説明

記録用シート

【目的】インクの吸収速度を増大させる。
【構成】基材上に、2次凝集粒子直径が100〜160nmのベーマイトゾルから形成された平均細孔半径が30〜80Åのアルミナ水和物多孔質層を5〜40μmの厚さで有し、その上層に2次凝集粒子直径が300〜500nmのベーマイトゾルから形成された平均細孔半径が50〜100Åのアルミナ水和物多孔質層を1〜20μmの厚さで有する記録用シート。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、記録用シート、特にインクジェットプリンターでの記録に好適な記録用シートに関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、各種学会、会議等のプレゼンテーション用として、従来のスライドプロジェクターにかわり、オーバーヘッドプロジェクター(以下OHPという)が用いられる機会が多くなっている。また、ポスターや包装物などの用途で、透明なカラー印刷が求められている。これらの透明なシートの印字、印刷は基材であるシートそれ自体に吸収性がないため、一般の紙面上に行う印刷に比べ、印刷の速度や乾燥の面で特別な配慮が必要である。
【0003】OHP用シート等の、ごく少量の印刷物を得るために、パーソナルコンピューターやワープロを用いて原稿を編集し、プリンターによって印字する方法が広く行われており、そのプリンターとしてフルカラー化が容易なことや印字騒音が低いことからインクジェット方式が注目されている。
【0004】インクジェットプリンター用のOHPシートは、透明性とインク吸収性を兼ね備えたものであることが必要である。本発明者は、特開平2−276670号などにおいて、透明性とインクの吸収性の両方を兼ね備えた、インクジェットプリンター用の被記録材として好適な記録シートを提案している。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】インクジェット方式では、ノズルから被記録材に向けてインク液滴を高速で射出するものであり、ノズルのつまり等を防止するために、使用するインクは多量の溶媒を含んでいる。高色濃度を得るためには、大量のインクを用いる必要があり、被記録材には速やかにインクを吸収し、しかも優れた発色性を有する高吸収性が要求される。
【0006】インクジェット方式では、ノズルから射出される液滴1つが、画像の1ドットを形成する。インクの吸収が速やかでない場合は、被記録材の表面で液滴同士が接合してドットがゆがむビーディングという現象が生じたり、液滴がシートの移送手段等に接触して画像がかすれたり、またはにじむおそれがある。
【0007】本発明は、インクの液滴が接触したときに速やかにこれを吸収して、ドットの接合、あるいは、にじみやかすれのない画像を得ることのできる、記録用シートを提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は、基材上に、2次凝集粒子直径が100〜160nmのベーマイトゾルから形成された平均細孔半径が30〜80Åのアルミナ水和物多孔質層を5〜40μmの厚さで有し、その上層に2次凝集粒子直径が300〜500nmのベーマイトゾルから形成された平均細孔半径が50〜100Åのアルミナ水和物多孔質層を1〜20μmの厚さで有する記録用シートを提供するものである。
【0009】本発明の記録用シートは、基材上に平均細孔半径が30〜80Åのアルミナ水和物多孔質層を有する。本明細書においては、以下、このアルミナ水和物多孔質層を下層という。下層の平均細孔半径が30Å以下の場合は、インク中の色素の十分な吸着性がないので不適当である。下層の平均細孔半径が80Åを超える場合は、アルミナ水和物多孔質層の透明性が損なわれて、記録物の色濃度が低下し、基材が透明な場合には記録用シートの透明性も損なうので不適当である。ここで平均細孔径は、窒素脱吸着法による。
【0010】下層は、2次凝集粒子直径が100〜160nmのベーマイトゾルから形成されたものであることが必要である。ベーマイトゾルの2次凝集粒子直径が100nm未満の場合は、下層のインク吸収性およびインク中の色素の吸着性が十分でないので不適当である。ベーマイトゾルの2次凝集粒子直径が160nmを超える場合は、下層の透明性が低下するので好ましくない。
【0011】ここでベーマイトゾルとは、ベーマイト(AlOOH)結晶粒子がゾル粒子として分散したコロイド溶液である。ベーマイトゾルは、1次粒子が凝集して2次粒子を形成する場合がある。本発明においてはこのように2次凝集粒子を形成したベーマイトゾルを使用する。上記2次凝集粒子直径とはこの2次粒子の大きさをレーザー法によって測定したものである。レーザー法による粒子径の測定は、ブラウン運動している液体中の粒子に、He−Neレーザー光を照射して、レーリー散乱により光が散乱され粒子の運動によりドップラーシフトするという原理に基づく光散乱法によるものである。
【0012】下層の厚さは、5〜40μmである。この層の厚さが5μm未満の場合は、インクの吸収性およびインク中の色素の吸着量が不十分になるので不適当である。この層の厚さが40μmを超える場合は、記録用シートの透明性が損なわれたり、下層の機械的強度が低下するおそれがあるので不適当である。
【0013】本発明の記録用シートにおいては、上記の下層の上に、平均細孔半径が50〜100Åのアルミナ水和物多孔質層を有する。本明細書において、以下、この層を上層という。上層は、記録用シートにインクが付着したときに急速にこれを吸収し、ビーディングやインクのかすれ等を防止する機能を果たす。
【0014】上層の平均細孔半径が50Å以下の場合は、インク吸収速度が十分高くないので不適当である。平均細孔半径が100Åを超える場合は、上層の透明性が損なわれて、記録物の色濃度が低下し、基材が透明な場合には記録用シートの透明性も損なうので不適当である。
【0015】上層は、2次凝集粒子直径が300〜500nmのベーマイトゾルから形成されたものであることが必要である。ベーマイトゾルの2次凝集粒子直径が300nm未満の場合は、上層のインク吸収速度が十分でないので不適当である。ベーマイトゾルの2次凝集粒子直径が500nmを超える場合は、上層の透明性が低下するので好ましくない。
【0016】上層の厚さは、1〜20μmであることが必要である。上層の厚さが1μm未満の場合は、本発明の効果が発揮されずインクの吸収速度が十分増大しない。上層の厚さが20μmを超える場合は、それ以上インクの吸収速度増大の効果が大きくならず、記録用シートの透明性が損なわれたり、上層の機械的強度が低下するおそれがあるので不適当である。
【0017】さらに、アルミナ水和物多孔質層は、上層下層とも細孔容積が0.3〜1.0cc/gであることが好ましい。細孔容積が0.3cc/g未満の場合は、インクの吸収性が不十分になるおそれがあるので好ましくない。細孔容積が1.0cc/gを超える場合は、アルミナ水和物多孔質層の透明性が損なわれるおそれがあるので好ましくない。
【0018】本発明において、アルミナ水和物層の細孔特性は、ベーマイトゾルのコロイド粒子の大きさや形状などによって変化する。細孔特性は、2次粒子だけでなく1次粒子にも依存し、大きなベーマイト結晶からなる1次粒子である場合は、平均細孔半径の大きな多孔質層が得られる。本発明の記録用シートにおいては、ベーマイト1次粒子は結晶の(020)面方向の厚さが60〜100Åであることが好ましい。この厚さが60Å未満の場合は、多孔質層の細孔半径が小さくなり、インクの吸収性およびインク中の色素の吸着性が十分でなくなるおそれがあるので好ましくない。逆に、この厚さが100Åを超える場合は、多孔質層の透明性が損なわれる場合があるので好ましくない。
【0019】ベーマイト結晶粒子の(020)面方向の厚さは、粉末X線回折分析の(020)面のピークの回折角度2θと半値幅Bから、シェラーの式(t=0.9λ/Bcosθ)を使って求めることができる。この式において、λはX線の波長である。
【0020】また、多孔質層の機械的強度を付与するためにバインダーを用いた場合には、バインダーの種類や量によっても細孔特性が変化する。一般に、バインダーの量が多くなるほど平均細孔半径が小さくなる。
【0021】本発明において、基材としては透明不透明を問わず、種々のものを使用することができる。本発明において、基材としては特に限定されず、種々のものを使用することができる。具体的には、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ETFE等のフッ素系樹脂など種々のプラスチックまたは紙類を好ましく使用することができる。また、アルミナ水和物多孔質層の接着強度等を大きくするなどの目的で、コロナ放電処理やアンダーコート等を行うこともできる。
【0022】基材上にアルミナ水和物多孔質層を設ける手段は、例えば、ベーマイトゾルにバインダーを加えてスラリー状とし、ロールコーター、エアナイフコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、バーコーター、コンマコーターなどを用いて塗布し、乾燥する方法を採用することができる。この方法により、まず基材上に下層を設け、好ましくは、十分バインダーが硬化した後で、上層を同様に設ける。
【0023】
【作用】本発明の記録用シートは、上層にインク吸収速度の高い層を設けているので、たとえばインクジェットプリンターで印刷する場合には、ノズルからインクが液滴となって噴出されたとき、次の液的が記録用シートに到達する前に、さきに噴出された液滴を吸収することが可能になり、ビーディングのない高品質の記録が達成できる。
【0024】
【実施例】アルミニウムイソプロポキシドの加水分解解膠法で合成した(020)面方向の結晶厚さ78Å、2次凝集粒子直径145nmのベーマイトゾル100重量部に、ポリビニルアルコール11重量部(いずれも固形分換算)、およびイオン交換水を混合して固形分15重量%の塗工液を調製した。この塗工液を、ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ125μm)に、バーコーターを用いて、乾燥時の厚さが35μmとなるように塗布し、乾燥した。
【0025】さらに、アルミニウムイソプロポキシドの加水分解解膠法で合成した(020)面方向の結晶厚さ80Å、2次凝集粒子直径390nmのベーマイトゾル100重量部に、ポリビニルアルコール11重量部(いずれも固形分換算)、およびイオン交換水を混合して固形分10重量%の塗工液を調製した。この塗工液を、先の塗工層の上に、バーコーターを用いて、乾燥時の厚さが5μmとなるように塗布し、乾燥した。
【0026】この結果、基材上に平均細孔半径が50Åのアルミナ水和物多孔質層が35μm、さらにその上に平均細孔半径が60Åのアルミナ水和物多孔質層が5μm積層された記録用シートが得られた。この平均細孔半径は、上層の塗工液と下層の塗工液をそれぞれ単独で基材上に塗布乾燥して得た塗工層について、窒素脱吸着法にて測定して求めた。
【0027】上記の記録用シートについて、インクジェットプリンター(キヤノン社製;ピクセルPro)を用いて、ベタ塗りのテストパターンを印刷した。印刷直後に、印刷部分を指でこすっても、インクは全く付着しなかった。また、パターンのインク量の多い部分を観察したところ、ドットの接合や、にじみ、かすれは見られなかった。
【0028】
【発明の効果】本発明の記録用シートは、高い吸収性を有し、インクジェットプリンターで記録する場合には、ノズルから射出されたインクの液滴が、接触すると直ちにこれを吸収できるので、ドットのゆがみ、かすれ、にじみなどのない高品位の記録が可能である。インクジェットプリンター以外にも、インクの量の多い記録方式に好適に使用できる。さらに、この記録用シートにおいて透明な基材を使用した場合には、高い透明性を有する記録用シートが得られるのでOHPシートなどの用途に好適に使用できる。また、基材が不透明な場合においても、高品質の印刷物が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】基材上に、2次凝集粒子直径が100〜160nmのベーマイトゾルから形成された平均細孔半径が30〜80Åのアルミナ水和物多孔質層を5〜40μmの厚さで有し、その上層に2次凝集粒子直径が300〜500nmのベーマイトゾルから形成された平均細孔半径が50〜100Åのアルミナ水和物多孔質層を1〜20μmの厚さで有する記録用シート。
【請求項2】アルミナ水和物多孔質層の細孔容積が、0.3〜1.0cc/gである請求項1の記録用シート。
【請求項3】ベーマイトゾル中のベーマイト1次粒子が、結晶の(020)面方向の厚さが60〜100Åである請求項1または請求項2の記録用シート。
【請求項4】インクジェットプリンターでの記録に使用する請求項1の記録用シート。