説明

記録磁化状態測定装置

【課題】 再生ヘッドの影響を受けることなく、局所的な磁化状態を、高い記録密度においても観察できるようにする。
【解決手段】 本発明に係る記録磁化状態測定装置10は、媒体D上に形成された記録磁化パターンaを検出する磁気力顕微鏡(MFM)12と、磁気力顕微鏡12で検出された記録磁化パターンaから、所定の再生MFM幅で記録方向に沿った一次元のMFM出力信号bを抽出するMFM出力信号抽出手段14と、MFM出力信号抽出手段14によって抽出されたMFM出力信号bの振幅の平均値及び標準偏差をそれぞれ再生出力c及び媒体ノイズdとして算出する波形数値解析手段16とを備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、磁気テープや磁気ディスク等の磁気記録媒体(以下、単に「媒体」という。)の磁化状態の解析に用いられる記録磁化状態測定装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、記録ヘッドにより記録した媒体の磁化状態の評価では、再生ヘッドによる再生信号を用いていた。近年の再生ヘッドは、従来の磁気誘導形ヘッドから磁気抵抗ヘッドに変化したことにより、出力が向上している。しかし、線記録密度が高い領域においては、依然として出力の低下が大きく、記録磁化状態を正確に把握することができない。さらに、再生ヘッドの特性の影響を受けるため、媒体の磁化状態を正確に評価することは非常に困難である。
【0003】また、磁気記録媒体においては、記録密度が高くなると、記録ひずみが生じる。記録ひずみには、非線形遷移シフト、パーシャルイレージャー及びトランディションブロードニングがある。非線形遷移シフトは、一般的に五次高調波法により測定されている(例えば、Y.Tang and C.Tsang,IEEETrans.Magn.,Vol.27,No.6,pp5316−5318,1991)。パーシャルイレージャーについては、ある記録密度Dの三次高調波成分V3 と記録密度3Dの基本波成分V1 とを測定し、パーシャルイレージャーがなければV1 /(3×V3 )=1となり、パーシャルイレージャーがあればV1 /(3×V3 )<1となることを用いて、定量的に測定できることが、1996年のインターマグ国際会議(講演番号:GP29)において報告されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来技術では以下のような問題点がある。
【0005】〔1〕.再生ヘッドによる測定方法
【0006】第1の問題点は、記録密度の高い領域での記録磁化状態を正確に評価できない点である。その第1の理由は、再生ギャップ長と最短記録波長が同等レベルになると、ギャップ損失のため出力が小さくなり、磁化状態を正確に測定できないためである。また、現在の再生ヘッドのギャップ長は0.1〜0.2μm程度であり、これ以上ギャッブ長を小さくすることは現在のプロセス技術からすると非常に困難ある。さらに、実在しない狭ギャップヘッドで再生した際の出力を予測することも非常に困難である。その第2の理由は、高密度領域では、再生時のスペーシングの影響により出力信号が小さくなるので、磁化状態の正確な把握ができないためである。スペーシングの影響を除くことができれば、正確な磁化状態を把握することができる。
【0007】第2の問題点は、媒体の局所的な磁化状態を正確に評価することができない点である。その理由は、再生トラック幅が狭すぎると再生出力が得られないため、再生ヘッド幅としては狭くても1〜2μm程度の大きさが必要となることから、トラック内の局所的な状況(例えば、トラック端部の状況)を正確に把握することができない。つまり、再生ヘッドよりも狭い領域を測定することができない。
【0008】〔2〕.非線形遷移シフト量を五次高調波法により測定する方法
【0009】その問題点とは、非線形遷移シフトを単独で測定できるものではないことである。その理由は、本方法で測定されている非線形シフト量は、非線形遷移シフトとパーシャルイレージャーとが合わさったものであるからである。
【0010】〔3〕.パーシャルイレージャーの測定方法
【0011】第1の問題点は、この測定方法は再生波形が上下対称であることを前提条件としている点である。その理由は、再生ヘッドの大部分は上下非対称の波形であるからである。
【0012】第2の問題点は、本測定方法ではパーシャルイレージャーの詳細がわからないことである。その理由は、次のとおりである。再生ヘッドにより再生された信号によってパーシャルイレージャーを測定するため、再生ヘッドのトラック幅全体の平均的な現象が測定される。再生トラック幅が狭すぎると再生出力が得られないため、狭くても1〜2μm程度の大きさが必要となることから、トラック内の局所的な状況(例えば、トラック端部の状況)を正確に把握することができない。つまり、再生ヘッドよりも狭い領域を測定することができない。
【0013】
【発明の目的】そこで、本発明の目的は、再生ヘッドの影響を受けることなく、局所的な磁化状態を、高い記録密度においても観察できる記録磁化状態測定装置を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】図1は、本発明に係る記録磁化状態測定装置の基本的構成を示す機能ブロック図である。図2は、図1の記録磁化状態測定装置において磁気力顕微鏡により検出された記録磁化パターンを示す平面図である。図3は、図1の記録磁化状態測定装置においてMFM出力信号抽出手段によって抽出されたMFM出力信号を示す波形図である。以下、これらの図面に基づき説明する。
【0015】本発明に係る記録磁化状態測定装置10は、媒体D上に形成された記録磁化パターンaを検出する磁気力顕微鏡(MFM)12と、磁気力顕微鏡12で検出された記録磁化パターンaから、所定の再生MFM幅で記録方向に沿った一次元のMFM出力信号bを抽出するMFM出力信号抽出手段14と、MFM出力信号抽出手段14によって抽出されたMFM出力信号bの振幅の平均値及び標準偏差をそれぞれ再生出力c及び媒体ノイズdとして算出する波形数値解析手段16とを備えたものである。MFM出力信号抽出手段14及び波形数値解析手段16は、例えば、マイクロコンピュータやDSPによって実現することができる。
【0016】まず、図示しない記録ヘッドによって媒体Dに記録された磁化状態を、磁気力顕微鏡12を用いて観察する。MFM出力信号抽出手段14は、磁気力顕微鏡12によって得られた記録磁化パターンaのMFM像(図2)からMFM信号を取り出しトラック幅方向に平均してMFM出力信号bを得る(図3)。MFM出力信号bは再生ヘッドの影響を受けていないので、MFM出力信号bを用いて局所的な記録磁化状態を測定することができる。
【0017】また、磁気力顕微鏡12は、検出用チップ(図示せず)を磁気センサーとする狭トラックかつ狭ギャップの磁気ヘッドと見なすことができ、検出用チップと媒体Dとの間隔も任意に制御することができる。
【0018】図4は、本発明に係る記録磁化状態測定装置の動作を示すフローチャートである。以下、この図面に基づき説明する。
【0019】まず、記録ヘッドにより媒体上に形成された記録磁化パターンの磁気力顕微鏡により観察し、得られたMFM像を定量的に平均化処理を行い、MFM波形信号(MFM出力信号)を得る。次に、MFM出力信号の波形数値解析を行うことにより、振幅の平均値と標準偏差を求め、前者を再生出力、後者を媒体ノイズと定義することより、媒体S/Nを測定することができる。本発明の記録磁化状態測定装置を用いれば、再生ヘッドの特性に影響を受けずに、高精度で高分解能の記録磁化状態の測定が可能となる。例えば、トラック内の局所的な信号やノイズの評価、並びに記録再生特性に及ぼす記録ヘッドの形状や記録ギャップ長の影響についても測定することができる。特に、本発明の記録磁化状態測定装置は、狭トラック、高線密度においてその効力を発揮する。なお、参考までに、従来技術の動作を示すフローチャートを図5に示す。
【0020】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態について、実施例1〜13を用いて具体的に説明する。
【0021】
【実施例1】媒体には、保磁力2200Oe一定で、Brδ(Br:残留磁束密度、δ:磁性膜厚)が80,100,125Gμmの3種類を用いた。記録には、トラック幅4μm、ギャップ長0.5μmの記録ヘッドを用いた。記録密度5〜400kFRPIの記録磁化バターンを記録した後、磁気力顕微鏡(MFM)観察を行った。次に、測定したMFM像を再生幅3μmの幅で定量的に平均化処理を行った。続いて、得られたMFM出力信号の波形数値解析を行ない、MFM出力信号の振幅の平均値及び標準偏差を求め、前者を再生出力(S)、後者を媒体ノイズ(N)として、媒体S/Nを測定した。
【0022】結果を図6に示す。本発明の記録磁化状態測定装置を用いることにより、再生ヘッドの影響を受けない磁化状態を測定することができる。さらに、再生ヘッドでは再生信号を検出できない記録密度においても(つまり、再生ヘッドでは測定することができない記録磁化状態においても)、正確な磁化状態を測定することができる。
【0023】
【実施例2】保磁力2500Oe、Brδ60Gμmの特性の媒体上に、記録トラック幅1μm、ギャップ長0.4μmの記録ヘッドで磁化パターンを形成した。ここで形成した記録磁化パターンの記録密度は、10〜450kFRPIである。これらの記録磁化パターンを実施例1と同様にして媒体S/Nを測定した。
【0024】結果を図7に示す。450kFRPIという高い記録密度においても、媒体S/Nが測定できていることがわかる。再生ヘッドを用いた従来の記録再生評価においては、記録ヘッド幅が1μmでは再生信号が小さすぎて磁化状態を評価することができない。しかしながら、本発明の記録磁化状態測定装置を用いることにより、再生ヘッドでは信号を検出できない狭いトラック幅及び高い記録密度においても、正確な磁化状態を測定することができる。つまり、本発明の記録磁化測定装置は狭トラック、高密度において特に効果が大きい。
【0025】
【実施例3】保磁力2200Oe一定で、Brδが80,100,125Gμmの3種類の媒体上に、記録密度10kFRPI、80kFRPIの記録磁化パターンを記録し、これらのMFM観察を行った。次に、得られたMFM像を再生幅0.1μmの幅で定量的に平均化処理を行った。続いて、得られたMFM出力信号の波形数値解析を行い、MFM出力信号の振幅の平均値及び標準偏差を求め、前者を再生出力(S)、後者を媒体ノイズ(N)として、媒体S/Nを測定した。さらに、0.1μmずつオフトラックさせながら、同様の測定を行い、媒体S/Nのオフトラック特性を測定した。
【0026】結果を図8及び図9に示す。本発明の記録磁化状態測定装置を用いることにより、再生ヘッドの影響を受けない磁化状態を測定することができる。再生ヘッドでは、トラック幅全体の平均的な現象が測定されるため、トラック内の局所的な状況を正確に測定することができない。しかし、本発明の記録磁化状態測定装置を用いると、再生ヘッドでは測定することができない再生ヘッドよりも狭い領域(ここでは0.1μm単位)の磁化状態を正確に測定することができる。本発明はトラック端部の状況を測定するのに特に有効である。
【0027】
【実施例4】保磁力2400Oe一定で、Brδが80,100,125Gμmの3種類の媒体上に、記録密度10kFRPIの記録磁化パターンを記録した。これらのパターンのMFM観察を行い、得られたMFM像を再生幅20nmの幅で、定量的に平均化処理を行い、得られたMFM出力信号の波形数値解析を行ない、MFM出力信号の振幅の平均値及び標準偏差を求め、標準偏差を媒体ノイズ(N)として測定した。さらに、0.1μmずつオフトラックさせながら、同様の測定を行い、媒体ノイズのオフトラック特性を測定した。
【0028】結果を図10に示す。Brδが高くなるにつれて、トラック端部でのノイズが増加していることがわかる。通常の再生ヘッドを用いた従来の記録再生評価においては、このような狭トラックでは再生信号が小さすぎて、正確な情報が得られない。しかし、本発明の記録磁化状態測定装置を用いると、再生幅を任意に選択することができ、かつ十分大きな再生信号が得られるため、トラック端部の状況を正確に把握することができる。つまり、本発明はトラック端部の状況を測定するのに特に有効である。
【0029】
【実施例5】保磁力2200Oe、Brδ125Gμmの磁気特性を持つ媒体上に、記録トラック幅4μm、ギャップ長0.5μmの記録ヘッドを用いて記録密度10、20、40、80、120、160kFRPIの記録磁化パターンを記録した。これらの磁化パターンについて、ディスクとMFMチップの間隔を10〜600nmの範囲で変化させながら、MFM観察を行った。次に、得られたMFM像を定量的に平均化処理を行い、MFM波形信号を得た。
【0030】記録密度10kFRPIの磁化パターンで、ディスクとMFMチップ間隔10nmにおけるMFM出力を基準にした場合の、出力の浮上量依存性を図11R>1に示す。これにより、再生ヘッドで再生した際の出力の浮上量依存性を測定することができる。ここで、MFMはチップを磁気センサーとする狭ギャップの磁気ヘッドと見なすことができるため、チップとディスクの間隔も任意に制御することができる。さらに、実施例1と同様にして、媒体S/Nを求めることにより、媒体S/Nの浮上量依存性を測定することができる。
【0031】
【実施例6】実施例1と同様にして、保磁力2200Oe、Brδ80Gμmの磁気特性を持つ媒体上に、記録トラック4μm、1μm及び0.5μmの記録ヘッドで記録パターンを形成した。1μm、0.5μmのようにトラック幅が狭いと、再生ヘッドを用いて磁気情報を得ることができない。これに対して、本発明の記録磁化状態測定装置では、次のように実測することができる。
【0032】記録トラック4μm、1μm、0.5μmのヘッドの各MFM平均出力が4.25、3.5、2.0(相対値)であり、記録トラック4μmの磁化パターンを4μm幅の再生ヘッドで再生した出力が600μVppであったことを利用すると、記録トラック幅1μmのヘッドで記録したパターンの再生ヘッドでの出力S(T1)は、S(T1)=600×3.5×1/(4.25×4)=123.5μVpp、記録トラック幅0.5μmのヘッドで記録したパターンの再生ヘッドでの出力S(T05)は、S(T05)=600×2.0×0.5/(4.25×4)=35.3μVppとなる。
【0033】つまり、記録再生ができるだけのトラック幅をもつヘッドと、狭トラックヘッドを同時に用いて記録を行い、それらのMFM出力信号と幅広のトラックヘッドで再生した結果を利用すれば、狭トラックヘツドでの再生信号の大きさを正確に測定することができる。さらに、実施例1と同様にして狭トラックヘッドでの媒体S/Nを測定することができる。
【0034】
【実施例7】保磁力2200Oe、Brδ80〜125Gμmの磁気特性を持つ媒体上に、記録トラック幅4μm、ギャップ長0.5μmの記録ヘッドを用いて記録密度10kFRPIで記録した。実施例1と同様にして得られるMFM信号と、再生ヘッド(再生ギャップ長0.3μm)で再生した出力信号との関係を、図12に示す。
【0035】MFMから得られた信号と再生ヘッドから得られた信号は比例関係にあることがわかる。そこで、Brδが未知で、再生ヘッドでの記録再生評価をしていない媒体Dについても、同様のパターンを記録したときのMFM出力が8(相対値)であったことから、この媒体の再生ヘッドにより得られる出力の大きさは1100μVppであることがわかる。つまり、本発明の記録磁化状態測定装置を用いることにより、再生ヘッドによる評価を実際にしなくても再生ヘッドにより得られる出力の大きさを測定することができる。
【0036】
【実施例8】トラック幅5μmの記録ヘッドを用いて、保磁力2400Oe、Brδ100Gμmの磁気特性をもつ媒体上に記録パターンを記録し、MFMを用いて記録磁化状態を観察した。図13及び図14に示すように、記録密度150kFRPIに相当する2ビットパターンを記録し、トラック幅方向にMFM出力を平均化した。ここで、記録する際には記録補償をかけて正確な記録密度を記録した。
【0037】これより2ビットパターンのピーク間隔を測定すると150nmであった。この記録密度では、本来ビット長は169nmであるから、本来のビット長よりも19nmビット長が短くなっている。これは非線形遷移シフトによるものであり、本発明により非線形遷移シフト量が19nm、11%であることが測定できる。
【0038】図15に非線形シフト量の記録密度依存性を示す。ここでは記録ヘッド4種類(ヘッドA,ヘッドB,ヘッドC,ヘッドD)について非線形遷移シフト量を測定した結果を合わせて示す。なお、縦軸は各記録密度のビット長に対する非線形遷移シフト量の割合である。本発明により非線形遷移シフト量を測定できる。
【0039】
【実施例9】図13及び図14に示すように、記録密度150kFRPIに相当する2ビットパターンを記録し、記録されている領域のうち、良好に記録されている部分(MFM出力の最大値又は最も多い出力値)を基準出力M1とする。次に、再生MFM幅を記録トラック幅にとり、そのMFM平均出力をM2とする。PE1=(M1一M2)/M1×100により定義する。このように定義することにより、記録トラック全体としてのパーシャルイレージャーの割合を算出することができる。
【0040】図16に、記録トラック幅全体に占めるパーシャルイレージャーの発生割合の記録密度依存性を示す。これにより、再生ヘッドの影響を受けない記録磁化状態を正確に測定することができる。本発明の記録磁化状態測定装置において、記録保証により非線形遷移シフトを除いて、磁化パターンを直接観察することが可能となり、パーシャルイレージャーの分離が可能となる。
【0041】
【実施例10】実施例9と同様にして、記録密度150kFRPIに相当する2ビットパターンを記録し、再生MFM幅を再生ヘッドのトラック幅にとり、MFM平均出力をM3とする。PE2=(M1−M3)/M1×100により定義する。このように定義することにより、再生トラック全体としてのパーシャルイレージャーの割合を算出することができる。
【0042】図17に、再生トラック幅に占めるパーシャルイレージャーの発生割合の記録密度依存性を示す。これにより、再生ヘッドの影響を受けない記録磁化状態を正確に測定することができ、再生ヘッドを用いて得られた情報との比較をすることができる。
【0043】
【実施例11】実施例9と同様にして基準出力M1とする。次に、再生MFM幅を0.029μmにとり、そのMFM平均出力をM4とする。PE=(M1−M4)/M1×100により定義する。再生MFM幅をトラック幅方向にずらしながら順次MFM平均出力を測定した。この測定方法により、トラックの局所的なパーシャルイレージャーの様子を定量化することができる。
【0044】図18に、2種類の媒体について記録密度130kFRPIでのパーシャルイレージャーの発生分布を示す。横軸はオントラック位置からのオフトラック量を、縦軸はパーシャルイレージャーの大きさを示す。また、媒体Aは保磁力2200Oe、Brδ150Gμm(Br:残留磁束密度、δ:磁性膜厚)、保磁力配向比(円周方向の保磁力/半径方向の保磁力)1.0の特性を持ち、媒体Bは保磁力2200Oe、Brδ150Gμm、保磁力配向比1.4の特性を持つ。これよりトラック端部でのパーシャルイレージャー量が大きいことがわかる。したがって、本発明の記録磁化状態測定装置を用いれば、再生ヘッドの幅よりも狭い局所的な情報を正確に測定することができる。
【0045】
【実施例12】実施例10と同様にして記録ヘッドの違いによるパーシャルイレージャーの違いを調べた。トラック幅4μmの記録ヘッド3種類(ヘッドA,ヘッドB,ヘッドC)を用いて、記録密度80〜350kFRPIの範囲でパーシャルイレージャーを測定した。
【0046】MFM再生幅を3μmとした場合の結果を図19に示す。ここで、ヘッドA,ヘッドB,ヘッドCはライトギャップ長が異なる。これより、再生ヘッドの影響を受けない、記録ヘッドの記録能力を測定することができる。
【0047】
【実施例13】実施例11と同様にして記録ヘッドの違いによるパーシャルイレージャーの違いを調べた。記録密度200kFRPIにおいて再生MFM幅(0.12μm)をトラック幅方向にずらしながら順次MFM平均出力を測定し、トラックの局所的なパーシャルイレージャーの様子を定量化した。
【0048】図20に2種類のヘッドについて記録密度200kFRPIでのパーシャルイレージャーの発生分布を示す。横軸はオントラック位置からオフトラックした長さを、縦軸はパーシャルイレージャーの大きさを示す。ここで、ヘッドAはコア材料がNiFeであり、ヘッドBはコア材料がFeTaNである。これよりFeTaNヘッドで記録した場合すべてのトラック内でパーシャルイレージャーが少ないことがわかる。したがって、本発明の記録磁化状態測定装置を用いれば、再生ヘッドの幅よりも狭い局所的な情報を正確に測定することができる。
【0049】
【発明の効果】以上説明したように、本発明の記録磁化状態観察装置によれば、超高密度の記録磁化状態を正確に把握することができ、超高密度記録用のヘッド、媒体、R/W条件の先行評価を容易に、かつ正確に実施することが可能となる。これに加え、本発明の記録磁化状態観察装置によれば、各請求項ごとに次のような効果を奏する。
【0050】請求項1の記録磁化状態観察装置によれば、記録ヘッドにより媒体上に形成された記録磁化パターンの磁気力顕微鏡観察を行い、測定したMFM像を定量的に平均化処理を行い、得られたMFM出力信号の波形数値解析を行うことにより、MFM出力信号の振幅の平均値と標準偏差を求め、前者を再生出力、後者を媒体ノイズとして、媒体S/Nを測定することができる。
【0051】請求項2の記録磁化状態観察装置によれば、再生MFM幅を1nm〜500nmにすることにより記録トラック内部及び記録トラック端部の局所的な媒体S/Nを測定することができる。
【0052】請求項3の記録磁化状態観察装置によれば、MFM測定の浮上量依存性から再生ヘッドで再生した際の出力の浮上量依存性を測定できる。
【0053】請求項4の記録磁化状態観察装置によれば、MFM測定の浮上量依存性から再生ヘッドで再生した際の媒体ノイズの浮上量依存性を測定できる。
【0054】請求項5の記録磁化状態観察装置によれば、トラック幅が2μm以下の記録ヘッドで記録を行った際に、再生ヘッドで直接再生できない場合でも出力の大きさを測定できる。
【0055】請求項6の記録磁化状態観察装置によれば、記録された2ビットパターンに対し、非線形遷移シフト量を定量的に測定することができる。
【0056】請求項7又は9の記録磁化状態観察装置によれば、磁気力顕微鏡を用いてパーシャルイレージャーを定量的に測定することができる。
【0057】請求項8又は10の記録磁化状態観察装置によれば、磁気力顕微鏡を用いて非線形遷移シフト量とパーシャルイレージャーとを分離できる。
【0058】請求項11又は12の記録磁化状態観察装置によれば、記録トラックの内部及び端部などの局所的なパーシャルイレージャーを測定することができる。
【0059】請求項13の記録磁化状態観察装置によれば、記録ヘッドの記録能力を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る記録磁化状態測定装置の基本的構成を示す機能ブロック図である。
【図2】図1の記録磁化状態測定装置において磁気力顕微鏡により検出された記録磁化パターンを示す平面図である。
【図3】図1の記録磁化状態測定装置においてMFM出力信号抽出手段によって抽出されたMFM出力信号を示す波形図である。
【図4】本発明に係る記録磁化状態測定装置の動作を示すフローチャートである。
【図5】従来技術の動作を示すフローチャートである。
【図6】本発明の記録磁化状態測定装置において、Brδの異なる3種類の媒体について、MFMにより測定した媒体S/Nの記録密度依存性を示すグラフである。
【図7】本発明の記録磁化状態測定装置において、狭トラックヘッド(トラック幅1μm)で記録した場合のMFMにより測定した媒体S/Nの記録密度依存性を示すグラフである。
【図8】本発明の記録磁化状態測定装置において、Brδの異なる3種類の媒体について、MFMにより測定した記録密度10kFRPIにおける媒体S/Nのオフトラック特性を示すグラフである。
【図9】本発明の記録磁化状態測定装置において、Brδの異なる3種類の媒体について、MFMにより測定した記録密度80kFRPIにおける媒体S/Nのオフトラック特性を示すグラフである。
【図10】本発明の記録磁化状態測定装置において、Brδの異なる3種類の媒体について、MFMにより測定した記録密度10kFRPIにおける媒体ノイズのオフトラック特性を示すグラフである。
【図11】本発明の記録磁化状態測定装置において、記録密度10kFRPIの磁化パターンで、ディスクとMFMチップ間隔10nmにおけるMFM出力を基準にした場合のMFM出力の浮上量依存性を示すグラフである。
【図12】本発明の記録磁化状態測定装置において、再生ヘッドによって得られた出力信号とMFMによるMFM出力信号の関係を示すグラフである。
【図13】本発明の記録磁化状態測定装置において、磁気力顕微鏡により検出された記録磁化パターン(記録密度150kFRPIに相当する2ビットパターン)を示す平面図である。
【図14】本発明の記録磁化状態測定装置において、図1313の記録磁化パターンから抽出されたMFM出力信号を示す波形図である。
【図15】本発明の記録磁化状態測定装置において、4種類のヘッドについて、MFM信号より求めた非線形遷移シフト量の記録密度依存性を示すグラフである。
【図16】本発明の記録磁化状態測定装置において、記録トラック幅全体に占めるパーシャルイレージャーの発生割合の記録密度依存性を示すグラフである。
【図17】本発明の記録磁化状態測定装置において、記録トラック幅全体に占めるパーシャルイレージャーの発生割合の記録密度依存性を示すグラフである。
【図18】本発明の記録磁化状態測定装置において、2種類の媒体について記録密度130kFRPIでのパーシャルイレージャーのオフトラック方向での発生分布を示すグラフである。
【図19】本発明の記録磁化状態測定装置において、3種類の記録ヘッドについて、パーシャルイレージャー(記録能力)の記録密度依存性を示すグラフである。
【図20】本発明の記録磁化状態測定装置において、2種類のヘッドについて、記録密度200kFRPIでのパーシャルイレージャーのオフトラック方向での発生分布を示すグラフである。
【符号の説明】
10 記録磁化状態測定装置
12 磁気力顕微鏡(MFM)
14 MFM出力信号抽出手段
16 波形数値解析手段
D 媒体
a 記録磁化パターン
b MFM出力信号
c 再生出力
d 媒体ノイズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 磁気記録媒体上に形成された記録磁化パターンを検出する磁気力顕微鏡(MFM)と、この磁気力顕微鏡で検出された記録磁化パターンから、所定の再生MFM幅で記録方向に沿った一次元のMFM出力信号を抽出するMFM出力信号抽出手段と、このMFM出力信号抽出手段によって抽出されたMFM出力信号の振幅の平均値及び標準偏差をそれぞれ再生出力及び媒体ノイズとして算出する波形数値解析手段と、を備えた記録磁化状態測定装置。
【請求項2】 前記再生MFM幅が1nm〜500nmである、請求項1記載の記録磁化状態測定装置。
【請求項3】 前記磁気力顕微鏡は、当該磁気力顕微鏡の検出用チップと前記磁気記録媒体との距離ごとに前記記録磁化パターンを検出し、前記MFM出力信号抽出手段は、当該距離ごとに前記MFM出力信号を抽出し、前記波形数値解析手段は、当該距離ごとに前記再生出力を算出する、請求項1記載の記録磁化状態測定装置。
【請求項4】 前記磁気力顕微鏡は、当該磁気力顕微鏡の検出用チップと前記磁気記録媒体との距離ごとに前記記録磁化パターンを検出し、前記MFM出力信号抽出手段は、当該距離ごとに前記MFM出力信号を抽出し、前記波形数値解析手段は、当該距離ごとに前記媒体ノイズを算出する、請求項1記載の記録磁化状態測定装置。
【請求項5】 磁気記録媒体上に形成された記録磁化パターンを検出する磁気力顕微鏡(MFM)と、この磁気力顕微鏡で検出された記録磁化パターンから、所定の再生MFM幅で記録方向に沿った一次元のMFM出力信号を抽出するMFM出力信号抽出手段と、このMFM出力信号抽出手段によって抽出されたMFM出力信号の振幅の平均値を算出する波形数値解析手段とを備え、異なる記録トラック幅Ww1,Ww2について、前記平均値をそれぞれMf1,Mf2、再生ヘッドによる再生出力をそれぞれOr1,Or2とし、再生出力Or1が既知で、再生出力Or2が未知であるとき、前記波形数値解析手段は、次式Or2=Or1×Mf2×Ww2/(Mf1×Ww1)
により再生出力Or2を算出する、記録磁化状態測定装置。
【請求項6】 前記記録磁化パターンが2ビットパターンである、請求項5記載の記録磁化状態測定装置。
【請求項7】 磁気記録媒体上に形成された記録磁化パターンを検出する磁気力顕微鏡(MFM)と、この磁気力顕微鏡で検出された記録磁化パターンから、所定の再生MFM幅で記録方向に沿った一次元のMFM出力信号を抽出するMFM出力信号抽出手段と、このMFM出力信号抽出手段によって抽出されたMFM出力信号の振幅の平均値を算出する波形数値解析手段とを備え、前記記録磁化パターンのうち良好に記録されている部分の前記平均値をM1、前記再生MFM幅を記録トラック幅に一致させたときの前記平均値をM2、パーシャルイレージャーの割合をPE1〔%〕としたとき、前記波形数値解析手段は、次式PE1=(M1一M2)/M1×100により記録トラック全体としてのパーシャルイレージャーの割合を算出する、記録磁化状態測定装置。
【請求項8】 前記記録磁化パターンが2ビットパターンである、請求項7記載の記録磁化状態測定装置。
【請求項9】 磁気記録媒体上に形成された記録磁化パターンを検出する磁気力顕微鏡(MFM)と、この磁気力顕微鏡で検出された記録磁化パターンから、所定の再生MFM幅で記録方向に沿った一次元のMFM出力信号を抽出するMFM出力信号抽出手段と、このMFM出力信号抽出手段によって抽出されたMFM出力信号の振幅の平均値を算出する波形数値解析手段とを備え、前記記録磁化パターンのうち良好に記録されている部分の前記平均値をM1、前記再生MFM幅を再生ヘッドのトラック幅に一致させたときの前記平均値をM3、パーシャルイレージャーの割合をPE2〔%〕としたとき、前記波形数値解析手段は、次式PE2=(M1一M3)/M1×100により再生トラック全体としてのパーシャルイレージャーの割合を算出する、記録磁化状態測定装置。
【請求項10】 前記記録磁化パターンが2ビットパターンである、請求項9記載の記録磁化状態測定装置。
【請求項11】 磁気記録媒体上に形成された記録磁化パターンを検出する磁気力顕微鏡(MFM)と、この磁気力顕微鏡で検出された記録磁化パターンから、所定の再生MFM幅で記録方向に沿った一次元のMFM出力信号を抽出するMFM出力信号抽出手段と、このMFM出力信号抽出手段によって抽出されたMFM出力信号の振幅の平均値を算出する波形数値解析手段とを備え、前記記録磁化パターンのうち良好に記録されている部分の前記MFM出力信号の前記平均値をM1、前記再生MFM幅を1nm〜500nmのいずれかにしたときの前記MFM出力信号の前記平均値をM4、パーシャルイレージャーの割合をPE3〔%〕としたとき、前記波形数値解析手段は、次式PE3=(M1一M4)/M1×100によりパーシャルイレージャーの割合を算出する、記録磁化状態測定装置。
【請求項12】 前記記録磁化パターンが2ビットパターンである、請求項11記載の記録磁化状態測定装置。
【請求項13】 前記記録磁化パターンは、異なる種類の記録ヘッドによって形成されたものてあり、前記MFM出力信号抽出手段は、当該記録ヘッドの種類ごとに前記MFM出力信号を抽出し、前記波形数値解析手段は、当該記録ヘッドの種類ごとに前記再生出力を算出する、請求項1、2、7、8、9、10、11又は12記載の記録磁化状態測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図20】
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【図19】
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