主な組成としたソルベントインク、水を主な組成とした水性インクが用いられるが、環境への配慮、溶剤の人体への影響面などの理由から、一般には水性インクが良いとされている。
水性インクは主成分を水として、溶媒や色材等が含まれている。インクジェット記録用紙では、水性インクでの印字後における保存性が重要視されている。
例えば、印字後に水が記録用紙表面にかかってしまった場合、インクで印字した部分がにじんだり、色が落ちてしまうことがある。これは水性インクの色材が記録媒体表面に定着されていないために起こる。定着させるためには、色材を記録媒体上で凝集させて水に対して不溶化させると良い。色材が不溶化することで、にじみや色落ちが減少し、耐水性は向上する。
インク色材の不溶化について明瞭なことはわからないが、インクジェット記録方法に用いられる水性インク中の色材は一般的にアニオン性で、負の電荷により安定している。これが正の電荷の影響を受けることで電荷が中和され色材が凝集し、水に不溶化すると言われている。
しかしながら、凝集が発生する際、印字部分の表面に微細な凹凸が発生し、高光沢、高平滑な記録用紙を用いても、印字部分の光沢性が低下してしまうことがある。これは、記録媒体表面の酸性が強く、インク液滴が記録媒体に接触した直後に凝集が即座に起こってしまったためだと言える。
そこで、特許文献1では原紙の両面をポリオレフィン樹脂で被覆した樹脂被覆紙を選択し、インク受容層のうちの少なくとも最表層に一次粒子の平均粒子径が100nm以下のシリカを含有させ、白地部分の光沢感を出したインクジェット記録媒体が提案されている。また、水性インクを用いた場合に、最表層の表面pHが8以上であることで、以下の知見が示されている。即ち、インク中の分散体(着色剤)が被記録面に不自然に固着して生じる分散体固着部分(印刷部分)が被記録面から不自然に盛り上がったような状態になることを防ぎ、印字部の高い光沢感を伴いつつ、高い画像濃度を両立している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−186413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の最表層の紙面(表面)pHは8以上であり、この紙面pHは、指示薬を滴下してから10秒経過時点での最表層の紙面pHであり、最終的に安定した紙面pHによっては、光沢感は良好でも耐水性が低下することがある。
【0005】
一般的に紙面pHの測定方法としては、pH値が安定した段階での値を読み取る方法や、測定開始後数十秒時点での指示薬の色を確認してpH値を確認する方法がある。少なくとも1層のインク受容層と最表層に光沢発現層とを設け、pHの違う層をそれぞれ積層した記録媒体であれば、以下のような場合がある。すなわち、インク液滴を落とした時、水や不揮発成分等の溶媒が、最表層からインク受容層へ浸透する過程を最表層の紙面pHで測定すると、測定開始から10分程度の時間でpHが著しく変化する場合がある。層の積層状態によっては、pHが極小値や極大値を持ってから安定することもある。
最表層とインク受容層とを積層し、最表層がアルカリ性の層で、かつ、最表層に隣接するインク受容層が酸性の層である記録媒体であって、さらに、短時間で最表層の紙面pH値が変化し、pH安定時の特性の違いについて確認されたものは従来なかった。
本発明の目的は、pHが経時で推移し、高い光沢性と、印字部光沢性を維持したまま耐水性を備えた記録媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明により、支持体上に少なくとも1層のインク受容層と、最表層に光沢発現層とをこの順に有する記録媒体であって、該記録媒体に水が付着し、該記録媒体の紙面pHがアルカリ性になった後、該記録媒体の紙面pHが酸性になる記録媒体が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、pHが経時で推移し、高い光沢性と、印字部光沢性を維持したまま耐水性を備えた記録媒体が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の記録媒体は、蒸留水およびイオン交換水などの水が最表層に付着した瞬間から最表層の紙面pHが上昇した後に極大値を持ち、水のpH以下で最表層の表面pHが安定することができる。また、最表層の紙面pHが上昇し、極大値を持った後にpHが下降し、pHが3以上6以下の酸性領域でpHが安定することができる。
【0009】
本発明の層構成にすることで、最表層の表面pHの挙動は、水滴のpHよりも上昇した後に極大値を持ち、酸性で安定することができる。これは、インク液滴を最表層に落とした場合、最表層から隣接するインク受容層へと浸透する過程で、紙面pHがアルカリ性から酸性へと変化するためである。
このような記録媒体を作製する場合、一般的に、酸性のインク受容層の最表面に、水酸化ナトリウム水溶液のような、水性のアルカリ成分を付与することが考えられる。しかしながら、この場合、インク受容層の紙面pHが上昇した後に極大値を持ち水滴のpH以下で安定するのではなく、インク受容層の紙面pHは酸性あるいはアルカリ性に傾いたまま安定する。この理由は、アルカリ成分が酸性のインク受容層の内部に浸透してしまうためだと考えられる。つまり、インク受容層の上に水性のアルカリ成分を付与する方法は付与されたアルカリ成分のアルカリ性の強弱によって、最表面のpHを任意の値に調整する方法であり、最表面のpHをアルカリ性から酸性へと変化させるための方法ではないと考えられる。
最表層に水溶性樹脂を用いた場合、乾燥後に空隙が形成されるコロイド状の樹脂を用いた場合および無機微粒子を用いた場合と、水性のアルカリ成分をそれらの最表面に付与した場合とを比較してみると、違いが見られた。
【0010】
ポリビニルアルコールなどの水溶性樹脂を最表層に用いた場合、膜が再溶解してしまうことがあり、表面pHはアルカリ性に振れることなく酸性側で安定した。また、アルカリ性のポリウレタン樹脂などのコロイド樹脂を最表層に用いた場合、表面pHはアルカリ性に振れることなく酸性側で安定した。しかしながら、コロイド樹脂を用いて最表層を形成した後、その最表面に水性のアルカリ成分を付与した場合、最表層の紙面pHは一旦アルカリ性に振れ、極大値を持ち、その後下降した。アルカリ性のコロイダルシリカ粒子などの無機微粒子を用いた場合、最表層の紙面pHはアルカリ性に振れることなく酸性側で安定した。同様に、コロイダルシリカを用いて最表層を形成した後、その最表面に水性のアルカリ成分を付与した場合も、最表層の紙面pHは一旦アルカリ性に振れた後、極大値を持ち、その後下降した。
最表層にコロイド粒子を含む場合、最表層を形成した後でその表面に水性のアルカリ成分を付与すると、前述した1層のインク受容層に水性のアルカリ成分を付与した場合とは異なり、アルカリ成分の浸透が最表層に近い部分で起こる。これは、最表層がコロイド粒子により形成されるために、アルカリ成分を保持する特性が加わり、隣接するインク受容層までアルカリ成分が浸透しにくくなったと考えられる。
よって、最表層にコロイド粒子を用いることで、隣接するインク受容層の影響を少なくしたまま、最表層の紙面pHをアルカリ性で保持できることがわかった。また、最表層のアルカリ成分のアルカリ性の強さによって、pH変化に差が出ることが考えられるが、これは、インク液滴が最表層から隣接する層へ浸透しやすいかどうか、最表層に保持されたアルカリ成分と、隣接するインク受容層の酸性度のバランスで決まる。
つまり、最表層の紙面pHが上昇した後に下降し、酸性側へと推移する観点から、最表層と、最表層に隣接する酸性のインク受容層とを形成し、積層構造を有する記録媒体とすることが好ましい。また、記録媒体の最表層は、アルカリ成分が表層に特に保持される、コロイド粒子からなるアルカリ性の層であることが好ましい。
次に、耐水性に関しては、インクが定着しているかどうかで決まる。本発明の場合、インク液滴が最表層に付着した瞬間は、紙面pHはアルカリ性であるが、極大値を経た後、時間経過と共に紙面pHが酸性に傾くため、耐水性も兼ね備えたインクジェットメディア記録用紙となることができる。最表層の紙面pHがアルカリ性で安定したものと比べて、耐水性は改善されている。
【0011】
印字部光沢性に関して、光沢発現層を設けずインク受容層の最表面の酸性成分を多くし、即座にインク凝集を起こすと、インクの粒状感が目立ち、印字部光沢の低下につながる場合がある。本発明の場合、光沢発現層を設けるため、最表層の紙面pHが上昇した後、少しずつ下降して酸性側で安定し、インクの固着がゆっくりと進む。安定する紙面pHが同じ値の場合、直接酸性側で安定した場合よりも、最表層の紙面pHが上昇した後、少しずつ下降して酸性側で安定した場合の方が、インク凝集スピードが遅くなり、光沢面上の印字部光沢感は良くなると考えられる。
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明の記録媒体は、支持体の上に、少なくとも1層のインク受容層と最表層に光沢発現層とをこの順に有する記録媒体であって、これらの層を順次積層して得ることができる。本発明の記録媒体はインクジェット記録媒体として使用することができる。
【0013】
(支持体)
本発明で用いられる支持体は、特に限定しないが、光沢感を出すため、非吸水性のものが好ましく、特に表面平滑度が高いシート状の非吸水性の基材であることが好ましい。実質的には、ポリエステル系樹脂、ジアセテート系樹脂、トリアテセート系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエチレンテレフタラートフィルム、不透明フィルム、透明フィルム、白色フィルム、ポリオレフィン樹脂被覆層を有する樹脂被覆紙等が挙げられるが、その中でも、ポリエチレンテレフタレートフィルムおよび樹脂被覆紙が好ましく用いられる。
支持体の厚みは特に制限はないが、30μm以上250μm以下が好ましい。30μm以上の場合は、部分的にヨレやシワが発生することを優れて防ぎ、波打ちしやすくなることを優れて防ぐことができる。また250μm以下の場合、基材の剛性が高くなることを優れて防ぎ、扱いにくくなることも防ぐことができる。また、印字の際、記録装置との接触が起こりやすくなることを優れて防ぎ、カスレや汚れを引き起こすことを優れて防ぐことができる。
また、特にポリオレフィン被覆紙のような、吸水性の基紙を持ち、基紙の表面が非吸水性かつ非透気性のシートにした樹脂被覆紙である場合、基紙の厚みに関しては特に制限は無いが、80μm以上150μm以下の厚さが好ましい。
基紙を構成するパルプとして、天然パルプ、再生パルプ、合成パルプ等があり、これらのうち1種、または2種以上混合して抄紙する。基紙中には、一般に製紙分野で用いられるサイズ剤、紙力増強剤、填料、帯電防止剤、蛍光増白剤、染料等の添加剤が配合されても良い。
基紙を被覆するポリオレフィン樹脂としては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリペンテンなどのオレフィンのホモポリマーまたはエチレン−プロピレン共重合体などのオレフィンの2つ以上からなる共重合体、または、これらの混合物で、密度、溶融粘度指数(メルトインデックス)の異なるものを混合して使用してもよい。
樹脂被覆紙は、走行する基紙上にポリオレフィン樹脂を加熱溶融した状態で流延する、
押出コーティング法で得ることができる。樹脂の被覆はインク受容層の形成される片面、または両面に行うことができるが、カール防止の点から、両面が被覆される方が好ましい。
また、ポリオレフィン樹脂を基紙に被覆する前には、基紙にコロナ放電処理、火炎処理などの活性化処理を施しておくことが好ましい。また、ポリオレフィン樹脂被覆後の表面または両面には、必要に応じて、コロナ放電処理、火炎処理などの活性処理を施してもよい。
【0014】
非吸水性の支持体上にインク受容層を設ける場合は、ポリオレフィン被覆紙の易接着処理としてのコロナ放電、または、水溶性ゼラチンの塗布を行うのが好ましい。
被覆により形成されるポリオレフィン樹脂層の厚みとしては特に制限は無いが、ラミネート量は5μm以上50μm以下が好ましく、得られるポリオレフィン被覆紙の坪量は85g/m2以上250g/m2以下が好ましい。
【0015】
(インク受容層)
本発明に用いるインク受容層は、前記支持体の上に層を形成する。層は1層以上であり、顔料、結着剤としてのバインダーおよびインク定着剤を含むことができる。後述の紙面pH試験において、光沢発現層に隣接するインク受容層の表面pHが測定開始10分後にpH3以上6以下を示すことが好ましい。
顔料としては、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、カオリン等の白色顔料が選択できる。特にシリカやアルミナについては、粒子が細かく、光沢感を出すのに適しているため好ましい。特にその中でも、分散性に優れる気相法シリカが好ましい。気相法シリカの平均一次粒子径は2nm以上7nm以下が好ましく、この範囲の平均一次粒子径である場合、インク受理層の透明性が特に高くなり、かつ塗料に配合した際の安定性が特に良好となるので好ましい。気相法シリカの平均一次粒子径が7nm以下の場合、インク受理層の不透明性が増すことを優れて防ぎ、インクジェットプリンターで印字した場合の印字濃度が低下する等が生じることを優れて防ぐことができる。また、気相法シリカの平均一次粒子径が2nm以上の場合、インク受理層の良好な透明性および印字濃度を有するとともに、塗料の安定性が劣ることを優れて防ぎ、塗工性が低下することも優れて防ぐことができる。
【0016】
バインダーは特に制限はなく、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体をはじめ、公知の水溶性バインダーが使用できる。ポリビニルアルコールは、いずれのタイプのものを使用してもよく、又は2種類以上のポリビニルアルコールを併用してもよい。ポリビニルアルコールは、ケン化度が高いほど操業性が向上するため、ケン化度は80%以上であることが好ましい。また、重合度が高くなると、顔料インク印字時の印字濃度が向上するためポリビニルアルコールの重合度は1000以上であることが好ましい。
【0017】
インク定着剤には、カチオン性化合物を用いるのが好ましい。インク溶液に含まれる色材は通常アニオン性であるため、カチオン性化合物の使用により、色素を十分に定着させることができる。このようなカチオン性化合物としては、以下のものが挙げられる。
例えば、1)ポリエチレンポリアミンやポリプロピレンポリアミンなどのポリアルキレンポリアミン類またはその誘導体、2)第2級アミノ基、第3級アミノ基や第4級アンモニウム基を有するアクリル重合体、3)ポリビニルアミンおよびポリビニルアミジン類、4)ジシアンジアミド・ホルマリン共重合体に代表されるジシアン系カチオン性化合物、5)ジシアンジアミド・ポリエチレンアミン共重合体に代表されるポリアミン系カチオン性化合物、6)エピクロルヒドリン・ジメチルアミン共重合体、7)ジアリルジメチルアンモニウム−SO2重縮合体、8)ジアリルアミン塩−SO2重縮合体、9)ジアリルジメチルアンモニウムクロライド重合体、10)ジアリルジメチルアンモニウムクロライド−アクリルアミド共重合体、11)アリルアミン塩の共重合体、12)ジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレート4級塩共重合体、13)アクリルアミド・ジアリルアミン共重合体、14)アクリロニトリルとN−ビニルアクリルアミジン塩酸塩重合体のような5員環アミジン構造を有するカチオン性樹脂およびその加水分解物のようなポリアミジン系樹脂等のカチオン性化合物等。
【0018】
インク受容層中の顔料と、結着剤およびインク定着剤との比率は、顔料100質量部に対して、結着剤およびインク定着剤の合計質量部数が5質量部以上50質量部以下であることが好ましい。結着剤およびインク定着剤の配合量が50質量部以下であれば、顔料インクの発色性が向上するとともに、インク吸収性が低下することを優れて防ぐことができる。結着剤およびインク定着剤の量が5質量部以上であれば、層の接着力が低下することを優れて防ぎ、粉落ちや受容層のハガレ等が発生するのを優れて防ぐことができる。
【0019】
インク受容層を形成する塗布液(インク受容層用塗布液と呼ぶ)には、顔料、結着剤およびインク定着剤の他に、増粘剤、消泡剤、抑泡剤、顔料分散剤、離型剤、発泡剤、蛍光染料、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定化剤、防腐剤、pH調整剤、耐水化剤、染料定着剤、界面活性剤、保水剤等、公知の種々の添加剤を本発明の効果を損なわない範囲で添加しても良い。
インク受容層用塗布液のpHの制限はないが、pHは3以上6以下に調製するのが好ましい。
【0020】
(光沢発現層)
本発明に用いる光沢発現層は、前記インク受容層の上に形成する。光沢発現層は、コロイド粒子からなることができ、樹脂バインダーを含むこともできる。コロイド粒子とは、ある物質が他の物質に混じった時に、ナノサイズの大きさの粒子となって均一に分散している状態の粒子のことを指す。また、光沢発現層はコロイド粒子、すなわちコロイドの固形分を含むことができ、その光沢発現層を形成するためにコロイドを使用する。コロイドを含む光沢発現層用塗布液をインク受容層上に塗布および乾燥して、コロイドの固形分を含む光沢発現層とすることができる。
本発明では、光沢感を出すため、光沢発現層に、特に粒子径200nm以下のコロイダルシリカ粒子、すなわちコロイダルシリカの固形分と樹脂バインダーとを含むことが好ましい。
コロイダルシリカは、酸性で分散したコロイダルシリカ、アルカリ性で分散したコロイダルシリカが挙げられるが、本発明では、アルカリ領域で安定なアニオン性コロイダルシリカを用いるのが好ましい。また、コロイダルシリカ粒子の粒子径が200nm以下であると、光沢感が損なわれることを優れて防ぐことができる。
光沢発現層に用いられる樹脂バインダーは、特に制限はしないが、pHが7以上10以下のエマルジョンの状態で用いるのが好ましい。エマルジョンとは、分散質分散媒が共に液体である分散系溶液のことで、一般に乳濁液とも言われる。特に樹脂エマルジョンと呼ばれるものは、分散質部分が樹脂に相当する。例えば、ポリウレタン樹脂を水系媒体に分散または乳化したものを、ポリウレタン樹脂水分散液と呼ぶ。
エマルジョンもナノサイズの大きさの粒子となって均一に分散している状態であれば、コロイドであり、本発明の光沢発現層に好ましく使用できる形態である。最表層中のコロイダルシリカ粒子と樹脂バインダーの質量比は特に制限しないが、コロイダルシリカ粒子100質量部に対して、樹脂バインダーは5質量部以上30質量部以下が好ましい。バインダーが5質量部以上であれば、コロイダルシリカ粒子の接着力に欠けるのを優れて防ぐことができる。また40質量部以下添加すると、耐水性が低下することを優れて防ぐことができる。
光沢発現層用塗布液のpHは、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム、塩化アンモニウム等、公知のアルカリでpH調製しても良い。光沢発現層用塗布液のpHは7以上12以下に調製するのが好ましい。
【0021】
(塗工方法)
各塗布液の塗工方法としては、ブレードコーター、エアナイフコーター、ロールコーター、ブラッシュコーター、キスコーター、スクイズコーター、カーテンコーター、ダイコーター、バーコーター、グラビアコータ、ゲートロールコーター、ショートドウェルコーター等の公知の塗工機をオンマシン、あるいはオフマシンで用いた塗工方法の中から適宜選択することができる。また、塗工はインク受容層の塗布液と光沢発現層の塗布液を、同時塗工を行っても良いし、順番に積層してもよい。
重要なのは、層が積層された後、隣接する層の界面の上下でそれぞれの層が独立して機能することである。特に光沢発現層の塗布液のpHを7以上12以下のアルカリ性に調整することが好ましく、かつ隣接するインク受容層の紙面pHを3以上6以下になるように塗布液の量を調整することが好ましい。
光沢発現層の塗布液は、水溶性のアルカリ成分を加えてpHを調整することができる。また、光沢発現層に隣接するインク受容層の塗布液は、酸性成分を加えてpHを調整することができる。
【0022】
(紙面pH)
紙面pHは、JAPAN.TAPPI紙パルプ試験方法No.49−1で求めることができる。準備物として、湿潤液には、一般的に、蒸留水、イオン交換水、または0.1mol/L濃度の塩化カリウム水溶液を使用することが知られている。0.1mol/L濃度の塩化カリウム水溶液は、pHのばらつきが少なく、測定時の再現性もよいとしている例もある。しかしながら、本発明で使用する湿潤液には、イオン効果によるpHの影響を避けるため、蒸留水またはイオン交換水を使用することが好ましい。
【0023】
一般的な測定方法は、紙の湿潤面(例えば、最表層の表面、およびインク受容層の表面)上に電極を接触させた後、ストップウォッチなどで一定時間後のpH値を読み取る。紙の種類によりpH値が平衡に達する時間が異なるため、時間は任意に設定してよく、一般には1〜2分程度の時間経過後に測定することが多い。
本発明の紙面pH値の測定は、pHの経時変化を捉えることが重要なため、前記測定方法とは異なり、測定対象の表面(例えば、光沢発現層、およびインク受容層)に水が付着した瞬間(測定開始時点とする)を0秒として10秒経過毎にpH値を測定する。
【実施例】
【0024】
以下に実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、もちろんこれらに限定され
るものではない。また、例中の「部」および「%」は特に断らない限り、「質量部」および「質量%」を示す。なお、各例では、インクジェット記録媒体を作製した。
【0025】
[支持体]
<原紙の作製>
パルプ(広葉樹晒クラフトパルプと針葉樹晒サルファイトパルプとの1:1の混合物)を水存在下、カナディアン スタンダード フリーネスで300mlになるまで叩解し、パルプスラリーを調製した。これに以下の材料を添加し、水で希釈して固形分濃度1%スラリーとした。この材料とは、サイズ剤としてアルキルケテンダイマーを対パルプ0.5質量%、強度剤としてポリアクリルアミドを対パルプ1.0質量%、カチオン化澱粉を対パルプ2.0質量%、ポリアミドエピクロロヒドリン樹脂を対パルプ0.5質量%である。このスラリーを長網抄紙機で坪量170g/m2になるように抄造し、乾燥調湿してポリオレフィン樹脂被覆紙の原紙とした。
【0026】
<ポリオレフィン樹脂被覆紙の作製>
密度0.918g/cm3の低密度ポリエチレン100質量%の樹脂に対して、10質量%のアナターゼ型チタンを均一に分散したポリエチレン樹脂組成物を作製した。そのポリエチレン樹脂組成物を320℃で溶融し、抄造した上記原紙の一方の面に、200m/分で厚さ35μmになるように押出コーティングし、微粗面加工されたクーリングロールを用いて押出被覆した。続いて、密度0.962g/cm3の高密度ポリエチレン樹脂70質量部および密度0.918g/cm3の低密度ポリエチレン樹脂30質量部のブレンド樹脂組成物を作製した。そのブレンド樹脂組成物を同様に320℃で溶融し、原紙のもう一方の面に、厚さ30μmになるように押出コーティングし、粗面加工されたクーリングロールを用いて押出被覆した。
【0027】
両面を被覆した原紙表面に高周波コロナ放電処理を施した後、下引き層をゼラチンが50mg/m2となるように塗布乾燥して支持体であるポリオレフィン樹脂被覆紙を作製した。
【0028】
[インク受容層]
<シリカ分散液の作製>
水に気相法シリカ(平均一次粒子径7nm、比表面積300m2/g)100部を添加し予備分散液を作成した後、高圧ホモジナイザーで処理して、固形分濃度20%のシリカ分散液を製造した。
【0029】
<インク受容層用塗布液の作製>
以下の組成のインク受容層用塗布液を作製した。
・前記シリカ分散液 100部(固形分換算)。
・ポリビニルビニルアルコール(ケン化度88%、平均重合度3500) 20部。
・ホウ酸 4部。
・カチオン性ポリマーとしてジメチルジアリルアンモニウムクロライド(第一工業製薬(株)製、商品名:シャロールDC902P、分子量9000) 2部。
【0030】
[光沢発現層]
<塗布液1の作製>
コロイダルシリカ(アニオン性球状コロイダルシリカ:日産化学工業(株)社製、商品名:スノーテックス 20、平均一次粒径10〜20nm、pH=9.7)100部(固形分換算)に対し、ポリビニルアルコール(ケン化度88%、平均重合度3500)4部を加えた。固形分濃度を水で5%に調整し、塗布液1を得た。
【0031】
<塗布液2の作製>
コロイダルシリカ(アニオン性球状コロイダルシリカ:日産化学工業(株)社製、商品名:スノーテックス YL、平均一次粒径50〜80nm、pH=9.6)100部(固形分換算)に対し、ポリビニルアルコール(ケン化度88%、平均重合度3500)4部を加えた。固形分濃度を水で5%に調整し、塗布液2を得た。
【0032】
<塗布液3>
WLS−201(商品名、ポリウレタン樹脂水分散液:大日本インキ化学工業株式会社製、ハイドラン、平均粒径50nm、pH=8.0)の固形分濃度を水で5%に調整し、塗布液3を得た。
【0033】
[実施例1]
ポリオレフィン樹脂被覆紙上に、硝酸でpHが3.5となるように調製したインク受容層用塗布液を、乾燥重量で30g/m2になるようにバーコーターで塗工し、110℃オーブンで30分間乾燥した。その上部に光沢発現層として塗布液1を100部(固形分換算)に対し塗布液3を40部(固形分換算)配合した光沢発現層用塗布液を、乾燥重量で2g/m2になるようにバーコーターで塗工して60℃オーブンで1分間乾燥して、インクジェット記録媒体を得た。
【0034】
[実施例2]
実施例1の光沢発現層用塗布液中の塗布液3の質量部数を固形分換算で40部から25部に変更した以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録媒体を得た。
【0035】
[実施例3]
実施例1の光沢発現層用塗布液に、水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを10に調整した以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録媒体を得た。
【0036】
[実施例4]
実施例2の光沢発現層用塗布液に、水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを10に調整した以外は、実施例2と同様にしてインクジェット記録媒体を得た。
【0037】
[実施例5]
実施例1の光沢発現層用塗布液の乾燥重量を2g/m2から1.2g/m2に変更した以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録媒体を得た。
【0038】
[実施例6]
実施例5の光沢発現層用塗布液中の塗布液1を、固形分換算で同質量部数の塗布液2に変更した以外は、実施例5と同様にしてインクジェット記録媒体を得た。
【0039】
[実施例7]
実施例1の光沢発現層用塗布液を、塗布液1のみからなる光沢発現層用塗布液に変更し、塗布液3は加えなかった。それ以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録媒体を得た。
【0040】
[実施例8]
実施例7の光沢発現層用塗布液を、塗布液2のみからなる光沢発現層用塗布液に変更した。それ以外は実施例7と同様にしてインクジェット記録媒体を得た。
【0041】
[実施例9]
実施例8の光沢発現層用塗布液をインク受容層に塗布した後、その上に、pHを10に調整した水酸化ナトリウム水溶液をwet量(乾燥していないウェットの状態での塗布量)で20g/m2となるように、バーコーターでオーバーコートした。それ以外は、実施例8と同様にしてインクジェット記録媒体を得た。
【0042】
[実施例10]
実施例8の光沢発現層用塗布液をインク受容層に塗布した後、その上に、pHを12に調整した水酸化ナトリウム水溶液をwet量で20g/m2となるように、バーコーターでオーバーコートした。それ以外は、実施例8と同様にしてインクジェット記録媒体を得た。
【0043】
[比較例1]
実施例1の光沢発現層用塗布液を塗布液3のみからなる光沢発現層用塗布液に変更し、塗布液1は加えなかった。また、光沢発現層用塗布液の乾燥重量を1.2g/m2に変更した。それ以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録媒体を得た。
【0044】
[比較例2]
比較例1の光沢発現層用塗布液の乾燥重量を1.2g/m2から0.6g/m2に変更した以外は、比較例1と同様にしてインクジェット記録媒体を得た。
【0045】
[比較例3]
比較例2の光沢発現層用塗布液をインク受容層に塗布した後、その上に、pHを12に調整した水酸化ナトリウム水溶液をwet量で20g/m2となるように、バーコーターでオーバーコートした以外は、比較例2と同様にしてインクジェット記録媒体を得た。
【0046】
[比較例4]
実施例1の光沢発現層用塗布液をポリビニルアルコール水溶液に変更し、その乾燥重量を1.2g/m2とした。それ以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録媒体を得た。
【0047】
[比較例5]
実施例1の光沢発現層用塗布液をインク受容層に塗布する替わりに、pHを10に調整した水酸化ナトリウム水溶液をwet量で20g/m2となるようにバーコーターでインク受容層にオーバーコートし、光沢発現層は設けなかった。それ以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録媒体を得た。
【0048】
[比較例6]
比較例5の水酸化ナトリウム水溶液のpHを10から12に変更した以外は、比較例5と同様にしてインクジェット記録媒体を得た。
【0049】
[比較例7]
実施例1の光沢発現層を形成しなかった以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録媒体を得た。
【0050】
(評価方法)
各インクジェット記録媒体の(白地部分)光沢度、印字部光沢度、耐水性、pH推移を以下の方法にて評価した。印字評価にはCanon製プリンタiPF5100(商品名)を使用した。
【0051】
<(白地部分)光沢度および印字部光沢度>
各インクジェット記録媒体の白地部分および印字部の光沢感を目視評価した。結果を表1に示す。
◎:十分に光沢がある
○:光沢がある
△:やや光沢がある
<耐水性>
Canon製プリンタiPF5100(商品名)で印字し、平置きの状態で24時間静止させた後、印字部に水滴を落とし、1分間静止させ、ティッシュペーパーで拭き取った。結果を表1に示す。
◎:耐水性に優れる。
○:耐水性がある。
△:やや耐水性がある。
×:耐水性がない。
【0052】
<紙面pH>
紙面pH測定は、J.TAPPI紙パルプ試験方法No.49−1:ガラス電極法で求めた。pHが6.2のイオン交換水を用意し、0.05mlの水滴をメディア表面に落とした。紙面に水滴が付着した瞬間(測定開始時点とした)を0秒として10秒ずつ計600秒間測定した。ガラス電極pH計はフラット形pH電極 6261−10C(商品名、株式会社 堀場製作所製)を、pH測定には、HORIBA pH Meter F−22(商品名、株式会社 堀場製作所製)を使用した。表1には、pHの最大値と600秒後の実測値を記載した。また、紙面に水滴が付着した瞬間からpHが上昇した場合を○、上昇しなかった場合を×とし、測定中のpH最大値よりpHが下降した場合を○、下降しなかった場合を×とした。
【0053】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に少なくとも1層のインク受容層と、最表層に光沢発現層とをこの順に有する記録媒体であって、
該記録媒体に水が付着し、該記録媒体の紙面pHがアルカリ性になった後、該記録媒体の紙面pHが酸性になる記録媒体。

【公開番号】特開2011−161722(P2011−161722A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−25521(P2010−25521)
【出願日】平成22年2月8日(2010.2.8)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】