説明

試料の観察方法

【課題】SEMを用いて試料を斜め方向から観察し三次元の寸法又は形状を計測する際、観察方向を正確に推定することにより高精度な計測ができるようにする。
【解決手段】形状既知の試料に収束電子線を照射し、試料表面から放出される電子を検出し、検出した電子の強度を画像化した画像を用い、形状既知の試料の画像上での幾何学的な変形をもとに収束電子線の入射方向を推定し、この推定した集束電子線の入射方向の情報を用いて観察対象試料のSEM画像から観察対象試料の3次元形状又は断面形状を求めるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造過程での半導体ウェーハなどの試料の観察あるいは計測において、SEM(Scanning Electron Microscope:走査電子顕微鏡)を用いて試料を観察する方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の微細化に伴い、半導体の前工程製造プロセスの制御はますます困難になってきている。半導体パターンの電気的な特性には前記半導体パターンの高さ、ライン幅、側壁傾斜角のほか、角の丸みといった微妙なパターン形状の変化も大きな影響を与える。そのため、これらの寸法または形状を計測することによりプロセス変動を検知し、プロセスを制御する技術が求められている。有効なプロセス制御を行うためには、SEM(Scanning Electron Microscope:走査電子顕微鏡)による半導体パターンの側壁観察やSEMで取得した画像(以下、SEM画像という)から三次元プロファイルを推定する技術が期待される。前記側壁観察や三次元プロファイルの推定においては、試料を斜め方向から観察したSEM画像の情報を利用することが有効であると考えられる。
【0003】
前記斜め方向から観察したSEM画像を取得する方法としては、例えば特開2000−348658号公報開示されているように、電子光学系より照射する電子線を偏向し、観察対象に電子線を照射する方向を傾斜させて傾斜画像を撮像する方式、SEMにより半導体ウェーハの任意の場所を観察できるように半導体ウェーハを移動させるステージ自体を傾斜させて撮像する方式、SEMの電子光学系自体を機械的に傾斜させる方式が適用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−348658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来技術において実際に得られた観察画像における観察方向(あるいは電子線の入射方向)は設定値に対し誤差を含むことが予想されるため、前記誤差分がその後の観察画像の解析に影響を与えうる。例えば、ライン幅やコンタクトホール径などの寸法値を監視することによってプロセス変動を検出する際、観察方向によって寸法値が変化するため、前記観察方向の誤差が問題となる(参考文献 ”Characterisation of 193nm Resist Layers by CD−SEM Sidewall Imaging”、Proceedings of SPIE Vol.5038、pp.892-900、 2003)。また、多方向からの観察画像を用いたステレオ計測を用いた三次元プロファイル再構成技術においては、複数のSEM画像における観察方向と複数のSEM画像間の視差に基づきプロファイルを推定するため、観察方向の誤差が推定したプロファイルの誤差に影響を与える。
【0006】
本発明の目的は、傾斜観察画像の観察方向を正確に推定し、前記推定した観察方向をもとにチルト角の校正あるいは推定した観察方向を寸法あるいはプロファイル計測時の入力情報とすることにより高精度な計測又は観察を可能にする試料の観察方法及びその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明では、収束電子線を形状既知の試料に照射し、前記試料表面から放出される電子を検出し、前記検出した電子の強度を画像化した画像を用い、前記形状既知の試料の画像上での幾何学的な変形をもとに収束電子線の入射方向を推定し、推定した観察方向を、その後の観察画像解析に利用することで高精度な計測を実現できるようにした。前記形状既知の試料には、結晶構造をもつ材料を利用して作成した試料(表面を構成する結晶面間のなす角が既知)、あるいは試料表面の形状を走査型プローブ顕微鏡(SPM:Scanning Probe Microscope)等の計測手段によって計測した試料あるいはレーザ干渉露光を利用することにより形成されたパターンにおけるピッチの精度が保証された試料を用いるようにした。
【0008】
推定した観察方向をもとに、例えば、電子線の偏向(以下、ビームチルトという)あるいはステージあるいは光学系自体の傾斜角(以下、それぞれステージチルト、鏡筒チルトという)を調整し、実際の観測方向を設定値に合わせることができる。また、三次元プロファイル推定技術においては、前記推定した入射方向を観察画像の観察方向の入力値として用いることにより推定精度を向上させることができる。
【0009】
推定した観察方向は、GUI(Graphic User Interface)上に表示し、ユーザが観察画像を解析する際に参照される。また、同観察方向をもとに、電子線を偏向して得られた画像からステージを傾斜させて得られる画像に変換して表示する機能を提供する。電子線の偏向により得られたビームチルト画像は人間が目視により斜めから観察した場合に見える映像とは幾何学的に異なるため、感覚的に解釈しにくい。そこで、より人間が行う観察に近いステージを傾斜させて取得したステージチルト画像に変換して表示することは目視による解析において有効である。
【0010】
すなわち、上記目的を達成するために、本発明では、集束させた電子ビームを試料に照射して走査し、この照射による試料から発生する2次電子又は反射電子を検出して得られるSEM画像を用いて試料を観察する方法において、形状が既知のパターンが形成されたキャリブレーション基板の表面に斜め方向から集束させた電子ビームを照射して走査することにより形状が既知のパターンが形成されたキャリブレーション基板の表面のSEM画像を取得し、形状が既知のパターンの形状の情報と取得したSEM画像の情報とを用いて電子ビームを照射した斜め方向の角度を求め、この求めた斜め方向の角度が所望の角度になるように調整し、パターンが形成された試料基板を調整した所望の斜め方向の角度から電子ビームを照射して試料基板のSEM画像を取得し、所望の角度の情報を用いて試料基板のSEM画像を処理することにより試料基板上のパターンの3次元画像または試料基板上のパターンの断面形状を求めるようにした。
【0011】
また、上記目的を達成するために、本発明では、集束させた電子ビームを試料に照射して走査し、照射による試料から発生する2次電子又は反射電子を検出して得られるSEM画像を用いて試料を観察する方法において、形状が既知のパターンが形成されたキャリブレーション基板の表面に集束させた電子ビームを斜め方向から照射して走査することにより形状が既知のパターンが形成されたキャリブレーション基板の表面のSEM画像を取得し、形状が既知のパターンの形状の情報と取得したSEM画像の情報とを用いて電子ビームを照射した斜め方向の角度を求め、パターンが形成された試料基板に求めた斜め方向の角度から電子ビームを照射して試料基板のSEM画像を取得し、形状が既知のパターンのSEM画像から求めた角度の情報を用いて試料基板のSEM画像を処理することにより試料基板上のパターンの3次元画像またはパターンの断面形状を求めるようにした。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、形状既知のパターンが形成された試料をキャリブレータとして用いることにより、観察方向を正確に推定することができ、より正確で再現性のある形状計測が可能となった。
【0013】
また、本発明によれば、形状既知のパターンが形成された試料をキャリブレータとして用いることにより、観察方向を正確に推定することができ、同じサンプルを異なる装置で観測・計測しても、同様な結果が得られるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明を実現するためのシステムの1実施例を示す図である。
【図2】チルト角推定のフローチャートを示す図である。
【図3】半導体ウェーハ上から放出される電子の信号量を画像化する方法を示す図である。
【図4】形状既知のキャリブレータの1実施例である結晶面を利用したサンプルのバリエーションを示す図である。
【図5】形状既知のキャリブレータの1実施例であるピラミッドサンプルの変形例を示す図である。
【図6】キャリブレータの観察画像とキャリブレータ画像における明度値の分布,及び線分の検出方法を示す図である。
【図7】キャリブレータの配置方法のバリエーションを示す図である。
【図8】画像の歪み補正を示す図である。
【図9】ウェーハ面,キャリブレータ,電子線の入射方向の位置関係を示す図である。
【図10】チルト角推定方法の概念を示す図である。
【図11】チルト角推定時の画像取得シーケンスの1実施例を示す図である。
【図12】画像処理,SPM,合焦点位置計測を組み合わせたてキャリブレータの傾斜方向を推定する手順の1実施例を示す図である。
【図13】対象パターンとキャリブレータを撮像するシーケンスを示す図である。
【図14】キャリブレータの撮像画像をデータベースに保存し,電子線の入射方向の推定に前記データベースの情報を参照するシーケンスを示す図である。
【図15】チルト角の校正方法を示す図である。
【図16】ステレオ視による高さ計測の原理を示す図である。
【図17】チルト角の推定結果を表示するGUIの1実施例を示す図である。
【図18】(a)はポール型の試料の斜視図、(b)はホール型の試料の斜視図、(c1)はポール型の試料を上方から観測した像、(c2)はホール型の試料を上方から観測した像、(d)はホール1807とピラミッド型のキャリブレータ1808の断面図である。
【図19】半導体パターンの寸法計測値の補正方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1〜図17を用いて本発明を説明する。
【0016】
0.SEMによる傾斜観察方法について 図1に本発明におけるSEM画像を取得して処理するシステムの一例を示す。1303は電子線源であり,電子線1304を発生する。偏向器1306により電子線1304を偏向し,試料である半導体ウェーハ1301上の電子線を照射する位置を制御する。電子線を照射された半導体ウェーハ1301からは,2次電子と反射電子が放出され,2次電子は1309の2次電子検出器により検出される。一方,反射電子は1310および1311の反射電子検出器により検出される。反射電子検出器1310と1311とは互いに異なる方向に設置されている。2次電子検出器1309および反射電子検出器1310および1311で検出された2次電子および反射電子はA/D変換機1312,1313,1314でデジタル信号に変換され,画像メモリ13151に格納され,CPU13152で目的に応じた画像処理が行われる。
【0017】
図3は半導体ウェーハ上に電子線を走査して照射した際,半導体ウェーハ上から放出される電子の信号量を画像化する方法を示す。電子線は,例えば図3(a)に示すようにx,y方向に1501〜1503又は1504〜1506のように走査して照射される。電子線の偏向方向を変更することによって走査方向は変化させることが可能である。x方向に走査された電子線1501〜1503が照射された半導体ウェーハ上の場所をそれぞれG1〜G3で示している。
【0018】
同様にy方向に走査された電子線1504〜1506が照射された半導体ウェーハ上の場所をそれぞれG4〜G6で示している。前記G1〜G6において放出された電子の信号量は,それぞれ図3(b)内に示した画像1509における画素H1〜H6の明度値になる(G,Hにおける右下の添え字1〜6は互いに対応する)。1508は画像上のx,y方向を示す座標系である。
【0019】
図1中の1315はコンピュータシステムであり,画像処理によりキャリブレーション試料1319の観察画像から収束電子線の入射方向の推定を行う,あるいは半導体ウェーハ1301上の対象パターンの観察画像から三次元プロファイルの推定を行う,あるいはステージコントローラ1320や偏向制御部1321に対して制御信号を送る等の処理・制御を行う。また,処理・制御部1315はディスプレイ1316と接続されており,ユーザに対して画像を表示するGUI(Graphic User Interface)を備える。1317はXYステージであり,半導体ウェーハ1301を移動させ,前記半導体ウェーハの任意の位置の画像撮像を可能にしている。図1では反射電子像の検出器を2つ備えた実施例を示したが,前記反射電子像の検出器の数を減らすことも,あるいは増やすことも可能である。
【0020】
SEMにおいて対象を傾斜して観察する方法としては(1)電子光学系より照射する電子線を偏向し,電子線の照射角度を傾斜させて傾斜画像を撮像する方式(例えば特開2000−348658)(以下,ビームチルト方式と呼び,得られる画像をビームチルト画像と呼ぶ),(2)半導体ウェーハを移動させるステージ317自体を傾斜させる方式(図1においてはチルト角1318でステージが傾斜している)(以下,ステージチルト方式と呼び,得られる画像をステージチルト画像と呼ぶ),(3)電子光学系自体を機械的に傾斜させる方式(以下,鏡筒チルト方式と呼び,得られる画像を鏡筒チルト画像と呼ぶ)が適用されている。前記方法により取得されたSEM画像からライン幅やコンタクトホール径などの寸法値の計測や三次元プロファイルの推定などの解析を高精度に行い,プロセス変動の検知およびプロセス制御を行うためには,収束電子線の入射方向が正しく分かっていなければならない。しかしながら,従来の技術では収束電子線の入射方向の設定値に対して,実際の入射方向がどの程度ずれているのかを確認する手段がなく,前記実際の入射方向を正確に推定する方法が求められる。
【0021】
1.発明基本アイデア 本発明ではこの課題を解決するために,収束電子線を形状既知の試料に照射し,前記試料表面から放出される電子を検出し,前記検出した電子の強度を画像化した画像を用い,前記形状既知の試料の画像上での幾何学的な変形をもとに収束電子線の入射方向を推定する方法を見出した。すなわち,前記形状既知の試料(キャリブレータ)の姿勢を基準にして収束電子線の入射方向(チルト角)を推定する。電子光学系の絶対座標系に対するキャリブレータの姿勢が測定できる場合は,前記電子光学系の絶対座標系に対する電子線の入射方向を計測することができる。
【0022】
前記電子光学系の絶対座標系とはビームチルト角0°における電子線入射方向(光学系の中心軸)をz軸とし,図3(a)に示したx方向に走査された電子線1501〜1503を含む平面上で前記z軸に直交する方向をx軸,同様にy方向に走査された電子線1504〜1506を含む平面上で前記z軸に直交する方向をy軸とした座標系である。
【0023】
電子光学系の絶対座標系に対するキャリブレータの姿勢が測定できない場合は,何らかの基準(例えばビームチルト角の設定値を0°とした際の実際の電子線の入射方向(設定値とは若干異なる可能性がある)をz軸とした座標系)により定めた座標系に対する電子線の入射方向を計測することができる。
【0024】
図2に本発明におけるチルト角を推定するシーケンスを示す。まず,ステップ1401において装置のビームチルト角あるいはステージチルト角あるいは鏡筒チルト角を設定し(以下,ビームチルト角,ステージチルト角,鏡筒チルト角を総称してチルト角と呼ぶ),ステップ1402においてキャリブレータを観察する。キャリブレータとしては(1)結晶面を利用した試料(表面を構成する結晶面間のなす角が既知),あるいは(2)試料表面の形状をSPM等の計測手段によって計測した試料,あるいは(3)レーザ干渉露光を利用することにより形成されたパターンにおけるピッチの精度が保証された試料を用いる。
【0025】
ステップ1403においてキャリブレータの観測画像上での幾何学的な変形をもとにチルト角を推定し,ステップ1401における収束電子線の入射方向の設定値とのずれを検知する。ステップ1403はステップ1404,1405からなるステップである。キャリブレータの見え方の違いを特徴的に示すものとして尾根や谷など試料形状の勾配が大きく変化する場所があげられる。以後これを「エッジ」と呼ぶ。
【0026】
ステップ1404においてキャリブレータの観察画像中からエッジを検出し,ステップ1405においてキャリブレータの観測画像上での幾何学的な変形をもとにチルト角を推定する。この際,キャリブレータの形状・姿勢・位置1406あるいはウェーハ面の姿勢・位置情報1407あるいは画像歪み1408などの情報の一部又は全てががチルト角の推定のために必要となる。そのため,ステップ1405において,チルト角と同様にキャリブレータの観測画像上での幾何学的な変形をもとに情報1406〜1408の一部又は全てを推定,あるいは画像処理あるいはSPMあるいは対物レンズ合焦点位置等を用いた距離計測手段を組み合わせて情報1406〜1408の一部又は全てを推定する。チルト角を推定するためには情報1406〜1408の中で少なくともキャリブレータの姿勢は既知であるか,あるいは推定する必要がある。
【0027】
推定されたチルト角は(1)チルト角の校正(チルト角の設定値と実際のチルト角とを一致させる)あるいは(2)推定したチルト角をステレオ計測等への入力値とすることにより計測精度を向上させる,あるいは(3)GUI(Graphic User Interface)上に推定したチルト角を表示しユーザの観察・解析時における参考値とする等の観察画像の観察または計測に活用される。次に各ステップの詳細を説明する。
【0028】
2.形状既知のキャリブレータについて
2.1 キャリブレータの種類 本発明でキャリブレータとして用いる形状既知の試料としては前述の通り,(1)結晶面を利用した試料(表面を構成する結晶面間のなす角が既知),あるいは(2)試料表面の形状をSPM等の計測手段によって計測した試料,あるいは(3)レーザ干渉露光によるピッチ形成等により寸法精度が保証された試料,あるいは(4)基準器として利用可能な試料等を利用することができる。


【0029】
(1)のタイプの試料について説明する。結晶面により試料表面を構成する方法の一つとして結晶異方性エッチングがある。これはエッチング速度が結晶面によって異なる性質を利用したエッチング技術であり,例えばSi結晶においてはミラー指数(111)面に対するエッチング速度は,(100)面あるいは(110)面のエッチング速度に対し非常に遅い。そのため,エッチング速度の遅い(111)面が表面に現れるようにエッチングが進む。図4(a)〜(d)にSi結晶面により構成される試料の例を示す。同図(a)101に示す四角錐形状の凹部を有する試料(以下,凹ピラミッド型の試料と呼ぶ)は
面で構成されている。そのため,結晶面同士の傾斜角は既知となる。また,同図(b)102は四角錐形状の凸部を有する試料(以下,凹ピラミッド型の試料と呼ぶ),同図(c)107は山型の試料(傾斜角tan-1(√2)°),同図(d)108はライン・アンド・スペース型の試料(傾斜角90°)である。この他にも,Si結晶のみならずGaAs等様々な結晶を利用した様々な結晶面を利用した試料を生成することができる。
【0030】
また,ピラミッド型の試料の変形例として図5(a)に示すようなピラミッドの上部(図4(b)における頂点P0付近に相当)が平らであり,頂点Q5〜Q8によって形成されるような面が存在するピラミッドサンプルや,ピラミッドの上部が丸まってしまった変形ピラミッド型の試料,あるいは図5(c)に示すようなピラミッドを構成する面同士が交わる領域(図4(b)における線分Q0−Q1,Q0−Q2,Q0−Q3,Q0−Q4付近に相当)が削れて平らになった変形ピラミッド型の試料等があげられる。
【0031】
(2)のタイプの試料について説明する。試料表面の形状をSPM等の計測手段によって計測し,距離データを得る。前記距離データに対し局所的な平面当てはめにより多面近似することにより,試料表面を構成する各平面間のなす角を計測することができる。前記計測方法によれば,SEM像の観察に向いた任意の試料をキャリブレータとして使用することができる。
【0032】
(3)のタイプの試料について説明する。レーザの干渉を利用した露光はレーザの波長により,高い精度のピッチパターンが形成されるため,前記ピッチパターンにおけるピッチは既知となる。
【0033】
(4)のタイプの試料について説明する。例えば,図18(a),(b)にそれぞれ示したポール型の試料,ホール型の試料等は観察方向の基準器として用いることができる(図示した例のように切断面がポールあるいはホールの中心軸方向に向かって徐々に大きくあるいは小さくなった形状を含む)。図18(c1),(c2)は図18(a)または(b)をおよそ上方から観測した際の観察像の一例である。例えば図18(b)のホールについて,ホールがウェーハ上面1809に対して垂直方向に空いている場合,観察像においてホールの上面1804と下面1803との中心位置が図18(c1)のように一致していれば,観察方向はウェーハに対して垂直であると判定することができる。すなわち観察方向の基準器として用いることができる。またホールが深い程,少し垂直方向から観察方向がずれただけでホールの上面1804と下面1803との中心位置が図18(c2)のようにより大きくずれるために高い分解能で観察方向の垂直判定を行うことが可能である。
【0034】
視野内にサンプルがおさまり,かつ高い分解能のためにキャリブレータのz方向の高さの変化を大きくとることができるという点においてポール型あるいはホール型に代表される急勾配な形状を含むサンプルは有利である。また前記中心位置のずれから幾何学的な関係により,観察方向の垂直方向からのずれ量を推定することが可能である。さらに前記中心位置を合わせこむことによって観察方向を垂直方向に校正することが可能である。また,ホールの空いている方向がウェーハ上面に対して任意の方向である場合,同様に観察方向が前記任意の方向であるかの判定,あるいは観察方向と前記任意の方向とのずれ量の推定,あるいは観察方向を前記任意の方向に校正することが可能である。
【0035】
ホールの空いている方向は一旦計測等によって明らかになれば,以後,前記ホールの空いている方向に関する観察方向の基準器として用いることができる。ポール型の試料においても以上述べたホール型の試料と同様の観察方向の判定,あるいは推定,あるいは校正が可能である。
【0036】
また,ポール型あるいはホール型に代表される任意の基準器において判定,あるいは推定,あるいは校正可能な観察方向は 任意のキャリブレータによって計測することも可能である。すなわち図18(d)に一例を示すように,ホール1807の上面1805と下面1806との中心位置が図18(c1)のように一致した観察方向において,例えばピラミッド型のキャリブレータ1808を観察し,前記観察方向を推定することにより,ホール1807の傾斜方向(基準器において判定,あるいは推定,あるいは校正可能な観察方向)を求めることができる。
【0037】
ビームチルト角の0°の定義は,先に述べた電子光学系の中心軸をz軸とした絶対座標系におけるz軸方向を0°と定めることもできるが,ウェーハ面に対する見た目の垂直方向,あるいは基準器などで定義される任意の観察方向を0°と定めることもできる。
【0038】
観察方向は,前記観察方向の違いによる前述の試料の見え方の違いに基づいて推定する。後で詳細を述べる観察方向の推定のためには,観察画像上における試料の幾何学的な形状を特徴的に示すもの,例えば図6(a)に示した凹ピラミッドの線分301〜308の線分の長さあるいは傾斜角あるいは図6(a)に示した頂点P0〜P4の座標値等の一部または全てを検出し,利用する必要がある(図4と図6における頂点P0−P4およびR1−R6は対応する)。前記線分は試料形状の勾配が大きく変化する「エッジ」に相当し,図6(b)におけるライン・アンド・スペース型の試料においては各線分309〜311等である。
【0039】
次に観測画像から画像処理によりエッジを検出する方法について述べる。観測画像としては2次電子検出器1309により検出された信号量を画像化した2次電子像あるいは反射電子検出器1310,1311により検出された信号量を画像化した反射電子像のいずれかを用いる。
【0040】
2次電子像においては試料形状の勾配の違いが信号量の違いに反映される。また,試料形状の勾配が大きく変化するエッジ部においてはエッジ効果と呼ばれる現象が見られ,山型の形状では信号量が多く検出され,逆に谷型の形状では信号量が少なく検出される。このように信号量の変化する場所あるいは信号量が多いあるいは少ないピークとなる場所を画像上から検出することによりエッジを検出することができる。
【0041】
反射電子像においても試料形状の勾配の違いが信号量の違いに反映されるため,信号量の変化する場所を画像上から検出することによりエッジを検出することができる。反射電子像においては前述のエッジ効果が発生しないため,エッジ効果によりエッジが非常に膨張されて観測されるような場合は,エッジ検出の精度を向上させるため反射電子像を用いる方が望ましい場合がある。
【0042】
検出したい線分上,あるいはその近傍において試料形状の勾配が大きく変化するエッジが存在する箇所を何箇所か検出し,これらに直線を当てはめることによって,キャリブレータの各線分を検出することができる。例えば図6(a)におけるピラミッド型の試料における線分304の検出を例にして,図6(a)の点線で囲んだ領域324を拡大表示した図6(a2)を用いて説明する。図6(a2)の線分304上,あるいはその近傍においてエッジ(図6(c)における314の場所に相当)を数箇所検出する。
【0043】
黒点321は線分304に沿って任意の間隔で検出された複数のエッジ位置を示している。複数のエッジ位置321の検出位置は画像ノイズ等の理由により多少ばらつき,一直線上に存在しない場合があるが,複数のエッジ位置321に対し最小二乗法などの手段を用いて直線を当てはめることによってノイズの影響を軽減し,精度良く直線(つまり線分304)を検出することができる。ただし,エッジ位置321の中に他の点群と傾向の異なる大きな例外値が含まれる場合(例えば直線位置から大きく離れたエッジ位置322),最小二乗法による推定値は信頼性の低いものとなるため,検出直線から大きく離れた例外的なエッジ位置は例外値として除外する,あるいは各エッジ位置に対して前記エッジ位置の検出直線から距離に反比例した重み付けを行った最小二乗を行うことにより例外的なエッジ位置を考慮しない処理を選択しうる。
【0044】
なお,例えばエッジ位置321の検出においては,線分304の概略位置が事前に分かっていると大まかな検出範囲,あるいは検出方向等が分かるため都合が良い。そこで,エッジ位置321を検出する前に線分304の概略位置を次に一例を示す検出処理により求めることができる。まず画像全体に対し微分フィルタをかけ,画像からエッジ位置の候補位置を大まかに抽出する。微分フィルタの出力値を二値化して得られた点群から一般的に知られる投票型の直線検出手法であるHough変換により角線分の概略位置を推定する。また,キャリブレータの幾何形状には図18に示すような円形パターンを含むものも存在するが前記直線検出と同様に検出したエッジに円形あるいは曲線パターンを当てはめる,あるいはエッジ座標を直接用いることにより幾何形状を定量的に表現することが可能である。
【0045】
2.2 ピラミッドサンプルを用いる利点 SEM画像においてこれらの線分を画像処理を用いて検出する場合,ピラミッド型(四角錐形状)の試料には有利な点がある。すなわち,(1)試料のエッジを境に前記試料の形状は左右対称であるため,観察画像における信号量の分布もまた対称となる。そのため,観察画像からのエッジ検出を高い精度で行うことが可能である。(2)一つのピラミッドを観察することによって二次元(x,y方向)的な観察方向を推定することが可能である。
【0046】
前記(1)について,図6(a)に凹ピラミッドにおける直線A−B部分のSEM信号量の分布312および試料表面形状の分布313を示す。検出したい直線304の位置314を境に左右の形状がおおよそ等しいため,信号量の分布もまた左右でおおよそ等しく,信号量がどちらかに偏る度合いが少ないため真値に近い直線位置を検出できる。このような傾向は検出したい直線を境に左右の試料表面形状が類似した図4(c)の山型の試料においても同様であり,多少の観察方向が変化であれば本傾向が大きく崩れることはない。
【0047】
一方,図6(e)にライン・アンド・スペース型の試料における直線E−F部分のSEM信号量の分布318および試料表面形状の分布319を示す。検出したい直線310の位置320を境に左右の形状が異なるため,左右の信号量の分布もまた異なっており,信号量がどちらかに偏ってしまう傾向がある。そのため,検出した直線位置も真値からずれてしまう危険がある。ただし,このように信号量の偏りが大きい場合は,試料形状から予想される発生信号分布をモンテカルロシミュレーション等により推定することにより,前記信号量の偏りを補正して検出精度を向上させることができる。
【0048】
また,図6(a)に示した頂点P0〜P4の座標値を検出し,観察方向の推定に利用する場合,例えば検出した前記の各直線の交点から頂点を求めることが考えられる。例えば頂点P0は直線301〜304の一部または全ての組み合わせによる交点,頂点P1は直線301,305,306の一部または全ての組み合わせによる交点から求められる。図6(a)の点線で囲んだ領域323を拡大表示した図6(a1)に頂点P0の検出例を示す。図6(a1)において三本以上の直線から頂点を推定する場合,任意に選択された二本の直線の組み合わせの交点からそれぞれ検出された交点P0a〜P0dが一致しない場合がありうる。その場合は前記複数の交点の重心あるいはメディアンを頂点P0とすることにより直線検出のばらつきを低減することができる。
【0049】
図5(b)(同図は図5(a)の試料をウェーハ面に対し垂直方向から観察したもの)のピラミッドの上部が平らになったピラミッド型の試料の変形例については,図4(b)に示す凸ピラミッドには相当するものがなかった頂点Q5〜Q8あるいは線分1605〜1608を検出し,観測画像上でのピラミッドの幾何変形の推定に利用することができる。一方,本変形例の幾何学的な形状を通常のピラミッド型の試料と同様な頂点あるいは線分により表現することも可能である。すなわち,線分1601〜1604をそれぞれ延長し,その交点から図6(a)の頂点P0に相当する仮想的な頂点Q’0を検出しピラミッドの幾何変形の推定に利用することができる(頂点Q’0を検出する際には図6(a1)と同様な重心計算等を行うことができる)。仮想頂点Q’0を用いる場合,図6(a)に示した通常のピラミッドと同様の解析が可能である。
【0050】
図5(c)に示したピラミッドを構成する面同士が交わる領域が削れて平らになった試料等についても,通常のピラミッド型の試料には存在しない線分等を形状の特徴とする方法もあるが,例えば線分1613〜1614をそれぞれ延長し交点を算出することにより,図6(a)における通常のピラミッド型の試料での頂点P1に相当する仮想頂点Q’1を検出することができる。さらに線分1617〜1618をそれぞれ延長し仮想頂点Q’5 (図6(a)における頂点Q5に相当)を検出し,仮想頂点Q’1とQ’5とを結ぶことにより,図6(a)における直線301に相当する仮想直線1609を検出することができる。さらに仮想直線1609と同様に検出した仮想直線1610〜1612の一部または全ての組み合わせによる交点から図6(a)の頂点P0に相当する仮想頂点Q’’0を検出することができる。仮想直線1609〜1612あるいは仮想頂点Q’’0を用いる場合,図6(a)に示した通常のピラミッドと同様の解析が可能である。
【0051】
前記(2)について,ピラミッド型の試料においては観察方向のx,y方向の傾きが共にピラミッドの頂点の変位に表れるため,一つのピラミッドを観察することによって二次元的な観察方向を推定することが可能である。一方,図4(c)(d)にそれぞれ示した山型,ライン・アンド・スペース型の試料においては,エッジがない方向(例えば図4(d)における頂点R1,R2を結ぶ方向)への観察方向の変化は推定することができないが,同試料を形状のエッジの向きが二方向になるように複数配置することにより(例えば後述する配置例709),二次元的な観察方向を推定することが可能である。
【0052】
2.3 サンプルの大きさ,配置 次にピラミッド型の試料を例に,試料の大きさおよび配置に関して説明する。試料の大きさは(1)撮像時に視野内におさまる大きさ,(2)ピラミッドの各線分の検出精度を確保するための十分な線分の長さが観測できる大きさ,(3)観測方向が変化した際に検出するピラミッドの画像上での変位の分解能を上げるための十分な高さをもつ必要がある。SEMの撮像倍率およびSEMの焦点深度に依存するが,例えば撮像倍率が30k〜150k倍,焦点深度が数um程度であれば,ピラミッドの大きさは0.1um〜数um程度が適当である。
【0053】
試料を配置する場所,配置の仕方について説明する。図7中の704および705は試料を取り付ける場所の候補を示している。試料はステージ701(図1の1317に相当)上に取り付けられた半導体ウェーハ702(図1の1301に相当)上の704あるいはステージ701上にあるホルダ703上の705に取り付ける。704上に取り付ける場合には,半導体ウェーハ702の代わりにキャリブレータが形成されたキャリブレーション専用のウェーハを作成し,半導体ウェーハ702の代わりに取り付けるか,あるいは半導体パターンを形成する際にキャリブレーションパターンを一緒に生成した半導体ウェーハ702を取り付ける。
【0054】
前記半導体パターンを形成する際に前記ピラミッドなどのキャリブレーションパターンを一緒に生成することは一般に困難であるが,半導体ウェーハ702上に生成された半導体パターンを,SPM等の計測手段により形状を計測し,形状既知のキャリブレータとして用いることもできる。また,704に示したように数箇所(図では例として9箇所)間隔をおいて試料を配置し,各個所において観測方向を推定することにより,ステージの歪み,あるいはステージ移動による電場の変化に起因する観察方向の変化の面内分布を計測することができる。次に704あるいは705におけるキャリブレータの配置例を図7(b)を用いて説明する。
【0055】
図7(b)の配置例706は同一の大きさのピラミッド710(図4の101あるいは102に相当)を一定間隔で配置したものである。複数のピラミッドを配置することによって,(1)各ピラミッドにおいて観測方向を推定し,前記観測方向の平均値あるいはメディアン(中央値)等を用いることによってピラミッドの個体差および画像ノイズ等に起因する観察方向の推定値のばらつきを軽減することができる,(2)同一視野で複数のピラミッドを観測することにより,前記観測方向の視野内分布を計測することができる,(3)試料にコンタミが発生した場合はコンタミを避けて別の試料を観察することにより良好なキャリブレーションを継続することができる等の利点がある。
【0056】
さらに図7(c)に示すように,同一視野内で配置が既知(図では格子状に並んている)の複数のピラミッドを観測することにより,視野内の画像歪みの推定および補正を行うことができる。すなわち,図7(c)において本来直線上に並んでいるピラミッドの頂点を結ぶ線A−Bを直線C−Dとなるように(1)収束電子線の走査方向(画像上においてはx,y方向に相当する)を変更する,あるいは(2)得られた画像から幾何学的な変形により歪みのない画像を再構成する等の手段により画像の歪みを補正する。このような視野内の画像歪みの推定および補正は一つのピラミッド観察によっても行うことができる。すなわち例えば図6(a)における凹ピラミッドの各線分301〜308が直線であることが保証されていれば,前記各線分301〜308が曲線として観測された場合(例えば図7(d)に示した凹ピラミッドの観察像),これを直線に補正するような歪み補正方法が考えられる。このような観察像の歪みが大きい場合,高精度なチルト角の推定を行うためには,前記観察像の歪みを補正することが必要である。
【0057】
またビームチルト画像においてチルト角の異なる画像間の歪み補正を行うために,ピラミッドの底面の形状を画像間で一致させることにより歪みを補正する方式が考えられる。すなわち,ビームチルト画像においては電子光学系のx-y平面に対し水平面上の幾何模様の形状はビームチルト角に依らず一定であるというビームチルト画像特有の性質に着目し,例えばウェーハ面が電子光学系のx-y平面に対し水平であった場合,ウェーハ面上でのピラミッドの底面の形状はチルト角に依らず一定となるため,前記形状がビームチルト画像間で異なる場合は撮像時の歪みによるものと考えられる。そこで,ピラミッドの底面の形状を画像間で一致させるような補正を画像,あるいは検出したピラミッドの線分や頂点,あるいは形状を表現するパラメータ(例えば前記線分の傾斜角等)の情報に対して施し,歪みのない状態で得られる前記画像,あるいは線分や頂点,あるいは形状を表現するパラメータの情報を得ることができる。すなわち,歪みの少ない観察像の取得や,より高精度な観察方向の推定が実現される。
【0058】
例として図8にトップダウン像の底面の形状を基準にして,ビームチルト画像の底面の形状を前記トップダウン画像の底面の形状に一致させる歪み補正処理を示す。基準とする底面の形状としては,トップダウン画像から得られた底面形状,あるいは任意のビームチルト角により観察されたビームチルト画像から得られた底面形状,あるいは観察方向が同一あるいは異なる複数の画像から求めた平均的な底面形状を用いることができるが,トップダウン画像派ビームチルト画像に対し画像の歪みがより少ないケースが多く,トップダウン画像から得られた底面形状あるいは複数のトップダウン画像から得られた平均的な底面形状を基準とすることが有効なケースが多い。
【0059】
図8における底辺形状1701(頂点P〜P,Pを順に結ぶ線)はトップダウン画像1704における底面形状であり,1701の形状と一致するようにビームチルト画像1705における底辺形状1702を補正する変形パラメータを求める。前記ビームチルト画像1702に対し前記変形パラメータにより歪み補正することにより歪み補正後のビームチルト画像1706が得られる。ちなみに歪み補正後のビームチルト画像1706における底辺形状1703は底辺形状1702と比較してより底辺形状1701と類似している。
【0060】
配置例707は同一の大きさのピラミッド710をピラミッド間の間隔をなくして配置したものである。配置例706と同様の計測が可能である他に,ピラミッドの底辺(図6(a)中の線分305〜308)のSEM信号量の分布が,検出したい底辺の位置を境に左右の信号量の分布がおおよそ等しくなるという利点がある。すなわち,図6(a)に示した直線C−D部分のSEM信号量の分布が配置例706においては図6(d)のように底辺306の位置315を境に対称にならない傾向があるが,配置例707においては対称に近い分布となり真値に近い直線位置を検出できる。
【0061】
配置例708は大きさの異なるピラミッド(大きさの異なるピラミッドとして例えば710,711)を複数配置したものである。撮像条件の変化により視野の大きさが変化した場合,大きさの異なるピラミッドの中から観測方向の推定精度を確保するために適切な大きさをもったピラミッドを選択し観察することができる。
【0062】
前述の配置例は図4(c)(d)にそれぞれ示した山型の試料107あるいはライン・アンド・スペース型の試料108にも適用できる。さらに山型の試料107あるいはライン・アンド・スペース型の試料108においては図7(b)の配置例709のように試料の形状の起伏が二方向になるようにキャリブレータ712(107あるいは108に相当)を配置することにより,前述したピラミッド型の試料のように二次元(x,y方向)的な観察方向を推定することができる。
【0063】
3.チルト角推定方法について
3.1 ウェーハ面,キャリブレータ,電子線の入射方向の位置関係定義 次にビームチルト方式のSEM観察を例に,ビームチルト角の推定方法を凹ピラミッド型の試料をキャリブレータとして用いた場合を例として説明する。図9(a)は凹ピラミッド型の試料を観察した場合のウェーハ面203,ピラミッド205(キャリブレータ),電子線の入射方向207の位置関係を模式的に示したものである。前記ウェーハ面とはピラミッドを作成した試料表面でピラミッド形成されていない場所を指し,実際に解析を行う半導体パターンを形成する半導体ウェーハとは言葉を区別する。前記ウェーハ面,ピラミッド,電子線の入射方向の位置関係の記述方法の一例について説明する。位置関係の基準として前述した電子光学系の絶対座標系201を用いる。
【0064】
まず図9(a)において203で示したウェーハ面の傾斜は前記ウェーハ面の単位面法線ベクトル204を用いて表すことができる。前記単位面法線ベクトル204は絶対座標系201に対し単位面法線ベクトル204のx,y軸周りの回転ψy,ψxを用いて図9(b)のように表すことができる。
【0065】
次に図9(a)において205で示した凹ピラミッドの傾斜は前記凹ピラミッドの中心軸の単位方向ベクトル206を用いて表すことができる。前記単位方向ベクトル206は絶対座標系201に対し単位方向ベクトル206のx,y軸周りの回転φy,φxを用いて図9(c2)のように表すことができる。前記凹ピラミッドの中心軸とは,ピラミッドの姿勢を一意に定義するために設けた基準軸であり,例えば図9(c1)のようにピラミッドの各辺P0−P1,P0−P2,P0−P3,P0−P4からの距離が等しい点を通る直線206とする。前記ウェーハ面の傾斜とピラミッドの傾斜との相対角度はウェーハ面203が(100)結晶面であれば既知となる。また,図9(c3)において205で示した凹ピラミッドの回転(結晶方位の回転)は例えばウェーハの結晶方位(100)ベクトルのxy平面への投影ベクトルとx軸とのなす角をφzとして表すことができる。
【0066】
次に図9(a)において207で示した電子線207の入射方向は,前記電子線207の入射方向の単位方向ベクトル208を用いて表すことができる。前記単位方向ベクトル208は絶対座標系201に対し単位方向ベクトル208のx,y軸周りの回転θy,θxを用いて図9(d)のように表すことができる。
【0067】
電子線の入射方向(例えばθx,θyで表される)を推定するためには,前記パラメータψx,ψy,φx,φy,φz,θx,θyの一部または全ての推定を行わなければならない。すなわち,観測量(例えばキャリブレータのエッジの傾斜角)と出力変数(電子線の入射方向)との幾何学な関係を表す式が,ψx,ψy,φx,φy,φz,θx,θy等のパラメータを用いなければ記述できない場合である。ただし,チルト角の推定においては,少なくともキャリブレータの形状および傾斜方向は推定する,あるいは既知である必要がある。ウェーハ面,ピラミッド,電子線の入射方向の位置関係の定義方法は前述のようなパラメータψx,ψy,φx,φy,φz,θx,θyを用いたものに限らない。また,ここではキャリブレータとしてピラミッド型の試料を用いた場合を例に説明したが,ピラミッド型の試料以外のキャリブレータにおいても同様に傾斜方向を一意に定義することが可能である。
【0068】
3.2 チルト角推定方法1(基本原理:一枚画像,画像単独) 撮像したビームチルト画像から画像処理によりビームチルト角を推定する方法について述べる。図6(a)は凹ピラミッドを上部から観測した際のSEM画像の模式図であるが,ビームチルト角の変化はピラミッドの見え方に反映される。すなわち図6(a)におけるピラミッドの各線分301〜308の長さや傾斜角(前記傾斜角は例えば画像のx軸と線分のなす角度で定義される)がビームチルト角に依存して変化する。
【0069】
3.2.1 出力パラメータ定義 そこで線分301〜308の一部または全てを撮像した画像から検出し,その長さや傾斜角を計測することによってビームチルト角を表すパラメータを推定することができる。以後,最終的に推定したいパラメータを出力パラメータと呼ぶ。ここではビームチルト角を表すパラメータであり,例えば前述したパラメータθx,θyで与えられる。出力パラメータ群を出力パラメータベクトルU=(θx,θy)Tと表記する。
【0070】
3.2.2 参考パラメータ定義 前記ピラミッドの線分の長さや傾斜角はウェーハ面やピラミッドの傾斜角,画像歪み等を表す各パラメータの変化によっても変化する。すなわち,出力パラメータを求めるためには前記ウェーハ面やピラミッドの傾斜角,画像歪み等を表す各パラメータを必要に応じて選択的に推定しなければならない。以後,出力パラメータを求めるために推定しなければならないこれらのパラメータを参考パラメータと呼ぶ。ここではウェーハ面やピラミッドの傾斜角,画像歪みを表すパラメータであり,例えばウェーハ面やピラミッドの傾斜角に関しては前述したパラメータψx,ψy,φx,φy,φzで与えられる。参考パラメータ群を参考パラメータベクトルV=(ψx,ψy,φx,φy,φz)Tと表記する。参考パラメータは必要に応じて追加,削除される。
【0071】
すなわち,出力パラメータを推定するために,ウェーハ面の勾配ψx,ψyを推定する必要がなければ,ψx,ψyは参考パラメータから削除され,同様に出力パラメータを推定するために,画像歪みを推定する必要があれば,前記画像歪みを記述するパラメータが参考パラメータに追加される。ここでウェーハ面の勾配ψx,ψyを推定する必要がない場合とは,例えば図6(a)における観察画像上の線分301〜304の勾配の情報のみを観測量として推定パラメータを求める場合である。ウェーハ面の勾配の変化は図6(a)における線分305〜308の勾配に影響を与えるが,線分301〜304の勾配には影響を与えないためである。
【0072】
出力パラメータと参考パラメータとを合わせて推定パラメータと呼び,推定パラメータ群を推定パラメータベクトルT=(UT,VT)Tと表記する。
【0073】
3.2.3 推定パラメータ推定方法 図10に推定パラメータの推定方法の概念図を示す。401は撮像したキャリブレータのSEM画像あるいは反射電子像あるいは前記SEM画像あるいは反射電子像から画像処理により線分を抽出した処理画像である。キャリブレータ401撮像時における推定パラメータベクトルT(図10内405)を求めるために,推定パラメータベクトルの各要素に色々な値の組み合わせを代入し,それぞれの組み合わせにおいてどのようなキャリブレータが観測されるかをシミュレーションする。推定パラメータベクトルにおける各要素の色々な値の組み合わせを右上の添え字(n)を用いて,T(1),T2),…,T(n-1),T(n),T(n+1),…と表記すると,例えば推定パラメータベクトルの値がT(n-1),T(n),T(n+1)(それぞれ図10内406〜408)の場合に観測されるキャリブレータの形状は幾何学的な計算式からそれぞれ402〜404のように与えられる。
【0074】
このようにシミュレーションされたキャリブレータ形状と撮像画像におけるキャリブレータ形状との相関を計算し,最も類似したシミュレーション形状(図10では403)における推定パラメータベクトルT(n)(407)が,撮像画像における推定パラメータベクトル405に相当することになる。推定パラメータベクトルを色々と変化させて撮像画像とシミュレーション画像とが最大の相関となる推定パラメータベクトルを算出する解法は,前述のように数値を順に当てはめる方法や,最小二乗法により解析的に解く方法等がある。また相関計算の方法としては,撮像画像とシミュレーション画像での図6(a)に示した線分301〜308の一部または全ての線分の長さあるいは傾斜角あるいは図6(a)に示した頂点P0〜P4の一部または全ての座標値の類似度合いに基づく方法がある。
【0075】
前述の説明においては,最終的に推定したい出力パラメータをビームチルト角としたが,ステージチルト方式あるいは鏡筒チルト方式により得られたチルト画像からそれぞれ,ステージチルト角,鏡筒チルト角を推定する場合も同様である。すなわち,各チルト方式において,任意の推定パラメータに対するキャリブレータの画像上における幾何学的な形状変化をシミュレーションすることができれば,最も撮像画像とシミュレーション画像とが一致する推定パラメータベクトルを算出することが可能である。例えばステージチルト方式であれば,ステージの傾斜と共にステージに取り付けたキャリブレータも一緒に傾斜するため観察方向(試料への電子線の入射方向)である出力パラメータはキャリブレータの傾斜角とすればよい。
【0076】
キャリブレータの傾斜角はビームチルト角の推定と同様に,図10に示すように推定パラメータベクトルTを決定することにより得られる。ここで,推定パラメータベクトルTには,出力パラメータであるキャリブレータの傾斜角が含まれる。半導体ウェーハ面を垂直に観察する観察方向をステージチルト角0°と定義した場合,半導体ウェーハ面を垂直に観察する観察方向に対するピラミッドの傾斜角をφ0として,任意のチルト角において観察方向に対するピラミッドの傾斜角がφであったときステージチルト角はφ−φ0で与えられる。
【0077】
また,後述する「トップダウン画像とビームチルト画像の二枚の画像を用いてビームチルト角を推定するシーケンス」においては,トップダウン画像を用いてキャリブレータの傾斜角を推定するというステップが含まれるが,前記ステップにおいても,キャリブレータの傾斜角を出力パラメータとして推定することになる。
【0078】
3.3 チルト角推定方法2(バリエーション:二枚画像あるいは他の計測手段との組み合わせ) 推定パラメータを推定する方法には,様々なシーケンスが考えられる。すなわち前述のように一度に全ての推定パラメータを一枚の観測画像から推定する方法の他に,(1)推定パラメータを分割して部分的に推定するシーケンスあるいは(2)複数枚の観測画像を利用するシーケンスあるいは(3)画像以外の手段で一部あるいは全ての推定パラメータを推定し,その推定結果を利用するシーケンスあるいは(1)〜(3)を組み合わせたシーケンスである。例として,(a)トップダウン画像とビームチルト画像の二枚の画像を用いてビームチルト角を推定するシーケンス(b)画像処理以外の計測手段によりウェーハ面の勾配およびキャリブレータの勾配を計測し,前記計測結果を用いてビームチルト角を推定するシーケンスを取り上げて順に説明する。
【0079】
3.3.1 推定パラメータ推定方法−バリエーションその1 (a)トップダウン画像とビームチルト画像の二枚の画像を用いてビームチルト角を推定するシーケンス
一枚のビームチルト画像から推定パラメータを一意に求めることが困難な場合がある。例えば,画像上に,傾斜したキャリブレータが観測された場合,キャリブレータの傾斜角209によるものなのか電子線の入射方向の勾配210によるものなのか,その割合を画質や画像の解像度の問題あるいは推定パラメータ数に対して画像から得られる情報が不足しているといった問題から一意に決定することが困難な場合がある。
【0080】
そこで,図11に二枚の画像を用いた推定パラメータの推定シーケンスを示す。
【0081】
本シーケンスのポイントは,観察したい方向にチルト角を設定してキャリブレータを撮像した画像(ビームチルト画像と呼ぶ)の他に,ビームチルト角の設定値を0°としてキャリブレータを観察した画像(以後,トップダウン画像と呼ぶ)を取得し,かつチルト角の設定値を0°として撮像したトップダウン画像における実際のチルト角を0°と仮定することにより,トップダウン画像を用いてキャリブレータの傾斜角を,ビームチルト画像を用いてビームチルト角を独立に推定すればよい点にある。
【0082】
まずトップダウン画像を撮像し(ステップ501),前記トップダウン画像を用いてキャリブレータの傾斜角やキャリブレータの回転角および必要に応じてその他の参照パラメータを算出する(ステップ502)。ステップ502においてビームチルト角は既知(0°)としてキャリブレータの傾斜角を算出する。そのため,全ての推定パラメータを同時に算出する場合に対して解の一意性は高くなり計算は容易になる。次に,ビームチルト角を観察したい方向に設定した後にビームチルト画像を撮像し(ステップ503),前記ビームチルト角の実際の値および必要に応じてその他の参照パラメータを推定する(ステップ504)。ステップ504においてキャリブレータの傾斜角は既知(ステップ502で算出した値を使用)としてチルト角を算出するため,ステップ502と同様に計算は容易になる。どの推定パラメータをどのような順序で算出するかについてはいくつかのバリエーションが考えられるが,前述のようにパラメータを分割して推定することにより推定パラメータ数は減り,解の一意性が高くなる。
【0083】
ここではトップダウン画像におけるビームチルト角を0°としてその後の計算を行ったが,ビームチルト角0°に設定して撮像したトップダウン画像における実際のビームチルト角が0°からずれている場合がある。その場合,前記ずれの大きさがその後のビームチルト角の推定精度に影響を与える可能性がある。ただし,本来トップダウン画像を取得するために設計された光学系においてはトップダウンに近いビームチルト角においては設定精度が高いことが期待される。そのため,トップダウン画像における実際のビームチルト角を0°と仮定して,前記トップダウン画像から推定したキャリブレータの傾斜角を入力値としてチルト角を推定する方が,0°より傾斜したチルト角設定値による観察像から推定したキャリブレータの傾斜角を入力値とするよりもチルト角推定時の誤差を軽減できる。
【0084】
また,後で詳細を述べるステレオ視において,ビームチルト角設定値θL,θRでそれぞれ取得したチルト画像IL,IRを用いて立体再構成する場合において,前記トップダウン画像におけるビームチルト角の0°からのずれΔθ0による前記立体再構成形状誤差への影響は小さいことが予想される。なぜなら,前記シーケンスによりトップダウン画像から求めたキャリブレータの傾斜角を入力値としてチルト画像IL,IRにおいてそれぞれチルト角を推定した場合(推定値をそれぞれEst[θL] ,Est[θR]とする),
Est[θL] ,Est[θR]の真値からのずれはΔθ0と同程度である。そのため,Est[θL] ,Est[θR]の相対角誤差は小さく,ステレオ視による立体再構成形状への誤差もまた小さい。
【0085】
ここではトップダウン画像におけるビームチルト角を0°としてその後の計算を行ったが,同様に大きな誤差はないと考えられるパラメータを既知として前記パラメータに近似的な値を代入し,推定パラメータを求めることができる。例えば,ウェーハ面の勾配を近似的に0°とする等。
【0086】
3.3.2 推定パラメータ推定方法−バリエーションその2 (b)画像処理以外の計測手段によりウェーハ面の勾配およびキャリブレータの勾配を計測し,前記計測結果を用いてビームチルト角を推定するシーケンス
推定パラメータあるいは推定パラメータ間の関係(相対値等)を計測する手段としては前述してきた画像処理によるもの以外に,SPMあるいは対物レンズ合焦点位置等を用いた距離計測手段等がある。ここでは画像処理あるいは他の計測手段を選択的あるいは複合的に用いてビームチルト角を推定する方法について一例を述べる。
【0087】
図12はSPMと対物レンズ合焦点位置と画像処理を併用したビームチルト角推定方式を示す図である。まず,SEM観察する前にSPMに試料を取り付け,ウェーハ面602およびキャリブレータ604を含む領域における試料表面を計測する。得られた試料表面の距離データ606は,SPMにおいて設定された座標系601を基準に記述されている。前記距離データ606に対し局所的な平面当てはめにより多面近似することにより,試料表面を構成する各平面間のなす角を計測することができ,ウェーハ面の傾斜方向603とキャリブレータの傾斜方向605との相対角を計算することができる。
【0088】
次にSEMに前記試料を取り付け,ウェーハ面602の傾斜方向608を対物レンズの合焦点位置による距離計測結果に基づき推定する。対物レンズ合焦点位置による距離計測とは,観察対象に焦点を合わせた時の対物レンズの制御電流と観察対象までの距離との関係を予め算出しておくことにより,実際の観測対象を観察した場合に前記関係を用いて観察対象までの距離を推定する手法である。また前記対物レンズ合焦点位置による距離データに平面等を当てはめることにより,その面法線から傾斜方向608が推定される。得られるウェーハ面602の傾斜方向608はSEMにおいて設定された座標系607を基準に記述される。
【0089】
座標系607におけるウェーハ面の傾斜方向608とキャリブレータの傾斜方向609との相対角は,既に計測済の座標系601におけるウェーハ面の傾斜方向603とキャリブレータの傾斜方向605との相対角に等しいので,ウェーハ面の傾斜方向608と前記相対角を用いて座標系607におけるキャリブレータの傾斜方向609を計算することができる。参考パラメータの一つであるキャリブレータの傾斜方向を算出済みとして,出力パラメータである座標系607に対するビームチルト角612を画像処理により算出する。対物レンズの合焦点位置による奥行き推定精度は焦点深度の数分の一程度である。そのためウェーハ面の勾配を計測する際には,ウェーハ表面の試料の端から端などの距離が大きく離れた場所における距離データをもとに計算することにより測定精度を確保する。
【0090】
このように推定パラメータの全てを画像処理により計測するのではなく,各計測手段の計測精度,使い勝手等の違いを考慮して,SPMあるいは対物レンズ合焦点位置等を用いた各計測手段を選択的あるいは複合的に用いて計測する方法があり,前述した組み合わせ以外にも,例えばウェーハ面の傾斜方向608とキャリブレータの傾斜方向609との相対角以外は画像処理で推定する等の様々なバリエーションが考えられる。
【0091】
また,例えばウェーハ面とキャリブレータとの位置関係等は一度計測すれば不変であるため,推定パラメータを求める度に計測する必要はない。
【0092】
4.撮像シーケンス(対象画像撮像を含めた)について−撮像条件変更に伴う推定値補正方法込み
次に実際にSEMにより半導体ウェーハ上の観測したい任意の座標における半導体パターン(以後,対象パターン呼ぶ)の撮像を含めたキャリブレータの撮像シーケンスについて説明する。キャリブレータおよび対象パターンの撮像シーケンスとして,(a)キャリブレータ撮像後に対象パターンを撮像するシーケンス(図13(a))(b)対象パターン撮像後にキャリブレータと撮像するシーケンス(図13(b))(c)キャリブレータをオフラインで撮像するシーケンス(図14)を取り上げて順に説明する。前記(a)(b)においては対象パターンとキャリブレータとを交互に撮像するため,半導体ウェーハの取り付け,取り出しが不要な図7(a)の705の位置にキャリブレータ試料1319を取り付ける。(c)においては図7(a)の704あるいは705の位置にキャリブレータ試料1319を取り付ける。
【0093】
4.1 撮像シーケンス−バリエーションその1 (a)キャリブレータ撮像後に対象パターンを撮像するシーケンス(図13(a))
任意のチルト角に設定してキャリブレータを撮像した後,前記設定は基本的に変更せず(チルト角の校正を伴う場合は変更する場合あり),対象パターンを撮像するシーケンスが考えられる。これは,チルト角設定値と実際のチルト角との間にヒステリシス特性がある場合は,任意のチルト角設定値を一旦異なる設定値に変更し,再び元のチルト角設定値に戻しても,前後のチルト角設定値における実際のチルト角が同一でない場合があるため,キャリブレータから推定したチルト角が対象パターンの観察像解析において利用できなくなる危険性を避けるためである。
【0094】
図13(a)を用いて本シーケンスを説明する。まず,半導体ウェーハをSEMに取り付け(ステップ800),次に撮像位置をキャリブレータが形成された試料上に設定し(ステップ801),チルト角を任意の設定値に変更する(ステップ802)。ただし,ステップ801と802の順序を逆にしても問題はない。チルト角を設定した後,キャリブレータの撮像をステップ804で行う。キャリブレータの撮像を行う前にステップ803において必要に応じて撮像条件の変更を行いながら,ループ810により必要に応じて複数のキャリブレータを複数の撮像条件で撮像する。
【0095】
撮像条件の変更を行いながら複数のキャリブレータを撮像する場合(ループ810)とは,後でループ811において撮像される対象パターンの画像群におけるチルト角を推定するために必要とされる撮像条件の組み合わせでキャリブレータを撮像する場合である。さらに,複数枚のキャリブレータ画像からチルト角を推定することにより推定値の信頼性を向上させる効果が期待できる。そのため一つの撮像条件により得られるキャリブレータの観察画像のみで前記対象パターンの画像群におけるチルト角の推定が可能であれば,ループ810を通ることはない。前記撮像条件の変更とは,ステージ移動,イメージシフト(電子線の照射位置変更による視野移動),倍率変更,フォーカス変更,非点補正等を指す。撮像時には撮像位置を変更したり,拡大・縮小観察を行う場合があり,その際,良好な画像を得るためにフォーカス変更や非点補正等を伴うことがある。また,必要に応じてステップ804で得られたキャリブレータ画像からチルト角の推定値を算出し,前記チルト角の推定値とチルト角の設定値とのずれをなくすようにステップ805においてチルト角を校正する。
【0096】
前記校正を行うことによって,設定した観察方向からの観察像をステップ808で得ることができる。チルト角の校正方法の詳細については後述するが(図15),必要に応じてチルト角の推定値とチルト角の設定値とのずれがなくなるまでループ810によりキャリブレータ撮像(ステップ804),チルト角推定,チルト角校正(ステップ805)を繰り返す。チルト角を補正した後(ステップ805),キャリブレータを撮像し直して(ステップ804)本当にチルト角の推定値とチルト角の設定値とのずれがないか確認してから,ステップ805をスキップして対象パターンの撮像を行う場合はステップ804とステップ808とでチルト角の設定値は同一であるが,前記キャリブレータの撮像し直しを行わない場合はステップ804とステップ808とでチルト角の設定値は異なる場合がある。ただし,対象パターン撮像時のチルト角をその後の対象パターン解析に必要とされる許容誤差の範囲内で推定できる場合は問題ない。
【0097】
次に撮像位置を半導体ウェーハ上に移動し(ステップ806),対象パターンの撮像をステップ808で行う。対象パターンの撮像を行う前にステップ807において必要に応じて撮像条件の変更を行いながら,ループ811により必要に応じて複数の対象パターンを撮像する。
【0098】
4.2 撮像シーケンス−バリエーションその2 (b)対象パターン撮像後にキャリブレータと撮像するシーケンス(図13(b))
任意のチルト角に設定し,任意の撮像条件において対象パターンを撮像した後,前記チルト角の設定は変更せずキャリブレータを撮像しチルト角を推定するシーケンスが考えられる。これは対象パターンの撮像後にキャリブレータを観察することにより,前記対象パターン観察時における撮像条件をキャリブレータ撮像時の撮像条件を決定する際に参考にすることができる利点がある。すなわち,撮像条件の変更によりチルト角は変化する可能性があるため,対象パターン観察時における撮像条件と類似した撮像条件においてキャリブレータを撮像することにより,対象パターンの撮像時のチルト角をより正確に推定することができる。
【0099】
図13(b)を用いて本シーケンスを説明する。まず,半導体ウェーハをSEMに取り付け(ステップ813),次に撮像位置を対象パターンが形成された半導体ウェーハ上に設定し(ステップ814),チルト角を任意の設定値に変更する(ステップ815)。ただし,ステップ814と815の順序を逆にしても問題はない。チルト角を設定した後,対象パターンの撮像をステップ816で行う。対象パターン撮像を行う前にステップ815において必要に応じて撮像条件の変更を行いながら,ループ821により必要に応じて複数の対象パターンを複数の撮像条件で撮像する。
【0100】
次に撮像位置をキャリブレータが形成された試料上に移動し(ステップ817),キャリブレータの撮像をステップ819で行う。キャリブレータの撮像を行う前にステップ818において必要に応じて撮像条件の変更を行いながら,ステップ816における対象パターン撮像時のチルト角推定に必要とされる複数の撮像条件におけるキャリブレータの画像をループ822により必要に応じて撮像する。
【0101】
図13(a)(b)においては,撮像条件変更(ステップ803,807,814,817)と撮像位置変更(ステップ801,806,814,817)とを分けて示した。前記撮像条件変更にはステージ移動あるいはイメージシフトが含まれるが,これはキャリブレータ間あるいは対象パターン間のステージ移動あるいはイメージシフトを示しており,一方,前記撮像位置変更はキャリブレータ−対象パターン間のステージ移動を示している。また,図11に示した任意のチルト角設定時における前記チルト角の推定を,キャリブレータの前記チルト角設定時におけるチルト画像とトップダウン画像の組み合わせから推定する場合には,チルト角の設定値0°(トップダウン)における対象パターンの撮像(ステップ808,816)はスキップする。
【0102】
4.3 撮像シーケンス−バリエーションその3 (c)キャリブレータをオフラインで撮像するシーケンス(図14)
半導体ウェーハ投入前あるいは対象パターン撮像前に,チルト角推定時に必要となるであろうチルト角および撮像条件の組み合わせでキャリブレータの撮像を行い,撮像画像群あるいは前記撮像画像群から推定したチルト角を撮像条件と共にデータベースに保存しておくシーケンスが考えられる。その後の任意の撮像条件で撮像した対象パターンにおけるチルト角推定を前記データベースから推定することが可能となる。
【0103】
図13(c)を用いて本シーケンスを説明する。複数箇所のキャリブレータを,撮像すべきチルト角および撮像条件の組み合わせで撮像する(チルト角および撮像条件の変更はそれぞれステップ901,902,撮像はステップ903で行う)。キャリブレータ画像は905に示すデータベースに保存される。また必要に応じて,データベースに保存された画像群を用いて画像処理部902において任意のチルト角設定値あるいは撮像条件におけるチルト角推定値を算出し,前記推定値をデータベース905にライブラリ化して保存する。前記データベースを用いることにより,その後の任意の撮像条件で撮像した対象パターンにおけるチルト角推定を前記データベースから推定することができる。また,対象パターン撮像時のチルト角設定値あるいは撮像条件と同じ条件で撮像したキャリブレータ画像がデータベースに保存されていない場合であっても,前記データベースに内にあるその他の条件で撮像した際のチルト角の推定値から前記対象パターン撮像時のチルト角の推定値を補間等の手段により算出することができる。
【0104】
図13(a)(b)および図14に示した三つの撮像シーケンス内のキャリブレータ撮像時において,同一あるいは連続的に配置した別のキャリブレータを複数枚観察し,各画像において観測方向を推定し,前記観察方向の平均値あるいはメディアン(中央値)等を用いることによってキャリブレータの個体差および画像ノイズ等に起因する観察方向の推定値のばらつきを軽減することができる。
【0105】
4.4 撮像条件変更に伴う推定値補正 対象パターン撮像時とキャリブレータ撮像時との間において,たとえチルト角の設定値を変更しなくても,その他の撮像条件の変化により,前記キャリブレータ撮像時と対象パターン撮像時との間において実際のチルト角が異なる場合がある。そこで,前記撮像条件の変化に伴うチルト角の変化量を推定し,前記変化量をキャリブレータ撮像時におけるチルト推定値に加算することにより対象パターン撮像時におけるチルト角を推定することができる。
【0106】
次に前記撮像条件の変化に伴うチルト角の変化量の計算方法について説明する。
【0107】
撮像条件の変更の中でステージ移動あるいはイメージシフトあるいは倍率変更によるチルト角の変化量は,チルト角の半導体ウェーハ面内分布(例えば図7中の704の位置に取り付けたキャリブレータにおけるチルト角から推定)あるいはチルト角の視野内分布(例えば図7中の706のキャリブレータにおけるチルト角から推定)から推定することが可能である。また特にイメージシフトに関しては電子線のシフトによる電子線の入射方向の変化を光学系の幾何学的な計算から推定することができる。また,撮像条件の変更の中でフォーカス変更によるチルト角の変化量は,対物レンズの制御電流値とチルト角との関係を実験的あるいは解析的に求めておくことにより推定できる。すなわち,フォーカスの変更は対物レンズの制御電流の変更によって行われるため,前記対物レンズの制御電流値とチルト角との関係が求まっていれば,対象パターン観測時の対物レンズの制御電流の値を用いてチルト角を推定することができる。
【0108】
5.推定結果の利用方法(チルト角校正,3D再構成,GUI表示等) 推定したチルト角を観察像の観測あるいは計測おいてどのように活用するかについて説明する。
【0109】
5.1 チルト角校正 キャリブレータによるチルト角の推定値を用いてチルト角を校正し,チルト角の設定値と実際のチルトを一致させることができる(図13のステップ808に相当)。
【0110】
図15にチルト角を校正するシーケンスを示す。まず,観察を希望する任意のチルト角に設定した後,キャリブレータ画像を取得し(ステップ1001。図13(a)のステップ804に相当),前記キャリブレータ画像からチルト角の推定値を算出する(ステップ1002。先に説明した図10に示す推定パラメータTの決定に相当)。前記チルト角の推定値と設定値との差分Δθを計算し,Δθの絶対値が予め設定したしきい値より大きいとき(条件1004),前記Δθの絶対値を小さくするように,ビームチルト方式であれば電子線の偏向を,ステージチルト方式であればステージの傾斜を変更する(ステップ1005)。その後ループ1006により再びキャリブレータを観測し,チルト角を推定し,再算出したΔθが条件1004を満たすか判定する。本処理を条件1004が満たされるまで繰り返し行い,チルト角の推定値を設定値に収束させる。
【0111】
5.2 測長あるいは形状指標値算出 CD計測に代表される半導体パターンの寸法計測,あるいは特開2004−022617号公報に示されているようにトップダウン方向あるいは傾斜方向からの対象パターンの観察像において,明度プロファイルを基に半導体パタ−ンの任意の形状部位の寸法計測値により前記半導体パターンの立体形状と相関の高い指標値を得ることができる。しかしながら,観察時のチルト角の設定誤差が前記指標値の誤差となってしまう。前記キャリブレーション手法によれば,(1)キャリブレータにより推定したチルト角により寸法値を補正する,あるいは(2)前述したチルト角の校正により設定値と等しい観察方向から撮像した対象パターンの観察画像を用いて寸法計測を行うことにより,高い計測精度を実現することができる。
【0112】
前記(1)の処理例として図19示した段差のある測定対象の断面1101の側壁傾斜角ωを推定する際の指標値の補正法を説明する。観測したトップダウン像の明度プロファイルを基に側壁部の寸法を計測した値(観測長)をWとする。段差の高さHが既知である場合,側壁傾斜角ωはtan-1(H/W)で与えられる。ただし,観測方向にΔθの角度誤差が含まれていた場合,側壁観測長は前記角度誤差に起因する観測長誤差ΔWが加算され,W=W1+ΔWとなる。前記キャリブレーション手法によれば,前記角度誤差Δθを推定することができ,前記観測長誤差ΔWをHtan(Δθ)で求めることができる。よってW1=W−ΔWから,観測方向の角度誤差がない状態での側壁観測長W1を求めることができ,正確な側壁傾斜角ωを推定することができる。
【0113】
前記処理例ではトップダウン像における寸法値を計測する例であったが,チルト像における寸法計測時も同様であり,任意の観察方向からのチルト画像において半導体パタ−ンの任意の形状部位の寸法計測値の補正を行うことが考えられる。
【0114】
5.3 3D再構成 多方向からの対象パターンの観察像を用いたステレオ計測による三次元プロファイル再構成において,(1)キャリブレータにより推定したチルト角を観察方向の入力値として用いる,あるいは(2)前述したチルト角の校正により設定値と等しい観察方向から撮像した対象パターンの観察画像とチルト角の設定値を入力値として用いることにより,高い再構成精度を実現することができる。
【0115】
図16に三次元プロファイルを再構成するアルゴリズムの一例として,段差のある測定対象の断面1101における二点P1−P2間の段差(高さ)を算出する方法を示す。段差を測る方向の基準として,例えばSEMにおける絶対座標系201を用い,前記絶対座標系201のz軸方向の高さを段差として計測する。図16(a)中L1,L2はそれぞれビームチルト角をθ1,θ2として上部から観察した際の二点P1−P2間の画像上での距離を表す。このとき二点P1−P2間の段差Hは,幾何学計算により前記L1,L2,θ1,θ2を用いてH={(L1−L2)・cosθ1・cosθ2}/sin(θ1−θ2)で与えられる。
【0116】
同様に図16(b)中M1,M2はそれぞれステージチルト角をθ1,θ2として上部から観察した際の二点P1−P2間の画像上での距離を表す。このとき二点P1−P2間の段差Hは,幾何学計算により前記M1,M2,θ1,θ2を用いてH=(M1・cosθ2−M2・cosθ1)/sin(θ1−θ2)で与えられる。ビームチルト観察,ステージチルト観察共にチルト角θ1,θ2の入力誤差は三次元プロファイル再構成に影響を与えるため,より観察画像における観察方向を正確に推定し入力することにより,再構成精度も向上させることが可能である。
【0117】
また,図16(a),(b)においては,点P1−P2間の段差Hの計測例を示しているが,点P1−P2間の内外を問わず,さらに細かく,対象パターン表面の凹凸を計測することができる。図16(c)は対象パターン表面の点P1〜P7をビームチルト像を用いて計測する方法を図示したものである。一例として点P5−P6間の段差H5-6は,ビームチルト角をθ1,θ2として上部から観察した際の二点P5−P6間の画像上での距離L1,5-6,L2,5-6を用いて,図16(a)の場合と同様,H5-6={(L1,5-6−L2,5-6)・cosθ1・cosθ2}/sin(θ1−θ2)で与えられる。得られた形状計測結果から,対象パターンの高さ,ライン幅,側壁傾斜角のほか,角の丸みといった微妙なパターン形状を計測し,半導体パターンの出来ばえ検査および半導体プロセス変動を検知・制御することが可能となる。
【0118】
図16(d)は,設計データ等から得られた対象パターン表面1101上の点P1〜P7(図16(d)中において白丸で表示)と,前記点P1〜P7の高さをそれぞれチルト像を用いて計測した計測点P'1〜P'7 (図16(d)中において黒丸で表示。1102は前記黒丸を直線で結んだ対象パタ−ン表面の多点近似形状)を重ねて表示したものである。本例においては出来上がった対象パターンの形状が(計測データの形状)が設計値に対して段差が低く,また点P1付近の角が丸まっていることが分かる。このように設計データの形状と計測結果の形状とを並べてあるいは重ねて表示する,あるいは高さ,角の丸まり等の形状を数値化して表示することにより対象パターン状態を評価することができる。また,このような対象パターン表面の多点における計測を絶対座標系201のx,y軸方向に二次元的に行うことにより,例えば図17中の計測形状1205のような三次元的な形状計測結果を得ることもできる。
【0119】
5.4 GUI表示 キャリブレータによるチルト角の推定値を用いて,GUI上に前記実際のチルト角の推定値を表示したり,ビームチルト画像をステージチルト画像に変換して表示することができる。
【0120】
図17(a)に観測像およびチルト角の推定結果を表示するGUI(Graphic User Interface)の一例を示す。画像表示1201および1202はそれぞれ観測方向の設定値5°,10゜のビームチルト画像である(以後,それぞれ画像01,画像02と呼ぶ)。前記ビームチルト画像1201および1202から,設定値のチルト角あるいはキャリブレーションによるチルト角の推定値におけるステージチルト画像を推定し表示したものが画像表示1203および1204である。ステージチルト画像を実際に観測しなくても,ビームチルト画像と観測方向からステージチルト画像を推定し表示することができる。
電子線の偏向により得られたビームチルト画像は人間が目視により斜めから観察した場合に見える映像とは幾何学的に異なるため,感覚的に解釈しにくい。そこで,より人間が行う観察に近いステージチルト画像に変換して表示することは目視による解析において有効である。また,ステージチルト画像を観測した場合は,逆にビームチルト画像に変換して表示することも可能である。また,画像表示1201〜1204には,図7(c)に一例を示した画像の歪み推定の結果を用いて,画像の歪み補正を行った画像を表示することができる。
【0121】
1205は観察画像から推定した三次元プロファイルを三次元的に表示したものであり,前記三次元プロファイルは任意の観察方向から表示することができる。1206は画像01,02における記観察方向の設定値およびキャリブレータを用いた前記記観察方向の推定値をそれぞれ三次元的に表したベクトルである。前記ベクトルの成分(x,y方向のチルト角の設定値および推定値)は1207に表示されている。また,三次元プロファイルの表示および観察方向の表示は図17(b)1208,1209にそれぞれ示すように二次元的に表示することも可能である。同図において1208,1209はそれぞれ推定した三次元プロファイルおよび観察方向を一例としてx-z平面に投影したものである。1206,1207,1209における(1)〜(4)はそれぞれお互いに対応する。さらに,観察方向の設定値と推定値との誤差を表示したり,キャリブレータの観察像の表示およびキャリブレータやウェーハの傾斜方向等も表示することができる。
【0122】
以上述べた,対象パターンのビームチルト画像(1201,1202)あるいはステージチルト画像(1203,1204),あるいは推定した対象パターンの三次元プロファイル(1205),あるいは観察方向の三次元表示(1206)あるいは観察方向の二次元表示(1209あるいは図16(d)中の1102)あるいは観察方向の数値による表示(1207)あるいは設計データ等から得られる対象パターンの設計形状(図16(d)中の1101)は,任意の組み合わせで同一GUI上に表示することができる。
【0123】
前述の説明においては,主に傾斜観察をビームチルト方式で行った場合およびキャリブレータとしてピラミッド型の試料を用いた場合を例に,キャリブレータの配置の仕方,観察像におけるキャリブレータの幾何形状変形の検出方法,観察方向推定方法,撮像・観察方向推定シーケンスなどを説明したが,本発明はこれに限定されるものではなく,その他の傾斜観察方式およびキャリブレータにおいても同様に適用することが可能である。
【0124】
本発明においては対象パターンの傾斜観察像と正確な観察方向の推定値とを用いることにより,正確な観察・計測を実現することができる。また,同じチルト角の設定値であっても設定するたびに実際のチルト角がばらついてしまうといったチルト角のヒステリシス特性がある,あるいは再現性が悪いSEM装置においても,チルト角の推定,校正により正確で再現性のある観察・計測が可能となる。さらに,同じサンプルを異なるSEM装置で観測・計測しても,前記異なるSEM装置におけるチルト角の違いを推定し,前記チルト角の違いに起因する機差を補正して同様な計測結果が得られるようになる。前記計測には,例えば,ライン幅やコンタクトホール径などの寸法計測,あるいは前述した三次元プロファイル計測等が含まれ,精度の高い計測値は半導体プロセスの変動を検出する有力な手がかりとなる。さらに,逆テーパと呼ばれる表面の傾斜角が90°以上の対象パターンを計測する場合(真上から観察した場合,観測不可能な領域が存在する場合)においては,傾斜観察が特に有効であり,本発明における観察・計測方法が高精度な解析のために重要である。
【符号の説明】
【0125】
1301…半導体ウェーハ 1302…電子光学系 1303…電子銃 1304…一次電子
1305…コンデンサレンズ 1306…偏向器 1307…ExB偏向器
1308…対物レンズ1309…二次電子検出器 1310、1311…反射電子検出器
1312〜1314…A/D変換器 1315…処理・制御部 1316…GUI画面 1317…ステージ
1319…キャリブレーション試料 1320…ステージコントローラ 1321…偏向制御部
13151…画像メモリ 13152…CPU 101…凹ピラミッド型の試料
102…凸ピラミッド型の試料 103…山型の試料
104…ライン・アンド・スペース型の試料 701…ステージ
702…半導体ウェーハ703…ホルダ 710、711…ピラミッド型の試料
712…山型あるいはライン・アンド・スペース型の試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集束させた電子ビームを試料に照射して走査し、
該照射による前記試料から発生する2次電子又は反射電子を検出して得られるSEM画像を用いて前記試料を観察する方法であって、
形状が既知のパターンが形成されたキャリブレーションパターンの表面に斜め方向から集束させた電子ビームを照射して走査することにより、前記キャリブレーションパターンの表面のSEM画像を取得し、
前記形状が既知のパターンが形成されたキャリブレーションパターンの表面のSEM画像から、前記SEM画像の歪み量を推定し、
前記SEM画像の情報と前記SEM画像の歪み量とに基づいて前記電子ビームを照射した斜め方向の角度を求め、前記パターンが形成された試料に、前記求めた斜め方向の角度から前記集束させた電子ビームを照射して、前記試料のSEM画像を取得し、
前記求めた斜め方向の角度の情報を用いて前記試料のSEM画像を処理することにより、前記試料のパターンの3次元画像または断面形状を求めることを特徴とする試料の観察方法。
【請求項2】
集束させた電子ビームを試料に照射して走査し、
該照射による前記試料から発生する2次電子又は反射電子を検出して得られるSEM画像を用いて前記試料を観察する方法であって、
形状が既知のパターンが形成されたキャリブレーションパターンの表面に斜め方向から集束させた電子ビームを照射して走査することにより取得したチルトSEM画像と、
前記形状が既知のパターンが形成されたキャリブレーションパターンの表面に試料に対して垂直方向から集束させた電子ビームを照射して走査することにより取得したトップダウンSEM画像とを取得し、
前記チルトSEM画像と前記トップダウン画像の情報を用いて前記電子ビームを照射した斜め方向の角度を求め、
前記パターンが形成された試料に、前記求めた斜め方向の角度から前記集束させた電子ビームを照射して、前記試料のSEM画像を取得し、
前記求めた斜め方向の角度の情報を用いて前記試料のSEM画像を処理することにより、前記試料のパターンの3次元画像または断面形状を求めることを特徴とする試料の観察方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の試料の観察方法であって、前記集束させた電子ビームを斜め方向から照射することを、前記電子ビームをチルトさせることにより行うことを特徴とする試料の観察方法。
【請求項4】
請求項1又は2記載の試料の観察方法であって、前記集束させた電子ビームを斜め方向から照射することを、前記試料や前記キャリブレーションパターンを載せるステージテーブルをチルトさせることにより行うことを特徴とする試料の観察方法。
【請求項5】
請求項1又は2記載の試料の観察方法であって、前記形状が既知のパターンは、材料をエッチングさせて露出させた結晶面をもつパターンであることを特徴とする試料の観察方法。
【請求項6】
請求項1又は2記載の試料の観察方法であって、前記形状が既知のパターンは、シリコンを異方性エッチングして露出させた(111)面または前記(111)面と等価な方向の面を露出させて形成したパターンであることを特徴とする試料の観察方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2013−69693(P2013−69693A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−252852(P2012−252852)
【出願日】平成24年11月19日(2012.11.19)
【分割の表示】特願2009−260569(P2009−260569)の分割
【原出願日】平成16年11月24日(2004.11.24)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)