説明

記録装置および記録媒体の処理装置

【課題】処理液の蒸発および漏出を抑止することができる記録装置および記録媒体の処理装置を提供すること。
【解決手段】保護カバー16の内部に、塗布ローラ2の周面に処理液を付与する吸収体8とサブタンク9を備える。記録媒体1に対する処理液の塗布動作の停止時に、保護カバー16の開口部16aを塗布ローラ2の周面に押し付けて、保護カバー16内を密閉空間とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像の記録性や堅牢性などを向上させるための処理液を記録媒体に塗布する機能を有する記録装置、および記録媒体に対して処理液を塗布するための記録媒体の処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1,2,3には、画像が記録される前の記録媒体に対して、ローラによって処理液を塗布する機構を有する記録装置が記載されている。これらの記録装置は、表面に処理液が付着された塗布ローラを記録媒体の表面に接触させたまま回転させることにより、その処理液を記録媒体の表面に塗布する構成となっている。その処理液が塗布された後の記録媒体の表面に対して、画像が記録される。
【0003】
【特許文献1】特開平8−72227号公報
【特許文献2】特開2002−096452号公報
【特許文献3】米国特許第6183079号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の記録装置においては、塗布ローラに処理液を付与するための機構部分が外部に露出しているため、その露出部分から処理液中の水分が蒸発して、処理液の濃度が変化するおそれがある。処理液の濃度が変化した場合には、記録媒体に対して処理液が良好に塗布されずに、処理液の機能が損なわれたり、処理液の無駄な消費を招くおそれがある。また、記録装置の運搬時等において、その記録装置が傾いた場合に、処理液が漏出おそれもある。
【0005】
本発明の目的は、処理液の蒸発および漏出を抑止することができる記録装置および記録媒体の処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の記録装置は、画像の記録前あるいは記録後の記録媒体に対して、塗布ローラによって処理液を塗布する処理液の塗布機構を有する記録装置において、前記塗布ローラの周面に処理液を付与する付与手段と、前記記録媒体に対する処理液の塗布動作の停止時に、前記付与手段を覆って処理液の蒸発を抑止するための保護手段と、を備えることを特徴とする。
【0007】
本発明の記録媒体の処理装置は、塗布ローラによって記録媒体に処理液を塗布するための記録媒体の処理装置であって、前記塗布ローラの周面に処理液を付与する付与手段と、前記記録媒体に対する処理液の塗布動作の停止時に、前記付与手段を覆って処理液の蒸発を抑止するための保護手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、記録媒体に対する処理液の塗布動作の停止時に、塗布ローラに処理液を付与する付与手段を保護手段によって覆うため、その付与手段からの処理液の蒸発および漏出を抑止することができる。この結果、画像の記録前または記録後の記録媒体に所定濃度の処理液を適確に付与し、画像の記録性や堅牢性などを向上させる処理液の機能を充分に発揮させることができる。
【0009】
また、付与手段などから溢れた処理液、および塗布ローラの周面に付与された余剰分の処理液を保護カバー内に回収することにより、処理液を再利用して、その消費量を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0011】
図1は、本実施形態の記録装置における記録媒体の搬送系の概略構成図であり、カセット20内に収容されている記録媒体1は、給紙ローラ21によって1枚ずつ搬送路中に給紙される。給紙された記録媒体1は、搬送ローラ22、23、24、25によって搬送路中を矢印A方向に搬送される。その搬送路中の記録媒体1は、記録ヘッド26によって画像が記録される。その記録ヘッド26は、例えば、インクを吐出可能なインクジェット記録ヘッドであり、記録媒体1に向かって吐出することによって画像を記録する。そのインクジェット記録ヘッドは、インク吐出させるためのエネルギーの発生手段として、電気熱変換体(ヒータ)やピエゾ素子などを用いることができる。電気熱変換体を用いた場合には、その電気熱変換体の発熱によりインクを発泡させ、その発泡エネルギーを利用して吐出口からインクを吐出させることができる。
【0012】
記録ヘッド26は、記録媒体1の幅方向(図1中紙面の表裏方向)に沿う主走査方向に移動されるものであってもよく、あるいは、記録媒体1上の記録面の幅方向(図1中紙面の表裏方向)の全域に渡って延在するものであってもよい。前者の記録ヘッドを用いる記録装置は、記録ヘッドの主走査方向の移動を伴う記録走査と、記録媒体1の搬送動作と、を交互に繰り返すシリアルスキャンタイプとなる。また、後者の記録ヘッド用いる記録装置は、記録媒体1を連続的に搬送しつつ画像を記録するフルラインタイプとなる。このように、記録装置の記録方式や記録ヘッドの構成は任意である。
【0013】
100は、記録装置に組み込まれた処理液の塗布機構であり、画像が記録される前の記録媒体1の表面に対して処理液を塗布する。塗布機構100は塗布ローラ2と押えローラを含み、それらは、給紙ローラ21と搬送ローラ22との間に配置される。16は保護カバーである。
【0014】
図2は、記録動作の停止時における塗布機構100の概略構成図、図3は、記録動作時における塗布機構100の概略構成図である。
【0015】
記録媒体1は、図3のように、塗布ローラ2と押えローラ3との間に挟まれたまま、それらの回転を伴って矢印の方向に搬送される。これにより、塗布ローラ2の周面に付着されている処理液が記録媒体1の表面に転写される。塗布ローラ2の周面は、例えば、樹脂材料によって形成されている。塗布ローラ2の外周のギア部にはギア4,5が直列的に接続されており、そのギア5に対して、遊星ギアユニット6の遊星ギア6aが接続可能に配されている。遊星ギアユニット6の太陽ギア6bは、駆動モータ7の回転軸に連結されている。
【0016】
8は塗布用吸収体であり、液体を吸収、保持するフェルト等の材質によって形成されている。塗布用吸収体8は、サブタンク9に囲われるように、その内部に保持されて、塗布ローラ2の周面に接している。サブタンク9内に処理液が供給されると、その処理液は塗布用吸収体8によって吸い上げられて、塗布ローラ2の周面に塗布される。サブタンク9は、処理液を収容するメインタンク12にチューブ10を介して連通されており、メインタンク12内の処理液は、ポンプ11によってサブタンク9に供給される。サブタンク9の外壁には調整ブレード13が固着されており、その調整ブレード13の一部は塗布ローラ2の周面に接している。14はクリーナブレードであり、ばね15により付勢されて、塗布ローラ2の周面に所定の圧力で接している。
【0017】
16は保護カバーであり、塗布用吸収体8、サブタンク9、調整ブレード13、およびクリーナブレード14等を囲うように形成されている。保護カバー16の開口部16aは、塗布ローラ2の周面と対応する。保護カバー16は、図2および図3中の上下方向に移動可能に保持され、さらにばね17よって、塗布ローラ2の周面に近接する方向に付勢されている。保護カバー16に設けられた軸部16bには遊星ギアユニット6が連結しており、遊星ギア6aの公転に連動して、保護カバー16が上下動する構成となっている。保護カバー16の内部は、チューブ18を介して処理液のメインタンク12に連通されており、保護カバー16内に溜まった処理液は、ポンプ19によってメインタンク12に回収される。ポンプ11およびポンプ19は駆動モータ7に連結されており、駆動モータ7によって同時に駆動される。
【0018】
次に、処理液の塗布機構100の動作について説明する。
【0019】
記録動作の停止時には、駆動モータ7が停止して、塗布機構100は図1の状態にある。記録動作の開始に際しては、以下のような記録準備動作をする。
【0020】
まず、駆動モータ7の駆動を開始して、駆動モータ7に連結されているポンプ11および19による処理液の供給動作および回収動作を開始する。メインタンク12からサブタンク9に供給される処理液は、塗布用吸収体8に吸収保持される。このようなポンプ11および19の動作と同時に、駆動モータ7に連結されている遊星ギアユニット6の遊星ギア6aが反時計方向に公転する。これにより、遊星ギアユニット6に接続されている保護カバー16は、ばね17に抗して下方に移動され、図3のように、保護カバー16の開口部16aが塗布ローラ2の周面から離れる。さらに、遊星ギアユニット6の遊星ギア6aがギア5にかみ合うことにより、ギア4を介して駆動モータ7の駆動力が塗布ローラ2に伝達され、その塗布ローラ2が図3中矢印の時計方向に回転される。
【0021】
これにより、塗布用吸収体8に吸収保持された処理液は、塗布ローラ2の周面上に供給される。その塗布ローラ2の周面が時計方向に回転しているため、その周面に供給された処理液は、その余剰分が調整ブレード13によって除去される。これにより、所定量に調整された処理液が塗布ローラ2の周面に付着される。処理液が付着した塗布ローラ2の周面は、押えローラ3の位置に達してから、クリーナブレード14の位置に達して処理液が掻き取られる。その後、再び塗布用吸収体8により処理液が供給される。このように、塗布ローラ2の周面に対する処理液の供給動作と掻き取り動作とを繰り返す。塗布ローラ2に対する調整ブレード13の接触圧は、塗布ローラ2の周面上における処理液の付着量が所定量になるように調整される。調整ブレード13およびクリーナブレード14によって塗布ローラ2から除去された処理液は、保護カバー16によって受けられてから、チューブ18を介してメインタンク12に連続的に回収される。
【0022】
このような記録準備動作を所定時間続けて、塗布ローラ2上における処理液の状態が定常状態に達した時点から、記録動作を開始する。
【0023】
すなわち、給紙ローラ21によってカセット20からの記録媒体1の給紙を開始する。その記録媒体は、ローラ2と押えローラ3との間に搬送されたときに、押えローラ3によって所定の圧力で塗布ローラ2に押し付けられながら、塗布ローラ2の回転方向に搬送される。そのときに、塗布ローラ2の周面上に付着する調整された量の処理液は、記録媒体1上に均一に転写される。その際、記録媒体1上の紙粉等のごみが塗布ローラ2の周面上に付着したとしても、そのごみは、クリーナブレード14によって塗布ローラ2から除去される。そのため、このようなごみによって、処理液の均一な塗布が阻害されることはない。
【0024】
このようにして処理液が均一に塗布された記録媒体1は、図1のように、搬送ローラ22、23、24、25によって記録ヘッド26と対向する記録位置に搬送される。その記録ヘッド26によって、処理液が塗布された記録媒体1の表面に画像が記録される。画像が記録された後の記録媒体1は、記録装置の外部に排出される。
【0025】
このような記録動作により指定枚数の記録媒体1に対して画像を記録した後は、給紙ローラ21による給紙動作を停止して記録動作を終了する。
【0026】
すなわち、駆動モータ7の駆動を停止させ、これによりポンプ11、19が停止し、処理液の供給および回収動作が停止する。また、遊星ギアユニット6が駆動されなくなるため、図2のように、ばね17によって保護カバー16が上方へ復帰し、遊星ギアユニット6が時計方向に回動復帰する。
【0027】
このような記録動作の停止状態においては、図2のように、保護カバー16の開口部16aが塗布ローラ2の周面に当接する。そのため、塗布用吸収体8に吸収されている処理液、および保護カバー16内に溜まっている処理液は、保護カバー16と塗布ローラ2とによって密閉される空間内に位置することになる。この結果、記録装置が記録動作の停止状態のまま長時間放置された場合でも、処理液中の水分の蒸発を抑制することができる。また、このような記録動作の停止状態の記録装置が傾けられた場合にも、保護カバー16内の処理液の漏出を抑止することができる。
【0028】
(他の実施形態)
上述した実施形態における塗布機構100は、画像が記録される前の記録媒体1に対して処理液を塗布する。しかし、画像が記録された後の記録媒体1の搬送路中に塗布機構100を備えることにより、画像が記録された後の記録媒体1に対して処理液を塗布することもできる。また、このような処理液の塗布機構100を記録装置とは別の記録媒体の処理装置として構成することもできる。その処理装置は、記録装置の付属装置として構成してもよく、あるいは記録装置とは別に独立して用いられるものであってもよい。
【0029】
保護カバー16の駆動機構は、遊星ギアユニット6を用いた構成のみに限定されず任意であり、その駆動源は、必ずしも処理液の供給および回収動作のための駆動源と共通である必要はない。要は、処理液の塗布動作の停止時に、塗布ローラ2の周面に処理液を付与するための付与機構部分(吸収体8およびサブタンク9)からの処理液の蒸発および漏出を抑止するように、その処理液の付与機構部分を保護カバー16によって囲むことができればよい。記録媒体1に対する処理液の塗布動作の停止時は、記録動作の停止時を含み、前述した記録準備動作時は含まない。上述した実施形態においては、保護カバー16の開口部16aを塗布ローラ2の周面に押し付けることによって、処理液の付与機構部分を密閉する空間を形成した。しかし、塗布ローラ2を利用せずに処理液の付与機構部分の密閉空間を形成してもよく、例えば、保護カバー16の開口部16aを閉じるシャッターを備えてもよい。
【0030】
また処理液としては、例えば、普通紙に対する画像の記録性を向上させるための液体、記録画像の堅牢性(耐水性、耐候性など)を向上させるための液体等、種々の液体を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施形態における記録装置の搬送系の概略構成図である。
【図2】図1における処理液の塗布機構の記録動作停止時の説明図である。
【図3】図1における処理液の塗布機構の記録動作時の説明図である。
【符号の説明】
【0032】
1 記録媒体
2 塗布ローラ
8 吸収体
9 サブタンク
11,19 ポンプ
12 メインタンク
13 調整ブレード
14 クリーナブレード
16 保護カバー
16a 開口部
26 記録ヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像の記録前あるいは記録後の記録媒体に対して、塗布ローラによって処理液を塗布する処理液の塗布機構を有する記録装置において、
前記塗布ローラの周面に処理液を付与する付与手段と、
前記記録媒体に対する処理液の塗布動作の停止時に、前記付与手段を覆って処理液の蒸発を抑止するための保護手段と、
を備えることを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記付与手段は、
処理液が供給されるサブタンクと、
前記サブタンク内の処理液を吸収して前記塗布ローラの周面に塗布する吸収体と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記保護手段は、
前記付与手段を囲みかつ前記塗布ローラの周面と対向する位置に開口部を有する保護カバーと、
前記記録媒体に対する処理液の塗布動作の停止時に、前記付与手段を密閉する空間を形成するように前記保護カバーの開口部を閉じる閉動機構と、
を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の記録装置。
【請求項4】
前記閉動機構は、前記付与手段を密閉する空間を形成するために、前記保護カバーの開口部を前記塗布ローラの周面に押し付けることを特徴とする請求項3に記載の記録装置。
【請求項5】
前記塗布ローラの周面に対する処理液の付着量を調整するように、前記塗布ローラの周面から処理液を除去し、その除去した処理液を前記保護カバー内に導く調整ブレードを備えることを特徴とする請求項3または4に記載の記録装置。
【請求項6】
前記塗布ローラの周面から処理液を掻き取り、その掻き取った処理液を前記保護カバー内に導く調整ブレードを備えることを特徴とする請求項3または4に記載の記録装置。
【請求項7】
保護カバー内のインクを回収する回収手段を備えることを特徴とする請求項3から6のいずれかに記載の記録装置。
【請求項8】
塗布ローラによって記録媒体に処理液を塗布するための記録媒体の処理装置であって、
前記塗布ローラの周面に処理液を付与する付与手段と、
前記記録媒体に対する処理液の塗布動作の停止時に、前記付与手段を覆って処理液の蒸発を抑止するための保護手段と、
を備えることを特徴とする記録媒体の処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−301818(P2007−301818A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−131869(P2006−131869)
【出願日】平成18年5月10日(2006.5.10)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】