説明

試料ドリフト補正装置、これを備えた結像光学システム、及び試料ドリフト補正方法

【課題】試料ドリフトによるモーションぼけを防止し、分解能の高い観察画像を得ることが可能な試料ドリフト補正装置、これを備えた結像光学システム、及び試料ドリフト補正方法を提供する。
【解決手段】本発明は、光または電子ビームを試料に向けて照射し、試料を通過した光または電子ビームを結像して受像面に像を形成するとともに、当該像を撮影する結像光学装置に取り付けられる試料ドリフト補正装置であって、像の連続ビデオフレーム画像から、1ビデオフレーム画像間の移動ベクトルまたはある1ビデオフレーム画像と基準ビデオフレーム画像との間の移動ベクトルを算出し、各ビデオフレーム画像に移動量補正を施した後、補正後の各ビデオフレーム画像を積算することで、試料の観察画像を得る演算部と、撮影手段による1ビデオフレーム周期に同期して、1ビデオフレーム周期の10000分の1〜3分の1の短い時間に光または電子ビームを試料に照射させる制御部とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子顕微鏡等の結像光学装置に用いられる試料ドリフト補正装置、これを備えた結像光学システム、及び試料ドリフト補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光や電子線、荷電粒子線を照明光として用いる各種顕微鏡では、結像光学系の開口数(NA)や波面収差などによる結像光学系自体の分解能制限が存在する。これに加えて、超高分解能電子顕微鏡などでは試料ホルダの位置不安定性や電子線・荷電粒子線の照射によって生じる試料自体の変形などが加わり、分解能を本来の分解能より更に低下させているのが現状である。
【0003】
これらの分解能劣化要因中、試料ホルダの位置不安定性には、空気中から伝搬してくるエアコンなどの外部騒音や顕微鏡筐体を通じて伝搬する外部の機械的振動によるドリフトが含まれ、1Hz程度以上の比較的高い周波数領域で複数のスペクトルピークと特定の振動方位を持つことが多い。一方、試料ホルダに温度の不均一があると、熱膨張・収縮を生じ、例えば、図6に示すように、ランダム性を伴った試料ドリフトが観察される。通常の観察ではこのドリフト移動に加えて、数ないし数十Hzの外部振動が加わることがある。このような時間の中で起きる試料の振動・ドリフトは観察像にモーションぼけを生じさせ、分解能の低下が生じる。
【0004】
このモーションぼけに対する対策として従来から行われてきた方法として、例えば特許文献1に示すようなテンプレートマッチング画像処理を利用したものがある。その一例を説明する。まず、多数ビデオフレームの撮影を行い、ビデオフレーム間あるいは基準ビデオフレームとの移動ベクトル推定を行う方式で試料ドリフト検出をする方法がある。まず、例えば、図7(a)に示すように、ある画像がX方向にずれた場合について、相互相関関数法による移動ベクトル推定を行うと、図7(b)に示すように、相関関数のマップのX方向ピークDからX方向の移動量が推定される。同様に、マップのY方向のピーク位置からY方向の移動量が推定される。
【0005】
以上の手法をもとに、電子式撮影方式を用いた高分解能電子顕微鏡を用いて、フレーム間相関による動きベクトル推定・補正・積算処理を行い、分解能と観察画像のSN比改善を試みた結果が数多く報告されている。
【特許文献1】特開平5−343020号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、電子顕微鏡で用いられるビディコン等の撮影管、CCD等の撮影素子いずれにおいても充分なSNの画像情報を収集するためには、フレーム間の時間間隔に近い蓄積時間を取ることが必要である。このため、1フレーム内での試料振動・ドリフトが無視できない場合、各フレーム画像にモーションぼけが発生する。その例を図8に示す。同図は、X方向の試料ドリフトのみを示しており、試料が各フレーム内でドリフトしているのが分かる。このようなモーションぼけがフレームごとに生ずると、上述した相関関数のマップのX方向ピーク(D)を検出しにくくなり、その結果、移動ベクトル推定の精度が低下するという問題が発生する。
【0007】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、試料ドリフトによるモーションぼけを防止し、分解能の高い観察画像を得ることが可能な試料ドリフト補正装置、これを供えた結像光学システム、及び試料ドリフト補正方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、光または電子ビームを試料に向けて照射し、試料を通過した光または電子ビームを結像して受像面に像を形成するとともに、当該像を撮影する結像光学装置に取り付けられる試料ドリフト補正装置であって、上記問題を解決するためになされたものであり、前記像の連続ビデオフレーム画像から、1ビデオフレーム画像間の移動ベクトルまたはある1ビデオフレーム画像と基準ビデオフレーム画像との間の移動ベクトルを算出し、各ビデオフレーム画像に移動量補正を施した後、補正後の全ビデオフレーム画像を積算することで、試料の観察画像を得る演算手段と、1ビデオフレーム周期に同期して、当該1ビデオフレーム周期の10000分の1から3分の1の時間内に光または電子ビームを試料に照射させる制御手段とを備えている。
【0009】
なお、ここでいう電子ビームとは、電子線や荷電粒子線の他、イオンビームを示す。また、受像面としては、例えばシンチレータ(蛍光板)や半導体X線検出器アレイを用いることができる。また、電子ビームではなく、光を用いる場合には、受像面として、撮像デバイスの光電面やフォトダイオードアレイを用いることができる。
【0010】
上記試料ドリフト補正装置において、制御手段は、前記1ビデオフレーム周期に同期して当該1ビデオフレーム内に再度光または電子ビームを試料に照射して、受像面のずれた位置に複数枚の画像を逐次形成させ、演算手段は、前記1ビデオフレーム周期内で逐次形成された複数枚の画像データの微分性画像演算をとることで、各ビデオフレームごとに新たなビデオフレーム画像を生成し、当該新たな1ビデオフレーム画像間の移動ベクトルまたはある1ビデオフレーム画像と基準ビデオフレーム画像との間の移動ベクトルを算出し、各ビデオフレーム画像に移動量補正を施した後、補正後の各ビデオフレーム画像を積算することで、試料の観察画像を得るように構成することができる。
【0011】
ここでいう微分性画像演算とは、例えば、1回微分型の差分演算や、2回微分型のラプラシアン演算を示すが、さらに高次の微分を用いる演算も可能である。なお、差分演算を行うには、通常2画像を用い、ラプラシアン演算を行うには、通常5画像を用いる。但し、2画像でラプラシアン演算を行うことも可能である。
【0012】
また、本発明にかかる結像光学装置は、上記問題を解決するためになされたものであり、光または電子ビームを試料に向けて照射する照射手段と、試料を透過した光または電子ビームを結像する結像系と、結像された試料像を受像する受像面と、前記受像面上の像を連続ビデオフレーム撮影する撮影手段と、前記撮影手段で撮影された連続ビデオフレーム画像から、1ビデオフレーム画像間の移動ベクトルまたはある1ビデオフレーム画像と基準ビデオフレーム画像との間の移動ベクトルを算出し、各ビデオフレーム画像に移動量補正を施した後、補正後の全ビデオフレーム画像を積算することで、試料の観察画像を得る演算手段と、1ビデオフレーム周期に同期して、当該1ビデオフレーム周期の10000分の1から3分の1の時間内に光または電子ビームを試料に照射させる制御手段とを備えている。
【0013】
上記システムは、前記照射手段と試料との間に配置され、試料への光または電子ビームの照射を遮断する遮断手段をさらに備え、制御手段は、1ビデオフレーム周期に同期して、光または電子ビームを試料に照射させるように、前記遮断手段を駆動するように構成することができる。
【0014】
また、制御手段は、前記1ビデオフレーム周期に同期して当該1ビデオフレーム内に再度光または電子ビームを試料に照射させ、受像面のずれた位置に複数の画像を形成させ、前記演算手段は、前記1ビデオフレーム周期内で形成された複数の画像の微分性画像演算をとることで、各ビデオフレームごとに新たなビデオフレーム画像を生成し、当該新たな1ビデオフレーム画像間の移動ベクトルまたはある1ビデオフレーム画像と基準ビデオフレーム画像との間の移動ベクトルを算出し、各ビデオフレーム画像に移動量補正を施した後、補正後の各ビデオフレーム画像を積算することで、試料の観察画像を得るように構成することができる。
【0015】
また、本発明に係る試料ドリフト補正方法は、光または電子ビームを試料に照射し、試料を通過した光または電子ビームを結像し、受像面上に像を形成するステップと、前記受像面上の像を連続ビデオフレーム撮影するステップと、撮影された連続ビデオフレーム画像から、1ビデオフレーム画像間の移動ベクトルまたはある1ビデオフレーム画像と基準ビデオフレーム画像との間の移動ベクトルを算出し、各ビデオフレーム画像に移動量補正を施した後、補正後の各ビデオフレーム画像を積算することで、試料の観察画像を得るステップとを備え、前記受像面上に像を形成するステップでは、1ビデオフレーム周期に同期して、当該1ビデオフレーム周期の10000分の1から3分の1の時間内に光または電子ビームを試料に照射する。
【0016】
上記試料ドリフト補正方法において、前記1ビデオフレーム周期に同期して、当該1ビデオフレーム内に光または電子ビームを再度照射し、受像面上に2つ目の像を形成するステップと、1ビデオフレーム周期内で形成された2つの像の画像データの差分をとることで、各ビデオフレームごとに新たなビデオフレーム画像を生成するステップとをさらに備え、前記観察画像を得るステップでは、新たなビデオフレーム画像を用いて移動ベクトルの算出、移動量補正を行い、補正後の各ビデオフレーム画像を積算するように構成することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、受像面の像を連続ビデオフレーム撮影する際に、ビデオフレーム周期に同期して、1ビデオフレーム時間よりも十分に短い時間だけ光または電子ビームを試料に照射している。そのため、像が形成される時間が短くなり、試料ドリフトによるモーションぼけを極力小さくすることが可能になる。これによって、各移動ベクトル推定の精度が向上し、鮮鋭な積算画像を得ることができる。つまり、画像の分解能を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係る光学結像システムを電子顕微鏡に適用した場合の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は本実施形態に係る光学結像システムの概略構成図である。
【0019】
図1に示すように、このシステムは、電子顕微鏡10と、試料ドリフトによる観察像のモーションぼけを検出し補正する試料ドリフト補正装置20とを備えている。まず、電子顕微鏡について説明する。
【0020】
この電子顕微鏡は、筐体1内の上部に、電子ビームBを照射する電子銃(照射手段)3を備えており、この電子銃3の下方に、電子ビームBを遮断するビームブランカ(遮断手段)5、試料ホルダ7、対物レンズ(結像系)9、偏光板11、投影レンズ(結像系)13、及びシンチレータ(受像面)15がこの順で配置されている。ビームブランカ5は、後述する制御部によって駆動され、所定の信号を受け取ると、電子ビームBの遮断を解除し、電子ビームBが試料に照射されるようになっている。
【0021】
上記のように構成された電子顕微鏡10による撮影は、次のように行われる。すなわち、電子銃3から発せられた電子ビームBは、ビームブランカ5を通過した後、試料に照射される。そして、試料を通過した電子ビームBは、対物レンズ9によって拡大され、投影レンズ13によってシンチレータ15上に結像される。筐体1の下方には、連続ビデオフレーム撮影を行う撮影デバイス(撮影手段)17が配置されており、シンチレータ15上に結像された透過電子像はこの撮影デバイス17によって取り込まれ、試料ドリフト補正装置20によって画像処理がなされる。なお、ここで用いられる撮影デバイス17は、例えば、CCDカメラを用いることができる。
【0022】
試料ドリフト補正装置20は、演算部(演算手段)21、制御部(制御手段)23、及びモニタ25を備えている。演算部21及び制御部23は、パーソナルコンピュータ、ワークステーション等の情報処理装置で構成することができる。制御部23は、演算部21からの指令により、電子顕微鏡10の各構成部分、例えば電子銃3、ビームブランカ15、各レンズ9,13、試料ホルダ7等の駆動制御を行う。また、演算部21は、撮影デバイス17から送られた画像データを処理し、最終的な観察画像がモニタ25に表示される。
【0023】
次に、上記のように構成されたシステムによる試料ドリフト補正方法について図2〜図4を参照しつつ説明する。図2はドリフト補正のフローチャートであり、図3はビデオフレーム撮影の概略図であり、図4は移動量推定に用いられる相互相関関数のX方向のマップである。
【0024】
図2に示すように、まず、上述した撮影デバイス17によって透過電子像の連続ビデオフレーム撮影を行う(S11)。このとき、図3に示すように、各ビデオフレームにおいて、電子ビームBの照射を行い、透過電子像を形成する。すなわち、ビデオフレーム周期に同期して制御部23よりビームブランカ5にパルス信号を送り、1ビデオフレーム時間より十分に短い時間だけ電子ビームBの遮断を解除し、電子ビームBを試料に照射する。電子ビームBを照射する時間は、長すぎるとモーションぼけが大きくなるため、例えば、1ビデオフレーム時間の3分の1以下にすることが好ましく、5分の1以下にすることがさらに好ましく、10分の1以下にすることが特に好ましい。また、電子ビームBの照射時間は、データ量を考慮すると、10000分の1以上にすることが好ましく、1000分の1以上にすることがさらに好ましく、100分の1以上にすることが特に好ましい。具体的には、例えば、1/30〜1/60秒の1ビデオフレーム時間に対し、1〜0.1ミリ秒にすることができる。このように、1ビデオフレーム時間のうちの十分に短い時間のみ電子ビームBを照射して透過電子像を形成しているため、各ビデオフレームにおけるモーションぼけを小さくすることができる。
【0025】
そして、撮影された連続ビデオフレーム画像は、演算部21内のフレームバッファ(図示省略)に送られ、移動量補正が行われる。まず、相互相関関数法により、ある1ビデオフレーム画像とその直前の1ビデオフレーム画像との間の移動ベクトル推定の演算が行われる(S12)。このとき、基準ビデオフレーム画像を準備しておき、これと各ビデオフレーム画像との間でベクトル推定を行ってもよい。図4は、相関関数X方向マップの一例である。上述したように、本実施形態で撮影されたビデオフレーム画像では、モーションぼけが小さくなっているため、例えば従来例の方法で行った図7(b)のマップと比べて、相互相関関数値のピークDがはっきりと現れる。したがって、推定の精度が高くなる。こうして、各ビデオフレーム画像において移動ベクトル量を推定し、その推定量に基づいて各ビデオフレーム画像の移動量補正を行う(S13)。すなわち、ドリフトによって移動した試料の位置修正を行う。こうして、移動量補正された各ビデオフレーム画像は、演算部21内の画像フレーム積算器(図示省略)で逐次積算され(S14)、最終的なドリフト補正処理画像がモニタに示される(S15)。
【0026】
以上のように、本実施形態によれば、透過電子像を連続ビデオフレーム撮影する際に、ビデオフレーム周期に同期してビームブランカ5を駆動し、1ビデオフレーム時間よりも十分に短い時間だけ電子ビームBを試料に照射している。そのため、透過電子像が形成される時間が短くなり、試料ドリフトによるモーションぼけを極力小さくすることが可能になる。これによって、各移動ベクトル推定の精度が向上し、SN比の良好な観察画像を得ることができる。つまり、画像の分解能を向上することができる。
【0027】
なお、上記説明では、あるビデオフレーム画像とその直前のビデオフレーム画像との間で移動量推定を行っているが、逐次得られた移動ベクトル列をもとに次のビデオフレーム画像の移動ベクトルを推定し、逆向きの移動ベクトルに相当する偏光板制御信号を加算することにより次のビデオフレームにおける試料ドリフトを先回り制御・抑制することも可能である。
【0028】
ところで、電子顕微鏡による画像観察においては、上述したような試料ドリフトによる雑音以外に、例えばCCD素子に付着するゴミまたは素子の欠陥に起因するいわゆる固定雑音の問題がある。このような固定雑音は、相互相関をとるべき両画像データに共通であるので、移動量0の原点にピークを持ってしまい、本来の相関ピークの位置を原点方向に移動させることになる。その結果、固定雑音を相対的に強めることになり、移動量推定に悪影響をもたらすと考えられる。
【0029】
以下、この固定雑音を排除する方法について図5を参照しつつ説明する。図5は固定雑音の除去方法を示すフローチャートである。まず、1ビデオフレーム内での電子ビームの照射後に、試料ホルダを微少量だけ面内で移動させ、試料の移動後、再び電子ビームの照射を行う。すなわち、1ビデオフレーム内で2回あるいは複数回の透過電子像を形成しこれを撮影する(S21)。このとき、試料ホルダを移動させる量は、要求分解能によって変わるが例えば高分解能電子顕微鏡では0.2nm〜10nmとすることができる。また、3枚以上の画像を形成する場合は、相互に0.2nm〜10nmずつずれるように画像を形成すればよい。
【0030】
こうして、1ビデオフレームに複数の透過電子像が撮影された連続ビデオフレーム撮影を行い、画像データを演算部21に送信する。次に、演算部21において、各ビデオフレームで撮影された複数画像を分離した後、複数画像間の差分またはラプラシアンなどの微分性演算を取る(S22)。より詳細には、複数画像に対し、適切な荷重値(演算カーネル)に基づいて正負両極性の荷重付けを行って荷重付け演算(空間フィルタリング)を行い、補正用の画像データとする。このような画像処理方法としては、例えば本発明者が提唱する能動型画像処理(能動型コルボンバー)の手法(Appl. Opt. 24(1985)2907)を用いることができる。ここで、固定雑音は、複数画像において同じ位置に存在するため、上記のように差分またはラプラシアンなどの微分性演算を取れば、固定雑音を除去することができる。こうして、差分またはラプラシアンなどの微分性演算を取ることで、各ビデオフレームごとに、補正用の画像データを生成した後、上述したのと同様に、移動ベクトルの算出(S23)、移動ベクトル補正(S24)、全フレームの積算を行い(S25)、最終的な観察画像を得る(S26)。なお、差分演算を用いる場合には、通常、1ビデオフレーム周期に2回の画像形成を行い、ラプラシアン演算を用いる場合には、5つの画像を形成する。但し、2画像でラプラシアン演算を行うことも可能である。この際は、2回目の露光時間中に画像を連続的に回転的並進移動させる。
【0031】
以上の方法を用いることで、固定雑音を除去することができ、さらに高精度の観察画像を得ることができる。なお、この方法で用いる撮影デバイスは、例えば、1フレームで複数回の画像の読み出しが行える高速読み出し型のCCDカメラを用いることが好ましい。また、シンチレータ15上にずれた2つの像を形成するには、上述したような試料ホルダを移動させる以外に、例えば、電子顕微鏡の偏光板11に電圧を印加することで電子ビームを進行方向からずらせる方法がある。これによって最初の透過電子像からずれた位置に2つ目の透過電子像を形成することができる。
【0032】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0033】
例えば、上記実施形態では、本発明の結像光学装置として電子顕微鏡を用いた例を説明したが、これに限定されるものではなく、これ以外にも例えばイオンビーム顕微鏡や光学顕微鏡など結像光学系を有する装置全般に適用することができる。
【0034】
また、上記実施形態では、本発明の遮断手段としてビームブランカ5を用いているが、これは通常、電子顕微鏡に予め取り付けられているものを利用することができ、電子ビームを遮断できるものであれば特には限定されない。例えば、ウィネルト電極制御型、或いは静電偏向、磁場偏向型のビームブランカを使用することができる。また、ビームブランカを使用せず、電子銃5において電子ビームの照射を制御することもできる。すなわち、1ビデオフレーム周期に同期するように、上述した短い時間に電子ビームを照射することもできる。
【0035】
また、本発明に係る試料ドリフト補正装置は、従来からある電子顕微鏡等の結像光学装置に取り付けることで用いることができ、例えば電子顕微鏡等に予め設けられている通常のCCDカメラを撮影手段としてそのまま用いることができるため、汎用性が高い。但し、固定雑音を除去する画像処理を行う場合には、上述したように、高速読み出し型のCCDカメラが必要となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施形態に係る光学結像システムの概略構成図である。
【図2】図1にシステムにおける画像処理のフローチャートである。
【図3】ビデオフレーム撮影の概略図である。
【図4】移動量推定に用いられる相互相関関数のX方向のマップである。
【図5】固定雑音の除去方法を示すフローチャートである。
【図6】試料ドリフトの例を示す平面図である。
【図7】相互相関関数法による移動ベクトル推定の例を示す図である。
【図8】従来のビデオフレーム撮影の概略図である。
【符号の説明】
【0037】
3 電子銃(照射手段)
5 ビームブランカ(遮断手段)
9 対物レンズ(結像系)
13 投影レンズ(結像系)
15 シンチレータ(受像面)
17 撮影デバイス(撮影手段)
21 演算部(演算手段)
23 制御部(制御手段)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
光または電子ビームを試料に向けて照射し、試料を通過した光または電子ビームを結像して受像面に像を形成するとともに当該像を撮影する結像光学装置に取り付けられる試料ドリフト補正装置であって、
前記像の連続ビデオフレーム画像から、1ビデオフレーム画像間の移動ベクトルまたはある1ビデオフレーム画像と基準ビデオフレーム画像との間の移動ベクトルを算出し、各ビデオフレーム画像に移動量補正を施した後、補正後の全ビデオフレーム画像を積算することで、試料の観察画像を得る演算手段と、
1ビデオフレーム周期に同期して、当該1ビデオフレーム周期の10000分の1から3分の1の時間内に光または電子ビームを試料に照射させる制御手段と
を備えている試料ドリフト補正装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記1ビデオフレーム周期に同期して当該1ビデオフレーム内に再度光または電子ビームを試料に照射して、受像面のずれた位置に複数枚の画像を逐次形成させ、
前記演算手段は、前記1ビデオフレーム周期内で逐次形成された複数枚の画像データの微分性画像演算を行うことで、各ビデオフレームごとに新たなビデオフレーム画像を生成し、当該新たな1ビデオフレーム画像間の移動ベクトルまたはある1ビデオフレーム画像と基準ビデオフレーム画像との間の移動ベクトルを算出し、各ビデオフレーム画像に移動量補正を施した後、補正後の各ビデオフレーム画像を積算することで、試料の観察画像を得る、請求項1に記載の試料ドリフト補正装置。
【請求項3】
光または電子ビームを試料に向けて照射する照射手段と、
試料を透過した光または電子ビームを結像する結像系と、
結像された試料像を受像する受像面と、
前記受像面上の像を連続ビデオフレーム撮影する撮影手段と、
前記撮影手段で撮影された連続ビデオフレーム画像から、1ビデオフレーム画像間の移動ベクトルまたはある1ビデオフレーム画像と基準ビデオフレーム画像との間の移動ベクトルを算出し、各ビデオフレーム画像に移動量補正を施した後、補正後の全ビデオフレーム画像を積算することで、試料の観察画像を得る演算手段と、
1ビデオフレーム周期に同期して、当該1ビデオフレーム周期の10000分の1から3分の1の時間内に光または電子ビームを試料に照射させる制御手段と
を備えている結像光学システム。
【請求項4】
前記照射手段と試料との間に配置され、試料への光または電子ビームの照射を遮断する遮断手段をさらに備え、
前記制御手段は、1ビデオフレーム周期に同期して、光または電子ビームを試料に照射させるように、前記遮断手段を駆動する、請求項3に記載の結像光学システム。
【請求項5】
前記制御手段は、前記1ビデオフレーム周期に同期して当該1ビデオフレーム内に再度光または電子ビームを試料に照射して、受像面のずれた位置に複数枚の画像を逐次形成させ、
前記演算手段は、前記1ビデオフレーム周期内で逐次形成された複数枚の画像データの微分性画像演算を行うことで、各ビデオフレームごとに新たなビデオフレーム画像を生成し、当該新たな1ビデオフレーム画像間の移動ベクトルまたはある1ビデオフレーム画像と基準ビデオフレーム画像との間の移動ベクトルを算出し、各ビデオフレーム画像に移動量補正を施した後、補正後の各ビデオフレーム画像を積算することで、試料の観察画像を得る、請求項3または4に記載の結像光学システム。
【請求項6】
光または電子ビームを試料に照射し、試料を通過した光または電子ビームを結像し、受像面上に像を形成するステップと、
前記受像面上の像を連続ビデオフレーム撮影するステップと、
撮影された連続ビデオフレーム画像から、1ビデオフレーム画像間の移動ベクトルまたはある1ビデオフレーム画像と基準ビデオフレーム画像との間の移動ベクトルを算出し、各ビデオフレーム画像に移動量補正を施した後、補正後の各ビデオフレーム画像を積算することで、試料の観察画像を得るステップとを備え、
前記受像面上に像を形成するステップでは、1ビデオフレーム周期に同期して、当該1ビデオフレーム周期の10000分の1から3分の1の時間内に光または電子ビームを試料に照射する、試料ドリフト補正方法。
【請求項7】
前記1ビデオフレーム周期に同期して、当該1ビデオフレーム内に光または電子ビームを再度照射し、受像面のずれた位置に複数枚の画像を逐次形成させるステップと、
1ビデオフレーム周期内で逐次形成された複数枚の画像データの微分性画像演算を行うことで、各ビデオフレームごとに新たなビデオフレーム画像を生成するステップとをさらに備え、
前記観察画像を得るステップでは、新たなビデオフレーム画像を用いて移動ベクトルの算出、移動量補正を行い、補正後の各ビデオフレーム画像を積算することで、試料の観察画像を得る、請求項6に記載の試料ドリフト補正方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−200784(P2007−200784A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−19886(P2006−19886)
【出願日】平成18年1月27日(2006.1.27)
【出願人】(801000061)財団法人大阪産業振興機構 (168)