説明

試料分析装置及び試料分析方法

【課題】レーザダイオードを自動的に安定してマルチモード発振させることができる試料分析装置及び試料分析方法を提供する。
【解決手段】測定モードを受け付け、受け付けた測定モードに応じてLD(レーザダイオード)の発光量を設定し、レーザダイオードの発光量が、設定された発光量に保たれるように、レーザダイオードに直流電流を供給し、レーザダイオードがマルチモード発振するよう、レーザダイオードに供給される直流電流の大きさに応じて、高周波成分の振幅を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液などの生体試料の成分を測定する試料分析装置及び試料分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザダイオードを用いたフローサイトメトリー方式により、例えば血液中の血小板の大きさを測定する試料分析装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。このような分析装置においては、精度の良い測定を行うために、レーザダイオードにはノイズの少ないことが要求される。
ところで、レーザダイオードは、連続的に発光させるとシングルモード発振の状態(単一の波長で発振する状態)になる。しかしながら、レーザダイオードに供給される電流の大きさの変化や、レーザダイオードの温度変化によって、レーザダイオードの発振波長は、シングルモード発振中に他の波長に変化(以下、「モードホップ」ともいう)することがある。そして、モードホップが発生すると、レーザダイオードから出力される光量に変化が生じ、このような光量変化がノイズとして検出される(例えば、特許文献2,3参照)。このノイズは、微小な粒子を測定する場合に検出される検出信号と見分けがつきにくい。そのため、精度の良い測定を行うためには、モードホップによるノイズの発生を抑える必要がある。
そこで、上述の特許文献2および3に記載の技術においては、レーザダイオードをシングルモード発振の状態に落ち着かせないように、ベースとなる直流電流に高周波変調をかけた駆動電流をレーザダイオードに与えることにより、レーザダイオードをマルチモード発振の状態(複数の波長で発振する状態)に維持する手法が用いられている。この手法を用いた場合には、高周波電流の振幅を手動で調整することにより、高周波変調のかかった駆動電流の下限値(正弦波波形の谷の部分)を、レーザダイオードのレーザ光出力の閾値電流値より下回らせることができる。これにより、レーザダイオードにレーザ光出力のオン・オフを繰り返させることができ、レーザダイオードをマルチモード発振の状態に維持することができる。
【0003】
【特許文献1】特開2000−275163号公報
【特許文献2】特開平9−178645号公報
【特許文献3】特開平9−246640号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した特許文献2および3に記載の技術においては、レーザダイオードが経時的に劣化してくると、マルチモード発振の状態を維持できずにモードホップノイズが発生する場合がある。
【0005】
かかる問題点に鑑み、本発明は、レーザダイオードを自動的に安定してマルチモード発振させることができる試料分析装置及び試料分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の試料分析装置は、生体試料中の成分を測定する試料分析装置であって、試薬と生体試料とから測定試料を調製する試料調製部と、前記試料調製部により調製された測定試料を含む試料流を形成するフローセルと、前記試料対してレーザ光を照射するレーザダイオードと、レーザ光が照射された試料から生じる光を受光して電気信号に変換する受光部と、前記受光部から出力された電気信号を処理して生体試料中の成分を分析する分析と、前記成分に対応した測定モードを受け付ける入力部と、前記入力部により受け付けた測定モードに応じて、前記レーザダイオードから照射されるレーザ光の発光量を設定する制御部と、前記レーザダイオードの発光量を検出する光量検出部と、前記光量検出部により検出された発光量に基づき、前記レーザダイオードの発光量が、前記制御部により設定された発光量に保たれるように、前記レーザダイオードに供給する直流電流を出力する直流駆動回路と、前記直流駆動回路から出力される直流電流に高周波成分を重畳させる高周波重畳回路と、前記レーザダイオードがマルチモード発振するよう、前記直流駆動回路から出力された直流電流の大きさに応じて、前記高周波重畳回路から出力される高周波の振幅を制御する高周波制御と、を備えたものである。
上記の試料分析装置では、直流駆動回路から出力された直流電流に応じて高周波の振幅が制御され、レーザダイオードを、マルチモード発振の状態とすることができる。従ってこのような試料分析装置は、レーザダイオードを自動的に安定してマルチモード発振の状態とすることができる。また、試料の測定モードに応じてレーザダイオードの発光量を変化させた場合にも、自動的に安定してレーザダイオードをマルチモード発振させることができる。
【0007】
また、上記試料分析装置において、高周波制御手段は、レーザダイオードがレーザ光出力のオン・オフを交互に繰り返すよう、高周波重畳回路を制御すればよい。
この場合、オン・オフの繰り返しによりシングルモードへの移行を防止し、マルチモード発振の状態を維持することができる。
【0008】
また、上記試料分析装置において、高周波制御手段は、レーザダイオードをマルチモード発振させるとともにレーザダイオードの最大定格以下の電流がレーザダイオードに対して供給されるよう、高周波重畳回路を制御することが好ましい。
この場合、最大定格を超える電流を与えてレーザダイオードの寿命が短くなることを、防止することができる。
【0009】
また、上記試料分析装置において、高周波制御手段は、高周波成分を重畳せずに直流駆動回路に直流電流を出力させる初期駆動制御を実行し、その後、直流駆動回路から出力される直流電流に高周波成分を重畳させてレーザダイオードをマルチモード発振させるマルチモード発振制御を実行し、高周波制御手段は、初期駆動制御を実行している間に直流駆動回路から出力された直流電流の電流値に基づいて基準電流値を決定し、マルチモード発振制御を実行している間に直流駆動回路から出力される直流電流の電流値が前記基準電流値に近づくように、高周波重畳回路を制御すればよい。
この場合、基準電流値に近づける簡易な制御で、初期の直流電流に応じて、マルチモード発振の状態とすることができる。
【0010】
また、上記試料分析装置において、高周波制御手段は、マルチモード発振制御を実行している間に直流駆動回路から出力される直流電流の電流値が、初期駆動制御を実行している間に直流駆動回路から出力された直流電流の電流値と所定の関係を有するように、高周波重畳回路を制御すればよい。
【0011】
また、上記試料分析装置において、例えば試料は血液試料である。
【0012】
また、本発明の試料分析方法は、高周波成分を重畳した電流を用いてレーザダイオードからレーザ光を照射させて生体試料から生じる光学的情報を検出し、検出した光学的情報を処理して生体試料中の成分を分析する試料分析方法であって、前記成分に応じた測定モードの入力を受け付けるステップと、試薬と生体試料とから測定試料を調製するステップと、調製された測定試料を含む試料流をフローセルに形成するステップと、前記測定モードに応じて、前記レーザダイオードから前記試料流に対して照射されるレーザ光の発光量を設定するステップと、前記レーザダイオードから照射されたレーザ光の光量をモニタし、前記レーザダイオードの発光量が前記設定された発光量に保たれるように、前記レーザダイオードに供給する直流電流の大きさを制御するステップと、前記レーザダイオードがマルチモード発振するよう、前記レーザダイオードに供給された直流電流の大きさに応じて、直流電流に重畳される高周波の振幅を制御するステップと、を備えるものである。
上記の試料分析方法では、直流電流制御ステップで出力された直流電流に応じて、高周波制御ステップで高周波の振幅が制御され、レーザダイオードを、マルチモード発振の状態とすることができる。従ってこのような試料分析装置は、レーザダイオードを自動的に安定してマルチモード発振の状態とすることができる。また、試料の測定モードに応じてレーザダイオードの発光量を変化させた場合にも、自動的に安定してレーザダイオードをマルチモード発振させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の試料分析装置又は試料分析方法によれば、レーザダイオードを自動的に安定してマルチモード発振の状態とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
《試料分析装置の全体構成》
図1は、本発明の一実施形態に係る試料分析装置の全体的な外観を示した斜視図である。図2〜図6は、図1に示した試料分析装置の構成要素を説明するための図である。まず、図1を参照して、本発明の一実施形態に係る試料分析装置1の全体構成について説明する。なお、この試料分析装置1は、血液検査を行うための多項目自動血球分析装置として構成されているが、以下の説明では、血液中の白血球、網状赤血球及び血小板の測定に関してのみ説明する。
【0015】
試料分析装置1は、図1に示すように、生体試料である血液の測定を行う機能を有する測定部2と、測定部2から出力された測定データを分析して分析結果を得る分析手段としてのデータ処理部3とにより構成されている。測定部2は、フローサイトメトリー法により、血液中の白血球、網状赤血球及び血小板の測定を行うように構成されている。なお、フローサイトメトリー法とは、測定試料を含む試料流を形成するとともに、その試料流にレーザ光を照射することによって、測定試料中の粒子(血球)が発する前方散乱光、側方散乱光及び側方蛍光を検出する粒子(血球)の測定方法である。
【0016】
《測定部》
測定部2は、図2に示すように、装置機構部4と、測定試料の測定を行う検出部5と、検出部5の出力に対するアナログ処理部6と、表示・操作部7と、測定部2を制御するためのマイクロコンピュータ部8とを備えている。
【0017】
マイクロコンピュータ部8は、図2に示すように、制御用プロセッサ及び制御用プロセッサを動作させるためのメモリを有する制御部81と、アナログ処理部6から出力された信号をデジタル信号に変換するA/D変換部82と、A/D変換部82から出力されたデジタル信号に所定の処理を行うための演算部83とを含んでいる。制御部81は、バス84a及びインターフェース85aを介して装置機構部4及び検出部5を制御する機能を有する。また、制御部81は、バス84a及びインターフェース85bを介して表示・操作部7と接続されるとともに、バス84b及びインターフェース85cを介してデータ処理部3と接続されている。また、演算部83は、演算結果をインターフェース85d及びバス84aを介して制御部81に出力する機能を有する。また、制御部81は、演算結果(測定データ)をデータ処理部3に送信する機能を有する。
【0018】
また、装置機構部4には、試薬と血液とから測定試料を調製する試料調製部41が設けられている。試料調製部41は、白血球測定用試料と、網状赤血球測定用試料と、血小板測定用試料とを調製するために設けられている。試料調製部41は、図3に示すように、血液が所定量充填されている採血管41aと、血液が吸引されるサンプリングバルブ41bと、反応チャンバ41cとを含んでいる。採血管41aは、取り替え可能であり、血液の交換を行うことが可能であるように構成されている。また、サンプリングバルブ41bは、吸引ピペット(図示せず。)により吸引された採血管41a内の血液を所定の量だけ定量する機能を有する。
【0019】
また、サンプリングバルブ41bは、吸引された血液に所定の薬剤を混合することが可能となるように構成されている。つまり、サンプリングバルブ41bは、所定量の血液に所定量の薬剤が混合された希釈試料を生成可能に構成されている。反応チャンバ41cは、サンプリングバルブ41bから供給される希釈試料に所定の染色液をさらに混合して所定の時間反応させるように構成されている。これにより、試料調製部41は、白血球測定用試料として、白血球が染色されるとともに赤血球が溶血された測定試料を調製する機能を有する。また、試料調製部41は、網状赤血球測定用試料として、網状赤血球が染色された測定試料を調製するとともに、血小板測定用試料として、血小板が染色された測定試料を調製する機能を有する。
【0020】
また、装置機構部4(図2)は、白血球分類測定(以下、「DIFF測定」と言う。)モード時に、白血球測定用試料をシース液とともに試料調製部41から後述するシースフローセル503(図4)に供給するように構成されている。また、装置機構部4は、網状赤血球測定(以下、「RET測定」と言う。)モード時に、網状赤血球測定用試料をシース液とともに試料調製部41からシースフローセル503に供給するように構成されている。また、装置機構部4は、血小板測定(以下、「PLT測定」と言う。)モード時に、血小板測定用試料をシース液とともに試料調製部41からシースフローセル503に供給するように構成されている。
【0021】
検出部5は、図4に示すように、レーザ光を出射する発光部501と、照射レンズユニット502と、レーザ光が照射されるシースフローセル503と、発光部501から出射されるレーザ光が進む方向の延長線上に配置されている集光レンズ504、ピンホール505及びPD(フォトダイオード)506と(シースフローセル503と集光レンズ504との間には図示しないビームストッパが配置されている)、発光部501から出射されるレーザ光が進む方向と交差する方向に配置されている集光レンズ507、ダイクロイックミラー508、光学フィルタ509、ピンホール510及びAPD(アバランシェフォトダイオード)511と、ダイクロイックミラー508の側方に配置されているPD512とを含んでいる。
【0022】
発光部501は、シースフローセル503の内部を通過する測定試料を含む試料流に対して光を出射するために設けられている。また、照射レンズユニット502は、発光部501から出射された光を平行光にするために設けられている。また、PD506は、シースフローセル503から出射された前方散乱光を受光するために設けられている。なお、シースフローセル503から出射された前方散乱光により、測定試料中の粒子(血球)の大きさに関する情報を得ることが可能である。
【0023】
ダイクロイックミラー508は、シースフローセル503から出射された側方散乱光及び側方蛍光を分離するために設けられている。具体的には、ダイクロイックミラー508は、シースフローセル503から出射された側方散乱光をPD512に入射させるとともに、シースフローセル503から出射された側方蛍光をAPD511に入射させるために設けられている。また、PD512は、側方散乱光を受光するために設けられている。なお、シースフローセル503から出射された側方散乱光により、測定試料中の粒子(血球)の核の大きさなどの内部情報を得ることが可能である。また、APD511は、側方蛍光を受光するために設けられている。なお、シースフローセル503から出射された側方蛍光により、測定試料中の粒子(血球)の染色度合いに関する情報を得ることが可能である。また、PD506、512及びAPD511は、それぞれ、受光した光信号を電気信号に変換する機能を有する。
【0024】
ここで、本実施形態では、発光部501は、DIFF測定モード時に3.4mWの出力で光を出射するように構成されている。また、発光部501は、RET測定モード時に6mWの出力で光を出射するように構成されている。また、発光部501は、PLT測定モード時に10mWの出力で光を出射するように構成されている。
【0025】
《データ処理部》
データ処理部3は、図1に示すように、パーソナルコンピュータ(PC)などからなり、測定部2の測定データを解析するとともに、その解析結果を表示する機能を有する。また、データ処理部3は、制御部301と、表示部302と、入力デバイス303とを含んでいる。制御部301は、測定モード情報を含む測定開始信号及びシャットダウン信号を測定部2に送信する機能を有する。また、制御部301は、図5に示すように、CPU301aと、ROM301bと、RAM301cと、ハードディスク301dと、読出装置301eと、入出力インターフェース301fと、画像出力インターフェース301gとにより構成されている。CPU301a、ROM301b、RAM301c、ハードディスク301d、読出装置301e、入出力インターフェース301f及び画像出力インターフェース301gは、バス301hによって接続されている。
【0026】
CPU301aは、ROM301bに記憶されているコンピュータプログラム及びRAM301cにロードされたコンピュータプログラムを実行するために設けられている。ROM301bは、マスクROM、PROM、EPROM、EEPROMなどによって構成されており、CPU301aに実行されるコンピュータプログラム及びこれに用いるデータなどが記録されている。
【0027】
RAM301cは、SRAM又はDRAMなどによって構成されている。RAM301cは、ROM301b及びハードディスク301dに記録されているコンピュータプログラムの読み出しに用いられる。また、これらのコンピュータプログラムを実行するときに、CPU301aの作業領域として利用される。
【0028】
ハードディスク301dは、オペレーティングシステム及びアプリケーションプログラムなど、CPU301aに実行させるための種々のコンピュータプログラム及びそのコンピュータプログラムの実行に用いるデータがインストールされている。後述するアプリケーションプログラム304aも、このハードディスク301dにインストールされている。
【0029】
読出装置301eは、フレキシブルディスクドライブ、CD−ROMドライブ、又はDVD−ROMドライブなどによって構成されており、可搬型記録媒体304に記録されたコンピュータプログラム又はデータを読み出すことができる。また、可搬型記録媒体304には、コンピュータに所定の機能を実現させるためのアプリケーションプログラム304aが格納されており、データ処理部3としてのコンピュータがその可搬型記録媒体304からアプリケーションプログラム304aを読み出し、そのアプリケーションプログラム304aをハードディスク301dにインストールすることが可能である。
【0030】
なお、上記アプリケーションプログラム304aは、可搬型記録媒体304によって提供されるのみならず、電気通信回線(有線、無線を問わない)によってデータ処理部3と通信可能に接続された外部の機器から上記電気通信回線を通じて提供することも可能である。例えば、上記アプリケーションプログラム304aがインターネット上のサーバコンピュータのハードディスク内に格納されており、このサーバコンピュータにデータ処理部3がアクセスして、そのアプリケーションプログラム304aをダウンロードし、これをハードディスク301dにインストールすることも可能である。
【0031】
また、ハードディスク301dには、例えば、米マイクロソフト社が製造販売するWindows(登録商標)などのグラフィカルユーザインタフェース環境を提供するオペレーティングシステムがインストールされている。以下の説明においては、本実施形態に係るアプリケーションプログラム304aは上記オペレーティングシステム上で動作するものとしている。
【0032】
入出力インターフェース301fは、例えば、USB、IEEE1394、RS−232Cなどのシリアルインタフェース、SCSI、IDE、IEEE1284などのパラレルインタフェース、及びD/A変換器、A/D変換器などからなるアナログインタフェースなどから構成されている。入出力インターフェース301fには、キーボード及びマウスからなる入力デバイス303が接続されており、ユーザがその入力デバイス303を使用することにより、データ処理部3にデータを入力することが可能である。また、入力デバイス303は、測定モードを受け付ける機能を有する。具体的には、入力デバイス303は、所定の血液に対して、DIFF測定、RET測定及びPLT測定をそれぞれ行うか否かを受け付ける機能を有する。
【0033】
画像出力インターフェース301gは、LCD又はCRTなどで構成された表示部302に接続されており、CPU301aから与えられた画像データに応じた映像信号を表示部302に出力するようになっている。表示部302は、入力された映像信号にしたがって、画像(画面)を表示する。
【0034】
《測定部の検出部における発光部》
また、測定部2の検出部5における発光部501は、図6に示すように、発光部本体501aと、発光部本体501aから出射される出射光量を制御するAPC(Automatic Power Control)回路501bと、高周波自動調整回路501cとを含んでいる。
【0035】
また、本実施形態では、発光部本体501aは、シースフローセル503の試料流に光を出射するLD(レーザダイオード)501dと、LD501dから出射された光を受光するPD(フォトダイオード)501eと、高周波発振回路501fと、加算器501gとを有する。PD501eは、受光した光信号を電気信号に変換する機能を有する。APC回路501bから供給される直流電流IDCは、加算器501gにおいて、高周波発振回路501fから出力される高周波電流IAC(周波数は例えば500MHz)と加算される。直流電流IDCに高周波電流IACを重畳した駆動電流(IDC+IAC)をLD501dに供給することにより、LD501dを、発振波長が多数あるマルチモード発振の状態にすることができる。なお、APC回路501bは、PD501eにより検出された発光量に基づき、LD501dの発光量が所定量に保たれるように、LD501dに供給する直流電流を出力する直流駆動回路である。また、高周波発振回路501fと加算器501gとは、APC回路501bから出力される直流電流に重畳される高周波電流を出力する高周波重畳回路を構成している。
【0036】
また、本実施形態では、APC回路501bは、LD501dに直流電流IDCを供給するLD駆動回路501hと、LD光量を設定するLD光量設定部501jと、LD光量設定部501jの出力とPD501eの受光量を示すモニタ電流Iとの差に応じた出力をLD駆動回路501hに与える比較器501kとを備えている。これにより、LD501dから出射される光量が、LD光量設定部501jにより設定された光量に近づくようにLD駆動回路501hが制御される。
【0037】
LD光量設定部501jには、制御部81からコントロール信号が供給され、光量の設定が行われる。具体的には、LD501dの出力が以下の値になるように、光量の設定が行われる。
DIFF測定モード時:3.4mW
RET測定モード時 :6mW
PLT測定モード時 :10mW
なお、測定する時以外には、LD501dは、オフ状態に設定される。
【0038】
また、高周波電流制御手段としての高周波自動調整回路501cは、スイッチ501m、入力を記憶するホールド回路501n、所定値として乗率0.95を乗じる乗算回路501p、比較器501q、誤差増幅器501r、スイッチ501s、及び、スイッチ501tを備え、図示のように接続されている。各スイッチ501m,501s,501tは、制御部81の指令によりオン・オフされる(詳細後述)。高周波自動調整回路501cへの入力は直流電流IDCであり、高周波自動調整回路501cからの出力すなわち高周波バイアスは、高周波電流の振幅を決める指令値となる。
【0039】
図15は、高周波バイアスによるLD501dのスイッチングと駆動電流(IDC+IAC)との関係を示す図である。左上は、駆動電流と光量との関係を示すグラフであり、駆動電流が閾値Ith以上のとき、光量は駆動電流に比例する。左下は、駆動電流の変化を示すグラフであり、また、この変化に伴って光量がどのように変化するかを示すのが、右側のグラフである。図中の(1)は、IDCに対して比較的小さいIACを重畳させた駆動電流の波形であり、この場合、駆動電流の最小値は閾値Ith以上である。このときの光量は(1)’に示す斜線の部分のように変調がかけられるが、平均光量は、IDCのみでの駆動時と変わらない。
【0040】
次に、IACを徐々に増加させ、(2)に示す振幅になると、IDC+IACの最小値が閾値Ithを下回り、光量は(2)’に示すように変調がかけられる。この場合、LDオフの期間が生じることによりマルチモード発振の状態となる。また、スイッチングによる波形歪が生じるため、平均光量はIDCのみの時より増加する。光量が増加すると、図6のモニタ電流Iの増加によりAPC回路501bは、光量を一定に保つように動作する。その結果、(3)に示すようにIDCは減少し、(3)’に示すように平均光量は(1)’のときと同じになる。なお、LD501dが確実にマルチモード発振の状態になるように、高周波自動調整回路501cの乗算回路501pの乗率は0.95に設定され、減少後のIDCの値が最初の値の約95%になるよう制御されている。LD501dが確実にマルチモード発振の状態になるのであれば、乗算回路501pの乗率は特に限定されるものではなく、0.96や0.97等であってもよい。
【0041】
《試料分析動作》
図7は、本発明の一実施形態に係る試料分析装置の血液分析動作を説明するためのフローチャートである。以下、図7及び関連する各図を参照して、本発明の一実施形態に係る試料分析装置1の血液分析動作について説明する。
【0042】
まず、図7のステップS1において、測定部2(図1)に設けられている図示しないメインスイッチがオンされると、制御部81(図2)の初期化が行われるとともに、測定部2の各部の動作チェックが行われる。その後、ステップS2に進む。
【0043】
また、データ処理部3では、図7のステップS21において、制御部301(図5)の初期化(プログラムの初期化)が行われる。そして、制御部301により、表示部302(図1,図5)にメニュー画面(図示せず。)が表示される。なお、メニュー画面とは、DIFF測定モード、RET測定モード及びPLT測定モードをそれぞれ設定するか否かをユーザに選択させるとともに、測定開始指示及びシャットダウン指示をユーザから受け付けるための画面である。
【0044】
次に、ステップS22において、制御部301により、測定モードの入力を受け付けたか否かが判断され、測定モードの入力を受け付けた場合には、ステップS23において、測定モードの設定変更が行われる。具体的には、入力デバイス303(図1,図5)により受け付けた測定モードが設定される。測定モードの入力を受け付けなかった場合には、ステップS24に進む。
【0045】
次に、ステップS24において、制御部301により、測定開始指示を受け付けたか否かが判断され、測定開始指示を受け付けた場合には、ステップS25に進む。測定開始指示を受け付けなかった場合には、ステップS29に進む。次に、ステップS25において、制御部301により、測定モード情報を含む測定開始信号が測定部2に送信される。その後、ステップS26に進む。
【0046】
また、測定部2では、ステップS2において、制御部81(図2)により、データ処理部3(図1,2)から測定開始信号を受信したか否かが判断され、測定開始信号を受信した場合には、ステップS3に進む。測定開始信号を受信しなかった場合には、ステップS12に進む。
【0047】
次に、ステップS3において、制御部81により、測定開始情報内の測定モードが記憶される。具体的には、DIFF測定モード、RET測定モード及びPLT測定モードが設定されているか否かが記憶される。そして、ステップS4において、設定された測定モード用の測定試料が調製される。具体的には、サンプリングバルブ41b(図3)に所定の薬剤が供給されることにより、所定量の血液と所定量の薬剤とが混合されて希釈試料が生成される。そして、その希釈試料が反応チャンバ41c(図3)に供給されるとともに、所定量の染色液が反応チャンバ41cに供給される。これにより、希釈試料と染色液とを混合させて所定の時間反応させる。
【0048】
次に、ステップS5において、制御部81により、DIFF測定モードの設定がされているか否かが判断され、DIFF測定モードの設定がされている場合には、ステップS6において、DIFF測定が行われる。なお、DIFF測定の動作については、後で詳細に説明する。DIFF測定モードの設定がされていない場合には、ステップS7に進む。
【0049】
次に、ステップS7において、制御部81により、RET測定モードの設定がされているか否かが判断され、RET測定モードの設定がされている場合には、ステップS8において、RET測定が行われる。なお、RET測定の動作については、後で詳細に説明する。RET測定モードの設定がされていない場合には、ステップS9に進む。
【0050】
次に、ステップS9において、制御部81により、PLT測定モードの設定がされているか否かが判断され、PLT測定モードの設定がされている場合には、ステップS10において、PLT測定が行われる。なお、PLT測定の動作については、後で詳細に説明する。PLT測定モードの設定がされていない場合には、ステップS11に進む。
【0051】
次に、ステップS11において、制御部81により、設定された測定モードの測定結果(測定データ)がバス84b(図3)及びインターフェース85c(図3)を介してデータ処理部3に送信される。その後、ステップS12に進む。
【0052】
また、データ処理部3では、ステップS26において、制御部301により、測定部2から測定結果(測定データ)を受信したか否かが判断され、測定データを受信した場合には、ステップS27に進む。測定データを受信していない場合には、測定データを受信したと判断されるまでステップS26が繰り返し行われる。
【0053】
次に、ステップS27において、CPU301a(図5)により、受信した測定データがハードディスク301d(図5)に記憶される。その後、CPU301aにより、測定データがRAM301c(図5)に読み出される。そして、CPU301aにより、RAM301cに読み出された測定データが、解析処理される。さらに、ステップS28において、解析処理されたデータは、CPU301aにより、画像出力インターフェース301gを介して表示部302に出力される。
【0054】
具体的には、ステップS6において、DIFF測定が行われた場合には、血液中のリンパ球、単球、好中球、好塩基球及び好酸球の分類及び計数の解析処理が行われた後、図8に示すようなスキャッタグラムが表示される。また、ステップS8において、RET測定が行われた場合には、血液中の網状赤血球の分類及び計数の解析処理が行われた後、図9に示すようなスキャッタグラムが表示される。また、ステップS10において、PLT測定が行われた場合には、血液中の血小板の分類及び計数の解析処理が行われた後、図10に示すようなスキャッタグラムが表示される。そして、図8〜図10に示したようなスキャッタグラムが表示されることにより、各測定モード時において、各分析試料に適した出射光量で測定した測定結果を使用者に視覚的に認識させることが可能である。
【0055】
次に、ステップS29において、制御部301により、シャットダウン指示を受け付けたか否かが判断され、シャットダウン指示を受け付けた場合には、ステップS30において、シャットダウン信号を測定部2に送信後、処理が終了する。シャットダウン指示を受け付けていない場合には、ステップS22に戻る。
【0056】
また、測定部2では、ステップS12において、制御部81により、データ処理部3からシャットダウン信号を受信したか否かが判断され、シャットダウン信号を受信した場合には、ステップS13において、測定部2のシャットダウンが行われ、処理が終了する。シャットダウン信号を受信していない場合には、ステップS2に戻る。
【0057】
《DIFF測定》
図11は、本発明の一実施形態に係る試料分析装置のDIFF測定時の動作を説明するためのフローチャートである。次に、図11及び関連する各図を参照して、図7に示したステップS6のDIFF測定の詳細について説明する。
【0058】
まず、図11のステップS41において、制御部81(図2)により、LD501d(図6)の出力が3.4mWに設定される。そして、ステップS42において、レーザ光がシースフローセル503(図4)に照射される。具体的には、制御部81からLD光量設定部501j(図6)にコントロール信号が供給される。これにより、LD501dの出力が3.4mWになるような駆動電流を出力するようにLD駆動回路501h(図6)が制御される。
なお、レーザ光の照射の詳細な動作については後述する。
【0059】
次に、ステップS43において、制御部81により、シースフローセル503に白血球測定用試料がシース液とともに供給される。そして、ステップS44において、制御部81により、計時が開始される。そして、シースフローセル503の内部を通過する白血球にレーザ光が照射されることにより、白血球から前方散乱光、側方散乱光及び側方蛍光が発せられる。そして、白血球から発せられた側方散乱光及び側方蛍光は、それぞれ、PD512及びAPD511(図4)により受光されるとともに、それぞれ、アナログの電気信号に変換される。そして、側方散乱光の電気信号及び側方蛍光の電気信号は、それぞれ、アンプ63及び62(図4)を介してA/D変換部82(図2)に送信される。
【0060】
次に、ステップS45において、演算部83(図2)により、側方散乱光及び側方蛍光の特徴パラメータが取得される。次に、ステップS46において、制御部81により、計時開始から所定の時間経過したか否かが判断される。そして、制御部81により、計時開始から所定の時間経過していないと判断された場合には、ステップS45に戻る。つまり、計時開始から所定の時間経過するまでステップS45の動作が繰り返し行われる。その一方、ステップS46において、計時開始から所定の時間経過したと判断された場合には、ステップS47において、レーザ光の照射が停止される。具体的には、制御部81からLD光量設定部501jにコントロール信号が供給されることにより、LD光量設定部501jは、LD駆動回路501hからLD501dに供給される駆動電流を停止させる。そして、ステップS48において、白血球測定用試料の供給が停止される。その後、ステップS49において、シースフローセル503の洗浄が行われる。
【0061】
《RET測定》
図12は、本発明の一実施形態に係る試料分析装置のRET測定時の動作を説明するためのフローチャートである。次に、図12及び関連する各図を参照して、図7に示したステップS8のRET測定の詳細について説明する。
【0062】
まず、図12のステップS51において、制御部81(図2)により、LD501d(図6)の出力が6mWに設定される。そして、ステップS52において、レーザ光がシースフローセル503(図4)に照射される。具体的には、制御部81からLD光量設定部501j(図6)にコントロール信号が供給される。これにより、LD501dの出力が6mWになるような駆動電流を出力するようにLD駆動回路501h(図6)が制御される。
なお、レーザ光の照射の詳細な動作については後述する。
【0063】
次に、ステップS53において、制御部81により、シースフローセル503に網状赤血球測定用試料がシース液とともに供給される。そして、ステップS54において、制御部81により、計時が開始される。そして、シースフローセル503の内部を通過する網状赤血球にレーザ光が照射されることにより、網状赤血球から前方散乱光、側方散乱光及び側方蛍光が発せられる。そして、網状赤血球から発せられた前方散乱光及び側方蛍光は、それぞれ、PD506及びAPD511(図4)により受光されるとともに、それぞれ、アナログの電気信号に変換される。そして、前方散乱光の電気信号及び側方蛍光の電気信号は、それぞれ、アンプ61及び62(図4)を介してA/D変換部82(図2)に送信される。
【0064】
次に、ステップS55において、演算部83(図2)により、前方散乱光及び側方蛍光の特徴パラメータが取得される。次に、ステップS56において、制御部81により、計時開始から所定の時間経過したか否かが判断される。そして、制御部81により、計時開始から所定の時間経過していないと判断された場合には、ステップS55に戻る。つまり、計時開始から所定の時間経過するまでステップS55の動作が繰り返し行われる。その一方、ステップS56において、計時開始から所定の時間経過したと判断された場合には、ステップS57において、レーザ光の照射が停止される。具体的には、制御部81からLD光量設定部501jにコントロール信号が供給されることにより、LD光量設定部501jは、LD駆動回路501hからLD501dに供給される駆動電流を停止させる。そして、ステップS58において、網状赤血球測定用試料の供給が停止される。その後、ステップS59において、シースフローセル503の洗浄が行われる。
【0065】
《PLT測定》
図13は、本発明の一実施形態に係る試料分析装置のPLT測定時の動作を説明するためのフローチャートである。次に、図13及び関連する各図を参照して、図7に示したステップS10のPLT測定の詳細について説明する。
【0066】
まず、図13のステップS61において、制御部81(図2)により、LD501d(図6)の出力が10mWに設定される。そして、ステップS62において、レーザ光がシースフローセル503(図4)に照射される。具体的には、制御部81からLD光量設定部501j(図6)にコントロール信号が供給される。これにより、LD501dの出力を10mWにするような駆動電流を出力するようにLD駆動回路501h(図6)が制御される。
なお、レーザ光の照射の詳細な動作については後述する。
【0067】
次に、ステップS63において、制御部81により、シースフローセル503に血小板測定用試料がシース液とともに供給される。そして、ステップS64において、制御部81により、計時が開始される。そして、シースフローセル503の内部を通過する血小板にレーザ光が照射されることにより、血小板から前方散乱光、側方散乱光及び側方蛍光が発せられる。そして、血小板から発せられた前方散乱光及び側方蛍光は、それぞれ、PD506及びAPD511(図4)により受光されるとともに、それぞれ、アナログの電気信号に変換される。そして、前方散乱光の電気信号及び側方蛍光の電気信号は、それぞれ、アンプ61及び62(図4)を介してA/D変換部82(図2)に送信される。
【0068】
次に、ステップS65において、演算部83(図2)により、前方散乱光及び側方蛍光の特徴パラメータが取得される。次に、ステップS66において、制御部81により、計時開始から所定の時間経過したか否かが判断される。そして、制御部81により、計時開始から所定の時間経過していないと判断された場合には、ステップS65に戻る。つまり、計時開始から所定の時間経過するまでステップS65の動作が繰り返し行われる。その一方、ステップS66において、計時開始から所定の時間経過したと判断された場合には、ステップS67において、レーザ光の照射が停止される。具体的には、制御部81からLD光量設定部501jにコントロール信号が供給されることにより、LD光量設定部501jは、LD駆動回路501hからLD501dに供給される駆動電流を停止させる。そして、ステップS68において、血小板測定用試料の供給が停止される。その後、ステップS69において、シースフローセル503の洗浄が行われる。
【0069】
《レーザ光の照射》
次に、上記のDIFF測定、RET測定及びPLT測定におけるレーザ光の照射に関して、図6、図14及び図16を参照して詳細に説明する。図14は、レーザ光の照射に関するフローチャート(サブルーチン)である。また、図16は、図6のLD501d及び高周波自動調整回路501c内のスイッチ501s、501t、501mの動作を示す図である。レーザ光の照射開始により図14のステップS71において、LD501dの初期駆動制御が行われる。
【0070】
具体的には、制御部81からの指令により、スイッチ501s及び501tがオフ、スイッチ501mがオンの状態から、図16の時刻T1に、LD501dに所定の直流電流IDCのみが供給される(まだ、高周波電流は重畳されない。)。このとき、直流電流IDCがLD501dに供給されるとともに、直流電流IDCの大きさに相当する電圧信号が、閉じているスイッチ501mを介してホールド回路501nにも供給されている。
【0071】
また、時刻T1から制御部81は時間の計測を開始し(ステップS72)、直流電流IDCが安定するための所定時間が経過するのを待ち(ステップS73)、所定時間が経過して時刻T2になると、LDのマルチモード発振制御を開始する(ステップS74)。具体的には、制御部81は、スイッチ501s及び501tをオン状態とし、スイッチ501mをオフ状態とする。スイッチ501mがオフになることにより、オフ直前の直流電流IDCの大きさに相当する電圧信号がホールド回路501nに保持される。そして、保持された電圧信号に相当する電流値に乗算回路で0.95が乗算されたものが基準電流値として比較器501qに与えられる。
【0072】
一方、時刻T2以後にLD駆動回路501hから出力される直流電流IDCの大きさに相当する電圧信号は、閉じているスイッチ501tを介して比較器501qに与えられる。比較器501qでは、基準電流値と現在の直流電流IDCの大きさとが比較され、その差(誤差)が誤差増幅器501rで増幅され、増幅された差に応じた出力がスイッチ501sを介して高周波発振回路501fに高周波バイアス(電圧)として与えられる。高周波発振回路501fは、この高周波バイアスに応じた振幅の高周波電流IACを生じ、これが直流電流IDCに重畳されて、LD501dの駆動電流となる。
【0073】
ここで、仮に、このときのIDCに対して高周波電流の振幅が小さく(図15の(1)参照)、LD501dがシングルモード発振の状態であるとすると平均光量は高周波重畳前と同じであり、APC回路501bによる光量の調整は行われない。そうすると、比較器501qには誤差が生じ続け、誤差増幅器501r及び高周波発振回路501fは振幅を増大させ続けるように動作する。振幅の増大により駆動電流の最小値が閾値Ithを下回ると、前述のAPC回路501bの機能によりIDCが低下する。その結果、基準電流値との差が小さくなり、振幅を増大させない方向に収束していく。このような制御により、結果的に、LD駆動回路501hから出力される直流電流IDCが基準電流値すなわち、最初に高周波電流を重畳しなかったときの直流電流の95%に近づくように制御され、かつ、マルチモード発振の状態となる。
【0074】
逆に、マルチモード発振の状態であっても、直流電流IDCに対して高周波電流の振幅が必要以上に大きすぎる場合は、APC回路501bの機能によりIDCが基準電流値より大きく低下する。この場合には、IDCを大きくして基準電流値に近づけるために、高周波の振幅が抑制されるように制御される。従って、結果的に、LD駆動回路501hから出力される直流電流IDCが基準電流値すなわち、最初に高周波電流を重畳しなかったときの直流電流の95%に近づくように制御され、かつ、マルチモード発振の状態となる。
【0075】
このようにして、初期の直流電流IDCに応じて高周波電流の振幅が制御され、結果的に、直流電流IDCが初期の値の95%に近づき、LD501dは、確実にマルチモード発振の状態となる。
なお、高周波発振回路501fは、高周波電流の振幅が、LD501dの最大定格以下となるように抑制されている。これにより、最大定格を超える電流を与えてLD501dの寿命が短くなることを、防止することができる。また、レーザ光の照射停止時(図16の時刻T3)には、LD501dがオフになり、スイッチ501s及び501tが共にオフ、スイッチ501mはオンとなる。そして、再びレーザ光照射が行われるときは、同様の動作が行われるので、LD501dのオンのたびに高周波電流の振幅がその時の直流電流に応じて調整され、確実にマルチモード発振の状態となる。
【0076】
図17は、各種のレーザ出力に対して上記のような高周波電流の振幅制御を行った場合の直流電流の変化と、高周波重畳の有無についての光スペクトルを示す図表である。各種のレーザ出力において、直流電流は、高周波重畳前(HF無)と比較して高周波重畳後(HF有)には96.2%〜96.4%の範囲になるように低下しており、目標とする95%に近い値が実現されている。また、光スペクトルは、高周波重畳無しの場合にはシングルモード発振の状態であるが、高周波重畳により、複数の発振周波数を含むマルチモード発振の状態となる。
【0077】
上記のようなレーザ光照射時の制御により、APC回路501bから出力された直流電流に応じて高周波電流の振幅が制御され、LD501dを、マルチモード発振の状態とすることができる。従って、このような試料分析装置では、LD501dの温度変化や経時変化によりLD501dの駆動電流に変化が生じたり、試料の測定項目の変更等による発光量変化があっても、その状態での直流電流に応じて高周波電流の振幅が制御され、LD501dを、マルチモード発振の状態とすることができる。したがって、温度変化、経時変化、試料の測定項目の変更等の条件変化があった場合にも、マルチモードを維持するための手動調整を必要とすることなく、レーザダイオードを常にマルチモード発振の状態とすることができる。
【0078】
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0079】
例えば、上記実施形態では、生体試料として血液を分析する試料分析装置1に本発明を適用する例を示したが、本発明はこれに限らず、尿などのその他の生体試料中の成分を測定する分析装置に適用してもよい。
【0080】
また、上記実施形態では、DIFF測定、RET測定及びPLT測定をそれぞれ行うか否かを受け付ける機能を有する入力デバイス303を設ける例を示したが、本発明はこれに限らず、DIFF測定、RET測定及びPLT測定をそれぞれ行うか否かをサーバコンピュータなどから電気通信回線を介して受け付けるようにしてもよい。
【0081】
また、上記実施形態では、測定部2とデータ処理部3とをそれぞれ別個の装置として構成する例を示したが、本発明はこれに限らず、測定部とデータ処理部とを一体の装置として構成してもよい。
また、上記実施形態では、高周波電流制御手段として、アナログ回路である高周波自動調整回路501cが用いられる例を示したが、本発明はこれに限らず、ホールド回路501nや誤差増幅器501rをデジタル技術により構成し、CPUを介して高周波電流を制御してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の一実施形態に係る試料分析装置を示した斜視図である。
【図2】図1に示した試料分析装置の測定部の構成を示したブロック図である。
【図3】図1に示した試料分析装置の試料調製部を説明するための図である。
【図4】図1に示した試料分析装置の検出部を示した概略図である。
【図5】図1に示した試料分析装置のデータ処理部の構成を示したブロック図である。
【図6】図1に示した試料分析装置の発光部の構成を示したブロック図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る試料分析装置の分析動作を説明するためのフローチャートである。
【図8】本発明の一実施形態に係る試料分析装置のDIFF測定の結果を示したスキャッタグラムである。
【図9】本発明の一実施形態に係る試料分析装置のRET測定の結果を示したスキャッタグラムである。
【図10】本発明の一実施形態に係る試料分析装置のPLT測定の結果を示したスキャッタグラムである。
【図11】本発明の一実施形態に係る試料分析装置のDIFF測定の動作を説明するためのフローチャートである。
【図12】本発明の一実施形態に係る試料分析装置のRET測定の動作を説明するためのフローチャートである。
【図13】本発明の一実施形態に係る試料分析装置のPLT測定の動作を説明するためのフローチャートである。
【図14】本発明の一実施形態に係る試料分析装置におけるレーザ光照射のフローチャート(サブルーチン)である。
【図15】図6のLD及び高周波自動調整回路内の各スイッチの動作を示す図である。
【図16】高周波バイアスによるLDのスイッチングと駆動電流(IDC+IAC)との関係を示す図である。
【図17】各種のレーザ出力に対して高周波電流の振幅制御を行った場合の直流駆動電流の変化と、高周波重畳の有無の光スペクトルを示す図表である。
【符号の説明】
【0083】
3 データ処理部
5 検出部
501b APC回路
501c 高周波自動調整回路
501d LD
501f 高周波発振回路
501g 加算器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料中の成分を測定する試料分析装置であって、
試薬と生体試料とから測定試料を調製する試料調製部と、
前記試料調製部により調製された測定試料を含む試料流を形成するフローセルと、
前記試料対してレーザ光を照射するレーザダイオードと、
レーザ光が照射された試料から生じる光を受光して電気信号に変換する受光部と、
前記受光部から出力された電気信号を処理して生体試料中の成分を分析する分析と、
前記成分に対応した測定モードを受け付ける入力部と、
前記入力部により受け付けた測定モードに応じて、前記レーザダイオードから照射されるレーザ光の発光量を設定する制御部と、
前記レーザダイオードの発光量を検出する光量検出部と、
前記光量検出部により検出された発光量に基づき、前記レーザダイオードの発光量が、前記制御部により設定された発光量に保たれるように、前記レーザダイオードに供給する直流電流を出力する直流駆動回路と、
前記直流駆動回路から出力される直流電流に高周波成分を重畳させる高周波重畳回路と、
前記レーザダイオードがマルチモード発振するよう、前記直流駆動回路から出力された直流電流の大きさに応じて、前記高周波重畳回路から出力される高周波の振幅を制御する高周波制御と、を備える試料分析装置。
【請求項2】
前記高周波制御は、前記レーザダイオードがレーザ光出力のオン・オフを交互に繰り返すよう、前記高周波重畳回路を制御する請求項1記載の試料分析装置。
【請求項3】
前記入力部は、第1の成分を測定するための第1測定モードおよび第2の成分を測定するための第2測定モードを受け付け可能であり、
前記試料調製部は、前記入力部により前記第1測定モードおよび第2測定モードが受け付けられた場合、第1測定モード用の第1測定試料および第2測定モード用の第2測定試料を調製し、
前記制御部は、第1測定モードの場合、前記レーザダイオードから前記第1測定試料を含む試料流に対して照射されるレーザ光の発光量を第1発光量に設定し第2測定モードの場合、前記レーザダイオードから前記第2測定試料を含む試料流に対して照射されるレーザ光の発光量を第2発光量に設定する請求項1又は2に記載の試料分析装置。
【請求項4】
前記生体試料は血液である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の試料分析装置。
【請求項5】
前記測定モードは、白血球分類測定モード、網状赤血球測定モードおよび血小板測定モードを含む、請求項4に記載の試料分析装置。
【請求項6】
前記高周波制御は、前記レーザダイオードをマルチモード発振させるとともに前記レーザダイオードの最大定格以下の電流が前記レーザダイオードに対して供給されるよう、前記高周波重畳回路を制御する請求項1〜のいずれか1項に記載の試料分析装置。
【請求項7】
前記高周波制御は、高周波成分を重畳せずに前記直流駆動回路に直流電流を出力させる初期駆動制御を実行し、その後、前記直流駆動回路から出力される直流電流に高周波成分を重畳させて前記レーザダイオードをマルチモード発振させるマルチモード発振制御を実行し、
前記高周波制御は、前記初期駆動制御を実行している間に前記直流駆動回路から出力された直流電流の電流値に基づいて基準電流値を決定し、前記マルチモード発振制御を実行している間に前記直流駆動回路から出力される直流電流の電流値が前記基準電流値に近づくように、前記高周波重畳回路を制御する請求項1〜のいずれか1項に記載の試料分析装置。
【請求項8】
前記高周波制御は、前記マルチモード発振制御を実行している間に前記直流駆動回路から出力される直流電流の電流値が、初期駆動制御を実行している間に前記直流駆動回路から出力された直流電流の電流値と所定の関係を有するように、前記高周波重畳回路を制御する請求項記載の試料分析装置。
【請求項9】
高周波成分を重畳した電流を用いてレーザダイオードからレーザ光を照射させて生体試料から生じる光学的情報を検出し、検出した光学的情報を処理して生体試料中の成分を分析する試料分析方法であって、
前記成分に応じた測定モードの入力を受け付けるステップと、
試薬と生体試料とから測定試料を調製するステップと、
調製された測定試料を含む試料流をフローセルに形成するステップと、
前記測定モードに応じて、前記レーザダイオードから前記試料流に対して照射されるレーザ光の発光量を設定するステップと、
前記レーザダイオードから照射されたレーザ光の光量をモニタし、前記レーザダイオードの発光量が前記設定された発光量に保たれるように、前記レーザダイオードに供給する直流電流の大きさを制御するステップと、
前記レーザダイオードがマルチモード発振するよう、前記レーザダイオードに供給された直流電流の大きさに応じて、直流電流に重畳される高周波の振幅を制御するステップと、を備える試料分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−108161(P2012−108161A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−52393(P2012−52393)
【出願日】平成24年3月9日(2012.3.9)
【分割の表示】特願2007−219632(P2007−219632)の分割
【原出願日】平成19年8月27日(2007.8.27)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)