説明

記録用インク、並びに、インクカートリッジ、インク記録物、インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法

【課題】 送風による予備乾燥を行うインクジェット記録装置に用いられ、普通紙に対する画像品質、高速記録、及び両面記録性に優れた記録用インク、並びに、該記録用インクを用いたインクカートリッジ、インク記録物、インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法の提供。
【解決手段】 記録後の記録媒体の記録面に風を当てて予備乾燥するための送風手段を少なくとも備えたインクジェット記録装置に用いられ、少なくとも着色剤と、湿潤剤と、界面活性剤と、浸透剤とを含有する記録用インクであって、前記記録用インクの25℃の粘度η(mPa・s)と、前記記録用インクの25℃の表面張力γ(mN/m)とが、次式、γ/η≦5を満たすと共に、前記粘度ηが4〜20mPa・sであり、かつ前記表面張力γが20〜36mN/mであることを特徴とする記録用インクである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送風による予備乾燥を行うインクジェット記録装置に用いられ、普通紙に対する画像品質、高速記録、及び両面記録性に優れた記録用インク、並びに、該記録用インクを用いたインクカートリッジ、インク記録物、インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンタ、ファクシミリ、複写装置等の画像形成装置として、インクジェット記録装置が知られている。このインクジェット記録装置は、記録ヘッドから紙等の記録媒体にインクを吐出して記録を行うものであり、高精細な画像を高速で記録することができ、ランニングコストが安く、騒音が少なく、しかも、多色のインクを使用してカラー画像を記録するのが容易であるなどの利点を有している。
【0003】
このようなインクジェット記録のインクとしては、一般的に、水と、着色剤と、目詰まり防止等の目的で添加されるグリセリン等の湿潤剤と、記録紙への浸透性を制御する浸透剤と、その他の添加剤とを含有したものが用いられている。
前記水系インクを用いたインクジェット記録では、液体インクが記録媒体に浸透することで定着するため、吸収特性の向上、着色成分の紙面への定着、着色成分の保護機能を持つインクジェット専用紙が開発されている。しかし、前記インクジェット専用紙は抄紙後の多段の塗布工程が経るためコストが高く、また、加工薬剤を多く使用しているので普通紙に比べてリサイクル性も劣っている。このため、普通紙上で充分な画質を得ることが望まれている。
【0004】
前記普通紙は、前記インクジェット専用紙に比べてインク吸収性が劣り、専用紙のようにインク性能を補助しないため、(1)色境界にじみの発生、(2)文字品位の低下、(3)濃度の低下、(4)発色性の低下、(5)耐水性の低下、(6)耐光性の低下、(7)耐ガス性の低下、(8)定着性の低下、(9)コックリングカールの発生、及び(10)インクの裏抜けの発生、などの問題点がある。
これらの問題点を解決することが、普通紙に対するインクジェット記録にとって重要課題となっている。
【0005】
近年、顔料の分散性の改良や粒径の微小化が行われ、インクジェット用インクに使用されるケースが多くなってきている。例えば、カーボンブラック等の顔料を用いることで、前記(5)、(6)、及び(7)を改善できるが、顔料は染料に比べて濃度や発色性が劣っており、また、吐出安定性、長期保存性、及び再分散性などの信頼性の面でも劣っている。このため、着色剤として顔料を用いる場合には、インクの信頼性を向上させることが課題となっている。
【0006】
これらの問題に対処するため、着色されたポリマー粒子、特にポリエステル系ポリマー粒子やビニル系ポリマー粒子のエマルジョンを用いたインクジェット記録用インクが多数提案されている(特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8、特許文献9、特許文献10、特許文献11、特許文献12、特許文献13、特許文献14、特許文献15、特許文献16、特許文献17、特許文献18、特許文献19、特許文献20、特許文献21、特許文献22、特許文献23、特許文献24、特許文献25、特許文献26、特許文献27、特許文献28、特許文献29、及び特許文献30等参照)。
【0007】
これらの先行技術には、着色剤を水に不溶で分散性の樹脂に内包した着色剤内包樹脂分散体を含有するインクが含まれる。また、着色剤としてカラー有機顔料を用いた場合には、従来公知のインク処方では普通紙上での画像濃度、色再現性は水溶性分散剤を用いた顔料インクよりも優れており、着色剤内包顔料粒子の微小粒径化などのアプローチから発色性も染料に近づきつつある。また、信頼性は染料に劣るが経時変化としての顔料の沈降は押さえられており、顔料インクの高色材濃度化も可能となってきている。
【0008】
また、浸透性による画質向上方法としては、超浸透性のインク処方が従来から提示されており、前記(1)の解決策となっている。しかし、超浸透性のインク処方では文字がボヤけた状態となり、前記(2)への解決策とはなっていない。
また、特許文献31には、粘度の高いインク(5〜15mPa・s)が高画質を確保するには必要であるという提案がある。この提案は、顔料を用いたときの前記(1)、(2)、(3)、及び(4)に対する解決方法ともいえる。
【0009】
また、普通紙画質を向上させる方法として、インク付着量を下げずに、より速く乾燥速度を上げることで、普通紙に対する前記(1)、(2)、(8)、(9)、及び(10)の問題を解決する方法が試みられている。
前記乾燥速度を上げる方法としては、(a)インクに揮発成分を添加させること、(b)プリンタに乾燥機構を持たせること、の2種類の方法が考えられる。
前記(a)の場合、容易に乾燥性を上げることができるが、ヘッドのインクノズル部のメニスカスも乾燥しやすくなってしまい粘度上昇を引き起こし、安定吐出に悪影響を及ぼしてしまう。また、揮発成分は有機化合物であるため印字環境も悪化させてしまい、水系インクを用いている利点が失われてしまう。また、顔料を用いたオンデマンドインクジェットシステムでは、信頼性の面から問題点が多い。
【0010】
前記(b)の場合には、ヒータ等を装置に組みこむことで実現可能であるが、装置が複雑になってしまうという欠点がある。例えば、プラテンを加熱し熱伝導させて記録媒体を加熱する方法(特許文献32、特許文献33、特許文献34、特許文献35、及び特許文献36参照)、赤外線を用いる方法(特許文献37参照)、加熱ローラーを用いた定着装置を用いる方法(特許文献38、及び特許文献39参照)、などが提案されている。
しかし、前記プラテンを用いる方法は記録媒体との熱伝導性が均一にならないこと、前記赤外線を用いたものでは多大な電力が必要なこと、前記定着装置を用いる方法では装置が大掛かりになることが問題視されている。また、印字前後に加熱を行うことは、廃熱や輻射熱によって記録媒体のみならずヘッド面に熱をかけることとなる。更に、このようにヘッド面に対して熱がかかることはメニスカスの乾燥を促すこととなり、吐出安定性を低下させるという欠点がある。
【0011】
また、特許文献40には、ヘッド面を熱反射面とすることで熱に対する影響を抑えることが提案されている。しかし、この提案では、インクの記載がなされておらず、ヘッド面を熱反射面とすることだけで信頼性が充分になるとは言い難い。このような水系インクを使用しつつ熱定着機構を有するインクジェット用プリンタは、機構も複雑で信頼性に問題点を抱えているが、高速印字や両面印字時の画質向上などの利点を有するため、複数上市されている。
しかし、熱定着機構を有したオンデマンドインクジェットプリンタは、電子写真方式と同等以上の巨大な装置となっており、印写プロセスがコンパクトなインクジェット方式の利点を損ない、また、このような熱定着の過程を経ることは普通紙に対する問題解決に繋がるが、ヘッド近傍への熱によるノズルへの信頼性に不安がある。
【0012】
このように強い熱を必要としない予備乾燥を行うインクジェット記録装置については、未だ充分に検討されておらず、また、このようなインクジェット記録装置に適したインクは提案されていない。また、簡易に低エネルギーで使用可能な予備乾燥方法として送風によるものが考えられるが、送風による予備乾燥を行うインクジェット記録装置に用いられる記録用インク及びその関連技術は、未だ提供されていないのが現状である。
【0013】
【特許文献1】特開2000−191972号公報
【特許文献2】特開2000−191968号公報
【特許文献3】特開2000−191967号公報
【特許文献4】特開2000−53900号公報
【特許文献5】特開2000−53899号公報
【特許文献6】特開2000−53898号公報
【特許文献7】特開2000−53897号公報
【特許文献8】特開2000−44852号公報
【特許文献9】特開2000−26775号公報
【特許文献10】特開2000−7963号公報
【特許文献11】特開2000−7962号公報
【特許文献12】特開平9−241565号公報
【特許文献13】特開平9−217030号公報
【特許文献14】特開平9−183932号公報
【特許文献15】特開平9−183931号公報
【特許文献16】特開平9−286939号公報
【特許文献17】特開平9−157565号公報
【特許文献18】特開平10−46082号公報
【特許文献19】特開平10−46092号公報
【特許文献20】特開平10−60327号公報
【特許文献21】特開平10−273610号公報
【特許文献22】特開平10−279851号公報
【特許文献23】特開平10−298462号公報
【特許文献24】特開平10−298467号公報
【特許文献25】特開平11−217528号公報
【特許文献26】特開平10−338829号公報
【特許文献27】特開平10−316918号公報
【特許文献28】特開平11−256083号公報
【特許文献29】特開平11−323226号公報
【特許文献30】特許第3065950号公報
【特許文献31】特開2001−262025号公報
【特許文献32】特開昭55−69464号公報
【特許文献33】特開昭55−84670号公報
【特許文献34】特開昭58−72460号公報
【特許文献35】特開昭62−130863号公報
【特許文献36】特開昭62−130864号公報
【特許文献37】特開昭57−120447号公報
【特許文献38】特開平3−169644号公報
【特許文献39】特開平6−184478号公報
【特許文献40】特開平11−123828号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであり、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、送風による予備乾燥を行うインクジェット記録装置に用いられ、普通紙に対する画像品質、高速記録、及び両面記録性に優れた記録用インク、並びに、該記録用インクを用いたインクカートリッジ、インク記録物、インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 記録後の記録媒体の記録面に風を当てて予備乾燥するための送風手段を少なくとも備えたインクジェット記録装置に用いられ、少なくとも着色剤と、湿潤剤と、界面活性剤と、浸透剤とを含有する記録用インクであって、
前記記録用インクの25℃の粘度η(mPa・s)と、前記記録用インクの25℃の表面張力γ(mN/m)とが、次式、γ/η≦5を満たすと共に、前記粘度ηが4〜20mPa・sであり、かつ前記表面張力γが20〜36mN/mであることを特徴とする記録用インクである。
<2> 着色剤が顔料であり、該顔料がその表面に少なくとも1種の親水基を有し、分散剤の不存在下で水分散乃至水溶性の少なくともいずれかを示す前記<1>に記載の記録用インクである。
<3> 着色剤が、ポリマー微粒子に水不溶乃至水難溶性の色材を含有させてなるポリマーエマルジョンである前記<1>に記載の記録用インクである。
<4> 着色剤の記録用インクにおける含有量が、固形分濃度で、5〜15質量%である前記<1>から<3>のいずれかに記載の記録用インクである。
<5> 湿潤剤が、温度20℃、相対湿度60%の環境下、平衡水分量が25質量%以上である多価アルコールの少なくとも2種である前記<1>から<4>のいずれかに記載の記録用インクである。
<6> 多価アルコールがグリセリンであり、かつ該グリセリンの湿潤剤における含有量が50質量%以上である前記<5>に記載の記録用インクである。
<7> 湿潤剤の記録用インクにおける含有量が、固形分濃度で、10〜50質量%である前記<1>から<6>のいずれかに記載の記録用インクである。
<8> 界面活性剤が、アニオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤の少なくともいずれかである前記<1>から<7>のいずれかに記載の記録用インクである。
<9> 界面活性剤の記録用インクにおける含有量が、0.01〜5質量%である前記<1>から<8>のいずれかに記載の記録用インクである。
<10> 浸透剤の記録用インクにおける含有量が、0.1〜5質量%である前記<1>から<9>のいずれかに記載の記録用インクである。
<11> シアンインク、マゼンタインク、イエローインク及びブラックインクから選択される少なくとも1種である前記<1>から<10>のいずれかに記載の記録用インクである。
<12> 前記<1>から<11>のいずれかに記載の記録用インクを容器中に収容してなることを特徴とするインクカートリッジである。
<13> 前記<1>から<11>のいずれかに記載の記録用インクに刺激を印加し、該記録用インクを飛翔させて画像を記録するインク飛翔手段と、記録後の記録媒体の記録面に風を当てて予備乾燥するための送風手段とを少なくとも有することを特徴とするインクジェット記録装置である。
<14> 送風手段が、記録媒体の排紙方向に風を当て、かつインク飛翔手段に風が当たらないように配置された前記<13>に記載のインクジェット記録装置である。
<15> 送風手段がヒーターを備え、該ヒーターの作動により温風を記録媒体の記録面に当てる前記<13>から<14>のいずれかに記載のインクジェット記録装置である。
<16> 前記<1>から<11>のいずれかに記載の記録用インクに刺激を印加し、該記録用インクを飛翔させて画像を記録するインク飛翔工程と、記録後の記録媒体の記録面に風を当てて予備乾燥するための送風工程とを少なくとも含むことを特徴とするインクジェット記録方法である。
<17> ノズル近傍での水分蒸発率が30%を超える前に、記録媒体上にインクを吐出させる前記<16>に記載のインクジェット記録方法である。
<18> 記録媒体上にインクが付着後5秒以内に送風が行われる前記<16>から<17>のいずれかに記載のインクジェット記録方法である。
<19> 記録媒体上に前記<1>から<11>のいずれかに記載の記録用インクを用いて記録された画像を有してなることを特徴とするインク記録物である。
【0016】
本発明の記録用インクは、記録後の記録媒体の記録面に風を当てて予備乾燥するための送風手段を少なくとも備えたインクジェット記録装置に用いられ、少なくとも着色剤と、湿潤剤と、界面活性剤と、浸透剤とを含有してなり、前記記録用インクの25℃の粘度η(mPa・s)と、前記記録用インクの25℃の表面張力γ(mN/m)とが、次式、γ/η≦5を満たすと共に、前記粘度ηが4〜20mPa・sであり、かつ前記表面張力γが20〜36mN/mである。その結果、普通紙に対する画像品質、高速記録、及び両面記録性に優れた記録用インクが得られる。
【0017】
本発明のインクカートリッジは、本発明の前記記録用インクを容器中に収容してなる。該インクカートリッジは、インクジェット記録方式によるプリンタ等に好適に使用される。該インクカートリッジに収容されたインクを用いて記録を行うと、普通紙に対する画像品質、高速記録、及び両面記録性に優れた高画質が得られる。
【0018】
本発明のインクジェット記録装置は、インク飛翔手段と、送風手段とを少なくとも有する。該インクジェット記録装置においては、前記インク飛翔手段が、本発明の前記記録用インクにエネルギーを印加し、該記録用インクを飛翔させて画像を形成する。前記送風手段が記録後の記録媒体の記録面に風を当てて予備乾燥する。その結果、普通紙に対する画像品質、高速記録、及び両面記録性に優れた高品位な画像形成が可能である。
【0019】
本発明のインクジェット記録方法は、インク飛翔工程と、送風工程とを少なくとも含む。該インクジェット記録方法においては、前記インク飛翔工程において、本発明の前記記録用インクにエネルギーを印加し、該記録用インクを飛翔させて画像が形成される。前記送風工程が、記録後の記録媒体の記録面に風を当てて予備乾燥する。その結果、普通紙に対する画像品質、高速記録、及び両面記録性に優れた高品位な画像形成が可能である。
【0020】
本発明のインクジェット記録物は、記録媒体上に本発明の前記記録用インクを用いて形成された画像を有してなる。該インクジェット記録物においては、普通紙に対する画像品質、高速記録、及び両面記録性に優れた高画質が前記記録媒体に保持される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によると、従来における諸問題を解決でき、送風による予備乾燥を行うインクジェット記録装置に用いられ、普通紙に対する画像品質、高速記録、及び両面記録性に優れた記録用インク、並びに、該記録用インクを用いたインクカートリッジ、インク記録物、インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
(記録用インク)
本発明の記録用インクは、記録後の記録媒体の記録面に風を当てて予備乾燥する送風手段を少なくとも備えたインクジェット記録装置に用いられ、少なくとも着色剤と、湿潤剤と、界面活性剤と、浸透剤とを含有してなり、更に必要に応じてその他の成分を含有してなる。
【0023】
本発明においては、印字後の送風により乾燥速度を高めて、画像濃度の向上や、コックリング、裏抜けを抑制することができる。ここで、前記「乾燥」とは、完全に水分が無くなる状態ではなく、ある程度水分を失ったインクが流動性を失った状態となり、記録媒体に保持され、液体として流れ動かない状態を意味する。
前記送風による水分蒸発の効果を得るためには、インクが記録媒体(紙)へ浸透する速度が大きく影響する。超浸透インクの場合、風による乾燥前に紙に浸透してしまっており画質へ効果が得られない。一方、緩浸透インクの場合、紙への浸透が遅いため乾燥に必要とされる液量が多く、エネルギー量が多く必要となる。そのためエネルギー量の少ない送風による乾燥では効果は微小なものとなり得る。送風による効果を得るためには浸透性を適正範囲に設定する必要がある。
【0024】
ここで、一般的に、液体の紙(記録媒体)への浸透は、下記数式1で表されるLucas−Washburnの式による毛管吸収にて説明される。インクジェットインクについても前記Lucas−Washburnの式に従って記録媒体に浸透していると考えられる。
【数1】

ただし、前記数式1中、lは浸透深さ、rは毛管半径、γはインクの表面張力、θは接触角、ηは粘度、tは時間をそれぞれ表す。
【0025】
前記数式1においては、浸透性が、時間と記録媒体に関するr、インクと記録媒体に関するθ、インクに関するγ、ηから構成されており、インク物性だけの関係を見るとγ/ηとなっている。
したがって、前記記録用インクにおける25℃の粘度η(mPa・s)と、前記記録用インクにおける25℃の表面張力γ(mN/m)とが、次式、γ/η≦5を満たし、γ/η≦4が好ましい。また、前記粘度ηは4〜20mPa・sであり、7〜15mPa・sが好ましい。また、前記表面張力γは20〜36mN/mであり、25〜32mN/mが好ましい。
前記記録用インクは、上記関係を満たすことにより、インクの浸透性が送風による効果を最大限に引き出すことができる。
【0026】
ここで、前記記録用インクの粘度は、例えば、粘度計(RL−500、東機産業株式会社製)を使用して、25℃で測定することができる。また、前記表面張力は、例えば、全自動表面張力計(CBVP−Z、協和界面科学株式会社製)を使用して、25℃で測定することができる。
【0027】
本発明の記録用インクは、上記の望ましいインク物性を示すためには、少なくとも着色剤と、湿潤剤と、界面活性剤と、浸透剤とを含有してなり、更に必要に応じてその他の成分を含有してなる。
この場合、前記着色剤として顔料表面に少なくとも1種の親水基が直接もしくは他の原子団を介して結合するような処理がなされたことにより、分散剤なしに水に分散可能となった顔料か、ポリマー微粒子に水不溶性又は難溶性の色材を含有させてなるポリマーエマルジョンを使用することが好ましい。
また、水分蒸発速度を緩めることは吐出信頼性を向上させるため、前記湿潤剤は、温度25℃、相対湿度60%の環境下、平衡水分量が25質量%以上である多価アルコールを少なくとも2種以上含有することが望ましい。この多価アルコールの一つがグリセリンであり、かつグリセリンの含有量が湿潤剤全体の50質量%以上であることが、上記蒸発物性を発現させるために望ましい条件である。
これらの構成を満たしつつ、画質を向上させるためには、前記着色剤を5〜15質量%、前記界面活性剤を0.01〜5質量%、前記湿潤剤を10〜50質量%、前記浸透剤を0.1〜5質量%含有することが好ましい。
以下、記録用インクの各成分について詳細に説明する。
【0028】
−着色剤−
前記着色剤としては、耐候性の面から主として顔料が用いられるが、色調調整の目的で同時に染料を含有させても構わない。
【0029】
前記顔料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、無機顔料及び有機顔料のいずれであってもよい。
前記無機顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロー、カドミウムレッド、クロムイエロー、カーボンブラック、などが挙げられる。これらの中でも、カーボンブラックなどが好ましい。なお、前記カーボンブラックとしては、例えば、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法などの公知の方法によって製造されたものが挙げられる。
【0030】
前記有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、多環式顔料、染料キレート、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、などが挙げられる。これらの中でも、アゾ顔料、多環式顔料などがより好ましい。なお、前記アゾ顔料としては、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料、などが挙げられる。前記多環式顔料としては、例えば、フタロシアニン顔料、ぺリレン顔料、ぺリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、インジゴ顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフラロン顔料、などが挙げられる。前記染料キレートとしては、例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレート、などが挙げられる。
【0031】
前記着色剤の色としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、黒色用のもの、カラー用のもの、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記黒色用のものとしては、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、銅、鉄(C.I.ピグメントブラック11)、酸化チタン等の金属類、アニリンブラック(C.I.ピグメントブラック1)等の有機顔料、などが挙げられる。
【0032】
前記カラー用のものとしては、例えば、C.I.ピグメントイエロー1、3、12、13、14、17、24、34、35、37、42(黄色酸化鉄)、53、55、74、81、83、95、97、98、100、101、104、408、109、110、117、120、128、138、150、151、153、183、C.I.ピグメントオレンジ5、13、16、17、36、43、51、C.I.ピグメントレッド1、2、3、5、17、22、23、31、38、48:2、48:2(パーマネントレッド2B(Ca))、48:3、48:4、49:1、52:2、53:1、57:1(ブリリアントカーミン6B)、60:1、63:1、63:2、64:1、81、83、88、101(べんがら)、104、105、106、108(カドミウムレッド)、112、114、122(キナクリドンマゼンタ)、123、146、149、166、168、170、172、177、178、179、185、190、193、209、219、C.I.ピグメントバイオレット1(ローダミンレーキ)、3、5:1、16、19、23、38、C.I.ピグメントブルー1、2、15(フタロシアニンブルー)、15:1、15:2、15:3(フタロシアニンブルー)、16、17:1、56、60、63、C.I.ピグメントグリーン1、4、7、8、10、17、18、36、などが挙げられる。
【0033】
ブラック用の顔料はカーボンブラックであることが好ましい。ブラックインクとしてカーボンブラックは色調に優れるとともに、耐水性、退光性、分散安定性に優れ、且つ安価である。
その他顔料(例えば、カーボン)の表面を樹脂等で処理し、水中に分散可能としたグラフト顔料や、顔料(例えば、カーボン)の表面にスルホン基やカルボキシル基等の官能基を付加し水中に分散可能とした加工顔料等が使用できる。
また、顔料をマイクロカプセルに包含させ、該顔料を水中に分散可能なのものとしたものであっても良い。
【0034】
これら顔料のうち、好ましい形態としては、顔料の表面に少なくとも1種の親水基が直接もしくは他の原子団を介して結合するように表面改質されたものである。そのためには、顔料の表面に、ある特定の官能基(スルホン基やカルボキシル基等の官能基)を化学的に結合させるか、あるいは、次亜ハロゲン酸及びその塩の少なくともいずれかを用いて湿式酸化処理するなどの方法が用いられる。これらの中でも、顔料の表面にカルボキシル基が結合され、水中に分散されている形態が特に好ましい。これも顔料が表面改質されカルボキシル基が結合しているために、分散安定性が向上するばかりではなく、高品位な印字品質が得られるとともに、印字後の記録媒体の耐水性がより向上する。
また、この形態のインクは乾燥後の再分散性に優れるため、長期間印字を休止し、インクジェットヘッドのノズル付近のインクの水分が蒸発した場合も目詰まりを起こさず簡単なクリーニング動作で容易に良好な印字が行えるようになる。またこの自己分散型の顔料は、後述する界面活性剤及び浸透剤と組み合わせた時に、特に相乗効果が大きく、より信頼性の高い、高品位な画像を得ることが可能となる。
【0035】
上記顔料に加えて、ポリマー微粒子に顔料を含有させたポリマーエマルジョンを使用することも好ましい。
ここで、前記顔料を含有させたポリマーエマルジョンとは、ポリマー微粒子中に顔料を封入したもの、及びポリマー微粒子の表面に顔料を吸着させたものの少なくともいずれかである。この場合、全ての顔料が封入及び/又は吸着している必要はなく、本発明の効果が損なわれない範囲で該顔料がエマルジョン中に分散にしていてもよい。
前記ポリマーエマルジョンを形成するポリマーとしては、例えば、ビニル系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、ポリウレタン系ポリマー、特開2000−53897号公報、特開2001−139849号公報に開示されているポリマー等が挙げられる。これらの中でも、ビニル系ポリマー、ポリエステル系ポリマーが特に好ましい。
【0036】
前記染料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、酸性染料、直接性染料、塩基性染料、反応性染料、などが挙げられる。
前記酸性染料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、食用染料として知られているものなどが挙げられ、例えば、C.I.アシッド・イエロー17、23、42、44、79、142;C.I.アシッド・レッド1、8、13、14、18、26、27、35、37、42、52、82、87、89、92、97、106、111、114、115、134、186、249、254、289;C.I.アシッド・ブルー9、29、45、92、249;C.I.アシッド・ブラック1、2、7、24、26、94;C.I.フード・イエロー2、3、4;C.I.フード・レッド7、9、14;C.I.フード・ブラック1、2、などが挙げられる。
【0037】
前記直接性染料としては、例えば、C.I.ダイレクト・イエロー1、12、24、26、33、44、50、120、132、142、144、86;C.I.ダイレクト・レッド1、4、9、13、17、20、28、31、39、80、81、83、89、225、227;C.I.ダイレクト・オレンジ26、29、62、102;C.I.ダイレクト・ブルー1、2、6、15、22、25、71、76、79、86、87、90、98、163、165、199、202;C.I.ダイレクト・ブラック19、22、32、38、51、56、71、74、75、77、154、168、171、などが挙げられる。
【0038】
前記塩基性染料としては、例えば、C.I.ベーシック・イエロー1、2、11、13、14、15、19、21、23、24、25、28、29、32、36、40、41、45、49、51、53、63、465、67、70、73、77、87、91;C.I.ベーシック・レッド2、12、13、14、15、18、22、23、24、27、29、35、36、38、39、46、49、51、52、54、59、68、69、70、73、78、82、102、104、109、112;C.I.ベーシック・ブルー1、3、5、7、9、21、22、26、35、41、45、47、54、62、65、66、67、69、75、77、78、89、92、93、105、117、120、122、124、129、137、141、147、155;C.I.ベーシック・ブラック2、8、などが挙げられる。
【0039】
前記反応性染料としては、例えば、C.I.リアクティブ・ブラック3、4、7、11、12、17;C.I.リアクテイブ・イエロー1、5、11、13、14、20、21、22、25、40、47、51、55、65、67;C.I.リアクティブ・レッド1、14、17、25、26、32、37、44、46、55、60、66、74、79、96、97;C.I.リアクティブ・ブルー1、2、7、14、15、23、32、35、38、41、63、80、95、などが挙げられる。
【0040】
これら染料の中でも、酸性染料及び直接性染料が好ましく用いることができる。
【0041】
前記着色剤の前記記録用インクにおける含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、5〜15質量%が好ましく、7〜12質量%がより好ましい。前記含有量が5質量%未満であると、画像の濃度が薄く、コントラストのない画像となることがあり、15質量%を超えると、前記着色剤の分散安定性を確保することが難しく、ノズル等の目詰まりが生じ易く、信頼性が悪くなることがある。
【0042】
−湿潤剤−
前記湿潤剤は、温度20℃、相対湿度60%環境下、平衡水分量が25質量%以上である多価アルコールを少なくとも2種以上含有することが好ましい。
前記湿潤剤としては、例えば、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、テトラエチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、ポリエチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオールなどが挙げられる。これらの中でも、水分蒸発に伴い粘度が急激に上昇するが、着色剤の凝集を押さえ、粒径が大きくなるのを防ぐ効果が高いため、グリセリンが特に好ましく、該グリセリンの含有量が湿潤剤全体の50質量%以上であることが好ましい。
【0043】
前記グリセリンと併用される湿潤剤としては、1,3−ブタンジオールが特に好ましい。前記1,3−ブタンジオールは、グリセリン同様に平衡水分量が高く、信頼性が高いうえに、インクが紙に着弾した際の画素の広がりを均一にし、更には色材を紙表面にとどめる効果も高い。グリセリンは信頼性向上効果が高いが、多量に添加すると画質が悪くなり、また、水分蒸発後の粘度上昇が大きくなりすぎて、吐出安定性も悪くなる場合があるため、これらの混合比は1:5〜5:1が好ましく、1:1〜4:1がより好ましい。
前記湿潤剤の前記記録用インクにおける含有量は10〜50質量%が好ましく、20〜40質量%がより好ましい。前記含有量が少ないとインクの保存安定性、吐出安定性が悪くなり、ノズルの目詰まりが起こりやすくなる。また湿潤剤量が多すぎると、乾燥性が悪くなり、文字の滲みや色境界の滲みが発生し、画像品質が低下することになる。
【0044】
−界面活性剤−
前記界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤が好適に用いられる。色材の種類や湿潤剤、水溶性有機溶剤の組合せによって、分散安定性を損なわない界面活性剤を選択する。
前記アニオン性界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、琥珀酸エステルスルホン酸塩、ラウリル酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートの塩などが挙げられる。
前記ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミドなどが挙げられる。
このような界面活性剤としては、市販品を用いることができ、例えば、日光ケミカルズ(株)、日本エマルジョン(株)、日本触媒(株)、東邦化学(株)、花王(株)、アデカ(株)、ライオン(株)、青木油脂(株)、三洋化成(株)などから容易に入手することができる。
【0045】
アセチレングリコール系界面活性剤は、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール等のアセチレングリコール系(例えば、エアープロダクツ社(米国)のサーフィノール104、82、465、485、あるいはTGなど)を用いることができ、これらの中でも、サーフィノール465、104、TGが特に好ましい。
なお、前記界面活性剤は、これらに限定されるものではなく、単独で用いても、複数のものを混合して用いてもよい。単独では記録液中で容易に溶解しない場合も、混合することで可溶化され、安定に存在することができる。
【0046】
これら界面活性剤の中でも、下記構造式(1)〜(5)で表されるノニオン性界面活性剤が特に好適である。
【0047】
−O−(CHCHO)−R ・・・構造式(1)
ただし、前記構造式(1)中、Rは、炭素数6〜14の分岐していてもよいアルキル基、又は炭素数6〜14の分岐していてもよいパーフルオロアルキル基を表す。Rは、水素原子、又は分岐していてもよい炭素数1〜4のアルキル基を表す。hは、5〜20の整数を表す。
【0048】
−COO−(CHCHO)−R ・・・構造式(2)
ただし、前記構造式(2)中、Rは、炭素数6〜14の分岐していてもよいアルキル基を表す。Rは、水素原子、又は分岐していてもよい炭素数1〜4のアルキル基を表す。hは、5〜20の整数を表す。
【0049】
【化1】

ただし、前記構造式(3)中、Rは、炭化水素基を表し、例えば、分岐してもよい炭素数6〜14のアルキル基などが挙げられる。kは5〜20の整数を表す。
【0050】
【化2】

ただし、前記構造式(4)中、Rは、炭化水素基を表し、例えば、分岐してもよい炭素数6〜14のアルキル基を表す。Lは5〜10、pは5〜20の整数を表す。プロピレングリコール鎖、及びエチレングリコール鎖は、ブロック重合又はランダム重合していてもよい。
【0051】
【化3】

ただし、前記構造式(5)中、q及びrは、5〜20の整数を表す。
【0052】
前記界面活性剤の前記記録用インク中における含有量は、0.01〜5.0質量%が好ましく、0.5〜3.0質量%がより好ましい。前記含有量が0.01質量%未満であると、界面活性剤を添加した効果が無くなることがあり、5.0質量%を超えると、記録媒体への浸透性が必要以上に高くなり、画像濃度の低下や裏抜けが発生することがある。
【0053】
−浸透剤−
前記浸透剤としては、20℃の水に対する溶解度が0.2〜5.0質量%のポリオールの少なくとも1種を含有し、更に必要に応じてその他の湿潤剤を用いることができる。
前記ポリオールのうち、脂肪族ジオールとしては、例えば、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、3,3−ジメチル−1,2−ブタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2,4−ジメチル−2,4−ペンタンジオール、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオール、5−ヘキセン−1,2−ジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオールなどが挙げられる。これらの中でも、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオールが特に好ましい。
【0054】
前記その他の併用できる浸透剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノアリルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールクロロフェニルエーテル等の多価アルコールのアルキル又はアリールエーテル類;エタノール等の低級アルコール類などが挙げられる。
【0055】
前記浸透剤の前記記録用インクにおける含有量は、0.1〜5質量%が好ましく、0.5〜3質量%がより好ましい。前記含有量が0.1質量%未満であると、速乾性が得られず滲んだ画像となることがあり、5質量%を超えると、着色剤の分散安定性が損なわれ、ノズルが目詰まりしやすくなったり、記録媒体への浸透性が必要以上に高くなり、画像濃度の低下や裏抜けが発生することがある。
【0056】
前記その他の成分としては、特に制限はなく、必要に応じて適宜選択することができ、例えば、消泡剤、pH調整剤、防腐防黴剤、防錆剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、酸素吸収剤、光安定化剤、などが挙げられる。
【0057】
前記消泡剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、シリコーン系消泡剤、ポリエーテル消泡剤、脂肪酸エステル消泡剤などが好適に挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、破泡効果に優れる点でシリコーン系消泡剤が好ましい。
【0058】
前記シリコーン系消泡剤としては、例えば、オイル型シリコーン系消泡剤、コンパウンド型シリコーン系消泡剤、自己乳化型シリコーン系消泡剤、エマルジョン型シリコーン系消泡剤、変性シリコーン系消泡剤、などが挙げられる。該変性シリコーン系消泡剤としては、例えば、アミノ変性シリコーン消泡剤、カルビノール変性シリコーン消泡剤、メタクリル変性シリコーン消泡剤、ポリエーテル変性シリコーン消泡剤、アルキル変性シリコーン消泡剤、高級脂肪酸エステル変性シリコーン消泡剤、アルキレンオキサイド変性シリコーン消泡剤、などが挙げられる。これらの中でも、水系媒体である前記記録用インクへの使用を考慮すると、前記自己乳化型シリコーン系消泡剤、前記エマルジョン型シリコーン系消泡剤などが好ましい。
【0059】
前記消泡剤としては、市販品を使用してもよく、該市販品としては、信越化学工業(株)製のシリコーン系消泡剤(KS508、KS531、KM72、KM85等)、東レ・ダウ・コーニング(株)製のシリコーン系消泡剤(Q2−3183A、SH5510等)、日本ユニカー(株)製のシリコーン系消泡剤(SAG30等)、旭電化工業(株)製の消泡剤(アデカネートシリーズ等)、などが挙げられる。
【0060】
前記消泡剤の前記記録用インクにおける含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、0.001〜3質量%が好ましく、0.005〜0.5質量%がより好ましい。
前記消泡剤が前記記録用インク中に含有されていると、特に経時の保存安定性や吐出安定性に優れ、前記含有量が、0.001質量%未満であると、含有効果が十分でないことがあり、3質量%を超えると、目詰まりの原因となり易く、前記記録用インクの信頼性が悪くなることがある。
【0061】
前記防腐防黴剤としては、例えば、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、等が挙げられる。
【0062】
前記pH調整剤としては、調合されるインクに悪影響をおよぼさずにpHを7以上に調整できるものであれば特に制限はなく、目的に応じて任意の物質を使用することができる。
該pH調製剤としては、例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミン、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属元素の水酸化物;水酸化アンモニウム、第4級アンモニウム水酸化物、第4級ホスホニウム水酸化物、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩、等が挙げられる。
【0063】
前記防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオジグリコール酸アンモン、ジイソプロピルアンモニウムニトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムニトライト、等が挙げられる。
【0064】
前記酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤(ヒンダードフェノール系酸化防止剤を含む)、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、りん系酸化防止剤、などが挙げられる。
前記フェノール系酸化防止剤(ヒンダードフェノール系酸化防止剤を含む)としては、例えば、ブチル化ヒドロキシアニソール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、ステアリル−β−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、3,9−ビス[1,1−ジメチル−2−[β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]2,4,8,10−テトライキサスピロ[5,5]ウンデカン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス[メチレン−3−(3',5'−ジ−tert−ブチル−4'−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、などが挙げられる。
前記アミン系酸化防止剤としては、例えば、フェニル−β−ナフチルアミン、α−ナフチルアミン、N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン、フェノチアジン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2,4−ジメチル−6−tert−ブチル−フェノール、ブチルヒドロキシアニソール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、テトラキス[メチレン−3(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ジヒドロキフェニル)プロピオネート]メタン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、等が挙げられる。
前記硫黄系酸化防止剤としては、例えば、ジラウリル3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート、ラウリルステアリルチオジプロピオネート、ジミリスチル3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリルβ,β’−チオジプロピオネート、2−メルカプトベンゾイミダゾール、ジラウリルサルファイド等が挙げられる。
前記リン系酸化防止剤としては、トリフェニルフォスファイト、オクタデシルフォスファイト、トリイソデシルフォスファイト、トリラウリルトリチオフォスファイト、トリノニルフェニルフォスファイト、等が挙げられる。
【0065】
前記紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、サリチレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、ニッケル錯塩系紫外線吸収剤、などが挙げられる。
前記ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、例えば、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−ドデシルオキシベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、等が挙げられる。
前記ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、例えば、2−(2'−ヒドロキシ−5'−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2'−ヒドロキシ−5'−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2'−ヒドロキシ−4'−オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2'−ヒドロキシ−3'−tert−ブチル−5'−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、等が挙げられる。
前記サリチレート系紫外線吸収剤としては、例えば、フェニルサリチレート、p−tert−ブチルフェニルサリチレート、p−オクチルフェニルサリチレート、等が挙げられる。
前記シアノアクリレート系紫外線吸収剤としては、例えば、エチル−2−シアノ−3,3'−ジフェニルアクリレート、メチル−2−シアノ−3−メチル−3−(p−メトキシフェニル)アクリレート、ブチル−2−シアノ−3−メチル−3−(p−メトキシフェニル)アクリレート、等が挙げられる。
前記ニッケル錯塩系紫外線吸収剤としては、例えば、ニッケルビス(オクチルフェニル)サルファイド、2,2’−チオビス(4−tert−オクチルフェレート)−n−ブチルアミンニッケル(II)、2,2’−チオビス(4−tert−オクチルフェレート)−2−エチルヘキシルアミンニッケル(II)、2,2’−チオビス(4−tert−オクチルフェレート)トリエタノールアミンニッケル(II)、等が挙げられる。
【0066】
本発明の記録用インクは、少なくとも着色剤、湿潤剤、界面活性剤、浸透剤、更に必要に応じてその他の成分を水性媒体中に分散又は溶解し、更に必要に応じて攪拌混合して製造する。前記分散は、例えば、サンドミル、ホモジナイザー、ボールミル、ペイントシャイカー、超音波分散機等により行うことができ、攪拌混合は通常の攪拌羽を用いた攪拌機、マグネチックスターラー、高速の分散機等で行うことができる。
【0067】
本発明の記録用インクの着色としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックなどが挙げられる。これらの着色を2種以上併用したインクセットを使用して記録を行うと、多色画像を形成することができ、全色併用したインクセットを使用して記録を行うと、フルカラー画像を形成することができる。
【0068】
本発明の記録用インクは、インクジェットヘッドとして、インク流路内のインクを加圧する圧力発生手段として圧電素子を用いてインク流路の壁面を形成する振動板を変形させてインク流路内容積を変化させてインク滴を吐出させるいわゆるピエゾ型のもの(特開平2−51734号公報参照)、あるいは、発熱抵抗体を用いてインク流路内でインクを加熱して気泡を発生させるいわゆるサーマル型のもの(特開昭61−59911号公報参照)、インク流路の壁面を形成する振動板と電極とを対向配置し、振動板と電極との間に発生させる静電力によって振動板を変形させることで,インク流路内容積を変化させてインク滴を吐出させる静電型のもの(特開平6−71882号公報参照)などいずれのインクジェットヘッドを搭載するプリンタにも良好に使用できる。
【0069】
本発明の記録用インクは、各種分野において好適に使用することができ、インクジェット記録方式による画像形成装置(プリンタ等)において好適に使用することができ、例えば、印字又は印字前後に被記録用紙及び前記記録用インクを50〜200℃で加熱し、印字定着を促進する機能を有するもののプリンタ等に使用することもでき、以下の本発明のインクカートリッジ、インク記録物、インクジェット記録装置、インクジェット記録方法に特に好適に使用することができる。
【0070】
(インクカートリッジ)
本発明のインクカートリッジは、本発明の前記記録用インクを容器中に収容してなり、更に必要に応じて適宜選択したその他の部材等を有してなる。
前記容器としては、特に制限はなく、目的に応じてその形状、構造、大きさ、材質等を適宜選択することができ、例えば、アルミニウムラミネートフィルム、樹脂フィルム等で
形成されたインク袋などを少なくとも有するもの、などが好適に挙げられる。
【0071】
次に、インクカートリッジについて、図1及び図2を参照して説明する。ここで、図1は、本発明のインクカートリッジの一例を示す図であり、図2は図1のインクカートリッジのケース(外装)も含めた図である。
インクカートリッジ200は、図1に示すように、インク注入口242からインク袋241内に充填され、排気した後、該インク注入口242は融着により閉じられる。使用時には、ゴム部材からなるインク排出口243に装置本体の針を刺して装置に供給される。
インク袋241は、透気性のないアルミニウムラミネートフィルム等の包装部材により形成されている。このインク袋241は、図2に示すように、通常、プラスチックス製のカートリッジケース244内に収容され、各種インクジェット記録装置に着脱可能に装着して用いられるようになっている。
【0072】
本発明のインクカートリッジは、本発明の前記記録用インク(インクセット)を収容し、各種インクジェット記録装置に着脱可能に装着して用いることができ、また、後述する本発明のインクジェット記録装置に着脱可能に装着して用いるのが特に好ましい。
【0073】
(インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法)
本発明のインクジェット記録装置は、インク飛翔手段と、送風手段とを少なくとも有してなり、更に必要に応じて適宜選択したその他の手段、例えば、刺激発生手段、制御手段等を有してなる。
本発明のインクジェット記録方法は、インク飛翔工程と、送風工程とを少なくとも含んでなり、更に必要に応じて適宜選択したその他の工程、例えば、刺激発生工程、制御工程等を含んでなる。
本発明のインクジェット記録方法は、本発明のインクジェット記録装置により好適に実施することができ、前記インク飛翔工程は前記インク飛翔手段により好適に行うことができ、前記送風工程は前記送風手段により好適に行うことができる。また、前記その他の工程は、前記その他の手段により好適に行うことができる。
【0074】
−インク飛翔工程及びインク飛翔手段−
前記インク飛翔工程は、前記本発明の記録用インクに、刺激を印加し、該記録用インクを飛翔させて画像を形成する工程である。
前記インク飛翔手段は、前記本発明の記録用インクに、刺激を印加し、該記録用インクを飛翔させて画像を形成する手段である。該インク飛翔手段としては、特に制限はなく、例えば、インク吐出用の各種のノズル、などが挙げられる。
本発明においては、該インクジェットヘッドの液室部、流体抵抗部、振動板、及びノズル部材の少なくとも一部がシリコン及びニッケルの少なくともいずれかを含む材料から形成されることが好ましい。
また、インクジェットノズルのノズル径は、30μm以下が好ましく、1〜20μmが好ましい。
【0075】
前記刺激は、例えば、前記刺激発生手段により発生させることができ、該刺激としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、熱(温度)、圧力、振動、光、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、熱、圧力が好適に挙げられる。
【0076】
なお、前記刺激発生手段としては、例えば、加熱装置、加圧装置、圧電素子、振動発生装置、超音波発振器、ライト、などが挙げられ、具体的には、例えば、圧電素子等の圧電アクチュエータ、発熱抵抗体等の電気熱変換素子を用いて液体の膜沸騰による相変化を利用するサーマルアクチュエータ、温度変化による金属相変化を用いる形状記憶合金アクチュエータ、静電力を用いる静電アクチュエータ等、などが挙げられる。
【0077】
前記記録用インクの飛翔の態様としては、特に制限はなく、前記刺激の種類等応じて異なり、例えば、前記刺激が「熱」の場合、記録ヘッド内の前記記録用インクに対し、記録信号に対応した熱エネルギーを例えばサーマルヘッド等を用いて付与し、該熱エネルギーにより前記記録用インクに気泡を発生させ、該気泡の圧力により、該記録ヘッドのノズル孔から該記録用インクを液滴として吐出噴射させる方法、などが挙げられる。また、前記刺激が「圧力」の場合、例えば記録ヘッド内のインク流路内にある圧力室と呼ばれる位置に接着された圧電素子に電圧を印加することにより、圧電素子が撓み、圧力室の容積が縮小して、前記記録ヘッドのノズル孔から該記録用インクを液滴として吐出噴射させる方法、などが挙げられる。
【0078】
前記飛翔させる前記記録用インクの液滴は、その大きさとしては、例えば、3〜40plとするのが好ましく、その吐出噴射の速さとしては6〜20m/sが好ましく、その駆動周波数としては1kHz以上が好ましく、その解像度としては300dpi以上が好ましい。
【0079】
−送風工程及び送風手段−
前記送風工程は、記録後の記録媒体の記録面に風を当てて予備乾燥する工程である。
前記送風工程は前記送風手段により行われる。該送風手段は、記録媒体の排紙方向に風を当て、かつインク飛翔手段に風が当たらないように配置されることが、風によるインク飛翔時の着弾位置ずれを防止し、ノズル部でのインク乾燥を促さず吐出特性を悪化させない点で好ましい。
前記送風手段はヒーターを備え、該ヒーターの作動により温風を記録媒体の記録面に当てることが、乾燥効率を上げる点で好ましい。
【0080】
前記送風工程では、ノズル近傍での水分蒸発率が30%を超える前に、記録媒体上にインクを吐出させることが好ましい。このようにノズル近傍での水分蒸発が30%を超える前に、印字又は非印字領域にインクを吐出させる記録方法を用いることで、より安定した高品位な画像形成を行うことができる。
また、前記送風工程では、記録媒体上にインクが付着後5秒以内に送風が行われることがインク吸収過程でのフェザリングを抑えることができ、画質向上の点で好ましい。
【0081】
なお、前記制御手段としては、前記各手段の動きを制御することができる限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、シークエンサー、コンピュータ等の機器が挙げられる。
【0082】
また、インクジェット記録装置として複数の加圧液室、加圧液室に連通する孔径35μm以下のノズル及びインク供給路、振動板、振動板を変位させる電気機械変換手段からなる記録ヘッドを備え、かつ複数のインク滴を連続して吐出させ記録媒体に着弾する前にマージさせて大きな滴を形成する記録装置を用いることで、粘度が高めのインクにおいても、吐出安定性を確保することができる。
【0083】
本発明のインクジェット記録装置により本発明のインクジェット記録方法を実施する一の態様について、図面を参照しながら説明する。図3に示すインクジェット記録装置は、装置本体101と、装置本体101に装着した用紙を装填するための給紙トレイ102と、装置本体101に装着され画像が記録(形成)された用紙をストックするための排紙トレイ103と、インクカートリッジ装填部104とを有する。インクカートリッジ装填部104の上面には、操作キーや表示器などの操作部105が配置されている。インクカートリッジ装填部104は、インクカートリッジ201の脱着を行うための開閉可能な前カバー115を有している。
【0084】
装置本体101内には、図4及び図5に示すように、図示を省略している左右の側板に横架したガイド部材であるガイドロッド131とステー132とでキャリッジ133を主走査方向に摺動自在に保持し、主走査モータ(不図示)によって図5で矢示方向に移動走査する。
【0085】
キャリッジ133には、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色の記録用インク滴を吐出する4個のインクジェット記録用ヘッドからなる記録ヘッド134を複数のインク吐出口を主走査方向と交叉する方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。
記録ヘッド134を構成するインクジェット記録用ヘッドとしては、圧電素子などの圧電アクチュエータ、発熱抵抗体などの電気熱変換素子を用いて液体の膜沸騰による相変化を利用するサーマルアクチュエータ、温度変化による金属相変化を用いる形状記憶合金アクチュエータ、静電力を用いる静電アクチュエータなどを記録用インクを吐出するためのエネルギー発生手段として備えたものなどを使用できる。
また、キャリッジ133には、記録ヘッド134に各色のインクを供給するための各色のサブタンク135を搭載している。サブタンク135には、図示しない記録用インク供給チューブを介して、インクカートリッジ装填部105に装填された本発明のインクカートリッジ1から本発明の前記記録用インクが供給されて補充される。
【0086】
一方、給紙トレイ103の用紙積載部(圧板)141上に積載した用紙142を給紙するための給紙部として、用紙積載部141から用紙142を1枚づつ分離給送する半月コロ(給紙コロ143)、及び給紙コロ43に対向し、摩擦係数の大きな材質からなる分離パッド144を備え、この分離パッド144は給紙コロ143側に付勢されている。
【0087】
この給紙部から給紙された用紙142を記録ヘッド134の下方側で搬送するための搬送部として、用紙142を静電吸着して搬送するための搬送ベルト151と、給紙部からガイド145を介して送られる用紙142を搬送ベルト151との間で挟んで搬送するためのカウンタローラ152と、略鉛直上方に送られる用紙142を略90°方向転換させて搬送ベルト151上に倣わせるための搬送ガイド153と、押さえ部材154で搬送ベルト151側に付勢された先端加圧コロ155とが備えられている。また、搬送ベルト151表面を帯電させるための帯電手段である帯電ローラ156が備えられている。
【0088】
搬送ベルト151は、無端状ベルトであり、搬送ローラ157とテンションローラ158との間に張架されて、ベルト搬送方向に周回可能である。この搬送ベルト151は、例えば、抵抗制御を行っていない厚さ40μm程度の樹脂材、例えば、テトラフルオロエチレンとエチレンの共重合体(ETFE)で形成した用紙吸着面となる表層と、この表層と同材質でカーボンによる抵抗制御を行った裏層(中抵抗層、アース層)とを有している。搬送ベルト151の裏側には、記録ヘッド134による印写領域に対応してガイド部材161が配置されている。なお、記録ヘッド134で記録された用紙142を排紙するための排紙部として、搬送ベルト151から用紙142を分離するための分離爪171と、排紙ローラ172及び排紙コロ173とが備えられており、排紙ローラ172の下方に排紙トレイ103が配されている。
【0089】
装置本体101の背面部には、両面給紙ユニット181が着脱自在に装着されている。両面給紙ユニット181は、搬送ベルト151の逆方向回転で戻される用紙142を取り込んで反転させて再度カウンタローラ152と搬送ベルト151との間に給紙する。なお、両面給紙ユニット181の上面には手差し給紙部182が設けられている。
【0090】
このインクジェット記録装置においては、給紙部から用紙142が1枚ずつ分離給紙され、略鉛直上方に給紙された用紙142は、ガイド145で案内され、搬送ベルト151とカウンタローラ152との間に挟まれて搬送される。更に先端を搬送ガイド153で案内されて先端加圧コロ155で搬送ベルト151に押し付けられ、略90°搬送方向を転換される。
このとき、帯電ローラ156によって搬送ベルト157が帯電されており、用紙142は、搬送ベルト151に静電吸着されて搬送される。そこで、キャリッジ133を移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド134を駆動することにより、停止している用紙142にインク滴を吐出して1行分を記録し、用紙142を所定量搬送後、次行の記録を行う。記録終了信号又は用紙142の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了して、用紙142を排紙トレイ103に排紙する。
そして、サブタンク135内の記録用インクの残量ニアーエンドが検知されると、インクカートリッジ1から所要量の記録用インクがサブタンク135に補給される。
【0091】
このインクジェット記録装置においては、本発明のインクカートリッジ1中の記録用インクを使い切ったときには、インクカートリッジ201における筐体を分解して内部のインク袋だけを交換することができる。また、インクカートリッジ201は、縦置きで前面装填構成としても、安定した記録用インクの供給を行うことができる。したがって、装置本体101の上方が塞がって設置されているような場合、例えば、ラック内に収納する場合、あるいは装置本体101の上面に物が置かれているような場合でも、インクカートリッジ1の交換を容易に行うことができる。
【0092】
なお、ここでは、キャリッジが走査するシリアル型(シャトル型)インクジェット記録装置に適用した例で説明したが、ライン型ヘッドを備えたライン型インクジェット記録装置にも同様に適用することができる。
【0093】
また、本発明のインクジェット記録装置及びインクジェット記録方法は、インクジェット記録方式による各種記録に適用することができ、例えば、インクジェット記録用プリンタ、ファクシミリ装置、複写装置、プリンタ/ファックス/コピア複合機、などに特に好適に適用することができる。
【0094】
(インク記録物)
本発明のインクジェット記録装置及びインクジェット記録方法により記録された記録物は、本発明のインク記録物である。本発明のインク記録物は、記録媒体上に本発明の前記記録用インクを用いて形成された画像を有してなる。
前記記録媒体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、普通紙、光沢紙、特殊紙、布、フィルム、OHPシート、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記記録物は、高画質で滲みがなく、経時安定性に優れ、各種の印字乃至画像の記録された資料等として各種用途に好適に使用することができる。
【実施例】
【0095】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0096】
(合成例1)
−ポリマ-溶液の合成−
機械式攪拌機、温度計、窒素ガス導入管、還流管、及び滴下ロートを備えた1Lのフラスコ内を充分に窒素ガス置換した。このフラスコ内に、スチレン11.2g、アクリル酸2.8g、ラウリルメタクリレート12.0g、ポリエチレングリコールメタクリレート4.0g、スチレンマクロマー4.0g、及びメルカプトエタノール0.4gを仕込み、混合して、65℃まで昇温した。
次に、スチレン100.8g、アクリル酸25.2g、ラウリルメタクリレート108.0g、ポリエチレングリコールメタクリレート36.0g、ヒドロキシルエチルメタクリレート60.0g、スチレンマクロマー36.0g、メルカプトエタノール3.6g、アゾビスメチルバレロニトリル2.4g、及びメチルエチルケトン18gの混合溶液を2.5時間かけて、フラスコ内に滴下した。滴下終了後、アゾビスメチルバレロニトリル0.8g、及びメチルエチルケトン18gの混合溶液を0.5時間かけて、フラスコ内に滴下した。65℃にて1時間熟成した後、アゾビスメチルバレロニトリル0.8gを添加し、更に1時間熟成した。反応終了後、フラスコ内にメチルエチルケトン364gを添加し、固形分濃度が50質量%のポリマー溶液800gを合成した。
【0097】
(調製例1)
−顔料含有ポリマー微粒子水分散体Aの調製−
前記ポリマー溶液28gと、C.I.ピグメントブルー15:3を26g、1mol/Lの水酸化カリウム水溶液13.6g、メチルエチルケトン20g、及びイオン交換水13.6gを十分に攪拌した後、ロールミルを用いて混練した。得られたペーストを純水200gに投入し、充分に攪拌した後、エバポレータ用いてメチルエチルケトン、及び水を留去し、シアンポリマー微粒子の水分散体Aを調製した。
【0098】
(調製例2)
−顔料含有ポリマー微粒子水分散体Bの調製−
調製例1において、顔料C.I.ピグメントブルー15:3をC.I.ピグメントレッド122に変えた以外は、調製例1と同様にして、マゼンタポリマー微粒子の水分散体Bを調製した。
【0099】
(調製例3)
−顔料含有ポリマー微粒子水分散体Cの調製−
調製例1において、顔料C.I.ピグメントブルー15:3をC.I.ピグメントイエロー74に変えた以外は、調製例1と同様にして、イエローポリマー微粒子の水分散体Cを調製した。
【0100】
(実施例1〜9及び比較例1〜5)
−記録用インクの作製−
まず、表1及び表2に示す組成の湿潤剤、浸透剤、界面活性剤、及び水を1時間攪拌して均一に混合した。この混合液に対して、調製例1〜3及びカーボンブラック分散体(CAB−O−JET300,キャボット社製)のいずれかの顔料分散体、及び消泡剤を添加し、1時間攪拌した。
次に、得られた分散液を平均孔径0.8μmのセルロースアセテートメンブランフィルターにて加圧濾過し、粗大粒子やごみを除去して、各記録用インクを作製した。
【0101】
【表1】

【0102】
【表2】

*:表面に少なくとも1種の親水基が直接又は他の原子団を介して結合するような処理が施されたカーボンブラック
【0103】
次に、得られた実施例及び比較例の各記録用インクついて、以下のようにして、粘度、表面張力、送風による画像濃度の向上効果、コックリングの発生、及びオフセット耐性を評価した。結果を表3及び表4に示す。
【0104】
<粘度の測定>
各インクの粘度は、粘度計(RL−500、東機産業株式会社製)を使用して、25℃で測定した。
【0105】
<表面張力の測定>
各インクの表面張力は、全自動表面張力計(CBVP−Z、協和界面科学株式会社製)を使用して、25℃で測定を行った。
【0106】
次に、インクジェットプリンター(IPSIO G707、株式会社リコー製)の排紙部に図6に示すような送風手段を取り付けて改造した。即ち、印字後排紙されてくる記録媒体3に対して上部から排紙方向にかけて送風できるようダクト1を設置し、気流がヘッドノズル面に当たらない形状とした。送風元は温度調節の可能なヒートガン2を用い、ダクト1からの送風温度を水銀温度計で計測した。図6中、6はヒーター、5はプロペラ、4はモータを表す。
【0107】
<画像濃度の測定>
上記改造したインクジェットプリンターを用い、印字は、Microsoft Word2000にて作成したチャートを打ち出し、印字モードはプリンタ添付のドライバで普通紙のユーザー設定より「普通紙-標準速い」モードを「色補正なし」と改変したモードを使用した。画像濃度はWord2000で作成した64point文字「■」についてX−Rite938(X−Rite社製)にて測色した。
−送風の効果の評価−
送風の効果は、送風しなかったものと比べて画像濃度が向上しているか否かについて、下記基準に基づき判定した。
〔評価基準〕
◎:送風により画像濃度が向上した。
○:温風(40℃)により画像濃度が向上した。
△:温風(60℃)により画像濃度が向上した。
×:画像濃度が向上しない。
【0108】
<コックリングの発生>
コックリングの発生の確認は、Microsoft Word2000を用いて、全体をベタ画像で埋めるようなチャートを作成し、出力後の紙のカール具合にて、下記基準により評価を行った。
〔評価基準〕
○:以後の排紙に問題ない。
×:両端が巻き上がり、排紙に干渉する。
【0109】
<オフセット耐性>
オフセット耐性の確認は、印字直後の画像に濾紙を当てて指先で押さえ付け、濾紙への画像転写の有無にて、下記基準で判断した。
〔評価基準〕
○:転写なし
×:転写あり
【0110】
【表3】

【0111】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明の記録用インクは、送風による予備乾燥を行うインクジェット記録装置に用いられ、普通紙に対する画像品質、高速記録、及び両面記録性に優れたものである。このため、該記録用インクを微細な吐出口より液滴として吐出、飛翔させ記録媒体に画像を形成するインクジェット記録方法にとりわけ好適に用いられるが、水性ペン、水性マーカー、水性ボールペンなどの一般の筆記用具や記録計、ペンプロッター用のインクとして幅広く用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】図1は、本発明のインクカートリッジの一例を示す概略図である。
【図2】図2は、図1のインクカートリッジのケース(外装)も含めた概略図である。
【図3】図3は、インクジェット記録装置のインクカートリッジ装填部のカバーを開いた状態の斜視説明図である
【図4】図4は、インクジェット記録装置の全体構成を説明する概略構成図である
【図5】図5は、本発明のインクジェットヘッドの一例を示す概略拡大図である。
【図6】図6は、実施例で用いた送風手段を備えたインクジェット記録装置の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0114】
1 ダクト
2 ヒートガン
3 記録媒体
4 モーター(ヒートガン)
5 プロペラ(ヒートガン)
6 ヒーター(ヒートガン)
101 装置本体
102 給紙トレイ
103 排紙トレイ
104 インクカートリッジ装填部
111 上カバー
112 前面
115 前カバー
131 ガイドロッド
132 ステー
133 キャリッジ
134 記録ヘッド
135 サブタンク
141 用紙載置部
142 用紙
144 分離パッド
151 搬送ベルト
152 再度カウンタローラ
156 帯電ローラ
157 搬送ローラ
158 デンションローラ
171 分離爪
172 排紙ローラ
173 排紙コロ
181 両面給紙ユニット
201 インクカートリッジ
241 インク袋
242 インク注入口
243 インク排出口
244 カートリッジ外装

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録後の記録媒体の記録面に風を当てて予備乾燥するための送風手段を少なくとも備えたインクジェット記録装置に用いられ、少なくとも着色剤と、湿潤剤と、界面活性剤と、浸透剤とを含有する記録用インクであって、
前記記録用インクの25℃の粘度η(mPa・s)と、前記記録用インクの25℃の表面張力γ(mN/m)とが、次式、γ/η≦5を満たすと共に、前記粘度ηが4〜20mPa・sであり、かつ前記表面張力γが20〜36mN/mであることを特徴とする記録用インク。
【請求項2】
着色剤が顔料であり、該顔料がその表面に少なくとも1種の親水基を有し、分散剤の不存在下で水分散乃至水溶性の少なくともいずれかを示す請求項1に記載の記録用インク。
【請求項3】
着色剤が、ポリマー微粒子に水不溶乃至水難溶性の色材を含有させてなるポリマーエマルジョンである請求項1に記載の記録用インク。
【請求項4】
着色剤の記録用インクにおける含有量が、固形分濃度で、5〜15質量%である請求項1から3のいずれかに記載の記録用インク。
【請求項5】
湿潤剤が、温度20℃、相対湿度60%の環境下、平衡水分量が25質量%以上である多価アルコールの少なくとも2種である請求項1から4のいずれかに記載の記録用インク。
【請求項6】
多価アルコールがグリセリンであり、かつ該グリセリンの湿潤剤における含有量が50質量%以上である請求項5に記載の記録用インク。
【請求項7】
湿潤剤の記録用インクにおける含有量が、固形分濃度で、10〜50質量%である請求項1から6のいずれかに記載の記録用インク。
【請求項8】
界面活性剤が、アニオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤の少なくともいずれかである請求項1から7のいずれかに記載の記録用インク。
【請求項9】
界面活性剤の記録用インクにおける含有量が、0.01〜5質量%である請求項1から8のいずれかに記載の記録用インク。
【請求項10】
浸透剤の記録用インクにおける含有量が、0.1〜5質量%である請求項1から9のいずれかに記載の記録用インク。
【請求項11】
シアンインク、マゼンタインク、イエローインク及びブラックインクから選択される少なくとも1種である請求項1から10のいずれかに記載の記録用インク。
【請求項12】
請求項1から11のいずれかに記載の記録用インクを容器中に収容してなることを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項13】
請求項1から11のいずれかに記載の記録用インクに刺激を印加し、該記録用インクを飛翔させて画像を記録するインク飛翔手段と、記録後の記録媒体の記録面に風を当てて予備乾燥するための送風手段とを少なくとも有することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項14】
送風手段が、記録媒体の排紙方向に風を当て、かつインク飛翔手段に風が当たらないように配置された請求項13に記載のインクジェット記録装置。
【請求項15】
送風手段がヒーターを備え、該ヒーターの作動により温風を記録媒体の記録面に当てる請求項13から14のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項16】
請求項1から11のいずれかに記載の記録用インクに刺激を印加し、該記録用インクを飛翔させて画像を記録するインク飛翔工程と、記録後の記録媒体の記録面に風を当てて予備乾燥するための送風工程とを少なくとも含むことを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項17】
ノズル近傍での水分蒸発率が30%を超える前に、記録媒体上にインクを吐出させる請求項16に記載のインクジェット記録方法。
【請求項18】
記録媒体上にインクが付着後5秒以内に送風が行われる請求項16から17のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
【請求項19】
記録媒体上に請求項1から11のいずれかに記載の記録用インクを用いて記録された画像を有してなることを特徴とするインク記録物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−213855(P2006−213855A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−29390(P2005−29390)
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】