説明

診察・診断用防護装置

【課題】インフルエンザ等の感染症の診察・診断において、医師に対しての患者からの飛沫の付着を防止することと、患者等から室内に飛散した飛沫等の処理を行うことのできる手段が従来は提案されていない。
【解決手段】そこで本発明では、環状パイプ2を備えた防護装置本体1を支持手段3により適宜高さに支持可能とすると共に、前記環状パイプの前方側の下部に、弧状に空気噴出部8を設け、前記環状パイプの上側を空気遮断シート10により覆うと共に、この空気遮断シートを、前方側に開口部が形成されるように環状パイプから下方に垂下させ、環状パイプには清浄空気供給装置6に連なる給気ダクト7を接続し、清浄空気供給装置は、防護装置を設置している室内空気を清浄化して循環させる系統を有する診察・診断用防護装置を提案する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インフルエンザ(新型を含む。)等の感染症等の診察・診断に利用する防護装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザ等の感染症対策として、医師等の、医療や公衆衛生の現場の専門識者が患者と接触するに当たって、個人防護具(PPE:Personal Protective Equipment)、例えば手袋、ガウン、ヘッドカバー又は帽子、マスク、エプロン等の装着が求められており、例えば国立感染症研究所感染症情報センターでは、そのホームページ上において、適切なPPEの選択や着脱等に関する情報が掲載されている。
【0003】
このような個人防護具は、患者と接触する医師等が装着することを前提としており、診察時に患者が装着することは全く想定していない。即ち、診察時に患者がマスク等を装着していると、医師が患者の喉の粘膜の発赤等を観察したり、後述するような検体の採取が行えないからである。
【0004】
ところでインフルエンザの感染の有無は、患者から鼻腔拭い液、咽頭拭い液又は鼻腔吸引液を検体として採取し、それを診断キットにより検査して判断を行っている。
【0005】
この際、検体は、鼻腔拭い液では、鼻の奥に綿棒を挿入し、鼻甲介を数回こするようにして粘膜表皮を採取し、また咽頭拭い液は、のどの奥に綿棒を挿入し、数回こするようにして粘膜表皮を採取している。一方、鼻腔吸引液は、鼻の奥に吸引用チューブを挿入して鼻汁を採取している。
【0006】
このような検体の採取に際して、特に、鼻腔拭い液の採取に際しては、綿棒が鼻の粘膜をくすぐることになるので、患者はくしゃみ反射によりくしゃみが出やすい。この場合には、くしゃみによる飛沫が医師等にかかったり、室内に飛散したりするので、患者がインフルエンザに感染していた場合には、そのウィルスが飛散して、感染予防上、非常に問題となる。
【0007】
このように、インフルエンザに感染している患者からの飛沫に対して、医師は、上述したような個人防護具を装用することにより、自身の身体への付着を防止することができるが、室内に飛散した飛沫は、次に室内に入ってきた患者等への感染に繋がる恐れがあり、これを防ぐためには、何らかの除去処理を行わなければならないので、非常に面倒なことになる。
【0008】
一方、花粉や埃などが目や鼻に侵入することから防護するために、例えば特許文献1や特許文献2には、帽子やサンバイザー等の前部に、ファンにより空気を送風して、顔前に空気によるエアカーテンを形成するようにした防護具が記載されている。
【0009】
しかしながら、診察・診断用室内などにおいてこのような防護具を医師が使用したとしても、室内に飛散した飛沫の除去処理の問題を解決することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−326475号公報
【特許文献2】特開2008−212603号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、例えば、インフルエンザ等の感染症の診察・診断において、医師に対しての患者からの飛沫の付着を防止することと、患者等から室内に飛散した飛沫等の処理を行うことのできる手段が従来は提案されていないことにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
以上の課題を解決するために,本発明では、環状パイプを備えた防護装置本体を支持手段により適宜高さに支持可能とすると共に、前記環状パイプの前方側の下部に、弧状に空気噴出部を設け、前記環状パイプの上側を空気遮断シートにより覆うと共に、この空気遮断シートを、前方側に開口部が形成されるように環状パイプから下方に垂下させ、環状パイプには清浄空気供給装置に連なる給気ダクトを接続し、清浄空気供給装置は、防護装置を設置している室内空気を清浄化して循環させる系統を有する診察・診断用防護装置を提案する。
【0013】
また本発明では、上記の構成において、室内空気を吸引して循環に供するための室内空気吸引部を、防護装置本体の下方よりも前方側の下部に設けた診察・診断用防護装置を提案する。
【0014】
また本発明では、上記の構成において、空気遮断シートは透明である診察・診断用防護装置を提案する。
【発明の効果】
【0015】
本発明において、医師がインフルエンザ等の感染症の診察・診断を行う場合には、防護装置本体を構成する環状パイプを医師の頭上に位置させ、医師は身体を環状パイプから垂下している空気遮断シート内に囲まれた空間内に入り、清浄空気供給装置を動作させる。
【0016】
一方、患者は、防護装置本体の前側の空気遮断シートの開口部の前方に座って、医師の診察・診断を受ける。
【0017】
診察・診断の間、清浄空気供給装置から給気ダクトを経て環状パイプに供給された清浄空気は、弧状の空気噴出部から下方に噴出して、医師の顔前にエアカーテンを形成する。
【0018】
このため患者がくしゃみや咳などをして飛沫が前方に飛散したとしても、飛沫はエアーカーテンに遮られて医師に掛かることを防止することができる。
【0019】
一方、診察・診断用室内の空気は、室内空気吸引部から吸引されて、少なくともその一部が循環し、清浄空気供給装置においてHEPAフィルタやULPAフィルタ等の清浄化手段により清浄化された後、再び、環状パイプの空気噴出部から下方に噴出して医師の顔前にエアカーテンを形成する。
【0020】
このように診察・診断用室内の空気は室内空気吸引部から吸引されて清浄化されるため、患者から飛散した飛沫は、空気と共に室内から排出され、室内に残留しない。
【0021】
このため前の患者から室内に飛散した飛沫が、室内に残留することによる、医師や、次に室内に入ってきた患者等への感染に繋がる恐れがなくなる。
【0022】
室内空気を吸引して循環に供するための室内空気吸引部を、防護装置本体の下方よりも前方側の下部に設ければ、空気の下降流により患者から室内に飛散した飛沫の除去を効果的に行うことができる。
【0023】
空気遮断シートは透明とすれば、医師の視界を遮らない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は本発明の診察・診断用防護装置の実施の形態を装用状態において示す模式的正面図である。
【図2】図2は防護装置本体の断面説明図である。
【図3】図3は防護装置本体の底面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
まず図1〜図3に示す実施の形態において、符号1は環状パイプ2を備えた防護装置本体を示すもので、この防護装置本体1は適宜の支持手段3により、診察・診断用室4に適宜高さに支持可能としている。図2、図3に示すように、この実施の形態では、防護装置本体1は、環状パイプ2の直径方向に支持兼空気供給用パイプ5が設けられており、この支持兼空気供給用パイプ5に清浄空気供給装置6に連なる給気ダクト7が接続されている。そして環状パイプ2には、前方側の下部に、弧状に空気噴出部8が設けられている。また符号9は空気遮断シート10を環状パイプ2に取り付けるための面ファスナーを有するバンド等の取付手段を示すものであり、この取付手段9はバンド以外に適宜の構成とすることができる。
【0026】
また、診察・診断用室4には、防護装置本体1の下方よりも前方側の下部、例えば患者12が座る椅子13の下部前側等に室内空気吸引部14を設け、この室内空気吸引部14から清浄空気供給装置6に至る還流経路15を構成すると共に、還流経路15にはボリュームダンパー16を設けた排気経路17を設けている。一方、清浄空気供給装置6から環状パイプ2に至る、上記給気ダクト7を含む清浄空気供給経路18を設けており、この清浄空気供給経路18には、清浄空気の一部を防護装置本体1を経ずに診察・診断用室4に供給する清浄空気室内供給部19を構成している。この供給割合は適宜に調節可能に構成することができる。
【0027】
以上の構成において、図1は本発明の診察・診断用防護装置の使用状態を示すものであり、医師11が患者12に対してインフルエンザ等の感染症の診察・診断を行う場合には、防護装置本体1を構成する環状パイプ2を支持手段3により、医師11の頭上に位置させ、医師11は身体を環状パイプ2から垂下している空気遮断シート10内に囲まれた空間内に入り、清浄空気供給装置6を動作させる。
【0028】
一方、患者12は、防護装置本体1の前側の空気遮断シート10の開口部の前方に座って、医師11の診察・診断を受ける。
【0029】
診察・診断の間、清浄空気供給装置6から清浄空気供給経路18の給気ダクト7を経て環状パイプ2に供給された清浄空気は、弧状の空気噴出部8から下方に噴出して、医師11の顔前にエアカーテンを形成する。
【0030】
このため患者12がくしゃみや咳などをして飛沫が前方に飛散したとしても、飛沫はエアーカーテンに遮られて医師11に掛かることを防止することができる。
【0031】
一方、診察・診断用室4内の空気は、室内空気吸引部14から吸引されて、少なくともその一部が還流経路15から清浄空気供給装置6に至り、次いで清浄空気供給経路18を経て循環し、清浄空気供給装置6においてHEPAフィルタやULPAフィルタの清浄化手段により清浄化された後、再び、環状パイプ2の空気噴出部8から下方に噴出して医師11の顔前にエアカーテンを形成する。
【0032】
このように診察・診断用室4内の空気は室内空気吸引部14から吸引されて清浄化されるため、患者から飛散した飛沫は、空気と共に診察・診断用室4内から排出され、室内に残留しない。
【0033】
このため前の患者12から診察・診断用室4内に飛散した飛沫が、室内に残留することにより、医師11や、次に室内に入ってきた患者等への感染に繋がる恐れがなくなる。
【0034】
この実施の形態では、室内空気を吸引して循環に供するための室内空気吸引部14を、防護装置本体1の下方よりも前方側の下部に設けているので、空気の下降流により患者12から室内に飛散した飛沫の除去を効果的に行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
以上に説明した本発明の診察・診断用防護装置は、病院や診療所等の医療機関の建物内に設置された通常の診察・診断用室において使用できることは勿論のこと、自動車やトレーラーなどの車両内に構成された移動型の診察・診断用室において使用することもでき、インフルエンザ等の感染症の診察・診断において、非常に有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0036】
1 防護装置本体
2 環状パイプ
3 支持手段
4 診察・診断用室
5 支持兼空気供給用パイプ
6 清浄空気供給装置
7 給気ダクト
8 空気噴出部
9 取付手段
10 空気遮断シート
11 医師
12 患者
13 椅子
14 室内空気吸引部
15 還流経路
16 ボリュームダンパー
17 排気経路
18 清浄空気供給経路
19 清浄空気室内供給部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状パイプを備えた防護装置本体を支持手段により適宜高さに支持可能とすると共に、前記環状パイプの前方側の下部に、弧状に空気噴出部を設け、前記環状パイプの上側を空気遮断シートにより覆うと共に、この空気遮断シートを、前方側に開口部が形成されるように環状パイプから下方に垂下させ、環状パイプには清浄空気供給装置に連なる給気ダクトを接続し、清浄空気供給装置は、防護装置を設置している室内空気を清浄化して循環させる系統を有することを特徴とする診察・診断用防護装置。
【請求項2】
室内空気を吸引して循環に供するための室内空気吸引部を、防護装置本体の下方よりも前方側の下部に設けたことを特徴とする請求項1に記載の診察・診断用防護装置。
【請求項3】
空気遮断シートは透明であることを特徴とする請求項1に記載の診察・診断用防護装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−161103(P2011−161103A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−29390(P2010−29390)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【出願人】(509338282)
【出願人】(509206224)
【出願人】(508136467)株式会社クローバー (5)
【Fターム(参考)】